弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 原告の請求
被告が昭和六二年一〇月五日付けで原告に対してした原告宛の外国郵便物(郵便物
の番号・〇五三六、郵便物の種類・航空小包)在中のナイフのうち八本が銃砲刀剣
類所持等取締法によって所持を禁止された刀剣類に該当する旨の通知(東関郵入第
三一三二三六〇号)を取り消す。
第二 事案の概要
一 本件に関連する法制の内容及び当事者間に争いのない事実
1 輸入される郵便物中にある物については、関税法上の輸入許可のために必要な
検査が行われることとなっており、その物が法令の規定により輸入に関して許可等
を必要とするものである場合は、当該許可等を受けている旨を税関に証明しなけれ
ばその輸入が許可されず、当該物は名宛人に交付されないことになっている(関税
法七六条一項及び四項、七〇条一項及び三項)。
2 被告は、フィンランド共和国から到着した原告宛の外国郵便物(郵便物の番
号・〇五三六、郵便物の種類・航空小包)在中のナイフ九本のうち八本(以下、こ
の八本のナイフを「本件ナイフ」という。)が銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三七
年法律第七二号による改正後のもの。以下「銃刀法」という。)によって原則とし
てその所持が禁止されている同法二条二項に規定する刀剣類(「あいくち」)に該
当するものと判断し、昭和六二年一〇月五日付けで原告に対してその旨の通知(以
下「本件通知」という。)をした。
3 そのため、原告は、銃刀法上の所持の許可を受けている旨を証明しない限り、
本件ナイフの交付を受けることができないところ、右銃刀法上の所持の許可を受け
ていないため、本件ナイフの交付を受けることができないでいる。原告が本件ナイ
フの交付を受けるためには、本件通知が違法であることを理由に、その取消しを求
める必要がある。
二 争点
本件の争点は、本件ナイフが銃刀法二条二項に規定する刀剣類(「あいくち」)に
該当するとした被告の判断が適法といえるかどうかである。
第三 争点に対する判断
一 銃刀法二条二項は、「この法律において「刀剣類」とは、刃渡一五センチメー
トル以上の刀、剣、やり及びなぎなた並びにあいくち及び四五度以上に自動的に開
刃する装置を有する飛出しナイフ(中略)をいう。」と規定しているところ、原告
は、右の「刃渡一五センチメートル以上の」という文言は、「あいくち」にもかか
るものと解すべきであるから、その刃渡りがいずれも一五センチメートルに満たな
い本件ナイフは銃刀法の規定によって所持の禁止される刀剣類に当たらないと主張
する。
しかしながら、法律用語として、「並びに」の語は大きな意味の併合的連結に、
「及び」の語は小さな意味の併合的連結に、それぞれ使用されるのが例となってい
ることは明らかであるから、右の銃刀法の規定の「刃渡一五センチメートル以上
の」という文言は、「刀、剣、やり及びなぎなた」のみにかかるものであって、
「あいくち」にはかからないものと解するのが法文の文理に即した解釈と考えられ
る。そのうえ、乙第九号証、第一二号証及び第一三号証によれば、銃刀法の前身に
当たる銃砲刀劍類等所持取締令は、当初刃渡り一五センチメートル以上の「ひ首」
(「あいくち」の同義語である。)のみをその規制の対象としていたが、刃渡り一
五センチメートル未満の「ひ首」を使用した犯罪が多発したため、昭和三〇年法律
第五一号による改正において、刃渡り一五センチメートル未満の「ひ首」をも新た
にその規制の対象に含ませる趣旨で、「ひ首」の名称を「あいくち」に変更すると
ともに、刃渡りによる制限を廃止し、銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三三年法律第
六号)は右改正後の銃砲刀劍類等所持取締令の規定をそのまま引き継いだものであ
ることが認められるのであって、右立法の経緯からしでも、「刃渡一五センチメー
トル以上の」という文言は「あいくち」にはかからないことが明白なものというべ
きである。
なお、原告は、刃渡り一五センチメートル未満のあいくちをもその対象とする規制
は、不合理な規制であり、憲法二九条等の規定に違反するとも主張するが、右に認
定したような法改正の経緯からすれば、右のような規制にも合理性が認められるも
のというべきであり、原告の右主張は採用できない。
二 次に、原告は、本来人を殺傷するための武器又は凶器として携帯されるような
刃物でなければ「あいくち」とはいえないという前提に立ち、本件ナイフは、もと
もとフィンランド共和国において調理用ナイフとして製造、販売、使用されている
ものであるから、「あいくち」には当たらないと主張しており、確かに、証人Aの
証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件ナイフは、いずれもフィンランド共和
国では一般の家庭での調理用等のナイフとして製造、販売されているものであるこ
とが認められる。
しかしながら、本件では、本件ナイフが我が国の銃刀法にいう「あいくち」に当た
るか否かが問題となっているのであるから、本件ナイフがその製造、販売国のフィ
ンランド共和国でもともとどのような目的で製造、販売されているかということで
はなく、我が国においては本件ナイフがどのような種類の刃物として認識されるか
という観点に立って、それが「あいくち」に当たるか否かを判断すべきことはいう
までもないところである。このような観点からすると、我が国において、一般に
「あいくち」とは、鍔のない柄を装着しで用いる短刀で、柄口と鞘口が合うような
いわゆる合口(あいくち)拵えの短刀をいうものと観念されており、その形態上隠
密に携帯し易く、凶器としての危険性が大きいことなどからして、特にその刃渡り
による制限はないものと解されていることは明らかなものというべきである。もっ
とも、銃刀法によってその所持が原則として禁止されるものであることからする
と、それが人を殺傷するだけの機能を有するようなものであることを要するものと
解すべきであるが、だからといって、本来人を殺傷するための武器又は凶器として
携帯されるべき刃物として製造、販売されたものでなければ、この「あいくち」に
当たらないとすることは、銃刀法の立法目的に合致しないものと考えられる。要す
るに、形態上右のような種類の短刀に該当するものであって、しかも客観的に見て
人を殺傷する機能を具備しているものであれば、それは銃刀法にいう「あいくち」
に該当するものと解すべきである。したがって、原告の右の主張も採用できない。
三 以上の検討を踏まえて、本件ナイフが銃刀法二条二項にいう「あいくち」に該
当するかどうかを検討する。
1 まず、前記のとおり、銃刀法二条二項が規定する「あいくち」は、人を殺傷す
るだけの機能を有するものでなければならないが、このような機能を有するかどう
かは、一般には、当該刃物の刃体の形状(刃渡り、刃幅及び刃厚等)及びその素材
によって決定されるものと考えられる。この点について、乙第九号証及び第一三号
証によれば、警察庁では、原則として、(1)刃渡りが八センチメートルを超える
こと、(2)刃幅が一・五センチメートルを超えること及び(3)刃の厚みが二・
五ミリメートルを超えることの三要件のうち、二つ以上の要件を満たす刃体の形状
を備えた鋼質性素材のものを「あいくち」とするとの認定基準を指示しており、人
を殺傷するだけの機能という観点から見て、右の認定基準は、合理的なものと認め
ることができる。
2 また、乙第八号証及び第九号証によれば、本件ナイフは、その刃体の形状(刃
渡り、刃幅及び刃の厚み等)が別紙記載のとおりであり、いずれも、鍔のない柄を
装着して用いる合口拵えの短刀であるうえ、鋼質性の素材をもって製造された刃物
であることが認められる。
3 そうすると、本件ナイフは、その刃体の形状がいずれも前記警察庁の「あいく
ち」の認定基準を充たす合口拵えの短刀であり、しかも、その素材の材質等からし
て、人を殺傷するだけの機能を有しているものと認められる。したがって、本件ナ
イフは、いずれも、銃刀法二条二項が規定する「あいくち」に該当するものという
べきである。
四 よって、本件ナイフが銃刀法二条二項にいう「あいくち」に該当するとした被
告の本件通知は適法なものというべきであり、本件通知が違法であるとしてその取
消しを求める原告の請求は、理由がないこととなる。
(裁判官 涌井紀夫 市村陽典 小林昭彦)

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