弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
       1 本件控訴をいずれも棄却する。
       2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら(控訴の趣旨)
(1) 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人Aに対し,金198万7461円及びこれに対する平成1
0年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,控訴人Bに対し,金277万1146円及びこれに対する平成1
0年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人は,控訴人Cに対し,金145万円及びこれに対する平成9年4月2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(6) 控訴人Cにつき,仮執行宣言
2 被控訴人
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,タクシー運転手である控訴人ら(原審原告ら)が雇用主(タクシー会
社)である被控訴人(原審被告)に対し,控訴人らが受領している給与において,
健康保険,厚生年金保険及び雇用保険の各保険料の事業主負担分につき,「公課
費」名目で控除されているのは強行法規である各保険法,労働基準法24条に違反
する違法な行為であるなどと主張して,故意又は過失による不法行為責任(民法7
09条)ないし債務不履行責任(民法415条)に基づく損害賠償を請求している
事案である。
  原審において,控訴人Aは前記第1の1の(2)記載の金員,控訴人Bは金279
万0025円及びこれに対する平成10年1月22日から支払済みまで年5分の割
合による金員,控訴人Cは前記第1の1の(4)記載の金員の各支払を被控訴人に対し
それぞれ求めたが,原判決は,控訴人Bにつき金1万8879円及びこれに対する
平成10年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で請求を認
容し,控訴人Bのその余の請求並びに控訴人A及び控訴人Cの請求をいずれも棄却
した。
  そこで,これを不服とする控訴人らが本件控訴に及んだ。なお,原審におい
て,控訴人Cは,健康保険,厚生年金保険及び雇用保険の各保険料の事業主負担分
が「公課費」名目で控除されていることに関して,不当利得であるとの主張をして
いたが,当審においてはこの主張を撤回し,他の控訴人らと同様に,不法行為責任
(民法709条)ないし債務不履行責任(民法415条)に基づく主張に変更し
た。
2 当事者双方の主張は,次のとおり訂正し,3項のとおり控訴人らの当審におけ
る補充主張を付加するほか,原判決の事実中の「第二 当事者の主張」記載のとお
りであるから,これを引用する。ただし,原判決中の原告D及び被告三和交通株式
会社に関する部分を除く(以下,原判決を引用する場合は同じ。)。
 (1) 原判決11頁3行目の「不当利得(原告Cについて)」を「控訴人Cについ
ての不法行為ないし債務不履行」と改める。
 (2) 原判決11頁9行目の「不当利得として返還する義務」を「不法行為ないし
債務不履行として賠償する義務」と改める。
 (3) 原判決13頁3行目の「不法行為,債務不履行ないし不当利得」を「不法行
為ないし債務不履行」と改める。
 (4) 原判決17頁4行目の「不当利得による損失額」を「控除相当額の損害」と
改める。
 (5) 原判決17頁10行目の「原告A及び同B」を「控訴人A,同B及び同C」
と改める。
 (6) 原判決の17頁末行目の「前記請求の趣旨」から18頁2行目の「右損害賠
償金として,」までを削除する。
 (7) 原判決24頁末行目の「原告A及び同B」を「控訴人A,同B及び同C」と
改める。
3 控訴人らの当審における補充主張
  (1) いわゆるリース方式を採用している他のタクシー会社では,運収から管理
費その他の経費を控除して賃金を定めているが,その他の経費は,まさに経費(実
費)であり,管理費こそがタクシー会社の利益となっているのである。そして,こ
の管理費の中から,社会保険料の事業主負担分を負担しているのが一般的である。
    これに対して,被控訴人は,他のタクシー会社とは異なって,管理費のほ
かに,「公課費」を設けて,社会保険料の事業主負担分をそっくりそのまま,労働
者に負担させている。これは,過去及び現在の労働によって直接・間接に形成され
る事業収益から負担させるものではなく,まさしく,当の労働者に当の労働者にか
かる事業主負担分を負担させるものである。
  (2) 被控訴人においては,タクシー運転手以外の従業員についての社会保険料
の事業主負担分は,他の民間企業と同様に,過去及び現在の労働によって直接・間
接に形成される利益の中から支払われている。しかしながら,控訴人らタクシー運
転手については,まさに現在働いているその当人の運収から事業主負担分が控除さ
れ,負担させられている。これは明らかな差別であり,この差別には合理性はな
い。
  (3) 以上からいって,被控訴人が採用している控訴人らタクシー運転手につい
ての賃金算出方法は,社会保険料の事業主負担を定めている法の趣旨を没却するも
のであり,違法であるというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所の認定判断は,次のとおり訂正し,2項において,控訴人らの当審に
おける補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の理由中の一ないし六記載
のとおりであるから,これを引用する。当審で新たに取り調べた証拠を合わせ検討
しても,上記認定判断を左右しない。
 (1) 原判決47頁末行目の「同A及び同B」を「控訴人A,同B及び同C」と改
める。
 (2) 原判決の48頁9行目から49頁2行目までを削除する。
2 控訴人らの当審における補充主張に対する判断
 (1) 健康保険法72条本文,厚生年金保険法82条1項及び労働保険の保険料の
徴収等に関する法律30条5項の各規定は,各保険料の2分の1は事業主が負担す
ることを定めているが,事業主は,賃金はもとより事業活動を行うに必要な諸経費
の財源をその事業活動の収益に求めざるを得ないのであるから,上記の諸規定も,
社会保険料の事業主負担分を労働者の労働によって得られる収益から捻出するする
ことを当然是認しているものと解される。
 (2) ところで,証拠(乙5ないし7,21号証,原審証人Eの証言並びに原審及
び当審における被控訴人代表者尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人
に雇用されるタクシー運転手の賃金算出方式は,原価計算方式又はリース方式とい
われるものであり,その具体的内容は,毎月の運転手の運収(売上高)に一定の基
準額(仕切額と称され,昭和62年当時は32万円,平成3年から平成5年当時は
35万円であった。)を設け,その中から一定額の基本経費(運転手を除く従業員
の給与,事務所諸経費,車両償却費などの経費に充てる費用)や定額又は実費相当
額の車検費,燃料費,タイヤ償却費,修理費のほか,公課費として健康保険,厚生
年金保険,雇用保険などの社会保険料の事業主負担分を控除し,その残額を給与と
賞与の原資に充て,基準額を上回る額については,その5パーセントを諸経費の名
目で会社が取得して利益に充て,残りの95パーセントは運転手の給与,賞与の原
資とする,というものである。
 (3) 以上の賃金算出方法は,定額賃金を基本とする一般企業のそれとは基本的構
造を異にするものであり,賃金を確定することなく,事業収益(売上高)を事業主
と運転手の間でどのように配分するかを事前に定めている点において,きわめて特
異な面があることを否定できない。そして,運転手の賃金は,自己の運収(売上
高)によって大きく左右され,基準額(仕切額)の範囲では,事業主が事業経費を
優先的に確保していることから,その点では運転手に不利であるが,基準額(仕切
額)を超える運収をあげれば,その大部分を運転手が自己の収入として取得できる
から,被控訴人の賃金算出方式が運転手に一方的に不利益であるとまではいうこと
はできない。
 (4) 控訴人らは,被控訴人が社会保険料の事業主負担分を運転手(労働者)に負
担させていると主張するが,上記のとおり,被控訴人においては,運収(売上高)
に対する事業主と運転手の配分を事前に定め,社会保険料の事業主負担分相当額は
公課費の名目で事業主に配分することとなっていて,運転手に配分されることにな
っている分から控除されている訳ではないのであるから,控訴人らの主張は失当で
ある。
   控訴人らは,同じ賃金算出方法を採用する他のタクシー会社では,社会保険
料の事業主負担分を控除していないと主張するが,要は,運収(売上高)を事業主
と運転手の間でどのように配分するかの問題であり,労使の間でその配分が合意さ
れている以上,他のタクシー会社のそれがどうであるかは,本件に関係のないこと
である。それに,弁論の全趣旨によれば,他のタクシー会社でも,社会保険料の事
業主負担分と明示はしないものの,他の名目で事業主負担分を事業主に配分すべき
経費分として運収の中から控除していることが窺われるところである。
 (5) 控訴人は,被控訴人の運転手以外の従業員については,他の民間企業と同様
に被控訴人の収益(利益)の中から社会保険料の事業主負担分が賄われており,不
合理な差別であると主張する。しかし,証拠(原審における被控訴人代表者尋問の
結果)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人の運転手以外の従業員の賃金は,定額
であって,会社の収益によって増減されるものでないことが認められるのであるか
ら,かかる賃金体系を異にする従業員間の取り扱いの差異をもって,不合理な差別
ということはできない。
 3 結論
  以上によれば,控訴人らの本訴請求は,控訴人Bにつき,不法行為に基づく損
害賠償として,1万8879円及びこれに対する不法行為後である平成10年1月
22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由
があるから,この限度で控訴人Bの請求を認容し,控訴人Bのその余の請求並びに
控訴人A及び控訴人Cの請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
  よって,これと結論を同じくする原判決は相当であり,本件控訴は理由がない
からこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
   名古屋高等裁判所金沢支部第1部
     裁判長裁判官    川崎和夫
     裁判官源 孝治
      裁判官榊原信次  
     

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