弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人宮本智作成の控訴趣意書記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
所論は,要するに,原判決は,「罪となるべき事実」において,被告人が,店舗
型性風俗特殊営業を営むことが禁止されている神奈川県条例で定められた施設の敷
地の周囲200メートルの区域内である川崎市高津区内のビルの3階に,「甲店」
の名称で営業所を設け,平成18年6月2日午後10時20分ころ及び同年7月2
8日午後7時10分ころ,前後2回にわたり,同営業所内に設置した個室において,
不特定多数の遊客である男性2名に対し,専ら,性的好奇心をそそるため,衣服を
脱いだ人の映像を見せるいわゆる個室ビデオ店を営み,もって,店舗型性風俗特殊
営業禁止区域において,同営業を営んだという風俗営業等の規制及び業務の適正化
等に関する法律(以下「風営法」という。)違反の事実を認定したが,被告人の営
む「甲店」(以下「本件個室ビデオ店」という。)は,風営法2条6項3号,同法
施行令2条1号の定める「興行」及び「専ら」の要件を充足せず,店舗型性風俗特
殊営業に該当しないのであるから,被告人に営業禁止区域における店舗型性風俗特
殊営業の罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の
誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討すると,原判決が「罪となるべき事実」及び「補足
説明」において認定,判示するところは,当裁判所も概ね正当として是認すること
ができる。所論に鑑み,以下に補足して説明する。
第1「興行」の要件
所論は,本件個室ビデオ店においては,客自身が,機器を借りて,「衣類を脱い
だ人の姿態の映像」を自由に再生するので,「興行」をするのは客自身であって,
営業者は,客に対し,その道具,備品及び部屋をレンタルするだけであり,「映像
を見せる興行」をしていないのであるから,本件個室ビデオ店が,風営法2条6項
3号,同法施行令2条1号の定める「映像を見せる興行の用に供する興行場」に該
当しない旨主張するので,検討する。
1関係法令
(1)風営法2条6項3号は,「専ら,性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人
の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著し
い興行の用に供する興行場(興行場法(昭和23年法律第137号)第1条第1項
に規定するものをいう。)として政令で定めるものを経営する営業」が,「店舗型
性風俗特殊営業」に該当することを定めている。
(2)風営法施行令2条1号は,「ヌードスタジオその他個室を設け,当該個室
において,当該個室に在室する客に,その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人
の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場」で,「専らこれらの」「興
行の用に供するもの」が,風営法2条6項3号の政令で定める興行場に該当するこ
とを定めている。
(3)興行場法1条1項は,「この法律で『興行場』とは,映画,演劇,音楽,
スポーツ,演芸又は観せ物を,公衆に見せ,又は聞かせる施設をいう。」と定めて
いる。
2本件個室ビデオ店の営業形態等
関係各証拠によれば,本件個室ビデオ店の営業形態等について,次のような事実
が認められる。すなわち,
(1)本件個室ビデオ店は,客の性的好奇心をそそるため,衣服を脱いだ人の姿
態の映像(女性が裸体となって性交や性交類似行為等を行っている映像)を録画し
たアダルトビデオやアダルトDVD(以下「アダルトビデオ等」という。)を店内
に多数陳列するとともに,ビデオやDVDの再生装置を備えた個室8室を店内に設
けており,各個室の出入口の扉は,中から施錠ができるようになっていた。
(2)本件ビデオ店では,客に対し,店内の陳列棚から好みのアダルトビデオ等
を含むビデオやDVD(以下「ビデオ等」という。)を5本まで選択させ,選択し
たビデオ等を受付カウンター内の棚から出すなどして,それを店内の個室での視聴
に限って有料で貸し出し,個室を指定し,テレビ用のヘッドホン及びリモコンも一
緒に手渡すことによって,店内の個室において,再生装置を自ら使用して視聴して
もらい,視聴が終われば,客からそれをヘッドホン等と一緒に返却してもらってい
た。
(3)本件個室ビデオ店では,ビデオ等の貸出料金の体系は,1時間が2000
円,2時間が3000円,3時間が4000円,時間無制限が6000円,延長が
30分につき1000円と時間制になっており,客に対しては,受付カウンターで
料金を前払いさせてから個室に入れていた。
(4)本件個室ビデオ店では,客は,店内に陳列されているビデオ等を店外に持
ち出す形のレンタルが一切できず,店内の個室でしか視聴できなかった。
3「興行」の要件の該当性
これらの事情に照らせば,本件個室ビデオ店は,店内に多数の個室を設置し,多
数のアダルトビデオ等をあらかじめ準備した上,来店した客に対し,店内の個室に
おいて,それらのアダルトビデオ等のうち客の選択したものを視聴させていたので
あるから,「客の性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる興
行」を行っていたことは明らかというべきである。そして,この点は,客が,個室
において,備え付けられた再生装置を自ら操作してアダルトビデオ等を視聴するの
で,自ら選択したアダルトビデオ等を再生するかどうかや,どの部分を再生するの
かなどについては,客の判断に委ねられ,店側が一切関知していないからといって,
所論主張のように,「興行」を行うのが,客自身であって,本件個室ビデオ店が,
「映像を見せる興行」をしていないことになるものではない(実際にも,わざわざ
料金を支払ってアダルトビデオ等を借り出した客が,そのアダルトビデオ等につい
て,内容の不満や時間の制約等により途中で視聴を打ち切ることはあっても,女性
が裸体となって性交や性交類似行為等を行っている部分を全く見ることなく,その
まま店に返却することは,考え難いところである。)。
したがって,本件個室ビデオ店が,「映像を見せる興行」をしていないことを理
由に,法令の定める「映像を見せる興行の用に供する興行場」に該当しない旨の所
論は,採用することができない。
第2「専ら」の要件
所論は,警察庁生活安全局作成の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関す
る法律等の解釈運用基準」(以下「解釈運用基準」という。)第5の3の(2)が,
風営法2条6項3号,同法施行令2条の定める「専ら」について,「『専ら』とは,
他の営業でも同様であるが,おおむね7割ないし8割程度以上をいう。」と解釈及
び運用の基準を示しており,第一線で取締りに当たっている警察は,これを受けて,
店内に陳列してあるアダルトビデオ等の本数の割合が7割以上の場合に,「専ら」
に当たるとこれまで判断してきており,被告人も,それを知って,本件個室ビデオ
店においては,陳列するアダルトビデオ等の本数の割合を6割くらいに抑制し,7
割を下回るようにいつも気を付けて在庫管理をしており,実際にも,陳列されてい
たアダルトビデオ等の本数の割合が7割を下回っていたのであるから,本件個室ビ
デオ店が,風営法2条6項3号,同法施行令2条1号の定める「専ら」に該当しな
い旨主張するので,検討する。
1被告人及び従業員の各供述
被告人及び本件個室ビデオ店の従業員であるAは,同店の営業実態等について,
次のように供述している。すなわち,
(1)店内には,客の性的な興奮を煽るために,女性の裸や性交場面が映ったプ
ロモーションビデオを流し,アダルトビデオ出演女優のポスターを多数貼っており,
アダルトビデオ等を借りて個室で視聴している客に気持ちよく自慰行為や射精をし
てもらうために,自慰用グッズやローションを販売したり,コンドーム1個を無料
サービスで渡したりしているので,店では,一般ビデオや一般DVD(以下「一般
ビデオ等」という。)を個室で視聴する客は念頭になく,アダルトビデオ等の本数
の比率に関係なく,アダルトビデオ等を個室で見せる営業で店が成り立っている。
(2)一般ビデオ等については,一般のレンタルビデオ店で借りれば,店の個室
で見るより安く済むので,わざわざ個室で視聴する必要はなく,それを個室で見る
客はほとんどいないことから,一般ビデオ等の個室での視聴では店の営業が成り立
たないので,アダルトビデオ等を個室で見せる営業を行っていた。
(3)店の客層は,20歳から60歳までくらいの男性であり,自宅では家庭環
境等によりアダルトビデオ等を視聴できないことなどから,店の個室でアダルトビ
デオ等を視聴することが来店の目的である。
(4)店の外は,「アダルト」と看板等で掲げており,店内は,セックス関連の
販売商品,ポスター,プロモーションビデオ,アダルトビデオ等が溢れているので,
店には,女性客はまず来ないし,子供も当然来ない。
(5)店の外観や内装から考えれば,一般ビデオ等だけを借りる客は,まずいな
いし,実際にも9割以上の客が,個室でアダルトビデオ等を視聴していることは間
違いない。
(6)アダルトビデオと一般ビデオを混合させて借りる客がたまにはいるが,そ
のような客も,一般ビデオはまず見ていない。なぜならば,ビデオは,巻き戻さな
くてもよいと店内に掲示してあり,アダルトビデオは巻き戻っていないのに,一般
ビデオは巻き戻ったままの状態であることがほとんどだからである。
(7)店内では,販売用のビデオが置いてあり,代金は,一般ビデオが1本50
0円,5本1000円で,アダルトビデオが1本1000円,5本2000円であ
るところ,その購入客は,1日に一,二名くらいである。また,コンドームが1日
に20個くらい,ローションや自慰用グッズがそれぞれ1日に一,二個くらい売れ
るが,個室で利用していく客がほとんどで,店外に買って帰る客は,ほとんどいな
い。したがって,店の売上げは,9割くらいが個室ビデオでの視聴の売上げである。
(8)アダルトDVDは,2週間に1回くらい,30本くらいの新作を入荷して
いる。これに対し,一般ビデオ等は,アダルトビデオ等に比べると,販売数等も少
ないので,2箇月に1回くらい入荷しているが,値段の高い新作は入荷していない。
(9)店は,平成17年11月に警察に摘発されたことがあったので,それ以降,
警察の摘発を逃れるために,アダルトビデオ等の本数を減らし,一般ビデオ等の本
数を増やしたが,店の営業の実態が,アダルトビデオ等を個室で見せるものである
ことは,アダルトビデオ等の本数の比率に関係なく,変わっていない。
(10)店の売上げにおけるアダルトビデオ等の視聴による売上げの割合を7割以
下に抑制することは,売上全体を縮小せざるを得ず,店の経営を続けて利益を上げ
るとすれば,無理な話であった。個室でのアダルトビデオ等の視聴による売上げの
割合が9割近いので,売上げの比率を適用されれば,店が間違いなく店舗型性風俗
特殊営業に認定されることは分かっていた。
(11)店内の陳列棚とは別に,受付の奥にある個室前の通路の陳列棚には,万引
きされてもいいような類の一般ビデオが陳列してある。それらは,客が,店内の陳
列棚からビデオ等を借り出し,受付を通って個室前の通路に入らないと目にするこ
とができないものであり,客がそれらの一般ビデオを受付に持っていって借り出す
ことも可能ではあるが,そのような客はほどんどいない。
(12)平成18年6月2日当時と同年7月28日当時で,アダルトビデオ等の配
置や本数の比率は変わっておらず,店の営業の実態がアダルトビデオ等を個室で見
せることにあることも変わっていない。
2本件個室ビデオ店の営業実態等
同店の営業実態等に関する被告人らの上記供述は,前記第1の2の(1)認定の各
事実のほか,関係各証拠により認められる次のような事実によって,裏付けられて
いる。すなわち,
(1)本件個室ビデオ店は,原判示2の平成18年7月28日当時,陳列棚にア
ダルトビデオ等約5416本,一般ビデオ等約2974本が陳列されており,アダ
ルトビデオ等の本数の割合は,約64.55パーセントであった。また,店内に入
って誰でもすぐに目にすることができるアダルトビデオ等の本数の割合(店内の陳
列棚からビデオ等を借り出し,受付を通って個室前の通路に入らないと目にするこ
とができない奥まった位置にある一般ビデオ約775本を除いた割合)は,約71.
12パーセントであった。
(2)本件個室ビデオ店では,データの残っている受付票の精査結果によれば,
平成18年6月14日から同年7月28日までの45日間,店の総売上額が165
万9469円で,個室利用売上額が151万7000円であり,仮に,被告人らの
供述のように,個室利用客の少なくとも9割がアダルトビデオ等を視聴するものだ
とすると,アダルトビデオ等の視聴による個室利用売上額の割合は,店の総売上額
の約82.27パーセントであった。
(3)本件個室ビデオ店では,データの残っている受付票の精査結果によれば,
平成18年6月14日から同年7月28日までの45日間,店の総利用件数が79
5件で,個室利用件数が660件であり,仮に,被告人らの供述のように,個室利
用客の少なくとも9割がアダルトビデオ等を視聴するものだとすると,アダルトビ
デオ等を視聴する個室利用客の割合は,店の総利用客の約74.72パーセントで
あった。また,データの残っているジャーナルの精査結果によれば,同年5月14
日から同年7月28日までの76日間,店の総利用件数が1572件で,個室利用
件数が1300件(ただし,1時間,2時間及び3時間の利用のみ)であり,仮に,
個室利用客の少なくとも9割がアダルトビデオ等を視聴するものだとすると,アダ
ルトビデオ等を視聴する個室利用客の割合は,店の総利用客の約74.43パーセ
ントであった。
(4)本件個室ビデオ店では,アダルトDVDには,「NEW新作」,「新
譜」,「新入荷」等のシールがパッケージに貼付されたものがあるが,一般ビデオ
等には,そのようなものはなかった。
(5)本件個室ビデオ店では,ビデオ等の貸出料金が,前記第1の2の(3)認定の
ように,一般のレンタルビデオ店の料金に比較して,かなり高額になっていた。
(6)本件個室ビデオ店の店外には,「個室ビデオ鑑賞」,「爆安!絶頂!ビデ
オBOX映画アダルト在庫多数‼」(原判決の「補足説明」に「激安」と
あるのは,「爆安」の誤記である。)などと記載された各看板が設置されており,
同店の出入口ドアの横には,アダルトビデオ出演女優のポスターが貼付されていた。
(7)本件個室ビデオ店の店内には,多数のアダルトビデオ出演女優のポスター,
自慰用グッズやツーショットカードの販売広告等が,壁や陳列棚に貼付されており,
一般ビデオ等のポスターは貼付されていなかった。また,アダルトビデオ等のプロ
モーションビデオの映像が,店内のモニターに映し出され,客が見ることができる
ようになっていた。
(8)本件個室ビデオ店では,コンドームを受付カウンター上に置いて個室利用
客に一人1個まで無償で配布し,ティッシュペーパーを個室内に置いて客の利用の
便に供し,ローションを受付カウンター上に置いて販売しているほか,自慰用グッ
ズやローションを陳列棚に置いて販売したり,自動販売機で販売していた。
3「専ら」の要件の該当性
以上検討したように,①店内に陳列されたビデオ等のうちアダルトビデオ等の本
数の割合,②個室利用客のうちアダルトビデオ等を視聴する客の割合,③店の総売
上額のうちアダルトビデオ等の視聴による個室利用売上額の割合,④店の総利用客
のうちアダルトビデオ等を視聴する個室利用客の割合,⑤客が,借り出したビデオ
等を店外に持ち出すことができず,個室でのみ視聴できる貸出しのシステム,⑥一
般のレンタルビデオ店に比較してかなり高額なビデオ等の貸出料金の体系,⑦新作
が,一般ビデオ等にはなく,アダルトDVDのみであること,⑧店の看板等の店外
の状況,⑨店内に貼付された多数のポスター等の内容,モニターに映し出されたプ
ロモーションビデオの映像等に現れている店内の状況や雰囲気,⑩個室利用客への
コンドーム1個の無償配布,施錠可能な個室の仕組み,店内の販売商品の種類等に
現れている個室利用客へのサービスや配慮の状況等のほか,⑪被告人らの供述する
店の営業実態等を総合すれば,本件個室ビデオ店は,まさにアダルトビデオ等を視
聴するために来店する客を対象として営業し,そのような客にアダルトビデオ等を
視聴させることを専門的に行っていたこと,すなわち,専ら,性的好奇心をそそる
ため,衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる興行の用に供する興行場として経営さ
れていたことは明らかである。
4所論に対する検討
なお,所論は,被告人が,解釈運用基準第5の3の(2)に従って,本件個室ビデ
オ店に陳列するアダルトビデオ等の本数の割合について,7割を下回らせていたの
であるから,風営法2条6項3号,同法施行令2条1号の定める「専ら」に該当し
ない旨主張する。
しかしながら,解釈運用基準第5の3の(2)は,「令(風俗営業等の規制及び業
務の適正化等に関する法律施行令のことである。)第2条中『専らこれらの各号に
規定する興行の用に供するもの』とは,当該興行場において上演される興行が『専
ら』同条各号に規定する興行であるものをいう。『専ら』とは,他の営業でも同様
であるが,おおむね7割ないし8割程度以上をいう。」と解釈及び運用の基準を示
しているのであって,その文脈から,「当該興行場において上演される興行」が
「おおむね7割ないし8割程度以上」の場合に「専ら」に該当するという解釈を示
しているものと解される。このように,解釈運用基準は,「おおむね7割ないし8
割程度以上」の対象が店内に陳列するアダルトビデオ等の本数の割合であると明記
しているわけではなく,同基準によっても,所論主張のように,陳列されたアダル
トビデオ等の本数の割合が「おおむね7割ないし8割程度以上」でなければ,「専
ら」に該当しないということはできないのである。また,そもそも,解釈運用基準
は,警察庁生活安全局によって作成されたものであり,その性質上,飽くまでも取
締りの便宜のための基準に過ぎないのであって,法令の定める「専ら」の解釈とし
て,同基準が唯一絶対のものではないのである。してみると,被告人が,解釈運用
基準がアダルトビデオ等の本数の割合を基準にしたものであると自ら解釈し,その
解釈に従って,本件個室ビデオ店に陳列するアダルトビデオ等の本数の割合が7割
を下回るようにしていたからといって,直ちに刑事責任を免れることになるもので
はない。そうでなければ,被告人が行ったように,店の営業実態等は何ら変わらな
いのに,一般ビデオ等の本数を増大させ,それらを客の目に付きにくい店内の奥ま
った位置に陳列するなどして,とにかくアダルトビデオ等の本数の割合のみを低下
させることによって,刑事責任を免れるという脱法的な行為を許すことになるから
である。そもそも,本件個室ビデオ店のように,店内に多数の個室が設置され,一
般ビデオ等を上回る多数のアダルトビデオ等が陳列され,店外へのビデオ等の借出
しができず,店内の個室のみでビデオ等の視聴が可能で,その料金が一般のレンタ
ルビデオ店の料金よりもかなり高額に設定されている個室ビデオ店においては,そ
の性質上,被告人らが述べるように,客は,わざわざ一般ビデオ等を店の個室で見
る必要もないので,専らアダルトビデオ等を店の個室で視聴することが来店の目的
であり,店側も,専らそのような客にアダルトビデオ等を個室で視聴させることに
よって営業を成り立たせていることが営業実態として推認されるのであるから,特
段の事情がない限り,専ら,性的好奇心をそそるため,衣服を脱いだ人の姿態の映
像を見せる興行の用に供する興行場として経営されていることが窺われるというこ
とができるのである。そして,実際にも,本件個室ビデオ店が,風営法2条6項3
号,同法施行令2条1号の定める「専ら」の要件を充足する店舗型性風俗特殊営業
に該当することは,前記3で説示したとおりである。
したがって,本件個室ビデオ店が,店内に陳列してあるアダルトビデオ等の本数
の割合を理由に,法令の定める「専ら」に該当しない旨の所論は,採用することが
できない。
第3結論
以上によれば,被告人が,店舗型性風俗特殊営業禁止区域に本件個室ビデオ店を
設け,前後2回にわたり,同店内に設置した個室において,客2名に対し,専ら,
その性的好奇心をそそるため,衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる興行の用に供
する興行場として個室ビデオ店を経営する店舗型性風俗特殊営業を営んだことは,
十分に認定することができる。
したがって,被告人に前後2回にわたる営業禁止区域における店舗型性風俗特殊
営業の罪の成立を認めた原判決は,正当であって,事実誤認をいう所論は,理由が
ない(なお,原判決の「罪となるべき事実」において,「衣服を脱いだ人の映像」
とあるのは,「衣服を脱いだ人の姿態の映像」の明白な誤記であり,また,「法令
の適用」において,「28条1項」とあるのは,「平成17年法律第123号附則
121条により同法による改正前の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する
法律28条1項」の誤りであるが,判決に影響を及ぼすものではない。)。
よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり
判決する。
(裁判長裁判官高橋省吾裁判官服部悟裁判官中島真一郎)

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