弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役拾月に処する。
     但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人沢正已の控訴趣意第一点(審理不尽及び公判調書の不備の主張)につい
て。
 (一) 刑事訴訟規則第四四条は刑事事件の処理を適正且つ迅速に行うという刑
事訴訟法の目的に添うため公判調書作成の迅速化とその内容の正確とを期すべく、
その必要的記載事項の範囲を最小限度に止め、これを列挙し、明確にしたものであ
る。しかして(1)同条第一項第一一号には「証拠調の請求その他の申立」同第一
二号には「証拠と証明すべき事実との関係(証拠の標目自体によつて明らかである
場合を除く)」、同第三一号には「決定及び命令」等と規定されてあるから、訴訟
関係人より証拠調の請求があつたときは、公判調書にはその証拠の標目及びいわゆ
る立証趣旨と、これに対する決定とを記載すれば足るものであつて、原審第四回公
判調書には、弁護人は亡Aの生前居住家屋及びその付近の状況を明らかにするため
右場所の検証を請求し、これに対し検察官は必要がないと意見を述べ、原審裁判所
は右請求を却下すると決定した趣旨の記載があるから、この記載は前記各規定を十
分に遵守したものというべく、たとえ右記載が所論のようないきさつからなされた
ものであつたとしても、かかるいきさつは同条第二項によつて裁判長が訴訟関係人
の請求により、または職権でとくに命じない限りその記載を要しないところである
から、右公判調書中所論の証拠調請求についての記載に不備な点はない。(2)同
条第一項第二八号には「証拠調が終つた後に陳述した検察官、被告人及び弁護人の
意見の要旨」と規定されてあるから、いわゆる検察官の論告、被告人及び弁護人の
弁論はその要旨を記載すれば足るものであつて、原審第四回公判調書の弁護人の意
見として「私は公平の立場から本件は無罪であると考える」との記載は右にいわゆ
る弁護人の弁論の要旨の記載として欠くるところはない。(3)原審第二回公判調
書中には、所論のとおり「その二十九年の時は二月の何日頃にあつたのか」の間に
対し「その頃です」と答えた旨の記載があるけれども、この問答は、その前段の問
答、「総会は毎年あるのか。」「大体二月中頃迄に年に一回あります。」「奥諸寄
の部落の総会が二月中頃迄にあるのか」「はい」なる記載に照し「二十九年分年は
二月の中頃迄に総会があつた」趣旨であることがわかるから、この記載を根拠とし
て公判調書の信用性正確性を攻撃するのは失当である。以上の理由で原審第二回第
四回の各公判調書の記載には所論のような不備な点はないのみならず、原審におい
て弁護人又は被告人から所論の公判調書の記載の正確性について異議の申立がなさ
れたことはこれを認めることができないから、当審において漫然として原審公判調
書の正確性を攻撃することは許されないものであつて論旨は採用り限りでない。次
に(二)記録に徴するに、原審が弁護人の現場検証の請求に対し、その必要なしと
して却下したことは相当であつて、この却下を指して審理不尽であると論難する所
論は適切を欠き採用の限りでない。従つて原審には所論のような審理不尽の点や公
判調書に不備の点はなく、論旨はいずれも理由がない。
 同第二点(事実誤認の主張)について。
 原判決挙示の証拠によれば原判示事実は優に認定し得るところであつて、記録を
精査しても右認定に誤はない。また、被告人の司法警察職員に対する供述調書及び
検察官に対する昭和三三年三月四日付供述調書につき、その任意性または信用性を
疑う余地はなく、被告人の原審公判廷における供述が裁判官の誘導的質問によるも
のであるとも考えられない。また、原審裁判所が起訴状記載の事実を真実であると
当初から予断を抱き審理したため、事実の誤認や審理不尽を来たしたものと認める
資料もなく、所論は全く独自の見解であつて採用の余地なく、従つて事実誤認の論
旨も理由がない。
 同第三点(法令適用の誤及び訴訟手続の法令違反の主張)について。
 証人Bの原審公判廷における供述(原審第二回公判調書中同証人の供述記載)の
信用性について寸擬を容れる余地もなく、また、上述のとおり、被告人の司法警察
職員に対する供述調書及び検察官に対する昭和三三年三月四日付供述調書並びに被
告人の原審公判廷における供述の任意性、信用性についても疑はなく、その証明力
も否定し得ないから、原審がこれ等の証拠と原判決挙示のその余の証拠とを綜合し
て判示事実を認定し、且つ、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り訴訟費用は全
部被告人の負担としたことはいずれも相当であつて、所論のような法令適用の誤や
訴訟手続の法令違反はなく、この点についての論旨も理由がない。
 しかし、所論のとおり、原審が押収してある借用証書一通(証第三号)を被害者
Bに還付する旨の言渡<要旨>をなしたことは記録上明らかであるから、これが当否
について判断する。刑事訴訟法第三四七条第一項にいわゆる「賍物」とは財
産罪たる犯罪行為により不法に取得した財物をいい、また「被害者に還付すべき理
由が明らかなもの」とは被害者が私法上その物の返還を請求する権利を有すること
の明らかなものをいうと解すべきである。しかるに脅迫によつて借用証書を交付し
た場合には、その意思表示(借用証書の所有権を移転する意思表示)は、右脅迫に
より全然意思の自由を喪失した場合を除き、民法第九六条第一項により単に取消し
うるに止まり当然無効ではないから被脅迫者はその意思表示の取消をしない限り直
ちに右借用証書の返還を請求する権利を有しないものであるところ、本件記録に徴
しても原判示恐喝罪の被害者であるBが、判示脅迫により意思の自由を喪失したこ
とはもとより、判示借用証書交付の意思表示を取消したことはこれを認めるに足る
資料がないから、右借用証書は刑事訴訟法第三四七条第一項にいわゆる被害者に還
付すべき理由が明らかなものということができない。しかのみならず、原審及び当
審における証拠調の結果によれば原審において領置された借用証書一通(神戸地方
裁判所豊岡支部昭和三三年五月二三日領置第一二号の第三号)は被告人が原判示恐
喝罪により被害者Bから交付を受けた判示借用証書そのものではなくして、被告人
において作成した該借用証書の写しであることが明らかであるから、右領置にかか
る借用証書は前記法条にいわゆる賍物に当らないこと明らかである。しからば右借
用証書は右いずれの点からみてもこれを被害者に還付すべきものではない。以上の
次第で原判決が判示押収にかかる借用証書一通(証第三号)を被害者に還付する旨
の言渡をなしたのは失当であつて、原判決はこの点において事実を誤認し、法令の
解釈適用を誤つたものであり、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから
破棄を免れない。論旨はこの点において理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三八二条第三八〇条第三九七条第四〇〇条但書に則り原判決
を破棄し、さらに判決する。
 原判決認定の事実(但しその中「同人名義の借用証書一通(証第三号)を交付さ
せて」とあるを「同人名義の借用証書一通を交付させて」に改める)に、摘示の法
条中刑事訴訟法第三四七条を除くその余の法条を適用して、主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 万歳規矩楼 裁判官 武田清好 裁判官 小川武夫)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛