弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一について
 本訴請求中被上告人B1土地区画整理組合(以下「被上告組合」という。)の設
立の無効確認を求める旨の訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認する
ことができる。原判決に所論の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違
憲の主張は失当である。論旨は、採用することができない。
 同第二の一について
 所論の組合設立認可処分不存在確認の訴えを不適法とした原審の判断は、これを
是認することができ、原判決に所論の違法はない、論旨は、採用することができな
い。
 同第二の二について
 一 土地区画整理法(以下「法」という。)一四条一項、二一条一項(なお、法
一三六条の二第一項、法施行令七七条、地方自治法施行令一七四条の三九第一項参
照)による土地区画整理組合の設立の認可は、単に設立認可申請に係る組合の事業
計画を確定させる(法二〇条、二一条三項)だけのものではなく、その組合の事業
施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者をすべて強制的にその組合
員とする公法上の法人たる土地区画整理組合を成立せしめ(法二一条四項、二二条、
二五条一項)、これに土地区画整理事業を施行する権限を付与する効力を有するも
のである(法三条二項、一四条二項)から、抗告訴訟の対象となる行政処分である
と解するのが相当である。
 そして、組合設立の認可により土地区画整理組合が成立すると、組合の設立に関
する費用は組合の負担となり(法二四条)、また、組合の業務は組合役員たる理事
によつて執行され(法二八条)、組合の定款や事業計画の変更を始め賦課金の額及
び賦課徴収方法、換地計画、仮換地の指定等事業の施行に係る重要な事項について
はすべて総会の議決を経なければならないものとされている(法三一条)ところ、
組合員は、組合役員及び総代の選挙権、被選挙権及びその解任請求権(法二七条三
項、七項、三七条一項、四項)、総会及びその部会の招集請求権(法三二条三項、
三五条三項)、総会及びその部会における議決権(法三四条一項、三五条三項)、
組合の事業又は会計の状況の検査の請求権(法一二五条二項)、総会、その部会及
び総代会における議決等の取消の請求権(同条八項)等の権利を有するとともに、
組合の事業経費を分担する義務を負うものである(法四〇条)から、土地区画整理
組合の成立に伴い法律上当然に右のような組合員たる地位を取得せしめられること
となる事業施行地区内の宅地の所有権者又は借地権者は、当該組合の設立認可処分
の効力を争うにつき法律上の利益を有すると解するのが相当である。
 そして、上告人が被上告組合の事業施行地区内の宅地について所有権を有し、同
組合の組合員とされている者であるところ、上告人は、被上告組合の不成立を主張
して、同組合の事業施行に伴う仮換地指定処分、換地処分等一切の処分が上告人に
対してされることを否定しようとしている者であることは記録上明らかであるから、
上告人は被上告人大阪市長がした本件被上告組合の設立認可処分(以下「本件認可
処分」という。)の無効確認を求める訴えにつき原告適格を有するというべきであ
る。
 してみれば、本件認可処分の無効確認を求める訴えを不適法であるとして却下し
た第一審判決及びこれを支持した原判決は、いずれも法律の解釈を誤つたものとい
わざるを得ない。原判決の引用する当裁判所昭和三七年(オ)第一二二号同四一年
二月二三日大法廷判決(民集二〇巻二号二七一頁)は、都道府県知事の施行する土
地区画整理事業の事業計画の決定に関するものであり、土地区画整理組合の設立の
認可が単に当該組合の事業計画を確定させるにとどまるものでないことは前述のと
おりであるから、本件とは事案を異にするというべきである。
 二 しかしながら、原判決の右違法は、その結論に影響を及ぼすものということ
はできない。その理由は、次のとおりである。
 上告人は、被上告人大阪市長を相手とする本件認可処分の無効確認請求(以下こ
の請求のみを「本件訴え」という。)と被上告組合を相手とする本件仮換地指定処
分の無効確認請求(第二次的にその取消請求)とを併合請求し、本件訴えの請求原
因として主張した被上告組合の設立の無効ないし本件認可処分の無効事由をも本件
仮換地指定処分の違法、無効事由として主張し、これに対し被上告人らは共同して
防御の訴訟活動を行つていたところ、第一審判決は、本件訴えを不適法として却下
する一方、本件仮換地指定処分の無効確認請求について、換地計画に基づかない換
地予定地的仮換地指定処分は無効であるとの上告人の主張についてのみ判断し、右
主張を理由があるとして同請求を認容した。これに対し、本件訴えの却下部分につ
いては上告人が、本件仮換地指定処分の無効確認請求の認容部分については被上告
組合が、それぞれ控訴し、原審においても両事件が併合審理された。そして、原審
は、本件訴えの適法性については第一審判決の判断を支持して上告人の控訴を棄却
し、本件仮換地指定処分の無効確認請求及びその取消請求については、上告人がそ
の無効又は取消原因として主張したすべての点、すなわち、(一) 被上告組合の設
立は無効であり、又は本件認可処分は不存在若しくは無効であつて、被上告組合は
不成立であり、本件仮換地指定処分は不成立の組合による処分である、(二) 換地
計画に基づかない換地予定地的仮換地指定処分である、(三) 仮換地が特定されて
いない、との点について実体的な審理を尽くし、上告人の請求はすべて理由がない
として、第一審判決中被上告組合の敗訴部分を取り消し、被上告組合に対する上告
人の請求をいずれも棄却する旨の判決をした。
 ところで、本件訴えと本件仮換地指定処分の無効確認請求及びその取消請求とは
行政事件訴訟法一三条六号による関連請求であることが明らかであり、これらの訴
えに対する裁判の間に矛盾抵触が生ずることを避け、当事者間における紛争を一挙
に解決するため、原審においても両事件を併合して審理を遂げ、一個の判決でその
判断を示したものであると考えられる。そして、本件仮換地指定処分の無効確認請
求及びその取消請求については、本件訴えの請求原因と同一内容の、被上告組合の
設立の無効原因の有無又は本件認可処分の不存在若しくは無効原因の有無の点が第
一審以来の重要な争点として、これにつき当事者双方の主張、立証が十分に尽くさ
れ、被上告組合と被上告人大阪市長とは右争点について共同の弁論をしているもの
であることは記録に徴して明らかであるところ、原審が右争点について実体判断を
することが許されることはいうまでもなく、右の点について原審のした認定、判断
が是認し得るものであることは後述のとおりであつて、原審の認定に係る事実関係
によれば、本件訴えによる請求が理由のないものであることは明らかである。この
ような場合においては、当審としては、本件訴えについて、原判決を破棄し、第一
審判決を取り消したうえ、事件を第一審裁判所に差し戻すことは必要ではなく、そ
の請求の当否について直ちに判断をすることが許されるものと解するのが相当であ
る。
 以上の次第で、本件訴えについては請求を理由がないものとして棄却すべきこと
となるが、その結論は原判決よりも上告人に不利益となり、民訴法三九六条、三八
五条により、原判決を上告人に不利益に変更することは許されないので、当裁判所
は原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめるほかなく、結局、原判決の前
示の違法はその結論に影響を及ぼさないこととなる。それゆえ、論旨は、採用する
ことができない。
 同第三、無効原因その一について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認する
ことができ、その過程に所論の違法はない。右事実関係のもとにおいて、被上告組
合につき設立の無効原因は存せず、また、本件認可処分について不存在又は無効原
因も存しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論中原判
決に憲法違反がある旨の部分は、その実質において単なる法令違反の主張にすぎな
いところ、原判決に法令違反がないことは、右に述べたとおりである。論旨は、ひ
つきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独
自の見解を前提として原判決を論難するものであつて、採用することができない。
 同第三、無効原因その二について
 法九八条一項前段の前半所定の「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設
若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」には、事業の規模の大小にかかわ
らず、また、換地予定地的仮換地の指定処分をするときでも、換地計画に基づくこ
とを要しないものと解するのが相当である。右と同旨の見解に立ち、本件仮換地指
定処分は法九八条一項前段の前半所定の要件に合致し、適法であるとした原審の認
定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その
過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当
である。論旨は、ひつきよう、右と異なる見解を前提として原判決を非難するか、
又は原審の専権に属する事実の認定の不当をいうものにすぎず、採用することがで
きない。
 同第三、無効原因その三について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することがで
きない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦

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