弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本附帯上告論旨は理由がない。
         理    由
 論旨は、原審が本件に適用した著作権法三〇条一頂八号の憲法二九条違背をいう。
すなわち、昭和九年の著作権法の改正によつて新設された右三〇条一項八号は、何
らの財産上の補償なくして所論録音物著作権(同法二二条ノ七)の内容たる録音物
による興行権を剥奪する規定であつて、明らかに憲法二九条に違反するというので
ある。
 しかし、憲法二九条は、一項において「財産権は、これを侵害してはならない」
旨規定し、私有財産制の原則を採るとはいつても、その保障は、絶対無制約なもの
でなく、二項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれ
を定める」旨規定しているのであり、これは、一項の保障する財産権の不可侵性に
対して公共の福祉の要請による制約を許容したものにほかならないことは、すでに
累次の大法廷判決が判示するところであつて(昭和二九年(オ)第五四二号同三三
年四月九日言渡民集一二巻五号七一七頁、同二九年(オ)第二三二号同三五年六月
一五日言渡民集一四巻八号一三七六頁、同三〇年(オ)第九〇二号同三五年一二月
二一日言渡民集一四巻一四号三一四〇頁、同三二年(オ)第五七七号同三六年一月
二五日言渡民集一五巻一号八七頁、同三四年(オ)第五〇二号同三七年六月六日言
渡民集一六巻七号一二六五頁参照)、著作権法三〇条は、一定の場合に限つて著作
物を公益のため広く利用することを容易ならしめる目的で、同条一項各号の方法に
より著作物を複製することは偽作とみなさないものとした法規であり、同法二二条
ノ七の録音物著作権についても、右三〇条一項八号により興行又は放送の用に供す
ることは偽作とならないものとされているのである。
 そして、右の如く著作物の利用を許容するのは一定の場合の利用に限定しており、
かつ同条二項において、その利用の場合は利用者に出所明示義務を負わせて著作権
者の保護をもはかつているのである。すなわち、同条は、所論一項八号の規定を含
めて、著作権の性質に鑑み、著作物を広く利用させることが要請され、前記のよう
な要件のもとにその要請に応じるため著作権の内容を規制したものであつて、憲法
二九条二項にそうものであり、これに違反するものでないということができる。
 右のような場合に、憲法の同条項により財産権の内容を公共の福祉に適合するよ
うに法律をもつて定めるときは、同条三項の正当補償をなすべき場合に当らない。
 よつて、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    石   田   和   外

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