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裁判例


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平成12年(行ケ)第314号 審決取消請求事件(平成12年12月19日口頭
弁論終結)
 判    決
   原      告      スタール・テキスティル、エッセ・ア
  代表者          【A】
  訴訟代理人弁護士     木 下 洋 平
   被     告     特許庁長官 【B】
  指定代理人        【C】
   同             【D】
    主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
     この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
 事    実
第1請求
特許庁が平成10年審判第17053号事件について平成12年4月11日
にした審決を取り消す。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
原告は、平成8年5月29日、別紙の別表本願商標に記載のとおり、「BOBO
LI」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、指
定商品を商品及び役務の区分第25類の「被服(和服を除く)、ガーター、靴下止
め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」として
商標登録出願(平成8年商標登録願第57483号)をしたが、平成10年8月3
日に拒絶査定を受けたので、同年10月29日、拒絶査定不服の審判を請求した。
 特許庁は、同請求を平成10年審判第17053号事件として審理した結果、平
成12年4月11日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし(出訴
期間として90日を付加)、その謄本は同年5月1日に原告に送達された。
 2 審決の理由 
 別紙審決書の写しのとおり、本願商標「BOBOLI」は「ボボリ」の称呼を生
ずるものであるところ、別紙の別表引用商標に記載のとおり、「BOB LEE」
の欧文字を書してなり、指定商品を旧第24類「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動
具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これら
の部品及び附属品」とする昭和57年9月21日商標登録出願に係る商標(昭和6
0年5月30日登録、登録第1769772号、平成7年10月30日存続期間の
更新登録、以下「引用商標1」という。)、及び、同じく、「BOB LEE」の
欧文字を書してなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「被服、ガータ
ー、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊
靴」とする平成5年5月12日商標登録出願に係る商標(平成8年5月31日登
録、登録第3154606号、以下「引用商標2」といい、引用商標1と引用商標
2とを併せて、単に「引用商標」という。)は、「ボブリー」の称呼を生ずるもの
であり、本願商標と引用商標とは、その外観、観念を考慮しても、称呼において相
紛らわしい類似の商標であり、かつ、本願商標の指定商品は、引用商標の指定商品
と同一又は類似の商品を包含しているものであるから、本願商標は、商標法4条1
項11号に該当し、登録することができない旨認定、判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願商標及び引用商標の構成とその指定商品は認めるが、審決
は、本願商標と引用商標との類否判断を誤っており、違法であるから取り消される
べきである。
 1 両商標から生ずる称呼、観念について
  (1) 引用商標について
     ア 引用商標「BOB LEE」の称呼は、一応、「ボブリー」である
ということもできるであろう。
 しかし、引用商標「BOB LEE」が、英米人の「ファーストネーム」と「フ
ァミリーネーム」の組合せであることは、英語が第一外国語として広く普及してい
る現状に鑑みれば、通常人が容易に認識することができる程度のことである。そし
て、「BOB」は「ROBERT」の略称であるから、「BOB LEE」を正式
に書くと、「Robert Lee」となり、「広辞苑(第4版)」(甲第7号証
2677頁)によれば、この「Robert Lee」とは、「Robert E
dward Lee」のことであり、「アメリカの軍人。南北戦争時の南軍の総司
令官。(1807~1870)」と記述されている。したがって、引用商標は、実
は、この「Robert Edward Lee」将軍を意味することになる。
 また、「BOB」の称呼は、「ボブ」よりも「ボッブ」に近いというべきであ
る。なぜならば、英語の「TOP」は、「トプ」ではなく「トップ」と発音され、
「POP」は、「ポプ」ではなく「ポップ」と発音されるからである。
 このように、引用商標は、「ボッブ・リー」という、英米人の「姓名」を表すも
のとして、認識され、称呼される。
     イ 被告の主張に対する反論
 被告は、「一般的な消費者は、必ずしも英語に堪能な者ばかりであるとはいえな
いこと、そもそも「LEE」なる英単語は、我が国においては、さほど親しまれた
ものではないことなどよりすれば、引用商標を構成する英文字が全体として英米人
の姓名を表したものと理解するというより、むしろ全体として、特定の観念を有し
ない造語よりなるものと理解する場合も決して少なくないものというべきである」
旨主張するが、時代遅れの空論というべきである。 
      (ア) 我が国における英語教育は、義務教育だけでも、中学校で3
年間あり、さらに、多くの日本人は、高校で3年、大学で4年と、合計で6ないし
10年間も英語を学んでいる。「一般的な消費者」といえども、平均的にこの程度
の英語教育を受けている。しかも、近年の著しいインターネットの普及により、英
語の必要性は高まる一方であり、英語の公用語化、小学校からの英語教育の開始も
議論されている。これらの事実に鑑みれば、引用商標を構成する英文字が全体とし
て、特定の観念を有しない造語よりなるものと理解する場合も決して少なくない旨
の被告の主張は、時代遅れのものである。 
      (イ) また、被告は、「LEE」なる英単語は我が国においてさほ
ど親しまれたものではない旨主張するが、事実に反する。なぜならば、昭和50年
代にカンフー映画で一世を風靡した俳優「ブルース・リー」は我が国でも絶大な人
気を博したし、映画「風と共に去りぬ」で主役、スカーレット・オハラを演じた女
優「ビビアン・リー」は、我が国においても、未だに絶大な人気を博しているから
である。また、1960年から70年代の女性歌手「ブレンダ・リー」も、その独
特な歌声で多くの日本人を魅了した。また、「広辞苑」の上記頁には、アジア人で
はあるが、国際的に良く知られていた、前シンガポール首相「リー・クアン・ユ
ー」も登載されている。さらに、現代では、「LEE」は、有名な女性雑誌の名前
にもなっている。以上のような事実に鑑みると、被告の上記主張は、全く合理性が
ない。
 「BOB」についても、被告自身が有名であると認める「ボブ・ディラン」のほ
かにも、有名な喜劇映画俳優である「ボブ・ホープ」も知られており、被告が主張
するように、引用商標「BOB LEE」から、髪型の「ボブ」を想起するような
日本人があるとは到底思われない。
      (ウ) さらに、被服に係る商標は、人名が多いという事実がある。
具体例を挙げるなら、外国人として、「Louis Vuitton(ルイ・ヴィ
トン)」、「Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)」、
「Giannni Versace(ジャンニ・ヴェルサーチ)」、「Salva
tore Ferragamo(サルバトーレ・フェラガモ)」、「Giorgi
o Armani(ジョルジオ・アルマーニ)」、「Sonia Rykiel
(ソニア・リキエル)」、「Calvin Klein(カルヴァン・クライ
ン)」、「Christian Dior(クリスチャン・ディオール)」、「E
nrico Coveri(エンリコ・コーヴェリ)」、「Ralph Laur
en(ラルフ・ローレン)」等があり、特に、ゴルフ関係では、「Arnold 
Palmer(アーノルド・パーマー)」が有名である。日本人名としては、「H
anae Mori」、「Junko Koshino」、「Issei Miy
ake」、「Kansai Yamamoto」等が有名である。
      (エ) 以上のとおり、「BOB」も「LEE」も、日本人には良く
知られた名前であり、引用商標「BOB LEE」に接する一般需要者は、これを
英米人の「姓名」と認識するのはむしろ当然のことというべきである。
  (2) 本願商標について
 本願商標「BOBOLI」は、特に意味のない一個の語であり、「ボ(ー)ボ
リ」の称呼を生じる。なお、本願商標は、日本人にはさほど知られているとはいえ
ないが、ルネサンス発祥の地としてよく知られているイタリアのフィレンツェに所
在する「ボーボリ庭園(GiardinodiBoboli)」に由来するものであるから、この
「ボーボリ庭園」のことを知っている者には、「ボボリ」ではなく、「ボーボリ」
(庭園)と認識され、称呼されるであろう。
 2 商標の類否判断のあり方について
  以上のような事情に鑑みれば、両商標から生ずる称呼の音質の近似性などを理
由として類似性を肯定した審決の判断手法は余りにも機械的、形式的であり、到底
首肯することができない。
 東京高判平成5年2月17日(特許庁公報取消訴訟集33巻295頁)は、商標
「WRANGLER」と「LANGLEY」は非類似であると判断して特許庁の審
決を取り消したものであるが、その理由として、以下のように述べている。
 「商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼
等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察す
べきであり、しかもその取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況
に基づいて判断すべきものである・・・。また、今日のように情報媒体が多様化
し、国内的国際的情報量が飛躍的に増大した社会において、人々は多量の情報を識
別認識することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応する習性が培われている
ことは当裁判所に顕著な事実である。このことからすると、商標の類否の判断にお
いて、商標の外観、観念、称呼の各要素は、あくまでも、総合的全体的な考察の一
要素にすぎず、たまたま一要素が近似するからといって、他の要素との関連を無視
して直ちに商標そのものが類似するとの判断に至ることは許されず、常に、情報社
会といわれる今日の社会情勢に即した総合的全体的な考察を心掛けなければならな
いことはいうまでもない。」
 このような観点から本願商標と引用商標をみると、両商標は、別紙の別表のとお
りに、外観において明白に相違し、上記のとおり観念においても明確に区別できる
ものであり、類似性がない。そして、称呼についていうならば、まさに、上記「ラ
ングレー事件」判決が判示するように、「外国語あるいは外国語を思わせる称呼の
場合、発音の違いに比較的強い注意を向け、その差異を聴き分けようとする傾向が
見られることが経験則上認められる。」のであるから、本件における程度の称呼の
近似性は、他の要素をも総合的全体的に考えた場合、両商標を類似するものとしな
ければならない程度のものではないというべきである。
 なお、被告は、両者は外観においても類似する旨主張するが、全くのこじつけで
あるというべきであるし、また、審決は、「本願商標と引用商標は、その外観、観
念を考慮しても称呼において相紛らわしい類似の商標であ(る)」というが、審決
には、現実に外観、観念を考慮した形跡は全くない。
 3 指定商品の取引の実情について
 審決は、両商標の称呼について、「称呼が重要視される口頭、電話等による取引
にあって、彼此聴き誤らせるおそれがある」としている。
 しかし、本願商標の指定商品は第25類「被服」等であり、まさに、「被服その
他の服飾品」を指定商品とした商標「ロマン」と「ロマンス」とを非類似であると
判断した「ロマン事件」(東京高判昭和39年7月2日行集15巻7号1378
頁)において、東京高裁は、「・・・大体において手に取り、目で見てその取引を
するものであり、問屋等における大口取引又は同じ商品の追加注文等の場合を除い
ては、電話だけによる取引の殆どせられない性質のものであることを考えなければ
ならない。従ってこのような指定商品を対象とする本件両商標にあっては、一般消
費者について考える限り、電話、口頭等による取引の盛んに行われる商品を対象と
する商標とは自ら異なるものがあり、また問屋等大口取引者間にあっては、商標に
よる指示その他の取引は、一般消費者の場合に比して、はるかに注意深くなされる
ものと考えられ・・・」と判示していることからしても、審決の判断は失当という
ほかはない。
 4 結論
以上のとおり、本願商標と引用商標は非類似であるというべきであるから、この
判断を誤った審決は違法である。
第4 被告の反論の要点
 1 指定商品の取引の実情等について
 本願商標及び引用商標が使用される商品「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつ
り、バンド、ベルト、履物」等のファッション関連商品などの商品の主たる需要者
は、老人から若者まで含む一般的な消費者であり、また「運動用特殊衣服、運動用
特殊靴」にあっても、その需要者の多くが一般的な消費者であることは何ら変わり
なく、これら一般的な消費者は、店頭において該商品を購入する場合が圧倒的に多
いとみられること、これら一般的な消費者のうち、その多くの者が必ずしも英語に
堪能な者ばかりであるとはいえないこと、さらに、これら一般的消費者は、商品に
付される商標やブランドについて詳しくない者や中途半端な知識しか持たない者も
多数含まれていること、一方、この種商品における商標の表示方法は、例えば、被
服の場合は、衿吊り(洋服をつるすために、後ろ中央の襟付けの所につれたテー
プ)に、刺繍などにより表示する方法、あるいはタグやシール等に表示する方法な
どが採られているのが一般的であり、また、靴などにあってはも、靴底や中敷き等
に表示され、商標自体比較的目立たない箇所に小さく表示される場合が少なくない
のが実情である。
 したがって、本願商標及び引用商標の類否の判断に当たっては、上記取引の実情
及び両商標が使用される商品における需要者の注意力を考慮して判断すべきであ
る。
 2 引用商標について
 原告は、引用商標が英米人の「ファーストネーム」と「ファミリーネーム」の組
合せであることは、容易に認識することができるものであり、全体として「ボッ
ブ・リー」という英米人の姓名を認識、称呼される旨主張する。
 しかしながら、引用商標の指定商品の主たる需要者は、上記のとおり、一般的な
消費者であり、そのうちの多くの者が必ずしも英語に堪能な者ばかりであるとはい
えないこと、そもそも「LEE」なる英単語は、我が国においては、さほど親しま
れたものではないことなどよりすれば、引用商標を構成する英文字が全体として英
米人の姓名を表したものと理解するというより、むしろ全体として、特定の観念を
有しない造語よりなるものと理解する場合も決して少なくないものというべきであ
る。
 してみると、引用商標に接する取引者、需要者がこれより直ちに英米人の姓名を
表したと認識することはまれであるといわざるを得ない。なお、付言すれば、「B
OB」の語は、男の名を意味するのみならず、「ボブ」と発音、表記され「ショー
トヘアーの一。えり首の辺まで短くカットした女性の髪型。」の意味をも有する語
として我が国において知られているものである(乙第1号証及び乙第2号証)。し
たがって、このことからも、本件商標は、全体として特定の意味合いは生じないも
のである。
 そして、引用商標中の「BOB」の文字部分は、例えば、我が国においてもよく
知られている米国のフォークソング歌手「Bob Dylan」を「ボブディラ
ン」と発音、表記するように、また、「bobsleigh」の英単語が「ボブス
レイ」と発音、表記されるように、引用商標にあっても、全体として「ボブリー」
と称呼する場合が多いというべきである。 
 3 本願商標について
 原告は、本願商標は、特に意味のない「ボ(ー)ボリ」の称呼を生ずるが、イタ
リーのフィレンツェに所在する「ボーボリ庭園」に由来するものであるから、該庭
園を知っている者は「ボボリ」ではなく、「ボーボリ」(庭園)と認識し、称呼す
る旨主張する。
 しかしながら、本願商標の指定商品の主たる需要者の多くの者が、本願商標を構
成する「BOBOLI」の文字より、イタリアのフィレンツェに所在する「ボーボ
リ庭園」を表したと理解することは少なく、特定の意味を持たない造語を表したと
理解する場合が多いというべきである。
 してみると、本願商標は、これをローマ字読みにした場合の「ボボリ」の称呼を
生ずるものであり、かつ、特定の意味を持たない造語を表したと認識されるもので
ある。
 4 両商標の対比
  (1) 称呼について
 本願商標より生ずる「ボボリ」の称呼と引用商標より生ずる「ボブリー」の称呼
は、審決の「3 当審の判断」で認定したとおり、称呼における識別上重要な要素
を占める語頭において、両唇で調音される破裂音であって、強く響く「ボ」の音を
共通にするものである。そして、第2音目の「ボ」と「ブ」の各音は、いずれも前
音「ボ」に続いて両唇で調音される破裂音であるところから、前音に比べて明瞭に
は発音され難く、聴取され難い音である。これに対し、第3音目の「リ」の音は比
較的明瞭に発音され、聴取される音であり、また「リ」の帯同母音「i」が長くの
びるように発音されるところから、本願商標は、全体として「ボボリィ」と末尾が
長音の如く発音され、聴取されるものである。
 してみると、「ボ」と「ブ」の音及び末尾に位置する長音の有無の差異は、称呼
全体に及ぼす影響は大きいものとはいえず、それぞれの称呼を一連に称呼するとき
は、その語調、語感が近似するものである。
  (2) 観念について
 両商標は、上記のとおり、特定の観念を理解させない造語よりなるものであるか
ら、観念上明確に相違するということもできず、観念上の差異が両商標の称呼の類
否を判断するうえで、大きな影響を及ぼすものではないばかりか、このような造語
からなる商標にあっては、全体的な言葉の響きから受ける印象によって商標を直感
的に把握し、認識するのが一般的であるといえる。
  (3) 外観について
 両商標が使用される商品「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベ
ルト、履物」等のファッション関連商品に付される商標は、上記のとおり、商品
中、目立たないような位置に小さく表示されるのが一般的であるといえる。
 してみると、本願商標と引用商標は、いずれも英文字よりなり、しかも、印象に
残りやすい前半部分において「BOB」の3文字を共通にするばかりでなく、後半
部分において「L」の文字を含んでなるものであるから、その主たる需要者である
一般の消費者がこれを時と所を異にして接した場合、称呼が近似しているうえに、
観念上明確な差異を有しない両商標にあっては、互いに誤認混同を生ずるおそれが
ある程度に外観上類似するものといわざるを得ない。
  (4) 以上のとおり、本願商標及び引用商標の称呼、観念、外観によって一
般の消費者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、その使用に係
る商品の取引の実情を併せ考えると、本願商標と引用商標は、互いに紛れるおそれ
がある類似の商標といわざるを得ない。
  (5) 原告は、審決中の「称呼が重要視される口頭、電話等による取引にあ
って、彼此聴き誤られるあるおそれがある」との判断について、判決例を挙げて失
当である旨主張する。
 しかしながら、本願商標及び引用商標の指定商品の取引の形態の中には、製造業
者と卸問屋との取引も存在し、遠隔地における取引にあっては、電話などによる注
文が主としてなされる場合も決して少なくない。加えて、本願商標と引用商標は、
いずれも文字からなる商標であり、称呼されることが前提とされているものである
から、電話等による口頭の取引においては商標の称呼をもって商品を特定すること
になり、このような場合、称呼において類似する商標は、商品の出所の誤認混同を
生ずるおそれが多分にあるというべきである。
 5 結論
 以上のとおり、本願商標と引用商標は類似するものであり、かつ、その指定商品
も同一又は類似するものであるから、本願商標が商標法4条1項11号に該当する
として、登録することができないとした審決の認定、判断に何ら誤りはないもので
あり、取り消されるべき理由はない。
   理    由
1 本願商標及び引用商標の構成及び指定商品について
 本願商標は、別紙の別表本願商標に記載のとおり、「BOBOLI」の欧文字を
横書きしてなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「被服(和服を除
く)、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣
服、運動用特殊靴」とするものであること、引用商標1が、別紙の別表引用商標に
記載のとおり、「BOB LEE」の欧文字を横書してなり、指定商品を旧第24
類「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電
気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び附属品」とするものであること、
引用商標2が、引用商標1と同じ構成からなり、指定商品を商品及び役務の区分第
25類の「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動
用特殊衣服、運動用特殊靴」とするものであることは争いがない。
2 本願商標及び引用商標から生じる称呼、観念について
 (1) 本願商標
 本願商標「BOBOLI」は、特に意味のない語であり、「ボボリ」の称呼を生
じることは、原告において争っていない。
 なお、原告は、本願商標はイタリアのフィレンツェに所在する「ボーボリ庭園」
に由来するものであるから、該庭園を知っている者は「ボボリ」ではなく、「ボー
ボリ」(庭園)と認識し、称呼する旨主張している。甲第8号証によれば、イタリ
アのフィレンツェに「ボーボリ庭園(GiardinodiBoboli)」が存在し、旅行案内
書にもその紹介記事が登載されていることが認められるけれども、ボーボリ庭園な
いし「BOBOLI」の語が我が国において広く知られていると認めるに足りる証
拠はない。原告も「BOBOLI」の語が日本人にさほど知られているとはいえな
いことを自認しており、原告の上記主張は、本願商標から一般に生ずる称呼、観念
として主張するものではなく、単に事情として述べていることは明らかである。
 したがって、本願商標は、一般的には、「ボボリ」の称呼を生じ、特定の意味を
持たない造語として、取引者、需要者に理解、認識されるものであると認められ
る。
 (2) 引用商標
    ア 原告は、引用商標「BOB LEE」から、一応「ボブリー」の称呼
も生じるであろうとしながら、これが英米人の「ファーストネーム」と「ファミリ
ーネーム」の組合せであることは、容易に認識することができるものであり、全体
として「ボッブ・リー」という英米人の姓名が認識され、称呼される旨主張してい
る。
 確かに、引用商標の指定商品の取引者、需要者の中には、引用商標「BOB L
EE」の欧文字から英米人の「姓名」を想起し、あるいは、これを「ボッブ・リ
ー」と称呼する者もいるであろうことは否定し難いが、以下のイ、ウにおいてみる
ように、我が国において「BOB LEE」が英米人の姓名であると広く認識、想
起され、「ボッブ・リー」と称呼されるのが一般的であると認めることはできな
い。
    イ(ア) 引用商標を構成する欧文字のうち前半の大文字3字「BOB」
の語が、男性の名前を表すことがあることは、我が国においてもある程度認識され
得るものと認めることができる。我が国における一般的な辞典の一つである「研究
社新英和辞典」は、冒頭1字を大文字、後の2字を小文字に表記する「Bob」の
英語の意味として、「男性名」と記載している。しかし、他方、同辞典によると、
小文字3字で表記する「bob」の英語の意味として、「おもり、玉」、「(下部
をカールにした婦人や子供の)ショートヘアー」等を記載しており、また、我が国
における一般的な国語辞典の一つである「広辞苑(第5版)」(乙第1号証)は、
「BOB」や「Bob」の英語表記に該当する国語を記載しておらず、「bob」
の英語表記について「ボブ」と片仮名表記した国語を掲載した上で、「ショートヘ
アーの一。えり首の辺まで短くカットした女性の髪型。」とのみ記載しているこ
と、また、「bobcat」、「bobsleigh」の英語について、それぞれ
「ボブキャット」、「ボブスレー」と片仮名表記した国語を掲載していることが認
められる。これらの事実からすると、我が国において、引用商標のように「BO
B」という大文字3字で表記された欧文字からは、一概に男性名が想起されるとい
うことはできず、また、該欧文字は、「ボブ」と発音され、表記されることも多い
ものと認められる。
     (イ) 引用商標を構成する欧文字のうち後半の大文字3字「LEE」
の語が、原告が指摘するように「ブルース・リー」や「ビビアン・リー」の例に見
られるとおり、欧米人の名前を表すことがあることは、我が国においてもある程度
認識され得るものと認めることができる。しかし、上記2者は、いずれも、「ブル
ース・リー」や「ビビアン・リー」という姓名の組合せ全体として著明性を獲得し
ているものと認められるのであって、「LEE(Lee)」や「リー」単独で、特
定の人物を直ちに想起させるには至っていないものとみられるのである。他方、
「LEE」の語は、我が国で周知の女性雑誌や即席(レトルトパック)カレー商品
の名称になっていることは顕著な事実であり(女性雑誌については原告において自
認している。)、その語の意味合いは、相当程度希釈されていることがうかがわれ
るのであって、「LEE」の欧文字から一概に特定の人物名が想起されるというこ
とはできない。
     (ウ) 引用商標を構成する「BOB LEE」全体の欧文字に関し、
我が国において「BOB LEE(Bob Lee)」の語について、特定の人物
の姓名を表すものであるという認識が一般に形成されているとは認められないばか
りか、むしろ、当該欧文字が特定の人物や観念を想起させるものとして周知性を獲
得してはいないことが認められる(原告もこの語の周知性を主張するものではな
く、引用商標「BOB LEE」が、実は、「Robert Edward Le
e」将軍を意味することになると主張するにすぎない。)。そして、引用商標「B
OB LEE」の欧文字の構成は、別紙の別表引用商標に記載のとおりであり、
「BOB」と「LEE」との間隔はさほど大きいものではなく、また、「BOB」
と「LEE」の欧文字は、それぞれ3字という比較的短いものであるから、これが
称呼される場合に、「BOB」と「LEE」とを区切らずに、「BOBLEE」と
一つのまとまった語のように続けて発音され、聴覚されやすいものと認められる。
    ウ そして、本件の審決時点以降、現在においても、我が国の一般的な国
民が日常的には英語を用いていないことは顕著な事実であり、特に、本願商標及び
引用商標2の指定商品は、被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベル
ト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴と広範囲にわたっており、それらの需要
者は、広く老若男女を問わない一般的な消費者であると認められる。またこれらの
ファッション関連商品における商標の表示方法は、被告が指摘するように、被服の
場合、衿吊りに刺繍などにより表示する方法や、タグやシール等に表示する方法な
どが採られているのが一般的であり、また、靴の場合、靴底や中敷き等に表示され
るなど、商標自体比較的目立たない箇所に小さく表示される場合が少なくないと認
められる。したがって、一般に、上記の商品に欧文字で構成される商標が上記の態
様で付された場合、これに接する上記の一般的な消費者は、その日常的な取引にお
いて、当該商標につき、英語等の外国語としての発音に特に注意せずにローマ字読
みして称呼することも多く、あるいは、その欧文字の持つ日本語としての意味内容
が広く知られていない場合には、その意義に格別留意せずに取引に当たることも少
なくないものと推認されるのである。
 これらの事実に、上記イの諸事情をも総合すると、引用商標の指定商品の一般的
な需要者は、引用商標「BOB LEE」を構成する欧文字について、全体として
「ボブリー」と称呼、表記し、特定の観念を有しない文字であると認識する場合も
少なくないであろうと推認することができる。
 すなわち、上記のとおり引用商標の広範囲にわたる指定商品を日常的に取引する
一般的な消費者である需要者は、引用商標「BOB LEE」の欧文字が比較的目
立たなく小さく表記された商品に接した場合に、当該商標を「BOB」と「LE
E」とに区切ったり、その英語としての発音に注意して称呼したり、また、当該商
標から直ちに欧米人の姓名を想起したりせずに、その日本語における意味内容に格
別留意することなく、全体として「ボブリー」と称呼、表記して、特定の観念を有
しない造語であると認識する場合も決して少なくないであろうと推認することがで
きるのであって、この認定を覆すに足りる証拠はない。
 したがって、原告の上記アの主張は採用することができない。
3 両商標の類似性について
  (1) 称呼について
 本願商標より生ずる「ボボリ」の称呼と引用商標より生ずる「ボブリー」の称呼
とを対比すると、まず、両者は、語頭の「ボ」の音を共通にしている。この冒頭に
位置する「ボ」の音は、両唇で調音される破裂音であり、称呼において需要者の注
意を惹きやすいものである。次に、第2音目では、「ボ」と「ブ」と相違している
ものの、いずれも前音「ボ」に続いて両唇で調音される破裂音であるところから、
前音に比べて明瞭には発音され難く、聴取され難い音であり、かつ、両者は、子音
を共通にする破裂音であり、その母音も「オ」と「ウ」と近似しているために、両
音の音感が近似して聴覚されることが多いものと認められる。さらに、両称呼は、
第3音目の「リ」の音を共通にしており、この「リ」の音は比較的明瞭に発音さ
れ、聴取され得る音である。ただし、引用商標の3音目は、「リー」という長音で
あるが、この長音は比較的弱く発音されたり、聴覚されることもあり、他方、被告
が指摘するように、本願商標の第3音の「リ」の音は、語の末尾に位置しているこ
とから強く発音される場合に、母音「イ(i)」が長くのびるように発音されて、
「リィ」と長音のように発音されたり、聴取されることもあることは経験上明らか
である。
 以上によれば、両称呼の相違点である2音目の「ボ」と「ブ」の音及び末尾の長
音の有無の差異は、称呼の全体に及ぼす影響は微弱であり、両称呼は、全体として
語調、語感が極めて近似していると認められる。そして、上記のとおり、両商標と
も、特定の観念のない造語として認識され、称呼されることも多いことから、これ
に接する一般的な需要者が両称呼上の上記の程度の差異には注意が及ばず、両商標
は相紛れるおそれがあると認められ、特に、時と所を異にして称呼され、聴覚され
る場合にはその傾向が強いものということができる。
 このように、両商標の称呼上の類似性は高いことが認められる。
  (2) 観念について
 両商標は、上記のとおり、これに接する需要者に特定の観念を有しない造語とし
て認識される場合も多いと認められる。
 したがって、両商標は、観念において類似するものということはできないが、逆
に観念上の明確な差異を有するものとはいえず、この点が両商標の類似性を否定す
る要素として重視されるべきではないと認められる。
  (3) 外観について
 上記のとおり、両商標は、その指定商品中の目立たないような位置に小さく表示
されることが少なくないと認められるところ、引用商標「BOB LEE」の文字
の構成において「BOB」と「LEE」との間隔はさほど大きいものではない。そ
して、本願商標と引用商標は、いずれも欧文字の大文字より構成され、需要者の印
象に残りやすい前半部分において「BOB」の3文字を共通にするばかりでなく、
後半部分において同じく「L」の文字を含んでいる。
 したがって、その需要者である一般的な消費者は、特に、時と所を異にしてこれ
に接した場合に、両商標が上記のとおり、称呼が極めて近似しており、また、観念
上明確な差異を有しないこともあって、両商標の欧文字を正確に記憶することな
く、その綴り文字上の差異に注意が及ばないまま、称呼による音感を頼りに商品を
識別する場合が少なくないであろうと推認することができ、両商標につき混同をき
たすおそれがあることを否定することはできない。
 このように、両商標は、外観において明らかに異なるものとして看取されて記
憶、印象づけられ、想起される構成を具備しているとみることはできず、外観上の
差異が両商標の類否を検討するうえで大きな影響を及ぼすものとみることはできな
い。
  (4) 総合判断
 以上判示の本願商標及び引用商標の称呼、観念、外観によって両商標の指定商品
の需要者に与える印象、記憶、連想等を、取引の実情を併せて総合して判断する
と、両商標の称呼上の類似性は高いのに比べ、観念、外観上の差異は微弱であると
認められ、両商標に接した需要者は、その出所について誤認混同するおそれが十分
にあるものと認められる。
 審決は、本願商標と引用商標の類否を検討するに当たり、両称呼上の近似性が高
いことから、その観念、外観を考慮しても類似性を肯定することができると判断し
たものであり、この判断は正当なものとして是認することができる。
  (5) 原告の主張について
 原告は、審決中の「称呼が重要視される口頭、電話等による取引にあって、彼此
聴き誤られるあるおそれがある」との判断について、判決例を挙げて失当である旨
主張している。
 しかしながら、本願商標と引用商標は、いずれも文字からなる商標であり、称呼
されることが前提とされているものであるところ、前判示のとおり、本願商標及び
引用商標の指定商品は広範囲に及んでおり、これらの取引においては、対面取引の
ほかにも電話などによる隔地間取引がなされる場合も否定することができない。そ
して、これらの対面取引や電話等による口頭の取引では、商標の称呼をもって商品
を特定することになり、このような場合、前判示のとおり、称呼において極めて近
似する両商標は、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがあるものと認められるの
であるから、原告指摘の審決の理由部分が誤りであるということはできない。
4 総括
 以上によれば、本願商標は、引用商標と類似しており、かつ、その指定商品も引
用商標と同一又は類似するものであるから、本願商標が商標法4条1項11号に該
当するとして、登録することができないとした審決の判断に誤りはない。 
5 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はすべて理由がなく、その他審決にはこ
れを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 橋  本  英  史
別紙     別表 (訴状添付のもの)

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