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令和2年8月18日宣告
令和2第262号重過失激発物破裂,重過失傷害被告事件
判決
主文
被告人を禁錮3年に処する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成30年12月16日午後8時6分頃から同日午後8時22分頃ま
での間,札幌市a区bc条d丁目e番f号Aビル(木造一部鉄骨造り亜鉛メッキ鋼
板葺き2階建)1階南側B店内において,激発しやすい液化ガスであるジメチルエ
ーテルが充てんされたスプレー缶(以下「本件スプレー缶」という。)約77本か
ら91本を噴霧して同店内に充満させたのであるから,火気の使用を厳に慎み,同
ガスに引火爆発することによる危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに
これを怠り,同日午後8時29分頃,手を洗うため漫然と同店内に設置されたガス
瞬間湯沸器を作動させて点火した重大な過失により,同店内に充満していた激発す
べき物である同ガスに引火させて爆発させ,よって,別表1記載のとおり,現に人
が住居に使用し,または,現に人がいる建造物である前記ビル等8棟を損壊すると
ともに,別表2記載のとおり,C等44名に傷害をそれぞれ負わせたものである。
(別表1及び2略)
(証拠の標目)
(略)
(法令の適用)
罰条
重過失激発物破裂の点刑法117条の2後段,117条1項前段,108条
各重過失傷害の点被害者ごとにそれぞれ刑法211条後段
科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(1個の行為が45個の罪
名に触れる場合であるから,刑及び犯情の最も重いDに
対する重過失傷害の罪の刑で処断)
刑種の選択禁錮刑を選択
刑の執行猶予刑法25条1項
(量刑の理由)
被告人は,空気と混合することにより引火による爆発を引き起こす可燃性の液
化ガスが充てんされた本件スプレー缶にそのようなガスが含まれていることを認
識しつつ,自ら又は部下に指示して,店舗の規模等に応じた適切な使用本数を大幅
に上回る数の本件スプレー缶の中身を換気をすることなく店舗内で噴霧した上,
噴霧により発生した白煙が外部に漏れ出さないようにシャッターを閉め,店舗の
外で過ごしてから店舗内に戻った。この時の店舗内では,少しもやがかかって本件
スプレー缶を噴霧させた時の独特の臭いがしたものであって,被告人は店舗内に
前記ガスが充満した状態を作出したことを明確に認識していた。また,被告人は,
本件当日の昼頃に店舗の外で本件スプレー缶の中身を噴霧した際,空気中に滞留
している前記ガスに引火する危険があると考えて煙草を吸うのを思いとどまった
のであって,前記ガスが充満した閉鎖的な空間で火気を発生させれば引火による
爆発を生じさせる危険があることを認識し,加えて,店舗内の本件湯沸器を作動さ
せれば本体内部で火気が発生することについても,日常的に同器を用いる中で認
識していた。このように,被告人は,自ら店舗内に前記ガスを充満させ,火気を発
生させれば引火による爆発を生じる危険な状況を作出し,そのことを認識してい
たのであるから,本件湯沸器を使用すれば本体内部で火気が発生することも認識
していた被告人には,引火による爆発を生じる危険があることについて高度の予
見可能性があり,店舗内で火気の使用を厳に慎み,前記危険の発生を未然に防止す
る高度の注意義務があったというべきである。それにもかかわらず,かかる危険に
考えを及ばせることなく漫然と同器を作動させて本件爆発を生じさせたのである
から,被告人の注意義務違反,すなわち過失の程度は誠に重大である。
本件爆発によって傷害を負った被害者は44名と多数に上る。最も重篤な1名
は約2年間の加療期間を要する傷害を負った。同人を含めて被害者の中には長期
間にわたる過酷なリハビリを要した者や後遺症が残った者も少なくない。いずれ
の被害者も多大な恐怖にさらされ,中には精神的な症状を訴える者もおり,本件爆
発により被害者が被った肉体的,精神的な苦痛は大きい。複数の被害者が被告人に
対する厳罰を望んでいるのも当然である。また,本件爆発は住宅や店舗が隣立する
市街地で発生し,その影響は8棟の建造物を損壊させるなど広範囲に及んだ上,当
時多数の客や従業員がいた隣接店舗においては,爆発が原因となって火災が発生
して燃え広がるなどしており,本件爆発による物的な被害や公共の危険は非常に
大きい。本件により生じた結果は重大である。
なお,被告人が稼働していた店舗の運営会社により一部被害弁償がなされたが,
被告人の負担によるものではなく,重傷を負った被害者との間の示談の進捗状況
は明らかではないことを踏まえると,被告人のために酌むべき事情として考慮す
るには自ずと限界がある。また,弁護人は,本件店舗が本件スプレー缶の未施工の
在庫を大量に抱えた原因は,所属店舗の適切な管理を怠っていた運営会社の営業
体制にもあり,本件事故には同社の組織としての責任という要素もある旨主張す
る。しかし,そもそも,被告人が刑事責任を問われているのは本件スプレー缶の中
身を大量に噴霧した以後の行為であり,それらは被告人自ら又はその指示によっ
て行われたのであって,しかも,本件スプレー缶の在庫状況を把握するために運営
会社が所属店舗に対して行った調査に虚偽の報告をしたのも被告人であるから,
弁護人の指摘は量刑上考慮できる事情とはいえない。
以上に照らせば,本件犯行に関する事情は悪い。ただし,その評価に際し,幸い
にも死者が生じなかった点は,一定程度考慮することができる事情といえる。
その上で,被告人が本件犯行を認めて反省と謝罪の言葉を述べていること,前科
がないこと,被告人の元同僚が自身が経営する会社で被告人を従業員として受け
入れる意向を示していることなどの事情も考慮し,主文掲記の刑に処した上,その
執行を猶予するのが相当であると判断した。
(検察官岡田和人,私選弁護人椎木仁美各出席)
(求刑禁錮3年6月)
令和2年8月18日
札幌地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官石田寿一
裁判官古川善敬
裁判官宮原翔子

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