弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告が平成16年2月26日付けで原告の平成13年分及び平成14年分の
所得税についてした各更正処分(ただし,いずれも裁決により一部取り消され
た後のもの)のうち,別紙1「確定申告」欄記載の各納付すべき税額を超える
部分及び各過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも裁決により一部取
り消された後のもの)の全部を取り消す。
2被告が平成16年2月26日付けで原告の平成13年1月1日から同年12
月31日まで及び平成14年1月1日から同年12月31日までの各課税期間
の消費税及び地方消費税の各更正処分(ただし,いずれも裁決により一部取り
消された後のもの)のうち,別紙2「確定申告」欄記載の各納付すべき消費税
額及び地方消費税額を超える部分並びに各過少申告加算税賦課決定処分(ただ
し,いずれも裁決により一部取り消された後のもの)の全部を取り消す。
第2事案の概要
本件は,法律事務所を経営する弁護士である原告が,所得税について各更正
処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受け,かつ,消費税及び地方消費
税(以下「消費税等」という。)の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課
決定処分を受けたことから,これらの各更正処分の一部取消しと過少申告加算
税の各賦課決定処分の全部取消しを求めている事案である。
1前提事実(顕著な事実及び当事者間に争いのない事実)
(1)原告は,平成4年4月,神奈川県相模原市内で法律事務所を開設した弁
護士である。
(2)ア原告は,平成13年分及び平成14年分の所得税について,青色の確
定申告書に別紙3「課税処分の経緯(所得税)」の「平成13年分」及び
「平成14年分」の各「確定申告」欄のとおり記載して,いずれも法定申
告期限までに申告した。
イ処分行政庁は,これに対し,平成16年2月26日付けで上記アの各年
分の所得税について,別紙3「課税処分の経緯(所得税)」のとおりの各
更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をした。
ウ原告は,上記イの各処分を不服として,平成16年4月1日,審査請求
をした。
(3)ア原告は,平成13年1月1日から同年12月31日まで及び平成14
年1月1日から同年12月31日までの各課税期間の消費税等について,
確定申告書に別紙4「課税処分の経緯(消費税)」「平成13年分」及び
「平成14年分」の各「確定申告」欄のとおり記載して,いずれも法定申
告期限までに申告した。
イ処分行政庁は,これに対し,平成16年2月26日付けで上記アの各課
税期間の消費税等について,別紙4「課税処分の経緯(消費税)」のとお
りの各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をした。
ウ原告は,上記イの処分を不服として,平成16年4月1日,異議申立て
をしたところ,異議審理庁が,これを国税通則法89条1項の規定により
審査請求として扱うことが適当であると認め,その旨異議申立人である原
告に通知し,原告がこれに同意したため,同年6月14日付けで裁決庁に
審査請求がされたものとみなされた。
(4)前記(2)ウ及び(3)ウの各審査請求について,平成17年3月14日付け
で,別紙3「課税処分の経緯(所得税)」及び別紙4「課税処分の根拠(消
費税)」の各「審査裁決」欄のとおり,裁決がされた。これによれば,平成
13年分及び平成14年分の所得税についてした各更正処分及び各過少申告
加算税賦課決定処分並びに平成13年1月1日から同年12月31日まで及
び平成14年1月1日から同年12月31日までの各課税期間の消費税等の
各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分は,一部取り消された。
(5)原告は,平成17年9月9日,上記(4)の裁決のうち,原処分を維持した
部分について,本件の取消訴訟を提起した(顕著な事実)。
2本件における課税の根拠は,別紙5「課税の根拠」記載のとおりである(た
だし,所得税の課税根拠のうち事業所得額について,当事者間に争いがある。
また,消費税等のうち,平成13年の返還等対価に係る税額並びに平成14年
の控除対象仕入税額,中間納付税額及び中間納付譲渡割額については当事者間
に争いがないが,その余の項目に記載された税額については,当事者間に争い
がある。)。
3争点
本件の主要な争点は,原告の事業所得に係る弁護士報酬の額を総収入金額に
算入すべき時期である。
争点に関する当事者の摘示すべき主張は,後記第3「争点に対する判断」に
記載するとおりであるが,その要旨は,次のとおりである。所得税及び消費税
等を通じて,まず,①着手金の収入計上時期について,被告は,委任契約時に
着手金請求権が確定する旨主張するのに対し,原告は,着手金請求権は,人的
役務の提供が完了されたときに収入として計上すべきである旨主張する。また,
②報酬金の収入計上時期について,被告は,弁護士が受任した事件の処理が終
了し依頼者に報酬金を請求した時に報酬金請求権が確定する旨主張するのに対
し,原告は,報酬金について具体的な合意がないことが多く,こうした場合に
は,弁護士と依頼者が事件の処理が終了した後改めて合意に達した時に収入と
して計上すべきである旨主張する。原告はさらに,着手金と報酬金を通じて,
多重債務者の債務整理事件の場合には着手金ないし報酬金請求権を回収できな
い可能性が高いことから,そもそもこれらの金員が現実に支払われた段階で収
入として計上すべきである旨主張する。
なお,以上のほか,後記第3の5(3)のとおり,個別の依頼者に係る着手金,
報酬金等請求権の有無及び金額について,争いがあるものもある。
第3争点に対する判断
1収入金額の計上時期の基本的考え方について
まず,所得税及び消費税等を課税する上での収入金額の計上時期の基本的考
え方について検討する。
(1)弁護士報酬について,原告は,弁護士報酬のうち,着手金は着手時に,
報酬金は事件が終了した後成功度合いに応じて,それぞれ一括して支払われ
るのが通常であったが,多重債務事件などにおいて分割払が励行されるよう
になったことなどから,契約締結時に着手金を受領し,事件終了後請求書を
発行することにより報酬金が受領できるとは限らなくなったのみならず,こ
うした多重債務事件では,分割払の定めがあっても,実際に弁護士費用を回
収することは困難になってきており,こうした事情の下では,弁護士報酬に
ついては,現金主義が適用される慣習があるというべきであり,また,そう
でなくとも,所得税法36条1項の解釈において,①金額に対する具体的合
意が成立し,②事件が解決し役務の提供が完了し,かつ,③法的手段に訴え
て履行を求めることが法律上,社会通念上可能となった場合に初めて,弁護
士報酬が「その年において収入すべき金額」に当たるというべきである旨主
張する。
(2)しかしながら,所得税法は,一暦年を単位としてその期間ごとに課税所
得を計算し,課税を行うこととしており,同法36条1項が,右期間中の総
収入金額又は収入金額の計算について,「収入すべき金額による」と定め,
「収入した金額による」としていないことからすると,同法は,現実の収入
がなくても,その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には,その時
点で所得の実現があったものとして,同権利発生の時期の属する年度の課税
を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解さ
れる。これは,所得税が,経済的な利得を対象とするものであるから,究極
的には実現された収支によってもたらされる所得について課税するのが基本
原則であり,ただ,その課税に当たって常に現実収入の時まで課税できない
としたのでは,納税者の恣意を許し,課税の公平を期し難いので,徴税政策
上の技術的見地から,収入すべき権利の確定したときをとらえて課税するこ
ととしたものであり(最高裁判所昭和49年3月8日第二小法廷判決民集2
8巻2号186頁参照),ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期
はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである(最高裁判所昭
和53年2月24日第二小法廷判決民集32巻1号43頁)。
そして,弁護士報酬について,原告が上記(1)のとおり主張する内容をも
ってしては,上記の考え方を採らずに現金主義が適用されるべきであるとま
ではいえない。原告の当該主張するところは,具体的な検討に当たって,上
記の権利が確定する時期がいつになるかという問題において検討されるべき
ものである。
また,国税通則法15条2項7号は,消費税は,課税資産の譲渡等をした
時に納税義務が成立する旨定めており,消費税法2条1項8号によれば,事
業として対価を得て行われる役務の提供もここにいう課税資産の譲渡等に含
まれるところ,この課税資産の譲渡等が行われた具体的な時期の判断につい
ても,同様に,上記の考え方を踏まえ,課税資産の譲渡による対価や役務の
提供による報酬を収受する権利が確定した時点で課税資産の譲渡等があった
とすることを原則としつつ,取引の実態に応じて個別的に検討するのが相当
である。
そこで,以下,弁護士報酬等につき,原告が依頼者から受領した金員の内
容に応じて検討することとする。
2着手金について
そこで,まず,これを着手金について検討する。
(1)ア被告は,上記着手金の収入計上時期について,以下のとおり主張する。
すなわち,所得税基本通達36−8は,人的役務の提供(請負を除く。)
による収入が,その人的役務の提供を完了した日に生ずるものとする一方
で,人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応
じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の
提供の程度等に対応する報酬については,その特約又は慣習によりその収
入すべき事由が生じた日とする旨規定している。本件で問題となっている
前記第2の1(2)アの各申告当時における原告の所属するP1弁護士会の
報酬規程によれば,着手金は事件等の依頼を受けたとき支払を受けるもの
とされており,原告も,依頼者との間で締結する民事事件又は刑事事件等
の処理に関する委任契約(以下「受任契約」ともいう。)において,同旨
の合意をしている。こうした事情によれば,原告は,受任契約に基づき,
受任契約締結時において,依頼者に対して当該委任契約において定められ
た着手金の全額を請求する権利を確定的に取得する。
イまた,被告は,着手金が人的役務の提供の過程において発生するもので
はなく,事件等の依頼を受けたときに支払を受ける性質の金員として支払
われるものであるから,たとえ分割払特約が付されたとしても,それは単
にその支払方法を定めたものにすぎず,委任契約締結時に既に権利が確定
しているというべきであるとも主張する。
(2)証拠(乙1,29)及び弁論の全趣旨によれば,弁護士報酬の種類とし
ては,一般に,法律相談料,書面による鑑定料,着手金,報酬金,手数料,
顧問料及び日当があること,このうち,着手金とは,事件又は法律事務(以
下「事件等」という。)の性質上,委任事務処理の結果に成功不成功がある
ものについて,その結果のいかんにかかわらず受任時に受けるべき委任事務
処理の対価をいうこと,及び,着手金は,事件等の依頼を受けたときに支払
を受けるものであることが認められる。このように,着手金は,ほかの種類
の弁護士報酬と異なり,事件等の結果のいかんにかかわらず,委任事務処理
が開始される前に支払を受けるものであり,その金額も受任時に確定される
ことによれば,弁護士が依頼者から事件等を受任した時点で収入の原因とな
る権利が確定するとみるのが自然である。
(3)これに対し,原告は,着手金は,事件の受任時に依頼者から支払われる
が,その性質は,委任事務処理の対価,すなわち,弁護士としての人的役務
の提供の対価であるから,着手金請求権は,事件等の処理という人的役務の
提供が完了するまで確定しないとして,着手金が現実に支払われた時点で,
収入として計上する慣習があり,また,権利確定主義の解釈としても,着手
金が現実に支払われた時点で収入として計上するべきである旨主張し,甲1
76,185にはこれにそう部分がある。
アそこでまず,原告のこの主張について検討すると,仮に原告主張のよう
に,着手金は役務の提供があって初めて収入として計上されるとするなら
ば,原告が受領した着手金について,役務の提供が既にあり,収入に計上
される分と,役務の提供が未了で,収入に計上されない分に配分しなけれ
ばならないはずであるが,本件全証拠によっても,このような会計処理が
原告のみにとどまらず弁護士一般によって行われている形跡はうかがわれ
ない。
また,前記のとおり原告が第一義的に主張するように,着手金について
現金主義を採用するならば,着手金が受任契約締結時に一括して支払われ
たときには,その時点で役務の提供がないにもかかわらず,当該着手金を
収入として計上することになり,着手金が人的役務が提供されるまで確定
しないという原告の上記主張と相いれないことになってしまう。原告本人
の供述には,このような場合には,管理支配基準を採用することになると
する部分があるが,このように複数の基準を適用すべき合理的根拠を見い
だすことはできない。
さらに,着手金が分割で支払われる場合には,予想される業務進捗状況
に対応するように,分割払の日程及び方法を定めることも十分可能である
と考えられるが,このような配慮が行われた形跡もうかがわれない。この
ことに照らすと,着手金について分割払の定めがあったとしても,それは
単に着手金の支払方法を定めたものにすぎず,受任時に支払われる金員で
あるという着手金の本質を変更するものではなく,着手金に係る権利の確
定時期を左右するものではないというべきである。
こうした事情に照らすと,原告の主張にそうような慣習があるというこ
とはできないし,原告の主張のような扱いに合理性があるともいえない。
イなお,この点に関し,原告は,当時のP1弁護士会報酬規程(甲12,
乙1)44条1項において,受任契約に基づく事件等の処理が,解任,辞
任又は委任事務処理の継続不能により,中途で終了したときは,弁護士は,
依頼者との協議の上,委任事務処理の程度に応じて,受領済みの弁護士報
酬の全部若しくは一部を返還し,又は弁護士報酬の全部若しくは一部を請
求する旨定められていることを指摘する。
しかしながら,受任後の事情により,着手金の全部又は一部について返
還義務が生じたとしても,それは所得税法の規定に従い,別途処理すれば
足りるものであるから,原告指摘の上記事実は,着手金を収入として計上
する時期を左右するものでない。
また,証拠(甲11,16の1・2,17の1・2,20の1・2,2
8の1・2,79の1・2,117の1・2並びに甲14,15,18,
19,21ないし27,29ないし39,42ないし49,51,53な
いし58,60,62,64,65,67,68,70ないし78,80
ないし85,87,88,90,92ないし95,97,103,104,
106,107,110ないし116,118,122ないし124,1
26,130ないし133,135,136,138,140ないし14
2,144ないし146,149ないし151,153,154,156,
157,159,163及び164のいずれも各枝番1)によれば,原告
が依頼者との間で交わしていた契約書には,「既払いの着手金については,
理由の如何を問わず,返還を求めることができない。」との定型文言が記
載されていたことが認められる(なお,原告は,平成16年に自由化され
るまでは,弁護士と依頼者との間で弁護士の報酬を勝手に決めることはで
きず,所属弁護士会の報酬規程に従うことが要請されており,上記定型文
言がP1弁護士会報酬規程に反し無効である旨主張するが,依頼者と及び
関係においては,弁護士報酬について同規程を離れて独自の合意をするこ
とに何ら法的な制限はなく,原告が実際に上記契約書を使用して受任契約
を締結し,それに当たって何ら留保していた形跡がうかがわれないことか
らすれば,この主張は,採用の限りではない。)。のみならず,甲19の
2及び140の2によれば,原告は,辞任した後に,依頼者との合意によ
り着手金ないし概算実費の一部を返還したことがあることが認められるも
のの,甲14の2・3,18の2・3,21の2,70の2・3,140
の3及び原告本人によれば,原告が中途で事件等に関する委任事務処理を
終了した場合であっても,着手金の全部又は一部を返還しなかった例もあ
ることが認められる。これらのことによれば,必ずしも上記規程に従った
扱いが慣習となっていたということはできないから上記報酬規程の定めの
存在によっても前記(2)の判断を覆すに足りない。
ウさらに,原告は,多重債務者の債務整理の場合には,弁護士に一時金を
支払う余裕がない者が多いため,事件終了時までに何回かの分割払を行わ
ざるを得ないことが少なくなくなってきているが,こうした場合,弁護士
が受任したことによって債権者からの圧力が一時的にせよなくなると,約
束どおりに分割の着手金を支払わなくなる依頼者が少なくなく,分割金が
約束どおりに支払われない事態がしばしば起こるが,これらの分割金の支
払を求めて,弁護士が依頼者に対し法的手段をとるよう求めることは弁護
士の公益的地位にかんがみ相当でなく,破産手続により免責が認められた
場合には法的にも取り立ては不能となり,弁護士がこれを貸倒れ処理をす
ることも現実的には困難であるとして,債務整理事案等で着手金の支払が
分割で行われる場合には,分割金が現実に支払われた時点で,収入として
計上されるべきである旨主張し,甲10,180,184,185ないし
187及び191ないし194,乙21並びに原告本人には,これにそう
部分がある。そして,原告は,このような観点は,多重債務者などの貧困
者に対する司法アクセスを確保するため,極めて重要なことであると位置
づけて主張している。
しかしながら,着手金を任意に支払うかどうかは当該依頼者の個人的な
属性によるところが大きく,多重債務者の債務整理の場合であっても,一
概に着手金が任意に支払われないと言い切ることはできない。のみならず,
権利確定主義の下では一般に,一定額の金銭の支払を目的とする債権は,
その現実の支払がされる以前に当該支払があったのと同様に課税されるこ
ととなり(換言すれば,権利確定主義の下において金銭債権の確定的発生
の時期を基準として所得税を賦課徴収するのは,実質的には,いわば未必
所得に対する租税の前納的性格を有するものである。),課税後に至りそ
の債権が貸倒れ等によって回収不能となった場合には,所得税法52条2
項などによって,これを是正することは,当然に想定されているものであ
る。また,取引先に対し支払の催告や請求等を行うことは,事業者の債権
管理として当然に想定される内容であり,弁護士の活動が公益的な性格を
有するとしても,一般の事業者と同様に債権管理を行うことは,その方法
において相応の配慮があってしかるべきであるとはいえ,やむを得ないこ
とに照らせば,多重債務整理事件で依頼者が着手金を任意に支払わない可
能性がほかの受任事件に比べ一般的に高いと予想されるとしても,前記
(2)の判断を左右するに足りない。なお,後記4(4)イのとおり,実際,原
告は,免責決定後,依頼者に対し,未収着手金を請求し回収しているとこ
ろであり,以上のように考えることが,本件の具体的事案を離れて,原告
が主張するように,直ちに貧困者の司法アクセスを確保できなくするとい
うことに繋がるということもできない。
(4)以上によれば,着手金請求権は,受任時において確定したというべきで
ある。したがって,着手金は,事件等の処理について委任契約が締結された
日の属する年の収入に計上すべきものと解するのが相当である。また,消費
税についても,事件等の処理について委任契約が締結された日の属する期間
に資産の譲渡等があったとみることができると解するのが相当である。
3概算実費について
原告は,破産免責申立事件等において,受任時に概算実費の支払を受けてい
るところ,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,これは,通常の郵券,交通費,
送料等に充てることが想定される金員で,事件終了後清算を予定されていない
ものであることが認められる。
原告は,これについても,着手金と同様に,現実の支払があった時点で収入
として計上すべきである旨主張するが,同金員の支払が委任契約において合意
され,かつ,事件終了後清算を予定されていないことにかんがみると,その内
容は,委任契約において確定するというべきであるから,受任時に収入として
計上し,また,同時点で資産の譲渡等があったと解するのが相当である。
4報酬金について
(1)被告は,報酬金について,原告が受任契約上,依頼者との間で,依頼者
は事件が終了した時に,P1弁護士会報酬規程に基づいて原告が依頼者に請
求する金額を報酬金として支払う旨の合意をしていることから,受任契約に
基づき,当該事件の処理が終了した後,原告が同報酬規程に基づいて依頼者
に報酬金を請求した時に,当該請求額の報酬金請求権を確定的に取得すると
いうべきであり,権利確定主義に照らして,その金額は,当該請求の日の属
する年分の収入金額に算入されるべきである旨主張する。
(2)そして,証拠(乙1,29)及び弁論の全趣旨によれば,弁護士の報酬
のうち,報酬金は事件等の性質上,委任事務処理の結果に成功不成功がある
ものについて,その成功の程度に応じて受ける委任事務処理の対価をいい,
事件等の処理が終了したときに,それぞれ支払を受けるものとされており,
その額は,委任事務処理により確保した経済的利益の額をそれぞれ基準とし
て算定することが原則とされていることが認められる。
このことによれば,報酬金請求権は,委任事務処理が終了し,原告が依頼
者に対し報酬金を請求した時に,権利として確定するというべきである。
(3)原告は,報酬金は,成功結果が得られない限り取得できない報酬であり,
通常の場合,事件を着手する段階では確定しておらず,しかも,多くの場合
には「P1弁護士会規程に基づく額」,「P1弁護士会の報酬規程に基づい
て乙(弁護士)が甲に請求する金額」などの抽象的な定めしかなく,事件が
終了したからといって直ちに金額が自動的に確定するものではないため,事
件完結時において,弁護士と依頼者との間で,事件の難易,経済的利益,労
力の程度,依頼者との関係等を踏まえ,成功結果の評価を巡り報酬内容を確
定するための協議が必要であり(なお,弁護士から請求書を発信したという
だけでは報酬金額に関する合意が成立したということはできない。),報酬
金額に関する合意が成立しない限り,報酬金債権が確定したといえない旨主
張する。
しかしながら,証拠(甲11ないし13,16の1・2,17の1・2,
20の1・2,28の2,79の1・2並びに甲14,15,18,19,
21,22,24,25,27,33,35ないし37,39ないし44,
47ないし49,51,53ないし56,62ないし65,67,68,7
0,72ないし78,80ないし85,88,92ないし94,97,10
1,103,104,106,107,109,126ないし128,13
0ないし133,135ないし137,140,142,144ないし14
6,149及び150のいずれも各枝番1)によれば,平成13年から14
年にかけての当時,各単位弁護士会において報酬規程を定め,その中で,報
酬金の原則的な算定方法を定めており,原告と依頼者との契約で同規程を引
用していたことが認められる。このことと,前記(1)のとおり,報酬金は委
任事務処理の成功の程度に応じて,同事務処理により確保した経済的利益の
額を基準として算定されるものであり,受任時にあらかじめ具体的な金額を
定めることが性質上困難であることを併せ考慮すると,受任契約に報酬金額
として具体的な金額を明示していなかったとしても,当事者間には報酬金額
を上記算定方法に従って決められた相当額にする旨の合意があるというべき
であり,したがって,報酬金請求権の内容は,委任事務処理が終了し,弁護
士が依頼者に対し報酬金を請求した時点で確定されたものと考えられる。
さらに,①原告が依頼者との間で締結した委任契約において,委任事務処
理終了後報酬金について改めて協議する旨の文言がなく,かえって,報酬金
額をP1弁護士会報酬規程に基づいて原告が依頼者に請求する金額とするこ
とを想定している定型文言が記載された契約書があること(前段落掲記の甲
号各証。ただし,甲13,40の1,41の1,63の1,109の1及び
137の1を除く。),②原告が,依頼者に送付した請求書に記載された金
額が原告の希望にすぎず,この点について改めて合意する予定であることこ
とを依頼者に説明した形跡がうかがわれないこと及び③原告が一部の報酬金
を預り金債務と相殺する旨の意思表示をしているところ(甲33,49,5
6,90,93,100,101,126,145,147,150,15
9,乙10(いずれも枝番を含む。)など),これが,報酬金に関する依頼
者との間の何らかの合意に基づくものであったと認めるに足りる証拠がない
こと等の事情によれば,原告としても,当時,委任事務処理の終了後合意が
なくとも報酬請求権が権利として確定したものとして取り扱っていたと推認
できるのであるから,原告の上記主張は採用できない。
(4)また,原告は,多重債務者の整理事件の場合,弁護士は,成功報酬の分
割収受を認めているが,法的手続が採られ,債権者からの追及を受けなくな
ると,弁護士報酬も支払わなくなる依頼者が少なくなく,分割金が約束どお
りに支払われない事態がしばしば起こるが,これらの報酬金の支払を求めて,
弁護士が依頼者に対し法的手段をとるよう求めることは弁護士の公益的地位
にかんがみ相当でなく,弁護士がこれを貸倒れ処理をすることも現実的には
困難であるとして,人的役務の提供が完了し,報酬金額の合意がされていた
としても,現実の回収がされるまでは,報酬金について,権利が確定したと
いうことはできない旨主張する。そして,ここでも,原告は,このような観
点は,多重債務者などの貧困者に対する司法アクセスを確保するため,極め
て重要なことであると位置づけて主張している。
アしかしながら,まず,仮に依頼者の任意の弁済が見込めないことがある
としても,前記1(2)のとおり,権利確定主義の下では一般に,一定額の
金銭の支払を目的とする債権は,その現実の支払がされる以前に右支払が
あったのと同様に課税され,課税後に至りその債権が貸倒れ等によって回
収不能となった場合には,別途対応することが予定されているのであるか
ら,直ちに,現実の入金がないと権利が確定しないということはできない。
のみならず,前記2(3)ウと同様に,弁護士報酬金を任意に支払うかどう
かは当該依頼者の個人的な属性によるところが大きいのであり,こうした
依頼者の不確定な属性を基準として権利確定時期を決することは,恣意的
な運用を招くおそれがあり,相当でない。
イ(ア)次に,免責申立事件の委任契約について検討するに,免責申立事件
においては免責決定が確定し,同手続が終了することによって,委任事
務処理が終了し,報酬金請求権が発生すると考えられる。証拠(甲11,
13,17の1・2,20の2,28の2,79の1・2並びに甲14,
15,18,19,22,23,25ないし27,29,30,35な
いし37,39ないし44,47,48,50,53,55ないし59,
61ないし78,81,83ないし86,88,89,91,92,1
04,106,109ないし116,118ないし125,130ない
し132,135ないし138,141,143,144,146,1
49,151,152,154,156ないし159,164のいずれ
も各枝番1)によれば,原告と依頼者との間で,免責申立事件が終了し
たとき,又は免責決定が得られたときに報酬金を支払うものとする旨合
意しているものがあることが認められるところ,こうした合意も,上記
検討でみたところと同趣旨のものと解される。
(イ)そして,証拠(甲104,106,109ないし116,118な
いし125,132,138,146,149,151,152,15
4,156,159(いずれも枝番を含む。))によれば,原告は免責
決定後,依頼者に対し,報酬金を請求していること(なお,甲122の
3及び151の5では概算実費の未収分を,また,甲154の4では着
手金の未収分を,それぞれ併せて請求している。),その際に,原告に
対する報酬金債務についても免責された旨の説明がされた形跡がないこ
と,かえって,決定正本がないと免責の効力は生じないなどと記載した
上で,原本正本類は全額入金後返却する旨通知していること(甲149
の4,151の5,原告本人など)に照らすと,原告としても,当時,
免責申立事件に係る報酬金請求権が,免責決定により回収不能となると
は扱っていなかったものと推認することができる。
(ウ)さらに,原告は,免責申立事件を受任した場合について,免責決定
の効果によって,報酬金が法律的にも回収不能となる旨主張するものの,
証拠(甲20,94,111,119,120,123,124,15
2,153,191)によれば,原告が本件で回収不能であると主張し
ている報酬金請求権のうち,現実には回収されているものがあることが
認められる。
なお,この点に関し,原告は甲111の2,119の2,120の2,
123の2,124の2及び152の2は,入金管理のためのメモとし
て入力していたパソコンのデータであるが,必ずしもすべての入金が入
力されているわけではなく,誤った入力が修正されていない部分もあり,
信用性がない旨主張し,甲177及び191にはこれにそう部分がある。
しかしながら,上記データは,甲111の6(元帳)と一致する記載が
あり,また,入金日付が不定期であったり,入金額に変動があり,具体
性に富むものである。さらに,乙3によれば,原告が依頼者に発出した
請求書は,このパソコンデータ及びそれを扱うプログラムを利用して作
成されたことが認められる。こうした事情にかんがみると,同パソコン
データは,誤記や不正確な点がある可能性を完全には否定できないもの
の,ほかにその信用性を否定する明確な証拠のない限り,信用性を認め
ることができる。そして,上記のものに関する限りは,各記載内容につ
いても信用性を疑うべき具体的な事情はうかがわれない。
ウこうした事情によれば,原告の前記冒頭の主張は採用できず,以上のよ
うに考えることが,本件の具体的事案を離れて,原告が主張するように,
直ちに貧困者の司法アクセスを確保できなくするということに繋がるとい
うこともできないのは,前記着手金の場合と同様である。
(5)以上によれば,報酬金請求権は,委任事務処理が終了した時点(委任契
約に,原告が請求した時とする特約がある場合には,請求があったとき)に
権利が確定するというべきであるから,当該時点の属する年の収入に計上す
べきものと解するのが相当である。また,消費税に関しても,同時点の属す
る期間に資産等の譲渡があったと解するのが相当である。
5以上を踏まえ,当事者に争いのある収入の有無又は金額について,収入の類
型や依頼者ごとに検討することとする。
(1)着手金及び概算実費
ア前記2及び3の検討によれば,着手金請求権及び概算実費請求権は,受
任時に権利として確定したというべきであるから,各受任の日の属する年
の収入として計上すべきである。
イこれに対し,原告は,別紙6(平成13年分)の番号2,12,17,
19,25,41,44,61,67,73,75,76,78,94,
98,101,111,114,116,119,123,130,13
8,141,151,152,155,167,174,185,191,
207,237,238,242,243,261,262,264,2
69,別紙7(平成14年分)の番号15,16,25,29,34,3
9,41,47,48,53,54,68,72,73,77,95,9
6,109,110,118,126,132,151,156,164,
177,178,195,200,202,203,219,222,2
24,235,238,240,284,288,292,293,29
5,307,327,330,340の各依頼者について,免責決定が当
該年になされなかったことから,役務の提供が完了していないとして,各
年に着手金報酬請求権の全額について,権利が確定したことを争うが,前
記2のとおり,採用できない。
ウまた,原告は,別紙6の番号250(P2)及び別紙7の番号343
(P3。ただし,着手金のうち11万5000円)の各依頼者について,
着手金が回収不能であるとして,これらの着手金を各年の収入に計上すべ
きでない旨主張するが,前記2(3)ウのとおり,これらの着手金請求権は
権利として確定しており,その後,仮に回収が困難になったとしても,こ
のことは,着手金請求権の権利確定を左右しない(ちなみに,原告の主張
によれば,原告は,平成18年に前者の着手金を全額回収し終わってい
る。)。
エ以下の依頼者との関係では,原告との委任契約が委任事務処理の途中で
終了し,又は変更されたことが認められるので,個別に検討するが,いず
れについても,以下に述べる各理由によって,前記アの判断を左右するも
のではない。
(ア)別紙6の番号19(P4。甲18の3),114(P5。甲14の
3),別紙7の番号340(P6。甲70の3)について
掲記の証拠によれば,原告は,上記各依頼者との間の委任契約を中途
で解約していることが認められるが,原告が各依頼者に対し,着手金の
全部又は一部を返還した形跡はうかがわれない。
(イ)別紙6の番号67(P7,P8)について
甲17の4・5によれば,原告が平成13年3月7日付けで委任契約
を締結したが,平成17年7月27日にこれを合意解除し,既受領の着
手金について返還義務を負わない旨合意したことが認められる。しかし
ながら,着手金請求権は,受任時にその権利が確定するのであるから,
その後の課税期間において,減額の合意ないし受領した金員の一部返還
があったとしても関係はない。なお,これらの依頼者については,着手
金の一部しか支払われていないことが認められるが,同着手金請求権は
受任時に確定したというべきであるから,このことは,着手金請求権の
権利確定の事実を左右するものではない。
(ウ)別紙6の番号101(P9),264(P10),別紙7の番号1
78(P11)について
甲19の1∼3によれば,原告がP9との間で,平成13年3月13
日付けで委任契約を締結したが,平成15年4月2日にこれを合意解除
し,着手金及び概算実費の半額を返還する旨合意したことが認められる。
また,甲140の1∼3によれば,原告がP10との間で,平成13年
5月28日付で委任契約を締結したが,同年8月24日付けで辞任予告
通知をし,その後,同人に対し9万9685円(振込手数料315円
別)を送金したことが認められる(ただし,本件全証拠によっても,同
送金が本件で問題となっている平成13年又は14年に行われた形跡は
うかがわれないので,同送金分を平成13年又は平成14年の収入から
控除することは相当でない。)。さらに,甲73の1・3・5によれば,
原告がP11との間で,平成14年11月6日付けで委任契約を締結し
たが,平成17年5月10日付けで,辞任通知を発出し,かつ,着手金
10万円を返還したことが認められる。しかしながら,着手金請求権は,
受任時にその権利が確定するのであるから,その後の課税期間において,
減額の合意ないし受領した金員の一部返還があったとしても関係はない。
(エ)原別紙6の番号73(P12)について
原告は,着手金を減額する旨の合意があったと主張する。
aこの点について,甲26の1∼4によれば,原告と,P12及び有
限会社P13は,平成13年6月12日付けで,着手金を178万5
000円,概算実費30万円とする約定で有限会社P13の破産事件
と,P12の破産免責申立事件に関する委任契約を締結し,原告は,
これに基づき,同日付けで,P12及び有限会社P13の債権者に対
し,受任通知を発出し,平成15年8月4日,P12に対する免責決
定がされたこと及び平成14年11月22日までに,上記着手金のう
ち合計116万5000円が支払われたことが認められる。
b原告は,こうした事実関係の下で,平成14年5月29日,上記着
手金が126万円に,また,上記概算実費が10万円に減額すること
が合意された旨主張し,原告の入金管理のメモであるパソコンデータ
である甲26の2には,これにそう部分がある。
しかしながら,証拠(甲20の3,71の2,133の2,145
の2,155の3,160の2,乙2ないし4,10,11,15,
17)によれば,同パソコンデータには,本件における処分後に,原
告の主張する事実関係にそうよう加除訂正された部分があることが認
められ,上記原告の主張にそう甲26の2の記載も同様に修正された
可能性が否定できないので,これによって,原告の上記主張事実を認
めるには足りず,ほかに原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(オ)別紙7の番号307(P14)について
原告は,上記P14の着手金が当初21万円,概算実費5万円と合意
されていたのが,平成15年4月10日,概算実費を2万円に減額する
旨合意された旨主張するが,仮にこのような合意があったとしても,概
算実費請求権は,受任時にその権利が確定するのであるから,その後に,
減額の合意があったとしても関係はない。
オ別紙6の番号10(P15),51(P16)について
被告は,原告と上記各依頼者との間に委任契約が成立した旨主張し,甲
135の1には被告の主張にそう記載がある。
しかしながら,証拠(甲133の1∼3,乙4)及び弁論の全趣旨によ
れば,P15と原告は,平成13年6月ころ,契約解除交渉事件の委任契
約の締結について協議し,原告は委任契約書を作成し,着手金16万80
00円及び概算実費1万円の入金予定がある旨アクセスデータに記入した
が,P15は上記着手金及び概算実費を支払わず,契約書に署名しないま
まこれを原告に返送したことが認められ,これらの事実によれば,P15
と原告との間に,委任契約が成立しなかったことが認められる。そうする
と,原告に上記着手金及び概算実費相当の入金があったということはでき
ない。
また,甲135の1∼3によれば,P16と原告は,平成13年10月
22日付けで,着手金を31万5000円(同年10月末日限り10万円,
同年11月15日限り10万円,同月末日限り10万円,同年12月15
日限り1万5000円を支払う。),概算実費5万円(同年12月15日
限り支払う。)との約定で,P16の破産免責事件について委任契約を締
結したが,着手金の支払がなかったことから,平成14年5月20日,原
告がP16に対し,上記契約は不成立ということで処理する旨通知したこ
とが認められる。そうすると,原告に上記着手金及び概算実費相当の入金
があったということはできない。
これらの事実によれば,これらの者に関する着手金請求権及び概算実費
請求権はないとみるべきである。
(2)報酬金
ア前記4のとおり,原告の報酬金請求権は,委任事務処理終了時に発生し,
原告が依頼者に対し報酬金を請求した時にその権利が確定する。
イ原告は,別紙6の番号5,64,166,184及び別紙7の番号3,
11,38,100,111,162,183,231,232,242,
247ないし249,272,329の各依頼者については,報酬金につ
いて具体的な合意がなかったとして,報酬金を当該年の収入に計上するこ
とを争うが,前記4のとおり,報酬金請求権が権利として確定するために,
委任事務処理の終了後に改めて報酬金について合意することは必要でない
ので,採用できない。
ウまた,原告は,別紙6の番号38,125,219,248及び別紙7
の番号46,69,76,90,117,129,155,185,18
8,286,297,314,321,331,343の各依頼者につい
て,報酬金が回収不能であるとして,これらの報酬金を請求した各年の収
入に計上すべきでない旨主張する。しかしながら,前記4のとおり,これ
らの報酬金請求権は権利として確定しており,その後,仮に回収が困難に
なったとしても,このことは,報酬金請求権の権利確定を左右しない。
(3)その他
ア別紙6の番号18(P17)について
被告は,原告がP17に係る地代供託の件について,平成13年6月2
2日,供託手数料3万2000円,交通費1万6950円及び消費税16
00円合計5万0550円を,同年12月28日に,供託手数料3万20
00円,交通費1万7150円及び消費税1600円の合計5万0750
円を各請求したことから,平成13年には,上記依頼者に関し,合計10
万1300円の収入がある旨主張する。
これに対し,原告は,上記交通費はいずれも委任事務処理費用として支
出された実額であり,概算実費と異なり原告の収入とされるべきものでは
ない旨主張し,また,平成13年6月22日の交通費が1万6950円と
されたのは誤記であり,実際には1万6690円であった(過払い分26
0円は供託金手数料額3万3600円(消費税相当額を含む。)に加算し
て申告した。)旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲134の1∼6,乙11,30)によれば,
原告は,いずれも「地代供託の件」について,平成13年6月22日,供
託手数料3万2000円,交通費1万6950円及び消費税1600円合
計5万0550円を請求したところ,同月26日,報酬(消費税相当額を
含む。)として3万3600円,交通費として1万6690円,更に「売
上実費収入繰」として扱われた260円合計5万0550円の支払を受け
たこと,同年12月28日,供託手数料3万2000円,交通費1万71
50円及び消費税1600円の合計5万0750円を各請求し,平成14
年1月8日,報酬3万3600円(消費税相当額を含む。)及び交通費1
万7150円の支払を受けたことが認められる。
そして,本件が地代供託に係る事務処理の委任であり,概算実費を受け
取る必要性が必ずしも認められないこと,その名目が「概算実費」でなく,
単に「交通費」とされていること,及び,その請求が委任事務処理後に行
われていることによれば,上記「交通費」は交通費の実額の補てんを求め
たものと解される。そして,こうした交通費の実費は,委任事務処理費用
として,委任者が負担すべきものであるので,これを受任者である原告の
収入とみるべきではない。
そうすると,P17に係る原告の平成13年の収入は,3万3860円
及び3万3600円の合計6万7460円であるというべきである。
イ別紙6の番号96(P18)及び97(P19)について
原告は,平成13年,P18について収入がなく,P19について47
万円の収入があった旨主張し,乙5の1∼3(原告の元帳)にはこれにそ
う部分がある。これに対し,被告は,P18について47万円の収入があ
り,P19については収入がない旨主張する。
そこで検討するに,甲136の1によれば,P19はP18を代理して,
原告と委任契約を締結し,報酬を支払ったことが認められるので,被告の
主張どおり,P18について47万円の収入があり,P19については,
収入がなかったことが認められる。
ウ別紙6の番号232(P20協会P21)について
被告は,着手金17万8500円と概算実費2万円の約定があり,これ
に基づき,平成13年,原告に合計19万8500円の収入があった旨主
張する。これに対し,原告は,上記2万円は概算実費でなく,一般民事の
預り金,すなわち実費の預り金であり,概算実費と異なり,原告の収入に
当たらない旨主張する。
そこで検討するに,甲139の1∼3によれば,P21と原告は,平成
13年8月8日,着手金17万8500円,「実費等」2万円の約定で,
P21の不当利得返還請求事件について委任契約を締結し,同月31日,
P20協会からこれらの金員相当額が支払われたことが認められるが,本
件全証拠によっても,上記実費の内訳が明らかにされ,精算された形跡は
うかがわれないので,上記2万円を実費の預り金とみることはできず,こ
れは,原告の収入に当たるというべきである。
エ別紙7の番号20(P17)について
被告は,平成14年6月25日に手数料3万3600円及び交通費1万
7150円(合計5万0750円)を請求し,また,平成15年1月9日,
P17から5万0750円の入金を受けており,これは,原告が平成14
年中にP17に対し請求したものであるから,原告の平成14年の収入に
当たる旨主張する(合計10万1500円)。
これに対し,原告は,上記交通費はいずれも実費であり,原告の収入と
されるべきではない旨主張するとともに,平成15年1月9日に入金され
た5万0750円は,同月6日に請求したものであり,平成14年中に同
金員に関し,権利が確定していなかった旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲155の1・3,乙12)に加え,報酬金
請求権は,委任事務処理終了時に発生し,原告が請求した時にその権利が
確定することによれば,原告はP17から受任した地代の供託に関する事
務について,交通費の実額を請求する扱いをしていたことが認められ,こ
のことによれば,上記交通費も概算実費でなく,委任事務処理費用の実費
であるというべきであるから,これを原告の収入ということはできない。
また,乙12によれば,原告は平成14年12月22日,P17の委任
事務処理に関し,旅費交通費1万6890円を支出したことが認められ,
また,同月25日,同人の預り金実費勘定から26万3520円の出金が
あったことが認められる。これによれば,原告は同月22日ないし25日
ころ,P17から受任した地代供託の事務を行ったと推認される。そして,
甲155の3・4に原告が平成15年1月6日,P17に対し,報酬とし
て3万2000円(消費税相当額別)を請求した旨の記載があること及び
本件全証拠によっても,平成14年12月22日ないし25日ころから上
記入金があった平成15年1月9日までの間に,原告がほかにP17のた
めの業務を行った形跡がないことによれば,上記平成14年12月22日
ないし25日ころに行われた業務に係る報酬金が確定したのは,平成15
年1月6日であることが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。そう
すると,上記報酬金3万2000円(消費税相当額込みで3万3600
円)についても,原告の平成14年の収入に計上することはできない。
したがって,原告の上記依頼者に係る平成14年の収入は,5万075
0円(10万1500円−1万7150円−3万3600円)となる。
オ別紙7の番号33P22について
被告は,平成14年中の報酬が10万5000円あった旨主張し,原告
は,同年中に支払のあった9万円に限り,収入があった旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲156の1∼4,乙26)によれば,P2
2と原告は,平成12年10月20日付けで,報酬金10万5000円を
免責決定時に支払う約定で,P22の破産免責事件について委任契約を締
結したこと,平成14年5月29日,P22に対する免責決定がされたこ
と,上記報酬のうち,1万5000円については,同年5月31日,P2
2からの預り金より充当する方法で弁済され,残額9万円については,同
年7月から11月にかけて支払われたことが認められる。
これによれば,上記依頼者に係る原告の平成14年の収入は10万50
00円となる。
カ別紙7の番号128(P23)及び129(P23)について
原告本人の陳述書(甲191)において,被告は番号128と番号12
9の受任事件を混同しており,番号128の収入額として被告が主張すべ
き金額は,24万円ではなく,21万1990円(着手金21万円と実費
収入組入分1990円の合計額)であるとする部分がある。
証拠(甲153の1∼6,乙20,30(平成14年1月22日欄))
によれば,原告は,平成13年5月9日,P23との間で,報酬金31万
5000円の約定で,同人の民事再生申立事件を受任し,平成14年2月
27日,同人に対する再生計画が認可されたこと,同受任契約によれば,
報酬金は一括払いの約定であったが,P23は,これを平成14年5月か
ら平成15年2月まで1か月3万円ずつ及び同年3月に1万5000円の
分割で支払ったこと並びに平成14年1月22日,同人との間で,同人の
建築請負契約に関する示談解決事件について,実費預り金として1万円,
着手金として21万円の支払を受けたことが認められる。これらのことに
照らすと,番号128の欄に記載されるべき金額は,上記建築請負契約に
関する示談解決事件に係る着手金21万円及び原告が自認する実費収入組
入分1990円の合計21万1990円であるというべきである。
キ別紙7の番号230(P24)について
被告は,原告が平成14年7月5日,着手金として26万5000円を
請求したとし,同額が平成14年の収入に当たる旨主張し,乙15にはこ
れにそう部分がある。原告は,同金額は,本来25万円及びこれに対する
消費税相当額の合計26万2500円の誤記であった旨主張する。
甲160の1によれば,原告の事務員は,P24との間で,平成14年
7月5日,着手金を25万円及びこれに対する消費税相当額とすることを
電話で確認した旨の記載があり,これによれば,上記依頼者に係る原告の
平成14年の収入は,26万2500円であることが認められる。乙15
は,原告の入金管理のためのメモであり,その性質上誤記がある可能性が
否定できないので,この認定を覆すに足りない。
ク別紙7の番号273(P25)に係る報酬金について
被告はこれが10万5000円であった旨主張するのに対し,原告はこ
れが9万円にとどまる旨主張する。
証拠(甲164の1∼4,乙27,30)によれば,P25と原告は,
平成13年3月1日付けで,報酬金10万円を免責決定時に支払う約定で,
P25の破産事件について委任契約を締結したこと,平成14年5月29
日,P25に対する免責決定がされたこと,上記報酬のうち6万円が同年
6月3日までに支払われ,4万5000円が,同月から同年10月にかけ
て分割で支払われたことが認められる。これらによれば,P25に係る報
酬金は10万5000円であることが認められる。
ケ別紙7の番号276(P26)について
被告は,原告が,P26に係る準強制わいせつ事件について,平成14
年6月12日,同人に対し,手数料6万円を請求し,同年4月4日,着手
金56万円を請求した旨主張する。
これに対し,原告は,上記手数料6万円は,別紙7の番号257の14
万8000円に別途計上されており(合計12万円から1割を源泉徴収し
た額である10万8000円に通訳費用相当額4万円を加算した額),改
めて収入として計上すべきではない旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲165の1∼4,乙16,30,原告本
人)及び弁論の全趣旨によれば,上記事件は,当初私選弁護であったが,
後にP20協会の法律扶助を求めるに至った事件であったこと,原告は,
平成14年4月4日,着手金として56万円の支払を受けたこと,P20
協会は同年5月30日,報酬金として12万円,通訳費用として4万円の
支給決定をし,同年6月11日,原告に対し,14万8000円を支払っ
たこと及び原告が同月12日,このうち5万4000円を報酬金として計
上し,同月13日,同事件における弁護を共同して受任したP27弁護士
に9万4000円を送金したことが認められる。これらの事情に加え,P
27弁護士への送金日に近接した時期にほかにP20協会からの入金がな
いことによれば,別紙7の番号257に記載された14万8000円は,
上記支給決定によるものであることが推認され,これを覆すに足りる証拠
はない。したがって,上記報酬金6万円のうち,5万4000円は,別紙
2の番号257に記載された金員に含まれるものというべきである(上記
6万円の残額6000円は,源泉徴収された金額に相当するが,P20協
会からの支払が原告に対するものであることからすると,上記源泉徴収も
原告について行われたものであると推認され,これを覆すに足りる証拠は
ないから,上記6000円は原告の収入とみるほかない。)。
以上によれば,別紙7の番号276の項目で計上されるべき原告の収入
は,6万円から上記5万4000円を控除した残額の6000円に,着手
金として支払を受けた56万円の合計56万6000円ということになる。
コ別紙6の番号78(P28)に係る着手金及び概算実費について
被告は,当初,上記着手金等を94万円と主張していたが,その後,こ
れを99万2500円と訂正したので,この点につき検討する。
甲22の1によれば,原告とP28は,平成13年4月24日,P28
及び株式会社P29の破産免責申立事件について,着手金を84万円,概
算実費を10万円とする委任契約を締結したことが認められる。また,証
拠(甲22の2,乙25)及び弁論の全趣旨によれば,原告とP28は,
平成13年中に,P28の母の任意整理事件について,着手金5万250
0円の約定で委任契約を締結したことが認められる。これらの事情によれ
ば,原告の上記依頼者に係る平成13年の収入は,被告の上記訂正後の主
張のとおり,99万2500円であることが認められる。
6以上によれば,原告の事業所得における総収入金額は,平成13年において
は別紙6のとおり,1億0695万1212円となり,平成14年においては,
別紙7のとおり,1億0158万9613円となるから,これらの点に関する
被告の主張は,これらの金額の限度で理由があり,その余については理由がな
い。
しかしながら,原告が納付すべき所得税額は,別紙8のとおり,平成13年
には1117万3400円となり,平成14年には△159万3600円とな
る。これは,本件各所得税更正処分(平成17年3月14日付けの裁決により
一部取り消された後のもの。以下同じ。)による原告の所得税の納付すべき税
額又は還付金の額に相当する所得税の額を,平成13年分(更正処分による納
付すべき所得税額は1107万1300円),平成14年分(更正処分による
納付すべき所得税額は△168万2000円)のいずれについても上回るから,
本件各所得税更正処分はいずれも適法である。
同様に,原告の本件係争各年分の消費税等の額は,別紙8のとおり,平成1
3年課税期間については,240万0500円となり,平成14年課税期間に
ついては,23万0500円となり,いずれも本件各消費税等更正処分(平成
17年3月14日付けの裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)
による原告の納付すべき消費税等の額を上回るから,本件各消費税等更正処分
はいずれも適法である。さらに,本件各賦課決定処分についても,国税通則法
65条4項に規定する正当な理由があった旨の具体的な主張も立証もないこと
から,いずれも適法であるというべきである。
7よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,
訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官大門匡
裁判官吉田徹
裁判官倉澤守春

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