弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人三文字正平の上告理由第一点について。
 原判決を通読すれば、原審は、本件土地に隣接する被上告人所有の原判示畑地二
九九坪を無断耕作して居つた上告人A1において、被上告人の親権者である母Dに
対し、その売買を申出で、交渉の間に、同女が世情にうとく、土地売買に経験なく、
右畑地を未だ見て居らないのみならず、その時価をも全く知らないのに乗じ、同女
をしてそれが低廉なる補償にて政府に買収せられる惧れあるとの窮迫感情を起さし
める如き説明をなし、右畑地が道路との間に本件土地を挾んで居るを捉えて袋地で
あり、その周囲の土地も坪当り一〇〇円にて売買せられるが如く言い立て、一方こ
れを第一審相被告Eに代金三〇万で売込んで置いた上、遂に右Dより金四万円(坪
当り一三四円弱)の代金でこれを買取り、右Eに対し、所有権移転登記をなし巨利
を得たので、以上の如き経緯の末成立した右売買を背景として更に上告人A1にお
いて、依然として同女が同上告人を信用して居り、本件土地をも亦全く見て居らな
いのを倖に、土地が不便かつ安価であると説く外、巧言を以つて談じ込み、当時地
目こそ山林であり、事実上笹やぶであつたとはいえ、交通便利、地形、地相、眺望
皆よくガス、水道の施設ある本件土地合計一六五坪を、時価より著しく低廉な合計
金一万五千円にて同女より買取つたものであり、その目的は、これを坪当り三千円
にて転売し、再び暴利を得るに在つたものであるとの趣旨の事実その他原判示の如
き諸事情を認定判示した上、かゝる場合においては、上告人A1と被上告人との間
における本件土地の売買が、民法九〇条所定の公序良俗に反する行為であり、同条
により無効であると判断したものであることを領解し得る。
 原判示の事実関係の下においては、原審の右判断は正当であつて、原判決に所論
の違法あることを見出し得ない。論旨は、原審の認定と異る見解を主張し、これに
よつて原審の法律上の判断を非難するものとなすべきである。
 論旨は、理由がない。
 同第二点について。
 原判決挙示の証拠による原判示の諸事実の認定は、是認し得られる。この事実関
係の下においては、本件土地は、上告人A1が被上告人より金四万円にて買取り、
直ちに金三〇万円にて他に転売した前記畑地に隣接し、これと地番を異にするけれ
ども、一体をなして宅地に利用せらるべく運命づけられて、居るものであり、本件
売買当時少くとも坪当り千円を超える価値があつた旨原審が判断したことも亦、是
認し得られる。論旨は、結局原審の適法になした事実の認定を非難するに帰する。
 尤も、論旨は、原判決の違憲をも云為するけれども、帰する所原審認定の事実と
異る見解を立て、これを前提とした主張であつて、その前提において既に不適法で
あることを免れない。
 論旨は、すべてこれを採用し得ない。
 同第三点について。
 論旨は要するに、原審の適法になした事実の認定及び民法九〇条に対する原審の
解釈を非難し、原審の事実の認定判断と相容れない独自の見解に立つて、原判決に
憲法一三条違反のあることを主張するに帰するのであつて、その前提において既に
上告適法の理由とならない。
 論旨は、これを採用し得ない。
 同第四点について。
 被上告人と上告人A1との間における本件土地の売買契約が無効であること、前
叙の如くである以上、同上告人がこれによつて本件土地の所有権を取得するに由な
く、同上告人より本件土地を買取る契約をしても、上告人A2が、これによつて本
件土地の所有権を取得するものとなすべき、法律上の根拠はない。
 論旨は畢竟、原審の適法になした事実の認定を攻撃し、独自の見解に立つて原審
の事実上の判断及び民法九〇条に対する原審の解釈を非難し、これ等を前提として
原判決の憲法二九条違反を主張するものであつて、その前提において既に上告適法
の理由とならない。
 論旨は、これを採用し得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔

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