弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成31年(受)第61号請負代金請求事件
令和2年9月8日第三小法廷判決
主文
1原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
2前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人山本紀夫,同松村達紀の上告受理申立て理由第4の1及び2について
1本件は,破産管財人である被上告人が,上告人に対し,破産者と上告人との
間の複数の請負契約に基づく各報酬等の支払を求める事案である。上告人は,破産
手続開始前に,その一部の請負契約について約定に基づく違約金債権を取得したと
して,同違約金債権等を自働債権とする相殺を主張している。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人と株式会社西建設(以下「破産会社」という。)は,平成27年9
月から平成28年4月までの間に,上告人を注文者,破産会社を請負人として,別
紙請負契約目録記載アからエまでの各請負契約(以下,順に「本件契約ア」などと
いい,併せて「本件各契約」という。)を締結した。
(2)本件各契約には,要旨次の各定め(以下「本件条項」という。)がある。
ア注文者は,請負人の責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないと
きは,契約を解除することができる。
イ上記アの定めにより契約が解除された場合においては,請負人は,報酬額の
10分の1に相当する額を違約金として支払わなければならない。
(3)破産会社は,本件各契約のうち本件契約ウの工事については平成28年6
月10日までに完成させたが,本件契約ア,イ及びエ(以下,併せて「本件各未完
成契約」という。)の工事については,同月15日,上告人に対し,資金繰りに窮
して続行が困難である旨相談し,上告人から,工事続行不能届を提出するよう指示
された。
(4)破産会社の支払の停止を知った上告人は,平成28年6月20日までに,
破産会社に対し,本件各未完成契約について,本件条項に基づき解除する旨の意思
表示をした。これにより,上告人は,本件各未完成契約における本件条項に基づく
各違約金債権(以下「本件各違約金債権」という。)小計2198万6532円及
びその他の債権75万1142円の合計2273万7674円を取得した。また,
破産会社は,同日までに,本件契約アからウまでに基づく各報酬債権(以下「本件
各報酬債権」という。)合計2268万6429円を取得した。
(5)破産会社は,平成28年6月23日,破産手続開始の決定を受け,被上告
人が破産管財人に選任された。
(6)上告人は,平成28年8月5日,被上告人に対し,上記(4)の本件各違約金
債権等合計2273万7674円を自働債権,本件各報酬債権合計2268万64
29円を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした(この相殺のうち,
本件各違約金債権を自働債権とする部分を「本件相殺」という。)。
3原審は,上記事実関係の下において,本件相殺の効力につき次のとおり判断
して,被上告人の請求を一部認容した。
(1)本件各違約金債権は,本件条項所定の事由が生じ,注文者が解除権を行使
したときに取得したものであって,破産法72条1項3号に規定する破産債権に該
当する。
(2)破産法72条2項2号は,相殺の担保的機能に対する合理的な期待を保護
するため,同条1項3号に規定する破産債権に該当する場合であっても相殺を禁止
しないとしているところ,特定の請負契約における本件条項に基づく違約金債権を
自働債権として,これと対価牽連関係にある当該請負契約に基づく報酬債権を受働
債権とする相殺を期待することは合理的なものといえるが,別個の請負契約に基づ
く報酬債権を受働債権とする相殺を期待することは合理的なものということはでき
ない。よって,本件相殺のうち,自働債権である違約金債権と受働債権である報酬
債権とが同一の請負契約に基づかないものは,許されない。
4しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の
判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)破産法は,破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則と
する破産手続の趣旨が没却されることのないよう,72条1項3号本文において,
破産者に対して債務を負担する者において支払の停止があったことを知って破産者
に対して破産債権を取得した場合にこれを自働債権とする相殺を禁止する一方,同
条2項2号において,上記破産債権の取得が「支払の停止があったことを破産者に
対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合には,相殺
の担保的機能に対するその者の期待は合理的なものであって,これを保護すること
としても,上記破産手続の趣旨に反するものではないことから,相殺を禁止しない
こととしているものと解される(最高裁平成24年(受)第908号同26年6月
5日第一小法廷判決・民集68巻5号462頁参照)。
(2)ア本件各違約金債権は,上告人が破産会社の支払の停止があったことを知
った後に本件条項に基づいて本件各未完成契約を解除したことによって現実に取得
するに至ったものであるから,破産法72条1項3号に規定する破産債権に該当す
る。
イもっとも,本件各違約金債権は,いずれも,破産会社の支払の停止の前に上
告人と破産会社との間で締結された本件各未完成契約に基づくものである。本件各
未完成契約に共通して定められている本件条項は,破産会社の責めに帰すべき事由
により工期内に工事が完成しないこと及び上告人が解除の意思表示をしたことのみ
をもって上告人が一定の額の違約金債権を取得するというものであって,上告人と
破産会社は,破産会社が支払の停止に陥った際には本件条項に基づく違約金債権を
自働債権とし,破産会社が有する報酬債権等を受働債権として一括して清算するこ
とを予定していたものということができる。上告人は,本件各未完成契約の締結時
点において,自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づいて発生したものであ
るか否かにかかわらず,本件各違約金債権をもってする相殺の担保的機能に対して
合理的な期待を有していたといえ,この相殺を許すことは,上記破産手続の趣旨に
反するものとはいえない。
したがって,本件各違約金債権の取得は,破産法72条2項2号に掲げる「支払
の停止があったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた
原因」に基づく場合に当たり,本件各違約金債権を自働債権,本件各報酬債権を受
働債権とする相殺は,自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づくものである
か否かにかかわらず,許されるというべきである。
5以上によれば,本件相殺のうち,自働債権である違約金債権と受働債権であ
る報酬債権とが同一の請負契約に基づかないものは許されないとした原審の判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は
理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上によれば,
被上告人の請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した第1審判決は正当である
から,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官林景一裁判官戸倉三郎裁判官宮崎裕子裁判官
宇賀克也裁判官林道晴)
(別紙)
請負契約目録
ア工事名星野川筋ストックヤードH28上半期運用工事(星野工区)
契約日平成28年4月12日
報酬額3852万3600円
イ工事名星野川筋河川改良復旧工事(中流25工区)
契約日平成27年9月17日
報酬額1億3577万8680円
ウ工事名広野川砂防渓流保全工工事
契約日平成28年3月31日
報酬額212万0040円
エ工事名林道仁田坂~国武線5工区開設工事
契約日平成27年10月19日
報酬額4556万3040円

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛