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平成12年(行ケ)第67号審決取消請求独立当事者参加事件(被参加事件平成1
1年(行ケ)第212号)
平成13年1月18日口頭弁論終結
            判       決
平成11年(行ケ)第212号事件脱退前原告
ジロナ デンタール システムス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル 
ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
代表者           【A】
同            【B】
当事者参加人        ジロナ デンタール システムス ゲゼルシャフト
 ミット ベシュレンクテル ハフツング
代表者           【C】
同             【D】
訴訟代理人弁護士      加 藤 義 明
同             鹿 野 直 子
同    弁理士      矢 野 敏 雄
被参加人(平成11年(行ケ)第212号事件脱退原告脱退前の同事件被告) 特
許庁長官 【E】
指定代理人         【F】
同             【G】
同             【H】
            主       文
    1 当事者参加人の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は当事者参加人の負担とする。
    3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 当事者参加人(以下「参加人」という。)
 特許庁が平成8年審判第2869号事件について平成11年2月15日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被参加人の負担とする。
2 被参加人
  主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 シーメンス、アクチェン ゲゼルシャフト(以下「当初出願人」という。)
は、1987年2月16日に西ドイツ国においてした特許出願に基づく優先権を主
張して、考案の名称を「歯科用X線診断装置」とする考案(以下「本願考案」とい
う。)につき昭和63年2月12日に実用新案登録出願(実願昭63-18059
号)をしたところ、平成7年8月29日に拒絶査定を受けたので、平成8年3月4
日に拒絶査定不服の審判を請求した。本願考案について実用新案登録を受ける権利
は、平成10年2月に当初出願人から脱退前の平成11年(行ケ)第212号事件
原告(以下「脱退前原告」という。)に譲渡され、この譲渡は、平成10年7月3
日に被参加人に届出られた。上記審判請求は、平成8年審判第2869号事件とし
て審理された結果、平成11年2月15日に「本件審判の請求は、成り立たな
い。」との審決がなされ、その謄本は、平成11年3月17日に当初出願人に送達
され、出訴期間として90日が付加された。なお、審決謄本の請求人の表示は、特
許庁において同年7月12日に、当初出願人から脱退前原告に訂正された。
本願考案について実用新案登録を受ける権利は、平成10年3月31日に脱退
前原告から参加人に譲渡され、この譲渡は、平成12年3月6日に被参加人に届出
られた。
2 実用新案登録請求の範囲
1の項(以下、同項記載の考案を「本願第1考案」という。別紙図面参照)
  患者の顎のパノラマ断層撮影のための歯科用X線診断装置であって、
 a)垂直軸線を中心に回転可能であるユニット(1)を備えており、このユニ
ットは一方ではX線源(3)の、他方では二次スリットを有する絞り(7)の保持
体であり、
 b)X線を可視光線に変換するための手段(9)を備え、
 c)ビーム強度に比例する電気的信号を形成する1つまたは複数のCCDセン
サ(11,12,13)から成る検出装置を備え、各CCDセンサは多数のセンサ
行を含み、
 d)該CCDセンサと接続されたクロック発生器(22)を備え、
 e)CCDセンサのシフトレジスタ(11c)と接続されたA-D変換器(1
6)を備え、
 f)計算機(21)を有するデータ処理装置を備え、
 g)像メモリ(18)を備え、
 h)像読出しユニット(19)を備え、
 i)像再現装置(20)を備えるようになったものにおいて、
  前記CCDセンサは、二次スリット(8)の像帯域の上に結像し得るように
配置され、
  その際スリットの長辺の方向の1つの線が1つのCCD行の上に結像されて
おり、
  前記CCDセンサは、クロック発生器(22)により関係式
  fTakt=v/(nX・a)
 によりクロック制御されることによりTDI(Time-Delay-Integration)法に
より駆動され、
  その際光像(LiB)に対応する電荷像(LB)は検出器平面における時間
的に連続する像の場所的にずれた積分により1つの全電荷像(LBges)に加算
され、
  像情報の積分は、シンチレータに生ずる光像(LiB)がCCDセンサの表
面上に結像され、
  それにより生ずる電荷像(LB)が前記のクロック列
  fTakt=v/(nX・a)
 で像帯域からメモリ帯域へ伝送され、その後に行ごとにシフトレジスタ(11
c)を介してクロックアウトすることにより行われ、
  前記データ処理装置(21)は、A・D変換器(16)、像メモリ(18)
および像読出しユニット(19)に相応する制御命令ないし読出し命令を導き、検
出器装置(センサ11,12,13)により撮影進行中供給される信号から像再現
装置(20)を介して光学的に表示可能な断層像を計算することを特徴とする
 歯科用X線診断装置。
3 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、本願第1考案は、特開昭57-1661
44号公報(以下「引用例1」という。)及び特開昭61-22841号公報(以
下「引用例2」という。)各記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案す
ることができたと認定判断した。
第3 参加人主張の審決取消事由の要点
  審決の理由1(手続の経緯・本願考案)、2(原査定の理由)、3(引用
例)は認める。同4(対比・判断)は、一致点の認定につき、審決が16頁11行
の「『患者の」から17頁5行の「されており、」までに述べる点で一致すること
を、相違点につき、本願第1考案には審決認定(17頁16行~18頁9行)に係
る構成があるのに対し、引用例1記載の考案にはその構成がないことを、それぞれ
認め、その余は争う。同5(むすび)は争う。
  審決は、一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点についての判断を誤っ
た(取消事由2)ものであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
  審決は、「光像に対応する電荷像は検出器平面における時間的に連続する像
の場所的にずれた積分により1つの全電荷像に加算され、」(17頁5行~8行)
を一致点と認定したが、誤りである。
(1) 本願第1考案は、CCDセンサからなる検出器において光像(LiB)に
対して時点t0で電荷像(LBt0)が生じ、時点t1でこの電荷像はX方向にシフ
トされ、同時に新しい電荷像(LBt1)が生じるので、この時点でのCCDセン
サ全体の電荷像はLBt1gesに積分される。それが時点t2~t5でも同じように繰
り返されて積分される。すなわち、電荷像の時間的に連続する場所的にずれた積分
により1つの全電荷像が形成されるのである。
 このように本願第1考案では、種々の被検体の対象領域からの画像情報を
CCDセンサからなる検出器においてシフトして加算することにより、撮影したい
所望の断層が検出器において直接選択され、検出器における電荷像はすでに完成し
た断層画像と同じ情報を含んでいる。
(2) 引用例1記載の考案では、一定の角度間隔ごとにイメージセンサ平面に生
ずる瞬間撮影の光像がX線イメージセンサ12から直ちに読み出されている。この
ように、引用例1記載の考案は、CCDセンサのそれぞれの画素から直接加算せず
に取り出しているものである。したがって、引用例1記載の考案は、「光像に対応
する電荷像は検出器平面における時間的に連続する像の場所的にずれた積分により
1つの全電荷像に加算」されていない。
(3) 被参加人は、引用例1記載の考案が、演算メモリ32上において、データ
の場所的にずれた重ね合わせによる加算により所望の断層軌道上にある画情報を合
成再現していることを、一致点として記載したものであると主張している。
 しかし、本願第1考案では、A-D変換以前に電荷の形で既に加算されて
いるのであって、引用例1記載の考案とは加算位置が全く異なっているのである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(1) 審決は、「引用例1に記載された『フィルムの送り速度との相対的関係』
を考慮してデータを加算(積分)しようとすれば、それは仮想的なフィルムとの関
係において必然的にfTakt=v/(nx・a)の関係で動かすことになるから、上
記数式により限定された移動速度で電荷像をシフトする点は、単にアームの回転速
度に対し、メモリ内の情報をシフトする転送距離を調整して映像すべき断層軌道面
を設定することにより像情報の積分を行ったことにより生ずる、必然的な関係を記
載したにすぎないものである。」(20頁8行~18行)と認定判断したが、誤り
である。
ア 本願第1考案は、電荷(情報)を検出器においてシフトするクロック周
波数を時間的に変化させるものである。
  引用例1記載の考案は、瞬間撮影画像を検出器から個々に読出している
から、初めからシフトの大きさが固定されており、1行間隔ずつしかシフトできな
い。したがって、引用例1記載の考案のデータ処理装置のように情報を変化する大
きさで互いにシフトする代わりに、本願第1考案のように電荷を検出器においてシ
フトするクロック周波数を変化する思想は生まれない。
 本願第1考案と引用例1記載の考案とは、電荷シフトの際のパラメータ
としてクロック周波数を変化させるか(本願第1考案)、瞬間撮影画像のA-D変
換されたデジタル信号のシフトの大きさを変化させるか(引用例1記載の考案)と
いう点で相違している。クロック周波数の選択は本願第1考案の核心である。
イ 被参加人は、本願第1考案が、クロック周波数を時間的に変化させると
いう構成を備えていることを否定する。
 しかし、本願明細書には、「通常15kHzであるCCDセンサの標準
クロック列が、たとえば20msのCCD要素の像積分時間(tBA)の間に行が従
来の撮影技術におけるフィルム速度に相応するクロックレート(fTakt)で像帯
域のなかへシフトされるように変更される。像積分時間(tBA)の間に電荷像は像
帯域のなかでたとえば0.1mmと1mmとの間変化する。」(甲第2号証18頁1
7行~19頁3行)と記載されており、本願第1考案においてクロック列は従来の
撮影技術におけるフィルム速度に相応するクロックレートで像帯域のなかへシフト
されるように変更されることが明らかにされている。すなわちクロック列は変更す
なわち変化されることが明白である。この記載から従来のフィルム速度が変化する
ことが分かるのである。
 被参加人は、本願明細書の記載から「30(mm/s)/(1・20μ
m)」の結果1500Hzが算出されるから、典型的なフィルム速度30(mm/
s)が一定であることが必要であり、したがって引用例1がクロック周波数を時間
的に変化させることを開示しているとは認められないと主張する。しかし、前歯部
分に対する速度とか奥歯部分に対する速度とかというように種々の値を取るフィル
ム速度につき、前歯部の典型的な値を30mm/sと記載したからといって、一定
速度であるということはできない。フィルムの速度がパターンに従って特定されて
いる場合も、特定速度であって、それは一定速度とは意味が異なるのである。
 また、患者の顎、すなわち歯列弓は、形が円弧ではないから、そのフィ
ルム断層撮影には、フィルム速度が可変であることが必要である。
 歯列弓の断層撮影においてフィルム速度を可変とすることが周知かつ自
明であったことは、特開昭57―31844号公報(以下「甲第8号証刊行物」と
いう。)、実公昭57―57690号公報(以下「甲第9号証刊行物」とい
う。)、特公昭59―23207号公報(以下「甲第10号証刊行物」とい
う。)、特開昭60―103943号公報(以下「甲第11号証刊行物」とい
う。)、特開昭53―82285号公報(以下「甲第12号証刊行物」とい
う。)、
(Vol.60.N:o1,14-22,1964)(以下「甲第13号証刊行物」という。)からも明白
である。
(2) 本願第1考案のクロック周波数fTakt=v/(nx・a)におけるvは
断層撮影におけるフィルム速度と同一速度であり、このvは時間的に変化し、した
がって、クロック周波数fTaktも時間的に変化する。
 ところが、引用例2には、断層画像を作成するためにクロック周波数が変
化するようにすることは全く示唆されていない。すなわち、引用例2記載の考案の
TDI法を使用した透視画像作成における電荷のクロックシフトは、検出器の移動
運動を相殺するために、検出器の運動速度と同期して検出器の運動速度と大きさが
等しく方向が反対な速度で行われる。
 したがって、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案のTDI法を適用
しても、顎のパノラマ断層画像は得られないのである。
第4 被参加人の反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 審決は、引用例1記載の考案の「メモリ制御器34はm-1番目の水平同期
信号を検出すると、第m~第n番目の走査線上にある画情報をA-D変換回路31
を介してデジタルコード化した後演算メモリ32内のあらかじめ決定された走査線
に対応するアドレスのデータと加算し、その加算結果を演算メモリ32の同一アド
レスに書き込む操作を指令する」(4頁右上欄8行~14行)、「論理演算回路3
は、A-D変換器31より出力されるデジタルコード信号を順次シフトし乍ら重ね
合わせによる加算を行なって所望の断層軌道上にある画情報のみを合成再現する」
(3頁左下欄7行~10行)との機能を有すること、すなわち、引用例1記載の考
案が、演算メモリ32上において、第m~第n番目の走査線上にある画情報とあら
かじめ決定された走査線に対応するアドレスのデータとの場所的にずれた重ね合わ
せによる加算により、所望の断層軌道上にある画情報を合成再現していることを、
「光像に対応する電荷像は検出器平面における時間的に連続する像の場所的にずれ
た積分により1つの全電荷像に加算され、」と認定したものである。
  引用例1記載の考案は、CCDセンサの表面上において画像情報の加算が行
われていないが、審決は、その点を相違点として明確に認定しているから、審決の
上記認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 参加人は、本願第1考案が、クロック周波数を時間的に変化させるという
構成を備えていると主張するが、誤りである。
ア 実用新案登録請求の範囲請求項1には、関係式fTakt=v/(nx・
a)の記号の意味について何ら定義されていない。したがって、上記関係式は、単
に「TDI(Time-Delay-Integration)法により駆動され」ることにより、「場所
的にずれた積分により1つの全電荷像(LBges)に加算され」るとの技術的事
項と理解されるのみであって、「クロック周波数を時間的に変化させる」との技術
的事項と理解することはできない。
イ 仮に、考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌したとしても、そこには
クロック周波数を時間的に変化させるという記載はない。
 それどころか、逆に、考案の詳細な説明には、「x方向・・・の結像比
は1:nx・・・である。」(甲第2号証14頁8行~11行)、「従来の断層撮
影技術ではフィルムは特定の速度で二次スリットの後ろを動かされる・・・またそ
れにより生ずる電荷像が特定のクロック列で像帯域からメモリ帯域のなかへクロッ
クされ・・・クロック列は、電荷像が、二次スリット平面に関して、従来の断層撮
影技術におけるフィルムの速度と同一の速度をx方向に有するように選定されてい
る。求められるクロック周波数はフィルムの等価速度(v)に対して、下記の関係
にある。fTakt=v/(nx・a) ここで、fTaktは毎秒の行数、また(n
x・a)は二次スリット平面に関してのCCD行間隔である。30mm/sの典型
的なフィルム速度および20μmの行間隔では、x方向に1:1の結像比の場合に
クロック周波数は1500Hzとなる。」(同15頁18行~16頁末行)とし
て、従来のフィルムが特定の速度で動かされ、本願第1考案においてはそれと同一
の速度を有するように、ある特定のクロック周波数である1500Hzで像帯域か
らメモリ帯域のなかへ移送されることが明確に記載されている。
すなわち、1500Hzという値は上記関係式に所定の値を代入した除算「30
(mm/s)/(1・20(μm))」の結果算出されるものであり、ここでこの
除算が成立するには、「典型的なフィルム速度30(mm/s)」が一定であるこ
とが必要である。
(2) 引用例1記載の考案と引用例2記載の考案の組合せについて
ア 引用例1には、CCDセンサから得られた画像の積算により断層選択を
行うこと自体は記載されているから、引用例1記載の考案を、そこに示されたCC
D上で、データをシフトさせ、対応した信号を増加させ画像の積算を行うものとす
ることがきわめて容易なことかどうかが、本願第1考案の進歩性判断における要点
である。
 引用例2には、「CCDセンサに適用可能な走査型X線診断装置であっ
て、検出装置組立体と接続されたクロック発生器を備え、該検出装置組立体のシフ
トレジスタと接続されたA-D変換器を備え、前記検出装置組立体は、クロック発
生器によりTDI(Time-Delay-Integration)法により駆動され、像情報の積分
は、シンチレータに生ずる光像が検出装置組立体の表面上に結像され、それにより
生ずる電荷像が像帯域(光ダイオード)からメモリ帯域(シフトレジスタ)へ伝送
されることにより行われる」(審決19頁17行~20頁7行)ことが記載されて
いる。TDI法とは、引用例2に「検出装置組立体14の動作は時には『時間遅延
および集積(TDI)』と称する技術に従っている。・・・シフトレジスタSRは
クロック回路56からのクロック信号によって制御される。各クロックパルスに応
答してレジスタ素子X3,X2,X1中のデータは第3図に関して左へ1素子だけ
シフトされる。・・・信号がこれらの各記憶素子に存在する間該信号は関連した検
出素子から次いで受けられる任意の信号によって増加される。」(9頁右下欄12
行~10頁右上欄8行)と記載されているように、CCDセンサ内において記憶素
子中のデータをシフトさせ、次いで受けられる対応した信号によりシフトさせたデ
ータを増加させ加算していくものである。また、引用例1に、「本発明において
は、アーム1の回転に伴い、時系列的にA-D変換器31に順次入力される情報が
変化する毎に、演算メモリ32内にストックされた情報をシフトさせ乍ら、加算に
よる重ね合わせを行なって所望の曲面断層軌道面上の情報のみを合成して一枚の2
次元平面画像を形成している。・・・メモリ内の情報をシフトする転送距離・・・
を調整して映像すべき断層軌道面を設定しているのである。」(3頁左下欄19行
~右下欄13行)と記載されており、これによれば、引用例1のシフトによるデー
タの加算も、演算メモリ32内において記憶素子中のデータをシフトさせ、次いで
受けられる対応した信号によりシフトさせたデータを増加させ加算していくもので
あって、引用例2記載の考案と同様の処理を行うものである。
 したがって、画像の積算処理の類似性を考慮すれば、引用例2記載の考
案のTDI法を、顎のパノラマ断層画像を得る引用例1記載の考案の画像の積算に
適用し、CCDセンサにおいて像情報の積分を行うよう構成することによって、本
願第1考案の技術的事項を得ることはきわめて容易になし得ることというべきであ
る。
イ 参加人は、本願第1考案のクロック周波数fTakt=v/(nx・a)に
おけるクロック周波数fTaktが時間的に変化することを前提として、引用例2に
は、断層画像を作成するためにクロック周波数が変化するようにすることは全く示
唆されていないと主張する。しかし、本願第1考案が「クロック周波数を時間的に
変化させる」との技術的事項を有しないことは前述のとおりであるから、参加人の
主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 審決の理由3(引用例)認定に係る引用例1の記載、とりわけ、「メモリ
制御器34はm-1番目の水平同期信号を検出すると、第m~第n番目の走査線上
にある画情報をA-D変換回路31を介してデジタルコード化した後演算メモリ3
2内のあらかじめ決定された走査線に対応するアドレスのデータと加算し、その加
算結果を演算メモリ32の同一アドレスに書き込む操作を指令する。」(4頁右上
欄8行~14行)、「論理演算回路3は、A-D変換器31より出力されるデジタ
ルコード信号を順次シフトし乍ら重ね合わせによる加算を行なって所望の断層軌道
上にある画情報のみを合成再現する」(3頁左下欄7行~10行)との記載によれ
ば、引用例1記載の考案は、メモリ制御器において、「光像に対応する電荷像は検
出器平面における時間的に連続する像の場所的にずれた積分により1つの全電荷像
に加算され」るものであることが認められる。したがって、審決が上記を一致点と
認定したことに誤りはない。
(2) 参加人は、本願第1考案では、A-D変換以前に電荷の形で既に加算され
ているのであって、引用例1記載の考案とは加算位置が全く異なっていると主張す
る。
 しかし、審決は、参加人主張の上記加算位置の相違を少しも否定するもの
ではない。このことは、審決が、本願第1考案においては、「像情報の積分は、シ
ンチレータに生ずる光像(LiB)がCCDセンサの表面上に結像され、それによ
り生ずる電荷像(LB)が前記のクロック列fTakt=v/(nx・a)で像帯域
からメモリ帯域へ伝送され、その後に行ごとにシフトレジスタ(11c)を介して
クロックアウトすることにより行われ」るのに対し、引用例1記載の考案において
は、「像情報の積分は、アーム1の回転に伴い、時系列的にA-D変換器31に順
次入力される情報が変化する毎に、演算メモリ32内にストックされた情報をシフ
トさせ乍ら、加算による重ね合わせを行なって所望の曲面断層軌道面上の情報のみ
を合成して一枚の2次元平面画像を形成するものではあるが、クロック発生器によ
りTDI駆動し、像情報の積分を、CCDセンサの表面上に結像されたことにより
生ずる電荷像を像帯域からメモリ帯域へ伝送することにより行うという上記事項に
ついては記載されていない」として、この点を相違点として認定していることによ
り明らかである。
 参加人の主張は、審決認定の「光像に対応する電荷像は検出器平面におけ
る時間的に連続する像の場所的にずれた積分により1つの全電荷像に加算され、」
との文言における「検出器平面における」の文言が「積分」にしかかかり得ないと
の誤解に由来する審決の誤解を前提とするものという以外にない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 本願第1考案の実用新案登録請求の範囲の「関係式 fTakt=v/(nx
・a)」について
ア 実用新案登録請求の範囲には、上記関係式の「v」、「(nx・a)」の
定義が記載されていないので、実用新案登録請求の範囲の記載からは、上記関係式
の技術的意義を定めることができない。
イ 甲第2号証(本願明細書)によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の
欄には、「クロック列は、電荷像が、二次スリット平面に関して、従来の断層撮影
技術におけるフィルムの速度と同一の速度をx方向に有するように選定されてい
る。求められるクロック周波数はフィルムの等価速度(v)に対して下記の関係に
ある。
  fTakt=v/(nx・a)
 ここで、fTaktは毎秒の行数、また(nx・a)は二次スリット平面に
関してのCCD行間隔である。」(16頁9行~18行)との記載があることが認
められ、上記記載によれば、「(nx・a)」は、二次スリット平面に関してのCC
D行間隔であり、「v」は、従来の断層撮影技術におけるフィルムの速度と同一で
ある電荷像の速度であるものと認められる。
 上記認定の下では、上記関係式は、特定の行間隔(nx・a)のCCDに
おいて、従来のフイルムの速度と同一である電荷像の速度をvとすると、クロック
周波数はv/(nx・a)でなければならないことを意味するものと解する以外にな
い。しかし、そうでなければ像情報が正しく積分できないことは明らかであるか
ら、上記関係式は、断層軌道面を設定することにより像情報の積分を行ったことに
より生ずる、必然的な関係を記載したにすぎないものであることが明らかである。
ウ 引用例1に、「本発明においては、アーム1の回転に伴い、時系列的に
A-D変換器31に順次入力される情報が変化する毎に、演算メモリ32内にスト
ックされた情報をシフトさせ乍ら、加算による重ね合わせを行なって所望の曲面断
層軌道面上の情報のみを合成して一枚の2次元平面画像を形成している。・・・メ
モリ内の情報をシフトする転送距離・・・を調整して映像すべき断層軌道面を設定
しているのである。」(審決8頁16行~9頁8行)との記載があることは当事者
間に争いがなく、上記記載によれば、引用例1記載の考案のシフトによるデータの
加算は、演算メモリ32内において記憶素子中のデータをシフトさせ、次いで受け
られる対応した信号によりシフトさせたデータを増加させ加算していくものである
ことが認められる。
 引用例2には、審決(12頁5行~15頁3行)認定に係る記載がある
ことは当事者間に争いがない。上記記載、とりわけ、「検出装置組立体14の動作
は時には『時間遅延および集積(TDI)』と称する技術に従っている。」(審決
13頁2行~4行)、「第12図の実施例は、CCD素子から成る遅延積分回路を
利用するためには特に適切であると考えられている。」(同14頁末行~15頁2
行)、「シフトレジスタSRはクロック回路56からのクロック信号によって制御
される。各クロックパルスに応答してレジスタ素子X3,X2,X1中のデータは第
3図に関して左へ1素子だけシフトされる。・・・次のクロックパルスに応答して
Q1+Q2はレジスタ素子X3にシフトされる。・・・信号Q3によって増加されて
Q1+Q2+Q3になる。」(同13頁5行~12行)、「第6図は光ダイオード8
2・・・の上には、入射X線を可視光線に変換する・・・蛍光体層がある。」(同
14頁16行~18行)との記載によれば、引用例2には、CCDセンサに適用す
ることの可能な走査型X線診断装置であって、検出装置組立体と接続されたクロッ
ク発生器を備え、この検出装置組立体のシフトレジスタと接続されたA-D変換器
を備え、この検出装置組立体は、クロック発生器によりTDI法により駆動され、
像情報の積分は、シンチレータに生ずる光像が検出装置組立体の表面上に結像さ
れ、それにより生ずる電荷像が像帯域(光ダイオード)からメモリ帯域(シフトレ
ジスタ)へ伝送されることにより行われる考案が記載されているものと認められ
る。
 以上の認定に係る引用例1、2各記載の考案における画像の積算処理の
類似性を考慮すれば、引用例2記載の考案のTDI法を、顎のパノラマ断層画像を
得る引用例1記載の考案の画像の積算に適用し、CCDセンサにおいて像情報の積
分を行うよう構成することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものというべき
である。
エ そして、特定の行間隔(nx・a)のCCDにおいて、断層軌道面を設定
することにより像情報の積分を行うには、従来のフイルムの速度と同一である電荷
像の速度をvとすると、クロック周波数はv/(nx・a)でなければならないこと
は明らかであるから、クロック周波数fTakt、二次スリット平面に関してのCC
D行間隔nx・aと、従来の断層撮影技術におけるフィルムの速度vとの関係は、f
Takt=v/(nx・a)に設定されることになるものと認められる(ちなみに、引
用例1に「曲面断層撮影の断層撮影軌道面は、被写体の周りを回動するX線源の移
動速度と、透過X線を受けとめるフィルムの送り速度との相対的関係により規定さ
れるが、本発明によればアームの回転速度に対し、メモリ内の情報をシフトする転
送距離(・・・)を調整して映像すべき断層軌道面を設定しているのである。」
(審決9頁2行~8行)との記載があるとおり、引用例1記載の考案も、従来のフ
ィルム送り速度との関係を認識していることは明らかである。)。
オ 以上のとおりであるから、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を
適用して、「CCDセンサと接続されたクロック発生器を備え、A-D変換器がC
CDセンサのシフトレジスタと接続され、前記CCDセンサは、クロック発生器に
より関係式 fTakt=v/(nx・a) によりクロック制御されることにより
TDI(Time-Delay-Integration)法により駆動され、像情報の積分は、シンチレ
ータに生ずる光像がCCDセンサの表面上に結像され、それにより生ずる電荷像が
前記のクロック列 fTakt=v/(nx・a)で像帯域からメモリ帯域へ伝送さ
れ、その後に行ごとにシフトレジスタ(11c)を介してクロックアウトすること
により行われる」との相違点に係る構成を得ることは、当業者がきわめて容易にな
し得たことというべきである。
(2) 参加人は、本願第1考案が、クロック周波数を時間的に変化させるという
構成を備えていると主張し、これを前提として、引用例1記載の考案に引用例2記
載の考案を適用しても、クロック周波数を時間的に変化させるという構成にはなら
ないと主張する。
ア 実用新案登録の要件を審理する前提としてされる実用新案登録出願に係
る考案の要旨の認定は、当業者において実用新案登録請求の範囲の記載の技術的意
義を一義的に明確に理解することができないとか、あるいは一見してその記載が誤
記であることが明細書の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど、考案の詳
細な説明あるいは願書添付の図面の記載を参酌することが許される特段の事情のな
い限り、実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。これを本件
についてみると、本願第1考案の実用新案登録請求の範囲には、クロック周波数を
時間的に変化させるものに限定される趣旨の記載はなく、また、クロック周波数の
時間的変化に関して、考案の詳細な説明あるいは願書添付の図面の記載を参酌する
ことが許されるような特段の事情も認められない。したがって、参加人の主張は、
前提を欠くものであって、失当である。
イ のみならず、本願明細書の考案の詳細な説明の欄あるいは願書添付の図
面にも、本願第1考案が、クロック周波数を時間的に変化させるものに限定される
趣旨の記載はない。参加人は、本願第1考案においてクロック列が時間的に変化す
ることの根拠として、本願明細書の、「通常15kHzであるCCDセンサの標準
クロック列が、たとえば20msのCCD要素の像積分時間(tBA)の間に行が従
来の撮影技術におけるフィルム速度に相応するクロックレート(fTakt)で像帯
域のなかへシフトされるように変更される。像積分時間(tBA)の間に電荷像は像
帯域のなかでたとえば0.1mmと1mmとの間変化する。」(18頁17行~19
頁3行)との記載を挙げる。しかし、上記記載は、考案の詳細な説明の欄の実施例
中の「二次スリットを通り過ぎるフィルムの積分挙動をCCDセンサにより電子的
に模擬する第2の方法は下記の方法である。」(甲第2号証18頁14行~16
行)との記載に続くものであって、実施例の、しかも「第2の方法」についての説
明にすぎないから、本願第1考案が、上記記載により説明されるものに限定される
ということはできない。
ウ また、参加人は、甲第8ないし第12号証刊行物を根拠として、歯列弓
の断層撮影においてフィルム速度を可変することが周知かつ自明であったと主張す
る。しかし、上記各証拠は、特許出願公開公報、特許出願公告公報や雑誌の論文で
あって、これらに記載されている「歯列弓の断層撮影においてフィルム速度を可変
とすること」が周知であるということはできるけれども、これらの記載をもって、
「歯列弓の断層撮影」は「フィルム速度を可変とすること」に限定されるものと認
めることはできない。
エ なお、「歯列弓の断層撮影においてフィルム速度を可変すること」は周
知であるから、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用するに当たり、従
来の断層撮影技術におけるフィルムの速度vが可変であるという周知技術を前提
に、クロック周波数を時間的に変化させる構成とすることは、当業者がきわめて容
易になし得たことというべきである。参加人の主張は、この点でも理由がない。
(3) また、参加人は、本願第1考案のクロック周波数が時間的に変化すること
を前提として、引用例2には、断層画像を作成するためにクロック周波数が変化す
るようにすることは全く示唆されていないから、引用例1記載の考案に引用例2記
載の考案のTDI法を適用しても、顎のパノラマ断層画像は得られないと主張す
る。
 しかし、この主張が認められないことは、上述したところに照らして明ら
かである。
 なお、引用例1記載の考案は、「患者の顎のパノラマ断層撮影のための歯
科用X線診断装置であって、光像に対応する電荷像は検出器平面における時間的に
連続する像の場所的にずれた積分により1つの全電荷像に加算され、」との構成を
備えているのであるから、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案のTDI法を
適用すれば、電荷像が、検出器平面における時間的に連続する像の場所的にずれた
積分により1つの全電荷像に加算され、断層像が計算されることになることは明ら
かである。
3 以上のとおりであるから、参加人主張の審決取消事由はいずれも理由がな
く、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並
びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7
条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官山  下  和  明
          裁判官 山  田  知  司
          裁判官宍  戸     充
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