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裁判例


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○ 主文
一 被告が、平成元年一〇月一六日にした、同年五月二八日施行の沖縄県宮古郡城
辺町長選挙の効力に関する原告らの審査申立てを棄却する旨の裁決を取り消す。
二 右選挙を無効とする。
三 訴訟費用中、補助参加によって生じた分は補助参加人の負担とし、その余の分
は被告の負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 原告ら
主文同旨
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 主張
一 請求原因
1 平成元年五月二八日、沖縄県宮古郡城辺町長選挙(以下「本件選挙」とい
う。)が施行され、投票総数六、〇六〇票のうち有効投票数は六、〇〇七票であ
り、A候補が三、〇二六票を、B候補が二、九八一票を各得票し、A候補が四五票
差で当選とされた。
原告らは、本件選挙の選挙人である。
2 原告らは、本件選挙の効力につき、城辺町選挙管理委員会(以下「町選管」と
いう。)に対し異議の申出をしたが、町選管はこれを棄却したので、被告に対し同
年七月二八日本件選挙の無効を主張して審査の申立てをしたところ、被告は、同年
一〇月一六日、原告らの申立てを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)
をし、その裁決書は同日原告ら代理人に交付された。
3 しかし、本件選挙は、次の理由で無効であり、本件裁決は取り消されるべきで
ある。
(一) 不在者投票場所の設営・管理に関する違法
(1) 本件選挙における不在者投票(以下「本件不在者投票」という。)は、平
成元年五月二三日から同月二七日までの五日間、城辺町役場内にある町選管の部屋
(以下「本件不在者投票場所」という。)において実施されたが、同月二三日と二
四日の両日には、本件不在者投票場所において選挙人名簿の縦覧も実施された。
ところで、本件不在者投票場所は、わずか一五ないし一六坪ほどの狭い部屋であ
る。別紙図面のように、選挙人名簿縦覧場所には、長さ一八〇センチメートル、幅
四五センチメートルの机とその周囲に六個の椅子が置かれていたが、投票記載台
(別紙図面の(5)と記載された位置、以下、別紙図面に示す位置関係は、○で囲
んだ数字で表示する。)とは約四メートル、投票受付(3)まではわずか三メート
ルしか離れていなかった。
二 三日と二四日の両日は、多数の運動員が選挙人名簿の縦覧という名目で本件不
在者投票場所に入っていた。そして、右運動員らは、縦覧とはほとんど名目だけの
もので、二〇ないし三〇分も本件不在者投票場所に滞留して、不在者投票の様子を
観察していた。
(2) また、不在者投票をする選挙人には、ほとんどすべて付添人と称する者が
ついてきて、本件不在者投票場所まで入り込み、選挙人が投票を終えるまで本件不
在者投票場所(別紙図面の斜線部分)に滞留していた。
さらに、縦覧期間が終わってからも、多数の付添人らが本件不在者投票場所内に滞
留し混乱している中にあって、選挙人でも付添人でもない候補者の運動員たちが、
投票の様子を監視するため、不在者投票場所へ自由に出入りしていた。
(3) 本件不在者投票場所には、選挙人以外の者が常時多数(二〇名以上)、し
かも、別紙図面斜線部分に示すとおり狭い場所に滞留していたため、本件不在者投
票場所内は非常に混雑、混乱した状況にあった。このように混乱しかつ候補者の運
動員が縦覧という名目で不在者投票場所内に入り込み、選挙人の投票行動を監視し
ているという状況の下では、選挙人の自由な意思に基づく投票は到底不可能であっ
た。
そして、投票管理者は、二四日午後三時ころと二五日午後三時ころの二回にわたっ
て、宮古警察署に警察官の出動を要請しなければならなかった。このことは、投票
管理者だけでは十分な投票管理が不可能であった何よりの証左である。
(4) かかる混乱を招いたのは、まず、本件不在者投票場所と選挙人名簿縦覧場
所とを同一の狭い部屋に設営して、選挙人以外の者の立入りを可能にしたこと、及
び付添人なる者の本件不在者投票場所への立入りを投票管理者が排除しなかったこ
とにある。したがって、本件不在者投票場所の設営及び管理には、重大な瑕疵があ
ったというべきであり、選挙人の自由な意思に基づく投票及び投票の秘密が保障さ
れないまま、不在者投票を実施した違法は重大である。
よって、二三日から二七日の間に投票された不在者投票三四〇票は無効というべき
であり、特に選挙人名簿縦覧期間中(二三、二四日の両日)に投票された九六票は
無効であることを免れないから、これらの違法が本件選挙の結果に異動を及ぼすこ
とは明らかである。
(二) 不在者投票事由を具備しないのにこれを認めた違法
(1) 本件不在者投票の数は、五月二三日から二七日までの順に、二四票、七二
票、七九票、九一票、七四票の合計三四〇票であり、投票総数の約六パーセントに
当たる。
不在者投票事由は、すべて何らかの旅行であったが、ほとんどが個人的な旅行であ
る。しかも、すべて沖縄本島か八重山への飛行機による旅行であって、疎明資料と
して航空券が添付されていた。
(2) 不在者投票は、選挙人が選挙の当日、投票所において投票を行うという原
則に対し、選挙の期日前に投票をさせる例外的な制度であるから、その手続は厳格
に行われなければならない。単なる個人的な旅行などは、選挙当日以外にその日程
を変更することが著しく困難であるなどのやむを得ない事情がある場合でなけれ
ば、公職選挙法(以下「法」という。)四九条一項二号にいう「やむを得ない事
情」に該当しないというべきである。
本件不在者投票のほとんどは、選挙当日以外にその日程を変更することが著しく困
難であるとは到底認められないのに、不在者投票を認めたのは違法というべきであ
り、これらの投票は無効である。
(3) 町選管は、A及びBの両候補者陣営に不在者投票宣誓書用紙(以下「宣誓
書用紙」という。)をあらかじめ交付していた。両候補者陣営の選挙対策本部(以
下「選対」という。)では、交付された宣誓書用紙に不在者投票事由などを書き入
れた上、これを付添人に持たせて選挙人に不在者投票をさせていた。宣誓書が各選
対で記入されたものであることは、非常に似通った筆跡で書かれているものが多い
こと、及び町選管が用意した宣誓書用紙ではなく、各選対でコピーした宣誓書用紙
(裏面が存在しないし、またスタンプの部分が明らかにコピーである。)を使用し
ているという事実からして明白である。
また、本件不在者投票の申請者は、高齢者が非常に多く、一見して、一人で旅行す
ることなど全く不可能であると認められる場合にも、疎明資料には航空券が添付さ
れ、付添人は家族ではなく運動員である事例が圧倒的に多かった。にもかかわら
ず、投票管理者は、具体的な旅行目的や誰と旅行するのかなど質問し直すことはな
く、宣誓書で不在者投票を認めた。
投票管理者は、運動員が付添人として選挙人を不在者投票に連れてきていることは
明白であるから、不在者投票事由が真実存在するかどうかを慎重に問いただす義務
があるにもかかわらず、不在者投票宣誓書により、安易に不在者投票を認めた手続
には違法がある。
(4) 以上を総合すれば、本件不在者投票を認めた手続には著しい違法があり、
選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることは明らかである。
(三) 代理投票事由を具備しないのにこれを認めた違法
(1) 本件不在者投票における代理投票(以下「本件代理投票」という。)の数
は、五月二三日から二七日までの順に、一〇票、四六票、五一票、七〇票、四七票
の合計二二四票で、不在者投票総数三四〇票の約六六パーセントに及んでいる。
(2) 本件不在者投票をした三四〇人の選挙人を出生年代別に区分し、不在者投
票数に対する文盲を理由とする代理投票数の比率をみると、明治生まれでは一四三
人中一二二人、大正生まれは九七人中六四人、昭和戦前生まれでは四二人中一六
人、昭和戦後生まれは五八人中八人となっている。代理投票事由の『文盲』とは、
平仮名も片仮名も全く知らず、投票すべき候補者の名前を自分では投票用紙に記載
できない程度の完全な文盲でなければならない。そうだとすれば、明治生まれでは
八五パーセント、大正生まれは六六パーセント、昭和戦前生まれは三八パーセン
ト、昭和戦後生まれにおいても約一二パーセントの人が『文盲』として代理投票が
認められているというのは理解しがたい。このような不在者投票者における文盲者
の異常な高率、更に昭和四二年生まれの者まで文盲者と認められていることなどを
考え合わせると、本件不在者投票において、投票管理者は、代理投票申請者に対
し、申請さえあれば何の審査もせずに代理投票を認めていたという本件選挙におけ
る代理投票の実態をいみじくも物語るものである。
代理投票事由は、五月二五日までの申請はすべて「文盲」であり、二六日、二七日
になって、「盲目」、「身体の不自由」という事由が六、七の合計一三が認められ
るにすぎない。ただし、一三という数は代理投票処理簿の記載によるものである
が、不在者投票請求書・宣誓書に添付されている代理投票申請書によれば、その数
は一六となる。すなわち、代理投票申請書では、二六日に投票をしたCは「身体の
故障」、二七日に投票をしたDは「身体の不自由」、Eは「目の不自由」とそれぞ
れ代理投票事由が記載されているにもかかわらず、代理投票処理簿にはこの三名と
も「文盲」として処理されている。
(3) かかる代理投票の申請も、必ずしも選挙人本人がしたわけではない。付添
人が単に「代筆」とか、「字が書けない」と申し出た場合でも、受付で勝手に代理
投票申請書に「文盲」と書き入れていた。そして、投票管理者が申請者に対し、代
理投票事由を質問し直すことは全くなく、申請のとおり代理投票が認められ、時に
は、選挙人が代理投票の申請をしない場合でも、投票管理者の方から投票補助者で
あるFに対して、代理投票にした方がよいと命じて代理投票にさせたことすらあ
る。
代理投票は、投票管理者において、代理投票事由が存在するかどうかを厳格に審査
した上で認められるべきものであり、もし、代理投票事由について明らかでない場
合には、投票管理者は、申請人に合理的な説明を求めるなどしなければならない。
ところが、本件代理投票においては、投票管理者は申請者の申請のまま代理投票を
認め、本件不在者投票の約六六パーセントが代理投票によって行われた。いくら不
在者投票者に高齢者が多いといっても、異常なことといわざるをえない。このよう
に、代理投票が異常に高率な場合には、代理投票事由を具備していない者が代理投
票を申請しているということを容易に知りうるのであるから、投票管理者として
は、申請書の形式的な審査だけではなく、真実申請者が代理投票の要件を具備して
いるのかどうか実質的な審査をする義務があるというべきである。にもかかわら
ず、本件不在者投票においては、投票管理者は、申請のまま代理投票を認め、中に
は、代理投票の申請をしていない場合でも、投票管理者が投票補助者に対し、代理
投票にした方がよいと代理投票を命じたことさえある。
(4) 以上のように、本件代理投票は、これを認める際の法令上の手続が履践さ
れていない以上、合計二二四票は、違法な手続きによって投票された無効な投票と
いうべきであり、これが本件選挙の結果に異動を及ぼすことは明白である。
(四) 代理投票の際の管理の違法
(1) 身体の故障または文盲により、自ら当該選挙の候補者の氏名を記載するこ
とができない選挙人から代理投票の申請があった場合においては、投票管理者は、
投票立会人の意見を聴いて、当該選挙人の投票を補助すべきもの二人をその承諾を
得て定め、その一人に投票の記載をする場所において投票用紙に当該選挙人が指示
する候補者の氏名を記載させ、他の一人をこれに立ち会わせなければならない(法
四八条、同法施行令五六条三項)。もとより、投票補助者が選挙人の指示した候補
者名を正確に記載した旨を選挙人に読み聞かせる必要があるし、選挙人の投票補助
者への指示及び投票補助者の記載の際には投票の秘密が保持されなければならな
い。したがって、選挙人の投票補助者への指示及び投票補助者の記載は、投票記載
場所においてなされなければならないと法令が明確に定めているのである。
(2) 本件不在者投票場所における代理投票の実情は次のとおりである。
まず、不在者投票場所に入ってきた選挙人は、(6)の受付で不在者投票及び代理
投票の申請をする。混み合っている場合は、別紙図面の斜線部辺りで順番を待つ。
投票の順番がくると、選挙人は再び(6)の受付の前まで行って椅子に座る。ほと
んどすべての付添人も(6)の位置まで選挙人と一緒に行き、選挙人の横あるいは
後ろに立つ。
受付のFは、(6)付近で椅子に座っている選挙人のところに行き、その場所で
(投票記載場所ではない。)投票すべき候補者名の指示を受けるが、指示の方法
は、ほとんどが選挙用名刺(以下「名刺」という。)による指示であった(なお、
両候補者の名刺は、一方は黄色で他方は緑であり、一見してその判別は明白であっ
た。)。その際、選挙人のすぐ横あるいは後ろに立っていた付添人は、選挙人によ
る指示を見ていた。また、(6)のすぐ後ろの別紙図面斜線部には順番を待つ選挙
人とその付添人及びその他の者が二〇人内外いた。
(6) 付近で指示を受けたFは、選挙人を(6)付近に残したまま、一人で
(5)の投票記載場所まで行って投票用紙に指示された候補者の氏名を記載する。
その際、投票立会人G、Hの両名が投票補助者としてFによる記載に立ち会う。そ
して、選挙人には記載した候補者名を読み聞かせるなどの確認行為は一切せずに、
Fは(3)の位置で封をして、投票箱に投函する。
なお、選挙人によるFに対する候補者名の指示は、ほとんどが(6)付近でなされ
たが、身体の不自由そうな選挙人の場合には、選挙人が投票の順番を待っために座
っている本件不在者投票場所の入口付近(そこは周囲に他の選挙人や付添人が多数
滞留しているところである。)までFが赴き、その場所で指示を受けたことすらあ
る。Fは、(5)の投票記載場所で指示を受けたことは一度もない。
(3) 以上のように、選挙人の投票補助者であるFに対する指示は、(6)の位
置、すなわち、投票管理者の面前でなされ、かつ選挙人がFに指示するときには、
その選挙人の横あるいは後ろには付添人が立って選挙人の指示内容を見ているので
ある。そして、これらの者には、選挙人の指示内容が明らかとなるのはいうまでも
なく、付添人が両陣営の運動員である例が圧倒的に多いことから考えれば、選挙人
の指示は、すべて運動員の監視下になされたと評価すべきであって、このような状
況の下では、選挙人の自由な意思に基づく投票は不可能であったと考えるべきであ
る。
(4) 法は、選挙人の投票補助者に対する指示は、投票記載場所において行われ
なければならないと明確に規定している。この規定を厳守することによって、はじ
めて選挙人の自由な意思に基づく投票及び投票の秘密が保持できるのである。
しかるに、本件代理投票においては、選挙人の投票補助者に対する指示は、正規の
投票記載場所ではなく、すべて、投票管理者や付添人及び他の選挙人の面前で行わ
れたのであるから、法四八条、法施行令五六条三項に明らかに違反し、選挙人の自
由な意思に基づく投票及び投票の秘密が侵害されたまま投票されたものというべき
であって、本件代理投票二二四票はすべて無効であり、これが選挙の結果に影響を
及ぼすことは明白である。
(五) 選挙人名簿作成に関する違法
本件選挙においては、明らかに町内に居住せず、選挙権を有しえない多数の者が投
票し、逆に、町内に住居を有し、本来選挙権を行使しうるはずの者が、投票する権
利を与えられなかった。これらの総数は、四五票をはるかに越える。この原因は、
町選管による選挙人名簿作成の際の実態調査及び選挙人名簿の登録に関する異議申
出に対する決定の際の調査が不十分であったためである。
すなわち、これら選挙人の確定は、選挙の最も重要な手続の一つであり、選挙管理
委員会としては、十分に各部落を回って綿密な調査をする義務がある。しかるに、
本件選挙における調査は、全く形式的なものであった。例えば、普段はそこに居住
していない者でも、実態調査のときだけ住民票上の住所に帰ってきているという例
が多く(何者かによって、実態調査をする日時が漏れていたとしか考えられな
い。)、そのような場合でも選挙人と認定された。また、選挙人の確定について、
全く同じような条件の者でも、一方は選挙人と認められ、一方は認められないとい
う恣意的な取扱いが目立っていた。
本件選挙人名簿作成に関しては、その調査が不十分であっただけでなく、一方の候
補者に非常に有利になるように作成されたという意味で、不公平かつ恣意的なもの
であった。このような不十分かつ恣意的な手順によって確定された選挙人名簿の瑕
疵は、それに基づく本件選挙の結果に影響を及ぼすことは明白であるから、本件選
挙は、当然に無効を免れないというべきである。
4 本件選挙における異常とも思われる不在者投票の実態の背景には、宮古選挙と
いわれる買収選挙がある。以前より宮古の選挙には買収がつきものであった。そし
て、買収による投票が確実なのは、不在者投票とりわけ代理投票であるといわれて
いる。選挙人に対し金を渡して(つまり買収して)候補者への投票を依頼した場
合、その選挙人が実際に投票を依頼した候補者に投票しているかを確かめるのに一
番よい方法は、投票所内ないし投票所に入る直前に選挙人に候補者の名刺を手渡
し、選挙人がその名刺を投票補助者に渡しているかを自分の目で監視し確かめるこ
とである。そのため、本件選挙では不在者投票事由がないにもかかわらず、航空券
などを手配して選挙人に不在者投票をさせ、さらに、自分で字が書けるのに、文盲
であるとして名刺による代理投票をさせた結果、不在者投票及び代理投票(特に代
理投票率六六パーセント)が異常なほど高率となったのである。本件選挙における
不在者投票は、まさしく買収選挙そのものである。
以上のように、本件不在者投票、本件代理投票は、明らかに選挙規定に違反する投
票の管理の違法があり、このような違法な手続によってなされた投票は無効である
から、本件選挙のA、B両候補の得票差(四五票)からすれば、右の投票の管理執
行の違法が、いずれも選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に当たることは
明らかである。
よって、原告らは、本件裁決を取り消した上、本件選挙を無効とする旨の判決を求
める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2の事実はいずれも認める。
2 (1)請求原因3(一)の(1)の事実のうち、本件不在者投票場所及び選挙
人名簿縦覧場所の設営の状況は別紙図面のとおりであったこと、五月二三日と二四
日の両日には選挙人名簿縦覧と本件不在者投票が城辺町役場内にある本件不在者投
票場所において実施されたこと、二三日と二四日の両日は、選挙人名簿を縦覧する
者が本件不在者投票の模様を観察していたことは認め、その余は否認する。
請求原因3(一)の(2)、(3)の事実のうち、本件不在者投票場所に選挙人以
外の者が常時二〇名以上滞留していたこと、そのため本件不在者投票場所が非常に
混乱した状況となっていたこと、候補者の運動員が選挙人の投票行動を監視し、選
挙人の自由な意思に基づく投票が行われなかったこと、選挙人の自由な意志に基づ
く投票及び投票の秘密が保障されないまま本件不在者投票を実施したとの事実はい
ずれも否認し、五月二四日午後三時ころ、宮古警察署に警察官の出動を要請した事
実は認める。これは、本件不在者投票場所及び選挙人名簿縦覧場所の周辺の整備の
ためであり、両候補者の選対事務所へも連絡して町選管へ来てもらい整理したもの
である。
請求原因3(一)の(4)のうち、二三日から二七日までの間に投票された本件不
在者投票、特に選挙人名簿縦覧期間中の投票は無効であるとの主張は争う。法五八
条の規定は、投票当日における投票所についてのみ適用があり、不在者投票場所に
は適用がない。二〇名余の室内滞留者が本件不在者投票をした選挙人に対し、自由
意思による投票に影響を与えるような言動をした事実は認められない以上、本件不
在者投票場所の設営、管理に関する違法があったとすることはできない。
(2) 請求原因3(二)の(1)の事実は認める。同(二)の(2)の主張は争
う。同(二)の(3)のうち、不在者投票宣誓書のまま安易に不在者投票事由を認
めたとの点は否認し、その余の主張は争う。町選管職員は、不在者投票申請書に記
載された不在者投票事由につき、宣誓書の記載を補充すべく詳細な説明を求めてお
り、かつ、疎明資料として航空券が添付されているのであるから、漫然と不在者投
票事由を認めたということはない。同(二)の(4)の主張は争う。
(3) 請求原因3(三)の(1)の事実は認める。同(三)の(2)の事実のう
ち、代理投票事由のほとんどが「文盲」であることは認めるが、「文盲」が多かっ
たことを理由に、代理投票事由の審査が杜撰であったということにはならない。
請求原因3(三)の(3)のうち、本件不在者投票において、投票管理者は本件代
理投票の申請に対して申請どおり代理投票を認め、代理投票事由が存在するかどう
か審査しないで代理投票をさせたこと及び代理投票の申請をしていない場合でも、
投票管理者が投票補助者に対し、代理投票にした方がよいと言って代理投票を命じ
たとの事実はいずれも否認する。投票管理者は、申請人に代理投票事由を十分確認
した上で代理投票手続をとっている。
請求原因3(三)の(4)の主張は争う。
(4) 請求原因3(四)の(1)ないし(3)のうち、本件代理投票において選
挙人による候補者名の指示が投票記載場所で行われなかったことは認めるが、投票
補助者が選挙人から右の指示を受けた場所が(6)の位置であったことは否認す
る。指示を受けた場所は、その九〇パーセントが(7)の位置であった。
請求原因3(四)の(4)の主張は争う。
(5) 請求原因3(五)のうち、町選管による、選挙人名簿へ登録する際の実態
調査及び選挙人名簿の登録に関する異議申出に対し決定する際の調査が不十分であ
ったため、明らかに町内に居住しない者が多数投票し、逆に現に町内に移住してい
るにもかかわらず、投票する権利が与えられなかった者が多数いたとの事実は否認
する。
町選管は、法定の選挙人名簿の縦覧を平成元年五月二三、二四日の両日行い、異議
申出のあった八八件については既に調査済のものを除いてすべて実地調査を行い、
調査の結果二〇件については名簿登録をなし、一九件については名簿から抹消し、
四九件については異議理由なしとして却下しているのであって、選挙人名簿の作成
に違法は存しない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、請求原因3(選挙無効の理由)について判断する。
1 平成元年五月二三日と二四日の両日には、選挙人名簿の縦覧と本件不在者投票
が城辺町役場内にある本件不在者投票場所において実施されたこと、本件不在者投
票場所及び同所内の選挙人名簿縦覧場所の設営状況が別紙図面のとおりであったこ
と、二三、二四日の両日は、選挙人名簿を縦覧する者が本件不在者投票の模様を観
察していたこと、町選管は、五月二四日午後三時ころ、宮古警察署に警察官の出動
を要請したこと、本件不在者投票の数は、五月二三日から二七日までの順に、二四
票、七二票、七九票、九一票、七四票の合計三四〇票であり、投票総数の約六パー
セントであること、不在者投票事由は、すべてが何らかの個人的な旅行であり、沖
縄本島か八重山への航空機による旅行であって、疎明資料として航空券が添付され
ていたこと、本件代理投票の数は、五月二三日から二七日までの順に、一〇票、四
六票、五一票、七〇票、四七票の合計二二四票で、本件不在者投票総数の約六六パ
ーセントであること、代理投票事由のほとんどが「文盲」であること、及び本件代
表投票において選挙人による候補者名の指示が投票記載場所で行われなかったこ
と、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2 いずれも成立に争いのない甲第三号証、第六号証の一ないし三三、第七号証の
一ないし一一七、第八号証の一ないし一三〇、第九号証の一ないし一六一、第一〇
号証の一ないし一二二、第一一号証(原本の存在とも)、第一二号証の一ないし
四、第一四号証、第一五号証、乙第一、第二号証、証人F、同I、同J、同K、同
L、同M、同N、同O、同P(後記採用しない部分を除く。)、同Q(後記採用し
ない部分を除く。)の各証言、原告R本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合する
と、次の事実が認められる。
(一) 本件不在者投票場所の投票管理者は町選管委員長Qであり、投票管理者の
職務代行者はP、投票立会人は町選管の委員であるG、同H、不在者投票事務担当
者はF、Iであった。なお、Jも五月二四日午前九時から一〇時までと同月二五日
午後二時から四時ころまでの間、本件不在者投票の事務を手伝った。
本件不在者投票場所及び選挙人名簿縦覧場所の設営状況は、別紙図面のとおりであ
った(この事実は、当事者間に争いがない。)が、同図面の受付と記載されている
○印の北側はF、南側はI、投票管理者と記載されている場所はQ、職務代行者と
記載されている場所はP、委員と記載されている〇印の北側はG、南側はHの席で
あった。
なお、Fは、建設会社に事務員として勤務していたところ、平成元年五月一八日か
ら六月七日まで町選管の臨時職員として採用された者で、これまでに不在者投票事
務や代理投票補助者としての事務を担当した経験は全くなかった。そして、五月二
三日の前夜、町選管職員から不在者投票事務を担当するよう命じられた。Iは、家
事手伝いをしていたところ、平成元年四月一日から同年六月七日まで城辺町役場に
勤務し、四月一〇日から町選管の仕事に従事していたが、同人も五月二三日の前
夜、町選管職員から不在者投票事務を担当するよう命じられた。
(二) 五月二三日から二七日までの本件不在者投票及び本件代理投票は、次のよ
うな手順及び状況の下で行われた。
(1) 不在者投票をしようとする選挙人は、別紙図面の会議室入口から本件不在
者投票場所に入室する。本件不在者投票をする選挙人のうち、代理投票を請求する
者には、たいてい付添人が付いて来ており、付添人のほとんどの者は本件選挙の運
動員又は運動員から依頼を受けた親族等であった。
選挙人は、(6)の場所で受付係(Fら)に入場券と航空券又は乗船切符及び印鑑
を提出する。Fらは、入場券を選挙人名簿と対照して登録者であることを確認した
上、選挙人に不在者投票事由を尋ねるが、大方は付添人が答えるので、その事由を
宣誓書に記載していた。宣誓書の中には、選挙人があらかじめ準備してきたものも
あった。宣誓書が作成されると、Fらは、選挙人に対し自分で投票するかそれとも
代理投票かを確認し、選挙人が自分で投票をする旨述べると、宣誓書と航空券又は
乗船切符等を投票管理者のところへ回し、選挙人は、そこで投票用紙の交付を受
け、(5)(投票記載台)へ行って投票用紙に記載して(4)の投票箱に投函す
る。
(2) 代理投票の場合、選挙人が代理投票の請求をする前に、付添人が口出しを
して代理投票にすることが多かった。Fらは、「代理投票にしてくれ。」とか「字
が書けない。」と言われると、城辺町長・議会議員補欠選挙代理投票申請書の代理
投票の理由には「文盲」(Fは、すべて「文盲」と記載した。)、「身体の不自
由」、「身体の故障」等と記載し、これを投票管理者へ回す。
(3) 本件不在者投票場所が混み合っている場合には、選挙人は、(1)(縦覧
場所)付近で待ち、自分の順番が来ると(6)(受付の前方)付近の椅子に座る
が、ほとんどの場合には、付添人が選挙人の傍らに立っていた。そして、選挙人
は、前記同様の方法で不在者投票、代理投票の申請手続をする。受付のFは、職務
代行者から「代筆しなさい。」との指示を受けると、受付事務を中断して、選挙人
のところへ行き名刺をもらう。
(4) A候補のシンボルカラーは緑色で、
B候補のそれは黄色であった。
本件選挙のために使用された名刺は、A候補のものは縦約九・二センチメートル、
横約六センチメートルで、表面の上三分の二は薄いブルー地に同候補の上半身の写
真がカラーで印刷され、その右側には大きく縦書きで「カツ」と赤色で表示されて
いる。そして、下三分の一辺りには、白抜きで「町政に新風を!」と記載のある幅
約一センチメートルのグリーンの横線が入っており、その下は白地に緑色で
「A」、赤色で電話番号がそれぞれ印刷されている。裏面には、同候補の略歴が小
さい活字で横書きに印刷され、その下に薄い赤地に黒色で「A後援会」等の記載が
ある。他方、B候補のものは、縦約九センチメートル、横約五・五センチメートル
で、表面の上半分には濃いブルー地に同候補の上半身の写真がカラーで印刷され、
下半分大は全体に黄色地であるが、その上部には縦約〇・六センチメートル、横約
五センチメートルの枠で囲んだ白地の部分に緑色で「城辺町長選挙予定候補」と記
載され、その下に赤色で大きく「B」と横書きに表示されている。そして、裏面の
上部には「Bのあゆみ」とブルーで印刷され、その下に同候補の略歴等が横書きで
小さく黒字で記載されている。両候補の名刺は、大きさでは類似しているものの、
表面の色合いや大きく片仮名で印刷された名前により、また、裏面も色合い等か
ら、一見してどちらの候補のものか本件選挙に関心をもつ者ならば三ないし四メー
トルの距離からも判別できる。なお、本件選挙と同時に施行された城辺町議会議員
選挙の二人の候補者の名刺とも一見して区別し得るものであった。
(5) Fは、名刺を受け取るという方法で、選挙人から候補者名の指示を受けて
いたが(本件代理投票において、Fが選挙人から口頭で候補者名の指示を受けたの
は数名に過ぎない。)、Fが名刺を預かった場所は、主として、(6)又は(7)
付近であり、身体が不自由と思われる選挙人の場所には、選挙人が投票の順番を待
っている(1)に近い場所で受け取ったこともあった。(7)付近は、投票管理者
らの席のすぐ前で、投票管理者らが特別の姿勢をとらなくても、選挙人の差し出す
名刺がよく見える位置であった。そして、選挙人は、付添人から渡されていた名刺
をバックやポケットから取り出し、Fに差し出す際、
付添人をはじめ他の者に見られないように格別の配慮をしていなかった。
とくに、五月二三日と二四日午後三時ころまでは、本件不在者投票場所の別紙図面
の斜線部分には、選挙人名簿の縦覧に来た者や選挙人とその付添人、運動員らが詰
めかけ、本件不在者投票の様子を見守っており、その人数は、多いときには二〇人
前後にも達した。
(6) Fは、選挙人から名刺を預かると、(3)で職務代行者から投票用紙を受
け取り、(5)(投票記載台)の場所で投票用紙に指示された候補者名を記載して
いた。以前、宮古では、代理投票について選挙人の指示したとおりの候補者名が記
載されていないのではないかとの疑惑をもたれたことがあったので、G、Hの両名
は、投票立会人であったにもかかわらず、投票補助者としてFの右記載に立ち会っ
た。そして、(3)の場所で封をして(4)の投票箱に投函する。
本件不在者投票の期間を通じて、Fが代理投票の投票補助者であったが、同人は、
(5)(投票記載台)の場所で選挙人から候補者名の指示を受けたことは一度もな
かった(この事実は、当事者間に争いがない。)。以上のような手順及び状況の下
で、本件不在者投票及び本件代理投票が行われた。
(三) 本件代理投票のすべてではないにしても、少なくともその相当数について
は、選挙人が代理投票補助者であるFに候補者の名刺を渡す際、選挙運動員(又は
これらの者から依頼を受けた親族等)である付添人らによって、右名刺を現認され
ており、選挙人が候補者名を指示するに当たり、秘密が守られていなかった。その
状況は、次のとおりであった。
(1) B派の選挙運動員であるKは、五月二三日午前一〇時三〇分ころ、選挙人
名簿を縦覧するため、本件不在者投票場所へ行った際、(6)と(7)付近で、二
人の選挙人がFに対し、A候補の名刺を渡すのを見た。また、Kは、翌二四日午前
一〇時三〇分ころ、叔母Sに付き添って代理投票をさせたが、同人が(6)(受付
の前方)付近で、あらかじめKから渡されていた候補者の名刺をFに手渡すのを見
た。
B派の運動員Lは、五月二五日午後一時ころ、友人のTに付き添って本件不在者投
票場所へ行き、Tが(7)付近であらかじめLから渡されていた候補者の名刺をポ
ケットから取り出そうとしたが、なかなか取り出せなかったので、LにおいてTの
ポケットから出してやり、これをFに渡した。Lは、同日(7)付近で、他の四人
の選挙人がFに対し、B候補の名刺三枚、A候補の名刺一枚をそれぞれ差し出して
いるのを見た。
B派の運動員から依頼を受けたMは、五月二六日午後一時ころ、代理投票をさせる
ため近所のUに付き添い、Uが(7)付近でFに名刺を差し出すのを傍らで見てい
た。また、その前に、二人の選挙人がA候補の名刺を渡すのを見た。さらに、M
は、五月二七日午前一〇時ころにも、Vに代理投票をさせるために付き添い、あら
かじめ渡されていた候補者の名刺を、Vが(7)付近で差し出しているのを見た。
B候補の運動員から依頼を受けたNは、五月二三日午後二時ころ、WとXに代理投
票をさせるため、両名に付き添って本件不在者投票場所に赴き、Nにおいて代理投
票の申請手続を済ませた上、W及びXが(6)付近でFに対し、あらかじめNから
渡されていた候補者の名刺を差し出すのを傍らで見ていた。また、Nは、右代理投
票の手続を待つ間に、他の選挙人が(6)付近でFにA候補の名刺を手渡すのを見
た。さらに、五月二四日午後一時三〇分ころ、Yに付き添って代理投票をさせた
が、その際、Yが(6)付近でFに対し、あらかじめNから渡されていた候補者の
名刺を差し出すのを傍らで見ていた。
B派の運動員Oは、五月二五日午前九時ころ、祖父Z、祖母P1の二人に代理投票
をさせるため、両名を(1)(縦覧場所)付近の椅子に座らせ、自らは(6)で代
理投票の申請手続をする際、Fに対し候補者の名刺を差し出した。さらに、Oは、
翌二六日午前一〇時から一一時の間、P2、P3の両名に代理投票をさせるために
付き添い、右両名が(6)付近でFに対し、あらかじめOから渡されていた候補者
の名刺を差し出すのを見た。
(2) B候補の選対副本部長で不在者投票対策の責任者であった原告Rは、五月
二四日午前一〇時ころ、不在者投票の状況を見るため、本件不在者投票場所に行っ
たところ、その周辺には両候補の運動員らが四、五〇人もたむろしていた。本件不
在者投票場所に入り、(1)(縦覧場所のテーブル)の南側辺りで本件不在者投票
の様子を眺めていると、(7)付近で選挙人のすぐ後ろに立っていた付添人がA候
補の名刺を出してFに渡すのを見た。そこで、原告Rは、(7)の東側辺りまで進
み出て、投票管理者Qに対し、「秘密であるべき選挙で、秘密保持が守られていな
いではないか。こういう状況で選挙をやるのか。」と抗議をしたところ、職務代行
者のPは、「好ましい状態ではない。」と答え、投票管理者のQからは、外で説明
すると言われた。原告Rは、本件不在者投票場所の外で、投票管理者Qに対し、室
内にいる部外者を外に出すよう要求したが、Qは、「出て行くように言っているが
聞いてくれない。」と説明していた。
(3) 町選管は、本件不在者投票につき多少の混雑が予想されたので、五月二二
日書面で宮古警察署に協力依頼をするとともに、町選管のQ委員長とG委員は、事
前にB、A両候補の後援会事務所に出向き混乱が起きないよう協力を要請していた
が、本件不在者投票の期間中、本件不在者投票場所は混雑することが多かった。と
くに、選挙人名簿の縦覧と重複していた五月二三、二四日の両日は、名簿縦覧者、
選挙人と付添人、その他運動員らが詰めかけ、約五一平方メートルのさほど広くな
い本件不在者投票場所は混雑していた。そして、投票管理者は、付添人や運動員ら
に対し室外に退去するよう求めたが聞き入れられなかったので、ついに五月二四日
午後三時ころ、警察官の出動を要請し、併せて両候補の選対の責任者を呼び整理に
努めた結果、ようやく本件不在者投票場所内外にいた運動員らは退散した。
五月二五日以降は、本件不在者投票場所が選挙人や付添人らで混雑することもあっ
たが、二三、二四日ほどのことはなかった。それでも、本件不在者投票場所に滞留
する付添人らは、投票管理者らから用のない者は外に出るよう求められると、その
場は一旦室外へ出るが、しばらくすると再び戻って来るという状態を繰り返した。
(4) ところで、証人P、同Qは、五月二四日午後三時以降は、付添人らに対し
すべて本件不在者投票場所の外で待機するよう要請し、これが守られていたので、
本件不在者投票場所が混雑したことはなかったと証言する。しかし、証人F、同I
の各証言によれば、本件代理投票を申請する選挙人には、たいてい付添人が付き添
っており、二五日以降も本件不在者投票場所の混雑は、それ以前とさほど変わりは
なく、また、投票管理者らが付添人らに対し、外へ出るよう要請しても、しばらく
すると再び入室して来るということの繰返しであったことが認められ、証人L、同
Mの各証言によれば、Lは五月二五、二六日、Mは同月二六、二七日にそれぞれ代
理投票をする選挙人のそばに付き添い、選挙人が候補者の名刺をFに渡すのを確認
していたことが認められる。以上の事実に照らすと、五月二五日以降も、付添人ら
は、本件不在者投票場所に滞留していたものと推認されるから、これらの者が本件
不在者投票場所の外で待機していたという証人P、同Qの証言は採用することがで
きない。
さらに、証人P、同Qは、本件不在者投票期間を通じて、選挙人から名刺を受け取
る際には、他人に見られないようFに指導していたし、現実にもそのように行われ
ていた旨証言する。なるほど、証人Fも、名刺を受け取る際には、他人から見られ
ないようにと投票管理者から指示されていたし、両手の掌に挟んで見えないように
していたと証言するが、それは、混んでいる所に行って名刺をもらうようなときに
は、名刺が見られないように受け取っていたというものであって、Fも常にそのよ
うな取扱いをしていたとまでは述べていない。また、証人Q、同P4は、選挙人も
周囲の人たちに分からないように掌で名刺を覆ってFに渡していた旨証言するが、
証人P4は、同人の父親についてのみ証言するにすぎず、証人Fの証言によれば、
選挙人ではなく付添人が名刺を差し出す場合さえあり、選挙人がFに手渡す場合で
も、その場で付添人から名刺をもらって差し出すこともあったが、通常、選挙人
は、バッグやポケットから名刺を取り出して裸のままFに渡していたことが認めら
れる上、前記二、(三)の(1)及び(2)で認定した事実に照らし、証人Qの右
証言は採用することができない。
(四) 以上の事実を認めることができ、右認定に反する証人P、同Q、同P5の
各証言は、前掲各証拠と対比して採用することができず、証人P4、同P6、同P
7の証言をもってしても、いまだ右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに
足りる証拠はない。
三 前記認定のとおり、五月二三、二四日の両日は、選挙人名簿の縦覧と本件不在
者投票が同じ場所で同時に行われたので、約五一平方メートルのさほど大きくない
本件不在者投票場所は、名簿縦覧者、選挙人と付添人、運動員らでかなり混雑し、
多いときには、二〇名前後の者が滞留して本件代理投票の様子を見守っていた。投
票管理者は、本件不在者投票場所に滞留する運動員らに対し、退去するよう命じた
が効果がなく、ついに五月二四日午後三時ころ、警察官の出動を要請するととも
に、両候補の選対の責任者を呼び、本件不在者投票場所内外の秩序維持に努めた。
しかし、五月二四日午後三時以降も本件不在者投票の期間を通じ、付添人らを本件
不在者投票場所の外に待機させるなどして、これらの者を完全に排除するというこ
とはなかった。そして、本件代理投票では、ほとんど総ての選挙人には、選挙運動
員又はこれらの者から依頼を受けた者が付添人として付き添い、かつ、選挙人によ
る候補者名の指示は、選挙人が代理投票補助者に対し候補者の名刺を差し出すとい
う方法でなされていたところ、本件代理投票のほとんどは、本件不在者投票場所に
滞留する付添人らによって、選挙人の差し出す候補者の名刺を現認されることによ
り投票内容が了知され、また、名刺が主として投票管理者らの席のすぐ前で投票補
助者に渡されていたことから、本件代理投票の内容が投票管理者らによって容易に
了知しうる状態でなされ、投票の秘密が損なわれていた。
さらに、本件代理投票をしたほとんどの選挙人については、本件不在者投票場所に
おいて、選挙人が名刺を投票補助者に差し出す際、前記のような付添人が選挙人の
傍らにたたずみ、あるいは当該選挙人の行動を注視しうるような場所に控えていた
のであるから、このような場合、選挙人の自由な意思による投票を期待するのは無
理であり、選挙人としては、あらかじめ当該付添人らから渡されていた名刺を差し
出す以外に選択の余地はなかったものといわなければならない。もし、投票管理者
において、右のような付添人を本件不在者投票場所から完全に排除し、他人からた
やすく見られない投票記載場所において名刺を受け取っていたならば、選挙人の自
由な意思による投票は確保されたものと思われる。
四 以上の次第で、本件代理投票は、法四九条一項、四八条一項、二項、同法施行
令五六条一項、三項に違反した違法(投票の管理執行に違法)があって、投票の秘
密が損なわれ、選挙人の自由な意思による投票が阻害され、ひいては、選挙の自由
公正が害されたものといわなければならない。そして、本件代理投票についての右
の違法事由は、五月二三、二四日の両日になされた代理投票のすべて(五六票)に
存在したものというべきであるから、既にこれだけで本件選挙における当選人と落
選者との得票差四五票を上回るものであるが、さらに、五月二五日以降の代理投票
についても、そのほとんどに右の違法事由が存在したものと推認されるので、結
局、本件代理投票の二二四票は、法の前記規定に違反したものというべく、右の違
法は、本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれのあるものであるから、原告ら主張の
その余の点について判断するまでもなく、本件選挙は無効であるといわなければな
らない。
五 よって、被告がした本件選挙の効力に関する原告らの審議申立てを棄却する旨
の裁決を取り消して原告らの本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につ
き、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用し、主文のとおり判決
する。
(裁判官 西川賢二 宮城京一 喜如嘉 貢)
別紙図面(省略)

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