弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人らの営業譲渡決議取消請求に関する部分を破棄し、右部
分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
     上告人Aのその余の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は右上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人橋本盛三郎、同山下潔、同浜田次雄、同松浦正弘の上告理由一につい

 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯し得
ないではなく、右事実関係の下において、昭和五九年六月二二日に開催された被上
告会社の定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)の招集手続に商法二三二
条一項違反の違法はないとした原審の判断は、是認することができる。原判決に所
論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難
するものにすぎず、採用することができない。したがって、本件株主総会において
された計算書類承認決議の取消しを求める上告人Aの本件請求を棄却すべきものと
した原判決は正当であって、同上告人の上告は理由がない。
 同二について
 一 上告人らの本件請求のうち、本件株主総会においてされた、被上告会社の営
業のうち貸切バスの営業を譲渡する旨の決議(以下「本件決議」という。)の取消
しを求める部分について、原審の確定した事実関係は、次のとおりである。(1) 
被上告会社は、タクシー事業及び貸切バス事業を主な目的とする株式会社であり、
上告人らはその株主である。(2) 本件株主総会の招集通知には、本件決議に係る
営業譲渡の件が議案として記載されていたが、営業譲渡の要領は記載されていなか
った。(3) 右営業譲渡の相手方は被上告会社が中心となって将来設立する新会社
であり、本件株主総会当時、譲渡の対価等の内容の詳細はまだ確定していなかった
が、招集通知に同封された営業報告書には、営業譲渡の対象となる貸切バス部門の
資産、負債等の内容が記載されていた。(4) 本件株主総会には、被上告会社の発
行済株式七万株を有する株主三八名のうち二九名(持株数合計六万七六一一株)が
出席したが、招集通知に営業譲渡の要領が記載されていないことに対して出席株主
から異議の申出はなく、右出席株主のうち二七名(持株数合計五万一三〇〇株)の
賛成によって本件決議がされた。
 原審は、右事実関係の下において、(1) 本件株主総会の招集手続には、営業の
重要な一部の譲渡について招集通知にその要領を記載しなかった違法があり、商法
二四五条二項に違反する、(2) しかし、右違反の事実は重大なものでなく、本件
決議に影響を及ぼさないから、本件決議の取消請求は同法二五一条により棄却され
るべきであると判断し、右請求を棄却した第一審判決を是認して、上告人らの控訴
を棄却した。
 二 しかしながら、原審の右(1)の判断は是認することができるが、右(2)の判
断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
 商法二四五条二項が同条一項各号所定の行為について株主総会の招集通知にその
要領を記載すべきものとしているのは、株主に対し、あらかじめ議案に対する賛否
の判断をするに足りる内容を知らせることにより、右議案に反対の株主が会社に対
し株式の買取りを請求すること(同法二四五条ノ二参照)ができるようにするため
であると解されるところ、右のような規定の趣旨に照らせば、本件株主総会の招集
手続の前記の違法が重大でないといえないことは明らかであるから、同法二五一条
により本件決議の取消請求を棄却することはできないものというべきである。
 これと異なる原審の判断には、商法二五一条の解釈適用を誤った違法があり、こ
の違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、そ
の余の上告理由につき判断するまでもなく、原判決中本件決議の取消請求に関する
部分は破棄を免れない。そして、右部分については、被上告会社のその他の抗弁に
ついて更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻す
こととする。
 よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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