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平成25年10月10日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年第1136号意匠権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判
所平成24年第4224号)
口頭弁論終結日平成25年7月23日
判決
控訴人(1審原告)1
控訴人(1審原告)チルソンシステム株式会社
上記2名訴訟代理人弁護士和田宏徳
同補佐人弁理士中井信宏
被控訴人(1審被告)株式会社エルゴジャパン
同訴訟代理人弁護士林康司
同友村明弘
同補佐人弁理士坂本智弘
主文
1控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴人らの控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙被告商品目録記載の商品を製造し,譲渡し,又は譲
渡の申出をしてはならない。
3被控訴人は,前項記載の商品を廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人チルソンシステム株式会社に対し,3200万円及びこ
れに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
6仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,控訴人らが,被控訴人による原判決別紙被告商品目録記載の商品(以
下「被告商品」という。)の製造,譲渡等は,控訴人1の有する意匠登録に
係る意匠権及び控訴人チルソンシステム株式会社(以下「控訴人会社」という。)
が有する上記意匠権の独占的通常実施権を侵害するものであるとして,①控訴
人1においては,被控訴人に対し,控訴人1の有する意匠権に基づき,被
告商品の製造,譲渡又は譲渡の申出の差止め及び廃棄を求め,②控訴人会社に
おいては,被控訴人に対し,上記意匠権の独占的通常実施権侵害の不法行為に
基づき,3200万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である
平成24年5月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払を求めた事案である。
2原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが第1記載のと
おりの判決を求めて控訴した。
第3前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張について
1前提事実及び争点は,原判決3頁11,12行目の「といい,これらをあわ
せて「被告商品」」を削除し,同頁16行目の「こともが」を「ことが」と改
めるほかは,それぞれ原判決の「事実及び理由」第2の1及び3記載のとおり
であるから,これを引用する(なお,略称及び後記2以下の意匠の構成態様に
おける「前方」,「後方」の注については原判決と同様とする。)。
2争点に関する当事者の主張
次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実
及び理由」第3の1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する。
【控訴人らの主張】
本件意匠の要部及び意匠の類否に関する原判決の判断について
原判決は,本件意匠に係る物品の性質,用途,使用態様のほか,公知意匠
である乙2意匠及び乙6意匠を参酌して,仕切り部前方の形状に係る次の本
件意匠の具体的構成態様G~Lが本件意匠の要部であると判断した(G~L
に対応する原判決認定の被告意匠1の具体的構成はg~l)。
G仕切り部は,矩形状の板から,前方下部を切り欠いた形状となっている。
H仕切り部の前方上部と,前方下部には,いずれも左側面視で右端に直線
部があり,その直線部はいずれも略鉛直となっている。
I仕切り部下端から切欠き部上端までの高さは,仕切り部の高さの略半分
となっている。
J仕切り部下端から切欠き部の直線部上端までの高さは,仕切り部の高さ
の略3分1となっている。
K仕切り部の前方は,側面視で,上部が水平から鉛直に至るまで円弧(R
形状)を描き,中央付近に2つの円弧が連続することにより,S字曲線を
描き,下部が鉛直から水平に至るまで円弧(R形状)を描いている。
L仕切り部の前方下部の直線部寄りで,かつ,下部付近の位置に,側面視
で真円状の指掛け用の穴が形成されている。
原判決は,その上で,本件意匠と被告意匠1の類否判断として,「本件意匠
と被告意匠1は,具体的構成態様G~J(g~j)とで一致し,さらに具体
的構成態様K(k)のうち,仕切り部前方上部の水平から鉛直に至るまでの
部分,同上部の直線部下端,切欠き部の直線部上端及び同下部の鉛直から水
平に至るまでの部分がいずれも円弧を描いている点で共通している。しかし,
本件意匠では,仕切り部前方上部の直線部下端,切欠き部の直線部上端の円
弧が連続しているため,S字を形成している様に見え,切欠き部が丸みを帯
びているのに対し,被告意匠1は,上記S字に相当する部分が直線であるた
め,本件意匠に比べ,直線的で,やや角張った印象を与える。また,本件意
匠と被告意匠1とは,仕切り部に形成されている穴の位置及び形状に違いが
あるが,この違いは需要者の注意を惹く。・・・本件意匠のように比較的単純
な構成から成り,しかも,乙2意匠及び乙6意匠という公知意匠が存在する
もとでは,美感の違いを生むのに十分な差異といえる。」と判断し,被告意匠
2についても同じであるとしている(以下,被告意匠1と被告意匠2を併せ
て「被告意匠」という。)。
原判決の判断の不当性について
ア需要者において,具体的構成態様G~J(g~j)及びK(k)の一部と
いう非常に特徴的な部分につき,ありふれた形状であるとして注意を惹かれ
ないということはあり得ず,他方で,仕切り部上部の直線部下端から切欠き
部の直線部上端にかけての形状,仕切り部に形成されている穴の位置及び形
状という細かな部分の差異について,その違いが需要者の注意を惹くという
ことはあり得ない。
イこのことは,本件意匠と被告意匠に係る物品である遊技台の台間仕切り板
の実際の商品形状の状況,変遷を見れば明らかである。
すなわち,遊技台の台間仕切り板については,パチンコ店等の店舗内の
分煙が問題になるようになってから,その商品開発が盛んになった。
当初は,乙3のように,遊技台上端から床面までの大きな固定型の台間
仕切り板が存在した。しかし,かかる台間仕切り板は,床面までの仕切り
板が固定されて存在しているため,顧客は,遊技台の席への出入りがしに
くく,それを解消するために,遊技台の台間の距離を大きく取る必要があ
るといった問題があった。
そのために,乙3の台間仕切り板はあまり普及せず,次に,甲11,1
2の台間仕切り板のように,遊技台と同程度の高さの仕切り板を遊技台の
横に設置して,足下までは仕切り板が設置されていない,また,仕切り板
を遊技台間に格納可能とした台間仕切り板が開発された。かかる台間仕切
り板は,乙3の台間仕切り板よりも設置工事がしやすいというメリットも
あった。もっとも,かかる意匠では,仕切り部の形状は,比較的単純な長
方形状,あるいは全体的には長方形状であり仕切り部の前方部の上下端が
円弧になっているという形状であった。
その後,控訴人P1によって,本件意匠の台間仕切り板が開発されたが,
本件意匠は,それまでの台間仕切り板と比べて,仕切り部の前方下部に切
欠き部が存在するという大きな特徴を有するものであった。そして,かか
る切欠き部が存在することによって,仕切り板が利用(遊技台前方に突出)
されていても,店舗の従業員が,顧客サービスとして,遊技台の前の水平
台の上に置かれたパチンコ玉が入った容器に手を伸ばして,これを運び出
しやすくするというメリットがあった。
このような本件意匠の大きな特徴から,本件意匠の実施品である控訴人
会社の商品(甲3の1ないし3。以下「控訴人商品」という。)については,
パチンコ店等の経営者から高い評価を受け,控訴人会社は,パチンコ店等
から多くの問い合わせを受けることになった。そして,パチンコ店等の業
界において,控訴人商品の評価が高まるに連れ,控訴人商品を模倣した被
告商品等の,本件意匠に類似した形状の台間仕切り板が販売されるように
なった。
一方,本件意匠の存在を前提として,甲13,18といった,仕切り部
の前方下部に切欠き部が存在するものの,その切欠き部前方部の形状が本
件意匠とは異なる台間仕切り板が開発されている。
ウ上記のような,遊技台の台間仕切り板の商品形状,登録意匠の発展・改良
の状況より,本件意匠においては,仕切り部の前方下部に切欠き部が存在す
ること及びその仕切り部の形状,すなわち前記具体的構成態様のG~Jが大
きな特徴となっている。上記のとおり,遊技台の台間仕切り板において,そ
れまでは,長方形状,あるいは全体的には長方形状で仕切り部の前方部の上
下端が円弧になっているという形状しかなかったところ,それまでと全く違
った形状の台間仕切り板として,切欠き部が存在する本件意匠が登場したの
である。したがって,需要者であるパチンコ店等の事業主においては,本件
意匠について,それまでの台間仕切り板とは違った新しい形状の台間仕切り
板が登場したと感じており,特に,本件意匠の切欠き部がそれまでの台間仕
切り板にはなかった新しい特徴的な部分であるとして,本件意匠を捉えてい
るのである。実際に,パチンコ業界の者においては,本件意匠の切欠き部の
形状を特徴的な部分と見ているため,控訴人商品と少なくともこの部分の形
状が類似する被告商品について,控訴人会社の商品であるとの混同が生じて
いる。
エ公知意匠を参酌するに当たっては,ありふれた形状であるために看者(需
要者)の注意を惹かないものであるかどうかという点から判断されなければ
ならない。本件意匠の切欠き部は,遊技台の台間仕切り板においてありふれ
た形状などでは全くなかった。乙2意匠(パソコンワーク等の作業ステーシ
ョンに係る意匠),乙6意匠(作業用区画構成用間仕切り)といった意匠が本
件意匠の出願前に存在していたとしても,そのことによって遊技台の台間仕
切り板の需要者(パチンコ店等の事業主)は,本件意匠の切欠き部を備えた
台間仕切り板の形状をありふれた形状とは見ない。すなわち,本件意匠に係
る物品と乙2意匠及び乙6意匠に係る物品とは,需要者を異にし,特許庁の
「意匠分類」における分類からしても,非類似なのである。また,本件意匠
における仕切り板は,遊技台と同程度の高さで遊技台の横に設置されるもの
であるのに対し,乙2意匠及び乙6意匠に係る物品は,床面からデスク上に
設置されたパソコン等の上の位置まで設置されるものである。そのため,両
者の機能は全く異なったものとなっている。さらに,本件意匠においては,
遊技台の前に座った遊技者からは,切欠き部を含む仕切り部全体が台間の仕
切り板として認識され,実際にも,仕切り部全体が分煙等といった仕切り板
としての機能を発揮する。これに対し,乙2意匠及び乙6意匠については,
パーテーションで区切られたデスクの前に座った作業者からは,机の上の部
分しか仕切り板として認識されず,切欠き部の部分が仕切り板として認識さ
れることはないし,実際にも,切欠き部は,視線遮断等といった仕切り板と
しての機能を発揮しない。
これらからすると,本件意匠の要部認定に乙2意匠及び乙6意匠を参酌す
ることはできない。
オ原判決は,本件意匠と被告意匠とでは,具体的構成態様L,lにおける「仕
切り部に形成されている穴の位置及び形状に違いがあるが,この違いは需要
者の注意を惹く。」と判断している。
しかし,穴はいずれも仕切り部の最前部付近(横方向),仕切り部の中央か
らその若干下にかけて(縦方向)の位置にあるという点で共通であり,また,
穴はいずれも指が入る程度の大きさの円状であるという点でも共通である。
したがって,物品の性質,用途,使用態様(遊技台の前に座った遊技者の認
識)などに照らして,両者の穴の位置及び形状についての印象は異ならない。
前記のとおり,本件意匠の具体的構成態様G~Jの部分が需要者の注意を惹
く部分であるため,相対的に,穴の位置及び形状の相違は,僅かな相違にす
ぎない。
カ原判決は,「被告意匠1に備えられた保護部材は,仕切り部に係る上記差異
点と相まって,美感の違いをより生じさせるものといえる。」と判断している。
しかし,保護部材の有無による差異は,需要者の注意を惹きつけない部分
の僅かな差異であり,本件意匠において色彩について規定されていないこと
からしても,美感を左右しないし,本件意匠とは無関係である。
キ原判決は,格納部の形状(具体的構成態様D)や仕切り部の枚数等(同E,
F)についての差異も指摘するが,これらは需要者の注意を惹かないし,印
象も共通している。
ク原判決は,「本件意匠では,仕切り部前方上部の直線部下端,切欠き部の直
線部上端の円弧が連続しているため,S字を形成している様に見え,切欠き
部が丸みを帯びているのに対し,被告意匠1は,上記S字に相当する部分が
直線であるため,本件意匠に比べ,直線的で,やや角張った印象を与える。」
と判断している。
しかし,本件意匠においても,被告意匠においても,仕切り部前方上部の
直線部下端及び切欠き部の直線部上端にそれぞれ円弧が形成されており,仕
切り部前方上部の直線部から切欠き部の直線部にかけて斜め下へ向かうライ
ンでつながれている点は共通である。両者で相違している部分は,円弧の曲
率,斜め下へ向かうラインに直線部分が入っているかどうかという,いわば
設計上の微差にすぎないものであり,需要者の注意を惹くほど相違している
とは見えない。
被控訴人が主張する乙7の意匠は,本件意匠の登録後に出願されたものであ
って,本件意匠に対する公知意匠ではないし,本件意匠と対比すると,仕切り
部前方の側面視の形状において(円弧を描いているか直線状かといった)相違
点がある。
【被控訴人の主張】
本件意匠と被告意匠は類似しない。以下のとおり,控訴人らの主張は失当で
ある。
ア本件意匠と被告意匠は基本的構成態様が大きく異なる。すなわち,格納部
の形状や仕切り部の枚数は被告意匠の基本的構成態様であるので,この点で
大きく異なる本件意匠と被告意匠は,具体的構成態様について対比するまで
もなく類似していない。また,被告意匠の第1の仕切り部は,形状を多段階
に変えることを可能とする独自の機能を有した構成態様である。
イ控訴人らは,本件意匠においては,切欠き部の存在によって,パチンコ店
店舗の従業員が顧客サービスのためにパチンコ玉の入った容器を運び出しや
すいという特徴(メリット)があるので高い評価を受けたという経緯から,
切欠き部が新規な創作部分であると主張するが,本件意匠では仕切り部が可
動式であるから,そもそも控訴人ら主張のサービスのために切欠き部は不要
である。また,控訴人会社のウェブサイトの製品紹介ページでも,切欠き部
がそのような特徴を有することについて,需要者に何ら訴求されてもいない。
ウ保護部材は,ホール利用者や従業員の安全のために,被控訴人がコストを
かけて設置しているものであって,そのことを需要者に訴求するために,注
意を惹くような部材の材質・色彩を採用している。したがって,保護部材の
有無によって美感に与える影響が決定的に異なる。
控訴人らは,公知意匠(乙2意匠及び乙6意匠)は本件意匠と物品が非類似
であり,本件意匠の類似判断において参酌できないと主張するが,隣接する作
業空間を物理的に間仕切る板状のものという点で両者は用途と機能を共通にし
ているし,裁判所は特許庁の分類一覧表に拘束されるものではない。また,本
件意匠の需要者ではない遊技者の認識を前提とすべきではないし,本件意匠に
はそもそも控訴人らの主張するような視線遮断という機能はない。
被控訴人は,平成23年10月7日出願の遊技機用間仕切りパネルの意匠に
ついて,意匠登録を受けた(意匠登録第1441767号。乙7)。同意匠は,
本件意匠における具体的構成態様G~Jの全てを備えているものであり,乙7
の意匠が登録されたことは,控訴人らの主張が成り立たないことの証左である。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,
以下のとおり,補正し,当審における控訴人らの主張についての判断を付加す
るほかは,原判決「事実及び理由」第4の1及び2記載のとおりであるから,
これを引用する。
【原判決の補正】
原判決16頁15行目の「そのため」から19行目末尾までを,「したがっ
て,その判断に当たっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等を参
酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両
意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体とし
て美感を共通にするか否かを判断すべきである。そして,意匠の要部の把握
に当たっては,周知意匠のありふれた態様については,需要者の注意を惹か
ないことが一般であるし,意匠登録は出願前の公知意匠に類似する意匠には
認められない(意匠法3条1項3号)のであるから,周知意匠や公知意匠を
参酌すべきである。ただし,意匠の構成中の一部に公知意匠の構成と同じも
のが含まれていても,その部分が登録意匠において需要者の注意を惹くこと
もあり得るところであるから,その部分が直ちに意匠の要部となり得ないと
解すべきではない。」と改める。
原判決19頁最終行冒頭から20頁17行目末尾までを以下のとおり改め
る。
「被控訴人主張の上記公知意匠の参酌について
被控訴人は,本件意匠が登録される以前から公知意匠として乙2意匠
及び乙6意匠が存在すると主張し,これらはいずれも本件意匠の具体的
構成要素G~Jと一致し,具体的構成要素Kの一部と一致するので,こ
れらの公知意匠を参酌すると,本件意匠の具体的構成要素G~J及びK
は,本件意匠の要部にはなり得ないと主張する。
しかし,本件意匠の要部を判断するに当たって,これらの公知意匠を
参酌すべきであるか否かを判断する上では,前掲のとおり,乙2意匠は
パソコン等の作業ステーションに係る意匠であり,乙6意匠は作業用区
画構成用間仕切りに係る意匠であって,本件意匠に係る物品は遊技台の
間仕切りであるから,物品の類否すなわち用途と機能について検討する
必要がある。
乙2意匠は,その公開特許公報(乙2)における【要約】の【課題】
欄の記載によれば,「パソコンワークやその他事務を行うために隣の人の
視線を遮ることのできる仕切りブースを形成した作業ステーションであ
って,椅子に座っていながら,隣の人と打ち合わせがし易い作業ステー
ションの提供」とされており,本件意匠の具体的構成態様Gに当たる前
方下部の切欠きは,「膝が当たらない程度の切り欠き部」であって,作業
者が,椅子に座った状態で横移動する場合に膝が通過できるためのもの
である。
また,乙6意匠も,その公開特許公報(乙6)における【要約】の【目
的】及び【構成】欄の記載によれば,「快適な作業用区画を提供するため
の作業用区画構成用間仕切りに関するもの」で,本件意匠の具体的構成
態様Gに当たる前方下部の切欠きは,「椅子に着席した使用者が椅子を回
転しても膝頭が衝突しないよう」にするためのものである。
そうすると,乙2意匠及び乙6意匠は,いずれも個室的作業スペース
(プライバシー)を維持しつつ作業者の移動の便宜を考慮するという用
途と機能を有するものである(仕切り板前方下部の切欠きも,デスクよ
り下に位置する。)といえる。これらに対し,本件意匠に係る物品である
遊技機間の間仕切り板は,本件意匠の実施品(甲3の1ないし3)及び
被告商品,そのほか甲12,13(意匠公報),甲17(雑誌記事),甲
18(意匠公報)及び乙3(雑誌記事)に示されたものが全て透明な板
を使用し,隣の遊技者の喫煙の煙や音声を抑制するとされているように,
プライバシーの維持と反対に,むしろ見通しをよくし,かつ喫煙の煙や
音声に考慮したものである。そうすると,上記公知意匠も本件意匠も,
いずれも空間を仕切る板状のものとはいい得るものの,用途と機能にお
いて同一又は類似とは認められない。したがって,本件意匠の要部を検
討する上で,公知意匠として乙2意匠,乙6意匠を参酌するのは相当で
ない。」
原判決20頁19行目の「とはいえ,」を「仮に,隣接する作業空間を物理
的に間仕切る板状の物という点に本件意匠と乙2意匠及び乙6意匠の物品の
共通性を肯定し,公知意匠として参酌し得る余地があるとしても,」と,同頁
24行目の「これら公知意匠を参酌してもなお,」を「乙2意匠及び乙6意匠
を公知意匠として参酌したとしても,なお,」と改める。
原判決24頁17行目の文頭から同頁21行目末尾までを以下のとおり改
める。
「控訴人らは,これら差異点につき,いずれも需要者の注意を惹きつけな
い部分であり,僅かな差異にすぎないと主張する。しかしこれらはいずれ
も意匠の要部に係るものであり,また,本件意匠及び被告意匠が,間仕切
り板という全体として比較的単純な構成から成るものであることからする
と,前方へ突出する部分の上部から下部に至るまでの直線による角張った
硬質な印象と,S字類似の線による丸みを帯びた柔らかい印象とは一定の
美感の違いを生むといえる。さらに,穴の位置及び形状であるが,これは
遊技者からも一見して仕切り部を動かすために指を掛ける穴であると見え
るものであり,そのほかに特徴的な付属品等が存在しないので目立つとこ
ろ,穴の位置が板の下部か前部か,全体からみてバランスがいい位置に存
在するかという点及び穴の形状は,遊技者が指を掛けて,仕切り部を前方
へ動かそうとしたときの操作性や安定感に関する印象の差異となるといえ,
顧客の受けるそのような印象は需要者であるパチンコ店等の事業主が受け
る美感を相違させるものである。」
【当審における控訴人らの主張(上記補正部分以外)に対する判断】
控訴人らは,需要者において,具体的構成態様G~J(g~j)及びK(k)
の一部という非常に特徴的な部分につき,ありふれた形状であるとして注意
を惹かれないということはあり得ず,他方で,仕切り部上部の直線部下端か
ら切欠き部の直線部上端にかけての形状,仕切り部に形成されている穴の位
置及び形状という細かな部分の差異について,その違いが需要者の注意を惹
くということはあり得ないと主張し,その根拠として,遊技台の台間仕切り
板の実際の商品形状の状況,変遷等を挙げる。
確かに,控訴人らが主張するように,乙3(平成17年2月発行の雑誌)
には,パチンコ機等の遊技者の喫煙による煙が隣に流れないようにする工夫
として,透明な板で台間仕切り板を設けた写真が載っているところ,この台
間仕切り板は,前方上部が丸みを持った形ではあるが,遊技台上端から床面
までを仕切る態様のものである。また,甲11,12(意匠公報)によれば,
本件意匠より先願の台間仕切り板の意匠として,仕切り板が全体として比較
的単純な長方形状,あるいは長方形状の仕切り板の前方部の上下端が丸みを
帯びた形状になっているものが存在することが認められる。さらに,甲13,
18(意匠公報)によれば,本件意匠の登録後に出願され,登録になってい
るパチンコゲーム機(遊技機)用仕切り板の意匠において,仕切り板前方下
部に切欠き部が設けられているものの,切欠き部の形状が本件意匠の具体的
構成態様H~Kと異なる形状となっているものが存在することが認められる。
しかし,本件意匠における台間仕切り板の仕切り部は,前述(原判決「事
実及び理由」第4の1)のとおり,隣接する遊技台を仕切り,かつ,この
部分を遊技者が動かし引き出したり格納したりするものであり,本物品の機
能を果たす部位そのものであって,需要者の注意を最も惹くところであるか
ら,上記のような事実を参酌しても,切欠き部の具体的形状を含む仕切り部
前方の形状に関わる本件意匠の具体的構成態様G~Lの全体が本件意匠の要
部であるとの判断を左右するものではない。
なお,控訴人らは,実際に,パチンコ業界の者においては,本件意匠の切
欠き部の形状を特徴的な部分として見ているため,控訴人商品と少なくとも
この部分の形状が類似する被告商品について,控訴人会社の商品であるとの
混同が生じていると主張するが,このことを認めるに足りる的確な証拠はな
い。
その他,控訴人らは,原判決が被告意匠の保護部材の存在,格納部の形状,
仕切り部の枚数等の差異をも本件意匠と被告意匠の相違点として指摘するこ
とにつき論難している。しかし,これらの相違点も,仕切り板前方の切欠き
部の具体的形状の差異と相まって,本件意匠と被告意匠との美感の相違に一
定の寄与をしていることは否定できないから,控訴人らの主張は採用できな
い。
2結論
よって,控訴人らの請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は相
当であり,本件控訴はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官小松一雄
裁判官長井浩一
裁判官遠藤曜子

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