弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人三名弁護人高橋正義上告趣意第一点について。
 しかし、原判決はその理由において「被告人Aは昭和一七年頃以降……農業Bか
ら当時軍隊に服役中の同人の子息等が帰還次第返還すべき約定の下に……水田三反
七畝一八歩(一毛田)を賃借小作して来たが昭和二〇年八月末同人の長男及び次男
に於て相次いで復員帰還した為め、同年九月下旬頃Bから予ての約束に基き右水田
の返還を求められたので之を承諾して返還し爾来右Bに於て該水田に鋤耕施肥其の
他の手入を施し且つ其の一部約六〇坪の地域に苗代を育成し田植準備を整ふる等平
穏に同所に於て農業を営んで居たところ……」と認定判示していて、この認定はそ
の挙示する証拠によつてこれを肯認することができ、その間反経験則等の違法は存
しない。されば、原審相被告人Aが地主Bから賃借した水田三反七畝一八歩を耕作
する権利は昭和二〇年法律六四号による農地調整法改正法律の施行前たる同年九月
下旬合意によつて原審相被告人Aから右小作地を地主Bに返還したことによつて消
滅に帰し爾後本件水田を耕作する権利は地主Bに属するものといわなくてはならぬ。
従つて地主Bが前示日時以後本件水田を耕耘し、施肥し稲苗を育成したからといつ
て所論のように原審相被告人Aの耕作権を侵害するものでもなく、又同人に妨害排
除の権利を発生せしめるいわれは毛頭存しない。所論は結局原判示にそわない独自
の事実を前提して本件水田の耕作権が原審相被告人Aに引続き存在し地主Bには存
在しないと独断して原判決の擬律を非難するに帰するものであつて、論旨はとるこ
とをえない。
 同第二点について。
 論旨前段の理由のないことは第一点の説明によつて明らかである。また、所論調
停が被告人等の本件犯行後に成立したからといつて已に成立した本件犯行の成立を
阻止する理由となるものでないことは多言を要しないところであるから、論旨後段
もその理由がない。
 同第三点について。
 しかし、証拠の取捨判断は事実審たる原裁判所の裁量に委せられていることがら
である。そして予審調書でも刑訴応急措置法施行前に適法に作成されたものである
以上同法施行後でもなお証拠能力を失うものでないと解すべきことは多言を要しな
いところである(昭和二三年(れ)二〇二号同年七月一四日大法廷判決参照)され
ば、原判決が所論の証拠を採用せず所論予審調書中の被告人等の各供述記載を証拠
としたことを非難する論旨はその理由がない。
 被告人三名弁護人青柳盛雄上告趣意第一点について。
 しかし、原判決が所論のごとく、立入を禁止するため判示のごとく立札を樹立し
たと判示したのは、所論のように判示水田に対するBの立入を妨害したという点を
重視したのではなく、判示水田に大挙して植付けた行為と相待つて、他人の占有に
係る他人所有の稲苗の所持を侵害してこれを被告等の事実上の支配内に移したこと
を判示した趣旨と解することができる。されば、原判決の後段において、立札を樹
立し以て威力を示してBの業務を妨害した点を業務妨害罪を構成しない旨説示した
からといつて、所論のように理由に齟齬ありとすることはできない。論旨はその理
由がない。
 同第二点、被告人三名弁護人小沢茂上告趣意第一点について。
 しかし、原判決は本件犯行が所論のように多衆行動としてなされたことをとらえ
て違法性を認め処罰の理由としているのでないことは判文上明らかなところである。
しかのみならず仮りに所論のごとく本件の行動をもつて一種の動労者の団体行動と
認め得るものとするも、かゝる不法は実力行使をまで憲法二八条が保障している団
体行動であるとは到底認めることを得ないのである。論旨はいづれも理由がない。
 弁護人小沢茂上告趣意第二点について。
 しかし、原判決の判示したところは、被告人等は共謀の上大挙して判示約六〇坪
の苗代から判示稲苗全部を抜取り更らにこれを判示水田全部に植付けた上他人の立
入を禁止するため判示立札を同所に樹立して右稲苗を窃取したと認定したものであ
る。そして、右抜取り行為を以て所有者Bの所持を不法に侵害し、更らに爾余の行
為を以てその不法に占有を侵害した稲苗を事実上被告人等の支配内に移したと認定
したものと解することができる。それ故所論は当らない。
 同第三点について。
 しかし、判示事実の認定は原判決挙示の証拠によつてこれを肯認するに足り、そ
の間反経験則の違法はない。従つて原判決には所論のような理由不備等の違法はな
い。論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし原判決挙示の証拠によれば、被告人等は原審相被告人Aが昭和二〇年九月
中に本件水田を任意に地主Bに返還し爾来地主Bは適法に本件水田を占有していた
ものであることを本件犯行当時認識していたものと認定するに充分であるから、原
判決には所論のように審理不尽又は理由不備の違法は存しない。論旨は理由がない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二五年四月一三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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