弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
本判決においては,原判決別紙略語表記載の略語を用いる。ただし,正式の用語
を用いることもある。
第1当事者の求めた裁判
1控訴人ら
()原判決を取り消す。1
()内閣総理大臣が平成2年11月15日付けでP1株式会社に対してした2
「P2センター」廃棄物埋設事業許可処分を取り消す(控訴状の「控訴の。
趣旨」は「被控訴人が平成2年11月15日付けでP1株式会社に対してし
た「P2センター」廃棄物埋設事業許可処分を取り消す」となっているけ。
れども,同処分は内閣総理大臣がしたものであるから,その取消を求める請
求の趣旨は以上のとおりになるべきであり,控訴人らはこの趣旨での裁判を
求めるものと解される)。
()訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。3
2被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,P1が青森県上北郡αに「P2センター(低レベル放射性廃棄物」
を埋設の方法により最終的に処分する施設)を建設するためにした原子炉等規
制法51条の2に基づく廃棄物埋設事業許可申請に対して内閣総理大臣が平成
2年11月15日付けでした廃棄物埋設事業許可処分について,全国各地に居
住する控訴人ら58名を含む138名が,内閣総理大臣に対して,上記許可処
分が違法であることを理由に,同許可処分の取消しを求めた。
原審は,上記138名のうち上北郡α内に居住する16名を除く122名に
ついては,いずれも原告適格を有しないとして訴えを却下し,原告適格を認め
た上記16名については,本件許可処分に違法事由はないとして,請求を棄却
した。
この判決に対して,原告適格を認められた7名を含む58名が控訴をしたの
が本件事案である。
なお,原審係属中に,被控訴人経済産業大臣が本件訴訟を承継し,P1の商
号がP3株式会社に変更されたことは,原判決9頁1行目冒頭から13行目末
尾までのとおりである。
2本件の中心的争点,前提事実及び当事者の主張は,3から5までのとおり付
,,。加訂正するほかは原判決の当該欄記載のとおりであるからこれを引用する
3原判決の訂正
()原判決5頁20行目の「科学技術庁」の次に「中央省庁等改革のため1(
の国の行政組織関係法律の整備に関する法律(平成11年法律第102号)
4条に基づき,科学技術庁設置法(昭和31年法律第275号)が廃止され
る以前のもの。科学技術庁及び科学技術庁長官につき以下同じ」を加え。)
る。
()同6頁15行目末尾に続けて「前者は埋設設備の設置位置及び埋設方法2
の変更を中心とする補正であり,後者は主として断層の記述を追加したもの
である」を,同7頁12行目末尾に続けて「これは,航空機事故の想定を。
変更したものである」をそれぞれ加え,同頁21行目の「乙38の15」。
を「乙37の6」にそれぞれ改める。
「,,()同23頁9行目の括弧内末尾に続けてなお周辺監視区域においては3
人の居住が禁止されかつ業務上立ち入る者以外の立入りは制限される同,,〔
規則14条2号」を加え,同29頁8行目の「同条」を「同条の3」に〕。
改める。
()同49頁17行目及び50頁1行目の「d−5孔」を「D−5孔」に改4
める。
()同55頁19行目の「」を「m」に,62頁8行目の「平成元年」を5km
「」,「.」「.」,昭和63年に同頁26行目の476倍を467倍に改め
「,」「,」76頁8行目の本件安全審査においてはの次に敷地からの震央距離
を加え,同89頁24行目の「放射線量」を「の線量当量率」に改める。
4当審における控訴人らの主張
()原告適格について1
ア原判決は,原告適格を有する者の範囲につき「事故等がもたらす災害に
より直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲」を基準とする
としながら,原告適格を有する周辺住民の範囲をα在住の者に限定するに
当たり「本件廃棄物埋設施設から最遠隔地でも約20km以内である行,
政区画内」と判示しているが,この範囲を施設からの距離ではなく行政区
画で画することは明らかに不合理である。
イ原判決は,αに限定するに当たって,最遠隔地でも約20km以内であ
ることを付記しているが,20kmという距離の根拠は全く示されていな
い。
原判決が引用する本件安全審査の被曝評価では施設敷地境界とか近傍と
されるのみで,数値の是非以前に施設から20km地点の被曝評価は全く
なされていないのである。一定の距離で原告適格,したがって「事故等が
もたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範
囲」を画するのであれば,その距離において住民の被曝がいかほどになり
うるかについての判断が先行しなければならない。その点について,原判
決は全く何も認定していないし,証拠も示していないのである。
ウそもそも,原判決が原告適格を判断する要素としてあげた被曝評価は,
本件安全審査で採用された被曝評価のみであるが,これは本件安全審査が
適法であることを前提とするものである。
しかしながら,行政事件訴訟法が原告適格の判断に際しては処分が根拠
法令に違反してなされた場合を検討することを求めているのであり,原子
力施設の事業許可の取消訴訟における原告適格の判断に当たっては,行政
事件訴訟法の規定に従って「その根拠となる法令に違反してされた場合」
を検討する以上は,当然に,安全対策が有効ではなく(災害の防止上支障
がある,かつ事業者に事業を適確に遂行する技術的能力がない場合にど)
のような事故が起こりうるかを検討しなければならないのである。
原判決のように安全審査での事故評価に依拠して原告適格を判断するこ
とは安全審査が正しいという前提で検討することに他ならずそれはそ,,「
の根拠となる法令に違反してされた場合」を検討したことにはならない。
()手続的違法2
ア本件施設の特定廃棄物管理施設該当性について
(ア)原子炉等規制法施行令第13条の10のうち管理事業の定義から廃
棄物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理を除くとし
ている部分は,違法無効であるか,廃棄物埋設事業者が施設内で行う廃
棄物の管理全般ではなく自らの事業の過程で新たに発生した廃棄物の処
理及び管理に限定解釈されるべきである。
(イ)本件廃棄物受入施設は「廃棄物埋設がされるまでの間において行,
」。われる放射線による障害の防止を目的とした管理のための施設である
これは原子炉等規制法第51条の2第1項第2号が定義する「廃棄物管
理」に該当する。本件埋設施設は,法的には,放射性廃棄物埋設地が廃
棄物埋設事業,廃棄物受入施設が廃棄物管理事業の性格を有するもので
ある。
そして本件廃棄物受入施設が取り扱う放射能量が3.7テラベクレル
を超えることは明白である。
以上から,本件廃棄物受入施設が,原子炉等規制法上,特定廃棄物管
理施設に該当することは明らかである。
(ウ)原判決のように,本件廃棄物受入施設が埋設の事業であり特定廃棄
物管理施設に当たらないという解釈を取った場合,本件廃棄物受入施設
は,全く同じ設計,同じ目的,同じ機能を持つものが,一時貯蔵後の廃
棄体が貯蔵建屋に貯蔵されるのか,埋設地に埋設されるのかという本件
廃棄物受入施設の安全性には直接関係ないことがらによって,設計及び
工事方法の認可,使用前検査,施設定期検査等の要否が変わることとな
る。同じ施設が中間貯蔵施設とともに事業許可申請されるか単独で申請
されれば,安全上重要な施設として設計及び工事方法の認可,使用前検
査,施設定期検査を必ず受けなければならないのに,埋設地とともに事
業許可申請されればそれらの手続を全て回避できることになるのであ
る。このような脱法行為を容認する解釈は,到底,正当なものとはいえ
ない。
イ補正限度の逸脱
(ア)控訴人らは,補正手続の当事者とか経過といった形式を問題として
いるのではなく,補正の限度(民事訴訟の「訴訟物の同一性)を問題」
としているのである。すなわち,当初の「申請書」の内容が後から大幅
に設計変更されて(事業者から)提出された「一部補正」に対し,被控
訴人は,一旦これを却下して,申請のやり直しをさせるべきものを,単
に「一部補正」として扱ったことの不当性,違法性が問われているの,
である。
(イ)「一部補正」は「安全審査の基本的考え方」が採用する低レベル,
放射性廃棄物の地中処分における大原則である「浅地中処分」の基本方針
「」を完全に逸脱するものであり(P4証言の基本的要件にかかわる事項
に該当),原判決のいう「同一性」は認められない。
「」,「」,本件の一部補正は補正の限度を越脱しているのであるから
国は「当初申請」及び「一部補正」を不許可として新たに一部補正の内
容に則した申請をやり直させるべきであり,原判決の認定は明らかに誤
りである。
ウ「一部補正」手続の不公正性
本件では,安全審査の担当者である科学技術庁や原子力安全委員会など
が,全面的に申請者を指導し,申請書を書き換えさせていることが,甲A
第4号証や,科学技術庁に保管されていた資料(隠しメモ)等から容易に
推測される。
いわば,テストで出来の悪い生徒を,先生が特別に指導して,答案を書
き直させて合格させたようなものであり,このような指導は,公正な立場
で安全審査を行うべき行政機関のやるべき指導の限界を明らかに超えてい
る。
エ安全審査の非民主的実態を看過した原判決の誤り
(ア)P4証人は,申請者と科学技術庁の審査担当者が一緒になって,当
時の核燃料安全審査会のP5委員に意見聴取した件のメモについて,控
訴人らから「事前に解答をもらった生徒が100点取るようなもので,
そのような申請の形が取られてきたということになれば非常に不安を覚
えるんですが」と質問され,裁判所からも「仮にそういうことがあった
場合には,好ましいと考えているのか,それは場合によってはあり得る
んだというお考えですか」と訊かれ「好ましくはないと思いますけれ,
ども,数少ない専門家の場合には,これはやっぱり申請者として聞く場
面もあり得るのかな」と答弁している(P4証人調書62頁。)
ここで好ましくないと言っていることが正に「不法な行為」であるこ
と,数の少ない専門家の場合にはこのような事例が日常化しているらし
いこと,これこそ馴れ合いの安全審査体制の動かしがたい証言である。
こうした証拠を無視した原判決は,司法の任務を放棄したものであり,
容認できるものではない。
(イ)審査の秘密性,密室性と杜撰さ
乙39号証の2ないし14によれば,安全審査会第27部会はわずか
16名の委員から成るにもかかわらず,会合に委員全員が揃うことはな
く,4∼5名の欠席者がある会合が過半数に及ぶ。8回の会議に1度し
か出席しないP6委員,4度しか出席しないP7委員(同委員は乙40
号証の1によれば,ワーキンググループへの出席も1度しかない)らの
存在に示されるように,審査が特定の委員に任せられたことは十分に推
量できるから,原判決は事実認定を誤っている。
()地震その他の自然災害に対する安全性の欠如3
ア地質・地盤について
(ア)調査・審査資料不足
地耐力判定に必要不可欠な基本調査であるPS検層(ボーリング孔を
利用した地層の速度分布を求める試験,弾性波探査(地震探査)及び)
圧密試験が実施されていない。文献調査,標準貫入試験の調査結果のみ
を安全審査に供したのは明らかな審査不備である。
(イ)試験,調査の不適切さ
a本件申請の文献中には「青森県の地質」というような重要な資料が
抜け落ちているほか,審査にあたったP8証人が独自の文献調査をし
た形跡も窺われない。したがって,文献調査は極めて不十分である。
bボーリング調査
ボーリング調査は,一般の建築物の場合,敷地内にほぼ等間隔に調
査地点を分布させ,大体20∼50m置きにするのが標準である。調
査深度は建物幅のおよそ2倍(杭基礎の場合は杭先端から)の深さま
で調査する必要がある。これによれば,本件敷地では,等間隔に50
mとれば1150本以上,20mとればなんと7000本以上のボー
リングが必要となる。また,調査深度は,最低でも深さ450m∼1
20mは掘進する必要がある。ところが,ボーリング孔は27本しか
なく,深度は最深のものでもわずか97mにすぎず,余りにも浅すぎ
て調査は不十分といわざるをえない。
cR・Q・D値について
(a)P1によれば,本件敷地及びその周辺で合計27孔でボーリン
グ調査が実施されたことになっているが,補正書に掲げられている
地質柱状図は,埋設設備群設置位置における合計9孔のうちの2−
,,,,b3−b3−c4−bおよび5−b−1の5孔のものだけで
その他の22孔の地質柱状図は掲げられていない。そのため,補正
書は,合計27孔の地質柱状図の中から,地盤条件が相対的に良好
なことが明示されている5孔の地質柱状図のみを意図的に選んで掲
げたのではないかという疑惑が,当然のことながら浮かんでくる。
特に,2本の断層に近い位置にある5−c孔,D−5孔および2−
d孔の地質柱状図が掲げられていないこと,また,4−b孔では,
掘進長がわずか16.00mにすぎないことは,このような疑惑を
一層深めるものとなっているが控訴審で提出された地質柱状図甲,(
D237ないし甲D239)によると,両断層とも破砕帯を伴い,
その部分の岩質はかなり脆弱・劣悪化しており,その部分のR・Q
・Dはかなり小さくなっていることがわかる。
(b)(a)からすると,鷹架層中部層のR・Q・Dの平均96.6%
という値は,同層中の2本の断層の影響をほとんど,あるいは,全
く受けていない岩質の相対的に良好な部分についてのものであり,
断層の影響を受けた,岩質が脆弱・劣悪化した部分についてR・Q
・Dを測定すれば,この平均値よりもかなり小さい値が得られる可
能性が多分にあると考えられる。
(c)鷹架層は支持地盤として不適切であること及びその根拠
①P1が実施した岩盤支持力試験(甲D41の26頁)は,実施
箇所がわずか4箇所と少ないうえ,4つの数値の間に存在するバ
ラツキが小さく(36∼50kg,4つの数値のうちの最小値)
および最大値が,それぞれ最悪値および最良値にほぼ該当してい
るものと考えることはかなり困難である。また,破砕帯の部分と
非破砕帯の部分との間には,数値にどの程度の差異が存在するの
かが明らかにされていないことなどの諸理由によって,きわめて
不十分なものといわざるをえない。
そこで,埋設設備群設置位置でも,さらに多くの箇所で岩盤支
持力試験が実施されること,そして,それによって得られた多数
の上限降伏値の間に存在するバラツキの状態が正しく解明される
ことが必要不可欠になるが,とりわけ,破砕帯の部分と非破砕帯
の部分との間には,上限降伏値にどの程度の差異が存在している
のか,また,破砕帯の部分の上限降伏値の最小値(最悪値)は,
埋設設備による荷重に対してどの程度の安全率を有しているのか
の諸点が解明されない限り,鷹架層中部層が埋設設備による荷重
に対して十分な支持力を有していると断定することは,著しく妥
当性を欠いているといわざるをえない。
②乙2号証に掲げられている5つの地質柱状図には,岩盤等級は
一切記入されていない。地質柱状図の内容は,極めて異例のもの
である。P1がこのような地質柱状図をあえて作成したのは,も
し,地質柱状図に岩盤等級を記入すれば,鷹架層中部層には,A
級およびB級の部分は全くなく,CH級の部分はあってもごくわ
ずかで,大部分はCM級又はそれ以下のもの,すなわち,文字ど
おりの軟岩に属するものであることが明らかになるからではない
かと思われるのである。
③本件廃棄物埋設施設の支持地盤である鷹架層中部層は,軟岩で
あり,この地層は単位体積重量が小さく,岩水比が高いことなど
から,岩質は劣悪であり,この地層に脱水現象が起った場合,地
盤の沈下が生じ埋設体などの安全性を損う危険性がある。
df−a,f−b断層の存在
(a)両断層には,段丘堆積層に変位を与えている可能性がある。
補正書は,トレンチ調査結果から,2本の断層は,いずれも,段
丘堆積層には変位を与えていないと述べている。
しかし,段丘堆積層のような未固結堆積層では,断層に切断され
て変位を受けていても,そのことを容易に確認できない場合が少な
くないので,いずれの断層も,段丘堆積層に変位を与えていないよ
うに見えるだけのことであって,実際には変位を与えている可能性
も,決してないとはいえない。ゆえに,いずれの断層も,その活動
は段丘堆積層の堆積以前に終息したと断言することは,必ずしも妥
当とはいえないことになる。
甲D103号証によると「一般に,ある断層の活動時期はその,
断層が切っている地層より新しく,覆われている地層より古いと考
えられる。しかし断層が,沖積層のような未固結の地層を切断する
場合,断層は縦(傾斜方向)にも横(走向方向)にも枝分かれ(雁
行)する。このようなところでは,断層がある地層に覆われている
(ように見える)からといって,その断層の活動がその地層より古
いと断言はできないだろう」と説明されているが,本件敷地に発。
達する段丘堆積層は年代的に上記沖積層に近いものであり,主に砂
から成る未固結堆積層であるから,両断層が段丘堆積層に変位を与
えていないとは断言できない。
(b)破砕帯の影響
補正書は,両断層沿いに断層を境して接する岩石が混在した部分
がある幅にわたって認められると記述している(f−a断層は10
∼160cm。f−b断層では3∼25cm。)
そして,P8証人は,この混在部は周囲の岩石と同じ硬さを有す
ると証言するが,この「混在部」が地質学上の「破砕帯」であるこ
とは,その形状,P9証言,鑑定意見書(甲D194・23∼35
頁)に照らし明らかである。したがって,この部分の岩質が明らか
に軟(脆)弱・劣悪化していることはいうまでもない。
(c)原判決は,以上の点について何ら納得のゆく判断を示しておら
ず,理由不備の違法がある。
(ウ)その他の自然的条件についての判断懈怠
,「,,」a原判決は控訴人らが主張した変位地形地滑り陥没の危険性
及び「液状化現象の危険性」について,全く言及していない。
原判決が上記2点につき判断を懈怠,回避したことには理由不備及
び重大な法令解釈の違反がある。
b本件敷地は「南東方に緩傾斜した台地」であり,地滑りを起こす地
形を形成している。
地滑りや陥没が起こっても,それらがかなりの長期間にわたって原
形をとどめていないのが地質学の常識である。原形をとどめているの
は長くても百数十年程度ともいわれている。したがって,ある地域で
過去に地滑りや陥没が発生した形跡が認められなかったとしても,そ
れらが発生したことがなかったということにはならないのであって,
正しくは「発生したことが分かっていない」というに過ぎない。現地
調査や文献調査で事足りるという訳にはいかないのである。
本件敷地内には,埋立地及び盛土部分があり,地震や集中豪雨・連
続降雨により地滑りが発生し,これによる本件建屋の倒壊の危険性を
考慮すべきである。また,本件建屋の支持地盤の上には段丘堆積層,
火山灰層が広く分布しているので,盛土が施されていない場所でも集
中豪雨・連続降雨による地滑り発生の危険がある。岩盤でも「岩盤す
べり「風化岩すべり」が起こることは広く知られている。」,
要するに,本件敷地における地滑り,陥没に関する調査はきわめて
ずさんであり,そのずさんさをそのまま是認して,発生の危険なしと
。,,した本件安全審査の過誤・欠落は明らかであるすなわち文献調査
現地踏査は当然のことであるが,当該敷地が「地滑り地質」か否かの
観点から,一般調査(地表地質調査,物理探査,ボーリング調査,土
質調査など)及び特殊調査(地盤変動量,すべり面,地下水などの調
査)をすべきである。
本件敷地には造成地が含まれており「人為発生型地滑り」の要因,
,「」をかかえているし支持地盤である鷹架層には岩盤・風化岩すべり
が発生する危険性を否定できないのに,その調査がなされていないの
は手抜調査であり,それを看過した本件安全審査の手落ちは明らかで
あるにもかかわらず,この点を看過した原判決には著しい過誤,欠落
がある。
c本件廃棄物埋設施設で液状化現象が起こる危険性
(a)液状化のメカニズムを考えると,主に砂の粒子からなる地盤・
緩く堆積した地盤・地下水位が浅い地盤・強い地震動の4つの条件
がそろったときに発生するといえる。
しかし,その後,日本列島各地で新しい地震が起こり,液状化現
象の例が増加するにつれて,砂礫でも液状化が発生した事例・南九
州のシラス地帯で液状化現象が発生した事例・静岡県伊豆市持越の
鉱滓ダムで液状化現象が発生した事例・まさ土による埋立地での事
例など砂質地盤と異なる地盤でも発生することが明らかになった。
さらに,これまでに全国各地で見られた液状化現象は,その大部
分が沖積平野,中小河川の沿岸の低地,旧河道地帯,海岸沿いの低
地および埋立地・干拓地などで発生したものであったが,台地上で
も,そこに開発の手が及んでいる場所では,液状化現象が発生する
場合があることが例証された。台地上の開発の手が及んだ場所で発
生した液状化現象・縄文時代中期ころに多摩丘陵の関東ローム層に
発生した液状化現象・火山の山麓の固い地層に発生した液状化現象
などである。
(b)本件敷地の表層地盤の構成層は,主として段丘堆積層及び火山
灰層から成り,一部に盛土・盛土部分のN値はおおむね10以下と
小さく,また,段丘堆積層及びこれを被う火山灰層もN値は10前
後であり,地下水位も極めて浅い。支持地盤である鷹架層は砂岩・
凝灰岩類から成るが,N値が20以下の風化部分(ボーリング孔3
−b,4−b)があるので,ここで液状化が起こる危険性もある。
,,,昭和58年日本海中部地震の際の液状化現象は埋立地干拓地
盛土地および砂丘の後背低地,砂丘のすそ斜面で,また,自然の地
形・地盤よりも人工的に手を加えられた地形・地盤のほうで一層激
しかったとされている。そうすると,本件埋設設備群設置位置及び
その付近並びに管理建屋設置位置付近の表層地盤の中の盛土の部分
や,埋設設備の上面および側面に施されている覆土の部分などは,
液状化現象を引き起こす可能性がとくに大きいといえる(甲D9の
79∼84頁。)
イ地震と断層にかかる安全評価の誤り
(ア)控訴人らは,申請者が本件敷地に影響を及ぼす過去の地震想定にあ
たり地震リストを改ざんし,被害地震の震度階を無視していること,中
小地震による被害の検討を怠っていること,青森県東方沖の大地震発生
の可能性を無視していること,陸域・海域の活断層の存在とその影響を
過小評価若しくは無視していることなどを指摘し,本件安全審査が違法
である旨主張したが,原判決はこれらの点について事実摘示しながら何
らの判断も示していない。
大地震が本件埋設設備及び管理建屋損壊の要因となることは以下のと
おり明らかであるから,原判決には明らかな理由不備がある。
(イ)地震に関する被控訴人の安全審査とその基本的な間違い
a被控訴人は,敷地周辺で発生した過去の主な地震の文献調査が妥当
であるとし,さらに,本件廃棄物埋設施設はその破損により一般公衆
,「」に与える線量当量は十分小さいことを考慮して耐震設計審査指針
における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する設計地
震力に対して,適切な期間安全上要求される機能を損なわないことを
確認したとされる(乙8号証の33頁。しかし,この「耐震設計審)
査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設というも
のは,一般の建物の建築基準法上の安全性と異ならないレベルのもの
であり,震度5程度の地震に対して耐えられればよいという程度の設
計しかなされていないということである。
b被控訴人は「安全審査の基本的考え方」において,敷地外の断層,
について判断対象としていない安全審査方針が妥当なものと主張して
いる。
しかし,今日の地震学の基礎知識において,過去の地震記録ではた
かだか1000年程度しかさかのぼれない。その地域の最大規模でど
の程度の地震が発生しうるかを判断する上で,活断層の評価は決定的
に重要であり,このことを疑う専門家はいない。これを判断の枠組み
から外すことについて「一定の合理性」など微塵も認められない。
本件廃棄物埋設施設が地震災害の防止上支障がないかどうかは,本
件廃棄物埋設施設において最大どれほどの地震動が起こりうるのか,
それに対応した耐震設計がなされているかを検討することによって判
断できる。そして,控訴人らは,この施設敷地にどれほどの地震が発
生しうるかを直接に立証する手段として,本件廃棄物埋設施設周辺と
沿岸地域の活断層の存在を主張し,立証してきたのである。
cウラン濃縮裁判におけるP10証人は,控訴人らの指摘した本件廃
棄物埋設施設周辺でのプレート境界地震の危険性,海のプレート内の
地震などの可能性を認めた。また,震源からの距離と震度は比例しな
い場合もあり,P11の式が限界を持つものであることも認めた。断
層のないところで,かなり大きな規模の地震が発生する可能性もある
ことを認めた。断層が平行している場合,地下にも伏在断層があり,
これらが一時に活動する可能性も認めた。隣接する低レベルや再処理
施設の施設内に発見された断層が施設外のものと連続している可能性
があることも認めた。そして,最大の争点であったというべき,下北
半島の沖合には長さ80の活断層があるかどうかについてもこれkm
を認めたのである。
d結審時における地震学と建築工学の知見に基づく安全審査のやり直
しをすべきである。
伊方原発訴訟の最高裁判決(平成4年10月29日最高裁第1小法
廷判決)は,安全性の判断の基準が最新の科学的知見であり,訴訟法
的に言えば,事実審口頭弁論終結時の科学的な知見に基づいて訴訟上
の判断をなすべきとしている。すなわち,判断の基準は本件訴訟が結
審される時点における地震学と建築工学の知見でなければならない。
本件の訴訟に現れた証拠関係をもとに,口頭弁論終結時の科学的な
知見に基づいて判断をするならば,施設の安全性に影響を与える活断
層について判断する必要がないとする指針には科学的合理性がなく,
本件廃棄物埋設施設を襲う可能性のある地震は震度5程度までであ
り,これに耐えられる耐震設計審査指針のCクラスの耐震設計によっ
て施設の安全性が確保できるとした本件安全審査の過程には看過し難
い重大な過誤がある。
(ウ)活断層の規模と連続性の評価に当たっての誤り
a地表の地震断層の長さによって地震規模を計ることはできない。
活断層がないところでも大地震が起こりうるのであるから,短くて
も活断層が付近に知られている場合は一層危険である。地表に長い活
断層が現れている地点は,明らかに大規模な地震が襲う可能性のある
地点であり,危険である。しかし,逆は必ずしも真ではない。すなわ
ち,地表に断層が現れていなくても,また現れている部分が短くても
大規模な地震が襲う可能性は決して否定できないのである。
b断層活動の確実度に関する評価の不確かさ
活断層研究会編の「日本の活断層(以下「日本の活断層」とい」「」
う)では,断層の活動性を陸域では確実度Ⅰ・Ⅱ・Ⅲに分類してい。
る。確実度の高いとされた活断層について,強く警戒することは正し
いが,確実度が低いとされた活断層が原因となって重大な地震を引き
起こすことは珍しくないのであり,確実度が低いとされた活断層を防
災上無視することは正しい態度ではない。
c地震活動の連続性についての判断の誤り
活断層の評価にあたっては,従来は活断層を一つ一つ切り離して,
それぞれの断層が別々に活動するものと考えられてきた。そして,断
層が切断されているかどうかが地震規模を決める際の重大な争点とな
ってきた。しかし,地下で連続している可能性のある,走向方向が一
致して近接した断層については,複数の断層が同時に活動することを
想定して,地震規模を想定すべきなのである。
d活断層の評価にあたっては減衰式を用いる際に「震央距離(断層」
中央からの距離)ではなく断層距離(断層の最近接部からの距離)を
用いるべきである。
(エ)陸域の活断層について
a青森地方裁判所平成▲年(行ウ)第▲号再処理事業指定処分取消請
求事件では,再処理工場敷地に影響を与える地震を発生させる可能性
のある陸域の断層として,(a)横浜断層,(b)野辺地町∼奥入瀬川間
の断層(野辺地断層,上原子断層,七戸西方の断層,(c)後川―土)
,,,,場川沿いの断層(d)折爪断層(e)その他の断層が検討され(a)
(c)及び(e)については,第四紀後期に活動した断層でないことを理
由に,また(b)及び(d)については,第四紀後期の活動性は認められ
るが「少なくとも近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度,
の高い活断層ではない」ことを理由に,これらの断層の存在は立地条
件上問題ないとしている。
活断層研究会編新編日本の活断層1991年以下新「[]」()(「[
]」。),「」編日本の活断層というによると上記以外に出戸西方断層
(確実度Ⅲ・活動度B)が存在し,これは本件廃棄物埋設施設に隣接
するMOX燃料加工施設及び隣村にあるP12原発の安全審査では審
査対象となっている。
再処理工場と本件廃棄物埋設施設は,ほぼ隣接しているのであるか
ら,上記各断層が真実考慮の対象外とすることができるかを検討する
必要がある。
b現段階では,地質学でいう活断層とは「第四紀,すなわち,約1,
65万年前から現在までの間に活動したことがあるとみなされる断
層」を指すものとなる。
c原子力安全委員会の1981年7月20日改定による耐震設計審査
指針は,耐震設計にあたって考慮すべき地震を設計用最強地震及び設
計用限界地震に2大別したうえで,前者の地震の対象となる活断層に
,,,ついては歴史資料により過去に地震を発生したと推定されるもの
A級の活断層に属し,1万年前以降現在までに活動したもの又は地震
の再来期間が1万年未満のもの並びに微小地震の観測によって断層の
現在の活動性が顕著に認められるものとし,また,後者の地震の対象
となる活断層については,前者の地震の対象として考慮した以外のA
級の活断層,並びにB級及びC級の活断層に属し,5万年前以降現在
までに活動したもの又は地震の再来期間が5万年未満のものとしてい
る。
活断層は,いうまでもなく,原子力諸施設の立地計画の推進にあた
って最大の障害となるものであるが,上述のような経緯をみると,か
つての原子力委員会が,考慮すべき活断層の範囲を明確な科学的根拠
も示さずに著しく狭く限定したのは,地震による原子力諸施設の危険
性の問題は二の次,三の次にして,ひたすら立地計画を推進するため
であったといわざるをえない。
その後,この耐震設計審査指針は見直され,新しい指針によると,
従前の「5万年∼1万年前以降」を「13万年∼12万年前以降」と
変更されたが,科学的根拠は依然として薄弱である。
d「新編]日本の活断層」はこの観点から,前記断層のうち(a)の[
横浜断層(長さ4)は確実度Ⅱ,活動度C,(b)のうち野辺地断km
層(長さ7)は確実度Ⅱ,活動度B,上原子断層(長さ2)はkmkm
確実度Ⅱ,活動度C,七戸西方の断層(天間林断層・長さ9)はkm
確実度Ⅱ,活動度B,(d)の折爪断層(長さ44)は確実度Ⅱ,km
活動度Bの活断層として掲載している。
後川―土場川沿いの断層は,再処理施設の安全審査では,検討対象
とされたものの,第四紀層を切るものではないと考えられる,したが
って,少なくともその活動が第四紀後期に及んでいないとしているこ
とは妥当なものと判断するとして,活断層に該当しないとされた。
しかし,当該断層が野辺地層を切って発達していることは客観的に
証明されているというべきであり,再処理施設に関する安全審査の誤
りは明白である。
e吹越烏帽子岳付近に発達する断層の存在
後川−土場川沿いの断層の延長線上に断層の存在が認められる。す
なわち,石油備蓄基地の北北東4付近からさらに北北東に向ってkm
発達し,吹越烏帽子岳をほぼ北北東から南南西方向へ,下北半島を縦
断する形で約10の長さにわたって断層が存在している。km
後川−土場川断層の活動性については,前述したところであるが,
上記断層と吹越烏帽子岳付近の断層は,発達方向から見て連続したも
のと判断するのが合理的であり,活断層と推定される。
kmf上記(a)(b)(c)の各断層は本件敷地を中心とする半径30,,,
の範囲に存在するものであるが,更に30以遠100までのkmkm
,(,,範囲の断層として折爪断層津軽山地西縁断層確実度I活動度B
長さ30の大活断層,青森湾西断層などが存在する。km)
ところで,いわゆる内陸直下型地震の大部分は,大陸プレートの内
部に存在する活断層の再活動によって引き起こされるものであり,し
たがって,内陸直下型地震の震央の地下には活断層が存在しているも
のと考えることができると共に,活断層が存在する場所は,将来,内
陸直下型地震が発生する危険性を常にはらんでいる。いわゆる内陸直
下型地震の発生に際して,震源断層となった活断層の再活動した部分
の延長距離(L()と,発生した地震の規模(M)との間には,km)
logL=0.6M−2.9という関係が成り立つとするP13式を
適用しても,敷地から150離れた場所に総延長が80の活kmkm
断層が走っているとすると,その活断層が全面的に再活動した場合に
は,計算上,M≒8.0の地震が起こり,被害が生じる震央距離が3
00∼400内外にまで達することがありうる。しかしながら,km
敷地から100以内にある活断層の調査だけでは,このM≒8.km
0の地震の震源断層となる活断層は,調査対象から外れてしまい,し
たがって,この地震が敷地に及ぼす影響については検討しないままに
終わることになるわけである。ゆえに,敷地がM=8内外の地震によ
っていかなる影響を被るかを検討するためには,活断層の調査範囲を
敷地から300∼400内外も離れた場所にまで広げ,その範囲km
内に存在するすべての活断層について,詳細な調査・研究を行うこと
が是非とも必要になってくる。
アメリカでは,原子炉耐震設計の基本になる,動くかもしれない断
層については,原子炉サイトからかなり遠い場所に存在するものまで
考慮すべきこととされているのである。
g本件廃棄物埋設施設の直近にも多くの中小活断層が存在しているこ
とがわかる。一切山東方断層(長さ7確実度Ⅲ,出戸西方断層km)
(長さ4確実度Ⅲ,横浜断層(長さ4確実度Ⅱ,野辺地kmkm))
断層(長さ7確実度Ⅱ)はいずれも「日本の活断層」の野辺地km
図幅に掲載されている。また,この野辺地図幅には,名前の付けられ
た断層に平行して,名前も付けられていない活動度Ⅲに分類される小
さな断層が何本も走向している。これらの断層は,本件廃棄物埋設施
設内や再処理施設敷地内で発見されたf−a・f−b,f−1・f−
2の各断層ともその走向方向が南北,ないし北北東方向であり,極め
てよく一致している。さらに,これらの走向方向は,下北半島沖合の
海底活断層の走向方向とも一致する。
本件敷地周辺の陸域にはこの地域のプレート運動に直接関連したと
思われる断層群が存在しており,これらの断層は本件敷地の直近にま
で連続している。そして,これと平行して海域には長さ80に及km
ぶ大海底活断層が認められる。そして,これらの断層は,平成7年兵
庫県南部地震の際に起きたように,別々と考えられていた断層が地下
の構造でつながっていて,同時に活動する可能性があるといわなけれ
ばならない。
h本件安全審査は,しょせんは過去の資料を基にした調査にすぎず,
積極的に本件敷地周辺の現地踏査をして断層調査をしたわけではな
い。新たな活断層が発見される可能性は否定できない。本件安全審査
は,既に判明している活断層は勿論のこと,調査すれば発見される可
能性の高い活断層をも判断対象から除外してなされており「安全審,
査の基本的考え方」自体に,また審査そのものに重大な過誤・欠落が
ある。
(オ)下北半島沖海底断層の活動性
kma下北半島の沖合には,崖の高さが200m以上,長さ約84
の東落ちの断層が存在している。海底のために,我々はこの構造を目
にすることはできないが,高さ200m以上の巨大な断崖が長さ84
にもわたってそびえている状況は壮観といえよう。さらに,そのkm
北には活撓曲があり,これらの構造もつながっているとみられる。こ
の部分を足し合わせると全長120にも達する。この構造は日本km
「」,,で最も権威のある活断層資料である日本の活断層において旧編
新編とも一貫して活断層として認定されている。
bこの断層の活動性に関して活動性を認める見解とその根拠に対し
て,被控訴人は見るべき反論を行わず,地震の原因としての活断層に
ついて評価を行う必要がないなどと主張している。
しかし,本件廃棄物埋設施設においても「最も適切と考えられる,
設計地震力に十分耐える」ことが耐震設計上求められているのである
から,敷地からわずか10のところに全長84の活断層があkmkm
れば,これが活動すれば控訴人らが甘いと指摘してきたP11の式を
使っても,震度7の地震が本件廃棄物埋設施設を襲うこととなるであ
ろう。このような地震に対してはCクラスの建築物は到底耐えること
はできないのであり,破壊は免れがたい。このような重大な断層の存
否が,訴訟の争点とならないわけがないのである。裁判所は,この点
について,断層に対する考慮を不要とした安全審査基準(指針)の合
理性の有無の問題として判決の中で明確な判断を示すべきである。
c工業技術院地質調査所のレポートは,この場所に長さ20を超km
kmえる活断層は存在しないとしているが仮に海底表面で長さ20,,
の活断層として認識できないとしても,この断層構造の危険性は明ら
かである。平行した連続性のある活断層は一時に活動する可能性があ
るのであり,断層を細切れに評価することが誤っている。
さらに,もし,仮に海底の構造からはこの断層の近時の活動性が認
められないという前提を認めたとしても,震源の深さが20よりkm
も浅いことがこの見解の前提となっている。断層構造が存在すること
自体は争いがないのであり,この活断層が繰り返し活動しているとし
ても,その震源の深さが20よりも深ければ,その活動に伴う断km
層は海底表面に達しないこととなる。だとすれば,海底表面まで断層
,。が達していないとしても活断層の活動性を否定することとならない
実際には震源の深さが10程度でも海底という条件を考えれば,km
海底表面まで断層地形が現れないことは十分にあり得ると考えられる
のである。
dこの断層の活動性を裏付けたのが,1978年5月16日の地震の
発生である。この地震は青森県東岸の地震であり,M5.8で震源深
さは10程度とされている。宇佐美「新編日本被害地震総覧」にkm
よると「この地震の主震(2つ)の震央はα東方の太平洋海底にあっ
たが,余震の震央は海底から陸地にまたがっており,核燃料サイクル
施設の敷地にごく近い場所にも点々と存在している」と記載されて。
いる。この記載の持つ意味は重要である。余震源といえども震源であ
る。敷地の直下にも,地震活動が現存していることを示している。こ
の地震は本件の海底活断層の南端部分を震源としており,この断層を
起震断層とするものであることは明らかである。現実に地震が発生し
ているということは,その震源に活断層が存在しているということで
ある。震源の位置とこの活断層の位置とが近いというレベルではなく
完全に一致しているのであるから,むしろこの地震はこの断層の活動
性の直接的な証拠であるといわなければならない。
eこの地域のほとんどの断層が北北東から南南西に向かって走ってい
る。このような断層方向は太平洋側の海洋プレートが陸域のプレート
の下に潜り込んでいるという,プレート運動の方向とよく一致してい
る。走向方向が一致しているということは,この活断層が活動性を保
持していることを示唆しているのである。このようなプレートの運動
の方向と断層の方向との一致から見ても,この巨大な断層の活動性は
むしろ裏付けられている。
f本件廃棄物埋設施設については,少なくとも段階的な安全確保の第
一段階に該当する期間は,施設の健全性が保たれることが前提となっ
ている。
この断層の活動による地震の規模をP13式によって求めると,8
0の断層が一時に動いた場合推定マグニチュードは8に達する可km
。,,能性があるそして断層までの距離は10しかないのであってkm
本件敷地に震度7に達する地震動が襲うことは避けられない。仮にこ
の断層の内の半分以下の30が活動したとしても,その推定マグkm
ニチュードは7を超え,この場合の本件廃棄物埋設施設における震度
は6に達する。
本件廃棄物埋設施設及び管理建屋は,震度5程度の地震にしか耐え
られないのであって,震度6∼7のような地震に耐えられる設計には
なっていない。施設の健全性が保たれなければならない期間中に海底
活断層の活動による地震が発生すれば,本件廃棄物埋設施設及び管理
建屋は破壊される可能性がある。このような場合に被控訴人は本件廃
棄物埋設施設の安全性が保たれることを主張も立証もしていない。
(カ)管理期間内にピットが破壊される可能性があること
本件廃棄物埋設施設周辺には多くの活断層があり,また,本件廃棄物
埋設施設内にもf−a,f−bなどの断層がある。この両断層が活断層
であることは上記のとおりであるが,仮に,この断層が活断層でないと
しても,付近の活断層の活動により,地滑り的な地層の変異が生じる可
能性は否定できない。本件敷地内に存在する断層自体が活動するか,若
しくは付近の断層活動により,この断層部分(当然ここは弱層となって
いる)において,地層の変異が起きる可能性がある。このような場合に
はピットの健全性は維持できない。第一段階の管理期間内にピットその
ものが破壊される可能性があるのである。
ウ津波について
原判決は,海岸線からの距離,標高,地形を例にとって津波の危険性を
否定するが,以下のとおり,その認定は極めて楽観的に過ぎ,事実を誤認
している。スマトラ島沖地震津波による被害は観測史上最悪の惨事となっ
たことからすると,本件廃棄物埋設施設は原子力施設であり,このような
津波による被害は更に大きいものとなろう。
(ア)海岸からの距離
本件敷地は海岸線から3∼4離れており,なだらかな勾配を有すkm
る台地上にある。したがって,大津波が直接本件廃棄物埋設施設を直撃
したり,津波が本件敷地北側を流れている老部川を遡上したり,又は敷
地南側に隣接する尾駮沼に侵入して川や沼の斜面をはい上がり斜面崩壊
を起こし,更には周辺台地の地滑り・崩壊を誘発し,ひいては本件廃棄
物埋設施設を破壊する危険性がある(遡上例として,安政3年7月23
日の「日高・胆振・渡島・津軽・南部の地震」により,八戸市内におけ
る約11の馬淵川逆流が記録されている。km)
(イ)標高について
本件敷地の標高約30mを超え若しくはそれに近い波高を記録した過
去の大津波の例として,明和8年3月10日の八重山地震津波(85.
4m,明治29年6月15日の明治三陸地震津波(38.2m,平))
成5年7月12日の北海道南西沖地震(30.6m,昭和8年3月3)
日の三陸地震津波(28.7m)などがある。
(ウ)地形について
リアス式海岸において大津波が発生し易いことは事実であるが,平坦
な地形では起きないかといえば,上記八重山地震津波,北海道南西沖地
震津波の例を見れば明白である。
八重山地震はマグニチュード7.4であったが,この程度若しくはこ
れを超える地震は,本件敷地を度々襲っており,津波発生の危険性を無
視できる根拠とはなりえない。
()水理に関する原判決の誤り4
ア断層沿いの「水みち」の存在
(ア)申請者の調査結果について
a基礎的なボーリングデータの不足と操作
事業許可申請書の添付書類によると,図3−11,3−15におい
て,本件廃棄物埋設施設の敷地では合計9孔のボーリングがなされて
いる。ところが,このうち,2−b(45m,3−b(29m,))
3−c(97m,4−b(16m,5−b−1(29m)の合))
計5孔しかボーリング柱状図が提出されていない。2−c,4−c,
,。5−c5−c斜坑の4孔について柱状図が示されていないのである
現に存在しているはずのデータの一部しか公開しないという申請者の
対応には首を傾げざるを得ない。さらに公表されているデータにも極
めて疑問な点がある。4−b孔のボーリングはf−b断層の近くであ
るが,なぜか深度が16mしかないのである。このボーリングデータ
だけが,極端に深度が浅いのである。4−b孔は16mよりも,もう
少し掘進するとf−b断層にぶつかる位置関係になっている。申請者
が,このボーリングを途中で掘止めにしたのは,ここの地層の状態が
非常に悪いことが明らかになるのを恐れて,ボーリングを堀止めにし
たのである。
bトレンチ調査によって敷地周辺の断層付近に破砕帯があることが裏
付けられる。
乙2号証の図3−16(2(3−54頁)によると,f−b断層)
沿いに礫岩が広範に分布している。礫岩である以上,透水性の高い部
分であることは否定できないのである。安全審査資料では,再処理工
場敷地のf−1断層と異なり,f−a,f−b断層について破砕帯は
ないとされている。しかし,地層調査では「断層を境して接する岩,
石が混在した部分」があることが明記されている。ここでは「断層,
を境して接する岩石が混在した部分」がf−a断層について幅10−
160,f−b断層について幅3−25に渡って認められるcmcm
とされている。P9証人は,この部分の性質について,再処理工場の
敷地内に認められるf−2断層の破砕帯と同じようなものかという問
いに対して同じと考えてよろしいと思いますと回答しているP,「」(
9証言66頁。)
P8証人の45回口頭弁論調書添付の図面には,断層の両側の部分
で,断層面と地表面の境のところが凹んでいることが明らかである。
検証調書105頁に掲載された検証目的物24のf−b断層の現況に
よると,断層の境界部分の風化が他の箇所よりも著しく速く進んでお
り,この場所が土壌化し,草が生えてきている(写真右端。この検)
証結果の写真において,斜面に草が生えているのは,この断層境界の
部分だけである。
c透水係数の高い値の断層に沿った規則的な連続性
甲D56号証によれば,断層周辺に透水係数が相対的に高い点が集
中していることは一目瞭然である。透水係数の高いところは,地層に
割れ目がある部分であり,割れ目というものは,文字どおり,断層に
沿っているのであるから,普通は連続しているのである。P9証人は
「高い透水係数の観測されたボーリング孔の隣で,左右に延長してい
くと低い係数が観測されている例があるという趣旨である」と説明し
た(P9証言62頁。しかし,このデータを検討すれば,断層に沿)
って斜めに10マイナス3乗オーダーないし10マイナス4乗オーダ
ーのデータが並んでいるのである。
隠されているデータを開示し,また,ボーリングを掘止した箇所を
追加調査し,そのデータをもって,透水係数の高い箇所の不連続を証
。,明するべき責任は被控訴人側にあったのであるそれをデータ不足で
「」それらの透水係数の多い断層部分がすべて連続していわゆる水みち
(地下水の浸透路)になっているとまで認めることはできないという
のは,立証責任を完全に控訴人側に転嫁してしまったものといわざる
,。を得ず採証法則の適用を誤った事実誤認があるといわざるを得ない
d岩盤透水試験の結果について
甲D41号証の58頁以下の「62−2孔のP−Q曲線について」
によると,岩盤透水試験データの60頁45−50mの部分と,同6
1頁50−55mの部分で,データが1万の大台の極めて大きな数値
を示していることがわかる。他の箇所と比較して100倍以上の著し
く高い値を示している。同号証の66頁以下の「62−3孔のP−
Q曲線について」によると,68頁の61.5−66.5mの箇所に
も1000台の数値が観測されている。このように数値が非常に高く
なっているところは,まさに断層に沿った箇所であり,弱層なのであ
る。明らかになっている証拠を曇りのない目で見つめれば,断層に沿
って岩盤透水試験結果が著しく高くなっており,水みちがあることが
示されているのであり,少なくとも,これを否定する根拠は具体的に
は何も示されていないといわざるを得ない。
eラドン法によるデータの断層に沿っての連続性
ラドン法によるデータをみれば,f−a断層に沿って南西側から北
東側に線状に高い値の部分が連続している。ラドン/トロン比の高低
の分布が認められ,断層が存在しているところが高い値になっている
ことが示されているのである。
fシュミットロックハンマー検査でも破砕帯部分が弱くなっている。
「地盤の安定性について(甲D189)は,この弱層部分につい」
てトレンチにおけるシュミットロックハンマー検査を行った結果であ
る。ここで反発度の低い箇所として指示された箇所が地層の中の弱い
箇所である。この検査はどこを叩くかでいくらでも操作できる性質の
ものである。P9証人も認めたように,破砕帯の中にも礫のところを
叩くか,風化したところを叩くかで結果はいくらでも操作できる試験
である。しかし,このような操作可能な試験であるにもかかわらず,
,。やはり甲D189号証の結果は断層に沿って弱層が発見されている
すなわち,ENE系のトレンチ調査では,混在部は33あたりである
が,ここが最も低い数値が出されている。申請者としては,混在部の
数値をできるだけ高く見せたかったのであるから,この混在部の数値
は調査結果でも他よりも低いが「もっと低いかもしれませんよ」と,
いう問いに対しP9証人は正直にそれは確かにと答えているP,「」(
9証言67頁。そして,最も低いデータが出ているところは混在部)
であることは認めたのである(P9証言68頁。)
gPS検層試験は未実施である。
本件敷地においては,地質を面として把握するための試験が実施さ
れていない。そのような試験として考えられるPS検層調査が実施さ
れていない(P8証言〔第46回弁論実施分〕20頁。本件におい)
ては明らかになっている試験データのすべてにおいて,断層周辺,断
層沿いに地層が弱いこと,水が流れやすい層があること,空洞がある
ことがはっきりと示されている。もし,被控訴人がそれにもかかわら
ず,この敷地において,断層沿いに弱層がない,断層に沿って透水係
数の高い部分が連続していないと主張するのであれば,できる限りの
追加調査を行うべきであった。
hトレンチ調査結果について
原判決は,ボーリングデータが操作されている疑いを指摘した箇所
においては,この疑いを否定する根拠として,試験結果の総合的判断
とトレンチ調査結果を挙げ,地盤として問題がないという結論を導い
ている。しかし,トレンチ調査結果はむしろ控訴人らの主張を裏付け
る内容である。補正申請書の図3−16(1)には,明らかな断層が
示されているが,その断層地表部分には2カ所にわたって,はっきり
とした凹みがあり,この凹みには礫が貯まっている状況がトレンチの
展開図に示されている。これは,破砕帯が地表部分で風化して弱層に
なっていることを示している端的な証拠である。
i結論
このように,①申請者が作成したすべての調査結果が,f−a,f
−b断層沿いに破砕帯があり,断層に沿って透水係数の高い場所が連
続していること,②ラドン法によってもf−a,f−b断層沿いに数
値の高い箇所が連続していること,③岩盤透水試験においても断層沿
いに他の箇所と比較して著しい高い値を示した箇所が数カ所あり,こ
れも前記断層沿いであること,④トレンチによるシュミットロックハ
,,ンマーでもこの混在部=破砕帯部分が最も弱くなっていることなど
断層沿いに弱い部分,水が透りやすい部分があることを示している。
本件廃棄物埋設施設に係る周辺住民の被曝評価に当たっては,この
断層沿いに水が速やかに流れる途があるという前提で被曝評価を行う
べきであった。少なくとも,この断層沿いに水が流れるような状態に
なっているかどうかを,追加のボーリングデータを出させるなり,追
加の透水係数の調査,追加の岩盤透水試験の実施などを通じて,この
ような地層の弱くなっている部分が連続していないかどうかを検証し
たうえで,判断をするべきであった。このような手続きがとられてい
ない,本件安全審査の過程には看過し難い過誤と欠落が存在する。
(イ)文書提出命令によって,提出されたボーリングデータは控訴理由を
裏付けるものであった。
a仙台高等裁判所の平成19年6月4日付け文書提出命令に基づき,
遂にP3株式会社は秘匿されてきたボーリングデータのうち,断層付
近の3カ所について地質柱状図を提出した。提出されたデータは,平
成元年10月P2センター廃棄物埋設事業許可申請書(一部補正)3
−44頁・図3−8及び,3−47頁・図3−10に図示されている
,,()。ボーリング孔2−dD−55−c垂直孔の地質柱状図である
b2−dのボーリングデータについて
このデータは,孔口標高44.94m,掘削深度はGL.0.00
∼−45.00mである。
層別では,GL.−8.46m以下はすべて鷹架層中部層の砂岩で
ある。2−d孔は,北東から南西方向に走っているf−a断層西側約
十数mに位置している。深く掘るほど断層からは遠ざかる形となって
いる。
このボーリングデータには,次の割れ目があると特記されている。
深さ30.18m30.24m付近傾斜30°
この部分の地盤は深さ20mと深さ30mのところで,最大コア長
が20程度で場所によっては20を切っている。24∼25cmcm
mの部分はR・Q・Dも70%以下であり,かなり劣悪な地盤が続い
ている。割れ目のある箇所とも近接している。この部分は,断層から
15mと少し離れており,断層による影響は顕著とはいえず,むしろ
断層に影響されない平均的な鷹架層中部層の状態を示している。
cD−5のボーリングデータについて
このデータは,孔口標高44.27m,掘削深度はGL.0.00
∼−145.00mである。かなり深く掘削している。
層別では,GL.−1.75∼−68.55mまでが鷹架層中部層
であり,−68.55m以下は鷹架層下部層である。
このボーリングデータには,次の割れ目があると特記されている。
深さ3.55−4.5m付近傾斜20−50°
深さ7.10m付近傾斜45°
深さ10.14−14.95m付近傾斜10−80°
深さ18.82−20.90m付近傾斜10−70°
深さ22.24−22.95m付近傾斜40−50°
深さ24.65−25.20m付近傾斜40−50°
..()深さ2625−3065m付近傾斜10−80°葉理
深さ26.55−32.10m付近傾斜30−80°
..()深さ3065−6837m付近傾斜10−20°葉理
..()深さ6837−6855m付近傾斜45−55°葉理
深さ68.55m付近傾斜55°
以下は鷹架層下部層に当たる。
鷹架層中部層と鷹架層下部層との境界には,傾斜55°の割れ目に
幅0.1∼0.2(確かにこのように表示されているが,他の数cm
値の単位がすべてmであることからすると,この記載は0.1∼0.
2mの誤りかもしれない。この点を明確にするためにも,このボーリ
ングコアデータのうち,68.55m付近の写真の提出を求める)。
の固結粘土が挟まれているという。この固結粘土は断層粘土であると
考えられる。そして,この部分こそ,f−a断層そのものであると考
えられる。このボーリングデータは,非常に劣悪な地盤状態を明らか
に示している。
深さ25mより深いところは,全て割れ目があるということを示し
ており,この部分の最大コア長は20程度で推移しており,深さcm
。,31mの箇所では10程度であるR・Q・Dも29mで40%cm
31mで30%という非常に低い値を示している。
乙2号証の3−13頁のf−a断層の説明,3−53頁,図3−1
6(1)に示されている同断層のトレンチスケッチをみると,この断
層沿いには砂質軽石凝灰岩と軽石質砂岩との境界付近及び軽石質砂岩
と砂岩の境界付近に「断層を境して接する岩石の混在した部分」が存
。,。,在するこれこそ断層破砕帯であることは言うまでもないしかし
このD−5孔ボーリング柱状図には,破砕帯の位置は明示されていな
い。
また,乙2号証の3−13頁のf−a断層の説明では,f−a断層
の断層面には固結,密着している部分と鏡肌などを有する部分が認め
られるとされているが,鏡肌などを有する部分は明示されていない。
しかし,このボーリングデータに表れている多くの割れ目はf−a
断層沿いの破砕帯であると考えられる。とりわけ,深さ26.25∼
68.55mの砂岩の岩質がはるかに劣悪である。
すなわち,鷹架層中部層のGL.−1.75∼−23.20mの砂
質軽石凝灰岩,GL.−23.20∼−25.65mの軽石質砂岩及
びGL.−25.65∼−26.25mの礫岩とあわせた24.50
mの部分とGL.−26.25∼−68.55mの砂岩とを較べた場
合,前者よりも後者のほうが,岩質がはるかに劣悪になっているとい
うことである。
たとえば,最大コア長が20未満の箇所やR・Q・Dの数値がcm
60%未満の箇所は,すべて後者の中だけに存在している。また,軽
石凝灰岩と粗粒砂岩とについて一軸圧縮強度(単位:kf/m)をg2
,().,.較べると前者試料数:9では平均値:602最大値:69
3,最小値:44.4,標準偏差:6.9となっているのに対し,後
者(試料数:12)では平均値:18.7,最大値:27.3,最小
値:11.3,標準偏差:6.0となっており,後者の最大値は前者
の最小値の61%余りにすぎないものとなっているのである(甲D第
41号証の2(28)頁・図−2参照。この部分の地盤の劣悪さは)
f−a断層およびその破砕帯に起因していることは明らかである。
なお,鷹架層下部は最悪な部分でもR・Q・D85%以下にはなっ
ておらず,最大コア長さも概ね40以上で,岩質は悪くない。cm
d5−c孔のボーリングデータについて
今回公開された5−c孔ボーリングデータは,垂直に掘削された方
の5−c孔のボーリングデータであり,この隣に5−c斜孔のボーリ
ングが掘削されている。
この5−c孔の孔口標高は54.52m,掘削深度はGL.0∼−
65.00mである。
このボーリング孔では,深さ7.00m以下はすべて鷹架層中部層
である。この孔口は,f−b断層の北北西に位置している。このボー
リング孔は深いところほど同断層からは離れていく傾向にある。
このボーリングデータには,次の割れ目があると特記されている。
深さ7.00−7.70m付近傾斜10−20°
深さ10.05−14.75m付近傾斜5−70°
深さ16.50−18.50m付近傾斜10−30°
深さ20.90−27.80m付近傾斜5−80°
深さ30.30−34.35m付近傾斜5−80°
深さ53.65−53.85m付近傾斜5−15°
特に,深さ30mから36mの部分にR・Q・D60%以下,最大
コア長20程度のかなり劣悪な地盤が続いている。この箇所に割cm
れ目が集中していることもわかる。この部分の地盤の劣悪さは,f−
b断層あるいはその破砕帯が影響している可能性がある。
おそらく,5−c斜孔のデータはより厳しいものであることが容易
に推測できる。
e今回公表されたボーリングデータは,これまで控訴人らが主張して
来た,f−a,f−b断層沿いに破砕帯があり,断層に沿って透水係
数の高い場所が連続していること,ラドン法によってもf−a,f−
b断層沿いに数値の高い箇所が連続していること,岩盤透水試験にお
いても断層沿いに他の箇所と比較して著しく高い値を示した箇所が数
箇所あり,これも前記断層沿いであること,トレンチによるシュミッ
トロックハンマーでも,この混在部=破砕帯部分が最も弱くなってい
ることなど,断層沿いに弱い部分,水が透りやすい部分があるという
主張を明らかに裏付けるものであった。
本件廃棄物埋設施設に係る周辺住民の被曝評価に当たっては,深地
層若しくは準深地層における地下水の放射能汚染による被曝評価と併
せて,この断層沿いに水が速やかに流れる水途(みずみち)があると
いう前提で被曝評価を行うべきであった。
このように,この断層沿いに水が流れるような状態になっているこ
とを前提とした安全審査が行われていない本件安全審査の過程には看
過し難い過誤と欠落が存在する。
(ウ)最終的に放射性物質が尾駮沼へ流入するからといって,本件廃棄物
埋設施設周辺の地下水が放射能によって拡散汚染されないということに
はならない。
更に,埋設設備の施工時に割れ目が発見された場合に対策が可能であ
るといっても,割れ目の調査範囲は埋設設備が設置されるごく狭い地域
に限られるから,何の対策にもならない。
イ本件埋設設備群と地下水の水位変動領域について
(ア)本件安全審査は平成2年11月まで続いているにもかかわらず,本
件埋設設備群の周辺の地下水位に関するデータは昭和63年3月のもの
を最後に,その後のデータは全く提出されていない。
(イ)本件埋設設備群の敷地においては,融雪,降雨による地下水の季節
変動が大きく(甲D165。例えば2−23頁などでは変動幅が3m以
上にも及んでいる,昭和61年10月からの敷地造成により地下水。)
位が低下した後も地下水位の低下が続いている。
例えば,本件埋設設備群のすぐ東横の甲D165号証のD−5地点の
観測井(以下「D−5の観測井」といい,同号証に掲げられた観測井を
同様に略称する)では,昭和61年6月の造成前の地下水位が標高4。
2m程度であったのが,造成後の昭和62年10月には標高39m程度
(,,),にまで低下しP9証言49∼50頁99頁甲D165の2−9頁
昭和62年3月において標高39m程度であったが,昭和63年3月に
は標高37∼38mにまで低下している(P9証言50∼51頁,10
1頁,100頁,甲D165の2−11頁,2−10頁。もしもこの)
ペースで地下水位の低下が続いていたら,平成2年11月の事業許可時
には,地下水位の標高は34m程度になり,まさに埋設設備群は地下水
位の季節変動領域に入ることになる。
甲D165号証の各観測井の地下水位観測結果図に示される昭和61
年中の地下水位のデータから読みとれる年間最低水位(最近接水位)と
本件埋設設備群の平均高さ(標高35m)との差及び年間最高水位と最
低水位の差による水位変動領域の幅と,同じ観測井について,昭和63
年3月における地下水位の同様の値を比較すると,本件埋設設備群の敷
地においては,本件埋設設備群に近い観測井で顕著に地下水位が下がっ
ている上に,本件埋設設備群から離れたところも含めて全体に地下水位
が下がっていることがわかる。例えばB−5,C−6,D−6,D−7
の各観測井は造成地外であることが甲D165号証2−8頁と2−4頁
の対照から明らかであるが,これらの観測井でも地下水位の低下が見ら
れる。
,,そうすると本件埋設設備群に最も近いD−5の観測井のデータから
昭和63年3月時点においても地下水位の変動領域と本件埋設設備群の
高さの差はかなり小さくなっていたものであり,この後も造成の影響に
加えて造成地以外でも長期的に地下水位が少しずつ下がる傾向が見られ
るのであるから,早ければ本件安全審査中,早くないケースでも現在な
いし近い将来には地下水位の変動領域が本件埋設設備群の高さに達して
いることが合理的に予測されるのである。
(ウ)他方,申請者であるP1は,一旦掘削した地下水位観測井について
は殊更に埋めてしまわない限り,昭和63年3月以降についても観測デ
ータを保持しているものである。それにもかかわらず,昭和63年3月
以降事業許可までに2年半もの期間があったのに,その後の地下水位の
観測データを安全審査に提出しなかったのである。これは,当然,その
後の地下水位が申請者に不利な方向に動いているためと推認できる。そ
うすると,事業許可時には,昭和63年3月よりも埋設設備群敷地の地
下水位が低下し,地下水位の季節変動領域が埋設設備群の高さに迫って
いたか,あるいは埋設設備群の高さに達していた可能性があるというべ
きである。
少なくとも安全審査は平成2年の秋まで続けられていたのであるか
ら,昭和63年3月までのデータが地下水位の低下傾向を示している以
上は,昭和63年3月以降の地下水位のデータの提出を求めることは不
可欠であったというべきである。それを怠り,地下水位低下傾向が見ら
れたにもかかわらず,許可時点の地下水位の動向をデータで確認しない
ままに事業許可を行ったのであるから,本件安全審査には,その調査・
審議の過程に看過し難い過誤・欠落があると言わざるを得ない。
ウ井戸水シナリオに係る原判決の誤りについて
(ア)井戸水シナリオの理解にかかる判断の誤り
α周辺住民は,浅井戸にしろ深井戸しろ,生活用水を地下水に大きく
依存しているのであり,地下水の流動の態様が水理学的に確定されてい
ない以上この放射能汚染の危険性を否定することはできない。
そして,控訴人らは,本件廃棄物埋設施設によって直ちに地下水の放
射能汚染が発生すると主張しているのでもない。
原判決は,井戸水シナリオという被曝評価の方法を,単なる地下水の
流動の態様(流れの方向)と混同し,かつ本件廃棄物埋設施設が300
年を一単位とする,すなわち時間というより歴史を単位とする施設であ
ることを自覚しないものであり,判断過程に誤りがある。
第1に,井戸水シナリオを想定・評価するのは,埋設後から約300
年後であり,このような歴史的な先の期間を,現時点で本件廃棄物埋設
施設の自然条件および人間の技術力などで評価したり予測したりするこ
とができるのか?これはできない。
第2に,これから300年後にも,低レベル放射性廃棄物中には有意
な放射能毒性を有する物質が存在することである。
第3に,要するに低レベル放射性廃棄物と言われてはいるが,長期に
わたる放射能毒性を保持するものであり,これら廃棄物による被曝評価
(ここでは『井戸水シナリオ)が当然に要請され,そして被控訴人は』
この井戸水シナリオを途中まで実施したのに,この結論が安全審査の基
準である5を超過してしまったので,被控訴人が井戸水シナリオmSv/y
という評価手法自体を全体として放棄してしまったのである。
(イ)井戸水シナリオを被控訴人が放棄したことについての原判決の誤り
第1に,原判決は,埋設地周辺においては透水係数が低いために井戸
を堀削しても十分な揚水量を得ることができないから井戸水の利用は考
え難いとする。しかしながら,透水係数が低いために十分な揚水量が得
られないので井戸水の利用は考え難いというが,本件廃棄物埋設施設の
管理期間とされる300年後の本件地質の透水係数や地下水流動を現状
で予測することは不可能である。また,現代の人(=私たち)が本件廃
棄物埋設施設に井戸を掘ることを考えないことが,300年後の未来の
人にその考えを如何に継承できるのか。これを予測したり予測する手法
は現在,全く存在しない。
第2に,原判決は「低レベルとはいえ放射性廃棄物が埋設された本件
設備内に井戸を掘ることは想定し難い」というが,上記第1のとおり,
事実上自然放置(管理放棄)される状態で,本件土地が放射性廃棄物の
埋設地であることを誰が指摘できるのか。
すなわち,危険の指摘が将来(300年後)不確実であることを想定
し,現時点でその危険性を予測し,評価することが井戸水シナリオなの
である。
第3に,以上より井戸水シナリオは,まさに被控訴人が主張する本件
廃棄物埋設施設の地質環境をふまえて,あえて保守的な条件を設定して
被控訴人自身によってなされたものである。
したがって,被控訴人が,自ら設定したシナリオ(本件廃棄物埋設施
設による被曝評価のシナリオ)を放棄したことにつき,その適否を判断
することなく被控訴人の本件処分を是認した原判決の判断は明らかに誤
っている。
()航空機事故評価について5
ア原判決は,航空機事故を審査対象外とした「基本的考え方」に対し,何
ら言及しないままに航空機事故の安全評価を行なっているが,本件廃棄物
埋設施設が膨大な量の放射性物質を取り扱い潜在的な危険性は原子力発電
所に劣るものではない。
他方,航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性は零でなく何パー
セントかの可能性が残る以上,事故評価の必要性は生じるのである。この
ような事態に対応して万が一の事故の防止対策を講じるのが安全審査であ
るべきところ,その審査基準そのものが存在しないということは,まさに
伊方最高裁判決が要求する「調査審議において用いられた具体的審議基準
に不合理」があった場合に該当する。
したがって「審議基準」そのものに不合理な点があり,本来は航空機,
墜落評価を指針に明記してそれに基づいた評価をすべきなのであるから,
原判決には,上記の不合理を看過した違法性がある。
イ航空機墜落の危険性
(ア)航空交通のふくそうする空域のうち,主に特定の飛行場の周辺が特
別管制区()として公示されている。この空域でpositivecontrolarea
は管制機関から特に許可された場合を除き有視界飛行方式(VFR)に
よる飛行を行なうことはできない。β基地及び本件廃棄物埋設施設を含
む核燃料サイクル基地をすっぽりと含む空域が「β特別管制区」に指,
定されているその理由は,ひとことで言えば航空機の往来が他空域より
頻繁な過密空域にあたるためである。
飛行許可や計器飛行が義務づけられているのは,制限しなければ航空
機事故が多発する危険が大きいからにほかならない。
(イ)原判決が指摘するように,原子力施設上空の航空機の飛行が法令あ
るいは申合せで規制されていることは事実であるが,このことから「本
件廃棄物埋設施設への航空機墜落の可能性は極めて小さい」などという
結論は導き出せる訳がない。飛行規制はあっても,その実効性が伴わな
ければ絵に描いた餅にすぎないからである。
第1に,施設に墜落する可能性がある軍用機は,必ずしもその上空を
飛行する航空機に限らない。施設上空外でトラブルを起こした軍用機が
不可抗力的な要因,例えば制御不能状態で施設のエリアに侵入し,本件
廃棄物埋設施設に衝突する事態は十分想定される。特に,F16のよう
(()),な超音速機最高速度マッハ21秒間に680mを飛ぶであれば
事故後の回避行動を期待することは極めて困難である。また,訓練であ
る以上熟練の飛行士ばかりが操縦するとは限らない。操縦技術が未熟な
パイロットが操縦ミスによって制限空域に侵入することも起こりうる。
パイロットの不注意によって施設上空に到達する事態も大いにありうる
ところである。
第2に,航空法に基づき(旧)運輸省が発行する「航空路誌」には,
「航空機による原子力施設に対する災害を防止するため,下記の施設付
近の上空の飛行は,できる限り避けること」と記載されていることから
もわかるとおり,飛行規制は,法的強制力を伴わない単なる「指導」に
過ぎない。米軍機には,航空法は適用されないが,日米合同会議におい
て飛行規制の申入れをしているから遵守されるというが,これは,日本
国から米軍に対する単なる要請若しくは期待にすぎず,飛行禁止に対す
る罰則もなく,他に飛行制限を強制する手だては全く存在しない。自衛
隊機にしろ,米軍機にしろ,平時ならば意図的な施設上空侵入は比較的
回避されるかもしれないが,有時においては,戦闘機が最短距離で離発
着し攻撃目標へ直行するのがあたり前であり,その直下に核燃基地が存
在するからといって,これを迂回するなどということは軍事常識からは
到底考えられない。いわんや,過失若しくは不可抗力による侵入を防止
する有効な手段,方法を具体的に講ずることは極めて困難といわざるを
えない。
第3に,β米軍の1998年11月1日付けの作戦教範XX−XXX
によると,北日本飛行禁止:回避区域として「α」の核燃料サイクル施
設が指定されている(甲D205。これによると,同施設の「上空は)
,()」。,飛行禁止3海里55に近づくなとされているしたがって.km
γ射爆撃場と本件廃棄物埋設施設までは約10離れているものの,km
爆撃訓練コースは5.5の飛行禁止空域と近接する。km
,,また禁止エリアと訓練エリアの最短距離は約5∼6であるからkm
訓練中のF16の速度をマッハ2=秒速680m若しくはマッハ1=秒
速340mとした場合,7∼8秒ないし十数秒で禁止空域に侵入するこ
とになる。実際の訓練パターンが甲D206号証の第1図のように南北
,.。,にずれると当然に55の禁止空域を侵犯することになるなおkm
甲D206号証の第1図によると,F16による模擬爆弾の誤投下地点
が図示されているが,これからも米軍機が飛行禁止の5.5内に侵km
入していることは明白である。このような事態は「米軍機の施設上空,
の飛行禁止」指定がいかに有名無実なものであるかを如実に物語ってい
る。
(ウ)墜落の可能性は大きい。
a根拠を欠く墜落確率
(a)被控訴人は,航空機墜落の発生確率を算定するにあたり,その
評価対象機種としては,γ射爆撃場で射爆撃訓練を実施している航
空機だけを対象とすれば足りるとした。
しかし,本件廃棄物埋設施設に墜落する危険のある航空機は,上
記以外にβ空港発着の民間・軍用の航空機などがあり,訓練機だけ
とは限らない。約28遠方に離れているから大丈夫という問題km
ではない。発着の回数が多ければ墜落の可能性も増え,出発直後,
着陸直前に事故を起こした航空機が,日航ジャンボ機のように迷走
したり操縦不能状態で本件廃棄物埋設施設に墜落する危険性は高
い。
(b)本件廃棄物埋設施設と射爆撃場とはわずか10しか離れてkm
,,おらず極めて高い頻度で軍事訓練が行われていることから見ても
決して「可能性は極めて小さい」などとはいえないし,諸外国の基
準で見ても防護設計の必要な墜落確率に達している。例えば,アメ
リカの原子力施設の基準を見ても「軍事施設,その他サイトに影,
響を与えるもので射爆撃場のようなものについては,サイトから2
0までを対象とする必要がある甲D20727頁軍mile。」(。),「
mile用機に関しては,頻度の低い訓練ルートについては航路から5
以上離れていれば良い。ただし,1000(/年)以上の場合をfl
除く(甲D207の25頁)とされており,射爆撃場や頻度の。」
高い訓練ルートについては特に危険性が高いことから相当離れたと
ころまで事故の評価をする必要があるとされている。本件廃棄物埋
設施設の付近にあるのは射爆撃場であり,年間1000回どころか
数万回の訓練飛行がなされているのである。
b相次ぐ墜落等の事故
本件廃棄物埋設施設上空は,特別管制区に指定されるほど多数の航
空機が飛行している。γ射爆撃場の訓練機に限らない。そして,これ
まで施設周辺で数々の墜落事故,落下事故を起こしているし,他の地
域においても本件廃棄物埋設施設の事故誘引となるような事故・トラ
ブルを起こしている。
昭和27年から現在までの事故件数は,以下のとおりである。
墜落・不時着,着陸失敗事故70件
模擬爆弾誤投下,投棄事故39件
落下物事故39件
このようにF16,F1などの軍用機が現実に本件廃棄物埋設施設
周辺で重大事故を起こしているという事実は,本件安全審査がいかに
机上の空論であるかを如実に物語るものである。
ウ事故評価の誤り
(ア)エンジン推力の喪失を前提とした誤り
a民間・軍用を問わず,航空機がエンジン停止以外の原因で操縦不能
となる事故は数々ある。したがって,墜落原因ごとに本件廃棄物埋設
施設への墜落の危険性の有無,衝突速度,施設破壊の有無・程度を検
討・評価すべきであり,本件安全審査の想定は極めて恣意的・限定的
である上に,非科学的な論理の飛躍がある。
b事故の要因
(a)事故要因は,大別すると次のように分類できる。
①機材関連電気系,操縦系,降着装置,燃料系,エンジン,油
圧・空気圧系,機体構造など
②運用関連コントロールロス,射爆撃訓練,地表衝突(Gによ
る意識喪失,高度認識喪失,空間識失調,空中衝突,離着陸,)
その他(燃料切れ)
(b)米国空軍発行のの報告によると,1FlyingSafetyMagazine
983∼89年の「クラスA事故(100万ドル以上の修理費等」
の損害を要する事故又は死亡事故)につき,全体の件数は237件
でエンジンに原因のある墜落事故はわずか47件(約20%。F1
6のみでは約35%)に過ぎない。このことから,エンジン推力。
喪失を前提とした事故評価が明らかに恣意的であることがわかる。
(c)運用関連事故としては,コントロールロス,地表衝突,空中衝
突などが考えられるが,γ射爆撃場での訓練機(米軍機F16,自
衛隊機F4など)につき,上記事故要因のうち空中衝突と空間識失
調による地表衝突に絞って,事故の危険性を検討する。
①空中衝突
軍用機の空中衝突は多発している。γ射爆撃場では,空中衝突
は起きないと言えるであろうか。本件安全審査では,訓練機の射
爆撃訓練は1機ごとに地上の目標に対し波状攻撃を加えるもので
あるから,他機と衝突(接触)することはないという前提に立っ
ていると思われる。しかし,この前提は軍用機の飛行実態を全く
知らないか,無視した議論である。すなわち,訓練機は,地上攻
撃時は上述のような飛行形態になるであろうが,訓練の前後は,
数機が,最低2機が編隊飛行を行なうことが多い。β基地を飛び
,,立ってγ射爆撃場へ向う途中あるいは訓練終了後帰投する際も
数機(2機ないし4機)編隊を組んで飛行するのが通常である。
編隊飛行中に空中衝突(接触)事故が起きる危険性は常識でわか
ることであり,公知の事実である。エンジントラブルだけを想定
した安全審査の不十分さは誰の目から見ても明らかである。
②空間識失調
前記報告によると,地表衝突は,運用関連事故の中で最も発生
件数(55件)が多く,約40%を占め,そのうちF16の割合
は45%(25件)に上る。地表衝突の要因としては,前述のよ
うにG(重力)による意識喪失,高度認識喪失,空間識失調など
が考えられているが,その中でも空間識失調が事故発生の高い確
率を占めていると言われている。
γ射爆撃場での訓練は,視覚条件の良好な時しか実施しないわ
。,けではない軍事訓練は悪条件下でこそ実施する必要性が強いし
実際夜間訓練も行われている(甲D221)のであるから,この
原因による事故の発生も十分あり得るのである。
そして,視覚による空間識失調は,甲D217(45頁以下)
Cloudに記述されているように,上記の「情報不足」以外にも「
(リーン,自動運動,相対運動による錯覚,眼のちらつlean)」
き,一点集中,偽の垂直線,星と地上・海上の灯火などさまざま
であり,本件廃棄物埋設施設周辺を飛行する航空機,訓練中の軍
用機が上記の原因により空間識失調に陥るおそれは現実問題とし
て無視できない。
c事故機の施設到達可能性について
エンジン推力喪失事故のみを想定した理由は,それ以外の要因でト
ラブルが起きた場合には,パイロットが回避行動をとるから事故機は
施設まで到達しない,という前提に立っているからである。
機材関連事故のうち降着装置の故障ケース,運用事故関連事故のう
ち離着陸ケースは除外できるが,その他の事故タイプでは施設到達の
可能性を無視できない。操縦系,燃料系,油圧・空気圧系,電気系に
故障が発生しても,エンジンは動いているから機体は飛行を継続する
ので急速な墜落とはならない。コントロールロス,地表衝突,空中衝
突の事故タイプにおいても同様である。γ射爆撃場でも,編隊飛行中
の訓練機が空中衝突し,その衝撃で機材に故障をきたしたり,パイロ
ットが操縦不能に陥り本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性は十分に
考えられる。
事故機は本件廃棄物埋設施設の間近を高速飛行しているのであるか
ら,事故時における機体の位置関係(方位,高度,衝突角度,落下)
速度,落下角度次第では,グライダー状態で滑空することなく,事故
機がエンジン推力を維持したまま本施設に急速墜落する可能性は大い
にありうるのである。
「回避行動」の可能性の点は,エンジン停止以外の原因で墜落する
事故機の中には回避行動をとれないものもある。また,エンジンが停
止しても操縦桿が機能していれば施設との衝突を回避できるのである
から「推力喪失」のケースだけを想定することは恣意的である。した
がって,推力喪失のケースだけを想定するのではなく,推力を維持し
ている場合などあらゆるケースを想定すべきである。
dエンジンの推力が維持されたままで墜落する場合,衝突速度は「最
良滑空速度」よりもはるかに大きくなる。本件安全審査の誤りは明白
である。
(イ)衝突速度を150m/秒と想定したことの誤り
a1次審査メモである甲D208号証(航空機の衝突速度について)
によると,F16の最良滑空速度は144m/秒とされている。F1
6がレーストラック周回中にエンジントラブルによってエンジンが停
止し,滑空状態となって本件廃棄物埋設施設に到達する場合を想定し
。.,ているこの場合の主な計算条件はF16の最大重力を155トン
高度1800m,滑空距離約10とされている。重量が16トンkm
の場合は146m/秒になるとされ,結論としては余裕をみて衝突速
度(滑空速度)は150m/秒という結論になっている。
bそれでは,150m/秒という衝突速度に誤りはないのか。もし最
良滑空速度がこの速度を超えることが立証されたときには,本件安全
審査の過誤・欠落が明らかになる。
(a)1次審査資料が明らかにした再処理工場の航空機事故想定の決
定過程
再処理工場の1次審査においては,施設の重要度により航空機の
衝突速度条件を設定することが検討された(高レベル廃棄物貯蔵施
設の1次審査資料第13分冊中の資料=甲D209。このとき,)
再処理施設安全審査指針に従い「安全上重要な施設等」については
150m/秒「安全上重要な施設のうち特に重要と判断される施,
設」については「β対地訓練区域で訓練飛行中の航空機に係る事故
で発生すると考えられる最大速度(215∼340m/秒」とす)
るということが検討された。
この検討では,設計変更に時間がかかること,本件廃棄物埋設施
設及びウラン濃縮工場の安全審査を衝突速度150m/秒でやって
しまったこと(注:この当時,本件廃棄物埋設施設及びウラン濃縮
工場の設置主体はP1株式会社,再処理工場の設置主体はP14株
式会社であった。その後両者は合併している,再処理工場につい)
てもこれまで150m/秒で説明してきたのにこれを変えると社会
問題となり立地としての適格性に疑問を生じること,設計の大幅な
見直しとなりコストがかかること,他の原子力施設(つまり原発の
こと)にも影響するという「設計上及び社会的な影響等」を理由と
して150m/秒を超える速度での衝突は考えないことにしたので
ある。150m/秒を超える速度での衝突を考えないことにした理
由は,安全評価上の合理的な理由ではなく,あくまでも「設計上及
び社会的な影響」が理由だと明記されているのである。
この点に関しては,高レベル廃棄物貯蔵施設の1次審査資料中の
別の資料でも,衝突速度を変化させた場合の建屋建設費用増加額の
概算見積もりもなされており(高レベル廃棄物貯蔵施設の1次審査
資料第13分冊中の資料=甲D210,1次審査でコストアップ)
要因が重視されたことがよくわかる。
とすれば,再処理工場についても,そしてその隣にある本件廃棄
物埋設施設についても,上記のような政治的配慮によらず科学的に
見れば,現実には訓練機の事故により生じうる衝突速度は150m
/秒ではなく215m/秒ないし340m/秒に達することが明ら
かである。
(b)申請書の想定事故は管理建屋内の一時貯蔵量3200本のうち
600本が破損炎上することを前提としているが,前述のように衝
突速度は150m/秒を大幅に超えており,エネルギーは質量×速
度の2乗であるから,当然墜落衝撃も150m/秒の時より大きく
なり,したがって,破損廃棄体の数も増大し,気体放射能の飛散量
も増える。
また,本件安全審査は管理建屋のみを評価対象とするのみで,最
大約20万本(1基当り5000本)を貯蔵する埋設設備を審査し
なかった点は安全審査の過誤・欠落というべきである。
c原判決の誤り
原判決の論旨は,要するに,最大衝突速度の選択を誤り,施設の破
壊評価に計算ミスがあったとしても,墜落確率が極めて小さいこと及
び原子炉施設と比べて潜在的危険性が小さいから,上記ミスは無視し
てもかまわないというものである。なんと乱暴で自己矛盾に満ちた判
断であろうか。本件安全審査は,原判決のような理由で衝突速度の選
択を正当化していない。すなわち,衝突速度の当否は別として,15
0m/秒の速度が施設破壊にどのような影響を与えるかを真正面から
取り上げて検討している。
問題は,墜落の可能性が残されている限りは,その前提として,航
空機が事故後いかなる速度で施設に衝突するかが検討され,然るのち
に被害の程度(衝突の影響による危険性)が評価されなければならな
いのである。いきなり,墜落確率が小さいことを理由にあげる原判決
には理由不備の違法がある。蓋し,エネルギーは質量×速度の2乗に
相当するから,速度が速くなれば当然破壊も増大するからである。
このように,本件安全審査は,原判決がいみじくも肯認しているよ
うに,150m/秒以上の衝突速度(215∼340m/秒)を想定
すべきなのに,設計見直し・建設費高騰(原判示の600億円は再処
理施設の場合であり誤解している,他の原子力施設の安全評価に与)
える影響,これまでのPA活動の訂正が社会問題となることなどの理
由から,敢えて誤りに目をつぶり,最も破壊力の小さい150m/秒
を選択したものであり,本件審査には看過し難い過誤・欠落が存する
。。のは明らかであるこの点を追認した原判決の違法性は明らかである
(ウ)機種,装備,軍事行動形態選定の誤り
a本件安全審査においては航空機墜落事故の想定をβ基地に配備され
ている戦闘機のうちF1又はF16が,実弾を搭載せずに墜落した場
合に限定している。この想定は,民間旅客機が対象となっていないこ
と,β空港に配備されている戦闘機のうちF1及びF16以外の機種
について評価されていないこと,実弾を搭載したままの墜落ないし実
弾の誤投下が考慮されていないことにおいて極めて不十分な評価とい
わざるをえない。
b民間旅客機の荷重で評価すれば,どのような操作をしても全体破壊
するという結論を避けることはできないと考えられる。
また,本件安全審査では,β基地に現実に配備されており,再処理
工場の安全審査では評価されたF4EJ改について全く評価していな
い。これを評価すればエンジンの貫通(局部破壊)が生じることは勿
,。論のこと全体破壊するという結論が避けられないものと考えられる
c戦闘機が実爆弾を搭載していた場合には,埋設設備,管理建屋も当
然に局部破壊・全体破壊を免れない。
平成3年11月8日,米軍β基地所属のF16が,γ射爆撃場東方
海上,本件工場から約10の地点に,2000ポンド爆弾2個をkm
投棄するという事件が発生した(甲D223。本件廃棄物埋設施設)
周辺を,実爆弾を搭載した軍用機が現に飛行していることは明らかで
ある。
そして,この2000ポンド爆弾とは,F16がマイノル2を2個
搭載して,施設から30m離れたところに墜落し,爆弾が爆発した場
合には,施設は完全に破壊されるし,爆心地が100mであれば,コ
ンクリート建物・れんが壁は破損し,コンクリート・ブロックには剪
断・たわみが生じ,建造物に重被害発生などという極めて憂慮すべき
事態となるほどの威力を有する破壊兵器なのである。
dβ基地の航空自衛隊では,γ射爆撃場での訓練機以外にも,スクラ
ンブル(緊急発進)が行われる。β基地に司令部を置くP15では,
スクランブルが本件許可申請時の昭和62年度で218回,許可時の
昭和63年度で259回行われている(甲D225。)
しかし,このような一刻を争う緊急事態において,軍用機に飛行規
制の順守を期待すること自体,救急車,消防車に信号規制を遵守しろ
というに等しく,あまりに楽観的といわざるを得ない。そして,この
ようなスクランブル発進の際,軍用機は当然ロケット弾等の実弾を搭
載しているのである
(エ)自爆テロを想定しないことの誤り
a2001年9月11日にアメリカで民間航空機を利用した自爆テロ
が敢行され,その際に途中で墜落した4機目はスリーマイル島原発を
狙ったものであったことが指摘されている。しかも,アルカイダ幹部
からは,イラクに自衛隊を派遣している日本もテロの対象であるとの
発言があることも報道されている。航空機による自爆テロの場合,テ
ロリストは少なくとも速度を落として墜落することは考えられず,通
常巡航速度前後で衝突すると考えるべきである。わが国で現在運航さ
れている民間航空機の巡航速度は,国土交通省の回答によれば概ね2
50m/秒(900/時)前後である(甲D226。β基地にkm)
配備される戦闘機の巡航速度は,甲第347号証のデータから考えれ
,,。ば概ね500m/秒前後遅いものでも200m/秒を優に超える
b本件廃棄物埋設施設を含むα核燃料サイクル施設は,原発同様ミサ
イル攻撃,航空機自爆テロなどを想定した設計基準及び安全対策はな
されていない。
しかし,2001年9月11日のアメリカにおける同時多発テロ,
北朝鮮のミサイル発射などが契機となって,平成16年6月に「武力
攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(いわゆ」
る「国民保護法)が成立し同年9月から施行された。」
同法の対象となる武力攻撃災害の中には「放射性物質の放出」に係
る人的,物的災害が含まれ(2条4項,国は,避難,救援,放射性)
物質による汚染の拡大防止措置など国民保護のための措置(10条)
をまた地方自治体の長も定められた措置を具体的に講じる義務1,,(
1条,16条)が課せられ,また政府は保護のための基本指針を策定
し(32条,地方自治体も保護計画を立てなければならない(34)
条,35条。)
更に,住民の避難,救援に関する具体的措置が決定され「武力攻,
撃災害への対応に関する措置」の章において,石油コンビナート攻撃
の条項に次いで6か条(105条∼110条)にわたり原子力施設全
般で発生する原子力災害への対処が詳細に規定された。
平成17年11月27日には,同法の発動によりP16P17原子
力発電所がテログループにより攻撃を受け,施設の一部に損傷を受け
放射性物質が放出されるおそれがあるという想定のもとに,全国初の
「国民保護実働訓練」が自衛隊,警察,電力会社,地元住民など13
00人が参加し,P17原発の現地であるδで実施された。
これに先立つ同年2月22日,青森県εに建設中のP12原発に対
するテロ攻撃を想定した図上訓練が青森県警と海上保安庁の共同で行
われた。
このように,原子力施設に対するテロ攻撃,武力攻撃は国にとって
仮想事故ではなく,現実に起きることが想定され,原子力災害対策が
国及び地方自治体で具体的に講じられ,日々の訓練対象となっている
のである。
c時代遅れの原判決
原判決のように,治安維持対策に頼ったり,資源エネルギー庁のよ
うに外交的努力や政治努力に期待していたのでは,原子力災害を事前
に防止することは不可能である。国が法律で原子力災害を想定してい
る以上,テロ攻撃,航空機自爆事態を想定した上で,原子力施設の安
全確保が図られなければならず,安全審査指針の見直しと原子力災害
評価のやり直しが急務である「考え方」が出来た当時はテロなど想。
定できなかったから,それで良いという訳にはいかないのである。
(オ)墜落事故の過小評価
a原判決は,原子力資料情報室のP18氏作成の「α低レベル放射性
廃棄物埋設施設に航空機が墜落した場合の災害評価(甲A30)に」
つき「前提とする航空機事故の想定条件及び線量当量評価が合理的,
な根拠を有すると認めるに足りる証拠はない」と断定する。
しかし,原判決の認定は,以下の理由から全く合理性,相当性を欠
くものといわざるをえない。
b第1に「航空機事故の想定条件」とは何を指しているのか不明で,
ある。
航空機が管理建屋に墜落すること自体は,本件安全審査においても
事故評価をしているのであるから,甲A30号証が管理建屋に墜落す
ることを想定条件としたことに誤りはない。
次に,管理建屋の主要構造は鉄筋鉄骨コンクリート造で,その一部
cmcmである廃棄体一時貯蔵室の外壁は約70∼90,屋根は約40
であるから,F16が事業者が想定したエンジン推力喪失状態で秒速
150mという甘い条件で衝突した場合でも,管理建屋は全体破壊す
る。しかし,航空機がこのように事業者に都合良い速度で墜落してく
れないことは前述のとおりである。
特に,前述のように衝突速度は150m/秒を大幅に超えており,
エネルギーは質量×速度の2乗であるから,当然墜落衝撃も150m
/秒の時よりも大きくなり,したがって,破損廃棄体の数も増大し,
気体放射能の飛散量も増える。
第2に,線量当量評価に合理性がないと言うが,そもそも,控訴人
らの事故想定に対し,被控訴人は何らの反論,反証をしておらず,立
証責任を懈怠している。原審裁判所は被控訴人に対し,反論を促した
り釈明を試みることさえしないまま,判決において,全く理由を示さ
ないまま控訴人らの主張を排斥した。理由不備も甚だしい。
被控訴人は,廃棄体破損本数を機体の全投影面積(約90m)の2
範囲にある608体と想定するが,過小評価といわざるをえない。
また,原判決は「一般公衆の線量当量は約0.13ミリシーベル,
トと,一般公衆への被曝による影響が大きくなることはなく,上記評
価条件にはなお余裕があると判断されている」旨認定するが,これも
また過小評価である。
,,P18氏の評価方法は権威ある公認の計算プログラムを使用し
妥当な気象条件を設定して計算したもので科学的根拠に欠けるところ
はない。最悪の場合80圏内の住民が一般公衆の年間被曝線量限km
度(1ミリシーベルト)に達するのであるから,本件安全審査に看過
し難い過誤・欠落があることは明らかである。
()埋設設備の安全評価に係る原判決の誤り6
アコンクリートピットの健全性
(ア)第1段階の管理期間の延長
コンクリートピットの健全性については,一審裁判所の認識と現実と
の間に大きな乖離が感じられる。当初申請書では,確かに「第1段階の
終了予定時期は,埋設開始以降10年経過し15年以内の間」とされて
いたが,その後,P3のホームページでは,第1段階は「埋設開始後,
1号廃棄体(均質固化体)については30年∼35年,2号廃棄体(雑
固化体)については25年∼30年」と変更され,申請内容の15年と
大幅にくいちがっている。
なぜこのような根本的くいちがいが生じているのであろうか。その理
由は,低レベルドラム缶の受入れ遅滞にあると推測される。
1号廃棄物である均質固化体は1992年12月に,そして,2号廃
棄物である雑固化体は2002年12月に搬入が開始された。どちらも
20万本を受け入れてから覆土を施し,第1段階が終了する。
1号廃棄物は受入開始から既に14年余が経過し,2007年7月末
現在で約13万6683本余を受け入れている。2号廃棄物は,5万8
744本運ばれ,5万7592本がピット内に埋設されている。ここ数
年の搬入量は年間1万本程度であるが,均質固化体の搬入量は減ってい
る。均質固化体の埋設ピットがいつ満杯となり,第2段階での管理がい
つから始まるかについては,未だに不明である。1号ピットの過去6年
間における年間合計搬入量は約2600本であるから,年間平均約44
0本のペースで1号廃棄物が搬入されてきたことになる。この計算でい
くと,予定された20万本(残り6万本)を搬入完了するのに,これか
ら約140年もかかることになる。この搬入量を仮に500本と仮定す
ると120年となるし,1000本と見積もっても60年以上もかかる
ことになる。
これでは,埋設の前に放射性物質が漏出してしまうので,段階管理の
意味がなくなる。仮に早くても60年程度で搬入が終わることを想定し
ても,これまでの15年間と合わせると75年も経ってから第1段階の
埋設が始まるのだが,それから第1段階の30年∼35年間を合わせた
105年∼110年間は,コンクリートピットから放射性物質が漏れ出
ないことが必要となる。しかし,コンクリートピットが,100年以上
壊れないという保証は,現在の土木工学上全くない。
,,本件安全審査により安全性は確保されているという原判決の見解は
1号廃棄物の搬入が遅れているという現実を看過したもので,到底容認
できるものではない。
(イ)管理期間終了について
コンクリートピットは,埋設後わずか15年間の経過で砂程度に劣化
することを前提にして安全審査がなされている。
しかしながら,埋設されたドラム缶の中の放射能は15年でなくなる
のかといえば,そのような核種は一つもない。短い半減期の核種でも,
コバルト60が5.3年,トリチウムが12年,セシュウムが30年で
あり,万年単位の長寿命のものもある。300年後でも炭素14,ニッ
ケル59,ヨウ素129などが残存する。
しかも残存する放射能の毒性は何億人分何百億人分の許容量年,,,(
摂取限度)に当る放射能が残る「300年たてば放射能は十分減衰し。
たから管理を解く」という根拠はどこからも生まれてこない。
まして,搬入期間が長くなれば,埋設管理期間の約300年間をプラ
スした約400年間も管理する必要があることになる。
イ放射能漏洩が早まる危険
(ア)コンクリートピットの劣化要因
第1段階の15年間でコンクリートピットは覆土されておらず,コン
クリートは野ざらし状態で,降雨,降(積)雪,霧による直接の影響を
受けている。
ところで,コンクリートの劣化(ひび割れ,強度低下など)要因とし
ては,
aアルカリ骨材反応(海砂の混入,セメントのアルカリ含有量が高い
場合,セメントの使用量・コンクリートの配合ミス,エトリンガイト
が入った低レベルドラム缶との反応などが原因)
b生コンに対する不正加水
などが考えられる。
アルカリ骨材反応は,欧米では「コンクリートのがん」と呼ばれてい
る。その理由は,いつ発症するのか予測が困難なこと及びいったん発症
した場合これを止める手立てが見つかっていないことであるとされてい
る(小林一輔著「コンクリートが危ない」90頁。。)
bが横行していることは業界の常識である。その理由は,コンクリー
トは柔らかい方が,工事が早く済む,コンクリートの型枠の隅まで行き
渡らせるためには締め固めなければならないが,粘りのあるコンクリー
,。,トでは労力が掛かる柔らかくすれば早く終るし疲れないしたがって
目を離せばすぐ不正加水が起こる。工事代金は出来高払いであり,早く
終わらせても,じっくり時間を掛けても工事代金は変わらない,という
ところにある。これは,構造的な問題で,よほど厳しく監視しないと不
正加水は防げない。
さらに,二酸化酸炭素,塩害,凍害,酸性雨等の劣化要因が考えられ
る。
然るに,上記劣化原因を安全審査の中で検討し,事前の対策を講じて
はおらず,これはあくまでも施工段階での問題であると理解されている
(P4証言73頁。しかし,ぼう大な放射性廃棄物を永久貯蔵する本)
件廃棄物埋設施設に対しては,通常のビルなどに適用される建築基準法
や土木学会の基準が遵守されているか否かを単純に考慮すればよいとい
うものではない。人工バリアを構成するコンクリートの健全性について
独自の安全審査がなされなければならない。
コンクリートピットが埋設されない状況では,ピットの劣化をより早
めることになり,埋設が始まる前に,放射性物質が環境中に漏れ出す可
能性が高い。
しかも,これは定置期間が長くなることによる漏出であるが,大地震
の発生,造成部分に対する集中豪雨や連続降雨によって地滑り,陥没,
地割れが起こり,埋設ピットが損壊する危険性を無視できない。そうな
ると,もっと早期にひび割れが生じる可能性がある。
(イ)水質試験の不備
補正書に掲げられた水質試験試料採取地点は合計12地点あり,それ
らのうちで,水質試験試料採取のみを行った地点は1地点,地下水位観
測および水質試験試料採取の双方を行った地点は11地点となっている
が,それらはすべて,廃棄物埋設地の周辺に位置し,廃棄物埋設地内に
位置する地点は一つもない。また,マグネシウムイオン・カルシウムイ
オン・ナトリウムイオン・カリウムイオン・硫酸イオン・炭酸水素イオ
ン・塩化物イオン・溶存鉄・pHおよび電気伝導率の合計10項目につ
いての測定結果が最低値および最高値によって示されているものの,地
層別の水質試験結果が示されていないという点で,この表は著しく不十
分なものとなっている
以上のような次第で,廃棄物埋設地内の地下水に,埋設設備のコンク
リートおよびセメント系充填材に対し,閉込めの機能に影響を与えるよ
,,うな化学的性質があるのかどうかはまだ調査されていないことになり
また,廃棄物埋設地周辺の地下水に,そのような化学的性質は認められ
ないとはたしていえるのかどうかについても,きわめて疑わしい。
ちなみに,廃棄物埋設地およびその周辺の地下水には,塩水化してい
るものがあるのではないか,もし,あるとすれば,埋設ピットの劣化,
ドラム缶の腐蝕が予想外に早く進むことになるのではないかと危惧され
るが,表3−15の水質試験結果からは,この点についての正確な判断
を下すことはできない。
ウ原判決は「液垂れ跡」のある低レベル放射性廃棄物が本件廃棄物埋設,
施設で発見された事実(甲41の1から51)を余りにも軽視している。
本来は健全なドラム缶を搬入するべきとされていたにもかかわらず,そ
の約束を破り,原子力発電所に長期管理して腐食したドラム缶を安易に運
び込んでいたことに管理体制上の問題があると控訴人らは主張しているの
である。
換言すれば,本来は健全なドラム缶を受け入れるとなっていたのに,そ
れを無視して,腐食ドラム缶を補修して持ち込んだという点が,問題とさ
れるべきである。しかも,そのことについては,原発サイトに約1万5千
本の腐食ドラム缶があり,その補修されたドラム缶のうち約5千本が搬入
され,埋設もされた後に,たまたま2本が搬入されて,問題となったに過
ぎない。
本件廃棄物埋設施設への搬入に際して,ドラム缶の健全性を検査する管
理建屋での検査体制がずさんであったことを問題にしているときに,裁判
官が腐食跡の発見された2本のみを問題にする姿勢に根本的な誤りがある
といわざるを得ない。
エ第2段階における管理態勢の不十分等
第2段階における具体的な線量当量及び放射性物質の濃度の監視システ
ム,測定範囲,チェック方法や,これらを行うための人的,経済的,組織
的な裏付けが明確にされていないから,管理態勢が不十分である。
,,(),また申請によると第2段階第1段階終了後30年間においては
排水・監視設備による排水の監視,周辺監視区域境界付近における外部放
射線に係る線量当量及び地下水中の放射性物質濃度の監視を行うこととし
ているが,その対策が具体的に示されなければ安全性の判断はできないも
のであるから,基本設計に属する事項である。詳細については保安規定で
決めるということは,具体的な対策がないというのに等しい。
監視対策の一つに点検路の設置が掲げられているが,点検路から放射性
物質の漏洩が発見されたとき,埋設ピット内の廃棄体に対してどのような
措置が講じられるのであろうか(埋め直しは技術的に不可能である。ま)
た,点検路に大量の水漏れがあって水びたしになるとその水の処理に困る
。。事態となるこの点検路が監視手段として有効か否かは極めて疑問である
()ζ処分場での放射能漏洩7
P4証人は「管理の第一段階で本件埋設設備の中は砂程度に劣化し,人工
バリアーとしての機能を喪失する」旨の証言を行なったが,この証言を具体
的に裏付ける事故が,フランスのζ貯蔵センターで起きた。
国際的環境保護団体P19の報告書(甲E5)によると,この事故は,同
施設から漏洩した放射性物質が周辺の酪農地の地下水を欧州の安全規制値の
7倍以上もの濃度で汚染しているというものである。
フランスの低レベル放射性廃棄物処分施設では運転開始後の早い時期に地
下水汚染がはじまっており,本施設の埋設ピットの物理的耐用年数も短期間
であることが具現化し控訴人ら主張の危険性が裏付けられた。
5当審における被控訴人の主張
()原告適格について1
本件廃棄物埋設施設の有する潜在的な危険性は極めて小さい。控訴人らの
うち,本件廃棄物埋設施設が設置されている青森県上北郡αに居住する8名
の控訴人らについても,その居住地は,同施設からは約2キロメートルもの
距離がある(乙A5。)
したがって,そもそも本件廃棄物埋設施設のある青森県上北郡αに居住す
るとする控訴人らについてさえも,その居住する地域が,本件廃棄物埋設施
設の核燃料物質等による災害により,直接的かつ重大な被害を受けるといえ
ないことは,明らかである。
そうであるならば,原判決が原告適格を認めた控訴人らについても,本件
許可処分の取消しを求める法律上の利益を有しないというべきであるから,
いわんや控訴人らの上記主張に理由がないことは明らかである。
()手続的適法性2
ア本件廃棄物埋設施設の放射性廃棄物受入施設における廃棄体の一時貯蔵
は原子炉等規制法51条の2第1項2号に定める廃棄物管理に該当しない
こと
(ア)原子炉等規制法51条の2第1項2号は,廃棄物管理とは「核燃料
物質又は核燃料物質によつて汚染された物についての廃棄物埋設・・,
・その他の最終的な処分がされるまでの間において行われる放射線によ
る障害の防止を目的とした管理その他の管理又は処理であつて政令で定
めるもの」と定めているが「放射線による障害の防止を目的とした管,
理」はその直後にある「管理又は処理」を例示したものであって,同号
の規定はこれも含めた「管理又は処理」の全部について政令に委任する
規定であると解すべきことが文理上明らかである。
(イ)原子炉等規制法51条の7第1項,原子炉等規制法施行令13条の
12は,廃棄物管理施設のうち,特に3.7テラベクレル以上の核燃料
物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄物管理施設を特定廃棄
物管理施設とし,同施設の工事に着手する前に,設計及び工事の方法の
認可等を求めるなどの規制をしているが,これは,核燃料物質又は核燃
料物質によって汚染された物の管理又は処理(原子炉等規制法51条の
2第1項2号)を大規模かつ長期にわたって行うことが可能であるとい
う,特定廃棄物管理施設の施設態様の特殊性を踏まえたものである。
これに対して,本件のような廃棄物埋設施設は,核燃料物質又は核燃
料物質によって汚染された物の埋設の方法による最終的な処分を行う施
設であり,原子力発電所等で処理を施された廃棄体等を受入れ,その健
全性を確認し,一時保管後,逐次最終的に埋設する施設であって,特定
廃棄物管理施設において行い得るような放射性廃液の濃縮固化等の複雑
な処理工程はなく,その有する潜在的危険性が小さい施設である。この
ようなことから一般的には危険性が小さいとして,廃棄物埋設事業者が
廃棄物埋設施設において行うものは,埋設に伴う行為として埋設事業の
中で規制するとされたのであり,このような立法政策は何ら不合理とは
いえず,脱法行為と非難されるいわれはない。
イ本件許可申請の一部補正に係る手続に不合理な点はないこと
原子炉等規制法は,廃棄物埋設の事業を行おうとする者に許可の申請権
を認めているから,廃棄物埋設の事業の申請をする者はいったん申請した
後でも処分を受けるまでは,申請内容を補正できる。本件許可処分におけ
る一部補正も,申請者が申請権に基づき行ったものであって同法上許容さ
れるものである。そして,この場合,審査においては,補正済みの申請内
容につき原子炉等規制法51条の3第1項各号の要件に適合しているか否
かを審査するのである。
また,本件許可申請の一部補正は申請としての同一性を失うものではな
い。
ウ安全審査においては,行政庁はその必要に応じて随時,原子力安全技術
顧問に対し専門技術的見地からの意見を求めるが,申請者から申請書の補
正がされた場合,行政庁はその補正された内容に基づき,原子力安全技術
顧問に対し専門技術的見地からの意見を求める。いずれの場合であっても
原子力安全技術顧問は,申請書の補正について,申請者に対して助言・指
導する立場にはない。
エ安全審査の非民主的実態に関する控訴人らの主張は,いずれも審査体制
への抽象的な批判にとどまるものであって,本件許可処分の手続に関する
違法を具体的に主張するものではなく,本件許可申請に係る原子力安全委
員会及び安全審査会の原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力
に係る部分に限る)及び同項3号の許可要件への適合性についての審議。
が,手続的に適法であることは,控訴人らのこれらの主張に係る事項によ
っても何ら左右されるものではない。
()基本的立地条件に関する控訴人らの主張に対する反論(自然環境)3
ア地質・地盤に係る調査等に不合理な点はないこと
(ア)本件安全審査においては,申請者の行った敷地の地質等についての
文献調査,空中写真判読,地表地質調査,本件埋設設備群設置位置及び
その付近のボーリング調査等の結果等の妥当性について検討し,更に現
地調査を行い,本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の地盤が本件廃
棄物埋設施設の安全確保上支障となるものではないことが確認されてい
るのであり(乙8の15,16頁,乙12の3の4頁,文献調査,標)
準貫入試験の調査結果のみが本件安全審査に供されたものではない。
(イ)控訴人らは,敷地の地質・地盤についての調査等に関し,るる主張
するが,本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の地盤が本件廃棄物埋
設施設の安全確保上支障となるものではない。
なお,原判決は,ボーリング調査の結果に関して疑いがある旨の認定
をしているが,原判決の認定のような事実はない。
(ウ)本件廃棄物埋設施設の敷地地盤等においては控訴人らが挙げる事例
のような液状化現象は起こらないこと
本件廃棄物埋設施設の敷地とは地盤条件,性状が異なる他所において
液状化現象が発生した事例をもって,本件廃棄物埋設施設の敷地におい
て液状化現象が発生する根拠とすることはできない。本件安全審査にお
いては,本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の地盤が本件廃棄物埋
,,設施設の安全確保上支障となるものではないことまた覆土については
本件廃棄物埋設地の周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないよう
十分な締め固めが行われること等から安定に保持されることが確認され
ているのであり,本件廃棄物埋設施設の敷地地盤や覆土においては控訴
人らが挙げる事例のような液状化現象が起こることは考えられないので
ある。
イ地震,耐震設計に係る本件安全審査に不合理な点はないこと
「基本的考え方」Ⅶの7−1(乙14の6の690頁)においては,廃
棄物埋設施設の地震に対する設計上の考慮に関しては「耐震設計審査指,
針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する設計地
震力に対し適切な期間安全上要求される機能を損なわない設計であること
が要求されている。この趣旨は,廃棄物埋設施設において取り扱われる低
レベル放射性廃棄物は潜在的危険性が小さいことに基づくものである。
そうすると,本件廃棄物埋設施設においては,耐震設計審査指針におけ
る耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する耐震設計を行うこ
とにより,その安全を確保することができるのであり,地震に対する設計
上の考慮は十分な合理性を有するものである。
ウ本件廃棄物埋設施設が津波により被害を受けることはないこと
本件安全審査においては,申請者の実施した調査結果の妥当性が検討さ
れ,地形等の状況からみて,本件廃棄物埋設施設が津波により被害を受け
ることはないことを確認しており,これにつき何ら不合理な点はない。こ
れに対し,控訴人らの主張するところは,本件敷地とスマトラ島沖地震津
波で被害を受けた地域との地形的条件の差異を無視した上で,本件廃棄物
埋設施設においても同様の津波の危険性があるという,抽象的主張にとど
まるものであって,何ら本件安全審査の違法を具体的に主張するものとは
解されない。
したがって,控訴人らの主張は失当である。
()水理に係る主張について4
ア断層に沿って破砕帯があり,透水係数の高い場所が連続しているような
部分が存在するとの控訴人らの主張は失当であること
本件安全審査においては,トレンチ調査の結果から,f−a,f−b断
層に沿って断層面の両側は,砂岩,軽石質砂岩,砂質軽石凝灰岩等が混在
しているものの(鷹架層中部層混在部,これらは,角礫状や粘土状を呈)
しておらず,周囲の岩石とほぼ同程度の硬さを有していると判断されたも
のであり,控訴人らのいう破砕帯は認められないというべきである(証人
P8調書〔第43回弁論実施分〕19,22ないし24頁,同〔第44回
弁論実施分〕33頁。また,f−a,f−b断層の断層部における透水)
係数は,平均1.3×10−5センチメートル/秒であり,平均1.1×
10−5センチメートル/秒であった鷹架層中部層のN値50以上の部分
の透水係数と大差ないことが確認された上,断層の性状を確認した現地調
査においても,f−a,f−b断層は,水を通しやすい「水みち」となっ
ていないと判断されたことから,本件埋設設備群設置位置及びその付近の
鷹架層内に透水性の大きい部分が連続して「水みち」となっているような
部分の存在はないとされたものであり,このような判断に不合理な点はな
いというべきである。
なお控訴人らは「破砕帯の存在を裏付けるP9証人の証言」として同,,
証人調書を引用しているが,同証人は,f−a,f−b断層の鷹架層中部
層混在部が地質学上の破砕帯か否かを問われ「そういうことは私の分担,
範囲外のことですので,ちょっとお答えできません(P9証言65頁)。」
と供述しているのであるから,P9証人の証言をもって,同混在部を破砕
帯であるとすることはできない。
イ本件埋設設備と地下水位の変動領域に関する控訴人らの主張は失当であ
ること
そもそも自然環境等の立地条件,処分方法も異なる海外の例を単純に我
が国に適用できないことはいうまでもない。
この点をおくとしても,本件安全審査においては,地下水位観測結果に
基づき,地下水面は主に第四紀層にあると判断されている。したがって,
本件埋設設備は,第四紀層より下部にある鷹架層中部層を掘り下げて設置
されるため,結果として地下水面の変動領域よりも下に位置するので,む
しろ安定した状態に置かれることとなる。
確かに,敷地を造成し工事を行うような場合には,掘削の影響により局
部的に地下水位の低下を招くことも起こり得るところであり,本件廃棄物
埋設地においても地下水位の低下傾向が見られたものの,本件埋設設備群
,,設置位置及びその付近の地質状況気象状況等の自然条件にかんがみれば
一時的な現象にすぎないものである(P9証言52頁。)
()基本的立地条件に関する控訴人らの主張に対する反論(社会環境)5
アそもそも安全審査会の審査委員等は,専門技術的知見を有するため,安
全審査に用いられる審査基準は,審査において,申請に係る廃棄物埋設施
設の位置,構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的設計方針にお
いて災害防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを判
断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りる「基。
本的考え方」は,この要請を満たしているものであり「航空機事故」が,
具体的に列挙されていないとしても,そのことにより「基本的考え方」,
が不合理であるということはできない。
そして,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設の基本的立地条
件として「基本的考え方」Ⅲ(乙14の6の688頁)に従い,当該施,
設の敷地及びその周辺の社会環境の敷地周辺の交通として航空関係につい
ても考慮に入れた上で,敷地周辺の交通は本件廃棄物埋設施設の安全確保
上支障がないと判断されているのである。
このように,本件安全審査においては「基本的考え方」に従い,上記,
の点が確認された上で,本件廃棄物埋設施設は,社会環境に関して安全確
保上支障がないと判断されている
イ航空機墜落の可能性は極めて小さいとした本件安全審査の判断に誤りは
ないこと
飛行規制の実効を確保するための施策が具体的にとられているのである
から,本件廃棄物埋設施設への航空機墜落事故等の危険性は高いとする控
訴人らの主張には理由がない。
ウ航空機墜落事故評価に係る控訴人らの主張は失当であること
航空機の墜落事故の可能性については,基本的立地条件の社会環境の審
査において,本件廃棄物埋設施設が定期航空路及び訓練区域から離れてお
り,航空機は,原則として,原子力関係施設上空の飛行を規制されている
ことから,航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性は極めて小さい
と評価されている。
このように,航空機墜落事故は「基本的考え方」Ⅳの4−2でいう安,
全評価における「技術的にみて想定される異常事象」とはいえないから,
本件安全審査においては,これは安全評価の検討の対象とはされなかった
のであり,このような判断に不合理な点はないのである。
したがって,航空機の墜落事故評価の前提条件等を問題とする控訴人ら
の上記主張は,その前提を誤っており失当である
()本件廃棄物埋設施設自体の安全性確保対策6
ア本件埋設設備は十分な閉込めの機能等を有すること等について
(ア)控訴人らは,P4証言を根拠として,本件埋設設備のコンクリート
ピットの健全性が維持できるのは「わずか15年間にすぎない」ので,
このような前提で行われた本件安全審査には過誤があると主張するよう
である。
しかしながら,控訴人らの主張は,P4証人の証言内容の誤解に基づ
くものである。P4証人は,本件安全審査の平常時の一般公衆に対する
線量当量評価等においては,第2段階当初から放射性物質が漏出する可
能性は極めて小さいものの,評価結果が厳しくなるように,第2段階当
初から本件埋設設備等による閉込め機能を期待せず,その透水性が砂程
度になったものと仮定して評価されているということを述べたものであ
る(乙8の37,38頁,P4証言〔第44回弁論実施分〕68,69
頁。)
すなわち,本件埋設設備に使用するコンクリートは土木学会コンクリ
ート標準示方書に準拠して設計及び施工されること,鷹架層及び第四紀
層中の地下水には本件埋設設備のコンクリート及びセメント系充填材の
閉込めの機能に影響を与える成分は認められないこと等から,本件埋設
設備のコンクリートの健全性は少なくとも数十年維持できると考えられ
。,,,るのであるしかし本件安全審査においては線量当量評価をする際
評価結果が厳しくなるように,第2段階当初から本件埋設設備等の透水
性が砂程度になって放射性物質の漏出が開始すると想定した上での申請
者の評価を妥当なものとして,その場合の一般公衆に与える線量当量は
十分小さいことが確認されているのである。
したがって,控訴人らの上記主張は,本件安全審査のこのような考え
方を正解せず,また,P4証人の証言趣旨の誤解に基づき批判するもの
であって,失当というほかない。
なお,控訴人らは,アルカリ骨材反応,コンクリートに対する不正加
水に対する事前の対策についてるる主張するようであるが,これらの事
項はコンクリートの施工の段階に係る事項であって,本件廃棄物埋設施
設の基本設計ないし基本的設計方針に係る事項ではないから,事業許可
の段階で審査される事項ではなく,本件許可処分における原子炉等規制
法51条の3第1項の各要件の審査の対象とはならない
(イ)申請者より平成9年1月30日付けで廃棄物埋設事業変更許可申請
があり,翌10年10月8日これを許可しているが,その中で第1段階
の終了予定時期は「30年を経過し35年以内の時点」に変更されてい
ることは,控訴人ら主張のとおりである。
しかしながら,本件許可処分の違法判断の基準時は処分時であるとこ
,,,ろ控訴人らがるる主張するところは本件許可処分後の事情であって
本件訴訟の審理の対象外である。したがって,控訴人らの主張は,主張
自体失当である。
なお,控訴人らの主張は,第1段階の終了予定時期の変更という事業
変更許可処分の内容に係る事項についてのものであるが,事業変更許可
処分は,本件許可処分とは別個の処分であって,本件訴訟の審理の対象
ではない。
いずれにしても,本件安全審査においては,本件埋設設備の健全性は
十分保たれること,及び一般公衆に対する線量当量評価において,十分
に安全性が確保されていると判断されたことの妥当性は(ア)のとおりで
ある。
イフランスの放射性廃棄物処分施設における事象をもって本件安全審査の
不合理をいう控訴人らの主張は失当であること
控訴人らの主張は,本件廃棄物埋設施設とは,施設設計等も異なるフラ
ンスの放射性廃棄物処分施設における漏洩事象が生じたことを根拠に,本
件廃棄物埋設施設においても同様の事象が発生する可能性があるという,
抽象的主張にとどまるものであって,何ら本件安全審査の違法を具体的に
指摘するものではない。
したがって,控訴人らの上記主張は失当である。
第3当判所の判断
1当裁判所は,原審が原告適格を認めた控訴人P20(33,同P21(3)
5,同P22(36,同P23(37,同P24(38,同P25(3))))
9,同P26(40)の7名のほか,同P27(30,同P28(31,)))
同P29(34)の3名も原告適格を有するが,その余の控訴人らは,本件許
可処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないからその訴えは不適法とし
ていずれも却下するのが相当と判断し,また,原告適格を有する者の本件許可
処分の取消請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断する
(ただし,控訴人P27(30,同P28(31,同P29(34)に対))
する主文については,後記のとおりである。。)
,,,その理由は2のとおり原判決を改め3のとおり原告適格について判断し
4ないし11のとおり当審における当事者の主張に対する判断を加えるほか
は,原判決の事実及び理由欄の「第5部当裁判所の判断(原判決100頁」
1行目冒頭から同186頁12行目末尾まで)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
2原判決の訂正
()原判決100頁3行目冒頭から104頁8行目末尾までを後記3のとお1
り改める。
()同104頁15行目の「内閣総理大臣」を「行政庁」に,同105頁82
行目の「51条の3第1項」を「51条の3第2項」に,同行目の「同項」
を「同条1項」にそれぞれ改める。
()同108頁6,7行目の「義務づけていない上」を「義務づけていない3
のであって」に,同頁20,21行目及び109頁6行目の「51条の6第
1項」を「51条の6第2項」にそれぞれ改め,同108頁25行目の「さ
らに」の次に「埋設される放射性廃棄物については,放射性物質ごとに最,
大放射能濃度の上限値が定められているところ(原子炉等規制法施行令13
条の9,許可申請書には,放射性廃棄物に含まれる放射性物質の種類ごと)
の最大放射能濃度を記載することとされ,放射性廃棄物を固形化した廃棄体
は,放射能濃度が許可申請書に記載した最大放射能濃度を超えないこととさ
れていて(廃棄物埋設事業規則2条1項1号,8条2号イ」を加える。),
()同109頁24,25行目の「あるところ」を「あって」に,同頁254
行目の「安全審査の基本的考え方」は」を「この点に立ち入らないから「,
といって「安全審査の基本的考え方」が」に改める。
()同114頁6,7行目の「原子炉等規制法等で規定されている手続にか5
かわるものではないからを原子炉等規制法上に同頁19行目のし,」「」,「
」。たがってから同頁20行目末尾までを改行して次のとおりそれぞれ改める
「しかのみならず,本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1
項2号要件のうち経理的基礎に係る部分に適合するとした原子力委員会
,。の調査審議及び判断に看過しがたい過誤欠落があるとも認められない
,(,,)すなわち証拠乙2の1−1頁4の19頁以下10の3の3頁
及び弁論の全趣旨によれば,本件許可申請に対する同要件適合性の審査
は,主として本件許可申請書の添付書類のうち「添付書類一事業計画
書「添付書類九法人にあっては,定款,役員の氏名及び履歴,登」,
記簿の抄本並びに最近の財産目録,貸借対照表及び損益計算書」等に基
づきしたものであるところ,上記審査資料によれば,P30株式会社,
P31株式会社,P32株式会社,P33株式会社,P34株式会社,
P16株式会社,P35株式会社,P36株式会社,P37株式会社及
びP38株式会社は,本申請に係る廃棄物埋設事業の実施に伴い発生す
る総費用を負担することについてP1と合意していること,P1の顧客
である電力会社の経営は安定しており,収入も確実であることから,原
子力委員会は,事業計画の実現性について問題がないと判断して,本件
事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項2号要件のうち経理的
基礎に係る部分に規定する基準の適用につき妥当なものと認めたもので
あることが認められるところ,この調査審議及び判断に看過しがたい過
誤,欠落があることをうかがわせる証拠はない。
控訴人らは,廃棄物埋設事業を行う300年を超える長期間にわたり
申請者や申請者を支援する電力会社が存続する保証はない旨主張するけ
れども,許可申請の時点において,P1及びその事業の費用の負担者で
ある電力会社の存続を危惧すべき事情が存在したことは証拠上うかがわ
れない以上,控訴人らの主張は根拠を有するものとはいい難い。
してみれば,経理的基礎に係る部分の要件に関する控訴人らの主張は
採用できない」。
()同123頁12行目の「新第三系中新統」を「新第三紀中新世」に,同6
頁14行目の「第四系更新統」を「第四紀更新世」に,同124頁24行目
の「されることとされているが」を「行われることから,地震に対する設,
計上の考慮は妥当なものと判断された」に,同125頁15行目及び18。
行目の「x/q」を「x/Q」に,同131頁3行目の「放射性廃棄物」を
「放射性物質」に,同136頁2行目の「管理期間終了後」を「管理期間終
了以後」に改める。
()同140頁14行目の「x/q」を「x/Q」に改め,同144頁137
行目の「のは不自然である」及び同頁18行目の「のはきわめて不自然であ
る」を削除し,同頁23行目の「合理的な疑いがある」を「疑問にも理由。
がないわけではない」に,同145頁3行目の「至ったというのであるか。
ら」を「至ったというのであり,②,③の疑問についても,このボーリング
調査の主たる目的は埋設施設の支持地盤としての安全性確保に支障がないか
どうかにあり地質特性が把握できるところまで掘れば,それ以上の深いとこ
ろまでは確認する必要がなかったこと(P8証言〔第45回弁論実施分〕4
6頁)及び後記のとおり当審で提出された3孔の地質柱状図も,岩質が劣悪
であることを示すデータが含まれていたとまでは認め難いことに照らせば,
」,「」「」これを不自然とまではいえないからに同頁4行目の不自然を疑問
にそれぞれ改める。
()同145頁17行目の「誤差も多い上」の次に「実効間隙率」を「有8,「
効間隙率」のことと理解しても」を加える。
()同148頁6行目冒頭から同頁16行目末尾までを削除する。9
()同150頁19行目の「仮に」を削除し,同頁20行目の「過程にお10,
いては」の次に「仮に」を加える。,,
()同151頁10行目の「とどまるところ」の次に「埋設設備は,設置11,
方法等から,設置深度における加重が,設置前は岩盤と土壌か土かぶり圧と
,,,(),して設置後はコンクリートピット廃棄体セメントモルタル充填材
,(),覆土によるものとして設置前後において大差がなく乙2の3−14頁
ほかに」を加え,同頁15行目冒頭から同153頁2行目末尾までを後記6
のとおりに改める。
「」「」()同157頁2行目の斜面に沿ってから3行目の大きくなっている12
までを「急傾斜をなして落ち込むところでは,それに沿って地下水が下がっ
てくるために,第3紀層(鷹架層)にまで地下水位の変動が及んでくる」に
改める。
()同158頁12行目の「範囲で鈍化する」を「範囲に鈍化した」に,同13
頁25行目冒頭から161頁6行目末尾までを後記8()のとおりにそれぞ1
れ改める。
()同161頁19行目の「表面水」を「地下水」に,同162頁24,214
5行目及び163頁15,16行目の「管理期間終了後」を「管理期間終了
以後」にそれぞれ改める。
()同165頁21,22行目の「平成元年」を「昭和63年」に改め,同15
166頁5行目の「公示」の次に「されるとともに,施設周辺の上空に係る
航空法81条ただし書の許可は行わないことと」を,同頁13行目の「され
ていること」の次に「さらに,自衛隊機については,防衛庁(平成18年,
法律第118号による改正前の防衛庁設置法に基づく組織)が発行する「航
空路図誌」により,重ねて原子力施設付近上空の飛行規制の周知徹底が図ら
れていること(弁論の全趣旨」をそれぞれ加え,同頁22行目の「核燃焼)
サイクル施設」を「核燃料サイクル施設」に,同167頁3行目の「軍用機
」「」,「.」「.」とのを軍用機のに同168頁16行目の476を467
に,同頁25行目の「廃棄」を「廃棄物埋設」にそれぞれ改め,同169頁
12行目の「超えておらず」の次に「廃棄物埋設に当たり考慮している」,
を加える。
()同172頁11行目の「放射科学分析」を「放射化学分析」に,同1716
3頁16,17行目の「表面放射線量」を「表面の線量当量率」に,同頁2
5,26行目の「線量当量に関する規制(具体的審査基準)に不合理な点が
」「,あるを線量当量率に関する規制を上記のとおり定めているからといって
審査基準に不合理がある」にそれぞれ改める。
()同176頁8行目の「P8証言」の次に「第43回弁論実施分〕3517〔
頁以下」を加え,同177頁2行目の「考慮外と判断したとしても」を「考
,」,,,慮しなかったとしてもそのこと自体をもってに同179頁2行目4
5行目及び11,12行目の「管理期間終了後」を「管理期間終了以後」に
改める。
()同180頁3行目の「しかしながら」の次に「本件廃棄物埋設設備は18,
盛土による造成地と異なり,天然の地盤を掘り下げて設置されるから,地滑
りや陥没が発生し難いと考えられるばかりでなく」を加える。,
()同183頁23行目の「本件安全審査の過程においては」を「本件廃棄19
物埋設施設と並んで建設が予定されている再処理施設については」に,同頁
25,26行目の「管理建屋建設費用として約660億円もの費用の増加が
見込まれる」を「約380億円とされていた管理建屋建設費用が約660億
円に増加することが見込まれる」に,同184頁2行目冒頭から同頁6行目
末尾までを次のとおりそれぞれ改める。
「しかしながら,本件安全審査では本件訓練区域を使用する訓練中の航
空機が何らかの原因によりエンジンを停止し,訓練コースを外れて滑空
するなどして本件廃棄物埋設施設に墜落することを想定しているもので
あるところ,航空機の墜落がエンジンの停止に限られないことは控訴人
らの主張のとおりであるけれども,上記の想定は,原子力施設上空の飛
行が規制されていて,しかも,本件廃棄物埋設施設と本件訓練区域とが
約10離れていることから,エンジン停止以外の事由では訓練機がkm
本件廃棄物埋設施設の上空に飛来することはまれであるとの前提に立つ
ものと理解されるところ,この前提に不合理はなく,また,航空機の墜
落原因としてエンジンの停止は最も一般的なものの一つといえるから,
上記のような想定をしたことも不合理とはいえない。また,本件安全審
査においては,航空機墜落の確率は本件訓練区域で訓練する訓練機を含
めて極めて小さいと判断された上で,念のために影響評価を行ったもの
である。いわば参考のための影響評価にすぎないものであって,そうだ
とすると,影響評価においてあらゆる事故を想定せず,衝突時の速度が
150を超える場合を想定しなかったとしても,そのことから本件m/s
安全審査に誤りがあるということはできない」。
()同224頁8行目及び同228頁8行目の「安全的」を「保守的」に,20
同225頁17行目,同226頁5行目,同頁7,8行目,同227頁9行
目,同頁25行目及び同228頁10行目の「管理期間終了後」を「管理期
間終了以後」に改める。
3原告適格について
()原告適格判定の基準について1
原告適格判定の基準については,次のとおり訂正するほか,原判決10
0頁3行目冒頭から102頁19行目末尾まで説示のとおりであるから,こ
れを引用する。
ア原判決101頁末行の「過誤,欠落があった場合には重大な核燃料物質
等の漏出事故等が起こる」を「過誤,欠陥があり,その結果,事業を行う
者が所定の技術的能力を欠き又は廃棄物埋設施設が安全性を欠くものとな
った場合には,核燃料物質の漏出等の重大な事故が起こる」に改める。
イ102頁5行目の「あるから」を「あり」に改め,同頁16行目の「施
設の」の次に「種類」を加える。,
()これを本件についてみると,次のとおりである。2
ア本件廃棄物埋設施設について
原判決第3部前提事実記載の事実に弁論の全趣旨を総合すれば,次のと
おり認められる。
(ア)本件事業の概要
本件廃棄物埋設施設は,原子力発電所で発生する濃縮廃液,使用済樹
脂,焼却灰等の低レベル放射性廃棄物をセメントやアスファルト等でド
ラム缶に均一に固型化した廃棄体を,地面を掘り下げて設置される鉄筋
コンクリート造の埋設設備に埋設し,処分する施設である。
(イ)本件廃棄物埋設施設での具体的作業
a原子力発電所から搬入されたドラム缶詰めの廃棄体は,管理施設の
一部である受入施設内の廃棄体一時貯蔵室に一時貯蔵し,順次廃棄物
埋設施設に埋設する。
b放射性廃棄物の受入施設においては,一時貯蔵天井クレーン及びコ
ンベアを使用して,廃棄体一時貯蔵室への出し入れを行う。
c廃棄物埋設
廃棄物埋設は,原子力発電所から受け入れた廃棄体及び本件廃棄物
埋設施設の操業に伴って付随的に発生する廃棄体を対象として,次の
方法により行う。
(a)一時貯蔵施設から搬出された廃棄体を,埋設クレーンを使用し
て埋設設備の区画内に定置する。
(b)廃棄体の定置終了後,速やかに仮蓋をし,その後順次埋設設備
の区画内にセメント系充てん材を充てんする。
(c)充てん材の充てん後,順次仮蓋を取り外し,埋設設備の区画上
部に覆いを設置する。
(d)覆い設置が終了した埋設設備の上面及び側面は,土砂等を締め
固めながら順次覆土を行う。
(ウ)廃棄物の性質
a本件廃棄物埋設施設で埋設を行う放射性廃棄物は,原子力発電所に
おいて発生する放射性廃棄物及び本件廃棄物埋設施設の操業に伴って
付随的に発生する放射性廃棄物をセメント,アスファルト又は不飽和
ポリエステル樹脂を用いて容器内に均一に固型化したものであり,そ
の表面の線量当量率は10ミリシーベルト/時を超えないものであ
る。また,その8割以上をセメントで固型化することとしその数量,
を最大4万m3(200lドラム缶20万本に相当する量)としてい
る放射性廃棄物受入施設における一時貯蔵能力は約640m32。,(
00lドラム缶3200本)である。なお,本件廃棄物埋設施設で発
生する可能性のある使用済み樹脂等の固体廃棄物を管理建屋内に保管
廃棄することも想定されているけれども,その最大保管廃棄能力は2
00lドラム缶80本である。
b「線量当量限度等を定める件」は,周辺監視区域外の線量当量限度
を1年間につき実効線量当量1ミリシーベルトと規定しているとこ
ろ,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋
設される放射性物質から敷地境界外の一般公衆が受ける線量当量の最
大値は,周辺監視区域境界とほぼ一致する地点の外部放射線に係る線
量当量で,年間約0027ミリシーベルトであり,管理期間終了以.
後における一般公衆の線量当量の最大値も年間約00015ミリシ.
ーベルトであると判断され,本件事業許可処分はそのような判断に基
づいてされている。
c本件廃棄物埋設施設において埋設される放射性廃棄物に含まれる主
要な放射性物質は,コバルト60,ニッケル63等であり,受入れ時
における総放射能量は173×1015ベクレルであって,原子力.
発電所に内蔵される放射能量と比較すると,はるかに少なく,その危
険性も小さい。
そして,その放射能量は時間の経過と共に減少するものである。
イ本件廃棄物埋設施設において想定される事故
本件許可申請書においては,廃棄体に起因して発生が想定される事故及
び事業の長期性にかんがみ技術的な見地から仮定される事象として,廃棄
体の取扱いに伴う事故(廃棄体を廃棄物埋設地における埋設クレーンによ
り吊り上げて埋設設備に定置する作業中にその廃棄体が落下し,廃棄体が
2本破損する事故)及び廃棄物埋設地からの放射性物質の異常な漏出(放
射性物質の漏出抑制に重要な機能を果たす埋設設備及びベントナイトを混
合した覆土の健全性が相当低下し,異常な漏出が生じる事象)を想定して
いる(乙2の7−6頁以下。)
しかしながら,本件廃棄物埋設施設を構成する本件廃棄物埋設地及び付
属施設の構造上,何らかの外部的要因等によってこれが破損する事故が発
生することが全く考えられないわけではなく,このような事故の可能性を
どのように評価すべきかは,本件廃棄物埋設施設の安全審査の内容をなす
もので,安全審査の当否を左右するものであるから,その当否が争われて
いる本件においては,原告適格を判断する上で本件廃棄物埋設施設におい
て想定される事故として,このような事故を含めて考慮すべきである。
ウ控訴人らの住居等
証拠(乙A5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)本件廃棄物埋設施設から10以内にある町村としては,青森県km
上北郡α,同郡η,同郡θ,同郡ιがある。
(イ)控訴人らの住所地と本件廃棄物埋設施設との距離をみると,青森県
上北郡κに居住する控訴人P26(40)が約2.5,同村λに居km
km.住する控訴人P22(36)が約6,控訴人P23(37)が約6
5,同村μに居住する控訴人P21(35,同P20(33,同km))
P25(39)及び同P24(38)が約13ないし145,青森.km
県上北郡νに居住する控訴人P28(31)が約155,青森県上.km
北郡ξに居住する控訴人P27(30)が約22であって,その余km
の控訴人らの住所地は,上記9名の控訴人らよりも本件廃棄物埋設施設
からの距離が離れている。
(ウ)控訴人P29(34)は,控訴審において,青森県八戸市πから青
森県上北郡μに転居した者であり,新住所地は本件廃棄物埋設施設から
約13ないし14の距離にある。km
()以上の事実に基づき,控訴人らが本件廃棄物埋設施設において想定され3
る事故によって直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民
に当たるといえるか否かを判断する。
ア想定される事故による被害の性質内容についてみると,放射性物質から
発せられる放射線は人体に極めて有害であり,被曝すると死に至ることが
あり,死に至らないまでも急性障害やがん等の疾患を発病させたり,遺伝
子に変化をもたらす危険がある。
想定される事故態様,被害の発生可能性としては,本件廃棄物埋設施設
が破損すると,放射性廃棄物に含まれる放射性物質が施設内外の大気中に
飛散し,あるいは地下水等を通じて流出する可能性がある。
したがって,外部的要因,例えば航空機の落下や地震等によって埋設設
備又は管理施設が破壊されるような事態を想定すると,かなり広い範囲に
放射性物質が飛散あるいは流出する危険性がある。
また,廃棄体を閉じ込めたドラム缶及び本件廃棄物埋設施設のコンクリ
ートピットが劣化し,あるいはこれに加えて覆土,周辺土壌の天然バリア
ーが破損すると,廃棄体の放射性廃棄物に含まれる放射性物質が地下水等
を通じて施設外に流出する可能性がある。
イ他方,本件廃棄物埋設施設で埋設を行う放射性廃棄物は,表面の線量当
量率が10ミリシーベルト/時を超えない低レベル廃棄物であり扱う数,
量も,受入施設における一時貯蔵で約640m3(200lドラム缶32
00本,埋設設備で最大約4万m3(200lドラム缶20万本に相当)
する量)にとどまるものである。なお,固体廃棄物の管理建屋内における
保管廃棄は,その規模に照らせば格別の考慮を要するものとまではいえな
い。
また,本件廃棄物埋設施設は,原子力発電所のように核分裂反応を用い
原子力エネルギーを発生させ,これを利用する施設ではなく,上記の低レ
ベル廃棄物を一時貯蔵の上,最終的には地中に埋設する施設である。した
がって,事故の被害の程度は,一時管理あるいは埋設状態で上記放射性廃
棄物が具有する放射能による被曝を超えることはなく,他の原子力施設に
比して制限的なものであり,航空機が一時貯蔵施設に墜落し,一時貯蔵中
の廃棄体の放射性廃棄物が空気中に飛散するという希有な事態を想定して
も,その直接的な飛散による被曝は限られた範囲にとどまるものというべ
きである。
,,,たとえば本件安全審査では平常時における線量当量の評価について
経路①の気体廃棄物中の放射性物質の吸入摂取による実効線量当量が敷地
境界外で最大となる地点及び航空機が管理建屋に仮に墜落し,608本放
出された場合に一般公衆が受ける線量当量が最大となる敷地境界外の場所
を,いずれも管理建屋から東約500mの地点としており,また,廃棄体
の取扱いに伴う事故による実効線量当量が最大となる敷地境界外の地点
を,廃棄物埋設地から南西約600mの地点としている(乙12の3の5
頁以下。控訴人ら提出の甲A30号証では,同様にして54本放出され)
た場合,一般公衆が受ける線量当量が許容限度に達する地点を10とkm
している。その線量当量の算定の合理性には疑問なしとしないけれども,
被害の範囲を考える手掛かりにはなり得る。なお,同号証は,1350本
を貯蔵中に全量放出された場合には同様の地点は80になるとしていkm
るけれども,そもそもこの前提条件の合理性自体に疑問が残るから,これ
を基礎とするのは相当でない。
他方,地形上本件廃棄物埋設施設の周辺地域における低地を形成してい
るとみられる尾駮沼,さらにはその湖沼水が海洋に流れ込む河口は,本件
廃棄物埋設地から5以内に位置していること,その他本件廃棄物埋設km
施設周辺の地形及び本件廃棄物埋設地との距離関係からみて(乙A5,弁
論の全趣旨,地下水等を通じた放射性廃棄物の流出による被害の範囲が)
以上よりも広範囲にわたることは考え難い。
ウ上記のような本件廃棄物埋設施設の種類,構造,規模等の本件廃棄物埋
設施設に関する具体的な諸条件を考慮すると,本件廃棄物埋設施設におい
て想定される事故によって直接的かつ重大な被害を受けることが想定され
るのは,広めにみても本件廃棄物埋設施設から20前後の範囲内に居km
住する住民に限られるものというべきである。
仮に,この範囲外に及ぶ被害を想定するとしても,当該被害は,廃棄物
埋設施設周辺に居住している住民について認められる個別,具体的な被害
の域を超えて,広く一般公衆について考えられる抽象的,一般的な被害の
性質を有するに過ぎないと考えるべきであるから,このような被害の可能
性を理由に本件訴訟の原告適格を認めるのは困難である。
したがって,本件許可処分を行うに当たって規制法14条1項2号所定
の技術的能力の有無及び3号所定の安全性に関する各審査に過誤,欠落が
ある場合に発生すると考えられる事故によって,直接的かつ重大な被害を
受けるものと想定され,それゆえ,本件許可処分の取消しを求めるにつき
km原告適格を有する者は控訴人らのうち本件廃棄物埋設施設から20,,
前後の範囲内に居住する控訴人P26(40,同P22(36,同P))
23(37,同P21(35,同P20(33,同P25(39,))))
同P29(34,同P24(38,同P28(31)同P27(30)))
の10名に限られ,上記範囲内に居住していないその余の控訴人らは,本
件許可処分の無効確認,取消しを求めるにつき原告適格を有しないものと
いうべきである。
なお,控訴人P29(34)は,原判決当時,住所が上記範囲外にあ
ったところ,当審において上記範囲内の青森県上北郡μに転居した者であ
るが,判決時に原告適格があれば訴えは適法であるものと解されるから,
同控訴人も原告適格を有するというべきである。
()被控訴人の主張について4
被控訴人は,本件廃棄物埋設施設の潜在的危険性は原子炉施設と比較する
と比べようのないほど小さいとして,上北郡α内も含め控訴人らの居住する
地域はいずれも本件廃棄物埋設施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大
な被害を受けるものと想定されるとはいえない旨を主張する。
しかしながら,原告適格を判定するに当たって想定すべき事故は,本件廃
棄物埋設施設において埋設事業を行おうとする者が所定の技術的能力を欠き
又は加工施設に安全性の基準が確保されていないとした場合に社会通念上の
観点から本件廃棄物埋設施設に発生すると想定すべき事故であって,それら
技術的能力や安全性の基準が満たされていることを前提に技術上の観点から
本件廃棄物埋設施設に発生すると想定される事故ではない。したがって,埋
設施設の種類,構造,規模等及び住民の居住する地域と埋設施設の位置との
距離関係を中心として,社会通念に照らして合理性の見地から判断されるも
のであり,それで足りるのである。前記()で認定した事実関係を踏まえて2
検討する限り,被控訴人が主張するように本件廃棄物埋設施設の潜在的危険
性が原子炉施設に比して格段に小さいといえるにしても,なお,コバルト6
0,ニッケル63などの放射性物質が本件廃棄物埋設施設外に漏出する可能
性自体は否定し難いのであり,本件廃棄物埋設施設から20前後の範囲km
内に居住している住民について放射性物質の被曝を受ける事故が想定し得な
いとはいえない。そして,想定される事故による被害の性質内容が()アの3
とおりであることに照らせば,この場合の被害は重大というべきである。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
()原判決摘示の控訴人らの主張について5
原判決103頁末行冒頭から104頁5行目末尾までのとおりであるか
ら,これを引用する。
4手続的違法に関する主張について
()本件廃棄物埋設施設の特定廃棄物管理施設該当性について1
本件廃棄物埋設施設が特定廃棄物管理施設には該当しないと解されること
は,原判決110頁21行目冒頭から同111頁6行目末尾までに説示する
とおりである。
控訴人らは,原子炉等規制法施行令第13条の10のうち管理事業の定義
から廃棄物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理を除くと
している部分は,違法無効であるか,廃棄物埋設事業者が施設内で行う廃棄
物の管理全般ではなく自らの事業の過程で新たに発生した廃棄物の処理及び
管理を除くというように限定解釈されるべきである旨主張する。
しかしながら,原子炉等規制法51条の2第1項2号は,廃棄物管理とは
「核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物についての廃棄物埋設,
・・・その他の最終的な処分がされるまでの間において行われる放射線によ
る障害の防止を目的とした管理その他の管理又は処理であつて政令で定める
もの」と定めているが「放射線による障害の防止を目的とした管理」はそ,
の直後にある「管理又は処理」を例示したものであって,同号の規定はこれ
も含めた「管理又は処理」の全部について政令に委任する規定であると解す
,,べきことが文理上明らかでありこれを限定列挙と解すべき理由はないから
同条項の委任を受けて原子炉等規制法施行令第13条の10が管理事業の定
義から廃棄物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理を除く
としている部分は違法とはいえないし,また,この規定を上記のように限定
解釈すべき根拠もないから,控訴人らの主張は採用できない。
さらに,控訴人らは,この解釈を取った場合,本件廃棄物受入施設は,全
く同じ設計,同じ目的,同じ機能を持つものが,一時貯蔵後の廃棄体が貯蔵
建屋に貯蔵されるのか,埋設地に埋設されるのかという廃棄物受入施設の安
全性には直接関係ないことがらによって,設計及び工事方法の認可,使用前
検査,施設定期検査等の要否が左右されることとなり,脱法行為を容認する
ことになる旨主張する。
しかしながら,埋設自体には機械体が動く動的部分はなく,一般的な土木
工学的工法で作業が可能であり,埋設前の受入施設には機械体が動く動的部
分があるけれども,それは付随的な作業であるのみならず,受入施設におけ
る廃棄体の貯蔵は一時的なものであることが想定されており,放射性物質を
含む廃棄体からの放熱に対する冷却設備は必要とされないこと(証人P4)
から,原子炉等規制法施行令第13条の10のうち管理事業の定義から廃棄
物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理を除くとされたも
のであって,これが不合理なものとはいえない。してみれば,上記の解釈が
脱法行為を容認するものとはいえず,控訴人らの主張は採用できない。
()補正限度の逸脱及び「一部補正」手続の不公正性の主張について2
本件における申請書の一部補正が違法であるといえないことは,原判決が
111頁11行目冒頭から同頁18行目末尾までに説示するとおりである。
控訴人らの主張は独自の見解であって,採用できない。
()安全審査の非民主的実態を看過した原判決の誤りの主張について3
原子力委員会,原子力安全委員会等の委員の中になれ合い委員が多いから
本件事業許可処分が手続的に違法であるとも,本件審査が特定の委員らに任
せられたとも認め難いことは,原判決が111頁25行目冒頭から112頁
15行目末尾まで及び113頁2行目冒頭から同頁9行目末尾までに説示す
るとおりである。控訴人ら挙示の証拠から直ちに本件安全審査の手続が違法
であるとまでは認められない。
したがって,控訴人らの主張は採用できない。
5地質・地盤に関する主張について
()地耐力判定のための調査・審査資料不足等の主張について1
控訴人らは,PS検層(ボーリング孔を利用した地層の速度分布を求める
試験,弾性波探査(地震探査)及び圧密試験が実施されておらず,文献調)
査,標準貫入試験の調査結果のみが安全審査に供されたのは審査不備である
旨主張する。
しかしながら,文献調査,標準貫入試験の調査結果のみが本件安全審査に
供されたものではなく,本件安全審査においては,P1の行った本件廃棄物
,,,埋設施設の敷地の地質等についての文献調査空中写真判読地表地質調査
本件埋設設備群設置位置及びその付近のボーリング調査等の結果等の妥当性
,,,について検討し更に現地調査を行ったのであってこれらの調査に基づき
鷹架層中部層は,標準貫入試験によるN値が50以上,岩盤支持力試験によ
る上限降伏値が36k/m以上であり,埋設設備による加重3k/mにgg22
対し十分な支持力を有しており,本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の
地盤が本件廃棄物埋設施設の安全確保上支障となるものではないことが確認
されたものである(原判決123頁ないし124頁,乙2の3−33頁,P
8証言〔第43回弁論実施分〕12頁以下。測定の精度からいっても,本)
件では密な間隔でボーリング調査をしており,PS検層よりも直接にボーリ
ングで調査した方が数段に信頼性が高いことからも,その必要性は認め難い
(P8証言〔第46回弁論実施分〕20頁以下。それにもかかわらず,さ)
らに重ねてPS検層,弾性波探査又は圧密試験を行う必要があったことを認
めるに足りる証拠はない。文献調査が不十分であったために本件安全審査が
過誤を来したことを認めるに足りる証拠もない。
さらに,控訴人らは,ボーリング調査の本数及び深度に関してるる主張す
るけれども証拠P8証言第45回弁論実施分46頁以下同証言第,(〔〕,〔
46回弁論実施分〕20頁以下,66頁以下)に照らせば,調査の本数及び
深度が不十分であったとは認め難い。
してみれば,以上の点に関する控訴人らの主張は採用できない。
()R・Q・D値に関する主張について2
ア控訴審で提出された3孔の地質柱状図(甲D237ないし甲D239)
によっても,P1が地盤条件が相対的に良好なことが明示されている5孔
の地質柱状図のみを意図的に選んで提出したとまでは速断できず,また,
4−b孔の掘削状態をもってボーリング調査が恣意的であったとも速断で
きないこと,f−a,f−b断層が破砕帯を伴っていると認め難いことは
。,,後記8()イ記載のとおりであるたしかに3孔の地質柱状図によれば1
D−5孔の深さ30m前後の部分でR・Q・Dが30ないし40%と岩盤
良好度が悪い部分があるほか,2−d孔,5−c孔でもR・Q・Dが60
ないし70%と鷹架層の平均値96.6%をかなり下回る部分があり,ま
cmcmた最大コア長も3孔とも一部では20程度で,D−5孔では10
,,程度の部分があるけれども上記3孔の位置関係及び調査結果に徴すれば
これらは本件設備の支持地盤が埋設設備による加重に対し十分な支持力を
有しているとの判断を左右するに足りるとはいえない。
イ控訴人らは,埋設設備群設置位置でも,さらに多くの箇所で岩盤支持力
試験が実施され,それによって得られた多数の上限降伏値の間に存在する
バラツキの状態が正しく解明されることが必要不可欠であり,とりわけ,
破砕帯の部分と非破砕帯の部分との間には,上限降伏値にどの程度の差異
,,()が存在しているのかまた破砕帯の部分の上限降伏値の最小値最悪値
は,埋設設備による荷重に対してどの程度の安全率を有しているのかの諸
点が解明されない限り,鷹架層中部層が埋設設備による荷重に対して十分
な支持力を有していると断定することは,著しく妥当性を欠いている旨主
張するけれども,そもそも本件敷地に破砕帯が存在するとは認め難く,こ
の点をさておいても最小値の部分でも地耐力には十分な余裕があるかどう
かを審査する必要がある地質であることをうかがわせる証拠はなく,岩盤
支持力試験の実施箇所が少なすぎ,これによって鷹架層中部層が埋設設備
による荷重に対して十分な支持力を有していると断定することは,著しく
妥当性を欠いていると認めるに足りる証拠もない。
乙2号証に掲げられている5つの地質柱状図には,岩盤等級は一切記入
されていないけれども,証拠(P8証言〔第46回弁論実施分〕24頁)
によれば,ボーリング調査の結果に基づき作成される地質柱状図に岩盤等
級を記載するのは,調査場所の地質に多様性があり,岩盤ごとの地質強度
を識別する必要があるためであるのに対して,本件敷地周辺は,地質が単
純でこのような必要性がないため,記載されなかったものと認められるか
ら,岩盤等級が記載されていないことをもって,鷹架層中部層の大部分は
文字どおりの軟岩に属するものであることを推認することはできない。
さらに,控訴人らは,この地層に脱水現象が起こった場合,地盤の沈下
が生じ埋設体などの安全性を損う危険性がある旨主張するけれども,この
ような事態が発生する可能性が認められないことは,原判決151頁9行
目冒頭から13行目末尾までに説示するとおりである。甲D194号証に
は,沈下は,たとえ地盤に載荷された構造物の荷重によっては起こらなく
ても,たとえば地震の発生の前後に地下水の賦存状態に顕著な変化があら
われ,その結果,その地盤に脱水現象が生じたことによっても起こる場合
もあるとの記載があるけれども,本件廃棄物埋設施設の敷地について,地
下水の賦存状態にこのような顕著な変化が生じる可能性があることを具体
的に認めるに足りる証拠はないから,同記載は上記判断を覆すに十分とは
いえない。
以上によれば,控訴人らの主張はいずれも採用できない。
()f−a,f−b断層による地盤の劣悪等の主張について3
ア証拠(甲D189)によれば,次の事実が認められる。
(ア)トレンチ露頭観察による断層部の性状
af−a断層は高角度の逆断層であるが,断層による割れ目,鏡肌等
はほとんど認められない。また,f−b断層は高角度の正断層である
が,断層による割れ目,鏡肌等はわずかに認められる程度である。
bf−a,f−b両断層とも,粗粒砂岩層と軽石凝灰岩層との境界部
分では,接する両層がやや細粒化して混在する部分(混在部)が約1
,,,0ないし30幅で認められるが混在部は固結・密着しておりcm
ハンマーの打撃で判断すると,周囲の岩盤と同程度の堅さを有してい
る。
cf−a,f−b両断層とも,直上に分布する中位段丘堆積層中には
変位・変形が認められず,周辺の第四系は,ほぼ水平あるいは地形面
に調和的に分布・堆積していることから,両断層は第四紀後期(約1
2ないし13万年前以降)に活動していないものと判断され,また両
,,,断層を含め支持地盤となる鷹架層は約12ないし13万年前以降
地震等によるすべり等を生じていないものと判断される。
(イ)シュミットロックハンマー試験による断層部の強度
af−a,f−b両断層部分のトレンチでのシュミットロックハンマ
ー試験による反撥度から,断層構造を示す軽石凝灰岩層と粗粒砂岩層
の境界付近の反撥度は,その周囲と同程度の硬さを有しており,弱層
部となっていない。
bf−a,f−b両断層で認められる混在部は,シュミットロックハ
ンマー試験による反撥度から,周囲の地盤に比べ同程度以上の硬さを
有している。
イ控訴人らは,甲D103の記載を根拠に,両断層が段丘堆積層に変位を
与えている可能性がないとはいえない旨主張するけれども,アに示した断
層周辺の第四系の分布,堆積状況からみても,断層が縦や横に枝分かれし
,,た形跡がないから甲D103に記載されたような状況にあるとはいえず
控訴人らの主張は採用できない。
ウさらに,控訴人らは,f−a,f−b断層の混在部が地質学上の破砕帯
で,岩質が明らかに軟(脆)弱,劣悪化している旨主張し,甲D194号
証にはこれに沿う部分がある。
しかしながら,アに示したような各断層の境界付近及び混在部の状態及
びシュミットロックハンマー試験による断層部の強度評価からみても,岩
質が軟(脆)弱,劣悪化しているとは認め難い。以上に照らせば,甲D1
94号証はにわかに採用できない。
なお,証拠(P8証言〔第45回弁論実施分〕25頁以下,同〔第46
回弁論実施分〕69頁以下)によれば,f−a,f−b断層のトレンチ調
査では,断層の両側が断層面と地表面との境のところで谷になっていて,
その部分に砕石が存在する箇所もあるけれども,同様のところで谷になっ
ていない箇所や,断層以外のところで谷になっている箇所もあり,前者は
浸食環境のときに局部的に弱かったことを示すに止まると見ることが可能
であることが認められる。また,証拠(検証)によれば,f−b断層の露
頭では,地肌が露出している中で境界部分だけ草が生えている現象が認め
られるけれども,これをもって直ちに混在部が破砕帯であると判断すべき
十分な根拠はない。したがって,これらの事象からf−a,f−b断層の
混在部が地質学上の破砕帯で,岩質が軟(脆)弱,劣悪化していると速断
することもできない。
エ以上によれば,控訴人らの主張は採用できず,両断層は本件廃棄物埋設
施設の支持地盤の安全性に影響を与えるものではないとした被控訴人の判
断に誤りはないというべきである。
()その他の自然的条件に関する主張について4
ア証拠(乙2の3−13頁,乙8)によれば,本件許可申請においては,
空中写真判読,地表地質調査結果等を根拠として,本件埋設設備群設置位
置及びその付近並びに管理建屋設置位置及びその付近には,変位地形は認
められず,地滑り地形及び陥没の発生した形跡も認められないとされてい
るところ,本件安全審査においては,申請者の行った調査結果に加え,現
地調査を行った上で,本件埋設設備群設置位置及びその付近並びに管理建
屋設置位置及びその付近には変位地形,地滑り地形,陥没の形跡が認めら
れないことが確認されており,これらも踏まえて,本件埋設設備群設置位
置及びその付近の地盤には,本件埋設設備に影響を与えるような性状等が
認められないことから,安全確保上支障がないと判断されたことが認めら
,。れこの本件安全審査の判断に不合理があると認めるに足りる証拠はない
,,そして地滑りの危険性に関する控訴人らの主張が採用できないことは
原判決150頁3行目冒頭から151頁1行目末尾までに説示するとおり
である。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
イ本件廃棄物埋設施設で液状化現象が起こる危険性の主張について
控訴人らは「南九州のシラス地帯,伊豆市等で「液状化現象」が発,」
生したとする事例を挙げた上で,本件廃棄物埋設施設の敷地における地盤
や覆土についても同様に液状化現象が発生する危険性がある,本件敷地の
表層地盤でN値が20以下の風化部分や,本件埋設設備群設置位置及びそ
の付近並びに管理建屋設置位置付近の表層地盤の中の盛土の部分,埋設設
備の上面及び側面に施されている覆土の部分などは,液状化現象を引き起
こす可能性がとくに大きい旨主張する。
しかしながら,本件廃棄物埋設施設の敷地とは地盤条件,性状が異なる
他所において液状化現象が発生した事例をもって,本件廃棄物埋設施設の
敷地において液状化現象が発生することの根拠とすることはできず,本件
安全審査においては,本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の地盤が本
件廃棄物埋設施設の安全確保上支障となるものではないこと,また覆土に
ついては,本件廃棄物埋設地の周辺の土壌等に比して透水性が大きくなら
ないよう十分な締め固めが行われること等から安定に保持されることが確
認されているのであって,P8証言〔第46回弁論実施分(31頁)に〕
よれば,本件廃棄物埋設施設の敷地地盤や覆土においては控訴人らが挙げ
る事例のような液状化現象が起こることは考えられないことが認められる
から,控訴人らの主張は採用できない。
6地震と断層に係る安全評価の誤りの主張について
()本件安全審査が依拠した「安全審査の基本的考え方」は地震に対する設1
計上の考慮の項で次のとおり定める。
ア廃棄物埋設施設は,設計地震力に対して,適切な期間安全上要求される
機能を損なわない設計であること
なお「適切な期間」とは,廃棄物埋設施設にあっては第1段階の期間,
とし,廃棄物埋設地の附属施設にあっては廃棄物埋設事業を適切に進める
うえで必要とされる期間とされる。また「安全上要求される機能を損な,
わない」とは,廃棄物埋設地にあっては,閉じ込め機能等が失われないこ
とと解説されている。
イこの設計地震力は「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度,
分類のCクラスの施設に対応して定めること
これによれば,一般産業施設の耐震設計に用いられる地震力に基づき,
静的設計法により設計すべきことになる。
,,「」,そして本件安全審査においては安全審査の基本的考え方に基づき
本件廃棄物埋設施設は,その破損により一般公衆に与える線量当量は十分に
小さいことを考慮して「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度,
分類のCクラスの施設に対応する設計地震力に対して,適切な期間安全上要
求される機能を損なわないように,設計地震力及び許容限界が定められ,耐
震設計が行われることから,地震に対する設計上の考慮は妥当なものと判断
された。敷地周辺で発生した過去の主な地震についても,いわゆる宇佐美カ
タログ(,いわゆる宇津カタログ(,地震月報によるほか「新19791982)),
編日本被害地震総覧」等の過去の地震に関する最近の資料も参照され,敷
地近傍で大地震が発生していないことが確認された。
以上は,原判決120頁以下,124頁以下のとおりである。
()これに対して,控訴人らは,①その地域の最大規模でどの程度の地震2
が発生しうるかを判断する上で,活断層の評価は決定的に重要であり,活断
層を判断の枠組みから外すことには何ら合理性はなく,これを必要としてい
ない指針には科学的合理性がなく,②本件廃棄物埋設施設を襲う可能性の
ある地震は震度5程度までであり,これに耐えられる耐震設計審査指針のC
クラスの耐震設計によって施設の安全性が確保できるとした本件安全審査の
過程には看過し難い重大な過誤がある旨主張する。
()しかしながら,証拠(乙14の3,P8証言〔第43回弁論実施分〕43
0頁以下)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア「耐震設計審査指針」においては,発電用原子炉施設の耐震設計に当た
って,地震により発生する可能性のある放射線による環境への影響の観点
から,施設の重要度に応じて耐震性を分類している。この指針は,陸上の
発電用原子炉施設に適用されるが,その基本的な考え方は,これ以外の原
子炉施設にも参考となるとされる。
イ耐震設計上の重要度Aクラスの施設(自ら放射性物質を内蔵しているか
又は内蔵している施設に直接関係しており,その機能の喪失により放射性
物質を外部に放散する可能性のあるもの,及びこれらの事態を防止するた
めに必要なもの並びにこれらの事故発生の際に,外部に放散される放射性
物質による影響を低減させるために必要なものであって,その影響,効果
の大きいもの)については,設計用最強地震による地震力又は静的地震力
のいずれか大きい方の地震力に耐えることとされるところ,設計用最強地
震のマグニチュードは敷地に影響を与えた過去の地震の生起状況を主体と
して,近距離に存在する活断層の状況などを考慮して定める。
ウAクラスのうち特に重要と考えられるAsクラスの施設(原子炉冷却材
圧力バウンダリを構成する機器・配管系等)は設計用限界地震による地震
力に対してその安全性が保持できることとされるところ,設計用限界地震
のマグニチュードは,地震地体構造及び近距離に存在する活断層の規模等
を考慮して定めなければならない。
エ他方,Bクラス(事故発生の際に,外部に放散される放射性物質による
影響を低減させるために必要なものであって,その影響,効果の比較的小
さいもの,Cクラスの施設(Aクラス,Bクラス以外であって,一般産)
業施設と同等の安全性を保持すればよいもの)は,所定の静的地震力に耐
えることとされるところ,活断層を考慮すべきことは特段定められていな
い。
オ原子炉施設の耐震設計上の重要度に応じた定め方をしているのは,原子
炉施設の設置に当たり,地震の原因としての活断層に対する評価を行う必
要があるか否かを,当該施設の有する特質に応じて,その施設の安全確保
の観点から決しているからであり,設計用最強地震や設計用限界地震を想
定する際に過去の地震記録に加えて活断層に対する評価を行うこととされ
ているのは,過去の地震記録によって敷地及びその周辺に影響を与えた地
震を検討することにより,将来発生する可能性のある地震による敷地及び
その周辺に対する影響の程度を予測することができるが,さらに,原子力
発電所の有する潜在的危険性にかんがみ,活断層の有無,活動度をも検討
することにより,発生する可能性が極めて低いと考えられる地震について
も配慮するためである。
カなお「耐震設計審査指針」は,平成18年9月19日原子力安全委員,
会決定により改訂されたが(以下「新耐震設計審査指針」という,C。)
クラスの施設における活断層考慮の要否に関しては変更はない。因みに,
「」,「」安全審査の基本的考え方の適用に当たっては新耐震設計審査指針
の改訂に伴う規定の変更の必要性はないとされている。
「耐震設計審査指針」の以上のような定め方が合理性を欠くとすべき根拠
はない。地震により発生する可能性のある放射線による環境への影響の観点
から見た施設の重要度の如何にかかわりなく,全ての活断層を等しく考慮に
入れて,大地震が発生することを予期した耐震設計をすることを要求するの
は現実的とはいえない「新耐震設計審査指針」への上記改訂はこの判断を。
左右するものではない。
そして,本件廃棄物埋設施設は,原子力発電所と異なり,その内蔵する放
射能量が少ない等潜在的危険性が小さく,その破損により一般公衆に与える
線量当量が十分に小さいことを考慮して「耐震設計審査指針」における耐,
震設計上の重要度分類のCクラスの施設に分類し,基本的立地条件としての
地盤の安定性を評価するという観点から埋設設備群設置位置及びその周辺の
断層を対象とし,それが施設に影響を及ぼすか否かの検討を行えば足りると
(,,〔〕されたものであって乙14の6乙42P4証言第43回弁論実施分
8頁,P8証言〔第43回弁論実施分〕40頁以下,本件廃棄物埋設施設)
の安全審査上「安全審査の基本的考え方」あるいはこれが依拠した「耐震,
設計審査指針」が地震に関して敷地周辺地域の活断層に対する評価を行うこ
とを必要としていないからといって,審査基準について不合理があるとは認
め難い。
()もっとも「安全審査の基本的考え方」は,廃棄物埋設施設は,設計地4,
震力に対して,適切な期間安全上要求される機能を損なわない設計であるこ
と(適切な期間」とは,廃棄物埋設施設にあっては第1段階の期間とし,「
廃棄物埋設地の附属施設にあっては廃棄物埋設事業を適切に進めるうえで必
要とされる期間とされ「安全上要求される機能を損なわない」とは,廃棄,
物埋設地にあっては,閉込め機能等が失われないことであることは,前示の
とおりである)としていることからすれば,地震に対する考慮方法から活。
断層の評価をすることを積極的に排斥したとはいえず「安全審査の基本的,
考え方」は「地震」等の自然現象を検討し安全確保上支障がないことを確,
認することを求めているというべきであり,その存在が明らかであって,か
つ,活動性が高い活断層(活断層とは,最近の地質時代に繰り返し活動し,
将来も活動することが推定される断層をいい,一般的には,第四紀つまり1
65万年前あるいは200万年前から現在までの間に動いたとみなさる断層
を指すものとされる。活断層については,その存在の確実さ(確実度)の点
から,活断層であることが確実であるものは確実度Ⅰと,活断層であること
が推定されるものは確実度Ⅱと,活断層の疑いのあるリニアメント(地形的
)。,,に続く線状模様は確実度Ⅲと分類されているさらに活断層の活動度は
変位の速さ(1000年について何mとか何とか)によって活動度の高cm
い順に活動度A,B,Cに分類され,1000年当たりの平均的なずれの量
が1m以上10m未満のものはA級と,1000年当たりの平均的なずれの
量が10以上1m未満のものはB級と,1000年当たりの平均的なずcm
れの量が1以上10未満のものはC級とされている。因みに「耐震cmcm,
設計審査指針」においては,設計用最強地震の場合に,歴史資料により過去
に地震を発生したと推定されるもの,A級活断層に属し,1万年前以降活動
したもの又は地震の再来期間が1万年未満のもの,あるいは,微小地震の観
測により,断層の現在の活動性が顕著に見られるものを,設計用限界地震の
場合は,上記のほかA級活断層に属するもの,B級・C級活断層に属し,5
万年前以降活動したもの又は地震の再来期間が5万年未満のものをそれぞれ
考慮することを求めている。なお「新耐震設計審査指針」は,耐震設計上,
考慮を要する活断層としては,後期更新世(12,3万年前)以降の活動が
否定できないものとしている(以上につき,甲D168,乙14の3,弁。
論の全趣旨)に起因して想定される地震動に本件廃棄物埋設施設の耐震設)
計が合理的に対応していない場合には,コンクリートピットが破損し,さら
に地震による天然バリアーの破壊が加わって廃棄物埋設地の閉込め機能等が
失われるなど,安全上要求される機能が損なわれることを予測すべきである
から「安全審査の基本的考え方」によっても,安全審査を行うに当たって,
は,その存在が明らかであって,かつ,活動性が高い活断層は当然これを考
慮すべきものと解される。
,,,したがって現在の科学技術水準に照らしてその存在が明らかであって
かつ,活動性が高いといえる活断層を考慮せず,当該活断層を評価した場合
に想定される地震動に本件廃棄物埋設施設の耐震設計が合理的に対応してい
ないことが明らかであるならば,結果的には,本件安全審査の調査審議及び
判断の過程には看過し難い過誤,欠落があったことになるものというべきで
ある。
()上記のような見地に立って本件敷地周辺の活断層について検討すると,5
以下のとおりである。
アf−a,f−b断層が本件廃棄物埋設施設の支持地盤の安全性に影響を
与えるものと認められないことは5()エのとおりである。さらに,本件3
廃棄物埋設予定地内における別の断層については,控訴人らは「より詳,
細な地質調査を実施すれば,本件廃棄物埋設施設の敷地内の段丘堆積層に
も別の断層の存在が確認される可能性がある」旨抽象的な可能性として。
主張するにとどまることは,原判決説示のとおりであるから,これをその
存在が明らかな活断層として当然考慮すべきであったとは認められない。
イ他の陸域の活断層について
(ア)「日本の活断層」に記載された断層
「[]」「」,,新編日本の活断層の野辺地図には本件敷地周辺地域に
一切山東方断層(長さ7,確実度Ⅲ,活動度C,出戸西方断層(長km)
さ4,確実度Ⅲ,活動度B,横浜断層(長さ4,確実度Ⅱ,活kmkm)
動度C,野辺地断層(長さ7,確実度Ⅱ,活動度B,上原子断層))km
(長さ2,確実度Ⅱ,活動度C,天間林断層(長さ9,確実度kmkm)
Ⅱ,活動度B)が活断層として記載されていることが認められる(甲D
166,168。)
しかしながら,上記断層は,いずれも長さが2から9の確実kmkm
度Ⅱ又はⅢ,活動度B又はCの活断層であるところ,上記断層の本件敷
地からの距離及び活動性等は,本件廃棄物埋設施設に地震動を引き起こ
す可能性を具体的にうかがわせるものとまではいえず,ほかにこれを活
動性の高い活断層とみるべき根拠はないから,結局,上記の断層は,い
ずれも本件安全審査において考慮すべき活断層とはいえない。
(イ)後川−土場川沿いの断層
これは「日本の活断層」ないし「新編]日本の活断層」には記載,[
されていないが,本件廃棄物埋設施設に隣接するMOX燃料加工施設の
安全審査では審査対象となっている断層である(甲D236。)
この断層について,昭和55年新潟大災害研年報第2号の「むつ小『
川原石油備蓄基地建設予定地』における“活断層”問題」と題する論文
(甲D175)は,後川の断層の露頭に見られる断層群には第四紀更新
世(洪積世)前半期の野辺地層を切って発達しているものが見られるた
め活断層と認定できる,この地点の第四紀更新世後半に降灰したローム
層の発達が悪く,どのような活動をしたのか検討できないため,同じ性
格の断層群である土場川西方の断層の露頭を検討したところ,第四紀更
新世中後期中部ローム層を切っているため,この地点の断層は14万年
前から1万3千年前のいずれかに活動したとしている。
しかしながらこの断層は上記のとおり日本の活断層ないし新,,「」「[
編]日本の活断層」にも活断層として記載されていないものであるとこ
ろ,上記論文自体が,野辺地層としている地層を第三紀中新世鷹架層に
所属のものではないかとの疑問も残るとしているほか,上記論文で第四
紀野辺地層としている地層は第三紀鮮新世砂子又層に属するとする見解
も存する(弁論の全趣旨)から,上記論文は疑いを容れる余地がないと
まではいえない。
したがって,甲D175号証は,少なくとも後川−土場川沿いの断層
に第四紀に入って以後の活動性を認めるに足りる的確な証拠とはいえ
,,,ずほかにこれを活動性の高い活断層とみるべき根拠はないから結局
上記断層は,本件安全審査において当然考慮すべき活断層とはいえない
というべきである。
(ウ)吹越烏帽子岳付近に発達する断層
この断層は「日本の活断層」ないし「新編]日本の活断層」には,[
記載されていないが,青森県の土地分類基本調査図には記載されている
ものである(甲D177,179,国家石油備蓄基地の北数先か)km
ら吹越烏帽子岳の西側をほぼ北北東から南南西方向に向かう断層であ
る。
しかしながら,この断層が後川−土場川沿いの断層の北にあってその
走向方向が似ているとは認められるが,そのほかこの断層が後川−土場
川沿いの断層と連続していることを認めるに足りる的確な証拠はなく,
控訴人らも後川−土場川沿いの断層に活動性があることを前提にしてこ
の断層が記載されている旨を指摘するに止まっているところ,後川−土
場川沿いの断層に活動性が認められないことは上記のとおりであって,
ほかにこれを活動性の高い活断層とみるべき根拠はないから,結局,上
記断層は,本件安全審査において当然考慮すべき活断層ということはで
きない。
(エ)折爪断層
「[]」「」,(,新編日本の活断層の八戸図には折爪断層長さ44km
確実度Ⅱ,活動度B)が記載されており,同断層は,青森県三戸郡σか
ら岩手県岩手郡τにかけて北北西走向で走り,西側隆起の高度不連続が
認められるものであるところ,その北端においても本件廃棄物埋設施設
から50以上離れた距離にあり(甲D168,弁論の全趣旨,上km)
記断層の本件敷地からの距離及び活動性等は,本件廃棄物埋設施設に地
震動を引き起こす可能性を具体的にうかがわせるものとまではいえず,
ほかにこれを活動性の高い活断層とみるべき根拠はないから,結局,上
記の断層は,いずれも本件安全審査において当然考慮すべき活断層とは
いえない。
(オ)津軽山地西縁断層帯と青森湾海底断層
新編日本の活断層の青森図には津軽山地西縁断層帯長「[]」「」,(
さ30,確実度Ⅰ∼Ⅱ,活動度B)が記載されているが,同断層帯km
は,北部,中部及び南部の3つの部分に分けられ,確実度Ⅰであるのは
南部の長さ7の部分に限られ,北部及び中部はいずれも確実度Ⅱでkm
ある(甲D168,弁論の全趣旨。)
,「」甲D57号証の2中には上記津軽山地西縁断層帯と日本の活断層
に記載されている津軽海峡海底下にある崖高200m以下の活断層(下
北半島沖海底断層)とはつながっており,両活断層との間には伏在断層
が存在する可能性がある旨の記載部分があるけれども,その根拠はあい
まいの域を出ず(甲D57の3の109頁,これを裏付ける的確な証)
拠もないから,にわかに採用し難い。また,上記断層の本件敷地からの
距離及び活動性等は,本件廃棄物埋設施設に地震動を引き起こす可能性
を具体的にうかがわせるものとまではいえず,ほかにこれを活動性の高
い活断層とみるべき根拠はないから,結局,上記断層は,本件安全審査
において当然に考慮すべき活断層とはいえない。
なお,控訴人らは,震源断層の長さと地表断層とが比例しない場合が
あったり,地表断層がない場合でも地下に断層がないとはいえず,地表
に断層がなくても地震が当該場所で起こり得る旨を主張するけれども,
これは,地下深くまで精査して当該部分に活断層がないとの証明ができ
ない以上活断層による地震が起こり得るというに等しいものであるとこ
ろ,本件安全審査において,そのようなことまでを求められるものと解
することはできない。
さらに,控訴人らは,敷地がマグニチュード8内外の地震によってい
かなる影響を被るかを検討するためには,活断層の調査範囲を敷地から
300ないし400内外も離れた場所にまで広げ,その範囲内に存km
在するすべての活断層について,詳細な調査・研究を行うことが是非と
,,も必要になってくる旨主張するけれども控訴人らの主張する範囲内に
活動性が高いといえる活断層で本件廃棄物埋設施設の敷地に上記のよう
な地震動の影響を及ぼすおそれのあるものの存在が明らかになっている
ことを認めるに足りる証拠はなく(下北半島沖海底断層がこれに該当し
ないことは後記のとおりである,それにもかかわらず,本件安全審。)
査において,上記のような広範囲の活断層の詳細な調査・研究をして,
このような活断層が存在しないことを確認することまで求められている
ものと解することはできない。
(カ)中小断層の同時活動
控訴人らは,上記一切山東方断層,出戸西方断層,横浜断層,野辺地
断層,上原子断層,天間林断層,そのほか確実度Ⅲに分類される小さな
断層と低レベル廃棄物廃棄施設の敷地内にあったf−a・f−b断層,
再処理施設の敷地内にあったf−1・f−2断層(甲D34の17頁,
19頁)とが同時に活動する可能性がある旨を主張するところ,それら
断層において個々的には走向方向が似ている断層もないではないが,そ
の全体を見通せば,その走向方向に一貫性があるとは認められず,これ
ら断層が同時に活動する可能性があると認めるに足りる証拠はないとい
うべきである。
,,,したがって上記断層の同時活動の可能性は本件安全審査において
当然考慮すべき事柄であったとはいえないというべきである。
ウ海域の活断層について
(ア)断層の存在について
証拠(甲D57の2,77の1)及びに弁論の全趣旨によれば「日,
本の活断層」には,尾駮東方沖辺りから北海道恵山岬東方沖辺りにかけ
て,崖高が200mを越え,長さ約84の東落ちの海底断層(下北km
半島沖海底断層。以下「本件海底断層」という)と,この断層から北。
に若干距離を置いて北方向に走向する長さ数十の撓曲(連続したまkm
まS字状に曲がっている地層)が記載されていること,本件敷地から上
記断層の中央までの距離は約40であるが,本件敷地から同断層のkm
南端付近までの最短距離は約10であることが認められる。km
(イ)下北半島沖海底断層の活動性について
証拠(甲D155)によれば,青森県が委嘱した「原子力施設周辺の
地質・地盤に係る安全性チェック・検討会(以下「検討会」という)」。
の報告は,本件海底断層につき,次の事実などから,仮に音波探査記録
の探査深度を超える海底下の深部に断層が存在するとしても,第四紀前
期更新世又はそれ以前の地層中の断層の存在は否定できないものの,少
なくとも第四紀中期更新世以降(約70万年前以降)に活動した形跡は
認められないとし,原子力施設の設計上考慮すべきであると考えられる
比較的新しい時代の断層運動は認められないと結論付けたことが認めら
れる。
a尾駮沖で確認された断層が第三紀中新世(約2400万年前から約
510万年前)に堆積した地層に変位を与えているが,その直上の第
四紀に堆積した地層(180万年ないし170万年前以降)には変位
・変形が及んでおらず,活動時期は古くいわゆる活断層には該当しな
い。
b崖をはい上がっている地層が完全にはつながっていないように見え
る部分も浅部の地層が下位の地層にアバット(不整合の一形式で,新
規の地層の層理面が下位の地層の上限面に平行せず,著しい角度で斜
交している状態)していることが確認され,断層による変位・変形は
認められない。
c第三紀鮮新世から第四紀更新世(洪積世)の地層が西側に傾き下が
り,深部ほど傾斜が急な累積性(構造運動が継続することによってよ
り古い地層に積み重なる変位・変動の度合い)の認められる構造にな
っている部分は,この地質構造が上位層のアバットないしラッピング
(海進・海退など相対的な海水準変動に伴い,下位層を覆うように上
位の地層が順次堆積している状態)であって断層活動によるものとは
認められない。
d大陸斜面付近の局所的な変形がある部分は,深部に至る変形の累積
性は認められず,近接する地点との構造的な連続性が認められないこ
となどから斜面崩壊によるものと考えられる。
これに対して,控訴人らは,活断層研究会のP39東大教授が,平成
9年1月に検討会に出席して,本件海底断層の活動時期について,沖積
層が形成された最終氷期(約2万年前)以降も活動を継続している可能
性が高いとの見解を示したとして,本件海底断層に活動性がある旨を主
張する。しかしながら,上記見解は,音波探査記録の判読結果に基づく
とするものであるところ,同記録を上記bのように判読することも可能
であることはP39教授の自認するところであって,活動時期を最終氷
期以降とする直接の資料はないといい,断層変位を受けている地層の年
代を明らかにすることが今後の課題であるとしているのであるから(甲
D90,116の1,上記見解は未だ前記検討会の結論を覆すに足り)
ないというべきである。
なお,1978年(昭和53年)5月16日,下北半島東方沖の大陸
棚外縁の南端付近でマグニチュード5.8の地震が発生しことが認めら
れる(甲D45)ところ,この地震の震源位置などからみても,これが
本件海底断層によって発生したとする直接的な証拠は見つかっていない
から,同地震の存在は上記結論を左右するものとはいえない(甲D15
5。控訴人らは,この地震自体が本件海底断層の活動性の直接的な証)
拠である旨主張するけれども,震源の位置と本件海底断層の位置関係の
みから直ちにこれを肯認することは困難であって,控訴人らの主張は採
用できない。
また,控訴人らは,震源の深さが20よりも深ければその活動にkm
伴う断層は海底表面に達していないことになる,たとえ海底表面に活動
性の徴表が見られないとしても断層の活動性を否定できない等主張し,
甲D57号証の2中にはこれに沿う部分があるけれども,いずれも積極
的に活動性を肯定するというものではなく,理論上あり得る可能性を述
べるにとどまるものであって,前記の検討会の結論を左右するに足りる
ものとはいえない。
以上によれば,本件海底断層は,本件安全審査において当然考慮すべき
活断層とまではいえないというべきである。
エ活断層の評価につき,以上の判断を左右するに足りる証拠はないから,
これに反する控訴人らの主張は採用し難い。
()以上によれば,現在の地震学,建築工学等の水準による科学的知見に照6
らしても,本件安全審査において当然考慮すべき活断層があったとはいえな
いから,本件安全審査の調査審議及び判断過程に看過し難い過誤,欠落があ
るとは認められない。
()ほかに,耐震設計審査指針のCクラスの耐震設計によって本件廃棄物埋7
設施設の安全性が確保できるとした本件安全審査の調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落があると認めるべき根拠はない。
控訴人らは,申請者が本件敷地に影響を及ぼす過去の地震想定にあたり地
震リストを改ざんし,中小地震による被害の検討を怠っている旨主張するけ
れども,P1が殊更本件敷地に影響を及ぼす過去の地震想定にあたり地震リ
ストを改ざんしたと認めるに足りる証拠はなく,証拠(乙2の3−22頁,
23頁,64頁,8の17頁)によれば,P1は,許可申請書に添付されて
いる宇佐美カタログ1979宇津カタログ1982及び地「()」,「()」「
震月報(昭和56年1月ないし昭和63年5月」の震央分布図に記載され)
ている被害地震のうち,本件廃棄物埋設施設から震央までの距離が200キ
ロメートル以内のものの検討に加えて,当時の最新の資料である「新編日本
()」,「()」,被害地震総覧昭和62年理科年表昭和64年等をも検討の上
敷地からの震央距離,地震の規模の大小等にかかわらず,敷地近傍で大地震
が発生していないことを確認しており,本件安全審査においては,これを踏
まえて過去の地震に関する調査が妥当なものであると判断したことが認めら
れるから,中小地震による被害の検討を怠ったとも認め難い。
,,,また控訴人らは被害地震の震度階を無視している旨主張するけれども
本件廃棄物埋設施設においては,耐震設計審査指針における耐震設計上の重
要度分類のCクラスの施設に対応する耐震設計を行うことにより,その安全
を確保することができるのであり,地震に対する設計上の考慮は妥当なもの
とした判断が合理性を有することは,前示のとおりである。
さらに,控訴人らは,施設の健全性が保たれなければならない期間中に活
断層の活動による地震が発生すれば,本件廃棄物埋設施設及び管理建屋は破
壊される可能性があるが,このような場合に被控訴人は本件廃棄物埋設施設
の安全性が保たれることを主張も立証もしていない旨主張するけれども,P
1により本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺における地震に関して十分
な調査が行われ,本件安全審査においては,敷地近傍で大地震が発生してい
ないことが確認されていること及び本件安全審査において当然考慮すべき活
断層があったとはいえないことは前示のとおりであるのみならず,本件安全
審査においては,本件廃棄物埋設設備は,一般産業施設の耐震設計に相当す
るものとして,設備に作用する水平震度を0.2として算定された設計地震
力に対して,本件廃棄物埋設地の管理の第1段階において放射性物質が本件
埋設設備の外へ漏出しないように設計するとされていることが確認されてお
り,本件安全審査においては,仮に第1段階において放射性物質が漏出した
場合でも,速やかに放射性物質の漏出を防止するため,修復等の措置を行う
こととされていることに加えて,第2段階以降においては,廃棄体,本件埋
設設備等が著しく劣化し,第2段階当初から放射性物質の漏出が始まると仮
定する等して一般公衆の受ける線量当量の評価が行われており,この場合で
も,一般公衆の受ける線量当量は十分小さいことが確認されていることは前
示のとおりであるから,本件埋設設備が地震に対して安全確保上問題となる
ことはないとした本件安全審査の判断に誤りがあるとは認められない。
してみれば,控訴人らの上記主張は採用できない。
7津波に関する主張について
本件安全審査においては,地形等の状況からみて,本件廃棄物埋設施設が津
,,波により被害を受けることはないことを確認していること控訴人らの主張は
地形的条件の異なる地域における例を挙げて津波の危険性を主張するにとどま
るものであるから,本件安全審査の調査審議及び判断過程に看過し難い過誤,
欠落があるとすることはできないことは,原判決154頁10行目冒頭から1
9行目末尾まで記載のとおりである。
以上の点は,本件敷地周辺地域をスマトラ島沖地震津波による被害地域と単
純に対比できないことにも妥当する。控訴人らは,海岸からの距離,標高及び
地形を個別に取り上げて,それぞれにつき過去に地震津波による被害が発生し
た例を挙げて本件廃棄物埋設施設についても地震津波の被害の危険性がある旨
を主張するけれども,津波による被害発生の地形的条件は,そのいずれかが類
似していれば足りるものではなく,これらが複合して類似した場合に初めて地
形的類似性が認められるものというべきであるから,これらの例をもって地形
的条件が類似しているとは速断できず,本件廃棄物埋設施設が地震津波による
被害を受ける具体的危険性があることの根拠とすることはできない。
してみれば,津波に関する控訴人らの主張は採用できない。
8水理に関する控訴人らの主張について
()断層沿いの水みちの存在に関する主張について1
ア断層沿いの水みちの有無
(ア)控訴人らは,①f−a,f−b断層沿いに破砕帯があり,断層に沿
って透水係数の高い場所が連続していること,②ラドン法によってもf
−a,f−b断層沿いに数値の高い箇所が連続していること,③岩盤透
水試験においても断層沿いに他の箇所と比較して著しく高い値を示した
箇所が数カ所あり,これも前記断層沿いであること,④トレンチによる
シュミットロックハンマー試験でも,この混在部=破砕帯部分がもっと
も弱くなっているなど,断層沿いに弱い部分,水が透りやすい部分があ
ることを示している旨主張する。
(イ)確かに,①f−a断層及びf−b断層の周辺には,埋設設備の設置
cmされる鷹架層中部層の透水係数よりもかなり高い透水係数10−3(
/秒オーダー)の場所が複数存在していることが(甲D41,56・原
判決別紙「埋設設備周辺での第三紀層鷹架層の透水試験結果図,P8」
証言〔第46回弁論実施分〕54頁以下,同80頁,②ラドン法によ)
る割れ目調査(地下深部にある放射性元素は,地表に出やすい環境,例
えば割れ目を通って上昇してくるので,地表において土壌中のラドンガ
スの濃度分布を測定することにより,地下の断層,割れ目の存在状態を
推定することができるという調査方法)の結果によれば,f−a断層及
びf−b断層にほぼ沿った複数の地点においてラドンガスの濃度が高く
なっていることが(甲D41の参考資料1の14頁・ラドン/トロン「
比分布図,P9証言62頁以下,③岩盤透水試験の結果によれば,」)
断層のある深さに達した途端に加圧状態の水を注入したときの透水量が
(,一気に上昇した地点のあることが甲D41の参考資料3の19頁以下
P9証言64頁以下,④反撥度測定検査(シュミットロックハンマー)
により露頭付近にある岩石等を叩いてその反撥度を測定する検査)によ
ると,断層部分の境界付近にある混在部の反撥度は,断層構造をなす岩
石である軽石凝灰岩及び荒粒層に比べて相対的にやや低いことが(甲D
189図3及び図5「全測線での各地層毎の頻度分布図)それぞれ認」
められる。
(ウ)しかしながら,(イ)の各事実については,原判決が指摘する点を含
めて,次の事実が認められる。
aそれらの透水性の高い地点同士の中間又はその延長線上付近には透
水性の低い地点も点在している(埋設設備周辺での第三紀層鷹架層「
の透水試験結果図〔甲D56〕のg−⑤地点,g−⑦,k−⑨,c」
−①地点。)
b断層部分5か所の透水係数の平均が13×10−5/秒と低く.cm
(乙2の3−18頁,各箇所の数値にも大きなばらつきがなかった)
(P8証言〔第46回弁論実施分〕54頁,甲D41の7項「埋設設
備周辺の鷹架層の透水係数の分布について。」)
c割れ目のところのラドン濃度は長軸に沿った形で延びるのが特徴で
あるところ,本件では目玉状になっており,線状とみればそうみえる
けれども,これをもって断層と直結するというのは早計である(証人
P963頁。)
d断層部分に設けたトレンチにおいてシュミットロックハンマーによ
る岩石硬度測定をした結果によると,混在部の岩石の反撥度はやや低
いとはいえ,専門家の立場からすると,周囲の岩盤と比べてほぼ同程
度以上の硬さを有しており,断層面が固結・密着しているものと認め
(,〔〕)。られた甲D189の1頁P8証言第45回弁論実施分33頁
eボーリング調査の結果によれば10−3/秒という透水係数のcm
多い部分が連続していないことが確認されている(P8証言〔第4。
5回弁論実施分〕65頁)
f岩盤透水試験についても,ある部分が特段にそこだけ透水性が高い
コンパートメント的なものがよくあるため,その結果から透水量の高
数値が得られた地点を結びつけてこのような部分が連続しているとは
にわかに判断できない(P9証言65頁)。
(エ)証拠(P8証言〔第45回弁論実施分〕44頁以下,P9証言56
頁以下)によれば,地質については,直接的な観察方法である断層の露
頭の観察及びトレンチ調査の結果が重要であるところ,これらの結果か
らは前示5()アのとおり認められるのであって,f−a,f−b断層3
沿いに水みちがあるとは考え難いことが認められるのであり,これに
(ウ)の諸点を勘案すれば,(イ)の事実から上記断層沿いに地下水の透り
やすい層が連続した水みちが存在することを示すものとはいえないとい
うべきであって,控訴人らの主張は採用できない(P4証言〔第44。
回弁論実施分〕83頁以下,P8証言〔第45回弁論実施分〕63頁以
下,同〔第46回弁論実施分〕72頁以下,P9証言60頁以下。)
控訴人らは,データ不足で,それらの透水係数の多い断層部分がすべ
て連続していわゆる「水みち(地下水の浸透路)になっているとまで」
認めることはできないというのは,立証責任を控訴人側に転嫁したもの
である旨主張するけれども,上記判断は単に透水係数の高い部分が連続
していることの資料が足りないとするものではなく,むしろ調査結果か
らは水みちがあるとは考え難いというものであるから,これをもって立
証責任を控訴人側に転嫁したとはいえない。
なお,本件安全審査においては,仮に透水性の大きい上記各部分がf
−a断層及びf−b断層に沿って連続し,いわゆる「水みち」が形成さ
れているとしても,原判決別紙「検証見取図第1」記載のとおり,最終
的にはその水が敷地西側の沢を経由して尾駮沼へ,又は直接に尾駮沼へ
至る地形となっているから,被曝評価上は問題とはならないことが確認
されている(甲D41の42頁。)
イ3孔の地質柱状図について
(ア)控訴人らは,当審で文書提出命令を受けてP3株式会社が提出した
ボーリング調査に係る3通の地質柱状図は,ア(ア)の控訴人らの主張を
裏付けるものであると主張する。
(イ)証拠(甲D237ないし239)及び弁論の全趣旨によれば,次の
事実が認められる。
a2−d孔のボーリングデータについて
2−d孔は,孔口標高44.94m,掘削深度はGL.0.00∼
−45.00mである。層別では,GL.−8.46m以下はすべて
鷹架層中部層の砂岩である。2−d孔は,f−a断層の十数m西側に
位置している。
このボーリングデータには,深さ30.18m及び30.24m付
近に傾斜30°の割れ目があると特記されている。
この部分の地盤は深さ20mと深さ30mのところで,最大コア長
が20程度であり,場所によっては20を切っている。24cmcm
から25mの部分はR・Q・Dも70%以下である。
bD−5孔のボーリングデータについて
D−5孔は,孔口標高44.27m,掘削深度はGL.0.00∼
−145.00mである。層別では,GL.−1.75∼−68.5
5mまでが鷹架層中部層であり,−68.55m以下は鷹架層下部層
である。D−5孔は,f−a断層の約10m東側に位置している。
このボーリングデータには,次の割れ目があると特記されている。
深さ3.55−4.5m付近傾斜20−50°
深さ7.10m付近傾斜45°
深さ10.14−14.95m付近傾斜10−80°
深さ18.82−20.90m付近傾斜10−70°
深さ22.24−22.95m付近傾斜40−50°
深さ24.65−25.20m付近傾斜40−50°
深さ26.55−32.10m付近傾斜30−80°
深さ68.55m付近傾斜55°
これより下の地層は鷹架層下部層にあたる。
鷹架層中部層と鷹架層下部層との境界には,傾斜55°の割れ目に
幅0.1∼0.2(控訴人らは,この記載は0.1∼0.2mのcm
誤りかもしれない旨指摘するけれども,地質柱状図において,深度以
外の表示単位はすべてであり,本件許可申請書の添付書類(例えcm
ば乙2の3−50頁)も同様の表示となっていることに照らせば,こ
の記載が誤りとは認められない)の固結粘土が挟まれている。。
深さ25mより深いところは,割れ目が多いことを示しており,こ
の部分の最大コア長は20程度で推移しており,深さ31mの箇cm
所では10程度である。R・Q・Dは29mで40%,31mでcm
30%の値を示している。
c5−c孔のボーリングデータについて
5−c孔ボーリングデータは,垂直に掘削された方の5−c孔のボ
ーリングデータであり,この隣に5−c斜孔のボーリングが掘削され
ている。
5−c孔の孔口標高は54.52m,掘削深度はGL.0.00∼
−65.00mである。このボーリング孔では,深さ7.00m以下
はすべて鷹架層中部層である。この孔口は,f−b断層の約10m北
側に位置している。
このボーリングデータには,次の割れ目があると特記されている。
深さ7.00−7.70m付近傾斜10−20°
深さ10.05−14.75m付近傾斜5−70°
深さ16.50−18.50m付近傾斜10−30°
深さ20.90−27.80m付近傾斜5−80°
深さ30.30−34.35m付近傾斜5−80°
深さ53.65−53.85m付近傾斜5−15°
深さ30mから36mの部分はR・Q・D60%以下,最大コア長2
0程度の地盤になっている。cm
(ウ)しかしながら,上記3孔の地質柱状図(甲D237ないし239)
には,数量的に水の透りやすさ自体を示すデータは記載されていないか
ら,3孔のボーリング箇所が水の透りやすい状態にあることがこのよう
なデータによって示されているとはいえない。
しかのみならず,(イ)の事実によれば,D−5孔の深さ30m前後の
部分でR・Q・Dが30ないし40%と岩盤良好度が悪い部分があるほ
か,2−d孔,5−c孔でもR・Q・Dが60ないし70%と鷹架層の
平均値96.6%をかなり下回る部分があり,また最大コア長も3孔と
も一部では20程度で,D−5孔では10程度の部分があり,cmcm
深さ25m以下で少なからず割れ目の存在も認められるけれども,f−
a,f−b断層について前示(エ)で指摘した点を考え併せると,これか
ら直ちにf−a,f−b断層沿いに水の透りやすい破砕帯が存在すると
認めるのは無理がある。
また,D−5孔の荒粒砂岩の部分の一軸圧縮試験の数値が軽石凝灰岩
のそれに比して小さいと認められることは控訴人ら主張のとおりである
けれども,これは岩質の違いによる強度差にすぎないと見るべきである
から(P8証言〔第46回弁論実施分〕13頁以下,これをもってf)
−a断層部分の破砕帯の存在に起因するものと速断することはできな
い。
なお,D−5孔の鷹架層中部層と鷹架層下部層との境界において,傾
斜55°の割れ目に幅0.1∼0.2の固結粘土が挟まれているこcm
とは前示のとおりであるけれども,この部分に破砕帯があるとみるには
根拠が十分とはいえない。
(エ)5−c斜孔の地質柱状図(甲D33)によれば,次のとおり認めら
れる。
5−c斜孔は傾斜45°で南側に向けて掘削されており,孔口標高は
46.27m,掘削深度はGL.0.00∼−96.00m(標高−2
1.62m)である。このボーリング孔はすべて鷹架層中部層である。
この孔口は,5−c孔の数m北側に位置している。
このボーリングデータでは,標尺2.90∼4.00m付近,5.5
2m付近,14.66m付近,22.00∼23.00m付近,28.
00∼29.00m付近,40.00∼41.00m付近,52.00
∼53.00m付近,56.00∼57.00m付近,60.00∼6
3.00m付近,77.25m付近,89.00∼90.00m付近に
割れ目があり,所々に泥岩礫等を含むと特記されているほか,地盤の強
度や水の透りやすさにかかわる記載はなく,R・Q・Dが80%以上,
最大コア長も一部で20を若干超える部分があるにとどまる。cm
このデータは,f−b断層沿いに水の透りやすい破砕帯が存在するこ
とをうかがわせるものとはいえない。
(オ)以上の点を併せ考慮すれば,控訴人ら主張の3孔の地質柱状図をも
って,f−a,f−b断層沿いに水みちがあることを裏付けるものとは
認め難い。
ウ控訴人らは,P1は,合計27孔の地質柱状図の中から,地盤条件が相
対的に良好なことが明示されている5孔の地質柱状図のみを意図的に選ん
で提出し,それ以外のものを提出しなかったにもかかわらず,被控訴人が
本件安全審査に当たって他の地質柱状図の提出を求めなかったのは,本件
安全審査の過誤である旨主張する。
しかしながら,P8証人(第46回弁論実施分〕22頁)は,申請書〔
に記載された柱状図で埋設施設の敷地の安全性の検討には十分であるか
ら,それ以外のものを載せなかったと思われ,それ以外のボーリングにつ
いてもキーポイントとなるものについては,安全審査の場で説明を受けて
いる旨供述するところ,当審で提出された3孔の柱状図もすでに提出済み
の地質柱状図により読みとることができる地質の状態を大きく左右するも
のとは言い難いことを考え併せると,上記供述は首肯できないではないか
ら,P1が地盤条件が相対的に良好なことが明示されている地質柱状図の
みを意図的に選んで提出したとまでは速断できず(なお,P8証言〔第4
5回弁論実施分〕44頁に照らせば,ボーリング調査は断層の調査を目的
とするものでなかったため,断層に達する手前までしか掘削しなかった可
能性が否定できないから,掘削状態をもってボーリング調査が恣意的であ
ったとも速断できない,他に本件安全審査段階で未提出であった柱状。)
図に水みちの存在を示す記載があることをうかがわせる的確な証拠はない
から,被控訴人が本件安全審査に当たって他の地質柱状図の提出を求めな
かったのは,審査の過誤であるとはいえない。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
エさらに,証拠(甲D41の42頁,56頁)によれば,f−a断層は被
曝評価上必要とされる天然バリア(埋設設備から20m)の範囲の外であ
るから,10−3オーダーの透水係数部分が連続していたとしてcm/sec
も問題とはならずf−b断層は被曝評価上必要とされる天然バリア埋,,(
設設備から20m,地下水流速10myとして2年間の生活環境への移/
行を抑制する機能)の範囲内に存在するが,その経路は敷地西側の標高1
0mないし0mを流れる沢につながり,最終的には尾駮沼に流れ込み,仮
に埋設設備と沢との高低差を約30m,距離を約500m,透水係数を1
0−3とすると,地下水流速は18.9my,沢への流出期間2cm/sec/
6.5年となり,地下水流速20myとしても被曝評価で用いた沢への/
流出期間(2年間)よりも長くなるため,仮に10−3オーダーcm/sec
の透水係数部分が連続していたとしても問題とならないことが認められ
る。
そうとすれば,仮にア(イ)で認められた透水係数の高い箇所の存在が地
下水の流速に何らかの影響を与えているとしても,前示のような尾駮沼に
流入する地下水による被曝評価を本件廃棄物埋設施設の安全性に疑いを生
じさせるほど大きく左右するものとは認め難い。
オ控訴人らは,最終的に放射性物質が尾駮沼へ流入するからといって,本
件廃棄物埋設施設周辺の地下水が放射能によって拡散汚染されないという
ことにはならない旨主張する。しかしながら,上記断層沿いの水流の問題
をさて措いても,本件廃棄物埋設施設及びその付近において,地下水面は
主に第4紀層内にあり,地下水位の観測結果に基づき作成した地下水面等
高線図に基づき考察した結果から,埋設設備群設置位置を通過した地下水
は,敷地中央部の沢を経て尾駮沼に流入していると認められることは,前
示のとおりである。そして,この地下水の流向に沿わない地下水流の存在
をうかがわせる証拠はないから,被控訴人が安全審査においてした線量当
量評価を不十分とするような地下水の放射能による拡散汚染の可能性はな
いものと認めるのが相当である。
更に,控訴人らは,埋設設備の施工時に割れ目が発見された場合に対策
が可能であるといっても,割れ目の調査範囲は埋設設備が設置されるごく
狭い地域に限られるから,何の対策にもならない旨主張する。しかしなが
ら,断層沿いの割れ目が連続しているとは認め難い以上,控訴人らの主張
はその前提を欠くものというべきである。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
カ以上によれば,地下水に関する調査の結果に基づいてした線量当量の評
価に過誤があるとは認められない。
()廃棄物埋設設備群と地下水の水位変動領域に関する主張について2
ア控訴人らは,廃棄物埋設設備群の敷地においては,融雪,降雨による地
下水の季節変動が大きく,昭和61年10月からの敷地造成により地下水
位が低下した後も地下水位の低下が続いていると主張する。
しかしながら,D−5観測井における地下水位の観測結果からは,造成
工事による地下水位に対する影響は一時的なものというべきで,地下水位
が昭和63年以降も下がり続けて本件廃棄物埋設施設の設置位置まで下が
ると考え難いことは,原判決158頁5行目冒頭から同頁22行目末尾ま
で(ただし,前記訂正後のもの)説示のとおりである。
そして,融雪,降雨による地下水の季節変動が大きいとしても,廃棄物
埋設設備群の敷地付近における地下水の季節変動幅(C−5,D−5観測
井でみると2m前後である。甲D165の2−24頁,2−30頁)から
みれば,昭和63年3月時点における地下水位(甲D165の2−11)
から推測される本件埋設設備設置位置における地下水位の変動領域が廃棄
物埋設設備群の高さに達するとは認め難い。
控訴人らは,本件埋設設備群から離れたところも含めて全体に地下水位
が下がっている旨主張するけれども,B−5,C−6,D−6,D−7各
,。観測井の観測結果によってもこのような傾向をうかがうことはできない
,(),すなわち証拠甲D165の各観測井の地下水位測定結果図によれば
3月から4月にかけては,融雪の影響で地下水位が大きく上昇する時期で
あり,この期間に3m程度水位が変動する地点もあること,昭和61年3
月における上記の地点における地下水位は,B−5は標高52ないし55
m,C−6は53ないし54m,D−6は52ないし54m,D−7は4
9ないし52mであったこと,昭和63年3月についてみると,標高50
mの地下水位等高線を基準にして,B−5が若干高く,C−6,D−6が
ほぼ線上,D−7が若干低いところ,これらはいずれも昭和62年3月と
大きく変わっていないことが認められる。
以上の事実によれば,造成地の外において昭和61年3月に比して昭和
63年3月の地下水位が低下した地点がないわけではないけれども,すべ
ての地点で低下したことまでは認められず,その程度も必ずしも顕著なも
のとはいえないのであって,各地点とも昭和62年3月からは地下水位が
大きく変わっていないことを考え併せると,本件埋設設備群から離れたと
ころも含めて全体に地下水位が下がっているとは速断し難い。
してみれば,昭和61年10月からの敷地造成により地下水位が低下し
た後も地下水位の低下が続いている旨の控訴人らの主張は採用できない。
イ控訴人らは,申請者であるP1は昭和63年3月以降についても観測デ
ータを保持しているものであり,少なくとも安全審査は平成2年の秋まで
続けられていたのであるから,昭和63年3月以降の地下水位のデータの
提出を求めることは不可欠であったというべきであったにもかかわらず,
これを怠り,許可時点の地下水位の動向をデータで確認しないままに事業
許可を行ったのであるから,本件安全審査には,その調査・審議の過程に
看過し難い過誤・欠落がある旨主張する。
証拠(甲D165の2−1頁)によれば,P1は,昭和63年3月以降
も地下水位の観測を継続していたことが認められる。しかしながら,本件
廃棄物埋設施設の敷地の地盤である第三紀層は透水性が十分小さい構造に
なっており,地下水は主に第四紀層内を流れていること,敷地は北西から
南東に緩く傾斜する台地からなり,敷地西側は沢地形で後背丘陵地と区分
され,地下水はもっぱら降水によってかん養されていること(乙2の3−
18頁,乙D5の2頁以下)に,前示アのとおり,融雪及び降雨時に地下
水位変動があるけれども,地下水位の変動領域が廃棄物埋設設備群の高さ
に達するとは認め難いこと,廃棄物埋設設備群から離れたところも含めて
全体に地下水位が下がっているとは認められないことを考え併せれば,単
に昭和63年3月までのデータが地下水位の低下を示していることから,
その後も地下水位が低下し続けるであろうと推認することはできず(P9
証言48頁,52頁,事業許可時に,昭和63年3月よりも埋設設備群)
敷地の地下水位が低下し,地下水位の季節変動領域が埋設設備群の高さに
迫っていたか,あるいは埋設設備群の高さに達していた可能性があると認
めるべき根拠があるわけではないのであって,P1が,昭和63年3月以
降についても観測データを保持しているにもかかわらず,その後の地下水
位の観測データを安全審査に提出しなかったからといって,これをその後
の地下水位が申請者に不利な方向に動いているためと決めつけることはで
きない。
以上のもとで,本件安全審査において,許可申請時点の地下水位の動向
をデータで確認しないままに事業許可を行ったからといって,その調査・
審議の過程に看過し難い過誤・欠落があるとは認め難いから,控訴人らの
主張は採用できない。
()井戸水シナリオに関する主張について3
ア控訴人らは,被控訴人が井戸水シナリオという評価手法自体を全体とし
て放棄した旨非難する。
たしかに,証拠(甲A4,甲D7,40,P4証言〔第44回弁論実施
分〕86頁以下)によれば,本件調査審議の過程においては,線量当量評
価の経路として,埋設設備を貫くように掘られた井戸から採取した水を飲
んだ人の被曝に係る経路が,結局評価経路として想定されなかったことが
認められるけれども,管理期間終了後の線量当量評価経路⑨において,本
件廃棄物埋設施設周辺について井戸水の飲用による内部被曝(線量当量評
価⑨)を線量当量評価の対象とし,線量当量限度を超えないとされたこと
は,原判決説示のとおりであって,本件安全審査において井戸水の飲用に
よる被曝に対する評価手法自体が全体として放棄されたとはいえない。
そして,埋設地周辺においては透水係数が低いために井戸を掘削しても
十分な揚水量を得ることができないから井戸水の利用は考え難いこと,低
レベルとはいえ放射性廃棄物が埋設された本件廃棄物埋設設備内に井戸を
掘ることは通常想定し難いことから,管理期間終了以後の線量当量評価経
路⑨以上に,本件廃棄物埋設設備内に掘られた井戸から採取した水を飲ん
だ人の被曝に係る評価経路を,評価経路として想定しなかったことについ
て,看過し難い過誤,欠落があるということはできないとした原判決の判
断に誤りがあるとは認め難い。
イ控訴人らは「原判決は透水係数が低いために十分な揚水量が得られな,
いので井戸水の利用は考え難いというが,本件廃棄物埋設施設の管理期間
とされる300年後の本件地質の透水係数や地下水流動を現状で予測する
ことは不可能である」と主張する。。
証拠(P8証言〔第45回弁論実施分〕78頁,P9証言82頁以下)
によれば,本件廃棄物埋設施設から数離れた集落には,現在深井戸がkm
少なからずあり,畜産等に利用していること,しかしながら,これらの地
域は本件廃棄物埋設施設周辺とは異なり,岩盤の特性,性状が異なってい
て,砂礫混じりの砂岩で,間隙率が大きく,地下水の包蔵力が非常に豊富
なところであって,これと同列には論じられないこと,本件敷地とこれら
,,の地域との間には断層が存在し本件敷地はいわば孤立した状態にあって
地下水が流入しない構造になっていることが認められる。そして,管理期
間経過後までみても,この構造が大きく変化することを予測すべき根拠は
ない。
そうとすれば,本件放射性廃棄物埋設地は,透水係数が低いために十分
な揚水量が得られないので井戸水の利用は考え難いとしたことに誤りがあ
るとはいえない。
ウ控訴人らは「現代の人(=私たち)が本件廃棄物埋設施設に井戸を掘,
ることを考えないことが,300年後の未来の人にその考えを如何に継承
できるのか。これを予測したり予測する手法は現在,全く存在しない。原
判決は「低レベルとはいえ放射性廃棄物が埋設された本件設備内に井戸を
掘ることは想定し難い」というが,上記のとおり,事実上自然放置(管理
放棄)される状態で,本件土地が放射性廃棄物の埋設地であることを誰が
指摘できるのか」と主張する。。
,,しかしながら本件土地が放射性廃棄物の埋設地であることからすると
管理期間経過後であっても,通常人が本件土地に井戸を掘削する権原を取
得するような事態は考え難く,また,控訴人らも,本件廃棄物埋設地が将
来,地質的,地形的に井戸水の利用に適した土地に変化する可能性を想定
すべき根拠を示すものではないから,本件安全審査において,管理期間経
過後に本件廃棄物埋設地の直上に井戸が掘られることを前提とした安全評
価を行わなかったことをもって不合理とはいえない。
エ以上によれば,埋設地直上の井戸水シナリオを評価の対象としなかった
からといって,安全審査に過誤があるとはいえない。
オ控訴人らは,原判決は,井戸水シナリオという被曝評価の方法を,単な
る地下水の流動の態様(流れの方向)と混同し,かつ本件廃棄物埋設施設
が300年を一単位とする,すなわち時間というより歴史を単位とする施
設であることを自覚しないものであり,判断過程に誤りがある旨主張する
けれども,井戸水シナリオに係る上記の被曝評価は地下水の流動の態様の
みを理由とするものではなく,また管理期間経過後についても上記のとお
り考えられるから,原判決の判断過程に控訴人らの主張するような誤りは
ない。
9航空機事故評価についての主張について
()審査基準の不合理の主張について1
控訴人らは「基本的な考え方」が航空機事故を審査対象として掲げてい,
ないのは,調査審議における具体的審議基準に不合理がある場合に該当する
旨主張する。
しかしながら,安全審査に用いられる審査基準は,審査において,申請に
係る廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本
的設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるものである
かどうかを判断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足
りるものである。
「安全審査の基本的考え方」Ⅲは,基本的立地条件として「廃棄物埋設,
施設及びその周辺において,大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考え
られず,また,万一,事故が発生した場合において,その影響を拡大するよ
うな事象も少ないこと」と定め,その解説は,基本的立地条件について,大
きな事故の誘因を排除し,また,万一事故が発生した場合における影響の拡
大を防止する観点から,廃棄物処理施設の敷地及びその周辺における以下の
ような事象を考慮して,安全確保上支障がないことを確認する必要があると
して「①近接工場等における火災,爆発等,②河川水,地下水等の利用,
,,,,状況農業畜産業漁業等食物に関する土地利用等の状況及び人口分布等
③石炭,鉱石等の天然資源」を掲げている。この中には,航空機事故は具体
的に列挙されていないけれども,大きな事故の誘因を排除し,また,万一事
故が発生した場合における影響の拡大を防止する観点から,廃棄物処理施設
の敷地及びその周辺において発生する可能性のある①以外の事故の調査審議
を不要とする趣旨でないことは,その文言から明らかである。
そして,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設の基本的立地条件
として,上記「安全審査の基本的考え方」に従い,当該施設の敷地及びその
周辺の社会環境の敷地周辺の交通として,航空関係についても考慮に入れた
上で,敷地周辺の交通は本件廃棄物埋設施設の安全確保上支障がないと判断
されているのである。
以上によれば「安全審査の基本的考え方」は,前記判断の基本的枠組み,
を提供する内容を具備すべき要請を満たしているものというべきであって,
「基本的な考え方」が航空機事故を審査対象として具体的に列挙していない
ことをもって,調査審議における具体的審議基準に不合理がある場合に該当
するとはいえず,控訴人らの主張は採用できない。
()航空機墜落の危険性の主張について2
控訴人らは,原子力施設上空の航空機の飛行が法令あるいは申合せで規制
されていることから「本件廃棄物埋設施設への航空機墜落の可能性は極めて
小さい」などという結論は導き出せる訳がない,飛行規制はあっても,その
実効性が伴わなければ絵に描いた餅にすぎないからである旨主張する。
しかしながら,本件廃棄物埋設施設周辺において,飛行する可能性のある
民間機,自衛隊機及び米軍機については,飛行規制の実効性を確保するため
の施策が具体的にとられていることは,原判決166頁1行目冒頭から同頁
25行目末尾まで(ただし,前記訂正後のもの)記載のとおりであり,控訴
人らの主張・立証によっても,これが実効性を伴わないものであるとすべき
十分な根拠があるとは認め難い。
そして,本件安全審査において,上記のような航空機の飛行に係る法的規
制等を踏まえ,かつ,民間航空機の定期航路及び軍用機との訓練空域と本件
廃棄物埋設施設上の距離がそれぞれ約10離れていることをも勘案しkm
て,自衛隊β基地及び米軍β基地の航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する
可能性が極めて小さいと判断されたことは,原判決説示のとおりであり,以
上のような本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤がある
とすべき根拠はない。
控訴人らは,本件廃棄物埋設施設に墜落する危険のある航空機は,γ射爆
撃場の訓練機以外にβ空港発着の民間・軍用の航空機などがあり,訓練機だ
けとは限らないこと,本件廃棄物埋設施設と射爆撃場とはわずか10しkm
か離れておらず,極めて高い頻度で軍事訓練が行われていること等から,本
件安全審査がいうところの墜落の可能性が「極めて小さい」とはいえない旨
主張するけれども,これらによって墜落の具体的危険性が実際に増大してい
ることを認めるに足りる証拠はなく(控訴人ら挙示の証拠は,これを認める
に足りない,控訴人らの主張に係る航空機事故の発生状況によっても,。)
墜落の可能性に関する本件安全審査における上記判断を左右するものとまで
はいえない。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
()航空機墜落の影響評価の誤りの主張について3
本件安全審査においては,航空機が本件廃棄物処理施設に墜落する可能性
は極めて小さいことから,航空機に関する安全確保上の支障はなく,航空機
。,の墜落に備えた設計上の考慮は必要はないと判断されたものであるそして
航空機が本件廃棄物処理施設に墜落する可能性は極めて小さいとされる以
上,航空機に関する安全確保上の支障はなく,航空機の墜落に備えた設計上
の考慮は必要はないとする判断に看過し難い過誤があるとは認め難い。
そうとすれば,たとえ,航空機墜落事故による評価に誤りがあったとして
も,これから直ちに本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過
誤があるとはいえないから,航空機の墜落事故評価の前提条件の適否を論ず
る必要はないことになる。
しかのみならず,本件安全審査においては,仮に訓練中の航空機が管理建
屋に墜落した場合の影響について評価しているところ,この影響評価に係る
,,調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落があるとはいえないことは
以下のとおりである。
ア証拠(乙2,8,12)及び弁論の全趣旨によれば,本件安全審査にお
ける航空機墜落事故の影響評価は,原判決別紙「航空機墜落時の線量当量
評価の計算条件」のとおり,次の条件によったものであり,この条件によ
り訓練中の航空機が管理建屋に墜落した場合の影響につき,これによる一
般公衆の線量当量は,敷地境界外の最大となる場所において,実効線量当
量で約0.13ミリシーベルトであり,一般公衆への被曝による影響は小
さいこと,本件廃棄物埋設地などその他の施設についてはこの値を下回る
ことが確認されたことが認められる。
(ア)墜落を想定する航空機の機種は,γ射爆撃場で射爆撃訓練を実施し
ている航空機のうちβ基地に最も多く配備されている防衛庁のF1及び
米軍のF16とする。
(イ)線量当量の計算に当たっては,廃棄体に含まれる放射性物質による
内部被曝を対象とする。
(ウ)管理建屋が鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造及び
一部鉄骨造)であるため,航空機が墜落した場合,機体の翼部等は衝突
面で飛散し,管理建屋内に至るとは考えられないが,翼部等を含む機体
の平面全投影面積に余裕を見込んで約90mの範囲の廃棄体約6002
本が破損するものと想定する。なお,廃棄体は梱包容器に収納された状
態で一時貯蔵されているが,本想定に当たっては,この梱包容器の存在
を無視する。
(エ)墜落時の衝撃及び燃料油火災の発生により,破損した廃棄体中に含
まれる放射性物質の06%が粒子状となりそのまま大気中に放出され.
るものと想定する。また,気体状になる放射性物質については,すべて
大気中に放出されるものとする。
(オ)大気中に放出された放射性物質の拡散は「気象指針」に準拠して,
評価する。
(カ)吸入摂取による実効線量当量換算係数は,ICRPの30等にPub.
基づき設定し,また,標準人の呼吸率は,ICRPの23に基づきPub.
毎時12m3とする。.
イ控訴人らは,墜落を想定した航空機を本件訓練区域で訓練中の航空機に
限定したことは誤りであると主張するが,β空港が本件廃棄物埋設施設か
ら28離れていることからすると同空港を離着陸する際の航空機事故km
による本件廃棄物埋設施設への影響は考え難いし,定期航空路を航行する
民間航空機については,定期航空路で安定した水平飛行を行っている巡航
中の航空機が異常を起こすことはまれであることや,定期航空路の中心線
は本件敷地から約10離れていることからすると定期航空路を飛行中km
の航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性は無視できるとした本件
安全審査の判断が妥当性を欠くとはいえない。また,原子力施設上空の飛
行が規制されていることからすると,訓練機以外の航空機が本件廃棄物埋
設施設上空に至ることは原則としてないものということができる。そうす
ると,航空機墜落事故として,本件訓練区域での訓練中の航空機の墜落を
想定したこと自体に誤りがあるということはできない。
また,控訴人らは,F4EJ改戦闘機の墜落を想定しなかったのは誤り
であると主張するが,F4EJ改戦闘機が本件許可処分当時,β基地に配
備されていたことを認めるに足りる証拠はないから,同機種を墜落評価に
加えなかったことが本件安全審査の審議過程及び判断の過程の看過し難い
過誤,欠落ということはできない。
ウ控訴人らは,航空機の墜落はエンジン停止に限られないから,エンジン
停止を前提に墜落する事故機の衝突時速度を150m秒と想定したのは/
誤りである旨主張するところ,この主張が採用できないことは,2()の19
原判決の訂正部分のとおりである。
エ本件安全審査において自爆テロの危険性を考慮しなかったとしても,看
過し難い過誤,欠落があるといえないことは,原判決182頁25行目冒
頭から183頁4行目まで説示のとおりである。
控訴人らは,本件廃棄物埋設施設に航空機による自爆テロ行為がなされ
る場合には航空機は少なくとも巡航速度前後で本件廃棄物埋設施設に衝突
する旨を主張する。本件廃棄物埋設施設についてそのような具体的危険性
があるかどうかはともかくとして,自爆テロ行為がもしも奏功すれば,そ
の目的・性質からいって本件廃棄物埋設施設が破壊されるであろうことは
推察し得ないではない。しかしながら,そのような第三者の外部からの意
図的な破壊行為を放射性廃棄物埋設施設の設計のみによって防止すること
は不可能である上,原子力施設の中では本件廃棄物埋設施設はその潜在的
危険性が小さいことにもかんがみると「安全審査の基本的考え方」は,,
自爆テロ行為による破壊の防止までを予定していないものというべきであ
り,自爆テロ行為を審査の対象としなかったからといって,本件安全審査
に誤りがあるということはできない。このような行為の防止は,外交,防
衛,治安等の観点から国全体で対応して初めて可能となることであって,
ひとり放射性廃棄物埋設施設の基本設計のみで対応するような問題ではな
いというべきである。
なお武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律平,(
成16年6月18日法律第112号)は,2条4項において対象となる武
力攻撃災害の中に放射性物質の放出に係る人的,物的被害を含めており,
10条1項3号において,国は,武力攻撃災害への対処に関する措置に係
る指示,生活関連等施設の安全確保に関する措置,危険物質等に係る武力
攻撃災害の発生を防止するための措置,放射性物質等による汚染の拡大を
防止するための措置,被災情報の公表その他の武力攻撃災害への対処に関
する措置を実施しなければならないと定めているけれども,自爆テロによ
る意図的な破壊行為を放射性廃棄物埋設施設の設計のみによって防止する
ことが不可能であることは前示のとおりであって,同法が自爆テロによる
意図的な破壊行為に対する放射性廃棄物埋設施設の設計上の安全性までも
確保することを国に義務づけていると解すべき根拠はないから,同法の存
在は,それが本件許可処分の後に成立施行されたことはさて措いても,以
上の判断を左右するものではない。
してみれば,本件安全審査において自爆テロの危険性を考慮しなかった
ことを誤りとする控訴人らの主張は採用できない。
オ控訴人らは,原子力資料情報室のP18作成の「α低レベル放射性廃棄
物埋設施設に航空機が墜落した場合の災害評価(甲A30)につき「前」,
提とする航空機事故の想定条件及び線量当量評価が合理的な根拠を有する
と認めるに足りる証拠はない」とした原判決を非難する。
しかしながら,航空機事故によって大気中に放出される放射性物質の量
は,どのような航空機が如何なる飛行条件のもとに墜落衝突するかにより
大きく異なるところ,甲A30ではこの点がつまびらかでない。さらに,
破損した廃棄体中に含まれる放射性物質のうち,大気中に放出される量に
ついての判断又その根拠は明らかでなく,さらにそれが如何なる態様でど
のようにして大気中に拡散するのか,吸入摂取による実効線量当量はどの
ようにして算定されたのかも示されていない。そうである以上,前提とす
る航空機事故の想定条件及び線量当量評価が合理的な根拠を有すると認め
るのは困難である。
したがって,甲A30をもって,管理建屋に航空機が墜落した場合にお
ける一般公衆の線量当量は,敷地境界外の最大となる場所において,実効
線量当量で約013ミリシーベルトと,一般公衆への被曝による影響が.
大きくなることはなく,上記評価条件にはなお余裕があるとする本件安全
審査における判断に看過し難い過誤があるとすることはできない。
カ以上のほか,航空機の墜落による影響の評価に係る調査審議及び判断の
過程に看過し難い過誤,欠落があるとすべき根拠はないから,控訴人らの
主張は採用できない。
10埋設設備の安全評価に係る原判決の誤りの主張について
()コンクリートピットの健全性に関する主張について1
ア第1段階の管理期間の延長について
(ア)弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a本件廃棄物埋設施設に埋設される放射性廃棄物である均質固化体
(以下「本件廃棄物」という)は1992年12月に搬入が開始さ。
れた。20万本を受け入れてから覆土を施し,第1段階が終了するこ
ととされている。
b当初申請書では「第1段階の終了予定時期は,埋設開始以降1,
0年経過し15年以内の間」とされていたところ,P3は,平成9年
1月30日付けで廃棄物埋設事業変更許可申請をし,平成10年10
月8日許可されたが,その中で,第1段階の終了予定時期が「埋設開
始後30年を経過し35年以内の時点」と変更された。
c1号廃棄物は受入開始から14年余が経過し,2007年7月末現
,,在で約13万6683本余を受け入れ同数が埋設されているところ
ここ数年,本件廃棄物の搬入量は減ってきている
(イ)控訴人らは,1号廃棄物の搬入が(ア)のように遅れており,予定さ
れた20万本(残り6万本)を搬入完了するのに,早くても60年程度
はかかることが見込まれ,これまでの15年間と合わせると75年も経
ってから第1段階の埋設が始まることになり,それから30年∼35年
間を合わせた105年∼110年間は,コンクリートピットから放射性
物質が漏れ出ないことが必要となるが,コンクリートピットが,100
年以上壊れないという保証は現在の土木工学上全くなく,これでは,埋
設の前に放射性物質が漏出してしまうので,段階管理の意味がなくなる
から,本件安全審査により本件廃棄物埋設施設の安全性が確保されてい
るとはいえない旨主張する。
(ウ)しかしながら,行政処分の取消しを求める訴えにおいて,裁判所が
行政処分を取り消すのは,行政処分が違法であることを確認してその効
力を失わせるのであって,弁論終結時において,裁判所が行政庁の立場
に立って,いかなる処分が正当であるかを判断するものではない(最高
裁判所昭和28年10月30日第2小法廷判決行裁例集4巻10号23
16頁,同昭和34年7月15日第2小法廷判決民集13巻7号106
2頁参照)から,許可処分の違法判断は処分がなされた当時を基準時と
すべきである。しかるに,控訴人らが主張するところは,本件許可処分
後の事情であって,特段の事情がない限り,これを考慮して本件許可処
分の可否を決する可能性はなかったものである。また,上記の事情は,
第1段階の終了予定時期の変更という事業変更許可処分(原子炉等規制
法51条の5第1項)の内容に係る事項についてのものであるところ,
事業変更許可処分は,本件許可処分とは別個の処分であって,本件処分
とは別にこれを争うことが可能なものである。したがって,上記の事情
は,本件許可処分の適否の判断につきこれを考慮することは許されず,
本件訴訟の審理の対象となるものではない。
もっとも,本件許可処分の時点においてあらかじめ本件廃棄物の搬入
,,の遅延が予測できたのであればこれを前提にして第1段階の期間設定
ひいては段階管理における安全性を審査すべきであったと解する余地が
ないではないけれども,本件全証拠によっても,この予測が可能であっ
たと認めることはできないから,上記搬入の遅延を考慮することなく本
件安全審査がなされたことをもって,本件調査審議及び判断の過程につ
いて看過し難い過誤,欠落があるということができない。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
イ管理期間終了に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い
過誤,欠落があるということができないことは,原判決178頁18行目
冒頭から179頁23行目末尾までに説示するとおりである。
搬入期間の遅延が第3段階の管理期間終了時期の遅れをもたらすとして
も,上記の判断を左右するものではないことはアのとおりである。
してみれば,この点に関する控訴人らの主張は採用できない。
()放射能漏洩が早まる危険に関する主張について2
アコンクリートピットの劣化要因の主張について
控訴人らは,コンクリートの劣化要因として,アルカリ骨材反応,コン
クリートに対する不正加水等をるる挙示し,人工バリアを構成するコンク
リートの健全性について独自の安全審査がなされなければならない旨主張
する。
しかしながら,前示のとおり,本件埋設設備に使用するコンクリートは
土木学会コンクリート標準示方書に準拠して設計及び施工されること,鷹
架層及び第四紀層中の地下水には本件埋設設備のコンクリート及びセメン
ト系充てん材の閉込めの機能に影響を与える成分は認められないことは前
示のとおりであるから,上記方法により設計施工されるコンクリートが具
有する健全性を欠くことは考え難いけれども,本件安全審査においては,
線量当量評価をする際,評価結果が厳しくなるように(保守的に)第2段
階当初から本件埋設設備等の透水性が砂程度になって放射性物質の漏出が
開始すると想定した上でのP1の評価を妥当なものとして,その場合の一
般公衆に与える線量当量は十分小さいことが確認されたのであり(乙8の
38頁,人工バリアを構成するコンクリートの健全性について独自の安)
全審査がなされる必要があるとは認められない。第1段階では廃棄物埋設
作業が完了するまで覆土されない期間があり,この評価は覆土されない状
態もあることを前提にしたものと解されから,この状態があることは上記
の判断を左右しない。また,控訴人らの主張する二酸化酸炭素,塩害,凍
害,酸性雨等の劣化要因が本件廃棄物埋設施設において上記の判断を左右
するようなコンクリートの劣化をもたらすことを具体的に認めるに足りる
証拠はない。
次に,控訴人ら主張のコンクリートの劣化(ひび割れ,強度低下など)
要因は,コンクリートの施工の段階に係る事項であって,本件廃棄物埋設
施設の基本設計ないし基本的設計方針に係るものではないから,事業許可
の段階で審査される事項ではなく,本件許可処分における原子炉等規制法
51条の3第1項の各要件の審査の対象とはならない。
さらに,本件廃棄物の搬入期間の遅延による埋設開始前のコンクリート
ピットの劣化の可能性は,前示のとおり本件安全審査の適否を左右するも
のではない。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
イ水質試験の不備の主張について
地下水には本件埋設設備の閉込め機能に影響を与えるような成分は認め
られないとした本件調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ
るといえないことは,原判決164頁3行目冒頭から同頁15行目末尾ま
で記載のとおりであって,地層別の水質試験結果が示されていないからと
いって,廃棄物埋設地内の地下水に,埋設設備のコンクリートおよびセメ
ント系充填材に対し,閉込めの機能に影響を与えるような化学的性質があ
るのかどうか,また,廃棄物埋設地周辺の地下水に,そのような化学的性
質は認められないとはたしていえるのかどうかについての判断が不可能で
あったとすべき根拠はなく,塩水化した地下水の存在に関する控訴人らの
主張は単なる推測の域を出るものではないから,上記結論を左右するもの
ではない。
してみれば,控訴人らの主張は採用できない。
()控訴人らは,原判決が「液垂れ跡」のある低レベル放射性廃棄物が本件3
廃棄物埋設施設で発見された事実(甲41の1から51)を余りにも軽視し
ている旨主張するけれども,これが本件訴訟の審理の対象とならないとした
原判決の判断(162頁3行目冒頭から14行目末尾まで)に誤りはないか
ら,控訴人の主張は採用できない。
()第2段階における管理態勢が不十分等の主張について4
具体的な線量当量及び放射性物質の濃度の監視に係る事項は,保安規定の
認可の際に審査される事項であり,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性
にかかわらない事項であること,及び段階管理における第2段階の安全性に
関する審査基準について不合理な点があるということはできず,その基準に
適合するとした本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落
があるということもできないことは,原判決177頁9行目冒頭から同頁2
4行目末尾まで記載のとおりである。
控訴人らは,点検路が監視手段として有効か否かは極めて疑問である旨主
張する。しかしながら,この点に関して控訴人らが指摘する点への対処は,
点検路の保守管理の問題であって,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性
にかかわる事項に該当するものとはいえないのみならず,本件全証拠によっ
ても,その解決方法がなく,およそ点検路が監視手段として機能し得ないも
のであるとまでは認め難いから,上記の判断を左右するものではない。
,。してみれば第2段階における管理態勢が不十分等の主張は採用できない
11ζ廃棄物処分場での放射能漏洩の主張について
証拠(甲E5)及び弁論の全趣旨によれば,国際的環境保護団体P19は,
フランス共和国のζ廃棄物処分場で放射能漏洩事故が発生し,同施設から漏洩
した放射性物質が周辺の酪農地の地下水を欧州の安全規制値の7倍以上もの濃
度で汚染していると報告していることが認められる。
これについて,控訴人らは,フランスの低レベル放射性廃棄物処分施設では
運転開始後の早い時期に地下水汚染が始まっており,本件廃棄物埋設施設の埋
設ピットの物理的耐用年数も短期間であることが具現化し控訴人ら主張の危険
性が裏付けられた旨主張する。
しかしながら,証拠(P4証言〔第44回弁論実施分〕76頁以下,乙38
の6の240,241頁)によれば,フランスの放射性廃棄物処分施設は,本
件廃棄物埋設施設とは施設設計等も異なっており,初期のζの廃棄物埋設施設
では全く素堀のトレンチを掘ってその中に放射性廃棄物を埋設していたのであ
り,後年になってコンクリートの外枠(ただし,本件廃棄物埋設施設とは構造
が異なる)を作った中に放射性廃棄物を埋設するようになったものであるこ。
とが認められるところ,本件廃棄物埋設施設においては,廃棄物を鉄筋コンク
リート造の埋設設備の区画内に定置し,セメント系充てん材を充てんした後,
覆いを設置し,更に埋設設備上面からの厚さ6m以上の覆土を施すこととされ
ており,これによる人工バリアーの対策を講じているのであるから(なお,本
件安全審査において,第2段階当初から放射性物質が漏出するものと仮定した
のは,保守的に評価するためであったことは前示のとおりである,ζの施。)
設において漏洩事故が発生したからといって,これから直ちに本件廃棄物埋設
施設の埋設ピットの物理的耐用年数も短期間であることが具現化したとは認め
難く,これをもって控訴人ら主張の危険性が裏付けられたということはできな
いから,控訴人らの主張は採用できない。
12以上によれば,控訴人P27(30,同P28(31,同P20(3))
3,同P29(34,同P21(35,同P22(36,同P23(3))))
7,同P24(38,同P25(39,同P26(40)の10名以外の)))
控訴人らについては,本件許可処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しな
いものであるから,同控訴人らのこれらの請求に係る訴えを不適法として却下
した原判決は相当である。また,原告適格を有する者の本件請求はいずれも理
由がないから,控訴人P20(33,同P21(35,同P22(36,)))
同P23(37,同P24(38,同P25(39,同P26(40)の)))
請求をいずれも棄却した原判決は相当である。控訴人P27(30,同P2)
8(31)及び同P29(34)の原告適格を否定し,上記3名の本件請求に
係る訴えを却下した原判決は相当でないけれども,上記請求については,同一
の請求をした共同訴訟人であり,かつ,原判決で原告適格が認められた控訴人
P28(53)ほか6名と被控訴人との間で既に主張,立証が十分に尽くされ
ているから原審に差し戻して更に弁論をする必要はないので,民事訴訟法30
7条ただし書に基づき原審に差し戻さず,各請求につき実体判断をするのが相
当であり上記のとおり本件請求はいずれも理由がないから控訴人P273,,(
0,同P28(31)及び同P29(34)の請求についても請求棄却の判)
決をすべきところであるが,不利益変更禁止の原則(民事訴訟法304条)に
より,結局,同控訴人3名の控訴も棄却すべきことになる。
よって,控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり
判決する。
仙台高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官小野貞夫
裁判官信濃孝一
裁判官大垣貴靖

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修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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