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平成22年9月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第25956号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年6月17日
判決
東京都渋谷区<以下略>
原告素数株式会社
訴訟代理人弁護士綱取孝治
同高井信也
訴訟代理人弁理士旦武尚
奈良市<以下略>
被告有限会社せいらく
訴訟代理人弁護士澤由美
訴訟代理人弁理士井内龍二
主文
1被告は,別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し,引き渡し,又は譲渡若し
くは引渡しのために展示してはならない。
2被告は,原告に対し,183万6180円及びこれに対する平成20年9
月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の負担とし,その余は原告の負
担とする。
5この判決の第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項と同旨
2被告は,原告に対し,3996万円及びこれに対する平成20年9月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,別紙原告商品目録記載の角質除去具(以下「原告商品」とい
う。)を販売する原告が,別紙被告商品目録記載の角質除去具(以下「被告
商品」という。)を販売する被告に対し,被告商品の形態は原告の商品等表
示として周知な原告商品の形態と類似し,被告商品の販売は原告商品との混
同を生じさせるものであり,また,被告商品は原告商品の形態を模倣した商
品であるから,被告による被告商品の販売は,不正競争防止法(以下「不競
法」という。)2条1項1号又は3号の不正競争行為に当たる旨主張して,
不競法3条1項に基づき,被告商品の譲渡等の差止めを求めるとともに,同
法4条に基づき,損害賠償を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告は,美容機器及び美容用品,医療機器及び医療用具,健康機械器
具の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,ギフト用品(文房具,家電製品,タオル),スポーツ用品,
衣料品,喫煙具,車両用部品,時計,家庭用品雑貨の販売及び輸出入等
を目的とする特例有限会社である。
(2)原告商品
ア原告は,平成18年9月26日から,原告商品(商品名・「SCRA
TCH」)を販売している(甲5,34,35,39の1,40の1)。
イ原告商品は,別紙原告商品目録記載の写真及び別紙原告商品図面記載
の各図面のとおりの形態を有する。
すなわち,原告商品(検甲1,2)は,直径約4ミリメートル,長さ
約7.5センチメートルのステンレス製でシルバー色の円筒管(以下「
原告円筒管」という。)と,その内部に原告円筒管の内周径とほぼ同じ
直径で,長さが原告円筒管より約1.5センチメートル長い樹脂製で黒
色の付属スティック(以下「原告スティック」という。)とが組み合わ
されており,原告円筒管の両端は,それぞれ開口して,その各先端部分
の円周に沿って断面略三角形の刃が設けられている。
原告商品は,原告円筒管を持って刃の部分を皮膚に対して垂直に当て
て擦ることにより足や手の角質を削り取って除去し,原告円筒管に溜ま
った角質は原告スティックを挿入することにより押し出して除去すると
いう方法で使用される。
(3)被告商品
ア被告は,平成19年11月26日から,被告商品(商品名・「夢見る
かかとちゃん」)を販売している。
イ被告商品は,別紙被告商品目録記載の写真及び及び別紙被告商品図面
記載の各図面のとおりの形態を有する。
すなわち,被告商品(検甲3)は,直径約5ミリメートル,長さ約7
センチメートルのステンレス製でシルバー色の円筒管(以下「被告円筒
管」という。)と,その内部に被告円筒管の内周径とほぼ同じ直径で,
長さが被告円筒管より約1センチメートル長い樹脂製で白色の付属ステ
ィック(以下「被告スティック」という。)とが組み合わされており,
被告円筒管の両端は,それぞれ開口して,その各先端部分の円周に沿っ
て断面略三角形の刃が設けられている。
被告商品は,被告円筒管を持って刃の部分を皮膚に対して垂直に当て
て擦ることにより足や手の角質を削り取って除去し,被告円筒管に溜ま
った角質は被告スティックを挿入することにより押し出して除去すると
いう方法で使用される。
2争点
本件の争点は,次のとおりである。
(1)不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)
ア原告商品の形態が原告の周知の商品等表示といえるか(争点1−1)。
イ被告商品の形態が原告商品の形態に類似するか(争点1−2)。
ウ被告商品の販売は原告商品との混同を生じさせる行為に当たるか(争
点1−3)。
(2)不競法2条1項3号の不正競争行為の成否(争点2)
ア原告商品の形態を模倣した商品に関する不競法2条1項3号の不正競
争行為について,原告が差止請求及び損害賠償請求の請求主体となり得
るか(争点2−1)。
イ被告商品は原告商品の形態を模倣したものか(争点2−2)。
ウ原告商品の形態は,不競法2条1項3号の「商品の形態」から除かれ
る「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」(同号括弧書き)
に該当するか(争点2−3)。
エ被告商品の販売について,不競法19条1項5号イの適用除外(「日本
国内において最初に販売された日から起算して3年を経過」)が認めら
れるか(争点2−4)。
(3)原告の損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)
(1)争点1−1(原告商品の形態の周知商品等表示該当性)について
ア原告の主張
商品の形態が,①同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し(特別顕
著性),かつ,②長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間
でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には(周知性),当該
形態が当該商品の技術的機能に由来する必然的,不可避的なものでない
限り,周知の「商品等表示」(不競法2条1項1号)に該当するという
べきである。
原告商品の形態は,次のとおり,上記要件を満たすから,原告の周知
の商品等表示に該当する。
(ア)特別顕著性
a特別顕著性の有無は,従前類似・同一の形態の商品が商品化さ
れ,市場に流通していたか否かという観点を中心に当該商品の形態
の新規性・独自性の有無から判断すべきである。
原告商品が販売される以前に存在した角質除去具の形態として
は,ヘアブラシ様のもの,靴べら様のもの,野菜の皮むき器に類似
する形態のものなどがあった。
これに対し原告商品の形態は,①ステンレス製のシルバー色で鉛
筆やペンよりも細長い小径の円筒管を基調とする点,②円筒管の両
端部を開口として先端部分の円周に沿って角質除去用の刃を有する
点,③円筒管に溜まった角質を押し出して除去するための樹脂製ス
ティックが円筒管内に挿入されている点,④スティックの一部が円
筒管の一端からはみ出して見える点などの特徴が見られ,これらの
特徴から全体としてシャープでコンパクトな印象を受けるものとい
える。
このような原告商品の形態は,従前の角質除去具と識別し得る際
立った新規性と特異性を有するというべきである。
そして,角質除去具のような美容雑貨がヒットする要因として
は,その機能が優れていることのみならず,そのデザインも含めた
形態が美しく,かつ,新規であることが考えられ,原告商品が後記
のとおりヒット商品として定着したのは,需要者から原告商品の形
態の美しさや新規性が評価されたからである。このことは,多くの
雑誌やテレビ番組などにおいても,「コンパクトな円筒形」,「付
属のスティックで角質を押し出す」などのように,原告商品の形態
上の特徴について言及されていることからも裏付けられる。
したがって,原告商品の形態は,従前の角質除去具にはなかった
形態上の特徴を有しており,特別顕著性を有するものであることが
明らかである。
b被告は,後記のとおり,原告が原告商品を販売するよりも先に,
STTTechInc.(以下「STT社」という。)によってイ
ンターネット販売されていた「SCRAPEIT」は,原告商品と
全く同一の商品形態を有しているから,一般需要者において,商品
形態から原告商品と「SCRAPEIT」を峻別することはできな
い旨主張する。
しかし,原告は,米国法人であるSTT社が米国国内で販売して
いた「SCRAPEIT」を,「SCRATCH」の商品名で日本
国内で独占販売したものであるから,「SCRAPEIT」と原告
商品の商品形態が同一であるのは当然であり,そのことが原告商品
の識別性を妨げる理由とはならない。STT社がインターネットに
よる「SCRAPEIT」の販売を開始したのは,原告が原告商品
の販売を開始した平成18年9月26日以降のことである。このこ
とは,STT社のホームページ(乙2)に「Ⓒ2006STTT
echInc.Allrightsreserved.」と記載
されており,STT社が上記ホームページを立ち上げたのが200
6年(平成18年)であることからも裏付けられる。上記ホームペ
ージ中に「SCRAPEIT」の購入者による2003年(平成1
5年)12月26日付けの感想コメントが掲載されているが,当該
コメントから,当該購入者がインターネットにより「SCRAPE
IT」を購入したことが明らかとなるものではない。
また,STT社のホームページ(乙1,2)は,英語のみで表記
されており,日本人の購入者向けの措置は施されていないから,S
TT社は,インターネット販売の主な仕向地として日本を予定して
おらず,日本国内において販売しているとはいえない。
さらに,原告が原告商品の販売を開始する前に,原告商品と同一
の商品形態を有する商品が日本国内において販売されていた事実は
存しない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
(イ)周知性
a原告商品は,以下に述べるとおり,平成18年9月26日の販売
開始以来,日本全国の各種販売店で販売され,インターネットや通
信販売でも販売されてきた結果,販売開始後短期間で消費者の注目
を集めるところとなり,マスメディア(テレビ,雑誌等)でも取り
上げられることとなって,平成19年のヒット商品となった。
(a)販売数
原告商品は,平成18年9月26日の販売当初よりヒット商品
として多数販売されてきたが,平成19年2月ないし3月ころか
ら,その販売数が飛躍的に増加し,月ごとの販売数は,平成19
年5月が約12万8000本,同年6月が約11万7000本,
同年7月が約12万2000本,同年8月が約12万1000本
と,同年5月から8月までは毎月10万本を超え,破格の売上げ
を記録した。その後は,月ごとの販売数が10万本を超えること
はなかったものの,堅調な販売数を維持し,総販売数は,平成1
9年7月に50万本を超えて以降,同年10月には80万本,平
成20年1月には100万本を突破し,平成21年7月末日時点
で約134万本に達している。
原告商品のような美容雑貨は,通常,月300から500個程
度の販売数のものが多数であり,売れ筋商品とされるものでも月
1000個程度(年間1万個程度)の販売数が通常である。美容
雑貨の中でも,特にフットケア商品は,一般的に他の美容雑貨よ
りも市場が限定され,販売数は少ないものといえるが,原告商品
は,フットケア商品でありながら,上記のとおりの販売数を記録
したのであって,この種の商品として極めて大きなヒットを記録
したものといえる。
(b)テレビ放送
原告商品は,次のとおり,テレビ放送の中で紹介されている。
全国ネット局においては,株式会社フジテレビジョン(以下「
フジテレビ」という。)の「めざましテレビ」で発売開始間もな
い平成18年11月と平成19年5月に紹介されたほか,株式会
社東京放送(以下「TBS」という。)の「はなまるマーケッ
ト」で平成19年7月に,「世界バリバリバリュー」で同年11
月に,「がっちりマンデー」で同年12月にそれぞれ紹介され
た。また,日本テレビ放送網株式会社(以下「日テレ」とい
う。)の情報番組でも平成19年2月から11月まで合計33回
にわたって紹介された。
さらに,地方局においても,株式会社テレビ西日本,関西テレ
ビ放送株式会社,札幌テレビ放送株式会社等の番組において,平
成18年11月から平成20年2月まで合計7回にわたって紹介
された。
そのほかに,CS放送等のテレビショッピングの専門チャンネ
ルである「ショップチャンネル」においても,平成19年1月か
ら平成20年4月まで多数回にわたり紹介されている。
(c)新聞,雑誌等への掲載
原告商品は,平成18年10月から平成19年11月26日ま
でに54回,それ以降平成20年4月までに20回と,多数回に
わたって新聞,雑誌等に写真付きで掲載されている。
その中でも,原告商品は,「日経TRENDY12月号」(甲
27の51)において,2007年(平成19年)のヒット商品
ベスト30のうちの一つとして掲載されている。
(d)インターネットへの掲載
原告商品は,インターネットの各種ホームページ等でも写真付
きで掲載されている。
すなわち,日経トレンディのホームページで2007年(平成
19年)のヒット商品として掲載されたほか,日経WagaMa
gaのホームページでも掲載された。
また,原告商品は,原告自身のホームページのほか,楽天市場
等でインターネットショップを営む各店舗のホームページにおい
て,写真付きで掲載されて販売されている。
さらに,複数の芸能人や著名人のブログにおいても,原告商品
が写真付きで紹介されている。
(e)店頭での販売
原告商品の各店舗での販売状況を示した写真(甲41の1ない
し41の50)によれば,原告商品については,各店舗での商品
陳列,ディスプレイの仕方自体によって,店頭販売用説明映像(
甲42)と相まって,宣伝効果を上げていることが認められる。
また,原告商品は,流行に敏感な需要者を多数集客する東急ハ
ンズ,ロフト,キディランド等のいわゆるセレクトショップでも
販売されているが,これらのセレクトショップの取扱商品は,売
れ行きが落ちれば短期間で店頭から姿を消すところ,原告商品
は,販売開始から現在まで,これらのセレクトショップにおける
販売を継続している。
(f)その他
原告は,毎年2回,2月と9月に行われる東京インターナショ
ナルギフトショーにおいて,平成18年9月から平成20年2月
まで合計4回にわたって,原告商品を出品している。
b以上を総合すれば,原告商品は,遅くとも,原告商品の月ごとの
販売数が10万本を超え続けていたピーク時(平成19年5月から
8月までの4か月間)の中間点を経過した平成19年7月初めころ
には,その需要者である女性を中心とした一般消費者の間で広く認
識され,その結果,原告商品の前記(ア)aのような特徴的形態は,
原告の商品であることを示す「商品等表示」(不競法2条1項1
号)として周知となり,その状況は,現在に至るまで継続している
ものといえる。
イ被告の反論
(ア)原告商品の形態は,他の同種商品と一瞬にして一般需要者が識別
できるほどの特徴的商品形態を何ら有していない。原告商品の形態は
円筒形状の金属製のパイプ状のものとしか一般需要者には写らない。
しかも,原告が原告商品を販売するよりも先に,STT社によって
インターネット販売されていた「SCRAPEIT」は,原告商品と
全く同一の商品形態を有しており,一般需要者が,商品形態から原告
商品と「SCRAPEIT」を峻別することはできない。「SCRA
PEIT」が原告商品の販売開始前にインターネット販売されていた
ことは,STT社のホームページに「SCRAPEIT」の販売広告
が掲載されていること(乙1),同ホームページ中に「SCRAPE
IT」の購入者による2003年(平成15年)12月26日付けの
感想コメントが掲載されていること(乙2)から明らかであり,ま
た,インターネットによる販売は,通常は世界同時の販売とみなすこ
とができ,「SCRAPEIT」の上記インターネット販売が日本国
内への販売のみを特に避けて行っていたとする事情も見当たらないか
ら,「SCRAPEIT」は,日本国内においても販売されていたと
いうべきである。なお,米国製品は英語で広告され,日本語による翻
訳文が付されないのが通常であり,STT社のホームページが英語表
記であることは,上記事情に当たらない。
さらに,原告商品が販売されるかなり以前から,円筒形状の金属製
のパイプの端部に刃物部分が形成された商品は数多く出回っており(
乙4ないし10,22ないし25,検乙2ないし5),原告商品の商
品形態には新規性は存せず,これらの商品と原告商品との峻別も一般
需要者に期待することはできない。
原告商品の形態自体が商品等表示に該当するということは,原告商
品を手に取ってその形態を見た需要者が,それを原告商品であると認
識することを意味するが,上記の状況からすれば,かかる認識が需要
者に生ずる余地はない。
(イ)また,原告商品は厳重にパッケージングされており,商品本体だ
けでバラ売りされていた事実は確認されておらず,通常,需要者が原
告商品の形態を認識しにくい状態で販売されている。
そして,原告商品は,長年大量にテレビコマーシャル等で宣伝広告
が行われてきた商品ではなく,一般需要者が原告商品の形態を直接的
に目にする機会はほとんどなかったというべきであるから,原告商品
の形態自体が商品等表示としての機能を獲得しているとされる余地は
ない。
(ウ)以上のとおり,原告商品の形態自体が,不競法2条1項1号の「
商品等表示」に該当しないことは明らかである。
(2)争点1−2(商品形態の類似性)について
ア原告の主張
原告商品と被告商品の各形態を比較すると,前記(1)ア(ア)a①ないし
④の各点において形態が一致し,両者の全体的な形状やバランスも外観
上一致することが分かる。
また,このように全体的な形状やバランスが外観上一致することか
ら,原告商品と被告商品の各形態から受ける印象,すなわち全体として
シャープでコンパクトな印象を受ける点においても共通するものといえ
る。
加えて,原告商品の形態が他の角質除去具と識別し得る際だった新規
性と特異性を有することからすれば,角質除去具を使用してきた一般需
要者からみても,原告商品と被告商品とがその形態において同一との認
識を持つことは確実といえる。
したがって,被告商品の形態が原告商品の形態に類似することは明ら
かである。
イ被告の主張
原告商品と被告商品の各形態を比較すると,被告円筒管は,原告円筒
管に比べ,太くて短い上に,ステンレス部分の厚み,刃先の角度,刃先
の有効長においても異なっており(乙11),また,被告スティックと
原告スティックを比べると,被告スティックの方が短い上に,その色
も,原告スティックが黒色なのに対し,被告スティックは白色である点
で異なっている。
このように原告商品の形態と被告商品の形態は,大きく異なっている
から,被告商品の形態は原告商品の形態に類似していない。
(3)争点1−3(混同のおそれの有無)について
ア原告の主張
前記(1)ア及び(2)アで述べたとおり,被告商品の形態が,原告の商品
等表示として周知な原告商品の形態とほとんど同一と言ってよいほど共
通することからすると,被告による被告商品の販売は,取引者又は需要
者において,原告商品との混同を生じるさせる行為に当たることは明ら
かである。
したがって,被告による被告商品の販売は,不競法2条1項1号の不
正競争行為に該当する。
イ被告の反論
原告の主張は争う。
2不競法2条1項3号の不正競争行為の成否(争点2)
(1)争点2−1(請求主体としての適格性)について
ア原告の主張
原告は,以下のとおり,米国で製造され,日本に輸入された原告商品
の日本国内における独占的販売権者であるから,原告商品の形態を模倣
した商品の販売に関し,不競法2条1項3号の不正競争行為に対する差
止請求(同法3条1項)及び損害賠償請求(同法4条)の主体となる。
(ア)原告商品は,米国フロリダ州所在のSTT社の代表者であるA(以
下「A」という。)が考案し,STT社が米国において「SCRAP
EIT」の商品名で製造,販売を開始した商品を,アイ・ネクストジ
ーイー株式会社(以下「アイネクスト社」という。)が,同商品に関
するSTT社の米国以外の地域における総代理店であるE.N.P.Co
.(以下「ENP社」という。)を通じて日本に輸入し,それらを原告
がアイネクスト社から購入して,「SCRATCH」の商品名で日本
国内で販売しているものである。
STT社,ENP社及びアイネクスト社は,原告商品につき,ST
T社が製造して同社が米国国内での独占的販売権を有し,ENP社が
米国及び日本を除く地域における販売権と日本向けの輸出権を有し,
アイネクスト社がENP社からの輸入権と日本国内での独占的販売権
を有する旨の合意(以下「三社間合意」という。)をした。
また,アイネクスト社と原告は,アイネクスト社がENP社を通じ
てSTT社から購入する上記商品について,アイネクスト社は,原告
の登録商標である「SCRATCH」の商標付きでSTT社に製造さ
せた上で原告に供給すること(この製造に係る商品が原告商品であ
る。),原告は,買受価格を1本当たり800円とし,年間最低12
万本をアイネクスト社から購入すること,原告が日本国内での独占的
販売権を有することなどを合意(以下「二社間合意」という。)し
た。
以上の各合意は,平成18年9月ころ,口頭で成立したが,平成1
9年7月1日に二社間合意についての契約書(甲4。以下「甲4の契
約書」という。)が,同月下旬ころに三社間合意についての契約書(
甲48。以下「甲48の契約書」という。)がそれぞれ作成された。
したがって,原告は,原告商品の日本国内における独占的販売権者
である。
(イ)また,ある商品の独占的販売権者は,独占権を得るために,その
商品を商品化した先行者に相応の対価を支払っているのが常であり,
先行者は商品化のための資金,労力を,商品の独占の対価の形で回収
していることになるから,独占的販売権者を不競法2条1項3号によ
って保護される主体とし,その者に商品形態の独占を維持させること
は,商品化するための資金,労力を投下した成果を保護するという点
において,同号の立法趣旨に適合するものである。
原告は,アイネクスト社から,原告商品を1本当たり800円で買
い受けているが,原告商品の実際の製造単価は1本当たり180円程
度であり,その差額である620円は,実質的には原告がSTT社ら
先行者に対して支払う独占的販売権の対価としての意味を有してい
る。そして,原告は,平成18年9月ころの時点において,年間12
万本以上の購入を約しているから,年間7440万円以上の上記対価
の支払を約したということができる上,実際に,平成21年7月末日
時点までに,原告商品を134万本以上販売したから,総額8億30
80万円以上の上記対価を支払ったことになる。
このように独占権を得るために商品化した先行者に8億円以上の対
価を支払った原告を不競法2条1項3号によって保護される主体と扱
って,原告に原告商品の商品形態の独占を維持させることは,商品化
するための資金,労力を投下した成果を保護するという点において,
同号の立法趣旨にも適合するというべきである。
イ被告の主張
(ア)不競法2条1項3号が,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡
等を不正競争行為とした趣旨は,他人が資金・労力を投下して開発・
商品化した商品の形態につき,他に選択肢があるにもかかわらず殊更
これを模倣し,自らの商品として市場に置くことを競争上不正な行為
として位置付けることにより,先行者の開発利益を模倣者から保護す
ることにある。このような法の趣旨にかんがみれば,不競法2条1項
3号の不正競争行為に対する差止請求及び損害賠償請求の請求主体と
なる者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場
に置いた先行開発者であると解すべきである(東京地裁平成11年1
月28日判決,東京地裁平成18年4月26日判決参照)。
これに対し,形態模倣の対象とされた商品の独占的販売権者につい
て上記各請求の請求主体となることを認めた裁判例(大阪地裁平成1
8年3月30日判決等)もあるが,上記のような法の趣旨からすれ
ば,不競法2条1項3号に係る請求主体は商品を自ら開発・商品化し
た者に限るとするのが論理的な帰結であるし,開発者との契約に基づ
いて生じる独占的販売権者の地位がなにゆえ第三者との関係でも不競
法上の差止請求権及び損害賠償請求権によって保護されるべき固有の
地位となるのかが不明である。
したがって,「独占的」であったとしても,開発者ではない一販売
者には,上記各請求の請求主体性は認められないと解すべきであるか
ら,原告が原告商品の日本国内における独占的販売権者であることを
根拠として,原告商品の形態を模倣した商品の販売に関し,不競法2
条1項3号の不正競争行為に対する差止請求及び損害賠償請求の請求
主体となるとする原告の主張は理由がない。
(イ)また,そもそも,本件においては,原告が原告商品の独占的販売
権者であるとの事実を認めることができない。
すなわち,原告が,原告商品の日本国内における独占的販売権を有
することの根拠として提出する契約書は,三社間合意に係る甲48の
契約書と二社間合意に係る甲4の契約書のみであり,STT社と原告
との間で直接に独占的販売契約が締結されているという事実はない。
そして,甲4の契約書では,「甲(アイネクスト社)は,乙(原
告)に対し,日本における「たことり」の独占販売を許諾する。」(
1条2項)とあり,原告がアイネクスト社から「たことり」(「SC
RAPEIT」)の日本国内における独占的販売権を付与されたもの
とされているが,他方,甲48の契約書では,「この契約は代理店(
アイネクスト社)によって譲渡できないものとし,又,代理店は,事
前にSTTの文書による同意なしで,この契約で生ずる義務を委任,
又は下請に出したりできないものとする。」(21条)とあり,アイ
ネクスト社がSTT社から与えられた上記独占的販売権を他者に付与
できるものとはされていない。また,他にSTT社が原告に独占的販
売権を認める旨の契約書や同意書等は存在せず,原告主張の口頭によ
る合意の事実もないから,原告が商品開発者であるSTT社から原告
商品についての日本国内における独占的販売権を付与されたとの事実
を認めることはできないというべきである。
したがって,仮に,独占的販売権者にも不競法2条1項3号に係る
請求主体性が認められるとの見解に立ったとしても,原告は,原告商
品の形態を模倣した商品の販売に関し,不競法2条1項3号の不正競
争行為に対する差止請求及び損害賠償請求の請求主体とはならない。
(2)争点2−2(模倣の有無)について
ア原告の主張
(ア)商品形態の実質的同一性
前記1(2)アで述べたところからすれば,原告商品の形態と被告商品
の形態とが実質的に同一であることは明らかである。
(イ)依拠性
原告商品の形態は,他の角質除去具と識別し得る際だった新規性と
特異性を有すること,かかる新規性と特異性を有する原告商品の形態
と被告商品の形態とに高度の同一性が認められること,被告商品の販
売が,原告商品の販売開始(平成18年9月26日)から約1年2か
月後(平成19年11月26日)に開始されていること,原告製品が
短期間に強力に宣伝・販売されたこと,原告の同業者である被告が,
ヒット商品となった原告商品を知らなかったはずはないことなどから
すると,被告商品が原告商品の形態に依拠して作り出されたことは明
らかである。
(ウ)したがって,被告商品は,原告商品の形態を模倣(不競法2条5
項)した商品といえるから,被告による被告商品の販売は,不競法2
条1項3号の不正競争行為に該当する。
イ被告の主張
(ア)商品形態の実質的同一性の主張に対し
前記1(2)イで述べたとおり,原告商品の形態と被告商品の形態は,
大きく異なっているから,実質的に同一であるとはいえない。
(イ)依拠性の主張に対し
被告は,平成18年春ころ,被告商品のおおまかな形態の着想を独
自に得て,その後,材質の選定,試作品の製作などの試行錯誤を繰り
返し,平成19年11月26日にようやく被告商品の販売を開始する
に至ったものである。被告が上記の着想を得た平成18年春ころに
は,いまだ原告商品は販売されておらず,被告商品の開発の仕上げの
段階で,ようやく原告商品を市場で見かけるようになったにすぎな
い。
しかも,原告が主に美容,健康,ダイエット関連の商品を扱ってい
るのに対し,被告は主に玩具,バラエティー雑貨を扱っており,原告
と被告とでは,扱う商品の種類が異なり,市場が競合することはない
ため,被告が原告商品を意識する機会はなかった。
以上のとおり,被告が原告商品の形態に依拠して被告商品を開発し
た事実はない。
(ウ)したがって,被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品とはい
えない。
(3)争点2−3(不競法2条1項3号括弧書き該当性)について
ア被告の主張
原告商品は,極めて単純な「当該商品の機能を確保するために不可欠
な形態」(不競法2条1項3号括弧書き)のみからなるものである。
すなわち,原告商品は,角質を除去するための刃先部分,手で把持す
るための円筒形状部分のみしか構成要素として備えておらず,これら
は,いずれも角質を除去するという原告商品の機能を確保するために不
可欠な形態であるから,原告商品の形態は,不競法2条1項3号によっ
て保護される「商品の形態」に該当しない。
イ原告の主張
原告商品の形態は,それまでの角質除去具には見られない新規なもの
であるから,角質除去具としての機能を確保するために不可欠なもので
ないことは明らかである。
(4)争点2−4(不競法19条1項5号イの適用除外の有無)について
ア被告の主張
前記1(1)イ(ア)で述べたように,STT社が,遅くとも2003年(
平成15年)12月26日に,「SCRAPEIT」のインターネット
による販売を開始したことによって,原告商品についての日本国内にお
ける販売が開始されたものである。
したがって,被告が被告商品の販売を開始した平成19年11月26
日の時点において,原告商品は日本国内において最初に販売された日か
ら起算して既に3年を経過した商品であったから,仮に被告商品が原告
商品の形態を模倣したものであったとしても,被告による被告商品の販
売は,不競法19条1項5号イの適用除外行為に該当し,同法3条1項
に基づく差止請求及び同法4条に基づく損害賠償請求は認められない。
イ原告の主張
STT社は,平成18年1月までの時点では,米国国内でのみ「SC
RAPEIT」を販売し,その販売数量は累計1000本程度にすぎな
かった。
前記1(1)ア(ア)bで述べたとおり,STT社がインターネットによ
る「SCRAPEIT」の販売を開始したのは,原告が原告商品の販売
を開始した平成18年9月26日以降のことである。
また,不競法19条1項5号イは,同法2条1項3号による商品形態
の保護期間の起算点を日本国内における販売開始日と定めるところ,イ
ンターネットを通じた通信販売が「日本国内における販売」に当たるか
否かについては,仕向地が日本国内であることや広告が日本語でされて
いることなどを勘案して,実質的に日本国内市場に向けた販売といえる
か否かによって判断するというのが立法者意思と解される。
しかるところ,前記1(1)ア(ア)bで述べたとおり,STT社は,「S
CRAPEIT」のインターネット販売の主な仕向地として日本を予定
していないから,上記インターネット販売をもって,「日本国内におけ
る販売」と評価することはできない。
したがって,原告商品の日本国内における販売開始の時期は,原告が
原告商品の販売を開始した平成18年9月26日であり,被告が被告商
品の販売を開始した平成19年11月26日の時点において,原告商品
が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商
品であったとはいえないから,被告による被告商品の販売は,不競法1
9条1項5号イの適用除外行為に該当するものではない。
3原告の損害額(争点3)
(1)原告の主張
ア被告による被告商品の販売が,不競法2条1項1号又は3号の不正競
争行為に該当することは,前記1(3)ア及び2(2)アで述べたとおりであ
る。
被告が,故意又は過失によって上記不正競争行為を行い,その結果,
原告の原告商品の販売に係る営業上の利益を侵害していることは明らか
であるから,被告は,不競法4条に基づき,原告が受けた損害を賠償す
べき義務を負うものである。
被告は,平成19年11月26日の販売開始から平成20年8月末日
までの約9か月間に,被告商品を1本当たり1480円の価格で合計9
万本販売して,合計1億3320万円を売り上げ,その30パーセント
に当たる3996万円の利益を受けたものと考えられる。
したがって,被告が受けた上記利益の額3996万円は,不競法5条
2項により,被告の上記侵害の行為により原告が受けた損害の額と推定
される。
イ以上によれば,原告は,被告に対し,不競法4条に基づく損害賠償と
して3996万円及びこれに対する平成20年9月23日(訴状送達の
日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求めることができる。
(2)被告の主張
原告の主張のうち,被告商品の売上げ等(前記(1)ア)については,被告
が,平成19年11月26日から平成20年8月末日までの間に,被告商
品を合計9545本販売し,その売上額が合計582万7440円であ
り,粗利益の額が183万6180円であるとの限度で認め,これを超え
る売上げ及び利益があったことは否認する。
その余の原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断
1不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)
(1)争点1−1(原告商品の形態の周知商品等表示該当性)について
ア原告は,原告商品の形態は,原告の周知の商品等表示(不競法2条1
項1号)に該当する旨主張する。
ところで,不競法2条1項1号は,不正競争行為として,「他人の商
品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しく
は包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)とし
て需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表
示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,
譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通
信回線を通じて提供して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行
為」を規定している。
同号は,他人の商品表示(商品を表示するもの)又は他人の営業表
示(営業を表示するもの)であって,「需要者の間に広く認識されてい
る」もの,すなわち,他人の周知の商品表示及び営業表示(他人の周知
の商品等表示)を保護するため,商品主体の混同を生じさせる行為及び
営業主体の混同を生じさせる行為を不正競争行為として禁止する趣旨の
規定であり,同号の商品表示は,商品の出所を他の商品の出所と識別さ
せる出所識別機能を有するものであることを要すると解される。
商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の
見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的とし
て選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と
識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的
に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識
別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることが
あり得るというべきである。
このような商品の形態は,不競法2条1項1号の他人の商品表示とし
て需要者の間に広く認識されているものといえるから,同号によって保
護される他人の周知の商品等表示に該当するものと解される。
そこで,まず,原告商品の形態が,被告商品の販売が開始された平成
19年11月26日の時点において,原告の周知の商品等表示(商品表
示)となっていたかどうかについて検討する。
イ原告商品の形態の独自性について
(ア)原告商品(検甲1,2)によれば,原告商品は,①角質除去具と
しての本体部分(原告円筒管)が直径約4ミリメートルの「極細」で,
長さ約7.5センチメートルの「コンパクトな円筒管」である点,②
原告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色である
点,③原告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って
角質除去のための刃が設けられている点,④樹脂製スティック(原告ス
ティック)が原告円筒管内に挿入され,原告スティックの一部が原告
円筒管からはみ出して見える点において,形態上の特徴があり,その
中でも,角質除去具としての本体部分における上記①及び②の特徴
は,これによって,原告商品に全体としてシャープでシンプルな印象
を与えるという点において,特に看者の注意を惹く特徴であるものと
認められる。
他方,証拠(甲7の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,原告が
原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以前に,我が国で販
売されていた美容用の角質除去具の商品としては,全体の形状が,ブ
ラシ様のもの(甲7の1,4),平板で細長い棒状のもの(甲7の2,
3,5),野菜等のピーラー(皮むき具)様のもの(甲7の3)で,
いずれも角質を擦り取るためのやすり部と把持部からなるものがあっ
たことが認められるが,原告商品のように,極細でコンパクトな円筒
管形状のものが販売されていたことをうかがわせる証拠はない。
加えて,原告商品は,美容用の角質除去具という商品の性質上,美
容に関心の高い女性を中心とした一般消費者をその需要者とするもの
と認められ,これらの需要者が原告商品のような美容器具を購入する
に当たっては,その機能のみならず,外形的なデザインの美しさや新
しさにも着目する傾向が強いと考えられるところ,後記ウで述べると
おり,原告商品が販売開始後短期間のうちにヒット商品となったとい
う事情をも考慮すれば,原告商品の上記形態は,原告が原告商品の販
売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)
には見られない独自の特徴であったということができる。
(イ)これに対し被告は,原告が原告商品を販売する以前から,原告商
品と同様の形態を有するSTT社製の「SCRAPEIT」が販売さ
れていたことのほか,円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が
形成された商品は数多く出回っていたとして,原告商品と同様又は類
似の形態を有する複数の商品等(乙4ないし10,22ないし25,
検乙2ないし5)が存在していたことなどを指摘し,原告商品の形態
に独自性があることを争っている。
しかしながら,以下のとおり,被告が指摘する商品等の存在によっ
ても,原告商品の形態の独自性が否定されるものとはいえない。
aSTT社製の「SCRAPEIT」について
(a)前記争いのない事実等(前記第2の1)と証拠(甲4の1及
び2,48,51の1ないし13,52,54,56,59の1
ないし58,検甲1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告商品は,米国フロリダ州所在のSTT社の代表者である
Aが考案し,STT社が米国において「SCRAPEIT」の商
品名で製造,販売する商品を,アイネクスト社が同商品に関する
STT社の米国以外の地域における総代理店であるENP社を通
じて日本に輸入し,それらを原告がアイネクスト社から購入し
て,「SCRATCH」の商品名で平成18年9月26日から日
本国内において販売していること,原告商品のパッケージに
は,「発売元」として原告が表示されていること,原告が原告商
品の販売を開始する前の平成18年1月の時点では,STT社に
よる「SCRAPEIT」の販売数量は合計1000本程度であ
り,その販売場所は米国国内の美容サロン(エステ店)での店頭
販売のみであったことが認められる。
そして,本件においては,原告による原告商品の販売が開始さ
れる前はもちろん,それ以後においても,原告が原告商品として
販売するもの以外に,原告商品と同一の商品であるSTT社製
の「SCRAPEIT」が,STT社又はそれ以外の者によって
日本国内において販売され,商品として一般に出回っていたとの
事実を認めるに足りる証拠はない。
(b)この点について被告は,STT社のホームページ上に,「S
CRAPEIT」のインターネット販売に係る広告が掲載されて
いること(乙1,2),当該インターネット販売が日本国内への
販売のみを特に避けて行っていたとする事情も見当たらないこと
から,STT社による上記インターネット販売によって,「SC
RAPEIT」が原告による原告商品の販売開始前に日本国内に
おいても販売されていた旨主張する。
しかしながら,STT社の上記ホームページは,英語のみで表
記されたものであり,上記インターネット販売の仕向地に日本が
含まれるか否かは乙1,2からは明らかでないこと,他方,現
に,日本国内において「SCRAPEIT」のインターネットを
通じた購入が行われていることを具体的にうかがわせる証拠もな
いことからすれば,STT社によって「SCRAPEIT」の日
本国内へのインターネット販売が行われていたか否か,その規模
等の詳細はおよそ不明というほかない。
したがって,少なくとも,STT社による上記インターネット
販売によって,「SCRAPEIT」が,日本国内において,商
品として一般に出回っていたといえる程度に販売されていたとの
事実は認めることはできないというべきであるから,被告の上記
主張は失当である。
b乙4ないし10について
原告商品の形態に独自性があるか否かの判断は,原告商品の需要
者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の認識を基
準として行われるべきものであるから,当該判断に当たって比較さ
れるべき他の同種商品の形態とは,これらの需要者において通常認
識し得る商品についての形態でなければならないというべきであ
る。
しかるに,被告が指摘する乙4(特公平4−42014号公
報),乙5(特公平4−80694号公報),乙6(特公平7−1
08299号公報),乙7(特開平11−47142号公報),乙
8(実用新案登録第3134240号公報),乙9(特開2002
−10944号公報)及び乙10(米国特許出願公開第2005/
0075651号明細書)は,いずれも,上記の需要者が通常目に
触れるとは考え難い公開特許公報等の専門的な資料であり,これら
の資料に示された物品の形態が原告商品の形態と類似していたとし
ても,そのことが原告商品の形態の独自性を否定する事情とならな
いことは明らかである。
加えて,乙4ないし7に示された物品は,いずれも,円筒状の刃
先を持つ「医療用皮膚切除具」であり,一般消費者が自ら用いる美
容用の角質除去具である原告商品とは,明らかに商品の種類を異に
し,その需要者も異なるものであるから,この点からも,これらの
物品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはな
らない。
また,乙9に示された物品は,原告商品と同種の「皮膚の角質層
除去具」ではあるものの,そこに示された物品の形状は,球形の握
り部と二重の環状の刃からなるものであって,原告商品の形態とは
明らかに異なるものであるから,この点からも,当該物品の形態が
原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
さらに,乙10(甲4の2と同じ)は,STT社の代表者Aが特
許出願をした発明に係る米国特許出願公開明細書であって,その発
明品である「たことり」(CallusRemover)は,正に「SCRAP
EIT」あるいは原告商品そのものであるから,乙10が原告商品
と同様又は類似の形態を有する商品が存在していたことの根拠とな
るものではない。
c乙22ないし25及び検乙2ないし5について
被告は,原告商品と同様の形態を有する商品として,①カイイン
ダストリーズ株式会社が販売する皮膚科用製品の一部(乙22),
②「男足」という商品名の角質除去具(乙23,検乙3),③「HE
ELHORNYPEEELER」(ヒールホーニーピーラー)と
いう商品名の角質除去具(乙24,検乙2),④「ジェイアンドエ
イチPurity(ピュリティ)ボディケアセット」という商品
名のセット商品に含まれる角質除去具(乙25,検乙5),⑤「P
ureSlick」という商品名の角質除去具(検乙4)が存在す
ることを指摘する。
しかしながら,まず,上記①の商品は,医療用皮膚切除具と認め
られるものであり,前記bで述べたとおり,原告商品とは,明らか
に商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,当該
商品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはな
らない。
次に,上記②ないし⑤の各商品は,いずれも円筒形状の金属製の
パイプの端部に刃物部分が形成された角質除去具であることが認め
られるものの,これらの商品の販売が開始された時期を示す証拠が
なく,これらの商品が原告商品の販売が開始された平成18年9月
26日の時点で販売されていたとの事実を認めることはできないか
ら,これらの商品の存在が,原告商品の形態の独自性を否定する事
情とはなり得ないというべきである。
(ウ)以上の検討によれば,原告商品の前記(ア)の形態は,原告が原告
商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質
除去具)には見られない独自の特徴を有する形態であったものと認め
られる。
ウ原告商品の形態の周知性について
証拠(甲5,8ないし15,26ないし32,34ないし37,4
1(枝番のあるものは枝番を含む。特に枝番を明示しない限り,以下同
じ。),検甲1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以
下の事実が認められる。
(ア)原告商品の販売状況
原告商品は,原告によって,平成18年9月26日から販売される
ようになり,同年10月以降徐々に販路が拡大し,全国のスーパーマ
ーケット,ドラッグストア,ディスカウントショップ(ドン・キホー
テなど),セレクトショップ(東急ハンズ,キディランドなど)等での
店頭販売のほか,インターネット,カタログ,テレビによる通信販売
が広く行われるようになっていった。
平成18年10月から平成19年11月までの原告商品の販売数の
推移を,月ごとの出荷数を基準にみると,平成18年10月から平成
19年1月にかけての出荷数は1万本台で推移していたが,同年2月
には3万本台となり,更に月を追うごとに出荷数が大きく増加して,
同年5月には12万本台に達し,その後も同年8月までは12万本前
後を維持し,同年9月から11月にかけても3万本台から8万本台の
出荷数を維持している。
また,原告商品の累積出荷数をみると,平成19年7月の時点で5
0万本を超え,平成19年11月の時点では約89万本に達してい
る。
(イ)原告商品の雑誌・新聞等への掲載
a原告商品は,平成18年9月26日の販売開始以来平成19年1
1月26日ころまでの間に,原告を発売元とする商品として,業界
新聞,地方新聞,地方版の雑誌のほか,全国的に広く発行されてい
る雑誌や一般新聞においても,広告や紹介記事が頻繁に掲載されて
きた(上記期間内における広告,記事の掲載数は,約50件に及
ぶ。)。そして,これらの多くにおいては,原告商品の形態がおお
むね認識し得るような写真が掲載されている。
特に,原告自らが行った広告をみると,平成19年7月から同年
11月にかけて,原告商品について,以下の(a)ないし(j)のよう
な全国的に広く発行されている女性向けの雑誌において,裏表紙の
一面にわたって原告商品を大きな写真付きで紹介するとともに,「
大ヒット記録50万本突破!」などと原告商品がヒット商品である
ことを強調する宣伝文句を付した広告が繰り返し行われている。
(a)平成19年7月31日発行の雑誌「女性自身」(発行部数約
32万部・甲28)7月31日号(甲27の28)
(b)平成19年8月14日発行の雑誌「週刊女性」(発行部数約
23万部・甲28)8月14日号(甲27の30)
(c)平成19年9月1日発行の雑誌「saita」(発行部数約
35万部・甲28)2007年9月号(甲27の31)
(d)平成19年9月1日発行の雑誌「ar(アール)」(発行部
数約7万9000部・甲28)2007年9月号(甲27の3
2)
(e)平成19年9月5日発行の雑誌「はんど&はあと」(発行部
数約7万9000部・甲28)2007年10月号(甲27の4
1)
(f)平成19年10月1日発行の雑誌「Mart」(発行部数約
6万7000部・甲28)2007年10月号(甲27の36)
(g)平成19年10月1日発行の雑誌「サンキュ!」(発行部数
約33万部・甲28)2007年10月号(甲27の38)
(h)平成19年10月1日発行の雑誌「すてきな奥さん」(発行
部数約14万部・甲28)2007年10月号(甲27の40)
(i)平成19年10月1日発行の雑誌「Body+(ボディプラ
ス)」(発行部数約6万部・甲28)2007年10月号(甲2
7の43)
(j)平成19年11月1日発行の雑誌「saita」(発行部数
約35万部・甲28)2007年11月号(甲27の44)
bまた,原告商品に関する紹介記事の中には,以下のとおり,原告
商品を注目商品あるいはヒット商品として,写真付きで紹介するも
のが多数含まれている。
(a)平成19年2月5日発行の雑誌「ChouChou(シュシ
ュ)」(発行部数約7万8000部・甲28)2007年No.3
において,原告商品が,「ガサガサかかとや足裏の角質がボロボ
ロと落ちると話題沸騰中の「スクラッチ」。」と紹介されてい
る(甲27の6)。
(b)平成19年6月1日発行の東急カード会員向けの会員誌「Q
ualite」(発行部数約4万部・甲30の5)2007年6月
号において,原告商品が,流行発信ショップ「ranKingr
anQueen」における「今月のPickUpRankin
gかかとケア編」のランキング第1位の商品として紹介されて
いる(甲27の19)。
(c)平成19年6月15日発行の健康美容商材のバイヤー向けの
情報誌「シイレ」(発行部数約5万部・甲30の7)2号におい
て,原告商品が,流行発信ショップ「ranKingranQu
een」の健康グッズベスト20におけるランキング第5位の商
品として紹介されている(甲27の24)。
(d)平成19年7月10日発行の雑誌「女性自身」(発行部数約
32万部・甲28)7月10日号において,原告商品が,東急ハ
ンズ池袋店の人気商品の一つとして紹介されている(甲27の2
3)。
(e)首都圏,仙台市,大阪市に展開するドラッグストア「Tom
od's」が発行する情報誌「TOMOKO」(発行部数約9万部
・甲30の8)2007年7月号において,原告商品が,「To
mod's」の優秀小物のランキング第1位の商品として紹介され
ている(甲27の25)。
(f)平成19年8月1日発行の雑誌「ViVi」(発行部数約35
万部・甲28)2007年8月号において,原告商品が,「激売
れコスメRanking」と題する特集の中で,名古屋の東急ハ
ンズの「HitsBest3」のうちの第2位の商品として紹介
されている(甲27の22)。
(g)平成19年8月1日発行の雑誌「ar(アール)」(発行部
数約7万9000部・甲28)2007年8月号において,原告
商品が,「ガサガサかかとや足裏の角質がボロボロと落ちると話
題沸騰中のアイテム。」と紹介されている(甲27の27)。
(h)平成19年9月3日発行の雑誌「ChouChou(シュシ
ュ)」(発行部数約7万8000部・甲28)2007年No.1
8において,原告商品が,「TV通販の人気商品」,「深夜のT
V通販や店頭で話題の角質ケア「スクラッチ」」と紹介されてい
る(甲27の33)。
(i)平成19年11月24日付けの「朝日新聞土曜版be」(発
行部数約800万部・甲28)において,原告商品が,「クリー
ンヒット」商品として取り上げられ,「出荷数は1年で約80万
本に達した。」などと紹介されている(甲27の54)。
(ウ)テレビ放送
原告商品は,平成18年9月の販売開始以来平成19年11月26
日までの間に,以下のとおり,テレビ放送においても,宣伝や紹介が
され,その形態が映像で紹介されている。
a全国ネット局の情報番組等
(a)平成18年11月17日に放送された朝の情報番組「めざま
しテレビ」(フジテレビ)において,原告商品が,ドラッグスト
アにおける美容雑貨の売れ筋第1位の商品として紹介されてい
る(甲12,15の1)。
平成19年5月8日に放送された「めざましテレビ」におい
て,原告商品が,フットケア商品の売れ筋第3位の商品として紹
介されている(甲12,15の1)。
(b)平成19年7月11日に放送された朝の情報番組「はなまる
マーケット」(TBS)において,原告商品が,フットケアグッ
ズの売れ筋第1位の商品として紹介されている(甲12,15の
1)。
(c)平成19年2月から11月にかけて放送された深夜の通販番
組「気になる通販ランキングポシュレデパート深夜店」(日テ
レ)において,多数回にわたり通信販売商品として宣伝され,販
売されている(甲12,14の1,2)。
b地方局の情報番組
原告商品は,平成18年11月から平成19年7月にかけて,地
方局の情報番組においても,売れ筋商品などとしてたびたび紹介さ
れている(甲12,15の1,2)。
cショッピング専門チャンネル
原告商品は,CS放送,ケーブルテレビ等で放送されている24
時間生放送のショッピング専門チャンネル「ショップチャンネ
ル」(視聴可能世帯数約2200万世帯・甲23)において,平成
19年1月26日以降同年11月に至るまで,多数回にわたり通信
販売商品として宣伝され,販売されている(甲12,13の1ない
し5,14の1)。
(エ)その他の事情
原告商品が全国的なヒット商品として一般に認識されていたことを
示す事情として,以下のような事実がある。
a平成19年12月1日発行の流行情報誌「日経TRENDY」(
発行部数約23万部・甲28)2007年12月号で発表された,
同誌が選ぶ「2007年ヒット商品ベスト30」において,原告商
品は,「「角質取り」という非常にニッチな商品が,1年間で異例
の80万を販売。角質をこすると,ごっそり取れる様子を映像で訴
求し,女性たちを捉えた」との理由から,第24位にランクされ
た(甲27の51)。
b平成19年12月1日発行の総合経営誌「日経ベンチャー」(発行
部数約7万部・甲28)で発表された,同誌が選ぶ「2007年ヒ
ット商品番付」において,原告商品は,「西前頭2枚目」にランク
された(甲27の55)。
cドラッグストア業界の業界紙「DRAGtopics」(発行部
数約6万8000部・甲28)平成19年12月24日・31日合
併号で発表された,同業界関係者らの投票によって決定される「第
20回ヒット商品賞(バラエティー部門)」において,原告商品
は,第10位にランクされた(甲27の59,67,71)。
エ小括
(ア)前記イ及びウを総合すると,原告商品は,その販売が開始された
平成18年9月26日当時,前記イ(ア)の形態において,同種商品と
識別し得る独自の特徴を有していたものであり,かつ,販売開始後平
成19年11月26日ころまでの約1年2か月の間に,多くの全国的
な雑誌,新聞,テレビ番組等で繰り返し取り上げられて,原告商品の
形態が写真や映像によって紹介されるなど効果的な宣伝広告等がされ
るとともに,原告商品の販売数も販売開始当初から飛躍的に増加し,
平成19年11月の時点では約89万本に達し,美容雑貨の全国的な
ヒット商品としての評価が定着するに至ったものと認められる。
上記認定事実によれば,原告商品の上記形態は,遅くとも平成19
年11月26日ころまでには,全国の美容雑貨関係の取引業者及び美
容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の間において,特定の営
業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するととも
に,原告商品を表示するものとして需要者である上記取引業者及び一
般消費者の間に広く認識されるに至ったものと認めるのが相当であ
る。
したがって,原告商品の上記形態は,原告の周知の商品等表示(不
競法2条1項1号)に該当するというべきである。
(イ)これに対し被告は,原告商品は厳重にパッケージングされてお
り,商品本体だけでバラ売りされていた事実は確認されておらず,通
常,需要者が原告商品の形態を認識しにくい状態で販売されているこ
と,原告商品は,長年大量にテレビコマーシャル等で宣伝広告が行わ
れてきた商品ではなく,一般需要者が原告商品の形態を直接的に目に
する機会はほとんどなかったことからすれば,原告商品の形態自体が
商品等表示としての機能を獲得しているとされる余地はない旨主張す
る。
しかしながら,①原告商品(検甲1,2)のパッケージには,透明
窓が付いており,そこから原告商品を確認できる上に,同パッケージ
には,原告商品の使用方法を説明する写真が掲載されており,そこか
らも原告商品の形態が確認できること,②雑誌,新聞,テレビ番組等
においても,原告を発売元とする商品として,原告商品の形態の写真
や映像付きで原告商品の広告・紹介がされていること(前記ウ)に照
らすならば,原告商品について,需要者がその形態を認識しにくい状
態で販売されているということはできない。
また,商品形態が商品表示として出所識別機能を獲得するには宣伝
広告が必ず長期に及ばなければならないというものではなく,商品の
販売開始から短期間であっても効果的な宣伝広告等がされた結果,当
該商品の形態が出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く
認識されるに至ることがあり得るというべきであり,原告商品は,こ
のような場合に当たるものと認められる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ)なお,証拠(甲8ないし17,26,27,36,37,41,
58)及び弁論の全趣旨によれば,①原告商品は,平成19年11月
26日以降においても,店頭販売やインターネット等を通じた通信販
売によって継続的に販売されており,平成19年11月の時点で約8
9万本であった累計出荷数量が,平成20年5月には約120万本,
平成21年7月には約134万本に達するなど,かなりの販売数を維
持していること,②原告商品の雑誌等への掲載や「ショップチャンネ
ル」等での紹介についても,少なくとも平成20年4月ころまでは継
続的に行われていることが認められるから,原告商品の前記イ(ア)の
形態は,本件口頭弁論終結時(平成22年6月17日)においてもな
お,原告の周知の商品等表示(商品表示)としての機能を維持し続け
ているものと認めるのが相当である。
(2)争点1−2(商品形態の類似性)について
ア前記(1)イ(ア)及び被告商品(検甲3)によれば,被告商品は,①角質
除去具としての本体部分(被告円筒管)が「極細」で(直径約5ミリメー
トル),「コンパクトな円筒管」(長さ約7センチメートル)である
点,②被告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色であ
る点,③被告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って
角質除去のための刃が設けられている点,④樹脂製スティック(被告ステ
ィック)が被告円筒管内に挿入され,被告スティックの一部が被告円筒
管からはみ出して見える点において,原告商品の前記(1)イ(ア)の形態と
共通する形態上の特徴を備えており,上記①及び②の特徴から,看者に
全体としてシャープでシンプルな印象を与えるという点においても共通
するものと認められる。
イ他方,被告は,原告商品と被告商品との形態上の相違点として,①円
筒管の太さと長さ,②ステンレス部分の厚み,③刃先の角度,④刃先の
有効長,⑤スティックの長さと色を指摘する。
確かに,原告商品と被告商品の各寸法等を測定した結果を示した「検
査証明書」(乙11)等によれば,原告商品と被告商品との間に上記①
ないし⑤に係る相違があることが認められるものの,いずれも微細な寸
法の違いや色の違いにすぎず,需要者らの注意を惹かない些細な相違点
にすぎないものというべきであり,原告商品及び被告商品を全体として
みれば,上記相違点をもって原告商品及び被告商品における前記アの形
態上の共通点を凌駕するものとはいえない。
したがって,被告商品の形態が原告商品の形態に類似するものである
ことは,優にこれを認めることができる。
(3)争点1−3(混同のおそれの有無)
前記(1)のとおり,原告商品の形態は原告の周知の商品表示としての機能
を有しており,他方,前記(2)のとおり,被告商品の形態が原告商品の形態
と類似することからすれば,需要者である美容に関心の高い女性を中心と
した一般消費者において,被告商品と原告商品との混同を生じるおそれが
あるものと認められる。
なお,証拠(甲36,37,41,46,47,58)によれば,原告
商品が店頭販売及び通信販売のいずれにおいても税込価格2940円で販
売されているのに対し,被告商品のインターネットによる通信販売の価格
をみると,税込価格で1480円から1785円と原告商品よりも低い価
格で販売されていることが認められるが,この程度の販売価格の差異があ
るからといって,上記認定が左右されるものではなく,他にこれを左右す
る証拠はない。
(4)まとめ
以上によれば,被告商品を販売する被告の行為は,不競法2条1項1号
の不正競争行為に当たるものと認められる。
そして,原告は,被告の上記不正競争行為によって,原告商品の販売に
係る営業上の利益を侵害されているものであるから,不競法3条1項に基
づき,被告に対し,被告商品の譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しの
ための展示の差止めを請求することができる。
2原告の損害額(争点3)
(1)前記1(1)によれば,原告商品の前記1(1)イ(ア)の形態は,被告商品の
販売が開始された平成19年11月26日の時点において原告の周知の商
品等表示(商品表示)となっていたということができるから,被告は,被
告商品の販売行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に当たり,これに
よって原告の原告商品の販売に係る営業上の利益を侵害することを知って
いたか,少なくとも知らなかったことにつき過失があったものと認められ
る。
したがって,被告は,原告に対し,不競法4条に基づき,上記侵害行為
によって原告が受けた損害を賠償する責任を負うというべきである。
(2)原告は,被告が,平成19年11月26日から平成20年8月末日まで
の間に,被告商品を,1本当たり1480円の価格で合計9万本販売し
て,合計1億3320万円を売り上げ,その30パーセントに当たる39
96万円の利益を受けた旨主張する。
このうち,被告が,上記期間内に,被告商品を合計9545本販売し,
合計582万7440円を売り上げ,183万6180円の利益(粗利
益)を受けたことは,被告が自認するところであり,当事者間に争いがな
い。
他方,被告が,被告商品の販売によって上記利益の額を超える額の利益
を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件において,被告が被告商品の販売によって受けた利益
の額として認定し得るのは,上記のとおり当事者間に争いのない183万
6180円の限度にとどまるものであり,その金額が,不競法5条2項に
より,被告の上記侵害行為によって原告が受けた損害の額と推定されるも
のである。
3結論
以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の
被告に対する本訴請求のうち,被告商品の譲渡等の差止請求に係る部分は理
由があるからこれを認容することとし,損害賠償請求に係る部分は,183
万6180円(前記2(2))及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること
が記録上明らかな平成20年9月23日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容す
ることとし,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官石神有吾

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