弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を東京地方裁判所に差戻す。
         理    由
 上告人は原判決を破葉する旨の判決を求め、別紙記載の上告理由を陳述した。
 上告理由第一点について
 <要旨>訴訟当事者が抗弁として占有の正当権原を主張するにあたつては、権利の
内容ならびに取得原因を主張する<要旨>必要があることはいうまでもない。しかる
に原判決の事実摘示三の(三)は、「控訴人は第一建物の利用にともない回りの土
地を使用する必要が生じ、被控訴人との間に建物所有を目的とする賃貸借契約を結
んだ。これについては前記の如く控訴人がA方に赴いたときAの母親に対して転借
の申出をして予め承諾を得ているので控訴人Bは昭和二五年被控訴人の了解を得て
第二建物を増築して敷地を占有使用している。」というのであつて、この記載から
は、被上告人Bが第二建物の敷地部分について上告人との間にいつ、どの範囲で、
どういう内容の賃貸借契約を結んだというのか、明確に理解することができず、他
の箇所の摘示を参照しても、せいぜい、「これより先上告人との間に締結した契約
に基く賃借権を有する」旨の主張かと思われ、事実主張として不十分なことは明ら
かである。そして、一件記録中の被上告人ら提出の準備書面を見ても、上告人との
間の土地賃貸借に関する主張は右の範囲を出ていない。ところが、右主張に対する
原判決の事実認定は、「昭和二五年頃秋被上告人Bと上告人間に、第二建物の敷地
について使用貸借契約が成立した。」というのであるから、原判決は被上告人Bの
主張とは別の占有権原を認定したものと解せられるが、右使用貸借契約の成立を仮
定した上で上告人に再抗弁提出の機会を与えた形跡は訴訟記録上あらわれていな
い。
 右のように被上告人らの事実主張が不十分であるときは、原審としては釈明権を
行使してこれを明確にさせるべきであり、また、当事者の主張事実と異なる事実を
認定するにしても、それが訴訟の勝敗にただちに関係する事実であるときは、適宜
の処置をもつて上告人に防禦の機会を与えるべきであつたから、原審の審理には審
理不尽の瑕疵があることを否定できず、その瑕疵が判決に影響を及ぼさないとはい
いがたい。
 よつて、上告人の主張は理由があり、第二建物の敷地の利用関係については更に
事実審理の必要があると考える。そして、右利用関係についての事実認定は、必然
的に第一建物の敷地の利用権ひいては第一建物の所有権の帰属に関する判断と関連
を生ずるから、これらのすべてについて審理をとげるため、原判決全部を取消し、
事件を原裁判所に差戻すのが相当である。
 以上の理由により主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 田嶋重徳 裁判官 吉江清景)

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