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平成19年3月22日判決言渡し
平成17年(行ウ)第47号政務調査費返還代位請求事件
口頭弁論終結日平成18年12月13日
主文
1被告は,自由民主党名古屋市会議員団に対し,2460万円及びこれに対す
る平成17年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払う
よう請求せよ。
2原告らのその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,補助参加によって生じた分も含め,これを5分し,その1を原
告らの負担とし,その余は被告及び被告補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,自由民主党名古屋市会議員団及び新風自民に対し,連帯して287
0万円及びこれに対する平成17年6月1日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
本件は,名古屋市の住民である原告らが,名古屋市が被告補助参加人に交付
した平成15年度及び平成16年度分の政務調査費のうち,被告補助参加人の
共通経費に充てられたとする合計2870万円について,それが政務調査費の
支出としては認められず,収支報告書の記載とも合致しないから,これを不当
利得として同市に返還すべきものである旨主張し,被告に対し,被告補助参加
人及び被告補助参加人の構成員の一部が脱退して結成した新風自民に対して地
方自治法242条の2第1項4号に基づき,上記金員及びこれに対する平成1
7年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払請求をするよう求めた住民訴訟である。
1前提事実等(証拠等を摘示した事実のほかは争いがない。)
()当事者等1
ア原告らは,名古屋市内に居住する者である(弁論の全趣旨)。
イ被告は,地方自治法242条の2第1項4号所定の名古屋市の執行機関
である。
ウ被告補助参加人(平成15年5月ころから平成16年11月ころまでは
自由民主党市民クラブ名古屋市会議員団)は,名古屋市会議員によって構
成された権利能力なき社団である。
エ新風自民は,被告補助参加人の所属議員のうち9名が,平成18年10
月ころ,被告補助参加人から脱退して別会派を結成した権利能力なき社団
である(弁論の全趣旨)。
()条例等の抜粋2
ア名古屋市会政務調査費の交付に関する条例(平成13年名古屋市条例第
1号(本件条例),甲4号証)
(趣旨)
1条この条例は,地方自治法(略)第100条第13項及び第14項の
規定に基づき,名古屋市会の議員の調査研究に資するため必要な経費の
一部として,議会における会派に対し,政務調査費を交付することに関
し必要な事項を定めるものとする。
(交付対象)
2条政務調査費は,名古屋市会における会派(所属議員が1人の場合を
含む。以下「会派」という。)に対して交付する。
(交付額及び交付の方法)
3条1項政務調査費は,月額550,000円に当該会派の所属議員の
数を乗じて得た額を会派に対し交付する。
2項前項の所属議員の数は,月の初日における各会派の所属議員数によ
る。
(使途基準)
4条政務調査費は,議長が定める使途基準に従って使用するものとし,
市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはな
らない。
(収支報告書)
5条1項政務調査費の交付を受けた会派の代表者は,政務調査費に係る
収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を,別記様式に
より議長に提出しなければならない。
2項収支報告書は,前年度の交付に係る政務調査費について,毎年4月
30日までに提出しなければならない。
(議長の調査)
6条議長は,政務調査費の適正な運用を期すため,前条の規定により収
支報告書が提出されたときは,必要に応じ調査を行うことができる。
(政務調査費の返還)
7条市長は,政務調査費の交付を受けた会派がその年度において交付を
受けた政務調査費の総額から,当該会派がその年度において市政に関す
る調査研究に資するため必要な経費として支出した総額を控除して残余
がある場合,当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還を命ずるこ
とができる。
(収支報告書の保存及び閲覧)
8条2項何人も,議長に対し,前項の収支報告書の閲覧を請求すること
ができる。
イ名古屋市会政務調査費の交付に関する規則(平成13年名古屋市規則第
11号(本件規則),甲5号証)
(収支報告書の写しの送付)
5条議長は,条例第5条第1項の規定により提出された収支報告書の写
しを市長に送付するものとする。
(会計帳簿等の整理保管等)
6条1項会派は,政務調査費に関する経理責任者を置かなければならな
い。
2項政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者は,政務調査費の支出
について会計帳簿を調製するとともに,領収書等の証拠書類を整理し,
これらの書類を当該政務調査費に係る収支報告書の提出期限の日から起
算して5年を経過する日まで保管しなければならない。
ウ名古屋市会政務調査費の使途基準及び収支報告書の閲覧に関する規程
(本件規程,乙1号証)
(使途基準)
2条条例第4条に規定する政務調査費の使途基準は,別表に掲げる項目
ごとに概ね右欄に掲げるとおりとする。(本判決末尾に上記別表を添付
した。)
()平成15年度4月分の政務調査費の交付,収支報告書の提出,政務調査費3
の返還
被告補助参加人は,平成15年4月10日,平成15年度4月分の政務調
査費として1320万円の交付を受けた。
被告補助参加人は,同年5月29日,名古屋市会議長に対し,平成15年
度4月分の政務調査費収支報告書(収入合計1320万円,支出合計721
万5182円,残余598万4818円)を提出し,同年7月4日,名古屋
市長に対し,平成15年度4月分の政務調査費の残余額598万4818円
を返還した。(甲1号証,8号証,弁論の全趣旨)
()平成15年度5月以降分の政務調査費の交付,収支報告書の提出,政務調4
査費の返還
被告補助参加人は,平成15年5月10日から平成16年3月10日まで
の間に,平成15年度5月以降分の政務調査費として合計1億4905万円
の交付を受けた。
被告補助参加人は,平成16年4月20日,名古屋市会議長に対し,平成
15年度5月以降分の政務調査費収支報告書(収入合計1億4905万00
38円(利息38円を含む。),支出合計1億4758万3796円,残余
146万6242円)を提出し,平成16年5月20日,名古屋市長に対し,
平成15年度5月以降分の政務調査費の残余額146万6242円を返還し
た。(甲2号証,8号証,弁論の全趣旨)
()平成16年度分の政務調査費の交付,収支報告書の提出,政務調査費の返5

被告補助参加人は,平成16年4月10日から平成17年3月10日まで
の間に,平成16年度分の政務調査費として合計1億5345万円の交付を
受けた。
被告補助参加人は,平成17年4月28日,名古屋市会議長に対し,平成
16年度分の政務調査費収支報告書(収入合計1億5345万0037円
(利息37円を含む。),支出合計1億4738万4320円,残余606
万5717円)を提出し,平成17年5月26日,名古屋市長に対し,平成
16年度分の政務調査費の残余額606万5717円を返還した(甲3号証,
8号証,弁論の全趣旨)。
()被告補助参加人における政務調査費の処理方法6
被告補助参加人は,名古屋市から交付を受けた政務調査費議員一人当たり
月額55万円のうち,50万円を議員個人による調査研究活動に,残5万円
を共通経費として被告補助参加人全体での調査研究活動に充てることにして
別口座で保管していた。また,被告補助参加人所属議員は,調査研究活動の
経費を証明する領収書等を被告補助参加人の会計責任者に対して渡すのと引
き替えに,領収書等に見合う政務調査費を受け取っていた。もっとも議員が
月50万円(年600万円)を超える調査研究活動を行った場合,議員は政
務調査費を月50万円(年600万円)の限度でしか受け取ることができな
いものの,領収書等は月50万円(年600万円)を超える分についても被
告補助参加人の会計責任者に渡していた。
被告補助参加人は,被告補助参加人全体での調査研究活動に支出した際の
領収書等と議員個人が行った調査研究活動に支出した際の領収書等をとりま
とめて市会議長へ提出する収支報告書を作成した。その際,議員から年間6
00万円分を超える領収書等の提出を受けたときには,領収書等記載の金額
全額を収支報告書の支出に含めることとしたため,領収書等記載の金額のう
ち年間600万円を超える部分に相当する金銭は名古屋市に返還されること
なく,また議員にも支払われず,被告補助参加人のもとに保留された(この
被告補助参加人のもとに保留された金員を「余剰金」という。)(丙1号証,
2号証,証人A,弁論の全趣旨)。
()住民監査請求の経緯等7
原告らは,平成17年6月15日,名古屋市監査委員に対し,被告におい
て,被告補助参加人をして,平成15年度の政務調査費中1475万円(共
通経費相当分)及び平成16年度の政務調査費中1395万円(共通経費相
当分)の合計2870万円につき名古屋市に返還させるための必要な措置を
講ずるように求めた(甲7号証)。
被告補助参加人は,平成17年8月1日,平成15年度5月以降分の政務
調査費の支出に不適切と判断すべきものがあったことを理由として,市会議
長に対し,平成15年度5月以降分政務調査費に係る収支報告書の訂正願を
提出して,収入合計1億4905万0038円,支出合計1億4348万3
796円,残余金556万6242円と報告した(甲8号証,乙2号証)。
被告は,これを受けて,平成17年8月3日,被告補助参加人に対して,
410万円(訂正前の残余金額146万6242円と訂正後の残余金額55
6万6242円の差額)を返還するよう命令し,被告補助参加人は,同月4
日,410万円を名古屋市に返還した(甲8号証,弁論の全趣旨)。
名古屋市監査委員は,同月10日付けで,原告らに対し,平成15年度の
政務調査費中410万円については措置の必要が認められず,平成16年度
の政務調査費中150万円については不当利得の事実を確認することができ
なかった旨の監査結果を通知した。
()本訴提起8
原告らは,平成17年9月2日,被告に対し,被告補助参加人を相手方と
する不当利得返還請求をするよう求める本訴を提起した。
()新風自民の結成と訴えの変更9
被告補助参加人に所属していた名古屋市会議員9名は,平成18年10月,
被告補助参加人から脱退して新会派「新風自民」を結成した(弁論の全趣
旨)。
原告らは,同月27日,被告に対し,新風自民を相手方とする不当利得返
還請求をするよう求める訴えを追加した。
2争点
被告補助参加人は,名古屋市から交付された平成15年度分及び平成16年
度分の政務調査費中,共通経費相当額を,法律上の原因なく利得したか
()上記共通経費ないし余剰金が政務調査費の使途基準に適合するか1
()上記共通経費ないし余剰金が収支報告書の記載と合致せず,政務調査費の2
適正な支出と認められないか
()被告補助参加人が名古屋市に対して410万円を返還したことが被告補助3
参加人の本件の返還債務の一部消滅と評価できるか
3争点等に関する当事者の主張
()被告補助参加人は,平成15年度分及び平成16年度分の政務調査費中共1
通経費相当額を,法律上の原因なく利得したかについて
(原告らの主張)
ア共通経費中の余剰金は政務調査費の使途基準に適合しないこと
(ア)共通経費ないし余剰金
被告補助参加人の団長は,共通経費の中から平成15年度分は410
万円を預かり,平成16年度分は150万円を預かっていた。被告補助
参加人においてこのような扱いは慣例となっており,かかる「預かり
金」としての余剰金は,市会議員選挙の際に頭割りで均等に分配されて
いた。したがって,これらは政務調査費の使途基準に適合しない。
(イ)共通経費分に余剰金が含まれることとその評価
被告補助参加人では,所属議員が政務の調査研究活動を行い,その費
用として年額600万円を超える金銭を支出した場合,その支出額に相
当する領収書等に基づき収支報告書を作成するのに対し,当該議員には
年額600万円しか支払わない。共通経費分には少なくともかかる余剰
金が含まれている。
被告補助参加人の団長であったA市会議員は,被告補助参加人の団長
は余剰金分の一部を積み立てて保管し,改選の年に均等割で所属議員に
配分していたと述べているのであるから,余剰金を含む共通経費自体が
政務調査費の使途基準に適合しない支出に用いられた可能性が極めて高
い。それにもかかわらず,被告補助参加人は領収書の提出を拒むばかり
か,余剰金の金額及び余剰金を含む共通経費が具体的に何に使われたか
も明らかにしていない。
ところで,政務調査費について不当利得返還請求権の存在を主張する
住民が,会派が政務調査費を調査研究活動以外の目的に費消したことを
推認させる一般的,外形的な事実を主張立証した場合には,会派におい
て支出した政務調査費が使途基準に適合していることを具体的に主張立
証すべきである。本件では,このような一般的,外形的な事実を原告ら
において主張立証したのであり,被告補助参加人が共通経費から支出し
た部分が使途基準に適合していることを具体的に主張立証しない以上,
共通経費全体が会派ないし議員の調査研究のために支出されたとはいえ
ないと推認すべきである。
(ウ)被告補助参加人の主張に対する反論
被告補助参加人は,収支報告書や領収書に記載された内容どおりの政
務調査活動が行われた以上,調査研究活動を行い,その費用を支払った
議員に対して政務調査費を支払わなくても,それは会派内部の精算の問
題に過ぎず,名古屋市との関係で不当利得の問題は生じないと主張する。
しかし,被告補助参加人の上記主張は,政務調査費が本来は会派の調
査研究活動に対する補助金であることを没却した論理である。地方自治
法100条13項は,政務調査費は「議員の調査研究に資するため必要
な経費の一部」とするべきことを明示しており,同法2条14項が,地
方自治体の執行機関に対し最少の経費で最大の効果を挙げるべきことを
求め,地方財政法4条1項が,地方公共団体の経費は,その目的を達成
するための必要かつ最少の限度をこえてこれを支出してはならないと定
めていることからすれば,補助金である政務調査費を使わなくとも調査
研究活動をすることができる場合には,政務調査費を支出すること,あ
るいは利得として手元においておくことは許されない。そして,政務調
査費は,いくらに相当する政務調査活動がなされたかではなく,政務調
査活動に要した費用のうち,いくらを補助したかを基準としてそれを報
告しなければならない。
したがって,本件条例5条は収支報告書や領収書の記載内容と実際の
政務調査費の支出が一致することを命じており,それらの記載の中に,
政務調査費を実際に支出しないものがあった場合には,当該支払につい
ては本件条例7条により返還を要するのである。
また,調査研究活動のために年間600万円を超える金額を支出した
所属議員に対し被告補助参加人が政務調査費600万円を限度に支払う
ことをもって,被告補助参加人が当該議員に調査研究活動に要した金額
全額を政務調査費として支払い,しかる後,同議員から調査研究活動に
要した金額のうち600万円を超える部分を会派の経費として徴収した
と同視することはできない。そう解釈しないと,会派が所属議員に政務
調査費を渡した後,ただちに当該議員から同額の金員を徴収し,これを
政務調査費の使途基準に適合しない使途に使用する(例えば会派の選挙
費用に充てる)などの一種のマネーロンダリング(資金洗浄)を許容す
る結果となるからである。
イ収支報告書の記載と合致しないこと
(ア)収支報告書の記載と合致しないことと不当利得との関係
各会派が支給された政務調査費を利得として最終的に保有できること
となるのは,当該会派が本件条例5条による適正な収支報告書を市会議
長に提出し,これに基づいて被告が本件条例7条による返還請求権を行
使しないことが確定した段階である。すなわち,実際の使途を正確に反
映しない収支報告書が提出されている場合には,当該会派は不当な利得
を得ていることとなる。
(イ)下記の各事実に照らせば,被告補助参加人の収支報告書のうち共通経
費に相当する部分は事実を反映せず,虚偽である。
a被告補助参加人の前団長であるA市議は,共通経費の中から平成1
5年度分は410万円を預かり,平成16年度分は150万円を預か
っていたこと,被告補助参加人においてこのような扱いは慣例となっ
ており,かかる「預かり金」は,市会議員選挙の際に均等割で分配し
ていた旨説明している。したがって,平成15年度及び平成16年度
の共通経費分に関する支出相当額は,収支報告とは別の使途に支出さ
れたのであって,平成15年度及び平成16年度の各収支報告書は事
実に反している。
b被告補助参加人では,所属議員が市政に関する調査研究活動を行い,
その費用として年額600万円を超える金銭を支出した場合,その支
出額に相当する領収書に基づき収支報告書を作成するのに対し,当該
議員には年額600万円しか支払わず,議員一人当たり年額660万
円支払われる市政調査費の残額60万円は,被告補助参加人において
共通経費として留保し,これを前記のとおり余剰金としている。
そのため,被告補助参加人は,実際に当該調査に支出された政務調
査費は年額600万円にすぎないにもかかわらず,それを超える金額
の政務調査費が支出された旨の記載がなされ,他面,実際には被告補
助参加人において共通経費として留保し,余剰金としたのに,その旨
を記載しない収支報告書を作成し,これを議長に提出しているのであ
る。
本件規則6条2項は会派の経理責任者に対し,政務調査費の支出に
ついて会計帳簿を調製するとともに,領収書等の証拠書類を整理し,
これらの書類を当該政務調査費に係る収支報告書の提出期限の日から
起算して,5年を経過する日まで保管することを義務付けているとこ
ろ,この規定は,収支報告書は支出の目的及び金額において会派所属
の議員が提出した領収書に対応するものとして作成することを求めて
いるにとどまり,保管する領収書と実際の政務調査費の使途とが食い
違う結果を認める趣旨ではない。
したがって,被告補助参加人が名古屋市会議長に提出した収支報告
書の記載は,少なくとも被告補助参加人の共通経費中の余剰金分にお
いては,実際の政務調査費の支出と異なる支出がなされており,本件
条例5条に違反する収支報告である。
(ウ)共通経費相当額全額を返還すべきであること
平成15年度,平成16年度の被告補助参加人の共通経費分について,
どの部分が収支報告と異なった支出がされたか判明しない以上,共通経
費全体が政務調査費の使途として不適切な支出と言わざるを得ず,その
全額が返還されなければならない。
その金額は平成15年度が1475万円,平成16年度が1395万
円で合計2870万円である。
ウ410万円の返還金について
なお,被告補助参加人は,平成15年度の政務調査費の共通経費分の一
部410万円を名古屋市に返還したと主張する。しかし,被告補助参加人
は,当初これがA市議が主張するように共通経費からプールした資金であ
ることを否定していたところ,その後,同市議個人の後援会旅行の領収書
がこの410万円に充てられていたとして,同市議の不正流用を理由とし
て同額を名古屋市に返還するに至ったものであり,その経過からは,この
410万円がA市議に配分された分の不正流用なのか,共通経費分の不正
流用であるかの特定が困難である。したがって,この410万円はA市議
個人の経費部分の不正流用である可能性があるから,共通経費分の不当利
得返還請求を求める本訴においては,この410万円の返還を考慮する必
要はない。
(被告の主張)
被告補助参加人の主張を援用する。
(被告補助参加人の主張)
ア共通経費からの支出が政務調査費の使途基準に適合すること
(ア)被告補助参加人の団長が,共通経費から金員を預かってきたことはな
い。
(イ)被告補助参加人においては,所属の議員が調査研究活動の結果,年額
600万円を超える支出をした場合であっても,議員個人には600万
円を上限として政務調査費を支払うこととしている。そして,収支報告
書には議員個人から提出された領収書をもとに支出を記載するため,領
収書記載金額の合計額から600万円を引いた額が,被告補助参加人に
留保されることとなる。このように留保された余剰金は,あくまで被告
補助参加人内部の精算の結果生じるものであり,個々の議員が調査研究
活動をし,現実に収支報告書のもととなった領収書に対応する費用を支
出した以上,名古屋市との関係で不当利得の問題は発生しない。被告補
助参加人においては,これを共通経費として,会派控室における諸会議
の経費,会派執行部による自民党本部・政令指定都市への政策・調査打
合せのための経費,コピー機のリース代,パソコンの保守及びデータ管
理のための経費,関連ソフトにかかる経費,機関紙「自由市民」作成の
ための取材活動・編集活動等に支出している。
政務調査費が目的以外に使われたことは,そのことを推認させる一般
的,外形的な事実をまず原告らが主張立証すべきであるが,かかる主張
立証はない。
政務調査費の支給については,その使途の透明性確保の要請がある一
方で,会派の結社の自由,言論の自由及び政治活動の自由を制限するお
それや,執行機関等からの干渉の防止及び会派間における独自性・優位
性確保の必要性もあるので,この二つの要請を実現するため,名古屋市
においては本件条例で収支報告書の提出を義務付けるものの,領収書等
の提出は義務付けられていないのであり,したがって本訴でも領収書の
提出はできない。しかし,平成15年度分及び平成16年度分の共通経
費分の再調査を行ったところ,後述する平成15年度の410万円及び
平成16年度の570万円以外は,領収書の発行者,日付,金額,ただ
し書等に不自然な点は見られなかったので共通経費分は使途基準に沿っ
た適正なものと判断した。
(ウ)共通経費ないし余剰金の発生状況は次のとおりである。
平成15年度4月分は,支出総額721万5182円のうち,共通経
費分は1万5182円で,余剰金は発生していない。
平成15年度5月以降翌年3月分までは,支出総額1億4758万3
796円のうち,共通経費分は1258万3796円で,余剰金は発生
していない。ただし,上記共通経費分のうち410万円は,A市議が政
務調査活動とは認められない使途の領収書を提出していたことが後日判
明したので,被告補助参加人において同額を名古屋市に返還した。
平成16年度分は,支出総額1億4738万4320円のうち,共通
経費分は772万4539円で,議員個人が政務調査費として支出した
1億3965万9781円のうち165万9781円が余剰金となった。
なお,原告らが指摘する平成15年度の410万円及び平成16年度
の570万円は,A市議が不明朗な領収書を差し入れて持ち出したに過
ぎず,ここにいう余剰金には当たらない。このうち平成15年度の41
0万円は上記のとおりすでに名古屋市に返還し,平成16年度の570
万円については収支報告書提出前に発覚したため,支出に計上していな
い。
イ収支報告書の記載は実態と合致していること
原告らは,被告補助参加人所属議員が調査研究活動を行い,その費用と
して年額600万円を超える金銭を支出し,その支出の領収書の提出と引
き替えに被告補助参加人から年額600万円の支払を受けた場合に,上記
領収書に基づいて収支報告書に支出金額を記載するのは,実際の政務調査
費の支出を反映していないと主張する。しかし,議員個人が現実に年額6
00万円を超える金額を支出している以上,その金額を政務調査費として
支出したとの報告は事実をそのまま報告している。被告補助参加人と議員
との精算関係は,被告補助参加人内部における処理の問題にすぎない。し
たがって,収支報告書の虚偽記載には当たらない。
ウ410万円の返還について
被告補助参加人は,上記のとおり,平成15年度の共通経費分の125
8万3796円のうちA市議提出の領収書にかかる合計410万円は,調
査研究活動を証するものとしては不相当と判断し,平成15年度の収支報
告書を訂正の上,名古屋市に410万円を返還した。
原告らのその余の主張は争う。
()新風自民が被告補助参加人の不当利得返還債務について連帯責任を負うと2
する原告らの主張は次のとおりである。
ア被告補助参加人に所属していた名古屋市会議員9名は,平成18年10
月,被告補助参加人から離脱して新会派「新風自民」を結成した。
イ権利能力なき社団に対する債務の引き当てとなるのは社団の総有財産で
あるところ,新風自民は被告補助参加人から分離したものであるから,新
風自民の財産は,分離前は被告補助参加人の総有財産の一部を構成してい
た。
ウしたがって,新風自民の総有財産も,本来は,本訴で問題となっている
不当利得返還請求権の引き当てとなっていたものであるから,名古屋市長
が不当利得返還請求訴訟を提訴するに当たっては,被告補助参加人及び新
風自民の両会派を被告とすることが必要であり,公平にかなう。
第3当裁判所の判断
1政務調査費に関する不当利得返還請求と主張立証責任など
()原告らは,被告補助参加人に交付された平成15年度及び平成16年度の1
政務調査費のうち,被告補助参加人の共通経費分の使途が本件条例及び本件
規程で定められた使途基準に違反しており,また被告補助参加人の提出した
収支報告書の記載と合致せず違法であるから,これを名古屋市に返還すべき
であるとして,被告補助参加人に対する不当利得の返還請求をするよう被告
に求めている。
()政務調査費は,地方自治法100条13項によって,普通地方公共団体が,2
条例の定めるところにより,その議会における会派又は議員に対し,議員の
調査研究に資するため必要な経費の一部として交付することが認められた経
費である。同項の条例として政務調査費の交付対象や交付方法等を定めた本
件条例は,名古屋市会の各会派に対して,月額55万円に所属議員の数を乗
じた金額を交付する旨を定め(本件条例2条,3条),その使途基準を「政
務調査費は,議長が定める使途基準に従って使用するものとし,市政に関す
る調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない。」(同
4条)とし,会派の代表者は,所定の様式による前年度の収支報告書を,毎
年4月30日までに議長に提出しなければならず(同5条),その提出を受
けた議長は,政務調査費の適正な運用を期すため,必要な調査を行うことが
でき(同6条),政務調査費として交付された金員の返還について「市長は,
政務調査費の交付を受けた会派がその年度において交付を受けた政務調査費
の総額から,当該会派がその年度において市政に関する調査研究に資するた
め必要な経費として支出した総額を控除して残余がある場合,当該残余の額
に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる。」(同7条)と規
定し,なお,何人も議長に対して,収支報告書の閲覧を請求することができ
る旨(同8条)定めている。そして,本件規則は,会派は,政務調査費に関
する経理責任者を置いて,会計帳簿の調製と領収書等の証拠書類を整理して,
これを所定の期間保管すべきことを定め(本件規則6条),また,本件規程
は,本件条例4条に規定する使途基準を,別表に掲げる項目ごとに概ね(同
表の)右欄に掲げるとおりとする旨(本件規程2条)定めている。
()これらの各規定及び政務調査費の趣旨に照らすと,会派に交付された政務3
調査費が使用されずに残余が生じた場合のほか,使用された政務調査費が,
その交付の趣旨及び使途基準に照らして,市政に関する調査研究に資するた
め必要な経費とは認められない場合も,当該部分の返還を要することは当然
というべきである。
そして,本件条例その他の上記各規定が,交付される政務調査費の使途基
準を定めた上,会派に経理責任者を置くことや,収支報告書の提出,会計帳
簿の調製と領収書等の証拠書類の整理,保管を義務付け,議長の調査権を定
めているのは,税金から支出される政務調査費の実際の使途が,上記使途基
準に適合しており,市政に関する調査研究に資するため必要な経費として認
められるものであることを担保し,その透明性を確保する趣旨目的によるも
のと解されるから,収支報告書の収支の記載内容が,実際の政務調査費の支
出内容と大幅に相違していたり,その支出内容が使途基準に適合しているか
どうかを確認することができないような場合は,収支報告書の作成を義務付
けて政務調査費の適正な支出とその透明性を確保しようとしている上記各規
定の趣旨目的を満たすものとはいえず,当該部分の支出は政務調査費の適正
な支出と認めることはできないので,これは法律上の原因を欠く不当利得と
して市に返還すべきものと解される。
()もっとも,上記の各規定も収支報告書に領収書等の証拠書類の添付を義務4
付けてはおらず,会派の経理責任者に対して会計帳簿の調製と領収書等の証
拠書類の整理保管を一定期間義務付けた上,収支報告書の提出を受けた議長
はこれを調査することができるとするに止まり,領収書等裏付資料の一般的
開示を予定するものではないが,これは政務調査費の支出内容の明細は,会
派の政策意図や具体的な調査対象を推知させるなどして,調査目的の達成を
妨げるおそれがあるので,これに対する配慮の必要性と,一方における政務
調査費支出の透明性確保の必要性という相容れない要請の調整を図ったもの
であって,収支報告書の内容が実態と大幅に相違したり,その使途が使途基
準に適合しているといえるかについて合理的な理解ができない内容のもので
あるなど,収支報告書が担うべき政務調査費の適正な支出及びその透明性の
確保の担保としての機能を没却する運用を許す趣旨によるものではないこと
も明らかである。
()以上の諸事情を踏まえて勘案してみると,政務調査費に関する不当利得の5
返還については,返還請求を求める側において,政務調査費の使途について
相当な根拠をもって疑義が存することを主張,立証した場合には,会派ない
し市側において,合理的な疑いを容れない程度にその疑義を解消するに足る
主張と反証を行う必要があり,それがなされない場合には,政務調査費の適
正な支出がなされなかったものと推認されるというべきである。
2被告補助参加人における共通経費及び余剰金の取扱いと収支報告書の記載内
容について
()原告らは,上記のとおり,被告補助参加人における共通経費の支出が政務1
調査費として認められず,収支報告書の記載にも合致しない旨主張するので
検討するに,被告補助参加人が,その共通経費及び余剰金について主張する
ところは次のとおりである。
ア被告補助参加人では,会派内部の取り決めとして,名古屋市から毎月
交付される所属議員一人当たり55万円(年額660万円)の政務調査
費のうち50万円(年額600万円)はそれぞれ封筒に入れて金庫に保
管し,残り5万円(年額60万円)は,被告補助参加人の共通経費とし
て被告補助参加人の別口座に入金して保管し,個々の議員に対する支払
は実際に政務調査活動に使用した金額が年額600万円を超える場合で
も,600万円を限度に支払うことにしている。ただし,当該議員から
は600万円を超える政務調査費の支出分についてもその領収書の提出
を受け,その分を含めて,被告補助参加人としての収支報告をしている。
この個々の議員には支払わずに,被告補助参加人が保留する部分の金
額が余剰金であるが,上記のとおり,この余剰金に相当する金額の支出
は,実際に個々の議員が政務調査活動に使用したもので,これに対応す
る領収書等も提出され,会派の会計責任者において保管しているから,
これを含めて被告補助参加人が使用した政務調査費として収支報告書に
記載する取扱いに問題はなく,それが不当利得返還の対象となるもので
はない。(被告補助参加人準備書面(),同()等)15
イ被告補助参加人の共通経費は,被告補助参加人が会派として行う政務
調査活動のための費用であり,具体的には会派控室における諸会議の経
費,会派執行部の自民党本部などへの政策・調査打合せのための経費,
コピー機のリース代,パソコンの保守及びデータ管理や関連ソフトにか
かる経費,機関紙「自由市民」の取材・編集活動費等であり,それらの
領収書は,被告補助参加人の財務委員長等が確認している。(同準備書
面())2
ウ共通経費と余剰金の具体的な取扱いとしては,仮に調査旅費として7
00万円の領収書が議員から提出された例では,当該議員には600万
円を支払い,残100万円については,上記の共通経費とした口座から
100万円を出金して余剰金とした上,これを被告補助参加人が保有し,
収支報告書では700万円全額を調査旅費として支出したものと記載す
る処理をしているというものである。(同上)
エ被告補助参加人における共通経費及び余剰金の発生状況は次のとおり
である。(同準備書面())3
(ア)平成15年度4月分は,収支報告書記載の支出総額721万518
2円のうち,議員個人分が720万円(なお,同月13日に市会議員
選挙があり,その選挙活動を考慮して,被告補助参加人内部で当月の
議員一人あたりの調査活動費の上限は30万円とした。),共通経費
分が1万5182円で,余剰金は発生していない。
(イ)平成15年度5月分から平成16年3月分までは,収支報告書記載
の支出総額1億4758万3796円のうち,議員個人分が1億35
00万円,共通経費分は1258万3796円で,余剰金は発生して
いない。ただし,上記共通経費分のうち,410万円は,A議員が政
務調査活動とは認められない領収書を差し入れていたことが判明した
ので,同額を名古屋市に返還した。
(ウ)平成16年度分は,収支報告書記載の支出総額1億4738万43
20円のうち,議員個人分が1億3965万9781円,共通経費分
は772万4539円であったが,上記議員個人分のうち165万9
781円は議員個人に支払わず余剰金とした。
()被告補助参加人の共通経費及び余剰金に関する上記()の主張にかかる説21
明内容を検討してみると,その共通経費及び余剰金の実態並びにこれに関す
る収支報告の内容について,次のような疑義ないし問題があると解される。
ア被告補助参加人の説明による余剰金と共通経費の関係は必ずしも明確で
はないが,余剰金が共通経費として使用されるものとは別個の,純然たる
被告補助参加人の会派としての内部資金となるものとすれば,収支報告書
上は,当該議員の領収書に基づいて,当該議員の使用にかかる政務調査費
に含めて支払われたものと処理されているものが,実態としては,そのう
ち当該議員について年額600万円を超える余剰金部分は,被告補助参加
人に余剰金として保留され,政務調査費とは関係のない被告補助参加人の
内部資金となるというのであり,それが,一旦は当該議員に政務調査費と
して支払われた上,改めて当該議員個人から余剰金部分相当額が被告補助
参加人に拠出されるものであるとの説明をするとしても,そのような資金
の拠出を可能にさせるのは余剰金の原資となるべき部分を含めて政務調査
費の交付を受けていることによるものである(そのことは,600万円を
超える政務調査費の支出をしなければ,余剰金としての拠出ないし保留は
あり得ないことを想起すれば明白である。また,それが会派という団体に
所属することに伴って負担すべき団体の維持費等,通常の経費に関する拠
出ないし保留としても合理化できないことは,その金額が,600万円を
超える部分という定額性を欠く金額になることからしても明らかであ
る。)のみならず,余剰金とされた部分を含めた金額が収支報告書に支出
として計上されることは,結局,名古屋市へ返還できるはずの残余金を減
少させることにも繋がっているのであるから,そのような余剰金に転化さ
れることになる政務調査費の支払は,政務調査費の趣旨及び使途基準に反
するものといわなければならない。
また,余剰金が被告補助参加人の共通経費として使用されているもので
あるというのであれば,個々の議員が政務調査費として使用した際の領収
書と被告補助参加人が共通経費として使用した際の領収書が重複して提出
され,重複した支出の収支報告がなされていることになり,収支報告の支
出額に誤りが生じ,返還すべき残余金を減少させていることになる。
しかも,被告補助参加人の共通経費が余剰金によって充てられるという
構造は,各議員が共通経費捻出のために,必ずしも必要不可欠とはいえな
い使途の政務調査費を支出して,600万円を超える支出部分を発生させ
る危険性をも内包するものというべきであって,なお,こうした余剰金部
分をどの程度の金額とするかは,被告補助参加人内部において適宜に決め
ることが可能であるから,その収支報告の内容は実態と必ずしも符合しな
いことになる。
そうしてみると,いずれにしても,被告補助参加人の説明にかかる余剰
金の取扱いは,政務調査費交付の趣旨目的及び使途基準に適合しないもの
であって,許容されないものというべきである。
イ次に,被告補助参加人の平成15年度4月分の収支報告書(甲1号証)
の支出の内訳に関する上記の説明内容には以下のとおりの疑義がある。
すなわち,被告補助参加人によれば,平成15年度4月分の共通経費は
1万5182円であるというのであるが,これを平成15年度の5月分か
ら平成16年3月分までの共通経費分が1258万3796円,平成16
年度分のそれが772万4539円とする説明と対比してみると,上記平
成15年度4月分の共通経費の金額は,それが1か月分であるとしても,
いかにも少額に過ぎると解される上,その収支報告書記載の支出内容のう
ち,研修費(50万9210円),会議費(8万1239円),資料作成
費(自由市民の作成費及び資料代など,146万6225円)など,一般
に共通経費として支出される部分が多いと考えられる項目の各計上金額に
照らしてみても,そのいずれとも整合し難い感を免れない。
しかも,被告補助参加人は,同月分の政務調査費については,同月13
日に市会議員選挙があり,その選挙活動を考慮して,被告補助参加人内部
で当月の議員一人あたりの調査活動費の上限は30万円とした旨の説明を
していることは上記のとおりであるところ,この説明内容と上記収支報告
書の記載内容が整合するのかどうかも疑問である。
したがって,被告補助参加人の上記説明にかかる支出内訳に対応する政
務調査費の支出がどのようになされたのか理解が困難であって,ひいては
被告補助参加人の収支報告書の記載内容がどれほど実態と符合するもので
あるのかについて相当の疑問を抱かせるものというべきである。
()以上のとおり,被告補助参加人が行っている政務調査費の取扱いのうち,3
共通経費及び余剰金の取扱いは,その部分の収支報告が政務調査費の支出の
実態と合致しているかどうかについて相当の根拠に基づく疑義があると認め
られるから,これについて被告補助参加人又は被告において,合理的な疑い
を容れない程度の説明ないし反証を行って上記疑義を解消しない限り,その
共通経費及び余剰金に関する支出は,政務調査費の適法な支出と認めること
ができず,政務調査費として交付を受けた当該部分に相当する額は,法律上
の根拠を欠く不当利得と認められることになる。
しかるところ,被告補助参加人らが本訴において提出した主張及び立証を
検討してみても,上記疑義を解消するに足るほどの説明ないし反証がなされ
たとは認められないから,被告補助参加人は,平成15年度及び平成16年
度に交付を受けた政務調査費のうち,その共通経費及び余剰金に関する部分
に相当する額を不当利得として返還すべきものである。
()上記不当利得の金額は,平成15年度分が1475万円(被告補助参加人4
が自由民主党市民クラブ名古屋市会議員団として交付を受けた1億4905
万円と自由民主党名古屋市会議員団として交付を受けた1320万円につい
て,それぞれ5万円/55万円に相当する額),平成16年度分が1395
万円(交付を受けた1億5345万円について5万円/55万円に相当する
額)の合計2870万円となる。
3被告補助参加人から名古屋市へ返還された分の取扱い等
被告補助参加人は,上記のとおり,平成15年度の共通経費分の1258万
3796円のうちA市議提出の領収書にかかる合計410万円は,調査研究活
動を証するものとしては不相当と判断し,平成15年度の収支報告書を訂正の
上,名古屋市に410万円を返還した旨を主張し,その金額が被告補助参加人
から名古屋市に返還された事実は当事者間に争いがない。
原告らは,上記の410万円が,共通経費分について返還されたのか,議員
個人分について返還されたのか明らかでないから,これを本件で請求するよう
求めている共通経費分の不当利得の一部返済とすることはできない旨主張する
が,A市議から共通経費分として提出された領収書の金額について,返還がな
されたとする被告補助参加人の主張と矛盾すべき証拠もないから,同金員は共
通経費に関する不当利得の一部返還としてなされたものと認めるのが相当であ
る。したがって,この410万円は上記2870万円から控除すべきであり,
その残額は2460万円となる。
4原告らは,本件の不当利得返還請求権について,同請求権が発生したことが
明白となった平成17年6月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損
害金の請求をするよう求めているが,不当利得返還債務は法律の規定により発
生するもので,期限の定めのない債務であるから,債権者の請求を受けたとき
から遅滞に陥ることになる。本訴において,被告補助参加人が名古屋市から原
告ら主張にかかる上記期日より前に本件不当利得返還の請求を受けたことを認
めるに足る証拠はないが,本訴提起に伴い,名古屋市の代表者市長である被告
から,被告補助参加人に対して本訴の訴訟告知が行われ,それが平成17年1
0月14日被告補助参加人に到達したことは本件記録上明らかである。
上記訴訟告知は訴訟手続上の通知を目的とするものであるが,被告において
被告補助参加人に対して不当利得返還請求をするよう求められている住民訴訟
が認容される場合には,不当利得の返還を被告補助参加人に請求する趣旨が含
まれているものと解することができるから,これによって被告補助参加人の不
当利得返還債務は遅滞に付されたものと解するのが相当である。
5新風自民に対する支払請求をするよう求める請求部分について検討するに,
権利能力なき社団の債務は,社団に総有的に帰属し,社団の総有財産だけがそ
の引き当てとなり,社団員個々人が責任を負うことはないと解される(最高裁
判所昭和48年10月9日第三小法廷判決・民集27巻9号1129頁)。そ
うすると,権利能力なき社団(従前の社団)の一部の構成員が脱退し,その脱
退構成員らが別の権利能力なき社団(新社団)を結成した場合,新社団が従前
の社団から総有財産の一部を引き継いだり,あるいは,新社団が従前の社団と
実質的に同一性を認め得る社団である場合などの特段の事情がある場合でない
限り,新社団は従前の社団の債務について,その支払義務を承継したり責任を
負うことはないと解すべきである。
本件について,被告補助参加人に所属していた名古屋市会議員9名が,平成
18年10月に被告補助参加人から脱退した上,新たに新風自民を結成した際,
被告補助参加人と新風自民との間で,被告補助参加人に帰属する財産の一部を
新風自民に引き継ぐことになった経緯や,新風自民が実質的に被告補助参加人
と同一性を保った団体であるとの事情があるとはうかがわれず,上記特段の事
情があるとは認められない。
そうすると,新風自民が被告補助参加人の不当利得返還債務を承継したり責
任を負うものとは解されないから,原告らの同部分に関する主張は理由がない。
第4結論
よって,原告らの請求は,被告に対し,被告補助参加人に対して不当利得と
して2460万円の返還及びこれに対する被告補助参加人に対する訴訟告知書
送達の日の翌日である平成17年10月15日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払請求をするよう求める限度で理由があるか
ら認容し,その余の被告補助参加人に対する返還請求を求める部分及び新風自
民に対する返還請求を求める部分の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の
負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文,66条を適用
して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
中村直文裁判長裁判官
前田郁勝裁判官
尾河吉久裁判官
別表
項目内容
調査費本市の事務及び地方行財政に関する調査研究活動並びに調査委託に
要する経費
(調査委託費,交通費,宿泊費等)
研修費調査研究活動のために行う研修会・講演会の実施に必要な経費並び
に他団体が開催する研修会・講演会等への所属議員及び会派の雇用
する職員の参加に要する経費
(会場費・機材借り上げ費,講師謝金,会費,交通費,宿泊費等)
会議費調査研究活動のために行う各種会議に要する経費
(会場費・機材借り上げ費,資料印刷費等)
資料作成費調査研究活動のために必要な資料の作成に要する経費
(印刷・製本代,原稿料等)
資料購入費調査研究活動のために必要な図書・資料等の購入に要する経費
(書籍購入代,新聞雑誌購読料等)
広報費調査研究活動,議会活動及び市政に関する政策等の広報活動に要す
る経費
(広報紙・報告書等印刷費,会場費,送料,交通費等)
事務費調査研究活動に係る事務遂行に必要な経費
(事務用品・備品購入費,通信費等)
人件費調査研究活動を補助する職員(臨時職員を含む。)を雇用する経費
(給料,手当,社会保険料,賃金等)
注()内は例示

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