弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年(行ケ)第99号 審決取消請求事件(平成17年3月8日口頭弁論終
結)
          判           決
      原      告      松下電器産業株式会社
      訴訟代理人弁護士      森崎博之
同             根本浩
      同             安藤誠悟
      同    弁理士      稲葉良幸
同             岩橋文雄
      同             大貫敏史
      同             藤井兼太郎
      同             土屋徹雄
      同             深澤拓司
      被      告      特許庁長官 小川洋
      指定代理人         山下弘綱
      同             久保田健
      同             須原宏光
      同             小曳満昭
      同             伊藤三男
          主           文
      特許庁が不服2001-13110号事件について平成16年2月2
日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,平成9年4月10日,名称を「可搬型メディアとネットワークの連
携装置と連携方法」とする発明(請求項の数36)につき特許出願(国内優先権主
張平成8年4月19日)をしたが,平成13年6月14日に拒絶査定を受けたの
で,同年7月26日,これに対する不服の審判の請求をした。
   特許庁は,同請求を不服2001-13110号事件として審理した上,平
成16年2月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄
本は,同月17日,原告に送達された。
 2 平成11年10月12日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本
件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願
発明」という。)の要旨
 可搬型メディアを駆動するための第1の電子計算機と,
   前記可搬型メディアの内容に関連するメディア関連情報と前記可搬型メディ
アの内容の表示・出力の方法とを提供する第2の電子計算機とから少なくとも構成
され,
   前記第1と第2の電子計算機は,ネットワーク等を経由してそれぞれ通信す
ることが可能であり,
   前記可搬型メディアは,
  当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をその一部に含
むメディア活用情報を,当該メディアの本来の記憶領域とは異なる専用の箇所に電
子的に記録している媒体であり,
   前記第1の電子計算機は,
  前記可搬型メディアを駆動するメディア駆動手段と,情報を表示・出力する情
報表示・出力手段と,ネットワークに対する入出力を行なう第1の情報送受信手段
とを備え,
   前記第2の電子計算機は,
  ネットワークに対する入出力を行なう第2の情報送受信手段と,
  前記第1の電子計算機上での前記メディアの表示・出力に利用するデータとそ
の表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を前記メディア識別情報をもとに
生成する対象・方法情報生成手段とを備え,
   前記情報表示・出力手段が,前記対象・方法情報に規定された方法に従って
前記可搬型メディア内のデータを表示・出力することを特徴とする,可搬型メディ
アとネットワークの連携装置。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平5-2983
38号公報(甲4,以下「引用例1」という。),特開平8-37508号公報
(甲5,以下「引用例2」という。)に記載された各発明(以下,それぞれ「引用
例1発明」,「引用例2発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないとした。
   なお,審決は,本願発明と引用例1発明とを対比し,両者は,「可搬型メデ
ィアを駆動するための第1の電子計算機と,第2の電子計算機とから少なくとも構
成され,前記第1と第2の電子計算機は,ネットワーク等を経由してそれぞれ通信
することが可能であり,前記可搬型メディアには,当該メディアと他のメディアと
を区別できるメディア識別情報が付され,前記第1の電子計算機は,前記可搬型メ
ディアを駆動するメディア駆動手段と,情報を表示・出力する情報表示・出力手段
と,ネットワークに対する入出力を行なう第1の情報送受信手段とを備え,前記第
2の電子計算機は,ネットワークに対する入出力を行なう第2の情報送受信手段と
を有する可搬型メディアとネットワークの連携装置」(審決謄本8頁最終段落~9
頁第1段落)の点で一致すると認定した上,相違点として,①「本願発明では,第
2電子計算機に,メディア識別情報をもとに第1電子計算機上でのメディアの表
示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を
生成する対象・方法情報生成手段とを設けているが,引用例1に記載の発明(注,
引用例1発明)には対象・方法情報生成手段は記載されていない点。また,本願発
明では,第2電子計算機は,可搬型メディアの内容に関連するメディア関連情報を
提供しているが,引用例1に記載の発明にはこの点は記載されていない」(同9頁
第2~第3段落,以下「相違点1」という。),②「本願発明では,メディア活用
情報は当該メディアに電子的に記録されているが,引用例1に記載の発明では発行
元会社コード,発行年月日情報,顧客管理番号等のIDコードはCD-ROMに付
されていると記載されているのみであり,電子的に記録させているかどうかは不明
な点」(同頁第4段落),及び③「本願発明では,メディア活用情報は当該メディ
アの本来の記憶領域とは異なる専用の箇所に記録させているが,引用例1に記載の
発明ではこの構成は記載されていない点」(同頁第5段落)を認定している。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本願発明と引用例1発明との一致点の認定を誤るとともに相違点を
看過し(取消事由1),相違点の判断を誤り(取消事由2),その結果,本願発明
を容易想到とする誤った判断に至ったものであるから,違法として取り消されるべ
きである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)
 (1) 「メディア識別情報」
    審決は,本願発明と引用例1発明との一致点の認定において,「引用例1
に記載された発明のCD-ROMに付される『IDコード』は当該CD-ROMの
識別機能を有する情報も含むものであるから本願発明の『メディア活用情報』に相
当する」(審決謄本8頁「4.対比」の第1段落)とした上,両者は,「前記可搬
型メディアには,当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報が
付され」ている点で一致すると認定(同頁最終段落)しているが,誤りである。す
なわち,引用例1発明において,可搬型メディア(CD-ROM)に付されたID
コードは,「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」では
なく,この点は相違点と認定されるべきものである。
   ア 本願発明の「メディア識別情報」
本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別
情報」は,以下に述べるとおり,メディア1枚1枚を区別するものである。
   (ア) 本件明細書(甲2)には,「【発明の属する技術分野】本発明
は,・・・ネットワーク上のアプリケーションからの指示によりメディア1枚毎の
利用方法を変化させたりといった,可搬型メディアとネットワークを連携させたサ
ービスの提供法に関する」(段落【0001】),「702はタイトル情報701
に応じて設定されるDVD1枚ごとの通し番号である発行番号情報」(段落【00
48】),「【発明の効果】以上述べたように,大量に作成され,配布される可搬
型のメディア1枚1枚に対して,当該メディアにそれぞれ固有なメディア活用情報
を設け,その一部を利用者のネットワークアプリケーション利用履歴管理に転用す
ることで,メディアの配布後に利用者番号をあらためて設ける手間をかけずに,個
別の利用者それぞれに対するサービスの内容を向上させることができる,という効
果を奏する」(段落【0177】)と記載されており,これらの記載から,本願発
明における「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」は,
メディア1枚1枚を区別するものであることが明らかである。
  (イ) なお,本願発明は,本件明細書に実施の形態1~5として開示された
もののうち,実施の形態2及び3に係るものであり,実施の形態1に係るものは本
願発明ではないから,実施の形態1を説明する記載(例えば,段落【0029】)
は,本願発明における「メディア識別情報」の解釈を左右するものではない。
      また,本件明細書の請求項15は,「メディア識別情報が,その可搬
型メディアのタイトルや発行者,発行年,内容などを一意に特定できるタイトル情
報と,そのタイトル情報ごとに付与される発行番号情報とからなることを特徴とす
る,請求項1又は2に記載の可搬型メディアとネットワークの連携装置」を発明と
しているが,請求項15の「発行番号情報」は,「203はメディア識別情報20
1のうちタイトル情報202ごとに付与できる発行番号情報」(段落【002
3】)と記載されているように,メディア識別情報を構成する情報を特定するもの
であるから,本願発明に係る請求項1の「メディア識別情報」がメディア1枚1枚
を区別するものであることと矛盾するものではない。
   イ 引用例1発明の「IDコード」
     引用例1(甲4)には,「CD-ROM及び利用するユーザーを識別す
るためのIDコード」の一例として,発行会社コード,発行年月日情報,顧客管理
番号が記載されている(段落【0020】,図5(b))が,これらは複数のCD
-ROMに共通に付され得る情報であるから,CD-ROM1枚1枚を区別するこ
と,すなわち,「当該メディアと他のメディアとを区別」することはできない。し
たがって,引用例1に記載されるIDコードは,本願発明の「当該メディアと他の
メディアとを区別できるメディア識別情報」を含んでおらず,それゆえ,本願発明
の「メディア活用情報」には当たらない。
    また,引用例1には,IDコードの利用の仕方として,「IDコードの
確認」(段落【0023】),「自社の発行したCD-ROM情報であるかどうか
を判定する」こと及び「ユーザーを特定する」こと(段落【0024】)は記載さ
れているが,IDコードを用いてCD-ROM1枚1枚を識別すること,すなわ
ち,IDコードを用いて「当該メディアと他のメディアとを区別する」ことについ
ては,記載も示唆もない。したがって,引用例1のIDコードの利用の仕方に基づ
いて技術的思想を判断しても,引用例1のIDコードは,本願発明の「当該メディ
アと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をその一部に含むメディア活用
情報」を含んでおらず,本願発明の「メディア活用情報」には相当しない。
   ウ 以上のとおり,本願発明と引用例1発明とは,本願発明においては可搬
型メディアに「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をそ
の一部に含むメディア活用情報」が付されているのに対し,引用例1発明において
は可搬型メディアにIDコードが付されているが,このIDコードは当該メディア
と他のメディアとを区別するものではない点で,相違している(以下「相違点A」
という。)。審決は,相違点Aを看過している。
 (2) 情報表示・出力手段
    本願発明は,第2電子計算機において対象・方法情報生成手段がメディア
識別情報をもとに対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報に規定された方法
に従って,第1電子計算機に設けられた情報表示・出力手段が可搬型メディア内の
データを表示・出力するが,引用例1には,そのような手段は記載されておらず,
この点で,本願発明と引用例1発明は相違する(以下「相違点B」という。)。審
決は,相違点Bを看過している。
(3) 以上のとおり,審決は,一致点を誤認し,相違点A及びBを看過した誤り
があり,相違点A,Bを含めて検討したならば,本願発明は引用例1及び2から容
易に想到し得ないとの結論に達したはずであるから,その誤りが審決の結論に影響
を及ぼすことは明らかである。
 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
 (1) 審決は,本願発明と引用例1発明との相違点1,すなわち,「本願発明で
は,第2電子計算機に,メディア識別情報をもとに第1電子計算機上でのメディア
の表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情
報を生成する対象・方法情報生成手段とを設けているが,引用例1に記載の発明
(注,引用例1発明)には対象・方法情報生成手段は記載されていない点。また,
本願発明では,第2電子計算機は,可搬型メディアの内容に関連するメディア関連
情報を提供しているが,引用例1に記載の発明にはこの点は記載されていない」
(審決謄本9頁第2~第3段落)について,「カタログショッピングにおいて,情
報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載さ
れており,また,引用例1には当該CD-ROMを特定する情報(IDコード)に
よりアクセス情報を得ることも記載されているのであるから,引用例1に記載の発
明においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD-ROMを特定する情報
に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすること
は,容易に考えられること」(同頁最終段落~10頁第1段落)であると判断し
た。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りである。
 (2) 引用例2
    引用例2(甲5)には,引用例2発明に係る情報提供システムの実施例と
して,段落【0021】~【0043】に記載される態様(以下「第1実施例」と
いう。)と,段落【0044】~【0058】に記載される態様(以下「第2実施
例」とい。)の二つが開示されている。このうち,審決にいう「カタログショッピ
ングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変える」とい
う態様を開示しているのは,第2実施例のみである。
    しかしながら,第2実施例は,複数の利用者に対して,情報提供者システ
ム1の情報記憶装置51内の情報を提供するものであり,第2実施例における「ア
クセス頻度」は,複数の利用者からのアクセスを集計して得られる頻度情報であ
る。複数の利用者からのアクセスを集計して得られる「アクセス頻度」(頻度情
報)は,当然,それら複数の利用者に共通の値となるから,各利用者が個々に保有
する可搬型メディアを他の可搬型メディアから区別する情報とはなり得ない。
    このように,引用例2には,当該メディアと他のメディアとを区別できる
メディア識別情報という概念がそもそも開示されていないのであり,当然,情報提
供者システム1(ホストコンピュータ)の対象・方法情報生成手段において,当該
メディアのメディア識別情報に基づいて当該メディアに対応した表示の仕方を規定
する対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報により,当該メディアに特有の
形態で情報の提供を行うという構成も開示されていない。
    また,引用例2は,利用者端末装置2の表示装置65に表示される「目次
情報」について,情報提供者システム1の情報記憶装置51内の情報に対するアク
セス頻度(頻度情報)等に基づいて表示パラメータを算出することを記載している
にすぎず,アクセス対象の情報(マルチメディアショッピング情報そのもの)につ
いて,表示対象・方法を変更するものではない。
  (3) 引用例1と引用例2の組合せの困難性
   ア 上記(2)のとおり,引用例1発明における「IDコード」と,引用例2に
おける情報提供者システム1の記憶装置51内の情報に対するアクセスの回数(頻
度)を示す「アクセス頻度情報」とは,全く性質の異なる情報である。
     また,引用例1発明においては,アクセス対象となる商品データは,ユ
ーザ側端末のCD-ROM内に存在しているのに対し,引用例2の第2実施例にお
いては,アクセス対象となるショッピング情報は,情報提供者システム1の情報記
憶装置51内に存在しており,その情報へのアクセス頻度(頻度情報)等に基づい
て,目次情報の表示パラメータを算出するものである。
     以上のように,引用例1と引用例2との間には,「IDコード」と「ア
クセス頻度」という,情報自体の違いがあることに加えて,両者はアクセス対象と
なる情報がユーザ側端末にあるのか,情報提供者システム(ホストコンピュータ)
側にあるのかという点で,情報の所在場所が全く異なるから,引用例1発明におい
て引用例2の手段を採用することは,当業者が容易に想到し得ることではない。
   イ さらに,引用例1には,アクセス対象の情報について,その表示内容を
変える点については一切記載がなく,また,引用例2においても,表示内容を変え
ているのは,目次情報であって,アクセス対象の情報(マルチメディアショッピン
グ情報そのもの)ではないから,引用例1と引用例2をどのように組み合わせて
も,相違点1に係る本願発明の構成には想到し得ない。  
     この点について,審決は,「情報に対するアクセス頻度によって表示情
報の内容を変えることは引用例2に記載され」(審決謄本9頁最終段落)ていると
し,これを根拠に,相違点1に係る本願発明の構成は容易に想到し得る旨判断して
いるが,これは,引用例1と引用例2の上記のような相違点を考慮することなく,
引用例2に開示された構成を抽象化して引用例1に採用しようとするものであっ
て,不当な認定である。
   ウ また,審決は,相違点1について,「引用例1には当該CD-ROMを
特定する情報(IDコード)によりアクセス情報を得ることも記載されているので
あるから,・・・それ(注,得たアクセス情報)によって表示内容を変えるように
することは,容易に考えられる」(同頁最終段落~10頁第1段落)と判断してい
るが,引用例1において「アクセス情報を得る」とは,自社で販売されたCD-R
OMであるかが判断できるような「IDコード」,すなわち,メディア1枚1枚を
区別することができないような情報を取得することにすぎないから,そのようなメ
ディア1枚1枚を区別することができない情報である「IDコード」をどのように
利用しても,IDコードによって可搬型メディアごとに可搬型メディア内のデータ
の表示内容を変えることは不可能である。
第4 被告の反論
   審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
 (1) 「メディア識別情報」について
   ア本願発明の「メディア識別情報」
     本願発明が実施の形態1をも含む発明であることは,本件明細書の記載
に照らして自明のことである。また,本件明細書(甲2)は,実施の形態1~3の
それぞれの効果に関して,同じように,「個々のメディア(・・・)を識別するこ
とのできる識別情報・・・に基づいて」(段落【0044】,【0082】,【0
120】)と記載しているから,実施の形態1に係る「メディア識別情報」と,実
施の形態2,3における「メディア識別情報」とが区別されているわけでもない。
     以上のとおり,本願発明は,実施の形態1も含むものであるから,本願
発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」は,実施
の形態1に係るメディア識別情報が意味する,「同じタイトル情報(同じ内容)を
有するメディアを他のタイトル情報(他の内容)を有するメディアと区別する」情
報も含んでいるものである。
   イ 引用例1発明の「IDコード」
     引用例1(甲4)のCD-ROMのIDコードは,「CD-ROM及び
利用するユーザを識別するためのもの」(段落【0020】)であるから,本願発
明の「当該メディアと他のメディアとを区別するメディア識別情報」に相当するこ
とは明らかである。引用例1のCD-ROMのIDコードの一例として,発行会社
コード,発行年月日情報,顧客情報(顧客管理番号)等が示されている。ここで,
「CD-ROMを識別」するためのIDコードとは,当該CD-ROMを他のCD
-ROMから区別する能力があるものであり,その識別の形態は,1枚1枚を区別
する場合のものと,同じ内容のCD-ROMを他の内容のCD-ROMから区別す
る場合のもののいずれもが含まれる。また,顧客管理番号は,各顧客によって異な
るものであるから,これをCD-ROMを識別する情報として利用すれば,CD-
ROM1枚1枚を区別する情報ともなるものである。
   ウ したがって,審決が「メディア識別情報」を一致点として認定したこと
に誤りはなく,相違点Aの看過がある旨の原告の主張は,失当である。
 (2) 情報表示・出力手段について
    審決は,引用例1の「表示部」が本願発明の「情報表示・出力手段」に相
当することは一致点として認定している。また,本願発明においては,第2電子計
算機において対象・方法情報生成手段がメディア識別情報をもとに対象・方法情報
を生成し,この対象・方法情報に規定された方法に従って,第1電子計算機に設け
られた情報表示・出力手段が可搬型メディア内のデータを表示・出力しているが,
引用例1にそのような手段が記載されていないという原告主張の相違点Bは,審決
が認定した相違点1に包含される。したがって,審決に原告主張の相違点の看過は
ない。 
 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
 (1) 本願発明について
    本願発明には,「可搬型メディアのメディア識別情報と可搬型メディアの
利用の履歴情報とを用いて対象・方法情報を生成すること」も含まれる。すなわ
ち,本願発明(請求項1)を引用する本件明細書の特許請求の範囲の請求項5に
は,「可搬型メディアのメディア識別情報と可搬型メディアの利用の履歴情報とを
用いて対象・方法情報を生成する」と記載されているから,請求項5の上位概念の
発明である本願発明には,当然,「可搬型メディアのメディア識別情報と可搬型メ
ディアの利用の履歴情報とを用いて対象・方法情報を生成する」ことも含まれてい
る。
 (2) 引用例2について
 引用例2(甲5)には,アクセス頻度に応じて表示内容を変化させること
が記載されているが,この場合,利用者からの所望の情報に対する要求信号が必要
である(段落【0053】参照)。そして,所望の情報に対する要求信号に所望の
情報を特定する情報が含まれることは自明である。したがって,引用例2は,アク
セス頻度と所望の情報を特定する情報とを用いて表示内容を変更しているものであ
り,この点は,本願発明が可搬型メディアの利用の履歴情報と可搬型メディアのメ
ディア識別情報とを用いて対象・方法情報を生成することに相当する。なお,引用
例2の場合は,アクセス頻度は複数の利用者のアクセスに基づくものであるが,こ
の点は,本願発明の概念に含まれるものである。
 (3) 引用例1,2の組合せの容易性について 
    上記(2)のとおり,引用例2は,アクセス頻度と所望の情報を特定する情報
とを用いて表示内容を変更することを開示しており,この点は,本願発明が可搬型
メディアの利用の履歴情報と可搬型メディアのメディア識別情報とを用いて対象・
方法情報を生成することに相当するものである。そして,この場合の所望の情報を
特定する情報は,引用例1のように情報源がCD-ROMの場合にはCD-ROM
を特定する情報(引用例1の場合にはCD-ROMのIDコード)に相当するもの
である。
    引用例2の第1実施例について段落【0033】に記載されているとお
り,CD-ROMを用いる場合も,衛星から情報を得る場合も,利用者端末装置2
にCD-ROMをセットした以降と,利用者端末装置2の情報記憶装置51に情報
提供者システムからの情報を記憶した以降は,同じ動作であり,それゆえ,引用例
2に記載の手段を,CD-ROMを用いた場合と衛星から情報を得る場合の相互に
適用することに格別の困難性はなく,相互に適用するのは当然のことである。
    そして,引用例2の第2実施例に記載された手段を,CD-ROMを利用
したカタログショッピングである引用例1発明に応用することには,格別な阻害要
因がなく,それゆえ,引用例2の第2実施例に記載された手段を引用例1発明に応
用することは,当業者が容易に想到し得るものである。
    原告は,引用例2では,アクセス頻度情報に基づいて目次情報が変わって
いるにすぎないと指摘するが,目次情報もアクセス対象の情報の一部であることに
変わりはない。審決は,引用例1発明において,引用例2に記載された手段を採用
することの容易性を判断しているのであるから,引用例1発明がアクセス対象の情
報の表示対象の内容を変えるか否かは,判断に影響しない。したがって,引用例1
発明に引用例2記載の手段を採用し,アクセス対象の情報の表示内容を変える構成
とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
 (1) 「メディア識別情報」について
    原告は,本願発明の「メディア識別情報」は,メディアの1枚1枚を識別
することのできる情報であるのに対し,引用例1に開示された「IDコード」は,
複数のCD-ROMに共通に付され得る情報であって,メディアの1枚1枚を識別
するものではないから,審決が「メディア識別情報」を本願発明と引用例1発明の
一致点として認定した点は,誤りである旨主張する。
   ア そこで,まず,本件明細書を検討する。
   (ア) 本願発明の特許請求の範囲の記載は上記第2の2のとおりであり,そ
の記載中の,「前記可搬型メディアは,当該メディアと他のメディアとを区別でき
るメディア識別情報をその一部に含むメディア活用情報を,・・・電子的に記録し
ている媒体であり,前記第1の電子計算機は,前記可搬型メディアを駆動するメデ
ィア駆動手段と,・・・を備え,前記第2の電子計算機は,・・・前記第1の電子
計算機上での前記メディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法
とを規定する対象・方法情報を前記メディア識別情報をもとに生成する対象・方法
情報生成手段とを備え」との文言によれば,「他のメディア」から区別されるべき
「当該メディア」と,第1の電子計算機上で駆動され,その表示出力用のデータを
出力している「前記メディア」とは,同じものを指しており,「区別」は,電子計
算機上での表示出力用のデータを出力しているメディア(「前記メディア」)と
「他のメディア」との間で行われるのものであることが文理上明らかである。そう
すると,「当該メディアと他のメディアを区別」するとは,特定の1枚のメディア
を他のメディアから区別すること,すなわち,メディアの1枚1枚を区別すること
であると解するのが,特許請求の範囲の自然な解釈というべきである。
    (イ) 上記(ア)の解釈は,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の検討に
よっても裏付けられる。すなわち,本件明細書(甲2)には,【発明が解決しよう
とする課題】として,「従来の技術においては,CD-ROMはすべての利用者に
対して同じものが配布されるために,利用者の過去の利用履歴をアプリケーション
の動作に対して反映させるためには,サービス提供側でCD-ROMの配布後にあ
らためて利用者に番号付けを行ない,管理を行なう必要があり,利用者は・・・自
身の利用者番号をアプリケーションに伝える必要がある」(段落【0005】)と
の指摘がされ,「本発明の目的は,可搬型メディアと利用者との対応関係を管理す
るための情報を,事前に可搬型メディアに設定するメディア活用情報で代用できる
ようにすることで,・・・利用者に特別の作業を強いることなく利用者ごとのカス
タマイズが自動的に行なわれるようなサービスを提供することである」(段落【0
007】)と記載されている。そして,本件明細書には,実施の形態1~5とし
て,五つの実施の形態が開示され(段落【0025】~【0176】),【発明の
効果】として,「大量に作成され,配布される可搬型のメディア1枚1枚に対し
て,当該メディアにそれぞれ固有なメディア活用情報を設け,その一部を利用者の
ネットワークアプリケーション利用履歴管理に転用することで,メディアの配布後
に利用者番号をあらためて設ける手間をかけずに,個別の利用者それぞれに対する
サービスの内容を向上させることができる,という効果を奏する」(段落【017
7】)と記載されており,これらの記載に照らすと,本願発明における「メディア
識別情報」とは,可搬型メディアそれぞれの利用者を識別することを可能にする情
報,すなわち,メディアの1枚1枚を識別することのできる識別情報を意味するも
のと解される。
   (ウ) これに対し,被告は,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを
区別できるメディア識別情報」は,メディアの1枚1枚を識別することのできる情
報に限られるものではなく,「同じタイトル情報(同じ内容)を有するメディアを
他のタイトル情報(他の内容)を有するメディアと区別する」情報も含むと主張す
る。確かに,本件明細書には,実施の形態1(DVDを可搬型メディアとするレス
トランガイドシステム)に関して,「401はメディア活用情報400のうちこの
DVDのタイトルや発行年,内容などを一意に特定可能な,書籍で使われているI
SBN番号に相当するDVD識別情報であり」(段落【0029】),「DVD識
別情報401を受信し,その識別情報をもとに・・・タイトル情報や出版年度など
を得」(段落【0035】),「受信されたDVD識別情報401から得られるタ
イトル情報とその出版年度をもとに,・・・現在処理対象中のタイトルが古い版の
ものか新しい版のものかを調べる」(【0037】)などとして,DVD識別情報
がDVDのタイトル,発行年,内容などを識別する,書籍でいえばISBN番号に
相当するものであることを示す記載がある。しかしながら,これらの記載をDVD
識別情報がタイトル,発行年,内容等を識別すれば足りるという趣旨に理解すべき
理由はなく,むしろ,上記(イ)に摘示した発明の課題及び効果の記載に照らすと,実
施の形態1においても,DVD1枚ごとの識別が行われることは,当然の前提とし
て含まれていると解されるものである。したがって,実施の形態1が本願発明に含
まれるか否かにかかわらず,本願発明の「メディア識別情報」は,メディアの1枚
1枚を識別することのできる情報と解するのが相当であり,この点に関する被告の
主張は採用することができない。
   イ 次に,引用例1発明の「IDコード」について検討する。
     引用例1(甲4)は,CD-ROM等の電子出版媒体をカタログとして
利用するカタログショッピングシステム(段落【0001】)に係る発明の公開公
報であり,その発明の詳細な説明には,販売店側のホストコンピュータ,利用者端
末,CD-ROM等からなるカタログショッピングシステムが説明されるととも
に,「図5(B)は,CD-ROM及び利用するユーザを識別するためのIDコー
ドの一例である。IDコードには,発行会社コード,発行年月日情報,顧客情報等
がある」(段落【0020】),「図6はユーザ側端末のカタログショッピング手
順を示すフローチャートの例である。販売会社は,前もって商品のカタログをCD
-ROMに記憶させ,各利用者にダイレクトメールで送付する。この場合,各CD
-ROMには図5(B)に示したようなIDコードが付されている。・・・発注動
作をスタートさせると,CD-ROM装置112から制御部100のデータ記憶部
に目次データが読み取られ,これが処理されてテレビジョンモニタ140に表示さ
れる(ステップS61~S63)。ユーザは,目次を見ながら見たい項目の番号を
入力部111のテンキーを操作して入力する(ステップS64)。すると端末は,
選択された項目に登録されている商品データをCD-ROMより読み込みそのデー
タをテレビジョンモニタ140に表示する(ステップS65)。ユーザは商品群の
中から購入を希望する商品を入力部111から入力する(ステップS66)。選択
された商品群の詳細データがテレビジョンモニタ140に表示される(ステップS
67)。・・・購入を希望する場合には,販売店への電話連絡が取られる。この連
絡は,例えば,CD-ROMの固有データを用いて自動的に回線接続が行われる。
回線がつながると,購入を希望する商品の商品コードとユーザのIDコード(図5
(B))が販売店のホストコンピュータ側へ伝送される。さらにクレジットカード
のデータが読み込まれ販売店のホストコンピュータ側へ伝送される(ステップS7
1,S72)。・・・ホストコンピュータ側では,IDコードの確認,クレジット
カードの照合を行い,販売手続きが成立可能であるかどうかを判定する」(段落
【0021】~【0023】),「図7は,販売店側のホストコンピュータによる
処理手続きの例である。ユーザ側の端末と電話回線がつながると,IDコードの読
み取りが行われる(S80)。このIDコードから販売店は,自社が発行したCD
-ROM情報であるかどうかを判定できる(S82,S83)。・・・次に伝送さ
れてきた顧客管理番号と自社の所有する管理番号との照合を行い,ユーザを特定す
る(S84)」(段落【0024】)として,CD-ROMに付されたIDコード
に含まれる顧客管理番号によって,販売店側のホストコンピュータにおいてユーザ
を特定すること等が記載されている。
     上記顧客管理番号は,CD-ROMを送付する各ユーザごとに付す番号
であると考られるから,CD-ROMの1枚1枚に対応しており,顧客管理番号に
よってユーザを特定することは,すなわち,「CD-ROMを識別」することにほ
かならない。したがって,引用例1における「CD-ROM及び利用するユーザを
識別するためのIDコード」(段落【0020】)は,本願発明の「当該メディア
と他のメディアとを区別できるメディア識別情報」に相当するものというべきであ
る。
   ウ 以上によれば,本願発明と引用例1発明とは,ともに,「当該メディア
と他のメディアとを区別できるメディア識別情報」の構成を有するものであるか
ら,この点を一致点として認定した審決に誤りはなく,原告主張の相違点Aの看過
もない。
 (2)情報表示・出力手段について
    原告は,引用例1には,第2電子計算機において対象・方法情報生成手段
がメディア識別情報をもとに対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報に規定
された方法に従って,第1電子計算機に設けられた情報表示・出力手段が可搬型メ
ディア内のデータを表示・出力すること(原告主張の相違点Bに係る構成)は記載
されていないから,この点について,審決は一致点の認定を誤り,相違点を看過し
たと主張する。
    しかしながら,引用例1の「表示部」が本願発明の「情報表示・出力手
段」に相当するとした審決の認定(審決謄本8頁「4.対比」の項の第1段落)に
ついては当事者間に争いがなく,原告主張の相違点Bについては,審決において
も,「本願発明では,第2電子計算機に,メディア識別情報をもとに第1電子計算
機上でのメディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定
する対象・方法情報を生成する対象・方法情報生成手段とを設けているが,引用例
1に記載の発明には対象・方法情報生成手段は記載されていない点」(同9頁第2
段落)を相違点1として認定することによって,実質的に相違点として評価してい
ると認められるから,審決における一致点の認定に誤りはなく,原告主張の相違点
Bの看過があるとはいえない。
 (3) 以上のとおり,本願発明と引用例1発明の対比において,審決がした一致
点及び相違点1の認定に誤りがあるということはできないから,原告の取消事由1
の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
 (1) 原告は,引用例1発明に引用例2を組み合わせることは当業者が容易に想
到し得ないことであり,仮に,両者を組み合わせても,相違点1に係る本願発明の
構成には至らないとして,審決における「カタログショッピングにおいて,情報に
対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載されて
おり,また,引用例1には当該CD-ROMを特定する情報(IDコード)により
アクセス情報を得ることも記載されているのであるから,引用例1に記載の発明
(注,引用例1発明)においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD-R
OMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変え
るようにすることは,容易に考えられる」(審決謄本9頁最終段落~10頁第1段
落)との判断は,誤りであると主張する。
 (2) そこで,まず,引用例2(甲5)の記載内容について検討する。
   ア 引用例2は,映像や音楽さらにビデオショッピング等の情報を提供する
情報提供システムの発明(段落【0001】)に係るものであり,発明の課題とし
て,①従来の情報提供システムは,情報の提供を電話回線を使ったデータベースシ
ステムやパソコン通信システムで実現する場合,アクセス時間が長いため回線の使
用効率が悪いこと,②放送やCD-ROMを利用した情報提供システムの場合,所
望の情報毎のアクセス状況を示すアクセス履歴等のアクセス管理情報を情報提供者
が得ることは現実的に不可能である等の問題があることを指摘し(段落【000
5】,【0006】),発明の目的を,「情報提供者が利用者に提供した情報毎の
アクセス状況を示すアクセス管理情報を効率よく得ることができる情報提供システ
ムを提供すること」(段落【0007】)とするものである。
     そして,引用例2は,上記の目的を達成する情報提供システムとして,
第1実施例(段落【0021】~【0043】)及び第2実施例(段落【004
4】~【0058】)の二つを開示している。
  イ 第1実施例は,利用者が,利用者端末装置2にセットしたCD-ROM
内の情報にアクセスし,これを読み出すこと(又は衛星から情報を受信すること)
によって,情報を得る態様のものであって,おおむね次のようなステップからなる
ものである(以下の記述は,CD-ROMを利用する場合についてのものである
が,衛星から情報を受信する場合も,受信した情報を情報記憶装置34に記憶した
以後の手順は同じである。)。
     ①利用者がショッピング情報等を記録したCD-ROMを利用者端末装
置2にセットすると,利用者端末装置2のCPU36は,CD-ROMに記録され
ているすべての内容を管理している情報管理情報(ディレクトリ)を情報記憶装置
34に複写する(段落【0030】),②利用者が所望の情報のアクセスを指示す
ると,CPU36はディレクトリを読み出し,検索を行い,さらに,情報記憶装置
34に記憶されているアクセス状況を示すアクセス履歴情報としてのアクセス管理
情報に含まれる所望の情報の情報識別IDを読み出す(段落【0031】,③読み
出された情報識別IDは,アクセスした日時とともにアクセス管理情報に加えら
れ,情報記憶装置34に記憶されているアクセス管理情報が更新され,所望の情報
のアクセスが行われ,終了すると,アクセス情報の送出処理がされるとともに,所
望の情報が表示装置33に表示される(段落【0032】),④利用者端末装置2
から情報提供者システム1へのアクセス管理情報の送出以後の手順は,(a)利用者I
Dを利用者端末装置2のROM38から読み出し(段落【0035】),送出する
(段落【0036】),(b)情報提供者側のCPU13は,受信した利用者IDに基
づいて情報記憶装置12に記憶されている利用者管理情報を検索し,利用者IDが
正規の利用者のものであった場合には,アクセス管理情報を利用者端末装置2から
送出するように指示する(段落【0037】,【0038】,(c)CPU13は,利
用者端末装置2から受信したアクセス管理情報を情報記憶装置12の所定位置に記
憶し,その後,利用者端末装置2のアクセス管理情報を初期化させる初期化指示信
号を利用者端末装置2に対して送出する(段落【0040】),(d)利用者端末装置
2に記憶されているアクセス管理情報がクリアされると,通信回線が切断される
(段落【0041】),というものである。情報提供者は,情報提供者システム1
の情報記憶装置12に記憶されているアクセス管理情報に基づいて,利用者ごとに
各情報の課金を行う(段落【0042】)。
   ウ 第2実施例は,利用者が情報提供者システム1内の情報にアクセスする
ことによって,所望の情報を得るという態様のものであって,おおむね次のような
ステップからなるものである(以下「 」内は原文の引用,他は要旨である。)。
     ①利用者が利用者端末装置2の操作装置35を操作して情報提供者シス
テム1を呼び出すと,情報提供者システム1のCPU53が,利用者から送られる
認証に必要なパラメータに基づき,認証を行う(段落【0052】),②CPU6
1は,利用者の操作によって所望の情報を要求する要求信号を通信回線を介して情
報提供者システム1に送信する(ステップ303)。信号を受信したCPU53
(注,情報提供者側)は,該当する情報を情報記憶装置51から検索し(ステップ
405),RAM54に複写する(段落【0053】),③「CPU53は現在同
じ情報をアクセスしている利用者数を検索する(ステップ405)。さらにCPU
53はステップ405にて検索した情報に含まれるアクセス頻度1及び2を読み出
す(ステップ406)。読み出されたアクセス頻度1及び2は各々1が加算されて
(ステップ407)情報記録装置51の所定の位置に記憶される(ステップ40
8)。そして,CPU53は利用者の所望の情報とアクセス頻度や目次情報,情報
量等の情報としてのアクセス管理情報を前述のフォーマットにしたがって利用者端
末装置2に通信回線を介して送信する(ステップ409)」(【0054】),④
「初期画面として利用者端末装置2の表示装置65に表示されている情報はジャン
ル別(種別)に分類された目次情報である。この表示されている情報は,情報提供
者システム1から送られた目次情報と頻度情報に基づいて表示パラメータの算出を
CPU61が行うことによって得られる。表示パラメータの算出は例えば円柱でこ
れらを表現する場合,以下の式が適用される。・・・CPU61で計算された円柱
パラメータは表示回路64に送られ,2次元又は3次元表示として表示装置65で
表示される。図13はその表示例である。ここでは,・・・ジャンル別に例えば横
方向に情報量,縦方向にアクセス頻度を表している。このようにして,利用者は比
較的簡単にアクセス管理情報を得ることができる」(段落【0055】~【005
7】),⑤「このように表示はジャンル別に分類され行われるが,これらの分類は
さらに階層構造をもち,階層ごとに表示パラメータがCPU61によって算出され
表示可能に処理される。」(段落【0058】)。
   エ 以上によれば,引用例2の第1実施例は,CD-ROMの読み取り(又
は衛星からの受信)によって利用者端末装置2の情報記憶装置34に記憶された情
報が,アクセスの対象となり,利用者端末装置2において情報へのアクセス履歴を
管理し,情報提供者システム1に送るというものである。そして,審決が指摘す
る,「カタログショッピングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情
報の内容を変えること」は,第1実施例には示されていない。
     他方,引用例2の第2実施例は,情報提供者システム1の情報記憶装置
51に記憶された情報がアクセスの対象となり,情報提供者システム1において情
報へのアクセス頻度を管理し,利用者端末装置2に送るというものである。そし
て,第2実施例には,情報提供者システム1のCPU53が,「利用者の所望の情
報とアクセス頻度や目次情報,情報量等の情報としてのアクセス管理情報を前述の
フォーマットにしたがって利用者端末装置2に通信回線を介して送信する(ステッ
プ409)」こと(上記ウ③),利用者端末装置2において初期画面として表示さ
れているジャンル別(種別)に分類された目次情報が,「情報提供者システム1か
ら送られた目次情報と頻度情報に基づいて表示パラメータの算出をCPU61が行
うことによって得られる」こと(同④)が記載されている。
     審決は,引用例2について,「カタログショッピングにおいて,情報に
対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載されて
おり」(審決謄本9頁最終段落)と認定し,この認定を前提に,「引用例1に記載
の発明(注,引用例1発明)においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該C
D-ROMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容
を変えるようにすることは,容易に考えられること」(同10頁第1段落)である
としているところ,以上の検討によれば,引用例2について審決が指摘する「情報
に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変える」という事項は,第2実施
例にのみ,開示されている事項である。そして,第2実施例における「アクセス頻
度」とは,「CPU53は現在同じ情報をアクセスしている利用者数を検索する
(ステップ405)。さらにCPU53はステップ405にて検索した情報に含ま
れるアクセス頻度1及び2を読み出す(ステップ406)。読み出されたアクセス
頻度1及び2は各々1が加算されて(ステップ407)情報記録装置51の所定の
位置に記憶される(ステップ408)」(上記ウ③)と記載されるように,情報提
供者側システム1の情報記憶装置51に記憶されている特定の情報に対してどれだ
けの数のアクセスがされたかを示す情報であるから,各利用者が保有する可搬型メ
ディアを他のメディアから区別する情報である「メディア識別情報」とは,全く異
なるものである。
     結局,引用例2には,情報提供者システム1側に設けた「対象・方法情
報生成手段」において,「メディア識別情報をもとに」,メディアの表示・出力に
利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する「対象・方法情報」を生成
し,この対象・方法情報に規定された方法に従って,可搬型メディア内のデータを
表示・出力するようにすることは,記載も示唆もされていないといわざるを得な
い。
     そうである以上,引用例1発明に,引用例2に記載された事項を組み合
わせても,相違点1に係る本願発明の構成を得ることはできない。
 (3) ところで,審決における「引用例1に記載の発明(注,引用例1発明)に
おいても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD-ROMを特定する情報に基
づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容
易に考えられることと認められる」(審決謄本10頁第1段落)との説示は,引用
例2の第2実施例において,情報提供者システム1の側から送信される情報によっ
て利用者端末装置2の表示内容(具体的には初期画面として表示されている目次情
報)を変えている点を「引用例2に記載の手段」としてとらえた上で,そのような
表示内容の変更を,アクセス頻度情報ではなく,CD-ROMを特定する情報に基
づいて得られる「アクセス情報」(利用の履歴情報)に従って行うことが容易想到
であるとの趣旨を述べたものとも解される。そこで,この観点から本願発明の容易
想到性を肯定し得るか否かを,以下,引用例に基づいて検討する。
   ア まず,引用例1発明は,CD-ROMを利用したカタログショッピング
システムであり,本願発明と同様に,ユーザ側端末においてCD-ROMから情報
が読み出され,表示されるものである。そして,CD-ROMに付されたIDコー
ドが,本願発明の「メディア識別情報」に相当する情報を含むものと認められるこ
とは上記1(1)のとおりである。しかしながら,引用例1には,ホストコンピュータ
(情報提供者側の電子計算機)において,IDコードに含まれる情報に基づいてユ
ーザ側端末でのメディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法と
を規定する「対象・方法情報」を生成すること,及びこの「対象・方法情報」の規
定するところに従ってメディア内のデータがユーザ側端末で表示されるようにする
ことについては,記載も示唆もない。
     次に,引用例2に開示された二つの実施例のうち,第1実施例は,CD
-ROMを利用するもので,利用者端末装置2において表示される情報は,本願発
明と同様に,CD-ROMから読み出された情報であるが,情報提供者側で生成さ
れた情報(対象・方法情報)の規定するところに従ってメディア内のデータが利用
者端末装置2で表示されるようにすることについて,記載も示唆もないことは,上
記2(2)のとおりである。
     さらに,引用例2の第2実施例は,CD-ROMを利用しない態様であ
って,利用者のアクセス対象となるショッピング情報は,情報提供者システム1内
に存在しており,利用者からの要求があるとショッピング情報が利用者端末装置2
に送信されるというものであるから,第2実施例においては,CD-ROM等の利
用を前提とする「メディア識別情報」という概念自体,意味あるものとしては成立
し得ない。
     そうすると,引用例1及び2は,いずれも,個々のメディアに対応付け
られたメディア識別情報に基づいて,メディアの表示・出力に利用するデータとそ
の表示・出力の方法とを規定する「対象・方法情報」を情報提供者システムないし
ホストコンピュータ(本願発明の第2の電子計算機)で生成し,この「対象・方法
情報」を送信することによって,利用者端末装置2ないしユーザ側端末(本願発明
の第1の電子計算機)で表示される表示内容を変えるという発想も動機付けも与え
るものではないというべきである。
   イ 被告は,引用例2の第2実施例には,アクセス頻度に応じて表示内容を
変化させることが記載されており,アクセスの際には利用者から所望の情報に対す
る要求信号が必要であるが(段落【0053】),その要求信号には所望の情報を
特定する情報が含まれるから,引用例2では,「アクセス頻度」と「所望の情報を
特定する情報」とを用いて表示内容を変更しているのであり,この点は,本願発明
が可搬型メディアの利用の履歴情報とメディア識別情報とを用いて対象・方法情報
を生成することに相当するものであると主張する。しかしながら,引用例2の第2
実施例におけるアクセス頻度情報は,情報提供者システム1の特定の情報に対して
どれだけアクセス数(頻度)があったかを示す情報であるから,その情報を得る過
程で当該情報を要求した利用者についての「利用の履歴情報」が得られることがあ
っても,「アクセス頻度」情報自体は,「利用の履歴情報」や「IDコード」など
の個々の利用者ないしメディアに対応付けられた情報とは異なる情報であるという
べきである。したがって,引用例2の第2実施例における態様が「利用の履歴情
報」と「メディア識別情報」を用いて表示内容を変更することに相当するというこ
とは到底できない。
   ウ また,被告は,引用例2に記載の手段をCD-ROMを応用したカタロ
グショッピングである引用例1に応用することは,格別な阻害要因がなく,それゆ
え,当業者が容易に想到し得ると主張する。しかしながら,「引用例2に記載の手
段」とは,具体的には,第2実施例として開示された手段であると解されるとこ
ろ,第2実施例では,表示されるべき情報は情報提供者側システム1の情報記憶装
置に存在しているのであり,本件における被告の主張立証を検討しても,「引用例
2に記載の手段」を「CD-ROMを応用したカタログショッピングである引用例
1に応用する」という発想や動機付けをもたらす事情を見いだすことができないか
ら,被告の上記主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであるから,相違点1について「引用例1に記載の発明にお
いても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD-ROMを特定する情報に基づ
いてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容易
に考えられること」であるとして,相違点1に係る本願発明を容易想到とした審決
の判断は,誤りというべきであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは
明らかであるから,原告の取消事由2の主張は,理由がある。
 3 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由があり,審決は取消しを免れな
い。
   よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官    篠  原  勝  美
  裁判官     古  城  春  実
      裁判官   岡  本     岳

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛