弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人橘川光子上告趣意について。
 論旨は要するにその前段において、原審は被告人が本件犯行後衷心から悔悟し、
生きてその罪を償わんことを念願していること、及び本件犯行当時における世相の
混乱状態にあつたこと等を鑑みることなく被告人に対し死刑の言渡をなしたのであ
るが、その量刑は著しく苛酷であり正義に反する嫌があると主張し、又その後段に
おいて、原審が採用しなかつたと認められる諸般の事情に立脚して、被告人に殺意
のなかつたことを推断し得るものとし、以て原判決には重大な事実の誤認があると
主張するのである。そしてかかる量刑の不当及び事実誤認の主張も新刑訴第四一一
条により、上告理由となすことができるというに帰着する。
 しかし、本件公訴が新刑訴施行前である昭和二二年七月一二日に提起されたもの
であることは記録上明らかであるから刑訴施行法第二条により本件についてはなお
旧法の適用せられることは多言を要しないところである。従つて旧刑訴応急措置法
第一三条第二項により論旨は上告適法の理由とならない。のみならず新刑訴第四一
一条の規定は、上告裁判所が同条第一号乃至第五号所定の事由があつて、原判決を
破棄しなければ著しく正義に反すると認めた場合において職権により判決で原判決
を破棄することができることを定めたに過ぎないのであつて、当事者がかかる事由
にもとずき上告を申立て得ることを許容したものではない。論旨はこの点において
新法の解釈を誤つているものである。論旨は採用の限りでない。
 弁護人今泉浅之丞上告趣意について。
 しかし、酌量減軽は事実審裁判所の自由裁量に委ねられているところである。論
旨は結局事実審である原審の裁定権の範囲に属する量刑を非難するに帰着し、上告
適法の理由とならない。
 被告人本人の上告趣意について。
 論旨の縷述するところは、要するに、本件犯行には主謀者はなく共犯者全員にお
いて平等にその責任を負うべきである。被告人は、前科のある第一審相被告人Aを
庇護するために偽つて自ら主謀者であるかの如く供述して来たのであり、又殺意は
なかつたのであるにも拘わらず、係検事の温情にほだされ、偽つて殺意を自白し爾
来その虚偽の陳述を持続して来たのである。原審は被告人のかかる虚偽の自供にも
とずき被告人を本件強盗殺人罪の主謀者として極刑を量定したものであるから、更
に事実の審理を遂げ減刑あらんことを求めるというに帰着する。
 しかし原審は所論被告人の自供の外、原審第五回公判調書中の証人Bの供述記載
その他の証拠をも斟酌綜合して判示強盗殺人の事実を認定したものであり、それら
原判決挙示の証拠を綜合すれば原審の右事実認定はこれを肯認するに難くないので
ある。のみならず、共犯者の何人が主謀者であるかということを認定するのも、又
各共犯者に対し、それぞれの犯情に鑑み如何なる刑を科すべきかということも、す
べて事実審である原審の裁量権の範囲に属するところであつて、法令違反の有無を
審判する上告審に対しては、所論のような事由を主張して事実の審理を求めるため
に不服申立をすることは、法律上許されないところである。論旨は採用の限りでな
い。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二四年三月三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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