弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岩松孝雄上告趣意第一点について。
 しかし、原判決がその判示事実を所論の司法警察官の被告人に対する訊問調書の
他に被告人の原審公判廷の供述、第一審第二回公判調書中証人Aの供述記載及びB
外十六名各提出の火災に関する始末書を証拠として認定したものであることは判文
上明らかなところであるから、原審は被告人に不利益な唯一の自白を証拠とし被告
人に対して有罪の判決をしたものとはいえない。そして記録を精査しても被告人の
司法警察官に対してした自白が所論のように、被告人に対する司法警察官の暴行に
よるものであることは、これを肯認するに足る何等の証拠もない。その他縷々陳述
している所論は結局原審の裁量権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰着するか
ら上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 所論の司法警察官の被告人に対する訊問調書が司法警察官の強要によつて被告人
のした自白に基き作成されたものであることの主張が、、肯認され得ないものであ
ることは、上告趣意第一点についての説明の通りであるから、所論のように原審公
廷において被告人が右調書は司法警察官の強要によつてした自白に基き作成された
ものだと強く主張しただけで証拠を取捨する裁量権を有する原審が所論のような証
明をしなければ右訊問調書を証拠として引用するこどができないとはいえない。所
論は結局原判決の証拠の採否を非難するに帰着するものであるから上告適法の理由
とはならない。
 被告人上告趣意について。
 所論縷述するところは、畢竟司法警察官に対する被告人の供述は拷問強要による
ものであるし、被告人の妻の第一審第二回公判廷における供述も亦警察官の強要に
よるものであつて、いづれも真実でない。しかるに原審がこれ等の供述を証拠とし
て被告人を放火犯人と認定したのみならず被告人が警察での拷問により受けた傷を
治療した医師を証人として申請したのに原審がこれを却下したのは不当であるとい
うに帰着する。しかし司法警察官に対する被告人の供述が拷問強要によるものでな
いことは弁護人の上告趣意第一点に対する説明の通りであるし、被告人の妻の第一
審公判廷における供述が所論のように警察官の強要によつたものであるということ
は、記録上これを肯誌するに足る何等の資料もないから原審がこれ等供述をその挙
示する他の証拠とを綜合して判示事実を認定したからといつて原判決にはいささか
の違法もない。又被告人が申請した証人を取調へるか否かは原審の裁量権に属する
ところであるから原審が被告人のした証人申請を却下して取調へなかつたからとい
つて原判決には何等の違法もない。所論は結局原審の裁量権に属する証拠調の許否、
証拠の取捨乃至事実の認定を非難するに帰着し上告適法の理由とはならない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二四年三月三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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