弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     (一) 原判決を破棄する。
     (二) 被告人を禁錮四月に処する。
     (三) 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人宮沢邦夫提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここ
にこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
 一 論旨第一点について
 原判決が判示第一において、自動車無謀操縦の事実を認定し、また判示第二にお
いて業務上過失致死の事実を認定しながら、証拠の標目としては右第一、第二事実
を一括して共通の証拠を挙げていることはまことに所論のとおりである。而して事
実認定に用いた証拠を判示するには、いかなる証拠によつていかなる事実を認定し
たものであるかということが判文上明かにされなければならないから、仮令証拠の
標目を列挙する場合でも、原則的には、少くとも各犯罪事実毎に証拠を分類して判
示することが望ましい。けれども、例えば贈賄とこれに対応する収賄というように
二つの事実が密接に関連していて、これを各別に分けて証拠説明するよりは、一括
して共通の証拠を引用判示する方が、かえつて簡明である場合もなしとしないか
ら、証拠の一括引用<要旨>が常に不適法であると即断するのは早計である。これを
本件の場合にみるに、原判決が証拠に基いて認定したところによれば、被告
人は(一)原判示日時場所において、酔つていて正常の運転ができないおそれがあ
つたにもかかわらず、貨物自動車を運転して無謀な操縦をなし、(二)その運転
中、酒に酔つていたため前方注視の義務を怠り、原判示場所においてAの後方から
自動車の車体を追突させ、右頭部打撲による脳内出血のため死亡させたというので
あるから、右の内(一)の無謀操縦の点は道路交通取締法に違反し、(二)の業務
上の過失により人を死に致した点は刑法第二百十一条前段に該当し、二個の犯罪の
成立することは勿論であるが、右のような事実関係のもとにおいては、二つの犯罪
事実は密接に関連し、両者は時間的にも、場所的にもほとんど重複しているのであ
るから、その認定証拠もいきおい共通にならざるを得ないのは当然である。かよう
な場合には、各判示事実毎に区別して証拠を挙示するとすれば同一の証拠を二重に
引用する結果となり、徒らに煩雑になるばかりでなく、二つの事実を一括してその
認定証拠を列挙しても、いかなる証拠によつて、いかなる事実を認定したものであ
るかということは自ら分明であるから、原判決が前記のように原判示事実認定につ
いて、第一第二事実共通の証拠を列挙したのは、むしろ相当な措置であつて刑事訴
訟法第三百三十五条に違反しないのは勿論、「判決に理由を附せず又は理由にくい
ちがいがある」というような違法の廉は存しないから論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 山岸薫一 判事 下関忠義)

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