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平成12年(行ケ)第115号 実用新案取消決定取消請求事件
平成13年1月18日口頭弁論終結
判        決
       原      告     株式会社日本吸収体技術研究所
       代表者代表取締役     【A】
       訴訟代理人弁理士 小 松  秀岳
       被      告     特許庁長官 【B】
       指定代理人        【C】
       同            【D】
       同            【E】
       同            【F】
           主        文
         原告の請求を棄却する。
         訴訟費用は原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
  特許庁が平成11年異議第72418号事件について平成12年1月27日
にした取消決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
  主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、考案の名称を「弾性複合体」とする実用新案登録第2587166
号の考案(平成4年5月29日出願、平成10年10月9日設定登録。以下「本件
考案」という。)の実用新案登録権者である。
 本件考案の実用新案登録請求の範囲請求項1ないし4に係る実用新案登録に
ついて、花王株式会社から実用新案登録異議の申立てがあり、特許庁は、この申立
てを平成11年異議第72418号事件として審理した。この審理の過程で、原告
は、願書に添付した明細書(以下、願書に添付した図面をも加えて「本件明細書」
という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、平成12
年1月27日、「訂正を認める。実用新案登録第2587166号の請求項1ない
し4に係る実用新案登録を取り消す。」との決定をし、平成12年3月8日、その
謄本を原告に送達した。
2 本件訂正後の実用新案登録請求の範囲
(1) 請求項1(以下、この考案を「本件考案1」という。)
 緩和状態のシート状の弾性体とその両面のシート状の基材とからなり、両
者はシートの長さ方向(MD)には連続的に結合され、横方向(CD)には不連続
性をもって結合されてなり、前記基材は弾性体との結合部間において弾性体とは実
質的結合が存在しないチャンネル状のひだを形成していて、弾性体の緊張時に追隨
できるようにしてなり、かつ、少なくとも弾性体の一面側の基材は液不透過性材料
をもって形成してなることを特徴とする弾性複合体。
(2) 請求項2(以下、この考案を「本件考案2」という。)
 請求項1において、弾性体が熱圧着性を有するポリオレフィンエラストマ
ーである弾性複合体。
(3) 請求項3(以下、この考案を「本件考案3」という。)
 請求項1において、基材を形成する液不透過性材料はポリオレフィン系フ
ィルムである弾性複合体。
(4) 請求項4(以下、この考案を「本件考案4」という。)
 請求項1において、弾性体の液不透過性材料よりなるシート状基材に対し
て反対の面には、熱圧着性を有する合成繊維を主成分とする不織布よりなる基材を
結合してなる弾性複合体。
3 決定の理由
  別紙決定書の理由の写しのとおり、本件考案1ないし4は、当業者が特開昭
59-144601号公報(以下「引用例」という。)に記載された考案に基づい
て、きわめて容易に考案をすることができたものであると認定判断した。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
  決定の理由Ⅰ(手続の経緯)、Ⅱ(訂正の適否について)は認める。同Ⅲ
(実用新案登録異議の申立てについて)の1(本件の請求項1ないし4に係る考
案)、2(実用新案登録異議の申立ての理由の概要)は認める。同Ⅲの3(当審の
取消理由において引用した刊行物とその記載内容)は、(1)を認め、その余は争う。
同Ⅲの4(対比及び判断)及び同Ⅳ(むすび)は争う。
  決定は、引用例に「緩和状態のシート状の弾性体とその両面のシート状の基
材とからなり、両者はシートの一方向には連続的に結合され、これと直角の方向に
は不連続性をもって結合されてなり、前記基材は弾性体との結合部間において弾性
体とは実質的結合が存在しないチャンネル状のひだを形成していて、弾性体の緊張
時に追隨できるようにしてなり、かつ、少なくとも弾性体の一面側の基材は液不透
過性材料をもって形成してなる腰バンド」(5頁下から10行~5行)の考案(以
下「引用考案」という。)が記載されていると認定したが、誤りである。そして、
決定は、本件考案1ないし4について、この誤った認定を前提として認定判断した
ものであって、上記誤りが決定の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違
法として取り消されるべきである。
1 引用例に記載されているのは、「弾性的に収縮性の腰バンドを有する使い捨
ておむつ」に関する考案である。この考案において、弾性的に収縮性の腰バンド
は、おむつに組込まれ、その構成の一部をなしているものであって、おむつの他の
構成部材と不離の関係にあり、決して別の部材ではない。したがって、引用例に記
載されているものは、おむつ以外にも、肌着類、靴下類等の日用衣料品、伸縮性包
帯、外科用ガウンの袖口等にも使用し得る、「弾性複合体」である本件考案1と
は、物品が異なる。
2 引用例の「使い捨てオムツの腰バンドは、着用者の腰に隣接して置こうとさ
れるオムツの部分である。腰バンドは、使い捨てオムツの本体に貼着された別のエ
レメントからなることもできるが、更にしばしば使い捨てオムツの他のエレメン
ト、例えばバックシートまたはトップシートまたはバックシートとトップシートと
の両方の延長部である。」(3頁左下欄12行~18行)との記載(決定の理由Ⅲ
3(1)bにおいて認定された記載。以下「記載事項b」という。)は、「使い捨てオ
ムツは、一般に」(3頁右上欄下から3行)という書き出しから始まる一連の説明
文の中の一節であり、「一般に」という書き出しから明らかなとおり、使い捨てお
むつの一般論について述べているところであって、腰バンドについても一般論を述
べているにすぎない。したがって、記載事項bは、引用例に記載されたおむつの腰
バンド部が「本体に貼着された別のエレメントからなる」ことを意味するものでは
ない。
3 むしろ、引用例には「着用者の腰の回りに貼着しようとする3以上の腰バン
ド部分を有する使い捨てオムツを製作することも、可能であるが、これらの具体例
も好ましくない。」(3頁右下欄6行~9行)との記載(以下「記載事項i」とい
う。)があり、おむつに対する腰バンドの貼着については否定的な考えを述べてい
る。
4 被告は、引用例の特許請求の範囲(決定の理由Ⅲ3(1)aにおいて認定された
記載。以下「記載事項a」という。)と記載事項bに基づけば、「トップシートと
バックシートとの間に介在されており、実質上弾性エレメントの全幅にわたって腰
バンドの外縁から延びている本質上規則的な固着された横断領域によって、前記ト
ップシートおよび前記バックシートに収縮自在に貼着されており、前記固着された
横断領域の間には固着されていない横断領域が形成されている」という3層構造
(以下「特定3層構造」という。)からなる別体の腰バンドが想定されるから、引
用例には使い捨ておむつの本体とは別体のものとしての特定3層構造からなる腰バ
ンドが実質的に記載されている、と主張する。
  しかし、引用例に記載された考案において、腰バンドを別体とするために
は、被告のいうところの特定3層構造の部分を本体から切り離し、切り離した後の
おむつの切口をなんらかの手段によってシールし、その端部の内面か外面かのいず
れか一方の面に、切り離した特定3層構造の部分を貼着するしかないものと考えら
れる。例えば、切り離したおむつ本体のバックシートかトップシートかのいずれか
を伸ばしておいて、その部分に前記特定3層構造部分を貼着すれば、そのような腰
バンドは4層構造というべきであろう。また、切り離したおむつ本体のバックシー
トとトップシートをほぼ同寸として、これに前記特定3層構造を貼着すれば、特定
3層構造にバックシートの層とバックシートの層を併せて、いわば5層構造とな
る。
  したがって、いずれにしても腰バンド部を別体としておむつに貼着した場合
には、腰バンドは被告のいう特定3層構造にはなり得ない。
第4 被告の反論の要点
1 記載事項bは、「発明の具体的説明」との見出しのもとに記載されているも
のであるから、引用例の特許請求の範囲(記載事項a)に記載された特定の使い捨
ておむつ(以下「引用例おむつ」という。)の腰バンドについて、使い捨ておむつ
のバックシート、トップシート又はバックシートとトップシートとの両方の延長部
である態様のものだけでなく、トップシート、バックシート及び吸収性エレメント
からなる使い捨ておむつの本体に別体として貼着されている態様のものも可能であ
ることを示していると解される。そして、後者の態様とするときは、当業者は、記
載事項aにより、特定3層構造からなる別体の腰バンドを直ちに想定するから、引
用例には、使い捨ておむつの本体とは別体のものとしての特定3層構造からなる腰
バンドが実質的に記載されているというべきである。
2仮に、記載事項bが使い捨ておむつの腰バンド一般について述べたものであ
るとしても、それは、使い捨ておむつの腰バンドについて、この2つの具体的態様
が、当業者に普通に行われていたことを意味する。したがって、この記載により、
当業者は、引用例おむつの腰バンドについて、おむつの本体に別体として貼着され
ている態様のものも可能であることを直ちに理解し、別体としての腰バンドを直ち
に想定できる。実際にも、特開平3-205053号公報(乙第1号証)に記載さ
れているように、使い捨ておむつの腰バンドを別体のものとすることも、本件出願
前に行われていたのである。
3 記載事項iは、上記特定の使い捨ておむつの腰バンドについて、「3個以
上」の腰バンドを設けることが不適切であることを述べたものであり、使い捨てお
むつに対する腰バンドの貼着について否定的な見解を述べたものではない。
第5 当裁判所の判断
1 甲第3号証(引用例)によれば、記載事項bは、引用例の発明の詳細な説明
の欄が、「発明の背景」、「発明の概要」、「発明の具体的説明」、「例」の各項
に分けられたうちの、「発明の具体的説明」の項に記載されていること、上記「発
明の具体的説明」の項の冒頭には、「発明の具体的説明 本明細書は、本発明とみ
なされる要旨を詳細に指摘しかつ明確に請求する特許請求の範囲で締めくくられる
が、本発明のより良好な理解は、添付図面および以下の例の研究と一緒に本発明の
以下の具体的説明の注意深い読解によって達成され得ると信じられる。」(3頁右
上欄3行~9行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、記載
事項bは、引用例おむつをより良好に理解させるために、引用例おむつの具体的説
明としてなされたものであるから、記載事項bに記載された技術は、特にこれを排
除する記載がない限り、引用例おむつに適用すべき技術として示されているもの
と、これをみた者に理解されることになるのは、当然である。
  そして、甲第3号証によれば、引用例には、引用例おむつの腰バンドについ
て、記載事項bに記載された技術を排除するような記載は存在せず、かえって、上
記「発明の具体的説明」の項には、引用例おむつの腰バンドについて、「使用時
に、前方腰バンド17および後方腰バンド18は、それぞれ着用者の胴の前方部分
および後方部分で着用者の腰領域に隣接して置かれる。」(4頁右上欄16行~1
9行)という、記載事項bの第一文(「使い捨てオムツの腰バンドは、着用者の腰
に隣接して置こうとされるオムツの部分である。」)に対応し、その技術を適用し
たものと解される記載があることが認められる。
  そうである以上、記載事項bは、引用例おむつに適用すべき技術であるか
ら、引用例には、使い捨ておむつの本体とは別体のものとしての特定3層構造から
なる腰バンドが記載されているというべきである。
2 原告は、記載事項bの位置する箇所の書き出しに、「一般に」という文言が
あることをとらえて、使い捨ておむつの一般論について述べているところであっ
て、腰バンドについても一般論を述べているにすぎないと主張する。しかし、仮
に、記載事項b自体は一般論として述べられているものであるとしても、それが引
用例おむつをより良好に理解させるために、引用例おむつの具体的説明としてなさ
れたものである以上、そこに記載された技術は、特にこれを排除する記載がない限
り、引用例おむつに適用すべき技術として記載されているものというべきである。
そして、前示のとおり、引用おむつの腰バンドに記載事項bの第一文の技術を適用
したものと解される記載があることは、記載事項bの技術が引用おむつに適用され
ていることの証左である。
3 原告は、記載事項iを根拠として、引用例に、おむつに対する腰バンドの貼
着については否定的な考えが述べられていると主張する。
  しかし、甲第3号証によれば、記載事項iとこれに先立つ2文の記載は、
「使い捨てオムツは、通常、2個の腰バンド、即ち前方および後方を有するように
製作される。使い捨てオムツは、着用者の腰を囲む単独の単一(unitary)腰バンドを
有するように製作され得るが、この種のデザインは好ましくない。着用者の腰の回
りに貼着しようとする3以上の腰バンド部分を有する使い捨てオムツを製作するこ
とも、可能であるが、これらの具体例も好ましくない。」(3頁右下欄1行~9
行)というものであることが認められ、この記載によれば、記載事項iは、使い捨
ておむつに対する腰バンドの貼着について否定的な見解を述べたものではなく、腰
バンドの数について、2個とするのが通常であって、3個以上の腰バンドとするこ
とが好ましくないと述べたものにすぎないことが明らかである。原告の主張は、採
用することができない。
4 原告は、引用例に記載された考案において、腰バンドを別体とした場合に
は、おむつ本体のバックシートの層ないしバックシートの層を加えて、4層構造な
いし5層構造となり、特定3層構造にはなり得ないと主張する。
  しかし、腰バンドを別体とした場合には、おむつ本体のバックシートの層や
バックシートの層は、「腰バンド」ではないことは明らかであるから、これらの層
の数を加算して、「腰バンドの層の数」が特定3層構造ではない、ということはで
きない。
5 原告は、引用例に記載されている弾性的に収縮性の腰バンドは、おむつの他
の構成部材と不離の関係にあり、別の部材ではないとして、他にも種々の用途を有
する「弾性複合体」である本件考案1とは物品が異なると主張する。
 しかし、引用考案が弾性を有する複合体、すなわち「弾性複合体」であるこ
とは、甲第3号証により明らかである。そして、前記本件考案1に係る実用新案登
録請求の範囲には、本件考案1から「おむつの腰バンドの用途にのみ使用される弾
性複合体」を除外する趣旨の記載は全くなく、また、甲第2号証の1ないし3(本
願明細書)によれば、本願明細書の他の部分にも同趣旨の記載は全くないことが明
らかであるから、本件考案1には、「おむつの腰バンドの用途にのみ使用される弾
性複合体」も含まれるものといわざるを得ない。したがって、引用考案がおむつの
腰バンドの用途にのみ使用されるものであるとしても、これを本件考案1と物品が
異なるものとすることはできない。
 なお、シートとは、「薄板や紙などの一枚」であって、幅がおむつの腰バン
ド程度のものも含まれることは明らかであるから、使い捨ておむつの本体とは別体
のものとしての特定3層構造からなる腰バンドである引用考案の「トップシー
ト」、「バックシート」、「弾性エレメント」がシート状であることは明らかであ
る。
6 以上の事実及び弁論の全趣旨によれば、引用例には引用考案が記載されてい
るというべきであって、これを前提とする決定の認定判断に、原告主張の誤りはな
い。
7 以上のとおりであるから、原告主張の決定取消事由は理由がなく、その他決
定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
         東京高等裁判所第6民事部
               裁判長裁判官 山  下  和  明 
                  裁判官  山  田  知  司
 
                  裁判官 阿  部  正  幸

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