弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役八月に処する。
     但し本裁判確定の日から四年間刑の執行を猶予する。
     原審において生じた訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添附する弁護人佐藤彦一同吉住秀吉及び同安斎保共同
作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりである。
 控訴趣意第一点について。
 昭和二十八年三月十七日法律第十四号による改正前の麻薬取締法(以下旧法とい
う)第三十九条及び右改正後の同法(以下新法という)第二十七条第三項にそれぞ
れ所論の如き規定の存することは明らかであるが右各法条の規定する「施用」とは
麻薬施用者が麻薬中毒者に対し麻薬を注射する等自らこれを使用することをいい、
「施用のため交付」とは中毒者自らの使用に供する目的の下に麻薬施用者が麻薬を
交付することをいうのであり「処方せんを交付」とは麻薬施用者が麻薬そのものを
使用或は交付するのではなく、中毒者が麻薬小売業者から調剤された麻薬を買受け
るため麻薬を記載した処方せんを交付することをいうのであるから、右各所為はそ
の行為の態様において自ら別個のものであることは明瞭であるのみならず、元々麻
薬取締法が麻薬の人類社会に及ぼす害悪の甚大なるに鑑み保健衛生上の危害を防止
し、これが適正な使用を図るため特定のものに対しても厳重なる制限を付し、それ
等以外の者に対しては麻薬に関するあらゆる行為に関与することを禁ずる趣旨から
旧法第三条第一項及び新法第十二条第一項に麻薬の輸入、製造の段階から最後の消
費の段階に至るまでの諸般の行為を網羅的に挙示していること、更に旧法第三十八
条、第三十九条に規定したところを新法においては第二十七条第二、三項としてそ
の第一項に原則的規定を新設した趣旨等を考量すれば、旧法第三十九条及び新法第
二十七条第三項は麻薬中毒者に対する麻薬使用の弊害を防止するため麻薬中毒者に
これが使用を禁止すると共に特にその禁止する行為をその構成要件として規定した
ものと解するを相当とするから、所論の如く構成要件上取締の目的と法益とを全く
等しうする同価値の行為を選択的に別記したものということはできない。従つてそ
の禁止行為として掲げられた各個の行為をなしたときは構成要件を異にする別個の
行為として各<要旨>独立の犯罪を構成するものといわなければならない。しかして
原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示第一記載の如く注射して施用す
ると共にその施用の間におけるいわゆるつなぎとして中毒者自ら施用するため判示
第二記載の如く麻薬を交付したものであることを認め得るが、右は前記の如き理由
により原判示第一の所為は麻薬施用罪を、同第二の所為は施用のための麻薬交付罪
をそれぞれ構成するものといわなければならないから、右両罪を(各包括一罪と認
めた上)刑法第四十五条前段の併合罪と認めて同法第四十七条第十条を適用し併合
加重をなした原判決の措置は洵に相当であつて、所論の如き事実誤認、擬律錯誤の
違法は存しない。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 三宅富士郎 判事 河原徳治)

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