弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岡部勇二の上告理由第一点および第二点について。
 訴訟用印紙の貼用が手数料納付の性質を有するものとしても、所論のように、直
ちにそれに関する取扱が、司法行政上の事務として、司法行政機関としての裁判所
の権限に属することになるものではない。法律がこれを裁判機関としての裁判所ま
たは裁判長の権限に属せしめても、なんら妨げないのであつて、民訴法は、まさに
そのような制度を採用したものと解される。現行制度において、訴訟用印紙の納付
は、訴訟上の救助の認められた場合は格別、相当額の印紙の貼用がなければ裁判作
用を発動しないというだけのことであり、納付者も、裁判作用の発動を望むかぎり
においてその貼用を要するだけのことであつて、手数料として別段の賦課徴収の手
続を要するものではなく、その貼用額が相当かどうかは、裁判機関において訴その
他の申立の要件の一として審査するものにほかならない(民事訴訟用印紙法一一条
参照)。これを司法行政上の事務とみなければならない根拠はないのである。従つ
て、原判決が、上告状に印紙を追貼すべき裁判長の命令およびこれに不服ある場合
の措置等は、制度上本案の審判に附随する形式上の民事訴訟手続として民訴法に規
定されているのであるから、これが救済はもつぱらその手続内において同法所定の
不服申立方法のみによるべきであり、審級その他の定めからそれに上訴による不服
申立の途のない場合においても、当該具体的事件につき訴訟手続を離れて、別に裁
判所法八二条に基づく司法行政監督上の措置を求めることは許されない旨を判示し
たのは、正当といわなければならない。
 論旨は、司法行政上の監督権に基づき上告状却下命令の取消等の措置を求めた上
告人の不服申立に対して被上告人が監督事項ではないとして審査を拒否した通告に
ついて、取消訴訟を許さるべきものと主張するが、そのような事項については、何
ぴとも裁判所法八二条に基づいて不服申立権を有するものでないことは、前叙した
ところから明らかであり、従つて被上告人が上告人の右申立を拒否したとしても、
なんらその権利、利益を侵害するものではなく、上告人に、行政事件訴訟によつて、
その取消その他の措置を訴求する法律上の利益は認められない。論旨は、かかる訴
を許さないことは憲法三二条に違反するものと論ずるが、同条は、訴の利益を欠く
者についてまで本案の裁判を受ける権利を保障したものではない(昭和三五年一二
月七日大法廷判決、民集一四巻一三号二九六四頁参照)。
 論旨はいずれも理由がない。
 同第三点について。
 論旨は、本件上告にあたり上告受理裁判所の裁判長が命じた印紙追貼の上告状補
正命令を、違法で取り消さるべきものというのである。しかし、右命令が違法であ
り上告人がやむなくこれに応じて法定額を超える印紙額を貼用したとしても、それ
はなんら原判決を違法とする事由となるものではない。すなわち上告理由となるも
のではないから、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠

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