弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁大阪労働局長が原告に対して平成18年12月15日付けでした
,「」,「」,一部不開示決定のうち監督復命書の労働保険番号欄事業の名称欄
「事業場の名称」欄及び「事業場の所在地」欄,是正勧告書の控えの交付先並
びに指導票の控えの交付先を不開示とした部分を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」
という)3条に基づき,大阪労働局長に対して監督復命書,是正勧告書の控。
え及び指導票の控え等の開示請求をした原告が,大阪労働局長からその一部に
つき不開示とする旨の決定を受けたため,当該不開示とされた部分のうち,監
督復命書の労働保険番号欄事業の名称欄事業場の名称欄及び事「」,「」,「」「
業場の所在地」欄,是正勧告書の控えの交付先並びに指導票の控えの交付先に
記録された情報は不開示情報に該当しない旨主張して,上記一部不開示決定の
うち上記各部分に係る部分の取消しを求める事案である。
2前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認めることができる事実等はその旨付記しており,それ以外の事実は当
事者間に争いがない。
(1)原告は,大阪労働局長に対し,平成18年11月15日,情報公開法3
条に基づき「天満労働基準監督署が2006年5月29日及び2006年,
5月30日付けで交付している是正勧告書の控えと,指導票の控え,それに
対する是正報告書及び監督復命書の写しすべて」の開示請求(以下「本件開
示請求」という)をした(乙1)。。
(2)大阪労働局長は,本件開示請求の対象となる文書として特定した58枚
の文書(以下,これらの文書を併せて「本件対象文書」という)には情報。
公開法5条1号,同条2号イ,同条4号及び同条6号に該当する情報が含ま
れているとして,本件対象文書について,その一部を不開示とする旨の決定
(以下「本件一部不開示決定」という)をし,原告に対し,情報公開法9。
条1項に基づき,平成18年12月15日付け行政文書開示決定通知書によ
り,その旨通知した(甲1,2の1から2の3まで)。
(3)ア原告は,大阪労働局長に対し,平成18年12月25日,本件対象文
書58枚すべてについて,写しの交付の方法による開示を求める旨の申出
をした(乙2)。
イ大阪労働局長は,原告に対し,平成18年12月27日付け「行政文書
開示決定通知に係る行政文書の送付について」と題する書面とともに,本
件対象文書58枚の写しを送付した(乙3)。
(4)原告は,平成19年6月14日,本件一部不開示決定のうち,監督復命
書の「労働保険番号」欄「事業の名称」欄「事業場の名称」欄及び「事業,,
場の所在地欄是正勧告書の控えの交付先並びに指導票の控えの交付先な」,(
お,ここでいう「交付先」とは,労働基準監督官が是正勧告書及び指導票を
交付した相手方に係る事業の名称,事業場の名称並びに代表者の職及び氏名
を指す。以下,本件対象文書におけるこれらの各部分を併せて「本件各対象
」。)。部分というを不開示とした部分の取消しを求める本件訴えを提起した
(当裁判所に顕著な事実)
3争点
本件一部不開示決定のうち,本件各対象部分を不開示とした部分の適法性。
具体的には,本件対象文書において不開示とされた本件各対象部分に,情報公
開法5条2号イ,同条4号又は同条6号イに該当する情報が記録されていると
いえるか。
4当事者の主張の要旨
(原告の主張)
(1)原告は,過去にも,大阪労働局長に対して情報公開法に基づき文書の開
示請求をしたが当該開示請求に係る開示決定においては監督復命書の労,,「
働保険番号」欄「事業の名称」欄「事業場の名称」欄及び「事業場の所在,,
」,,。地欄是正勧告書の交付先並びに指導票の交付先はいずれも開示された
また,労働基準監督署が国又は地方自治体が行う事業に関して行政指導又
は是正勧告を行った場合,その事実については,開示請求を行えば開示され
る。
さらに,労働基準監督署が民間の事業者に対して行政指導又は是正勧告を
行った場合,当該事業者が自社のホームページにおいて自らその事実を公表
している事例や,新聞紙上においてその事実が報道されている事例は多数存
在する。
(2)前記(1)における開示,公表又は報道によって,本件提訴の日までに,当
該事業者等の権利,競争上の地位その他の正当な利益を害したこと,犯罪の
予防に支障を及ぼしたこと又は国の機関が行う監督指導業務の適正な遂行に
支障を及ぼしたことは,いずれもない。
したがって,何ら証拠がないまま,推測のみで,本件各対象部分に記録さ
れている情報が情報公開法5条2号イ,同条4号及び同条6号に該当すると
した本件一部不開示決定は違法である。
(被告の主張)
(1)労働基準行政は,労働者の労働条件の向上及び安全と健康の確保を図る
ことを目的としており,労働基準監督機関は,その目的を達成するため,労
働基準法(以下「労基法」という,労働安全衛生法(以下「安衛法」とい。)
う)等により,行政上及び司法上の権限を行使することとされている。労。
働基準監督機関は,労働基準関係法令に違反する事実を確認した場合には,
原則として,書面の交付により是正勧告を行い,事業主等に対してその是正
を図らせることとしているが,是正勧告等の行政指導による措置を講じたに
もかかわらず是正がされなかったり,労働基準関係法令違反の態様が重大か
つ悪質である場合等については,司法上の処理又は行政処分を行うこととし
ている。
(2)原告が開示を求める本件各対象部分には,いずれも事業場を特定するこ
とができる情報が記録されているところ,本件一部不開示決定においては,
労働基準関係法令違反の内容等については開示されており,事業場名等が併
せて開示されることになれば,当該事業場の労働基準関係法令上改善すべき
事項等の内容が公にされる。
ア情報公開法5条2号イ該当性
是正勧告及び指導は,事業場に対して任意の改善を促すという意味にお
いて,飽くまで行政指導にすぎないにもかかわらず,その事実を公にする
ことは,当該事業場にとって明らかに酷な制裁を課すことになる。行政指
導に従わない場合に,監督機関がその事実を公表することができる旨の規
定が存在しないことからすると,是正勧告等を受けた事実を公表されない
という利益は,法人等が有する正当な権利利益ということができる。
したがって,本件各対象部分には,情報公開法5条2号イに規定する不
開示情報が記録されている。
イ情報公開法5条6号イ該当性
事業主等が労働基準監督機関による臨検監督を拒むなどの行為をした場
合については罰金刑が定められているが,これは,直接的かつ物理的な強
制力を伴うものではなく,刑事罰による威嚇効果によって間接的に実効性
が担保されるにすぎないことからすれば,臨検監督において事業主等の任
意の協力は不可欠である。
そして,労働基準監督機関が適切に監督指導を実施するためには,事業
主にとって秘匿すべき内部管理に関する情報等も含めて把握する必要があ
るところ,事業場が是正勧告等を受けた場合に当該事業場を特定すること
ができる情報が公表されるとすると,当該情報が公表されることを恐れた
事業主が臨検監督において情報提供等に非協力的になり,労働基準監督機
関が事業場における実態を把握することや違法又は不当な行為を発見する
ことが困難になるおそれが認められ,ひいては,労働者の権利を速やかに
救済するという労働基準関係法令の目的を達成することが困難になる。
したがって,本件各対象部分には,情報公開法5条6号イに規定する不
開示情報が記録されている。
ウ情報公開法5条4号該当性
労働基準監督官が特別司法警察職員として職務を行うことができること
からすると,労働基準監督機関による監督指導は,司法処分と密接に関連
しているということができる。
そして,前記イと同様に,事業場が是正勧告等を受けた場合に当該事業
場を特定することができる情報が公表されるとすると,公表されることを
恐れた事業主等が臨検監督に非協力的になり,労働基準関係法令違反の事
実が隠ぺいされるなどして,犯罪の予防に悪影響を与えるおそれがある。
したがって,本件各対象部分には,情報公開法5条4号に規定する不開
示情報が記録されている。
(3)原告は,別件における開示によっても,当該事業者等の権利,競争上の
地位その他の正当な利益を害したこと,犯罪の予防に支障を及ぼしたこと又
は国の機関が行う監督指導業務の適正な遂行に支障を及ぼしたことはない旨
主張するが,情報公開法5条2号イ,同条4号及び同条6号イは,各号所定
の「おそれ」があれば足りるとしているのであるし,別件においてたまたま
弊害が生じなかったからといって,そのことから直ちに不開示事由がないと
いうことはできない。
第3争点に対する判断
1証拠(該当箇所に付記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実を
認めることができる。
(1)監督復命書とは,労働基準監督官が労基法,安衛法等に基づき,特定の
事業場等に臨検監督した際に,当該事業場等に係る措置方針について労働基
準監督署長等に報告することなどを目的として作成される文書である。監督
復命書には,当該事業場に対して交付した是正勧告書,使用停止等命令書等
,,「」,の各控えなどが添付されることがあるが監督復命書自体には完結区分
「監督種別「監督年月日「労働保険番号「監督重点対象区分「特別」,」,」,」,
監督対象区分「事業の名称「事業場の名称「事業場の所在地「署長」,」,」,」,
判決「参考事項・意見「違反法条項・指導事項等「是正期日(命令の」,」,」,
期日を含む「確認までの間「備考1「備考2「別添」等の各欄が)」,」,」,」,
ある(甲2の1,乙8から20まで)。
(2)是正勧告書とは,労働基準監督官が労働基準関係法令違反の事実を発見
した場合に,事業主等に対し,行政上の権限に基づき,法令違反事実を是正
するよう勧告するために交付する書面である。
是正勧告書には,交付先(事業の名称,事業場の名称並びに代表者の職及
び氏名,監督年月日,監督官氏名,勧告事項等(違反事項について所定期)
日までに是正の上,遅滞なく報告することを求める旨,所定期日までに是正
されない場合などには,刑事訴訟法に規定する司法警察官(司法警察員)の
職務を行い,事件を検察官に送致することがある旨等,法条項等,違反事)
項,是正期日,受領年月日,受領者職氏名等の情報が記録されている(甲。
2の2,3の2,6の3,乙22から30まで)
,,(3)指導票とは労働基準監督官が事業場に対して監督指導等を行った際に
労働基準関係法令上,改善を図らせる必要がある事項があった場合,当該事
項を改善すべき旨記載して,当該事業場に対して交付する書面である。
指導票には,交付先(事業の名称,事業場の名称並びに代表者の職及び氏
名,監督年月日,監督官氏名,指導事項,受領年月日,受領者職氏名等の)
情報が記録されている(甲2の3,3の3,6の2,乙31,32)。
2情報公開法5条6号イ該当性について
(1)情報公開法5条6号は,国の機関,地方公共団体等が行う事務又は事業
に関する情報を公にすることによって,同号イからホまでに例示されたもの
を含め,およそ当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすことが予測さ
れる場合において,当該事務又は事業の性質に照らして,当該事務又は事業
に関する情報を公にすることによる利益と支障とを比較衡量した結果,当該
事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが,公にすることの公益性
を考慮しても,なお看過し得ない程度のものであり,かつ,それが,単なる
抽象的な可能性にとどまらず,具体的なおそれであると認められるときは,
当該事務又は事業に関する情報を開示しないことができることとしたものと
解するのが相当である。
(2)ア労基法は,労働基準監督機関である労働基準主管局,都道府県労働局
及び労働基準監督署に労働基準監督官を置くとし(労基法97条,労働)
基準監督官は,事業場,寄宿舎その他の附属建設物に臨検し,帳簿及び書
類の提出を求め,又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことがで
きるとし(労基法101条1項,労働基準監督官は,労基法違反の罪に)
ついて,刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行うとし(労基法10
2条,労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が,安全及び衛生に関し定)
められた基準に反する場合においては,行政官庁は,使用者に対して,そ
の全部又は一部の使用の停止,変更その他必要な事項を命ずることができ
るとし(労基法96条の3第1項,労働基準監督官は,労基法を施行す)
るため必要があると認めるときは,使用者又は労働者に対し,必要な事項
を報告させ,又は出頭を命ずることができるとしている(労基法104条
の2第2項。)
また,安衛法は,労働基準監督官は,安衛法を施行するため必要がある
と認めるときは,事業場に立ち入り,関係者に質問し,帳簿,書類その他
の物件を検査し,若しくは作業環境測定を行い,又は検査に必要な限度に
おいて無償で製品,原材料若しくは器具を収去することができるとし(安
衛法91条1項,労働基準監督官は,安衛法の規定に違反する罪につい)
,(),て刑事訴訟法の規定による司法警察員の職務を行うとし安衛法92条
都道府県労働局長又は労働基準監督署長は,安衛法に違反する一定の事実
,,,があるときはその違反した事業者等に対し作業の全部又は一部の停止
建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止する
ため必要な事項を命ずることができるとし(安衛法98条1項,都道府)
,,県労働局長又は労働基準監督署長は労働災害発生の急迫した危険があり
かつ,緊急の必要があるときは,必要な限度において,事業者に対し,作
業の全部又は一部の一時停止,建設物等の全部又は一部の使用の一時停止
その他当該労働災害を防止するため必要な応急の措置を講ずることを命ず
ることができるとしている(安衛法99条1項。)
イこのように,労働者の労働条件の確保及び向上,労働者の安全及び健康
の確保等を目的として,労働基準監督官等には,司法上の権限及び行政上
の権限を行使することが認められているところ,弁論の全趣旨によれば,
労働基準監督官等が労基法,安衛法その他労働基準関係法令違反の事実を
確認し,その司法上の権限及び行政上の権限を行使する際には,原則とし
て,直ちに強制力を有する司法上の権限の行使又は行政処分等をするので
はなく,まず,様式化された書面を交付することにより当該違反について
強制力を有しない行政指導にとどまる是正勧告を行い,当該勧告の対象者
から改善の報告を受けて当該違反の是正確認を行うなどの方法により,労
働基準関係法令の履行確保を図ることを基本としており,そのような是正
勧告によっても是正がされなかったり,労働基準関係法令違反の態様が重
大又は悪質であって,これを放置し難いような事案については,是正勧告
にとどめることなく,最終的な権限の発動として,司法上の権限の行使又
は行政処分等をすることとしていることが認められる。
これは,労働者の労働条件の確保及び向上,労働者の安全及び健康の確
保等のためには,労働基準関係法令違反の事実により侵害された労働者の
権利を速やかに回復し,その救済を図ることが必要であることから,労働
基準監督官等としては,第1次的には,事業所等において自ら労働基準関
係法令違反の是正を図るようにさせることを優先する必要があるからであ
ると考えられる。
そして,是正勧告を受けた事業所等には司法上の権限の行使に基づく刑
事罰及び行政処分等の存在による威嚇的効果が生じているということがで
きるところ,この威嚇的効果により,当該是正勧告が効果的に機能し,労
働基準関係法令違反の事実の自主的な改善が促されているものと考えられ
る。
ウ(ア)ところで,一般に,特定の事業所等が労働基準監督官等から労働基
準関係法令違反の事実の指摘を受け,是正勧告を受けたという事実が公
表されると,当該事業所等の信用の低下を招き,更には当該事業所等が
各種の取引活動において不利な扱いを受けるなど,その競争上の地位に
不利益な影響を及ぼすことがあり得ることから,多くの事業所等として
はその公表を積極的には望まないものと考えられるところ,労働基準監
,,督官等が事業所等に対して是正勧告をした場合に労基法又は安衛法上
当該是正勧告の事実及びその内容を公表する旨の規定は見当たらず,ま
た,弁論の全趣旨によれば,実際の運用においても,是正勧告の多くは
原則として公表されていないものと認められる。
(イ)そして,前記イにおいて述べたとおり,労働基準監督官等が労働基
準関係法令違反の事実を発見した際には,原則として,まず是正勧告を
行い,それでもなお違反が改善されない場合等に限り,司法上の権限の
行使又は行政処分等をするという運用がされていることを前提とする
と,事業所等としては,労働基準監督官等による臨検監督によって違反
,,事実が発見されたとしても当該違反事実に対する是正勧告に従う限り
強制力を有する司法上の権限の行使又は行政処分等を受けることはな
く,また,当該事業所等にとって不利益な事実である是正勧告を受けた
事実及びその内容が公表されることもないものと期待していると考えら
れる。また,事業所等としては,そのような不利益を被ることはないと
の期待を有しているからこそ,特段の抵抗感を抱くことなく,労働基準
監督官等による臨検監督に任意に応じるという協力的な態度を取ってい
るものと考えられる。
労働基準監督官等の臨検を拒み,妨げ,若しくは忌避し,その尋問に
対して陳述をせず,若しくは虚偽の陳述をし,帳簿書類の提出をせず,
又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者は30万円以下の罰金に
(),処する労基法120条4号などの罰則規定は設けられているものの
前述のとおり,労働基準監督行政において刑事罰に向けた司法上の権限
の行使は補充的なものとされていることや,このような規定は,刑事罰
による威嚇的効果により臨検監督の実効性を間接的に担保するものにす
ぎず,直接的又は物理的な強制力を伴うものではないことからすると,
労働基準監督官等による臨検監督において,事業所等における実態を正
確に把握し,労働基準関係法令違反の事実を迅速に発見して適切な処置
を講ずるためには,事業所等の任意の協力は不可欠なものであるという
ことができる。
そうであるとすると,事業所等が是正勧告を受けた事実及びその内容
が公開されることとなると,当該事業所等にとって競争上不利益な事実
が公開されることをおそれた事業所等が,労働基準監督官等に違反事実
が発覚して是正勧告を受けることを避けるために,労働基準監督官等に
よる臨検監督に対して非協力的になったり,臨検監督に当たって資料を
隠ぺいするなどのおそれがあるということができる。そして,そのよう
に事業所等から任意の協力を得られないこととなると,労働基準監督官
等が事業所等における実態を正確に把握することや労働基準関係法令違
反の事実を迅速に発見して適切な処置を講ずることが困難になるおそれ
があり,ひいては,労働者の権利を速やかに回復し,その救済を図るこ
とが困難になるおそれがあるということができる。
エ前記認定事実のとおり,監督復命書,是正勧告書及び指導票には,是正
勧告の対象とされた事業所等を特定することができる情報とともに,当該
事業所等に係る違反法条項,指導事項等が記載されているところ,本件に
おいては,違反法条項,指導事項等は開示されているのであるから,更に
その内容によって当該事業所等を特定することができる本件各対象部分を
開示すると,いかなる事業所等がいかなる違反事実によっていかなる指導
を受けたのかが明らかとなる。そうすると,事業所等が是正勧告を受けた
事実及びその内容を公開した場合と同様の事態に陥るものということがで
きる。
(3)したがって,本件各対象部分に記録された情報の内容を開示すると,検
査及び取締りに係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は
違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ
があるということができる。そして,当該おそれは,上記内容を公にするこ
との公益性を考慮しても,なお看過し得ない程度のものであり,かつ,単な
る抽象的な可能性にとどまらず,具体的なおそれであると認められるという
べきであるから,本件一部不開示決定のうち,本件各対象部分に記録された
情報が情報公開法5条6号イに該当し,不開示情報に当たるとした部分は適
法である。
3情報公開法5条4号該当性について
(1)情報公開法5条4号は,公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜
査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす
おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報を不
開示情報としているところ,これは,上記のような公共の安全等に関する情
報については,開示又は不開示の判断に専門的かつ技術的判断を要するなど
の特殊性があることから,行政機関の長の第1次的な判断を尊重する趣旨で
あると解される。したがって,同号に該当するとしてされた不開示処分が違
法となるのは,当該処分が行政機関の長に認められた裁量権を逸脱し,又は
濫用した場合に限られるというべきである。
(2)前記2ウ(イ)のとおり,事業所等が是正勧告を受けた事実及びその内容
が公開されるとすると,公開をおそれた事業所等が,労働基準監督官等に違
反事実が発覚して是正勧告を受けることを避けるために,臨検監督に対して
非協力的になったり,臨検監督に当たって資料を隠ぺいするなどのおそれが
あるということができる。そして,そのように事業所等から任意の協力を得
られないこととなると,労働基準監督官等が事業所等における実態を正確に
把握することや労働基準関係法令違反の事実を迅速に発見して適切な処置を
講ずることが困難になるおそれがあるということができる。そうすると,労
働基準監督官等による是正勧告により労働基準関係法令違反の是正が図られ
ないこととなるため,是正勧告の事実を公開すると,犯罪の予防,鎮圧その
他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるというべきであ
る。
(3)そして,本件各対象部分を開示すると,いかなる事業所等がいかなる違
反事実によっていかなる指導を受けたのかが明らかとなるから,事業所等が
是正勧告を受けた事実及びその内容を公開した場合と同様の事態に陥るもの
ということができることは,前記2(2)エに述べたとおりである。
(4)したがって,大阪労働局長が本件各対象部分に記録された情報の内容を
開示すると,犯罪の予防,鎮圧その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及
ぼすおそれがあると判断したことにつき,裁量権の逸脱又は濫用があったと
いうことはできないから,本件一部不開示決定のうち,本件各対象部分に記
録された情報が情報公開法5条4号に該当し,不開示情報に当たるとした部
分は適法である。
,「」,「」,4原告は別件において監督復命書の労働保険番号欄事業の名称欄
「事業場の名称」欄及び「事業場の所在地」欄,是正勧告書の交付先並びに指
導票の交付先に記録された情報の開示を受けたが,上記情報が開示されたこと
によって,犯罪の予防等及び国の機関が行う事務の適正な遂行に支障を及ぼし
たことはないから,上記情報は不開示情報に当たらない旨主張する。
しかしながら,別件における上記情報の開示が犯罪の予防等及び国の機関が
行う事務の適正な遂行に支障を及ぼしていないということができるかどうかは
さておき,仮に,別件における開示によっても実際には支障が生じなかったと
しても,既に検討したところによれば,上記各部分に記録された情報の開示に
よって犯罪の予防等及び国の機関が行う事務の適正な遂行等に支障を及ぼすお
それがあるということができるから,原告の上記主張は失当である。
また,前述のとおり,一般には,多くの事業所等は是正勧告を受けた事実及
びその内容が公表されることを積極的には望まないと考えられるのであるか
ら,仮に,是正勧告を受けた事実等について,企業が自主的に公表している事
例及び新聞等で報道されている事例が存在するとしても,上記の判断を左右す
るものではない。
第4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない
,,,,からこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条
民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官松下貴彦
裁判官島田尚人

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