弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人小林勤武、同豊川義明、同斎藤浩、同竹沢哲夫、同林健一郎、同佐藤
義弥、同岡村親宣、同増田隆男、同高橋治、同駿河哲男の上告理由第一について
 国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条二頃の規定が憲法二八条に違反
するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和四三年(あ)第二七八〇号同
四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)とするところであるから、
これと同旨の原審の判断は、正当である。論旨は、採用することができない。
 同第二、第三について
 本件職場大会の開催が国公法九八条二項前段の規定にいう争議行為に該当すると
した原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用
することができない。
 同第四について
 国公法二八条一項前段は、同法二条に規定する一般職に属する職員(以下「職員」
という。)の給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は、法律によつて定
められ、法律によつて変更されるべきことなどを規定し、勤務時間及びその割振に
ついては、一般職の職員の給与に関する法律一四条一項が、「職員の勤務時間は、
休憩時間を除き、一週間について四十時間を下らず四十八時間をこえない範囲内に
おいて、人事院規則で定める。」と規定し、同条四項本文が、「勤務時間は、特に
支障のない限り、月曜日から土曜日までの六日間においてその割振を行い、日曜日
は、勤務を要しない日とする。」と規定している。これを受けた人事院規則一五―
一「職員の勤務時間等の基準」は、一週間の勤務時間を四四時間と定め(四条)、
その割振は、会計検査院及び人事院の職員以外の職員については内閣総理大臣が定
めるものとし(五条一項)、その原則的な基準として、月曜日から金曜日までの五
日間においては一日につき八時間となるように、土曜日においては四時間となるよ
うに割り振るものとしている(六条一項)。これに基づき、内閣総理大臣は、「政
府職員の勤務時間は、休日を除き次の通りとし、日曜日は勤務を要しない日とする。
月曜日から金曜日まで 午前八時三十分から午後五時まで。但し、その間に三十分
の休憩時間を置く。土曜日午前八時三十分から午後零時三十分まで。」と定めてい
る(政府職員の勤務時間に関する総理府令(昭和二四年総理庁令第一号)一項)。
 このように、職員の勤務時間及びその割振は、法律及びその委任に基づく人事院
規則等によつて定めることとされ、右法規に基づかないでこれを変更することは認
められていないものというべきである。
 ところで、原審の認定するところによると、兵庫県陸運事務所においては、勤務
時間の開始時刻である午前八時三〇分からおおむね午前九時ころまでの間出勤簿整
理時間と称する取扱いがされているが、これは、出勤簿管理の必要上、官署の長が
勤務時間管理員に対して発した職務命令によつて定められているものであり、右時
間内に出勤簿の整理を完了することを命ずると共に、右時間内に出勤して出勤簿に
押印した職員については勤務時間の開始時刻までに出勤したものとして取り扱うこ
ととされていたというのである。
 上告人らは、右の出勤簿整理時間の設定によつて職員に対し右時間について職務
に従事する義務が免除されたものである旨を主張するのであるが、もし右出勤簿整
理時間の設定がその時間中の職務に従事する義務を免除するものであるとすれば、
それは勤務時間を短縮し、その割振を変更するものにほかならないところ、法規に
基づかないで勤務時間を短縮し、その割振を変更することが許されないものである
ことは前記のとおりであるから、出勤簿整理時間の設定が、勤務時間を短縮し、出
勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除したものと解することはできないもの
というべきである。
 また、上告人らは、右出勤簿整理時間の設定及びその実施により、職員に対し右
時間中の職務に従事する義務を免除するという内容の慣行が成立している旨を主張
するのであるが、右のような内容は職員の勤務時間及びその割振を定めた前記規定
に抵触することが明らかであるから、前記のような取扱いが相当期間継続して行わ
れて来たものであるとしても、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除する
という内容の慣行が成立する余地はないものといわなければならない。
 右と同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、右違法がある
ことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することがで
きない。
 同第五について
 本件職場大会における上告人らの行為が国公法九八条二項後段に規定する「そそ
のかし」又は「あおり」に該当するとした原審の判断は正当であつて、原判決に所
論の違法はなく、所論引用の各判例に抵触するところもない。右違法があることを
前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひつきよう、原判決の結
論に影響を及ぼさない点について原判決を非難するものであつて、採用することが
できない。
 同第六について
 所論の点に関する原判決の判示は、措辞適切を欠く部分がないではないが、全体
としてこれをみれば、上告人Aが年次休暇の承認を受けたことにより本件職場大会
当日の職務に従事する義務を免除されていたとしても、そのことによつて同上告人
につき国公法九八条二項後段の規定する「そそのかし」又は「あおり」の責任を問
い得なくなるわけのものではない旨を説示したものであつて、同上告人の右当日の
行為が同項前段の争議行為(同盟罷業)に当たるとしたものではないと解すべきで
あるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第七について
 上告人らに対する本件戒告処分が処分権の濫用に当たらないとした原審の判断は、
正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用するこ
とができない。
 同第八について
 本件記録によれば、原審の訴訟手続に民訴法三九五条一項四号又は五号所定の事
由があるものとは認められない。右事由があることを前提とする所論違憲の主張は、
その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   島       昭
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎

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