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平成18年(行ケ)第10443号審決取消請求事件
平成19年5月24日判決言渡,平成19年3月22日口頭弁論終結
判決
原告X
訴訟代理人弁理士伊藤捷雄
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人一色貞好,山崎豊,高木彰,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2004−3180号事件について平成18年8月16日にした
審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「おしめ替え補助具」とする発明につき特許出願をして
拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たな
いとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件出願(甲第1号証)1
出願人:X(原告)
発明の名称:おしめ替え補助具」「
出願番号:特願2000−199744号
出願日:平成12年6月30日
優先権主張日:平成11年8月3日(日本)
()本件手続2
手続補正日:平成15年3月31日(甲第6号証)
拒絶査定日:平成16年1月7日
審判請求日:平成16年2月18日(不服2004−3180号)
手続補正日:平成16年2月18日(甲第2号証,以下「本件補正」という)。
審決日:平成18年8月16日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成18年9月6日
2特許請求の範囲
()平成15年3月31日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲1
「請求項1】基盤と,この基盤上に立設した上下方向へ伸縮可能な支柱と,この【
支柱の上部に取り付けた脚掛部とから成り,この脚掛部を上下方向へ揺動可能に前
記支柱へ取り付けると共に,前記基盤にはその下面に水平方向へ展開収納可能に補
助基盤を取り付けたことを特徴とする,おしめ替え補助具。
【請求項2】∼【請求項5】省略」
()本件補正後の特許請求の範囲2
「請求項1】仰向けに寝た人間のおしめを交換するために持ち上げた片足を保【
持するためのものであって,下面に水平方向へ展開収納可能に補助基盤を取り付け
た基盤と,この基盤上に立設した第1支柱と,この第1支柱に対し伸縮可能に取り
付けた第2支柱と,この第2支柱を適宜位置で前記第1支柱へ固定させる第1のロ
ック手段と,前記第2の支柱の上端に傾動可能に取り付けた片足の脚部を載せるた
めの脚掛部と,この脚掛部を前記第2支柱へ適宜傾斜角度で固定させる第2のロッ
ク手段とで構成したことを特徴とする,おしめ替え補助具。
【請求項2】脚掛部を第2支柱に対して傾動可能に取り付けるに当たり,ラチェ
ット機構を用いて傾動停止位置の位置決めをすることを特徴とする,請求項1に記
載のおしめ替え補助具。
【請求項3】脚掛部を第2支柱に対して傾動可能に取り付けるに当たり,該脚掛
部を摺動可能に取り付けたレールを前記第2支柱へ傾動可能に取り付けることを特
徴とする,請求項2に記載のおしめ替え補助具」。
3審決の理由の要点
審決は,()本件補正の許否に関し,①本件補正後の特許請求の範囲の請求項11
に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という)が,特。
開平10−229994号公報(甲第3号証)に記載された発明(以下,同公報を
「引用例」といい,引用例に記載された発明を「引用発明」という)に基づき,。
当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定によ
り,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,同法1
7条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであるととも
に,②本件補正後の請求項3の特定事項である「該脚掛部を摺動可能に取り付けた
レールを前記第2支柱へ傾動可能に取り付ける」ことは,願書に最初に添付した明
細書,特許請求の範囲又は図面に記載されておらず,それらの記載から自明な事項
とも認められないから,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範
囲又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものではなく,特許法17条の2
第3項の規定に違反するものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号に
よる改正前の同法159条1項において読み替えて準用する同改正前の同法53条
1項の規定により却下すべきものであるとして,本件補正を却下し,()発明の要2
旨を,平成15年3月31日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求
項1の記載に基づいて認定した上(以下,同請求項に記載された事項により特定さ
れる発明を「本願発明」という,本願補正発明は,本願発明の特定事項をすべて。)
含み,更に限定を付したものであるところ,本願発明も,本願補正発明と同様の理
由により,引用発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであり,特許法29
条2項の規定により特許を受けることができないとした。
審決の理由中,本願補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができ
ないとする部分,及び,本件補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範
囲又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものではないとする部分は,以下
のとおりである。
()独立特許要件1
ア引用例の記載事項
「原査定の拒絶の理由に引用した,本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平1
(),『』(),0−229994号公報引用例には大人のおむつ交換補助装置発明の名称に関し
図面とともに,次の事項が記載されている。
ア『課題を解決するための手段】請求項目1に対して,その構成を説明すると,.【
(イ)身体に合わせて,ストッパー1を身体の長さ方向に位置調整して,敷物2の端に設け
る。
(ロ)敷物2の端に,空気袋3を設ける。
(ハ)ストッパー1と敷物2と空気袋3を敷き布団の上に敷く。
(ニ)ベース板7の巾を調整をし,敷き布団15の下に設置する。
(ホ)垂直方向アーム5を回転させることが出来,高さ調整も設ける。
(へ)水平方向アーム6の,長さ調整を設ける。
(ト)足支え台4の,水平方向に向角度調整を設ける。
(チ)足支え台5に足を固定するため,帯状の柔らかい足脱着テープを設ける。
(リ)小型足踏みエアーポンプ11で,空気袋3に空気を送り込み腰部を持ち上げる。
(ヤ)おむつ交換終了後,空気袋3の空気非出して,腰部を降ろす。
(ヌ)垂直方向アーム5を回転させ,じゃまにならない位置に移動する。
以上のような装置とする(段落【)。』】0004
イ『これらの装置を使用することにより,腰部を持ち上げることができ,頭部方向に身体.
がズレ,ストッパ1に当たり,ズレ防止になる(身体の重さでもズレ防止になる)また,敷。。
物2はメッシュ形状でありながら補強材12のせいか伸びが少なくなり,空気袋3は,傾斜を
付けたおかげで背骨が無理なく曲がり,痛みはなくなる。さらに,足支え台4の角度と垂直方
向アーム5の高さ・回転と水平方向アーム6の長さとベース板7巾の各調整を設けため人に合
,。』(【】)わせた調整ができ一度調整すると再現性があっておむつ交換が容易になる段落0006
そして,図面2,3には,結合して対をなすベース板7のそれぞれの上に,周囲に凹凸のあ
る略円盤状の取手が取り付けられた外筒に円柱状の部材が挿入された,垂直方向アーム5がそ
れぞれ設けられ,それぞれの垂直方向アーム5の上端近傍に水平方向アーム6を介して足支え
台4が設けられたものが図示されている。
上記記載事項及び図示内容から,引用例には次の発明(引用発明)が記載されていると認め
られる。
『結合して対をなすベース板7のそれぞれに,周囲に凹凸のある略円盤状の取手が取り付けら
れた外筒に円柱状の部材が挿入されて構成される垂直方向アーム5が,高さ調整可能かつ回転
可能に設けられ,それぞれの垂直方向アーム5の上端近傍には水平方向アーム6を介して足支
え台4が設けられ,足支え台4は角度調節可能である,おむつ交換補助装置』」。
イ対比・判断
「本願補正発明と引用発明とを対比すると,後者の『ベース板7『足支え台4『おむつ交』,』,
換補助装置』は,その機能ないし構造からみて,前者の『基盤『脚掛部『おしめ替え補助』,』,
具』に相当する。
そして,後者の『垂直方向アーム5』における『周囲に凹凸のある略円盤状の取手』が,ロ
ック手段であることは技術常識から明らかであり,後者の『垂直方向アーム5』は『第1支,
柱と,この第1支柱に対し伸縮可能に取り付けた第2支柱と,この第2支柱を適宜位置で前記
第1支柱へ固定させる第1のロック手段』を備えているものといえる。
また,後者の『足支え台4』のそれぞれは,仰向けに寝た人間のおしめを交換するために持
ち上げた片足を保持するものであり,角度調節可能である以上,適宜傾斜角度で固定させるロ
ック手段を備えていることも技術常識から明らかであるさらに足支え台4は前者の脚。,『』『
掛部』と,第2の支柱の上部に取り付けられている点で共通するから,両者は,
『,仰向けに寝た人間のおしめを交換するために持ち上げた片足を保持するためのものであって
基盤と,この基盤上に立設した第1支柱と,この第1支柱に対し伸縮可能に取り付けた第2支
柱と,この第2支柱を適宜位置で前記第1支柱へ固定させる第1のロック手段と,前記第2の
支柱の上部に傾動可能に取り付けた片足の脚部を載せるための脚掛部と,この脚掛部を前記第
2支柱へ適宜傾斜角度で固定させる第2のロック手段とで構成したおしめ替え補助具』であ。
る点で一致しており,次の点で相違する。
相違点1:本願補正発明においては,基盤は『下面に水平方向へ展開収納可能に補助基盤,
を取り付け』ているのに対し,引用発明においては,結合して対をなしている点。
相違点2:脚掛部』が,本願補正発明においては『第2の支柱の上端に『取り付け』ら『,』
,,『』。れているのに対し引用発明においては第2の支柱の上端近傍に取り付けられている点
まず,相違点1について検討すると,引用発明の『足支え台4』付きの『ベース板7』は,
結合して安定させているが,一般的な技術として,装置を安定させようとする場合,装置の下
面に水平方向へ展開収納可能な補助基盤を設けることは周知・慣用の技術手段である(必要な
らば,特開平4−359262号公報,特開平6−175420号公報等参照)から,この。
手段を採用して個々の基盤の安定を図り,相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすること
は当業者が容易に想到し得ることである。
そして,そのことによる効果も,当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものとはい
えない。
次に,相違点2について検討すると『脚掛部』を支柱の上端に取り付けるか,その近傍に,
取り付けるかは適宜なし得る設計的事項に過ぎない。
また,相違点1,2に係る本願補正発明の特定事項を総合して判断しても,その効果は,当
業者が予測し得る範囲のものであって格別のものは認められない。
したがって,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることがで
きない」。
()新規事項の追加2
「本件補正後の請求項3の特定事項である『該脚掛部を摺動可能に取り付けたレールを前記,
第2支柱へ傾動可能に取り付ける』は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図
面に記載されておらず,また,それらの記載から自明の事項とも認められない。
したがって,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載さ
れた事項の範囲内でなされたものではなく,特許法第17条の2第3項の規定に違反するもの
である」
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本件補正の許否の判断に関し,独立特許要件の有無の判断において,一
致点の認定を誤る(取消事由1)とともに,相違点1,2についての判断を誤った
(取消事由2,3)上,本願補正発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由4,)
さらに,新規事項の追加の有無についての判断を誤った(取消事由5)ものである
から,取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
()審決は,本願補正発明と引用発明との対比に当たり「後者(引用発明)の1,
『足支え台4』のそれぞれは,仰向けに寝た人間のおしめを交換するために持ち上
げた片足を保持するものであり,角度調節可能である以上,適宜傾斜角度で固定さ
せるロック手段を備えていることも技術常識から明らかである。さらに『足支え,
台4』は前者(本願補正発明)の『脚掛部』と,第2の支柱の上部に取り付けられ
ている点で共通する」と認定した上,本願補正発明と引用発明とが「仰向けに寝,
た人間のおしめを交換するために持ち上げた片足を保持するためのものであって,
基盤と,この基盤上に立設した第1支柱と,この第1支柱に対し伸縮可能に取り付
けた第2支柱と,この第2支柱を適宜位置で前記第1支柱へ固定させる第1のロッ
ク手段と,前記第2の支柱の上部に傾動可能に取り付けた片足の脚部を載せるため
の脚掛部と,この脚掛部を前記第2支柱へ適宜傾斜角度で固定させる第2のロック
手段とで構成したおしめ替え補助具」である点で一致すると認定した。。
しかしながら,本願補正発明は,特許請求の範囲に「仰向けに寝た人間のおしめ
を交換するために持ち上げた片足を保持するためのものであって」と規定されて,
いるとおり,片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引用発明は,両足用のお
しめ替え補助具である。そして,片足用のおしめ替え補助具と両足用のおしめ替え
補助具とでは,例えば,両足用の引用発明では,ベース板7より一対の垂直方向ア
ーム5,5が立設させられており,使用時の設置状態における垂直アーム5,5の
,,,直立状態は構造的に安定し易いものであるが片足用の本願補正発明においては
支柱(引用発明の「垂直方向アーム5」に相当)の設置状態における直立状態が,
前後左右にグラグラとし,安定していないので,独特の工夫を必要とするものであ
って,両者の技術課題は異なり,また,片足用のものは,脚掛部を安定し難い支柱
に取り付けるため,その取付位置が両足用のものとは異なるなど,両足用のものの
構成から片足用のものの構成が直ちに想起されてくるものではない。
しかるに,審決は,これらの点を顧慮することなく,本願補正発明と引用発明と
の一致点を認定しており,誤りであることは明らかである。
()仮に,引用発明が,片足ずつを載置する2つの足支え台を,使用時に離間2
対向させて,ベース板の安定性を確保するものであるとしても,そのようにして安
定性を図るものと,本願発明のように,1つの足支え台(支柱)の安定性を図るも
,。のとでは安定性を図る目的と具体的な構成及び効果が異なることは明らかである
なお,被告は,引用発明につき,それぞれが片足を支持する2組の部材を分離し
て使用することも可能なものであると主張するが,引用例にそのような記載又は示
唆はない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
()審決は,本願補正発明と引用発明との相違点1につき,周知例として,特1
開平4−359262号公報甲第4号証及び特開平6−175420号公報甲()(
第5号証)を引用した上「引用発明の『足支え台4』付きの『ベース板7』は,,
,,,結合して安定させているが一般的な技術として装置を安定させようとする場合
装置の下面に水平方向へ展開収納可能な補助基盤を設けることは周知・慣用の技術
手段である・・・から,この手段を採用して個々の基盤の安定を図り,相違点1に
。」係る本願補正発明の特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである
と判断した。
しかしながら,審決が引用した特開平4−359262号公報及び特開平6−1
75420号公報に記載されている技術は,いずれもおしめ替え補助具に関するも
のではなく,複写機に関するものであり,しかも,支柱を安定させるために用いら
れるものでもない。
したがって,これらの周知例を根拠として,本願補正発明の容易想到性を判断す
ることはできず,審決の上記判断は誤りである。
()仮に,被告主張のように,直立安定性に不安があるものに対して安定性を2
与える課題が,おしめ替え補助具に限られるものではないとしても,おしめ替え補
助具の技術分野に,本願補正発明の相違点1に係るような構成がない以上,本願補
正発明に進歩性が認められるべきである。なぜならば,複写機の技術分野に,本願
補正発明の安定化手段と似たものがあったとしても,おしめ替え補助具へ複写機の
技術を転用すべき必然性は何もないからである。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
()審決は,引用発明の認定において「垂直方向アーム5の上端近傍には水平1,
」,「『』,方向アーム6を介して足支え台4が設けられていると認定した上脚掛部が
,『』『』,本願補正発明においては第2の支柱の上端に取り付けられているのに対し
引用発明においては『第2の支柱の上端近傍』に取り付けられている点」を本願,
補正発明と引用発明との相違点2として認定した。
しかしながら,引用例には「上端近傍」という語句は記載されておらず,図面,
2,3に,垂直方向アーム5の上部側に水平方向に取り付けた水平方向アーム6の
先端に足支え台4を取り付けたものが記載されているのみであるから,引用発明の
認定,ひいて,相違点2の認定中の上記「上端近傍」という部分は不正確であり,
正しくは「それぞれの垂直アーム5,5の上部側に互いに対向方向へ水平に取り,
付けた水平方向アーム6,6の先端に足支え台4,4が取り付けられ」と認定す,
べきである。
被告は,足支え台4の垂直方向の位置を,垂直方向アーム5の中間部や下方とす
ることは技術常識からみて考えられないから,足支え台4の垂直方向の位置に関し
ては,垂直方向アーム5の上端近傍に取り付けたとした点に誤りはないとか,足支
え台4の水平方向の位置に関しても,審決は「水平方向アーム6を介して」と認,
定しているから誤りはないと主張する。
しかしながら,少なくとも,足支え台4の垂直方向の位置を垂直方向アーム5の
中間部とすることは,おしめ替え補助具において,技術常識上,考え得るものであ
る。のみならず,足支え台4の取付位置を,引用発明のように,一対の垂直方向ア
ーム5,5の上端側に,互いに対向方向へ水平に取り付けた水平方向アーム6,6
の各先端とした場合には,ベース板7の構成を引用例記載のようにすれば,その安
定性が確保できるものの,本願補正発明のように,一本足用として,べース板7,
7(基盤)を分離させたときには,重心が偏ってしまい,ベース板(基盤)の安定
性が確保できないのであり,このように,足支え台4を,どこにどのように取り付
けるかということは,技術課題や,ベース板7(基盤)の構成,作用効果と密接に
関連し,ひいては技術思想を異にすることになるから,審決のように,不正確な認
定によって,同一技術思想に基づくもののように扱うのは誤りである。
()審決は,相違点2につき「脚掛部』を支柱の上端に取り付けるか,その2,『
近傍に取り付けるかは適宜なし得る設計的事項に過ぎない」と判断した。。
しかしながら,上記のとおり,本願補正発明は片足用であるため,使用時におけ
る安定性をできるだけ確保する意図に基づいて,脚掛部の取付位置を決定したもの
である。すなわち,仮に,本願補正発明において,脚掛部の取付位置を,引用発明
と同様,支柱に対し水平方向へ伸長して取り付けた水平方向アーム6の先端とした
場合には,使用時に基盤の安定を図ることができないため,その取付位置を支柱の
上端とする構成を採用したものである。
したがって,本願補正発明の相違点2に係る構成を単なる設計的事項とした審決
の判断は誤りである。
被告は,特開平9−84840号公報(乙第1号証,実公平3−10751号)
公報(乙第2号証,特開平11−76327号公報(乙第3号証)を引用して,)
脚掛部を支柱に取り付ける際に,支柱の上端に取り付けることは,周知の技術手段
であるから,足支え台4を水平方向アーム6を介さずに,支柱の上端に取り付ける
構成とすることが設計的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはないと主張する
が,上記各公報は,いずれも産婦人科用などの診察台に係るものであり,しかも,
シート(腰掛)状の基台に取り付けられていて,本願補正発明のように,寝具の上
で使用可能なものではない。したがって,上記各公報により,おしめ替え補助具の
技術分野において,脚掛部を支柱に取り付ける際に,支柱の上端に取り付けること
が周知の技術手段であると認めることはできない。
4取消事由4(顕著な作用効果の看過)
審決は「相違点1,2に係る本願補正発明の特定事項を総合して判断しても,,
,。」その効果は当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものは認められない
と判断したが,相違点1,2に係る本願補正発明の構成は,片足用のおしめ替え補
助具についての支柱の安定性を確保する上で大きな役割を果たしており,おしめ替
え補助具として,そのような構成のものは,本件特許出願以前には見当たらないか
ら,本願補正発明の効果は格別顕著なものということができる。このことは,上記
3の()に係る引用発明の正確な認定を経た場合には,一層顕著なものということ1
ができる。
5取消事由5(新規事項の追加の有無についての判断の誤り)
()審決は「本件補正後の請求項3の特定事項である『該脚掛部を摺動可能1,,
に取り付けたレールを前記第2支柱へ傾動可能に取り付ける』は,願書に最初に添
付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されておらず,また,それらの記載
から自明の事項とも認められない」と判断した。。
しかしながら,本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書(以下「当初明
細書」という)の特許請求の範囲には,下記記載がある。。
「請求項5】脚掛部を支柱に対して揺動可能に取り付けるに当たり,該脚掛部を摺動可能【
に取り付けたレールを前記支柱へ首振可能に取り付けたことを特徴とする,請求項1乃至3の
いずれかに記載のおしめ替え補助具」。
したがって,本願補正後の請求項3の特定事項である「該脚掛部を摺動可能に,
取り付けたレールを前記第2支柱へ傾動可能に取り付ける」ことは,当初明細書に
記載されていることが明らかであり,審決の上記判断は誤りである。
()被告は,当初明細書の請求項5に係る「首振り可能」は,ロック手段をも2
たずに揺動可能であるという意味に解するのが自然であり,傾けた位置で固定可能
であるものを含む概念である「傾動可能」と異なると主張する。
しかしながら首振り可能は首振り自在とは異なり傾動可能や揺,「」,「」,「」「
」,,動可能と同じようにロック手段を備えている概念であると解すべきであるから
被告の主張は失当である。
第4被告の反論の要点
1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し
()原告は,審決が,本願補正発明は片足用のおしめ替え補助具であるのに対1
し,引用発明は両足用のおしめ替え補助具であることを顧慮することなく,一致点
の認定に及んだ誤りがあると主張する。
しかしながら,引用発明は,それぞれが1つの足支え台4を支持するベース板7
が対をなしており,この一対をベース板7の部分で結合することにより安定を図っ
ているものであることが,当業者に明らかである。そして,引用発明の,それぞれ
が片足を支持する2組の部材は,分離して使用することも可能なものであるから,
本願補正発明と同様の課題を有し,それを解決しているということができ,したが
って,審決の一致点の認定に誤りはない。
()仮に,引用発明が,それぞれが片足を支持する2組の部材を,結合しての2
み使用されるものであるとしても,2組の部材のそれぞれは片足を支持するもので
あり,上記のように,安定を図るために結合しているのであるから,引用発明から
本願補正発明が容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対し
原告は,審決が周知例として引用した公報が,おしめ替え補助具ではなく,複写
機に関するものであり,しかも,1本の支柱を安定させるために用いられるもので
もないから,審決の相違点1についての判断が誤りであると主張する。
しかしながら,直立安定性に不安があるものに対して安定性を与えることは,お
しめ替え補助具に限らない一般的な課題であり,また,展開可能な補助基盤は,当
該一般的な課題の解決手段として,技術分野を問わず周知である。審決は,当該技
術手段が周知であることを示すために,当該技術手段が記載された刊行物を具体的
,,。に提示したものでありそれがおしめ替え補助具に関するものである必要はない
また,本願補正発明は,1本の支柱を安定させるための特段の構成を備えたもので
はなく,単に一般的な課題解決手段である,展開可能な補助基盤を採用しただけの
ものであるから,周知例が1本の支柱を安定させるために用いられるものでもない
としても,相違点1に係る本願補正発明の構成に容易に想到し得るとした審決の判
断に誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対し
()原告は,引用例に「上端近傍」との語句はないから,審決の引用発明の認1
定に係る「垂直方向アーム5の上端近傍には水平方向アーム6を介して足支え台4
が設けられ」との認定が,不正確であると主張する。
しかしながら,足支え台4を垂直方向アーム5に取り付ける際に,その垂直方向
の位置を垂直方向アーム5の上端近くにせずに,中間部あるいは,その下方とする
ことは技術常識からみて考えられないから,少なくとも,足支え台4の垂直方向の
,。位置に関しては垂直方向アーム5の上端近傍に取り付けたとした点に誤りはない
さらに,審決は,足支え台4の水平方向の位置に関しては「垂直方向アーム5,
(「」)」本願補正発明の第2の支柱に相当の上端近傍に水平方向アーム6を介して
と認定し,取付位置が「第2の支柱の上端」である本願補正発明との相違点として
挙げた上で判断しているのであるから,審決の,引用発明の認定,ひいては相違点
2の認定に原告主張の誤りはない。
()原告は,審決が,本願補正発明の相違点2に係る構成を単なる設計的事項2
としたことは誤りであると主張する。
,,,しかしながら脚掛部を支柱に取り付ける際に支柱の上端に取り付けることは
特開平9−84840号公報(乙第1号証,実公平3−10751号公報(乙第)
),(),2号証特開平11−76327号公報乙第3号証に開示されているように
周知の技術手段であるから,足支え台4を水平方向アーム6を介さずに,支柱の上
端に取り付ける構成とすることが設計的事項にすぎないとした審決の判断に,誤り
はない。
4取消事由4(顕著な作用効果の看過)に対し
原告は,相違点1,2に係る本願補正発明の構成は,片足用のおしめ替え補助具
についての支柱の安定性を確保する上で大きな役割を果たしており,その効果は格
別顕著なものであると主張するが,本願補正発明において,脚掛部を支柱の上端に
取り付けることによる安定の効果と,展開可能な補助基盤を設けることによる安定
の効果との総和を超える効果は,認められないから,格別顕著な効果があるとはい
えない。
5取消事由5(新規事項の追加の有無についての判断の誤り)に対し
原告は,当初明細書の特許請求の範囲の請求項5に「脚掛部を支柱に対して揺動
可能に取り付けるに当たり,該脚掛部を摺動可能に取り付けたレールを前記支柱へ
首振可能に取り付けたことを特徴とする,請求項1乃至3のいずれかに記載のおし
め替え補助具」との記載があるから,本願補正後の請求項3の特定事項である,。
「」該脚掛部を摺動可能に取り付けたレールを前記第2支柱へ傾動可能に取り付ける
ことが新規事項に当たらない旨主張する。
しかしながら,本願補正後の請求項3に係る「傾動可能」は,傾けた位置で固定
可能であるものを含む概念である。これに対し「首振り可能」は,当初明細書の,
請求項5と段落【】に記載されているのみで,相当する実施例は示されていな0009
。,,「」「」,い当初明細書には他にロック手段を伴って揺動可能との記載もあり
この場合には「傾動可能」であることが明らかであるが,これと異なる「首振り,
可能」なる用語は,ロック手段をもたずに揺動可能であるという意味に解するのが
自然である。
そうすると,本願補正後の請求項3の上記特定事項を含む本件補正が,当初明細
書又は図面の範囲内でされたものということはできない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
原告は,審決が,本願補正発明は片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引
用発明は両足用のおしめ替え補助具であることを顧慮することなく,一致点の認定
に及んだ誤りがあると主張する。
しかるところ,引用例の図面2には,引用発明において,それぞれが1つの足支
え台4を支持する垂直方向アーム5を立設,支持するベース板7が,対をなして対
向し,その一方には長孔が形成され,他方には長孔が形成されておらず,双方のベ
ース板7をボルト・ナットで連結,固定したものが図示されており,このことに照
らすと,引用発明は,それぞれがベース板7,垂直方向アーム5,足支え台4など
から成り,対をなす左右の部材を,連結して使用するものであることが認められ,
その意味では,原告主張のとおり,両足用のおしめ替え補助具であるということが
できる。
他方,本件補正後の明細書(甲第2号証,以下「補正明細書」という)には,。
本願補正発明を含む特許請求の範囲記載の発明に関し,図1∼図6に係る実施例,
図7∼図9に係る実施例,図10∼図15に係る実施例及び図16に係る実施例に
ついて,それぞれ,以下の記載があり,他に実施例の記載はない。
①図1∼図6に係る実施例について
「図面はこの発明の一実施の形態を示し,図1乃至図6において,1,1はベットや布団の上
に載置される基盤であり・・・(段落【),」】0011
「この基盤1,1は互いにその下面に収容凹部或は収容部2,2を有し,この収容凹部或は収
,,。」(【】)容部22へ収容される伸縮可能な連結部材3によって互いに連結されている段落0012
「この際に,連結部材3は基盤1,1が布団やベットの上で安定するのに寄与し,各基盤1,
1が互いにバラバラとならないようにも寄与する(段落【)。」】0018
②図7∼図9に係る実施例について
「図7乃至図9は,他の実施の形態を示す。図面では1本しか示してないが,実際には実施の
形態1のように同じ構造のものが一対で完成品となる。しかし,構造が同じなので説明は図示
した1本のみについて行う(段落【)。」】0019
③図10∼図15に係る実施例について
「図10乃至図13は,さらに他の実施の形態を示す。図面では1本しか示してないが,実際
には実施の形態1のように同じ構造のものが一対で完成品となる。しかし,構造が同じなので
説明は図示した1本のみについて行う(段落【(判決注:段落【】には,上記の。」】)00270027
とおり「図10乃至図13」と記載されているが,補正明細書の【図面の簡単な説明(段落,】
【)の欄には,図14及び図15につき,それぞれ「図10に示したおしめ替え補助具0038】,
の使用例を説明する説明図である「図10に示したおしめ替え補助具の他の使用例を説明。」,
する説明図である」と記載されていることにかんがみれば,図14,図15も,図10の斜。
視図に示された実施例に係る使用例であることが認められる)。
④図16に係る実施例について
「,,,図16はこの発明に係るおしめ替え補助具のさらに他の実施の形態を示し脚掛部45は
支柱46の第2支柱46bの上部に取付部材46aと支持ピン48を介して上下方向へ揺動可
能に取り付けられており,支持ピン48に捻子着させた締付ナット49から成る第2のロック
手段50で,任意の揺動位置でロックされるように構成されている。その他の構成は,図10
∼図13に示した実施の形態のものと同じであるので,説明を省略する(段落【)。」】0033
補正明細書の上記各記載によれば,本願補正発明も,請求項1記載のおしめ替え
補助具を対をなす部材の一方とし,その一対を連結して使用するものであることが
認められ,その意味で,引用発明同様,両足用のおしめ替え補助具であるというこ
とができる。
,,,そして本願補正発明及び引用発明が両足用のおしめ替え補助具であるにせよ
一対のうちの一方を取ってみれば,いずれも仰向けに寝た人間のおしめを交換する
ために持ち上げた片足を保持するためのものであって,その点で,引用発明は,本
願補正発明に対応するものである。したがって,審決が,本願補正発明の要旨に合
わせて,引用発明についても一対のうちの一方を取り上げて本願補正発明との構成
の対比を行い,一致点及び相違点の認定をしたことに,何らの誤りもない。
本願補正発明が,片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引用発明は,両足
用のおしめ替え補助具であることを前提として,審決の一致点の認定の誤りをいう
原告の主張は,その前提自体が失当である。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
原告は,審決が,本願補正発明と引用発明との相違点1につき,周知例として,
特開平4−359262号公報特開平6−175420号公報を引用した上引,,「
用発明の『足支え台4』付きの『ベース板7』は,結合して安定させているが,一
般的な技術として,装置を安定させようとする場合,装置の下面に水平方向へ展開
収納可能な補助基盤を設けることは周知・慣用の技術手段である」とした判断が誤
りであると主張する。
しかるところ,特開平4−359262号公報には「原稿台移動式の画像形成,
装置の本体に,一体的に収納自在な転倒防止装置を備えて成る画像形成装置の筐
体(特許請求の範囲の請求項1「本発明は,原稿台がスライド移動すること。」),
によって,原稿の画像を読み取る画像形成装置の筐体,特に同筐体の転倒防止装置
に関するものである(段落【「①原稿台上に書籍等の重い原稿がセッ。」】),0001
トされた場合,重心が本体の端の方へ移動する為,全体が不安定になる。②さ
らに,その原稿を原稿台へ強く押しつけるという力が加わった場合,全体が傾き,
転倒する恐れがある。なお,上記の欠点は小型・軽量の画像形成装置においてより
顕著である(段落【】∼【「図2(a)は転倒防止装置4が機能して。」】),00050006
いる状態を表わす図であり,同図において,原稿台2が移動した状態3の時に,そ
の突出した部分にかかる下向きの力を転倒防止板4aが支えるものである。図2
(b)は転倒防止板4aを回転ヒンジ5を中心に回転させて収納した状態を表わす図
。」(【】【】),,,である段落∼との各記載があり図2(a)図2(b)には00170018
,,原稿台2の下面に設けた転倒防止板4aが回転ヒンジ5を中心に水平方向に展開
収納される様子が示されている。
また,特開平6−175420号公報には「装置本体の枠体に対し着脱可能な,
ユニット装置において,前記枠体より取り外す時のユニットの転倒を防止する転倒
。」(),防止手段を設けたことを特徴とするユニット装置特許請求の範囲の請求項1
「産業上の利用分野】()本発明は,例えば電子写真方式の複写装置等の画像形成【1
装置の枠体に対して各種ユニットが着脱自在に装備されるユニット装置に関するも
のである(段落【「上記現像容器10aの底部中央部には転倒防止手段。」】),0001
であるアーム22が支軸23を中心に回動可能に取り付けられており,上記アーム
22の回転角はストッパーピン24a,24bによって規制されている。上記アー
ム22は,図1の側面図及び底面図の二点鎖線で示すように,現像器ユニット10
を取り外した時に転倒を防止する第1位置と,正面図及び底面図の実線で示すよう
に上記ユニット10を装置本体に装着する時に邪魔にならない第2位置間を回動可
能に取り付けられている(段落【)との記載があり,図1には,現像器ユ。」】0028
ニットの下面に設けた転倒防止手段であるアーム22が支軸23を中心に水平方向
に展開,収納される様子が示されている。
これらの記載によれば,本件特許出願に係る優先権主張日である平成11年8月
3日当時,装置の安定を図り,転倒を防止するために,装置の下面に水平方向に展
開,収納可能な補助基盤を設けることは,周知慣用の技術手段であったと認めるこ
とができる。
,,原告は上記各公報に記載された技術がおしめ替え補助具に関するものではなく
支柱を安定させるために用いられるものでもないとか,複写機の技術分野に,本願
補正発明の安定化手段と似たものがあったとしても,おしめ替え補助具へ複写機の
技術を転用すべき必然性はないから,おしめ替え補助具の技術分野に,本願補正発
明の相違点1に係るような構成がない以上,本願補正発明に進歩性が認められるべ
きであると主張するが,上記周知慣用技術の内容に照らし,それが,技術分野の別
を問わず,装置一般の転倒防止ないし安定化のために適用することのできる汎用的
な技術であること(なお,支柱も装置の1形態である,及び,技術のレベルとし。)
て,必要に応じ,適宜採用し得る程度のものであることは明らかであるから,原告
の上記各主張は,いずれも採用することはできない。
したがって,審決の相違点1についての判断に,原告主張の誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
()ア原告は,審決が,引用発明の認定において「垂直方向アーム5の上端近1,
傍には水平方向アーム6を介して足支え台4が設けられていると認定した上脚」,「『
掛部』が,本願補正発明においては『第2の支柱の上端に『取り付け』られてい,』
るのに対し,引用発明においては『第2の支柱の上端近傍』に取り付けられてい,
る点」を本願補正発明と引用発明との相違点2として認定したのは,不正確である
と主張する。
しかるところ,引用例の図面2,3によれば,引用発明において,一対のベース
板7,7にそれぞれ立設する垂直方向アーム5,5の各上端付近に,互いに対向す
る各1本の水平方向アーム6,6が水平に取り付けられ,それぞれの水平方向アー
ムの先端(対向する部分)近くに,各1個の足支え台が設けられていることが認め
られる。そうすると,引用発明の認定をするに当たって,足支え台を支持する構成
につき,例えば「それぞれの垂直方向アーム5の上端付近に水平に取り付けた水,
平方向アーム6の先端付近に足支え台4を設け」というように認定しても,もと,
より誤りではないが,審決のように,その認定を「それぞれの垂直方向アーム5の
上端近傍には水平方向アーム6を介して足支え台4が設けられ」との表現にとど,
めたとしても,格別誤りではない。
,,,,原告は足支え台4の取付位置を引用発明のように一対の垂直方向アーム5
5の上端側に,互いに対向するよう水平に取り付けた水平方向アーム6,6の各先
端とした場合には,ベース板7の構成を引用例記載のようにすれば(すなわち,結
合して一対のものとすれば,その安定性が確保できるものの,本願補正発明のよ)
うに,一本足用として,べース板7,7(基盤)を分離させたときには,重心が偏
ってしまい,ベース板(基盤)の安定性が確保できないとした上,このことのみに
基づいて,足支え台4を,どこにどのように取り付けるかということは,技術課題
や,ベース板7(基盤)の構成,作用効果と密接に関連し,ひいて技術思想を異に
することになるから,審決の認定は不正確であって,誤りであると主張するが,本
願補正発明が一対を連結して使用する両足用のおむつ替え補助具であることは,上
記1のとおりであり,したがって,足支え台4の取付位置を引用発明のようにし,
かつ,本願補正発明のようなベース板の構成(一対を結合したもの)としても,安
定性を確保し得ることは,引用発明と変わりがないから,少なくとも,本願補正発
明と対比するために,引用発明の認定を行う場合においては,足支え台を支持する
構成に係る認定を,審決のようにしたからといって,誤りであるとすることはでき
ない。
イもっとも,審決は,相違点2の認定に当たっては,引用発明の認定において
用いた「水平方向アーム6を介して」との語句を削り「脚掛部』が,本願補正発,『
明においては『第2の支柱の上端に『取り付け』られているのに対し,引用発明,』
においては『第2の支柱の上端近傍』に取り付けられている点」と認定している,。
ところ,この表現では「脚掛部(足支え台4」と「第2の支柱(垂直方向アーム,)
5」との関係が不明確にすぎるというべく,その点で,誤りであるといわざるを)
得ない。
しかしながら,引用発明の「脚掛部(足支え台4」が「水平方向アーム6を介),
して「第2の支柱(垂直方向アーム5」の上端近傍に設けられていることは,」,)
引用発明の認定によって,審決上明らかにされているところであるのみならず,本
願補正発明の進歩性の有無を判断するに当たり,相違点2に関して,検討判断の対
象となるのは,本願補正発明に係る「第2の支柱の上端に・・・取り付けた・・・
脚掛部」の構成が容易に想到し得るものであるか否かという点であり,後記()の2
とおり,この点の判断が,引用発明における「水平方向アーム6を介して」との構
成の有無によって左右されるものではないから,審決の上記誤りは,結局,審決の
結論に影響を及ぼすものということはできない。
()原告は,審決が,相違点2につき「脚掛部』を支柱の上端に取り付ける2,『
か,その近傍に取り付けるかは適宜なし得る設計的事項に過ぎない」と判断した。
ことが誤りであると主張する。
しかしながら,特開平9−84840号公報には「発明の属する技術分野】本,【
発明は,検診台,主に婦人の治療,診察に用いる婦人科検診台・・・において,患
者の姿勢を,着座位から背臀位又は砕石位へと移行させるための腿受けの改良に関
する(段落【「各膝受け3は,概ね前記回動面Aに直交し,シート1に。」】),0001
向かって湾曲したラック8端に接続し,このラック8を腿受け2に軸着したピニオ
ン9に噛合させて円弧状に回動して持ち上げるようにしている(段落【)。」】0012
との各記載があり,また,図5には,長手方向がおおむね上下方向をなしているラ
ック8の上端に設けられた膝受け3が示されている。また,実公平3−10751
号公報には「A産業上の利用分野本考案は,産婦人科,泌尿器科において看,
者の患部を検診するため,患者の股を開かせるべく股裏を支承する股受けを設けた
産科用検診台の改良に関する(1欄11∼15行「昇降シリンダ6が動作時。」),
,。に昇降するラム7には・・・取付ブラケット10がネジ19で取付けられている
取付ブラケット10の受片8には軸20で股受け17のブラケット11が回動自
在に取付られ(2欄16∼23行「背凭れ3を後方に倒した後に昇降シリン,」),
ダ6を動作させて,そのラム7を上昇させれば取付ブラケット10と共にブラケッ
ト11も上昇するので,股受け17も上昇する(3欄14∼17行)との各記載」
があり,第2図には上下方向のラム7の上端に取り付けられた股受け17が示され
ている。
上記記載に係る「腿受け3「股受け17」は,本願補正発明の「脚掛部」に相」,
当し,また「ラック8「ラム7」は,それぞれ支柱に当たるものということが,」,
できるから,これらの記載により,本件特許出願に係る優先権主張日である平成1
1年8月3日当時,脚掛部を支柱上端に取り付ける構造は,周知慣用のものであっ
たと認めることができる。そして,後記のとおり,本願補正発明が脚掛部を支柱上
,,端に取り付ける構成を採用することにより格別の作用効果を奏するとも認め難く
,,,そうであれば脚掛部の取付構造としてこのような周知なものを採用することは
当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。
ところで,上記特開平9−84840号公報及び実公平3−10751号公報に
,,記載された発明は産婦人科用などの診察台又は診察台に取り付ける腿受けであり
したがって,支柱上端に取り付けられた脚掛部は,シート(腰掛)状の基台に設け
られるものであるところ,原告は,このような発明が記載された公報により,おし
め替え補助具の技術分野において,脚掛部を支柱に取り付ける際に,支柱の上端に
取り付けることが周知の技術手段であると認めることはできないと主張する。
,,しかしながら脚掛部を支柱上端に取り付ける上記周知慣用技術の内容に照らし
それが,技術分野の別を問わず,適用することのできる汎用的な技術であること,
及び,技術のレベルとして,必要に応じ,適宜採用し得る程度のものであることは
明らかであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,本願補正発明が片足用であるとした上,本願補正発明において,
脚掛部の取付位置を,引用発明と同様,水平方向アーム6の先端とした場合には,
使用時に基盤の安定を図ることができないため,その取付位置を支柱の上端とする
構成を採用したもので,使用時における安定性をできるだけ確保する意図に基づい
て,脚掛部の取付位置を決定したものであるから,本願補正発明の相違点2に係る
構成を設計的事項とした審決の判断が誤りであると主張するが,本願補正発明が,
一対を連結して使用する両足用のものであって,これを片足用であるとする前提自
体が失当であることは,上記1のとおりである。そして,本願補正発明が,一対を
連結して使用するものであれば,脚掛部の取付位置を水平方向アーム6の先端とし
た場合であっても,引用発明と同様,安定性を確保し得るものであるから,脚掛部
の取付位置を支柱の上端とする構成に変更することによって,格別新たな作用効果
を奏するものということはできず,原告の上記主張を採用することもできない。
そうすると「脚掛部』を支柱の上端に取り付けるか,その近傍に取り付けるか,『
は適宜なし得る設計的事項に過ぎない」とした審決の判断に誤りはない(なお,。
当該判断の「その近傍に取り付けるか」は「水平方向アーム6を介して,支柱の,
近傍に取り付けるか」の趣旨であるが,そのような趣旨と解した上でも,審決の判
断に誤りがないことは同様である。。)
4取消事由4(顕著な作用効果の看過)に対し
原告は,相違点1,2に係る本願補正発明の構成は,片足用のおしめ替え補助具
についての支柱の安定性を確保する上で大きな役割を果たしており,本願補正発明
の効果は格別顕著なものということができるから,審決の「相違点1,2に係る本
願補正発明の特定事項を総合して判断しても,その効果は,当業者が予測し得る範
囲のものであって格別のものは認められない」とした審決の認定が誤りであると。
主張する。
しかしながら,本願補正発明が片足用のおしめ替え補助具であることを前提とす
,。,,ること自体が失当であることは上記1のとおりであるそして上記2のとおり
相違点1に係る本願補正発明の構成は,当業者が適宜採用し得る周知慣用手段であ
,,,,るからその作用効果も当然予測し得る程度のものといわざるを得ないしまた
相違点2に係る本願補正発明の構成を採用することにより,格別の作用効果を奏す
るとも認め難いことは,上記3の()のとおりであるから,原告の上記主張を採用2
することはできない。
5結論
以上によれば,その余の点(取消事由5)について判断するまでもなく,原告の
請求は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官高野輝久は,差し支えにつき署名押印することができない。
裁判長裁判官
塚原朋一

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