弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
1平成23年(ク)第166号事件について
抗告代理人蓑毛良和,同綱島正人の抗告理由について
民事事件について特別抗告をすることが許されるのは,民訴法336条1項所定
の場合に限られるところ,本件抗告理由は,違憲をいうが,その実質は原決定の単
なる法令違反を主張するものであって,同項に規定する事由に該当しない。
2平成23年(許)第8号事件について
抗告代理人蓑毛良和,同綱島正人の抗告理由について
建物の区分所有等に関する法律59条1項の競売の請求は,特定の区分所有者
が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがある
ことを原因として認められるものであるから,同項に基づく訴訟の口頭弁論終結後
に被告であった区分所有者がその区分所有権及び敷地利用権を譲渡した場合に,そ
の譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることはできないと解すべ
きである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は
採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦
夫の補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛成するものであるが,建物区分所有法59条1項の訴訟の性
質等に関して判示した先例も未だなく,また学説として殆ど論議もされていない以
下の諸点について,若干の補足的意見を述べる。
1新所有者の訴訟引受けの可否について
本件は,区分所有建物(以下「本件建物」という。)の所有権者であるAが管理
組合法人に対して多額の未払管理費及び遅延損害金を負担し,その支払をなさない
ところから,管理組合法人は所定の手続を経たうえで,抗告人が原告となってAに
対し同法59条1項による本件建物の競売請求の訴(以下「競売請求訴訟」とい
う。)を提起し,その認容判決を得たが,その判決確定前にAが本件建物の共有持
分5分の4を相手方に譲渡した事案である。
抗告人は,競売請求を認容する本件判決の効力は相手方にも及ぶと主張して,相
手方及びAの両名を相手方として,本件建物の競売を申し立てた。原々審はAの共
有持分については競売手続を開始したが,相手方に対する申立てを却下したところ
から,抗告人が抗告し,更に原審が抗告棄却決定をなしたところから,抗告人にて
許可抗告を申し立てたのが本件である。
競売請求訴訟は,法廷意見が述べるとおり,特定の区分所有者が区分所有者の共
同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがある(以下,かかる状態
を「共同利益侵害状態」という。)ことを原因として認められるものであって,そ
こで審理の対象となるのは,当該区分所有者の上記のような属性である。そうする
と,同訴訟の事実審口頭弁論終結後に被告が区分所有権及び敷地利用権を譲渡した
場合には,その譲受人が上記のような属性を有しているとは当然には言えない以
上,被告に対する判決の効力が譲受人に及ぶと解することはできず,同判決に基づ
いて,譲受人を相手方として競売を申し立てることはできないというべきである。
ところで,競売請求訴訟係属中に,被告が区分所有権(及び敷地利用権)を第三
者に譲渡した場合に,原告は当該譲受人に対して訴訟引受けを申し立てることがで
きるか否かが問題となる(本件で,相手方が口頭弁論終結前に共有持分の譲渡を受
けていた場合には,その点が争点となり得た。)。
競売請求訴訟が,特定の区分所有者の属性を原因として認められる訴訟であっ
て,訴提起について慎重な手続が定められている(同法59条2項,58条2項,
3項)ことからすれば,譲受人にも被告と同様の属性が存するか否か及び競売請求
訴訟を提起するか否かについて,同法の定める手続を経たうえで別訴を提起すべき
であるとする考え方も有り得る。
しかし,競売請求訴訟が係属していることは,譲受人が僅かな調査をすれば容易
に判明する事実であり(例えば,区分所有者の共同の利益に反する行為が,暴力団
事務所としての使用等その使用態様であるならば,当該区分所有建物を見れば一見
して明らかであり,また本件のごとく管理費の未払であるならば,それは当然に譲
受人に承継される(同法6条)ものである。),譲受人は訴訟を引き受けることに
よって不測の損害を被るおそれはない。また,訴訟引受後に譲受人において区分所
有者の共同利益侵害状態を解消させれば,競売請求棄却の判決を得ることができる
のである。
他方,原告は,譲受人に訴訟を引き受けさせることにより,従前の訴訟の経過を
利用することができ訴訟経済に資することになる。また,訴訟係属中に被告が区分
所有権(及び敷地利用権)を譲渡することにより,競売請求を妨げるという被告側
の濫用的な妨害行為を抑止することができる。
かかる点からすれば,競売請求訴訟提起後に,被告が当該区分所有権(及び敷地
利用権)を譲渡した場合には,原告は,譲受人に対し訴訟引受けを求めることがで
きるものというべきである。
2被告であった区分所有者に対する競売請求訴訟の認容判決確定後競売手続が
開始されるまでの救済手続について
競売請求訴訟の認容判決確定後,同判決に基づく競売手続により売却されるまで
の間に,被告であった区分所有者(元被告)が区分所有者の共同利益侵害状態を解
消するに至った場合の元被告の救済手続について,これまで殆ど論じられてこなか
った。
同判決に基づく競売は,担保権の実行としての競売の例による(民執法195
条)とされているところ,競売手続開始決定後に競売請求認容判決の基礎となった
区分所有者の共同利益侵害状態が解消するに至ったとの事実は,競売申立ての基礎
となった事実が消滅したことを意味するのであり,担保権に基づく競売の場合に例
えれば,担保権が消滅した場合に比肩するものといえる。そして,担保権の消滅は
民執法182条により執行異議事由とされているところから,競売手続開始決定後
に区分所有者の共同利益侵害状態が解消するに至った場合には,同条を類推適用し
て,執行異議の申立てができるものと一応解される。
しかし,上記の執行異議による救済手続は,原告が判決に基づいて競売申立てを
して初めて利用できるのである。競売手続開始前に元被告が区分所有者の共同利益
侵害状態を解消するに至った場合においても,競売申立期間たる判決確定後6か月
間(建物区分所有法59条3項)は,元被告は原告により競売申立てがなされる危
険を負うのも已むを得ず,競売手続開始決定がなされた場合には執行異議の申立て
によって対処するべきであると解するのは,元被告の地位を余りに不安定なものに
するものである。
私は,競売請求認容判決確定後,元被告が同判決に基づく競売手続開始決定前に
区分所有者の共同利益侵害状態を解消するに至っている場合の元被告の救済手続の
可否について,検討されて然るべきであると考える。
(裁判長裁判官大谷剛彦裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官
岡部喜代子裁判官寺田逸郎)

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