弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人を免訴する。
         理    由
 弁護人松下宏の上告趣意(後記)について。
 論旨は、佐賀県知事は食糧管理法施行令一三条の委任に基き、昭和二四年六月二
七日佐賀県規則三六号籾摺業者取締規則を制定したが、右は前記施行令一三条の解
釈を誤つたものであつて、同規則の違反には罰則はないものと解すべきであるから、
第一、二審が同規則に違反した被告人を処罰したことは、憲法三一条に違反すると
いうに帰する。
 おもうに食糧管理法(以下法という)九条によれば、政府は同条に定める必要が
あると認めるときは、政令の定める所により主要食糧の配給、加工、製造その他に
関し必要な命令を為すことを得るのであり、同条の委任により定められた食糧管理
法施行令一三条は、都道府県知事に主要食糧の加工若しくは製造等を業とする者に
対し、当該加工又は製造に関し必要な命令をすることができると規定しているので、
本件籾摺業者取締規則三条のような籾摺業者が籾摺に関し一定の事項を知事に報告
すべきことを規定することは、前記法条の委任に依るの観があるけれども、前記法
九条の規定に依る命令に違反したものは、法三一条の重い刑罰に処せられるところ、
他方において法一三条は、主要食糧の生産費、生産高、現在高及び移動等の調査に
関し、政府は命令の定める所に依り必要な報告を徴することができると規定し、右
法一三条の委任により食糧管理法施行規則三一条二項(昭和二五年九月一一日農林
省令一〇一号による改正前のもの、以下同じ)は、前記調査を行うために必要があ
ると認めるときは、都道府県知事において主要食糧の製造又は加工を業とする者等
に対し報告を命ずることができると規定しているのであつて、右の報告義務を怠つ
た者に対する制裁として法三三条は、法三一条よりはるかに軽い刑罰を定めている
のである。してみれば、法一三条は法九条の特別規定であり、主要食糧の調査報告
については専ら法一三条に依る命令によつて規定すべきであつて、その限りにおい
て法九条に依る命令は制限されるものと解するのが正当である。それ故、本件籾摺
業者取締規則は、同規則冒頭の表示にかかわらず、法一三条施行規則三一条二項の
委任に依り定められたものであつて、取締規則三条の違反は、法三三条所定の刑罰
により処罰されるものといわなければならない。そして右と同一の結論は、すでに
当裁判所第二小法廷の判決(昭和二七年(あ)三六四八号昭和二九年一〇月二二日
判決)に示されたのであるが、当小法廷もまたその判断を正当と認める。されば、
前記取締規則違反には罰則はなく、これを処罰することは違憲であるとの論旨は、
その前提を欠き採用することができない。
 しかしながら、以上のように解する結果、本件籾摺業者取締規則三条違反の公訴
事実は、昭和二七年政令第一一七号大赦令一条八六号により大赦されたことゝなり、
本件は免訴を言渡すべき場合に当るのであるから、これと異なる見解に出で、一審
判決を維持した原判決は、法令の解釈を誤り判決後に大赦があつたことを看過した
違法があり、一審判決については、判決後大赦があつた場合に当り、いずれもこれ
を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴四一三条但書、四一一条、四一四条、三三七条三号に従い、裁判官
全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 平出禾出席。
  昭和三〇年二月一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三

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