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平成26年5月27日判決言渡
平成25年(行コ)第11号α環境影響評価手続やり直し義務確認等請求,損害賠
償請求控訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2(1)主位的請求
別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らと被控訴人との間で,沖縄防衛局長が,
「a飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書」(平成19年8月
14日公告縦覧。以下同じ。)の作成をやり直す義務を負うことを確認する。
(2)予備的請求
別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らと被控訴人との間で,沖縄防衛局長が作
成した「a飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書」は違法であ
ることを確認する。
3(1)主位的請求
別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らと被控訴人との間で,沖縄防衛局長が,
「a飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書」(平成21年4月
2日公告縦覧。以下同じ。)の作成をやり直す義務を負うことを確認する。
(2)予備的請求
別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らと被控訴人との間で,沖縄防衛局長が作
成した「a飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書」は違法であ
ることを確認する。
4別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らと被控訴人との間で,沖縄防衛局長が,平
成18年5月1日,日米安全保障協議委員会において日米両政府により合意さ
れた「再編実施のための日米のロードマップ」に基づき行われるa飛行場代替
施設建設事業につき,別紙修正事項目録記載の各事項について,環境影響評価
法5条から27条までの規定及び沖縄県環境影響評価条例5条から24条まで
の規定による環境影響評価その他の手続をやり直す義務を負うことを確認する。
5(1)被控訴人は,別紙控訴人目録(1)及び(2)記載の控訴人らに対し,それぞれ
1万円及びこれに対する平成21年9月2日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
(2)被控訴人は,別紙控訴人目録(4)記載の控訴人らに対し,それぞれ1万円
及びこれに対する平成21年10月31日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
第2事案の概要(略称は原判決のものを用いる。)
1日本国政府は,平成11年12月に閣議決定された「a飛行場の移設に係る
政府方針」に基づき,a飛行場代替施設建設事業(本件事業)として,沖縄県
名護市α崎沖を埋め立てて埋立地上に飛行場及びその施設を建設すること(い
わゆるα沖合案)を決定した。本件事業は,沖縄県名護市α沿岸域(本件事業
予定地)の公有水面約160ヘクタールを埋め立て,埋立地上に飛行場及びそ
の施設の設置をすることを内容とするものである。
本件事業のうち,公有水面の埋立ては環境影響評価法(法)2条2項1号ト
の要件に該当する「第一種事業」及び沖縄県環境影響評価条例(条例)2条2
項,別表6項の要件に該当する「対象事業」として,飛行場等の設置は条例2
条2項,別表5項の要件に該当する「対象事業」として,それぞれ法又は条例
の定める環境影響評価手続を経ることを要し,沖縄防衛局長(旧・那覇防衛施
設局長。防衛局長)は,事業者として,これらの事業の環境影響評価手続を進
め,評価書の公告縦覧等をしなければ,本件事業を行うことができないものと
されている。
日米安全保障協議委員会は,平成18年5月1日,在日米軍及び関連する自
衛隊の「再編実施のための日米のロードマップ」を承認し,沖縄における再編
については,a飛行場代替施設などが定められ,a飛行場代替施設については,
α岬(α崎)とこれに隣接するβ湾とα湾の水域を結ぶ形で設置し,V字型に
配置される2本の滑走路は,それぞれ1600メートルの長さを有し,2つの
100メートルのオーバーランを有することなどとされている。
防衛局長は,法又は条例に基づき,平成19年8月7日付けで,沖縄県知事,
名護市長及びγ村長に対し,本件事業に係る環境影響評価を行う方法を記載し
た「a飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書」(本件方法書)を
それぞれ送付し,同月14日,その公告をするとともに,縦覧を開始した。
防衛局長は,平成20年3月15日から平成21年3月4日にかけて,本件
方法書を前提として,本件事業に係る環境影響評価のための調査を実施した。
防衛局長は,法又は条例に基づき,平成21年4月1日,沖縄県知事,名護
市長及びγ村長に対し,本件事業に係る環境影響評価の結果等について記載し
た「a飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書」(本件準備書)を
それぞれ送付し,同月2日,その公告をするとともに,縦覧を開始した。
本件は,(1)控訴人らのうち,別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らが,防衛局
長のした本件事業に係る法又は条例に基づく環境影響評価及びその関連手続
(環境影響評価手続等)に不備等があると主張して,本件事業の主体である防
衛局長が所属する被控訴人に対し,公法上の確認の訴えとして,主位的に,(ア)
防衛局長が,環境影響評価方法書(方法書)及び環境影響評価準備書(準備書)
を作成し直す義務を負うことの確認,(イ)別紙修正事項目録記載の事項を踏ま
えて環境影響評価手続等を改めて実施する義務を負うことの確認をそれぞれ求
め,上記(ア)について予備的に,作成済みの本件方法書及び本件準備書が違法
であることの確認を求めるとともに(本件各確認の訴え),(2)控訴人らが,環
境影響評価手続等における不備等によって,控訴人らの法又は条例によって保
障されている「意見陳述権」が侵害され,それにより精神的苦痛を被ったと主
張して,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項又は民法709条,715条1
項に基づく損害賠償として,慰謝料各1万円及びこれに対する遅延損害金の支
払を求めた(本件損害賠償請求)事案である。
原審は,別紙控訴人目録(1)記載の控訴人らの本件各確認の訴えをいずれも却
下し,控訴人ら全ての本件損害賠償請求をいずれも棄却したので,控訴人らが
控訴した。
なお,原審においては,控訴人以外にも原告ら(原判決別紙原告目録(1)記載
の原告らのうち別紙控訴人目録(1)に掲載のない者,原判決別紙原告目録(2)記
載の原告らのうち別紙控訴人目録(2)に掲載のない者,原判決別紙原告目録(3)
記載の原告,原判決別紙原告目録(4)記載の原告らのうち別紙控訴人目録(4)に
掲載のない者)が存在し,原判決別紙原告目録(1)記載の原告らのうち別紙控訴
人目録(1)に掲載のない者及び原判決別紙原告目録(3)記載の原告は,被控訴人
に対し,本件各確認の訴え及び本件損害賠償請求の双方を提起し,原判決別紙
原告目録(2)記載の原告らのうち別紙控訴人目録(2)に掲載のない者及び原判決
別紙原告目録(4)記載の原告らのうち別紙控訴人目録(4)に掲載のない者は,被
控訴人に対し,本件損害賠償請求のみを提起していたが,原審は控訴人らに対
するのと同様の判決をし,敗訴者である上記の者らによる控訴がなかったこと
から,上記判決は確定した。
2環境影響評価手続の概要,前提事実,争点及び当事者の主張は,次のとおり
付加するほか,原判決の「事実及び理由」第2の2ないし5の控訴人らと被控
訴人に関する部分のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決6頁
2行目から3行目にかけての「法26条」を「法27条」に改める。)。
(当審における控訴人らの主張)
(1)本件各確認の訴えについて
環境基本法は,「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与
すること」をも目的とし(同法1条),事業者は「公害を防止」する義務を
負い(同法8条1項),国は「公害を防止するために必要な規制の措置」を
講ずる義務を負い(同法21条1項),環境影響評価を推進する措置を採る
としている(同法20条)ことから,環境基本法は個別の生活利益の保護を
も目的とすることは明らかであり,同法20条に基づいて制定された環境影
響評価法(法)も,上記のような環境基本法の解釈を前提としなければなら
ない。そして,法は「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資
すること」を目的とし,対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認め
られる地域(関係地域)内の住民については,同地域で方法書,準備書及び
環境影響評価書(評価書)の縦覧を受け,方法書及び準備書については説明
会を受けるという形で手続的に強化され,事業者は,方法書及び準備書に対
する意見に配意して,環境影響評価の項目等の選定を行い,あるいは準備書
の記載事項に検討を加えなければならず,意見の概要とこれに対する事業者
の見解を準備書及び評価書に記載しなければならないとされているから,事
業者は,住民らの意見に配意し,応答する義務を負っている。また,条例に
おいても同様の定めがされている。環境影響評価手続において,環境の保全
について適正な配慮がされているか否かは,直接にその後の許認可及び事業
内容を規定するのであり,住民らの生活環境の保護を左右することになる。
したがって,法及び条例は,少なくとも関係地域等に居住する住民らの個別
的な生活利益を環境影響評価手続を介して保護しているから,関係地域等に
居住する住民らにとってはこれは自己の生活利益を守る制度である。そうす
ると,環境評価手続において方法書及び準備書に対して意見を述べることは,
単に事業者の情報収集手段を定めたというものではなく,「原理的権利」と
して広く承認された環境権の「手続的権利」として全ての住民に保障される
べきものであるが,とりわけ関係地域等に居住する住民らにとっては「権利
防衛的参加機能」を有するものであり,個人の「手続的権利」として「意見
陳述権」を保障したものというべきである。
特に,控訴人番号(2)80,(2)273,(1)14,(1)17,(1)20の各控
訴人は,本件事業の実施により飛行場が完成してMV-22(オスプレイ)
などの米軍の飛行機が飛行することで,騒音や低周波音によって生活利益の
侵害を受けるおそれがある。本件事業により飛行場が完成して供用が開始さ
れると,損害賠償請求は認められても差止請求は棄却ないし却下されるから,
事後的に抗告訴訟や民事訴訟等によって住民が適切に自己の利益を守ること
ができる場面は存在しない。
以上によれば,本件各確認の訴えには確認の利益が認められる。
(2)本件損害賠償請求について
上記(1)のとおり,法及び条例は,環境影響調査手続において,方法書及び
準備書に対して住民らの「意見陳述権」を保障している。
しかし,被控訴人は,平成19年5月18日から本件事業予定地における
法に基づく環境影響評価に先立つ環境現況調査(事前調査)を実施し,ジュ
ゴンを追いやるなどαの環境を改変した。控訴人らは,その後作成された本
件方法書や本件準備書に対してしか意見を陳述することができず,控訴人ら
の「意見陳述権」が侵害され,また,本件方法書は,事業計画に関する記載
がわずか7頁にも満たないものであり,控訴人らは意見陳述の前提となる十
分な情報を得られずに実質的に意見陳述の機会を奪われ,その後,被控訴人
から次々と後出しされた事項に対しては環境影響評価手続において意見陳述
の機会を奪われた。
控訴人らは,被控訴人の行為により環境影響評価手続における「意見陳述
権」を侵害され,精神的苦痛を被ったところ,その精神的苦痛に対する慰謝
料は,控訴人らそれぞれにつき1万円を下らない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件各確認の訴えは不適法であるからいずれも却下し,本件損
害賠償請求は理由がないからいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,
次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の2及び3の控訴
人らと被控訴人に関する部分のとおりであるから,これを引用する。
(当審における控訴人らの主張に対する判断)
(1)本件各確認の訴えについて
控訴人らは,環境基本法は,個別の生活利益の保護をも目的とすることは
明らかであり,同法20条に基づいて制定された環境影響評価法(法)も,
環境基本法の解釈を前提とすべきである上,法は「現在及び将来の国民の健
康で文化的な生活の確保に資すること」を目的とし,関係地域内の住民につ
いては,同地域で方法書,準備書及び評価書の縦覧を受け,方法書及び準備
書については説明会を受けるという形で手続的に強化され,事業者は,方法
書及び準備書に対する意見に配意して,環境影響評価の項目等の選定を行い,
あるいは準備書の記載事項に検討を加えなければならず,意見の概要とこれ
に対する事業者の見解を準備書及び評価書に記載しなければならないとされ
ているから,事業者は,住民らの意見に配意し,応答する義務を負っている
ものであって,このことは条例においても同様であるから,法及び条例は少
なくとも関係地域等に居住する住民らの個別的な生活利益を環境影響評価手
続を介して保護するものであり,関係地域等に居住する住民らが方法書及び
準備書に対して意見を述べることは,単に事業者の情報収集手段を定めたも
のではなく,「権利防衛的参加機能」を有し,個人の「手続的権利」として
「意見陳述権」を保障したものである旨主張する。
しかし,環境基本法は,「環境の保全について,基本理念を定め,並びに
国,地方公共団体,事業者及び国民の責務を明らかにするとともに,環境の
保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより,環境の保全に関す
る施策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及び将来の国民の健康で文
化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とす
る」(同法1条)ものであり,また,環境の保全に関し,現在及び将来の世
代の人間の環境の恵沢の享受と継承等,環境への負荷の少ない持続的発展が
可能な社会の構築等及び国際的協調による地球環境保全の積極的推進という
基本理念を掲げ(同法3条ないし5条),上記基本理念にのっとり,国は環
境保全に関する基本的な政策を策定し,及び実施する責務を有し,地方公共
団体は,環境の保全に関し,国の施策に準じた施策及びその他のその地方公
共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し,及び実施する責務
を有するにとどまらず,事業者の責務についても規定するほか,国民につい
ても,環境の保全上の支障を防止するため,その日常生活に伴う環境への負
荷の低減に努め,また,環境の保全に自ら努めるとともに,国又は地方公共
団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有するものとされ
ており(同法6条ないし9条),これらを受けて,環境の保全に関する基本
的政策(同法第2章)及び環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関
等(同法第3章)を定めるものである。そうすると,環境基本法は,基本理
念に加えて,国,地方公共団体及び国民の責務のほか事業者の責務,環境保
全に関する基本的な事項を規定することによって,環境保全に関する国の政
策の基本的な方向性を示すことを内容とするものであることが明らかである
上,その究極的な目的として,現在の国民にとどまらず,「将来の国民の健
康で文化的な生活の確保に寄与する」とか,「人類の福祉に貢献すること」
とされており,国民の責務も掲げられていることに鑑みると,国のみならず
社会全体が一丸となって環境の保全に協力し,現在のみならず将来の人類の
ために環境を保全し,環境負荷の少ない持続的に発展することのできる社会
を構築しようとするものであるといえる。これに加えて,環境基本法には,
いわゆる「環境権」に関する規定は全く存在せず,住民の参加については,
環境の保全に関する教育及び学習の振興並びに事業者,国民又はこれらの者
の組織する民間団体が自発的に行う環境の保全に関する活動の促進に資する
ためという範囲内で,環境の状況その他の環境の保全に関する必要な情報を
適切に提供するように努めるものとされているのみであること(同法27条)
も併せ考慮すると,環境基本法が個人の個別的な生活利益の保護そのものを
目的としているとまで解することは困難である。したがって,環境基本法2
0条(環境影響評価の推進)に基づいて法が制定され,条例もこれと同様の
ものであるからといって,環境基本法が「個別の生活利益の保護」をしてお
り法や条例についてもそれに沿って解釈すべきであるとの控訴人らの主張は,
前提を欠くものといわざるを得ない。
次に,環境影響評価法(法)は,「土地の形状の変更,工作物の新設等の
事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行う
ことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ,環境影響評価につい
て国等の責務を明らかにするとともに,規模が大きく環境影響の程度が著し
いものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行わ
れるための手続その他所要の事項を定め,その手続等によって行われた環境
影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業
の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により,その事業
に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し,もって現在
及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とする」も
のであって(法1条),条例も同様の目的を定めている(条例1条)。環境
影響評価手続の概要は,原判決の「事実及び理由」第2の2のとおりであっ
て,法及び条例は,環境影響調査の実施前に,環境影響評価の項目や手法な
どを記載した方法書を関係地域内において縦覧に供するなどし,方法書につ
いて環境の保全の見地からの意見を有する者は,所定の期間内に,事業者に
対して意見書を提出して,これを述べることができるものとし,環境影響評
価の結果等を記載した準備書についても,同様に縦覧に供し,また,意見陳
述の機会を設けているものの,この手続は,環境影響評価に当たって調査,
予測,評価の基礎となる環境情報については,事業者が自らの責任と負担で
収集することが基本であるところ,地方公共団体や一般の人々の間にも広く
分散して保有されていることから,地域の自然環境の状況や,住民の環境と
の触れ合いの状況,住民が懸念をもっている環境汚染の要素などについて地
方公共団体や一般の人々に広く提供を求めることにより,事業者が単独で収
集するのと比較して的確かつ効率的に収集することができるようにする見地
から設けられたものであって,これと別異の解釈を取らなければならないよ
うな事情を見いだすことはできない。加えて,方法書や準備書について意見
を述べる主体は,「環境の保全の見地からの意見を有する者」とされており,
その居住地等を含めて何らの限定がされていない上,法及び条例においては,
提出された意見については,それが関係地域内の住民によって提出されたも
のであるか否かを問わず,事業者が「配意」すれば足りるものとされており,
個々の意見を環境影響評価手続に反映させたり,個々の意見に対して事業者
が応答する義務を負うものとされているわけではないこと(なお,「配意」
と「応答」を同一の意味であると解するのは文言上無理がある。),意見陳
述の機会を設けられているからといって,意見を述べる側に「意見陳述権」
があると解釈をしなければならない必然性があるとはいえないことにも照ら
すと,法及び条例は,環境評価手続において方法書及び準備書に対して個々
人に「意見陳述権」を保障したものと解することはできないというべきであ
って,このことは,対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められ
る関係地域内の住民について,同地域で方法書,準備書及び評価書の縦覧を
受け,方法書及び準備書について説明会を受けるものとされていることをも
って左右されるものということもできない。したがって,控訴人らに本件事
業に係る環境影響評価手続において作成された本件方法書及び本件準備書に
対する「意見陳述権」があるものと認めることはできない。
控訴人らの上記主張は採用できない。
また,控訴人らは,控訴人番号(2)80,(2)273,(1)14,(1)17,
(1)20の各控訴人は,本件事業の実施により飛行場が完成してMV-22
(オスプレイ)などの米軍の飛行機が飛行することによる騒音や低周波音に
よって生活利益の侵害を受けるおそれがあるが,本件事業により飛行場が完
成して供用が開始されると,損害賠償請求は認められても差止請求は棄却な
いし却下されるから,事後的に抗告訴訟や民事訴訟等によって住民が適切に
自己の利益を守ることができる場面は存在しないので,本件各確認の訴えに
ついては,確認の利益がある旨主張する。
しかし,上記説示のとおり,控訴人らには本件事業に係る環境影響評価手
続において作成された方法書及び準備書に対して「意見陳述権」があるもの
と認めることはできない。また,控訴人番号(2)80,(2)273,(1)14,
(1)17,(1)20の各控訴人について,本件事業により完成した飛行場にM
V-22(オスプレイ)などの米軍の飛行機が飛行することによる騒音や低
周波音が発生するおそれがあるといった個別的な事情が存在するものと仮定
しても,本件各確認の訴え以外に損害を避けるために他に適当な方法がない
などと考えなくてはならない根拠を見いだすこともできない。控訴人らの上
記主張は前提を欠くものであって採用できない。
そして,本件各確認の訴えについて,控訴人らに確認の利益が認められな
いことは原判決が説示するとおりであり,控訴人らがそのほか縷々主張する
ところも上記判断を左右するものとはいえない。
(2)本件損害賠償請求について
控訴人らは,環境影響調査手続において,方法書及び準備書に対して住民
らの「意見陳述権」が保障されているにもかかわらず,被控訴人が不適切な
事前調査を実施して作成した本件方法書や本件準備書に対してしか意見を陳
述することができず,また,本件方法書は,事業計画に関する記載がわずか
7頁にも満たないものであり,控訴人らは意見陳述の前提となる十分な情報
を得られずに実質的に意見陳述の機会を奪われ,その後,被控訴人から次々
と後出しされた事項に対しては環境影響評価手続において意見陳述の機会を
奪われたことから,控訴人らの「意見陳述権」を侵害された旨主張する。
しかし,上記説示のとおり,控訴人らには本件方法書及び本件準備書に対
して「意見陳述権」があると認めることはできないから,控訴人らの上記主
張は前提を欠くものであって採用できない。
そして,本件損害賠償請求が認められないことは原判決が説示するとおり
であり,控訴人らがそのほか縷々主張するところも上記判断を左右するもの
とはいえない。
2よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。
福岡高等裁判所那覇支部民事部
裁判長裁判官今泉秀和
裁判官岡田紀彦
裁判官並河浩二
別紙
修正事項目録
①約1700万立方メートルの埋立土砂を沖縄県内外から調達すること
②米軍がジェット機(C-35)を配置すること
③米軍航空機が集落上空を飛行することもあり得ること
④920メートルと430メートルの進入灯を設置すること
⑤洗機場を3か所設置すること
⑥ヘリパッドを4か所設置すること
⑦係船機能付きの護岸を設置すること
⑧汚水処理浄化槽を設置すること
⑨MV-22オスプレイを配備すること
⑩滑走路長と,滑走路と同程度の荷重支持能力を有するオーバーランの合計
の長さを1800メートルとすること
以上

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