弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が東京地方裁判所昭和四四年(ヨ)
第一〇一一号債権仮差押命令に基づいて別紙目録記載の債権に対してなした仮差押
執行は許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を
求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は左に掲げるほか原判決事実摘示と同一であるからこ
れを引用する。
 (控訴人の主張)
 一、 1、「確定日附ある証書を以つてする通知」(民法四六七条二項)につ
き、「それは通知または承諾がいつなされたかについて確定日附を要するとするも
のではなく、確定日附のある(債権譲渡)証書による通知がなされれば足りる」と
する原判決の見解は一般的には正当である。しかし、本件のように二個の確定日附
が同日の場合には、通知の到達の日時の先後によつて対立する債権等の優劣を決す
べきであり、しかも到達の日時はあらゆる証拠方法によつて立証を許されると解す
べきである。すると、本件においては、控訴人の債権譲渡の通知の到達(昭和四四
年二月一四日午後三時)が本件仮差押命令の送達(同日午後四時五分)に先行する
ので、債権譲渡が優先する。
 2、 仮に右主張が採用されないとしても、二個の確定日附が同日の場合は、確
定日附の附された時刻の先後により優劣を決すべきである。すると、本件債権譲渡
証書に公証人Aが確定日附を附したのは昭和四四年二月一四日午前中であるから、
それは前記仮差押命令の送達に先行する。
 3、 右主張が採用されないとしても、確定日附が同日であるときはいずれの債
権も他に対抗できないことになるにすぎない。したがつて、本件においては債権譲
渡も、仮差押命令も相互に対抗できなくなるのであり、かかる場合仮差押命令の執
行は許されないと解すべきである。
 二、 本件仮差押命令の被保全債権は被控訴人の訴外Bに対する手形債権である
が、右手形債権は成立していない(右手形にBの署名あるいは記名押印はない)。
よつて右差押命令は違法、無効である。
 (被控訴人の主張)
 一、 控訴人の主張を争う。
 二、 被控訴人は、原判決の理由付けには疑義を抱くものであり、次のように主
張する。
 原判決は「確定日附ある証書をもつてする通知」(民法四六七条二項)の意味に
ついて、大正三年一二月二二日付大審院民事連合部判決の立場を踏襲し、通知がい
つなされたかについては確定日附を要せず、債権譲渡証書に確定日附があり右証書
によつて通知がなされれば足りるとしたのである。しかし右のように解すると、通
知はいつなされてもよいことになり、結果的には意思表示(観念通知)の効力の発
生時期にかんし発信主義をとつたことになつて民法の原則である到達主義に反する
のである。この矛盾は、債権譲渡相互間の対抗問題ではまた容認しえても、本件の
ように対立する一方が仮差押命令であり、その効力の発生が第三債務者に対する送
達時とされている場合に特に著しい。したがつて被控訴人は、むしろ到達主義の原
則を尊重し右連合部判決以前の判例である「確定日附は通知について付されている
ことを要する」と解するのが正当と考える。そして、通知についての右確定日附と
しては、郵便の配達証明、執行官の送達証明、官公署の受付の日付印(最高裁判所
昭和四三年一〇月二四日判決参照)等が考えられる。これを本件についてみるに、
本件債権譲渡の通知には配達証明が付されておらず、東京都による受領を証する受
付印もないのであるから、「確定日付ある証書」による通知がないこととなるの
で、控訴人は右債権譲渡をもつて本件仮差押決定に対抗することはできない。
 証拠関係(省略)
         理    由
 一、 本件の事実関係についての当裁判所の判断は原判決理由一、二と同一であ
るからこれを引用する。当審証人Bの証言は右判断を左右するものではない。
 <要旨>二、 当裁判所は、民法四六七条二項にいう「債権譲渡ノ通知……ハ確定
日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ……対抗スルコトヲ得ス」との規定は債
権譲渡の対抗要件を「確定日附ある証書による通知」を必要とするとすることを定
めたものと解する。
 そして、そこにいう「確定日附ある証書による通知」とは、債権譲渡あるいはそ
の通知(発信又は到達)のいずれかについて確定日附があることを意味し、通知が
債務者に到達したことのみにつき確定日附を必要とするものでないと解する。たと
えば、債権譲渡証書に確定日附が附されていれば、その通知がいつなされたかにつ
き確定日附が附されていなくても、逆に通知がいつなされたかについて確定日附が
あれば、債権譲渡証書に確定日附が附されていなくても、いずれも「確定日附ある
証書による通知」となると解する(なお、前者の場合通知に右債権譲渡証書を添え
ることを要する)。けだし、「確定日附ある証書による通知」をもつて債権譲渡の
対抗要件としているのは、債権譲渡あるいはその日時を譲渡人、譲受人、債務者間
で仮装し、目附を遡らせることを防止することを主眼としているのであり、したが
つて債権譲渡のあつたことを譲渡証書そのもの、または通知書(承諾書)に確定日
付を得ることにより公的に証明することができ、その日附によつて少くともその日
以前に債権譲渡のあつたことを第三者に対し主張できるものと解するのが民法四六
七条二項の趣旨に最もよく適合するというべきである。そのためには、右のように
債権譲渡証書か、通知(発信又は到達)か、いずれか一方に確定日附を要求するこ
とをもつて足りるからである。更に、債権譲渡証書にも、通知(発信又は到達)に
も、確定日附を受けている場合にはそのいずれか日時の早いものを対抗要件として
主張できることとなると解する。
 三、 本件においては、債権譲渡証書には、公証人Aの昭和四四年二月一四日附
の印が附されており、更に内容証明郵便による右債権譲渡の通知には新宿郵便局長
の「同月同日一二時から一八時に差出し」の証明印があり(前記引用にかかる原判
決理由および前記甲第一、二号証により認められる)、これら証明印はいずれも確
定日附といえることは明らかである。
 四、 すると、本件債権譲渡と、本件仮差押命令の優劣は、右確定日附に示され
た日時と仮差押命令の効力発生の日時の先後によることになるところ、仮差押命令
が第三債務者に送達されたのは昭和四四年二月一四日午後四時五分頃であり(原判
決理由一)、前述のように債権譲渡証書に附された確定日附は「同年同月同日」附
で時刻の記載はなく、通知に附された確定日附の日時は「同年同月同日一二時より
一八時」であるから、右確定日附と仮差押命令の第三債務者への送達との対抗要件
としての先後関係は明らかにすることができないというほかない。
 控訴人は確定日附上同日であるときは、現実に通知のなされた時刻と送達時刻の
前後により、あるいは現実に確定日附のなされた時刻と送達時刻の前後により優劣
を決すべきであると主張する。しかし「確定日附ある証書による通知」は債務者以
外の第三者に対する対抗要件と解すべきであるから、確定日附に表示されている日
時のみを基準として先後を決すべきであつて、確定日附に時刻まで記載されていれ
ばこれにより、もし日附しか記載されていなければ日附によりこれを決するほかな
いのである。よつて控訴人の右主張は採用しがたい。
 以上説示のとおりであるから控訴人の本件債権譲渡をもつて本件仮差押命令の執
行債権者である被控訴人に対抗できるとの主張は採用し難い。
 五、 ところで、第三者異議訴訟に驚いて第三者が執行の排除を求めうるために
は、自ら先ず、執行の目的物にかんして執行債権者に対抗できる権利を有すること
を立証することを要すると解すべきところ、既述のように控訴人はその立証をなし
えないのであるから、控訴人の本訴請求はその余の判断をまつまでもなく失当とい
うほかない。(なお、控訴人の当審における主張二にそう証拠はない)
 六、 控訴人の当審における主張一、3について附言する。前述のように、本件
債権譲渡と本件仮差押命令とは対抗要件上先後関係は不明であり、そのため控訴人
は第三者異議の訴によつて右仮差押命令の執行を排除できないのであるが、一方被
控訴人も右仮差押命令が右債権譲渡に優先することを主張することはできないので
ある。したがつて被控訴人は、本件債権(仮差押の対象となつている債権)につき
仮差押さらには本執行をなしうるにせよ、独占的に右債権によつて自己の債権の満
足を受けることはできず結局差押の競合、配当要求のあるときに準じて配分し解決
するほかないものと解する。
 七、 よつて本件控訴を棄却し訟訴費用につき民訴法九五条八九条により主文の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 田尾桃二 裁判官 荒木大任)
 目   録
 一、金一三、〇三九、九四八円
 訴外Bが東京都下水道局長に対して有する左記物件に対する営業補償請求権、建
物移転補償請求権および敷地借地権補償請求権二〇、四四九、七二六円の内金
 記
東京都足立区ab丁目c番地、d番地e、f番地g
 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建
 一階  三六三・六六平方メートル
 二階  三二三・八三平方メートル
 専有部分の建物の表示
 家屋番号 ab丁目c番hのi
 工場事務所居宅
 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建
 一階  二九八・四四平方メートル
 二階  二七一・六三平方メートル

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