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平成12年(ワ)第2744号墓地使用権者届出取消請求事件
主         文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
事実
第1 事案の概要及び争点
  本件は,原告が,被告らに対し,墓地使用権に基づき,小樽市に提出した墓地使
用権者の各届出の取消を求めた事案である。原告は,故Cが祭祀主宰者として墓
地の使用権を有していたところ,同人が原告を祭祀主宰者として指定した,あるい
は慣習上原告が祭祀主宰者とされたとして,それに伴い墓地の使用権も取得した
と主張している。
被告らは,自らが本件墓地の使用権者であると主張しているが,本件の主たる
争点は,原告の主張するような指定ないし慣習の存否である。
第2 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告A及び同Bは,別紙届出目録記載の各承継届出(以下「本件各届出」とい
う。)を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 請求に対する答弁
主文同旨
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) Dは,小樽市が管理している小樽市ab丁目c番同d番所在の小樽市中央墓地
い-e号(明治41年小樽市墓地証書発行時は,い-f号,以下「本件墓地」とい
う。)の使用権(以下「本件墓地使用権」という。)を取得した。
(2) 本件墓地使用権は,Dから,E,F,Cに順次承継された。
(3) 昭和57年8月15日,Cは死亡した。
(4) Cは,生存中,原告をG家の祭祀主宰者に指定した。
(5) 祭祀主宰者の承継についての慣習
ア 小樽地区の旧家において,最年長者,又は一族の家業を継ぎかつ一族の中
心として墓地の維持管理,檀家寺との交流,過去帳の管理保持を行う者が祭
祀主宰者となり,それは一族の主要関係者の協議を経て承認されるという慣
習が存在する。 
イ 原告は,Fの長女であり,また,平成元年12月1日,原告は有限会社NG商
店の代表取締役に就任した。したがって,G家の後継者である。
ウ 原告は,先祖の法要を執行し,本件墓地を管理している。また自らそれらが
できないときは,HにG家の墓地の維持管理を依頼している。さらに,過去帳を
原告宅において管理保持している。
エ 平成11年6月27日,G家の主要関係者であるI,J,H,K,L及び原告が協
議して,原告をG家の祭祀主宰者とする決定をした。Iが最年長であったが,病
気療養中であったこと,原告が本件墓地の管理をしてきたことに鑑み,原告が
指定されたものである。
(6) 本件墓地使用権につき,被告Aが承継する旨の平成5年4月19日付け承継届
出,被告Bが被告Aと共有する旨の平成8年10月30日付け承継届出がなされ,
小樽市は,被告らの承継届出に基づき,被告らを墓地使用権者とした。
(7) よって,原告は,Cによる指定又は慣習に基づき祭祀主宰者たる地位を承継し
た者であり,小樽市墓地及び火葬場条例10条2項によって本件墓地使用権を
取得したものであるから,この墓地使用権に基づき,被告らの各届出を取り消す
ことを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因のうち,(1),(2),(3)及び(6)の事実については認める。請求原因(4)及
び(5)の事実は否認する。
(2) なお,被告Aは,Cの死亡によって本件墓地の使用権者となり,他方,被告B
は,昭和23年8月,Mの死亡によって本件墓地の使用権者となった。
Cが承継したのは,Fが執り行ってきた分家としての祭祀であり,本家の祭祀
はMが承継したものである。
被告Aは,G家の家業である有限会社NG商店の代表取締役に就任し,又,祭
祀も執り行ってきた。
理由
第1 請求原因(1),(3)及び(6)の事実については,いずれも当事者間に争いがなく,甲第
4号証,甲第5号証の1ないし9によりこれを認めることができる。
   なお,G家の家系図は,別紙G家家系図(甲第3号証の2,省略)記載のとおりであ
り,原告は,D,Eの孫であり,同人らの長女Oの三女である。
   被告Aは,Oの長男Cの配偶者である。被告Bは,Dの長男Mの長男である(乙第1
号証ないし乙第6号証)。
第2 請求原因(2)について
1 甲第5号証の4及び8,甲第11号証の1,甲第12号証,甲第13号証,証人Hの
証言,原告本人尋問の結果,被告A本人尋問の結果によれば,本件墓地はDが造
り,本件墓地使用権の名義は,D,E,F,Cに順次移ったこと,本件墓地には,P(D
の父),Dらが埋葬されていること,Cは,Fの配偶者であるOの存命中は,その助
力を得て,O没後は原告に助力を得て,Eらの祭祀を行ってきたことが認められる。
2 以上の事実からは,請求原因(2)記載のとおり,祭祀の承継がされ,本件墓地使用
権も,これに伴いCに承継されたと認められる。
被告らは,本家としての祭祀の承継は,M,被告Bと順次されてきたと主張する
が,前記のとおり,原告はEの法要も営んできたものであり,他方,被告BがD,Eら
の法要を主宰してきたと認めるに足りる証拠はない。
第3 請求原因(4)について
1 甲第11号証の1,甲第12号証,甲第13号証,H証言,原告本人尋問の結果及
び被告A本人尋問の結果によると,Cは,原告に対し,「墓を守ってくれ。」と言っ
て,G家の法要を執り行うことを頼んでいたこと,Cの生存中から,G家の法要を最
もよく把握していたのは原告であり,及びG家の先祖の法要や墓参り等の仏事につ
いては,事実上,原告が中心になって行っていたことが認められる。
Cの生前,被告Aは,直前になって法要が営まれる旨,Oないし原告から聞かさ
れることが常だったこともあり,実質的な手伝いはしていなかった。
2 以上のとおり,Cは,生前,原告に対し,G一族の法要や墓守等の仏事を頼んでい
たものである。しかし,原告自ら本人尋問において認めているように,「墓を守ってく
れ。」という言葉は,法要を営んで欲しいということであり,原告を祭祀主宰者に指
定した趣旨であるとまで解することは困難であって,自己の死後も引き続いてG家
一族の仏事を依頼していたものと認めることはできない。また,Cは,55歳の若さ
で,心筋梗塞により急死しているものであり,被告Aに対するものも含めて,そもそ
も祭祀主宰者の指定を生前にしていたとは考えがたい(甲第4号証,被告A本人尋
問の結果)。
3 以上のとおり,Cが,生前に,原告を祭祀主宰者と指定していた事実は,これを認
めることができない。
第3 請求原因(5)について
1 請求原因(5)のうちアについて
(1) 原告は,慣習に基づいて祭祀を承継した旨を主張する。原告が主張する慣習
は,最年長者,又は一族の家業を継ぎかつ一族の中心として墓地の維持管理,
檀家寺との交流,過去帳の管理保持を行う者が,一族の主要関係者の協議を
経て祭祀主宰者となるという内容のものである。
(2) ところで,かかる原告の主張が認められるためには,当該慣習が,G家も含め
て,ある程度の人的・地域的広がりを持つもので,かつ現在に至るまで続行され
ているものでなければならない。
(3) Hの証言及び原告の尋問結果によると,小樽市の旧家においては,親族間の
協議で祭祀主宰者を決定することが結構あり,G家の親戚にも同様の方法で祭
祀承継が決定されたことがあったことが一応認められる。
しかし,原告が主張するような慣習に従って,E,F,Cに順次,G家の祭祀が
承継されたと認めるに足りる証拠はなく,かえって,原告本人尋問の結果による
と,Eは,生前から,G家の祭祀をF,継いでCに承継させることを決めていたこと
が認められる。これによると,G家においてすら,原告主張のような慣習にしたが
って,祭祀が順次承継されていた事実は認められず,結局,原告が主張するよう
な慣習が,ある程度の人的・地域的広がりをもって存在するとは認められない。
(4) 以上に加えて,乙第9号証,H証言及び原告本人尋問の結果によると,以下の
事実が認められる。
ア 昭和57年8月15日にCが死亡した際,Cの妻である被告AがCの墓を引き
継ぐことに特に異議はなく,G家の間で墓の名義を変えるような話はしていな
かった。仏壇,過去帳も,引き続き被告Aのもとに置かれていた。
また,被告Aは,有限会社NG商店の代表取締役に就任している。原告は,
有限会社NG商店がつぶれないように資金援助をしたことはあったが,Cが死
去した当時,その経営に参加する考えはなかった。
イ 被告Aは,会社経営のストレスから病気になり,平成元年12月1日,有限会
社NG商店の代表取締役の地位を退いた。同日原告が代表取締役に就任し
た。
昭和61年8月9日,Q夫婦,故Rの配偶者S,H,I,J,原告及び被告Aら1
0名で親族会議を開き,被告Aが有限会社NG商店の代表者から退きたい旨
言ったことから,お墓の問題などの今後の方針を話し合う機会があったが,祭
祀主宰者が決定されることはなかった(乙第9号証,乙第10号証)。
ウ 原告は,平成2年頃,本件墓地の補修をしたことがある。
  平成11年6月27日,G家の主要関係者であるI,J,H,K,L及び原告が協
議したが,Cの兄弟の中最年長者であるIは病気療養の予定であったことか
ら,原告をG家の祭祀主宰者とする旨を決定した。しかし,これに被告Aは参
加していなかった。
上記事実からは,原告らG家の関係者は,Cの死亡直後,一応,被告AがG家
の家業である有限会社NG商店を継ぐ者であり,Cの後の祭祀主宰者であるとし
たが,結局平成11年の親族会議において,被告Aを祭祀主宰者として適さない
とした上で,あらためて原告を祭祀主宰者にすると合意したものと認められる。し
かし,これは原告が主張するような慣習があったとしても,これにしたがったもの
ではなく,かつ被告Aの同意もない。
(5) 結局,原告が,被告Aと比して,祭祀主宰者として適任であるか否かはともか
く,原告主張のような慣習の存在も,これにしたがって原告が祭祀主宰者となっ
たとの事実も認めることができない。
第4 以上より,原告がCより祭祀主宰者たる地位を承継したとの事実は認められず,原
告はCより本件墓地使用権を承継したものとも認めることはできない。
よって,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負
担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
          札幌地方裁判所民事第2部
裁判官 高   瀬   順   久
      届 出 目 録
小樽市管理の小樽市ab丁目c番地,同d番地所在の小樽市中央墓地い-e号使用
権者に関する下記届出
ア 届出人   A
  届出日   平成5年4月19日
  届出内容  CからAへの承継届出
イ 届出人   B
  届出日   平成8年10月30日
  届出内容  BがAと共有するとの承継届出

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