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裁判例


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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
被告は、原告に対し、七、三二三円およびこれに対する昭和四六年一二月五日から
完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行宣言
二 被告
主文同旨
敗訴の場合の担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二 当事者の主張
一  (原告)請求原因
1 第一次請求原因
(一) 原告は、文部教官(助教授)として国立神戸大学に在職する文部省所属の
職員であり、被告は、原告に対する給与支給義務者である。
(二) 原告は、教育職俸給表(一)二等級一一号俸の給与(俸給月額一〇九、九
〇〇円、調整手当八、七九二円)を受け、一般職の職員の給与に関する法律(昭和
二五年四月三日法律第九五号)(以下「給与法」という。)一九条の四第一項所定
の勤勉手当支給の基準日である昭和四六年一二月一日現在六か月をこえ在職してい
たので、同条二項および人事院規則九-四〇(期末手当及び勤勉手当)(以下「規
則」という。)九条所定の支給割合により算出され、一四条により、昭和四六年一
二月四日を支給日とする勤勉手当を受ける権利を有していた。その支給割合のう
ち、勤務期間による割合(期間率)は、右のとおり期準日以前の原告の在職期間が
六か月であつたから規則一〇条別表第一、一一条一項により一〇〇分の一〇〇であ
り、勤務成績による割合(成績率)は、一〇〇分の六一・六七であり、その額を給
与法一九条の四第二項、規則九条により算出すると合計七三、一九七円となる。し
かるに、被告は、原告に対し、勤勉手当の額を六五、八七四円と算出して支給した
にとどまつた。
(三) そこで、原告は、被告に対し受給し得べき勤勉手当額と支給された勤勉手
当額との差額七、三二三円およびこれに対する支給日の翌日である昭和四六年一二
月五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。
(四) 被告が右のように勤勉手当の減額算出をしたのは、原告が右在職期間中の
昭和四六年七月一五日争議行為(勤務時間内集会)参加による四八分間(午前八時
三〇分から同九時一八分まで)の欠勤をしたため、給与法一五条により勤務一時間
当りの給与額を同年一〇月分の給与から減額された結果、規則一一条二項三号、一
〇条別表第一により、給与を減額された一時間を勤務期間から除算し、原告の期間
率を「五か月以上六か月未満」の勤務期間に対応する一〇〇分の九〇としたことに
よる。しかしながら、右減額算出は給与法令の解釈適用を誤つたものである。以下
にその理由を述べる。
(1) 勤勉手当は、俸給の月額およびこれに対する調整手当の月額の合計額に成
績率と期間率を乗じてその支給額が定まる仕組になつており(給与法一九条の四第
二項、規則九条)、能率給的側面を有することは勿論であるが、実際には、一時的
に出費が増大する盆(六月)と暮(一二月)に支給されるものであつて(規則一四
条)、同時に支給される期末手当と相俟つてこれら諸経費の支弁にあてられている
のが実態であるし、支給割合の一つである期間率は勤務期間に比例して定められて
はおらず、勤務期間が一か月未満の場合でも期間率は一〇〇分の四〇と定められ
(規則一〇条別表第一)、また、負傷または疾病による欠勤が三〇日に満たない場
合には右欠勤を在職期間から除算せず期間率を全期間勤務者と同率に扱うこととさ
れている(規則一一条二項四号)。他の支給割合である成績率についても立法当時
当局は客観的合理的な勤務成績の評定がなされない限りその支給額に反映させない
旨を言明し、その後この趣旨にそつて成績率を名称どおり勤務成績に反映させるも
のとすることはなされておらず、全く同一の成績率を定めるかごく形式的に異なる
定め方をしているに過ぎないのが実情である。これら諸点を考慮すれば、勤勉手当
は職員の生存権に直結する生活給的性格を基本とする手当というべきである。従つ
て、合理的な理由なく大幅に支給額が減額されるような期間率の適用は、職員の生
活に不当に重大な影響を及ぼす恐れがあるもので、許されないといわなければなら
ない。
また、前記のような期間率の定め方、負傷または疾病による欠勤の除算についての
取扱いよりみれば、期間率は原則として一率に支給されるべき生活給たる手当につ
いて、ある程度長期にわたつて勤務を欠いた者を全期間勤務した者と同率に扱うこ
とが、全期間を勤務した者との関係で不公平と考えられるような場合に一定の率に
応じて支給率に差を設け、実質的公平をはかろうとするところに制度の趣旨がある
というべきであるから、規則一一条二項三号の解釈適用に当たつては、実質的に勤
務した期間について右の趣旨をふまえた合理的な評価をすることが必要である。
ところで規則一一条二項三号は、給与法一五条の規定によつて減額された期間を期
間率の算出に際して除算すべきものとしている。給与法による給与の減額は、ノー
ワーク・ノーペイの原則から、労働力の提供と交換的関係に立つ賃金部分につい
て、不就労時間に厳格に対応する賃金額を減額すべきものとしているのであるが、
勤勉手当の場合は、既に述べたように三〇日未満の病気欠勤が勤務した期間から除
算されないこと、勤務期間が一か月未満の場合にも期間率が一〇〇分の四〇となつ
ていることなどからみても明らかなとおり、労務不提供期間と減額割合との間にい
わゆる賃金減額におけるがごとき機械的比例的な対応関係は存しないから、給与法
一五条の賃金減額を前提にして期間率を算出する際には、減額された期間を機械的
に勤務時間から除算することは誤りであるといわなければならない。むしろ右のよ
うな期間率の定めからも明らかなように、期間率とは、勤務期間という視点から基
準日前六か月間の実質的勤怠評価を行ない、これを八段階に区分して評価格づけを
行なおうとするものであるから、一日に満たないような給与の減額された期間を
「六か月」と評価するか「五か月以上六か月未満」と評価すべきかは、前記のよう
な勤勉手当の生活給的性質期間率のもつ意義、一般民間企業および大多数の地方自
治体の取扱例では一日未満の欠勤を賞与ないし勤勉手当の減額の対象としていない
ことなど我国における勤務成積評価における一般的傾向等からすれば、被告のよう
に一時間でも勤務を欠いた時間があれば、「六か月」ではなく「五か月以上六か月
未満」であるとする解釈は、規則一〇条、一一条の趣旨を誤るものであり、少なく
とも一日の勤務時間に満たない程度の欠勤があるにすぎないような場合には勤務期
間を「六か月」と評価すべきである。
右のような解釈の妥当性は、規則一一条二項の一、二、四、五号によつて勤務期間
から除算されることになつている期間の内容をみるとき明らかである。即ち、本件
で問題とされている規則一一条二項のうち三号を除くその余の各号に掲げる期間は
いずれも基本的には月を単位とする相当長期の期間を想定しており、一日または数
日といつた短期間はごく稀な事例に過ぎず、ましてその算定の単位を時間とするも
のを予定していないことはその文言と関係法令を検討すれば明白である。また、右
の解釈の妥当であることは、昭和三八年給実甲二二〇号「期末手当および勤勉手当
の支給について(通知)」の八項および昭和四三年職職一〇三六号「人事院規則一
五-六(休暇)の運用について(通知)」の第三項関係が、時間を日に、日を月に
換算する方法を規定し、勤務期間の除算単位が日以上であり、勤勉手当の期間計算
上一日に満たない欠勤というものを予想していないところからも裏付けられるとこ
ろである。
さらに、地方公務員については、国家公務員に準じた給与の定めが各県条例等で定
められているが、勤勉手当についても同様の定めがなされており、特に期間率決定
の基礎となる勤務期間については、規則一〇条、一一条とほぼ同様の定めが条例ま
たは規則で定められているものの、ほとんどの地方自治体においては、運用ないし
規則の明確化により少くとも一日未満の欠勤は勤怠評価の中で消極的評価の対象に
しないようにしており、これは全国的にほぼ確立した取扱になつているといいうる
のである。
(2) 仮に、右の期間率算出の際の除算すべき期間の単位が時間であるとして
も、本件勤勉手当の減額算出は、原告が昭和四六年七月一五日午前八時三〇分から
同九時一八分までの間、神戸大学教職員組合が行なつた争議行為(勤務時間内集
会)に同組合中央執行委員長として参加したことを実質的な理由としてなされたも
のであるところ、争議行為は、集団的労使関係における労働組合を主体とする行動
であつて、個別的な労使関係における個々の職員の能率評価とは関係のない事項で
あるから、争議行為によつて勤務を欠いた期間をもつて、「勤務を要する期間」と
とらえ、「承認を得ないで勤務をしなかつた」ものとして勤勉手当算出の際の期間
率に反映させることは、本来勤怠実績の評価の対象となしえない争議行為による不
就労期間をとらえて評価の対象とするものであり、給与法一九条の四、規則一一条
二項三号の解釈適用を誤つているといわなければならない。
(3) 仮に、勤勉手当の算出にあたり、争議行為によつて勤務を欠いた期間を考
慮することが許されるとしても、たとえばわずか一時間の争議行為に参加した職員
に対し、当該一時間分の給与減額に加えて、勤勉手当についても当然に一〇パーセ
ントの減額をなしうるものとすれば、短時間の争議行為参加者は、当該争議行為参
加時間に照応する賃金額の十数倍の賃金の喪失を常に覚悟しなければならないこと
になり、対使用者との相対関係において争議行為参加者が受ける経済的損失はあま
りに過大に失するものといわなければならない。本来争議行為に際して使用者が支
払を免れる賃金は、労働力の提供と交換的関係に立つ賃金部分について、不就労時
間に厳格に対応する賃金額に限定されるものであるから、この見地からすれば、本
件勤勉手当減額算出が争議行為に対する過重な制裁としての効果をもつことは明ら
かである。しかも現実の勤務関係においては、短時間の勤務を欠く例はしばしば見
られるにかかわらず、争議行為の場合以外には勤勉手当を減額された事例は皆無と
いつてよいことなどからすれば、本件勤勉手当の減額算出は争議行為に対する経済
的不利益制裁を目的としたものといわざるを得ない。さらに、たとえ争議行為禁止
規定に違反する争議行為であつても、これに対する制裁は必要最少限度にとどめな
ければならないことは憲法二八条の要請するところであり、また、国際労働常識の
支持するところであるから、このような争議行為禁止違反に対する過重な制裁的効
果をもたらすような被告の給与法令の解釈適用は誤りというべきである。
2 第二次請求原因
(一) 仮に規則一一条二項三号を右のように解しえないとしても、所属長たる国
立神戸大学長の行なつた本件勤勉手当減額支給は、争議行為に対する過酷な制裁と
しての実質を有し、また、極めて微少な不就労、給与減額に比し過大な勤勉手当の
減額を行なつた点で裁量権を逸脱した違法があり、原告は、右違法行為により、得
べかりし期間率一〇〇分の一〇〇による勤勉手当の受給を妨げられ、得べかリし勤
勉手当額七三、一九七円と現実に支給された勤勉手当額六五、八七四円との差額
七、三二三円相当の損害をこうむつたことになるから、国家賠償法一条により、右
金員及びこれに対する不法行為発生後である昭和四六年一二月五日から支払済まで
民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 原告が本件勤勉手当減額措置に裁量権を逸脱した違法があるとする理由は
次のとおりである。
勤勉手当の支給割合は、給与法一九条の四により人事院が定める基準によるものと
されており、この授権に基づく人事院規則の定めは勤勉手当における期間率の算出
方法、算出基準を極めて具体的かつ画一的に定めてはいるが、給与法の趣旨は、勤
勉手当の生活給的側面からは勿論能率給的側面からみても職員に支給される実際の
支給額がその者の勤務成績と著しく均衡を失することのないことを求めていると解
されるから、所属長は人事院規則の運用上右の趣旨にそうよう裁量権を行使しなけ
ればならないのであり、勤勉手当の生活給ないし能率給的性格に照し、勤務成績と
の対応関係を著しく欠くような運用がなされた場合には、なお、裁量権の逸脱があ
つたものとして、違法の問題を生ずるものといわなければならない。
これを本件についてみるに、勤勉手当額減額の理由となつた原告の争議行為参加
は、昭和四六年七月一五日午前八時三〇分から同九時一八分までの間であるが、こ
の日は、神戸大学の夏季休業中であり、夏季休業期間は一般に自宅研修として取扱
われており、大学教官としての職務の性質上、この研修時間においては各人の自由
な取扱が認められていたものである。しかも神戸大学では、始業時間が午前八時三
〇分と定められていたが、これは国家公務員の週当りの勤務期間が四四時間とされ
ているところから、その割振上建前として決められた始業時刻であつて、学内で
は、実際には午前九時を始業時刻とする運用がなされていた。従つて、原告が実質
的に勤務を欠いたのは、研修時間一八分間ということになり、勤務に与える影響は
皆無であつたといえるから、このような欠勤を取り上げて一か月未満の欠勤と同列
に扱い勤勉手当の減額を行なうことは、勤務成績との対応関係を著しく欠き、勤勉
手当の生活給的性格に照らしてはもとより、その能率給的性格に照らしても著しく
合理性を欠く取扱として裁量権を逸脱した違法があるものといわなければならな
い。さらに、争議行為による不就労を理由とする勤勉手当の減額は、争議行為に対
する不利益制裁としての実質を有することは否定しえないところであるから、所属
長は憲法二八条により右の制裁が過酷にわたることのないようにすべく制約されて
いるのであり、人事院規則の機械的適用が過酷な制裁となるような場合には、所属
長は勤勉手当の減額を差し控えなければならないのであり、この点からも本件勤勉
手当減額措置は違法といわなければならない。
二 (被告)請求原因に対する認否および主張
1 認否
第一次請求原因のうち(一)は認める。
(二)のうち原告の勤勉手当が期間率一〇〇分の一〇〇によつて算出されるべきで
あり、その額が七三、一九七円であることを否認しその余を認める。(四)の冒頭
の主張のうち被告による勤勉手当の算出につき給与法令の解釈適用に誤りあること
は否認し、その余を認める。同(1)のうち昭和三八年給実甲二二〇号の八項およ
び昭和四三年職職一〇三六号の第三項関係が原告主張のとおり時間を日に、日を月
に換算する方法を規定していること、地方自治体の中には教育職員たる地方公務員
につき原告主張のとおり期間率適用に際し運用または規則の改正により一日未満の
欠勤を在職期間から除算しない扱いをしているものもあることは認め、その余は否
認する。同(2)、(3)は否認する。
第二次請求原因は否認する。
2 第一次請求原因に対する主張
(一) 原告に対し昭和四六年一二月一日を基準日として支給された勤勉手当額は
六五、八七四円が正当であり、この数額算出につき何らの誤りはない。
原告は本件勤勉手当における期間率の算出の対象期間内である昭和四六年七月一五
日(木曜日)午前八時三〇分から同九時一八分までの間、神戸大学教職員組合が行
なつた要求貫徹集会に参加し、その間文部教官としての勤務をしなかつた。ところ
で、原告に対する昭和四六年度勤務時間割振承認によると、同年度中の木曜日にお
ける原告の勤務時間は、午前八時三〇分、から午前一〇時三〇分までの二時問およ
び午後七時から午後一〇時までの三時間とされていたから、勤務しなかつた時間で
ある四八分間は勤務時間帯の中にあるところ、この勤務をしないことにつき特に承
認はなかつたため、給与法一五条、昭和二六年給実甲二八号「一般職の職員の給与
に関する法律の運用方針」(以下「運用方針」という。)第一五条関係の四、第一
六条関係の二(3)の各規定により勤務を欠いた期間が一時間であるとして、この
一時間につき給与は減額された。従つて、規則一〇条、一一条二項三号の各規定に
よると、原告の基準日におげる勤務期間は「六か月」を欠くものであつて、規則一
〇条別表第一による勤務期間は「五か月以上六か月未満しに該当するため、期間率
は一〇〇分の九〇となり、この期間率を基礎として算出された原告の勤勉手当額は
六五、八七四円となるのである。
(二) 被告が右の支給額を原告に対する正当な勤勉手当額とする理由は次のとお
りである。
(1) 勤勉手当は、期末手当が職員の在職期間に応じて一定割合により支給され
る生活給的給与であるのに対し、基準日以前六か月以内の期間における職員の勤務
成績を給与に反映し、公務能率の一層の向上に資することを目的として設けられた
奨励的能率給的給与である。このことは、勤勉手当が、民間企業における賞与等の
一部が勤務成績を考慮して支給されでいたことにならつて設けられたという制定時
の沿革からも明らかである。
勤勉手当の支給割合は、給与法一九条の四により、人事院の定める基準、即ち規則
に定める期間率と成績率を乗じて得た割合とされているが、期間率は、規則一〇条
別表第一により、基準日以前六か月以内の期間における職員の勤務期間を八段階に
区分し、それに応じて零から一〇〇分の一〇〇までの八種の割合を定めている。即
ち、勤務期間が全くない場合には期間率は零であるとして勤勉手当の生じる余地の
ないものとし、勤務期間が六か月の場合は完全なる勤務にあつたものとして期間率
を一〇〇分の一〇〇と定め、これを両端としてその中間を一か月間隔に区分して期
間率を定めている。従つて、基準日以前六か月以内の期間において規則一一条二項
各号に該当する除算期間がある者は六か月の全期間を勤務した者に比べ期間率が低
率となるが、これは勤勉手当が能率給的性格を有することから当然のことといえ
る。
本件で問題となつている規則一一条二項一二号は明文をもつて、「給与法一五条に
より給与を減額された期間」を勤務期間より除算する旨定めている。そして、給与
法一五条は、給与の減額につき、一時間を単位として減額することとしており、給
与減額の期間を時間単位としてとらえていることは明かである。してみると、規則
一一条二項三号に定める勤務期間から除算される期間が時間単位として計算される
ことは文理解釈上明瞭であるといわざるをえない。
ところで、規則一一条二項三号、一〇条別表第一を適用すると、一時間の欠勤の場
合と三〇日の欠勤の場合が同じ期間率の適用をみることになるが、勤務期間を一定
期間ごとに区分し、その区分ごとに期間率を設定するとした場合、その区分の切れ
目の前後においてみるとき期間自体の差異は僅少であるのに、期間率の差は画然た
る差として表われることはそのような区分割をする限り避けられないことである。
しかしながら、給与法一九条の四第一項は、勤務期間のすべての差が勤務成績の差
異として比例的に表わされ、勤勉手当の差となるべきことまで規定しておらず、規
則一〇条が勤務期間と期間率を別表第一のとおり定めたことは、給与法の予定する
勤勉手当制定の趣旨を何ら逸脱するものではない。むしろ勤勉手当における能率給
的性格を重視すれば、六か月の勤務期間を規則一一条二項により除算されるような
勤務状態でなく勤務した者は、この間に何らかの欠勤のあつた者と異り、勤勉手当
において有利なる差別を受けることは当然とさえいえるのである。
次に、規則一一条二項の一、二、四、五号は、同条にいう勤務期間の最小単位が時
間であることを排除するものではなく、また、昭和三八年給実甲二二〇号「期末手
当および勤勉手当の支給について(通知)」の八項および昭和四三年職職一〇三六
号「人事院規則一五-六(休暇)の運用について(通知)」の第三項関係は、いず
れも、時間を日に、日を月に換算する場合の基準を定めたにすぎないものであつ
て、一日に満たない期間(時間)を期間計算から排除する旨を定めたものではな
い。
なお、地方公務員については、国家公務員と同種の手当制度が条例、規則等で定め
られているが、国家公務員に対する勤勉手当支給制度は、法令に基づき国家公務員
法体系の一環として定立、解釈、運用されるべきことは当然であり、国家公務員に
対する勤勉手当の支給につき民間企業、地方公務員における勤勉手当相当の給与支
給の実情等を考慮すべしとすることは立法論、政策論にすぎず、また、地方公務員
等に対する給与支給の実情等が規則一一条二項三号の前記の解釈を左右するもので
もない。
(2) 原告らは、本件勤勉手当の支給について、争議行為を理由とする減額支給
とし、これは争議行為に対する過酷な経済的制裁であり、またこれを目的としたも
のである旨主張するが、本件において、原告の勤勉手当の期間率が一〇〇分の九〇
とされたことは、規則一〇条、一一条の適用上、原告には、基準日以前六か月間に
おいて給与法一五条により給与を減額された期間があつたためであるから、減額と
いうことはおこりえないのみならず、規則一一条二項一二号の解釈上、勤務を欠き
給与法一五条により給与を減額されるに至つた理由が何であるかは全く斟酌されな
いのである。従つて、仮に原告が遅刻または早退等により本件の場合と同様の時間
にわたり勤務を欠いた場合でも、本件と同様の取扱がなされたはずであるから、本
件における原告の勤勉手当が期間率一〇〇分の九〇を基礎に算出されたことをもつ
て特に争議行為に参加したことに対する制裁であるとする余地は全くないのであ
る。
3 第二次請求原因に対する主張
勤勉手当の期間率は、規則一〇条、一一条を機械的に適用することにより一義的に
定まるべきものとされているから、所属長たる神戸大学長に、規則の運用上の裁量
権を認めるべき余地はあり得ない。従つてこれを前提として裁量権の逸脱を論じる
原告の主張は失当である。
右のとおり、原告の主張に対し反論の必要はないが、なお付言すると、国立大学の
各教官の勤務時間は、勤務時間開始時刻も含め、法令に明確に定められており、こ
れと異なる慣行を法認する余地も、柔軟性を言う余地もない。そして、研修時間も
勤務時間の一部である以上国家公務員としての職務専念義務を免除されるものでは
ないから、原告が勤務を欠いた期間が研修期間内であつたとしてもやはり職務専念
義務に違背したものといわざるを得ず、そのことに対して給与の減額が行なわれ、
それが勤勉手当の期間率の算出にあたり影響を与えたとしても特に不合理とはいえ
ない。また、期間率が一〇〇分の九〇とされたことは、給与を減額された期間があ
つたためであり、特に争議行為に参加したことに対する制裁とみなすべき余地のな
いことは既に説明したとおりである。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 第一次請求に対する判断
1 原告が給与法一九条の四第一項所定の勤勉手当支給の基準日である昭和四六年
一二月一日現在六か月をこえて在職する文部省所属の職員として同月四日を支給日
とする勤勉手当を受ける権利を有すること、給与支給義務者たる被告は、同年一二
月四日原告に勤勉手当として六五、八七四円を支給したこと、原告が同年七月一五
日争議行為(勤務時間内集会)参加による四八分間(午前八時三〇分から同九時一
八分まで)欠勤したことは、当事者間に争いがない。
2 (一)被告支給にかかる勤勉手当六五、八七四円が次のようにして算出された
ものであることは当事者間に争いがない。即ち、被告は、給与法一五条により原告
の右欠勤を理由に昭和四六年一〇月分給与から勤務時間一時間当りの給与額を減額
し、これに伴ない、同年一二月四日支給の勤勉手当算出に当り、規則一一条二項三
号により右給与減額にかかる一時間を在職期間から除算し、期間率を規則一〇条別
表第一により「五か月以上六か月未満」の勤務期間に対応する一〇〇分の九〇と
し、また、規則一三条による成績率を一〇〇分の六一・六七と評定し、原告の俸給
月額(一〇九、九〇〇円)および調整手当月額(八、七九二円)に右期間率および
成績率を乗じて、勤勉手当額六五、八七四円を算出した。
(二) 当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証、乙第一六ない
し第一九号証、原告本人尋問の結果によれは、神戸大学教職員組合は、昭和四六年
六月一八日中央代議員会を開催し、同年七月一五日に日本教職員組合の統一指令に
よる大幅賃上げ要求、第二次定員削減案反対を目的とする早朝五九分間の要求貫徹
集会を行うことを決定し、この決定に基づき、同年七月一五日勤務開始時刻である
午前八時三〇分から同九時二九分までの勤務時間に五九分間くいこむ要求貫徹集会
を実施したが、原告は神戸大学教職員組合中央執行委員長として、自己の勤務時間
内である同日午前八時三〇分から同九時一八分までの四八分間前記のとおり右集会
に参加し、その間神戸大学長の承認を受けることなく文部教官としての勤務をしな
かつたこと、給与法一五条、運用方針第一五条関係の四、第一六条関係の二(3)
により右四八分間は一時間として取扱われる結果勤務を欠いた期間が一時間とさ
れ、これにより、同年一〇月分給与から勤務一時間当りの給与額を減額されたこと
が認められる。
(三) 以上の事実によれば、原告の欠勤は、神戸大学長の承認によるものでない
から、これを理由とする給与法一五条による給与減額に伴ない、規則一一条二項三
号により在職時間から右減額期間(一時間)を除算し期間率を求めてなした被告の
勤勉手当算出には、給与法令の解釈適用を誤つた点はない。
3 原告は、勤勉手当にかかる勤務期間の算出につき給与関係法規の解釈上少くと
も一日未満の欠勤は、除算の対象とすべきではないと主張する。
しかし、給与法一五条、規則一一条二項三号の文理からはそのように解釈する余地
はないのであり、給与法一五条により給与を減額された以上その減額期間を在職期
間から除算することは規則一一条二一項三号による必要的措置であつて、これによ
つて勤務期間が算出され、規則一〇条別表第一により期間率が一義的に定まるもの
であることは明らかであるが、なお原告の主張に即して判断することとする。
(一) 原告はその論拠として勤勉手当が生活的性格を有する旨主張するが、勤勉
手当が法令に基づき支給されるものである以上当然のことながらその性格いかんは
先ず現行実定法規の解釈にかかるものである。そして、解釈の結果得られた結論と
生活実態が甚だしく遊離しているというのであれば、個々の問題ごとに別の観点か
らの運用の要否が改めて検討されなければならないのである。そこで勤勉手当に関
する法令の規定を検討する。成立に争いのない乙第一、第三、第七号証および証人
Aの証言によれば、勤勉手当制度の目的は、勤勉手当を勤務成績に応じて支給する
ことにより、公務の能率の一層の向上に資することを目的として昭和二七年一二月
から発足した制度であることが認められ、この制度発足により関係法令が整備され
たが、本件当時における法令の規定をみると、給与法一九条の四(発足当時一九条
の五)は、勤勉手当は基準日(六月一日、一二月一日、発足当時は一二月一日の
み)以前六か月(発足当時は一二か月)内の期間における職員の勤務成績に応じて
支給される旨を明記するとともに、その支給基準の設定を人事院に委ね、人事院
は、規則九条(発足当時は給実甲六三号「勤勉手当の基準について」(成立に争い
のない乙第一四号証))により、その支給基準としての支給割合を勤務期間による
割合(期間率)に勤務成績による割合(成績率)を乗じて得た割合であると定め
た。このように、勤勉手当の支給基準として期間率と成績率が定められたのは、勤
務成績の評定がややもすれば陥りがちな評定者の主観に偏し公平を失する幣害を排
除する見地から、客観的に把握しやすい勤務期間に対応したものとして職員の欠勤
等の勤怠状況を示す期間率と所属長の判定による公務への貢献度等の勤務実績を示
す成績率の二つの評定要素を具体的基準として定め、これにほぼ同等の重みをもた
せることが合理的かつ妥当であるとされたものと解されるのである。以上述べたよ
うな勤勉手当制度発足の趣旨、給与法および規則中勤勉手当に関する骨格をなす規
定(法条の位置、基準日、対象期間、人事院による基準設定方式、勤務期間の区分
等は発足当時、本件当時(および現在)において異なるものもあるが、その内容の
実質は同一である。
)からみれば、勤勉手当が職員の勤務成績を基礎として定められる業績報償給とし
ての基本的性格を有する給与であると認めることができる。
勤勉手当がかかる性格の給与であることは、これに関する諸規定と期末手当に関す
る諸規定を対比検討することにより一層明らかとなる。期末手当は、毎月きまつて
支給される俸給等とは異なり、一年のうち予め定められた時期に、特定の日を基準
として在職する職員に対し支給される特別の給与である点では勤勉手当と類似し、
ただその支給時期が六月および一二月のほか三月も加えられているが、六月および
一二月には勤勉手当と同時に支給されるのである。このように、両者は外観上、支
給形式および支給時期において共通性を有しているのであるが、給与法一九条の三
は期末手当につき在職期間の区分に応じて支給される給与である旨を明記するとと
もに、給与法二三条二項ないし五項は、公務上の負傷、疾病以外の事由による休職
者に対する期末手当の支給割合につき、いずれも毎月支給され生計維持に供せられ
るいわゆる生活給としての性格を有すると認められる俸給、扶養手当、調整手当、
住宅手当の定額給と同様の割合を定めており、これらの諸規定は、期末手当が基本
的には生活給または生活補助給としての性格を有することを明らかにしているもの
ということができる。これに対し、勤勉手当については、前記のとおり給与法一九
条の四が勤務成績に応じて支給されるものであることを明記するとともに、公務上
の負傷、疾病以外の事由による休職者に関しては給与法二三条二項ないし五項に相
当する規定はなく、同条六項の適用を受ける結果他の法律に特別の定かない限りこ
れら休職者は勤勉手当の支給は受け得ないのである。このように、給与法におい
て、勤勉手当は期末手当とは異なり生活給と認められる前記俸給等の給与とは別異
な扱いを受けているのであつて、そのことは、勤勉手当の業績報償性を裏付けるも
のということができるのである。
次に両者における金額算出の際の在職期間からの除算を本件当時の規則により対比
すると、期末手当については、規則五条により、(1)停職者、非常勤職員、未帰
還職員、専従休職者としての在職期間が除算されるほか、(2)公務上の負傷、疾
病のための休職者を除くその余の休職者に対しその休職期間の二分の一が除算され
るにとどまり、他に除算事由に関する定めがないのに対し、勤勉手当については、
規則一一条二項により、(1)停職者、非常勤職員、未帰還職員、専従休職者、と
しての在職期間、(2)公務上の負傷、疾病のための休職者を除くその余の休職者
に対しその休職期間全部、(3)給与法一五条(不承認欠勤)または人事院規則一
七-二第六条第七項(許可を受けた短期専従期間)による給与減額期間、(4)公
務に起因しない負傷、疾病により勤務をしなかつた期間から勤務を要しない日およ
び休日を除いた日が三〇日を超える場合にはその勤務をしなかつた全期間、(5)
全期間にわたり勤務をした日がない場合には以上の(1)ないし(4)にかかわら
ずその全期間がいずれも除算されることになる。両者を対比すると、期末手当につ
いては、除算事由が限定され、特に一般の休職者であつても期間の二分の一の除算
にとどまつていることは、その生活給または生活補助給としての基本的性格をあら
わしているということができるのに対し、勤勉手当については、除算事由も多く、
特に勤怠評価の対象とするのは相当でないと認められる公務に起因する休職
((2))、三〇日以下の負傷、疾病による欠勤((4))を除いては勤務を欠く
期間を除算することとし、特に(5)により全期間を除算することをも予定してい
ることからみても(この場合期間率に相当する額は零となる)、その業績報償給と
しての基本的性格をうかがうことができるのである(その後規則の改正により両手
当につき他の公共的機関の業務に従事するための休職期間はいずれも除算されず、
勤勉手当につき育児休業職員としての在職期間は除算され、人事院規則一七-二第
六条第七項の減額期間は除算されないこととされたが、これら改正は両手当の性格
に変更をもたらすものではない)。
このほか、給与法一九条の三は期末手当算定の基礎に俸給、調整手当のほか扶養手
当をも含ましめることにより、期末手当が当該職員だけでなくその扶養家族の生計
維持に供せられる趣旨のもとに支給することを明らかにしているのに対し、給与法
一九条の四はこれを除外し職務遂行の対価性を有する俸給および調整手当を基礎と
して勤勉手当を算出すべきことを定めているにとどまるのであり、このことは勤勉
手当の業績報償性を知る手掛りとなるのである。
勤勉手当を業績報償給と解する以上同一人であつても支給時期により支給額に変動
があるのは当然予想されるのであるが、このように勤勉手当に定額性の保障がない
ことにより一般に職員およびその家族が生計維持に著しい支障を受けるというので
あれば、関係法規の解釈運用上の特段の配慮を要することもあり得ようが、現に職
員はその生計維持のため毎月定まつた俸給のほか、その職種、地位、家族状況、居
住地域、住宅事情に応じて各種調整額、扶養手当、調整手当、住宅手当、通勤手当
等諸給与の支給を受けるほか、前記のように毎年三月、六月、一二月に期末手当の
支給を受けており、さらに人事院勧告による給与その他の勤務条件の改善が制度的
に保障され、かつ毎年の勧告により、それが完全に満足すべきものかどうかの評価
はさておき、逐次改善が実施されているのであるから、勤勉手当が生活給的性格を
も強く帯有するものとして、少なくとも本件のような給与減額期間の除算につき、
関係法規の解釈運用上特段の配慮を要する実態にあるとまでは認め難い。
原告は、勤勉手当が一時的な出費が増加する盆暮に支給されていることをもつて生
活給的性格を有するものである旨主張するが、右出費がすべて生計維持に必要なも
のばかりであるとはいい難いうえ、その時期には同時に生活給または生活補助給と
しての性格を有する期末手当も支給されているのであるから、支給時期が盆暮に当
つたからといつて実定法規が業績報償給としている勤勉手当の性格をそのようなも
のとして強調することは相当ではない。もちろん、職員が生活給である俸給等の定
期定額給、期末手当等のほかに勤勉手当の支給を受ければ、これらと相合してその
一部または全部を生活向上のための有益な支出または貯蓄にあてるという一般的現
象をあえて否定するものではないが、そのことが直ちに勤勉手当の勤務期間算出に
つき本件のような給与減額期間の除算を不当とする主張を肯認することにつながる
ものでないことは、いうまでもないところである。また、原告は期間率と勤務期間
が対応関係にないことをもつて勤勉手当の生活給的性格を裏付けようとするが、右
のような関係が勤勉手当の業績報償性を否定するものでないことは後に述べるとお
りである。さらに、原告主張の成績率決定についても、国の各庁とも所属長が一定
の基準に従つたランク付けに応じて勤務成績を評定しできるだけこれを公平に決定
するよう制度化していることは顕著な事実であつて、これが全く形式的又は一率に
決定されるよう運用されていると認むべき証拠はないのである。
(二) また、原告は規則一一条二項三号の除算期間を時間単位に解釈した場合、
原告のように六か月間に一時間でも欠勤があり給与が減額されると完全な勤務をし
た職員として扱われず、この者に比べて期間率において一〇パーセントの減少とな
り、期間率の適用については一か月近い欠勤と同一に取り扱われることになるから
かかる解釈は誤りであつて同条の解釈上少くとも一日未満の欠勤は除算すべきでな
い旨主張する。
原告の右主張は勤勉手当の基本的性格を生活給としてとらえることを前提としてい
るのであるが、その点がしからざるものであることは既に述べたとおりである。そ
して、勤勉手当の基本的性格を勤怠評価に基づく業績報償として理解するならば無
断欠勤・遅刻・早退の有無、多寡が勤怠状況の評価について重要な資料となること
は事柄の性質上当然のことであり、この無断欠勤等を勤務期間の算定にあたり消極
的に考慮することは合理的であるといえるし、また、これが規則一一条二項三号の
趣旨と解される。このことからすれば、六か月間全く勤務を欠いた期間をもたない
職員、即ち全期間を無断欠勤等をすることなく皆勤した職員とたとえ一時間でも無
断欠勤等のため給与を減額された職員とを勤務期間の取扱において区別し、無断欠
勤等のあつた職員を下位に評価し期間率の適用について差異をもうけることにはな
お合理性があるというべきである。ところで勤勉手当は、原則として一か月単位で
支給される俸給のように正規の勤務時間に対する労働に対して支払われるものでは
なく、支給対象期間における勤務状況を全体的に把握して業績報償的見地から支給
するものであり、その期間も六か月という長期間にわたるから、勤務期間の区分の
仕方、この区分と支給割合との対応関係も、欠勤による給与額の減額における欠勤
時間と減額率との間におけるような厳格な機械的比例関係を要求するものではな
く、勤勉手当の業績報償的性格を没却したり、その区分割や支給割合との対応関係
が著しく不合理でない限り、その区分の中で勤務期間に差があつても、支給割合を
同一にすることは許されるものと解される。しかして、この勤務期間について、人
事院は、本件当時の規則一〇条別表第一において、勤務期間が六か月の場合には、
完全なる勤務をしたものとして期間率を一〇〇分の一〇〇とし、勤務期間を全く欠
く場合には期間率を零として勤勉手当を支給しないものとし、これを両端としてそ
の中間を一か月間隔で区分し、八段階に区分しているが、これに対応する期間率は
勤務期間の一区分ごとに一〇〇分の一〇ずつの割合による逓減の方法をとつている
のであつて、業績報償的見地からかかる区分と支給割合との対応関係を特に不合理
とすべき事由を見出しがたい。このように勤務期間の区分につき、欠勤のない完全
な勤務をした場合を最上位の区分とし、それ以外の勤務期間を一か月単位で区分し
てこれに対応する期間率を定める場合、一つの区分と他の区分の切れ目の前後にお
いては勤務期間の差異は僅少であるのに期間率の差は画然としてあらわれることは
このような区分割を前提とする限りやむを得ないところである(囚に、原告主張の
ように一日に満たない欠勤を除算すべきでないとの解釈をとつたとしても、一日の
勤務時間を八時間とした場合七時間欠勤し一時間勤務したにすぎない者は除算され
ず期間率一〇〇分の一〇〇の適用を受け、当日全部欠勤した者は一日分として除算
され期間率一〇〇分の九〇の適用を受けることになるが、僅か一時間勤務に従事し
たか否かの差によつて期間率に一〇パーセントの差が生ずることになるのであり、
かかる切れ目的現象は避け難いのである。)。本件で原告は一時間の無断欠勤によ
り全期間を完全な勤務をした職員として扱われず、期間率において一〇パーセント
の減少をみたのであるが、以上の諸点を考慮すれば、特に全期間を皆勤した者との
対比において勤務を欠いた一時間について期間率が一〇パーセントの減少となつた
としてもいまだ勤務期間と支給割合たる期間率との対応が著しく不合理であり、給
与法一九条の四が業績報償的給与たる勤勉手当の支給割合の決定基準を人事院規則
に委任した趣旨を逸脱しているとまでは認め難い。
なお、勤勉手当の勤務期間に関し除算すべき各場合を規定した規則一一条二項につ
いて、三号を除くその余の各号は日以上を単位として算定されるものと認められる
が、これは規定の対象として除算すべき期間が一号にいう在職期間、二号にいう休
職期間、四号にいう負傷または疾病により勤務しなかつた日が三〇日をこえる場合
の勤務しなかつた期間のように社会通念上日単位でしか算定しえない性質のもので
あるためであり、同条二項三号の期間が時間単位で算定すべきことを否定するもの
でないと解される。また、昭和三八年給実甲二二〇号「期末手当および勤勉手当の
支給について(通知)の八項および昭和四三年職職一〇三六号「人事院規則一五-
六(休暇)の運用について(通知)」の第三項関係は単に時間を日に、日を月に換
算する方法を説明した通達であるにすぎず、勤勉手当にかかる勤務期間の除算が時
間単位でなされることを否定する論拠とはなし難い。さらに、当事者間に争いのな
い事実ならびに成立に争いのない甲第一三号証、第一五、第一六号証の各一、二、
第一七、第一八号証、第一九号証の二、第二〇ないし第二四号証の各一、二、第二
六、第二七号証、第二八号証の一、二、第三七ないし第三九号証、第四一号証の
二、証人高山三雄の証言により真正に成立したものと認める甲第一四号証、第一九
号証の一、第四一号証の一、第四二号証、および証人高山三雄の証言を総合する
と、国家公務員の勤勉手当制度とほぼ同様の勤勉手当制度をもつ都道府県では、条
例または規則で一日未満の欠勤を期間率の基礎となる勤務期間から除算しない旨明
文化したりあるいは運用において右と同様の取扱いをしているものがあることが認
められるが、かかる事実により規則一一条二項三号の解釈が左右されるものではな
く、ことは立法政策の問題に帰着するに過ぎない。
4 さらに、原告は、争議行為による不就労は本来勤怠実績の評価の対象となしえ
ないものであるから、この不就労をとらえて期間率を減じたことは、給与法一九条
の四、規則一一条二項三号の解釈を誤つたものであり、仮にそうでないとしても、
本件勤勉手当減額措置は争議行為に対する過酷な制裁措置をとることを目的とした
ものである旨主張するので、この点につき検討する。
規則一一条二項三号は、給与法一五条による給与減額の事実があれば必ず給与を減
額された期間を勤勉手当の勤務期間から除算する旨定めているが、これは、無断欠
勤による給与額の減額という客観的事実があればその事由の如何を問わず、その事
実のみを勤怠状況の評価における消極的評価要素とみて、その期間を一律に除算
し、これを期間率に反映させる趣旨と解される。従つて、規則一一条二項三号の解
釈について、給与減額の理由が争議行為による欠勤であつたことは斟酌されないの
であるが、仮に原告主張のように争議行為による不就労を通常時の欠勤と別異に取
り扱うべきとの立場に立つたとしても、民間企業における従業員と異なり、国家公
務員については、国家公務員法九八条二項により争議行為をなすことが禁止されて
いるから(右規定が合憲であることについては最高裁判所昭和四八年四月二五日大
法廷判決最高裁判所刑事判例集二七巻四号五四七頁参照)、争議行為参加による欠
勤が業績報償的給与たる勤勉手当の勤務期間の算定につき消極的に評価されること
は是認されるものというべきである。
このように被告のなした本件勤勉手当算出につき給与関係法規の解釈に誤りが認め
られない以上争議行為参加に対する制裁措置を考える余地はないから、原告の主張
はいずれも失当である。
5 以上のとおりであるから、原告の第一次請求は理由なきに帰する。
二 第二次請求に対する判断
第二次請求における原告の主張の要旨は、勤勉手当における期間率の決定について
所属長に裁量権があることを前提としたうえ、原告に対する勤勉手当の算出の基礎
となつた期間率の決定について所属長たる神戸大学長に裁量権を逸脱した違法があ
るとして、国家賠償法一条により減額分相当の損害賠償請求をするというものであ
るが、既に説明したとおり、勤勉手当額の算出の基礎となる期間率は、規則一〇条
において基準日における勤務期間に応じて具体的に定められており、各職員の客観
的な勤務期間に応じて一義的に定められるものであるから、所属長に裁量の余地は
ないのである。従つて、期間率について、たとえ所属長の決定行為があるとしても
一種の確認行為的なものにとどまり所属長が裁量権を行使するものではないから、
原告の主張はその前提を欠き、その余の判断をするまでもなく失当である。よつ
て、原告の第二次請求も理由なきに帰する。
三 よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松野嘉貞 吉本徹也 牧 弘二)

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