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平成24年9月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(ワ)第411号実績補償金請求事件
口頭弁論終結日平成24年7月5日
判決
静岡県沼津市〈以下略〉

東京都江東区〈以下略〉
原告B
原告ら訴訟代理人弁護士小林郁夫
同鷹見雅和
東京都港区〈以下略〉
被告住友金属鉱山株式会社
訴訟代理人弁護士中川康生
同川添大資
同村井隼
訴訟復代理人弁護士山本卓典
東京都港区〈以下略〉
被告日本ケッチェン株式会社
訴訟代理人弁護士澤井憲子
同野本彰
同石川賢吾
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告らそれぞれに対し,連帯して各6500万円及びこれに対す
る平成22年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,被告住友金属鉱山株式会社(以下「被告住友金属鉱山」という。)
の元従業員である原告らが,被告日本ケッチェン株式会社(以下「被告日本ケ
ッチェン」という。)が被告住友金属鉱山から譲渡を受けた特許権(日本国特
許,米国特許及び欧州特許各1件)に係る「炭化水素油の水素化処理触媒とそ
の製造方法」に関する発明は,原告らが共同で行った職務発明であり,その特
許を受ける権利を被告住友金属鉱山に承継させたものであるが,被告日本ケッ
チェンと被告住友金属鉱山が緊密な関係にあること,被告日本ケッチェンが上
記職務発明に係る研究費用を実質的に負担し,研究施設を提供し,原告らに対す
る指揮監督を行ったことなどから,上記職務発明との関係では,被告らが共に
原告らの使用者等に該当する旨主張し,被告らに対し,上記特許を受ける権利
のうち,米国特許及び欧州特許に係る分の承継に係る相当の対価の請求とし
て,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下「特許法旧3
5条」という。)3項及び4項の規定の類推適用に基づき,各6500万円及
び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
なお,原告らが,被告らに対し,上記特許を受ける権利のうち,日本国特許
に係る分の承継に係る相当の対価の支払を求めた訴訟(東京地方裁判所平成1
9年(ワ)第5436号事件。以下「前訴」という。)が,平成20年12月2
5日,裁判上の和解により終局しており,本件では,米国特許及び欧州特許に
係る分のみが審理の対象となっている。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全
趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告Aは,昭和42年4月1日に被告住友金属鉱山に入社し,平成15
年1月31日に定年退職した。
イ原告Bは,昭和43年10月21日に被告住友金属鉱山に入社し,平成
17年3月31日に定年退職した。
ウ被告住友金属鉱山は,化学工業及び石油製品製造業等を目的とする株式
会社である。
エ被告日本ケッチェンは,昭和45年4月9日に,被告住友金属鉱山及び
オランダ法人であるKoninklijkeZwavelzuurfabriekenVoorheenKetjen
N.V.(その後,B.V.ZwavelzuurfabriekenvoorheenKetjenに商号変更。
以下「ケッチェン社」という。)の共同出資(出資比率各50%)により
設立された,化学触媒及びその担体の製造,販売等を目的とする株式会社
である。
(2)原告らの職務発明及び特許を受ける権利の譲渡等
ア原告ら,C,D,E,F,G及びHの8名(以下「原告ら8名」という。)
は,被告住友金属鉱山に在職中に,別紙特許目録1ないし3記載の各特許
に係る発明(以下「本件発明」と総称する。)を共同で行った。
本件発明は,その性質上被告住友金属鉱山の業務範囲に属し,かつ,本
件発明をするに至った行為が原告ら8名の職務に属するものであるから,
特許法35条1項所定の職務発明に当たる。
イ被告住友金属鉱山は,原告ら8名から,本件発明に係る特許を受ける権
利(外国における特許を受ける権利を含む。以下同じ。)を承継した。
被告住友金属鉱山は,本件発明について,別紙特許目録1記載のとおり,
平成5年11月15日に日本の特許庁に特許出願をし,平成11年3月1
9日に特許権(以下「本件日本国特許権」といい,この特許を「本件日本
国特許」という。)の設定登録を受けるとともに,同目録2及び3記載の
とおり,1993年(平成5年)11月18日に米国特許商標庁及び欧州
特許庁にそれぞれ特許出願をし,1995年(平成7年)11月21日に
米国特許商標庁において特許権(以下「本件米国特許権」といい,この特
許を「本件米国特許」という。)の設定登録を受け,1998年(平成1
0年)9月23日に欧州特許庁において特許権(以下「本件欧州特許権」
といい,この特許を「本件欧州特許」という。)の設定登録を受けた。
ウ被告住友金属鉱山は,平成16年3月24日,被告日本ケッチェンに対
し,本件日本国特許権,本件米国特許権及び本件欧州特許権(以下,これ
らを併せて「本件各特許権」といい,これらの特許を「本件各特許」とい
う。)を含む「炭化水素油の水素化処理触媒」に関する複数の特許権等を
●(省略)●で譲渡した(甲9)。
これにより,本件日本国特許権については平成16年5月7日に,本件
米国特許権については同年8月10日に,本件欧州特許権については同年
12月1日に,それぞれ被告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンへ移転
登録がされた(甲2及び3の各1,2,弁論の全趣旨)。
エ(ア)被告日本ケッチェンは,前記ウにより本件各特許権の譲渡を受けた
後,被告日本ケッチェンがオランダ法人であるAkzoChemicals
InternationalB.V.(旧商号はAkzoChemieB.V.。以下「アクゾ社」と
いう。),オランダ法人であるAkzoChemieNederlandB.V.(その後,
AkzoChemicalsB.V.に商号変更。以下「アクゾケミカルズ社」という。)
及び米国法人であるAkzoChemieAmerica(以下「アクゾアメリカ社」
という。)の3社(以下「アクゾ社3社」という。)との間で●(省略)
●(丙1,弁論の全趣旨)。
(イ)米国法人であるAlbemarleCorporation(以下「アルベマール社」
という。)は,平成16年8月2日,アクゾ社の触媒事業部門を買収す
るとともに,アクゾ社から,同社が保有する被告日本ケッチェンの株式
を譲り受けた。
その際,アルベマール社は,アクゾ社から,被告日本ケッチェンから
の本件米国特許及び本件欧州特許についての前記(ア)の実施許諾も引
き継いだ。
(3)被告日本ケッチェン,アクゾ社及びアルベマール社による水素化処理触
媒の製造販売等
ア被告日本ケッチェンは,平成10年から,日本において,「SuperType
ⅡActiveReactionSites」と称する一連の水素化処理触媒(以下「ST
ARS触媒」という。)の製造販売を開始した。
被告日本ケッチェンが製造販売するSTARS触媒は,本件日本国特許
権の実施品に該当する。
イアクゾ社は,平成10年から,米国及びオランダ等の海外において,S
TARS触媒の製造販売を開始し,平成16年8月2日以降は,アクゾ社
の触媒事業部門を譲り受けたアルベマール社が,海外において,STAR
S触媒の製造販売を行っている。
(4)被告住友金属鉱山の職務発明に関する定め
被告住友金属鉱山は,昭和62年8月1日,その従業員が行った職務発明
等に関し,「特許管理規程」(その後,「特許等管理規程」に名称変更。以
下「本件規程」という。)及び「発明等およびノウハウに対する補償ならび
に表彰に関する細則」(以下「本件細則」という。)を制定実施した。
本件規程及び本件細則は,数次にわたる改正を経ており,本件各特許権が
被告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンへ譲渡される前の直近の最終改
正実施日は,本件規程については平成16年1月1日,本件細則については
同年3月1日である(甲10,15)。
上記制定実施時及び上記最終改正実施時の本件規程及び本件細則には,次
のような定めがある。
ア本件規程
(ア)昭和62年8月1日制定実施時の本件規程(乙1。以下「乙1規程」
という。)
「(目的)
第1条この規程は,特許管理の充実を図り,特許制度を有効に利用
することにより当社の発展に寄与することを目的とする。」
「(発明等およびノウハウの権利の帰属)
第4条当社は,国内および国外において特許等を受ける権利,およ
びノウハウに対する権利を含め,職務発明を利用処分する一切の権
利を社員から承継する。
2.発明者は,発明等が業務発明であるとの認定を受けたときは,部
門長との協議により,その業務発明について特許等を受ける権利ま
たは特許権等を会社に譲渡することができる。」
「(承継した発明等に対する補償金の支払)
第13条当社は,承継した職務発明に関し,つぎの補償金を支払う。
1)出願補償金
2)登録補償金
3)特許等の出願に値するノウハウの承継補償金
4)実績補償金」
「(発明等に対する補償金ならびに表彰の取扱い)
第15条前2条の取扱いの細部については「発明等およびノウハウ
に対する補償ならびに表彰に関する細則」に定める。」
「付則
昭和62年7月31日以前に登録された特許等に対する実績補償
は旧規程「発明承継に関する規程」に従って実施する。」
(イ)平成16年1月1日改正実施時の本件規程(甲15。以下「甲15
規程」という。)
「(目的)
第1条この規程は,発明,考案,意匠の創作を奨励するとともに,
その発明者としての権利を保障し,あわせて発明等によって得られ
た特許権,実用新案権,意匠権およびそれらを受ける権利の管理の
充実を図り,工業所有権制度を有効に利用することにより,会社の
発展に寄与することを目的とする。」
「(職務発明の帰属)
第13条会社は,社員が職務発明を行った場合,特許等を受ける権
利,当該発明を利用処分する一切の権利を社員から承継する。」
「(特許権等の実施状況調査および特許権等の維持または放棄)
第28条知的財産部長は,定期的に会社の保有する特許権等の実施
状況を調査するものとする。
2.(省略)
3.知的財産部長は,前項の実施状況調査の結果に基づき,必要度等
を吟味したうえで,特許料の納付,放棄等の手続を行う。」
「(承継した発明等に対する補償金の支払)
第37条会社は,職務発明について,次に該当する事態が発生した
場合は,発明者に対して,次のとおり補償金を支払うものとしその
詳細については別途定める。
1)当該発明等を出願または公開技報への掲載をした場合:出願補
償金
2)当該発明等が特許権等として登録等された場合:登録補償金
3)当該発明等が,特許相当ノウハウとして認定された場合:特許
相当ノウハウの承継補償金
4)当該発明等が,実施され,一定の実績が認定された場合:実績
補償金」
「付則
昭和62年7月31日以前に登録された特許等に対する実績補償
は旧規程「発明承継に関する規程」に従って実施する。」
イ本件細則
(ア)昭和62年8月1日制定実施時の本件細則(乙2。以下「乙2細則」
という。)
「(目的)
第1条この細則は,社員の発明等およびノウハウに対する補償なら
びに表彰の取扱いについて定める。」
「(発明等に対する補償)
第3条当社は,社員から承継した職務発明に関し,発明者に対して
つぎの各号に定める補償金を支払う。
1)出願補償金
a)特許出願をした場合1件5,000円
(以下,省略)
2)登録補償金
a)特許権が設定登録された場合1件10,000円
(以下,省略)
3)実績補償金
a)発明等が特許権等として登録された場合,別に定める評価方
式に従って登録時をその実施状況の基準とする等級を発明実
施部門の評価をもとに特許室長が決定し,その等級に応じて発
明等ごとにつぎの補償金を発明者に支払う。
特級100万円
1級50万円
2級25万円
3級10万円
b)実績補償金の支払いは,発明等1件につき1回限りとする。
c)特許権等として登録された時に不実施であった発明等が,そ
の権利の有効期間中に実施された場合は,発明等の実施をした
部門長の申請により実績補償金を発明者に支払うことができ
る。」
「(補償に関する通則)
第5条
(1.ないし4.,6.ないし8.,10.,12.ないし15.省略)
5.1件の職務発明に発明者が2名以上いる場合,補償金は各人の持
分に応じて分割して支払う。
9.補償金は,発明者が退職しまたは死亡した後であっても支払うこ
とができる。
11.日本出願を伴う外国出願については,出願補償金,登録補償金
は支払わない。」
(イ)平成16年3月1日改正実施時の本件細則(甲10。以下「甲10
細則」という。)
「(目的)
第1条この細則は,特許等管理規程第37条に基づき,社員の発明
等および特許相当ノウハウに対する補償の取扱いについて定め
る。」
「(出願等補償金)
第2条当社は,社員から承継した職務発明に関し,出願または公開
技報への掲載をした場合は,発明者に対して,次のとおり補償金を
支払う。
1)特許出願をした場合1件5,000円
(以下,省略)」
「(登録補償金)
第3条当社は,社員から承継した職務発明を出願し,登録された場
合は,発明者に対して,次のとおり補償金を支払う。
1)特許権が設定登録された場合1件10,000円
(以下,省略)」
「(実績補償金)
第4条当社は,発明者から職務発明を承継し,当該職務発明が特許
権等として登録され,当該職務発明について以下のいずれかに該当
する事態が発生したときは,当該発明者に対して,当該案件ごとに
次条に定める算定方法に従い実績補償を行う。
1)当社が第三者(子会社を含む,以下同じ)に対し職務発明にか
かる特許権等の実施を許諾し実施料収入を得た場合(以下当該実
施許諾を「第三者実施許諾」という)
2)当社が職務発明にかかる特許権等を事業において実施し,本細
則に定める一定の実績があがった場合(以下当該実施を「社内実
施」という)
2.本条に基づき実績補償の対象となる特許権等を対象特許権等とい
う。
3.対象特許権等が無効となった場合には,実績補償を打ち切るもの
とする。知的財産部長は,対象特許権等について無効審判が提起さ
れた場合または裁判上で無効が争われた場合には,その審判または
判決確定まで実績補償を停止することができる。この場合,実績補
償を停止せずに発明者に支払いを行った実績補償金は返還を求め
ない。」
「(実績補償金の算定方法)
第5条第三者実施許諾の場合の対象特許権等の実績補償金の算定
方法は,以下のとおりとする。
実績補償金=(実施料-経費)×発明者の発明等完成への貢献度
1)実施料とは,対象特許権等の実施許諾・譲渡等の対価をいい,
ノウハウの実施許諾にかかる対価および技術指導料を含まない。
2)経費とは,営業費等対象特許権等の実施料の取得に要した費用
および対象特許権等の出願・維持に関する費用をいう。
3)(省略)
4)発明者の発明等完成への貢献度とは,「1-会社の貢献度」を
いう。この場合,会社の貢献度は,評価表2(発明等完成に占め
る会社の貢献度)に基づいて算定する。
2.社内実施の場合の対象特許権等の実績補償金の算定方法は以下の
とおりとする。
実績補償金=(推定実施料-経費)×発明者の発明等完成への貢
献度
1)推定実施料の算定は,当該対象特許権等を用いて製造された製
品(以下「特許利用製品」という)の増分売上総利益を基に算定
する方法と,特許利用製品に関する費用削減額を基に算定する方
法のいずれかによる。いずれの方法を選択するかは,当該発明等
の性格に応じて発明実施部門の長が知的財産部長と協議の上決
定する。なお,特許利用製品の増分売上総利益は,当該特許権等
を用いた製品を含む原価計算製品群の増分売上総利益に等しい
ものとみなす。
(以下,省略)」
「(実績補償の手続)
第7条実施効果調査は,特許等管理規程第28条による実施状況調
査において,第三者実施許諾または社内実施が行われていることが
判明した特許権等について,評価の回数,特許等の実施時期等を考
慮し,以下のとおり行われるものとする。
1)登録後初めて実施効果が評価される特許権等(以下,「初回評
価対象特許権等」という)
特許責任者は,実施効果調査の時点において第三者実施許諾の
開始年度または社内実施の開始年度のいずれか早い年(以下「開
始年度」という)から4年を経過しているものについて,当該特
許権等の開始年度から実施効果調査の前年度までの実施効果を
評価し,実施効果調査書(別紙1)を知的財産部長に提出し,評
価申請を行う。ただし,当該特許権等の公開日が開始年度以後で
ある場合,その評価期間はその公開日を含む年度(以下「公開年
度」という)から実績効果調査の前年度までとする。
2)登録後,既に実施効果の評価を受けている特許権等(以下,「定
期的評価対象特許権等」という)
特許責任者は,第1回目の実施効果の評価が行われてから対象
特許権等の消滅まで4年ごとに当該期間中の実施効果の評価を
行い,実施効果調査書を知的財産部長に提出し,評価申請を行う。
3)第1号または第2号によらずに評価を行う特許権等(以下,「臨
時評価対象特許権等」という)
第1号および第2号にもかかわらず,次の場合は,第1号また
は第2号において4年を経過していない特許権等であっても,特
許責任者は,第1号においては開始年度(第1号但書の場合は公
開年度)から,第2号においては前回の評価が行われた年度から
期間中の実施効果の評価を行い,実施効果調査書を知的財産部長
に提出し,評価申請を行うことができる。
①当該各号に規定する特許調査対象年度において特許権等の譲
渡が行われた場合
②特許期間が満了する場合
③対象特許権等が放棄された場合
④知的財産部長が認めた場合
(2.及び3.省略)
4.知的財産部長は,前条及び実施効果調査書に基づき,評価を行い,
実績補償金額を決定し,その結果を当該対象特許権等の所管部門お
よび実施部門の特許責任者に通知する。
(以下,省略)」
「(補償に関する通則)
第9条
(1.,3.,4.,7.ないし9.省略)
2.1件の職務発明に発明者が2名以上いる場合,補償金は各人の持
分に応じて分割して支払う。
5.補償金は,発明者が退職し,または死亡した後であっても,支払
う。
6.日本出願を伴う外国出願については,出願補償金,登録補償金は,
支払わない。」
「付則
2003年3月31日以前に旧細則第6条に基づき実績補償金の
評価がなされた特許については,旧細則によるものとする。」
3争点
本件の争点は,被告日本ケッチェンが,本件発明との関係において,被告住
友金属鉱山と共に,特許法35条1項所定の職務発明の「使用者等」に該当す
るものとして,原告らに対し,本件発明の特許を受ける権利の承継に係る相当
の対価の支払義務を負うものといえるか(争点1),原告らが支払を受けるべ
き本件発明の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額(争点2),原告
らの相当対価請求権の消滅時効の成否(争点3)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告日本ケッチェンの「使用者等」該当性)について
(1)原告らの主張
ア本件発明は,被告日本ケッチェンが平成3年4月に被告住友金属鉱山に
対し水素化処理触媒に関する研究開発を委託(以下,この委託に係る委託
契約を「本件委託契約」といい,本件委託契約に基づく研究を「本件委託
研究」という。)し,原告らが職務として本件委託研究に従事した結果,
特許されるに至ったものである。
そして,被告住友金属鉱山と被告日本ケッチェンとの間の資本関係,人
的交流関係,従業員処遇関係,水素化処理触媒事業に関する契約関係,被
告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンへ本件各特許権が●(省略)●さ
れ,被告日本ケッチェンが同事業を独占的に行っていることなど被告ら両
社は極めて緊密な関係にあること,被告日本ケッチェンは,本件委託研究
の費用の一切を実質的に負担し,研究施設を提供し,原告ら研究者に対する
指揮監督を行ったことなどに鑑みれば,本件発明は,被告住友金属鉱山の
みならず,被告日本ケッチェンの業務範囲にも属するものであり,原告ら
は,被告ら両社のために職務として本件発明を行ったものといえるから,
本件発明との関係においては,被告日本ケッチェンは,被告住友金属鉱山
と共に,特許法35条1項所定の職務発明の「使用者等」に該当するとい
うべきである。
イすなわち,①資本関係では,被告住友金属鉱山の資本金が932億円を
超えるのに対し,被告日本ケッチェンの資本金は4億8000万円にすぎ
ず,また,被告住友金属鉱山の事業目的は,鉱業及び採石業を始めとして
31事業に及んでいるが,触媒事業の記載はないのに対し,被告日本ケッ
チェンの事業目的は,「化学触媒およびその担体の製造販売」であること,
②被告住友金属鉱山は,被告日本ケッチェンの株式50%を保有する株主
として,被告日本ケッチェンの社長及び役員を代々送り込み,被告日本ケ
ッチェンの経営に被告住友金属鉱山の経営方針を反映させ,また,被告日
本ケッチェンの予算についても,まず被告住友金属鉱山の所管事業部の承
認が必要であり,当該所管事業部は,被告日本ケッチェンを他の子会社と
同様な扱いをしていたこと,③被告住友金属鉱山は,研究部門の従業員等
を被告日本ケッチェンに送り込み,被告ら両社は頻繁に人事交流を行って
いたものであるが,被告日本ケッチェンの人事制度,給与査定の制度が,
被告住友金属鉱山のそれらと同じであることが,被告ら両社の人事交流を
容易にしていたこと,④被告日本ケッチェンの社員の処遇は,被告住友金
属鉱山の基準に基づいており,被告日本ケッチェンの業績にかかわらず,
賞与査定も,被告住友金属鉱山の所管部署が被告住友金属鉱山の社員を含
めたところで一律に行っており,被告日本ケッチェンの社員は,被告住友
金属鉱山の社員あるいは子会社の社員と同様に扱われていたこと,⑤被告
らにおいては,水素化処理触媒事業に関し,被告ら間で昭和45年4月1
0日に「技術援助契約」(甲7)を締結し,その後,1991年(平成3年)
6月10日に被告住友金属鉱山,被告日本ケッチェン,アクゾ社及びアク
ゾケミカルズ社間で委託研究等に関する契約(甲14,乙6)を締結し,
さらには,平成6年6月28日に被告ら両社間で研究委託契約(甲8)を
締結した経緯がある中で,被告日本ケッチェンは,本件委託契約に基づいて,
被告住友金属鉱山に対し,本件発明に係る水素化処理触媒に関する研究開
発を委託したものであり,本件委託研究に関与したのは,原告らを始め被告
住友金属鉱山の従業員であるが,被告日本ケッチェンが従業員の給与,研究
経費等の費用の一切を実質的に負担し,研究施設を提供し,研究者に対する
指揮監督を行ったものであり,被告住友金属鉱山は,本件発明に関し,主
体的な立場ではなく,本件委託契約に従い被告日本ケッチェンの指導の下
に研究開発を進めたにすぎないこと,⑥被告住友金属鉱山は,本件各特許
権の全部を被告日本ケッチェンに●(省略)●し,被告日本ケッチェンが
本件各特許権の実施による利益を独占し,一方で,被告日本ケッチェンの
株式の50%を保有する被告住友金属鉱山においては,被告日本ケッチェ
ンの化学触媒事業の業績が向上すれば,被告日本ケッチェンの株式価格の
値上がり及び受けるべき株式配当金の増額に連動して被告住友金属鉱山
の利益が増大するのみならず,結果的に化学触媒に関する被告住友金属鉱
山自身の企業イメージ,業績拡大が図られることなどによれば,被告日本
ケッチェンは被告住友金属鉱山の支配を受け,又は,被告ら両社は一体で
あるといえる。
このように被告ら両社が経営上も業務上も極めて緊密な関係にあるこ
とに鑑みれば,被告日本ケッチェンは,形の上では,被告住友金属鉱山及
びケッチェン社の合弁会社として発足した別会社であるが,その実態は,
被告住友金属鉱山の一事業部あるいは一工場的な位置づけであったとい
うことができる。
また,本件委託研究の遂行自体は,被告住友金属鉱山の業務であるが,
本件委託研究は,前述のとおり,委託研究費用の一切を実質的に負担し,
研究施設を提供した被告日本ケッチェンの指揮監督の下に進められ,本件
委託研究の内容である水素化処理触媒事業は,被告日本ケッチェンの独占
的事業にほかならず,本件委託研究の成果物である本件各特許権は,被告
住友金属鉱山から被告日本ケッチェンに承継されている。
さらに,そもそも,本件委託研究の成果物である本件各特許権は,被告
ら両社の共有とするはずであったが,被告日本ケッチェンの出願事務が円
滑でなかったため,被告住友金属鉱山が単独で出願し,本件各特許権の設
定登録を受けたにすぎないのであるから,被告ら両社には,本来の本件各
特許権の持分に応じた実績補償金を原告らに支払う義務があるというべ
きであり,また,実際に,被告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンに本
件各特許権が承継され,被告日本ケッチェンが本件各特許権の実施による
利益を独占しているのであるから,上記承継に伴い,被告日本ケッチェン
が被告住友金属鉱山の原告らに対する本件各特許権に係る実績補償金支
払債務も共に承継したと理解すべきである。
ウ以上によれば,被告日本ケッチェンは,原告らが行った職務発明である
本件発明との関係においては,被告住友金属鉱山と共に,原告らの「使用
者等」(特許法35条1項)に該当するというべきである。
そして,従業者等が使用者等に対し職務発明に係る外国の特許を受ける
権利を譲渡した場合におけるその譲渡に伴う対価請求については,特許法
旧35条3項の規定が類推適用されるから(最高裁判所平成18年10月
17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁参照),被告日本ケッ
チェンは,同条項の類推適用に基づき,原告らに対し,本件発明に係る特
許を受ける権利の承継に係る相当の対価のうち,本件米国特許及び本件欧
州特許に係る分の支払義務を負う。
(2)被告日本ケッチェンの主張
ア特許法35条1項の職務発明の「使用者等」とは,当該職務発明に対し
て中心的な援助を行った者であり,給与の実質的な支給者は誰かという点
を最大のメルクマールにしつつ,研究施設の提供,研究補助者の提供,指
揮監督命令等を総合的に勘案して,「使用者等」を決定すべきであり,職
務発明がされた後に当該職務発明に基づく特許の利益を享受したにすぎ
ない者は,「使用者等」に該当しない。
しかるところ,原告らが行った本件発明は,本件委託研究を通じて発明
に至ったものであるが,以下に述べる本件委託研究における経済的体制,
物的体制及び人的体制等に照らせば,被告日本ケッチェンは,本件発明と
の関係において,原告らの「使用者等」に該当しない。
(ア)本件委託研究における経済的体制
a本件委託研究に要する費用は,原告らの給与を含め被告住友金属鉱
山が負担していた。
b一方,被告日本ケッチェンは,本件委託契約に基づき,毎年,被告
住友金属鉱山と各年度の研究委託費を協議し,そこで定まった研究委
託費を次の(a)ないし(c)のとおり支払っていたが,これらの研究委
託費は,被告住友金属鉱山に支払われたものであって,原告らへ支払
われたものではない。また,被告日本ケッチェンは,定まった研究委
託費を支払うのみであり,実際に被告住友金属鉱山が委託研究のため
支出した費用により研究委託費が精算されたことはなく,いかなる意
味においても,研究委託費の支払は,原告らへの給与の支払と捉えら
れるものではない。
(a)平成3年4月から平成4年3月●(省略)●
(b)平成4年4月から平成5年3月●(省略)●
(c)平成5年4月から平成6年3月●(省略)●
(イ)本件委託研究における物的体制
a本件委託研究は,平成3年4月から平成6年3月までの期間中,千
葉県市川市にある被告住友金属鉱山の中央研究所の研究施設を利用
して行われた。
一方,被告日本ケッチェンにおいては,平成4年10月28日に愛
媛県新居浜市の新居浜工場で行われたスケールアップテスト1回を
除き,被告日本ケッチェンの研究施設を使用して本件委託研究が行わ
れたことはなかった。
上記スケールアップテストは,本件委託研究が平成4年に商業化の
ための研究段階に達したが,被告住友金属鉱山には水素化処理触媒の
製造ラインがなかったため,被告日本ケッチェン新居浜工場の水素化
処理触媒の製造ラインを使用して,本件委託研究に関する水素化処理
触媒の商業化規模での実験として行われたものである。
bこのように本件委託研究において被告日本ケッチェンの施設が使
用されたのは,上記スケールアップテストの時だけであり,3年にわ
たる本件委託研究において,わずか1日だけ被告日本ケッチェンの施
設を使用したことをもって,被告日本ケッチェンが本件発明に対し研
究施設を提供したとはいえない。
また,上記スケールアップテストは,被告住友金属鉱山側で立案さ
れ,被告住友金属鉱山側の指揮の下で行われたものであり,被告日本
ケッチェンの指揮監督により行われたものではない。
(ウ)本件委託研究の人的体制
本件委託研究は,被告住友金属鉱山の研究開発本部中央研究所触媒グ
ループに属する者が行ったものであり,原告らを含むその全員が被告住
友金属鉱山の従業員であった。
被告住友金属鉱山の従業員は,被告日本ケッチェンにとって別の会社
の従業員であり,被告日本ケッチェン又はその従業員が上記グループに
属する被告住友金属鉱山の従業員に指示を出すなど指揮監督すること
はなかった。もっとも,被告住友金属鉱山は,被告日本ケッチェンとの
間で,本件委託研究に関し,委託者として最低限確認すべきスケジュー
ルや本件発明に係る特許出願の取扱いといった事務的な協議が行った
が,これらは,本件委託研究に係る被告日本ケッチェンの指揮監督を根
拠づけるものではない。
(エ)小括
以上のとおり,本件委託研究は,被告住友金属鉱山の人的,物的,経
済的な資源を用いて,被告住友金属鉱山の主導の下に行われてきたので
あり,原告らが行った本件発明との関係において,特許法35条1項の
職務発明の「使用者等」に該当するのは,被告住友金属鉱山だけであり,
被告日本ケッチェンが「使用者等」に該当しないことは明らかである。
イこの点に関し,原告らは,被告ら両社は極めて緊密な関係にあること,
被告日本ケッチェンは,本件委託研究の費用の一切を実質的に負担し,研究
施設を提供し,原告ら研究者に対する指揮監督を行ったことなどから,被告
日本ケッチェンは,原告らが行った職務発明である本件発明との関係にお
いては,被告住友金属鉱山と共に,原告らの「使用者等」(特許法35条
1項)に該当する旨主張する。
しかし,被告住友金属鉱山が被告日本ケッチェンの株式の50%を保有
していること,被告住友金属鉱山が被告日本ケッチェンに役員を派遣して
おり,人事面においても両社に交流があることは事実であるが,被告住友
金属鉱山が被告日本ケッチェンの経営を管理把握していたものではない。
被告日本ケッチェンは,被告住友金属鉱山とアクゾ社グループの折半出資
の合弁会社であり,被告住友金属鉱山の一存で,その経営を左右できるも
のではなく,被告日本ケッチェンにおいては,アクゾ社側からも役員が派
遣されており,経営の重要事項は,被告住友金属鉱山側とアクゾ社側の協
議により決定されていた。
また,被告日本ケッチェンが,本件委託研究の費用の一切を実質的に負担
したり,研究施設を提供した事実や,原告ら研究者に対する指揮監督を行っ
た事実がないことは,前記ア(ア)ないし(ウ)のとおりである。被告住友金
属鉱山,アクゾ社及び被告日本ケッチェン間で締結された「技術協力に関
する契約」(甲14)の●(省略)●が規定されている。
さらに,「使用者等」に該当するとされるのは,職務発明に対して援助や
資金提供を行った者であり,職務発明がされた後に当該職務発明に基づく特
許の利益を享受した者ではないから,被告日本ケッチェンが本件日本国特許
による利益を享受していることをもって,被告日本ケッチェンが原告ら
の「使用者等」に該当することの根拠となるものではない。
したがって,原告らの上記主張は,失当である。
2争点2(原告らが支払を受けるべき相当の対価の額)について
(1)原告らの主張
ア被告らが受けるべき利益の存在等
(ア)職務発明の価値は,発明がされたときに客観的に決まるものであ
り,それゆえ,当該発明により使用者等の受けるべき利益も使用者等が
特許を受ける権利を承継したときに決定されるものであるから,使用者
等が当該発明につき,爾後どのような扱いをしたかにかかわらず,特許
を受ける権利の承継時の価値に基づき,特許法旧35条4項所定の「そ
の発明により使用者等が受けるべき利益」を決すべきである。もっとも,
職務発明が実際に利用されて利益が生じている場合には,そのような事
情も考慮されてしかるべきであろうが,基本的には,特許を受ける権利
の承継時に発明の価値が決まるものと考えるべきである。
そして,本件米国特許及び本件欧州特許に係る本件発明の価値は,外
国特許に係る発明であるため被告住友金属鉱山自身の実施ではなく,仮
に被告住友金属鉱山が第三者である外国の企業に対して実施許諾をし
ていたならば得られるであろう実施許諾料から推定することが最も合
理的である。
具体的には,被告らから●(省略)●を受けたアクゾ社及びその触媒
事業部門を譲り受けたアルベマール社(以下,両社を併せて「アルベマ
ール社等」という。)が,本件米国特許及び本件欧州特許の実施品を製
造販売しているから,アルベマール社等の海外における売上高に,仮に
被告住友金属鉱山がアルベマール社等以外の第三者に実施許諾をした
場合に得られるであろう実施料率を乗じて算定する方式(仮想実施料率
算定方式)に基づいて,被告らが受けるべき利益の額を推定するのが相
当である。
もっとも,被告らのアルベマール社等に対する本件米国特許及び本件
欧州特許の●(省略)●であるが,このことは,被告らにおいて,本件
米国特許及び本件欧州特許に係る本件発明について,「その発明により
使用者等が受けるべき利益」がないことを意味するものではない。なぜ
なら,●(省略)●ものであり(乙4,5),上記●(省略)●の実態
は,被告らとケッチェン社,アクゾ社又はアルベマール社との間に,一
種の包括的クロスライセンス契約が存在したと解することができるか
らである。ただし,被告住友金属鉱山は,ケッチェン社から供与を受け
た触媒に関する技術の実施を行わずに,もっぱら被告日本ケッチェンに
実施をさせて,その利益を間接的に享受する関係にある。すなわち,被
告日本ケッチェンの株式を50%を保有する被告住友金属鉱山は,被告
日本ケッチェンの利益及び企業価値を増大させることにより,被告日本
ケッチェンの株式価格の値上がり及び受けるべき株式配当金の増額に
連動して被告住友金属鉱山の利益が増大するのみならず,結果的に化学
触媒に関する被告住友金属鉱山自身の企業イメージ,業績拡大が図るこ
とができることによって,間接的に利益を享受している。
(イ)この点に関し,被告住友金属鉱山は,後記のとおり,●(省略)●
ことから,本件発明により独占の利益を得ることが承継時に期待するこ
とができなかった上,その承継後においても,実際に独占の利益を得る
ことはなかったのであるから,被告住友金属鉱山には,本件米国特許及
び本件欧州特許に係る本件発明について,「その発明により使用者等が
受けるべき利益」がない旨主張する。
しかしながら,職務発明の価値が特許を受ける権利の承継時に客観的
に決まるためには,使用者等が経済的合理性に基づいて行動するという
ことが大前提であり,使用者等が,自己実施あるいは実施許諾を行った
場合に受けるであろう利益(発明の客観的価値)を求めるためには,使
用者等が競争原理に則り,経済的合理性に基づき行動することが当然と
いえる。使用者等が,従業員に対価を支払わないがために職務発明を放
棄したり,経済的合理性に基づくことなく無償で実施許諾を行ったり又
は無償で譲渡をしてしまうなどということは,職務発明の相当の対価を
検討する際におよそ考慮すべきではない。かかる使用者等の行動を許容
すれば,特許法旧35条3項及び4項の規定は正に絵に描いた餅とな
り,容易に法の潜脱を許すこととなる。
したがって,被告住友金属鉱山が●(省略)●からといって,原告ら
の被告住友金属鉱山に対する相当対価請求を阻害する事由にはならな
いから,被告住友金属鉱山の上記主張は,理由がない。
イアルベマール社等の実施品の売上高
(ア)STARS触媒が実施品であること
aアクゾ社及びその触媒事業部門を譲り受けたアルベマール社(アル
ベマール社等)は,1998年(平成10年)から,米国及びオラン
ダ等の海外において,STARS触媒の製造販売を行っている。
STARS触媒の製造には,本件米国特許の●(省略)●が,本件
欧州特許の●(省略)●がそれぞれ実施されているから,STARS
触媒は,本件米国特許及び本件欧州特許の実施品である。
bSTRAS触媒には,新品触媒のほかに,使用済み触媒をリアク
ト(REACT)による再活性化処理をした再活性化処理触媒(以
下「リアクト処理触媒」という。)がある。
リアクトは,使用により活性性能が低下したSTARS触媒の再活
性化(再生及び若返り)を工業的に実施できる技術として開発された
ものであり,リアクトでの再生(regeneration)は,●(省略)●す
ることからなる。
これらの再生と若返りは,新品のSTARS触媒にいかに復元する
かの技術であり,リアクトは,STARS触媒という物質そのものを
使用しているため,アルベマール社等がリアクトによりSTARS触
媒を再生して販売することは,本件米国特許及び本件欧州特許の新た
な実施に当たるというべきである。
したがって,リアクト処理触媒も,本件米国特許及び本件欧州特許
の実施品である。
(イ)STARS触媒の売上数量
a被告日本ケッチェン及びアルベマール社等が製造販売したSTR
AS触媒の累積販売数量(実績値)は,次のとおりである(甲5の表
4)。
(a)1999年(平成11年)11月時点1500トン以上
(b)2000年(平成12年)10月時点3700トン
(c)2002年(平成14年)7月時点1万トン
(d)2006年(平成18年)3月時点5万4500トン以上
b別紙1は,上記実績値から,本件米国特許権及び本件欧州特許権の
存続期間満了時までのSTRAS触媒の累積売上数量を原告らが予
測したグラフである。
別紙1に示すとおり,STRAS触媒の製造販売時(1998年1
月)から本件米国特許権及び本件欧州特許権の存続期間満了時(20
13年11月)までの間の累積売上数量は,●(省略)●と推定され
る。
cSTRAS触媒の上記推定累積売上数量には,新品触媒の売上分と
リアクト処理触媒の売上分が含まれる。
アルベマール社のホームページ(甲35の添付資料)によれば,S
TARS触媒のリアクト処理の実績は,リアクトの商業実施開始の2
003年(平成15年)以来3万2000トンであり,これを201
1年(平成23年)までの8年間で単純平均すると年間処理量は約4
万トンとなるので,本件米国特許権及び本件欧州特許権の存続期間満
了時の2013年(平成25年)11月には,累計処理量が約4万ト
ンに達すると推定される。
そうすると,STRAS触媒の上記推定累積売上数量●(省略)●
の内訳は,新品触媒の売上分が●(省略)●リアクト処理触媒の売上
分が約4万トンである。
dSTRAS触媒の上記推定累積売上数量には,アルベマール社等の
売上げと被告日本ケッチェンの売上げが含まれている。
上記推定累積売上数量におけるアルベマール社等分と被告日本ケ
ッチェン分の割合は,その生産能力に比例するものと考えられるとこ
ろ,その生産能力はおよそ●(省略)●の割合であるので(甲5の参
照資料2),アルベマール社等分は,新品触媒の売上分が●(省略)
●,リアクト処理触媒の売上分が4万トンの●(省略)●と推定され
る。
(ウ)STARS触媒の売上高
a新品触媒の売上単価
(a)平成10年から平成16年まで
2002年(平成14年)の世界水素化精製触媒市場は,約7億
ドル(甲5の参照資料(2)),同年の世界水素化精製触媒需要は,約
8万1200トン(甲5の参照資料12)であることからすると,
水素化精製触媒の平均単価は,トン当たり約8620ドル(米ドル。
以下同じ。)と推定される。ただし,水素化精製触媒の中でもST
ARS触媒は,高活性で性能価値が高く,金属含有量が多く,製造
コストが高いので,市場価格は平均価格のおよそ●(省略)●と考
えられる。
したがって,STARS触媒の新品触媒の売上単価は,トン当た
り●(省略)●と推定される。
(b)平成17年から平成25年11月まで
平成16年ころから活性金属であるモリブデン,コバルト,ニッ
ケルが高騰したため,STARS触媒の平均単価も大幅に上昇して
いる。
平成17年以降のSTARS触媒の平均単価については,Warren
Letzschの文献(甲40)が参考になる。そこでは,高性能水素化
処理触媒単価は20~26ドル/kgと述べている。STARS触媒
は市場での評価が高いので,その上限の26ドル/kg程度であろう
が,低めにみても平均の23ドル/kg(トン当たり2万3000ド
ル)は受け入れやすい単価であると解される。
平成21年時点はモリブデン価格がやや落ち着いた段階にある
ことを考慮すると,平成17年から平成25年11月までのSTA
RS触媒の新品触媒の売上単価は,トン当たり2万3000ドルと
推定される。
bリアクト処理触媒の売上単価
リアクト処理触媒の再活性化コストは,新品触媒の製造コストに比
べ格段に安く,活性金属価格にほとんど影響されないので,STAR
S触媒のリアクト処理触媒の売上単価は,一般触媒の単価と比較して
高く見積もっても,トン当たり●(省略)●と推定される。
c売上高の合計額
以上を前提にSTARS触媒の売上高を算定すると,別紙2のとお
り,合計売上高は●(省略)●を超えるから,アルベマール社等のS
TARS触媒(新品触媒及びリアクト処理触媒)の売上高の合計額が
●(省略)●を下回ることはない。
なお,別紙2記載の「為替レート」である「1ドル114.94円」
は,平成12年から平成16年までの為替レートの平均値を,「1ド
ル101.38円」は,平成17年から平成23年の同平均値をそれ
ぞれ採用したものである。
ウ相当の対価の額
(ア)アルベマール社等の本件米国特許及び本件欧州特許の実施品であ
るSTARS触媒の売上高の合計額が●(省略)●を下回ることがない
ことは,前記イ(ウ)cのとおりである。
STARS触媒の売上高は,長期にわたり年々上向きに推移し,利益
率は全体的に●(省略)●と高い率を保持していることからすると,本
件米国特許及び本件欧州特許に係る本件発明は,技術的ブレークスルー
となる画期的発明であるといえる。
そうすると,上記実施品に対する本件発明の技術寄与率は●(省略)
●と認めるのが相当である。
(イ)本件発明の発明者貢献度は,本件発明の内容に照らし,●(省略)
●と認めるのが相当である。
(ウ)共同発明者間(原告ら8名)における原告らの貢献割合は,それぞ
れ●(省略)●である。
(エ)以上を総合すると,原告らが被告らから支払を受けるべき本件発明
の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価のうち,本件米国特許及び
本件欧州特許の分は,各6500万円である。
(計算式・●(省略)●
エまとめ
以上によれば,原告らは,特許法旧35条3項及び4項の規定の類推適
用により,本件発明に係る特許を受ける権利の承継による相当対価請求権
の一部である本件米国特許及び本件欧州特許に係る分に基づき,被告らに
対し,原告らそれぞれにつき各6500万円及びこれに対する平成22年
2月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
(2)被告住友金属鉱山の主張
ア被告住友金属鉱山が受けるべき利益の不存在
特許法旧35条4項所定の「その発明により使用者等が受けるべき利
益」とは,使用者等が従業者等から職務発明についての特許を受ける権利
を承継し,当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによ
って受ける利益(独占の利益)をいうものと解される。
しかるところ,被告住友金属鉱山は,以下に述べるとおり,●(省略)
●ことから,本件発明により独占の利益を得ることは,原告らからの本件
発明に係る特許を受ける権利の承継時に期待することができなかった上,
その承継時以降,実際に独占の利益を得ることはなかったのであるから,
被告住友金属鉱山には,本件米国特許及び本件欧州特許に係る本件発明に
ついて,「その発明により使用者等が受けるべき利益」がない。
(ア)特許を受ける権利の承継時までの事情
a被告住友金属鉱山は,1969年(昭和44年)12月31日,ケ
ッチェン社との間で,水素化処理触媒の製造及び販売を行う合弁会
社(被告日本ケッチェン)を日本に設立する旨の設立契約(乙4。以
下「本件設立契約」という。)及びその補足契約(乙5。以下「本件
補足契約」という。)をそれぞれ締結した。
そして,●(省略)●
b被告住友金属鉱山は,●(省略)●などを内容とする技術援助契
約(甲7。以下「本件技術援助契約」という。)を締結した。
c被告住友金属鉱山,被告日本ケッチェン,アクゾ社及びアクゾケミ
カルズ社は,1991年(平成3年)6月10日,水素化処理触媒の
委託研究等に関する契約(甲14,乙6。以下「平成3年契約」とい
う。)を締結した。
●(省略)●
d被告住友金属鉱山は,遅くとも平成5年8月4日までに,原告ら8
名から,本件発明に係る特許を受ける権利を承継したものであるが,
その承継時から現在に至るまで,本件設立契約,本件補足契約,本件
技術援助契約及び平成3年契約は,有効に存続している。
(イ)特許を受ける権利の承継後の事情
a被告住友金属鉱山は,平成16年3月24日,被告日本ケッチェン
に対し,本件各特許権及び他の特許権を●(省略)●で譲渡したとこ
ろ,●(省略)●に相当するものである。
このような譲渡の対価とされたのは,被告住友金属鉱山において
は,●(省略)●ことから,被告住友金属鉱山に本件各特許の出願維
持費用を超えるような対価を支払ってまでその共有持分権を取得す
る必要がなかったため,被告住友金属鉱山が負担した●(省略)●で
の譲渡に応じたことによるものである。
したがって,被告住友金属鉱山は,被告日本ケッチェンに対する本
件各特許権の譲渡により,利益を得ていない。
b被告住友金属鉱山は,本件発明に係る特許を受ける権利を承継した
後本件各特許権を被告日本ケッチェンに譲渡するまでの間,前記(ア)
dのとおり,●(省略)●もなかった。
c被告住友金属鉱山又は被告日本ケッチェンから本件米国特許及び
本件欧州特許の実施許諾を受けたアクゾ社及びその触媒事業部門を
譲り受けたアルベマール社がそれらの実施により利益を享受したと
しても,アルベマール社等が享受した利益は,被告住友金属鉱山の利
益ではなく,これを被告住友金属鉱山の利益と同視すべき事情も存在
しない。
(ウ)原告らの主張について
原告らは,第三者である外国の企業に対して本件米国特許及び本件欧
州特許を実施許諾していたならば得られるであろう仮想実施料に基づ
いて,被告らが本件発明により受けるべき利益の額を推定するのが相当
である旨主張する。
しかしながら,原告らが主張するような手法は,自社実施又は第三者
への有償実施許諾を使用者等が行うことが可能であり,かつ,それを行
うべきであったのにそれをしなかった場合が前提となっているという
べきであり,本件では,被告住友金属鉱山は,●(省略)●されており,
かつ,それを行うべきであったとしてこれを要請することができない事
案であるから,上記手法の前提を欠くというべきである。もし,契約上
の拘束があるにもかかわらず,原告らの主張するような仮想実施料を前
提とする解釈に基づき,相当の対価の支払が命ぜられるとするならば,
それは仮想実施料とはいえ,企業に対し既に締結した第三者との間の契
約内容の変更を行い,あるいはそれができない場合には契約に違反して
でも第三者に実施許諾をして実施料を得ることを使用者等に事実上強
制するに等しい。特許法旧35条3項及び4項は,使用者等と従業者等
との間の契約との関係では強行法規性を有するが,使用者等と第三者と
の間の契約に対してまで強行法規性を有する規定ではないことに照ら
せば,そのような解釈及び結果が不当であることは明白である。
したがって,原告らの上記主張は,失当である。
(エ)小括
以上のとおり,被告住友金属鉱山は,本件発明に係る特許を受ける権
利の承継時において,本件設立契約,本件補足契約,本件技術援助契約
及び平成3年契約における契約上の拘束から,本件発明により独占の利
益を得ることを期待できなかった上で,その承継時以降,実際に独占の
利益を得ることはなかったのであるから,被告住友金属鉱山には,本件
発明に属する本件米国特許及び本件欧州特許に係る発明について,「そ
の発明により使用者等が受けるべき利益」がない。
したがって,原告ら主張の被告住友金属鉱山に対する相当対価請求権
は発生していない。
イアルベマール社等の実施品の売上高について
(ア)STARS触媒の実施品該当性について
aアルベマール社等がいかなる製造方法によりSTARS触媒の製
造を行っていたのか不明であるから,アルベマール社等が製造販売し
たSTARS触媒が本件米国特許及び本件欧州特許の実施品である
とはいえない。
また,仮にアルベマール社等がSTARS触媒の製造に本件米国特
許及び本件欧州特許に係る本件発明を使用したとしても,STARS
触媒のいかなる製品にどれだけ使用したかを示す証拠の提出はない。
bむしろ,アルベマール社等のSTARS触媒の中にも,本件発明に
よる製造方法と異なる製造方法により製造された触媒(例えば,リン
及びホウ素を含む水素化処理触媒)が存在することがうかがわれるほ
か,リアクト技術により再活性化されたリアクト処理触媒が存在し,
このリアクト処理触媒は,本件発明の技術的範囲に属さない。
すなわち,従前,STARS触媒は,一度使用されると使用後触媒
として廃棄しなければならなかったが,リアクトという新技術が出現
したことにより再活性化して,再利用が可能になった経緯がある。水
素化処理触媒には,酸化物型触媒と硫化物型触媒の2種類があり,酸
化物型触媒→(予備硫化)→硫化物型触媒(水素化処理の操業に使用
される。)→使用後硫化物型触媒→(再生)→酸化物型触媒(再生触
媒)というリサイクルフローがある(乙19の1)。
このリサイクル工程は,①酸化物型触媒の製造工程,②酸化物型触
媒の予備硫化(オフサイト予備硫化又はオンサイト予備硫化)→硫化
物型触媒への転換,③操業(硫化物型触媒の炭化水素油の脱硫,脱窒
素化への使用),④使用後硫化物型触媒の再生(酸化物型触媒の製造
→①に戻る。)の4工程から構成されている。
リアクト技術は,使用後硫化物型触媒から酸化物型触媒を再生する
プロセス(上記④)に係る技術であり,このプロセスには,リアクト
技術が登場する前から存在する本件米国特許及び本件欧州特許に係
る発明は使用されていないから(乙19の1,2),アルベマール社
等が製造販売したSTARS触媒のうち,リアクト処理触媒は,本件
米国特許及び本件欧州特許の実施品であるとはいえない。
(イ)STARS触媒の売上数量について
原告らは,アルベマール社等が製造販売した本件米国特許及び本件欧
州特許の実施品であるSTARS触媒の推定累積売上数量は,別紙1に
示す推定値●(省略)●である旨主張する。
しかしながら,原告らの上記主張は,以下のとおり理由がない。
aまず,別紙1で示された各実績値は,各年度で同一の算定方法等を
用いているのかが明らかではなく,また,おおよその数値であって具
体的な数値が記載されたものでもない。しかも,別紙1は,甲5の表
4の「累積,t」欄記載の各数値を基に作成されたものであるのに,
上記「累積,t」欄記載の「2006年秋」の「45,000トン」
という数値のみが除外されている。
また,別紙1では,2006年(平成18年)3月時点での5万4
500トンという数値を挿入することにより生産量が急激に増加す
る生産量推移曲線が示され,2013年(平成25年)11月時点の
推定値を●(省略)●としているが,他方で,アルベマール社が公表
した資料である甲35の添付資料1(Albemarle,CatalystCourier
Issue80,pages1;6-7,Autumn2011)では,STARS触媒の一つで
あるKF757の生産量推移(棒グラフ)は,2005年をピークに
頭打ちとなり,漸減する推移を示しており,両者は明らかに矛盾する。
さらに,甲31の添付資料2(訳文)に,「超低硫黄ディーゼル
油(USLD)実施のため2005年・2006年の市場での需要急増の
後も,その使用はほぼ一定に留まっている。」との記載があるよう
に,「2005年・2006年」は,一過的に市場の需要が急増した
という特殊事情が存するのであるが,別紙1の生産量推移曲線は,こ
のような一過的な急増の事情を勘案せず,2006年(平成18年)
3月時点での5万4500トンという数値を将来の売上予測に用い
た誤りがある。
したがって,原告ら主張のSTARS触媒の推定累積売上数量は,
不適切な売上予測に依拠するものといえる。
b次に,原告ら主張のSTRAS触媒の推定累積売上数量のうち,ア
ルベマール社等の売上げを●(省略)●と推定する根拠はない。生産
能力を有していても,その生産能力を用いて製品をどれだけ現実に製
造したか,製造した製品のうちどれだけが現実に売れたかは,別問題
であるから,売上高と生産能力が比例するものとはいえない。
また,仮に原告ら主張のアルベマール社等のSTARS触媒の推定
累積売上数量●(省略)●を前提とした場合でも,リアクト処理触媒
は本件発明の実施品ではないから,その売上数量を除外すべきであ
る。
そして,リアクト処理触媒の累計売上数量が3万2000トンであ
ること(乙20の第4段落参照),リアクト技術を使用すれば,ST
ARS触媒は,活性を落とすことなく,多数回の再賦活を行うことが
できること(乙20の第5段落参照)からすると,少なくとも,「3
万2000トン×多数回」分の売上げは,算定基礎から除外されるべ
きである。
c以上によれば,アルベマール社等が製造販売した実施品であるST
ARS触媒の推定累積売上数量が●(省略)●であるとの原告らの主
張は,理由がない。
(ウ)STARS触媒の単価について
原告らは,STARS触媒の新品触媒の単価がトン当たり●(省略)
●であると主張する。
しかし,かかる単価算出方法の正当性について何ら説明がなく,また,
STARS触媒の単価が水素化精製触媒の平均価格の●(省略)●であ
る旨主張するが,●(省略)●であることを裏付ける証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は,理由がない。
(エ)小括
以上によれば,アルベマール社等の本件米国特許及び本件欧州特許の
実施品であるSTARS触媒の売上高の合計額が●(省略)●を下回る
ことがないとの原告らの主張は,その前提を欠くものであり,理由がな
い。
ウ相当の対価の額について
(ア)本件発明の技術寄与率
原告らは,アルべマール社等のSTARS触媒の売上げに対する本件
米国特許及び本件欧州特許に係る本件発明の技術寄与率は●(省略)●
である旨主張する。
しかし,仮にアルべマール社等がSTARS触媒の製造に本件発明を
使用していたとしても,その製造工程及び再生工程には,他の多数の発
明,ノウハウが使用されている可能性があるのに,原告らの上記主張は,
これらがSTARS触媒の売上げに寄与していることを無視した独断
的な推測にすぎず,失当である。
(イ)使用者貢献度
仮に被告住友金属鉱山に本件米国特許及び本件欧州特許に係る本件
発明により受けるべき利益が存在するとしても,以下のとおり,被告住
友金属鉱山における特許法旧35条4項所定の「その発明がされるにつ
いて使用者等が貢献した程度」(使用者貢献度)は,99%を下回るこ
とはない。
a被告住友金属鉱山が保有する先行技術
被告住友金属鉱山は,特許第3230585号の特許権(平成2年
12月26日出願)(乙21。以下,この特許発明を「乙21発明」,
その明細書を「乙21明細書」という。という。)及び特許第324
4694号の特許権(平成2年10月29日出願)(乙22。以下,
この特許発明を「乙22発明」,その明細書を「乙22明細書」とい
う。)を保有している。
乙21発明及び乙22発明は,被告住友金属鉱山の従業員のIが単
独で行った職務発明であり,本件発明の提案前に開発された先行技術
である。
b本件米国特許について
(a)本件米国特許の請求項1は,別紙特許目録2記載のとおりであ
り,その第3節は,第1節に記載された「200℃以下の温度で乾
燥すること」により得られる作用効果を表しており,同請求1の要
部は,次に示す3要件から構成される(以下,それぞれを「A要
件」,「B要件」,「C要件」という。)。
Aアルミナ担体物質を,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくと
も1種の活性金属と,周期律表第Ⅷ族金属から選ばれた少なくと
も1種の活性金属と,リン酸と,添加剤とから構成される混合物
を含む溶液(含浸液)に含浸し,
B200℃以下の温度で乾燥させた触媒で,
C添加剤が,1分子当たり2~10炭素原子を持った二価か三価
のアルコール,または当該アルコールのエーテル,単糖類,二糖
類や多糖類からなるグループから選ばれた少なくとも1種の物
質からなる。
(b)乙21発明の触媒は,本件米国特許と同じ,炭化水素油の水素
化処理触媒であるところ,乙21明細書には,「…,好ましくは,
触媒担体に活性金属としてモリブデン,タングステンのいずれか一
つ,または双方とニッケル,コバルトのいずれか一つ,または双方
と,該活性金属の総モル数の0.5~5.0倍となる量の炭酸エチ
レン,炭酸プロピレンのいずれか一つ,又は双方を含む含浸液を触
媒担体に含浸させ,200℃未満で乾燥させるものであり,さらに
好ましくは上記含浸液に燐酸を共存させるものである。」(段落【
0008】),「本発明の触媒担体とは,アルミナ,シリカ,チタ
ニア,ジルコニア,活性炭等の一般的な多孔質物質をいい,…」(段
落【0009】)との記載がある。
モリブデン,タングステンは周期律表Ⅵ族金属,ニッケル,コバ
ルトは周期律表第Ⅷ族金属であり,炭酸エチレン,炭酸プロピレン
は添加剤に相当するので,乙21発明の触媒は,本件米国特許の請
求項1のA要件及びB要件を充足するが,添加剤が炭酸エチレン,
炭酸プロピレンであるために,C要件を満たしていない。
一方,乙22発明の触媒も,本件米国特許と同じ,炭化水素油の
水素化処理触媒であるところ,その請求項4は,「触媒担体に周期
律表第6族金属と第8族金属とを含みかつリンを含む溶液を含浸
させた後,該含浸物を200℃以下で乾燥して触媒を得,該触媒中
の活性金属の総モル数に対して0.3~5.0倍の多価アルコール
を添加した後,200℃以下で乾燥させることを特徴とする水素化
処理触媒の製造方法。」というものであり,また,乙22明細書に
は,「本発明に使用できる多価アルコールとしてはエチレングリコ
ール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,グリセリ
ン,2,2-ジエチル-1,3-プロピレングリコール,ブタンジ
オール等が挙げられる。」(2頁右欄4行~7行),「本発明に使
用する触媒は,アルミナ,シリカ,チタニア,ジルコニア,活性炭
等の多孔質物質を触媒用担体として,これに周期律表第6族金属と
第8族金属とを活性金属として担持させたもの」(2頁右欄9行~
10行),「…,リン源として正リン酸等の各種のリン酸を用いう
る。」(2頁右欄27行~28行)との記載がある。
エチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリ
コール,グリセリンといった多価アルコールは,1分子当たり2~
10炭素原子を持った二価か三価のアルコールであるので,乙22
発明の触媒は,本件米国特許の請求項1のB要件及びC要件を充足
するが,アルミナ担体に周期律表第Ⅵ族金属と第Ⅷ族金属とリン酸
を含む溶液を含浸させ,200℃以下で乾燥した後に,多価アルコ
ールを添加し,200℃以下で乾燥させており,1回の含浸処理で
周期律表第Ⅵ族金属,第Ⅷ族金属,リン酸,多価アルコールを添加
していないという点においてA要件を満たしていない。
(c)以上によれば,本件米国特許の触媒は,乙21発明の添加剤以
外の要件を備えた触媒に対して,乙22発明の触媒開発で見出した
添加剤を適用したものであって,重要な3要件(本件米国特許の請
求項1のAないしC要件)は,本件発明の発明提案以前に,原告ら
とは異なる発明者によって,被告住友金属鉱山において開発されて
いた技術であるので,本件発明の完成に対する原告らの寄与は小さ
いというべきある。
c本件欧州特許について
(a)本件欧州特許の請求項1は,別紙特許目録3記載のとおりであ
り,その要部は,本件米国特許の請求項1と共通する3要件に,以
下に示すD要件が加わった4要件から構成される。
Aアルミナ担体物質を,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくと
も1種の活性金属と,周期律表第Ⅷ族金属から選ばれた少なくと
も1種の活性金属と,リン酸と,添加剤とから構成される混合物
を含む溶液(含浸液)に含浸し,
B200℃以下の温度で乾燥させた触媒で,
C添加剤が,1分子当たり2~10炭素原子を持った二価か三価
のアルコール,または当該アルコールのエーテル,単糖類,二糖
類や多糖類からなるグループから選ばれた少なくとも1種の物
質からなり,
D添加剤量が,アルコール類の場合はエーテル基として担持活性
金属の合計モル数の0.05~3倍であり,糖類の場合は担持活
性金属の合計モル数の0.05~1倍である。
(b)前記b(b)で述べたように,乙21発明はA要件及びB要件の
構成を,乙22発明はB要件及びC要件の構成をそれぞれ有してお
り,また,乙22発明の請求項4には,「活性金属の総モル数に対
して0.3~5.0倍の多価アルコールを添加した後」との記載が
あるように,添加剤量としてD要件と重複する最適添加量が記載さ
れている。
(c)以上によれば,本件欧州特許の触媒は,乙21発明の添加剤以
外の要件を備えた触媒に対して,乙22発明の触媒開発で見出した
添加剤及びその最適添加剤量を適用したものであって,重要な4要
件(本件欧州特許の請求項1のAないしD要件)は,本件発明の発
明提案以前に,原告らとは異なる発明者によって,被告住友金属鉱
山において開発されていた技術であるので,本件発明の完成に対す
る原告らの寄与は小さいというべきある。
d小括
以上を総合すると,本件発明は,被告住友金属鉱山が保有していた
二つの先行技術を組み合わせて完成された発明にすぎず,本件発明の
完成に対する原告らの寄与は小さいというべきあるから,本件発明に
対する被告住友金属鉱山の使用者貢献度は99%を下回ることはな
い。
(ウ)共同発明者間における原告らの寄与割合
本件発明は,17件の発明届出等(乙3の1ないし17)により提案さ
れた複数の発明提案が統合されて完成した発明であり,その統合関係等
は,別紙3のとおりである。
そして,17件の発明提案間の価値が均等であること,原告ら及びそ
の他の発明者が発明届出等に自ら書き込んだ持分割合を前提に,本件発
明に対する原告らの寄与割合を算定すると,別紙4のとおり,原告Bに
ついては11.1%,原告Aについては0.8%となる。
したがって,本件発明の共同発明者間における寄与割合は,原告Bに
ついては11.1%を,原告Aについては0.8%をそれぞれ上回るこ
とはないというべきである。
(3)被告日本ケッチェンの主張
原告らの主張は争う。
3争点3(相当対価請求権の消滅時効の成否)について
(1)被告住友金属鉱山の主張
ア消滅時効の完成
(ア)a被告住友金属鉱山は,遅くとも平成5年8月4日までに,原告ら
から,本件発明に係る特許を受ける権利を承継し,同年11月18日
に本件米国特許及び本件欧州特許に係る特許出願をし,平成7年11
月21日に本件米国特許権の設定登録を受け,平成10年9月23日
に本件欧州特許権の設定登録を受けた。
ところで,特許法旧35条3項に基づく相当対価請求権は,従業者
等が使用者等に特許を受ける権利を承継させた時に一定の額として
発生し,その時から行使できるから,特許を受ける権利の承継時が消
滅時効の起算点となる。
そうすると,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分
の相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件発明に係る特許を受け
る権利の承継日の翌日である平成5年8月5日となり,その起算点か
ら10年を経た平成15年8月4日の経過をもって,上記消滅時効が
完成している。
bなお,被告住友金属鉱山が本件発明に係る特許を受ける権利を承継
した当時,乙1規程及び乙2細則が有効に存続していたところ,乙1
規程は,承継した職務発明に関し,補償金として出願補償金,登録補
償金,特許等の出願に値するノウハウの承継補償金及び実績補償金を
支払うものと定め(13条),乙2細則は,実績補償金の支払時期に
ついて,「発明等が特許権等として登録された場合,別に定める評価
方式に従って登録時をその実施状況の基準とする等級を発明実施部
門の評価をもとに特許室長が決定し,その等級に応じて発明等ごとに
つぎの補償金を発明者に支払う。」(3条3号a),「実績補償金の
支払いは,発明等1件につき1回限りとする。」(3条3号b)と定
めている。
上記支払時期の定めは,その文言上,被告住友金属鉱山の発明実施
部門が,発明等に係る特許権等の実施状況につき評価できること,す
なわち,同部門が実績補償金の基礎となる利益を把握できることを前
提とするものであるから,同部門が把握できない利益を基礎とする実
績補償金に係る相当対価請求権については適用されないものと解さ
れる。
しかるところ,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る
分の相当対価請求権は,アルベマール社等が本件米国特許及び本件欧
州特許を実施したことにより生じた利益を基礎とするものにほかな
らず,それらの利益は,アルベマール社等が享受した利益であって,
被告住友金属鉱山の発明実施部門が把握することができないもので
あるから,原告ら主張の上記相当対価請求権には,上記支払時期の定
めは適用されないというべきである。
(イ)a仮に原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相
当対価請求権について,乙2細則の実績補償金の支払時期の定め(3
条3号a,b)が適用されると解したとしても,以下のとおり,消滅
時効が完成している。
上記支払時期の定めによれば,特許権の設定登録時を基準として実
績補償金に係る相当対価請求権を行使することが可能となるから,そ
の支払時期は,特許権が設定登録されたときに到来すると解するのが
相当である。
そうすると,原告らの本件米国特許に係る部分の実績補償金に係る
相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件米国特許権の設定登録日
の翌日である平成7年11月22日となり,その起算点から10年を
経た平成17年11月21日の経過をもって,上記消滅時効が完成し
ている。また,原告らの本件欧州特許に係る部分の実績補償金に係る
相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件欧州特許権の設定登録日
の翌日である平成10年9月24日となり,その起算点から10年を
経た平成20年9月23日の経過をもって,上記消滅時効が完成して
いる。
bなお,乙1規程及び乙2細則はいずれも改正を経ており,本件米国
特許権及び本件欧州特許権の設定登録がされた当時には,平成7年4
月1日改正後の本件規程(乙7。以下「乙7規程」という。)及び同
日改正後の本件細則(乙8。以下「乙8細則」という。)が有効に存
続していた。
乙7規程及び乙8細則には,職務発明の補償金及び実績補償金の支
払時期に関し,乙1規程及び乙2細則と同様の条項が存在する。
したがって,仮に原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係
る分の相当対価請求権について,乙8細則の実績補償金の支払時期の
定め(3条3号a,b)が適用されると解したとしても,上記aと同
様の理由により,消滅時効が完成している。
(ウ)aこの点に関し,原告らは,後記のとおり,原告ら主張の本件米国
特許及び本件欧州特許に係る分の相当対価請求権については,甲15
規程及び甲10細則が適用されることを前提として,未だ消滅時効が
完成していない旨主張する。
しかし,本件規程は,昭和62年8月1日に制定され,それ以降数
次の改正を経ているが,そのうち,どの規程が適用されるかについて,
本件規程には明確な定めはない。もっとも,乙1規程(制定時の本件
規程)及び甲15規程(平成16年1月1日改正実施時の本件規程)
の各付則は,「昭和62年7月31日以前に登録された特許等に対す
る実績補償は旧規程「発明の承継に関する規程」に従って実施する。」
と規定しているが,この付則は,昭和62年8月1日以降に登録され
た特許等に対しては,「発明の承継に関する規程」ではなく,本件規
程が適用されることを意味するにとどまり,どの時点の本件規程が適
用されるかについて定めたものではない。
そうすると,原則に立ち戻り,本件規程の対象となる事象が生じた
当時に有効に存続する規程を適用すべきであり,その対象となる事象
は,本件発明に係る特許を受ける権利の承継及びその対価であるか
ら,上記承継時に有効に存続していた乙1規程及びその細則である乙
2細則,又は本件米国特許権及び本件欧州特許権の設定登録時に有効
に存続していた乙7規程及びその細則である乙8細則が適用される
と解すべきである。
したがって,甲15規程及び甲10細則が適用されることを前提と
する原告らの上記主張は,その前提において,理由がない。
b(a)原告らは,後記のとおり,原告ら主張の本件米国特許及び本件
欧州特許に係る分の相当対価請求権について,乙2細則の実績補償
金の支払時期の定め(3条3号a,b)が適用されるとしても,原
告らの被告らに対する前訴の提起が裁判上の請求(民法149条)
による時効中断事由に該当するので,上記相当対価請求権の消滅時
効は完成していない旨主張する。
しかしながら,原告らは,前訴の訴状(乙10)において,本件
発明に係る特許を受ける権利の承継に係る相当対価請求権の一部
である本件日本国特許に係る部分についてのみ判決を求める趣旨
を明示し,平成20年9月17日付け訴え変更申立書(乙11)に
おいても,本件日本国特許に係る実績補償額という一部についての
み判決を求める趣旨を明示していたのであるから,前訴において訴
訟物となっていたのは,上記相当対価請求権の一部である本件日本
国特許に係る部分のみであって,その残部である本件米国特許及び
本件欧州特許に係る分は訴訟物となっていなかったものといえる。
そうすると,前訴の提起による時効中断の効力は,本件米国特許
及び本件欧州特許に係る分の相当対価請求権に及ばないから,原告
らの上記主張は,理由がない。
(b)また,原告らは,後記のとおり,前訴における裁判上の和解に
おいて,被告らが,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に
係る分の相当対価請求権を承認(民法147条3号)したといえる
から,この承認による時効中断により,上記相当対価請求権の消滅
時効は完成していない旨主張する。
しかし,被告住友金属鉱山は,前訴において,原告らが主張する
実績補償請求権の存在を一貫して争い,かつ,裁判上の和解におい
ても,かかる権利の存在を確認しなかったものであり(甲32),
原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相当対価
請求権の存在を知っている旨の表示をしたことは一切ない。結局,
上記相当対価請求権の承認とみるべき被告住友金属鉱山の行為は
存在しないから,原告らの上記主張は,理由がない。
イ消滅時効の援用
被告住友金属鉱山は,本訴において,前記ア(ア)及び(イ)の消滅時効を
援用する。
ウまとめ
以上によれば,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の
相当対価請求権は,時効により消滅している。
(2)原告らの主張
ア本件で適用される実績補償金の支払時期の定め等
(ア)本件米国特許及び本件欧州特許の実績補償金については,甲15規
程及びその細則である甲10細則が適用されると解すべきである。
すなわち,甲15規程(平成16年1月1日改正実施)の付則は,「昭
和62年7月31日以前に登録された特許権等に対する実績補償は旧
規定「発明承継に関する規定」に従って実施する。」と規定し,甲10
細則の付則(平成16年3月1日改正実施)は,「2003年3月31
日以前に旧細則6条に基づき実績補償金の評価がなされた特許につい
ては,旧細則によるものとする。」と規定している。
そして,本件米国特許権及び本件欧州特許権は,その設定登録日がそ
れぞれ平成7年11月21日及び平成10年9月23日であり,いずれ
も「昭和62年7月31日以前に登録された特許権等」ではないので,
本件米国特許権及び本件欧州特許権に対する実績補償金については,甲
15規程の付則により,甲15規程が適用される。
また,被告住友金属鉱山は,これまで本件米国特許及び本件欧州特許
権について実績補償金の評価を行っていないから,本件米国特許権及び
本件欧州特許権に対する実績補償金については,甲10細則の付則によ
り,甲10細則が適用される。
なお,被告住友金属鉱山は,前訴において,本件各特許権に対する実
績補償金に適用される本件規程及び本件細則は,甲15規程及び甲10
細則であると主張していた。
(イ)まず,甲15規程の37条4号は,「当該発明等が,実施され,一
定の実績が認定された場合:実績補償金」と規定しているところ,この
規定は,実績補償は,職務発明の実施がされてその実績がある程度の期
間継続して被告住友金属鉱山に認定された後に,請求できることを示し
ている。
次に,甲10細則は,4条で実績補償金は実施許諾又は社内実施の際
に支払う旨を,5条で実績補償金の算定方法を,7条で実績補償の手続
を定めている。甲10細則の5条1項1号は,「実施料とは,対象特許
権等の実施許諾・譲渡等の対価」をいうと規定し,実績補償金の算定に
は,対象特許権等の実施許諾のみならず,第三者への譲渡の対価も算定
の対象となることを定めている。
甲10細則の7条1項1号は,「特許責任者は,実施効果調査の時点
において第三者実施許諾の開始年度または社内実施の開始年度のいず
れか早い年(以下「開始年度」という)から4年を経過しているものに
ついて,当該特許権等の開始年度から実施効果調査の前年度までの実施
効果を評価し,実施効果調査書(別紙1)を知的財産部長に提出し,評
価申請を行う。」と規定し,同項3号①は,特許権等の譲渡が行われた
場合には,4年を経過していない特許権等であっても,その譲渡の時点
で,実施効果の調査を行う旨規定している。
これらの規定によれば,特許権等はその実施許諾又は社内実施の開始
から最初の4年間経過後に実施効果の評価がされ,以後4年ごとに同様
の実施効果の評価がされ,この評価に基づいて,5条の実績補償金の算
定がされるので,発明者たる従業員が具体的に実績補償を請求すること
ができるのは,特許権等の譲渡等がない限り,特許権等の実施許諾又は
社内実施が開始されてから少なくとも4年が経過しなければならない。
以上によれば,実績補償金に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点
は,特許権等の譲渡等がない場合には特許権等の実施許諾又は社内実施
が開始されてから少なくとも4年が経過した時点,また,特許権等の譲
渡があった場合にはその譲渡日と解すべきである。
これを本件についてみると,アクゾ社のSTARS触媒の製造販売に
よる本件米国特許及び本件欧州特許の実施行為が開始されたのは,平成
10年であり,その実施効果の評価は4年を経過した後の平成14年に
行われるべきであるから,平成10年から平成13年までの間の実績補
償金に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は,平成14年となり,
また,本件米国特許権及び本件欧州特許権は平成16年3月24日に被
告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンへ譲渡されているから,平成1
4年以降の実績補償金に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は,平
成16年3月24日となる。
そして,原告らが本訴を提起した平成22年1月8日時点では,上記
消滅時効の各起算点からいずれも10年を経ていないから,原告らの本
件米国特許及び本件欧州特許の実績補償金に係る相当対価請求権は,消
滅時効が完成していない。
なお,本件各特許権の上記譲渡の時点では,本件米国特許権及び本件
欧州特許権の存続期間は満了していないが,譲渡に際しては存続期間満
了時までの特許権の客観的な評価を行い,その評価に従った譲渡の対価
で譲渡すべきであるから,平成14年以降の実績補償金は,上記の適正
な譲渡の対価に基づいて算定されなければならない。
(ウ)仮に被告住友金属鉱山が主張するように本件米国特許及び本件欧
州特許の実績補償金について乙1規程及び乙2細則又は乙7規程及び
乙8細則が適用されるとしても,原告らの実績補償金に係る相当対価請
求権の消滅時効の起算点は,前記(イ)と同様となる。
すなわち,乙2細則の3条3号aは,実績補償金は,登録時をその実
施状況の基準とした評価をもとに技術部長が決定し補償金を支払う旨
規定し,乙8細則にも同様の規定がある。これらの規定によれば,実際
に実施された状況(「実施状況」)を評価をすることになるが,発明等
を実施した時点ですぐにその評価を行うことは不可能であり,評価のた
めには当然ある一定の期間を有するものであり,本件発明の属する石油
精製触媒の分野では,ライフサイクルの初期である市場導入の期間が長
く,実績を把握するには時間がかかるのが一般であるから,評価期間と
しては,「4年」が目安となるというべきである。
そうすると,原告らが本件米国特許及び本件欧州特許の実績補償金を
請求できるためには,本件米国特許及び本件欧州特許の実施並びにその
実績を評価する期間(4年)が必要であるところ,アクゾ社のSTAR
S触媒の製造販売による本件米国特許権及び本件欧州特許権の実施行
為が開始されたのは平成10年であるから,原告らの実績補償金に係る
相当対価請求権の消滅時効の起算点は,平成14年となる。
イ時効の中断
(ア)原告らは,前訴において,被告らに対し,本件各特許権について,
日本国特許及び海外特許の区別なく,実績補償請求金の請求を行ったも
のであり,前訴の提起は裁判上の請求(民法149条)の時効中断事由
に該当するから,原告らの本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相
当対価請求権の消滅時効は,原告らが前訴を提起した平成19年3月5
日に中断した。
(イ)また,前訴は,裁判上の和解により終了したところ,前訴における
和解の経緯及び和解条項の4項(甲32)に鑑みれば,被告らは,前訴
において,原告らの本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相当対価
請求権が存在することを認めた上で,相当の対価の額が明らかになった
日本国内での実施分のみを和解対象としたものであり,上記相当対価請
求権を承認(民法147条3号)したものといえるから,上記相当対価
請求権の消滅時効は,遅くとも前訴の和解が成立した平成20年12月
25日に中断した。
ウまとめ
以上によれば,被告住友金属鉱山の消滅時効の主張は,理由がない。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告日本ケッチェンの「使用者等」該当性)について
(1)前提事実
前記争いのない事実等と証拠(甲4,5,7,9,14,27,28,3
5,37,乙3ないし6,丙1,2(枝番のあるものは枝番を含む。))及
び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア(ア)被告住友金属鉱山は,昭和44年当時,水素化処理触媒の研究開発
を進めていたが,単独では事業化する段階に至っていなかったことか
ら,オランダ法人であるケッチェン社と共同出資して合弁会社を設立
し,ケッチェン社の高度な触媒製造技術を導入して,日本国内において
触媒を製造することにより,その事業化の実現を目指すこととした。
被告住友金属鉱山は,1969年(昭和44年)12月31日,ケッ
チェン社との間で,水素化処理触媒の製造及び販売を行う合弁会社(被
告日本ケッチェン)を日本に設立する旨の設立契約(本件設立契約)及
びその補足契約(本件補足契約)を締結した。
本件設立契約(乙4)は,●(省略)●などを内容としている。
また,本件補足契約(乙5)は,●(省略)●などを内容としている。
(イ)被告日本ケッチェンは,昭和45年4月9日に,被告住友金属鉱山
及びケッチェン社の共同出資(出資比率各50%)により設立された。
被告住友金属鉱山と被告日本ケッチェンは,同月10日,水素化処理
触媒に関する技術援助契約(本件技術援助契約)を締結した。
本件技術援助契約(甲7)は,●(省略)●などを内容としている。
●(省略)●を締結した。
その後,●(省略)●
イ(ア)被告日本ケッチェンは,平成3年4月,被告住友金属鉱山に対し,
水素化処理触媒に関する研究開発を委託(本件委託契約)し,被告住友
金属鉱山は,同月から平成6年3月までの間,本件委託研究を行った。
その間の平成3年6月10日,被告住友金属鉱山,被告日本ケッチェ
ン,アクゾ社及びアクゾケミカルズ社は,平成3年契約を締結した。
平成3年契約(乙6)は,●(省略)●などを内容としている。
(イ)a被告住友金属鉱山と被告日本ケッチェンは,本件委託研究の期間
中,各年度ごとに,本件委託契約に基づく研究委託費について協議し,
平成3年4月から平成4年3月までの分は●(省略)●,同年4月か
ら平成5年3月までの分は●(省略)●,同年4月から平成6年3月
までの分は●(省略)●とすることに合意し,被告日本ケッチェンは,
被告住友金属鉱山に対し,上記研究委託費(合計●(省略)●を支払
った。
b本件委託研究は,被告住友金属鉱山の裁量で,具体的な研究手法及
び研究内容が決定され,千葉県市川市所在の被告住友金属鉱山の研究
開発本部中央研究所において,原告らを含む,被告住友金属鉱山の従
業員のみによって行われた。ただし,平成4年10月に,本件委託研
究は,基礎研究が終了し,商業化のための研究段階となり,工場規模
での実験が必要となったが,被告住友金属鉱山には水素化処理触媒の
製造ラインがなかったことから,愛媛県新居浜市所在の被告日本ケッ
チェンの新居浜工場の製造ラインを使用して,「スケールアップテス
ト」が1日行われた。そのスケールアップテストは,被告住友金属鉱
山が実験条件等を立案し,その実験自体も,被告住友金属鉱山の指揮
の下に実施された。
一方,被告住友金属鉱山の従業員が本件委託研究を実施するに際し
被告日本ケッチェンから直接指示を受けるなどして指揮監督を受け
ることはなかった。もっとも,被告住友金属鉱山と被告日本ケッチェ
ンは,平成2年始めころから,双方の研究開発の状況を報告する会議
として技術担当者会議を定期的に開催しており,本件委託研究の期間
中には開催された担当技術者会議の中で,本件委託研究に関する必要
な事項の確認等が行われたことはあったが,被告日本ケッチェンが本
件委託研究について具体的な研究手法等を指示することはなかった。
また,本件委託研究に携わった被告住友金属鉱山の従業員が,被告
日本ケッチェンから,直接金銭の支払を受けることもなかった。
(ウ)原告ら8名は,被告住友金属鉱山が実施する本件委託研究におい
て,その職務として研究を進める中で,本件発明を完成させた。原告ら
8名は,平成5年8月24日(原告らについては同月4日)までに,被
告住友金属鉱山に対し,本件発明の届出をし(乙3の1ないし17),
本件発明は,被告住友金属鉱山によって職務発明であるとの認定を受け
たことから,原告ら8名は,乙1規程(被告住友金属鉱山が昭和62年
8月1日に制定実施した本件規程)の4条に基づいて,被告住友金属鉱
山に対し,国内及び国外における本件発明に係る特許を受ける権利を譲
渡した。
その後,被告住友金属鉱山は,本件発明について,平成5年11月1
5日に本件日本国特許に係る特許出願を,同月18日に本件米国特許及
び本件欧州特許に係る特許出願をそれぞれ行い,平成7年11月21日
に本件米国特許権の設定登録を,平成10年9月23日に本件欧州特許
権の設定登録を,平成11年3月19日に本件日本国特許権の設定登録
をそれぞれ受けた。
ウ(ア)被告住友金属鉱山は,本件米国特許権及び本件欧州特許権の設定登
録を受けた後,本件米国特許及び本件欧州特許について,本件修正契約
によりケッチェン社の契約上の地位を承継したアクゾ社に対し,●(省
略)●を行っていた。
一方,本件日本国特許については,被告住友金属鉱山及び被告日本ケ
ッチェン間の●(省略)●とされ,また,被告ら両社間の本件技術援助
契約に基づいて,被告日本ケッチェンが●(省略)●を有していた。
(イ)被告住友金属鉱山は,平成16年3月24日,被告日本ケッチェン
に対し,本件各特許権を含む「炭化水素油の水素化処理触媒」に関する
複数の特許権等を●(省略)●で譲渡した。
これにより,本件日本国特許権については平成16年5月7日に,本
件米国特許権については同年8月10日に,本件欧州特許権については
同年12月1日に,それぞれ被告住友金属鉱山から被告日本ケッチェン
へ移転登録がされた。
(ウ)被告日本ケッチェンは,前記(イ)のとおり被告住友金属鉱山から本
件各特許権の譲渡を受けた後,被告日本ケッチェンが●(省略)●
(エ)米国法人であるアルベマール社は,平成16年8月2日,アクゾ社
の触媒事業部門を買収するとともに,アクゾ社から,同社が保有する被
告日本ケッチェンの株式(全体の50%)を譲り受けた。
その際,アルベマール社は,アクゾ社から,前記(ウ)の被告日本ケッ
チェンがした本件米国特許及び本件欧州特許についての実施許諾も引
き継いだ。
エ(ア)被告日本ケッチェンは,平成10年から,日本において,「Super
TypeⅡActiveReactionSites」と称する一連の水素化処理触媒(ST
ARS触媒)の製造販売を行っている。
被告日本ケッチェンが製造販売するSTARS触媒は,本件日本国特
許権の実施品に該当する。
(イ)アクゾ社は,平成10年から,米国及びオランダ等の海外(本件設
立契約に定める本件地域外の国)において,STARS触媒の製造販売
を開始した。
その後,平成16年8月2日にアクゾ社の触媒事業部門を譲り受けた
アルベマール社が,海外において,STARS触媒の製造販売を行って
いる。
(2)「使用者等」該当性
原告らは,①被告ら両社は資本関係,人的交流関係,従業員処遇関係,水
素化処理事業に関する契約関係等において極めて緊密な関係にあること,被
告日本ケッチェンは,本件委託研究の費用の一切を実質的に負担し,研究施設
を提供し,原告ら研究者に対する指揮監督を行ったことなどに鑑みれば,本
件発明は,被告住友金属鉱山のみならず,被告日本ケッチェンの業務範囲に
も属するものであり,原告らは,被告ら両社のために職務として本件発明を
行ったものといえるから,本件発明との関係においては,被告日本ケッチェ
ンは,被告住友金属鉱山と共に,特許法35条1項所定の職務発明の「使用
者等」に該当するというべきである,②そして,従業者等が使用者等に対し
職務発明に係る外国の特許を受ける権利を譲渡した場合におけるその譲渡
に伴う対価請求については,特許法旧35条3項の規定が類推適用されるか
ら,被告日本ケッチェンは,同条項の類推適用に基づき,原告らに対し,本
件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る相当の対価のうち,本件米国特
許及び本件欧州特許に係る分の支払義務を負う旨主張するので,以下におい
て判断する。
ア(ア)特許法35条1項は,「使用者,法人,国又は地方公共団体(以下「使
用者等」という。)は,従業者,法人の役員,国家公務員又は地方公務
員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲
に属し,かつ,その発明をするに至った行為がその使用者等における従
業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)
について特許を受けたとき」は,その特許権について通常実施権を有す
ると規定し,特許法旧35条3項は,「従業者等は,契約,勤務規則そ
の他の定により,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しく
は特許権を承継させ,又は使用者等のため専用実施権を設定したとき
は,相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と規定している。
これらの規定によれば,従業者等が特許法旧35条3項に基づく相当
対価請求権を取得するには,従業者等がした職務発明について特許を受
ける権利を「契約,勤務規則その他の定」により使用者等に承継させた
ことが要件となる。
しかるところ,原告ら8名が,被告住友金属鉱山に在職中,被告住友
金属鉱山が被告日本ケッチェンから委託を受けた本件委託研究におい
て,その職務として研究を進める中で,本件発明を完成させ,被告住友
金属鉱山に対し,平成5年8月24日(原告らについては同月4日)ま
でに,本件発明の届出をし,被告住友金属鉱山によって本件発明が職務
発明であるとの認定を受けたことにより,乙1規程の4条に基づいて,
被告住友金属鉱山に対し,国内及び国外における本件発明に係る特許を
受ける権利を譲渡したことは,前記(1)イ(ウ)認定のとおりである。
一方で,原告らと被告日本ケッチェンとの間には,本件発明に係る特
許を受ける権利を被告日本ケッチェンに承継させることについての「契
約,勤務規則その他の定」が存在することを認めるに足りる証拠はなく,
また,原告らが被告日本ケッチェンに対し本件発明に係る特許を受ける
権利を承継させた事実を認めるに足りる証拠もない。
そうすると,原告らと被告日本ケッチェンとの関係においては,本件
発明に係る特許を受ける権利について上記要件を充足するものと認め
られない。
(イ)また,原告らと被告日本ケッチェンとの間には,雇用契約が存在し
ないのみならず,前記(1)イ(イ)b認定のとおり,本件委託研究は,被
告住友金属鉱山の裁量で,具体的な研究手法や研究内容が決定され,被
告住友金属鉱山の研究施設において,原告らを含む被告住友金属鉱山の
従業員のみによって行われたものであって,原告らが,本件発明を完成
させるに至るまでの研究過程において,被告日本ケッチェンから指揮監
督を受けたことも,直接金銭の支払を受けたこともなかったものであ
る。
これらの事実に照らすならば,仮に原告らが自ら本件発明について特
許権を取得した場合に,被告日本ケッチェンに無償の通常実施権(特許
法35条1項)を帰属させるべき合理的な理由があるものとはいえない
から,原告らと被告日本ケッチェンとの間には,特許法35条1項の「従
業者等」と「使用者等」との関係にあったものと認めることはできない。
(ウ)以上によれば,原告らが本件発明に係る特許を受ける権利を被告日
本ケッチェンに承継させた事実はなく,また,被告日本ケッチェンが原
告らの「使用者等」(特許法35条1項)に該当するものと認められな
いから,被告日本ケッチェンが原告らに対し,特許法旧35条3項の類
推適用に基づき,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る相当の
対価のうち,本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の支払義務を負う
との原告らの主張は,理由がない。
イこれに対し原告らは,①被告日本ケッチェンは,形の上では,被告住友
金属鉱山及びケッチェン社の合弁会社として発足した別会社であるが,被
告住友金属鉱山は,被告日本ケッチェンの株式の50%を保有する株主と
して,被告日本ケッチェンの社長及び役員を代々送り込み,被告日本ケッ
チェンの経営に被告住友金属鉱山の経営方針を反映させ,被告ら両社は頻
繁に人事交流を行い,被告日本ケッチェンの社員の処遇は,被告住友金属
鉱山の社員と同様に扱われていたことなど,被告日本ケッチェンは被告住
友金属鉱山の支配を受け,又は被告ら両社は一体であるといえるものであ
り,その実態は,被告日本ケッチェンが被告住友金属鉱山の一事業部ある
いは一工場的な位置づけであったこと,②本件委託研究の遂行自体は,被
告住友金属鉱山の業務であるが,本件委託研究は,委託研究費用の一切を
実質的に負担し,研究施設を提供した被告日本ケッチェンの指揮監督の下
に進められたこと,③本件委託研究に係る水素化処理触媒事業は,被告日
本ケッチェンの独占的事業にほかならず,本件委託研究の成果物である本
件各特許権は,被告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンに●(省略)●
され,被告日本ケッチェンがその実施による利益を独占していることなど
からすると,被告日本ケッチェンが原告らの「使用者等」(特許法35条
1項)に該当する旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,被告日本ケッチェンは,被告住
友金属鉱山とケッチェン社が共同出資して設立された合弁会社であり,被
告住友金属鉱山が,その株式の50%を保有し,被告日本ケッチェンに役
員を派遣しており,人事面においても被告ら両社に交流があるが(争いが
ない。),被告ら両社は,社会的に独立した別会社であって(被告住友金
属鉱山は資本金932億4242万1246円,被告日本ケッチェンは資
本金4億8000万円である。),被告ら両社が一体であるとはいえない。
また,本件委託研究がされた当時,被告日本ケッチェンには,共同出資者
であるケッチェン社から被告日本ケッチェンの株式50%を譲り受けた
アクゾ社からも,役員が派遣されており(弁論の全趣旨),このように被
告住友金属鉱山及びアクゾ社の持株比率が同じであること,双方が役員を
派遣していたことなどからすると,被告日本ケッチェンの経営方針や経営
の重要事項は,被告住友金属鉱山側とアクゾ社側のそれぞれの意向を踏ま
え,双方の協議により決められていたものと推認されるから,被告日本ケ
ッチェンが,被告住友金属鉱山の支配を受けているということはできない
し,ひいては,被告住友金属鉱山の一事業部あるいは一工場的な位置づけ
であったと認めることもできない。
次に,上記②の点については,被告日本ケッチェンは,被告住友金属鉱
山に対し,本件委託研究の研究委託費として合計●(省略)●を支払って
いるが(前記(1)イ(イ)a),これは,被告日本ケッチェンと被告住友金
属鉱山間の本件委託契約に基づいて支払われたものであって,原告らがそ
の一部を取得すべきものではないし,原告らが被告住友金属鉱山から支給
を受けていた給与等が上記研究委託費を直接の財源として支払われたも
のとも認め難い。また,本件委託研究において被告日本ケッチェンの施設
が使用されたのは,「スケールアップテスト」の1日のみで,それ以外は
被告住友金属鉱山の研究施設が使用されているのであるから(前記(1)イ(
イ)b),全体としてみれば,本件委託研究は,被告日本ケッチェンの研
究施設ではなく,被告住友金属鉱山の研究施設において行われたとみるべ
きである。そして,原告らを含む本件委託研究に携わった被告住友金属鉱
山の従業員が,本件委託研究に関し,被告日本ケッチェンから指揮監督を
受けた事実は存在しないことは,前記(1)イ(イ)b認定のとおりである。
さらに,上記③の点については,本件各特許権が被告住友金属鉱山から
被告日本ケッチェンへ譲渡されたことや,被告日本ケッチェンが本件日本
国特許権を実施したことなどは,本件発明が完成した後の事情であって,
本件発明をするに至った行為について,被告日本ケッチェンが,特許法3
5条1項所定の職務発明の「使用者等」に該当することを根拠づける事情
に当たらない。
したがって,原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
原告らは,他にるる主張するが,いずれも前記ア(ウ)の認定を左右するも
のではない。
(3)まとめ
以上によれば,原告らの被告日本ケッチェンに対する請求は,その余の
点について判断するまでもなく,理由がない。
2争点3(相当対価請求権の消滅時効の成否)について
前記1(1)イ(ウ)認定のとおり,原告らが,乙1規程の4条に基づいて,被
告住友金属鉱山に対し,国内及び国外における本件発明に係る特許を受ける権
利を譲渡したのであるから,原告らは,上記譲渡の時点で,被告住友金属鉱山
に対し,上記特許を受ける権利について,特許法旧35条3項(国内分)又は
その類推適用(国外分)に基づいて,相当の対価の支払を受ける権利(相当対
価請求権)を取得したものといえる。
原告らは,争点2に関し,①特許法旧35条4項所定の「その発明により使
用者等が受けるべき利益」は,特許を受ける権利の承継時の職務発明の価値に
基づいて決すべきであり,本件米国特許及び本件欧州特許に係る本件発明の価
値は,外国特許に係る発明であるため被告住友金属鉱山自身の実施ではなく,
仮に被告住友金属鉱山が第三者である外国の企業に対して実施許諾をしてい
たならば得られるであろう実施許諾料から推定することが最も合理的である
こと,②本件米国特許及び本件欧州特許については,被告らから●(省略)●
を受けたアルベマール社等が実施品であるSTARS触媒を製造販売してい
るから,アルベマール社等の海外におけるSTARS触媒の売上高に,仮に被
告住友金属鉱山がアルベマール社等以外の第三者に実施許諾をした場合に得
られるであろう実施料率を乗じて算定する方式(仮想実施料率算定方式)に基
づいて,被告住友金属鉱山が本件発明により受けるべき利益の額を推定すべき
であること,③上記①及び②を前提に,原告らが被告住友金属鉱山から支払を
受けるべき本件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る相当の対価のうち,
本件米国特許及び本件欧州特許に係る分を算定とすると,原告らそれぞれにつ
き6500万円となる旨主張する。
これに対し被告住友金属鉱山は,●(省略)●,現に本件発明を自己実施し
たことも,第三者に実施許諾をして実施料収入を得たこともないから,被告住
友金属鉱山には本件発明により受けるべき利益は存在しないなどとして,原告
ら主張の相当の対価の額を争うとともに,争点3において,原告ら主張の相当
対価請求権は時効により消滅している旨主張している。
そこで,このような本件の事案の内容に鑑み,まず,被告住友金属鉱山主張
の消滅時効の成否(争点3)から判断することとする。
(1)消滅時効の起算点
ア特許法旧35条3項の規定によれば,従業者等が使用者等に対し「相当
の対価の支払を受ける権利」(相当対価請求権)を有するものとされるの
は,従業者等と使用者等との間の職務発明について特許を受ける権利の承
継に関する「契約,勤務規則その他の定」(以下「勤務規則等」という。)
が存在することに基礎を置くものといえるから,上記承継に関する法律関
係は,法令に特段の定めがない限り,原則として,承継の基礎となった当
該勤務規則等に従うべきである。
そして,特許法旧35条3項の相当の対価の支払時期を定めた規定が特
許法等に存在しないことからすると,勤務規則等に使用者等が従業者等に
対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払
時期が到来するまでの間は,「相当の対価の支払を受ける権利」の行使に
つき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないと
いうべきであるから,当該支払時期が「相当の対価の支払を受ける権利」
の消滅時効の起算点となり(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決
・民集57巻4号477頁参照),他方で,勤務規則等に支払時期に関す
る条項がない場合には,勤務規則等により特許を受ける権利を承継させた
時から相当の対価の支払を求めることができるというべきであるから,当
該承継の時が「相当の対価の支払を受ける権利」の消滅時効の起算点とな
ると解するのが相当である。
イ被告住友金属鉱山は,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係
る分の相当対価請求権は,被告住友金属鉱山が本件米国特許及び本件欧州
特許に係る本件発明を自己実施したこと又は第三者に対する実施許諾に
より実施料収入を得たことを前提とするものではないから,本件規程及び
本件細則の実績補償金の支払時期に関する条項が適用されることはなく,
上記相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件発明に係る特許を受ける
権利の承継日の翌日である平成5年8月5日となる旨主張する。
これに対し原告らは,①原告ら主張の相当対価請求権については,甲1
5規程の37条4号,甲10細則の5条1項1号,7条1項1号,3号①
の実績補償に関する条項が適用され,これらの条項によれば,実績補償金
は,職務発明が実施され,それがある程度の期間継続し,その実施効果の
評価に基づいて算定されるものであり,発明者たる従業員が具体的に実績
補償を請求することができるのは,特許権等の譲渡等がない限り,特許権
等の実施許諾又は社内実施が開始されてから少なくとも4年が経過しな
ければならないから,実績補償金に係る相当対価請求権の消滅時効の起算
点は,特許権等の譲渡等がない場合には特許権等の実施許諾又は社内実施
が開始されてから少なくとも4年が経過した時点,特許権等の譲渡があっ
た場合にはその譲渡日と解すべきである,②アクゾ社のSTARS触媒の
製造販売による本件米国特許及び本件欧州特許の実施行為が開始された
のは,平成10年であり,その実施効果の評価は4年を経過した後の平成
14年に行われるべきであるから,平成10年から平成13年までの間の
実績補償金に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は平成14年とな
り,また,本件米国特許権及び本件欧州特許権は平成16年3月24日に
被告住友金属鉱山から被告日本ケッチェンへ譲渡されているから,平成1
4年以降の実績補償金に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は,平成
16年3月24日となる旨主張する。
(ア)そこで,原告らが主張する実績補償に関する条項について検討する
に,前記争いのない事実等(4)によれば,甲15規程及び甲10細則に
は,次のような条項が存在することが認められる。
a甲15規程(被告住友金属鉱山が平成16年1月1日に改正実施し
た本件規程)の37条柱書きは,被告住友金属鉱山は,「職務発明に
ついて,次に該当する事態が発生した場合は,発明者に対して,次の
とおり補償金を支払うものとしその詳細については別途定める。」と
規定し,同条4号は,「当該発明等が,実施され,一定の実績が認定
された場合:実績補償金」と規定している。
また,甲15規程の28条1項は,「知的財産部長は,定期的に会
社の保有する特許権等の実施状況を調査するものとする。」と規定し
ている。
b甲10細則(被告住友金属鉱山が平成16年3月1日に改正実施し
た本件細則)の1条は,甲10細則は,「特許等管理規程第37
条」(甲15規程の37条)に基づき,「社員の発明等および特許相
当ノウハウに対する補償の取扱いについて定める」旨規定している。
甲10細則の4条1項は,その柱書きで,被告住友金属鉱山は,「発
明者から職務発明を承継し,当該職務発明が特許権等として登録さ
れ,当該職務発明について以下のいずれかに該当する事態が発生した
ときは,当該発明者に対して,当該案件ごとに次条に定める算定方法
に従い実績補償を行う。」と規定し,実績補償を行う場合に該当す
る「事態」として,「当社が第三者(子会社を含む,以下同じ)に対
し職務発明にかかる特許権等の実施を許諾し実施料収入を得た場
合(以下当該実施許諾を「第三者実施許諾」という)」(同項1号),「当
社が職務発明にかかる特許権等を事業において実施し,本細則に定め
る一定の実績があがった場合(以下当該実施を「社内実施」とい
う)」(同項2号)の二つの場合を規定している。
また,甲10細則の5条1項1号は,「実施料とは,対象特許権等
の実施許諾・譲渡等の対価をいい」と規定している。
c甲10細則の7条1項は,その柱書きで,実施効果調査は,「特許
等管理規程第28条」(甲15規程の28条)による実施状況調査に
おいて,「第三者実施許諾または社内実施が行われていることが判明
した特許権等について,評価の回数,特許等の実施時期等を考慮し」
行われる旨規定し,具体的な実施効果調査の手続について,次のよう
に規定している。
(a)「登録後初めて実施効果が評価される特許権等(以下,「初回
評価対象特許権等」という)」については,「特許責任者は,実施
効果調査の時点において第三者実施許諾の開始年度または社内実
施の開始年度のいずれか早い年(以下「開始年度」という)から4
年を経過しているものについて,当該特許権等の開始年度から実施
効果調査の前年度までの実施効果を評価し,実施効果調査書(別紙
1)を知的財産部長に提出し,評価申請を行う。ただし,当該特許
権等の公開日が開始年度以後である場合,その評価期間はその公開
日を含む年度(以下「公開年度」という)から実績効果調査の前年
度までとする。」(甲10細則の7条1項1号)と規定している。
(b)「登録後,既に実施効果の評価を受けている特許権等(以
下,「定期的評価対象特許権等」という)」については,「特許責
任者は,第1回目の実施効果の評価が行われてから対象特許権等の
消滅まで4年ごとに当該期間中の実施効果の評価を行い,実施効果
調査書を知的財産部長に提出し,評価申請を行う。」(甲10細則
の7条1項2号)と規定している。
(c)「第1号または第2号によらずに評価を行う特許権等(以
下,「臨時評価対象特許権等」という)」については,「第1号お
よび第2号にもかかわらず,次の場合は,第1号または第2号にお
いて4年を経過していない特許権等であっても,特許責任者は,第
1号においては開始年度(第1号但書の場合は公開年度)から,第
2号においては前回の評価が行われた年度から期間中の実施効果
の評価を行い,実施効果調査書を知的財産部長に提出し,評価申請
を行うことができる。」(甲7条1項3号柱書き)と規定し,この「実
施効果の評価を行い…評価申請を行うことができる」場合の一つと
して,「当該各号に規定する特許調査対象年度において特許権等の
譲渡が行われた場合」(甲10細則の7条1項3号①)を挙げてい
る。
d甲10細則の7条4項は,「知的財産部長は,前条及び実施効果調
査書に基づき,評価を行い,実績補償金額を決定し,その結果を当該
対象特許権等の所管部門および実施部門の特許責任者に通知する。」
と規定している。
(イ)上記認定事実によれば,甲15規程及び甲10細則の実績補償に関
する条項が,被告住友金属鉱山が実績補償を行う場合として明文で規定
しているのは,被告住友金属鉱山が第三者(子会社を含む。)に職務発
明に係る特許権の実施を許諾し,実施料収入(対象特許権等の実施許諾
・譲渡等の対価)を得た場合(甲10細則の4条1項1号の「第三者実
施許諾」に該当する場合)と被告住友金属鉱山が職務発明に係る特許権
について自己実施し,一定の実績が上がった場合(甲10細則の4条1
項2号の「社内実施」に該当する場合)であることが認められる。
しかるところ,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分
の相当対価請求権は,被告住友金属鉱山が本件米国特許及び本件欧州特
許に係る本件発明を自己実施したこと又は第三者に対する実施許諾に
より実施料収入を得たことを前提とするものではないから,甲15規程
及び甲10細則の実績補償に関する条項が実績補償を行う場合として
規定する「第三者実施許諾」及び「社内実施」のいずれにも該当しない。
また,甲15規程及び甲10細則の実績補償に関する条項は,被告住
友金属鉱山が職務発明に係る特許権について実施状況の調査を行い,そ
の調査により判明した実施効果の評価に基づいて実績補償金額を決定
する旨規定していること(甲15規程の28条1項,甲10細則の7条
1項,4項)からすると,甲15規程及び甲10細則の実績補償に関す
る条項は,被告住友金属鉱山が職務発明に係る特許権についてその実施
状況を調査により具体的に把握し,その実施効果を評価できることを前
提とするものと解されるから,被告住友金属鉱山においてそのような実
施状況を具体的に把握できないものについては,およそ実施効果の評価
を行うことが予定されておらず,甲15規程及び甲10細則の実績補償
に関する条項は適用されないというべきである。
しかるところ,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分
の相当対価請求権は,アルベマール社等が本件米国特許及び本件欧州特
許の実施品(STARS触媒)を製造販売したこと及びその売上高を前
提に仮想実施料率方式により算定した金額を相当の対価とするもので
あるところ,被告住友金属鉱山とアルベマール社等との間には,合弁会
社である被告日本ケッチェンの株式を50%ずつ保有しているという
関係があるものの,アルベマール社等が海外(本件設立契約に定める本
件地域外の国)において製造販売するSTARS触媒の数量及び売上
高,それらが本件米国特許及び本件欧州特許の実施品に当たるかどうか
などの本件米国特許及び本件欧州特許の実施状況について被告住友金
属鉱山に報告したり,被告住友金属鉱山がアルベマール社等にそのよう
な実施状況の開示を求めることができることを定めた契約関係が存在
することをうかがわせる証拠は存在しない。かえって,本件訴訟の審理
の経過及び当事者の主張内容に鑑みると,被告住友金属鉱山とアルベマ
ール社等との間にはそのような契約関係は存在しないことがうかがわ
れ,また,被告住友金属鉱山の要請によりアルベマール社等が本件米国
特許及び本件欧州特許の実施状況の開示に応じることを期待できる状
況にあるものとは認め難い。
そうすると,被告住友金属鉱山においてアルベマール社等の本件米国
特許及び本件欧州特許の実施状況を調査により具体的に把握し,その実
施効果を評価できるものとは認められないから,原告ら主張の本件米国
特許及び本件欧州特許に係る分の相当対価請求権は,甲15規程及び甲
10細則の実績補償に関する条項を適用する前提を欠くというべきで
ある。
以上によれば,上記相当対価請求権について本件規程及び本件細則の
実績補償金の支払時期に関する定め(甲15規程及び甲10細則の実績
補償に関する条項)が適用されるとの原告らの主張は,理由がない。
したがって,上記相当対価請求権の消滅時効の起算点に関する原告ら
の主張は,採用することができない。
ウ以上を総合すると,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る
分の相当対価請求権の消滅時効の起算点は,被告住友金属鉱山が主張する
ように本件発明に係る特許を受ける権利の承継日の翌日となり,具体的に
は,原告らが本件発明の届出をした日の翌日である平成5年8月5日(特
許を受ける権利の承継は特許出願前に行われるから,遅くとも本件発明に
係る本件日本国特許の特許出願日である同年11月15日)であるものと
認められる。
そうすると,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相
当対価請求権は,その消滅時効の起算点である平成5年8月5日(遅くと
も同年11月15日)から10年を経た平成15年8月4日(遅くとも同
年11月14日)の経過をもって消滅時効が完成したものと認められる。
しかるところ,被告住友金属鉱山が本訴において上記消滅時効を援用し
たことは,当裁判所に顕著である。
(2)時効中断の有無
ア原告らは,前訴において,被告らに対し,本件各特許権について,日本
国特許及び海外特許の区別なく,実績補償請求金の請求を行ったものであ
り,前訴の提起は裁判上の請求(民法149条)の時効中断事由に該当す
るから,原告らの本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相当対価請求
権の消滅時効は,原告らが前訴を提起した平成19年3月5日に中断した
旨主張する。
しかしながら,前記(1)ウ認定のとおり,原告ら主張の上記相当対価請
求権は,平成15年8月4日(遅くとも同年11月14日)の経過をもっ
て消滅時効が完成したものと認められるから,原告ら主張の前訴の提起
は,その主張自体,上記消滅時効の完成後にされたものであり,時効中断
事由に該当しない。
したがって,原告らの上記主張は,理由がない。
イ次に,原告らは,●(省略)●,上記相当対価請求権を承認(民法14
7条3号)したものといえるから,上記相当対価請求権の消滅時効は,遅
くとも前訴の和解が成立した平成20年12月25日に中断した旨主張
する。
しかるところ,前記アで述べたように,原告ら主張の上記相当対価請求
権は,平成15年8月4日(遅くとも同年11月14日)の経過をもって
消滅時効が完成したものと認められるから,原告ら主張の前訴の和解にお
ける債務の承認は,その主張自体,上記消滅時効の完成後にされたもので
あり,時効中断事由に該当しない。
したがって,原告らの上記時効中断の主張は理由がない。
もっとも,債務者が消滅時効の完成後に債権者に対し当該債務を承認し
た場合には,当該消滅時効については,債務者が,時効完成の事実を知ら
なかったときでも,その援用権を行使することが信義則上許されないもの
と解されるので(最高裁昭和41年4月20日大法廷判決・民集20巻4
号702頁,最高裁昭和45年5月21日第一小法廷判決・民集24巻5
号393頁参照),原告らの上記主張には,このような時効の援用権の喪
失の主張を含むものと解する余地がある。
そこで,これを前提に検討するに,証拠(乙10,11,32)及び弁
論の全趣旨によれば,①原告らは,平成19年3月5日,被告らに対し,
職務発明の実績補償として原告らそれぞれにつき1810万円及び遅延
損害金の連帯支払を求める前訴(東京地方裁判所平成19年(ワ)第54
36号事件)を提起したこと,②前訴の訴状(乙10)には,原告Aが,
被告住友金属鉱山の元従業員であり,「同社の中央研究所に所属していた
時に職務行為として特許第2900771号を他の従業員と共同で発明
した(以下内容たる発明を「本件職務発明」,出願登録された特許権を「本
件特許」というー甲1,2)。」)(2頁21行~3頁2行),「7以
上のとおり原告らは,本件職務発明の実績補償として被告住友金属鉱山及
び同日本ケッチェンに対して請求の趣旨記載の実績補償額及び遅延損害
金の支払いを求め本訴を提起する。」(6頁22行~24行)との記載が
あるところ,上記記載中の「特許第2900771号」は,本件日本国特
許の特許番号であること,③原告らは,前訴において,平成20年9月1
7日付け訴え変更申立書(乙11)により,「被告ら実施品の売上高」を
訂正し,原告らそれぞれが被告らに対し3185万円及び遅延損害金の連
帯支払を求める旨の請求の拡張を行ったものであるが,上記訴え変更申立
書には,「第3上記売上高は,本件特許に係わる被告日本ケッチェンの
売り上げに関するものであり,外国特許分に係るAlbemarle及びAkzo
Nobelの売上に関する請求は留保する。」(3頁14行~末行)との記載
があること,④平成20年12月25日に開催された前訴の第19回弁論
準備手続において原告ら及び被告ら間において訴訟上の和解が成立した
こと,⑤上記和解に係る和解調書(甲32)中には,和解条項として,「1
被告らは,連帯して原告に対し本件和解金として総額950万円の支払義
務があることを認める。」,●(省略)●,⑥原告らは,平成22年1月
8日,本件訴訟を提起したことが認められる。
上記認定事実によれば,原告らは,前訴において,原告らが乙1規程の
4条により被告住友金属鉱山に譲渡した国内及び国外における本件発明
に係る特許を受ける権利の相当対価請求権のうち,本件日本国特許に係る
部分についてのみの実績補償を請求することを明示していたものと認め
られる。そして,原告らが主張する前訴の和解の和解条項の4項は,●(省
略)●(上記⑤)というものであり,この条項は,被告住友金属鉱山が原
告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相当対価請求権が
存在することを知っている旨の表示をしたことをうかがわせるものでは
なく,また,前訴の和解条項(甲32)を全体としてみても,被告住友金
属鉱山が上記表示をしたことをうかがわせる記載は存在しない。他に原告
ら主張の被告住友金属鉱山の承認の事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張も理由がない。
(3)まとめ
以上によれば,原告ら主張の本件米国特許及び本件欧州特許に係る分の相
当対価請求権は,時効により消滅したものと認められる。
したがって,原告らの被告住友金属鉱山に対する請求は,その余の点につ
いて判断するまでもなく,理由がない。
3結論
以上によれば,原告らの被告らに対する請求は,いずれも理由がないから棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官上田真史
裁判官石神有吾
(別紙)特許目録
1日本国特許
特許番号第2900771号
発明の名称炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法
登録日平成11年3月19日
出願日平成5年11月15日
優先日平成4年11月18日(優先権主張番号・特願平4-33
1294),同年12月9日(優先権主張番号・特願平4
-351549)
特許請求の範囲
「【請求項1】水銀圧入法による測定で平均細孔直径が70~120オング
ストロームで,かつ平均細孔直径±10オングストロームの範囲内にある細
孔が全細孔容積の60%となるγ-アルミナ担体に,周期律表第6族金属か
ら選ばれた少なくとも1種を含む活性金属含有化合物と,周期律表第8族金
属から選ばれた少なくとも1種を含む活性金属含有化合物と,リン酸とを含
む含浸液中に,さらに1分子に含まれる炭素の数が2~10のジオールもし
くはそれらのモノエーテルまたはトリオールを添加剤として添加して得ら
れた含浸液を含浸し,これを200℃以下の温度で乾燥させること特徴とす
る炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。」
「【請求項2】1分子中に含まれる炭素数が2~10のジオールもしくはそ
れらのモノエーテルまたはトリオールは,エチレングリコール,プロピレン
グリコール,ジエチレングリコール,トリメチレングリコール,トリエチレ
ングリコール,エチレングリコールモノブチルエーテル,ジエチレングリコ
ールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエ
チレングリコールモノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブチル
エーテル,グリセリン,トリメチロールエタン,トリメチロールプロパンで
あること特徴とする請求項1記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方
法。」
「【請求項3】水銀圧入法による測定で平均細孔直径が70~120オング
ストロームで,かつ平均細孔直径±10オングストロームの範囲内にある細
孔が全細孔容積の60%となるγ-アルミナ担体に,周期律表第6族金属か
ら選ばれた少なくとも1種を含む活性金属含有化合物と,周期律表第8族金
属から選ばれた少なくとも1種を含む活性金属含有化合物と,リン酸とを含
む含浸液中に,単糖類,二糖類および多糖類からなる群から選ばれた少なく
とも1種の糖類を添加剤として添加して得られた含浸液を含浸し,これを2
00℃以下の温度で乾燥させること特徴とする炭化水素油の水素化処理触
媒の製造方法。」
「【請求項4】糖類がブドウ糖(グルコース;C6H12O6),果糖(フルク
トース;C6H12O6),麦芽糖(マルトース;C12H22O11),乳糖(ラ
クトース;C12H22O11),ショ糖(スクロース;C12H22O11)である
こと特徴とする請求項3記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。」
2米国特許
特許番号5,468,709
発明の名称“Catalystsforhydrotreatinghydrocarbonoilsand
methodofpreparingthesame”(訳文炭化水素油の水
素化処理触媒とその製造方法)
登録日1995年(平成7年)11月21日
出願日1993年(平成5年)11月18日
外国出願優先日1992年(平成4年)11月18日(日本),同年12
月9日(日本),1993年(平成5年)11月15日(日
本)
請求項(訳文)
「1.触媒が,アルミナ担体物質に含浸物質を生成するための混合物の成分を
同時に含浸する工程からなり,当該含浸物質の上の担持活性金属塩が分解し
て酸化物とならないよう,当該含浸物質を200℃以下の温度で乾燥するこ
とからなる,多孔質表面を有する含浸アルミナ担体から構成される炭化水素
油の水素化処理触媒。
ここで,当該混合物中の当該成分は,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少な
くとも1種の金属元素と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の
金属元素と,リン酸,およびアルコキシカルボン酸より低い配位能を有し,
1分子当たり2~10炭素原子を持った二価か三価のアルコール添加物,当
該アルコールのエーテル,単糖類,二糖類や多糖類からなるグループから選
ばれた少なくとも1種の物質からなる添加剤。
またここで,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の両者はアルミナ担
体物質の表面に分散・吸着され乾燥工程で固定サイトに留まり,その後の予
備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝集が抑制され,また当該温度
は当該含浸物質から水分は除かれるが,吸着された添加剤が分解し蒸発しな
い温度である。」
「2.当該アルミナ担体が,水銀圧入法による測定で平均細孔直径が70~120
オングストロームで,かつ平均細孔直径±10オングストロームの範囲内に
ある細孔がその全細孔容積の60%となるγ-アルミナからなる請求項1
記載の炭化水素油の水素化処理触媒。」
「3.多孔質表面を有する含浸アルミナ担体物質からなる炭化水素油の水素化
処理触媒であって,当該触媒は含浸物質を生成させるためアルミナ担体物質
を混合物成分と同時に含浸させ,その後当該含浸物質を乾燥温度で乾燥する
工程で製造されることからなる。
ここで,当該混合物中の当該成分は,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少な
くとも1種の金属元素と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の
金属元素と,リン酸,および添加剤からなり,ここで当該添加剤は,エチレ
ングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,トリメチレ
ングリコール,トリエチレングリコール,エチレングリコールモノブチル
エーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコー
ルモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ジエ
チレングリコールモノブチルエーテル,グリセリン,トリメチロールエタン,
トリメチロールプロパンからなる群から選ばれたものである。
またここで,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の両者はアルミナ担
体物質の表面に分散・吸着され乾燥工程で固定サイトに留まり,その後の予
備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝集が抑制され,また当該温度
は当該含浸物質から水分は除かれるが,吸着された添加剤が分解や蒸発する
のを防止する温度である。」
「4.多孔質表面を有する含浸アルミナ担体物質からなる炭化水素油の水素化
処理触媒であって,当該触媒は含浸物質を生成させるためアルミナ担体物質
を混合物成分と同時に含浸させ,その後当該含浸物質を乾燥温度で乾燥する
工程で製造されることからなる。
ここで,当該混合物中の当該成分は,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少な
くとも1種の金属元素と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の
金属元素と,リン酸,および添加剤からなり,ここで当該添加剤は,ブドウ
糖(グルコース;C6H12O6),果糖(フルクトース;C6H12O6),
麦芽糖(マルトース;C12H22O11),乳糖(ラクトース;C12H22O11),
ショ糖(スクロース;C12H22O11)からなる群から選ばれた少なくとも1
種である。
またここで,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の両者はアルミナ担
体物質の表面に分散・吸着され乾燥工程で固定サイトに留まり,その後の予
備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝集が抑制される,また当該温
度は当該含浸物質から水分は除かれるが,吸着された添加剤が分解や蒸発す
るのを防止する温度である。」
「5.多孔質表面を有する含浸アルミナ担体物質からなる炭化水素油の水素化
処理触媒であって,当該触媒は含浸物質を生成させるためアルミナ担体物質
を混合物成分と同時に含浸させ,その後当該含浸物質を当該含浸物質上に担
持された活性金属塩が分解して酸化物とならないよう,200℃以下の温度
で乾燥することからなる。
ここで,当該混合物中の当該成分は,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少な
くとも1種の金属元素と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の
金属元素と,リン酸,およびアルコキシカルボン酸より低い配位能を有し,
1分子当たり2~10炭素原子を持った二価か三価のアルコール添加物,当
該アルコールのエーテルからなるグループから選ばれた少なくとも1種の
物質からなる添加剤であって,当該添加剤の量は担持活性金属元素のモル数
の0.05~3倍の範囲である。
そしてここで,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の両者はアルミナ
担体物質の表面に分散・吸着され乾燥工程で固定サイトに留まり,その後の
予備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝集が抑制される,また当該
温度は当該含浸物質から水分は除かれるが,吸着された添加剤が分解や蒸発
するのを防止する温度である。」
「6.多孔質表面を有する含浸アルミナ担体物質からなる炭化水素油の水素化
処理触媒であって,当該触媒は含浸物質を生成させるためアルミナ担体物質
を混合物成分と同時に含浸させ,その後当該含浸物質を乾燥温度で乾燥する
工程で製造されることからなる。
ここで,当該混合物中の当該成分は,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少な
くとも1種の金属元素と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の
金属元素と,リン酸,および添加剤からなり,ここで当該添加剤は,エチレ
ングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,トリメチレ
ングリコール,トリエチレングリコール,エチレングリコールモノブチルエ
ーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコール
モノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ジエチ
レングリコールモノブチルエーテル,グリセリン,トリメチロールエタン,
トリメチロールプロパンからなる群から選ばれたものであって,当該添加剤
の量は担持活性金属元素の全モル数の0.05~3倍の範囲である。
またここで,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の両者はアルミナ担
体物質の表面に分散・吸着され乾燥工程で固定サイトに留まり,その後の予
備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝集が抑制される,また当該温
度は当該含浸物質から水分は除かれるが,吸着された添加剤が分解し蒸発す
ることを防止する温度である。」
「7.周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量が,
酸化物換算で触媒重量の10~30%相当量であり,周期律表Ⅷ族金属から
選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量が,酸化物換算で触媒重量の1
~8%相当量であり,リン酸の担持量が,P2O5換算で触媒重量の1~1
0%相当量であることを特徴とする請求項5記載の炭化水素油の水素化処
理触媒。」
「8.多孔質表面を有する含浸アルミナ担体物質からなる炭化水素油の水素化
処理触媒であって,当該触媒は含浸物質を生成させるためアルミナ担体物質
を混合物成分と同時に含浸させ,その後当該含浸物質を当該含浸物質上に担
持された活性金属塩が分解して酸化物とならないよう,200℃以下の温度
で乾燥することからなる。
ここで,当該混合物中の当該成分は,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少な
くとも1種の金属元素と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の
金属元素と,リン酸,およびアルコキシカルボン酸より低い配位能を有し,
単糖類,二糖類および多糖類からなる群から選ばれた少なくとも1種の物質
からなる添加剤であって,当該添加剤の量は担持活性金属元素の全モル数の
0.05~1倍の範囲である。
またここで,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の両者はアルミナ担
体物質の表面に分散・吸着され乾燥工程で固定サイトに留まり,その後の予
備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝集が抑制される,また当該温
度は当該含浸物質から水分は除かれるが,吸着された添加剤が分解し蒸発す
ることを防止する温度である。」
「9.当該添加剤がブドウ糖,果糖,麦芽糖,乳糖,ショ糖からなる群より選
ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項8記載の炭化水素油
の水素化処理触媒。」
「10.周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量
が,酸化物換算で触媒重量の10~30%相当量であり,周期律表Ⅷ金属か
ら選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量が,酸化物換算で触媒重量の
1~8%相当量であり,リン酸の担持量が,P2O5換算で触媒重量の1~
10%相当量であることを特徴とする請求項8記載の炭化水素油の水素化
処理触媒。」
「11.多孔質表面を有するアルミナ担体物質に,周期律表Ⅵ族金属から選ば
れた少なくとも1種の活性金属と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくと
も1種の活性金属と,リン酸と,1分子に含まれる炭素の数が2~10の二
価か三価のアルコール類またはそれらのエーテル類,単糖類,二糖類および
多糖類からなる群から選ばれた1種または2種以上からなる添加剤を混合
して得られた溶液を同時に含浸し,水分は除かれるが当該活性金属塩は分解
して酸化物を生成することなく,当該活性金属と少なくとも1種の添加剤の
両者が当該アルミナ担体物質の多孔質表面に分散吸着され,乾燥工程で固定
サイトに留まりその後の予備硫化プロセスで用いられた時に活性金属の凝
集が抑制される200℃以下の温度で乾燥させることを特徴とする炭化水
素油の水素化処理触媒の製造方法。」
「12.当該アルミナ担体が,水銀圧入法による測定で平均細孔直径が70~
120オングストロームで,かつ平均細孔直径±10オングストロームの範
囲内にある細孔がその全細孔容積の60%となるγ-アルミナからなる請
求項11記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。」
「13.当該添加剤が,エチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチ
レングリコール,トリメチレングリコール,トリエチレングリコール,エチ
レングリコールモノブチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエー
テル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモ
ノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル,グリセリ
ン,トリメチロールエタン,トリメチロールプロパンからなる群から選ばれ
た少なくとも1種である請求項11記載の炭化水素油の水素化処理触媒の
製造方法。」
「14.当該添加剤が,ブドウ糖(グルコース;C6H12O6),果糖(フル
クトース;C6H12O6),麦芽糖(マルトース;C12H22O11),乳
糖(ラクトース;C12H22O11),ショ糖(スクロース;C12H22O11)
からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項11記載の炭化水素
油の水素化処理触媒の製造方法。」
「15.当該添加剤が,1分子に2~10の炭素原子を有する三価アルコール,
当該アルコールのエーテル,単糖類,二糖類および多糖類からなる群から選
ばれた少なくとも1種である請求項1記載の水素化処理触媒。」
「16.当該添加剤が,1分子に2~10の炭素原子を有する三価アルコール,
当該アルコールのエーテルからなる群から選ばれた少なくとも1種である
請求項5記載の水素化処理触媒。」
「17.当該添加剤が,1分子に2~10の炭素原子を有する三価アルコール,
当該アルコールのエーテル,単糖類,二糖類および多糖類からなる群から選
ばれた少なくとも1種である請求項11記載の方法。」
「18.乾燥が真空下,当該温度は当該担持活性金属の蒸発温度以下,少なく
とも1種の当該添加剤の蒸発温度以下,少なくとも1種の当該添加剤の分解
温度以下で実施される請求項11記載の方法。
「19.乾燥が不活性ガス雰囲気中で実施される請求項11記載の方法。」
3欧州特許
特許番号EP0601722B1
発明の名称“Catalystsforhydrotreatinghydrocarbonoilsand
methodofpreparingthesame”(訳文炭化水素油の水
素化処理触媒とその製造方法)
登録日1998年(平成10年)9月23日
出願日1993年(平成5年)11月18日
優先日1992年(平成4年)11月18日(日本),同年12
月9日(日本),1993年(平成5年)11月15日(日
本)
指定締約国ベルギー,ドイツ,デンマーク,フランス,イギリス,オ
ランダ
請求項(訳文)
「1.アルミナ担体物質と,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくとも1種の
活性金属と,周期律表第Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属
と,リン酸と,添加剤とから構成される触媒において,当該触媒はアルミナ
担体をこれら成分の混合物を含む溶液に含浸し,200℃以下の温度で更に
焼成することなく乾燥することから製造され,更に当該添加剤が1分子に含
まれる炭素の数が2~10の二価か三価のアルコール類またはそれらのエ
ーテル類,単糖類,二糖類および多糖類からなる群から選ばれた少なくとも
1種であり,添加剤量はアルコール類の場合はエーテル基として担持活性金
属の合計モル数の0.05~3倍であり,糖類の場合は担持活性金属の合計
モル数の0.05~1倍であることを特徴とする炭化水素油の水素化処理触
媒。」
「2.アルミナ担体物質が,水銀圧入法による測定で平均細孔直径が70~
120オングストロームで,かつ平均細孔直径±10オングストロームの範
囲内にある細孔がその全細孔容積の60%となるγ-アルミナからなる請
求項1記載の触媒。」
「3.当該添加剤として用いられる1分子当たりの炭素数が2~10の二価か
三価のアルコール類およびそのエーテル類は,エチレングリコール,プロピ
レングリコール,ジエチレングリコール,トリメチレングリコール,トリエ
チレングリコール,エチレングリコールモノブチルエーテル,ジエチレング
リコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,
ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブ
チルエーテル,グリセリン,トリメチロールエタン,トリメチロールプロパ
ンからなる群から選ばれたものであることを特長とする請求項1あるいは
2記載の触媒。」
「4.当該添加剤が,1分子当たりの炭素数が2~10の二価か三価のアルコ
ール類およびこれらのエーテル類からなる群より選ばれた少なくとも1種
であり,当該添加剤量が担持活性金属合計モル数の0.05~3倍量である
ことを特徴とする,前述のいずれかの請求項記載の触媒。」
「5.当該添加剤が,単糖類,二糖類および多糖類からなる群から選ばれた少
なくとも1種であり,当該添加剤量が担持活性金属合計モル数の0.05~
3倍量であることを特徴とする,請求項1あるいは2記載の触媒。」
「6.当該添加剤が,ブドウ糖(グルコース;C6H12O6),果糖(フル
クトース;C6H12O6),麦芽糖(マルトース;C12H22O11),
乳糖(ラクトース;C12H22O11),ショ糖(スクロース;C12H22
O11)から選ばれた1種の糖類であることを特徴とする請求項5記載の触
媒。」
「7.周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量が,
酸化物換算で触媒重量の10~30%相当量であり,周期律表第Ⅷ族金属か
ら選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量が,酸化物換算で触媒重量の
1~8%相当量であり,リン酸の担持量が,P2O5換算で触媒重量の1~1
0%相当量であることを特徴とする前述のいずれかの請求項記載の触媒。」
「8.アルミナ担体物質を,周期律表Ⅵ族金属から選ばれた少なくとも1種の
活性金属と,周期律表Ⅷ族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属と,
リン酸と,1分子に含まれる炭素の数が2~10の二価か三価のアルコール
類またはそれらのエーテル類,単糖類,二糖類および多糖類からなる群から
選ばれた少なくとも1種の添加剤の混合溶液で含浸し,当該含浸担体物質を
焼成することなく200℃以下の温度で乾燥することから構成される炭化
水素油の水素化処理触媒の製造方法。」
「9.アルミナ担体物質が,水銀圧入法による測定で平均細孔直径が70~1
20オングストロームで,かつ平均細孔直径±10オングストロームの範囲
内にある細孔がその全細孔容積の60%となるγ-アルミナからなる請求
項8記載の方法。」
「10.当該添加剤が,エチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチ
レングリコール,トリメチレングリコール,トリエチレングリコール,エチ
レングリコールモノブチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエー
テル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモ
ノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル,グリセリ
ン,トリメチロールエタン,トリメチロールプロパンから選ばれた少なくと
も1種である請求項8あるいは9記載の方法。」
「11.添加剤が,ブドウ糖(グルコース;C6H12O6),果糖(フルク
トース;C6H12O6),麦芽糖(マルトース;C12H22O11),乳
糖(ラクトース;C12H22O11),ショ糖(スクロース;C12H22
O11)から選ばれた1種の糖類であることを特徴とする請求項8あるいは
9記載の方法。」
(別紙1)
●(省略)●
図.触媒の累積売上数量推移(横軸:年、縦軸:トン)
(別紙2)
●(省略)●

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