弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人甲元恒也の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、
ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 第一、 控訴趣意第一点および第三点について
 所論は要するに、農地に山土又は田の底土をもつて地盛りをしたときはその地盛
りのときをもつて農地の無許可転用の罪は既遂に達するものであるから、地盛り完
了後時効期間経過後に公訴の提起されたこと明らかな本件については、被告人に対
しては免訴の判決をすべきであるのに、原判決は家屋建設工事に着手したときをも
つて農地の転用なりと解し、従つて時効は未だ完成せずとして被告人に有罪の言渡
をしたのは事実の誤認ないし法令適用の誤りあるものであるから破棄を求めるとい
うにある。
 一、 そこで、先ず所論の田に山土又は田の底土をもつて土盛りをしたことが農
地以外のものに転用したことに該るかどうかについて検討するに
 (1)、 農地法に所謂農地とは、耕作の目的に供される土地をいい、肥培管理
によつて農業耕作物の栽培に供されている土地ないしは客観的にその蓋然性のある
土地のことであつて、農地以外のものとは客観的に肥培管理が不能であるか若しく
は社会通念上これが困難視される土地のことである。そして或土地が農地なりや否
やは当該土地の事実状態に基づいて客観的に判定せらるべき事柄であつて、土地所
有者又は使用者の主観的な単なる意図又は使用目的は農地判定の参考資料となり得
るに過ぎないものというべきである。従つて農地であるかどうかは結局抽象的にき
められるものではなく、当該土地の現況、つまり土質、高低、水利、排水、地上利
用法、住宅ならびに通路との距離や所有者利用者の職業、入手目的将来の予定及び
その準備計画など諸種の事情を綜合考察して具体的に判定さるべきものであり、単
に田に山土及び田の底土を入れて地盛りをしたからといつてその土地が常に農地以
外の土地になるとは必ずしもいえないのであつて、要は地盛りをされた当該土地に
ついて前述のような諸種の事情を綜合考察してその土地が果して耕作の目的に供さ
れる土地といえるかどうかによつてきめられるところである。
 (2)、 そこで、本件について考察するに、原審において取調べた証拠ならび
に当審における事案取調の結果によれば、被告人はA株式会社に通勤するかたわら
同居の父Bおよび母Cらと共に田八反畑一反位の耕作をしていた着でその住家より
約四〇米西方の都窪郡a村大字b字cd番地上に、以前より藁葺納屋を所有してい
たが、これが狭降なため、将来新納屋を建築する目的で昭和二八年二月頃Dより右
土地の東に隣接する同所e番の二田一畝二八歩を買受け、自己名義に所有権取得登
記をするとともに、その頃から同三二年二月末頃迄の間にわたり日曜日や農閑期を
利用して父B母Cらの家族と共に草地誠から買入れた山土及びE方から貰い受けた
田の底土を逐次右買入土地の北西部分に搬入して同土地の北西部分約一七坪五合
(以下本件土地という)を従前より約五〇糎高く地盛りしたことが認められる。な
お本件土地の地盛りと同じ頃やはりE方から貰い受けた田の底土をもつて本件土地
の南東にあたるe番の二の残余部分約四〇坪を隣接の四〇三番の田と同じ高さにす
るため地上げが行われたが、本件土地と右残余の田四〇坪の部分とはこれに対する
底土投入の方法を異にしていたし、両者の間には地盛り当時から高低差がつけられ
ていること、本件土地についてのみその北側、東側に石垣を築き地内に土管が埋設
され特別の排水設備が施されていること、本件土地の地盛り完了当時耕作の目的に
供した事実はないこと、更に被告人方の耕作反別より推認される新納屋建設の必要
性、住家、古納屋及び通路との位置的関係、本件土地の地積等を綜合考察するとき
は、本件土地は地盛り完了のときに宅地化され耕作の目的に供されない土地即ち農
地以外の土地になつたものと認めるのを相当とし、従つて又その時において農地の
転用があつたものと認定されるところである。
 二、 次に農地の無許可転用の農地法違反の公訴時効について考察するに
 <要旨>(1)、 農地法第九二条によつて処罰される同法第四条違反の罪は法定
の除外事由がないのに都道府県知事等の許可を受けないで農地を農地以外の
ものにすることによつて成立する犯罪である。そして本条違反の内容たる犯罪行為
は受くべき許可を受けなかつたことにあるのではなくして、許可を受けずして農地
を農地以外のものにすること即ち無許可のままで農地を潰廃する事実行為をいうの
である。従つて本条違反罪は無許可のままで転用という事実行為が行われ右行為が
客観的に終つたと認められる時に既遂となり、その時から公訴時効期間が進行を開
始するものと解さなければならない。
 (2)、 これを本件についてみるに、被告人が本件土地に山土及び田の底土を
もつて地盛りをしたことが農地であつた田を宅地化したことになり、その地盛りは
転用行為にあたることは前記説示のとおりであるが、前記のように本件土地の地盛
りは長期間にわたり徐々に行われたものであり、且つ右地盛りは元来新納屋建築の
整地造成のため行われたものであるから、単に盛土の搬入を終つたのみでは未だ地
盛りを完了したということはできず、その整地をなし周囲の地崩れ防止、排水等の
ための石垣工事をも終つたときをもつて地盛りの完了即ちそのときに本件土地は農
地以外の土地になつたものと認めるのを相当とする。この点に関し原審並びに当審
証人C及び被告人は昭和三〇年中、遅くも同三一年初頃には石垣工事をも含めて本
件土地の地盛りは完了したと供述しているけれども右は後記諸証拠等に徴したやす
く措信し難く、原審証人F、同Gの供述及び原審(第五回公判)における被告人の
供述等に徴するときは北側石垣工事を終つて地盛りを完了したのは同三二年二月頃
であつたことが認め得られる。して見れば同三四年一一月九日提起せられたこと記
録上明らかである本件公訴は、時効期間経過前であること明らかであるから、時効
完成による免訴を主張する所論は採るを得ない。
 第二、 同第二点について
 所論は要するに、農地法第四条で農地の転用について許可を受けるべきものは単
なる所有名義人ではなく実質的に農地を農地以外のものにしようとする者を指すと
解せられるところ、被告人は本件土地の所有名義人ではあるが実質土これを取得管
理し転用したのは父B及び母Cらであつて被告人ではないから被告人は同条違反の
罪責を負ういわれはないというのである。
 なるほど農地法第四条は「農地を農地以外のものにする者」はこれについて都道
府県知事等の許可を受けるべきものと規定し当該農地について処分の権限を有する
者に限定していないのであつて、同条の趣旨とするところは法定の除外事由ある場
合を除いては何人といえども都道府県知事等の許可なくして農地を転用することを
禁じ、もつて農地が濫りに転用によつて消滅することの防止を計つているのであ
る。そして本条による規制の対象となつている転用というのは同法第三条の場合と
違つて権利の設定移転というような法律行為ではなく、事実上の行為である。従つ
て本条違反としての同法第九二条による罰則は農地について所有権その他の権利を
有すると否とに拘らず、いやしくも法定の除外事由なく許可を受けずに農地を事実
上つぶす行為をした者に広く適用されるものと解すべきことは所論のとおりである
が、記録に現われた諸般の証拠特に原審証人H、当審証人Cの各供述、被告人の当
審第五回公判における供述等によると、被告人は本件土地について所有者としてそ
の処分権限を有していたのみならず新納屋建設のためその整地を造成する目的でそ
の転用行為である本件土地の土盛り作業に父母と共に自らも従事したものであるこ
と明らかであるから、被告人は本条違反の罪の罪責を到底免かれることはできない
ものといわねばならない。従つて本論旨も理由がない。 よつて本件控訴はその理
由がないから刑事訴訟法第三九六条により棄却すべきものとし、なお当審における
訴訟費用は同法第一八一条第一項本文に従い被告人に負担させることとし、主文の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 尾坂貞治 裁判官 組原政男 裁判官 西尾政義)

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