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裁判例


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○ 主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
(当事者の求めた裁判)
一 原告ら
(一) 被告が昭和四七年一一月二八日に四国電力株式会社に対してなした、伊方
発電所の原子炉設置許可処分を取り消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 本案前の申立て
(一) 本件訴えを却下する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
2 本案の申立
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
原告らの請求の原因、被告の答弁及び主張、被告の主張に対する原告らの答弁及び
反論、証拠(省略。ただし、理由中の引用部分については、参考として理由の後に
摘記した。│編注)
○ 理由
第一 本件許可処分の存在及び原告適格について(被告の本案前の申立についての
判断)
一 本件許可処分の存在及び本件許可処分と原告らとの関係
(一) 四国電力の申請を受けて被告が昭和四七年一一月二八日本件原子炉の設置
許可処分をしたこと、原告らが右許可処分に対して、行政不服審査法所定の異議申
立をなし、被告が昭和四八年五月三一日右異議申立を棄却する旨の決定をなしたこ
とについてはいずれも当事者間に争いがなく、原告らが昭和四八年八月二七日当裁
判所に対し、右許可処分取消訴訟を提起したことは本件記録により明らかである。
(二) 原告らが、いずれも右許可にかかる本件原子炉の設置場所である愛媛県西
宇和郡内の別紙一当事者の表示記載の肩書地に居住することについては当事者間に
争いがなく、弁論の全趣旨により書き入れ部分は原告ら代理人が作成したものと認
められ、その余の部分については成立に争いのない甲第三九五号証によれば、本件
原子炉と原告らの右居住地との地理的な関係は別紙2記載のとおりであることが認
められる。
ところで、本件原子炉の運転によつて多量の核分裂生成物等が産出され、一年後に
は、約一〇億キユリーもの放射能を含む核分裂生成物等が原子炉内に蓄積されるも
のと見られること、右核分裂生成物等より放出する放射線は人身に重大な障害を与
えるものであること、なお、本件原子炉はすでに営業運転を行つていることは、い
ずれも後記のとおりである。そして、前掲事実と成立に争いのない甲第六一号証、
第二六四号証、第二六六号証及び証人a、同bの各証言並びに弁論の全趣旨を総合
すると、本件原子炉の平常運転時において、放射性物質を告示所定の規制値(〇・
五レム)以上に多量に放出する事態が発生すれば、気象、退避その他の諸条件に伴
い、原告らのうち、本件原子炉の近辺に居住する者は、放射線障害により発病する
蓋然性があること、また、本件原子炉で炉心溶融等の事故が発生して、格納容器の
破損が生ずると、原子炉内に蓄積している核分裂生成物の多くが、環境中に放出さ
れ、前記諸条件に伴い、原告らは、いずれも、核分裂生成物からの放射線に被ばく
し、急性放射線障害により、死亡又は発病する蓋然性を有する者らであることが認
められる。
二 原告適格について
(一」行訴法九条所定の「法律上の利益を有する者」とは、法律上保護されている
利益を当該行政処分によつて侵害された者をいい、右行政処分の名宛人でない第三
者も含まれる。そして、右の法律上保護されている利益の存否は、当該行政処分の
根拠となつた実体法規(本件では規制法二四条二項)が右利益の保護を図る趣旨を
含むか否かによつて決せられる。
(二) ところで規制法一条によれば、同法律の目的は、「核原料物質、核燃料物
質及び原子炉の利用による災害を防止して公共の安全を図るために必要な規制を行
う」というものであり、同法二四条一項四号の規定も「原子炉等による災害(ここ
にいう「災害」とは、多数人の生命、身体、財産に損害を及ぼすことをいうものと
解される。)の防止」を目的としていることが明らかである。しかし、右の点か
ら、規制法、特にその二四条が、公共の利益のみを保護の目的としていると解する
のは相当でない。すなわち、規制法二四条一項四号は、原子炉の施設の位置等が、
原子炉等による災害の防止上支障のないものであることを要する旨を定めること、
規制法の付属法規である規則一条七号、一条の二第二項六、七号、一〇号、告示二
条、九条及び規制法二四条一項四号の解釈について、事実上重大な意義を有する安
全設計審査指針、原子炉立地審査指針、気象手引は、いずれも原子炉施設周辺にお
ける放射線被ばくを軽減し、かつ、原子炉施設周辺住民が原子炉事故による災害を
被ることを防止することを重要な目的としていると解されること、なお、仮に、原
子炉等の災害が発生した場合、公共の安全が害される結果が生ずるのはもちろんで
あるが、同時に、多くの場合前記のとおり原子炉施設周辺の住民の生命、身体、財
産等が侵害される虞れが生ずること、しかも、前顕甲第六一号証、第二六四号証、
第二六六号証及び証人b、同aの各証言によれば、原子炉施設に近接する場所に居
住する者程、被害を受ける蓋然性が多いことが認められることに鑑み、規制法、特
にその二四条一項四号は、公共の安全を図ると同時に、原子炉施設周辺住民の生
命、身体、財産を保護することを目的としていると解さなければならない。もし、
そうでないとするならば、原子炉の災害によつて生命、身体及び財産を侵害される
蓋然性のある原子炉施設周辺に居住する住民は、現実に損害を受けない限り、原子
炉施設許可処分の違法性を追及することができないという不都合な結果を招くこと
にもなる。
しかるところ、前記のとおり、原告らは本件原子炉施設の周辺に居住し、原子炉事
故が発生した場合等には、その生命、身体等を侵害される蓋然性のある者である。
したがつて、以上のことから考察すれば、原告らは本件訴の原告適格を有するもの
というべきである。
(三) なお、付言するに規制法二四条一項三号(ただし経理的基礎についての規
制部分を除く。以下同じ。)についても、その所定の要件の存否の判断に過誤、欠
落があり、その結果なされた行政処分によつて原告らの利益が侵害される蓋然性が
ある限り、前叙の同条一項四号の場合と同様と解されるが、同条一項一、二号の規
定は原子炉施設周辺住民の利益保護を目的とするものではなく、国家の原子力につ
いての基本政策の規定及び広く公共の安全を図る趣旨の規定であることが、その文
理上からも明らかであるから、原告らが主張する如く右一、二号違反を理由として
原子炉設置許可処分の取消を求めることはできない。
(四) 被告は、原告らの主張する原子炉の平常運転時における微量放射線の被ば
くによる人身の損傷や、原子炉の炉心溶融を引き起こすような原子炉事故は、いず
れも発生することがあり得ないところであるから、原告らの主張は論理的、経験的
な根拠を欠き、具体性のない仮定的なものである旨主張する。しかし、証人c、同
d、同b、同aの各証言に照らせば、原子炉の平常運転時における微量放射線の被
ばくによる障害の発生の危険性の存在や、原子炉の炉心溶融に至る事故の発生する
ことを指摘する専門家の見解があることが認められ、したがつて、原告らの主張が
直ちに、論理性、経験性、具体性を欠いた仮定的な見解であると即断することはで
きない。
そして、前顕各証拠によれば、原告らが主張するところの平常運転時における微量
放射線の被ばくによる危険性の存在、原子炉の炉心溶融事故の発生により、原告ら
の生命、身体等が損傷される蓋然性の存在は、いずれも明らかに否定されるが如き
ものではないから、原告らの本件訴の利益が否定されることはない。
(五) 被告は、原子炉設置許可処分は原子炉の設置許可のみを目的とする処分で
あるところ、原子炉の運転に至るまでには各種の認可、検査等、後続の処分がなさ
れる。したがつて、これら後続する各種の処分の後になされる原子炉の運転によつ
て、原告らが被害を受けるとしても、それは本件許可処分の効果に関係のないとこ
ろであるから、右被害を受けることを理由として本件許可処分の取消を求めるため
の原告適格を基礎づけることはできない旨主張するが、原告らの主張の趣旨は、本
件許可処分に際しなされる原子炉の安全審査に過誤、欠落があることから、それに
よつて原告等が本件原子炉により被害を受けるというものであると解される。した
がつて、本件許可処分に後続する各種の処分があり、かつ、原告らの主張する被害
は、原子炉の運転という事実行為より発生するものであるからといつて、原告ら主
張の被害が本件許可処分によるものでないとすることはできない。
(六) 原告らが、本件訴訟において主張する権利・利益が侵害されることを理由
として、本件原子炉の設置者である四国電力を相手として、妨害予防の訴など民事
訴訟提起の可能性は否定しえない(それが理由ありとして認容されるか否かはもち
ろん別問題である。)としても、このことから直ちに、原告らに本件許可処分の取
消を求める利益が存在しないとする理由は見い出し難い。
(七) 以上の次第で、原告らは、本件訴を提起すべき利益を有するものであり、
したがつて、本件訴訟の原告適格があるというべきである。
よつて、被告の本案前の申立は理由がない。
第二 本件許可処分における手続の違法性の主張について
一 原子炉設置許可処分手続の概略
被告が原子炉の設置許可処分をするには、被告において規制法二三条所定の設置許
可申請を受けることを必要とすること、右申請を受けると被告は原子力委員会の意
見を聞かなければならないこと、意見を求められた原子力委員会は設置法一四条の
二によつて設けられ、科学専門家によつて構成されている安全審査会に原子炉の安
全性に関する調査を指示し、その調査結果を得たうえで、原子力委員会の意見を確
定して被告に答申するという手続がとられていること、本件原子炉設置許可に当た
つても、右諸手続が経由されたこと、なお、原子力委員会は専門の事項を調査審議
させるために専門部会を設けることができ、本件原子炉の安全審査に当たつては、
第八六部会を設けて調査審議させたこと、原子力委員会の意見を受けた被告はこれ
を尊重しなければならないことについては、いずれも当事者間に争いがない。
なお、右安全審査においては、設置法二条五号の規定及び同法一四条の三第三項に
おいて、審査委員は非常勤とされていることから、主として当該原子炉の基本設計
の審査がなされることと解され、かつ、その審査の対象事項は、原子炉設置許可処
分が申請による許可主義をとつていること六規制法二三条一項)及び規制法二三条
二項、規則一条の二に、申請書及びにその添付書類への記載事項が定められている
ことから推して同各条項により定まるものと解すべきである。
二 基本法二条違反の主張について
基本法は、その名の示すように原子力の研究、開発及び利用全般にわたる法規範と
して機能しているものの、それぞれの法的規制の具体的内容については、ほとんど
すべて他の法律にこれを委ねている。したがつて、基本法が他の法律を通さずに、
直接国民の権利、義務に影響を及ぼしたり、国民と国家との間の具体的な法律関係
を形成することはないと解される。また、基本法二条所定のいわゆる原子力三原則
中「民主の原則」は、主として原子力における平和利用を担保するために、我が国
における原子力の研究、開発及び利用は民主的な運営の下に進めなければならない
としているものであり、また、いわゆる「自主の原則」は、我が国における原子力
の研究、開発、利用が自主的に進められるべく留意しているものであり、いわゆる
「公開の原則」は、平和利用に限られるべき原子力の研究、開発及び利用の推進
が、右以外の方向に向けられることを、原子力の研究等に関する成果の公開によつ
て抑制しようとするものである。換言すれば、いわゆる原子力三原則は原子力の平
和利用を担保しようとする原則であるから、この三原則が、原子力の平和利用方法
である発電用原子炉の設置許可処分手続を直接規制するものと解することはできな
い。
したがつて、右と異なる見地に立ち、基本法二条に基づき、原子炉設置許可手続に
おいては、原告ら周辺住民に対し、原子炉の安全性に関わる資料を事前にすべて公
開すべきこと、原告ら周辺住民に原子炉設置許可手続に参加し得る機会を確保し、
かつ、究極的には周辺の全住民の同意を得ること、設置許否の判断は、原子力委員
会又は安全審査会の自らの調査、研究あるいは検証に基づく資料等を基礎としてな
すべきこと等が原子力委員会に義務づけられているのに、原子力委員会はこれを怠
たり違法な手続に基づいて本件原子炉設置許可処分をなした旨の原告らの主張は理
由がない。
三 基本法及び規制法の憲法違反の主張について
原告らは、国民の権利を制限し、又は国民に義務を課する法規は国会によつて制定
された法律であることが必要であるところ、原子炉はその事故発生の際はもちろん
のこと、平常運転時においても多量の放射性物質を周辺環境に放出し、周辺住民の
生命、身体、財産等に甚大な損害を与え、もつて国民の権利を侵害するものである
にもかかわらず、原子炉設置許可の要件を定める規制法二四条一項、特にその四号
は白地規定に等しいものであり、更に、告示、安全設計審査指針、原子炉立地審査
指針、気象手引等の原子炉設置許可処分に際し、審査の基準となるものはいずれも
その法的根拠を欠くものであり、したがつて、右規制法等は憲法三一条、四一条、
七三条一号に違反する。このような違憲の法規に基づいてなされた本件許可処分は
無効である。また、原子炉は事故時はもちろん平常運転時においても、その放出す
る放射性物質によつて原告らの生命、身体、財産等を損傷し、刑事手続における基
本的人権の侵害とは比較にならないほどの大量、深刻に基本的人権を否定するもの
であるから、その設置許可手続については憲法三一条に従い、適正手続を保障し
(1)処分庁が当核根拠法規自体においてはもちろん、他の法規との関係でも公正
であること(2)原子炉設置予定場所周辺住民の同意を得ること(3)公聴会の開
催(4)周辺住民に対する告知、聴聞の機会の設定(5)周辺住民に対し安全審査
に関する全資料を公開することが要求されていると考えなければならないのに、基
本法及び規制法のどこにもこのような事項が規定されていないから、基本法及び規
制法は憲法の要求する適正手続条項に違反する旨主張する。
しかしながら、第一に、第三者に危害を及ぼす危険性のある施設等の設置、製造を
許可するに当たつて、法律又はその委任する命令に明確な基準を設け、その基準適
合性を少数の、しかも必ずしも高度の専門家とはいえないものに判断させる方法を
とるか、右のような基準を設けることなく、多数の高度の専門家の判断に委ねる方
法をとるかは、当該施設等に基準を定立できるだけの定型性があるか否か、基準を
定立することと多数の専門家の判断に委ねるのとでは、いずれが安全性確保の見地
から妥当であるか等を総合的に考慮したうえで、立法機関が判断すべき事柄であ
る。したがつて、原子炉設置許可における安全審査のために規制法二四条一項四号
掲記のように抽象的な基準が定められているに過ぎなくても、原子炉の安全性審査
に右後記の方法をとつた立法機関の判断に特に不合理性の認められない本件では、
本件許可処分の根拠となつた右規定等をとらえて、それが憲法三一条、四一条に違
反するものとはいえない。
第二に、第三者に危害を及ぼす危険性のある施設等の設置許可処分手続に、当該施
設により被害を受けるかもしれない第三者を関与させるか否か、関与させるとして
どの程度の関与をなさしめるかは、当該行政処分の性質、当該施設の危険性の程
度、第三者を手続に関与させることの必要性の程度等を総合的に考慮したうえで、
これまた立法機関が判断すべき事柄である。そして、基本法、規制法が原子炉設置
許可手続に周辺住民を関与させるべき規定を設けていなくても、右立法機関の判断
に特に不合理性の認められない本件では、右規定がないことをもつて、右各法規が
憲法三一条に違反するとはいえない。
第三に、告示所定の許容被ばく線量が危険なものとはみられないことは後記のとお
りである。そして、告示は規則に、規則は規制法及び同法施行令にとそれぞれ根拠
を置くものであり、規則は規制法のいわゆる執行命令としての性格を有するものと
みられる(告示、規則、規制法施行令の各前文参照)から、告示が法的根拠のない
ものであるとはいえない。
第四に、安全設計審査指針、原子炉立地審査指針、気象手引は、いずれも法規範性
をもたないものであることは、その各形式に照らし明らかであり、これらの指針、
手引は、原子炉設置許可処分における安全審査に際し、その判断にできる限り安定
性と確実性とを持たせようとするものであるに過ぎず、その法規範性の存在しない
ことは前記第一の原子炉の安全審査の方法に照らし、憲法三一条、四一条、七三条
一号違反の問題の生ずる余地はない。
以上の次第で原告らの前記主張はいずれも理由がない。
四 本件許可処分が規制法に違反するとの主張について
1 原子炉設置許可手続の特殊性から一定の手続が必要である旨の主張について
原告らは、原子炉は極めて危険性が多く、原告らの基本的人権を侵害する可能性の
多いものであるから、その設置許可処分をなすには、規制法に何らの明文がなくと
も、憲法三一条及び基本法の趣旨に照らし(1)原子炉設置予定場所周辺住民の同
意を得ること(2)当該原子炉の安全審査に関する全資料を公開すること(3)公
聴会を開催すること(4)周辺住民に対する告知、聴聞の機会を設定すること
(5)原子力委員会の自主性ある審査(5)他事考慮の排除が解釈上認められるの
に、本件原子力発電所の設置許可手続においては、こうした手続が全くなされなか
つた違法がある旨主張する。
しかし、規制法の解釈上原告ら主張の(1)ないし(4)の如き手続が原子炉設置
許非処分手続上要求されているとみることはできないところである。また、原告は
右(5)について、更に、請求の原因第二章の四の2掲記の如く主張するが、右主
張がいずれも理由のないことは後記のとおりであり、右(6)については、更に、
エネルギーの必要性の見地から安全審査をしているとして、請求の原因の右同項掲
記のとおり主張する。しかし、原子炉の安全審査が適正になされる限り、原子炉設
置許可処分をなす際に、エネルギー事情を考慮することは何ら差し支えなく、安全
審査そのものがエネルギー事情を考慮してずさんになされたことを認めるに足る証
拠はないから、原告らの右主張はいずれも理由がない。
なお、付言するに、行政処分をなす場合において、当該行政法規が行政処分をなす
手続の全部又は一部を定めていない場合に、右手続の規定のない点においていかな
る手続をとるかは、行政庁の裁量に委ねられているものと解される。そして、その
行政庁である被告において、本件許可処分に当たり、公聴会等を開催する必要を認
めなかつたと主張するのであるから、本件許可処分をなすに当たり、被告が原告ら
主張の(1)ないし(4)の手続をとらなかつたことについては当事者間に争いが
ないが、本件原子炉設置許可処分手続には原告ら主張の違法性は存在しない(な
お、原子炉の安全性については、本件訴訟記録上明らかなとおり、学界にも意見の
対立があり、その結果、原子炉設置予定場所周辺住民の間でも、賛否の意見が鋭く
対立することは十分予想されるところである。したがつて、原子炉を設置するに当
たつては、その安全性に関する資料をできる限り公開し、公聴会を開催したうえ、
憲法、地方自治法等の定めるところに従つて、住民の意見を集約することが望まし
い。しかし、本件原子炉の設置に当たつては、公聴会の開催等がなされなかつたこ
とについては当事者間に争いがなく、かつ、原告本人e、同f、同g、同hの各尋
問の結果に照らすと、住民の意見を集約すべぎ機関が十分その機能を果たしていた
かについて疑問なしとしない。しかしながら、このことは本件許可処分を違法なら
しめる理由にはならない。)。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
2 本件原子炉設置許可手続における個別的瑕疵について
(一) 請求の原因第二章の四の3の(一)の、被告から原子力委員会に対する諮
問、原子力委員会における事務局からの説明聴取、原子力委員長から安全審査会宛
に安全性の検討をなすべき旨の指示がなされたこと、同(二)のうち、安全審査会
は原子力委員長よりの指示を受けて、第一〇一回審査会において、本件原子炉の安
全性を審査するために第八六部会を設置し、その部会員を選任したこと、その後安
全審査会は第一〇七回審査会において、本件安全審査報告書を了承し、原子力委員
会に対する右報告書同旨の報告をすることを審議決定するまで約六か月の間に合計
七回審査会を開いたこと、右安全審査会の第一〇六回会合(昭和四七年一〇月一一
日開催)において、第八六部会から中間報告を受け、第一〇七回会合(同年一一月
一七日開催)において、第八六部会からの報告書を審査して了承したこと、審査会
には、ほぼ毎回審査委員の代理が出席したこと、第一〇五回審査会では二名の審査
委員の代理が出席し、これと会長を除く委員の出席者は一三名であつたこと、第八
六部会選任に当たつた第一〇一回審査会における同出席委員は一四名であつたこ
と、i、j両調査委員の追加指名が第一〇六回会合において了承されたこと、右同
(三)のうち、昭和四七年五月一七日付第一回第八六部会における確認内容とし
て、施設関係の審査を担当するAグループ六名(k、l、m、n、o、p)と環境
関係の審査を担当するBグループ八名(k、m、q、r、s、t、u、v)とに分
かれて調査審議することとし、各委員の特定専門分野についての調査審議、分担を
定めたうえ、その各担当委員による調査審議を適宜行うこととされた(なお、k委
員は部会長となつた関係で、m委員は耐震工学分野の担当委員となつた関係で、各
A・B両グループに属することとされた。)こと、第一回第八六部会には部会員一
二名中七名の出席を得たのみであるうえ、q委員においてはその代理としてwを出
席させたこと、同部会は爾後の審査について先行炉の審査を参考として調査、審議
を進めることを確認したこと、現地調査を除く第八六部会は、昭和四七年五月一七
日の第一回第八六部会以降、同年一〇月末日の第七回第八六部会までの毎月一回
(同年一〇月のみ二回)の会合が開かれたこと、第一四部会に欠席したq委員は同
部会のその後の全会合にも欠席しており、第二、第五及び第六回の各会合において
は、wを代理として出席させたがこれが黙過されたこと、その余の委員でも、例え
ばm委員が計六回、p委員が計五回の欠席をしたこと、Aグループの第三回会合は
n委員、Bグループの第一、第四及び第六回会合はいずれもm委員の、各々ただ一
名の委員が出席して開かれたこと、各グループ会合のうち一応二名以上の出席が認
められるのはAグループの第一回会合(ただし六名中二名欠席)、同第二回会合
(同上)の二回と、Bグループの第二回会合(八名中四名欠席)、同第三回会合
(同じく二名欠席)、同第五回会合(同上)の三回のみであつたこと、Bグループ
の一員であるq委員などは右グループ会合にもすべて欠席し、第三回及び第五回B
グループ会合には、代理としてwを出席させ、これが黙過されたこと、第八六部会
の議事録が存在しないことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) (1)原告らは、部会については、議事運営上の手続的規定が全く存しな
いため、部会の審査は恣意的審査がなされやすい状況を生ぜしめ、特に部会員を
A・Bグループに分けたうえ、各グループ内の特定専門分野につき、担当委員によ
る個別的審査を適宜行うという個別的分担審議の方法をとつたことは、合議制の長
所を失なわせ、委員相互間による審査上の恣意や誤謬の発見、抑制を不充分にさ
せ、審査をずさんに流れさせる原因を生ぜしめた旨、また、先行炉の審査を参考と
して調査審議を進めることは、本件原子炉の審査を手抜きにし、形骸化させた旨主
張するが、右各主張事実を認めるに足る証拠はなく、却つて、原本の存在並びに成
立に争いのない甲第四七号証及び証人x、同n、同oの各証言を総合すれば、部会
員間には適宜接触があり、更にA及びBグループの各会合を開いて関連事項を審
査、検討し、部会によつて関連事項を審査したこと、先行炉の審査は参考にされた
が、その審査後に明らかになつた事項について検討がなされるなど、先行炉の審査
結果をそのまま流用したものではないことが認められる。
(2) 次に、部会員の代理が許されていないことは、後記審査委員の代理の場合
と同様に考えられるが(なお、原子力委員会専門部会運営規程参照)、前顕甲第四
七号証によれば、最終報告書の決定の際には、部会員の代理出席者はいなかつたこ
とが認められ右認定に反する証拠はないから、本件部会の最終決議には、部会員の
代理が参加した違法はない。なお、右決議に至る過程において、部会員の代理が出
席したとしても、原子力委員会専門部会運営規程八条の趣旨及び証人yの証言によ
れば他の部会員から何ら異議は出なかつたものと認められ、右認定に反する証拠は
ないことに照らし、右代理出席があつたことが右部会の最終決議を違法ならしめる
ものとは即断し難い。
(3) なお、A・B各グループは部会の調査を効率的に行うための手段として作
られたもので、決議機関としての性質をもつものではないから、そのグループ会合
における出欠席者の多寡は、その調査審議の手続的違法を構成するものとは必ずし
もいえず、これが直ちに調査審議のずさんさを示すものともみられない。これに対
し、部会は決議機関としての性格を保持するものの(原子力委員会専門部会運営規
程四条参照)、その主たる目的は、やはり専門事項を調査審議することであり(設
置法施行令三条一項参照)、その出欠席者の多寡は、議事を開き決議をなす場合を
除いては、その手続の違法性の問題とはならないものというべきである(原子力委
員会専門部会運営規程参照)。
しかして、前顕甲第四七号証によれば、部会において、議事を開き、議決をした場
合においては、前記運営規程所定の定足数が確保されていることが認められ、右認
定に反する証拠はない。
そうすると、前示部会出席者数の点から本件審査手続の瑕疵をいう原告らの主張は
理由がない。
(4) 前示、第八六部会にA・Bグループが作られた理由から考えて、Aグルー
プがECCS検討会と合同して審査会を開いたことは何ら違法不当とはいえ、ない
ものであり、原子力委員会専門部会運営規程八条の趣旨及び前示i、j両調査委員
の後記委嘱行為の効力から考えて、Bグループの第六回会合に、当時まだ正式に調
査委員に委嘱されていなかつたi、j両名が参加していたことをもつて、右グルー
プ会合が違法であるということもできない。
なお、i調査委員が担当した中央構造線の問題の審査の点については、その調査に
重大な違法が存したとの原告らの主張は理由がないものであることは後記(第四の
三の2の(二)の(7))のとおりである。
(5) 第八六部会の議事録が存在しないことをもつて、第八六部会の手続に違法
があつたということはできない。けだし、原子力委員会議事運営規則六条が安全審
査会の会合に類推される根拠として、安全審査会運営規程一条があるのに対し、原
子力委員会専門部会運営規程には同旨の規定が存在しない。このことは、その反対
解釈として部会については議事録の作成を不要とする趣旨とみられるからである。
(三) (1)次に、審査委員の代理出席の点について検討するに、証人yの証言
によれば、代理出席のなされた審査委員は、官公庁の職員であり、代理出席をした
者はその部下職員であつて、従来からこのような代理出席は許される慣行となつて
いたことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかしながら、設置法及び原子
炉安全専門審査会運営規程(以下安全審査会運営規程という)には、いずれも審査
委員の代理を認める趣旨の規定はないこと、原子炉の安全性という高度に専門的な
事項の審査には、審査委員の学識経験が重要な要素をなしているものであつて(こ
のことは、審査委員の任命資格の根拠が関係行政機関の職員である場合でも、安全
審査に政策的要素を加味すべきでないことから考えれば、別異に解すべき理由はな
い。)、行政庁内の地位の上下関係をもつて代替することができるとすることの合
理性はないことに鑑みると、右代理出席は法の許容するものとはみられない。
しかしながら、審査委員の代理出席等があつたことから、直ちに当該審査会の決議
が違法となるものとはいえない。すなわち、前記第八六部会を選任した第一〇一回
審査会、第八六部会の報告書を了承し、かつ、原子力委員会への報告を決定した第
一〇七回審査会に、いずれも審査委員の代理が出席したことは、前記のとおりであ
るが、いずれも原本の存在並びに成立に争いのない甲第三八号証、第四四号証、証
人x、同yの各証言に照らすと、右各審査会は、代理出席者を除いても、いずれも
法定の定足数を割ることなく(安全審査会長も審査委員としての資格を有すること
は、設置法一四条の四により明らかであり、したがつて当然定足数中に含まれると
解される。)、かつ、前記各決議をなすについて、異議、反対者はいなかつたこと
が認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、代理出席者が右決議に参加
したことが、右決議の結果に影響を与えたとは認め難く、ひいては右各決議が違法
となるものではない。なお、右認定の審査会を除くその余の定足数割れ又は代理出
席者の参加の下になされた審査会の会合は、後記認定事実によれば、いずれも、審
査経過の報告等がなされたに過ぎず、これが第一〇七回審査会の決議の結果に影響
を与えたものとは認め難い。
(2) 原告らは、審査会における審査手続は極めて形式的になされ、本件安全審
査は第八六部会委員によつてなされたに等しい旨、また、審査会から同部会への格
別な指示等はなされず、すべて部会任せの審査がなされた旨主張する。なる程、い
ずれも原本の存在並びに成立に争いのない甲第四三、四四号証によれば、第一〇
六、一〇七回審査会においては比較的短時間のうちに多数の案件が処理されている
ことは認められるが、このことから右各審査会の審議が形式的になされ、本件原子
炉の安全審査は第八六部会委員によつてなされたに等しいとは認め難いのみなら
ず、却つて右同証拠によれば、右各審査会における審議は、安全審査委員によつて
必要と認められる審査がなされたことが推認され、また、前顕甲第四七号証、いず
れも原本の存在並びに成立に争いのない同第四〇号証、第四二号証によれば、第八
六部会から第一〇三回、第一〇五回等の各審査会に対して、適宜審査経過の報告が
なされたことが認められる。
(3) 証人yの証言によれば、i、j両調査委員の委嘱について、審査会に図つ
た趣旨は、右両名を委嘱するために、安全審査会運営規程八条による審査会の諮問
が必要であつたためであること、右両名の調査委員委嘱辞令は、右両名が事実上調
査委員として執務する以前の昭和四七年八月に準備されていたが、事務上のミスで
決済が遅れたこと、そして、同年九月一八日頃委嘱手続がとられたことがいずれも
認められ、右認定に反する証拠はない。そうだとすると、i、j両名を調査委員に
委嘱するに当たり、審査会の諮問を得ることは、両名の委嘱行為の重要な部会を構
成するものでなく、したがつて、右諮問がなされる前に右両名がなした行為は、瑕
疵あるものとはみられないのみならず、右両名の追加指名を了承することが審査会
において決定された以上、右両名の委嘱については何等違法はないものというべき
である。
(4) 原告らは、本件原子炉の立地条件審査上、早期に最も重点的、かつ、慎重
に、取り組まれねばならなかつた地盤、地震関係分野の審査手続については、当初
これを専任担当すべく選任されたq審査委員が、全く審査に関与しなかつたため、
ようやく部会審査終了の一か月前に、i、j両委員をその公正に多大の疑義ある選
任手続の下に追加指名したところ、その後はなんらの現地調査もなされず、右両名
のうち、i委員のみが二回の部会審査に参加したのみで、わずか一か月後に部会報
告がまとめられ、最終決定をしたものであつて、右手続的瑕疵は極めて重大であ
る。しかも、q委員に、選任当初から部会審査活動をなし得ない特段の事情が存し
たというのであれば、第一〇一回審査会における委員選任手続上の不注意として責
められるべきものであり、他方、かかる不都合が判明した段階において、直ちに同
委員を解任した上、新らたな審査委員ないしは調査委員を早期に選定すべきであ
り、また、i、j両調査委員についても、審査会において正式に選任手続をした上
で、慎重、かつ、責任ある現地調査を実施せしめ、部会審査の適正を期すべきであ
る。しかるにこれをしないで前記主張の如く恣意的な手続を進めたのは、審査会ひ
いては原子力委員会自体が本件原子炉設置許可基準適合性の意見答申をなすべきこ
とに強い先入観をもち、答申を急いだことによるものである旨主張する。
確かに、前記q委員の審査会への出席状況、i、j両名を調査委員に選任した時
期、その選任手続等を総合すると、原告ら主張の如く審査会において答申を急いだ
点がうかがえなくもないが、このことが安全審査会ひいては原子力委員会が本件原
子炉の設置許可基準適合性の意見答申をなすことについて強い先入観を持つていた
ことによるものであるとは即断できず、他に右主張事実を認めるに足る的確な証拠
はない。
(5) 証人xの証言によれば、本件原子炉の安全審査の段階では、美浜一号炉の
蒸気発生器細管の漏洩の原因はまだ十分判明していなかつたこと、しかしながら細
管の構造上、蒸気泡の発生離脱が適切でないということと、水処理の問題が適正で
ないということの二つが主記原因であることの判断はなされていたこと、そして、
本件安全審査においては、右二つの原因を考慮して審査がなされたこと、審査会と
しては、美浜一号炉の蒸気発生器細管の欠陥の問題は大きな原子炉事故に結びつく
ものではないと判断したこと、基本設計を審査する安全審査会としては右の判断で
足りると考え、将来の建設までの段階に十分に調査して慎重を期すべきことを工事
計画等の認可をする通産省に申し送つたことがいずれも認められる。
一方、当事者間に争いのない美浜一号炉における蒸気発生器細管事故の発生の事実
及び前顕甲第四七号証により、第八六部会が一次冷却系統について審議したのは、
美浜一号炉の事故発生後一三日目であることが推認されること、なお、本訴におけ
る文書提出命令の結果によれば、参考資料、報告資料中には美浜一号炉の事故につ
いての資料が存在しなかつたことは当裁判所に職務上明らかなところであるが、以
上をもつても前示認定を左右するに足らず、他に前示認定を左右するに足る証拠は
ない。
しかして、美浜一号炉で発生したのと同種の蒸気発生器細管事故により、原子力発
電所周辺住民に未だかつて被害を及ぼしたことのないことについては、当事者間に
争いがない。したがつて、本件原子炉の基本設計を審査すべき安全審査会におい
て、美浜一号炉の蒸気発生器細管事故を、前記認定の程度にしか参考としなかつた
ことをもつて、原告ら主張の如くそれが違法であるとはいえない。
(6) 本件原子炉用淡水を<地名略>から取水するということで本件許可申請が
なされ、本件安全審査においてもこの点についても相当とする判断がなされたこ
と、その後右計画は変更され、<地名略>からの取水は取り止めになつたことは、
いずれも当事者間に争いがない。
したがつて、
仮に右<地名略>からの取水を認めた点に手続的瑕疵があつたとしても右瑕疵は治
癒したものとみられる。
(7) 前顕甲第三八号証、第四〇号証、第四二ないし第四四号証、いずれも原本
の存在並びに成立に争いのない同第三九号証、第四一号証によれば、審査会の議事
録には議事の概要が記載されているのみで、具体的な審査の状況、経過は記載され
ていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。
しかしながら、右議事録作成について類推される原子力委員会議事運営規則六条一
項にも、議事経過の要点を摘録して作成すべきことが規定されているにすぎないか
ら、右審査会議事録は、原告らの主張するが如き違法又は不当なものとはみられな
い。
(四) 原子力委員会の事務局でもある科学技術庁原子力局が原告ら地元住民の原
子炉設置反対意見を聴取し、更に、その主張する用地問題、漁業問題、関係地方公
共団体の決議の当否についての事情調査をしなかつたことについては当事者間に争
いがないが、原子力委員会事務局には、原告ら地元住民の原子炉設置反対意見を聴
取すべき義務及び原告らのいう不当性があるとの.問題について、これを調査し、
原子力委員会に報告しなければならない義務はいずれも存在しないから、原子力委
員会事務局において、右所為に及ばなかつたことは、何ら本件許可処分手続の違法
事由にはならない。
また、原子力委員会事務局が、原子力委員会に対し、本件原子炉設置反対運動等に
ついての一般的事情に関する一面的な報告をし、同委員会の判断に、不当な影響を
与えた旨の原告らの主張事実は、これを認めるに足る証拠がない。
(五) 昭和四七年二月、被告において電源開発調整審議会の議を経て、伊方原子
力発電所一号機の建設を電源開発基本計画に組み入れることを決定済であること、
第八六部会の調査審議は、昭和四七年五月一日の第一〇一回審査会の決定に基づく
として、すべて通産省技術顧問会と合同で実施され、右合同審査がなされなかつた
のは、同年九月二九日の会合だけであつたこと、第八六部会委員中、審査委員九名
全員が右顧問会委員を兼任していること、原子力委員会及び安全審査会が、独自の
事務局を持たず、原子力行政の実施担当機関である科学技術庁原子力局がすべてそ
の事務を統轄していることについてはいずれも当事者間に争いがない。
(1) 原告らは、電源すなわち原子力発電所を含めた発電所の設置を促進するこ
とを図る電源開発促進法に基づき、電源開発調整審議会の長となつて、伊方原子力
発電所を設置するとの計画を承認した被告が、その計画に基づいて申請された本件
許可申請の処分庁として、否と答えるはずがない。このことは、規制法二四条二項
において、被告が原子炉の設置許可をする場合に、原子力委員会の意見を聞き、こ
れを尊重しなければならないと規定していても、原子力委員会も被告機関であるか
ら変わるものではない。電源開発促進法により原子力発電所の設置を促進する立場
にある被告が、規制法により原子炉の設置許可を与える行政庁となつていることは
誰が考えても不公正、不合理である旨主張する。
しかしながら、法律制度上、発電用原子炉を設置するには、水力、火力発電所と同
様、まず電源開発促進法に基づいて、内閣総理大臣の策定する電源開発基本計画に
組み入れることが必要とされている。この電源開発基本計画は、内閣総理大臣が、
国土の総合的な開発、利用及び保全、電力の需給その他電源開発の円滑な実施を図
るという広い観点から自然的及び社会的諸条件を総合的に考慮して立案し、決定さ
れることとなつている(電源開発促進法三条一項参照)。
そして、発電所の設置は右の基本計画に組み入れられても、更に、これとは異なる
観点からの、各種の関係法令に基づく審査を経なければ、具体的な設置は許されな
い。発電用原子炉についていえば、原子炉施設としては、規制法に基づく規制を受
け、他方、発電用施設としては電気事業法による規制を受ける。しかも、電源開発
基本計画の策定と個々の原子炉の具体的な設置許可とは、それぞれ全く異なる目的
と、異なる法令上の根拠、要件とをもち、それぞれ別個の観点から決定されるもの
である。
更に、被告に対し意見を答申する原子力委員会の委員の任免及びその服務について
は、厳格な規制がなされており(設置法八条ないし一〇条、一三、一四条)、ま
た、安全審査会委員、部会員の資格も法定されている。したがつて、被告が、電源
開発調整審議会の長となつて、本件原子力発電所の設置計画を承認したことと、規
制法二四条二項に基づいて本件原子炉の設置許可をしたことは、必ずしも不公正、
不合理であるとはみられず、問題は原子炉の安全性を確保できるか否かの審査が、
真に公正になされたか否かということのみにかかる。
原告らの前記主張は理由がないというほかはない。
なお、右に関連して、原告らは、原子力委員会は、単に原子炉設置許可処分につい
て権威づけのためだけの存在に過ぎず、安全審査会も、第八六部会の委員も、すべ
て原子炉の安全性の審査を片手間にしているもので、実質は科学技術庁の役人が主
導権をもつた官僚による審査である旨主張するけれども、右主張事実を認めるに足
る証拠はない。
(2) 次に、原告らは、安全審査会委員には、内閣総理大臣と立場を同じくする
通産省の技術顧問会委員との兼任者が多数を占め、また第八六部会が、右顧問会と
合同審査をしたことは、審査会、、第八六部会の中立性、独立性を失わしめるもの
であつて、かかる合同審査を許容する法的根拠及び合理性は皆無であり、かつ、第
一〇一回審査会において、右合同審査をするについての決議はなされていないし、
また、かかる決議自体が違法である旨主張する。
しかしながら、証人xの証言及び弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることがで
きる。すなわち、通産大臣は、原子力発電に係る電気工作物の変更許可をなすに当
たり、その設備の安全性について、必要に応じ、右顧問会の意見を聴いて審査す
る。内閣総理大臣は規制法に基づき、通産大臣は電気事業法に基づき、それぞれ発
電用原子炉に関する各々の行政事務を行う。この場合、内閣総理大臣は原子炉の
「規制」のみを行い、通産大臣はその開発の「促進」のみを行つているというよう
に、両者の立場に全く共通するするところがないということではなく、通産大臣の
審査事項のうち、発電用原子炉の設備の安全性に係るものは、原子炉の安全性と密
接不可分のものであるから(例えば、発電用原子力設備に関する技術基準参照)、
本来、両者の判断が区々になることは考えられない。したがつて、安全審査会又は
第八六部会と通通産省技術顧問会とが、合同審査を行い、又は委員の兼任を認める
ことは、むしろ審査を効率的ならしめるのであり、しかも両者の判断が不当に影響
し合うというようなことはない。以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はな
い。したがつて、前記委員の兼任又は合同審査が安全審査の主体性、独立性を損な
う違法なものとは認められない。
なお、証人yの証言によれば、第八六部会と通産省技術顧問会とが合同審査をする
ことについては、従来から暗黙の了解があつたことが認められるので、前顕甲第三
八号証には、右合同審査をなすことについて、決議がなされた旨の記載はないが、
このことは本件審査手続を違法ならしめる瑕疵とはならない。
(3) 原告らは、更に、、原子力委員会及び安全審査会が独自の事務局を持た
ず、原子力行政の実施担当機関である科学技術庁原子力局がすべてその事務を統轄
しているため、審査の全過程において、事実上、同庁行政官僚の強い影響を受ける
体制となつている。特に、科学技術庁が一貫して原子炉設置推進の考えを有してき
たこと、及び科学技術庁長官が原子力委員長でもある事情とあいまつて、同庁が原
子力委員に対しても、事実上の強い影響力を与えてきたことが看取される。こうし
た欠陥ある体制の下でなされた本件安全審査は、主体性、独立性(ないし中立性)
を喪失しているものとみられる旨主張する。
しかしながら、事務局の独自性のないことから、原子力委員会ないしは安全審査
会、部会が他機関等から不当な影響を受けたと即断はできない。もちろん、このこ
とは基本法二条所定の自主の原則とも直接関係しない。更に、現在の法律制度上に
おいては、例えば原子力委員会及び安全審査会がすべて原子力の積極的利用に賛意
を有する者から構成されていても、そのことが原子炉設置許可手続の不公正につな
がるということもできない。けだし、原子炉設置許可という制度自体、原子力の利
用を前提とするものであるからである。要は、前記のとおり正当な判断が担保され
る手続がとられているかどうかの問題である。
したがつて、原告らの右各主張も理由がない。
(六) その他請求の原因第二章の四の3掲記の如く原告らは本件許可処分に違法
不当ありとして種々の主張をするけれども、これらの主張は、いずれも本件許可処
分手続の違法事由に当たらないものである。また、原告らの前記(一)ないし
(四)の主張事実及び右の原告らのその余の主張事実が仮に存在するとし、かつ、
これらの事実を総合しても、原子力委員会、安全審査会及び第八六部会において、
基本法二条に反してその自主性を失い、本件原子炉を設置することを当然のことと
前提し、形式的な審査をなしたものと認めることはできないし、また、前記原告ら
主張事実が設置法に違反しているとみることもできない。したがつて、本件設置許
可手続が、基本法二条、設置法に違反し、規制法二四条二項の原子力委員会の意見
答申が、適法に行われなかつた旨の原告らの主張は理由がない。
五 手続的実質審理上の違法││安全評価過程における適正手続保障義務違反の主
張について(一)原告らは、規制法一条の目的規定と、これに応じた必要な規制を
具体的に実現すべき権限が、設置法二条、五条により、原子力委員会に与えられて
いることに照らし、原子力委員会は、原子炉による重大な災害の危険から国民の基
本的人権を護るために、原子炉設置許可手続においては、右設置法で与えられた権
限を積極的に行使し、公正かつ適正な安全審査を尽くすべき義務があるとし、右義
務の具体的内容として請求の原因第二章の五の1の(一)掲記のとおり主張する。
(二) よつて按ずるに、まず、原子炉の安全性の問題は、すべて原子炉設置許可
処分の際に判断されるものではなく、細部にわたる具体的ないし実際上の技術的事
項については、後続する原子炉施設に関する設計及び工事の方法についての認可
(規制法二七条、電気事業法四一条)、原子炉施設の工事及び性能についての使用
前検査(規制法二八条、電気事業法四三条)等の一連の規制手段があり、原子炉設
置許可処分における安全性に関する審査は当該原子炉の基本的設計方針ないしは基
本計画において、十分安全性が確保されるものかどうかを確認すれば足りると解さ
れる。
そして、原子炉の実際の面における安全性の確保は、直接原子炉を設置、運転する
原子炉設置者が、第一次的にその責を果すべきものであるから、審査会の安全審査
は、申請者の提出する資料に基づいて、当該原子炉の安全性確保のための申請者の
設計及び考え方につき、それらが適切であるか否かを確認するという形のものにな
る。したがつて、原子炉の安全審査において、原子力委員会又は審査会自らが資料
を収集し、調査研究した上で、その安全性を確認しなければならないものではな
い。
(三) 安全審査は、右のような形で行われるのであるから、当然それは原子力発
電等に関する既存の知識、知見を基本として行われる。なお、証人yの証言によれ
ば、申請者が過去の技術でとらえられない全く新しい技術に基づく原子炉について
申請した場合には、通常、その技術の安全性がほかの場において確認ないし実証さ
れない限り、審査会が申請者の提出する資料のみに基づいてその安全性に対する結
論を示すことはないことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうだとする
と、審査会は原子炉の技術に関して自らが研究ないし実験をする必要はなく、ま
た、設置法の解釈上も審査会にそのような任務は与えられていないものとみられ
る。
(四) なお、我が国において設置されるほとんどの原子炉が、燃料として濃縮ウ
ランを使用し、冷却材及び減速材として軽水を使用する、いわゆる「アメリカ型」
といわれるものであること、その結果、その安全性を判断する資料・データの多く
をアメリカに求めることはやむを得ないことについては、当事者間に争いがない。
しかし、アメリカの資料・データに基づいて安全審査がなされていることの一事に
よつて、安全審査の自主性を損なつたり、形骸化をもたらしたりしているとは即断
できないところであり、審査会の各委員が自らの意見と判断に基づかず、アメリカ
の資料を鵜呑みにして安全審査をしていることを認めるに足る証拠はない。のみな
らず、証人x、同n、同oの各証言によれば、我が国の安全審査はアメリカの資
料・データのみに依存しているわけではなく、同国以外の外国及び我が国自身にお
ける経験や研究成果も活用されていること、アメリカのものを含め、これらの資
料・データについて、各委員が自らの専門的な知識経験に基づき、これを評価する
ばかりではなく、必要に応じてその解析のやり直しを行うなどしていることが認め
られ、右認定を覆えすに足る証拠はない。したがつて、アメリカの資料・データを
安全審査に活用していても、その判断の自主性は確保されているものということが
できる。
(五) 安全審査に当たり、原子炉設置に反対する原告ら地元住民や、右設置に批
判的な技術者、研究者等の反対意見を十分調査は握し、これを採用せぬ場合には科
学的、合理的理由と実験的根拠を明示すべきである旨の原告らの主張にはその法的
根拠がない。なお、請求の原因第二章の五の2掲記の<地名略>からの取水、事務
局からの事情聴取、電源開発基本計画の先行が、本件安全審査手続の瑕疵となるも
のでないことは前記のとおりである。
その他本件安全審査において恣意的評価がなされ、また過誤があつた旨の主張事実
を認めるに足る証拠はない。
(六) 以上により、原子力委員会は本件安全審査において、規制法一条、設置法
二条、五条に違反し、その結果、本件安全評価過程には実質審査上の瑕疵がある旨
の原告らの主張は理由がない。
六 本件許可処分が裁量行為である旨の主張について
原子炉の安全審査については、高度の専門的知識を必要とすること、他方、原子炉
に事故が発生した場合には周辺住民の生命、身体等が損傷されることから、原子炉
設置許可処分が、周辺住民との関係で、被告の裁量処分であるか否かが問題とな
る。
よつて按ずるに、原子炉の事故等から周辺住民の安全を確保するために、その安全
保護施設のすべてについて、完全ともいうべき実験、実証を経たうえ、危険が全く
存在しないとみられるに至つた段階で、はじめて原子炉の建設を認めるべきだとす
る見解は、後記原子炉の最悪の事故発生の際における被害の甚大性に鑑み、望まし
い方法ではあるが、規制法二三条、二四条、設置法二条五号、一四条の二以下の規
定によれば、右各法規所定の手続によつて、規制法二四条一項の要件が充たされる
との判断が得られたならば、原子炉の設置を許可する趣旨であることは明らかであ
り、なお、右各法条、更に規制法二七条以下の諸規定の趣旨と、弁論の全趣旨を併
せ考えるならば、原子炉の安全保護施設の効力について、現在の科学的見地から相
当と認められる程度の実験、実証を経て、周辺住民等に被害を及ぼすことはないと
の結論を得た段階で、原子炉の設置を許し、ただ、その建設、運転について厳重な
規制を加え、異常な状態が発見された場合には、直ちにその運転停止等所要の措置
を構するという方法が許されているものと解される。
原告らは、原子炉のような危険性の大きい、かつ未知の部分の多い技術について
は、右後者の如き方法をとることは、原告らの周辺住民の生命、身体等を侵害する
蓋然性が極めて高いから許されない旨主張し、証人c、同z、同p1も右主張に添
う証言をするけれども、証人x、同nの各証言及び弁論の全趣旨によれば、現在の
原子炉はその安全性が十分確保されているとする専門学者、持術者も多数存在する
ことが認められるから、右原告らの主張に添う証拠は直ちに採用できない。なお、
右原告らの主張は設置法、規制法の解釈と相容れないものであることは明らかであ
り、したがつて、当裁判所のとり得ないところである。これを要するに、規制法二
四条は、原子炉設置許可処分は、周辺住民との関係においても、その安全性の判断
に特に高度の科学的、専門的知識を要するとの観点及び被告の高度の政策的判断に
密接に関連するところから、これを被告の裁量処分とするとともに、慎重な専門
的、技術的審査によつて、一定の基準に適合していると認めるときでなければ、そ
の設置許可をすることができないとして、被告の裁量権の行使に制約を加えている
ものと解すべきである。
なお、付言するに、以上のことは、当然に右許可処分の違法を主張する者が、当該
原子炉の危険性、換言すれば、その安全に関する判断の不相当性を立証すべきであ
るとの結論を導くものではない。けだし、被告は当該原子炉の安全審査資料をすべ
て保持しており、かつ、安全審査に関わつた多数の専門家を擁しているが、右許可
処分の違法性を主張する原告らは、安全審査資料のすべてを入手できることの保証
はなく、また、その専門的知識においても、被告側に比べてはるかに劣る場合が普
通である。
したがつて、公平の見地から、当該原子炉が安全であると判断したことに相当性の
あることは、原則として、被告の立証すべき事項であると考える。
第三 平常時被ばくの危険性について
一 許容被ばく線量の危険性の主張について
(一) 放射線が与える障害と放射線量との関係について、昭和三五年(一九六〇
年)ころまでは「一〇〇レムを超えると人体に影響を及ぼす」と考えるのが通説で
あつたこと、昭和三〇年(一九五〇年)代にマウスを用いた実験により、数十ラド
から数百ラド程度までの放射線量と遺伝的効果との間に、また、昭和三六年(一九
六一年)にシヨウジヨウバエを用いた実験により、五ラドから数千ラド程度までの
放射線量と遺伝的効果との間に、いずれもほぼ直線関係が成立するとの報告がなさ
れたこと、また、ムラサキツユクサのおしべの毛に対する二五〇ミリラドのエツク
ス線や一〇ミリラドの中性子線の人口照射によつて、その体細胞における突然変異
が有意に増加するという報告が公表されていることについては、いずれも当事者間
に争いがなく、成立に争いのない甲第三五号証、第六四号証、第六六号証、第一〇
一号証、第一〇四号証、第一〇七号証、第二六六号証、証人aの証言により真正に
成立したものと認める同第六五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認
める同第六七号証並びに同証人の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、(1)放射
線が体細胞(生殖細胞又はその原基細胞以外の細胞)に与える障害に起因する身体
的障害には、放射線被ばく後短時間で現われる急性障害と、数か月ないし数十年を
経過して現われる晩発性障害とがあること、人類を含む哺乳動物で見られる急性障
害には、(7)けいれん、運動失調等の神経系の障害、(イ)骨髄の新生能力喪
失、白血球減少等の造血系の障害、(ウ)食欲不振、消化不良、下痢、腸内出血等
の消化器系の障害、(エ)脱毛、紅紫斑、皮膚剥離、水疱、皮膚炎、色素沈着等の
皮膚の障害、(オ)結膜や鼻腔粘膜等の粘膜の炎症、(カ)血管内膜損傷並びに出
血、(キ)放射線肺炎、(ク)精子減少、排卵異常、流産等の生殖器障害等がある
こと、晩発性障害としては、(ア)慢性白血球減少症、(イ)白血病、(ウ)さま
ざまな悪性ガン(エ)白内障、(オ)寿命短縮等があること(急性障害として、下
痢、白血球減少、脱毛、水疱等を生じ、多量に被ばくしたときには死亡に至るこ
と、晩発性障害として、白血病その他のガン、白内障等があることについては当事
者間に争いがない。)、遺伝的障害としては、(ア)胎内致死(死産)、(イ)幼
児期致死、(ウ)異常形態(いわゆる奇形)、(エ)機能障害、(オ)不妊、
(カ)精神病、(キ)生命や健康維持に直接関係しない形態、色、数量等の変化を
もたらす突然変異等があること、(2)ムラサキツユクサのおしべの毛を実験材料
に用いると、個々の細胞に与えられた放射線の影響を、それぞれの細胞家系(一連
の子孫細胞)において、直接的にしかも隠されることなく検出でき、また、障害の
発生時期も知ることができるが、特に花色(おしべの毛色も同じ)について遺伝子
型がヘテロ(青/ピンク、青が優性形質)のものを用いると、その優性遺伝子の突
然変異の生起が、通常は青色であるおしべの毛細胞の間に現われるピンク色細胞に
よつて、容易かつ確実に検出され、突然変異の誘発時期も知り得るし、しかも膨大
な数の標本について調査することが容易であるから、この実験材料から得られる突
然変異率の知見は精度の高いもので、この精度の高さは、多数の標本を取り扱うこ
とが困難であつたり、他細胞によつて突然変異の大部分が隠されたり、調査に長時
間を要し、そのため他の要因の影響を受けやすい他の実験動植物の場合とは、比肩
できない程のものであり、ちなみに、一個の突然変異の結果を検出するのに、数年
ないし数十年を要する人類や、同じく数か月ないし数年を要するマウス等に比べ
て、ムラサキツユクサの場合は、一〇日ないし一四日位で検出でき、しかも人類や
哺乳動物等では、突然変異の一部分しか検出されないのに対し、ムラサキツユクサ
では漏れなく検出できるので、これらムラサキツユクサのおしべの毛の特徴は、こ
の実験材料による微量放射線の影響の検出を可能にし、アメリカではスパロー博士
らによつて、エツクス線、中性子線照射によつて前記のとおり突然変異の増加が検
出され、線量と突然変異率との関係も正確に決定されたこと、我が国ではaによつ
てガンマ線やその散乱放射線に関して、ほぼ〇・七レム程度まで同様な結果が得ら
れたこと、また、スパロー博士らは、昭和四二年(一九六七年)、ウイルス、バク
テリア、カビ、藻類、シダ類、高等植物、両棲動物、鳥類、哺乳動物等の放射線感
受性を、細胞レベル若しくは核酸レベルで比較した研究結果を発表し、その中で、
ムラサキツユクサのおしべの毛細胞と哺乳動物の細胞の放射線感受性が類似してい
ること、すなわち、人類、ハムスター、モルモツト等哺乳動物の細胞の生存率を三
七パーセントに低下せしめる線量が一〇〇レムないし一八〇レムであるのに対し、
ムラサキツユクサのおしべの毛細胞の同様な線量は一七〇レム(二倍性、同一染色
体を一対ずつ有するもの)又は一九〇レムないし三〇〇レム(四倍性、同一染色体
を二対ずつ有するもの)であつて、二倍性ムラサキツユクサと哺乳動物とはほぼ同
程度の放射線感受性、四倍性ムラサキツユクサでは哺乳動物と同程度若しくは若干
抵抗性ですらあつたことを示したこと、遺伝子の可変性に関する比較も、スパロー
博士らによつて昭和五一年(一九七六年)に行われたが、それによれば、特定遺伝
子の自然突然変異率を一〇万個の細胞当たりの突然変異数で求めると、ハムスター
の細胞では〇・四ないし二六であり、一方ムラサキツユクサのおしべの毛細胞では
三・七ないし二三(標準株)であつて、両者の遺伝子の可変性もほぼ同程度と結論
されたことがいずれも認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
そして、原告らは(1)右ムラサキツユクサ等の実験結果に照らし、人類の場合に
も放射線の被ばく線量が、これ以下では障害が起こらないという、いわゆる「しき
い値」の存在は極めて否定的となる。(2)スタングラス博士により、アメリカの
イリノイ州のドレスデン原子力発電所周辺地域で幼児死亡率等が右原子力発電所か
らの放射性気体廃棄物の廃棄と平行関係を示すという結果が報告された。
(3)昭和三〇年代(一九五〇年代後半)、イギリスのスチユワート博士らが妊娠
中に下腹部若しくは骨盤部に診断用照射を受けた母親から出生した幼児が、対照群
に比して高い白血病死亡率を示すと報告し、続いてアメリカのフオード博士も同様
な調査結果を発表した。(4)更に、アメリカのマクマホン博士は昭和三七年(一
九六二年)にアメリカの北東部の大きな病院における計約七〇万組の母子(うち約
七万組が医療用放射線を妊娠中の下腹部に数レム以内の被ばくをした。)について
の記録を統計的に調査した結果、被ばくと白血病発生率とに関連性がある旨発表し
た。(5)広島、長崎に投下された原子爆弾による晩発性障害についても、昭和四
六年(一九七一年)までに低線量被ばくの影響に関する新しい知見が得られた。す
なわち、石丸博士らの調査によれば、被爆者における白血病の発生率と推定被ばく
線量との関係がほぼ直線的であり、両市の結果を合わせると、いわゆる「しきい
値」が認め難いことを示した。(6)千葉県市原市で起こつたイリジウム被ばく事
故では一〇ラドないし二五ラド程度の被ばく者に造血機能異常、染色体異常、精子
減少症、皮膚炎等の障害が発生した。(7)以上の事実に照らせば、人類には「し
きい値」は存在しないと考えねばならない旨主張し、証人aも右主張に添う証言を
する。なお、前顕甲第六四、六五号証、第六七号証、第二六六号証、成立に争いの
ない同第九八、九九号証は右主張に添うものである。
しかしながら、前顕甲第六四号証、第九八号証、第一〇一号証、第二六六号証、成
立に争いのない乙第九三、九四号証、第一三四号証、弁論の全趣旨により真正に成
立したものと認める同第一〇四号証、第一三二号証、並びに証人p2の証言及び弁
論の全趣旨によると、(1)前記動物実験の場合は、いずれも照射線量が自然放射
線の量に比べて極めて高いものであり、また、植物実験の場合も、最も照射線量が
少ないものでも、自然放射線の数倍程度の線量を極めて短時間に照射したものであ
ること、なお、前記人類とムラサキツユクサとの放射線の感受性の同一性を示した
実験も微量放射線に対する感受性ではなく、一〇〇レムを超える線量に対する感受
性であること、そして、植物の細胞と人間の細胞とでは代謝条件や反応条件も異な
り、遺伝機構の回復及び淘汰能力も異なること、したがつて、動植物での実験のデ
ータをそのまま人間に適用することはできないこと、現在のところ、どの程度の放
射線を被ばくした場合に人類に障害が発生する可能性があるかは必ずしも詳らかで
はなく、動物についての実験データを参考として人の障害について推論がなされて
いるのが一般であること、(2)スタングラス博士の報告については、データの取
り方等に問題があり、必ずしも信頼できるものではないこと、(3)スチユワート
博士、フオード博士、マクマホン博士の各調査報告は、いずれも胎児、乳幼児の放
射線被ばくについてのものであるが、これらの被ばく者の放射線感受性は、成人の
場合と同視できないし、更に、これらの被ばく者が受けた放射線量も正確には握し
たものとはみられないので、右各調査結果を直ちに微量放射線の被ばくの場合に適
用できるとはいえないこと、(4)石丸博士らの原子爆弾被爆者の調査について
は、同一資料の解析の結果、広島においては二〇ラドないし五〇ラドの被ばく者に
おいて白血病が有意に上昇し、長崎では一〇〇ラド(ほとんどすべてがガンマ線)
にしきい値があるとする見解が同じ研究グループによつて発表されていること、し
かるに原告ら主張の如き異なる解析の結果がでたことについての理由の説明がなさ
れていないこと、(5)千葉県でのイリジウム事故は一点のイリジウム線源の至近
場所で起居して、被ばくした事例であり、被ばく者の被ばく線量も平均全身線量を
推定したものであるに過ぎないもので、特定の組織や臓器だけが多量の被ばくをし
た、いわゆる不均等照射であつた蓋然性の強い状況にあつたこと、したがつて、右
事故において、被ばく線量と障害との関連に多大な意味をもたせることはできない
ことがいずれも認められる。したがつて、前記原告らの主張に添う証拠は直ちに採
用できず、他に原告らの前記主張を肯認できる証拠はない。
(二) 人類の突然変異の倍加線量の推定値について、昭和三三年(一九五八年)
の国連科学委員会報告では三〇レム、昭和三七年(一九六二年)の同報告では、一
五レムとされていること、昭和三一年(一九五六年)のイギリス医学会議は一五レ
ムないし二〇レムとしたことについては、いずれも当事者間に争いがない。
また、前顕甲第三五号証、第六四号証、第一〇七号証、第二六六号証及び証人aの
証言によれば、ムラサキツユクサのおしべの毛の突然変異倍加線量は多くの場合数
レム程度であり、最小の値はスパロー博士が得たほぼ一レムにすぎず、最高値でも
十数レムであること、シヨウジヨウバエの精原細胞の場合の八レムという値がある
ことが認められる。右認定に反する証拠はない。
原告らは、更に、広島、長崎における原子爆弾被爆者の白血病の発生に関する石丸
博士らのデータに、数学的に最適な直線を求めると、ほぼ九・五レムの白血病倍加
線量が計算され、ヘソペルマン博士の一九六八年の報告によれば、二〇ラド程度が
甲状腺瘤の倍加線量とされている旨主張し、証人aが右主張に添う証言をする。な
お、前顕甲第六四号証、第九九号証、第二六六号証、成立に争いのない同第一〇六
号証は右主張に添うものである。しかしながら、前記のとおり広島、長崎における
原子爆弾被爆者の白血病発生については、同じ研究グループの解析の結果、広島で
は二〇ラドないし五〇ラド、長崎では一〇〇ラドにしきい値があるとする報告がな
されていることに照らし、広島、長崎の原子爆弾被爆者の白血病の発生に関する倍
加線量についての原告らの主張に添う証拠は、直ちに採用できない。また、前顕甲
第一〇六号証によれば、ヘンペルマン博士が報告した事例は、胸腺肥大症のエツク
ス線治療の際の散乱線によつて、甲状腺が二次的に被ばくしたものであり、その被
ばく線量は右治療に際して実測されたものではなく、種々の仮定に基づく計算によ
り、求めたものであることかうかがわれるから、ヘンペルマン博士の示す甲状腺瘤
の倍加線量の正確性を直ちに認めることは困難である。その他原告らの右主張事実
を認めるに足る証拠はない。
ところで、原告らは、右倍加線量の考え方に基づき、遺伝的障害や晩発性障害の発
生が一〇レム前後の放射線被ばくにより倍加し、また、倍加線量以下でもその線量
に応じた遺伝的障害や晩発性障害が発生するから、許容被ばく線量等は極めて危険
である旨主張する。そして、前頭甲第三五号証、成立に争いのない乙第七二号証に
よれば、当事者間に争いのない昭和四五年(一九七〇年)にアメリカのゴフマン、
タンプリン両博士が発表したアメリカ国民の放射線被ばくによるガン死亡者数の推
定及びアメリカ原子力委員会(AEC)から委託されたアメリカ科学アカデミー
(NAS)の電離放射線の生物効果に関する諮問委員会(BEIR委員会)が、昭
和四七年(一九七二年)一一月に発表した「低線量電離放射線被ばく集団に対する
影響」と題する報告(BEIR報告)も、右原告らの考え方と同じ立場でなされた
ものであることが認められる。
しかしながら、倍加線量の考え方は、放射線障害の発生率が自然発生率に対して二
倍になる放射線被ばく線量をもとにして、ある被ばく線量での障害の発生率を算定
できるとするものであり、これが適用されるためには、右のある被ばく線量を含む
線量域において、線量と障害との発生率の関係が、直線性を示すことを前提とする
ものであることについては当事者間に争いがない。しかるところ、前示のとおり人
類については、まだ「しきい値」の不存在が確認されていないから、ひいては低線
量域においては、右の直線性の存在が確認されず、したがつて、人類について低線
量域における放射線障害発生率を倍加線量の考え方によつて算出することは困難で
ある。
そして、前顕甲第三五号証、乙第七二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したも
のと認める同第一〇六号証並びに証人p2の証言及び弁論の全趣旨によると、アメ
リカ原子力委員会は、右ゴフマン、タンプリン説はアメリカ、国民の全部が年間
〇・一七レムの放射線の被ばくを受けるという仮定に立つばかりでなく、低線量の
放射線の影響をも過大に評価しているとして、年間平均線量限度の引き下げは必要
でないものとしていること、また、アメリカ放射線防護測定審議会(NCRP)
も、BEIR報告のリスクの推定値は、実際のリスクより過大な値になつているも
のとして、年間平均線量限度の引き下げは必要でないとしていることが認められ、
これに前記人類についての低線量被ばくによる障害の発生について、線量と障害発
生の関係とが明らかでないことを考えるならば、右ゴフマン、タンプリン説、BE
IR報告のとつた立場が、いずれも実際の放射線障害発生を推定したものであると
の前提に立ち、更に、これと同じ見地に立つ倍加線量の考え方から、後記のICR
Pの勧告値や、我が国の許容被ばく線量が極めて危険なものであるとする原告らの
主張は採用しがたい。
しかしながら、人類について低線量、微量線量域における放射線被ばくによる影響
が判明せず、しかも、動植物において低線量、微量線量域における放射線被ばくの
影響が判明している以上、人類の安全のためには「しきい値」が存在しないとし、
倍加線量の考え方に立つて、できる限り放射線による被ばくを防止し、もつて放射
線による障害からの防護を図るのが望ましいことであり、成立に争いのない乙第二
三号証により認められるICRPの勧告もその趣旨に基づくものであるが、立法又
は行政機関において、電力の供給その他の公共の必要があることから、その危険性
の証明があつた線量の最低値よりも更に数十分の一の低い線量の限度を、許容被ば
く線量として定めることは、望ましくはないとしても、違法の問題は生じない。
(三) 我が国における一般人に対する許容被ばく線量は、告示二条により一年間
につき〇・五レム(五〇〇ミリレム)と定められていることについては当事者間に
争いがなく、右許容被ばく線量は前記(一)、(二)により人類に対する危険性の
証明のない線量であることは明らかであり、成立に争いのない乙第二四号証、第六
七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同第八二号証によれば、
電力需要者に対する安定した電力供給のためには本件原子炉が必要であることが認
められる。右認定に反する証拠は採用しない。
原告らは、我が国の許容被ばく線量は、公的機関でないICRPの勧告した線量限
度を採用したものであるが(右については当事者間に争いがない)、ICRPは昭
和四〇年(一九六五年)以来生物学的、医学的見地に基づき線量限度を勧告する姿
勢を放棄し、原子力産業の要請に合致する方向へと変質して、現在では原子力産業
が経済的に成り立つ範囲で許容基準を定め、被ばくを不当に正当化している旨、し
かも、我が国の許容基準はICRPの勧告よりも緩やかである旨、アメリカでは一
九七七年一月六日環境保護局(EPA)によつて新しい基準が設定され、この基準
は一般人の年間被ばく線量を全身〇・〇二五レム、甲状腺〇・〇七五レムに抑えよ
うとするもので、違反者には法的制裁を加えうるものとしている旨、したがつて、
我が国の許容被ばく線量は高基準であり、不当、違法である旨主張し、証人aが右
主張に添う証言をする。なお、前顕甲第六四、六五号証も右主張に添うものであ
る。なお、また、アメリカの環境保護局(EPA)が新しい基準を設定したとの点
については当事者間に争いがない。
しかし、前顕乙第二三号証、成立に争いのない同第二五号証、弁論の全趣旨により
真正に成立したものと認める同第一〇七号証並びに証人p2の証言によれば、IC
RPは昭和三年(一九二八年)に発足したもので、放射線医学、物理学、生物学、
遺伝学等放射線防護に関する権威者によつて構成されており、科学的立場から放射
線防護に関する勧告を行つている機関であること、ICRPは公衆に対する線量限
度を勧告するに当たつては、放射線による障害について、しきい値があるかもしれ
ないことを認めながらも、どんなに低い線量でも障害が発生するかも知れないとい
う仮定の下に、原子力の利用によつて得られる利益からみて、社会が容認できる程
度の放射線量を線量限度とし、具体的には、エツクス線やラジウムその他の放射性
物質の使用経験、人類その他の生物の放射線障害に関する知識に照らして、身体的
障害、遺伝的障害の発生する確率が無視し得る程小さい線量を社会的に容認できる
線量限度として勧告していること、そしてこれと同時に、ICRPは、いかなる不
必要な被ばくも避けるべきであること、及び経済的、社会的な考慮を計算に入れた
上、すべての線量を、容易に達成できる限り低く保つべきである旨を併せて勧告し
ていること、ICRPが定めた許容基準は、アメリカ、カナダ、ソ連、西ドイツ、
イギリス等の諸国において採用されていること、アメリカの環境保護局(EPA)
が定めた基準は、ウラン燃料サイクルからの放射性排出物によつて生ずる虞れのあ
る一般公衆の被ばくの防護規準を明確に規定することによつて、現行の連邦放射線
防護指針を補うもので、数値的には右指針より低い値であるが、右指針の改正を求
めているものでないことがいずれも認められる。また、前記争いのない事実によれ
ば、ICRPは一般公衆に対する基準について「線量限度」という概念を使用し、
我が国の告示は、「許容線量」という概念を使用していることが認められるが、し
かし、我が国の告示の解釈としては、許容線量を超える被ばくを与えることは違法
とし、しかもその線量内での被ばくもできる限り少なく抑える趣旨と理解すべきで
あるから、我が国の基準がICRPの勧告より緩やかであるとはいえない。以上に
より前記原告らの主張に添う証拠は採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証
拠はない。
したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
二 本件原子炉の平常運転時における放射性物質管理
1 平常運転時における被ばく評価値とその危険性について
(一) 本件原子炉の設置許可処分に当たりなされた安全審査において、本件原子
炉から平常運転時に放出する気体廃棄物による被ばく評価は、周辺監視区域(予
定)外において、ガンマ線被ばくが最大となるのは、原子炉から南約七五〇メート
ルの地点であり、年間の被ばく線量は、約〇・六ミリレム(ベータ線被ばく線量約
一・五ミリレム)であり、また、液体廃棄物については、全身被ばく年間約〇・〇
一ミリレムとされたことについては当事者間に争いがない。
(二) 原告らは、右について、全身被ばく線量を評価する場合には、ガンマ線に
よる被ばくと、ベータ線による被ばくとは区別すべきではなく、これらの被ばくは
合算すべきであり、ICRPもそのように勧告している旨及び右平常時被ばく評価
値程度の被ばくでも、倍加線量の考え方からして周辺住民にとつて極めて危険な線
量である旨主張するが、ICRPが体外被ばくについて、原告ら主張の如き勧告を
なしたことを認めるに足る証拠はないのみならず、証人p2の証言によると、原子
力発電所から放出される気体廃棄物に含まれる放射性物質から放出されるベータ線
のほとんどは、低エネルギーのものであり、透過力が小さいために、右ベータ線に
よつて被ばくするのは皮膚のみであるから、右ベータ線による被ばくと透過力の大
きいガンマ線による全身被ばくとは、区別して評価すべきであつて、これを合計し
たものを全身の被ばく線量と考える必要はないことが認められ、右認定を左右すべ
き証拠はない。なお、前記本件原子炉の平常運転時における被ばく評価値は、現在
の知見の下では、人類に対して何らかの障害を与えると考えられる放射線量ではな
いこと、したがつて、倍加線量の考え方に立つてその危険性を評価すべき数値に当
たらないことは前記一での認定に照らし明らかである。以上のとおりとすると、本
件安全審査において右評価値をもつて安全と評価したことは相当であると認められ
る。
2 気体廃棄物の放出過程、被ばく評価について
(一) 本件許可処分に際しての安全審査の結果、本件原子炉の平常運転時におけ
る気体廃棄物の放出量、放出過程、被ばく評価方法、被ばく値が、被告の主張第三
章の第二の一、
本件原子力発電所の平常運転時における放射性物質の放出管理における安全性の確
保の(三)の(1)記載のとおりに評価されたことについては当事者間に争いがな
い。
(二) (1)一次冷却水中に放射性物質が現われる原因としては、燃料の燃焼に
伴つて、燃料棒中に生成される放射性物質(主として、クリプトン、キセノン等の
希ガス)が、燃料被覆管に生じたビンホール等から一次冷却水中に漏洩することに
よるものと、一次冷却水中に含まれている空気や、容器、パルブ等の材料の腐食生
成物(コバルト、マンガン等)が、中性子の照射を受けて放射化され、放射性物質
になるものとの二つがあること(2)燃料の燃焼に伴つて生成する放射性物質が、
一次冷却水中へ漏洩することを防止するため、燃料の二酸化ウランの粉末を小さな
円柱状に成型したうえ、高温で焼き固めて燃料ペレツトにしたうえ、これをジルコ
ニウム合金製の燃料被覆管中に挿入し、右燃料被覆管は溶接によつて端栓されるこ
と(3)本件原子炉から放出することとなる放射性物質には、放射性希ガス、放射
性ヨー素、粒子状放射性物質があること(4)補助建家からの気体廃棄物の放出に
よる被ばく評価については気象手引に定める簡便法を用いたこと(5)本件被ばく
評価に当たり気象等をは握するための現地実験はしていないこと(6)本件被ばく
評価で利用した風洞実験は、縮尺一〇〇〇分の一のものであつて、その風洞に毎秒
一メートルの風速で風を送つて実験がなされ、高森、平碆、伊方変電所の三地点の
風向、風速特性の相関関係をみたが、右実験の結果排気口出口の風速が高森地点の
〇・六倍となつたこと(7)大気安定度はD型として本件被ばく評価がなされたこ
と(8)微粒子状放射性物質による被ばく評価はなされなかつたことについてはい
ずれも当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第一号証、第一一二号
証、乙第一号証の一、二、第四、五号証、第一五号証、第三二号証、第三四号証、
第三六号証、第八八、八九号証、第一〇二号証、第一三七ないし第一三九号証、原
本の存在並びに成立に争いのない甲第八九号証、第二一七号証、弁論の全趣旨によ
り真正に成立したものと認める乙第八七号証、証人x、同n、同o、同t一郎の各
証言並びに検証(第一、二回)の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)燃料
ペレツトは二酸化ウランを千数百度C以上の高温で焼き固め、物理的にも化学的に
も安定している一種の磁器であること、燃料被覆管の材料である、ジルコニウム合
金は機械的強度、耐熱、耐放射線性、耐食性に優れたものであること、したがつ
て、燃料の燃焼に伴つて生じた放射性物質は燃料ペレツトの中に保持され、更には
燃料被覆管内に閉じ込められているので、放射性物質の一次冷却水中への漏洩は防
止されるようになつていること、(2)一次冷却水中で放射性物質を生ずる原因と
なる一次冷却水中の不純物は、主として一次冷却水が接する機器や、配管の内面等
が腐食することによつて生ずるものであるから、本件原子炉においては、一次冷却
水に触れる原子炉圧力容器内面や、配管類は、すべて耐食性の強いステンレス鋼、
インコネル、ジルコニウム合金等を使用するとともに、一次冷却水の水質を管理し
て、腐食の生じ難い状態を保つことによつて、一次冷却水中の不純物の発生を抑制
していること、(3)本件被ばく評価に当たつては、燃料被覆管の破損率を、年平
均一パーセントと仮定したこと、これは、当時本件原子炉と同型の原子炉(ゾリー
タ炉、ギネ炉、ベズナウ一号炉、ポイントビーチ一号炉、美浜一号炉等)における
右破損率の実積値が、年平均約〇・二五パーセントであつたことを踏まえて検討し
た結果、平常運転時における右破損率は、年平均一パーセントとすれば十分である
と判断したためであること、右破損率は、近年の同型炉の実績からみても、実際の
破損率以下になると考えられていること、(4)加圧水型である本件原子炉におい
ては、一次冷却水は、原子炉圧力容器、蒸気発生器、一次冷却材ポンプ及びこれら
を連結する配管からなる閉回路内を循環しており、蒸気発生器二次側から、タービ
ン、復水器、給水器を経て蒸気発生器二次側へと循環する二次冷却水とは隔離され
ているため、一次冷却水中に現われた放射性物質は、一次冷却水とともに一次冷却
系内に保持されること、また、右閉回路には化学体積制御設備が設けられているた
め、一次冷却水中に現われた放射性物質は、右閉回路を循環する過程において、化
学体積制御設備のもつ脱気機能(気体状のものを分離する機能)、脱塩機能(冷却
水中のイオン状不純物を分離する機能)によつて、一次冷却水から分離、抽出され
ること、右化学体積制御設備において一次冷却水から分離、抽出された放射性物質
は、水質検査のため一次冷却水とともに抽出した放射性物質や一次冷却系のポン
プ、バルブ等から一次冷却水とともに漏洩した放射性物質等とともに、その性状に
応じて、気体、液体及び固体廃棄物として処理されること、(5)一次冷却系閉回
路の施設は、円筒部の厚さ約三・五センチメートルの鋼鉄製の容器の、更に、その
外周に鉄筋コンクリート製の外周コンクリート壁が設置された格納容器の中に納め
られていること、右格納容器は、貫通するパイプに隔離弁を設けるなどして気密性
を保持する(設計漏洩率〇・一パーセント/日)ようになつていること、右漏洩率
は定期的及び必要に応じて検査できるようになつていること、(6)本件原子炉に
おいて発生する気体廃棄物は、前記化学体積制御設備において、一次冷却水から分
離、抽出したものや、余剰となつた各種タンクのカバーガス及びポンプやバルブ等
からの漏洩水から発生するもの等であること、この気体廃棄物中に含まれる放射性
物質は、その大部分がキセノン一三三、同一三五、同一三八、クリプトン八五、同
八七等の希ガスであり、そのうちのほとんどはキセノン一三三であること、(7)
燃料被覆管の破損率を前記のように仮定して評価した結果、ガス減衰ダンクからの
排気される放射性物質は年間約九二四〇キユリー、格納容器からの換気によるもの
年間約三一〇〇キユリー、補助建家からの換気によるもの年間約八二二〇キユリ
ー、合計年間約二万〇六〇〇キユリーとなつたこと、(8)本件原子炉において
は、右気体廃棄物のうち、化学体積制御設備において一次冷却水から分離抽出した
もの及び各種タンクのカバーガスは、いずれも補助建家内にあるガス減衰タンクに
導き貯留すること、そして一次冷却水から分離、抽出したものは、三〇日間以上貯
留し、これに含まれる放射能を十分減衰させた、後(ガス減衰タンクにおける三〇
日間の貯留によつてキセノン一三三は約五〇分の一に減衰し、同一三三及びクリプ
トン八五以外の放射性希ガスはほとんど零となるため全体としては約四〇分の一に
まで減衰する)、一五日以内に風向きが海側であつて、かつ、風速が毎秒五メート
ル以上の時を選んで、放射線モニタで監視しながら、原子炉補助建家排気筒から放
出することとし、気象条件が悪く一五日以内に海側に放出することかできない場合
には、一五日貯留後、すなわち四五日減衰後海側、陸側を問わず右同様の方法で放
出することとしていること、しかしながら、被ばく評価に当たつては、四五日減衰
後の気体廃棄物はすべて陸側に放出されるものと仮定して被ばく評価したこと、な
お、ガス減衰タンクからの放出回数は年間二〇回とし、そのうち陸側へ風の吹く確
率は四回であり、更に、そのうち着目方向(風向き北)への風向きがでるひん度は
三回としたこと(右については当事者間に争いがない)、これは、現地の気象条件
について、気象観測データから任意に摘出したところの引き続いた一五日間に、風
が海側へ向かつて吹き、その風速が伊方発電所で毎秒五メートル以上であることの
各条件を同時に充たさない状態の出現する確率が一〇パーセント以下であつたの
で、評価上の安全率を考慮して、その確率を二〇パーセントとし、最多生起度数を
考慮して、右評価をなしたものであること、(9)また、各種タンクのカバーガス
は、原則として再使用されることになつているが、余剰となつて放出される場合に
は、右の一次冷却水から分離抽出したものと同様に処理されることとなつているこ
と、また、被ばく評価に当たつては原則として再使用されることを考慮せず、すべ
て放出されるものと仮定して被ばく評価したこと、(10)本件原子炉には気体廃
棄物の四五日分の発生量約六〇立方メートルを十分収容し得るガス減衰タンク四基
(他に予備二基)を保有していること、(11)気体廃棄物中格納容器内及び補助
建家内のポンプやバルブ等からの漏洩水から発生するもののうち、格納容器内に漏
洩したものについては換気時に、補助建家内に漏洩したものについては連続的に、
それぞれ排気筒から、いずれもフイルターを通過させた後、放射線モニタで監視し
ながら放出することとされていること、(12)格納容器から放出される排気につ
いては、格納容器からの放出回数を補修作業や燃料取替作業及び格納容器の減圧操
作の回数を考慮したうえ、年間一〇回と仮定するとともに、放出に当たつては、原
則として海側に放出することとしているが、安全側に立つて海側、陸側を問わず無
差別に放出するものと仮定して被ばく評価をしたこと、なお、右年間一〇回の放出
のうち、着目方向へ向かうのは五回を超えないとして被ばく評価したが(右につい
ては当事者間に争いがない)、右は前記ガス減衰タンクからの放出についての風
向、風速についての確率から考えて、不合理ではないこと、(13)補助建家の換
気に伴う排気については、補助建家内のポンプ、バルブ等からの漏洩水はすべて放
射性物質濃度の高い一次冷却水とみなし、時間による放射能の減衰効果も無視する
こととして被ばく評価したこと、なお、補助建家からの気体廃棄物の放出による被
ばく評価については、前記のとおり簡便法により行われたが、簡便法は、気象手引
の定める方法であり、しかも気象手引の定める通常の方法によつた場合にほぼ近い
結果が得られるものであること、(14)本件原子炉から環境へ放出されることと
なる気体廃棄物の拡散及び希釈については、その放出の高さや現地における気象観
測データ等から求めた風速、大気安定度を基に、パスキルの拡散式を用いて評価し
たこと、なお、右拡散式は原則として周囲が平坦地の場合に適用される式である
が、排ガスが遠方の独立峰に直接当たるような特殊な地形でない限り、排気筒の高
さを適切に補正することによつて平坦地でない場合にも適用できるものであり、本
件敷地はパスキルの拡散式の適用できない地形ではなく、本件被ばく評価に当たつ
ては、風洞実験の結果によつて気体廃棄物の放出の高さの補正を行つたこと、(1
5)右風洞実験は本件原子炉施設を中心とする地形を模擬した直径二・八メートル
の模型によつてなされたもので、その結果、本件原子炉から放出される気体排気物
の敷地境界における濃度パスキルの拡散式によつて求めるためには、右拡散式に用
いる放出の高さを実際の放出の高さの〇・六倍すればよく、かつ、敷地境界以遠で
もこの放出の高さを用いれば被ばく評価として安全側であることが判明したこと、
そのため本件被ばく評価に当たつては、放出の高さを排気筒の高さ約七〇メートル
に約一〇メートルの吹き上げ高さを加えた約八〇メートルを〇・六倍した四七メー
トルと仮定したこと、なお、風洞実験には、東洞技術の確立、相似性の追求、模型
実験の精度の向上等の研究課題が残されているが、風洞実験に右のような研究課題
が残されているからといつて、直ちに風洞実験の手法が確立していないとか、実用
に供し得ないというものではないこと、本件風洞実験と現実の風向及び風速の観測
データとはよく一致し、被ばく評価に必要な大気の拡散、希釈の状況をは握するう
えから妥当なものであつたこと、なお、前記風洞実験の結果の報告書中には「排出
ガスの上昇の高さは、相似則の制約上縮尺率一〇〇〇分の一の模型では実験できな
いため、あらかじめ上昇の高さをホランドの式によつて算出し、上昇の高さを排気
筒の高さで補つた」との記載があるが、これは本件原子炉から放出される気体廃棄
物による被ばく評価をする上で必要な本件原子炉の周辺環境をは握するためには、
排出ガスの吹き上げの高さについてまで正確に模擬した模型を使用して風洞実験を
行わなくとも、排気筒の高さを模擬し、右吹き上げの高さをホランドの式によつて
求めることによつて補足すれば十分であるところ、右は排気ガスの吹き上げの高さ
について、妥当な補正が行われたことを示すものであること、風洞実験は、被ばく
評価に必要な大気の拡散、希釈の状況をは握するためのものであるから、本件敷地
とその付近である高森、平碆及び伊方変電所の三地点について卓越風が南向きの風
であることを踏まえ、高森は伊方周辺の風向、風速を代表する地点として、平碆は
排気筒に近い地点として、また、伊方変電所は地形の影響を大きく受けるおそれの
ある地点として、いずれも選定されたものであり、右三地点についてのデータを得
れば足ること、被ばく評価上着目すべき方位は、上空風向北の場合であるから、上
空風向西の場合は多少相関関係が悪くも問題がないこと、本件風洞実験において
は、現地の、実際に気象観測用風向風速計を設置した地点(高森、伊方変電所、平
碆)及び排気筒出口予定地点にそれぞれ相当する模型上の位置の風向き及び風向き
の振れ幅を読み取り、右各地点相互の風向特性を調べた結果、特に問題となる陸地
方向の風については、排気筒出口における風向と高森地点における風向との相関が
よいことが分かつたため、気体廃棄物の濃度分布を求めるに当たつては、高森地点
の風向きひん度を使用することが妥当であると判断されたこと、本件風洞実験にお
いて、風速特性を調査するに当たり、前記風向特性を調べた場所と同じ測定点に、
定温度式熱線風速計プローブを設置して風速を測定し、右各測定点間の風速相関を
調べた結果、いかなる風向きの場合でも、排気筒上方の風速は前記のとおり高森地
点の六〇パーセント以上であることが判明したこと、本件風洞実験の結果の合理性
について格別な疑義は存在しないこと、(16)現地における気象観測データでは
大気安定度D型の出現する割合が全体の約七〇パーセントに達している上、大気安
定度E型及びF型の出現する割合は、大気安定度A、B、C各型の出現する割合の
四分の一程度とみられるので、年間の被ばく評価に当たつては、D型で代表させて
評価を行つた方が、各大気安定度の出現ひん度に応じて評価する場合よりも安全側
の評価となること、(17)現地における気象観測データでは、気象手引による静
穏時、すなわち、在来計器による風速の観測値が毎秒〇・四メートル以下のとき
も、同時に測定していた精度の高い微風向微風速計によれば、実際にはほとんど毎
秒〇・五メートル以上の風速であり、真の静穏時の出現ひん度は極めて少ないこ
と、右静穏時の存在は年間の被ばく評価には事実上影響がないと判断されたこと、
(18)気象手引の解説「III観測、調査事項」には、原子炉設置前の拡散気象
に関する観測、調査項目の一つとして、局地性の調査をあげ、その調査方法とし
て、発煙実験、測風気球及び模型実験の三つを例示するとともに、右発煙実験につ
いての注記において「拡散実験をすることが望ましい」としているが、右は拡散気
象に関する局地性の調査について、常に拡散実験をすることを要求しているものと
はみられないこと、本件敷地においては特に現地実験を行う必要性は存在しなかつ
たこと、(19)前記のように、本件原子炉から放出することとなる放射性物質に
は放射性希ガス、放射性ヨー素及び粒子状放射性物質があるが、これらの量及び構
成比は原子炉の運転方法等により多少の差異はあるものの、同型の原子炉について
はほぼ一定であり、前記放射性物質のうちで放出量が最も多く、かつ、全身被ばく
線量に最も寄与するものは希ガスであつて、この希ガスの放出量に比べればヨー素
及び粒子状放射性物質の各放出量はいずれも無視できる程度に少なく(いずれも一
万分の一以下)、かつ、全身被ばく線量への寄与も少ないことから、放射性希ガス
による被ばく線量を求めることによつて許容被ばく線量を下回るかどうか確認でき
ると考えられていること、このため、安全審査における被ばく評価に際しては、放
出される放射性物質の種類及び量が同型の原子炉の場合と比較して差異がないこと
を確認した上、放射性希ガスによる周辺公衆の被ばく線量を求めればよく、その他
の放射性物質による被ばく線量自体を細かい数値に至るまで、計算する必要はない
と考えられていること、右の考え方が妥当であることはICRPの勧告の中にも述
べられていること、本件安全審査においても、右の被ばく評価の考え方に従つて、
先行炉の実積等を検討したうえ、前記のとおり、放射性希ガスによる周辺公衆の被
ばく線量を求め、その他の放射性物質による被ばくはその放出量が極めて少ないこ
と等から無視し得る程度と評価したこと、なお、ヨー素による被ばく線量について
は念のため、みかん摂取による場合について評価したが、人が一日当たり四〇〇グ
ラムのみかんを皮のまま摂取するなどの仮定の下で被ばく評価を行つた結果は、甲
状腺被ばく線量が年間〇・〇七ミリレムと評価されたこと、なお、本件原子炉から
放出されるヨー素による被ばくについては、昭和五〇年に定められた発電所用軽水
型原子炉周辺の線量目標値に関する指針に基づき、伊方二号炉の増設に係る安全審
査の際に評価されたが、右評価によれば、本件原子炉から放出されるヨー素の年間
放出量は、本件原子炉と同型、同出力の伊方二号炉の安全審査における評価値と同
じく約一キユリーであり、これによる甲状腺の被ばく線量は一、二号炉合計でも年
間最大約一〇ミリレムと評価されたこと、(20)以上により計算した結果、本件
原子炉の気体廃棄物による周辺監視区域外における最大全身被ばく線量は前記1の
とおりとなることがいずれも認められる。
もつとも(1)本件原子炉と同型、同出力である九州電力玄海一号炉(右について
は当事者間に争いがない)の場合には、燃料被覆管の破損率を五パーセントと仮定
し、また、本件原子炉でも、蒸気発生細管事故における被ばく評価に際しては、右
破損率を五パーセントと評価していること(2)九州電力玄海二号炉では格納容器
の減圧操作に伴う換気は間けつ放出としていること(3)本件許可処分では四国電
力が財団法人電力中央研究所に依頼してなした風洞実験の結果を利用したこと、財
団法人電力中央研究所は四国電力等九電力の財政援助によつて設立、運営されてい
るものであること(4)右風洞実験では海象、空気の濃度、湿度等の気象条件を模
擬しでいなかつたこと(5)中部電力浜岡原子炉周辺の環境放射線の測定値が請求
の原因第三章の第二の六の2掲記のとおり上昇していること(6)東京電力福島原
子炉、日本原電敦賀原子炉等の周辺の松の葉等からコバルト六〇、マンガン五四等
が検出されたことについてはいずれも当事者間に争いがないが、証人tの証言によ
れば、玄海一号炉の審査当時は本件原子炉の審査に用いられた先行炉の燃料被覆管
破損の実績等が十分得られていなかつたため、右破損率として、運転管理上の上限
値とされている五パーセントとしたこと、また、本件原子炉の燃料被覆管の破損率
が、平常運転時における被ばく評価の場合と、蒸気発生器細管破損事故時の災害評
価の場合とで異つているのは、平常運転時には年間を通じて累積される被ばく線量
を評価するという観点から、年間の破損率の平均値を採つたが、事故時について
は、事故発生時における被ばく線量を評価するという観点から、年間の破損率の最
大値を採つたものであることが認められるので、右(1)の事実は何ら前記認定を
左右するものではない。また、右(2)(3)の事実は前記認定を左右するに足ら
ず、(4)の事実も、前示風洞実験に残されている研究課題の一つではあるとみら
れるものの、前記認定を左右するものではない。次に、右(5)の事実について
は、成立に争いのない乙第七五号証及び弁論の全趣旨によれば、自然放射線量は場
所や季節、更には降雨等の気象条件によつてかなりの変動があること、しかるに、
右環境放射線の上昇は、右の数値の変動を考慮していないので、その上昇値がすべ
て中部電カ浜岡原子炉の運転によるものとは即断できないものであることがいずれ
も認められ、右(6)の事実に、ついては、証人tの証言によれば、前記コバルト
六〇、マンガン五四等の検出例は、いずれも、その放射能濃度が低く、たとえ、こ
れらの放射能を含む植物を長時間摂取しても、人体に影響を及ぼさない程度のもの
であることが認められるから、右(5)(6)の事実はいずれも前記認定を左右す
るものではない。
なお、証人bは、被告がみかんを対象として、ヨー素による被ばく線量を評価した
方式を用いて葉菜類についての評価をすると、小児の甲状腺被ばくは年間一・四レ
ムにも達する旨証言するけれども、前記認定に照し右証拠は採用できない。次に証
人aは、浜岡原子炉周辺におけるムラサキツユクサの実験の結果によれば、同原子
炉から放出された放射性物質による被ばく線量は、一五〇ミリレム相当と考えられ
ること、その原因は放射性物質中のヨー素一三一がムラサキツユクサに付着して濃
縮したことによるものと考えられる趣旨の証言をし、前顕甲第六四ないし甲第六七
号証、第二二六号証も同旨のものである。
しかし、前顕同第六四、六五号証、第二六六号証、乙第七五号証、成立に争いのな
い同第一〇八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同第一〇九号
証及び証人aの証言によれば、ムラサキツユクサのおしべの毛は放射線のみなら
ず、温度、湿度、日照、化学物質等に対しても感受性が強いものであるのに、右の
ムラサキツユクサの実験では放射線以外の要因の定量的分析はなされていないこ
と、ムラサキツユクサの実験で数ミリレム程度の微量放射線の影響を調査するのに
必要だとされている数のムラサキツユクサのおしべの毛の観察は右実験ではなされ
ていないこと、なお、静岡県衛生研究所等が同原子炉周辺で実施した環境試験測定
の結果によつても、ヨー素一三一は検出されなかつたこと、右ムラサキツユクサの
実験者も前記一五〇ミリレムがヨー素による被ばくの結果であることの確認を行つ
ていないことがいずれも認められるので、前記証人aの証言及びこれと同旨の各証
拠は直ちに採用できない。
原告らは、更に、近時のように、原子炉の事故その他がひん発すれば、補修作業の
回数が増加し、格納容器換気回数もそれだけ増加するので、格納容器からの予定放
出回数を年間一〇回とすることは根拠がない旨、また、本件原子炉の炉心核設計、
同熱設計が不確かであり、更に、請求の原因第四章の第二の二の4掲記の燃料損傷
事故発生の現状に照し、本件原子炉でも、炉心設計、燃料に起因する事故の発生は
免れず、その結果、平常運転時における放射線の放出量は増大し、ひいては、周辺
住民の被ばく線量は本件安全審査における評価値を超すことは避けられない旨、な
お、本件原子炉における蒸気発生器細管損傷は免れ難いところであり、その結果、
周辺環境へ放出される放射性物質の量が増大し、ひいては、周辺住民の被ばく線量
も本件安全審査における評価値を超すことは避けられない旨主張する。しかし、ま
ず、格納容器からの放出回数は、事故による補修作業をも考慮して決められたもの
であるのは前記のとおりであり、原子炉において、過去に機器の補修を要する事故
が発生していることについては当事者間に争いがないが、本件原子炉の右放出回数
では事故による補修作業のため不足であると認めるに足る証拠はない。また、本件
原子炉における炉心設計、燃料及び蒸気発生器細管については、いずれもその健全
性が保持できるとした本件安全審査における判断は相当であると認められることは
後記(第四の二の2、3)のとおりである。したがつて、右原告らの主張はいずれ
も理由がない。
その他、前記本件原子炉の平常運転時における気体廃棄物の放出、拡散、被ばく評
価等についての認定を左右するに足る証拠はない。
(三) そして、前記争いのない事実及び認定事実に照らせば、本件安全審査にお
ける気体廃棄物による被ばく評価は相当であると認められる。
(四) なお、原告らは、本件許可処分に際し、気体廃棄物の処理設備の構造、機
能等についての審査がなされていない旨主張する。
しかし、本件安全審査において、気体廃棄物の処理設備として、前記のようにガス
減衰タンク六基があるほか、ガス圧縮装置二台等があり、安全であると評価された
ことについては当事者間に争いがなく、前顕乙第一号証の一、二、第五号証及び証
人x、同n、同tの各証言を総合すれば、右についての気体廃棄物の処理設備の基
本設計の審査はなされたこと、その結果は、右安全審査のとおりであることが認め
られ、右認定に反する証拠はない。
そうだとすると、原告らの右主張は理由がないというべきである。
3 液体廃棄物の放出過程、被ばく評価について
(一) 本件許可処分に際しての安全審査の結果、本件原子炉の平常運転時におけ
る液体廃棄物の放出量、放出過程、被ばく評価方法、被ばく値が被告の主張第三章
の第二の一、本件原子力発電所の平常運転における放射性物質の放出管理における
安全性の確保の(三)の(2)記載のとおりに評価されたことについては当事者間
に争いがない。
(二) 前顕乙第一号証の一、二、第五号証、第三二号証、第七五号証、いずれも
成立に争いのない甲第一〇九号証、乙第八六号証並びに証人x、同n、同tの各証
言及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)本件原子炉において発生する液体廃棄物
としては、化学体積制御設備において抽出した抽出水、ポンプ、バルブ等からの漏
洩水、イオン交換樹脂の再生廃液、実験室での分析廃液、床ドレン、従業員の衣類
等の洗濯排水があること、これらの液体廃棄物のうち、化学体積制御設備において
抽出した抽出水やポンプやバルブ等からの漏洩水等は、放射性物質の濃度は高いが
水質は良好なものであるため、いつたんタンクに導き、その後、フイルターによつ
て固形物を取り除き、蒸発装置で蒸留した上、脱塩器によつてイオン状物質を取り
除くなどの浄化処理を行つた後、一次冷却水として原則として再処理すること、イ
オン交換樹脂の再生廃液や実験室において発生した分析廃液等は、放射性物質の濃
度は低いが水質が悪いため、いつたん廃液貯蔵タンクに導き、その後フイルターに
よつて固形物を取り除き、蒸発装置で蒸留したものについては、更に、脱塩器によ
つて放射性物質を取り除いた後、廃液タンクに入れて、放射能測定装置によつて放
射性物質の濃度が低いことを確認した上、放出配管に設置されている放射線モニタ
によつて監視しながら、復水器冷却用海水に混合希釈して排出すること、洗濯排水
等については、通常は、放射性物質をほとんど含んでいないため、洗浄排水タンク
に導き、その後、放射能測定装置によつて放射性物質の濃度が十分低いことを確認
した上、フイルターによつて固形物を取り除いた後、放出配管に設置されている放
射線モニタによつて監視しながら、復水器冷却用海水に混合希釈して排出するこ
と、なお、右の洗濯排水等に含まれている放射性物質の濃度が高い場合には、右の
イオン交換樹脂の再生廃液や実験室において発生した分析廃液等を処理する蒸発装
置に送り、右イオン交換樹脂の再生廃液と同様の処理を行うことにしていること、
(2)本件原子炉において発生する液体廃棄物のうち、外部に放出されるものは右
の如く、一部の廃液と洗濯排水に過ぎず、しかも、右廃液等は、いずれもいつたん
それぞれのタンクに導いた後、放射能測定装置によつて、放射性物質の濃度が低い
ことを確認した上、放射線モニタによつて監視しながら排出することとしているこ
と、(3)右液体廃棄物の年間排出量は、先行炉の実績を考慮して、トリチウム以
外のもの年間約一キユリー、トリチウム年間約五〇〇キユリーを超えることはない
と評価されたこと、(4)右外部に放出される液体廃棄物は、いずれも復水器冷御
用海水に混合希釈した後、放水口から発電所前面海域に放出されること、(5)本
件被ばく評価に当つては、複合モデルにより放水口より四八メートルの海域の放射
性物質濃度を採用し、また、参考のため他のモデルによる計算結果からも被ばく線
量を算出していること、そして、後記((6))のとおり、濃縮係数については、
放水口に住んでいる魚について放射能の濃縮係数として飽和値を使用しているこ
と、本件原子力発電所の液体廃棄物による被ばく評価については外部被ばくを考慮
する必要がないことから、海水中における放射性物質の拡散のは握が右の程度にし
かできなくても、これをもつて不当とはみられないこと、(6)被ばく評価におけ
る一般住民の毎日の海産物摂取量は、東海村の漁業従事者の一日当たりの摂取量を
基にして、財団法人原子力安全研究協会の海洋放出特別委員会において検討された
摂取量を参考として、魚二〇〇グラム、海藻一〇グラム、無せきつい動物二〇グラ
ムと仮定したこと、一般住民が摂取する右の魚等の海産物については、これらのも
のがいずれも一年中放射性物質濃度の高い放水口近傍に生息し続けているものと仮
定したこと、右海産物には世界各国のデータを参考として設定した高い濃縮係数
(飽和値)をもつて放射性物質が濃縮されるものと仮定したこと、(7)船舶や漁
網等に付着した放射性物質による外部被ばくは、内部被ばくに比べて著しく小さい
ものと予想され、あえて評価するまでもなかつたこと、(8)以上により計算した
結果、液体廃棄物による周辺公衆の被ばく線量は前記1のとおりとなること、
(9)なお、液体廃棄物中、トリチウム及びヨー素による被ばく評価値は極めて小
さく、具体的な数字をあげるまでもなかつたことから、これによる被ばく線量は無
視できる程度であると判断したことがいずれも認められる。
次に(1)本件原子炉と同型の先行炉であるアメリカのサンオノフレ発電所及びコ
ネチカツトヤンキー発電所の液体廃棄物の放出実績が別紙三記載のとおりであるこ
と(2)本件原子炉の液体廃棄物による被ばく評価に際して参考とした核種構成比
はアメリカのオコニー発電所の報告書によつていること、しかし、本件許可処分時
には右発電所はまだ稼動していなかつたこと(3)被告が液体廃棄物による外部被
ばく評価をしていないこと(4)美浜原子炉前面海域(いずれも原本の存在並びに
成立に争いのない甲第一〇二号証、第一四四号証によれば、放水口の直近付近であ
ると認められる)で採れたホンダワラから一グラム当たり〇・二ピコキユリーに及
ぶコバルト六〇が検出されたことについてはいずれも当事者間に争いがない。しか
し(1)の事実については、前顕乙第七五号証並びに証人x、同o、同tの各証言
及び弁論の全趣旨を総合すると、右両発電所においては液体廃棄物の処理(例えば
蒸発濃縮装置)が我が国の場合に比べて劣るものであること、我が国と異なり、ア
メリカでは、蒸気発生器細管から放射性物質が多少漏洩した場合でも運転すること
が認められていること、右両発電所の燃料被覆管はジルカロイに比べてトリチウム
が漏洩しやすいステンレス鋼を用いていること等のために、放出実績が大きくなつ
ていることが認められるので、右は前示認定を左右するものではない。次に右
(2)の事実については、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認め
る乙第一四〇号証によれば、被告が本件安全審査において使用したオコニー発電所
の報告書とは、アメリカ原子力委員会が作成した同発電所についての最終環境報告
書であること、したがつて、右アメリカ原子力委員会によつて十分審議され、当時
の実績からみても妥当なものとされたことが推認されるので、右(2)の事実は、
前示認定を左右するに足りない。次に右(3)の事実につき証人bは液体廃棄物に
よる外部被ばくは、内部被ばくの一〇倍にもなる旨証言するが、右証言は、再処理
工場より海水中に放出される液体廃棄物による被ばく評価に基づいているものであ
ることが右証言自体により明らかである。そして、原本の存在並びに成立に争いの
ない甲第一四五号証によれば、再処理工場から海水中に放出される廃液中に含まれ
る放射能による外部被ばくは、内部被ばくの約六倍とも予想されていることが認め
られる。しかし、右同証並びに証人tの証言及び弁論の全趣旨によれば、再処理工
場から海水中に放出される廃液中に含まれる放射能が、最大の場合を想定すると、
三か月当たり六五キユリーとなり、例えば、砂からのトリチウム被ばくは、東海村
周辺の阿字が浦についての放射能濃度を評価し、その被ばく時間を年間五〇〇時間
とし、また、漁網からの被ばくについては、漁網操作海域の放射能濃度として放出
口周辺の直径一キロメートルの円内の廃液による放射能濃度を用い、更に、漁網の
大きさも考慮するなど、種々の仮定をした上で外部被ばく年間(全身)八・三ミリ
レムとしていること、このようにして計算された結果算出された多部被ばく評価値
は、本件原子炉の温排水により被害を受けるとして主張している本件原告らの主張
の内容(原告らは液体廃棄物により被害をうける態様を別に主張していない)から
考えられるところの、外部被ばくを推定すべき事情と比較してみると、その事情に
格段の相違があり、しかも、前記のとおり本件原子炉と再処理工場とでは、海水中
に排出する液体廃棄物に含まれる放射能量にも格段の違いがあることに鑑み、右再
処理工場による外部被ばくを、本件原子炉の外部被ばくの評価の参考とすることは
できないものであることがいずれも認められる。よつて、前記証人bの証言は採用
しない。そして、外部被ばくの評価をしなかつたことの理由は、前示のとおりであ
り、右(3)の事実は前示認定を左右するものではない。次に右(4)の事実につ
いては、証人tの証言によると、当時の美浜一号炉等の運転状態等が明らかでない
うえ、右原子炉と本件原子炉とでは、その前面海域の状況も異なるので、右(4)
の事実をもつて直ちに前示認定を左右することはできない。
なお、原告らは、本件原子炉から放出される液体廃棄物による被ばく評価は、美浜
原子炉前面海域におけるホンダワラ中のコバルト六〇の濃度、サンオノフレ、コネ
チカツトヤンキー両発電所の液体廃棄物の実績に照らすと、年間全身二・六四レム
にもなり、外部被ばくを考慮すると、更に、多量になる旨主張し、証人bは右主張
に添う証言をする。しかし、サンオノフレ、コネチカツトヤンキー両発電所におけ
る液体廃棄物の放出実績が、本件原子炉の被ばく評価の参考にならないこと、美浜
原子炉前面海域で採れたホンダワラ中の放射性物質濃度についても、それを直ちに
本件原子炉の液体廃棄物による被ばく計算の参考とすることはできないこと、本件
原子炉では液体廃棄物による外部被ばくを無視しうることは、前叙のとおりであ
る。したがつて、原告らの右主張に添う証拠は採用できない。
なお、本件原子炉の液体放射性物質排出量を左右する燃料、炉心及び蒸気発生器細
管の健全性の点については前記2の(二)で述べたとおりである。
他に前示認定を左右するに足る証拠は存在しない。
(三) 以上の認定に照らせば、本件安全審査における液体廃棄物による被ばく評
価は相当であると認められる。
4 固体廃棄物の貯蔵、保管等について
(一) 本件安全審査において、蒸発装置濃縮液のうち、一次冷却系で再使用され
ないもの及び雑固体廃棄物は、いずれもドラム缶詰めにして固体廃棄物貯蔵所に貯
蔵、保管されること、使用済樹脂については、当面使用済樹脂タンクに貯蔵される
こと、したがつて、固体廃棄物の貯蔵、保管は安全になされるものと評価したこと
については、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 前顕乙第一号証の二、第五号証、第三二号証、証人x、同n、同tの各証
言及び検証(第二回)の結果を総合すると、(1)本件原子炉において固体廃棄物
として処理されるものとしては、液体廃棄物処理設備の蒸発装置において処理した
結果生じた濃縮廃液、機器の点検や修理等に使用した布きれや紙屑等の雑固体廃棄
物、化学体積制御設備及び液体廃棄物処理設備からの使用済イオン交換樹脂がある
こと、(2)これらの廃棄物のうち濃縮廃液はドラム缶内にセメント固化し、雑固
体廃棄物は、圧縮減容した上、ドラム缶詰めにし、また、使用済イオン交換樹脂
は、使用済樹脂貯蔵タンクに貯蔵し、それぞれ施設内に保管すること、(3)固体
廃棄物の廃棄設備としては、雑固体廃棄物を圧縮するためのベイラ一基、ドラム缶
詰めの装置一基、運搬装置一式、使用済樹脂貯蔵タンク六基等があること、使用済
樹脂貯蔵タンクは発生する使用済樹脂の約五年分の貯蔵能力があること、固体廃棄
物貯蔵所は発生する固体廃棄物を詰めたドラム缶を数年分貯蔵する能力があるこ
と、(4)前記濃縮廃液をセメント固化したドラム缶や雑固体廃棄物を詰めたドラ
ム缶は、いずれも本件原子炉の敷地内に設けられた固体廃棄物貯蔵所に貯蔵、保管
されるので、右ドラム缶中の放射性物質が漏出することによつて、周辺公衆に放射
線障害を及ぼすような危険性はないこと、また、右使用済樹脂貯蔵タンクは、腐食
しにくいステンレス鋼を使用するとともに、コンクリート建家内に設置されている
ので、使用済イオン交換樹脂中の放射性物質が原子炉敷地周辺に漏出する危険性は
ないことがいずれも認められる。右認定を覆えすに足る証拠はない。
なお、原告らは、固体廃棄物の廃棄設備並びに貯蔵保管設備の構造及び貯蔵等の能
力、固体廃棄物処理操作の審査がなされていない旨主張するけれども、本件許可処
分における安全審査では、基本設計の審査で足りるものであることは前記のとおり
である。したがつて、右原告らの主張は失当である。
そして、前示認定に照らすと、本件安全審査において、固体廃棄物の貯蔵、保管方
法は安全であるとした判断は、相当と認められる。
(三) 本件許可処分に当たり、固体廃棄物の最終処分方法について審査がなされ
ていないことについては当事者間に争いがない。
右について、被告は、固体廃棄物の最終処分は、規制法二三条二項五号、規則一条
の二第一項二号ト(ハ)により、原子炉設置許可処分に際しては、その審査の必要
がないとし、固体廃棄物の最終処分は、規制法三五条、三七条に別途規制される旨
主張する。しかしながら、右規則一条の二第一項二号ト(ハ)が同(イ)、(ロ)
の如く排気口、排水口に該当するものを固体廃棄物の廃棄設備に掲げなかつたの
は、廃棄物の性質に由来するものであると解されるから、右の点から、原子炉設置
許可処分に当たり、固体廃棄物の最終処分について審査するのが法の趣旨であると
は断じ難く、また、規制法三五条、三七条の規定があるからといつて、固体廃棄物
の最終処分が原子炉の基本設計に関わらないとすることはできない。のみならず、
廃棄物という概念は最終処分を予定していること、気体廃棄物、液体廃棄物の最終
処理が安全審査の対象となつていることの関連比較、更には、規則一条の二第二項
九号に照らせば、固体廃棄物の最終処分も本件安全審査の対象であると考えられ
る。したがつて、その審査をしなかつた本件安全審査には違法があるといわねばな
らない。
しかしながら、前記のとおり固体廃棄物の貯蔵、保管の審査が行われて、その安全
であることが確認されたこと、なお、証人yの証言によれば、我が国の原子力発電
所における固体廃棄物の最終処分については、現在、国として検討中であることが
認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、本件原子炉の固体廃棄物の最
終処分についての審査がなされていないことをもつて、直ちに原告らが危険にさら
されるとはみられない。
したがつて、右固体廃棄物の最終処分の審査の欠如は、本件許可処分を取り消すべ
き瑕疵とはいえない。
5 放射線管理システムについて
(一) 本件安全審査において、本件原子炉の放射線管理システムは、気体廃棄物
の一部については放射線モニタにより監視しながら、排気筒から放出し、液体廃棄
物については、放射性物質の濃度計算をして、排水モニタを通して排水口から放出
し、更に、原子炉敷地内外の各所に設けられているモニタリング施設によつて、環
境放射線を常時監視し、また、周辺環境の土壌、動植物、海産物を定期的にサンプ
リングし、環境における放射性物質を監視することになつていることから、右は安
全保護上適当であると判断されたことについては当事者間に争いがない。
(二) 気体廃棄物を排気筒から放出する場合及び液体廃棄物を排水口から放出す
る場合において、右(一)掲記のとおりの方法がとられていることは前記(2の
(二)の(8)、(11)、3の(二)の(1)、(2))のとおりである。
そして、前顕乙第一号証の二、第五号証、第三二号証、弁論の全趣旨により真正に
成立したものと認める同第九〇号証、証入n、同tの各証言並びに検証(第二回)
の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)本件原子炉は、周辺環境における放
射線の変動を監視するため、周辺監視区域の四箇所にはモニタリングポストを、本
件原子炉から南方約一キロメートル離れた峠にはモニタリングステーシヨンをそれ
ぞれ設置し、右各設備によつてそれぞれ測定された空間ガンマ線量率は、原子炉の
中央制御室に表示され記録されること、また、敷地周辺の二一箇所にはモニタリン
グポイントを設置し、三か月間の累積ガンマ線量の測定が行われること、なお、周
辺の主要な居住地六箇所にもモニタリングポストを設置し、測定された空間ガンマ
線量率の表示及び記録が行われること、(2)右モニタリングポストは、それぞれ
の設置点における空間ガンマ線量率を測定していること、なお、周辺監視区域境界
に設けられているモニタリングポストの右測定値は、原子炉の中央制御室に設けら
れている指示計器に表示され、同時に、記録計器に記録されるとともに、空間ガン
マ線量率が異常に高い値を示した場合には警報が発せられ、運転員に対し気体廃棄
物の放出管理上の措置等を求めることとなつていること、モニタリングステーシヨ
ンには、空間ガンマ線量計が設けられているほか、空間ベータ線量計、塵埃モニタ
及びヨー素モニタが設けられており、常時又は必要に応じ、空気中の放射性物質の
変動を測定していて、右空間ガンマ線量率の測定値は、モニタリングポストと同様
に、原子炉の中央制御室に表示記録されること、モニタリングポイントは、通常三
か月間に受けるガンマ線の累積線量を測定するものであること、(3)右の環境モ
ニタリング設備によつて測定されたガンマ線等は、その大部分が自然放射線による
ものであり、自然放射線による線量は、測定地点によつて異なるほか、降雨等の気
象条件によつても、更には時間的にも、かなりの変動が見られる一方、原子炉から
放出される気体廃棄物によるガンマ線量はわずかであるため、これによる寄与分を
自然放射線から分離して読みとることは一般に困難であるが(上記については当事
者間に争いがない)、原子炉の運転開始前に得られた自然放射線に関するデータと
運転開始後に測定されたデータとを比較すること等によつて、少なくとも気体廃棄
物によるガンマ線量の寄与分が自然放射線の変動幅に隠れてしまうほど小さいもの
であることの確認はできること、(4)本件原子炉においては、そこから排出され
ることとなる気体廃棄物中の放射性物質は、その大部分が不活性な希ガスであるた
め、周辺環境の土壌、水、動植物に付着したり、吸収されたりすることはないこ
と、しかし、希ガスとともに放出される可能性のある微量のヨー素や粒子状放射性
物質、更には液体廃棄物中に含まれている放射性物質は、周辺環境の土壌や動植物
等ないし海産物や海底土にそれぞれ付着したり吸収されたりすることがあること、
このため、放射性物質の吸着や濃縮の度合いが大きいなどの特性をもち(右のヨー
素、粒子状放射性物質、液体廃棄物中に含まれる放射性物質の特性については当事
者間に争いがない)、環境中の放射性物質量の変動の指標となる試料(陸上、海底
土、指標生物等)を定め、これを定期的に採取し、分析することによつて、放射性
物質の測定を行うこととなつていること、この放射性物質を検知するための分析
は、通常の化学分析等に比べて、その検出感度が高いため、微量の放射性物質の存
在も検知することができること、(5)なお、本件原子炉の排気筒には、放射性ヨ
ー素を捕集するためのサンプラー及び粒子状放射性物質を測定するための塵埃モニ
タが設置されており、本件原子炉から放出される放射性ヨー素及び粒子状放射性物
質の監視が可能であること、(6)モニタリングポスト等による放射線の管理及び
記録は自動的になされ、ねつ造の余地はないこと、なお、地方公共団体においても
原子炉設置者と同様の方法で監視していること、以上の事実が認められ、右認定を
左右するに足る証拠はない。
原告らは、本件原子炉に設置される放射線管理設備については、何ら審査がなされ
ていないばかりでなく、右設備は実際には機能しないものである旨主張する。しか
し、前顕乙第一号証の二、第五号証及び証人tの証言に照らし、本件原子炉の放射
線管理設備の基本設計の安全審査がなされていることが認められるから、原告らの
右主張は理由がない。なお、放射線管理設備の機能が、本件安全審査において判断
した如きものであるか否か等や、更に、その具体的な事項は、原子炉の基本設計の
審査のみを担当する本件安全審査の対象とはみられない。
また、原告らは、本件原子炉の場合、中部電力浜岡原子炉の場合に比べて、モニタ
リングポスト等の設置箇所が少ないことから、本件原子炉における放射線監視設備
であるが不備である旨主張するが、放射線監視設備の設置場所、個数は、原子炉の
設置される場所の気象条件、地形、周辺公衆の居住区域の分布等により異なるのは
当然とみられるから、原告らの右主張は失当というほかはない。
更に、原告らは、現在の放射線監視体制は、放射性物質の放出主体及びその追随者
である地方公共団体にさせる不備がある旨主張する。しかし、前記のとおり、主要
な放射線測定結果は、自動的に記録されることになつているのであり、かつ、原告
らの放射線放出主体、地方公共団体が放射線監視をすることが不当であるとの主張
を肯認するに足る資料はない。
(三) 以上の認定に照らし、本件安全審査において、放射線監視システムを前記
(一)のとおり評価したことは相当と認められる。
6 原子力発電所内の作業者被ばくの問題について
原告らは、本件安全審査において、本件原子力発電所内の作業者被ばくの審査がな
されていない旨主張する。しかし、原告らは、自らが本件原子力発電所内に作業者
として立ち入ることの蓋然性がある旨の主張をしていない。したがつて、右作業者
被ばくの問題は、原告らの具体的利益に関わらないから、原告らは本件許可処分に
際し、作業者被ばくについての安全審査が欠如している旨を主張すべき利益を有し
ない。
三 使用済燃料の再処理について
(一) 本件安全審査において、使用済燃料ピツトは、約四分の三炉心相当分の貯
蔵容量を有し、使用済燃料を垂直に保持して水中に貯蔵するようになつていること
等から使用済燃料は、安全にピツト内に貯蔵されると判断したことについては当事
者間に争いがない。
(二) 前顕乙第一号証の一、二、第三二号証、証人yの証言及び検証(第二回)
の結果によれば、本件原子炉における使用済燃料は、右(一)掲記のとおり(ただ
し、その後ビツトの大きさを変えることなく、三分の九炉心分が貯蔵可能になるよ
うに変更された。)に貯蔵できるものとなつていること、使用済燃料ピツトは、貯
蔵する使用済燃料の崩壊熱を除去するのに十分な容量を有するピツト水浄化冷却設
備を設けていることがいずれも認められ、右認定を覆えずに足る証拠はない。
原告らは、使用済燃料の貯蔵設備の安全性が十分審査されていない旨主張するけれ
ども、前記のとおり、安全審査において審査されるのは基本設計であるから、前記
の審査で足りるものというべく、更に、具体的な審査をなすべき必要は認められな
い。
(三) 右認定に照らし、本件安全審査において本件原子炉の使用済燃料は安全に
貯蔵されるとした判断は相当と認められる。
(四) 証人yの証言によると、本件許可処分当時においては、本件原子炉におけ
る使用済燃料は、動力炉・核燃料開発事業団又はイギリス、フランス等の欧米諸国
の施設で再処理をしてもらう見込みを立てていたところ、その後、欧米諸国におけ
る使用済燃料再処理事業についての政策の変更等で、右の見込みどおり本件原子炉
の使用済燃料処理ができないものとなつたこと、しかし、現在では、動力炉・核燃
料開発事業団等で再処理できる見込みが立つていることが認められる。
右認定を左右すべき証拠はない。
ところで、被告は、原子炉設置許可処分に当たつては、使用済燃料が平和の目的以
外に利用されるおそれがあるか否か(規制法二三条一項八号、二四条一項一号、規
則一条の二第一項五号)及び使用済燃料の原子炉敷地内における貯蔵設備が災害の
防止上支障がないものであるかどうかを審査する(同法二三条二項五号、二四条一
項四号、規則一条の二第一項二号二)こととしているのであつて、使用済燃料の再
処理の安全性については、規制法四四条以下によつて、また、その輸送の安全性に
ついては同法三五条、五九条等によつて規制される旨主張する。使用済燃料の貯
蔵、保管の審査が必要である旨、使用済燃料の再処理、輸送の安全性については別
途規制される旨の被告の右見解はいずれも相当とみられるが、しかし、規制法二三
条一項八号、規則一条の二第一項五号による審査が、規制法二四条一項一号のみの
審査であるとすることは、たとえ使用済燃料の貯蔵、保管の安全についての審査が
なされていても、その期間が長期にわたるときには、周辺住民等に対する災害の防
止に支障を生ずるような事態が発生しないとは限らないこと、更に、規則一条の二
第一項五号は使用済燃料の処分等の相手方について規定するだけでなく、処分の方
法又は廃棄の方法の記載まで規定していることからしても、被告の右の点について
の見解には、にわかに左袒できないところであり、使用済燃料の最終処分について
は、本件許可処分に当たり審査がなされるべきであると解するのを相当とする。し
かるところ、前記のとおり、本件許可処分当時、使用済燃料は動力炉・核燃料開発
事業団等の再処理施設で処理できる見込みであつたことが認められる。しかして、
使用済燃料の処理については、被告の政策的判断が強く働く(規制法四四条参照)
ところであるから、右の程度の判断がなされたことが相当性を逸脱するとは断じ難
く、本件許可処分は使用済燃料の最終処分の審査について違法ありとはみられない
ものである。
四 原子炉の使用を廃止した後の措置について
原告らは原子炉の使用を廃止した後の措置をも、本件許可処分の際に審査しておか
なければならない旨主張するけれども、規制法二三条二項、規則一条の二の解釈に
照らし、原告らの右主張は理由がない。
五 温排水について
原告らは、温排水の影響は規制法二四条一項四号の原子炉による災害に当たるか
ら、本件許可処分に当たり審査しなければならない旨主張する。しかし、右同様規
制法二三条二項、規則一条の二に照らし、右は本件許可処分における審査の対象と
はならないものと解するのを相当とする。もつとも、゛右規則一条の二第二項六号
には、原子炉を設置しようとする場所に関する社会環境等の状況に関する説明書を
設置許可申請書に添付すべきことが要請されているが、右の社会環境等とは、人口
分布、交通等、人の社会活動に関する事象を指すのみならず、右は原子炉を設置し
ようとする場所に関してのことであつて、原子炉設置後の事象にまでは触れていな
い。
したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
第四 事故防止対策
一 原子炉における事故の危険性とその発生の可能性について
1 原子炉における事故の危険性
(一) 原子炉における核分裂反応は、熱エネルギーを発生させる際に、同時に極
めて毒性の強い核分裂生成物やプルトニウム等の放射性物質を大量に産出するこ
と、原子炉より産出されるプルトニウムは極めて危険な存在であり、その半減期は
二万四〇〇〇年という極めて長いものであること、ICRPによるプルトニウムの
最大負荷量の勧告値、本件原子炉を一年間運転することによつて、約一五〇キログ
ラムのプルトニウムが産出されること、コクラン、タンプリン博士がホツトパーテ
イクル説を発表して、現在のICRPのプルトニウムの最大許容負荷量の勧告値
が、高すぎるとして、論争を起こしていること、また、放射性物質の毒性の特質
は、これまでの石油コンビナート等に関する公害紛争で問題にされてきた、いわゆ
る化学的物質とは全く異質性を有する点にあること、すなわち(1)放射性物質が
発する放射線は、人体に与えるその作用力の大きさにもかかわらず、たとえ、致死
量の放射性物質にさらされていても、人間の五感によつてそれを感得し得ず、特別
の検知装置によつてしかその存在を確知し得ないやつかいな性質を有すること
(2)現在の科学水準では、放射性物質の毒性を無毒化することは不可能であり、
したがつて、いつたん生産された以上、自然の法則に従つて放射性物質が放射線を
出しつつ漸次崩壊し、放射能を減衰してゆくのを待つ以外には対策がないことにつ
いてはいずれも当事者間に争いがない。
そして、証人bの証言によると、本件原子炉の場合、一年間の操業によつて、ヨー
素約八〇〇〇万キユリー、セシウム約二〇〇万キユリー、ストロンチウム約一〇〇
万キユリー、その他プルトニウム等、すべてを合わせると約一〇億キユリーという
膨大な放射能を含む核分裂生成物等が蓄積されることが認められる。右認定を覆え
ずに足る証拠はない。
(二) 原子力発電所の原子炉は、原子爆弾とは構造が異なるので、たとえ原子炉
が制御不能に陥つたとしても、TNT火薬換算数万トン相当といつた爆発を起こす
ことはないこと、しかし、原子炉の中に蓄積した大量の放射性物質が原子炉の事故
等により広く環境に放出されれば、人や農作物、魚貝類等に与える災害は、他のい
かなる種類の産業による災害とも比較できない程に甚大になるのはもちろん、放射
性物質によつて汚染された土地や海は長期にわたつてその利用を制限されざるを得
なくなること、アメリカで昭和三二年(一九五七年)に行われたブルツクヘブン国
立研究所の報告(WASH-七四〇)によると、当時はまだ大型の商業用原子炉は
稼動していなかつた時代であつたので、電気出力約一六万キロワツト(本件伊方原
子力発電所はその三・五倍に当たる)の原子炉を例に事故評価を行つたところ、事
故が発生して炉心に溜つている高レベルの放射性廃棄物の五〇パーセントが大気中
に放出され、更に、大気の逆転層が存在するなどの悪条件が重なると、三四〇〇人
が即死し、四万三〇〇〇人が急性病で倒れ、損害は当時の金額で約七〇億ドル(二
兆一〇〇〇億円)にのぼると推定されたこと、また、昭和三五年に科学技術庁が日
本原子力産業会議に委託した結果「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害
額に関する試算」が作成されたが、それによると伊方原子炉の三分の一弱の熱出力
五〇万キロワツトの原子炉において、大事故の場合には、例えば、揮発性の放射性
物質がすべて放出され、最悪の気象条件下であるとしたときには、七二〇人の急性
障害死者、五〇〇〇人の障害者及び一三〇万人にも及ぶ要観察者が生じ、経済的な
損害も当時の価格で一一四〇億円に達すると推定されたことについてはいずれも当
事者間に争いがない。
2 原子炉における事故発生の可能性
ア メリカのアイダホ国立原子炉試験場でのSL-I原子炉は、熱出力三〇〇〇キ
ロワツトの小型の原子炉であつたが、その事故によつて三名の死者、復旧作業に従
事した数百人の被ばく、及び一三億〇五〇〇万円の損害を出したこと、その被害の
程度については、事故が広大な敷地内で発生したため、被害を極めて小さいものに
したという幸運が指摘されていること、また、イギリスのウインズケール原子炉
は、熱出力一万キロワツトと推測される原子炉であつたが、その事故は、死者が全
く出ない比較的軽度の事故であつたにもかかわらず、長さ約五〇キロメートル、幅
約一六キロメートルにわたる広汎な地域から生産される牛乳が一か月半もの間使用
禁止になつたこと、この時、大気中へ放出された放射性物質の量はヨー素二万キユ
リー、セシウム六〇〇キユリー、ストロンチウム九〇キユリー等であつたと推定さ
れていること、熱出力一六五万キロワツトの伊方炉のように、スケールアツプされ
た原子炉のもつ潜在的危険性は巨大なものであり、したがつて、原子力発電に伴つ
て原子炉の中に発生する放射性物質は確実に管理することが絶対的な要請となるこ
と、なお、放射性物質の毒性からの被害の発生を防ぐには、放射性物質をできる限
り人体等に影響を与えない形態で隔離し、これを完全に制御し、保管するという方
法しかないこと、特に放射性物質を大量に環境に放出する原子炉事故は絶対に起こ
してはならず、仮に何らかの原因で原子炉事故が発生しても、放射性物質を環境へ
放出することは未然に防止しなければならないこと、目下、原子炉の大型化が進め
られていること、被告が安全だとして出航させた原子力船「むつ」に中性子漏れ事
故が発生したこと、被告が原子力損害の賠償に関する法律を制定する手続をとり、
これを成立させたこと並びに、ラスムツセン教授によつて行われた、発電用原子炉
の安全性研究(WASH-一四〇〇、アメリカ原子力規制委員会、昭和五〇年(一
九七五年)、いわゆるラスムツセン報告)では、原子炉における設備機器の故障確
率等を技術分野全般における調査から算出し、いろいろな規模の事故、災害の起こ
りやすさを推定し、原子力発電における事故、災害の発生の確率は他の産業に用い
られている施設、設備機器における同じ規模の事故災害の発生確率に比べて約一〇
〇〇分の一程度であり、ほぼいん石の落下による事故の発生確率と同等程度のもの
であることを明らかにしていること、についてはいずれも当事者間に争いがない。
ところで、証人xの証言によると、前記の事故を起こしたSL-I、ウインズケー
ルの各原子炉は、いずれも特殊な目的の下に建設されたプルトニウム生産炉(ウイ
ンズケール原子炉)や、可搬型軍用原子炉(SL-I原子炉)であり、今日の発電
用原子炉が何重もの防護措置を講じられ、何らかの異常が起こつても、事故に至る
はるか事前の段階で防止されるようになつているのに比べると、右のウインズケー
ル原子炉やSL-I原子炉においては、何ら安全対策が講じられていなかつたのに
等しいものであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。なお、原告
らは、今日の高出力の原子炉の方が右各原子炉よりもはるかに危険である旨主張す
るけれども、原子炉事故の発生した場合における被害の規模の点を別とすれば、右
原告らの主張を認めるに足る確たる証拠はない。
なお、証人xは、右ラスムツセン報告は、極めて信用度の高いものであり、しか
も、その一〇〇万年に一回という事故発生確率は、現実に起こるという事故をいう
ものでなく、その可能性を示すものにすぎない旨述べ、更に、現在までに運転され
てきた原子力発電所の運転経験を通算すると、一千炉年になるが、その間事故がな
かつた旨証言する。
しかし、成立に争いのない甲第二〇四号証の二並びに証人p3、同cの各証言及び
弁論の全趣旨によれば、ラスムツセン報告について、すでにアメリカ国内でも
(1)それは原子炉自体の検討にとどまり、トラツク、鉄道、荷船による放射性物
質の輸送、放射性廃棄物の処理、サボタージユ、窃盗あるいはテロ行為の危険、核
燃料再処理工場、ウラン採鉱過程、廃棄物などの現実に機能する原子力発電の全過
程を問題にしていないのはもちろん(2)確率評価の方法が他から借用してきたも
のであり、原子力発電独自のものとしての妥当性は疑わしいこと(3)事故の影響
を軽減する唯一、最大の要因として、避難に頼つているが、同報告が予定している
ような住民の急速な避難は現実には不可能であること(4)ラスムソセン報告を前
提としても、同じ量の放射性物質が放出されるとしての死者数に誤算があり、正し
く計算すれば死者の数は桁違いに上昇すること等の問題点が指摘されていること、
また、一千炉年無事故説については、原子炉の規模の大小、型式の違い、運転期間
の長短を無視して各原子炉の運転期間を単純に合算したうえで一千炉年の経験にな
るとして、その間無事故であるというもので、科学的推論の方法とはいえないこ
と、なお、、原子炉の運転経験がまだそれ程多くない現状では、原子炉特有の物性
が十分には握されているものとはみられず、ましてや人為的な事故については、も
ともと確率計算をするのに適当な程の多数の経験が現在までの原子炉の運転等によ
つて得られているとはみられないこと、したがつて、原子炉の事故発生を確率的に
評価することの妥当性には疑問があることがいずれも認められる。したがつて、前
示、ラスムツセン報告や証人xの証言する一干炉年無事故説から、直ちに本件原子
炉には事故発生の危険がないと認めることはできない。しかし、また、他方前記争
いのない事実である原子炉の大型化が進められていること、原子力船「むつ」の事
故、原子力損害の賠償に関する法律が制定されたことはいずれもこれのみて本件原
子炉において原子炉事故が発生することを推認できるものではない。
3 原子炉の安全確保の技術について
前記のとおり本件原子炉と同型の原子炉はもちろん、その他の商業用原子力発電所
において、周辺公衆に被害を及ぼすべき事故は過去に一度も発生していない。
また、いずれも成立に争いのない乙第八三、八四号証、第一一六、一一七号証及び
弁論の全趣旨によれば、玄海一・号炉は、本件原子炉の設計者である三菱重工が設
計したもので、本件原子炉と同じ構造及び熱出力を有する加圧水型原子炉であるが
(右については当事者間に争いがない)、昭和五〇年一月にその運転を開始して以
来、二件の軽微な故障が起きたことを除き、順調に運転されており、その稼動率は
九九・四パーセント(昭和五一年一月から同年一〇月までの間)に達しているこ
と、本件原子炉についても、昭和五二年一月二九日臨界に達した後、二〇パーセン
ト、三五パーセント、五〇パーセント、七五パーセントの各出カ段階の下におい
て、必要に応じて各種試験が行われ、原子炉及び発電設備ともすべて所定の機能を
有していることが順次確認され、発電を開始してから昭和五二年五月二七日までの
発電量は四億四七〇〇万キロワツトに達し、更にその後、総発電量約五億八〇〇〇
万キロワツトに達した段階で、そのうちの約八九パーセントが実際に外部へ送電さ
れたことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。
次に、前顕乙第一号証の一、二、第四、五号証、第二五号証並びに証人x、同n、
同yの各証言によれば、(1)原子炉が他の各種産業設備と同様に、本来危険性を
有するものであること、また、一般論として機械に故障がつきものであるというこ
とも肯定し得ること、発電用原子炉の開発、利用にたずさわる者はすべて右の事実
を認識しており、それ故に、発電用原子炉の開発に当たつては、この危険性をいか
にして顕在化させないかの科学技術の検討が積み重ねられたこと、その結果現在の
原子炉が実現されたこと、すなわち、発電用原子炉は、他の産業設備の場合には見
られない程慎重に、安全確保に関する諸々の配慮がなされるべきであるとの基本的
な考え方に立つうえで、現在の社会において広く利用されている科学技術と、これ
までの原子力等に関する膨大な研究、開発により得られた科学技術とを駆使して作
り上げられた、他の産業設備の場合には稀な信頼性の高い工学技術体系を導入して
いること、(2)その技術的観点から見た特徴は、後記二の1の(二)の(2)な
いし(7)掲記の如きものであること、(3)しかし、施設、設備、機器の基本的
設計方針が十分であつても、それらが実際に右方針に沿うように製作、建設され、
また、保守、管理されなければその目的を達成することができないので、規制法等
において更に、設置許可段階、設置段階、運転の段階に応じて必要な規制が行われ
るようになつていることがいずれも認められる。
原告らは、原子炉の安全防護技術は未完成であり、その規制も不完全にしか行われ
ていない旨主張し、証人cは右原告らの主張に添う証言をする。なお、前顕甲第三
五号証、第二六四号証、第二六六号証、成立に争いのない同第二六五号証、第二六
七号証も右主張に添うものである。しかし、右各証拠は前示各認定事実に照らし直
ちに採用できず、他に前記各認定を覆えずに足る証拠はない。
なお、原告らは我が国では、ただ外国の技術にのみ頼つて原子炉を開発している旨
主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はなく、また、仮に右主張事実が存在
するとしても、このことから直ちに、原子炉の安全技術が未完成であると認めるこ
とはできない。
二 本件原子炉の安全性確保に対する配慮について
1 本件原子炉の安全性確保に対する配慮
(一) 本件安全審査において、本件原子炉についての安全保護のために、(1)
設備、機器は、その健全性を維持するために、材料の選択、製作の段階における管
理を重視することとしている。(2)設計に際しては、それぞれ所要の安全余裕を
もたせるとともに、安全上特に重要な設備、機器については、更に苛酷な使用条件
等を前提として、それに対しても安全余裕をもたせ、また、部分的な異常に対して
も、これが故障につながらないように重複性をもたせている。(3)万一の機器の
誤動作や、運転員の誤操作があつた場合でも、原子炉の安全に関わるような異常状
態が発生することを防止するため、原子炉各部の状態をは握する計測装置及び計測
装置によつて得られた計測値に基づき各機器を制御する制御装置のうち、安全上重
要な計測制御装置については、計測装置の検出回路、論理回路等に重複性、独立性
をもたせ、制御装置に故障が起こつた場合に安全サイドに働く、いわゆるフエイ
ル・セイフや所定の条件が整わなければ作動しないインターロツク等種々の配慮が
なされている。例えば、原子炉出力の制御のために、制御棒クラスタを炉心に出し
入れするのを制御する際の基準として使用する一次冷却材平均温度は、それぞれ独
立に測定して求めた四つの平均値のうちの最高温度をあてるようになつており、ま
た、制御棒クラスタ駆動装置については、その駆動電源が失われた場合には、すべ
ての制御棒クラスタが自動的に炉心に落下して原子炉を停止することになつてい
る。また、制御棒は、原子炉内の中性子量が定められた量に達した場合には引き抜
きが阻止されるようになつている。(4)本件原子炉の安全上重要な設備、機器、
原子炉の運転が開始された後においても、その性能が引き続き確保されていること
を確認するための試験ができるような構造となつている。(5)本件原子炉では各
種の制御信号を正確かつ速やかに処理して、その運転を安全に継続するため、自動
調整装置が備えられている。例えば、原子炉の圧力が、その規制値を上下した場合
には、圧力制御装置が作動して、加圧器のスプレイ流量の増加又は電熱ヒーターの
発熱量の増加によつて、規制値に戻され、自動的に一定に保たれる。なお、一次冷
却材圧カバウンダリ内の圧力が異常に上昇するような事態に備え、加圧器に設置さ
れた圧力逃し弁及び安全弁の自動開放により過圧による一次冷却材圧カバウンダリ
の損傷を防止する機構となつている。更に、一次冷却水の温度は、原子炉の出力が
全出力の一五パーセント以上に達した場合に、制御棒を自動的に上下させることに
よつてタービン、発電機の出力に見合つた温度になるよう自動調整される。(6)
運転中、原子炉施設内外において、異常状態が発生した場合、これを、すばやく、
かつ、確実に検知するため、原子炉圧力容器周辺、原子炉施設内外の所要の箇所
に、その箇所に応じた機能を発揮するような、計測監視装置が設けられており、異
常を検知した場合には警報を発することとなつている。(7)右の計測、監視装置
によつて異常状慾を検知した場合には、運転員の操作を待つことなく、自動的に原
子炉を緊急停止させるなど、異常状態の拡大を防止するための所要の措置を講ずる
ことのできる重複性、試験可能性を有する信頼性の高い安全保護装置を備えてい
る。例えば、中性子量の異常な増加、一次冷却系内の圧力の異常な変動、電源の喪
失等原子炉の運転を継続した場合に安全上支障が生ずるおそれのあるような異常な
状態が発生した場合には、自動的に全制御棒を緊急に挿入し、燃料を損傷すること
なく、原子炉が停止し得るような原子炉停止系を備えるとともに、右制御棒が作動
しない場合の備えとして、中性子を吸収するボロン溶液を急速に注入する装置を備
えている。(8)運転開始後の原子炉においては、毎年一回、定期的に原子炉を停
止し、原子炉各部の詳細な試験、検査を実施することとなつており、運転中に検知
し得ないような異常のきざしの現われも検知し、所要の対策が講じられるようにな
つている。(9)更に、後記のように、工学的安全防護施設を具備していることか
ら、本件原子炉の安全性に対する配慮は十分なされているものと判断したことにつ
いては、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 前顕乙第一号証の一、二、第四号証、第三二号証、成立に争いのない同第
三〇号証及び証人x、同n、同o、同tの各証言を総合すると、(1)本件原子炉
の設備、機器は、材料の選択、製作の段階における管理を重視するようにしている
こと、(2)設計に際しては、それぞれ所要の安全余裕をもたせるとともに、安全
上特に重要な設備、機器については、更に苛酷な使用条件等を仮定し、それに対し
ても耐え得るような安全余裕をもたせるとか、あるいは部分的な異常に対しては、
これが故障につながらないように、それらに重複性をもたせることにしているこ
と、例えば、原子炉圧力容器については、一次冷却系の異常な圧力上昇に耐え得る
ような設計がなされていること、また、予想される種々の異常な圧力上昇の発生ひ
ん度を大きく見積り、こうした事態が繰り返し発生したとしても、耐えられるよう
な構造を有していること、また、補機冷却系統設備、非常用電源設備等は、これを
構成するポンプやデイーゼル発電機に予備機を有しており、これらの一つに異常が
生じた場合にも、予備のものが作動し、設備全体としては所定の機能を発揮できる
ように重複性をもたせていること、(3)本件原子炉においては、機器の誤動作や
運転員の誤操作を防止するために、機器が信頼性あるものであることとする配慮が
なされているほか、更に、万一、機器の誤動作や運転員の誤操作があつた場合で
も、原子炉の安全に関わるような異常状態が発生することを防止するための設計上
の配慮として、原子炉各部の状態をは握する計測装置によつて得られた計測値に基
づき、各機器等を制御する制御装置のうち、安全上重要な計測制御装置について
は、計測装置の検出回路、論理回路等に重複性、独立性をもたせるとか、制御装置
において故障が起こつた場合に安全サイドに働くいわゆるフエイル・セイフや所定
の条件が整わなければ作動しないインターロツク等、種々の配慮がなされているこ
と、例えば、安全上重要な計測制御装置の一つである制御棒クラスタ制御系は、原
子炉出力の制御のために、制御棒クラスタを炉心に出し入れするのを制御する装置
であり、出力に対して、一次冷却材平均温度が低い場合には制御棒を引き抜き、逆
に高い場合には制御棒を挿入するものであるが、その際に使用する一次冷却材平均
温度は、それぞれ独立に測定して求めた四つの平均温度のうち、最高温度をあてる
ようになつており、検出器が故障するなどして平均温度を実際よりも過小評価し、
誤つて制御棒が引き抜かれることのないような構造となつていること、更に制御棒
クラスタ駆動装置についても、その駆動電源が失われた場合には、すべての制御棒
クラスタが自動的に落下して原子炉を停止することとなつていること、また、誤操
作等により、制御棒が誤つて引き抜かれ、原子炉の中性子量が異常に増大し、あら
かじめ定められた量に達した場合には、それ以上の引き抜きは自動的に阻止される
こととなつていること、(4)本件原子炉の安全上重要な設備、機器、その信頼性
を常に保持するため、その性能が引き続き確保されることを確認するための試験が
できるような構造となつていること、例えば、安全保護系は、原子炉の運転中にお
いても、検出器の出力信号の測定によつてその健全性を確認できるほか、テスト用
の模擬出力信号によつて原子炉の停止用遮断器が設計どおり作動することかできる
ことまで確認できること、非常用炉心冷却設備の高圧注入系及び低圧注入系は、試
験用配管が別途設置されており、運転中においても、ポンプを中心とする作動試験
を定期的に実施することができること、また、原子炉格納施設は、必要に応じてそ
の内部を加圧し、また、配管等の貫通部については、それぞれの内部を加圧するこ
とによつて気密性を確認することができることになつているほか、格納容器スプレ
イ系は別途に設置されている試験用配管を用いて作動試験を実施することができ、
アニユラス空気再循環設備は、必要に応じて運転してみることによつてその性能を
確認することができることになつていること、(5)本件原子炉では、各種の制御
信号を正確かつ迅速に処理してその運転を安全に継続するため、自動調整装置を備
えていること、例えば、原子炉の状態を左右する原子炉の圧力は、圧力制御装置に
よつて、これが規定値を下回つた場合には、加圧器の電熱ヒーターの発熱量を増加
させることによつて、また、上回つた場合には、加圧器スプレイ流量を増加させる
ことによつて、いずれも規定値に戻され、自動的に一定に保たれるようになつてい
ること、なお、一次冷却材圧カバウンダリ内の圧力が異常に上昇するような事態に
備え、加圧器には圧力逃し弁及び安全弁を設置しており、これらの弁の自動開放に
より、過圧による一次冷却材圧カバウンダリの損傷を防止する機構となつているこ
と、また、加圧器の水位は、化学体積制御設備によつて原子炉出力に見合つた水位
となるように一次冷却系への給水量が自動的に制御されること、更に、一次冷却系
の温度は、原子炉の出力が全出力の一五パーセント以上に達した場合には、制御棒
を自動的に上下させることによつてタービン発電機の出力に見合つた温度になるよ
う自動調整されること、(6)本件原子炉は、以上のような配慮にもかかわらず、
万一運転中に何らかの異常が発生した場合には、その異常状態が更に拡大すること
を防止するため、異常状態を検知する計測監視装置及びその異常状態の拡大を防止
する安全保護装置が設けられ、これらの装置によつて所要の措置がなされるように
なつていること、すなわち(1)本件原子炉には、運転中原子炉施設内外において
発生した異常状態を検知するために、原子炉圧力容器周辺、原子炉施設内外の所要
の箇所に次のような計測監視装置が設けられており、異常を検知した場合には警報
を発することとなつていること、すなわち、その第一は、炉心各部における核分裂
反応の変化や異常の有無を監視するため、原子炉圧力容器の外周には、炉心の中性
子量を監視する計測装置があり、第二に、原子炉施設内の主要箇所における異常の
有無を監視するため、一次冷却系、化学体積制御系、廃棄物処理系等の所要の箇所
にはそれぞれ原子炉施設内における温度、圧力、流量等を監視する計測装置が設け
られ、第三に、原子炉施設内外における異常な放射能の有無を監視するため、化学
体積制御系、二次冷却系、廃棄物処理系、格納容器、補助建家等の所要の箇所や、
前記のとおり、放射性物質の大気又は海水への排出口、屋外の周辺監視区域境界付
近等安全確保上必要な箇所には、それぞれ放射線量を監視する放射線監視装置が設
けられている。このように本件原子炉においては、右各種計測監視装置によつて、
運転中における異常状態の発生が検知できるようになつていること(2)なお、本
件原子炉においては、燃料の異常状態を検知するため、一次冷却水の浄化を行う化
学体積制御系の配管の途中に設置された放射線モニタにより、一次冷却水中の放射
性物質濃度の変化を常時監視し、更に、定期的あるいは適時に一次冷却水をサンプ
リングし、放射性物質濃度を測定して、燃料棒からの放射性物質の漏洩を検知でき
るようになつていること、また、燃料集合体内に挿入できる可動小型中性子東検出
器により出力分布を測定し、出力分布に異常を与えるような燃料棒の異常の発生を
検知できるようになつていること(3)本件原子炉においては、原子炉圧力容器や
配管等からの一次冷却水漏洩という異常状態を検知するため、格納容器内に各種モ
ニタ等からなる一次冷却材圧カバウンダリ漏洩検知設備を設け、右異常状態を検知
できるようになつていること、すなわち、本件原子炉の一次冷却系においては、こ
れを構成する機器、配管の接合部より冷却水が漏洩しないように配慮されている
が、ポンプや弁の駆動軸のすき間からの冷却水の漏洩は完全には防ぐことができな
いので、更にここからの漏洩水を配管を通してタンクへ集めるような構造としてお
り、この結果、一次冷却水から格納容器雰囲気中への漏洩をわずかな量に抑えるこ
とができること、このため原子炉圧力容器や配管等から一次冷却水の漏洩が生じた
場合には、格納容器内に設けられた格納容器塵埃モニタ及びガスモニタによつて検
知され、また、格納容器内に漏洩してくる水を貯蔵する装置の水位量の変化によつ
ても検知できること、なお、一次冷却材圧カバウンダリからの一次冷却水の漏洩が
あれば、充てんポンプ流量が増加することになるので、右充てん流量の監視及び警
報等によつても、漏洩を検知することができること、右の各種装置によつて、漏洩
は検知され、更に検知された後は、充てんポンプ流量の自動増加や予備機の起動に
よつて、一次冷却材圧力バウンダリ内の冷却水量の減少を防止するとともに、原子
炉の停止等の所要の対策を講ずることになつていること(4)本件原子炉において
は、蒸気発生器細管の異常状態を検知するため、復水器空気抽出器排ガス系及び蒸
気発生器ブローダウン系にそれぞれ放射線モニタを設置し、蒸気発生器二次側の放
射性物質濃度の高まりを検知すること、検知後は直ちに原子炉の運転を停止すると
ともに、空気抽出器排ガス系をチヤコールフイルターを設置した回路に切り換え、
また蒸気発生器ブローダウン系を閉鎖し、ブローダウンタンクの中の水を廃棄物処
理設備へ導くなど、放射性物質の環境への放出を防止する一方、損傷した細管に盲
栓工事をするなど所要の措置を講ずることになつていること、(7)本件原子炉に
は、前記の計測監視装置によつて異常状態を検知した場合には、運転員の操作を待
つことなく、自動的に原子炉を緊急停止させるなど、異常状態の拡大を防止するた
めの安全保護設備を備えていること、例えば、本件原子炉には、中性子量の異常な
増加、一次冷却系内の圧力の異常な変動、加圧器水位の異常な上昇及び蒸気発生器
の水位の異常な低下、電源の喪失等、原子炉の運転を継続した場合には安全上支障
が生ずるおそれのあるような異常状態が発生した場合には、自動的に全制御棒を緊
急に挿入し、原子炉を停止し得るような原子炉停止系を備えるとともに、右制御棒
が作動しない場合の備えとして、中性子を吸収するボロン溶液を急速に注入する装
置を備えていること、(8)なお、以上のほかに毎年一回定期的に原子炉を停止
し、原子炉各部の試験、検査をすることになつていること、そして、運転中に検知
し得ないような事実を検知したときは、直ちに所要の対策を講ずることがいずれも
認められる。
原告らは、右につき被告の主張に対する原告らの反論第七の二の(二)掲記のとお
り主張する。なお、従来各地の原子炉において各種の事故(トラブル)が発生した
こと、そのため我が国の原子力発電所の平均利用率が昭和四九年、昭和五〇年ころ
極端に悪かつたこと、本件原子炉への燃料装荷中に原告ら主張の如き事故を惹起し
たこと、その事故の原因についてはいずれも当事者間に争いがない。そして、証人
c、同p3、同b、同z、同p4、同p5において右原告らの主張に添う証言をす
るほか、前顕甲第二六四、二六五号証、成立に争いのない同第五八号証、第六三号
証、第一四三号証、第一七七号証、原本の存在並びに成立に争いのない同第六二号
証、第一七九号証も右主張に添うものである。
しかし、本件原子炉の燃料、蒸気発生器、原子炉圧力容器、ECCSの健全性、本
件原子炉敷地の適合性、耐震設計の問題については後記(第四の二の2ないし4、
同三)のとおりであり、なお、ポイントビーチ一号炉における蒸気発生器細管事
故、美浜一号炉における燃料棒折損事故等について、本件原子力発電所において
は、これらの事故防止対策がとられていることも後記(第四の二の3の(二)の
(8)、同二の2の(二)の(10))のとおりである。また、成立に争いのない
乙第一六七号証及び弁論の全趣旨によれば、我が国の原子力発電所においては、ア
メリカのブラウンズフエリー原子力発電所の火災事故の原因となつた、ろうそくで
シールの具合をみるというようなことは考えられないこと、したがつて、不必要な
発火源はないこと、また、同発電所のように可燃性の高いポリウレタン材料は使用
されていないこと等の事故の発生、拡大の要因が少ないうえに、右事故に鑑み、安
全上重要なケーブルは、難燃性のものに延焼防止塗料を厚く塗布したものを使用す
るうえ、物理的にも分離して設置するなどし、かつ、防火対策及び多重性維持のた
めの対策が講じられたこと、したがつて我が国ではブラウンズフエリー発電所にお
ける火災事故の如き事故が発生する可能性は少ないものとみられることがいずれも
認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そして、前顕乙第一号証の二及び証人x、同nの各証言によれば、その他従来各地
の原子炉で発生した事象についても検討して相応の対策を施していること、圧力容
器等には重複性がないとしても、ECCS、アニユラス空気再循環設備、格納容器
スブレイ等の重要な安全防護施設には、重複性があることがいずれも認められる。
なお、燃料棒装荷ミスの問題が本件原子炉の安全性に多大な影響を与えるものであ
ると認めるべき証拠はない。なお、周辺住民の生命、身体に影響を及ぼすような事
故が商業用発電所では過去に起こつていないことは前記のとおりである。そして、
これらの諸点に照らし、前記争いのない事実及び前記原告らの主張に添う証拠は、
前示認定を左右するに足らないものであり、他に前示認定を左右するに足る証拠は
ない。
(三) 以上の認定に照らすと、本件安全審査において、本件原子炉はその安全性
確保のための配慮が十分になされているとした前記判断は相当と認められる。
2 燃料及び炉心の健全性について
(一) 木袢安全審査において、本件原子炉の炉心は、バーナブル・ポイズン等に
より出力分布の平坦化が図られていること、また、炉心の熱設計は燃料ペレツトの
中心溶融を起こさないこと及びDNB比が一・三を下回らないことを基準としてい
て、設計過出力(一一二パーセント)時でも燃料ペレツトの最高中心温度は、溶融
点よりかなり低く保たれ、DNB比もかなり余裕があること、燃料棒は冷却材の流
動による振動、回転などを防止し、被覆材と支持格子の相互作用を防ぎ、軸方向に
は自由な膨張を許し、熱膨張による変形を防止する設計となつていること、被覆管
は水素吸収率の小さいジルカロイ四が使用され、燃料棒は過渡状態を含め運転中に
健全性を損なわないよう、かつ、予想される熱及び機械的荷重に対して十分余裕の
ある設計がなされていること、また、管内の自由体積は燃料ペレツトの最高燃焼度
に応じ得るよう配慮されていること、更に前記のとおり中性子東検出器によつて中
性子束を直接測定し、炉心の状態を監視し、これに基づいて出力の制御等がなされ
ることになつていること等から、本件原子炉の炉心設計及び燃料の設計は安全性を
確保できるものと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) (1)本件原子炉の燃料及び炉心の構造、機能は、燃料ペレツトの焼結温
度、同焼結密度、炉心の不安定により危険があるとの点を除いて、請求の原因第四
章の第二の一のとおりであること(2)本件原子炉の炉心核設計において、ホツト
チヤンネル係数Fqが二・六七となつていること(3)燃料は熱的条件によつて損
傷することがあり得ること、その第一は、燃料被覆管表面が局部的に温度の上昇し
た蒸気で覆われ、その結果、燃料被覆管を通しての熱除去が不十分になつた場合
で、被覆管が焼損する場合であり(4)その第二は、燃料ペレツトの中心温度が、
その設計で予想した温度よりも上昇し、ひいては燃料ペレツトが、その体積を増す
ことによつて、燃料被覆管を圧迫する場合が考えられること(5)燃料ペレソトの
温度は、それが挿入されている燃料棒の原子炉内の位置によつても、また、燃料棒
内の位置によつても異なること(5)燃料被覆管は、原子炉運転時には、燃料ペレ
ツトから浸出した主としてガス状の核分裂生成物による内圧、百数十気圧という一
次冷却水による外圧、一次冷却水の流動による繰り返し応力等各種の応力を受けて
おり、また、長時間これらの応力を受けることにより変形(歪み)及び疲労を生ず
ること(7)一般に加圧木型原子炉の燃料は、使用期間中、燃料棒内圧を一次冷却
水の外圧以下に保つことによつて、内圧による燃料被覆管の円周方向引張り変形
(径を膨張させる方向への歪み)が発生することを抑制しているが、そのため、前
記応力を長期間受けること、加圧水型原子炉の使用温度との関係で、長い間にはク
リープ変形が生じ、燃料被覆管の径を縮めることとなること(8)一方、燃料ペレ
ツトは、初期には焼きしまりにより収縮するが、燃焼が進むと後記のスエリング現
象により体積を増し、そのため使用期後半には燃料被覆管と接触して、これを外に
向かつて押し返す可能性があり、この押し返す変形が極端な場合には被覆管に破損
の生ずる可能性があること、また、燃料被覆管には、原子炉の出力変化、運転とそ
の停止に伴う外圧と内圧との差の逆転等による繰り返し応力がかかること(9)燃
料被覆管は、その外側が一次冷却水によつて酸化され、また、被覆管内側は、水分
がある場合には水素化されるなど、化学的に腐食することがあり、右化学的腐食が
集中した場合には、局部的に損傷し、放射性物質を漏洩する可能性があること、ま
た、被覆管内側で発生するヨー素等の核分裂生成物は、燃料被覆管と燃料ペレツト
との間の局部的な接触による強い応力と相乗した場合には、局部的な腐食(応力腐
食)の原因となり、被覆管を損傷し、放射性物質の漏洩を起こす可能性があること
(10)燃料被覆管に中性子が当ることによつて、その材料中に空孔ができたり、
あるいは不純物の発生により材料が硬化し、強度が増すが、脆くなり(照射損
傷)、この照射損傷により燃料被覆管の延性が著しく低下した状態において、燃料
被覆管に異常な荷重が加わつた場合には被覆管の破損する可能性があるとと(1
1)燃料棒とその支持格子バネ部との周期的接触により、燃料被覆管の腐食が促進
されることがあり(フレツテング腐食)、フレツテイング腐食により燃料棒被覆管
が局所的に薄くなつた場合には、燃料棒の破損に至る可能性があること(12)燃
料棒の曲がり現象の発生が完全に防止できないこと(13)燃料被覆管にひび割れ
やピンホール現象が発生すること(14)燃料棒の折損の現象が発生したこと(1
5)燃料ペレツトの焼きしまりが生ずると、燃料ペレツトの軸方向長さの短縮によ
り、通常の場合は、各燃料ペレツトが燃料被覆管内において順次燃料棒下方に移動
する結果、プレナム部の体積が増大することとなるが、何らかの原因が重なつて、
右の円滑な移動が妨げられ、燃料棒中の燃料ペレツトと燃料ペレツトとの間に空間
が生じた場合には、内圧と外圧との大きな差によつて、右空間部分の燃料被覆管が
偏平になることがあり(16)また、焼きしまりによつて燃料ペレツトの直径が減
少することにより、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙が広がつて、この間の熱伝
達度(率)が悪くなり、この結果、燃料中心温度が高くなる可能性があること(1
7)原子炉の運転中には、燃料ペレツトの中心部と外周部との間に大きな温度がで
きるため、熱膨張差による熱応力が生ずる。そして、この熱応力が燃料ペレツトの
破壊強度を超えた場合には、ひび割れが生ずる。なお、燃料ペレツトの温度が一四
〇〇度C以上になると、ペレツト片同士がゆ着するため、原子炉の出力の変動によ
り、燃料ペレツトのひび割れの状態は複雑になるし、また、このひび割れにより生
じた燃料ペレツト片は、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙を埋める方向、すなわ
ち外側方向に移動する傾向があるため、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙は、燃
料ペレツトの熱膨張だけを考えた場合よりも狭くなること(18)燃料ペレツトが
核分裂生成物の蓄積に伴つて膨張し、その体積が増加する現象をスエリングと呼ん
でおり、円柱形の燃料ペレツトは熱膨による変形と相まつて、このスエリングのた
めに、つづみ形になつて燃料ペレツト上下端面がふくれることがある。そして、こ
のスエリング現象が著しくなると、つづみ形変形の両端面において、つば形にはり
出した部分が、燃料被覆管の内部から食い込んで、これを外に押し、局部的に、大
きな円周方向引張り変形を生じさせ、燃料被覆管を破損する可能性が出てくること
(19)燃料ペレツトは、燃焼に伴つて核分裂生成物を発生するが、気体状の核分
裂生成物の一部は反跳によつて直接燃料ベレツトから放出されるか、あるいは燃料
ペレツト内の温度勾配によつて移動し、燃料ペレツト表面又はき裂面に出て燃料ペ
レツトから遊離することによつて、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙に蓄積され
ることとなる。その結果、燃料棒の内圧が高くなるとともに、右間隙部の熱伝達度
が低下し、燃料ベレツトの中心温度が上昇することが考えられること(20)燃料
ベレツトの融点は、燃焼が進むにつれてその内部の核分裂生成物等の量が増加する
ため、次第に低くなり、最も燃焼が進んだ段階においては、約二六五〇度Cまで下
がることが知られていること(21)本件原子炉で、燃料棒の損傷を避けるため
に、原子炉の起動、停止をゆつくりとしたことについてはいずれも当事者間に争い
がない。
そして、前顕乙第一号証の一、二、第三二号証、第三四号証、第三六号証、第八四
号証、被告主張の写真であることに争いのない同第三五号証の一ないし四、いずれ
も成立に争いのない同第四一ないし第四四号証、第四七号証、第七九号証、第九七
号証、第一四六号証、第一四八号証、いずれも原本の存在並びに成立に争いのない
甲第七七号証、第一七六号証、証人dの証言に照らし真正に成立したものと認める
乙第四五号証、弁論の全趣旨により原本の存在並びにその成立が真正なものと認め
る同第四九号証、並びに証人x、同n、同oの各証言及び弁論の全趣旨を総合する
と、(1)本件原子炉の炉心核設計について、炉心全体の出力の平坦化の程度を示
すホツトチヤンネル係数Fqを二・六七としたことの相当性を按ずるに、本件原子
炉と同じ原子炉メーカーによつて作られた同型炉であり、したがつて、ホツトチヤ
ンネル係数を使用した解析は、本件原子炉と同じ手法をとつたものと推認されるア
メリカのサンオノフレ(SCE)発電所及び関西電力美浜一号炉における各出力分
布の設計値と実測値との比較、同サンオノフレ(SCE)発電所及びセル二発電所
における各炉心のほう素濃度の設計値と実測値との比較、同コネチカツトヤンキー
発電所の原子炉における温度係数の設計値と実測値との比較をみると、いずれも設
計値と実際の炉心における測定値がよく合致していること、また、本件原子炉と同
じ原子炉メーカーによる同型、同出力炉である九州電力玄海一号(右については当
事者間に争いがない)における運転実績によれば、臨界ほう素濃度及び核的熱流束
熱水路係数Fqの実測値は、設計計算値と一致が得られており、更にFqは約二・
二以下となつて設計基準と推認される二・六七を下回つていることに鑑み、本件原
子炉の炉心核設計でホツトチヤンネル係数Fqを二・七六としたことは相当である
とみられること、(2)炉心熱設計については、燃料被覆管の壁を通つての熱の流
れがどの程度の量になれば被覆管の表面で一次冷却水の沸騰が起こり、被覆管表面
が蒸気で覆われることによつて、被覆管を通しての熱除去が十分に行われなくなる
かということを調べた実験の結果により、原子炉内で起こることが予想される熱流
束が、被覆管表面が蒸気で覆われる状態を生ずるようになる熱流束に対して、三割
の余裕をもつていれば、右の実験の精度、データのばらつきといつたものを考慮し
ても、燃料被覆管は焼損しないことが確かめられていることから、本件原子炉の炉
心熱設計に際しては、過出力(一一二パーセント出力)の場合において、DNB比
(限界熱流束比)が一・三を下回らないことを設計基準としたこと、したがつて、
本件原子炉における燃料被覆管は焼損に対しても余裕のあるものとなつているこ
と、(3)また、炉心熱設計に当たつては、燃料ペレツトの中心温度が燃料ペレツ
トの融点を超えないようになつていること、すなわち、解析の結果では、本件原子
炉の燃料ペレツトの最高温度は全出力運転において約二四四〇度C、前記過出力運
転時において約二六四〇度Cと評価されており、燃料ペレツトの融点約二八〇〇度
Cを超えるものは存在しないこと、なお、前記のとおり、燃料ペレツトの融点は燃
焼が進むにつれて、その内部の核分裂生成物等の量が増大するため次第に低くなる
が、次の理由で燃料ペレツトが溶融するとはみられないこと、すなわち、本件原子
炉において使用される燃料については、ペレツト中心温度評価に大きな影響を及ぼ
すペレツトと被覆管の熱伝達率((ギヤツプ熱伝達率(Btu/h.ft2.
F゜)))について、実際に予想される値三六〇〇を安全側にした値一〇〇〇を採
用して、燃料ペレツトの中心温度を実際に予測される中心温度より高くしているこ
と、これによる評価の中心温度でも、燃料ペレツトが溶融することはないこと、し
たがつて、前記の程度の燃料ペレツトの融点の低下により、燃料ぺレツトが溶融す
ることはないと考えられること、(4)次に、本件原子炉には前記のとおりその運
転中の燃料集合体の軸方向出力分布を測定するために、燃料集合体内に挿入できる
可動小型中性束検出器四個を設置し、中央制御室からの遠隔操作により、右の出力
分布を測定する構造となづているので、出力分布に影響を与えるような燃料棒の異
常が発生した場合には、これを検出できること、(5)なお、炉中照射材の実験デ
ータ(アイヘンベルグ一九五八年)によれば、燃料ペレツトの熱伝導度(率)が、
他の実験の場合に比べて約半分となつていることに照らすと、本件原子炉の燃料ペ
レツトの中心温度は低く見すぎていることになるが、右実験データは温度範囲が約
五〇〇度Cまでであり、五〇〇C以上では焼きなまし効果により、熱伝導度の低下
はほとんど起こらないことが明らかにされていること、(6)本件原子炉の燃料に
ついては前記の各種応力、変形及び疲労に対して余裕のある設計となつているこ
と、すなわち、本件原子炉の燃料被覆管に加わる一次冷却水による外圧と、燃料被
覆管内の内圧と内面との差により生ずる応力、燃料の使用期間後半に生ずる燃料被
覆管とべレツトの相互作用による応力、燃料被覆管の表面と内面との温度差により
生ずる熱応力、一次冷却水の流れによつて生ずる応力、地震によつて生ずる応力、
更には右各種の応力等を組み合わせた総合的な応力に対しても、耐え得るように設
計されていること、(7)本件原子炉で使用される燃料は前記燃料被覆管のクリー
プ変形と燃料ペレツトのスエリング現象に備えるため、燃料ペレツトの上、下面に
くぼみ(デイシユ)を付けたものを使用するとともに、燃料ペレツトの密度及び燃
料ペレツトと被覆管との間隔が、いずれも適切になるように配慮し、円周方向引張
変形の程度を、弾性変形を含めて径の一パーセント以下に保ち、燃料の健全性を維
持するよう設計されていること、(8)前記燃料被覆管に対する繰返し応力に対し
ても、本件原子炉の燃料被覆管については、右応力による累積疲労を考慮すること
によつて、その使用期間中、これを原因として破損することのないよう設計されて
いること、(9)本件原子炉においては、前記燃料被覆管の化学的腐食及び応力腐
食に対して、燃料被覆管の材料に耐食性に優れたジルカロイを使用するとともに、
一次冷却水も化学的に高純度に管理することにしているため、燃料被覆管が外側の
化学的腐食によつて損傷し、放射性物質の漏洩が生ずる可能性は少ないこと、ま
た、燃料被覆管の内側が水素化し腐食することは、燃料ペレツトの製作時に水分や
水素が混入することを厳しく制限することによつて、また、ヨー素等による応力腐
食現象の発生は、原子炉の起動に当たつて出力を緩やかに上げること等によつて、
それぞれ対処できるものであるため、これらによつて燃料被覆管が損傷し、漏洩を
生ずる可能性は少ないこと、(10)従前発生した燃料棒の折損又は燃材支持格子
の損傷は、いずれもその主たる原因がバツフル・プレート接合部の間隙が過大であ
つたために生じた一次冷却水の激しい横流れによるものと推認されており、本件原
子炉においては、そのためバツフル・プレート組立て時の寸法測定により右間隙が
適正であることを確認し、右の現象の防止を図つていること、(11)燃料ペレツ
トの焼きしまりの原因は、実験の結果によれば、燃料製造時にできた微小の空孔が
中性子及び核分裂片による照射を受けることによつて移動し、燃料ペレツトの密度
が上がるためであるとみられていること、燃料ペレツトの焼きしまりの程度は、燃
料ペレツトの製造方法によつて異なるものであり、本件原子炉において使用される
燃料ペレツトは初期の密度が九五パーセントと高いことから、焼きしまりの程度は
極めて小さいこと、また、焼きしまりにくい組織とするために、燃料ペレツトの焼
結温度は千数百度C以上としていること、なお、燃料棒の内部にはヘリウムガスを
封入し、内圧と外圧との差を減じるようにしてあるので、たとえ燃料ペレツト間に
すき間が生じても燃料棒の偏平化は防止されること、更に、燃料ペレツトの直径の
減少による燃料ベレツトの中心温度の上昇については、本件原子炉の場合、中心温
度の評価について、前記のように燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙の熱伝達度を
低く仮定しているので、燃料の中心温度が過大に上昇することはないこと、(1
2)本件原子炉においては、燃料のひび割れを生ぜしめないように、原子炉の起
動、停止方法に配慮するとともに、ひび割れ等によつて発生する気体が燃料棒の中
のプレナム部に逃れられるようにし、更に、ペレツトをコイルバネで押えるなどし
ているので、燃料ペレツトのひび割れが原因で被覆管の破損が生じることはほとん
どないこと、なお、ペレツトのひび割れによる熱伝導度の変化は、むしろ安全側に
あると推認されること、(13)燃料被覆管は炉内温度に近い六五〇度F(約三五
〇度C)において、中性子照射をした場合その全伸び量は、未照射のそれに比べれ
ば半分以下であり、著しく延性が低下するが、この照射による延性の低下を考慮し
ても、弾性的な変形(歪み)限界として一パーセントを採れば安全であること、そ
して前記のように本件原子炉における燃料被覆管はクリープ変形を付加した円周方
向引張変形量として、使用期間を通じて一パーセント以下に保つように設計されて
いるため、健全性が損なわれることはないこと、(14)本件原子炉で使用される
燃料棒のバネ圧は燃料棒と同支持格子とを常時接触させ、燃料棒に一次冷却水の水
流による振動の影響が及ばないように配慮されていること、なお、従前発生した燃
料棒の折損は、一次冷却材により燃料棒が振動し、燃料棒と支持格子バネ部との周
期的接触により、燃料被覆管の腐食が進行するいわゆるフレツテイング腐食による
ものではないことが調査の結果明らかにされたこと、(15)燃料集合体の設計に
当たつては、一次冷却水の種々の流動条件による流動実験が行われ、右流動条件下
においても異常が生ずることのない設計であることが確かめられていること、(1
6)燃料被覆管の材料であるジルカロイは、原子炉内で中性子の照射を受けると、
主として軸方向に伸びる性質がみられ、他方、燃料集合体中に挿入される制御棒案
内管も同じジルカロイ製なので、中性子照射を受けると燃料被覆管同様に伸びる
が、燃料被覆管と制御棒案内管との製造時の熱処理の相違及び燃料棒の方が原子炉
内では発熱により温度が高くなることから、燃料被覆管の伸びは制御棒案内管の伸
びよりも大きくなること、燃料棒の支持格子は、制御棒案内管に固定されているの
で、この支持格子の間隔は制御棒案内管の伸びに同調して大きくなるに過ぎないこ
と、燃料集合体を構成する各燃料棒は、横方向には支持格子によつて一定の間隔に
位置づけられているが、軸方向には、この伸び差を調整するために、自由に伸びる
こと部できる構造となつていること、しかし、支持格子のバネ圧が強すぎるなどの
原因によつて、右の軸方向の伸びが妨げられた場合には、支持格子と支持格子との
間で燃料棒の曲がり現象が生じ、曲がつた燃料棒は隣の燃料棒に接近する可能性を
生ずること、アメリカのコロンビア大学において、燃料棒が曲がつて燃料棒同士が
接触するまで近づいた場合の、燃料棒表面の焼損余裕を確かめる熱水力学的実験の
結果によると、原子炉内での膜沸騰の発生に対しては、たとえ燃料棒同士が接触し
たとしても、なお、十分な余裕があるとの結論を得たこと、なお、本件原子炉にお
いて使用される燃料については、燃料集合体において燃料棒を軸方向に支持する支
持格子のバネ圧を減ずるとともに、各バネ圧の強さのばらつきを小さくし、更に、
軸方向の伸びを吸収するように燃料棒の上方だけでなく、その下方にも十分な間隙
を確保することとしているので、燃料棒の曲がり現象が起こる可能性は減少すると
みられること、しかしながら、未だ、燃料棒の曲がり現象が生ずることを完全に防
止するまでには至つておらず、また、曲がり現象による燃料棒同士が接触した場合
の燃料棒の健全性についての知見も十分とはいえないため、我が国においては、曲
がりの程度がひどく、次の定期検査まで継続使用した場合には接触する可能性があ
る燃料棒はこれを取り出すこととしていること、(17)原子炉を構成する他の主
要な設備、機器と異なり、一つの原子炉にある数万本の燃料棒の一本なりともリー
クを起こさせないとすることは工学的にも非現実的であるとされていることから、
本件原子炉においては、燃料棒の設計及び製作では、リークを起こさせないものに
するように努めるが、現実には、ある程度のリークの発生を覚悟して、ナークが発
生し、これを検知してから措置をとつても、周辺環境へは放射性物質による影響が
ないよう、原子炉の所定の設備、機器を設計することとしていること、これまで発
生したリーク燃料からの放射性物質の漏洩は、放射性廃棄物処理施設によつて安全
に処理されてきており、これによつて周辺公衆に何らかの影響を与えたこともない
うえ、燃料からのリークに対しては種々の対策が講じられた結果、現在では、リー
クを起こす燃料はわずかなものとなつていること、(18)本件原子炉において
は、燃料の異常状態を検知するため、一次冷却水の浄化等を行う化学体積制御系の
配管の途中に設置された放射線モニタにより、一次冷却水中の放射性物質の濃度の
変化を常時監視するようになつていること、更に、定期的あるいは適時に、一次冷
却水をサンプリングし、精密に放射性物質濃度を測定するようになつていること、
したがつて、燃料棒からの放射性物質の漏洩はごくわずかの漏洩の段階において検
知されるものとみられること、なお、前記可動小型中性子束検出器により、出力分
布に影響を与えるような燃料棒の異常が発生した場合に検出できること、なお、本
件原子炉において使用されている燃料は、定期検査時に炉内から取り出し、使用済
燃料ピツトに移して外観検査及び漏洩検査を行い、その健全性を確認することとさ
れていること、右の外観検査は、使用済燃料ピツト内で水中テレビ及び水中ボアス
コープを用いて、燃料集合体外観に異常がないかどうかを検査するものであり、水
中テレビにより燃料棒の曲がり、歪み等の異常の有無及びその状態を観察し、更
に、被覆管及び支持格子の変形、変色、腐食状態を観察、検査することができるこ
と、漏洩検査は、燃料集合体をシツピングキヤンと呼ばれる容器に入れて密封隔離
した上、破損燃料棒から出たガスを同容器に装置されたガスサンプリング系内で循
環させ、その途中に備えられている放射性ガス測定装置によつて、放射性ガスの濃
度を測定するものであり、ガス中の放射性物質の有無及び連続測定中の放射性物質
濃度の増加現象の有無によつて破損燃料を発見できるようになつていること、ま
た、容器中の水をサンプリング検査することにより、破損燃料から漏洩する水溶性
の放射性核分裂生成物(ヨー素、セシウム等)の測定もすることができることがい
ずれも認められる。右認定に反する証人dの証言及び前顕甲第二六五号証、成立に
争いのない同第七六号証はいずれも採用できない。なお、請求の原因第四章の第一
一の二の4の(一)掲記の燃料損傷事故が発生したことについては当事者間に争い
がないが、右の事実は、未だ右認定を左右するに足りない。
なお、原告らは、被告は本件原子炉で使用する燃料被覆管は、クリープを考慮して
も歪みは一パーセント以内になるように設計してあるから大丈夫である旨主張して
いるが、被告がその主張の根拠としている中性子照射による被覆管の脆化の実験の
結果は、外傷のない被覆管材料を実験の試料としたものであり、実際の被覆管のよ
うにペレツトの作用等で傷つけられたものではなく、その傷ついた部分には応力が
集中的に働くから、右の実験結果は応力集中が生じない領域でのことで、実際の原
子炉内の状況とは異なる結果を示している。したがつて、クリープも考慮した変形
を一パーセントに押えるようにした設計条件では、実際の使用状態での健全性は保
証されない旨主張する。しかしながら、前記のとおり、本件原子炉においては、ペ
レツトの作用等により被覆管に損傷を起こさせないように配慮していることが認め
られるから、前記中性子照射の実験の試料が原告ら主張のとおりであつても、この
ことから直ちに前示認定を左右することはできない。
また、原告らは、被告は本件原子炉では、バツフルプレートのすき間を小さくした
から、燃料棒の折損事故は起こらない旨主張しているが、美浜一号炉の経験を生か
したはずの高浜二号炉で、美浜一号炉の事故から約三年後の昭和五一年に、再び同
種の事故が発生している旨主張する。しかしながら、前顕乙第一四六号証、第一四
八号証によれば、美浜一号炉の事故原因が究明されたのは昭和五二年はじめころと
認められるところ、原告らの主張によれば高浜二号炉の右事故は、右美浜一号炉の
事故原因解明前であり、したがつて、右事故は、高浜二号炉の燃料棒支持格子の改
良前の事故であつたものと推認される。よつて、原告らの右主張は理由がない。
更に、また、原告らは、燃料棒の曲がりにより、曲がつた燃料棒が隣接する制御棒
案内管を押し曲げ、制御棒操作を不能にする旨主張し、証人dも右主張に添う証言
をするが、右は実例又は実験の結果によるものとは認め難いから、右証拠により右
主張事実は認め難く、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前記争いのない事実及び前記認定事実に照らすと、本件安全審査におい
て、本件原子炉の平常運転時における炉心設計及び燃料について安全性を確保でき
るとした判断は相当であると認められる。
3 蒸気発生器細管の健全性について
(一) 蒸気発生器細管が一次冷却系圧カバウンダリを形成する一部であること、
本件安全審査において、本件原子炉の一次冷却系圧カバウンダリを形成する系は、
急激な反応度事故が生じた場合でも破損することのないように設計されているこ
と、また、供用期間中、検査を実施してその健全性が確認されることとなつている
こと、したがつて、蒸気発生器細管の設計は相当であり、安全性を確保できるもの
と判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) (1)本件原子炉において使用される蒸気発生器の機能及び構造が被告の
主張第四章の第三の一の(二)掲記のとおりであること(2)原子炉の運転時に
は、蒸気発生器細管に一次冷却水による百数十気圧の内圧、二次冷却水による数十
気圧の外圧、蒸気発生器細管の表面と内面との温度差により生ずる熱応力、二次冷
却水の流れによる応力、運転中の地震による応力等の各種の応力を受けること
(3)蒸気発生器細管は、その内部が一次冷却水によつて酸化されることがあり、
また外側は細管表面にホツトスポツトが生じやすく、このため二次冷却水中の不純
物の局部的な濃縮によつて腐食が生ずることがあること(4)本件原子炉では二次
冷却水の水処理法としてAVT法を採用していること(5)タービンを作動させた
蒸気は復水器に入り、ここで復水器細管内部を通る海水によつて冷却され、再び二
次冷却水となつて蒸気発生器に戻されるため復水器細管に漏洩が生じた場合には、
海水が二次冷却水に混入し、二次冷却水の水質を劣化させること(6)請求の原因
第四章の第三の二の2掲記のごとき蒸気発生器細管事故が発生したこと(ただしポ
イントビーチ一号炉の事故原因、事故の程度を除く)、なお、右蒸気発生器細管に
損傷を起こした美浜一、二号炉は二次冷却水の水処理法としてりん酸ソーダを使用
していたものであり、ポイントビーチ一号炉でも同りん酸ソーダを使用していたこ
とがあつたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、前顕乙第一号証の一、
二、第三二号証、第三六号証、第八四号証、いずれも成立に争いのない同第八号証
の二、第一二号証、第六九号証、第一五三号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正
に成立したものと認める同第一〇〇号′証、第一五〇ないし第一五二号証、証人x
の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)本件原子力発電所における蒸気発生
器細管については、振れ止め金具によつて水流及び地震動による振動等を防止する
とともに、前記各種の応力はもちろんのこと、右各種の応力を組み合わせた総合的
な応力に、更に原子炉の過渡状態における衝撃荷重が加わつた場合にも、これに耐
え得るように設計され(例えば、微小な凹凸のある九五パーセント以下の減肉のあ
るインコネル製細管を使用した試験でも、運転時の内外差圧一〇〇気圧で細管の破
裂は生じない。)、また、その使用期間中の累積疲労に対しても耐え得るように設
計されていること、(2)本件原子炉の蒸気発生器細管は前記腐食及びホツトスポ
ツトに対して、一次冷却水及び二次冷却水の水質管理によつて対処しうるとみられ
ること、すなわち、本件蒸気発生器細管については、その健全性を維持するため
に、一次冷却水の水質を化学的に高純度の状態に管理することによつて、畑管内部
の酸化を防止していること、また、二次冷却水の水質を腐食を生じ難い弱アルカリ
性とし、溶存酸素及び塩素等不純物を低濃度に保つために、必要な水処理設備(空
気抽出器、脱気器、純水装置、薬注装置、ブローダウン設備、復水脱塩装置等)を
設け、水質管理を行うこと、したがつて、蒸気発生器細管の表面が化学的に腐食す
る可能性は少ないこと、(3)本件蒸気発生器細管は、前記のように、耐食性のよ
いインコネルを使用していること、(4)前記海水が混入して二次冷却水の水質を
劣化させるのを防止するため、本件原子炉の復水器細管は、海水に対し耐食性のよ
い材料で製作するとともに、万一、その使用中に復水器細管に漏洩が生じた場合に
は、復水の塩分濃度を監視する電導度計によつて右漏洩が検知され、漏洩の生じた
復水器を隔離して漏洩が止められるとともに、それまでに漏洩したものについて
は、復水脱塩装置により除去されるほか、必要に応じ、蒸気発生器のブローダウン
量を増加させるなど、海水混入の結果が蒸気発生器細管に影響を及ぼさないように
するための措置が講じられるようになつていること、(5)なお、蒸気発生器細管
の腐食にとつて問題となるのは、不純物の化学的性質及びその量であり、本件原子
炉のように海水冷却の場合には、復水器からの漏洩によつて混入した不純物により
蒸気発生器細管の腐食上問題となる苛性アルカリが生ずることはないこと、右不純
物の量も復水脱塩塔を通したり、あるいはブローダウンの量を増加することによつ
て十分取り除き得ること、また、ナトリウムイオンは、復水脱塩塔出口においては
微量しか存在しないし、右ナトリウムイオンが細管損傷の原因となることはないこ
と、(6)蒸気発生器細管が振れ止め金具との間で生ずる磨耗によつて損傷する事
象は、アメリカのサンオノフレ発電所等ウエスチングハウス社製の初期の蒸気発生
器を使用している発電所で発生したものであること、本件原子炉において使用され
る一辺長約一センチメートルの四角形断面をもつインコネル製の角棒で作られた振
れ止め金具は、細管との接触面積の拡大によつて接触圧の軽減を図つていること、
(7)前記のように、二次冷却水の水処理法としてりん酸ソーダを使用していた原
子炉で、蒸気発生器細管事故が発生したのは、二次冷却水の流れが妨げられやすい
箇所の細管表面に生じた蒸気泡が、ホツトスポツトを形成し、右ホツトスポツトに
二次冷却水中のりん酸ソーダやりん酸ソーダと不純物との反応等によつて生じた苛
性アルカリが濃縮し、化学的腐食を起こしたことによるものとみられること、本件
原子炉において二次冷却水の水処理法として採用している前記AVT方式では、ヒ
ドラジンやアンモニアを使用するものであること、なお、本件原子炉はそのうえ水
質管理を行つていること、(8)アメリカのポイントビーチ一号炉等においては、
水処理法を、りん酸ソーダを使用する方式から右のAVT方式に切り替えたにもか
かわらず、細管に損傷が発生したが、この原因は、水処理法の切り替えに際し、細
管その他に付着したりん酸ソーダや不純物を十分に除去しなかつたため、残存した
りん酸ソーダや、りん酸ソーダと不純物との反応等によつて細管に腐食を生じたこ
とによるものと見られていること、本件原子炉においては、水処理法として最初か
らAVT方式を採用しているので、りん酸ソーダに起因する右のような事象が生ず
るおそれはないこと、なお、最初から水処理法としてAVT方式を採用している前
記九州電力玄海一号炉は、昭和五一年一〇月から昭和五二年一月にわたつて定期検
査を行つたが、その際に実施した蒸気発生器細管の全数検査の結果では、約一年半
前の検査時以降、減肉等の発生を示す徴候は認められていないこと、(9)スイス
のベズナウ一号炉等復水器冷却水に河川水を使用している原子炉において、蒸気発
生器細管が損傷する事例が発生したが、この原因は、復水器細管の損傷によつて、
河川水が二次冷却水中に混入し、この河川水に含まれていた不純物が、熱分解して
苛性アルカリを生じ、この苛性アルカリが蒸気発生器細管と管板との間隙等で局部
的に濃縮し、細管に化学的腐食を生じさせたものであると見られていること、な
お、本件原子炉の復水器冷却水には、海水が使用され河川水は使用されていないの
で、かかる事象の発生することはないと見られていること、(10)ポイントビー
チ一号炉、ベズナウ一号炉、玄海一号炉の蒸気発生器内で、腐食生成物(スラン
ジ)が見付かつたこと(ポイントピーチ一号炉については当事者間に争いがな
い)、ポイントビーチ一号炉のスラツジの大部分は、蒸気発生器本体の腐食の進行
を意味するものではないこと、ベズウム一号炉のスラツジは、前記のとおり河川水
が二次冷却水中に混入し、その不純物が熱分解して苛性アルカリを生じ、これが細
管と管板との間隙等に局部的に濃縮したものであること、玄海一号炉におけるスラ
ツジは、二次冷却系の機器や配管等の表面が腐食して生じたスラツジであり、その
大部分は鉄の酸化物(Fe3 O4)であつて、これ自体は蒸気発生器細管を腐食
させるものではないこと、すなわち、蒸気発生器内のスラツジの存在と、蒸気発生
器細管の損傷とは必ずしも関係がないと見られること、なお、本件原子炉において
は、前記のとおり水質管理を厳重に実施するなどの措置をとることによつて、スラ
ツジの原因となる二次冷却系統の腐食生成物の発生を抑制する方策をとつているこ
と、(11)本件原子炉においては、蒸気発生器細管の異常状態を検知するため、
前記のように復水器空気抽出器排ガス系及び蒸気発生器ブローダウン系にそれぞれ
放射線モニタを設置し、蒸気発生器二次側の放射性物質濃度の高まりを早期に、か
つ微少な漏洩の段階で検知できるようにしていること、そして検知後、直ちに原子
炉の運転を停止するとともに、空気抽出器排ガス系をチヤコールフイルターを設置
した回路に切り替え、また、蒸気発生器ブローダウン系を閉鎖し、ブローダウンタ
ンク中の水を廃棄物処理設備へ導くなどの放射性物質の環境への放出を防止する一
方、損傷した細管に盲栓工事を実施するなど所要の措置を講ずることとしているこ
と、(12)ポイントビーチ一号炉の前記蒸気発生器細管事故においては、復水器
の空気抽出器排ガス系に設けられた放射線モニタは、窒息現象のため警報が中断さ
れ、また、ブローダウン系に設けられた放射線モニタは、そこを通過する蒸気発生
器二次冷却水の流量が不足していたため警報を発せず、このため放射線モニタによ
る細管漏洩の検知はあつたものの、その確認に手間取り、一次冷却水の二次冷却水
への漏洩率が多くなつたものと見られており、本件原子炉においては、右のような
放射線モニタの窒息現象による警報の中断や、水量不足によつて検知が手間取るこ
とのないよう、それぞれの防止措置が講じられていて、細管漏洩の検知は確実に行
われるようになつていること、(13)前記のように運転開始後の原子炉において
は、毎年一回、定期的に原子炉を停止し、原子炉各部の試験、検査を行うことにな
つており、それによつて運転中には検知し得ないような異常状態の現われを検知
し、所要の対策が講じられることになつていること、本件原子炉において使用され
る蒸気発生器細管は、定期検査時に、渦電流探傷試験を実施し、更に、必要に応じ
て漏洩試験によつてその健全性が維持されているかどうかを確認することになつて
いること、そして右試験の結果、異常が発見された場合には、盲栓な施するなどの
措置を行うこととなつていることがいずれも認められる。
原告らは、水処理をAVT方式に改めることのみによつて、蒸気発生器細管損傷は
防げるものではないとし、請求の原因第四章の第三の三の4の(三)掲記のとおり
主張し、証人z、同p4、同bも右主張に添う証言をする。なお、前顕甲第六三号
証、第二六五号証、成立に争いのない同第一四一号証も右主張に添うものであり、
蒸気発生器細管損傷事故が多数発生していることについて当事者間に争いのないこ
とは前記のとおりである。
しかしながら、前顕乙第八号証の二、第一二号証、第八四号証、第一〇〇号証、第
一五一号証、第一五三号証、いずれも成立に争いのない同第一一号証、第一五四号
証、並びに証人xの証言及び弁論の全趣旨により認められるところの、外国におけ
る蒸気発生器細管の損傷事例は、ベズナウ一号炉やポイントビーチ一号炉等のよう
に、復水器によるリークを放置したまま運転を継続するなど、その多くが水質管理
を厳重に行つていないものであること、このことと、前記のとおり、りん酸ソーダ
及びりん酸ソーダと不純物との反応又は不純物が熱分解して生じた苛性アルカリが
ポイントビーチ一号炉、ベズナウ一号炉の蒸気発生器細管損傷の原因と見られてい
ること、また、水処理にりん酸ソーダを使用した後に、AVT法に変更した原子炉
で、蒸気発生器細管事故が発生したのは、りん酸ソーダ又はその反応物の除去が十
分行われていなかつたためであると見られていること、我が国の美浜一、二号炉に
おいては厳重な水質管理をしていたが、水処理にりん酸ソーダを用いたために細管
損傷が生じたと推定されていること、水質管理を厳重にし、水処理にAVT方式を
採用している九州電力玄海一号炉では細管損傷は発生していないこと、なお、同様
な方法をとつている高浜二号炉でも、製造時に生じた傷に起因する細管損傷が発生
したのみであること等を合わせ考えると、前記原告らの主張に添う証拠は採用し得
ない。また、本件原子炉の蒸気発生器細管については水処理方法、構造等について
所要の対策がとられていることに照らし、前記当事者間に争いのないところの蒸気
発生器細管事故が各地の原子炉で多発したとの事実は、前記認定を左右するもので
はない。
また、証人p4は、渦電流深傷装置の精度は悪く、二〇パーセント以下の減肉は検
知できず、しかも右装置による点検は、原子炉の定期検査時にしか行われないか
ら、運転中に進行する蒸気発生器細管の減肉その他の損傷の進行状態は、右装置に
よつては検知できない。したがつて、運転中に進行する装気発生器細管の減肉その
他の損傷が減肉やピンホールの段階で止つているか、それとも大穴があき、更には
ギロチン破断まで行くかは起こつてみなければ分からない。したがつて、右装置は
細管のギロチン破断防止に役立たないし、また、細管の減肉やピンホールを前提と
しないギロチン破断については、全く検知の方法がない旨証言する。しかし、前記
のように、本件原子炉の蒸気発生器細管は、化学的腐食、各種の応力に対する配
慮、構造上の配慮がなされていて、蒸気発生器細管の健全性が維持されるように設
計上の余裕が置かれていること、かつ、弁論の全趣旨に照らすと、蒸気発生器細管
のギロチン破断が発生したことは、未だかつてないことが認められること、更には
前示認定の蒸気発生器細管の検知システムから見て、本件原子炉の右検知システム
が蒸気発生器細管のギロチン破断防止に役立たないとはみられないことを併せ考え
るならば、右証人p4の証言は、前示認定を左右するに足りない。
その他前記認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 以上の争いのない事実及び認定事実に照らすと、本件安全審査において、
本件原子炉の蒸気発生細管については安全性が確保されるとした判断は相当と認め
られる。
4 原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性について
(一) 前顕乙第五号証及び証人nの証言によれば、本件安全審査において、一次
冷却圧力バウンダリを形成する系のフエライト系鋼材を使用する部分は、脆性破壊
を防止するために最低使用温度を脆性遷移温度より三三度C以上高くするようにし
ていること、これと次の争いのない事実とを併せ考えてフエライト系鋼材使用部分
が脆性破壊をすることはなく、その安全性は確保されると判断したことがいずれも
認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 本件安全審査において、本件原子炉の原子炉容器、一次冷却系配管等一次
冷却系圧力バウンダリを形成する系では、急激な反応度事故が生じた場合でも破損
することのないように設計されていること、中性子照射が原子炉容器材料に及ぼす
影響については、監視試験片を炉心周囲に挿入し、定期的に取り出して試験を行
い、安全性を確認することにしていること、また、原子炉圧力容器、配管等の耐圧
部等は供用期間中検査を実施し、その安全性を確認することになつていること、し
たがつて、本件原子炉の原子炉圧力容器、一次冷却系配管等の設計は相当であり、
安全性は確保されるものと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがな
い。
(三) (1)本件原子炉の原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の構造、機能は、
被告の主張第四章の第四の一の(一)掲記のとおりであること(2)原子炉圧力容
器は中性子照射を受けることによつて、使用されている鋼材が脆化する可能性があ
ること(3)中性子照射による脆化の問題は原子炉ではじめて問題となるものであ
り、従来の経験を基にして中性子照射による圧力容器の脆化の程度を予測すること
はできないので、圧力容器内に監視用試験片を入れ、これをある期間毎に取り出し
て、脆化の程度を調べるほかはないこと(4)本件原子炉圧力容器と同一の材料で
あるA五三三鋼を使つた中性子照射実験によれば、中性子照射後の脆性遷移温度は
二九度C又は九三度Cとなつたこと(前顕甲第六一号証、第二六四号証)(5)原
子炉圧力容器及び一次冷却系配管は、一次冷却水の熱による応力、一次冷却系の内
圧、自重及び運転中に起こる地震による応力等の各種の応力を受けること(6)疲
労き裂は一定以上の応力がなければ発生せず、また、応力が緩和されると途中で停
留することもあるが、き裂の形が拡がりをもつて進行する特徴があること(7)本
件原子炉のような加圧水型原子炉においては、現在までのところ、原子炉圧力容器
及び一次冷却系配管に関しひび割れ、局部的減耗等問題となるような事象は起こつ
ていないことについてはいずれも当事者間に争いがなく、前顕甲第六二号証、乙第
一号証の一、二、第四号証、第八号証の二、第一二号証、第三〇号証、第三二号
証、第三六号証、第八三号証、いずれも成立に争いのない甲第三四八号証、乙第一
五五、一五六号証、第一五八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認め
る同第一五七号証並びに証人x、同nの各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、
(1)本件原子炉の原子炉圧力容器については、鋼材の耐放射線性をもたせるた
め、原子炉圧力容器の材料の選択、製造に十分留意するとともに、中性子照射を受
けやすい原子炉圧力容器側壁について、炉心と右側壁との間に遮へい壁を設けるな
どして、できるだけ中性子照射量を軽減するような設計となつていること、(2)
本件原子炉においては、中性子照射により脆性遷移温度が変化することに対して、
余裕のある設計とするとともに、原子炉圧力容器と同一の素材から採取した監視試
験片を、原子炉圧力容器内の遮へい壁外面に配置することにしており、運転開始後
これを計画的に取り出し、破壊試験を行うことにより、脆化の程度を示す脆性遷移
温度の実際をは握し、その温度に三三度C以上を加えた温度以上で、原子炉圧力容
器を使用することになつていること、なお、前記実際の脆性遷移温度をは握した
上、設計時に予測した中性子照射による材料の予想脆化曲線の妥当性を確認し、又
は、これを修正することにしていること、したがつて、実際に脆性破壊の問題が生
ずることはないとみられること、(3)本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管は
前記の各応力及びこれを組み合わせた応力に、更に、原子炉の過渡状態における衝
撃荷重が加わつた場合にもこれに耐え得るように設計され、また、使用期間中の疲
労解析を行い、それに対しても十分耐え得るようなものとなつていること、(4)
また、本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管については、局部的な応力が生じな
いように単純な形状とするとともに、製作に際しては局部的な切り欠き等が生じな
いように、厳重な品質管理を行つていること、なお、応力腐食割れが生ずるために
は、その材料の局部に塑性歪みを起ごすような応力がなければならず、応力がほと
んど作用していない場合には応力腐食割れは生じないとと、(5)なお、原子炉の
圧力容器は、原子炉以外の圧力容器の破壊の可能性の一〇倍の健全性を有するよう
に設計されており、破壊確率も10/数数年以下と考えられていること、(6)原
子力発電所における圧力や温度条件は一般の火力発電所のそれよりも低く、高温、
高圧の状態は原子力発電所においてはじめて経験するものではないこと、原子力発
電所においては、そこで使用される材料についても経年変化を考慮しているととも
に、温度、圧力等の設計条件等についても、出力の大小にほとんど関係なくほぼ一
定になるように設計されていること、(7)本件原子炉の原子炉圧力容器及び一次
冷却系配管は、腐食を防止するため、原子炉圧力容器と一次冷却水との接する箇所
には耐食性の優れたステンレス鋼を内張りするとともに、一次冷却系配管について
も前記のようにステンレス鋼を使用する一方、腐食の要因となる一次冷却水中に含
まれる塩素等の不純物濃度及び溶存酸素の量を抑制するなど一次冷却水に対する水
質管理を行うこととなつていること、すなわち、一次冷却系の外部から一次冷却水
中にこれらの不純物が入り込むことを防ぐために、補給水には純水装置及び真空脱
気塔によつて処理された水を用いること、更に、原子炉内において水が放射線を受
けることによつて分解し発生する酸素については、水素ガスを一次冷却水中に溶解
させ、これと再結合させて水に戻すことによつて溶存酸素濃度を低く保つことにし
ていること、また、塩素イオンは原子炉内で発生することはないが、一次冷却水中
に含まれる塩素イオンについても、化学体積制御系の混床式脱塩塔に一次冷却水を
通すことによつて常に低い濃度に維持することとしていること、(8)本件原子炉
の原子炉圧力容器及び一次冷却系配管は、定期検査時に全燃料を炉内から取り出し
た後、水を満たしたままの状態で外観検査及び超音波探傷検査により計画的に原子
炉圧力容器の健全性を確認するほか、運転再開前に漏洩検査を行うことにしている
こと、また、前記のとおり計画的に取り出して行う試験片を用いた検査により、原
子炉圧力容器の中性子照射による脆化に対する健全性を確認することとしているこ
と、すなわち(1)原子炉圧力容器は、いつたん運転に入ると放射能を帯び、検査
員の接近が困難となるため、その外観検査はすべて遠隔操作の可能な機器により行
われることになつており、水中テレビカメラ及び拡大視するための水中ボアスコー
プにより、原子炉圧力容器壁内面の外観等を、それぞれ検査し、これにより、内面
の溶接部及び母材における異常の有無を確認できること、また、一次冷却系配管
は、その保温材を取りはずし、溶接部については肉眼観察又は液体浸透探傷検査等
を行うことによつて、その異常の有無を確認し、微小なき裂の段階ではこれを検知
し得ること(2)超音波探傷検査は、鋼材表面に置いた探傷子から超音波を発射
し、鋼材内部からの反射波を見て、その乱れによつて鋼材内部に生じたきず等の異
常を検知するものであり、原子炉圧力容器内面については、水中において遠隔自動
操作による超音波探傷検査を行い、表面に現われていない鋼材内部の欠陥等を検知
することができること(3)原子炉圧力容器の一次冷却系機器及び一次冷却系配管
については、原子炉の運転を再開する前に、運転時と同じ圧力をかけて、漏洩等の
異常がないことを確認することになつていること(4)また、定期検査において劣
化の程度が設計時点における予測よりも安全側であるかどうかを確認し、経年変化
をは握できるようになつていることがいずれも認められる。
ところで原告らは、監視試験片による脆化のは握は困難だとして、請求の原因第四
章の第四の二の(二)掲記のとおり主張し、更に、原子炉の高出力化に伴い、中性
子密度も大きくなり、したがつて、中性子照射による脆化の問題はより一層深刻に
なる旨主張し、証人p3において右各主張に添う証言をする。また、前頭甲第六
一、六二号証、第二六四号証も右各主張に添うものである。
しかし、前顕甲第六二号証、乙第一号証の二、第三〇号証、第一五七号証並びに証
人nの証言及び弁論の全趣旨を総合し、なお、前顕甲第六一号証、第二六四号証を
仔細に検討すると、本件原子炉の場合には、原子炉圧力容器側壁も、監視試験片
も、ともに原子炉圧力容器側壁と炉心槽との間を下向きに流れる一次冷却水に接し
ており、したがつて、どちらも一次冷却水温度とほぼ同じ温度であること、更に、
原子炉圧力容器外側を保温材で囲んでいるため、原子炉圧力容器外側の外面温度が
内面温度に比べて低くなることはほとんどないと見られること、以上により、温度
の違いによつて監視用試験片による脆化が、原子炉圧力容器側壁の脆化よりも過小
に評価されることはあり得ないと見られること、前顕甲第六一号証、第二六四号証
掲記の試験結果(温度の点については当事者間に争いのないところである)によれ
ば、大きな試験片は、小さな試験片に比べて、脆性遷移温度が急速に高くなつてお
り、更に、試験のデータはばらついているが、右の試験結果は、鋼材板の厚さの大
小と、これら鋼材から同じ大きさの試験片を切り出し照射した後の脆性遷移温度の
上昇の大きさとの関係を示したものであつて、試験片の大小と脆化との関係を示し
ているものではない疑いがあること、そして、右試験結果に示されたばらつきは、
鋼材の熱処理等の製造履歴及び板厚等によりその内部の性質が異なることによるも
のであることがうかがわれること、したがつて、同じA五三三鋼であつても、試験
片を取り出した鋼材の製造履歴、板厚及び試験片の採取位置が異なれば、脆化の程
度が異なるものとは見られるが、本件原子炉の場合は、右の事情を考慮し、前記の
とおり原子炉圧力容器を製造するに際し、用いられる鋼材のあらかじめ定められた
採取位置から切り取つたものを監視試験片として使用していること、本件原子炉
は、原子炉圧力容器中の中性子照射量が、プラントの高出力化とは関係なく、同程
度になるように設計されていること、したがつて、高出力化に伴い中性子照射によ
る脆化の問題が特に深刻になるとは見られないことがいずれも認められることに照
らし、前記原告らの主張に添う証拠はいずれも採用しがたい。
なお、原告らは、一次冷却材圧力バウンダリを構成する機器が、疲労き裂や、中性
子照射により脆化しているところに、何らかの衝撃力が作用するなどすると、いき
なり大きな割れ目ができたり、破断したりする可能性があるが、こうした事態の発
生することを、漏洩検査によつて事前にチエツクすることができないことは、東京
電力福島原子力発電所一号炉の例でも明らかである旨主張し、証人p3が右主張に
添う証言をする。なお、前顕甲第五八号証も右主張に添うものである。
しかし、成立に争いのない乙第九九号証に照らし、東京電力福島原子力発電所一号
炉における漏洩事故についての右証拠は、直ちに採用できない。また、前頭乙第一
号証の一、二、第四号証、第三〇号証及び証人nの証言によれば、前記のように、
疲労き裂が問題となる部分については、その設計に当たつて、疲労解析を行うこと
により、疲労破壊の起こらないことを、製造時には材料にきずのないことを、使用
に当たつては、きずが急速に拡大するおそれのある脆性破壊を防止するため脆性遷
移温度が使用温度より高いことを、いずれも確認し、更に、運転開始後に行われる
定期検査においても、材料の健全性を確認することとしていること、したがつて、
仮に、きずが発生したとしても、脆性遷移温度より高い温度で運転しているため、
き裂がいきなり拡大して破断することはないと見られ、したがつて、小さなきずの
うちに発見して所要の措置が講じられること、なお、本件原子炉の一次冷却系配管
に使用されているステンレス鋼は、その特性からして脆化はほとんど問題となら
ず、原子炉圧力容器や蒸気発生器の材料であるマンガン・モリブデン・ニツケル鋼
や、マンガン・モリブデン鋼についても、その脆性遷移温度が比較的低いことを確
認しているので、脆化による破壊はほとんど問題とならないこと、ただ、原子炉圧
力容器側壁の中性子照射による脆化が問題となるが、この点については前記のとお
り、運転開始後は監視試験片により脆化の程度を検査し、その結果を考慮して原子
炉圧力容器の最低使用温度を定めるなど、適切な配慮をすることになつていること
がいずれも認められることに照らし、前記原告らの主張に添う証拠は採用しがた
い。
更に、原告らは、現存するアスメの規格や発電用原子炉設備に関する技術基準は、
いずれもボイラーや高圧ガス用圧力容器として従来から積み重ねられた技術を集大
成したものに過ぎず、中性子照射による脆化や応力腐食割れ等、放射線を扱う際
に、新たな問題になるものについては何ら有効な基準たり得るものでないため、本
件原子炉において使用される原子炉圧力容器や、一次冷却系配管が、右基準に従つ
ているからといつて、右の脆化や応力腐食割れを防ぎ得るものではない旨主張し、
証人p3が右主張に添う証言をする。
しかし、前顕乙第三〇号証並びに証人n、同p3の各証言及び弁論の全趣旨によれ
ば、中性子照射による脆化や応力腐食割れ等については、既に数多くの研究や実験
の成果が得られているばかりでなく、原子炉開発以来の経験の蓄積もあること、右
のアスメの規格や技術基準は、右の研究や実験、長年の運転経験の成果を集大成し
たものであり、特に、中性子照射による脆化に対しては、その防止に必要な事項が
十分もり込まれていること、なお、応力腐食割れについては、一般の圧力容器等に
も見られる現象であり、放射線との関連で新たに問題となつたものではなく、ま
た、本件原子炉と同型の加圧水型原子炉においては、従来発生した事例はないこと
がいずれも認められる。したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(四) 前示争いのない事実及び認定事実に照らし、本件安全審査において、前示
のように本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管について、安全性が確保されてい
ると判断したことは相当と認められる。
三 本件原子炉の立地選定及び耐震設計について
1 原子炉の設置と自然的立地条件
立地審査指針中の原則的立地条件と、安全設計審査指針の関係については(1)当
該敷地に係る事象が、当該原子炉における大きな事故の誘因とならないこと(2)
右事象がどのようなものであるかを安全側に立つて慎重に検討すること(3)右検
討の結果に対して、現代の工学技術からして当該原子炉につき十分余裕のある安全
な設計を講じ得るかどうかを検討するということにあると解される。
しかるところ、証人mの証言によれば、本件安全審査においても、右の考え方のも
とに耐震設計等の審査がなされたことが認められる。右認定に反する証人xの証言
は採用せず、他に右認定に反する証拠はない。
2 地盤について
(一) 本件安全審査においては、本件敷地は、地質分類学上、西日本外帯三波川
変成岩帯に属し、原子炉基盤を構成する岩石は緑色片岩であること、緑色片岩の走
行傾斜は比較的一様であること、原子炉格納施設などの主要構造物の基盤について
は、ボーリング及び試掘坑調査を行つた結果、岩盤コアの圧縮強度は一平方メート
ル当たり一万一〇〇〇ないし一万九〇〇〇トン(乾燥状態)であり、また、現地基
盤の弾性波速度は、縦波で毎秒約五・六キロメートル、横波で毎秒約二・六キロメ
ートルと大きく、基盤は一様で堅硬な状態にあること、この基盤は載荷試験による
と一平方メートル当たり一四〇〇トン以上の支持力を有しており、原子炉施設の基
盤への常時の荷重が一平方メートル当たり六〇トンであるのに対し、十分な地耐力
を有していること、また、原子炉施設の基礎として問題となるような規模の断層及
び破砕帯はないこと、なお、敷地は地形及び地質構造上地すベり、山津波の発生す
ることはないこと、以上により、本件敷地は本件原子炉敷地として安全確保上問題
がないと判断したことはいずれも当事者間に争いがない。
(二) (1)中央構造線は、日本列島の骨格が形成される約七〇〇〇万年あるい
はそれ以前に形成されたといわれる西南日本を縦断する大断層であつて、四国地方
においては三波川帯と和泉砂岩層との境界の断層とされていること、そして、四国
地方においては、中央構造線は四国山地をほぼ東西に縦断し、四国西部の桜樹付近
で南へ曲がり、湾曲しながら松山市の南南西約二〇キロメートルの上灘付近から海
中に没し、大分県臼杵付近において再びその存在が推定されるに至ること(2)右
桜樹から上灘間の中央構造線の北側三キロメートルないし五キロメートルの位置に
存在する川上断層や、伊予断層は、活動性が認められるものの、その活動性や連続
性は桜樹以東の中東構造線に比べると、いずれも小さくなつていること(3)敷地
における弾性波速度の値は、コアサンプルの値とほぼ同じ値を示していることにつ
いてはいずれも当事者間に争いがない。
そして、前顕乙第1一号証の一、二、いずれも成立に争いのない甲第一一四号証、
第一一九号証、乙第六〇号証、第六六号証、第一一〇号証、第一一二号証、第一五
九号証、いずれも原本の存在並びに成立に争いのない甲第一二九ないし第一三三号
証、乙第六一号証並びに証人p6、同i、同m順彦の各証言、同p7、同p5の各
証言の一部及び鑑定人p6、同p8の鑑定の結果を総合すると、(1)本件原子炉
の敷地周辺における地質図、地質関係文献、国土地理院及び四国電力撮影の空中写
真の判読、現地踏査、敷地前面海域における音波探査の結果等により、本件原子炉
の敷地周辺の地盤は、地質的に安定していること、近い将来に、大きな地変や火山
活動等の事象が発生する可能性のうかがえないことがいずれも判明したこと、
(2)本件原子炉の敷地は四国の佐田岬半島の付け根付近に位置し、瀬戸内海の伊
予灘に面していること、同半島地域は地質構造上中央構造線の南側の三波川帯(主
として緑色片岩で、一部では更にわずかの黒色片岩からなる)に属していること、
なお、有史以来敷地周辺においては、大きな地変や火山活動は認められておらず、
その痕跡を示す地形も存しないこと、(3)本件原子炉の敷地がある佐田岬半島
は、上記のとおりその地盤全体が中央構造線の南側で一般にみられる三波川変成岩
のみによつて形成されていること、並びに中央構造線及びこれに伴う断層活動の存
在を示すような露頭その他の地形的な特徴は発見されていないこと、また、後記
(5)のとおり当該敷地前面の海域で行われた音波探査の結果によれば、もし中央
構造線が敷地前面の海域の比較的敷地に近い所を通つているとしても、それは本件
敷地の沖合五キロメートルないし八キロメートルの範囲であつて、これより敷地寄
りのところを通つている可能性は少ないものとみられること、(4)本件敷地の岩
盤に見られるいわゆるレンズ状せん断は、三波川変成岩帯のように古い地層からな
る岩盤においては、中央構造線の付近に限らずどこでも見られるものであること、
したがつて、本件敷地にレンズ状せん断が見られるからといつて、直ちに中央構造
線が本件敷地直近を通つているとはいえないこと、(5)四国電力が実施した本件
敷地前面の音波探査の記録を、陸上における地質構造上の資料を基に解析した報告
書(前顕甲第一一九号証)によれば、本件敷地の沖合数百メートルの海底の下方数
十メートルで、三波川変成岩の音波反射パターンは第四紀層におおわれるため不明
瞭となるが、その位置においては、右三波川変成岩と第四紀層との境界は北側へ緩
傾斜しており、断層は存在しないと見られること、一方敷地前面海域五キロメート
ルないし八キロメートルに認められる第三紀に生成されたとみられる小堆積盆地の
中及びその北端部に、断層又は地形の変化による音波のパターンの乱れがみられる
こと、かつ、三波川帯の幅と連続性とから判断して、中央構造線が敷地前面海域の
比較的敷地に近いところを通つていると考えても、それは本件敷地の沖合五キロメ
ートルないし八キロメートルの範囲であることがうかがわれること、したがつて、
前記音波探査により三波川変成岩の確認できた限界地点をもつて直ちに中央構造線
の位置であるとは推定できないこと、(6)中央構造線はその活動性や活動時期
は、全域にわたつて一様なものではなく、第四紀における活動性は、四国地方でも
前記の桜樹付近より東方においては活動的であるが、同所より西方においては上灘
において海中に没するに至るまでの範囲では新第三紀の後期(約一〇〇〇万年前)
から以降は、活動した痕跡は発見されていないこと、前記川上断層や、伊予断層よ
り更に西方に当たる本件原子炉の沖合五キロメートルないし八キロメートルの範囲
に見られる地質構造の乱れが中央構造線を反映しているとしても、その活動性、連
続性は川上、伊予両断層よりは小さい可能性が少なくないこと、なお、中央構造線
の活動に起因したことが確認できる地震は過去において日本全土のどこにもその例
がないこと、更に、現在の地震活動の特徴や震源分布が右断層と調和する事実もう
かがえないこと、(7)本件安全審査においては、中央構造線の問題はi、j両調
査委員において専門的な立場から審査し、特に本件原子炉の設置に関し、安全上問
題がない旨の結論を出したものであること、(8)三波川帯に属する地盤は脆弱
で、しばしば地すベりが見られるといわれており、佐田岬半島においても地すベり
の発生する地域が多いが、それは黒色片岩や絹雲母片岩の比較的多く分布する地区
や片岩の片理の傾きと地山の斜面の傾きとが同じような急傾斜地においては見られ
るものの、本件原子炉敷地のように急傾斜地が少なく、主として塊状の緑泥石片岩
からなる地域では、地すベりはごく局部的な小規模のものを除けば見られていない
こと、本件敷地には地すベりの原因となりやすいとされる黒色片岩や急な傾斜の片
理を有する岩盤は存在しないこと、また、大規模な地すベりや山津波は、それを起
こす大量の風化生成物を必要とするが、本件原子炉の東部に位置する丘陵の西南の
斜面は、その頂部近くまで原形をとどめない程に削り取られているために、地すベ
りや土石流の原因となる風化生成物はすべて取り去られていること、更に、その風
化生成物や岩盤を削り取つた後の斜面は、鉄筋コンクリート造りのよう壁等により
保存工事がされているため、小規模な崩落はみられても、原子炉その他の重要建造
物に被害を与えるような地すベり又は土石流が発生する可能性はほとんどないこ
と、なお、本件敷地東方の山地には片理面が存し、また、敷地には地下水流が実測
されているが、しかし、これらを直ちに地すベりに関連させることはできないこ
と、なお、切取工事開始後四ミリメートルの地山の移動があつたが、これは切り取
つた上載地盤の重量の軽減に見合う計算どおりの変形と見られ、予想外の変形は観
測されていないこと、したがつて、その崩壊の危険性はないこと、(9)本件敷地
内や周辺地区には活断層があるとはみられないこと、なお、原子炉主要施設の基礎
岩盤付近には小さな破砕帯等が一〇本程度あるが、これら破砕帯等の分布密度並び
にその規模や性状は本件敷地のごとく古生代ないし中生代に生成した古い地層から
なる岩盤では普通観察されるところであること、敷地内にある断層は現在地表に現
われている岩石がまだ地下数千メートルの深所にあつた数千万年前の時代に生じた
可能性の多いものであること、しかも断層は地下数十メートルの深所では現在もま
だ堅く固結しているものとみられること、また、敷地内にある前記破砕帯の中に
は、やや規模の大きい、やや軟弱な破砕部をもつものがいくつか存在するが、右破
砕部は幅がおおむね五センチメートル以内の小さなものであつて、破砕部をはさむ
両側の岩盤はいずれも堅硬であること、したがつて、右破砕帯の存在は地耐力をほ
とんど減少させないこと、敷地内では最も大きい規模をもつ丸断層は、幅一センチ
メートルないし二センチメートルの粘土をはさむ破砕幅約一〇センチメートルの断
層であつて、右断層についても、工事着手前の空中写真では活断層地形が認められ
ないこと、右断層内の粘土は、粘土の鉱物組成、粒度分布によれば五〇〇〇万年ほ
ど前に地表近くに位置するに至つた後、いつたん固結した破砕部が地下水の影響を
受けて風化してできたものであること、及び粘土物質のエツクス線透過写真による
組織の解析によれば、粘土化が始まつた以降には顕微鏡的ずれ以上のずれがみられ
ないこと、したがつて、右断層は活断層でないとみられること、また、当該敷地の
地盤が中央構造線の破砕作用を受けているとはみられないこと、仮に中央構造線に
沿つた活動が起こつたとしても、右断層が受動的に動く可能性はほとんどないとみ
られること、なお、本件敷地試掘坑内地質調査報告書(甲第一三三号証)を作成し
たp9が活動性の存否を判定した断層はS3断層の推定地表露頭線上の断層であつ
たところ、右推定が間違つていたとの事実は未だ明らかにされないこと、(10)
本件原子炉敷地において実施された踏査、予備ボーリング調査、地表弾性波調査、
試掘横坑調査、岩石の強度試験等の各結果により、本件原子炉の敷地の地盤は、原
子炉を設置する上で必要な岩盤が十分な広さで得られるとともに、その表土層は四
メートル程度と薄く、ボーリソグコアの採取率が平均で九五パーセントと大きく、
また、地表約一五メートル以深の岩盤における縦波速度が一様に毎秒四キロメート
ル以上であること等から、一様に堅硬な岩盤が広い範囲に分布しているものとみら
れること、また、敷地の地盤が片理の発達の少ない塊状の緑泥石片岩で構成されて
おり、その岩質は新鮮、かつ、堅硬であるとみられること、原子炉の主要施設設置
予定地において実施された長さ三〇〇メートル以上に及ぶ試掘横坑調査、炉心基盤
直下一〇〇メートルに及ぶボーリング調査、物理探査、岩石の強度試験等の結果に
より、本件原子炉の主要施設設置予定地の地盤は、原子炉施設を支持するのに十分
な地耐力を有する岩盤であつて、地震等による地盤破壊や不等沈下を起こす虞れは
ないこと、すなわち、本件原子炉の基礎岩盤の緑色片岩には多少片理は発達してい
るものの、その片理の走向、傾斜は緩やかなものであつて、はく離性は著しくな
く、片理の存在による岩盤のゆるみもないこと、また、原子炉主要施設の設置予定
場所付近から採取した岩盤コアの圧縮強度は、乾燥状態において一平方メートル当
たり一万一〇〇〇トンないし一万八〇〇〇トンであり、湿潤状態においても三〇パ
ーセントないし三五パーセント小さくなる程度であること、また、岩盤は、試掘横
坑内において行われたジヤツキによる一平方メートル当たり一四〇〇トンまでの繰
り返し荷重試験においても十分弾性的な挙動を示していること、以上のことから、
本件原子炉主要施設の基礎岩盤は、原子炉格納施設の常時荷重である前記のとおり
の一平方メートル当たり約六〇トンの荷重に対しても、また、せいぜいその数倍を
出ない地震時の荷重に対しても地耐力を有するとみられること、(11)敷地の基
盤を構成する岩石自体の性質は、原子炉施設を設置する敷地の基盤を論ずるに当た
つて調査すべき基本的要素の一つであつて、これは、ボーリング等によつて採取さ
れたコアから節理等の存在しない部分をサンプルとして切り出し、右サンプルの岩
石強度試験等の結果からは握されるものであり、一方、敷地の基盤の性質は、実際
にそこに存在する断層、節理等をすべて含む敷地基盤そのものについて直接に測定
される弾性波速度、岩盤のジヤツキ試験等の結果からは握されるものであつて、岩
石の力学的性質のばらつきのみに着目して、この点から直ちに敷地の基盤もまた一
様に堅硬でないとすることはできないこと、本件原子炉敷地の基礎岩盤について
は、それを構成するボーリングコア等のサンプルによる岩石試験、断層や節理の存
在したままの状態において広い範囲にわたる弾性波探査や試掘横坑内における岩盤
のジヤツキ試験等を実施し、右試験の場所、サンプルによるばらつきの程度を勘案
して、本件原子炉施設が一定の広さと厚さとをもつ鉄筋コンクリートの基礎を介し
てその基礎岩盤に荷重を伝えるに際し、果たして一様な反力を右基礎岩盤が示すか
どうかを検討した結果、一様に堅硬な岩盤を必要な範囲において確保することがで
きると判断したものであること、なお、ボーリング孔による縦方向の岩質を見る
と、B級の更に下方にC級が出現したりしても、深さ方向においてこの程度のばら
つきがあることは、この分野における学問上の常識であるといわれていること、な
お、本件原子炉設置場所の岩石の試験の結果、その測定数値は新鮮な緑色片岩とし
た測定値に対応すると判断されたこと、また、ボーリングの観察結果からも、地下
深部に及ぶような風化は報告されていないこと、したがつて、岩石良好度のばらつ
きは片理あるいは節理等の影響であり、風化によるものではないこと、(12)本
件原子炉は伊予灘に面した岬の先端に位置するが、本件原子炉敷地は数千トンに及
ぶ大量の岩盤を削り取つた上に建設されたこと、本件原子炉の原子炉格納施設の常
時荷重は前記のとおり一平方メートル当たり約六〇トンであることから、地山の安
定性にとつては載荷量の軽減となつて安全側に評価されることがいずれも認められ
る。
なお(1)本件安全審査報告書には中央構造線について全く触れていないこと、文
書提出命令により被告が裁判所に提出した書類中にも中央構造線に関するものは存
在しないこと(2)被告は敷地前面海域の断層についてボーリング調査を行つてい
ないこと(3)鑑定人p6、同p8の鑑定の結果によれば、敷地内の新鮮な岩盤コ
アの強度は乾燥時一平方センチメートル当たり六二〇キログラム、吸水時同四四三
キログラムであるとされているものがあるのに対して、四国電力による試験結果で
は乾燥時、吸水時ともその三倍程度の値が示されていること(4)本件基礎岩盤に
は一一本の断層、破砕帯が存在すること、また右岩盤を鉛直方向に観察すると、ほ
とんど五メートルごとに岩盤良好度が上下し、しかも地下一〇〇メートルに至つて
も向上していないこと、ボーリング孔では一〇メートルから五六メートルまでの岩
質はC級であるが、五七メートルではD級が出現したりしており、ところどころB
級が見出されているが大体においてC級であること、電力中央研究所の岩質分類法
ではC級の特徴として、「かなり風化し、節理と節理に囲まれた岩塊の内部は比較
的新鮮であつても、節理の間には泥又は粘土を含んでいるか、あるいは多少の空げ
きを持して水滴が落下する。岩塊は硬い場合がある」とされていること、トレンチ
坑等では水滴が漏れ出ており、また、節理がぼろぼろになつている場所も存在して
いることについてはいずれも当事者間に争いがないが、右(1)(4)の事実は前
示認定を左右するに足らず、また、右(2)の事実については、証人p6の証言に
よれば、海底の地質のボーリング調査は極めて困難なものであるため、現時点では
海底の地質調査は、一般に、音波探査の方法で行われていることが認められるの
で、右(2)の事実も前示認定を左右するに足らない。また、右(3)の事実につ
いてみるに、鑑定人p6、同p8の鑑定の結果に見られるボーリングコアの岩石圧
縮強度と、四国電力がなしたボーリングコアの岩石圧縮強度との右相違は、鑑定調
査ボーリング・カー1号孔のコアの試験結果のみを既往の試験結果と比較したもの
であること、右鑑定調査における岩石試験はボーリングA2孔、A5孔のコアを用
いての試験、岩石ブロツクせん断試験、位置の試料を用いての試験、物探用ボーリ
ング・カー3号孔、カー4号孔のコアを用いての試験でも実施されていること、し
たからで、その中の一つの試験試料のみを取り上げて、既往の試験結果と比較して
みても、特別な意義は見出せないこと、なお、右のボーリングA2孔、A5孔のコ
アを用いた試験結果は、乾燥状態、吸水状態で(それぞれ平均一平方センチメート
ル当たり一二五八キログラム、同一〇二四キログラムとなつており、既往の試験結
果との間に大きな差はないこと、また、鑑定調査における岩石試験の結果は、片理
面や節理面で破壊したものまで含んでいること、したがつて、その試験状態の異な
る既往試験結果と表面上の数値のみを比較することは妥当でないことが、前顕乙第
一五九号証、右同鑑定の結果及び弁論の全趣旨により認められるので、右(3)の
事実も前示認定を左右するに足らない。なお、本件調査委員jが、四国における中
央構造線が活動的であるとしていることについては、当事者間に争いがなく、証人
iは、jが四国中東部の中央構造線に活動性があると述べた旨証言し、前顕甲第一
三四号証の二、成立に争いのない同第一二〇号証によれば、jは中央構造線の活動
性についての論文を発表していること、また、中央構造線の存在を推定させる趣旨
の破線を佐田岬沿いに書いた図面を発表していることがいずれも認められる。しか
し、本件安全審査においては前記のとおり、i、j両調査委員が中央構造線の問題
についても慎重に審査した結果、本件敷地が原子炉敷地として適当であると認める
判断をしたものであるから、右は前示認定を左右するに足らない。次に、「伊方地
点緑色片岩の物理的諸性質について」と題する報告書(前顕乙第一五九号証)を見
ると、ボーリングコアサンプルの測定値欄に空欄があり、かつ、湿潤状態において
一平方センチメートル当たり一七五キログラムの小さなデータがあるが、鑑定人p
6、同p8の鑑定の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、右報告書の測定値に空欄
があるのは、圧縮試験が破壊試験であつて、一度試験したものは再使用できないこ
とによるものであること、更に、一平方センチメートル当たり一七五キログラムの
測定値をあげなかつたのは、その備考欄に「節理に沿う破壊」と掲記されているこ
とからみても、岩石の圧縮破壊試験をするに適さない資料であり、したがつて、岩
石強度の面からみて、本件敷地の適性の判断の参考資料とすることに不適当なもの
であつたからであることがいずれも推認できる。したがつて、右報告書に前記のよ
うな点があるからといつて、右は前示認定を左右するものではない。
なお、前顕甲第一三四号証の一、二、第二六六号証及び証人p5の証言によれば、
アメリカのカリフオルニヤ州におけるボドガ、マリブ等の原子力発電所の設置が、
敷地内及び敷地周辺に断層があることを最大の理由として中止されたことが認めら
れるが、本件敷地及びその周辺における断層等と右アメリカの各発電所敷地内及び
その周辺にある断層の規模、性質等を比較してみない限り、右の事実は、前示認定
を左右するに足らないものである。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示争いのない事実及び認定事実に照らすと、本件安全審査において、本
件敷地が原子炉敷地として安全確保上問題がないと判断したことは相当と認められ
る。
3 地震について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉敷地に影響を及ぼす地震は、豊後水道
及び伊予灘を震源とするタイプAの地震と日向灘沖及び安芸灘を震源とするタイプ
Bの地震とに大別されること、これらの地震により敷地周辺で建物に被害のあつた
記録はほとんどないこと、敷地周辺に比較的大きな地震動を与えたと思われるA・
B二つのタイプの地震について推定したところによれば、基盤加速度でそれぞれ約
一六五ガル及び約四五ガルであり、地震の卓越周期はそれぞれ約〇・三秒及び約
〇・五秒であること、これらの地震力が原子炉施設に与える影響は極めて小さいも
のと推定されること、したがつて、本件原子炉敷地は地震との関係でも、その安全
確保上問題がないと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) (1)被告は、敷地に影響を与える地震を伊予灘、豊後水道、宇和海を震
源とするタイプAと、安芸灘、日向灘を震源とするタイプBの地震に分類し、タイ
プAの地震はマグニチユード六から七で、震源の深さは四〇キロメートル、タイプ
Bの地震のうち安芸灘の地震はマグニチユード七・一で、震源の深さは三〇キロメ
ートル、日向灘で起こる地震はマグニチユード六・六から七・五、その震源の深さ
は二〇キロメートルから四〇キロメートルと考えていること(2)地震予知連絡会
は、地震予測のため大地震を経験した地域や東京等の重要な地域を「特定観測地
域」に指定し、異常が発見された場合には「観測強化地域」に指定して観測を強化
し、異常が確認され、それが大地震と関連があると判断された場合には「観測集中
地域」に指定してあらゆる種類の観測を集中していることについてはいずれも当事
者間に争いがなく、前顕乙第一号証の二、いずれも成立に争いのない同第一一三号
証、第一六二号証並びに証人iの証言及び弁論の全趣旨によれば、(1)本件原子
炉敷地周辺における過去の地震の記録や、地震による被害記録から震央分布や震源
の深さ等の資料を収集し、この資料を近年の器械観測による地震記録及び地震の発
生機構に関する近年の学説並びに研究業績に基づいて検討した結果、本件原子炉周
辺において将来起こると考えるべき地震は、前記のとおり分類され、その規模も前
記のとおりと考えられること、なお、タイプAの地震は上部マントルの地震であつ
て、その発生機構については、日向灘付近で地殻の下にもぐり込んだフイリピン海
プレートが、この地域で約五〇キロメートル以深に至り、そこで地震を起こすと考
えられていること、タイプBの安芸灘地域で起こる地震はその数が比較的少ない
上、その発生機構が必ずしも明らかでないこと、タイプBの日向灘で起こる地震
は、フイリピン海プレートが日向灘付近で陸の地殻の下にもぐり込むため起こるも
のと考えられていること、(2)有史以来の地震被害記録を基に作成された日本各
地の強震以上の地震回数及び平均再来年数の等値線等によれば、本件原子炉敷地を
含む愛媛県西部地域においては、強震以上の震度の地震一一回、烈震以上の震度の
地震六回、激震以上の震度の地震二回がそれぞれ起こつているが、全国的に見れ
ば、右地域が、特に地震活動の盛んな地域であるとは考えられないこと、本件原子
炉敷地近傍の村落については、過去、地震によつて建物被害が生じたとする記録は
皆無に等しいこと、(3)理科年表(昭和四七年版)に掲載されている有史以来の
主な被害地震のうち、本件原子炉敷地を中心に半径二〇〇キロメートルの範囲内で
起こつたマグニチユード六以上の地震について、その震央分布図を描いてみると、
(A)伊予灘、豊後水道及び宇和海の地域においてはマグニチユード六から七程度
の地震が数回、(B)安芸灘を中心とする半径三〇キロメートルの範囲においてマ
グニチユード六から七程度が数回、(C)日向灘を中心とする半径約五〇キロメー
トルの範囲内においてマグニチユード六から七・五程度の地震が一〇回程度それぞ
れ起こつていること、並びに、敷地周辺の過去の主な被害地震は右の三つの地域に
分布していること、(4)地震予知に関する情報の交換とそれについての専門的な
判断を行うための連絡組織である地震予知連絡会は、地震予測を効率的に行う方策
の一つとして前記のとおり地域指定をすることとしているところ、伊予灘、安芸灘
は特定観測地域に指定されている(右については当事者間に争いがない)が、その
指定された理由は、当該地域において過去数回、マグニチユード七前後と推定され
る地震が数十年ごとの比較的一様な間隔で起こつているため、他の地域より地震の
データの得られる可能性が高いという点に着目したことによるものであること、し
たがつて、特定観測地域に指定されたことをもつて直ちに地震の多発地帯であると
か、近く大地震が発生するとかの理由にはならないこと、(5)いわゆる檀原説に
よれば、伊予灘、安芸灘地域では五二年周期でマグニチユード七程度の地震が発生
するとされているが(右については当事者間に争いがない)右檀原説の周期性にの
み着目するならば、明治三八年の芸予地震(M七・一)以後、その周期に当たる昭
和四三年に豊後水道地震(M六・六)が起こつているので、少なくとも本件原子炉
の耐用年数(約三〇年)中には右周期にのつた地震が起こる可能性はないことにな
ること、前記のように伊予灘、安芸灘は特定観測地域に指定されて、特別な観測も
行われているので、何らかの異常が観測された場合には前記のように観測強化区
域、更には観測集中地域になるはずであるが、いまだそのような事実は存在しない
こと、檀原説による地震エネルギーの年間平均流量は、本件原子炉の敷地を含む東
経一三二度ないし一三三度、北緯三三度ないし三四度地域においては2×10の2
0乗エルグであり、日本の陸地部のみに着目してその量を比較しても中間付近に位
置するに過ぎず、本件敷地付近が地震の多発地帯であるとはいえないことがいずれ
も認められる。
なお、原告らは本件敷地付近が地震の多発地帯であることを示すものとして、重力
異常、地磁気の分布図、今村博士の示した地震帯、震央分布図、河角、後藤マツプ
をあげ前顕甲第一三四号証の一、二、第二六六号証は右主張に添うものであるが、
右証拠によるも、これらの事実の信頼度、その地震との関連性の程度、特にそれが
本件敷地付近で発生すると原告らが主張する大地震とどのような結び付き方をして
いるかが明らかでなく、他に右の点について確たる立証はない。
なお、また、原本の存在並びに成立に争いのない甲第二一六号証によれば、地震の
繰り返し性に着目して、各地域に発生する大中地震を予測でき、それによると、四
国西部等は地震活動の初期に相当していて、近い将来にマグニチユード七・五程度
の地震が発生する傾向が見られる趣旨の報告がなされていることが認められるが、
右は弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第一六三号証に照らし、
直ちに採用できない。
伊予灘、安芸灘地域が地震予知連絡会によつて特定観測地域に指定されたこと及び
前記壇原説により、前示認定を左右することができないのは前叙のとおりである。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示当事者間に争いのない事実及び認定事実によれば、本件安全審査にお
いて、本件敷地が地震の関係でも、安全性の見地からみて原子炉敷地として問題が
ないと判断したことは相当と認められる。
4 耐震設計について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉の耐震設計は被告の主張第五章の第二
の三の(四)本件原子炉における耐震設計掲記の如く評価され、本件原子炉の耐震
設計は安全確保ができるものと判断したことについては、いずれも当事者間に争い
がない。
(二) (1)本件原子炉の耐震設計において、施設の安全上の重要度に応じて
A、B、Cの各クラスに分類した耐震設計をしていること、右A、B、Cの各クラ
スに分類される施設の種類が被告の主張第五章の第二の三の(四)の(2)のア、
イ、ウの各(ア)掲記のとおりであること(2)本件耐震設計において四国沖、南
海トラフで発生する巨大地震は耐震設計上考慮する必要がないとしていること
(3)理科年表に記載されている明治七年(一八七四年)ないし大正一四年(一九
二五年)の間に発生した地震のマグニチユードに、ついて、そのマグニチユードの
表示の下の括弧内に〇・五を差し引いた値が示されているところ、本件耐震設計で
はその括弧内の地震の規模によつたこと(4)木件耐震設計においては、前記タイ
プAの地震の最大加速度は一六五ガルと評価し、同夕イプBの地震の最大加速度を
四五ガルと評価したこと(5)右加速度を計算するに当たり使用した金井式はAR
=10B/TG B=0.61M-(1.66+3.6/R)logR+(0.1
67-1.83/R)の式であること(6)被告は本件敷地に対し過去に最も大き
な地震動を及ぼした地震として、寛延二年(一七四九年)に発生した伊予宇和島沖
地震であると考えていること、また、右地震のマグニチユードは七、震央距離一四
キロメートル、推定震源の深さは三〇キロメートルと考えていること(7)被告は
右の地震から前記最大加速度を求めるに際し、シードの図を適用するに当たつては
震源距離を用いたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、前顕甲節一三四
号証の一、乙第一号証の二、第四号証、第三二号証、第六〇、六一号証、第六七号
証、いずれも成立に争いのない甲第一二四、一二五号証、第二一三号証、乙第五二
号証、第五六号証、第五八、五九号証、第六二、六三号証、第一一一号証、第一一
四、一一五号証、第一六〇、一六一号証、第一六四号証、第一六六号証、第一六八
号証、原本の存在並びに成立に争いのない甲第二四八号証、第三二三号証、第三二
八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第二五七号証、証人
m、同i、同p5の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)原子炉の耐震設
計の役割は、一般建築物に適用されてきたこれまでの耐震設計の思想と異なるもの
で、両者の耐震設計において用いられる手法にも重要な相違点があること、耐震設
計という技術分野は現実の地震を経験しながら前進し、より確実なものとなつてい
ること、そして信頼性のある既知の技術の蓄積の上に、更に原子炉については厳し
い設計思想が採用されていること、なお、新潟地震で昭和大橋が被害を受けた原因
とされているのは砂質地盤における砂の流動化現象であつて、基礎の設計が十分で
あつた構造物には右地震による被害はほとんど見られなかつたこと、十勝沖地震に
おける函館大学のような鉄筋コンクリート造りの建物における被害は壁が少なく、
かつ、極端な偏心配置の建物に集中していること、したがつて、これらの事例は、
直接堅硬な岩盤上に設置され、また、その構造計画においても配慮がなされている
本件原子炉の耐震設計の信頼性を左右する資料とはなりがたいこと、(2)本件原
子炉を設計するに際しては、敷地周辺において将来起こると考えるべき地震の敷地
基盤に及ぼす影響を明確には握することが必要であるところ、本件敷地に対する影
響という観点から、敷地周辺の有史以来の主な被害地震のうち、原子炉敷地を中心
に半径二〇〇キロメートルの範囲内で起こつたマグニチユード六・〇以上のものに
ついて、それぞれの地震の敷地基盤における最大加速度や卓越周期等における類似
性に着目すると、耐震設計上、次の二つのタイプ(タイプA及びタイプB)の地震
に分類すること、すなわち、(5)タイプAの地震による敷地基盤での地震動は、
最大加速度が大きく、卓越周期が短いという特性をもち、このタイプの地震は前記
3の(二)の伊予灘、宇和海及び豊後水道地域の地震に相当する。右の地震のう
ち、過去に最も大きな地震動を敷地基盤に及ぼしたと考えられるものは前記寛延二
年(一七四九年)に発生したマグニチユード七、震央距離一四キロメートル、推定
される震源の深さは三〇キロメートルの伊予宇和島地震であつて、これによる敷地
基盤での地震動の最大加速度は一六五ガル、地震動の卓越周期は〇・三秒と評価さ
れていること、(B)タイプBの地震による敷地基盤での地震動は、タイプAの地
震に比べて最大加速度が小さく、卓越周期が長いという特性をもち、このタイプの
地震は前記3の(二)の安芸灘、日向灘の地域の地震に相当する。右地震のうち、
過去に最も大きな地震動を敷地基盤に及ぼしたと考えられるものは昭和一六年に発
生したマグニチユード七・四、震央距離一〇一キロメートル、震源の深さは二〇キ
ロメートルの日向灘地震であつて、これによる敷地基盤での地震動の最大加速度は
四五ガル、地震動の卓越周期は〇・五秒と評価されていること、(3)なお、原子
炉の耐震設計を考慮するに当たつては、どの地域でどの程度の地震が起こつている
かということだけでなく、右地震の発生機構や深さ等について詳細な検討をした
上、右地震が原子炉主要施設に及ぼす影響をは握することが必要であること、本件
原子炉の場合においては、右のような観点から前記のように敷地近傍で発生する地
震を地震の発生機構等の類似性に着目して、三分類した上、これらの地震の特徴を
検討し、次に耐震設計への適用という観点から、それぞれの地域の地震による敷地
基盤での最大加速度及び卓越周期の類似性を検討した結果、これを前記のとおりタ
イプA、タイプBに分類したこと、南海沖、土佐沖の地震は、次のとおり設計上こ
れを考慮する必要がないと判断されたこと、なお、前記分類は地震の発生地域に着
目した分類ではないこと、また、安芸灘で発生する地震は、その原因は必ずしも判
然としないが、伊予灘、豊後水道及び宇和海の地震と異なり、上部マントルの地震
活動とはみられず、かつ、地震の主圧力軸が東西性のものが多いこと、したがつ
て、安芸灘地域で発生する地震は、内陸で一般的な地殻内地震が主である可能性が
多く、安芸灘の地震と伊予灘の地震とを分離して考えることは合理性があること、
(4)四国太平洋沖合で発生する巨大地震については、その卓越周期が約一秒程度
と長いこと、震源距離と予想される地震の規模から推認される地震動は、前記タイ
プBの地震における設計加速度よりも小さいと考えられること、本件原子炉敷地基
盤の卓越周期を判定するために実施された常時微動測定結果によれば、二秒ないし
五秒にピークがあり、しかも、これらのピークは場所により、測定時間によりばら
ついていること、また、これらのピークは通常の地盤の卓越周期とは異なり、更に
岩盤の卓越周期は通常の地盤の卓越周期よりも短周期にあると考えられるので、右
の観測結果は本件原子炉敷地゛地盤の卓越周期を現わすものとはみられないこと、
したがつて、これらの長周期のピークは本件原子炉敷地地盤の振動特性を現わして
いるものではなく、脈動と考えられるものであること、すなわち、本件原子炉敷地
の基盤は、地震動に対し、ある特定の周期の波を大きくする性質はみられないこ
と、本件原子炉の主要な施設の固有周期の範囲は同型先行炉の実績からみれば、
〇・一秒から〇・三秒であると考えられるので、右巨大地震による敷地基盤の地震
動と本件原子炉主要施設とが共振することはないこと、なお、排気筒の固有周期が
〇・九秒ある原子炉もあるが、右排気筒は沸騰水型原子炉用のものであること、本
件原子炉の如き加圧水型の発電所に関しては、沸騰水型原子炉のような排気筒は存
在しないこと、したがつて、前記巨大地震が本件原子炉に影響を及ぼすものとは考
えられないこと、<地名略>法通寺の客殿や庫裡の被害は嘉永七年一一月五日(一
八五四年一二月二四日)の南海沖地震によるものとはみられず、安政元年一一月七
日(一八五四年一二月二六日)の伊予西部地震によるものである蓋然性が強いこ
と、嘉永七年の南海沖地震等が、安全審査の資料より欠落していることは、右のと
おり、本件敷地に右地震による被害が及ばなかつたとの判断によるものとみられる
こと、なお、土佐沖の巨大地震を耐震設計において考慮した本四連絡橋と本件原子
炉の設計応答曲線を比較すると、本件原子炉の主要施設の応答加速度の方が、主要
周期の範囲で三倍以上の大きな比率をもつていること、この比率は、各周期におけ
る応答速度、応答変異についても不変であるので、これらすべてについて本件原子
炉の設計地震動の方が本四連絡橋を上回つていること、(5)敷地前面海域の伊予
灘にその存在が推認される中央構造線による断層活動に起因して、万一、地震が起
こつたと仮定しても、右断層の連続性から判断すれば、その地震の規模は、この地
域に発生した過去の地震と同程度(マグニチユード七程度)のものであろうと考え
られること、(6)本件原子炉は、地震における安全性を考慮して、地盤の破壊や
不等沈下を避けるとともに、地震動がより明確な形で施設に伝わるように、その施
設全体を堅硬な岩盤に直接設置すること、また、その施設や施設中の機器、配管等
の歪み等をできる限り押えるために、その主要施設は剛構造となつていること、
(7)本件原子炉については、その施設を安全上の重要度に応じ、A、B及びCの
クラスに分類し、各クラスに応じた耐震設計が採用されていること、すなわち、A
クラスに分類された施設については建築基準法に定められている水平震度を三倍に
した上、鉛直震度をも同時に考慮して静的解析を行い、更に、敷地で起こるものと
考えるべき最大の地震動を基に設定した設計地震動を用いた動的解析を行い、右静
的解析及び動的解析からそれぞれ求められたいずれの地震力に対しても、余裕のあ
る耐震設計が講じられてあること、本件原子炉施設のうち、Bクラスに分類された
施設については、建築基準法に定める水平震度の一・五倍の水平震度に対して、余
裕のある耐震設計が講じられていること、右Bクラスの施設のうち、支持構造物の
振動と共振するおそれのある機器、配管類については、動的解析から求められた地
震力も考慮していること、本件原子炉施設のうち、Cクラスに分類された施設につ
いては、建築基準法によつて定められている水平震度を用いた静的解析から求めら
れた地震力に対して、余裕のある耐震設計が講じられていること、なお、更に、右
重要度に応じて分類された施設相互の間では、下位の分類に属する施設の破損によ
つて、上位の分類に属する施設に波及的事故が起こらないことが確かめられている
こと、(8)本件原子炉の敷地周辺において考慮すべき地震は、前記のタイプA及
びタイプBの地震であるが、設計地震波の最大加速度については、タイプAの地震
に関しては二〇〇ガル、タイプBの地震に関しては八〇ガルとそれぞれ余裕をもつ
て設定したこと、すなわち、タイプAの地震に関しては、前記のとおり過去の地震
で、本件原子炉の敷地基盤に対し最も大きな地震動を及ぼしたものの最大加速度
は、大きく算出しても、一六五ガルであるが、設計地震動の設定に際して用いる最
大加速度の決定に当たつては、右の一六五ガルに対して余裕をもたせて、これを二
〇〇ガルと決定したこと、なお、右の最大加速度二〇〇ガルというのは、将来、本
件原子炉敷地周辺で起こるやもしれないと考えられるタイプAの地震の最大規模
を、マグニチユード七、震源の深さを三〇キロメートルと仮定し、これに発生機構
等を考慮して、震央距離を零メートルとした場合における敷地基盤の最大加速度一
八六ガルを上回ること、タイプBの地震に関しては、前記のとおり、過去の地震で
敷地基盤に対し最も大きな地震動を及ぼしたものの最大加速度は、四五ガルである
が、将来、本件原子炉敷地周辺で起こり得るものと考えるべきタイプBの地震によ
る設計地震波の最大加速度としては、右の四五ガルに対して余裕をもたせて、これ
を八〇ガルと定めること、(9)「設計加速度の決め方」と題する本件審査の参考
資料である書面掲記のグラフ(第二図)には昭和一四年(一九三九年)三月二〇日
及び昭和一六年(一九四一年)一一月一九日に、日向灘方面で発生したいずれもマ
グニチユード六・六を超える地震が欠落しているが、右は敷地周辺で発生する地震
の中でも比較的規模が大きく、深さ等についても現在の精度で求められる唯一のデ
ータである昭和四三年八月六日の宇和島沖地震のマグニチユードと震源の深さとの
関係を示したものであり、日向灘における地震は参考としてあげられていたに過ぎ
ないものであることがうかがわれること、また、右の資料から欠落している地震
は、南海沖地震を除いて本件設置許可申請書添付の書類中に記載されていること、
南海沖地震は前記のとおり本件敷地に対する影響がほとんどないことから資料より
はずしたものと推認され、その他本件敷地に影響を及ぼした地震が資料から欠落し
ているとはみられないこと、(10)河角マツプ及び河角マツプの最大地震動加速
度の確率分布を修正した後藤マツプにおける最大地震動の加速度は、本件敷地付近
では二〇〇ガルと表示されていること、これを卓越周期〇・三秒で計算しなおすと
三九〇ガルになるが、河角、後藤マツプは、標準的な地盤の最大加速度であつて、
右の最大加速度がそのまま本件敷地の岩盤にも適用できるとは考え難いこと、ま
た、右三九〇ガルを出した計算式も、本件敷地に適用できるものとは考え灘いこ
と、(11)本件原子炉における耐震設計において、地震の規模を理科年表に記載
されている括孤内のマグニチユードが〇・五小さいものを使用した(右については
当事者間に争いがない)のは、次の如き事情によるものであること、すなわち、右
括弧内に示された数値が、耐震設計を含む理学、工学分野では妥当と考えられてい
ること、これは器械観測が行われていなかつた大正一四年(一九二五年)より以前
の時期の地震のマグニチユードは、被害記録や震度階報告に基づいて、震央距離一
〇〇キロメートルの地点における平均震度の値を示した河角のマグニチユードを、
河角の換算式を用いて、現在の器械観測で定められている気象庁のマグニチユード
に換算して求めた値であるため、器械観測によつて求められた気象庁のマグニチユ
ードよりは〇・五程度大きくなつていることによるものであること、なお、関東大
地震のマグニチユード七・八という値は、現在の気象庁の方法と同様の方法によつ
て求めたマグニチユードである七・九が、再度検討された結果七・八になつたもの
であること、したがつで、この場合に両者の差がほとんどないことをもつて河角に
よるマグニチユードと気象庁のそれとの差が〇・五はないといえないこと、理科年
表は、五〇有余年にわたる長い歴史を有し、理学分野における基礎データを収録し
たもので、その記載事項については、学界において一般的に認められた後に記載さ
れるものであること、過去の被害地震のマグニチユードについても、器械観測の精
度の向上とデータの蓄積に伴つて河角によるマグニチユードが見直され、右マグニ
チユードは過大評価であると指摘されることがあつたこと、これが昭和四六年に至
つて理科年表の記載に反映されたこと、中部電力浜岡一号炉の安全審査では、河角
のマグニチユードが使用されたが(右については当事者間に争いがない)、右原子
炉の設置許可申請がなされた昭和四五年においては、まだ理科年表の前記改訂がな
されておらず、そのため改訂前の理科年表によつて審査せざるを得なかつたもの
で、右審査に当たつては河角のマグニチユードが用いられたのはやむを得ないもの
であつたこと、なお、「図説日本の地震」によれば明治三八年(一九〇五年)の芸
予地震のマグニチユードは七・六とされているが、右「図説日本の地震」は明治五
年(一八七二年)から昭和四七年(一九七二年)にかけての一〇〇年間の地震の資
料をとりまとめたものであるところ、その資料と理科年表とを対比し、更に、同表
における右芸予地震と関東大地震の各記載欄を比較して見ると、右芸予地震は理科
年表の河角のマグニチユードを単純に引用した疑いが強いこと、また、気象庁の勝
又護はマグニチユード七付近では河角のマグニチユードと気象庁のマグニチユード
とは、ほとんど同じであるとしているが、勝又が河角のマグニチユードと気象庁の
マグニチユードとを比較検討したのは、関東地方を中心とする地域に発生した地震
のみを対象としたに過ぎないことがうかがわれること、したがつて、勝又の使用し
た資料のみをもつて日本全国で発生する地震がすべて勝又説のとおりであると即断
することはできないこと、また、建設省建築研究所のp10は伊予灘で発生する地
震のマグニチユードは七ないし八であるとしているが、p10の右報告は、地域に
よる地震の発生機構を十分吟味し、地域の地震の最大規模を予測したものとは即断
できないこと、また、p11らが日本電気協会設計地震策定委員会に提出した試案
には、伊予灘ではマグニチユード七・七五の地震が上限であるとしているが、右p
11らの試案では本件原子炉の近傍において発生する地震の上限値がどの程度と想
定されるかは明らかにされていないこと、(12)本件審査に関与したm、j、i
らが加わつた「原子力発電所における設計地震の策定に関する研究」 (甲第一二
四号証)の結果(右については当事者間に争いがない)は、本件原子力発電所の耐
震設計に際して詳細に検討した震源の深さの推定とは精度が異なるものとみられる
こと、(13)本件原子炉敷地近傍の伊予灘、豊後水道及び宇和海の地域において
発生する地震の発生機構は、日向灘付近にもぐり込んだフイリピン海プレートが、
伊予灘や宇和海の付近では約五〇キロメートル以深に至り、その付近で地震を起こ
しているものと考えられること、また、当該地域の震源の深さは、昭和二六年から
昭和四四年の平均で約三六キロメートル、同期間におけるマグニチユード五・〇以
上の地震について、その震源の深さを見ると、最も浅いもので四〇キロメートル、
当該地域で発生した地震のうち、最もマグニチユードの大きい宇和島沖の地震の震
源の深さは四〇キロメートルであること、これらの理由から、本件原子炉の耐震設
計上考慮すべき震源の深さは三〇キロメートルとしたこと、我が国において、地震
の器械観測により信頼できるデータが得られるようになつたのは昭和二六年(一九
五一年)以降とされており、また、器械観測が開始された初期のデータのうち、震
源の深さに関するデータの精度は疑問とされていたこと、気象庁のp12が大正一
五年から昭和四三年の地震の発生機構を再評価した結果では、本件敷地近傍地域に
おける地震は、すべて南北方向の圧縮軸を有する発生機構として表わされており、
それらは、いずれもフイリピン海プレートによる上部マントル地震であることを示
すものと考えられるから、昭和二五年以前の地震についても、それらの地震が地殻
内のような浅いところで発生したとは考えにくいこと、(14)金井式はもともと
基盤における地震動の最高速度振幅と震源距離との関係を表わした経験式であつ
て、内外の強震記録によつてその妥当性は十分確かめられていること、したがつ
て、地殻内の浅い地震か、遠い地震とかであればともかく、本件原子炉の耐震設計
に際して考慮しているような上部マントルで起こる地震に対しては、震央距離を使
用すべき意味はないこと、また、耐震設計における最大加速度は、個個の発電所設
置場所の地盤、地震活動性等の立地条件及び耐震設計法を総合的に考慮して決める
ものであること、本件原子炉における耐震設計で設計加速度を決めるに当たつて
は、前記のとおりシードのグラフが使用されたが、もともと震源断層距離と加速度
との関係を表わしたシードのグラフの震源断層距離を、震央距離と続み替えること
は本件敷地近傍の伊予灘、豊後水道及び宇和海の地震のように上部マントルで起こ
る深い地震の場合には適当でなく、むしろ震源距離を用いる方が妥当であり、過大
に最も大きな地震動を敷地基盤に及ぼしたと考えられる寛延二年に発生した伊予宇
和島沖地震は、敷地近傍の上部マントルで起こつた深い地震であると考えられるの
で、この地震の場合にはシードの図の適用に当たつては震源距離を用いる方が妥当
であること、前記金井式に対して、
A maX=5/●TG×10   0.61M-(1.66+3.60/X)l
ogX+(0.167-1.83/X)の金井式もあるが、この式を使用するのは
軟弱地盤の場合であること、しかしながら、前記のとおり本件敷地の地盤は軟弱地
盤とはいえないから、本件耐震設計に当たつて右の式を使用せず前記の金井式を使
用したのは治理性があること、(15)本件原子炉における主要施設の耐震設計に
際して用いた設計応答曲線の作成に当たつては、前記のタイプA、タイプBの地震
の特性をもち、かつ余裕のある最大加速度をもつ数種の設計地震波を受けた場合の
応答を求め、それらを包絡するような設計応答曲線を作成していること、もつと
も、右応答曲線は地震波の一部を包絡していない(右については当事者間に争いが
ない)が、応答曲線という耐震設計の手法を使用するという観点からみて、設計応
答曲線が設計地震波の加速度応答曲線を完全に包絡する必要はなく、局所的な尖鋭
なピークについては、エネルギー的にも施設に与える影響という観点から問題とな
らないものであること、なお、右設計応答曲線を適用する施設については、右ピー
クの位置する固有周期を有するものはないこと、(16)なお、配管類の加速度応
答倍率は一六六倍になるとの記述がある報告もあるが、右報告書の記載は誤植の疑
いもあり、したがつて、右報告書により本件原子力発電所の応答曲線が不当である
とは即断できないこと、(17)本件原子炉については、その主要施設に常時加わ
つている力に前記地震力が加えられた場合にも、右施設の応力や歪みが、その弾性
の範囲内にとどまるように配慮することにより、外力に多少の変動があつても施設
に損傷が生ずることのないよう、また、地震力を受けた後には元の状態に復するこ
とができるよう設計されていること、本件原子炉の各施設については、施設に常時
作用している自重及び原子炉の過渡状態も含め、運転時に加わる内圧等のほか、施
設の重要度に応じてそれぞれ求められた地震力を加えた場合にも、それによつて生
ずる応力又は変形がそれぞれの施設について定められた許容の範囲内に収まること
を確認することにより、施設の耐震安全性が確保されることになつていること、安
全上特に重要な原子炉格納容器及び原子炉非常停止装置については、施設に常時作
用している自重及び原子炉の過渡状態も含め、運転中の圧力等のほか、前記の動的
解析によつて求められた地震力の値の一・五倍(三〇〇ガル)に相当する地震力が
加わつたとしても、右施設に課せられている機能が十分保持されるものであること
を確認することによつて、設計余裕が確保されることとなつていることがいずれも
認められる。
原告らは、被告は二つ続いて起こる地震の影響、その他それぞれの地震の特性から
くる影響を考慮していない旨主張するところ、前顕甲第一三四号証の一、二、第二
一三号証、第二六六号証によれば、前記のとおり嘉永七年一一月五日、安政元年一
一月七日と続いて地震が発生した例が認められるが、しかし、右の続いて発生した
地震が、本件敷地に影響を及ぼしたことを認めるべき証拠はないし、また、本件原
子炉の耐震設計が一つの地震には耐えられるが、続いて発生した地震には耐えられ
ないとする証拠はない。また、地震の特性からくる影響というものは、結局本件敷
地に及ぼす地震動に帰すると考えられるところ、本件耐震設計については、この点
の配慮がなされていることは前示のとおりである。したがつて、原告らの右主張は
理由がない。
なお、原告らは、一六八五年一二月二九日及び一九一六年(大正五年)八月六日に
松山市周辺で発生した地震が、本件安全審査資料から欠落している旨主張するけれ
ども、右各地震が本件敷地に影響を及ぼしたものと認めるべき資料はない。したが
つて、右資料の欠落があつても何ら本件安全審査を違法、不当ならしめるものでは
ない。
更に、原告らは、本件原子炉の敷地よりも地盤がよく、かつ、地震の少ないアメリ
カのサンオノフレ原子力発電所の設計加速度の六六〇ガルと比べても、本件原子炉
の設計加速度は低すぎる旨主張し、前顕甲第一三四号証の一、二、第二六六号証は
右主張に添うものであるが、右各証拠によるもサンオノフレ発電所の地盤が具体的
にいかなるものかを示す資料は見出せない。したがつて、右原告らの主張に添う証
拠は直ちに採用できない。
また、原告らは、アメリカの耐震設計に関する基準では、鉛直震度と水平震度とが
同じ比率になつている旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前記争いのない事実及び認定事実に照らすと、本件安全審査において本件
原子炉の耐震設計は有効で安全であると判断したことは相当と認められる。
四 社会的立地条件について
1 発電所用淡水の取水について
本件原子炉用淡水を当初<地名略>喜木川等から取水するとしての設置許可申請が
なされ、本件安全審査において、この申請を相当と判断したこと、その後右申請は
変更され、<地名略>からの取水は取り止めになり、海水の淡水化によつて発電所
用淡水を賄うこととし、その点について安全審査がなされ、これが相当とされたこ
とについては、いずれも当事者間に争いがない。したがつて、仮に、当初の<地名
略>からの取水を相当とした安全審査に瑕疵があつたとしても、左瑕疵は右取水の
方法の変更によつて治癒したものとみられる。
2 社会的条件の不備について
原告らは、<地名略>及びその周辺町村の人口密度、農漁業等の産業の保護、住民
意識等から考えて、本件敷地に原子炉を建設することは許されない旨主張する。
しかしながら、右主張のうち、原告らの生命、身体、財産等が本件原子炉の設置に
よつて損傷されるとの主張に当たる部分(以上は第三ないし第五記載のとおり)を
除いたその余は、原告らの具体的利益に直接関係しないことであり、右原告らの具
体的利益に直接関係しない点について、原告らは本訴でこれが違法を主張すべき利
益を有しない。
3 本件原子力発電所が瀬戸内海沿岸に設置される点について
原告らは、瀬戸内海は、産業、交通その他我が国の文化、経済のうえから見て、極
めて重要な海であり、この沿岸に原子炉を設置した場合、いつたん事故が発生する
と、
瀬戸内海は放射能で汚染され、その沿岸住民の生命、身体等を損傷するばかりでな
く、我が国の産業、交通、文化、経済に対して取り返しのつかない被害を与えるも
のであるから、瀬戸内海に面した本件敷地に本件原子炉を設置することは許されな
い旨主張する。
しかし、右主張のうち、原子炉事故の場合、沿岸海域の放射能汚染を介して、原告
らの生命、身体、財産等を損傷するとの主張に当たる部分(以上は第三ないし第五
記載のとおり)を除いたその余は原告らの具体的利益に直接関係しないものであ
り、右原告らの具体的利益に直接関係しない部分につき、本訴において原告らはそ
の違法を主張すべき利益を有しない。
五 四国電力の技術的能力について
原子炉設置者の技術的能力は、原子炉の安全性に密接に関係し、ひいては、原告ら
周辺住民の安全に関わる問題である。しかしながら、規制法二四条一項三号はこの
点について極めて抽象的にしか規定していないから、同条文の合理的な解釈によつ
てその基準を定め、その基準適合性を判断しなければならない。そうだとすると、
原子炉の建設要員はその担当建設工事開始までに、運転要員はその運転開始まで
に、いずれも揃つている必要があり、その技術的能力の程度は、少なくとも現在稼
動している我が国の原子炉における技術者の能力に匹敵することを要し、その能力
の存否は、その技術の質や経験を併せ考慮して判断する必要があり、更に、原子炉
が多数の技術者によつて建設、運転されるものである以上、組織上の面も重視しな
げればならないと解される。
ところで、本件安全審査において、四国電力に技術的能力があると判断したことに
ついては当事者間に争いがなく、前記規制法二四条一項三号の趣旨及び前顕乙第一
号証の二及び証人yの証言により認められるところの、四国電力が本件原子炉の設
置、運営に充てるべく予定している技術者の人数、社内での地位、学歴、法定の有
資格者数及び原子炉運転等の経験を踏むための技術者の養成計画等からみて、本件
安全審査における前記判断は相当と認められる。なお、前記認定を左右するに足る
証拠はない。
なお、原告らは、四国電力から提出された「一次冷却材喪失事故時の燃料被覆材の
健全性について」と題する資料の記載内容、本件原子炉の設置許可申請に当たり、
中央構造線を重視しなかつたこと、昭和五一年一〇月二三日の燃料装荷ミス等は、
いずれも四国電力に技術的能力がないことを示すものである旨主張する。しかしな
がら、右の申請書、参考資料の記載内容に原告ら主張の如き点があるからといつ
て、これをもつて直ちに四国電力に技術的能力があるとの判断を左右する程のもの
とはみられない。また、燃料装荷時のミスについては、弁論の全趣旨によれば右の
一事を除いて他に大きなミスの存在はないものと認められるので、右ミスをとらえ
て、直ちに四国電力に技術的能力があるとの判断を左右するに足りない。
第五 事故対策
一 工学的安全防護設備について
1 事故対策と工学的安全防護設備の健全性について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉には、一次冷却材喪失事故等を想定し
た場合に、燃料被覆管の大破損や放射性物質の拡散を防止し、若しくは抑制するた
めに、非常用炉心冷却系(ECCS)、原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設
備、格納容器スプレイの四つの工学的安全防護施設が設置されていること、ECC
Sは事故時にほう酸水を原子炉容器等に注入することによつて燃料温度の上昇を防
止し、燃料の損傷、溶融等を防止すること、原子炉格納容器は事故時に放射性物質
が外部に漏洩しないように設計されていること、アニユラス空気再循環設備は格納
容器内に放射性物質が放出されたとき、アニユラス部の空気をフイルターでろ過す
ること、格納容器スプレイは事故時に原子炉格納容器の内圧を減少させ、かつ、浮
遊する核分裂生成物(特にヨー素)の除去を行うようになつていること、なお、格
納容器以外は重複性を有すること、また、これら工学的安全設備は運転中あるいは
停止中に点検又は試験ができるようになつていること、これらの各設備の設計は相
当であり、したがつて、一次冷却材喪失事故等が発生しても周辺公衆の安全は確保
されると判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) 本件原子炉には、ECCS、原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設
備、格納容器スプレイの四つの工学的安全防護施設があること、一次冷却系の配管
の破断等の一次冷却材圧力バウンダリの破損によつて一次冷却材が多量に流出する
事態が生じた場合には、炉心における冷却機能が低下し、燃料被覆管が破損するこ
とになるため、一次冷却水中に含まれている放射性物質のみならず、燃料棒の中に
閉じ込められている放射性物質が、格納容器内に放出されるいわゆる一次冷却材喪
失事故となることについてはいずれも当事者間に争いがなく、前顕乙第一号証の
一、二、第四号証、第三〇号証、第三二号証、証人xの証言により真正に成立した
ものと認める同第一八号証並びに証人x、同nの各証言及び弁論の全趣旨を総合す
ると、(1)本件原子炉は、前記第四の一ないし三掲記のとおり、事故を発生、拡
大させないように防護策が講じられているが、更に、万一の事故の場合にも、原子
炉の安全性についての多重防護の考え方に基づき、特定の事故を想定し、そのよう
な事故の場合にも周辺公衆が放射線障害を受けることがないよう、安全確保のため
に前記の工学的安全防護施設を装備しており、かつ、これらの装備は格納容器を除
いて重複性を備えているため、現実に周辺住民に放射線障害を与えるおそれは考え
られないこと、(2)本件原子炉のような加圧水型原子炉においては、一次冷却系
配管が破断した場合、放射性物質を含んだ一次冷却水が格納容器内へ流出し、前記
争いのない事実のような事態に至り、かつ、炉心にも大きな影響を及ぼす可能性が
あり、最悪の場合には炉心溶融という事態が発生する可能性も考えられるが、後記
とおり、ECCS、原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレ
イの機能によつて、炉心溶融を未然に防止するとともに、放射性物質の外部への放
出を抑制又は防止することとなつているので、右のような事故が仮に発生したとし
ても(右のような事故の発生する可能性はほとんど考えられないが)、周辺住民に
放射線障害を与える可能性はほとんど考えられないこと、すなわち、(3)本件原
子炉においては、右一次冷却材圧力バウンダリの健全性を確保するため、一次冷却
材圧力バウンダリを構成する機器及び配管は、いずれも耐食性及び機械的強度を有
する材料を使用し、余裕のある強度設計を行うとともに、運転開始後もその健全性
を確認できる構造及び配置等になるような対策が講じられており、(4)万一、右
一次冷却材圧力バウンダリから一次冷却水が漏洩しても、右漏洩は、格納容器内の
放射性物質濃度、ドレン発生量及び体積制御系の充てんポンプ流量をそれぞれ常時
監視している各監視装置によつて、少量の漏洩の段階で検知され、右充てんポンプ
流量が自動的に増加して、一次冷却材圧力バウンダリ内の冷却水量の減少を防止す
るとともに、原子炉の停止等所要の対策が講じられることになつていること、
(6)本件原子炉の格納施設内には前記格納容器、格納容器スプレイ及びアニユラ
ス空気再循環設備が設置されており、更に、格納容器外周には鉄筋コンクリート製
の外周コンクリート壁が設置されていること、これらの設備によつて、本件原子炉
は、平常運転時はもとより、事故時においても、放射性物質を格納施設内に閉じ込
め、外部への放出を抑制又は防止するとともに、格納施設内に閉じ込められた放射
性物質から出る放射線を遮断し、これが施設外に出るのを極力防止できる構造とな
つていること、(6)格納容器の構造は前記(第三の二の2の(二))のとおりで
あり、事故時の圧力や温度に対しても耐え得るような強度上の条件を備えているこ
と、(7)格納容器スプレイ設備は事故時において、燃料取替用水タンクに貯えら
れている水にヨー素除去剤を混入し、格納容器上部から雨状に散布することによつ
て、格納容器内の温度や圧力を下げて、格納容器の健全性を保持するとともに、格
納容器内に拡散した放射性物質、特に無機ヨー素を洗い落とすことによつて、格納
容器から外部への漏洩を抑制する機能を有するものであること、本件原子炉におい
て使用される格納容器スプレイ設備は、一系統の作動によつても冷却に必要な水を
散布できるものが二系統設置されていること、また、格納容器スプレイポンプは試
験用配管を用いて作動試験を行うことにより、その健全性を確認できる構造となつ
ていること、(8)一次冷却材圧力バウンダリの破損等によつて、格納容器内に放
出された放射性物質は、格納容器内に保持されるが、格納容器の電線ケーブルや配
管の貫通部から、わずかづつではあるが漏洩する可能性があるので、右配管等の貫
通部のある格納容器円筒部とこれを取り巻くコンクリート壁との間を閉空間(アニ
ユラス部)とし、放射性物質が直接外部へ漏洩するのを防止するようになつている
こと、アニユラス空気再循環設備は、再循環フアンによつてアニユラス部の空気を
再循環させ、この再循環過程に設けた放射性物質を捕捉する機能を有する非常用フ
イルターによつて、放射性物質を捕捉するとともに、アニユラス部の圧力を大気圧
より低く保つことにより、アニユラス部に漏洩した放射性物質が右の非常用フイル
ターを経ずに外部に漏洩することを防止する機能を有していること、本件原子炉に
おいて使用されるアニユラス空気再循環設備は、一系統の作動によつても、機能を
発揮できるものが二系統設置されているとともに、右設備を構成する配管やフイル
ター等は目視検査や性能検査等によつてその健全性が確認できる構造になつている
ことがいずれも認められる。
原告らは、被告は本件原子炉については念には念を入れるという考えの下に、仮
に、外部に異常な放射性物質の放出をもたらすおそれがある事態が発生したとして
も、原子炉周辺公衆の安全を確保できるようにするため十分な安全防護設備が設け
られているというが、右の安全防護施設には信頼性がない旨、すなわち、格納容器
スプレイとアニユラス空気再循環系とは、格納容器内に放射性物質が閉じ込められ
ているということを前提として、換言すれば、格納容器の健全性が保たれている限
りで、はじめてその有効性が発揮されるところ、格納容器力健全性は、炉心が溶融
しないことを前提にして保障されているものであり、したがつて、炉心が溶融すれ
ば、格納容器の放射性物質を閉じ込めるという機能が破壊され、ひいては、格納容
器スプレイもアニユラス空気再循環系もその機能を発揮し得ない。そして、炉心が
溶融しないためには、事故時において緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動し、か
つ、その期待された性能が発揮されることが必要である。しかるに、本件原子炉に
設けられているECCSは、一次冷却材喪失事故時に炉心の溶融を防ぐという機能
に関しては極めて信頼性の低いものであると主張する。
しかしながら、本件安全審査においてECCSが有効であると判断されたこと及び
右判断は相当とみられることは後記のとおりである。したがつて、右は前記認定を
左右するものではなく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示争いのない事実及び認定事実に照らせば、本件安全審査において、本
件原子炉における工学的安全防護施設(ただし、ECCSについては後記のとお
り)によつて安全性確保ができると判断したことは相当と認められる。
2 ECCSについて
(一) 本件ECCSの審査に当たつては暫定指針(いわゆる三項目指針)が使用
されたこと、更に、右指針を具体化するものとして請求の原因第四章の第五の三の
2掲記の三条件が守られているかどうかを審査する方法がとられたことについては
当事者間に争いがない。
ところで、原告らは右暫定指針は判断基準として非常にあいまいであり、不十分な
ものであるため、右指針に適合したからといつて、ECCSは何ら炉心溶融を防ぐ
保証にはならない旨、その他請求の原因第四章の第五の三の3掲記のとおり主張
し、更に、右三項目指針を具体化する基準はo委員が恣意的に作成したものである
旨主張する。
しかし、前顕乙第一号証の二、成立に争いのない同第一〇一号証、証人oの証言及
び弁論の全趣旨を総合すれば、(1)ECCSの役割は、一次冷却材喪失事故時に
おいて、燃料の適切な冷却を維持することにより、燃料被覆管の大破損を防止する
ことにあること、すなわち、万一、燃料被覆管が酸化による脆化のため大きく損な
われるようになると、炉心の冷却可能な形状が維持できず、ひいては、炉心が溶融
する可能性も出てくるため、ECCSの働きによつて、燃料被覆管が多少損なわれ
ることはあつても、大きく損なわれることのないように配慮しているものであるこ
と、右指針(1)はかかる趣旨の下に定められたものであること、(2)いわゆる
三項目指針の(2)はLOCA時に被覆材の脆化部分の割合を小さく制限するこ
と、すなわち、最高温度を制限することとによつて、燃料被覆管の酸化による脆化
を抑制し、右被覆管がそれに加わる加重に対して十分耐えることを保証しようとし
ているものであること、したがつて、右指針(2)が温度のことを規定しているか
らといつて、指針そのものが温度の点のみに着目して炉心の冷却可能形状が維持で
きることを保証しようとしているものではないこと、(3)水素が空気中に含まれ
る酸素と反応するためには、水素の濃度が四パーセント以上存することが必要であ
るが(右については当事者間に争いがない)、本件原子炉の場合には、その格納容
器の体積が極めて大きく、その自由空間は約四万立方メートルもあるため、例え、
ジルコニウム・水反応が、全被覆材の一パーセントに生じたとしても右格納容器内
の水素濃度は空気中の酸素と反応する濃度にならないし、また、一次冷却材喪失事
故時には、破断口から吹き出す高温の蒸気が格納容器内で急激に上昇するとみられ
ること及びそれが格納容器頂部に設けられたスプレイ設備から散布される冷却水に
よつて、かくはんされるため、水素が格納容器上部にたまる事態は起こり得ないこ
とがいずれも認められ、右認定を左右するに足る確たる証拠はない。
また、三項目指針を具体化する基準をo委員が恣意的に作成したとの主張事実につ
いては、これを認めるに足る証拠はない。
したがつて、前記原告らの主張は理由がない。
(二) 本件原子炉のECCSの構造が被告の主張第四章の第五の一の4の(二)
の(2)のア掲記のとおりであること、ECCSの有効性のテストは実物はもちろ
ん小型化したものでも世界のどこでも確かめられないこと、本件安全審査において
は、部分的な実験データを取り込んだ計算によつてECCSの有効性を判断すると
いう方法がとられていること、未知の要素を計算によつて解明することはできない
ことについてはいずれも当事者間に争いがなく、前顕甲第六一号証、乙第一号証の
一、二、第一八号証、第三〇号証、第三二号証、第四九号証、第一〇一号証、第一
三九号証、いずれも成立に争いのない甲第八〇号証、第一三六号証、第一三八号
証、第二七八号証、乙第三一号証、第三九号証、第四六号証、第四八号証、第五〇
号証、原本の存在並びに成立に争いのない同第三八号証、弁論の全趣旨により原本
の存在並びにその成立の真正が認められる同第五一号証、並びに証人x、同n、同
oの各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)本件原子炉では、前記のように
多量の一次冷却水が格納容器内へ流出する事態が生じた場合を仮想し、このような
場合においても燃料被覆管の大破損に至るのを防止することができるようにECC
Sが設置されているものであること、(2)本件原子炉において使用される蓄圧注
入系、高圧注入系及び低圧注入系は、それぞれ二系統ずつ、いずれも独立の系統を
もつて設置され、右三種類の注入系のうちのそれぞれ一系統だけの作動により、炉
心冷却に必要な冷却水が注入できるものとなつていること、また、高圧注入系及び
低圧注入系は外部電源が喪失した場合においても、少なくとも各二次系統のうち、
各一系統は作動するように、二台の非常用デイーゼル発電機によつて、それぞれ電
源が確保されていること、(3)本件原子炉において使用されるECCSは、運転
開始後も、その健全性が確認できるように、テスト配管によるポンプの起動試験、
非常用デイーゼル発電機の起動試験、信号系統の作動試験等の各種の試験及び検査
ができる構造となつていること、(4)本件原子炉において使用されるECCSに
ついては、現実にはほとんど起こり得ないような一次冷却材喪失事故を想定した場
合においても、その性能を発揮するものであることが昭和四七年一〇月に安全審査
において定められた「非常用炉心冷却設備(ECCS)の安全評価指針について」
を参考の上確認されていること、(5)アメリカのLOFT八〇〇番シリーズ実験
で、ECCSの蓄圧注入系が模擬炉心の中に予期されていたように水を送ることが
できないという結果が出た(右については当事者間に争いがない)が、右実験につ
いては、その目的がもともとブローダウン現象の解析のための計算コードを検証す
ることにあり、ECCSの有効性を確認するためのものではなかつたもので、実験
装置力形状も実際の加圧水型原子炉と異なつていたため、注入水が炉心に到達せ
ず、脇を流れて破断口から流出してしまつたものとも考えられていること、したが
つて、この実験結果が実用炉にそのままあてはまるかどうかについては多くの疑問
が提起されていること、しかし、現段階では、この実験結果を実用炉に適用すべき
だとの考え方を全く否定し得る知見もないので、本件原子炉におけるECCSの性
能評価に際しては、あくまで安全を守るという考えのもとに、ブローダウン過程で
は蓄圧注入系の冷却効果はないものと仮定して計算したこと、(6)LOCA時に
おける熱水力学的現象は多くの実験によつて確認し得るいくつかの部分的現象に分
けることができるから、まず、個々の部分的な現象についての多くの実験、経験に
よつて裏付けされた個々のモデルを作成し、次に個々のモデルを基に、更に、実
験、経験により、かつ、不確実な点は厳しい条件を設定することによつて、個々の
モデルの間の関係付け、総合化を行い、一方、諸数値についても、個々のモデルと
同様に、実験等によつて確認した上で設定することにより、現実を総合的に評価し
得る解析コードが作成され、妥当性があるとの評価を得ていること、そしてこのよ
うな方法をとることは、実際に事故状態を発生させて実験することのできない原子
力発電所については、安全上有効なものであること、本件原子炉のLOCAの際に
おけるECCSに関する解析は、ブローダウン時の現象解析、再浸水及び再冠水時
の現象解析、燃料被覆材温度解析等からなつており、ブローダウン時の解析及び諸
数値については、アメリカ原子力委員会によるLOFT計画の中で多数の実験が行
われ、また、ブローダウン後の再浸水及び再冠水時の炉心冷却についての解析モデ
ル及び熱伝達等に関する諸数値は、実物大の燃料模型を用いた一連のFLECHT
実験等により裏付けられている上、これらの解析の結果に基づく燃料被覆材温度の
解析に当たつても、試験結果等によつて裏付けられた数値が用いられていること、
(7)ECCSの作動を解析するに際しては、実際に事故が発生したときに、どの
ような現象が生ずるかを忠実に知ろうとする最適推定モデルと、右事故時におい
て、ECCSが炉心を冷却するに十分な性能を有するかどうかを確かめる評価モデ
ルとがあり、この解析目的の違いから、解析に使用されるモデルも異なること、評
価モデルによる解析結果が現実の値に対して、定量的にどれだけ保守的なものとな
つているかを明らかにするためには、最適推定モデルの完成を待ち、これと評価モ
デルとを比較することが必要となるが、安全評価上は、評価モデルにおける解析結
果の保守性が確保されていることが確認されれば十分であり、右保守性を定性的に
評価することは専門的知識によつて十分可能であること、アメリカのLOFT計画
によつて改訂されているのは右の最適推定モデルであり、本件原子炉ECCS解析
に用いられたのは評価モデルであり、その保守性は確認されていること、(8)本
件原子炉のECCSの性能を解析するため、アメリカのウエスチングハウス社が開
発した解析モデルが使用されているが、この解析モデルは破断口からの一次冷却水
の流出状況や蓄圧注入系の注入状態等を解析するために行われた各種の実験、一次
冷却水が流出し、ECCSからの注入水によつて再び炉心の水位が回復するまでの
間に、燃料の冷却はどのようになるかを解析するために行われた各種の実験の結果
に基づいているとともに、実験によつては確認され難い各種の複合的現象について
は、厳しい条件を設定した上で作成されたものであること、(9)ECCSの性能
を評価するための一次冷却材喪失事故の想定としては、まず、一次冷却系配管の破
断の態様として、破断の形態、破断の面積、破断の場所の三者を組み合わせたもの
数種が使用されていること、(10)次に、一次冷却材喪失事故時における炉心の
状態として、原子炉出力は定格出力の二パーセント増し、被覆材温度に重要な影響
を与える出力密度は設計で考慮している最大値、核分裂生成物の崩壊熱は無限時間
運転時の値の二〇パーセント増しとするなどの条件が設定されていること、更に、
一次冷却材喪失事故時に、外部電源がすべて喪失し、かつ、非常用デイーゼル発電
機二台のうち、一台しか起動しないものと仮定している。すなわち、高圧注入系及
び低圧注入系は、それぞれ一系統しか動かないものと仮定していること、(11)
本件原子炉ECCSの解析によれば、燃料被覆管の酸化による脆化その他いずれの
観点からみても、前記一次冷却系配管の破断の態様として最も厳しいものは、低温
側配管が瞬時にギロチン破断する場合であること、すなわち、ECCSの性能評価
を行うに際して、一次冷却材喪失事故を想定するに当たつては、一次冷却系配管の
破断の態様の一つとして、「破断の面積」を大はギロチン破断(DEB)に相当す
る約〇・八平方ムートルから、小は約〇・〇五平方メートル(〇・五平方フイー
ト)まで数種想定した上解析したこと、右解析結果から、〇・五平方フイートでは
燃料被覆管の最高温度は低下する傾向にあること、最高温度自体も八三八度Cであ
つて、右解析結果のうちで最も厳しい〇・六DEB(BEBの〇・六倍)の場合の
一一四六度Cに比べて低いこと、なお、〇・五平方フイート以下の小さな破断面積
で燃料被覆管温度が高くなるという理由は考えられないことから、本件原子炉で使
用するECCSは、一次冷却系配管のいかなる寸法の配管破断に対しても有効であ
ると判断したこと、なお、小破断の場合には、大破断の場合に比べて、一次冷却水
の流出流量が少なく、したがつて、右一次冷却水の炉心からの流出に伴つて十分炉
心の崩壊熱を除去することができ、また、一次冷却系圧力がECCS注入可能圧力
以下に低下した後には、大破断の場合におけると同様にECCSが働くこと、そし
て、本件原子炉のECCSと全く同設計の伊方二号炉の安全審査に際し、念のため
行われた配管の口径約一五センチメートル(破断面積約〇・〇二平方メートル)の
場合の解析によれば、被覆管の最高温度は七五八度Cにしかならなかつたこと、蒸
気発生器細管破断事故は、破断場所及び流出流量からみて、炉心にとつて大口径一
次冷却系配管破断のように厳しいものではないこと、破断による一次冷却水流出期
間中も燃料の冷却は十分確保され、燃料被覆材の損傷は生じないこと、また、EC
CSも有効に作用することがいずれも確認されたこと、(12)本件原子炉ECC
Sの性能の評価のための右解析の結果によれば、前記のように燃料被覆管の最高温
度は一一四六度Cにとどまり、その最も酸化の進んだ部分においても、その厚さの
九〇パーセント以上は右の酸化の影響を受けず、その延性は保たれ、その健全性が
大きく損なわれることはないと評価されたこと、そのため、燃料被覆管はブローダ
ウン時はもちろんのこと、再冠水時においても冷却可能な形状を維持できること、
なお、LOCA時において燃料被覆管がふくれて穴があき、その穴から蒸気が流入
して燃料被覆管の内面から酸化する現象に関し、内面の酸化量の割合を二五パーセ
ントと仮定した場合においても、酸化の影響を受けていない部分の割合はふくれに
よる肉厚減少を一〇パーセントと仮定しても、その減少した肉厚の八四パーセント
程度であつて、燃料被覆管が大きく損なわれることはないと評価されたこと、(1
3)「被覆材温度Fwのパラメータサーべイ」(乙第四六号証)の第一図による
と、Fwが八〇パーセント以上の燃料棒一三本は完全に隣接しており、そのうえF
wが八〇パーセントないし八五パーセンーのものが右一三本を取り囲む形態で存在
しているが、右「被覆材温度Fwのパラメータサーベイ」の第三図をみると、前顕
第一図のようなFwの分布となる燃料集合体は、炉心全体でみれば全一二一体のう
ち八体に過ぎず、しかも完全にばらばらに離れて存在していること、右資料の第一
表のケース六の肉厚減少二〇パーセントの例によれば、Fwの最小値は七・六パー
セントで、八五パーセント未満の燃料棒は全体で一・三パーセントであること、右
の燃料集合体八体以外はすべてFwが八五パーセント以上であること、更に、炉心
の横方向から見れば、右資料のB-三図により中心付近のごく一部のもののみが制
限値に近づくこと、なお、オークリツジ国立研究所のホプソン等の研究で、一次冷
却材喪失事故が終息する温度条件では、Fwが七〇パーセント以上であれば、被覆
管を半径方向に約三・八ミリメートル瞬間的に圧縮しても多少ひび割れができるも
のがある程度の状態であり、更に、Fwが七五パーセント以上であれば、ひび割れ
もできないという実験結果が報告されていること、したがつて、本件原子炉の場合
冷却可能形状は維持されるとみられること、(14)本件原子炉の場合、前記のよ
うに被覆管の内面酸化を適切に考慮した場合において、その最高温度は基準値の一
二〇〇度Cを下回つたこと、なお、日本原子力研究所の実験の結果(甲第八〇号
証)では、内面酸化割合が外面のそれに比べて平均二倍の酸化量を示したが、右実
験の結果は燃料被覆管の内外面の酸化量を示しているのではなく、、酸化膜の厚さ
の比を示しているに過ぎないこと、内面酸化については、外面酸化に比べて被覆管
内外面の温度条件はほとんど同じであるにもかかわらず、酸化に必要な蒸気が十分
に供給されないため、酸化の割合を一より小さいものと考えるのが妥当であるこ
と、なお、内面酸化の計算は外面酸化の計算と同様にベイカージヤストの式が用い
られており、この式は反応量を多めに見積もるものであることが知られているこ
と、なお、伊方二号炉においては、内面酸化割合を「一」として計算したが、被覆
材最高温度は基準値の一二〇〇度Cを超えなかつたこと、(15)PWR-FLE
CHT実験によれば、燃料被覆管がふくれを生じた場合には、蒸気流がかくはんさ
れること及び蒸気流に含まれている水滴が細粒化されること等からかえつて冷却効
果がよくなること、FLECHT実験においては、再冠水速度が実際の原子炉にお
いて予測される毎秒当たり一インチの値であつても、流路閉鎖による冷却効果の増
大が確認されていること、ふくれによる流路閉鎖を忠実に模擬した場合とFLEC
HT実験のように平板で模擬した場合とでは、冷却効果の点において大きな差異が
ないことが確認されていること、したがつて、ふくれによる流路閉鎖はECCSの
性能の減少をもたらすものではないと考えられていること、(16)前記のよう
に、本件原子炉のECCS評価の結果、一次冷却材喪失事故期間を通して燃料被覆
管が延性を維持することによつて、炉心の冷却可能形状の喪失をもたらすような大
破損を起こすことはないと評価されていること、被覆管は相変態が起こるような高
温では円周方向に数十パーセント伸びる程の延性を有していること、被覆管の相変
態による破断の実例又は実験の結果を示す資料は提出されていないことから、被覆
管の相変態により、その破断が生じて、ECCSの性能が発揮できなくなると即断
し難いこと、(17)p13らが蒸気発生器の細管の内径、炉心の流路断面積、圧
力容器の入口配管と炉心底部との高低差及びK値について、いずれも必要な数値を
確知し得ないまま計算した結果、本件ECCSの再冠水速度は最大値として、AC
C注水中毎秒当たり〇・五三インチ、ACC注水後は、同一・一インチとなつた
が、本件原子炉ECCS評価においては、再冠水速度は毎秒当たり〇・六インチな
いし一・二インチとされていること、したがつて、本件ECCS評価における再冠
水速度の方が若干多いが、ほぼ対応した数値であること、他方、p13らの計算は
前記のとおり不確実要素に基づくものであること、したがつて、本件ECCS評価
における再冠水速度が特に過大とはみられないこと、(18)本件ECCS評価に
際し、ブローダウン時の解析に用いられた計算コード(SATAN-V)は、一次
系を六五の小領域に区分し、右小領域においては、温度条件が同一(熱平衡)であ
り、かつ、蒸気と水の流れの方向及び速度が同一(均質)であるとして、ブローダ
ウン時の熱水力計算を行うものであるが、セミスケールブローダウン実験について
の右計算コードによる計算値とその実験値とは合致しており、右熱平衡、均質モデ
ルは不当なものでないこと、(19)原子炉において使用されるECCSの性能評
価においては、ブローダウン期間中に蓄圧注入系から注入された冷却水は炉心を全
く通つていない評価になつていることは解析結果から明らかであり、下部プレナム
に一部残存するものとしている冷却水が直接的な炉心冷却に寄与することは考慮さ
れていないこと、また、右ブローダウン実験結果を踏まえ、ブローダウン終了時に
は、改めて蓄圧注入系からの注入水の全量を差し引き、炉心下端にまで水位が回復
する時間を遅らせ、炉心が露出して冷却されない期間を長くすることとし、炉心バ
イパスの現象に関するブローダウン時の取り扱いとしては、厳しい評価をしている
こと、(20)LOCA時における破断口からの流出量は、ムーデイの式から求め
る値に放出係数と破断面積とを乗じて求めるものであること、ムーデイの式は理論
的に考えられる最大流量を求める式であるため、現実的な流量を求める際には、補
正係数として一・〇より小さい放出係数を用いる必要があること、ギロチン破断の
形態は、一次冷却系ループの主配管についてのみ考えればよく、主配管に接続して
いる小配管が破断した場合は、主配管の側面に穴があいた場合に相当し、これは、
ギロチン破断といわず、スプリツト破断として別に取り扱つていること、本件原子
炉のECCS評価におけるギロチン破断の解析で、放出係数が一・〇、破断面積が
ギロチン破断面積の一・〇倍及び〇・六倍としているのは、破断面積が〇・六より
小さい場合を見落しているのではなく、物理的にはギロチン破断は一義的に定まる
もので、放出係数を一・〇及び〇・六として解析したものであること、また、破断
面積〇・六以下の解析を行つていなくても、ギロチン破断の場合には、〇・六とい
うのは放出係数と同じことを意味するものであり、数多くの実験から放出係数は
〇・七ないし〇・六程度であることが確かめられていること、前記のとおり本件E
CCS評価は最悪のケースを見落しているとはみられないこと、(21)本件原子
炉において使用されたECCS評価に当たつて求められた被覆材温度はモード1実
験の結果による燃料被覆材温度より低い値となつているが、計算コードで解析した
その実験についての計算結果と実験結果とを比較するのと異なり、種々の条件の異
なる実験によつて求められた値と、本件原子炉において使用されるECCSの性能
評価に当たつての解析結果から求められた値とを直接比較してみても、両者の間で
は多くの条件が異なるため、比較の意義は少ないものというべく、また、レラツブ
四計算コードによる計算結果とモード1実験の解析の結果とを比較すると、計算の
結果が危険側にでたが、右計算コードは、現象を現実的に解析する最適モデルであ
ること、本件原子炉をはじめとする実用炉のECCS評価に用いられる計算コード
(評価モデル)は、最適モデルに比べ各種の安全余裕を有していて、燃料被覆管温
度も高めに計算されるように作られていること、したがつて、右の計算と実験の結
果に若干の違いがあつたことは、本件解析が危険な側を示すものであるとは即断で
きないこと、(22)本件ECCS評価によれば、全燃料被覆管について、金属と
水との反応割合は、〇・一パーセント以下であり、水素の生成量も小さいと評価さ
れたこと、なお、ジルカロイは滞留水蒸気にさらされると水素を吸収してその延性
を著しく低下させるという実験結果があるが(甲第一三八号証)、日本原子力研究
所で行つた右実験結果は、一一五〇度C及び一二〇〇度Cに加熱したジルカロイ被
覆管を滞留水蒸気にさらしたところ、その時間が三分以内であれば急速に延性を回
復する傾向を示すのに対して、三分を超えると急速に脆化することを示したもので
あり、LOC期間Aに燃料被覆管の温度が上昇し、右実験値付近にとどまるのはご
く短時間に過ぎないこと、したがつて、右実験結果をもつて直ちに本件原子炉のL
OCA時における燃料被覆管の強度が低下するとはいえないことがいずれも認めら
れる。原本の存在並びに成立に争いのない甲第一三七号証及び証人dの証言によれ
ば、アメリカの原子炉メーカーのバブコツクス・ウイルコツクス社がアメリカ原子
力委員会に提出した資料では、加圧水型原子炉の燃料棒については、被覆管の破裂
は低温側配管破断のわずか一・三秒後に炉心の七〇パーセント以上に及ぶと予測し
ていることが認められ、また、証人oは被覆管のLOCA時における破裂は多くて
四割ぐらいである旨証言するが、前示認定に照らし右証拠はいずれも採用しがた
い。また、原告らはLOCA時に燃料被覆管の健全性を維持するための計算根拠と
なつた熱衝撃荷重及びアセンブリ拘束等の数値が妥当でない旨、請求の原因第四章
の第二の三の3の(三)の(1)、(2)掲記のとおり主張する。しかし、原本の
存在並びに成立に争いのない甲第七八号証及び証大oの証言によると、LOCA時
における燃料被覆管の健全性を維持する方法としては(1)燃料被覆管にかかる応
力と、破裂や、酸化の生じた燃料被覆管が耐え得る応力とを比較する方法(ウエス
チングハウス社が提案している方法)と(2)燃料被覆管の最高温度と酸化による
脆化から燃料被覆管が十分な延性を有しているかどうかを判断する方法(オークリ
ツジ国立研究所のホプソンらが提案した方法)との二つがあるが、本件原子炉の安
全審査では(1)の方法については、右応力計算の方法等が、まだ必ずしも確立さ
れているとはいえないので、単に判断の際に参考とするにとどめ、(2)の方法に
よつてLOCA時における燃料被覆管等の健全性が保持されると判断したこと、し
たがつて、熱衝撃荷重、アセンブリ拘束値は、いずれも本件安全審査におけるLO
CA時の燃料被覆管の健全性の判断に使用しなかつたものであることがいずれも認
められる。したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
また、原告らは、装気発生器細管が減肉、腐食等の損傷を受けている状態で、一次
冷却材喪失事故が発生した場合には、右事故に際して生ずる外圧により、右損傷を
受けている蒸気発生器細管は容易に圧潰や破断を起こし、二次冷却水が高圧蒸気と
なつて右細管破断部に入り、更に、蒸気発生器を経て圧力の低下した炉心部へ逆流
するため炉心が高圧となり、ECCSによる炉心の注水が妨げられて炉心溶融に至
る旨、その他請求の原因第四章の第三の二の1の(三)のとおり主張し、証人zは
右主張に添う証言をする。また、前顕甲第六一号証、第六三号証、第二六四、二六
五号証も右主張に添うものである。しかし、前記のとおり本件原子炉において使用
される一次冷却系配管は本件安全審査において安全性を保持できると判断されてい
ること、そして、右判断は相当と認められることに加えて、本件原子炉において使
用される蒸気発生器細管は、一次冷却系配管が破損するが如き事態においても、そ
の健全性を保持できるように配慮されていることは前記認定のとおりである。した
がつて、原告らの右主張は理由がない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示争いのない事実及び認定事実に照らし、本件安全審査において、本件
原子炉のECCSは一次冷却系配管破断による一次冷却材喪失事故時において、安
全性を保持できると判断したことは相当と認められる。
(四) (1)原告らは、LOCAの原因となる一次冷却系圧力バウンダリの破損
には、配管類の破断の他に、原子力圧力容器のき裂、割れ等の破壊があり、圧力容
器が破壊すると原子炉内に炉心冷却水を保持することが不可能になるので、注入方
式の現在のECCSは全く役に立たない。更に、ECCSを全く無効にする一次冷
却材喪失事故は、圧力容器と連結している一次冷却系配管の破断によつてもひき起
こされる。すなわち、一次冷却系配管の破断によつて噴出する大量の蒸気の衝撃
で、圧力容器の破壊や回転が誘発されるという場合である。圧力容器が回転すれ
ば、それに連結しているECCS配管も破損し、圧力容器の破壊の場合と同様に、
本件ECCSは全く無効となる。すなわち、本件原子炉にとつては、圧力容器の破
壊によつて起こるLOCAに対する防護設備は何一つない旨主張する。なお、本件
原子炉に設けられているECCSは圧力容器破壊によつて発生するLOCAに対し
ては効力がなく、本件原子炉には圧力容器破壊によつて起こるLOCAに対する防
護設備がないことについては当事者間に争いがない。
しかし、前記のとおり本件原子炉において使用される圧力容器等は本件安全審査に
おいて安全性を維持される旨判断され、右判断が相当と認められることは前示のと
おりである。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
(2) 原告らは、更に、本件ECCSの効果がないLOCAとして、二次冷却系
の故障によるものがある旨主張する。すなわち、一次系の熱除去は正常な時には蒸
気発生器二次側の水の蒸発によつて行われているが、しかし、主給水系と補助給水
系からなる二次側給水系が故障し、給水が止まると、原子炉の停止が行われても、
放射性物質の崩壊熱による発熱があり、蒸気発生器二次側の水は右発熱によつて蒸
発し、およそ三〇分で空になるので、蒸気発生器による一次系の冷却は行われなく
なるため、一次系の温度は上昇し、一次系の圧力は高くなる。そして、一次系が過
圧状態になると、加圧器にある蒸気逃し弁及び安全弁が作動して一次系の蒸気を放
出することとなるが、蒸気逃し弁が開かれると、それは極小破断LOCAに相当し
て、一次冷却材は失われるに至る。この場合には、ECCSからの注入水が蒸発す
ることによつて炉心を冷却することになるが、しかし、原子炉内は蒸気のため高圧
(一六〇気圧以上)であるため、炉心への注水は充填ポンプによつてしかできな
い。しかし、充填ポンプによる注水量だけでは前記崩壊熱の除去には不十分であ
り、注入水も蒸発してしまうために、炉心内温度は上昇し、蒸気発生器の二次側の
水が空になつてからおよそ三〇分から一時間以内に炉心は溶融する。右のように、
二次給水系の故障によるLOCAに対しては、本件ECCSはたとえ作動しても炉
心溶融を防ぐことはできないというものであり、前顕甲第六一号証、第二六四号証
は右主張に添うものである。
しかし、前顕乙第一号証の二及び弁論の全趣旨によれば、本件原子炉には、二次給
水系の給水設備として、主給水ポンプ三台と電動の補助給水ポンプ二台及びタービ
ン駆動の補助給水ポンプ一台とがそれぞれ設けられていること、そして、たとえ、
右の主給水ポンプ三台のうち一台が故障したとしても、他の二台によつて運転を継
続することができ、また、外部電源がすべて喪失して主給水ポンプのすべてが作動
できなくなつたとしても、それぞれの非常用デイーゼル発電機を電源とする補助給
水ポンプ二台のうちの一台あるいは蒸気発生器で発生した蒸気の一部を主蒸気管か
ら抽気することによつて駆動することができるタービン駆動補助給水ポンプによつ
て、いずれも二次冷却水を蒸気発生器に給水できるようになつていること、したが
つて、二次冷却水の給水が全く停止する可能性は考えられないことがいずれも認め
られる。したがつて、前記原告らの主張に添う証拠は採用し難く、他に右認定を左
右するに足る証拠はない。
二万一の事故に備えての立地条件
1 災害評価に基づく立地条件について
(1) 本件原子炉の安全審査において、万一の事故に備えての立地審査のための
災害評価として、被告の主張第五章の第四の三の2、3のとおりの想定災害の評価
を行い(ただし、厳しい条件をとつたとの点を除く)、本件原子炉の立地条件が立
地審査指針に適合し、周辺公衆の安全を維持できると判断したことについては当事
者間に争いがない。
(二) (1)前顕乙第五号証、成立に争いのない甲第五五号証、第一四二号証並
びに証人xの証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、「原子炉立地審査指針の目的の
一つは行政判断の一貫性を図る」という点にあること、また、「仮想事故の際は重
大事故を想定した際に期待した安全防護施設のうち、そのいくつかが作動しないと
仮定して、これに相当する放射性物質の放散を仮定する。しかし、この場合、どの
安全防護施設がどの程度不動作と仮定するかの判断の基準は、原子炉の型式及びそ
の設計方針により差異がある」とするのが、立地審査指針の制定者の解釈であつた
こと、なお、本件原子力発電所と同型の原子炉を備えた先行炉である美浜一号炉、
同二号炉、高浜一号炉、同二号炉における各安全審査の立地審査においても「仮想
事故としては重大事故と同じ事故について、安全注入系の効果を無視し、炉心内の
全燃料が溶融したと仮想する」とされた(以上については当事者間に争いがない)
にもかかわらず、いずれも格納容器の健全性は維持されることを前提としているこ
とがいずれも認められる。当事者間に争いのないoの著書「核燃料工学」の仮想事
故の内容についての記述も右認定を左右するものではなく、他に右認定を左右する
に足る証拠はない。
そうすると、立地審査指針制定者の解釈では、仮想事故としての一次冷却材喪失事
故の場合には、炉心溶融に至ることまでの想定はしているが、更に、格納容器その
他の原子炉の安全防護施設がすべて健全性を失う事能までは想定事故の内容、経過
として予定しておらず、従来の原子炉設置許可処分に際しての立地審査において
も、右立地審査指針制定者の解釈によることが定着していたものと認められる。
そこで、立地審査指針の目的から右の解釈ないし審査実務の妥当性を按ずるに、立
地審査指針は原子炉の危険性に鑑み、原子炉と周辺環境との間に適切な離隔を置く
こととし、右適切な離隔を置くために想定事故という手法をとつているのであるか
ら、想定事故の内容、経過等については原子炉における事故発生の可能性とその規
模、安全防護施設の機能等を総合して慎重に検討して決めるべきことであると解さ
れ、原告ら主張の如く、想定事故の内容、経過等として安全防護施設の機能を無視
した場合には事故はどのような結果になるか、又は、炉心が溶融した場合にはどの
ような事態に立ち至るかを推論し、その結果生ずるであろう災害の評価をし、これ
によつて原子炉の立地条件の可否を決めることを立地審査指針が予定しているもの
とは解されない。のみならず、前記のとおり本件安全審査において、本件原子炉の
一次冷却系配管、蒸気発生器細管及びECCSその他の安全防護施設は、いずれも
安全性の確保ができるものと判断され、右判断は相当と認められること、前記のと
おり、本件原子炉と同型、同出力の原子炉はもちろん、その他の商業用原子力発電
所においては、未だかつて一次冷却系配管破断事故又は蒸気発生器細管破断事故が
発生したことはないこと、そして、本件原子炉において特に前記立地審査指針の解
釈、実務の取り扱いを変更すべき事情が存在することを認めるに足る資料のないこ
とに鑑み、本件災害評価において、右解釈、取り扱いを不当として改めるべき必要
性は見出せない。
したがつて、前記解釈及び実務の取り扱いは本件災害評価においてその妥当性が認
められるものである。
(2) 前記のとおり、立地審査指針における想定事故の意義が考えられる以上、
その事故原因までも考慮すべき必要性は認め難い。もつとも、立地審査指針一の一
-二基本目標によれば、想定事故が及ぼす結果を判断する要素として、「敷地周辺
の事象」を考慮すべきことが掲記されているが、このことは、災害評価に敷地周辺
の人口分布、地形、気象等を考慮すべきことの趣旨で、敷地周辺の地震現象をも考
慮すべき趣旨とは解されず、かつ、前記のとおり、本件安全審査において、地震現
象との関係でも、本件原子炉の立地選定は問題がなく、かつ、本件原子炉の耐震設
計は安全性を確保できるものと判断され、右各判断は相当と認められるものである
から、本件原子炉における立地審査において、地震を原因とする事故を想定しなか
つたことは、立地審査指針に違反するものではない。
(三) 本件安全審査において、本件原子炉の一次冷却系配管、蒸気発生器細管は
健全であり、その安全性が確保されると判断されたこと及び本件原子炉格納容器、
アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイ、ECCSの各構造、機能はいずれ
も健全であり、安全性を保持するものと判断されたこと、右各判断はいずれも相当
と認められること、なお、右各機器の構造はいずれも前記のとおりである。そし
て、これらの事実と前顕甲第三六号証、乙第一号証の一、二、第四、五号証、第一
八号証、第二五号証、第三〇号証、成立に争いのない同第七一号証、証人x、同t
の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)本件原子炉の炉心から敷地境界ま
での最短距離は約七〇〇メートルであり、(2)本件敷地周辺の人口(ただし昭和
四六年当時)は、原子炉から半径一・四キロメートル以内には人家はなく、半径三
キロメートル以内には約三六五〇人、半径五キロメートル以内には約八〇〇〇人が
居住し、また、本件敷地周辺の比較的大きな都市は炉心から約一二キロメートルの
八幡浜市(人口約四万六九〇〇人)、ほかに大洲市(人口約三万七三〇〇人)、宇
和島市(人口約六万四三〇〇人)があること、(3)本件想定事故の一つに、一次
冷却系の大口径配管破断を選んだのは、従前から立地審査に当たり採られていたと
ころを踏襲したものであること、及び右事故の発生を仮想した解析結果によれば、
右は原子炉に最も苛酷な結果をもたらす事故の一つであり、ひいては周辺住民の安
全確保の見地から無視できないものであるからであり、また、想定事故の一つに蒸
気発生器破断事故を選んだのも、従前から立地審査に当たり採られていたところを
踏襲したものであること、及びこの事故の発生を想定した場合、放射性物質が格納
容器を通さずに直接環境へ放出され、ひいては周辺住民に多大な放射線被ばくを与
えることとなるため、安全確保の見地から無視できない事故であるからであり、
(4)重大事故及び仮想事故における一次冷却材喪失事故の際、炉心に内蔵されて
いる放射性物質が、格納容器内へ放出されるとする量は、美浜二号炉、高浜一、二
号炉、大飯一、二号炉と比較しても同一か、多少の差があるに過ぎないこと、
(5)一次冷却材喪失事故時において、格納容器、アニユラス空気再循環設備、格
納容器スブレイが、事故時に特に厳しい物理的、化学的状態にさらされることはな
いと見られること、また、故障等によりアニユラス空気再循環設備、格納容器スプ
レイが作動しないという事態が起こる可能性は少ないと見られること、しかし、本
件災害評価においては、これらの設備はそれぞれ二系統のうち一系統しか作動しな
いとし、また、アニユラス空気再循環設備についてはフイルターの効率を設計より
低く仮定していること、(6)右同事故においては、放射性物質はすべていつたん
格納容器に閉じ込められ、その後、気体状の放射性物質はアニユラス部を経て前掲
排気筒から放出されたものと見られること、(7)格納容器内に放出された放射性
物質中半減期の短いものは短期間に減衰するが、キセノン一三三、クリプトン八
五、ヨー素一三一等はほとんど減衰しないこと、そして格納容器内で浮遊している
放射性物質の一部は格納容器スプレイによつて洗い落とされること、しかし、格納
容器スプレイによつて洗い落とされにくい有機ヨー素の存在割合は一〇パーセント
とし、右ヨー素についてはスプレイ効果を全く無視していること、なお、右有機ヨ
ー素の存在割合等は前顕各原子炉の災害評価と変わらないこと、(3)右同事故の
場合の格納容器からの漏洩率は事故発生後二四時間は格納容器の設計漏洩率の三倍
に、その後三日間は一日当たり一・三五倍とそれぞれ仮定し、また、気密構造の格
納容器ドーム部からも、格納容器内にある放射性物質の三パーセントが直接大気中
へ漏洩するものと仮定していること、(9)右同事故時において大気圧よりも高く
なつたアニユラス部の内圧を大気圧以下に低下させるために要する時間(負圧達成
時間)は、アニユラス空気再循環設備が一系統しか働かないものと仮定しても、本
件災害評価で仮定した一〇分間よりは少ないものと見られること、(10)右負圧
達成時間中は、格納容器からその設計漏洩率の三倍の量の放射性物質がアニユラス
部に漏洩するものとし、かつ、その放射性物質はすべてフイルターを通らず外部へ
出るものと仮定し、また、負圧達成後も二〇分間は全量排気を継続し、その後も負
圧維持のため必要な量以上の排気量があるものと仮定していること、(11)固体
状放射性物質は、アニユラス空気再循環設備の除去率九九パーセント以上のフイル
ターによつて除去されるため、外部への放出は極めて微量なものであり、無視する
ことができること、なお、格納容器に閉じ込められている放射性物質から出る放射
線が、格納容器を貫通して直接的に、あるいは関接的に人体に達することによる被
ばく評価には、格納容器内に浮遊している固体放射性物質による寄与分を考慮して
いること、(12)重大事故及び仮想事故における蒸気発生器細管破断事故におい
ては、右事故が、一次冷却水中の放射性物質量が、燃料被覆管の破損率が五パーセ
ント(平常運転時の破損率の評価の五倍に当たる)の状態で原子炉を運転している
ときの量にあるときに発生するものと仮定していること、(13)同右事故の場合
には、蒸気発生器細管の破断部から一次冷却水が流出し、原子炉停止系によつて、
原子炉の停止がなされた後、原子炉内の放射性物質から出る崩壊熱は二次系の安全
弁から放出される蒸気によつてその熱が除去され、更に、ECCSのうちの高圧注
入系が作動してこれを冷却する。その結果、一次系の圧力は減少し、約三〇分後に
は主蒸気安全弁の設計圧力以下となり、その閉鎖が可能になること、(14)右同
事故において、外部へ放出される有機ヨー素は一次冷却系から二次冷却系へ放出さ
れた有機ヨー素の一〇分の一と仮定されている(右については当事者間に争いがな
い)が、有機ヨー素は熱的に極めて不安定なものであり、高温条件では加水分解す
る性質を有しているため、加圧水型原子炉の一次冷却水等の温度である三〇〇度C
又はそれ以上では急速に分解し、その量を減少するが、短時間のうちに生成と分解
との反応が平衡状態に達し、有機ヨー素の量は一定となる。そして、有機ヨー素の
量は全ヨー素に対する比率で見て、当初でも〇・二パーセント以下であり、平衛状
態に達したときは〇・一パーセント以下に過ぎなくなること、(15)右同事故で
外部へ放出される無機ヨー素は一〇〇分の一と仮定している(右については当事者
間に争いがない)が、右事故が発生した場合、無機ヨー素はまず一次冷却水ととも
に右破断部から蒸気発生器二次側の液相部に流出した後、右液相部から蒸気発生器
の気相部に移行する。この事故時の温度条件では、無機ヨー素はそのすべてが水に
溶けており、直接揮発して気相部へ移行するものはほとんどない。このため無機ヨ
ー素は液相部から気相部へ移行する場合には、蒸気に巻き込まれた微細な水滴に溶
けたままの形態で移行するが、気相部に移行した無機ヨー素は、更に、蒸気発生器
出口を通り、主蒸気管に設けられている大気放出弁へと移行していく。そして、右
蒸気発生器出口付近には気水分離器が設置されていて、蒸気の湿分調節がなされる
ため、水滴に溶けたままの形態で気相部へ移行した無機ヨー素が外部へ出る割合
は、蒸気発生器出口の湿分含有率によつて決まることになり、本件原子炉の場合、
右湿分の合有率は〇・二五パーセント以下に保持されるので、最大の場合でも四〇
〇分の一になること、(16)本件災害評価においては、本件敷地の地形等を考慮
すると地表四〇メートルの高度に逆転層が存在し、四〇メートル以下のみ放射性雲
が均一に分布するとするヒユーミゲーシヨンによる評価よりも、事故時に放出され
る放射性雲の中心に人がいるとの仮定を用いるパスキル式による評価の方が厳しい
評価結果となること、そのため本件原子炉設置許可申請書添付書類の記載を訂正
し、申請当初のヒユーミゲーシヨンによる評価をパスキル式に変更したこと、(1
7)本件災害評価における大気安定度は一番厳しい評価となるFとし、風速は現地
で年間に観測された風速の九七パーセントの所にある二・五メートルとし、その他
拡散条件を現地での観測より厳しく設定したことがいずれも認められる。
次に、蒸気発生器細管破断事故の想定において、一次冷却材中の希ガスの初期放射
能濃度及び事故後に追加放出される希ガスの放射能の量が、本件原子炉の場合と玄
海一、二号炉、美浜一、二号炉、高浜一号炉等の場合とでは異なり、また、一次冷
却材中のヨー素濃度については、本件原子炉の場合と玄海一号炉の場合は等しい
が、高浜一号炉の場合は異なることはいずれも当事者間に争いがない。右につき、
被告は、希ガスについて、本件原子炉の場合と九州電力玄海一号炉の場合とで差が
あるのは、安全審査会が昭和四六年七月六日付で最近の知見をまとめて作成した
「被ばく計算に用いるエネルギー計算について」と題する資料のデータを本件原子
炉で用いたからであり、本件原子炉の場合と玄海二号炉の場合とで差があるのは、
玄海二号炉の場合には従来被ばく評価に際し、被ばく線量がごく小さいから考慮す
る必要がないとされていた核種まで考慮したためである旨、また、ヨー素について
は、原子力委員会月報一四巻、一二号に掲載された高浜一号炉の安全審査報告書に
おいて、同報告書中のヨー素の濃度を、印刷ミスにより、八・五とすべきところ誤
つて八五と記載したものであり、実際には本件原子炉の場合と同様である旨主張す
るが、右主張事実を直接認めるに足る証拠はない。しかし、一次冷却材中のヨー素
の濃度が本件原子炉と玄海一号炉とで違わないことについては当事者間に争いがな
く、右事実及び前顕乙第二五号証に照らすと、高浜一号炉の一次冷却水中のヨー素
濃度に問題があることがうかがわれる。
次に、前顕乙第二五号証によれば、希ガスの追加放出放射能量は、発電所の出力に
ほぼ比例するものでること、美浜二号炉、高浜一号炉等でもこの放出は考慮されて
いること、昭和四六年七月六日にエネルギーの計算方法を計算の結果が小量になる
方法に変更したことがいずれも認められ、右事実及び特に本件原子炉で希ガスの初
期及び追加放出濃度を恣意的に又は誤つて評価したことを認めるに足る資料のない
ことに照らせば、本件原子炉においては、他の原子炉と異なるデー夕を用いて評価
したものと推認される。右認定を左右するに足る証拠はない。
したがつて、前示争いのない事実は前示認定を左右するものではない。
そして、前記各認定事実と前顕甲第三六号証を総合すると、本件災害評価における
被ばく線量は相当と認められる。
ところで、原告らは、蒸気発生器細管の複数本破断及びそれによる炉心溶融を考慮
して災害評価をなす必要がある旨主張する。しかし、本件安全審査において蒸気発
生器細管は健全であり、安全性は維持されると判断されたこと、右判断は相当と認
められることは前記のとおりであり、これと前記立地審査指針の目的とを併せ考え
れば、蒸気発生器細管の複数本破断まで考慮して災害評価をなすべき必要性は見出
し難い。のみならず、前記のとおり、蒸気発生器細管破断事故が発生しても、炉心
の状態は一次冷却系の大口径配管破断の場合に比べて厳しいものでないと評価され
ていること、前顕乙第一号証の二及び弁論の全趣旨によれば、蒸気発生器細管破断
の場合には高圧注入ポンプ(定格作動圧力約七六気圧)によつて、七六気圧以上の
圧力にも対抗して炉心内に注水することができるものと認められることに照らし、
蒸気発生器細管の破断により炉心溶融に至ることはないと認められる。右認定を左
右するに足る証拠はない。したがつて、前記原告らの主張は理由がない。
また、原告らは、今までの原子炉の安全審査における災害評価において、格納容器
の漏洩率、大気中への放射能の拡散条件がまちまちであり、安全審査のずさんさを
示す旨主張する。右原告ら主張の如く各安全審査における格納容器の漏洩率、大気
中への放射能の拡散条件が各発電所で異なることについては当事者間に争いがない
が、しかし、格納容器の漏洩率や気象条件、放射性物質の放出高さ等は各発電所で
異なることは、各発電所の設計、気象等に差異がある以上、各発電所によつて右の
点について相違するのが通常であり、かつ、原子炉立地審査指針一の一-二の右の
定めも、このことを予想している趣旨と解される。のみならず、原告らの右主張事
実は直ちに前示認定を左右するものではない。
更に、原告らは、本件災害評価において、食物連鎖による被ばく評価をしていない
(右については当事者間に争いがない)のは不当である旨主張する。たしかに前記
指針二の二-一は「人がいつづけた」場合の居住者の被ばく線量によつて、非居住
区域の範囲を定め、同二-二には「何らの措置も講じない」場合の居住者の被ばく
線量によつて低人口地帯の範囲を定めているが、右指針の定めるところが、居住者
が通常の生活をしている場合をいう趣旨であると解すると、個々の居住者によつて
被ばく線量が異なることとなり、ひいては、地域により、画一的に右離隔を図ろう
とする立地審査指針の目的を達することができなくなる。したがつて、右指針二-
一の「人がいつづけた」場合とは単に人がそこにとどまつていることをいう趣旨と
解すべきであり、右指針二-二の「何らの措置も講じない」場合とは積極的に事故
に対する防災対策を採らない場合をいう趣旨とのみ解すべきで、いずれの場合も食
物連鎖による被ばくまで考慮することを要求する趣旨と解することはできない。
以上により前記原告らの主張は理由がない。
なお、原告らは、本件安全審査における想定事故の内容、経過の仮定が不合理であ
るとして、請求の原因第五章の第四の四の3掲記のとおり主張する。しかしなが
ら、原告らの右主張は前記立地審査指針の解釈と異なる見地に立つものであり、か
つ、原告らの主張する想定事故の内容、経過についての仮定が、本件災害評価にお
ける仮定と比べて合理性があることを裏付ける事実を認めるに足る資料はない。し
たがつて原告らの右主張は理由がない。
その他前示各認定を左右するに足る証拠はない。
(四) 以上により、本件安全審査において、前記のとおり災害評価をなしたこ
と、右災害評価に基づき木件原子炉の敷地は万一の事故の場合にも、周辺公衆の安
全を確保できるものであると判断したことは、相当と認められる。
2 推定事故について
原告らは、本件敷地については、後藤マツプの七五年期待値により、卓越周期を
〇・三秒とする三九〇ガルという高い地震動が予想され、四国沖、南海トラフを震
源地とする巨大地震では、三七一ガルないし一〇六三ガルという巨大な地震動が予
想され、また、中央構造線の活断層部分の長さを一〇〇キロメートルとすると、マ
グニチユード八・二の巨大地震の発生が予想され、その震源地が本件敷地から五〇
キロメートル離れていても卓越周期〇・五秒とすると三一〇ガルの地震動が推定さ
れ、また、被告が採用している一七四九年(寛延二年)五月二五日の伊予宇和島沖
地震において、飯田式により震源の深さを求めると約一〇キロメートルとなり、金
井式によつて本件敷地の地震動を求めると約三四〇ガルとなり、更に、震央距離を
用いた金井式によると、約四二八ガルの地震動となる。したがつて、本件原子炉の
主要施設の耐震設計では右いずれの地震動にも耐えられず、破滅的な大災害に至る
旨請求の原因第五章の第四の五掲記のとおり主張する。
しかし、後藤マツプの地震の規模は、本件敷地に適用し難いものであること、四国
沖、南海トラフを震源地とする巨大地震が本件敷地に影響を及ぼす程度は小さいも
のであること、中央構造線による地震の規模も、仮にあつたとしてもマグニチユー
ド七程度であること、右原告ら主張の地震について金井式で震央距離により計算
し、又は軟弱地盤に適用すべき方式の金井式で計算し、本件敷地における地震動を
求めることはいずれも妥当でないことは、すでに認定したとおりであり、前顕乙第
六一号証及び証人iの証言によれば、原告らのいう「飯田の式」は原告らが主張す
る地震の震源の深さを求めるための公式ではないことが認められる。前示「原子力
発電所における設計地震の策定に関する研究」で、この公式により震源の深さを定
めることは右認定を左右するものではなく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく原告らの右主張は理由がな
い。
第六 本件許可処分の違法性の問題について
1 手続上の違法性の問題について
前顕第二掲記のとおり本件原子炉の設置許可処分手続には、これを取り消すべき違
法は見出し難い。
2 本件許可処分の内容上の違法性の問題について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉施設の位置、構造及び設備が、安全設
計審査指針、立地審査指針等の審査の基準に適合すると判断されたことについては
当事者間に争いがなく、前示第三ないし第六の認定、判断及び弁論の全趣旨に照ら
すと、本件安全審査において、本件原子炉の基本設計が安全設計審査指針、立地審
査指針その他の原子力発電所設置における審査の基準に適合するとした右判断は相
当と認められ、ひいては本件原子炉施設は規制法二四条一項四号に適合するものと
した被告の判断及び四国電力の技術的能力が同条一項三号に適合するとした被告の
判断はいずれも相当と認められる。
(二) いわゆる「めやす線量」については、すでに述べた立地審査指針における
想定事故が、原子炉と周辺環境との離隔を図るための手法として利用されているも
のに過ぎず、当該原子炉の規模、型式、周辺環境等具体的な事実を判断の要素とし
て取り込むものの、事故の原因、経過等は仮定的なものであつて、現実に原子炉事
故が発生した場合の現象を想定するものではないことはもちろん、事故そのものの
発生を想定するものでもないから、想定事故が現実に発生した場合を考えて、その
被ばくをうんぬんすることは意味がない。そして、立地審査指針に定める「めやす
線量」の意義は、上記の各条件を基として、原子炉と周辺環境との距離関係を定め
る因子でしかなく、現実に周辺住民がこの線量の被ばくをすることは全く予定され
ていないものであるから、その危険性を理由として違法性を判断すべき筋合のもの
ではない。
(三) 以上認定のとおりとすると、更にその余の点について判断するまでもな
く、本件原子炉の設置を認めることは原告らの基本的人権を侵害するから、基本法
及び規制法は憲法一三条、一四条、二五条、二九条に違反するとの原告らの主張は
理由がないものというべきである。
第七 結語
よつて、本件許可処分は、これを取り消すべき違法は認め難いから、同処分の取り
消しを求める原告らの請求は理由なきものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担に
ついては民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 柏木賢吉 金子 與 岡部信也)
別紙一 当事者の表示(省略)
別紙四-七(省略)
参考
(理由中の当事者の主張等からの引用部分を摘記する。-編注)
(原告らの請求の原因)
第二章 本件許可処分の手続の違法性
四 本件許可処分手続の規制法等違反
2 本件許可処分は法的手続を履践していない
そこで右1の各手続が本件許可処分で守られたか否かについて検討する。
まず(1)の周辺住民の同意はまつたくなされていない。逆に国、県及び町は一私
企業たる四国電力と一体となつて、あるときは金をバラまき、あるときは恫喝し、
また、あるときは嘘言を用いる等して、金と力での種々の不当な方法で反対住民を
切り崩していつたもので、住民の同意をとるなどとはほど遠い状況にあつた。すな
わち国、県、町及び四国電カは一体となつて、金で住民の命を買収し、力で住民の
命を奪つた。
(2) の伊方原子力発電所の全資料を提出する点についても、まつたく履行され
ていないどころか、本件訴訟で裁判所から提出命令が出された後である現時点で
も、違法に資料の提出を拒む有様である。
また、(3)の公聴会の開催も、まつたく行なわれていない。単に安全審査会の会
長xをはじめとして政府委員会のメンバーが<地名略>町民らに対し、「原子力発
電所は安全だ」、「そこから放射能が放出されることはない」、「原子力エネルギ
ーはクリーンエネルルギーだ」と虚偽の宣伝を四国電力とともに一方的に行つてい
たにすぎない。そして原告ら住民が、原子方発電所についての知識を得るために講
師を呼んで集会をしようとすると、
これを妨害するという不当な対応に出てきたのが、愛媛県、伊方町、保内町及び四
国電力である。
(4) の周辺住民に対する伊方原子力発電所の設置についての告知、聴聞の手続
という極めて簡単に住民の声を聞くことができる手続も行なわれていない。伊方原
子力発電所が周辺住民の生命、身体等に何らかの被害なり、影響を及ぼすであろう
ことは、規制法二三条、二四条の規定の体裁、安全設計審査指針、立地審査指針の
内容そして告示二条の〇・五レムの定めから直ちに理解できるところである。
そうすると、前掲「第三者の所有物没収事件」における最高裁の判断及びその他の
適正手続の判例、更に道路運送法一〇三条、一二に条の二、一項、二項に告知、聴
聞等の手続が定められていること等に鑑みると、原子力発電所の設置手続において
はどのように緩く考えたとしても、告知、聴聞の機会が周辺住民に与えられなけれ
ばならないことは云うまでもない。このような手続も本件ではなされていないとい
うことは手続的にはどうにも救いようがない審査であるといわざるをえない。
(5) の原子力委員会の自主性ある審査もまつたく守られていない。それは規制
すべき安全審査会と本来推進する立場にある通産省技術顧問会との合同会議の開催
であり、また原子力委員会、安全審査会には独自の調査研究設備がなく、単に設置
許可申請書を書面上チエツクするだけのものであり、それも安全審査会の委員すべ
てが非常勤という無責任体制のために実質的な仕事は全部科学技術庁の役人がこれ
を行つたということになる。これでは、審査結果は審査前から明らかである。
最後に、(6)の他事考慮の排除という行政行為をするについて守らなければなら
ない原則に対しても、被告は違反している。被告はエネルギーが要るから伊方原子
力発電所の設置も許されるべきだと主張する。しかし、法二四条一項各号の許可基
準のどこにエネルギーが要る場合には原子力発電所を許可してもよいと規定してい
るのであろうか。法二四条一項各号は安全でなければ許可をしてはならないと明記
している。被告の主張は余りにも明らかな他事考慮である。
右のように、本件許可処分手続はまつたくずさんで、なきに等しいが、そのずさん
の証左を一次冷却水取水問題にみてとることができる。
当初、四国電力は伊方原子力発電所の運転し必須の淡水を<地名略>の地下水から
一日三〇〇〇トンづつとることを計画し、本件許可申請をした。四国電力は右許可
申請書において、<地名略>には伊方原子力発電所の淡水を取水しても十分な地下
水がある。また<地名略>から取水するについての同意を得ていると記載した。し
かし、四国電力の右各記載はすべて事実に反するもので、四国電力が何者かと図つ
て捏造したものである。
このため、原告らは、<地名略>の地下水にはすでに塩分が上つてきてその利用は
飽和状態を通り超しつつあることを愛媛県、愛媛大学及び自らの足で集めたそれぞ
れの科学的資料を持つて、本件審査中に科学技術庁に訴えた。原告らの「<地名略
>には水はない」との訴えが正しいか否か、すなわち<地名略>の地下水から毎日
三〇〇〇トンの伊方原子力発電所の取水が可能か否かは、原子力委員会なり安全審
査会の委員が愛媛県を訪れ、<地名略>を訪れて資料にあたり、かつ素人の原告ら
にもできる程度の現地調査で容易に確認することができる。
それにもかかわらず、被告は本件許可処分をなし、伊方原子力発電所の淡水を<地
名略>の地下水から取得することを認めた。
ところが、流石に被告も<地名略>の地下水には伊方原子力発電所の淡水の余裕が
ないことを無視できずに、本件許可処分後直ちに四国電力をして淡水取水方法につ
いて変更申請を提出させて、淡水を世界にも例のないかつ不安定な海水淡水化装置
から大量に取水するという異例の許可をせざるをえなかつたのである。
すなわち、淡水確保の適否の有無は、本件審査の対象となつている他の事項とは異
なり伊方原子力発電所を運転すれば直ちに明らかに判明することであつて、被告と
しては何としてもいい逃れできない事項であるから、問題となる以前に手を打つて
おかなければならないことだつたのである。
右の淡水の経緯は、本件審査における二つの問題を鋭く指摘する。
一 つは、四国電力の本件許可申請が全体にわたつて事実の捏造ないしは歪曲に基
づくものと考えざるをえないことであり、いま一つは、被告の安全審査はまつたく
名ばかりで、申請者たる四国電力の申請を鵜呑にしているものであつて、安全につ
いての審査というものではないということである。
本件審査には、右各重大な手続の欠落、違反があることからして、本件許可処分は
違法として取消されなければならない。
3 本件審査手続の概要と個別的瑕疵
(一) 四国電力から伊方原子力発電所設置許可申請を受けた被告から、原子力委
員会に対する諮問は、昭和四七年五月一一日第一八回原子力委員会定例会議に他の
案件とともに付議された。そして原子力委員会は、事務局から同炉の安全性につい
て簡単な説明聴取を受けた上、これを安全審査会に検討させることを委員長から安
全審査会宛に指示する旨決定した。
(二) 安全審査会における審査手続の瑕疵
(1) 右の指示により安全審査会は同年五月一二日付地第一〇一回審査会におい
て、伊方炉の安全性を実質的に審査するため、第八六部会を設置し、同部会委員九
名をその各専門分野に応じて選任した。
その後、安全審査会は、同年一一月一七日付第一〇七回審査会において「四国電力
(株)伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について」と題する最終報告書(以
下、本件安全審査報告書と略称する)を審議決定するまで約六か月の間に、合計七
回審査会が開催されているが、右審査会における安全審査には、次のような瑕疵が
あつた。すなわち、
(2) 右審査会における審査手続は、総体として、いずれも極めて形式的になさ
れ他の多数案件とともに、短時間で終了せられており、そして右審査は、すべて第
一〇一回会合(昭和四七年五月一二日開催)において指名された第八六部会委員に
よつてなされたに等しく、審査会においては、第一〇六回会合(同年一〇月一一日
開催)において第八六部会からの中間報告を受け、第一〇七回会合(同年一一月一
七日開催)において第八六部会からの報告書案を形式的審査で了承したに過ぎな
い。
(3) 第一〇二回から第一〇五回会合においては、第八六部会からの見るべき協
議事項や、審査会から同部会への格別の指示事項などは全くなく、すべて部会まか
せとなつていた。
(4) 審査会には、ほぼ毎回、審査会運営規程には認められていない代理出席の
審査委員が存するという瑕疵がある。
(5) 殊に第一〇五回審査会では、これを認める規定がないにもかかわらず、代
理出席者二名が存し、これと会長を除く委員出席者数はわずか一三各に過ぎず、委
員定員三〇名の半数に満たない定足数割れの無効な会合となつている。
(6) 同様に、第八六部会選任に当つた第一〇一回審査会においてすら一四名の
出席数しかない定足数割れの会合となつている。
(7) 加えて部会報告案提出のわずか一か月前である同年一〇月の第一〇六回審
査会において、第八六部会へのi、jの各調査委員の追加指名が了承されている。
(8) 右審査会の議事録は、極めてずさんなものであつて、国民・住民の生命と
安全にかかわる重大な本件審査手続において、その審査対象たる軽水型導入炉に多
岐にわたる根本的な技術的問題点、疑問点の数々があるにもかかわらず、このよう
な問題点につき、およそ何らかの実質的審査がなされたとはとうてい認め難い形式
的かつ無内容なものである。
(三) 第八六部会における審査手続の瑕疵
安全審査会から全面的に伊方原子力発電所の安全審査についての実質的判断を委ね
られることとなつた第八六部会における審査手続が、これまた極めて形式的でずさ
んかつ恣意的なものであつた。すなわち、同部会の審査手続には次のような多くの
瑕疵がある。
(1) まず、昭和四七年五月一七日付第一回第八六部会における確認内容とし
て、施設関係を担当するAグループ(k、l、m、n、o、p)六名と、環境関係
を担当するBグループ(k、m、q、r、s、t、u、v)八名とに分かれ調査審
議することとし、各委員の前記特定専門分野についての調査審議分担を定めたう
え、その各担当委員による調査審議を適宜行うこととされた(なお、k委員は部会
長となつた関係で、m委員は耐震工学分野の担当委員となつた関係で各A・B両グ
ループに属することとされた)。
すなわち、伊方原子力発電所に係る多岐にわたる分野の安全審査は結局のところ、
その各分野につき、例えば核燃料関係はo委員、耐震設計関係はm委員、地震関係
はq委員、計測及び制御系統施設、安全防護施設の機能等についてはn委員という
ように、特定分野についていずれも非常勤の特定の担当委員一名が各グループ内審
査遂行の事実上の担当者上なり、同グループ内においても、一分野の担当者は、他
分野の調査審議の個別的過程についてまでは互いに関与せず、また判断能力も有し
ない状況であり、せいぜいその調査審議の抽象的な結果のみを互いに報告し合う程
度の個別的分担審査がなされたにすぎない。例えば伊方炉の核燃料関係については
o委員唯一人の実質的判断に基づいて、その安全性が結論付けられるという手続が
採られており、
他委員の担当分野についてもこの点は事実上同様なのである。
しかも、原子力委員会あるいは安全審査会については、その組織や議事運営上の手
続的規制が一応あるものの、部会についてはかかる規定が全く存在しないため、部
会まかせの審査は、事実上かかる手続的規制を無意味とする如き瑕疵と恣意的審査
がなされやすい状況を生ぜしめた。特に部会員をA、Bグループに分けた上、各グ
ループ内の特定専門分野については、担当委員による個別的審査を適宜行うという
ような前記の個別的分担審査は、合議制の長所を失なわせ、委員相互間による審査
上の恣意や誤謬の発見、抑制を不充分にさせ、ますます、審査が形式的ずさんに流
れる原因を生ぜしめた。したがつて右決議は違法のものとみられる。
加えて、右第一回八六部会は、部会員一二名中、わずか七名の出席を得たのみであ
るうえ、かかる専門的審査は代理出席になじまないものであるにもかかわらず、q
委員においては、その代理としてwを出席させ、かかる違法を黙過したまま審議が
進められている。しかも同部会は爾後の審査について、先行炉の審査を参考として
調査審議を進めるという、これ又、伊方原子力発電所の審査を手抜きし、形骸化す
る重大な事項を決定確認しているのであつて、いずれも瑕疵ある手続に他ならな
い。
以下に述べる如きおよそ安全審査の名に値するとは解し得ない形式的審査はこのよ
うな不当な審査体制の下で可能となつたのである。
(2) 現地調査を除く第八六部会の調査・審議のその後の概要は、昭和四七年五
月一七日の第一回第八六部会以降、同年一〇月末日の第七回第八六部会まで毎月一
回(同年一〇月のみ二回)の会合が、せいぜい各数時間程度宛開かれたに過ぎな
い。
また、第一回部会に欠席したq委員は、同部会のその後の全会合にも欠席してお
り、第二、第五、第六回の各会合においては前記wを再三代理出席させているの
に、かかる違法が黙過されており、その余の委員についても例えばm委員が計六
回、p委員は計五回の欠席を繰り返すなどの状態の下で審査が進められた。
そして、右期間中のA・Bグループの会合については、Aグループは、わずか三回
の会合をもつたにすぎず、Bグループはわずか五回(後述(5)の同年九月一四日
付第六回Bグループ会合は、未だ部会員でもないi、j両名が参加している瑕疵が
あるため除くべきものとなる。
)会合を開いたにすぎず、その各会合の開催時間もせいぜい数時間に過ぎない。
加えて、Aグループの三回の会合のうち、第三回会合はn委員、同様にBグループ
の六回の会合のうち第一、第四、第六回会合は、いずれもm委員の各々たつた一名
の委員のみの出席で開催されたものである。
各グループ会合のうち、一応二名以上の出席が認められるのは、Aグループの第一
回会合(但し六名中二名欠席)、同第二回会合(同じく二名欠席)の二回と、Bグ
ループの第二回会合(八名中四名欠席)、同第三回会合(同じく二名欠席)、同第
五回会合(同じく二名欠席)の三回のみである。しかも、Bグループの一員である
q委員などは、右グループ会合にもすべて欠席したのみか第三回、第五回のBグル
ープ会合に代理として前記wを出席させておりかかる違法の黙過は、具体的な個別
分担分野の内容的審査段階における瑕疵であるだけに、重大性があるといえる。
なお、このように、部会内における具体的審査を担当したはずのA、Bグループで
の審査すら極めて短時間の、四国電力からの申請資料の説明等事情聴取中心の、形
式的なものにすぎなかつた。
ちなみに右部会及びA、Bグループ計一五回の会合時間を累計しても、頭記約四か
月半の第八六部会審査期間当りどんなに多く見積つても四五時間(各会合一回当り
三時間として算定)ないし六〇時間(同一回当り四時間として算定)となるに過ぎ
ないもので、仮にこれを併行集中して行なうなら、せいぜい一週間もあれば終了し
得る程度のものである。しかも四国電力からの説明等事情聴取のみに止まる形式的
審査が長々と引延ばされていたのである。
(3) 次に、立地条件(気象、海象、地形、地質、地盤、地震、水利、その他の
社会・産業環境条件など)延いては平常時被ばくや温排水公害を含む災害評価等の
調査・検討に欠かせない現地調査について述べる。
昭和四七年五月から同年一〇月にかけ、当初第一〇一回審査会において指名された
委員一二名中、一〇名がそれぞれ適宜一回、各わずか一日宛六回に分れて現地に出
向いた。
しかし、例えばu調査委員においては、Bグループに属し、気象、海象、放射線管
理、災害評価部門の調査・検討を担当していたにもかかわらず、現地調査をなした
形跡すら認められないこと、殊に、これまたBグループに属するq審査委員など
は、現地調査も同年六月、
右wにより代行させるという、明らかに重大な瑕疵ある審査がなされた。
(4) 現地調査の形式的ずさんさを示す例はこれに止らない。
同年八月四日にはr審査委員が自己の専任担当分野である水利、放射線管理(廃棄
物処理)の調査に関連して現地に赴いたが、肝心の<地名略>からの取水の余地な
きことを見落して帰つており、一体何のために選任され、調査に出向いたのかすら
疑われざるを得ない事情がある。
更に、m審査委員がA、Bグループの一員として、その専任担当分野である耐震設
計関係の審査に関連して現地調査をなしたのは、部会中間報告検討過程に入つた同
年九月一四日であり、同じく、Aグループの一員として、炉心燃料棒分野とこれに
関連した各種事故、災害評価を専任担当したo審査委員が現地調査をなしたのは、
中間報告がなされた同年一〇月一一日付第一〇六回審査会のわずか約一週間前であ
る同年一〇月三日という、いずれも極めて遅い時点に過ぎず、最も優先させねばな
らない現地調査の実施を、このように遅い時点まで怠つていた問題がある。
いずれも現地調査がまさに形式的にずさんになされた瑕疵を示すものという他な
い。
(5) 加えて、右A、Bグループに属するm委員が、科学技術庁原子力局におい
て勝手に委嘱したところの、当時未だ委員ですらなかつたi及びj両名を同行して
右九月一四日の現地調査をなし、かつ同時に、同地で、第六回Bグループ会合が右
三名により開かれたこととなつているが、これは、第八六部会における著しい恣意
的審査の瑕疵を示すものとして極めて重要である。
右i、j両名を、まがりなりにも調査委員として事後的に指名することが了承され
たのは、右現地調査から一か月余り後である昭和四七年一〇月一一日の第一〇六回
審査会に過ぎないから、両名が現にかかる調査及び審査に関与した事実は、とりも
なおさず当時、両名においで、部会外の無責任な私的立場から本件安全審査にかか
わり、これに影響を与えたことを示すものにほかならない。
しかも右jは、前記現地調査以降、全く本件安全審査手続に関与していないし、事
後的指名の了承された第一〇六回審査会にすら出席していない(それ故、同審査会
が何を検討して同人の追加指名を了承したのか、また同人らの現地調査や私的会合
自体まで追認する趣旨かが疑問となり、これまた、
審査会の著しい不公正さを示す事情ともなる。)。
また、i調査委員は、右一〇月一一日付の追加指名後、同月末日までのわずか半月
余の間、最終報告検討のため開かれた第六、七回第八六部会に一度ずつ参加したに
過ぎない。そして、また同委員の分担審査分野である地質、地盤についての安全評
価過程には中央構造線の位置に関する審査が欠落している(音波探査資料すら審査
会に提出されていない)という、極めて重要な手続的実質審理上の違法が存した点
も付言しておきたい。
(6) そうすると、伊方原子力発電所の立地条件審査上、早期に最も重点的かつ
慎重に取り組まなければならなかつた地盤、地震関係分野の審査手続については、
当初これを専任担当すべく選任されたq審査委員が全く審査に関与しなかつたた
め、ようやく部会審査終了の一か月前に、右i、j両委員をその公正に多大の疑義
ある選任手続の下に追加指名したところ、その後はなんらの現地調査もなされず、
右両名のうち、i委員のみが二回の部会審査に参加したのみで、わずか一か月後の
部会報告がまとめられ、最終決定をみたこととなるのであつて、右手続的瑕疵も非
常に重大である。
仮に、右q委員に、その選任当初からこのように部会審査活動をなし得ない特段の
事情が存したというのであれば、第一〇一回審査会における委員選任手続上の不注
意自体責められるべきものであり、他方、かかる不都合が判明した段階において、
直ちに同委員を解任した上、新しい審査委員ないしは調査委員を早期に選定すべき
ものであろう。また、i、j両調査委員についてもこれを審査会において正式に選
任してから慎重かつ責任ある現地調査を実施せしめ、部会審査の適正を期すべきは
常識なのであつて、かかる恣意的手続がなされたこと自体、審査会延いては原子力
委員会が伊方原子力発電所の設置許可基準適合性の意見答申をなすべきことにつ
き、強い先入観を持ち、やみくもに右答申を急いだ事情をも示すものである。
(7) 以上のような簡略な形ばかりの審査を可能とした原因の一つに、既述のと
おり、先行炉審査を参考とする旨の第一回第八六部会における確認が存した点にも
求められる。
しかし、右理由がまさに体のいい口実にしかすぎないこそは、例えば昭和四七年六
月、本件部会グループ審査の初期段階において、先行同型炉である関西電力美浜一
号炉において安全確保上、極めて重大な多数の蒸気発生器細管損傷事故が生じたこ
とが明らかとなつたにもかかわらず、その原因究明及び伊方炉における十分な対策
について何らの審査もなさないまま、部会報告が急がれた事情からしても明らかで
ある(この点についても右部会報告を頭からうのみにした審査会報告及び原子力委
員会答申において何らこれにふれるところがなかつたのは当然であつた)。
右確認は、第一回第八六部会出席者全員が、先行炉と同型であるから、これと異な
る事情なき限り許可をなすべきであるという不当な予断、先入観の下に、本件審査
に当たつたことを示している。本件審査が恣意的形式的に流れたのも、けだし当然
というべきであろう。
(8) 右部会審査が何らの独自性すらなく、申請者四国電力の形ばかりの申請内
容をすべてうのみにして、既定かつ机上の安全性報告を急いだことの有力な事情と
して、伊方原子力発電所安全運転上不可欠の淡水確保の可否についての初歩的審査
が欠如していた点が看過できないので、更に述べれば次のとおりである。
前述のように伊方原子力発電所の日常運転上不可欠の淡水取水の可否につき申請者
四国電力は実地調査すらなさず、事実は分水余力が皆無であつた<地名略>隣接の
<地名略>において、あたかも分水が可能であるかの如き虚偽の申請をした上、設
置許可を得ていたものであるが、右虚構に対する地元住民の追及により四国電力
は、昭和四八年三月、同取水計画を急拠淡水化装置の付設による給水計画に変更し
て右設置変更許可申請をなし、昭和四八年四月、これが原子炉の安全性にかかわる
ものと判断した原子力委員長の指示により、同審査会が右給水装置の安全性を審査
したうえ、同年五月二八日右申請が許可された。しかし右安全審査手続において
も、先行した伊方原子力発電所安全審査と同様の形式的な、部会(第九七部会)任
せの審査がなされた。
加えて、第一一三回審査会においては第九七部会委員としてp14某委員(名は不
詳)が追加指名されたのに、現実にはなんら具体的審査に関与していない。右は第
九七部会審査のずさんさを示している。このような審査会自体及びその部会審査手
続を通じて示された以上の如き審査の恣意的、形式的ずさんさは決して偶発的なも
のではなく、後述のとおりまさに安全審査体制自体の不備欠陥に由来するものとい
つても過言ではなく、かかる不備な体制下でなされたこと自体、本件安全審査の瑕
疵をもたらすものというべきである。
(四) 以上の経緯によつて作成された昭和四七年一一月一七日付第一〇七回審査
会の本件安全審査報告書は、事務局作成にかかる答申案とともに、同月二一日、第
四六回原子力委員会定例会議に、他案件とともに付議され、右原案どおり被告宛答
申することが決定された。
なお、右審議に際しては、事務局の説明下に、既述の淡水取水計画についてのみ
「地域住民の生活と密接に結びついている問題であり、かつ、一部住民からの要望
もあつたので、地元関係者及び申請者において十分の措置を講じられるよう要請」
することが決められたが、他には見るべき審議もなされず、疑義と欠陥に満ちた右
審査会報告内容がそのまま右答申の基礎とされたのである。
(五) なお、原子力委員会は、右答申までに伊方原子力発電所設置許可に関し、
事務局である科学技術庁原子力局からの事情聴取をなしている。これは前記(一)
の第一八回定例会及び前項の第四六回定例会の二回においてであると思われるが、
いずれも議事録上はその内容が不明である。しかも、右原子力局はその際申請者四
国電力及びこれと一体となつて伊方原子力発電所設置を促進させて来た愛媛県から
の片面的意見聴取をなしたにもかかわらず、原告ら地元住民の設置反対意見につい
て公平な意見聴取に基づく的確な事情調査をなさないまま、数々の不当ある用地問
題・漁業問題・関係地方公共団体の決議、あるいは右設置反対運動等についての一
般的事情に関する一面的な報告を、原子力委員会になしてその判断に不当な影響を
与えたのである。
(六) 第八六部会(第九七部会も同じ)の審査手続における最も重要な手続的瑕
疵の一つであり、かつ審査の体制的欠陥の典型を示すものとして、部会議事録の不
存在がある。同部会の審査手続が仮に技術的、専門的実質を有し、部会委員の合同
審査による独自の慎重な手続でなされたのであれば、その部会議事録が存在しない
ということはおよそ考えられないものである。
すなわち、審査会ひいては原子力委員会には、安全審査資料を公開しないという違
法をあえて継続してきた欠陥原子力行政体制の下で、本件審査手続においてもま
た、その中心をなす第八六部会における審議期間中、伊方炉の安全性についての多
岐にわたる技術的・専門的審査の公正・適正並びに継続性を担保する上に不可欠
な、右審査経過及び結果の記録文書作成とその保管を、当初より怠つていた重大な
瑕疵が存した。
これは原子炉安全規制行政における、、情報公開義務違反の一形態をなすのみか、
手続的民主性及び、手終的自主性の欠如を、ことごとく推認せしめる有力な事情と
もなるといえる。
仮に原告らが、右安全審査手続当時、かかる部会審査記録をも含む安全審査資料一
切の公開を受け得ていれば、原告らはその不利益を受ける立場からの真剣さでもつ
て、手続の公正な遂行を見守るとともに、当然本訴におけるごとき数々の安全性欠
如にかかわる問題点を、より早期の段階から指摘して手続の適正を図り、もつて自
己の受けた著しい不利益及び不公平を大幅に軽減させ得たはずなのである。
(七) 審査機関の主体性欠如の違法
以上の審査体制欠陥につながる最も基本的な瑕疵としては、次の諸点がある。すな
わち、基本法二条の自主的運営規定はその内容の一として、すでに述べたように、
原子力委員会が国民の信託に基づく広範な権限下に安全審査をなすに際し、かかる
権限なき他者から、審査判断の独立性・自主性にかかわる影響を受けるごとき疑い
ある手続をとつてはならない旨の規制を定めるものと解される。この点問題となる
のは、第一に、昭和四七年二月、すでに被告において、電源開発調整審議会(以下
電調審という)の議を経て、伊方原子力発電所一号機の建設を電源開発基本計画に
組み入れることを決定済であつたことと、第二に、第八六部会の調査審議は、昭和
四七年五月一一日の第一〇一回審査会の決定に基づき(ただし、議事録にはかかる
決議のなされた記録はないので、はたして、真にかかる決議がなされていたか疑問
である。)全て通産省技術顧問会(以下顧問会という)と合同で実施され、右合同
審査がなされなかつた会合は、同年九月二九日、同部会がECCS検討会と合同審
査をなした一回だけであつた事情の認められること、第三に、原子力委員会及び審
査会が独自の事務局を持たず、原子力行政の実施担当機関たる科学技術庁原子力局
がすべてその事務を統轄しているため、審査の全過程において、事実上、同庁行政
官僚の強い影響を受けざるを得ない体制となつていることの三点であり、第一の点
については、原子力委員会が、第二の点については第八六部会が、各々本件設置許
可にかかる審査手続に際し、他機関からの影響下で審査をなした瑕疵があるとみら
れる。
右審査における影響を示す事情として、第一の点については、原子力委員会、電調
審とも被告機関であつて、前者は後者の先行決定の影響を受けやすかつたと思われ
るし、殊に、前者の内部機関である審査会委員には、後者と立場を同じくする通産
省(電源開発促進法一〇条三項によつて、通産大臣も後者の委員の一員となつてい
る)の内部機関たる顧問会委員との兼任者が多数を占めていることからも、相互間
の影響あることは推察される上、原子力委員会が伊方炉設置許可について審査した
のは、昭和四七年五月一日、及び同年一一月二一日のわずか二回の定例会議におい
てであり、他案件とともになしたこの短時間の審議において、同委員会が独自に、
規制法二四条一項一ないし四号の許可基準につき、慎重な審査をなしたとは思われ
ず、殊に、同項二号の判断については、いまだ核燃料サイクルすら確立の目途を立
たない現状であるにもかかわらず、右電調審の決定に影響されて、同号への適合性
を認めた疑いが濃いといいうるのである。
また、第二の点については、まずかかる合同審査を許容させる法的根拠、及び合理
的理由が皆無である。第一〇一回審査会において合同審査についての決議がなされ
たとされるが、審査会議事録にはかかる決議の記録はないし、また、かかる決議自
体が違法事由となる。顧問会による審査の目的、性格及び手続内容は、電気事業許
可及び需給面からの規制にかかる電気事業法との関係で定められた規制法七一条の
通産大臣の同意に際し、通産大臣が法定外の手続として、同顧問会の意見を求める
べくなされているもので、その手続的規制もなく、およそ規制法二四条による安全
規制手続のそれとは、すべて異質のものである。
かかる異質の機関が合同審査をなすこと自体、審査会及び第八六部会の中立性、独
立性に多大の影響を及ぼすものであるが、まして本件の場合、第八六部会委員一二
名(昭和四七年一〇月、追加指名されたi、jを除く、当初からの委員)中、調査
委員三名を除いた、いわゆる審査委員九名全員が、この顧問会委員を兼任してお
り、右審査委員の参加した第八六部会ないしそのグループ会合は、すべて自動的に
顧問会との合同審査となり、たとえ審査委員のうち一名しか出席しなかつた場合
(グループ会合及び現地調査につき、各四回宛存する)であつても合同審査になる
という審査体制が採られている。このように不自然かつ不当な影響が、通産省機関
たる立場自体から右各審査委員に生ずること明らかな、主体性・独立性を欠く手続
が採られているのである。右審査には重大な瑕疵あることは明らかであつて、これ
はまさに恣意的手続であると断じてよい。
最後に、右第三の点も重要である。これについては、前述のとおり、原子力局の不
当な一般的事情の説明が、原子力委員会の審査上、影響を与えたこと明らかな事情
があるし、また、前述((三)の(5))のとおり、同局が部会員の選任に不当な
影響を与えていた事情も明らかである。加えて、科学技術庁が一貫して原子炉設置
推進の考え方を有してきたこと、及び科学技術庁長官が原子力委員長でもある事情
もあいまつて、同庁が企業や原子力委員に対しても、事実上の強い影響力を与え続
けてきたことが看取される。また、審査会会長であるxが、自ら四国電力等の要請
を受けて、各地で原子力発電所設置推進講演活動を行つていることも、安全審査会
自体が安全規制における主体性・独立性(ないし中立性)を喪失している瑕疵を示
す。このような欠陥ある体制の中で、事実上も本件審査に影響を及ぼすがごとき、
右恣意的手続が存したことは、同審査の違法事由をなすものという他ないのであ
る。
五 手続的実質審理上の違法││安全評価過程における適正手続保障義務違反
1 手続的実質審理の違法
(一) 一般に国民の生命、身体、財産等、基本権の侵害にかかわる手続におい
て、適正手続保障の理念が重視せられねばならぬことはいうまでもない。
それ故、原子力委員会(その内部機構たる安全審査会を含む)は規制法二四条一項
四号の適合性にかかる審査手続に際し、設置法二条各号、五条(同一四条の二)等
に定められた包括的権限を、規制法一条の「災害を防止して公共の安全を図る」た
めに「必要な規制」を行うとの目的に則し積極的に行使して、公正かつ適正な安全
審査を尽くすべき義務を負う。
右義務は、安全規制の目的、内容及び権限を定めた右各法条の合理的解釈により導
びかれたものに他ならず、適正手続保障の理念によつて裏付けられるのである。
(したがつて右義務違反の主張は、規制法二四条一項四号の基準違反の主張とは法
律構成を異にしている。)
この様な、いわば適正手続保障義務の違反の瑕疵には、前述四に示した審査手続上
の個別的瑕疵、及び審査体制的欠陥にかかる瑕疵も含まれるが、むしろ安全性評価
過程における恣意、専断、他事考慮など、いわゆる手続的実質審理上の瑕疵が重要
である。
すなわち、本件設置規制手続において原子力委員会は、これにより重大な災厄の危
険から公共の安全を守るという規制法一条の規定とその目的に対応し、右安全審査
に際し(1)各検討項目につき実証性あるデータの有無、程度、内容を慎重に調
査、検討しデータに不備不足ある場合は更に必要なデータを収集することにより許
可判断過程の科学的合理性を確保せねばならず(安全評価資料の実証性確保)
(2)安全にかかわる重要な機器、装置について合理的な特段の事情により、機器
装置自体の安全実験がなされていない場合、一応は模擬実験等によるデータが示さ
れていても殊に、適切ないし十二分な安全余裕を確保、検証することが必要であ
り、また安全に関するデータのばらつきや評価上の合理的な見解が対立する場合は
より慎重な、安全側の数値や見解を採用することが必要であり、(安全評価の充分
な保守性確保)、また(3)原子炉施設、機器及びその付属設備並びに核燃料、使
用済燃料ないし放射性核分裂生成物質やこれにより汚染された物あるいは温排水や
淡水などの個別的規制がそれぞれ全体としての原子炉の安全性に如何なる影響を及
ぼすか(安全評価の一体性、包括性確保)平常時及び事故時に放射性核分裂生成物
やこれにより汚染された物がどのような経路で、どのような直接、間接の影響を及
ぼすか(環境分析)などにかかわる安全性判断過程に必要な判断事項に欠落や重要
性評価上の恣意が疑われるものであつてはならず、(審査の欠如と重要性評価の恣
意排除)、(4)安全性判断が原子力発電の経済性、必要性、設置準備における既
成事実化や設置計画の先行など、安全性に関わりのない諸事情や技術的科学的合理
性のない予断偏見等によつて左右される疑いがあつてもならず(他事考慮予断偏見
の排除)、加えて、(5)安全評価をなすについて、申請者企業を始め原子炉設置
促進者の一元的意見のみならず、これとは別に反対の利害をもつ原告ら地元住民
や、設置に批判的な技術者、研究者などの職能利害関係人の反対意見を十分に調
査、把握してこれを積極的に審査に反映させ、取入れ、又は、これを採用せぬ場合
には科学的合理的理由と実験的根拠を明示するという慎重な判断過程を取らなけれ
ばならない。そして右(1)~(5)に欠ける本件安全評価には、いわば安全評価
過程における実質審査上の瑕疵が存することになる。
第三章 本件許可処分の内容の違法性(その一)
第二 平常運転時の危険性
六 原子力発電所周辺における被ばくの実態
2 線量目標値を大幅に上回る環境放射線増加実測値
浜岡原子力発電所周辺の環境放射線については、静岡県衛生研究所と中部電力が<
地名略>、<地名略>及び<地名略>の三町にわたる四三地点において積算線量を
測定しており、六地点における連続線量率測定も中部電力によつて行われている。
積算線量の測定には熱ルミネツセンス線量計、線量率の測定にはシンチレーシヨン
カウンターが使用されており、ともにガンマ線のみを測定している。これら測定結
果は、三か月ごとにまとめられ、静岡県環境放射能測定技術会によつて定期的に発
表されている。
これら測定値(昭和四七年度から五〇年度)を検討すれば、浜岡原子力発電所の試
運転開始前に比べて、試運転開始後に環境放射線の線量が増加していることが判明
する。すなわち、昭和四七年度から五〇年度までの全期間について測定値が取られ
ている三二地点についてのみ、その平均積算線量を、試運転開始前と開始後につい
て求めると、試運転開始時を境として、環境放射線が昭和四九年には年当り平均
七・五ミリレム、五〇年には同八・七ミリレム増加していることが判明したのであ
る。
かかる浜岡原子力発電所周辺における環境放射線の実測値は、線量目標値なるもの
が単なる机上の計算期待値にすぎず、とうてい達成されていないものであることを
示している。
第四章 本件許可処分の内容の違法性(その二)││本件原子炉の構造の欠陥││
第二 伊方原子力発電所に使用される燃料の危険性
一 炉心の構造と役割
(一) 燃料棒
燃料棒は低濃縮のウラン二三五を含む二酸化ウランの粉末を一四五〇度C~一七〇
〇度Cで直径九・三ミリメートル、高さ約一五・二ミリメートルの円筒状に焼き固
めたペレツト約二四〇個を、長さ約三・八メートル、外径約一〇・七ミリメート
ル、肉厚〇・六二ミリメートルのジルカロイ四製の燃料被覆管に挿入し、炭素鋼コ
イルバネで押えて上下に端栓をして溶接して作られている。ペレツトは再焼結によ
る焼きしまりの対策として密度九四パーセントに焼結されており、また、被覆管に
は圧力を高めるため約三〇気圧のヘリウムガスが封入されている。
(二) 燃料集合体
燃料集合体は、右燃料棒一七九本と一六本の制御棒案内管、一本の計測用モニター
管が七個のバネ付支持格子で支えられ、縦横一四本の配列による一辺二〇センチメ
ートル四方の断面積と長さ約四・二メートル、重量六〇〇キログラム弱のほぼ正方
形柱となつている。バネ付きの支持格子はインコネルで作られており、燃料棒はバ
ネ力により支持されてはいるが、設計上は軸方向に伸びが許容されることとなつて
いる。隣接する燃料棒中心点間隔(ピツチ)は約一四・一ミリメートル、隣接被覆
管相互の間隔は約三・四メートルとされているが、組立てのバラつきにより初装荷
時においても二・二ミリメートルまで接近しているものがある。肉厚〇・四三ミリ
メートルの制御棒案内管は、燃料棒よりやや大きい外径を有し、上部で約一三・七
ミリメートル、下部で約一二・二ミリメートルとなつているため、制御棒と燃料棒
との間隔は燃料棒相互のそれよりやや狭く、二・六ミリメートルから一・七ミリメ
ートル程度となつており、組立のバラつきを考慮するとさらに間隔の小さい場合も
ありうる。
(三) 炉心配置
炉心は一二一体の燃料集合体によつて構成され、上部及び下部炉心板により固定さ
れ、プレナム部分を除いたウラン燃料の存在する炉心の有効高さは約三・七メート
ル、等価直径は約二・五メートルのほぼ円柱形状となつている。炉心燃料集合体は
非均一多領域燃料装荷法によりほぼ等容積の三領域に分けられ、初装荷時には外周
部にウラン二三五を約三・四〇パーセントを含む濃縮度の燃料集合体が、第二領域
には約三・〇パーセント、中心部の第一領域には約二・二七パーセントの燃料集合
体が用いられ、約一年の運転後三分の一の燃料を中心部から取り出すとともに、新
たに外周部に濃縮度約三・四〇パーセントのものを加え、三年以後は平衡炉心を形
成する。
(四) 炉心の役割
炉心の役割は、「ウランの核分裂に伴つて発生する熱エネルギーを一次冷却水に伝
達すること」にあり、この目的のために燃料被覆管の材料として、機械的にも化学
的にも安定であるが中性子吸収率の大きいステンレス鋼を使用せず、ジルカロイ四
を使用しており、その肉厚を〇・六二ミリメートルと安全性の観点からはぎりぎり
の限界まで薄くしている。一方原子炉の運転中、燃料被覆管の内部には高出力灼熱
のウランがあり、被覆管は内部から高密度の放射線照射を受けており、外部には二
八〇度C~三四〇度C、圧力一五七kg/cm2の一次冷却材が毎秒三~五メート
ルの高速で流れているため、燃料被覆管は極めて苛酷条件にさらされている。この
ような炉心の技術的不安定からくる危険性は、伊方炉のようにスケールアツプされ
た原子炉に共通の問題となつている。
(五) 本件原子炉も含めた軽水炉の設計にあたつては、使用する燃料の健全性
を、過渡状態(原子炉の起動、停止、緊急停止など定常運転時と異つた状態のこ
と)を含めた平常運転時に保ち得ることだけが要求されており、事故時には、安全
防護設備(ECCS)によつてその健全性が保たれれば良いことになつている。し
たがつて、燃料の安全性を審査する基準として定められている安全設計審査指針中
の規定も平常運転時に限られており、事故時の健全性は安全防護設備の有効性の審
査の中で保証されるという建前になつている。しかし、平常運転時の燃料の危険は
主として燃料体の劣化によつてもたらされ、事故時にはその劣化した燃料体がより
苛酷な状態に置かれるのであるから、平常運転時の燃料の健全性と事故時のそれと
は分ち難く結びついている。ここでは、一応、平常運転時と事故時とに分けて扱
い、両者の関連については、事故時の危険の際に論じる。
二 平常運転時の危険
4 続発している燃料棒事故の危険性
(一) 事故の種類
現在の軽水炉核燃料に関する技術が、いかに未解決で不明な問題をかかえているか
ということは、国内、外の軽水炉で現在までにひん発している様々な事故が示して
いる。すなわち、
(1) 放射性物質に対する第一、第二の障壁といわれている燃料ペレツト、燃料
被覆管には、これまで多数の事故が報告されており、原子炉メーカーあるいは電力
会社の主張とは裏腹に、炉心部の技術上の不安はますます現実のものとなりつつあ
る。事故の内容は燃料棒のつぶれ、曲り、ピンホールの発生、折損である。
(2) 燃料棒のつぶれ事故
(ア) 外国の事例
一九七一年六月、ベズナウ一号炉(スイス)で第二領域の二・三パーセントの燃料
棒に長さ一~六センチメートルのつぶれが発見されたが、原因は不明のままであ
る。
一九七二年四月、ギネー炉(アメリカ、PWR電気出力五二万キロワツト)で、第
一領域に二パーセント、第二領域に七パーセント、第三領域に三・五パーセントの
つぶれが発見されている。その他、ポイントビーチ一号炉、H・B・ロビンソン炉
でも発見が報告されている。
(イ) 日本の事例
一九七三年三月、美浜一号炉で第一領域の二〇体につぶれが発見された。
(ウ) 原因と対策
右つぶれ事故の原因は、ペレツトの再焼結によるペレツト体積の収縮(いわゆるや
きしまり)により燃料棒内に生じる空隙が燃料棒内外圧差によつて圧縮されるため
に生じると考えられている。その対策として、燃料ペレツトの密度を高くし、再焼
結の進行を抑え、被覆管の内圧を高めるために、約三〇気圧のヘリウムガスを封入
するようになつた。
右対策がとられたことにより、一応つぶれの現象はみられなくなつている。しか
し、この対策がとられた結果燃料棒は新たな問題を抱えたことが指摘できる。それ
は封入されたヘリウムガスが一次冷却材喪失事故((LOCA)の際には燃料棒の
内圧を著しく高め、被覆管のふくれ、破裂の可能性を非常に大きくした点である。
(3) 燃料棒の曲り事故
(ア) 外国の事例
一九七二年末、ポイントビーチ一号炉で一一体、一九七三年春H・B・ロビンソン
二号炉で七体の燃料集合体の曲り事故が報告されており、一九七二年春、ギネー炉
でも同様の曲り事故が報告されている。
(イ) 日本の事例
一九七三年九月、関西電力美浜原子力発電所二号機で燃料集合体に曲りが発見され
た。この曲りにより、隣接する燃料棒の間隔が一ミリメートル以下になつているも
の八体、一・五ミリメートル以下になつているもの八体が確認された。曲りの程度
の軽い燃料集合体の数字は発表されていないので不明であるが、相当数にのぼるこ
とは明らかである。更に、一九七五年一月、同じ美浜二号機に一二一の燃料集合体
のうち半数に近い五一体が一・七ミリメートル以下の間隔に狭まつている、一層拡
大された曲り事故が発見された。このうち、継続使用燃料については第一領域で二
三体、第二領域で一四体、第三領域一二体の曲りが発見された上、新規装荷された
第四領域(第一回定期検査時の第三領域空間)においても二体に曲り事故が生じて
いる。
(ウ) 原因と対策
曲りり事故の原因は未だ明確になつておらず、したがつて、その対策も確立してい
ないというのが実情である。アメリカで最初に曲り事故が発見された時、ウニスチ
ングハウス社及びアメリカ原子力委員会は、その原因と対策を次のように発表し
た。
「燃料棒に使用されているジルカロイ四と制御棒案内管の材質であるステンレス鋼
では熱膨張係数に三倍の違いがある。原子炉運転時にジルカロイ被覆管は熱膨張と
照射成長により軸方向に伸びるが、ステンレス鋼製の案内管も膨張しており燃料被
覆管と上部ノズル底面にはすき間が残つている。しかし運転停止により温度が下降
すると熱膨張係数の大きいステンレス鋼製の案内管が大きく縮み、ノズル底部が被
覆管と強く接触し被覆管を曲げてしまう。したがつて上部ノズル底面と燃料棒上端
との間隔を十分取つておくか又は制御棒案内管を被覆管と同質のジルカロイにすれ
ば曲りは生じないであろう。」と。
美浜二号炉は設置許可申請時にはステンレス鋼製案内管を使用するとされていた
が、一九七〇年八月提出された原子炉設置変更許可申請書でジルカロイ製制御棒案
内管の使用に変更されている。これらをふまえて、一九七三年夏ウエスチングハウ
ス社は曲り事故について、制御棒案内管にもジルカロイを使用することにしたので
問題はすべて解決したと表明した。ところが、美浜二号炉の第一回の曲り事故は、
その声明の直後に発見された。その後、美浜二号炉の第一回目の曲り事故につい
て、科学技術庁原子力局は次のような趣旨の見解を発表した。
「燃料被覆管と制御棒案内管はともにジルカロイ製ではあるが、両者の熱処理法は
異つているため燃料の燃焼に伴い燃料棒と制御棒案内管の間に中性子照射による照
射成長が生じる。燃料棒は軸方向に伸びるよう設計されているが、支持格子の拘束
力に製造時の品質のバラツキに起因する差があり、このため一部の燃料棒の伸びが
妨げられることが主な原因であると推定される。問題のある燃料集合体を取り替
え、すべての燃料棒が健全であることを確認した。また、支持格子の拘束力は使用
に伴い弱まる傾向にあるので、現在照射成長のギヤツプにより変化が生じていない
燃料棒はこれからもギヤツプ変化を起す可能性はまずない。したがつて、運転再開
については十分安全であると判断した。」と。
一九七五年一月に発生した美浜二号炉の第二回目の曲り事故は、右の判断が根拠を
欠いた単なる願望にすぎなかつたことを冷酷に示すとともに原子力工学技術の底の
浅さを如実に示した。美浜二号炉の第一回曲り事故以後に装荷された新規燃料は、
上下ノズル底面との間隔(クリアランス)を大きくとり、第一回曲り事故の点検時
にギヤツプ変化を殆んど生じていない燃料棒に比較し、更に伸びやすいものとし
た。にもかかわらず、二四体の新規装荷燃料のうち二体に曲りが発生しており、自
慢の対策であつたいわゆる“ボトム・オフ”も曲り事故の解決には何ら有効ではな
かつたことを実証した。“ボトム・オフ”対策が有効でないことはその後に生じた
高浜一号炉の事故でも明らかにされた。一九七四年一月三〇日、科学技術庁原子力
局は、「高浜一号炉の初装荷燃料について」と題する発表項目の中で、「昭和四九
年二月から装荷をはじめる高浜一号炉の燃料は全部で一五七体であるが、これらは
今回美浜二号炉で新規に装荷されたものと同じく、上下に十分のクリアランスを取
つたものであり、使用期間を通じて健全性を失わず、安全性は十分確保し得るもの
である。」と述べていた。しかし一九七五年一一月の第一回定期検査において、こ
の自信は裏切られ、燃料棒の曲り事故が発見されており、安全確保の期待はやはり
単なる願望にすぎなかつたことをあらわしたのである。
高浜一号炉の燃料棒の曲り事故の詳細は公表されているデータがまつたくないので
不明である。
美浜二号炉の二回目の事故では、燃料被覆管の間隔が〇・五ミリメートル以下にな
つているものが五体、一ミリメートル以下のものは二〇体にものぼつており、一回
目の事故にくらべその程度ははるかに危険な方向に進行している。
(4) 放射能漏洩事故
(ア) 外国の事故例
一九 六九年ベズナウ一号炉で、また、一九七〇年三月ギネー炉で放射能漏洩が発
見された。
(イ) 日本の事故例
一九 六九年一月二八日、日本原子力研究所、研究用第三号原子炉(JRR13)
で燃料が破損し、炉内が核分裂生成物及びウランでひどく汚染され、その結果、所
員五名に内部被ばく事故が発生した。その後美浜一号炉、二号炉なども、リーク燃
料が続いている。
(ウ) 原因と対策
ギネー炉などのリークの原因は、被覆管内面に水素化物ができ、被覆管を破損した
ためであると伝えられている。水素化物はペレツトの水分によると考えられたた
め、事故対策としてベレツトの乾燥とペレツト密度を高める措置がとられた。この
結果、燃料破損はほぼ完全に防止されたといわれていたが、現実にはその後もリー
ク燃料の発生は続いている。
美浜炉のリークの原因としては燃料ペレツトと被覆管との間に働らく力学的相互作
用の他、多くのものが考えられているが、明確には判明されておらず、したがつ
て、その対策も被覆管製造時の品質管理に全力を傾注するとか、原子炉起動時に過
度の負担がかからないよう慎重を期すといつたことしかなく、最終的には、ある程
度のリークの発生は避けられないと割り切り、リークによる原子炉冷却材中の放射
能量の増大に絶えず気を配り、一定の値まで上昇した場合、その段階で炉を停止
し、破損している燃料集合体を捜し出して新しいものと取り替えるという方法しか
考えられていない。リークの原因究明が困難なことの理由の一つには、燃料棒が放
射能で強く汚染されていて、検査の方法としては水中カメラやペリスコープ(逆潜
望鏡)によるしかないが、しかしそれらによつてもリークの箇所や傷口の態様を究
明することは、よほど大きい破損の場合を除いてはまず不可能であり、また、水中
テレビによつてもリークのような損傷は観測不可能であること、したがつて、漏洩
燃料の発見は検査する燃料集合体をまるごと容器(シツピング・キヤン)の中に収
納し、キヤツプをかぶせて窒素ガスを循環させ、循環窒素ガスの中に混入した核分
裂生成ガス(キセノン一三三)の放射能を測定してリークの存否を判定する、いわ
ゆる「シツピング法」に頼らざるを得ないということにもある。また、シツピング
法にしたところでシツピングキヤンが汚染されるなどのいわゆる「バツクグラウン
ド、ノイズ」の発生が避けられず、測定精度に制限があり、したがつて、破損程度
さえもそれ程明確にできないものである。
(5) 燃料棒折損事故
一九七三年三月、関西電力美浜一号炉(加圧水型軽水炉、出力三四万キロワツト)
の定期検査時に、炉心第三領域の燃料集合体(C三四)中の燃料棒二本の上部が約
七〇センチメートル欠損し、中のウランペレツト共々、炉内に崩れ落ちている事態
が発見された。関西電力の説明では、炉心冷却材中に落ちていた被覆管の破片及び
ウランペレツトは、真空吸引器を用いて回収したとされているが、放射能汚染され
ている炉心からどのように回収したかの具体的作業方法は依然として不明のままで
ある。
右事故がどれ程重大な意味と深刻さを含むものであるかは後で主張するが、ここで
は事故発生から今日に至るまでに関西電力や関係行政庁の恐るべく悪質な真相隠ぺ
いと真相を追及される中で見せた電力会社の周章狼狽ぶりや、唖然とさせる猛猛し
い居直りをした原子力発電所推進者たちは、国民の安全を軽視し蹂りんするもので
あることを厳しく指摘しておきたい。
(二) ウランペレツトの挙動
(1) 焼きしまり
燃料ペレツトは、焼結温度一四五〇度C~一七〇〇度Cにおいて製造されているた
め、運転中のペレツト中心温度が右焼結温度以上の高温になつてくると、焼結が更
に進み、ペレツトの密度が高まつて体積が縮むという現象があり、これを焼きしま
り現象と表現している。体積の収縮の仕方は均質ではなく、したがつて、ペレツト
毎での収縮の態様もそれぞれ異つており、ピーク線出力密度に対するペレツト密度
の変化の仕方を示す実験にしても、ペレツト体積変化に対するペレツト長の変化を
示す実験にしても、いずれも実験結果には大きいばらつきが見られる。ウラン粉末
の活性(焼結の難易性)、プレスの仕方、焼結温度等によつて右のばらつきが生じ
るのである。このばらつきが燃料設計を著しくむつかしいものにしている。
焼きしまりは、燃料被覆管とペレツトのギヤツプ、ペレツトとペレツトとのギヤツ
プを大きくし、ギヤツプ間の熱伝導度を低下せしめる。このことはベレツトに発生
した熱が冷却材に伝わることを妨げる方向に働くため、ウランペレツトの中心温度
を上昇させ、中心溶融の可能性を高めるとともに、蓄積熱の増大の方向に作用し
て、重大事故時の燃料溶融を準備するものである。したがつて、軽視できない現象
である。
(2) ひび割れ
燃料ペレツトは、燃焼の進行により中心部の温度が二千数百度Cとなり、外周都は
約五~六〇〇度Cとなる。二酸化ウランの熱膨張率を考慮して計算するとペレツト
中心部と表面部には、三パーセント程度の熱膨張の差が生じ、中心部は大きく膨張
して、圧縮力が生じ、外部には引張りの熱応力が生じる。右応力は焼き物であるペ
レツトに苛酷に働くため、運転開始後間もなく、ペレツトに放射状のひび割れを生
ぜしめる。ペレツトの焼きしまり現象が相乗的に加わるため、ペレツトは「つづみ
型」にひび割れると考えられている。このように、ひび割れは、起動、停止のくり
返しや、ペレツト破片がひび割れに入つて、くさび作用を支えることなどにより、
複雑に進行し、拡大する。
なお、燃料ペレツトの熱伝導度は、実験の結果によれば、約半分と低く、したがつ
て、本件安全審査では中心温度が低くみすぎられているが、燃料ペレツトに生じた
ひび割れは、ペレツト内の熱伝導度を更に著しく低下せしめ、ペレツト中心温度を
上昇させる作用を有する。この意味でも、ひび割りペレツトの熱伝導度をは握して
おくことは重要なことであるが、その測定は極めて困難であり、現在のところ、炉
心で照射されたひび割れしたペレツトのそれはもちろん、未照射のひび割れペレツ
トの熱伝導の測定資料さえできていない。
(3) スエリング
燃焼の進行に伴い、ウランペレツトの内部には核分裂生成物(FP)が発生し、増
加してくる。FPは燃焼の初期には、二酸化ウランの結晶格子の間におさまつてい
るが、燃焼がある程度以上進行すると、そのうちのキセノンやクリプトン等気体状
になりやすいものが結晶格子間を遊動して一か所に集まり(析出)、気泡を作る現
象が生じてくる。気泡は体積を増し、ペレツト内部からふくらませる力として作用
する。この作用によりペレツトが膨張する現象をスエリングという。燃焼の末期に
は約三パーセントの体積増をもたらすことが知られている。
ス エリングの発生はペレツトと被覆管の接触を強める作用を持つとともに、ペレ
ツト内の気泡はペレツト内熱伝導度の低下に寄与する。
(4) 核分裂生成物の放出
ペレツト内部に生成した気泡の一部は、ペレツト・被覆管ギヤツプに放出され、ヘ
リウムガスと混合し、ペレツト・被覆管ギヤツプの熱伝達度を低下させる。ヘリウ
ムガスが被覆管内圧を高めるのに使われた理由の一つには、熱伝達度の高い性質が
あげられるが、この中にキセノンとかクリプトンが混入すると、熱伝達度が低下す
る。
(5) ウランペレツトの融点の低下
ウ ランペレツトは燃焼にしたがつてプルトニウムを発生し蓄積してゆく。これに
伴いウランペレツトの融点は低下してゆくことが知られている。四八、〇〇〇メ
ガ・ワツト・デー/トン(本件伊方炉での最高燃焼度)で融点は、約二、六五〇度
Cとなる。
(三) 燃料被覆管劣化の要因
(1) 外圧によるクリープ変形
燃料被覆管は、燃焼の進行とともに、冷却材の外圧を受けて徐々に直径を縮小する
いわゆるクリープ現象を起こす。クリープとは、ある物体に応力がかかつたままの
状態で長時間経過した場合、物体が、その応力に応じて、応力を緩和するよう塑性
変形することで、ミクロに見れば、原子の移動を伴う現象である。なお、中性子照
射は、クリープを加速させる作用がある。その他冷却材による流体力学的作用力
も、クリープ現象に一定の影響力を持つとされる。クリープにより被覆管は損傷す
る。
(2) 中性子照射による照射損傷
被覆管は炉内にあつては高速中性子の照射を受け、非照射材と異つた性質を有する
に至る。その原因の一つと考えられているものに照射損傷があり、例えば、中性子
照射を受けると、ニユートロン・アルフア反応で、ヘリウムが被覆管内にたまり、
被覆管を脆くするという現象が知られている。燃料被覆管は照射損傷により延性を
著しく低下させる。
(3) 化学的腐食
被覆管は、冷却材や燃料棒内部環境における化学的腐食を受ける。まず、冷却水に
より腐食され、ジルカロイ表面に微密な酸化被膜が生成し、それに伴つて発生した
水素の一部は、ジルカロイ中に約七〇PPMまで固溶するが、炉が停止し、ジルカ
ロイの温度が低下するに従い、固溶していた水素はジルカロイ被覆管に水素化物と
して析出する。水素化物の析出が生じると被覆管は延性、靭性な著しく失ない脆化
する。また被覆管はペレツトに含まれていた湿分により内側からも水素化される。
その他、ペレツトの燃焼により発生したFPのいくつかが、化学的作用を及ぼすこ
とが知られており、特に、ヨー素による応力腐食の発生は有名である。これらの応
力腐食により、被覆管は著しく変質し、脆化する。
(4) フレツテイング腐食の発生
わずか三ミリメートルの間隔しかない燃料被覆管の間を、圧力一五七kg/cm3
の一次冷却材が毎秒約三~五メートルの高速で、流れているため、被覆管は流体力
学的力にさらされ、常に振動している。この繰り返しの振動によるフレツテイング
腐食により被覆管は切損の因子を蓄積する。
(5) 冷却材の水圧・水流
一 次冷却材の高圧、高速流水は、被覆管に衝撃的力を加えることとなる。被覆管
が他の要因で脆化し、つぶれ、曲り、切損などを生じた場合には、水圧、水流の被
覆管欠陥部に支える作用力は、想像以上に苛酷なものとなる。
(四) 燃料棒に発生する欠陥
(1) 燃料棒の曲がり
ア 燃料棒の曲がりの原因は、照射成長の差のほか、焼きしまり、ひび割れ、スエ
リングなどにより複雑に変形したペレツトと被覆管との接触により発生する強い力
学的相互作用や冷却材の流体力学的力等の諸力の複合作用による可能性が強い。と
ころが、ウランペレツトの挙動の定量的は握はほとんどできていないし、また、冷
却材の流体についてもほとんど何もわかつていないのである。したがつて曲りに対
する対策は当分確立しないと見るべきである。
イ 燃料棒の曲りは、当然燃料棒の間隔を縮め、冷却材の通りを悪くし、その結
果、その部分の熱除去が阻害される。 燃料被覆管の温度は上昇し、冷却材の核沸
騰が発生する。燃料被覆管相互の間隔が狭いので水蒸気の泡は容易につながり被覆
管表面を膜としておおう可能性が大きい(膜沸騰の発生)。一たん、高温の水蒸気
膜でおおわれた被覆管は、温度がますます上昇するため、膜沸騰から正常な状態に
戻すには、原子力の出力を大幅に低下させるか停止するしかない。この間、ジルカ
ロイ被覆管が、高温状態で、長時間水蒸気にさらされると、ジルカロイ│水蒸気反
応が進み、被覆管表面には酸化物ができる(焼損)。焼損により発生した酸化物
は、機械的強度が弱いため、水圧、水流に抗しきれず、折損する可能性は充分存在
する。
燃料棒の曲りにより、隣接燃料棒が接触した場合、熱除去は全く不可能となる。し
たがつて、その部分は急激に温度が上昇し、一〇〇〇度Cを超えるとジルコニウム
は水蒸気と激しく発熱反応をはじめ、やがて溶融する。同時に被覆管内部の放射性
物質が冷却材中に逸出し、放射能汚染の原因となる。
ウ 制御棒案内管と燃料棒との間隔は、燃料棒相互のそれよりも小さい。しかも制
御棒案内管の肉厚は、わずかに〇・四三ミリメートルという華奢なものである。一
方、燃料棒の一年間の曲りの程度は、初装荷時のバラつきを考慮して計算すると、
最大三・四ミリメートルから二ミリメートルとなる。したがつて、燃料棒が接触
し、案内管を押し曲げる可能性は否定できない。
制御棒案内管は、わずか七〇センチメートル弱を距てて固定されており、これを燃
料被覆管と制御棒案内管との間隔二・六ミリメートル~一・七ミリメートルに、制
御棒案内管の内径と制御棒との間隔の〇・九ミリメートルを加算した三・五ミリメ
ートル~二・六ミリメートル程度曲げるに必要な力は、極めてわずかなものであ
り、これに対し、被覆管を押し曲げてくる力は変位こそ少ないが、有無を言わさな
い作用力によるものである。したがつて、ジヤツキと類似の力を生むものであり、
案内管自身の弾性的力などと比較にならないものである。
制御棒操作に支障をきたすことになつた場合、原子炉の基本的停止装置の機能の喪
失であるから、原子炉の安全性の見地からは重大な事態が発生するといわざるを得
ない。
(2) ピンホール・ひび割れ被覆管
燃料被覆管劣化の原因として述べた照射損傷、応力腐食、フレツテイング腐食など
の作用により、劣化して延性を失ない、極めて脆ろくなつている被覆管が外圧によ
るクリープ変形によつて、ひび割れやスエリング、あるいは熱膨張しているウラン
ペレツトと触れ合い、力学的相互作用を受け合うことにより、容易に被覆管にひび
割れやピンホールを発生せしめる。とくに、被覆管内部の水素化物の付近は著しく
脆化しているので、その部位にペレツトの割れ目が当たり、出力変動に伴つて、割
れ目の開閉が起こると、その部位の被覆管にはひび割れが確実に発生する。これら
の事態は、燃料棒の機械的強度を著しく低下せしめるとともに、平常運転時におけ
る放射能洩れの大きな原因となつている。
(3) 燃料棒の折損
右(2)に述べたのと同じ被覆管の劣化要因により脆化している被覆管に強い水流
圧とか、その他の衝撃力的力が加わると、燃料棒は容易に折損する。折損によつ
て、燃料被覆管中の旅射性物質が冷却材中に逸失するので、平常運転時における被
ばくの被害を著しく高めるものとなる。
(五) 以上に述べた、燃料ペレツトのひび割れ、スエリング等による燃料ペレツ
トの熱伝導度の低下、燃料ペレツトからの放射性物質の放出によるギヤツプ熱伝達
率の低下、燃料ペレツトの融点低下によつて燃料ペレツトは溶融する危険を蓄積
し、また、これらの燃料ペレツトの挙動と燃料被覆管の応力による劣化、クリープ
変形、中性子照射による照射損傷、水素化、フレツテイング腐食、冷却材の水流・
水圧によるつぶれや曲がり、その他の燃料ペレツト又は燃料棒の挙動に原因する燃
料棒の損傷と、それによるその内部からの放射能の漏洩事故も相変らず各地の原子
力発電所で発生し、環境に廃棄される気体状放射性廃棄物の源泉となつている。そ
して本件伊方発電所の燃料ペレツト、燃料棒がその別外であることの保障はない。
試運転をしていた間の本件伊方原子力発電所でも、燃料棒の損傷を避ける丸めに、
原子炉の起動、停止をゆつくりと行わざるを得なかつたが、このことが試運転期間
を二か月間延期したことの理由の一つとなつている。この事実は、運転上の過渡状
態における燃料棒の損傷が不可避な現状であることを何よりもよく物語つている。
右のように、既知又は未知の原因による、そして防止対策が明らかにされていない
燃料棒の損傷を防ぎ得ない本件原子炉の炉心設計は、「指針」の要件を満すものと
はとうてい云い難いことは明らかである。
三 事故時における危険
3 LOCA時の燃料挙動
(三) LOCA荷重と燃料被覆管の機械的強度
(1) LOCA時の荷重
LOCA時には、さまざまの原因で燃料棒に強い荷重が加わる。もし燃料被覆管の
機械的強度がその荷重に耐ええない場合には、被覆管は折損あるいは座屈し、炉心
の崩壊をもたらすこととなる。したがつてLOCA時の炉心に関する安全審査で
は、燃料被覆管の機械的強度とLOCA時最大荷重についての比較検討が十分にな
されなければならない。
LOCA時に問題となる荷重としては、(ア)相変態に基づく荷重、(イ)再冠水
時の熱衝撃荷重、(ウ)再冠水時の燃料被覆管と制御棒案内管との温度差により燃
料棒にかかる圧縮荷重があけられる。まず(ア)の相変態に基づく荷重とは、次の
ような事実をいう。
ジルカロイは、八五〇度Cから九〇〇度Cのあたりで、α相(六方稠密構造)から
β相(体心立方構造)へと結晶構造が変化する。この二相共存状態では、引張り強
度は著しく低下する性質がある。相変態にともなつて、ジルカロイは、約〇・八パ
ーセントの体積収縮が生じる。長さの変化にして約〇・三パーセントの縮となる。
被覆管が再冠水時まで崩壊しないと仮定して作成されている高温点被覆管温度グラ
フ上で予想される相変態か所は四か所である。すなわち(1)第一ピーク上昇過
程、(2)第一ピーク降下過程、(3)第二ピーク上昇過程、(4)第二ビーク降
下過程である。
(1) 燃料被覆管は、LOCA発生後数秒にして膨張し始め、支持格子に、がつ
ちりと食い込む現象が生じる。燃料棒は、蓄積熱により急上昇し、八五〇度C付近
で相変態を生じ、支持格子間で約二ミリメートル縮小する。これに対し、発熱のな
い制御棒案内管は、温度上昇が遅れるため、相変態の時期が被覆管のそれより後と
なる。このため燃料被覆管は、二万プシイの引張応力を受ける。
(2)例え右の第一ピーク上昇過程で破断を免れたとしても、降下過程では、逆
に、燃料被覆管がβ相からα相に変わる際、圧縮応力を受け、(3)更に、再びα
相からβ相に変る際に、引張応力を受けることとなる。したがつて、第一ピークか
ら第二ビークに至る過程で、二万ブシイの応力を三度も受けることとなる。(4)
第二ピークの降下過程まで、燃料棒が、崩壊しないまま維持されることは、まずあ
り得ないが、仮りに有つたとすると、内面酸化と水素化で、ボロボロに脆化した被
覆管に再び二万プシイが襲いかかる状態となる。二万プシイを一平方センチメート
ル当りの荷重に換算すると約一三九五キログラムとなる。その荷重の大きさが理解
できるであろう。
(4) の再冠水時の熱衝撃荷重とは、崩壊熱により高温となつた燃料被覆が再冠
水時に水と接した時、生じた温度勾配によつて被覆材内に衝撃的にもたらされる歪
による荷重であるが、四国電力が安全審査の参考資料として提出した「一次冷却材
喪失事故時の燃料被覆材の健全性について」と題する資料の中でも、LOCA時の
燃料被覆に加わる最大荷重として計算されているものである。この熱衝撃荷重につ
いて、四国電力の提出している参考資料は、約二九〇〇プシイという数値を掲げて
いる。
しかし、右数値が非常に過小であることは、明らかである。
この資料はアメリカ原子力委員会が発行したところの「規制作成のための公聴会の
件に関して軽水炉の非常用炉心冷却系に対する最終指針」と題する資料の抜粋であ
るが、これによると、熱衝撃による応力のピーク値として、コンバツシヨン・エン
ジニアリング社は、一インチ平方当り二万四六〇〇ポンド(一万一〇七〇キログラ
ム)という証拠書類をアメリカ原子力委員会に提出している。ゼネラル・エレクト
リツク社は三万三〇〇〇ポンド(一万四八五〇キログラム)、バブコツクス・ウイ
ルコツクス社は二万三〇〇〇ポンド(一万〇三五〇キログラム)であるという証拠
書類を提出している。これに対し、伊方炉と同型炉の輸出メーカーであるウエスチ
ングハウス社は、最初に提出した証拠書類「一〇七八」では、熱衝撃による応力の
ピーク値を三万六〇〇〇ポンド(一万六二〇〇キログラム)としておきながら、後
に提出した証拠書類「一一五一」により、三五〇〇ポンド(一五七五キログラム)
に訂正している。
訂正後のウエスチングハウスの数値のみが異常に小さい値である。アメリカの他の
原子カメーカーの計算では、いずれも一インチ平方当り二万ポンド以上となつてい
るのに比して一桁小さくなつているのである。
熱衝撃荷重の計算が非常に難しいものであることは明らかである。しかしながら、
他メーカー三社がいずれも二万プシイ以上の値を算出しているのに対し、ウエスチ
ングハウス社のみが三五〇〇プシイという場合、いずれを信頼すべきかは自ずと明
らかであろう。ましてこの数値が、原子炉施設の安全設計の為の基礎資料となるも
のであつて見れば、より安全側に数値を選択すべきは自明の理である。ウエスチン
グハウス社の計算値には、無理な仮定が入つていると考えざるを得ないのである。
四国電力の提出した参考資料の二九〇〇プシイというのは、右ウエスチングハウス
社のアメリカ原子力委員会への報告値よりなお小さい値となつており、その数値の
信頼性は極めて低いと云わざるを得ない。安全側に数値を選択するならば、熱衝撃
による応力ピーク値は少くとも三万ブシイを採用すべきである。
(ウ) の再冠水時の燃料被覆管と制御棒案内管との温度差により燃料棒にかかる
圧縮荷重とは、アセンブリ拘束のことである。燃料棒が再冠水過程に入ると、内部
に高温のペレツトを抱える被覆管と、制御棒案内管との間には、数百度の温度差が
つく。燃料被覆管は支持格子に食い込んでいる為、軸方向にすべり動くことができ
ない。この為急冷されて急激に収縮する制御棒案内管により燃料被覆管は上下に強
力な圧縮応力を受けることとなる。これをアセンブリ拘束といつている。四国電力
の提出した参考資料では、アセンブリ拘束を一〇〇〇プシイとしているが、これも
非常に過小な数値となつている。少くとも数万プシイと考えなければならない数値
である。再冠水時には、燃料被覆管は、熱衝撃荷重とアセンブリ拘束荷重の両応力
を受けることになり、その値は、どのように少く見積つても四万ブシイを軽く超え
ることが予測される。
(2) LOCA時の機械的強度
一方、LOCA時の燃料被覆管の機械的強度については、どうであろうか。四国電
力が提出した参考資料には、未照射の燃料被覆管で、破裂やふくれのない(変形の
ない)ものについての機械的強度テストの二つの結果が示されている。メザベイの
テストによると、ジルコニウム・水反応が約一七パーセント(被覆管の酸化の状
態)の場合被覆管の機械的強度は一万六〇〇〇プシイとなつている。グレイバーの
テストによると、ジルコニウム・水反応が一一パーセントの場合、被覆管の機械的
強度は一〇万プシイとなつている。右数値は破裂やふくれのない被覆管についての
テスト結果であるが同じ参考資料には、蒸気中で破裂させた被覆管の圧縮テスト、
曲げテストによる機械的強度の結果も引用されている。LOCA時の燃料被覆管は
ほとんど破裂しているであろうし、破裂していないまでもふくれによつて変形して
いると思われるので、LOCA時に被覆管が耐えうる機械的強度は、変形被覆管に
よつてテストされた結果が、より実際に近いものとなるのである。したがつて、変
形被覆管(バースト・ロツド)の機械的強度こそ我々の求めるべき数値である。
ところが、四国電力の提出した参考資料を見てわかるとおり、肝心のバースト・ロ
ツドの機械的強度の数値を示しているはずの部分は、企業秘の名目で、提出を拒否
して空白のままである。これは恐らく、バースト・ロツドの試験結果が、右資料の
中でLOCA時に予想される最大応力として算定されている五五〇〇プシイに接近
した数値が出ているためであろう。右参考資料は審査会に出されているものである
が、その時点では勿論バースト・ロツドの試験結果の部分も空白などになつている
わけではなく、安全審査委員のoも右数値を見ている訳である。したがつて、ウエ
スチングハウスも、四国電力も、右テスト結果が場合によつては、公表されること
は覚悟の上で、安全審査の為の参考資料として提出している訳である。にもかかわ
らず、被告は、文書提出命令を無視するという裁判所の権威をまるで無視した暴挙
を犯してまで、企業秘の名で、必死にその提出を拒んだ。
ところで、今まで見て来た各テストは、LOCA時の燃料被覆管の強度を求めるテ
ストとしては、実は致命的欠陥がある。すなわち、実際の燃料被覆管は前述のよう
に苛酷な炉内条件の下で、中性子照射を受けて、新品のものと全く異つた性質と欠
陥を有するものに変質している。したがつて、実際の燃料被覆管の機械的強度を計
測する為には、できるだけ実際の炉心に近い状態でテストがされなければ、本当の
機械的強度は出てこないのである。少くとも、中性子照射済みの燃料について実験
が行われるべきである。
しかるに、先にのべたテストは、バースト・ロツドのものを含めて、いずれも未照
射被覆材の機械的強度テストにすぎない。中性子照射によつて劣化した燃料被覆材
は、未照射燃料被覆材に対し、はるかに脆くなつているものであることは、学界の
常識である。ジルカロイ被覆は研究に研究を重ねて選ばれた金属であるにもかかわ
らず、原子炉で照射された後は、三〇センチの高さからベニヤ板の台の上に落した
だけでくだける。しかも、現実の燃料棒は単に中性子照射による脆化のみでなく、
先程のべたように、水素やヨー素によつても脆化しており、ひび割れやピンホール
も生じているのであるから、応力集中効果も働く。したがつて、中性子照射済の燃
料被覆材の機械的強度は、バースト・ロツドのテスト結果よりはるかに低いものと
なるであろうことは、疑う余地のない事実である。
しかし、それらのデータは、安全審査会には一切提出されていない。照射済み燃料
被覆材の機械的強度テストは、アメリカの原子炉メーカーでも、まだ実験段階にあ
り、データはほとんどないといつてよい現状である。先程ものべたとおり、現実に
LOCAが生じた場合、燃料被覆はほとんど破裂しており、したがつて応力集中効
果をまともに受ける状況にあるから、その時の燃料被覆材の機械的強度は、おそら
く非常に低いものであろう。したがつて、LOCA時にかかると予想される先の
(1)の(ア)(イ)(ウ)の荷重のような万単位の応力に対しては、全然耐えら
れないのである。
第三 蒸気発生器細管事故
二 問題の所在││蒸気発生器細管事故の重大性と現実性││
1 蒸気発生器細管事故の重大性
(三) ECCSを無効にする恐ろしさ
蒸気発生器細管は、それが一たん破断すれば前述の如き重大なる事態に至ることに
なるだけでなく、破断に至らなくとも、減肉、腐食時の損耗を受けている段階で、
実は容易ならざる事態である。
一 次系大口径配管が破断し、一次冷却材喪失事故(大LOCAと略す)が起る
と、一次系の圧力は、瞬間的に減圧され、蒸気発生器細管は大きな衝撃力を受け
る。このとき、細管に損傷があれば、細管は圧潰や破断をきたす。細管は、内圧よ
りも外圧による方が、容易に破壊される。例えば、半径一〇ミリメートル、厚さ
一・四ミリメートルのインコネル製の細管の場合、厚さが三〇パーセントにまで減
少すると、内圧が二九四気圧で破裂するのに対して、外圧は四二・四気圧でも圧潰
する。つまり、原子炉運転時の一次系と二次系との圧力差(一〇〇気圧)には耐え
るが、大LOCA時に生じると思える外圧五〇気圧には耐えられない。損傷を受け
た細管の表面は、凹凸しており、何らかの切欠き効果(凹凸した面では、平滑な面
より応力の集中する部分が生じる効果)があり、更に小さな圧力でも圧潰が起る可
能性がある。そして、後に示すように、美浜一号炉・二号炉、ポイントビーチ一号
炉の場合のような細管損傷がひん発している現実を考えるならば、大LOCA時の
衝撃力を受けて、細管は破断する。
一 たん、圧潰や破断が起れば、二次冷却水は、減圧された炉心部へ高圧蒸気とな
つて吹き込み、炉心部を高圧蒸気で充満する。一方、大LOCA時には、炉心の空
だき状態を防ぐため、ECCSが働き、炉心は水びたしにされることになつてい
る。しかし、二次側から吹き込んだ炉心部の高圧蒸気のため、炉心への注水は妨げ
られる。すなわち、ECCSの機能は大幅に低下するのである。アメリカ物理学会
の軽水炉の安全性に関する報告書には、蒸気発生器細管の破損面積についてわずか
〇・〇〇三平方フイート(約一本の細管の断面積)の破損で再冠水速度(炉心を水
びたしにする速さ)が一七パーセント減少すると推定されていると報告されてい
る。
もともと、大LOCA時にECCSが期待通りに機能を発揮するという実規模の実
験はなく、小規模の実験さえ、炉心注水に失敗しているのが現状なのに、右で述べ
たように、細管の破断が重なれば、炉心は必ず溶融するであろう。
つまり、細管損傷の現実が根本的に解決されない限り、PWRは最も重要な安全装
置であるECCSなしで運転されていると同様なのである。
2 多発する細管事故
右の如き安全上重要な部分であるにもかかわらず、蒸気発生器細管における減肉、
ひび割れ、穴あき等の損傷事故は、国内で営業運転中の五基のPWRのすべてで発
生し、国外においても同様に、枚挙にいとまのない程多数の事故例が報告されてい
る。恐るべきことに、この事態は、原因も正しく握めず的確な対策もたてられない
まま進行しているのであり、まさに大規模な蒸気発生器細管破損事故の寸前という
べき重大な事態である。
以下、従来の細管損傷事故例をいくつか挙げて細管損傷事故の状況を見てみる。
(一) 美浜一号炉
我が国最初の発電用PWRである美浜一号炉は、昭和四五年一一月二八日に運転を
開始したもので、電気出力三四万キロワツト、コンパツシヨン・エンジニアリング
社製の蒸気発生器二基を装備している。
この原子力発電所で昭和四七年六月一三日、放射能漏れが発生した。調査の結果、
細管一本に穴があいており、同時に、約一〇〇本に減肉が生じていた。
これらの細管については、栓止めを実施した後、昭和四七年一二月九日、運転を再
開した。
その際、通常は一年ごとの定期点検を、半年ごとに実施することにし、更に、出力
を七〇パーセントに下げて、運転することとした。
しかし、昭和四八年三月十五日からの定期検査で、約一〇〇〇本の細管に減肉が発
生していることが発見された。これらの減肉細管及びその周辺の健全細管も合せ
て、約一九〇〇本について栓止めを実施し、同年八月一九日、運転を再開した。運
転再開にあたつては、半年ごとの定期検査を実施するとともに、出力を更に下げ
て、六〇パーセントの出力で運転することとした。
しかし、また昭和四九年二月一二日からの定期検査の際に、四本の細管に減肉が発
生した。この四本について栓止めを実施した後、同年六月四日、前記と同じ条件で
運転を再開した。
昭和四九年七月一七日、再度放射能漏れを起こした。調査の結果、二本の細管に穴
があいており、その二本を含めて、一五八本の細管に減肉が発見された。
右の事故経過において、被告は初期には、この蒸気発生器の熱交換器としての性能
が劣るせいではないかとして、出力を下げて、運転を続けさせたのである。そして
やがて、減肉は細管の曲管部(曲がつた部分)で、振れ止め板に押えられた部分に
発生しており、この部分が強く影響を受けて腐食されたと、減肉の原因を考えるよ
うになつた。しかし、その後、細管減肉は曲管部だけでなく、直管部にも発生し始
めたのである。
右の経過から分るように、事故の対策としてとられたのは、損傷細管及びその可能
性のある細管を栓止めして、出力を下げることだけであつた。この場合細管損傷の
原因を究明し、その結果を待つて根本的な対策を実施した後、運転再開すべきであ
つた。しかし実際は、根本的な対策より、その場のがれの対策がとられて、運転再
開が優先され、その結果、一〇〇〇億円もの高価な装置を、まつたく動かせないよ
うな状態までにしてしまつたのである。
(二) 美浜二号炉
この原子力発電所は、昭和四七年七月二五日に運転を開始したもので、電気出力五
〇万キロワツト、ウエスチングハウス社製の蒸気発生器二基を備えている。
この原子力発電所で昭和五〇年一月八日、放射能漏れが発生した。調査の結果、微
少な漏れのある細管一本を含めて、細管二六六本が減肉を受けていた。
ほぼ一年後の同年十二月に、損傷細管に栓止めをし、二次冷却水の水処理法をリン
酸塩法から、揮発性物質法(以下AVTとも略す)へ変更して、運転再開され、現
在に至つている。
この減肉は美浜一号炉の場合と異なり、パンフルプレート付近の直管部に発生し、
しかも一本の細管の数箇所に同時に発生しており、局部的腐食とは言えない状態で
あつた。
被告は細管減肉の原因をバツフルプレート付近など、構造的に二次冷却水の流れが
妨げられた部分に、水処理に使用したリン酸ソーダが濃縮されて生じたものと推定
している。
この事故は、美浜一号に設けられていたコンバツシヨン・エンジニアリング社製の
蒸気発生器と異なり、ウエスチングハウス社製の蒸気発生器では、細管の曲管部と
振れ止め板の構造が異なるため、減肉は起さないと考えていたのである。
蒸気発生器内での蒸気と液体の激しい二相流の中で、熱的、機械的作用による損傷
を防ぎ、しつかりと細管を保持する技術がいかに困難であるかを示した一つの例で
ある。
(三) ベズナウ一号炉
スイスのベズナウ一号炉は電気出力三五万キロワツトのPWRで、運転開始は一九
六九年六月である。当初より、二次冷却水の処理は、リン酸ソーダを使わない揮発
性物質法を採用していた。しかし、多量の腐食生成物が蒸気発生器内に蓄積し、そ
れによる腐食作用のために細管が破損したと判断されたために、腐食生成物を防ぐ
ということで、再び、水処理法はリン酸塩法へ変更されたのである。そして、リン
酸塩法へ変更後も、粒界割れや、減肉により放射能漏れを起しているのである。こ
の例は、水処理法の変更が、蒸気発生畳細管からの放射能漏れを防ぐ決定的な対策
にはなり得ないことを示している。
(四) ポイントビーチ一号炉
本事故例は、細管事故の例として特に重大な意味を持つ。この原子炉は電気出力四
九万七〇〇〇キロワツトで、ウエスチングハウス社製の蒸気発生器を有し、本件伊
方原子炉と全く同型であり、一九七〇年一月に運転開始している。一九七一年まで
には、細管を溶接してある管板が破損を起し、放射能を漏洩させた。更に一九七二
年の終りまでには、一九三本の細管で応力腐力腐食及び減肉を起している。そして
一九七四年九月に二次冷却水処理法を、それまでリン酸塩法であつたのを、揮発性
物質法に変更した。ところが翌年の一九七五年二月末に、蒸気発生器細管の大破損
が生じたのである。
すなわち、二月二六日の深夜、全出力運転中に、突然一次冷却材圧力が減少し、充
填ポンプの回転数が最大になつた。このとき一次冷却材の減少が毎分五〇〇リツト
ルも生じていたのに、ブロ-ダウン系モニターや、空気抽出器系のモニターは有効
に働かず、事故発生初期には、以前に、充填ポンプから一次冷却材が漏れたことが
あつたため、今回も、充填ポンプのシールが破れたと判断して、一台の充填ポンプ
を隔離した。しかし、一次冷却材の流出は止まらないので、運転員が、携帯用モニ
ターをもつて空気抽出器のフイルタの所と、ブローダウン配管の所で、直接放射線
線量を測定し、それぞれ、一レム、五〇ミリレムの放射線があることが分つたので
ある。
この時点で、A、B二つあるうちのB蒸気発生器で、一次冷却材が漏れていると判
断して、ブ口ーダウン系を閉鎖し、原子炉も出力を停止した。その後、B蒸気発生
器の主蒸気停止弁を閉じた後、健全なA蒸気発生器を使つて、一次系の冷却と減圧
を実施した。この間、流出した一次冷却水を補給するため、充填ポンプだけでは追
いつかず高圧注入ポンプも使用して、原子炉内の一次冷却水の水位を確保した。そ
して、B蒸気発生器を隔離した後、残留熱のため、その内圧が上昇し大気放出弁が
開いて、直接汚染した蒸気が、外部へ放出されるのを防ぐため、復水器に通じるバ
イパス弁を開き、汚染蒸気を復水器に送つて冷却すると同時に放射能を捕集する措
置をとつた。しかしこうした措置によつても、もちろん、希ガス放射能の除去は不
可能で、約二二六〇キユリーもの放射能が大気に流出した。この事故で最終的な措
置が完了したのは、事故発生後七時間後であつた。
その後の調査の結果によると、一本の細管で二箇所に、約五ミリ×一〇ミリ、及び
四ミリ×二〇ミリの大穴が生じていた。これと同時に九〇パーセント以上の減肉細
管がそのほかにも二〇本も存在していた。細管の破断面積は完全なギロチン破断に
比べて1/4から1/5と思われるが、それでも冷却材の流出量は四〇~五〇トン
に達している。
もし充填ポンプが一台でも作動しなかつたとすれば、原子炉内の一次冷却材の水位
の低下は著しく、更に、外部電源が喪失されるという事態が重なれば、蒸気発生器
による一次冷却材の冷却も著しく阻害され、原子炉内圧力の低下が遅れて、炉心溶
融も不可避であつたろう。
この事故では、一本の細管の二箇所に同時に、大穴があいたのであるが、このこと
は、二本の細管に一箇所ずつ大穴があいたことに相当する。つまり、同時複数本の
細管の破断の現実性を示している。
更に、細管腐食の原因は、リン酸ソーダを二次冷却水処理に使つていたときの残留
腐食生成物のためとされているが、二次冷却水の処理法をリン酸塩法から、揮発性
物質法に変更してから、僅か半年で細管の大破損が発生したということは、揮発性
物質法の有効性に疑問を投げかけることになつた。
(五) 右にあげた例のほか、高浜一号、西ドイツのKWO(オブリヒハイム)、
アメリカのロビンソン二号、インデイアン・ポイント一号などで、細管の材料がス
テンレス、インコネルの如何を問わず、また、二次冷却水の処理もリン酸法による
か、AVT法によるかを問わず、多発していることは周知の事実である。
右にあげた諸事例が示すように、本件伊方原子炉と同型のPWRについては、蒸気
発生器細管破損事故は、いまや、国内、外の先行原子力発電所で多発し、それらの
欠陥蒸気発生器は、PWRの信頼性を損う最大の原因となつている。
三 ずさんな安全管理
4 妥当性を欠いた「設計上の配慮」
(三) 水処理がすべてではない
揮発性物質法に期待がかけられている最大のよりどころは、美浜など、国内、外各
地で発生している減肉腐食は、化学作用によるものであり、その要因はリン酸塩で
ある、との推定である。
しかし、すでに明らかにしたように、蒸気発生器細管の損傷要因は、化学作用によ
る減肉のみではない。減肉腐食についても、化学的な作用によるのみではなく、蒸
気発生器内の二次冷却材の激しい流れによる削り取り作用、あるいは、その流れの
中で発生する泡がもたらす、いわゆるキヤビテーシヨン腐食なども、減肉の原因と
して考えられている。美浜などに発生した減肉も、リン酸塩などの化学物質のみに
よる腐食作用であるとは、まだ決して証明されていないのである。
更に減肉以外の、主としてヒビ割れや、一挙破断という型で発生すると予想され
る、応力腐食や疲労破壊も、細管のギロチン破断をもたらす有力な原因となつてい
る。
右にあげた種々の損傷要因は、本件原子炉ないしはそれと同型のものに設備された
蒸気発生器の作動条件、すなわち、その内部を流れる、大なり小なり腐食的な雰囲
気を持つた二次系の二相流がもたらす、苛酷な熱的ないしは機械的な作用によつて
生み出されるものである。したがつて、細管損傷の発生は、現在の蒸気発生器の構
造や作動条件を抜本的に変更しない限り、不可避である。水処理の方法を手直しす
ることによつて、腐食の形態や出現の模様に多少の変化が見られたとしても、それ
は抜本的解決からほど遠いものである。
第四 原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の危険性
二 圧力容器の中性子照射による脆化
(二) 脆化の状態をは握することの困難性
材料の脆化は、中性子照射時の温度によつてその度合が異なるところ、圧力容器壁
と監視試験片ではその位置により温度差が存し、その温度差は監視試験片の脆化の
程度を圧力容器壁の脆化より相当下まわつたものにしている。
また、寸法効果を考慮すると、監視試験片の脆化によつて炉壁の脆化を評価するこ
とは一般的には過小評価となる。また監視試験片の脆性遷移温度の試験結果でも、
ばらつきが多い。
したがつて、監視試験片の脆化を調べても、これをもつて圧力容器壁の脆化とみな
すことはできず、また、監視試験片の脆化の程度を何倍かに見積つて圧力容器壁の
脆化の程度を推測するにしても、その見積りのための計算式は何ら実証性もなく、
正確性も確認されていない。
結局、圧力容器の中性子照射による脆化の程度をは握する唯一の方法である監視試
験片による検査には、何らの正確性もなく、これによつて脆化の程度をは握するこ
とはできない。
したがつて、前記(3)の基準にいう「健全性を評価するための試験および検査が
できるような設計であること」なる要件を充足していないことは明らかである。
第五 緊急炉心冷却装置(ECCS)││安全装置が働かない││
三 本件ECCS審査基準
2 三項目基準
右審査指針の「燃料被覆の溶融を防止できるような設計であること」なる基準だけ
では、抽象的にすぎ、更にその内容を補充する細則たる具体的な基準がなければ、
ECCSの機能と有効性を判断することは不可能である。
本件審査当時には、未だ右の具体的なECCS基準は公式に定められていなかつた
が、被告によれば、次の三項目が基準とされた(それは昭和四七年一〇月、審査会
において内部的に定められたもののようである。)。
(1) 燃料被覆が著しく破損しないこと。
(2) 事故の全期間にわたり炉心の適切な冷却が確保されること。
(3) 著しい金属││水反応を起さないこと。
そしてその具体的内容としては、
(1) 核分裂生成物流出に寄与する破損燃料被覆の全燃料被覆に占める割合が十
分小さいこと。
(2) 炉心内の燃料体の被覆管の最高温度はいずれも摂氏一二〇〇度を上まわら
ないこと。
(3) 金属││水反応が炉心の全燃料の被覆管の一パーセント以下にとどまるこ
と。
である。
なお、注意すべきことは、右三項目基準に類似するものとして、次の基準が存する
が、右三項目基準と区別すべきことである。
(イ) 昭和五〇年五月、原子力委員会で公式に定められた「軽水型動力炉の非常
用炉心冷却系の安全評価指針」
(ロ) アメリカECCS暫定基準(一九七二年(昭和四七年)六月制定)
被告は、本件審査に用いられた基準につき、初めて「暫定指針」なる名称を使つて
きており、一見、右(イ)(ロ)の基準にまぎらわしいが、右「暫定指針」なるも
のの内容は、前記三項目基準であると解する外はないので、以下では、「三項目基
準」の名称を使い、その内容に従つて検討を進める。
3 本件原子炉ECCS審査基準の不当性
(一) 不明確な燃料被覆破損基準
本件ECCS安全評価の審査に採用された基準項目(1)は、「燃料被覆が著しく
破損しないこと」、具体的には、「破損燃料被覆の全燃料被覆に占める割合が十分
小さいこと」を要求している。しかし、項目(1)の「具体的」要求さえ「割合が
十分小さい」としか規制していないため、それは定量性を欠き、恣意的な解釈の余
地を残すことによつて、項目の字面が与える厳しさを、その適用に当つて骨抜きに
することを可能にしているのである。
(二) 炉心の冷却は確保されない
本件安全審査に用いられた、ECCSの安全評価の基準の(2)は、「事故の全期
間にわたり炉心の適切な冷却が確保されること」、具体的には、「炉心内の燃料体
の被覆管の最高温度はいずれも摂氏約一二〇〇度を上まわらないこと」を要求して
いる。しかし、たとえ被覆管の温度がある時点まで、一二〇〇度C以下に保たれて
いたとしても、一たん燃料棒が破壊されれば、炉心の形状が崩れ、その冷却は不可
能になり、被覆管温度も上昇して、炉心溶融に至る。したがつて、被覆管の温度の
規制だけでは、ECCSの有効性の判断基準としてはまつたく不十分であり、炉心
に作用する力の大きさ、及び被覆管の脆化や酸化に伴う劣化の程度などについて
も、明確な基準が必要である。
(三) 水素の爆発は防げない
本件安全審査におけるECCSの安全評価の審査に当つて採用された基準項目
(3)は、「著しい金属││水反応を起こさないこと」を求め、具体的には、「金
属││水反応が炉心の全燃料の被覆管の一パーセント以下」に押えることを指示し
ている。
ところが、水素は、空気と混合して約四パーセント以上の混合比になると爆発を起
こすようになる。こうした爆発条件が、ジルコニウム││水反応の割合を一パーセ
ントとしておけば起こらないという保証はなく、特に、軽い水素が集まると予想さ
れる格納容器上部では、爆発の可能性は大きい。
(四) 本件ECCS審査基準として用いられた前記三項目基準は以上の次第で、
炉心溶融を防ぐ保証とならず、安全設計審査指針III六・二の「燃料被覆の溶融
を防止」するための基準としては、違法不当なものである。このような違法な基準
を用いてなされた本件審査は、本件ECCSの安全設計審査指針適合性判断を誤ら
しめ、結局規制法二四条一項四号適合性の判断を誤らしめたものとして、本件審査
自体を違法ならしめるものである。
第五章 本件許可処分の内容の違法性(その三)││立地選定の誤り││
第四 本件原子炉事故による災害の過小評価
四 本件災害評価の具体的誤り
3 本件安全審査における推定災害の不当性
(一) 右に指摘した様々の恣意的な前提や仮定を採用することによつて、当然で
はあるが、本件安全審査が認めた推定災害は、極めて低く、設置者である四国電力
本位のものとなつている。立地審査のための災害評価が、もし、原告ら周辺住民の
立場からなされるのであれば、それは、被告が採用した前提や仮定と、全く違つた
ものになつたであろう。その一例として、本件立地条件も考慮した想定事故におけ
る災害評価の過程と結果とを、後述(五)する。しかし、その前に、ここでは、本
件安全審査における想定事故による災害の評価に際して採用された諸仮定が、いか
にご都合主義なものであり、不当な推定災害をもたらしているかを明らかにするた
めに、できるだけ、本件安全審査の想定事故と類似した事故経過を選び、前記2で
指摘した恣意的な諸仮定を改めることによつて、どのような結果が得られるかを示
す。
(二) 一次冷却材喪失事故
一 次冷却材喪失事故の発生原因を不問に付し、一次冷却材大口径配管だけが、そ
の低温側で破断するという全く恣意的で本件安全審査におけると同様の事故を仮り
に想定する。右の4・(二)・(1)で明らかにしたように、この想定で、しか
も、本件安全審査で採用した条件で、ECCSが作動したとしても、炉心の溶融は
「技術的に起り得る」ものとして想定する必要がある。その条件を共通にした上
で、「重大事故」と「仮想事故」とを、本件安全審査に類似した事故経過によつて
想定し、そのそれぞれについて、仮りに災害を評価する。
(1) 「重大事故」
炉心溶融が起こると、格納容器は必らず何らかの損傷を受ける。ここでは、本件災
害評価と比較できるように、敢えて最も甘い仮定を用いることにし、圧力容器、格
納容器の底部が、溶融した炉心によつて貫通されるだけで格納容器上部は大きな破
損を受けないし、種々の工学的安全装置は、機械的にも熱的にも損傷を受けないと
仮定する。ただし、炉心溶融によつて、本件「重大事故」時の五〇倍の放射能は格
納容器内に放出されるとする。こうした事故経路について、環境へ放出される放射
能量な計算するが、計算に用いる種々の仮定についても、現行災害評価で与えられ
ている仮定の本質的な非科学性はここでは問わないこととし、先に示した我が国の
同型炉の災害評価に用いられている仮定のうちで一応一番厳しくなつている値を採
用することにする。すなわちここで使用する仮定は次のようなものである。
格納容器漏洩率¨〇・五パーセント(事故後一日)(本件の場合〇・三パーセン
ト)
〇・・二五パーセント(二~四日)(本件の場合〇・一三五パーセント)
ドームから直接漏洩する割合¨ 一〇パーセント(本件の場合三パーセント)
この他の仮定については、格納容器スプレイや、アニユラス空気再循環設備等は
皆、本件災害評価で期待されている通りの性能を持つことにする。
以上のような仮定の下に、環境へ放出されるヨー素の量を計算してみると、三八〇
〇キユリーとなり、本件災害評価で「重大事故」時に放出されると評価されている
二〇キユリーに比べて、およそ二〇〇倍もの放出量となる。更に、これによる周辺
住民の被ばく線量を評価するに当たつても、基本的には本件災害評価で用いられて
いるやり方をそのまま用いることにするが、放出に当たつては地上放出(本件災害
評価では地上高さ六八メートルの点からの放出)を仮定し、風速も一・五メートル
毎秒(本件災害評価では二・五メートル毎秒)という値に修正する。
以上の条件の下で得られる敷地境界での小児甲状腺被ばく線量は、一二〇〇レムと
なり、非居住区域に対する「めやす線量」 一五〇レムをはるかに超えた致死線量
となる。
更に、先に述べた食物連鎖から受ける被ばく線量を考えると、固体状放射性物質の
粒度が大きい場合、小児の受ける被ばく線量は、吸入によるもののおよそ一〇倍に
なる。したがつて、敷地境界の小児甲状腺線量は、吸入によるものから一二〇〇レ
ム、食物連鎖によるものから一万二〇〇〇レム、合計一万三二〇〇レムという、実
にばく大な大きさになつてしまうのである。
このように、あくまでも本件災害評価と同じような事故経路を考え、工学的安全装
置の作動を考えたとしても、一次冷却材喪失事故の発生を考える限り、「めやす線
量」 は全く満たされないのであり、本件災害評価がいかにずさんなものであつた
かが解るのである。
(2) 「仮想事故」
「仮想事故」の想定に当たつても、「重大事故」を想定した場合と同じ考え方で行
う。すなわち、原因として地震など、共通モード故障が問題となる事象は考えな
い。更に、本件災害評価で作動が仮定された工学的安全装置は、すべて同じように
働くと仮定する。
「重大事故」の場合には、炉心溶融はしたものの格納容器が貫通されただけで、格
納容器上部等は損傷を受けないと仮定した。そのため格納容器の漏洩率について
は、現行の安全審査の災害評価で実際に用いられたことのある値を用いた。しかし
「仮想事故」では、溶融炉心による格納容器の地上部分の破損をつぎのように考慮
する。炉心はほぼ一時間程度で全て溶け、ばく大な量の水素と蒸気が発生する。こ
のうち蒸気については、格納容器スプレイや格納容器熱除去系が作動していれば、
それは凝縮してさほど問題とならないと思われる。しかし、水素については、それ
が充分な漏洩率でもつて環境へ放出されない限り水素爆発を惹き起こす。それを防
ぐために必要な漏洩率は二〇〇パーセント/日と考えられている。水素爆発が起き
ると仮定すると、余りにも大量の放射性物質が環境に放出されることになるので、
ここではそうした大事故を想定することを避けるため炉心が溶け終わる頃である事
故後一時間たつた時に、格納容器が小破損し、以後は格納容器の漏洩率を二〇〇パ
ーセント/日と仮定する。それまでの漏洩率は平常運転時と同じと考えて〇・一パ
ーセント/日とする。また、ドーム部からの漏洩割合は重大事故と同様に一〇パー
セントとする。
格納容器スプレイについては、本件災害評価と同じように有効に働くとするが、ア
ニユラス空気再循環系については、アニユラスに漏洩してきたものの全量をそのま
ま排気すると仮定する。ただし事故後最初の一〇分間以外はフイルターの効果を考
慮し、ヨー素に対する除去効率を本件災害評価と同じく九〇パーセントとする。
以上の仮定は、原因に関係する「共通モード故障」を考えない点、すべての工学的
安全装置が全て作動すると考える点、水素爆発をおこさないように考えた点等、ど
の点をとつても非常に甘い仮定であると言える。ところが、このような仮定を用い
ても、ヨー素の放出量は五〇万キユリーとなり、重大事故を想定した時と同じ気象
条件を用いても、敷地境界の成人甲状腺被ばく線量は三万一〇〇〇レムとなるし、
食物連鎖からによるものをこれと等しいとする上、更に四万レムの被ばくが加わつ
て合計六万二〇〇〇レムもの成人甲状腺被ばく線量になり、「めやす線量」三〇〇
レムをはるかに超え、生存はもちろん覚つかなくなるのである。
このように、一次冷却系配管のギロチン破断が起つた場合、たとえECCSやその
他の工学的安全設備が全て作動したとしても、炉心の溶融は避けられず、その結果
周辺住民が受ける被ばく線量はばく大なものとなるのである。本件安全審査におけ
る被ばく評価との著しい差は、本件審査の不当性を示すものにほかならない。
(三) 蒸気発生器細管破損事故
(1) 重大事故
先にも述べた通り、「重大事故」を「原子炉立地審査指針」の規定に従つて「技術
的見地からみて、起こりうると考えられる重大な事故」として定義するならば、蒸
気発生器細管破損事故として想定すべきものは、まさに多数の細管が同時に破断す
るという事故であろう。しかし、そうした事故をここでは敢えて考えず、本件安全
審査で仮定されているようにわずか一本の細管だけが破断するという事故を想定す
る。更に、こうしたたつた一本の細管しか破断しないとしても、この事故経過は、
極小破断LOCAに進展する可能性があるが、そうした可能性もここでは敢えて無
視する。したがつて、ここで想定する「重大事故」は極めて大きな過小評価になつ
ている。
事故経路における具体的仮定についても、本件災害評価で用いられている仮定をそ
のまま用いるが、但し、有機ヨー素の低減率と、無機ヨー素のRelease F
actorについては、全く根拠がないので、いずれの数値も一とする。
こうした仮定の下でヨー素についての環境への放出量を評価すると、二八〇〇キユ
リーとなり、本件災害評価の六一キユリーという値に比べれば五〇倍近い値にな
る。
更に、被ばく線量の評価に当たつては、本件災害評価では風速二メートル毎秒とい
う値が用いられているのを一・五メートル毎秒に修正する。そうした場合、敷地境
界での小児甲状腺被ばく線量は、二〇〇〇レムとなり、これに、先に述べた食物連
鎖からの被ばくを一〇倍として加えれば、二万二〇〇〇レムもの小児甲状腺被ばく
線量になり、この場合も「めやす線量」をまつたく満たさない。
(2) 仮想事故
仮想事故についても、重大事故を想定した場合と同じように、細管同時多数破断や
極小LOCAについては考えず、本件災害評価で想定された仮想事故と同じ事故を
仮想事故として想定する。
事故経路で用いる仮定も、本件災害評価で用いられているものをほぼそのまま用い
るが重大事故の場合と同じように、有機ヨー素の低減率と無機ヨー素のRelea
se Factorについてはいずれも一とする。
以上のような仮定の下で、環境へ放出されるヨー素量を計算すると一万一〇〇〇キ
ユリーとなり、本件災害評価で得られている三五九キユリーという値と比べれば、
この場合も三〇倍もの値になつている。
更に、このような仮定をする場合、ヨー素は三〇分以内にすべて放出されることに
なるので、大気拡散については三〇分以後の条件を考えず、三〇分までの拡散条件
についても、風速二メートル毎秒という値を一・五メートル毎秒に修正する。こう
して計算すると、敷地境界における成人甲状腺被ばく線量は、実に二〇〇〇レムに
もなり、更に食物連鎖からによるものを同量二〇〇〇レムとして加えると成人甲状
腺被ばく線量は四〇〇〇レムとなり「めやす線量」の三〇〇レムをはるかに超え、
致死傷害をもたらす。
以上のように蒸気発生器細管破損事故についても、本件災害評価の本質的な不充分
性を全く問題にせず、あくまでも本件災害評価に沿つた評価法をとつたとしても、
やはり「めやす線量」すらまつたく満たされず、本件伊方炉の設置はとうてい許さ
れないのである。
五 予想し得る災害の評価
右に詳述にしてきたように、本件安全審査における立地審査のために、四国電力よ
り提出された「重大事故」及び「仮想事故」の想定、並びに、それらの事故が周辺
住民にもたらすと推定される災害の評価は、本件伊方発電所の設置を前提として、
きわめて恣意的になされたものであるにもかかわらず、審査に当つた安全審査会
は、それらを無批判的に承認したといわざるを得ない。それらの審査に当つては、
本件伊方原子力発電所と同型の先行原子力発電所で明らかになつた、蒸気発生器の
重大な欠陥を示す諸事実を全く考慮せず、また、一次冷却材喪失事故時における炉
心溶融の経過と結果とを不当に評価するなどして、恣意的な事故想定と事故経過と
を承認した。更に、想定事故による災害の評価に当たつては、放射能の環境への散
逸を防ぐために設けられている安全防護設備が、いかなる事故にあつても、その有
効性を安全に保つている、といつたご都合主義的な仮定を設けたり、安全審査に当
たつた委員すら答えられないような、わけのわからない数値を持ち込んで環境への
放射能放出量を桁違いに引き下げるといつた、周辺住民の放射線被ばく推定量を
「めやす線量」以下に抑えるための作為的な操作も、全く問題にされなかつたので
ある。
こうした、国民を欺き審査の名に値しない審査は、主として原子力委員会の怠慢に
由来する、現行の「立地審査指針」の曖昧さをいいことにしてなされたものであ
り、事故による災害を蒙る立場にある原告らにとつては到底承服し難いものであ
る。現行の「立地審査指針」は、それを原子力委員会に答申した原子炉基準安全専
門部会も認めているように、きわめて定性的であり、本件安全審査におけるように
恣意的に運用される余地を残していることは明らかである。しかし「立地審査指
針」は、他の産業に類を見ないような原子力発電所に特有な危険性を考慮して、
「万一の事故に備え、公衆の安全を確保するため」に設けられたものであることも
疑いない事実である。したがつて、たとえ「立地審査指針」が不備であつても、そ
れを適正に運用していたならば、当然、本件伊方原子力発電所の設置は不可能であ
るとの結論に導かれたであろう。以下にこのことを証する。
1 本件安全審査における事故想定の誤つた前提
右に述べたように、本件伊方発電所の設置は、「原子炉立地審査指針」に規定され
た「原則的立地条件」を充たしていなないために、当然不許可になるべきであつ
た。にもかかわらず本件安全審査では、「原則的立地条件」の適否の判断がなされ
ないままに、「立地審査の指針」に適合しているかどうかを判断するためと称し
て、「重大事故」及び「仮想事故」を想定し、それらの事故による周辺住民の被ば
く線量を推定し、それらが「原子炉立地審査指針」にとり入れられている被ばく線
量の基準、すなわち、「めやす線量」を上回らないかどうかの審査が行なわれた。
「原則的立地条件」をないがしろにした、このような審査過程は、重大な誤りを含
んだ不当なものである。しかし、かりに百歩譲つてこのような審査の進め方を認め
るとしても、事故想定の前提となるべき条件の設定について、本件安全審査は更に
重大な誤りを犯している。それは、本件伊方原子力発電所の立地条件に由来する危
険を全く評価していないということである。
安全審査会は「地震面からみた原子炉の立地条件の適否の判断は、予想される地震
と、これに対する技術的工学的対応度の総合的検討に基づいてなされる」との、ご
都合主義的な見解で「原則的立地条件」の規定を無視した。しかし、現在の科学技
術水準の限界に由来する「総合的検討」の不正確さが、とり返しのつかない災害を
周辺住民にもたらすことを防ぐためにこそ、「原則的立地条件」が設けられている
のである。したがつて、もし「原則的立地条件」の判断を避け、想定した事故によ
る災害評価を審査する際には「総合的検討」の不正確さを反映した、何らかの条件
を設定することは最低限必要なことである。しかるに本件安全審査においては、
「予想される地震」の過小評価に基づいた「総合的検討」を行うことによつて、本
件伊方原子力発電所の危険な立地条件を、事故の想定に際して無視するという許し
難い不当な方法が採用されたのである。
本件安全審査においてなされたという「総合的検討」とは何か。それはつぎのよう
な内容である。「過去の地震歴等からみて、当該敷地に最大の地震動をもたらした
地震の、原子炉施設の基礎岩盤における加速度は一六五ガルと推定され、また、地
盤については、新鮮かつ堅硬な岩石で構成されており、地震が発生した場合に基礎
岩盤の破壊を招くような断層はみられなかつた。このような検討結果等を踏まえ、
本件伊方発電所の耐震設計に当たつては、安全上重要な施設について設計加速度二
〇〇ガルを採用しており、更に、その中でも特に重要な格納容器及び原子炉停止機
構については、三〇〇ガルの場合でもその機能を保持できるような設計を行なうこ
ととしているのである」。すなわち、過去に発生した地震がもたらした地震動の最
高のものは、本件敷地の基礎岩盤に対して一六五ガルの加速度を与えたものであつ
たと推定し、「安全上重要な施設」については二〇〇ガルを、更に「格納容器及び
原子炉停止機構」については三〇〇ガルを設計加速度として、それに耐える設計を
することになつているので、「予想される地震と、これに対する技術的工学的対応
度」は完全であると判断されている。したがつて、本件立地条件にとつて特に重要
な地震の影響については、「重大事故」や「仮想事故」の想定の際にも考慮する必
要はないとされているのである。
本件安全審査における事故想定の、右に述べるような大前提、すなわち、本件敷地
岩盤については、過去に、一六五ガル以上の地震動はあり得なかつたし、二〇〇ガ
ル、一部は三〇〇ガル、の地震動に耐える耐震設計が施されているから、地震によ
る事故の想定は不必要との断定が、いかに誤つたものであるかを次項に示そう。
2 本件安全審査における「予想最大地震動」の不当性
安全審査会が「本件敷地に最大の地震動をもたらした地震の原子炉施設の基礎岩盤
における加速度は一六五ガル」と推定した根拠は、「これら(過去)の地震の中で
当該敷地に最も大きな地震動をもたらしたものは、伊予宇和島地震(一七四九年五
月二五日、マグニチユード七・〇、震源距離三三キロメートル)と推定され、右伊
予宇和島地震の際の当該敷地内の基礎岩盤における加速度は、金井式(近距離の地
震については同種の計算式の中で最も大きな加速度値が示される計算式)によつて
計算した結果」であるとみられる。
しかしこの推定に、第二の二の1で論証したように、安全を優先する立場からは、
明らかな過小評価と判断できるものである。その理由はつぎの二点に要約できる。
その一つは、震源距離の恣意的な推定である。
これまでのところ、過去の地震の震源の深さの推定にはよい方法がないが、最近で
はマグニチユードと深さを対比させる方法がとられ、マグニチユードと深さとの関
係をあらわす曲線が用いられている。この曲線から、いま問題となつている伊予宇
和島地震のマグニチユード七・〇の値に対応する震源の深さを求めると、約一〇キ
ロメートルという値が得られる。本件のように、安全確保を何よりも優先させなけ
ればならない場合には、当然に、よりきびしい地震動を与える震源の深さをすなわ
ち、右に述べた約一〇キロメートルの値を採用しなければならないことはいうまで
もない。震源の深さを一〇キロメートルととると、震源距離は約一七キロメートル
となり、金井式によつても、推定される地震動は約三四〇ガルとなり、安全審査会
の推定値一六五ガルの二倍以上となるのである。
地震動による本件敷地基礎岩盤の加速度についてのもう一つの誤りは、採用した金
井式の不確かさである。すなわち、金井式は電源距離を用いて地震による加速度を
推定するのであるが、最近の研究が示すように、地震の原因となつた断層との距離
が重要であり、歴史上の地震で断層の位置が不明確なものでは、むしろ震央までの
距離を用いた金井式によつて、岩盤加速度を推定すべきである。したがつて、いま
問題となつている伊予宇和島地震についても、その震央距離一四キロメートルを用
いて岩盤加速度を推定する方が、震源距離を用いるより、より合理的であり、安全
優先の立場から見ても、より妥当であるといえる。震央距離で置き換えた金井式に
よつて、本件敷地岩盤に対する伊予宇和島地震による加速度を計算すると、約四二
八ガルの値が得られる。この値は、被告の推定値一六五ガルの二・五倍以上にもな
つているのである。
右に述べたように、本件敷地における過去の最大地震動についての安全審査会の推
定値一六五ガルは、伊予宇和島地震を最大地震として採用しても、明らかに過小評
価であるといわねばならない。
(1) 我が国における過去の地震歴からの推定
我が国における地震動の分布は、ある一定期間中に発生し得る期待値図として、い
くつかのものが発表されている。その中で、採用データの点で正確度が高いとされ
ている「後藤マツプ」と呼ばれている七五年期待値図によると、本件敷地周辺で
は、卓越周期を〇・三秒ととると、三九〇ガルという高い値が予測されている。
(2) 巨大地震による地震動の推定
四 国沖・南海トラフを震源地とするこれまでの最大規模の地震は、六八四年に発
生した土佐沖地震である。この地震は本件敷地から約一九〇キロメートルの地点で
発生し、マグニチユード八・四という巨大な地震であつたと推定されている。安全
審査会はこの地震については、本件敷地に対して最大加速度四五ガルを与えただけ
との四国電力の評価を認めて、全く問題にもしていない。右加速度の推定は、金井
式によつて行われたが、よく知られているように、金井式は遠距離地震に対しても
加速度推定の精度が悪い。同じ土佐沖地震について、金井式でなく、「本四架橋設
計指針」で想定された方法に従つて、本件敷地に与えたと考えられる地震動を推定
すると、震源距離推定の不確かを考慮して、三七一~一〇六三ガルという巨大な値
が得られている。
(3) 中央構造線地震による地震動の推定
中央構造線は、巨大地震の震源地となり得る大活断層である。中央構造線の部分の
有効な長さは確定されていないので、これまでに提案されているその最小値、一〇
〇キロメートルを採用するとしても、マグニチユード八・二の巨大地震の発生が予
想され、震源地点が、たとえ本件敷地から五〇キロメートルも離れていたとして
も、卓越周期〇・五秒に対して、その地震による加速度は三一〇ガルにも達すると
推定される。
右に示したように、本件敷地については、過去の最大地震動として安全審査会が推
定した一六五ガルはもちろん、余裕をみて採用したという設計加速度の二〇〇ガル
あるいは三〇〇ガルさえも上回る地震動を予想しなければならないことは明らかで
ある。したがつて、設計加速度に基づいた耐震設計が施されているから、本件伊方
発電所では、地震による事故は発生しないし、その耐震設計が大丈夫だとし、事故
の解析は必要ないと判断した本件安全審査は、地震及びそれによる岩盤加速度の推
定に、まだ未解明の不正確さが残されていることを利用した恣意的なものである。
3 想定すべき事故と災害の評価
現在の原子力発電技術の段階では、本件伊方発電所について、原告ら周辺住民に最
大の被害を与えるものとして、想定しなければならない事故は、炉心溶融をひき起
こす一次冷却材喪失事故である。後述するように、それに至る経路はいくつか予想
されるが、本件敷地に関して最も重大な自然条件となつている地震の影響について
の被告の評価が、右に述べてきたように、きわめて恣意的かつずさんなものである
ことを考慮すると、地震の発生によつてひき起こされる一次冷却材喪失事故を想定
して、本件立地条件の可否を検討することが、もつとも正当な方法である。過去の
地震から推定され、しかも、今後も本件伊方発電所の予想される耐用年数(二〇~
三〇年)と比較し得る期間内で起こり得ると予測される地震動を想定し、本件安全
審査によつて認められた本件原子炉及び関連諸設備・機器に対する耐震設計の条件
下で一次冷却材喪失事故が、どのように発生し、進展し、そして、どのような災害
を原告ら周辺住民に与えるかを評価することは、けつして架空の想定ではなく、ま
さに、現行の「立地審査指針」に指示されている、「敷地周辺の事象、原子炉の特
性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起こるかもし
れないと考えられる重大な事故」とその災害の評価にほかならない。以下に、原告
らからみて、本件伊方原子力発電所について最低限想定すべきであると考えている
想定事故と、それによる災害の評価について詳述する。
(一) 想定すべき地震動
前記2で示したように、本件安全審査において、本件敷地の基礎岩盤に対する最大
加速度を一六五ガルであると推定したことは、原告ら周辺住民の安全を確保する立
場からはまつたく不当なものである。過去に本件敷地の岩盤に最大の加速度を与え
た地震として、被告が採用した伊予宇和島地震をとるとしても、さきに明らかにし
たように、それが与えた加速度を、王五〇~四三〇ガル程度と推定することが、現
在の地震動に関する研究の成果な取り入れた、より合理的で妥当なものである。
伊予宇和島地震はマグニチユード七・〇と推定されていて、本件敷地周辺で発生し
ている大地震の平均的な大きさである。更に、地震発生の周期の研究結果からは、
本件敷地周辺では、約五二年の周期で、平均マグニチユード七・一程度の地震は発
生し続けており、しかも現在は、そうした地震発生のためのエネルギーが、十分に
蓄えられていると推定されている。
右に述べたように、マグニチユード七程度の地震が、本件伊方発電所の耐用年数内
に発生する危険が、現実的なものとなつていることと、そのクラスの過去の地震に
よる岩盤加速度の推定の妥当性と安全余裕とを考慮して、ここでは四五〇ガルの基
礎岩盤加速度を、本件敷地に対して最低限想定すべき地震動とし、それによつて、
本件伊方発電所の設備・機器がどのような影響を受け、どのような事故と災害を、
原告ら周辺住民にもたらすかを、以下に検討することにする。
(二) 本件耐震設計の有効性
本件原子炉施設の耐震設計に関しては、「原子炉特有の慎重かつ厳しい設計方針が
講ぜられている」 ので、耐震設計上考慮すべき「地震が施設に及ぼす地震力によ
つても、その施設が破損され公衆に放射線障害を及ぼすことがない」とされる。そ
してこのことは、「主要施設は基礎岩盤に二〇〇ガルの加速度を受けても何ら損傷
せず、また、格納容器等特に重要な施設は、基礎岩盤に三〇〇ガルの加速度を受け
ても、当該施設に課されている機能は十分果たされるという意味」であるとされて
いる。
要するに、第一に、現在の建築基準法を上回る静的解析と、第二に、設計地震動を
用いた動的解析とによつて、本件原子炉施設のうちの「重要な施設」の耐震設計は
保証されているというのである。しかし、本件安全審査に用いられた資料によつて
は、「主要施設は基礎岩盤に二〇〇ガルの加速度を受けても何ら損傷せず」との保
証の確かさも、更に、二〇〇ガルを越える地震動に対して、「主要施設」の機能が
どの程度維持されるかも、全く不明である。
本件原子炉施設の耐震設計についての第二の保証である動的解析の余裕性について
も、その確かさは不明である。その解析の余裕さを保証するものとして、「設計地
震波の最大加速度」の余裕のある設定と、「設計応答曲線の作成に当たつての余
裕」の二つがあげられている。しかし、前者の保証条件については、すでに、前記
2で明らかにしたように、安全審査会が恣意的に評価した結果にすぎない。後者の
「設計応答曲線」の余裕性についても、「数種の設計地震波を受けた場合の応答曲
線を求め、それらを包絡するような設計応答曲線を作成している」とされるだけ
で、二〇〇ガルの設計地震動に対して、本件原子炉の「主要施設」が、具体的にど
のような状態になり、どの程度まで、それらの機能を維持できるのかについては全
く不明なままである。まして、二〇〇ガルを超す岩盤加速度に対して、本件耐震設
計がどの程度有効であるかについては評価のしようもない。
右に検討してきたように、被告が過小評価した最大地震動による岩盤加速度二〇〇
ガルに対しても、本件原子炉の「主要施設」の耐震設計の有効性は定かでない。し
たがつて、原告らが前項で想定した、四五〇ガルの岩盤加速度に対しては、安全審
査会が分類し、左に示した本件原子炉の「主要施設」は、ほとんど、あるいは完全
に、それらの機能を喪失すると考えざるを得ない。
建家及び構築物
原子炉格納容器
使用済燃料ピツト
中央制御室
デイーゼル発電機室
機器、配管類
原子炉非常停止装置
ほう素制御系
一 次冷却系
アニユラス空気再循環系
非常用炉心冷却系
非常用電源系
右機器の制御装置
右の設備・機器のうち、原子炉格納施設と原子炉非常停止装置については、右に示
したように、安全審査会は「特に重要な施設」として指定し、三〇〇ガルの岩盤加
速度に対しても、それらの「機能は十分果たされる」としているが、その有効性に
ついては、他の「重要施設」同様に、定かでないので、四五〇ガルの加速度に対し
ては、その機能の保証はあり得ないと考えるべきであろう。
(三) 一次冷却材喪失事故(LOCA)の態様
前項で述べたように、本件敷地の基礎岩盤に対して予想される四五〇ガルの加速度
が地震によつて生じた場合には、原子炉設備とその安全防護設備の機能は、ほとん
ど、あるいは完全に失なわれるであろう。ただ、このような地震動に対しても、右
の諸設備のいくらかのものが生き残る確率は、わずかでも、あるかもしれない。し
かし、そのような場合でも、全炉心が溶融し、格納容器が破損して、大量の放射能
が環境に放出されるような事故経路は、多数存在している。つまり、このような大
事故を引き起こすには、原子炉設備や安全防護設備のすべてが機能を喪失する必要
はないのである。このことの理解のために、炉心溶融に至る一次冷却材喪失事故
(LOCA)の態様の概要を示しておこう。
LOCAの直接的な原因である、一次冷却材圧力バウンダリの破損または開放の態
様によつて、ふつう、LOCAをつぎの六種に分類している。
(1) 大破断LOCA
口径六インチ(一五・二センチメートル)以上の一次冷却材配管の破断により発生
し、緊急炉心冷却装置(以下ECCSと略)のうち、蓄圧注入系、または、低圧注
入系のどちらかの、すべてが作動しない場合には炉心溶融に至る。
(2) 小破断LOCA
口径二~六インチ(五・一~一五・二センチメートル)の一次冷却材配管の破断に
より発生し、ECCSのうち、蓄圧注入系、または、低圧注入系のどちらかの、す
べてが作動しない場合には炉心溶融に至る。
(3) 極小破断LOCA
口径〇・五~二インチ(一・三~五・一センチメートル)の一次冷却材配管が破断
し、ECCSのうち高圧注入系が全く作動しない場合には炉心溶融に至る。
(4) 圧力容器破損
圧力容器そのものが破損した場合で、すべてのECCSが無効となり、無条件に炉
心溶融に至る。
(5) 過渡的な変化による一次系の異常
原子炉運転中に、発電所内の熱エネルギーの流れに急激な変化が発生したことによ
つて、一次冷却材の状態に変化が起こり、それが原因でLOCAに至る場合で、最
も典型的な例としては、二次冷却水を送るポンプが故障し、蒸気発生器での一次冷
却材の冷却が不能となり、圧力過剰になつた一次冷却材が蒸気逃し弁から流出する
事故がある。この事故の場合には無条件に炉心溶融に至る。
(6) 接続系での圧力バウンダリ破損
たとえば、接続系の一つである、一次系とECCSの低圧注入系との間のバルブが
破損したとすると、低圧注入系に一次系と同じ高圧がかかる。低圧注入系には、そ
れに耐える耐圧性が無いから、たちまち破壊され、(1)の大口径LOCAに相当
した事故に至る。
右のように、せつかくのECCSが全く役立たない場合もあるし、そうでない時も
ECCSの一部が作動しなければ炉心溶融に至る。また、右にあげたLOCAで
は、ポンプ系の不作動が炉心溶融を導く場合が多いが、ポンプ系の不作動は、ポン
プ自身の故障による場合と、それらの電源が喪失する場合とがあり、設備や機器の
故障とともに、電源系統の故障も決定的な要因となる。ポンプなどの重要設備と電
源の種類はつぎのようになつている。
外部電源のみに依存しているもの
循環ポンプ
給水ポンプ
復水ポンプ
非常用電源で作動可能なもの
非常用注水系ポンプ
補助給水ポンプ
補機冷却系ポンプ
バルブ等開閉モーター
非常用電源及びバツテリーで作動可能なもの
スイツチ開閉用電源
計測、制御等の電源
右のような電源関係となつているので、地震によつて、たとえば、外部電源と非常
用電源とが共に使用不能になると、配管や圧力容器の破断が無くとも、炉心溶融が
もたらされることになる。
電源と同様に、電源と諸設備を結んでいる電線類の損傷も、重大な結果をもたら
す。電線類の損傷は、機械的な破損とか、火災によつてひき起こされるが、それら
を併う地震の際には、その可能性はきわめて大きくなる。
右に述べたLOCAの経過の概要が示すように、全炉心溶融に至る経路は複雑多岐
にわたつており、二〇〇ガルの耐震設計加速度で作られている右にあげたすべての
設備が、四五〇ガルの想定加速度の発生によつて、ほぼその全能力を失なうときに
は、全炉心溶融を免れる確率は、きわめて小さいと言うことができる。
ところで、安全防護設備の中で、放射能の環境流出を減少させる点で、最も重要な
役割を持つている格納容器は、さきにも述べたように、「特に重要な施設」とし
て、本件でも、三〇〇ガルの加速度に対する耐震設計が施されることになつてい
る。したがつて、四五〇ガルの想定加速度に対しても、生き残る確率は、他の「重
要施設」より、いく分大きいかも知れない。しかしながら、たとえ格納容器がかろ
うじて耐え得たとしても、その内部に存在する溶融炉心のために、最終的に破損し
てしまう。その破損経路には、つぎのようなものが考えられている。
(1) 地震による直接破損
(2) 蒸気爆発による破損
炉心が溶融して一つの塊りとなつて圧力容器の底部に落下した場合、もし底部に大
量の水があれば、爆発的な水蒸気の発生が起こり、圧力容器のふたを吹きとばし、
それが格納容器の頂上部に激突して破損させる。
(3) 水素爆発による破損
溶融炉心と水との化学反応によつて生じた多量の水素ガスが、空気と混合して爆発
を起こし、そのために格納容器が破損する。
(4) 格納容器内の気体の圧力の増加による破損
炉心溶融によつて発生する大量のガスと、その加熱とによつて、格納容器内の圧力
は急上昇し、格納容器内を冷却する機能を持つたスプレー系が作動しない場合に
は、その圧力は一時間以内で、格納容器の耐圧限度である、七~八気圧を突破し、
格納容器は破裂する。すなわち、二〇〇ガルの耐震設計で作られている格納容器ス
プレー系が機能を失つている時には、格納容器も、実質的には、三〇〇ガルではな
く二〇〇ガルの設計加速度で作られていることになつてしまう。
結局、伊予宇和島地震と、強さと位置について同等の地震が発生すれば、四五〇ガ
ルにも達する加速度が、本件敷地の基礎岩盤にもたらされ、一次冷却材喪失事故が
ひき起こされて、遂には炉心溶融に至ることは、不可避であると言える。
(四) 想定すべき事故の具体的経路と放出放射能量
前節で炉心溶融と格納容器破損の態様について述べたが、環境への放射能放出量を
具体的に評価するためには、詳しく事故の経過を時間的に追跡する必要がある。
まず原子炉が約一年間全出力運転をした段階で放射能がどのような状態で、どれ位
の量存在しているかを検討する。電気出力が五六万キロワツトの場合は蓄積放射能
量はおよそ次のようになつている。
希ガス
クリプトン 八七〇〇万キユリー
キセノン 一億一〇〇〇万キユリー
ハロゲン
ヨー素 四億〇六〇〇万キユリー
アルカリ金属
セシウム 七六〇万キユリー
テルル 九七〇〇万キユリー
アルカリ土類
ストロンチウム 一億三八〇〇万キユリー
バリウム 九〇〇〇万キユリー
貴金属他
モリブデン 九〇〇〇万キユリー
テクネチウム 七八〇〇万キユリー
ルテニウム 九九〇〇万キユリー
ロジウム 三二〇〇万キユリー
希土類他
イツトリウム 八一〇〇万キユリー
ランタン 九〇〇〇万キユリー
セリウム 二億三六〇〇万キユリー
プラセオジウム 八四〇〇万キユリー
ネオジム 三四〇〇万キユリー
プロメチウム 三二〇〇万キユリー
プルトニウム 六二〇〇〇キユリー
ジルコニウム 一億八〇〇〇万キユリー
二オブ 九〇〇〇万キユリー
これらの放射能は、健全な燃料棒の中では、大部分がウランペレツトの中に固定さ
れているが、一部は拡散により、ウランペレツトの外へしみだし、被覆管とペレツ
トの間にあるギヤツプに充満している。拡散方程式などを解いてその量を概算する
と、希ガスで三パーセント、ハロゲンで五パーセント、アルカリ金属で一五パーセ
ント、アルカリ土類で一パーセント、テルルで一〇パーセント、その他は無視でき
る。これらは小規模の燃料棒破損事故の時、その一部が燃料棒の外へ逃げる。
地震が起こり、設計加速度以上の地震加速度を受けて、一次系バウンダリが破れる
と、一五〇気圧、三〇〇度Cの一次冷却水は、瞬時に圧力容器から失われ、格納容
器内にはき出される。この状態で原子炉の運転は停止されるが、炉心内は冷却材が
無いため、燃料棒内の蓄積熱と膨大な放射能による崩壊熱のため、燃料棒の温度は
急激な速度で上昇を始める。
この崩壊熱の量は「炉停止直後で平常運転時の熱出力の七パーセント、(炉停止
後)一〇秒後で五・六パーセント、 一〇分後で二・六パーセント、二・二五時間
後には一・三パーセントになる。」。伊方一号炉の場合は電気出力五六万キロワツ
ト(したがつて、熱出力はその三倍の一六五万キμワツト)であるから、炉停止直
後で一一万六〇〇〇キロワツト、一〇秒後で九万二〇〇〇キロワツト、一〇分後で
四万三〇〇〇キロワツト、二・二五時間後で二万二〇〇〇キロワツトの崩壊熱によ
る発熱が持続していることになる。もう少しわかりやすく言うと、一キロワツトの
家庭用電気ストーブ二万二〇〇〇台分の発熱が、二時間後でも持続していることに
なる。
このような大量の発熱を除去すべきECCSが地震のために作動しなくなつていた
場合、燃料棒の表面温度は「一秒間に一一度C」の速度で上昇し、「三〇~五〇
秒」で一一〇〇度Cに達する。「被覆材のジルカロイは一一〇〇度Cを超えると水
蒸気との化学反応が活発となり、温度上昇は加速される。」こうして「約一分で燃
料棒の一部が溶け始め(一八五〇度C)、その後数分で二酸化ウラン(UO2)ペ
レツトの溶融が始まる。」。被覆管の破損が始まつた段階で、被覆管と二酸化ウラ
ン(UO2)ペレツトのすきまに蓄積されていた放射性物質は、圧力容器の中に放
出される。「こうして〇・五~二時間で炉心の大部分が溶け(二〇〇〇~三〇〇〇
度C)、圧力容器の底部に落下する。」。この場合、燃料棒が溶けたところから、
ポタポタと滴下するのか、全体が溶けるまで支持物に支えられ全体が一体となつて
落下するのかは、実験がないので何とも言えない。全体が一度に落ちる場合には、
圧力容器底部に水が残つていた場合、大規模な蒸気爆発を引き起こす可能性があ
り、最悪の場合は圧力容器の上ぶたを吹き飛ばし、この上ぶたが格納容器に激突し
て、これを破壊する。この場合には格納容器破損までの所要時間が短く、かつ大口
径破損であるために、環境へ放出される放射能量は最大になる。
さて蒸気爆発が起こらなければ、落下した溶融体はなお高出力(二万三〇〇〇キロ
ワツトぐらい)であるため、厚い鉄で作られた圧力容器の溶融貫通が起こる。「こ
れの起こる時間は配管破断から〇・五~三時間と推定されている。」。
こうして圧力容器内に一応封じられていた放射能(もちろん一次系の破断箇所から
の漏洩もある程度はあるが)はほとんど裸の状態で格納容器の床面に放り出される
のである。この溶融体はなお有り余る発熱量を維持しているので床面のコンクリー
トを分解し溶かしていく。この時の溶融体の状態は、二酸化ウラン(UO2)、ジ
ルカロイ、鉄、コンクリートの分解生成物より成り、その中に大量の核分裂生成物
と超ウラン元素を含んでおり、その重量は一〇〇トン以上と推定される。溶融体内
は激しい対流を起こしており、二〇〇〇~三〇〇〇度Cの高温のため、クリプト
ン、キセノン等の希ガスをはじめ、ヨー素の大部分、テルル、セシウム、、バリウ
ム、ストロンチウム等の揮発性の酸化物は、どんどん溶融体から蒸発し、格納容器
内に充満していく。この内比較的沸点あるいは融点の高いものは、凝縮あるいは凝
固して格納容器内に霧のような煙霧戴微粒子となつて浮遊し、一部は格納容器内壁
に付着する。溶融体から放出される放射性物質は、およそ七億キユリーと推定され
る。その内訳は、希ガス、ハロゲン、アルカリ金属、テルルはいずれも一〇〇パー
セント、アルカリ土類は一一パーセント、貴金属及びその同類は八パーセント、希
土類その他は一・三パーセントと評価される。右記の数値には放射性崩壊による減
衰が考慮されていないから、実際には全体量は時間経過に応じていくらかは少な
い。この段階でもし格納容器スプレイ系が作動すれば、格納容器内に浮遊している
煙霧状の放射性物質のかなりの量が、スプレイの水滴と共に格納容器の底に落下す
る。
この段階で環境への放射能漏洩を防いでいる唯一の壁は格納容器のみとなつてい
る。もし地震で格納容器が倒壊しないまでも、ひび割れがどこかに生じていれば、
格納容器内は高温高圧のため、激しい勢いで格納容器内の空気は環境に噴き出し、
これと共に放射ガス、煙霧状放射能が外に出て行く。
もし奇跡的に格納容器が地震に耐えて健全に生き残つていた場合は、大量の放射能
の環境噴出はかろうじておさえられている。そして格納容器スプレイが健全に作動
し、全熱除去系が有効に機能したならば、格納容器内の温度上昇は押えられ、圧力
上昇を格納容器の耐圧限度以内に押えることができる。この場合は格納容器のコン
クリートベースに落ちた容融炉心によるコンクリートの分解が進行し、一~数日で
コンクリートベースを溶融貫通する。溶融炉心と鉄とコンクリートの分解生成物か
らなる膨大な溶融体は、かくして格納容器から土中へ沈んで行く。この段階で格納
容器の気密が地面との接触面で破れ、土中のすきまを通じて格納容器内の煙霧状微
粒子は外の空気中に逃げる。この時の放射能漏洩量は、例えば土の厚さを〇・三~
一メートルとすると、土による濾過作用のため九九パーセント以上の煙霧状微粒子
が除かれるとラスムツセン報告では評価されているが、この除去率は過大評価と考
えられる。なぜなら、溶融体が土中に沈降して行く過程で、非常な高温のため急激
に土が乾燥し、大きなひび割れが各所に生じるであろうと思われる。このため外部
へ通じるガスの通路はかなり広いものになると思われ、したがつて、期待されるよ
うな高能率の濾過作用はないと考えるのが合理的である。いずれにせよ、溶融体が
格納容器のコンクリートベースを溶融貫通するまで、格納容器が健全性を維持すれ
ば、格納容器内の放射性微粒子はかなり除去された後環境へ放出されることにな
る。
一方溶融体はなおも高出力を維持しているため、土を分解し、溶かし、ひたすら下
へ下へと沈んでいく。これが「チヤイナアクシデント」と呼ばれているもので、ア
メリカで起つた場合、地球を貫通し、中国にまで到るという冗談から出た名前をも
つ事故である。この溶融体は実際には熱バランスからどこまでも沈むことはできず
どこかで止まる。地中に停止した溶融体はなおもかなりの放射能を含んでおり、地
下水を汚染する。伊方炉の場合は、五〇メートル先にすぐ海岸が迫つているから、
短時間(一年以内)に瀬戸内海にばく大な放射能が流れ出すことになる。
以上が全炉心溶融が起こつた場合の最も幸運な場合、つまり奇跡的に格納容器が最
後まで健全性を維持した場合の事故経路であるが、もつと可能性の大きい経路は、
格納容器がもう少し前の段階で破損するような以下に述べるような事故経路であ
る。
格納容器が地震に耐え、圧力容器の爆発による頂部破壊も起こらないという点は前
と同様である。しかし二〇〇ガルの設計の格納容器余熱除去系がこわれてしまう確
率は非常に高い。これが作動しなければ格納容器の冷却は全く不可能となり、格納
容器の内圧は溶融炉心の発生する熱のため急激な速度で上昇し、数十分で設計圧力
二・五気圧を突破する。圧力は尚も上昇を続け、一~二時間で耐圧限度七~八気圧
を超えて、ついには格納容器は破裂する。こうして格納容器内に充満していた揮発
性の放射能の大部分が一挙に格納容器の外へ放出されるのである。この場合格納容
器に充満している放射能の量は、スプレイ系が作動するかしないかでかなり異な
り、スプレイ系の故障の場合が最悪の事態を招来する。一方溶融体の挙動は、前に
説明したのと同じ「チヤイナアクシデント」の経過をたどつて地下水、海洋の汚染
に到るのである。
以上あげたいくつかの事故経路のそれぞれについて、本件原子炉炉心に蓄えられる
ことになつている放射能のうち、環境に放出される割合が計算できる。その結果を
整理すると、つぎの四種の事故経路に分類できる。
(1) 全炉心溶融が起こり、圧力容器内で大規模な蒸気爆発が発生し、圧力容器
ふたのミサイルが格納容器の天井を吹き飛ばす。この場合は大規模な蒸気爆発によ
つて二酸化ウラン(UO2)の酸化が著しく起こり、貴金属とその同類の放出が他
と比べて多くなつている。
(2) 全炉心溶融が起こり、圧力容器溶融貫通が起こり、格納容器スプレイ系が
働かないため、格納容器の冷却ができず、内圧が耐圧限度を超え、格納容器が破裂
する。
(3) 全炉心溶融が起こり、圧力容器溶融貫通が起こる。しかしスプレイ系が働
いて煙霧状微粒子の放射能除去が行われ、その後格納容器破損が起こる。右の
(1)、(2)と比べて固体の放射能(煙霧状微粒子)の除去が著しく効いている
のがわかる。
(4) 全炉心溶融が起こり、圧力容器溶融貫通か起こるが、格納容器余熱除去系
が働いて、格納容器底の溶融貫通が起こるまで格納容器は破損しない。格納容器内
の放射能は、地中から外へ出るので放射能のてい減効果は著しい。
(五) 想定すべき災害評価
右に述べたように、いくつかの考え得る事故経路について、環境に放出される放射
能の量が計算される。次にこれらの放射能が周辺住民にもたらす災害の規模を評価
する。ここでは、特に事故(2)についての具体的計算の経過を示す。
まず比較的重要な要素として、(1)地震が起こつてから炉心溶融が起こり格納容
器から放射能が漏洩するまでの時間、(2)原子炉の責任者が炉心溶融に気付いて
から放射能の環境放出までの時間、(3)放射能の放出が始まつてからほぼ終るま
での、時間等である。(1)は二時間半、(2)は一時間半、(3)は半時間とみ
られる。これらの量は放出放射能の崩壊減衰の程度、住民の退避が効果的に行われ
るかどうか等にかかわつて最終的に被害規模を左右する。当然のことながらこれら
三つの時間はいずれも短い程、被害規模が大きくなる。中でも(1)と(3)は比
較的人為的要素が入りにくいのに比べ、(2)は全面的に原子炉の責任者の判断に
支配されている。特に技術者は科学技術を過信する傾向があるから、最後まで炉心
溶融などの破局的事態を認めようとはしない可能性がある。したがつて、関係当局
への通報退避の指令などは大幅に遅れることが考えられる。
さて右のように(1)、(3)の時間を仮定した場合、環境に放出される放射能の
量を元素別にまとめて示すと次のようになる。
クリプトン 三三九一万キユリー
ストロンチウム 七四五万キユリー
イツトリウム 三二万キユリー
ジルコニウム 六八万キユリー
ニオブ 三六万キユリー
モリブデン 一七四万キユリー
テクネチウム 一一四万キユリー
ルテニウム 一七五万キユリー
ロジウム 六二万キユリー
テルル 二四六一万キユリー
ヨー素 一億六八〇三万キユリー
キセノン 九五〇四万キユリー
セシウム 三七七万キユリー
バリウム 五三四万キユリー
ランタン 三四万キユリー
セリウム 九二万キユリー
プラセオジウム 三三万キユリー
ネオジム 一三万キユリー
プロメチウム 一二万キユリー
プルトニウム 二五〇キユリー
格納容器が破裂した段階でこれだけの放射能が約三〇分間を費して環境に放出され
る。
放出された放射能は、風に運ばれて風下に移動し周辺住民に被害をもたらす。この
被害の規模には次に述べるいくつかの要素が関係している。
(1) 気象条件
風速、風向、雨が降つているかいないかなどであるが、風速については一般に風速
が大きい程早期の死者は少ない。これは放射能煙霧の通過し終るまでの時間が減る
ためである。その代わり放射能が減衰するまでに長距離まで運ばれるので国民線量
(人レム単位で表示)が増大し、汚染地域が拡大する。国民線量の増大は晩発性障
害(ガン、遺伝障害)の増大をもたらす。風向については、人口密集地の方角へ放
射能が向かうか、過疎地へ向かうかによつて災害規模の大小にかかわる。伊方の場
合は八幡浜市へ向かう場合が最も早期死者は多い。松山市や広島市へ向かつた場合
は、人口密集地へ到達するまでに放射能煙霧の濃度が減衰するので、早期死者はそ
れ程多くなく、反対に国民線量が飛躍的に増大する。天候については、雨が降つて
いる場合は、これがスプレイ除去系と同じ働きをするので、放射能の拡散は他の場
合と比較して最小になり、したがつて早期死者、国民線量は少なくなる。その他気
象条件としては大気安定度等があるが一般に安定度が高い程早期死者は増える傾向
にある。
(2) 格納容器からの放出高さと煙霧の上昇
格納容器から放射能が漏出する際に、どの高さのところに破損が生じるかによつ
て、以後風に乗つて流される時の煙霧の中心の高さに影響する。また放射性煙霧は
高温のために上昇するが、どこまで上昇するかということも前と同様、放射性煙霧
の中心の高さに効いてくる。放射性煙霧の高さは、周辺住民の受ける被ばくの量に
直接効いてくると共に、地上沈着量の大小を通じてどれだけ遠方まで放射性煙霧が
運ばれるかに影響する。
(3) 退避及び応急措置
周辺住民がどれだけ迅速かつ有効に退避できるかは、被害規模算定上決定的な重要
性を持つている。また被ばく者を救護する緊急医療体制の有無は死者の多少に直接
影響する。
以上三つの条件を考慮しつつ以下に具体的に災害評価を行うが、放射線被害に限つ
て言えば、原子爆弾と比較してこの種の原子炉事故の場合の方が桁違いに恐しいと
いうことを強調しておく必要がある。その訳は例えば伊方炉一年分の放射能量が、
広島型原爆の六〇〇発分に相当するということの他に、放射能放出の形態が全然違
うということによるのである。原爆の場合は超高温の発生に伴なう強烈な上昇気流
のために、生成放射能のかなりの部分が上空高く吹き上げられ、なかなか地上に落
ちて来ないのに比べ、原子炉事故の場合はほとんどの放射能が地上近くを漂うので
ある。原爆の場合九〇パーセントが上空に吹き上げられると考えると、この種の原
子炉事故による放出放射能量は実質的に広島型原爆の実に六〇〇〇発分に相当する
のである。
さて以下に、災害評価に基づく具体的な災害の展開と被害の状況を示す。
地震が発生してから約二時間半で格納容器が破損し放射能の環境放出が始まる。約
三〇分間で、さきに示しただけの放射能が環境に放出される。気象条件は風速が秒
速一メートルで、大気安定度F型とする。
格納容器から放出された放射能は白い煙霧状となつてゆつくり風下に向かつて移動
する。移動するに従つて放射能煙霧は上下、左右(進行方向に直角)方向に広がつ
てゆくが、左右方向の広がり角度は、格納容器を中心として七・六度ぐらいであ
る。放射能煙霧が通過した地域には、その濃度に応じただけの放射能が地面に沈着
し、汚染して行く。この沈着速度は気体で〇、ヨー素で〇・〇〇五メートル/秒、
その他の微粒子で〇・〇〇二メートル/秒とする。風下の住民が浴びる放射線はこ
の地面汚染の放射能からのものと、放射能煙霧からのものの他、直接放射能煙霧を
吸い込むことによつて体内に取り込まれた放射能からのものがある。
パスキルの式を用いた放射能濃度及びそれらによる被ばく線量の計算結果は、格納
容器から一〇キロメートルの地点では、体内吸入量は〇・三六キユリー、放射能煙
霧の濃度は一六〇〇キユリー秒/立方メートル、地面汚染濃度は一平方メートル当
り一・一キユリーとなつている。一〇キロメートルの距離には八幡浜市がある。松
山市の場合は距離が六〇キロメートルであるから、体内吸入量は二二ミリキユリ
ー、放射能煙霧の濃度は一〇〇キユリー秒/立方メートル、地面汚染濃度は一平方
メートル当り一六ミリキユリーとなる。物理学の実験者でさえミリキユリー(千分
の一キユリー)の放射能に近づくのに恐怖を感じることから考えると、これらのば
く大な数値はまさに戦慄すべきものであろう。風下の住民がこれらの災難から免れ
るためには逃げるしかないのである。逃げてできるだけ放射能煙霧から離れたとこ
ろに身を置かなければならない。ひとたび放射能煙霧に巻き込まれれば、呼吸によ
つて右に述べたような量の放射能を確実に体内に取り込まざるを得ないのである。
取り込んでから逃げたのでは手遅れなのである。
ところで放射能が格納容器から環境に放出されたことを住民はどうやつて知らされ
るのであろうか。原子炉の責任者が関係当局へ通報するのは、前述したような理由
によつて最大限遅れるであろう。場合によつては全く手遅れの時期に通報が行われ
るかも知れない。今考えている状況は大地震の後であるから、通信システムが混乱
していることも十分考えられる。更に、送電線の故障等により広域に及ぶ停電が発
生するかも知れない。
この場合にはテレビ・ラジオ等による住民への退避勧告の方途が閉ざされ迅速な住
民退避の実現はまつたく絶望的となるであろう。
住民の退避がどのように行われるかを判断する基準は不明であるし、また数学的な
取扱いも複雑になるので、以下では退避が一日間は全く行われないとし、その後全
員が退避すると仮定すると、次のような結果になる。
まず、格納容器から六キロメートル以内(六〇〇レム以上の全身被ばく)の人は一
〇〇パーセントが死亡、七・三キロメートルの地点(四〇〇レムの全身被ばく)の
人は五〇パーセントが死亡、九・五キロメートルの地点(二五〇レムの全身被ば
く)の人は五パーセントが死亡する。一〇キロメートルの地点(二二五レムの全身
被ばく)の人は、一〇〇パーセントが病気になり、一三キロメートルの地点(一五
〇レムの全身被ばく)の人でも五〇パーセントが発病する。これらの数値に人口分
布を考え合わせると実際に被害を受ける人の総数が出てくる。死者の数が最も多く
なるのは、格納容器からの放射能放出高さが一〇メートルの場合である。更に、放
射能煙霧がまつすぐに八幡浜市に向かつた場合が最も死者が多くなり、およそ四〇
〇〇人が短時日の間に死亡する。放射能煙霧がまつすぐ松山市に向かつた場合は二
五〇〇人が短期間に死亡する。更に、一万人レムにつきガン、遺伝障害が一件ある
と仮定すると、放射能煙霧が松山市に向かつた場合は、ガン発生数、遺伝障害発生
数はそれぞれ五七六件という数字が出てくる。
さてこれらの数字は、これだけで十分この種の事故の凄惨さを表わして余りある
が、実はこれらの数字にはいろんな点で大幅な過小評価の可能性が含まれているの
である。例えば線量効果の評価を、ある諮問委員会がスウエーデン政府に対して提
出した報告書(SOUと呼ばれている)と同じようにとると(この場合は全身線量
一〇〇~三〇〇レムで二〇パーセントが死亡、三〇〇~一〇〇〇レムで八〇パーセ
ントが死亡、一〇〇〇レム以上で一〇〇パーセントが死亡する。)、放射能煙霧が
八幡浜市へ向かつた場合は死者が一〇〇〇人も増えて五〇〇〇人となる。前の線量
効果は、被ばくを受けた人が適切な医療処置を施された場合の数値であり、実際に
今のような大混乱の状況では、むしろ劣悪な状態で放置されることを考え合わせる
と、SOUの方が適当であり、更に、もつと実際には死者が多くなる可能性があ
る。
更に、過小評価は被ばく線量の計算そのものの中にある。右に述べた計算はラスム
ツセン報告のやり方を踏襲しているので、同報告に対するアメリカの憂慮する科学
者同盟(UCS)やアメリカ物理学会の軽水炉の安全性研究グループ(APS)の
批判がそのままあてはまるのである。すなわち体内に吸入された放射能の線量計算
については、「胃腸に対する換算係数には、食物や粘膜状のじゆう毛、粘液による
エネルギー吸収のため、ベータ線に対して1/2、アルフア線に対して1/100
の減少効果が考慮されているが、これに対してUCS、APS共にその根拠の薄弱
性を指摘している。また、被ばく時間に対して一八~三六時間で排泄するというあ
やしげな仮定をして、著しく被ばく線量を過小評価しているため、早期死者を三~
四倍低く見積つており(UCS)、また、プルトニウムのホツトパーテイクルとし
ての特殊性を無視している(UCS)。」と批判されている。これをすなおに受け
取ると、八幡浜市に向かつて放射能煙霧が運ばれた場合は、一万五〇〇〇~二万人
の早期死者が出ることになる。
晩発性障害の場合はさらに過小評価はひどい。そのために次のような訂正が必要で
あると提案されている。
「(1)ガン‥ガン発生数一〇〇件/百万人レムという値はBEIR委員会の報告
から採用したことになつているが、これはUCSによると1/2の過小評価とな
る。これに対しAPSでは一三〇件/百万人レムを採用している。これに更に地面
からの被ばく時間一日という制限を除くと驚くほどガン発生数が増え、もとの三一
〇人から一挙に一万人となる。また、『草案』(ラスムツセン報告)では肺被ばく
による肺ガン発生を無視しているが、APSの評価によると(二〇~五〇件/百万
肺レムを採用すれば)、六〇〇~一六〇〇人のガン発生が追加されることになる。
更に、プルトニウムの線量換算係数を、ホツトパーテイクルの特殊性を考慮して一
〇~一〇〇倍大きく見積もればこの肺ガン発生数は一〇倍近くまで増加する可能性
がある(UCS)。その上『草案』で考慮されていない甲状腺ガンを考慮すると新
たに五〇〇~四〇〇〇人のガン発生が追加されることになる(APS)。
(2) 甲状腺瘤‥UCSによれば子供に対する飽和線量は一〇〇〇ラドを用いる
べきであるのに、『草案』では三〇〇〇レムを用いることにより、発病数を1/4
に過小評価している。
APSではこれに対して不確定要素をそのまま表現して発病数二万二五〇〇~三〇
万件としている。
(3) 遺伝的障害‥UCSによれば『草案』の用いている一〇〇遺伝障害/百万
人レムは不当で、これは二倍にすべきであると言われている。APSでは百万人
(全身)レム当り五世代にわたる障害が二五~二五〇、一代限りのもの一二・五、
一〇世代にわたるもの〇~五〇〇、流産四二を考慮し、更に、右に述べた地面から
の被ばく時間延長により、遺伝的障害数を『草案』より三〇〇〇~二万件多くはじ
き出している。」
提案されているこれらの訂正率を仮定すると、放射能煙霧が松山市に向かつた場合
のガン及び遺伝障害発生数各五七六件という数値は、一挙に増加して、
ガン発生数一万九〇〇〇件
肺ガン(追加)一万一〇〇〇~三万件
甲状腺ガン(追加)九〇〇~七四〇〇件
甲状腺瘤四万二〇〇〇~五五万七〇〇〇件
遺伝障害五六〇〇~三万七〇〇〇件
というすさまじい数字になるのである。放射線被ばくを受けた人たちは、急性発病
を免れても、事故以後死ぬまでガンと遺伝障害の恐怖にさいなまれる運命を負わさ
れるのである。
以上は人的な面に限つた場合の被害状況である。当然のことながら物的被害の面で
もばく大な量になることが想像される。これらを定量化するのは、種々困難な要素
があるためここでは示さないで、被害の内容を分類するに留める。地面汚染濃度が
一〇〇マイクロキユリー/平方メートルの住民は退避しなければならないと仮定す
ると、退避すべき距離は原子炉から実に二五〇キロメートルにも達する。面積に直
すと四一四五平方メートルになり、平均人口密度を一平方キロメートルあたり一〇
〇人とすれば、退避しなければならない人の総数は四〇万人以上にも及ぶ。
以上の点を考慮して物的損害の内容を分類すると次のようになる。
(1) 退避した人の失職の問題
(2) 退避した人の住居の問題
(3) 汚染地区にあつたすべての農産物、畜産物、海産物は廃棄せねばならな
い。
(4) 長期間にわたる土地使用不能。土地汚染は放射能自身の放射崩壊によるほ
か、雨などに流い流されて、汚染の軽いところでは数年で使用可能にはなるが、汚
染がなくなつたと言つても、ここでとれる農産物、畜産物は商品価値をもたない、
つまり売れない。
(5) 瀬戸内海汚染は広域、長期間にわたる。
瀬戸内海の水は停滞しており三〇年でも全部入れ替らないと言われていることを考
えると、非常な長期間にわたつて、瀬戸内海全域、及びこれに接する外海における
漁業は全滅する。その上、瀬戸内海に面する工場の取水不能、船舶の航行不能など
を考えると損害は測り知れない。
(六) 本件安全審査における災害評価との比較
前項で示してきたように、原告らが、本件安全審査において最低限なされるべきで
あつたと主張している想定事故が、まさに破滅的な災害を、原告ら周辺住民にもた
らすことは明らかである。そのことは、被告が認めた、本件安全審査における災害
評価と比較するとき、更に際立つたものとなる。
本件安全審査では、放射性ヨー素の吸入による甲状腺被ばくと、放出放射能からの
ガンマ線による全身照射とが災害評価の対象とされている。これらの二つの被ばく
線量値を、原告らが提示している想定事故について求めると、本件原子炉から一キ
ロメートルの地点で、甲状腺被ばく線量は約二百万レム、全身被ばく線量は、流れ
出した放射性雲からの照射だけで約一〇〇〇レム、体内にとりこまれた放射能によ
る照射も含めた被ばく線量では、約二万レムにも達する。
これにくらべて、本件安全審査が認められた災害評価では、前述のとおり甲状腺に
対する被ばく線量は、「重大事故」で、一・九レム(小児)、「仮想事故」でも三
八レム(成人)にすぎない。また、全身被ばく線量は、「重大事故」に対して〇・
一一レム、「仮想事故」でも〇・三レムにすぎないのである。これらの値は、原告
らが、最低限なされるべきであると考えている災害評価とくらべると、文字通り桁
違いに低く、一〇〇万分の一~一〇万分の一にすぎない。この差のひどさもさるこ
とながら、同じ伊予宇和島地震を、被告は、その震源距離な三三キロメートルと推
定し、一方、原告らは、それないし、それと等価な距離として、一七~一四キロメ
ートルを推定することによつて、まさに、「絶対安全」 の“天国”と、破滅的な
“地獄”とにわかれることの意味することは重大である。“地震の巣”と目されて
いる本件原子炉の敷地にあつては、地震発生の態様の推定における現在の不確かさ
が、かくもすさまじい差をもたらしたのである。このことは、被告が、本件災害評
価の際に持ち込んだ恣意的な操作の重大さを示すとともに、かかる事態を防ぐため
にこそ、原告らが「原則的立地条件」を重視することを主張し、そうすることによ
つて、本件伊方発電所の設置の不当性も容易に判断できたであろうと主張してきた
ことの正しさを鮮明に描き出しているのである。
(被告の答弁及び主張)
第三章 本件許可処分の内容の適法性(その一)
第二 平常運転時の安全性
一 本件原子力発電所の平常運転時における放射性物質の放出管理における安全性
の確保
(三) 周辺公衆に対する被ばく線量の評価
(1) 気体廃棄物による被ばく線量
本件原子炉の場合、気体廃棄物による周辺監視区域外における最大全身被ばく線量
は、以下に詳述するように、前記気体廃棄物中に含まれる放射性物質の総排出量年
間約二万六〇〇キユリーを前提とした上、「気象手引」に基づいて、現地における
一年間の気象観測データ等から求めた風速、大気安定度及び風向出現ひん度、放出
高さ、放出ひん度等を考慮して計算した結果、年間約〇・〇〇〇六レムと評価し
た。
右評価値は、前記許容被ばく線量等を定める件に定める許容被ばく線量年間〇・五
レムをはるかに下回ることはもちろんのこと、昭和五〇年五月一三日に原子力委員
会が決定した「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」に定める
線量目標値年間〇・〇〇五レムをも大幅に下回るものであるとともに、右評価値
は、自然放射線の変動幅にも完全に埋没する程度の極めて微量な線量であつて、十
分安全である。
しかも、我が国のこれまでの加圧水型原子炉における気体廃棄物の放出実績からみ
ると、本件原子炉の平常運転に伴つて実際に放出されるであろう放射性物質による
被ばく線量は、右評価値よりも更に低いものとなることが確実である。
ア 被ばく評価において考慮した放射性物質
本件原子炉から放出することとなる放射性物質には、放射性希ガス(以下「希ガ
ス」という。)、放射性ヨー素(以下「ヨー素」という。)及び塵埃状の放射性物
質(以下「粒子状放射性物質」という。)があるが、これらの放射性物質のうち
で、放出量が最も多く、かつ、全身被ばく線量に最も寄与するものは希ガスであつ
て、この希ガスの放出量に比べれば、ヨー素及び粒子状放射性物質の各放出量はい
ずれも無視できる程度に少なく(ヨー素については希ガスの約一万分の一、粒子状
放射性物質についてはそれ以上に少ない。)、かつ、全身被ばく線量への寄与も十
分小さいので、気体廃棄物による被ばく線量の評価は、右希ガスに着目してこれを
行つた。
イ 放出源及び放出放射能量
右希ガスの放出源としては、前記(二)の(2)において述べたように、ガス減衰
タンクからの排気並びに格納容器及び補助建家における換気に伴う排気がある(な
お、ガス減衰タンクからの排気及び格納容器からの排気は間けつ的に、また、補助
建家からの排気は連続的に行われる。)。
これらの放出源から放出される希ガスの量は、燃料被覆管にピンホール程度の損傷
が年平均一パーセント生じた状態で運転を継続するという厳しい条件を仮定(本件
原子炉における燃料被覆管の破損率は、近年の同型先行炉の実績からみて、実際は
年平均〇・一パーセント以下になる)して評価した結果、ガス減衰タンクからの排
気によるもの年間約九二四〇キユリー、格納容器からの換気によるもの年間約三一
〇〇キユリー、補助建家からの換気によるもの年間約八二二〇キユリー、合計年間
約二万六〇〇キユリーと評価された。
ウ 放出方法等
(ア) ガス減衰タンクからの排気
ガス減衰タンクからの気体廃棄物の放出は、右気体廃棄物をガス減衰タンクに三〇
日間貯留して放射能を十分減衰させた後、一五日以内に風向が海側であつて、か
つ、風速が毎秒五メートル以上ある時を選んで行うこととしている。しかしなが
ら、右気象条件が悪く一五日以内に海側に放出することができない場合には、一五
日間貯留後、すなわち四五日減衰後海側、陸側を問わず放出することとしている。
しかしながら、被ばく評価に当たつては、安全側に立つて、四五日減衰後の気体廃
棄物は、すべて陸側に放出されるものとするだけでなく、前述のように((二)の
(2)のイ)、ガス減衰タンクに貯留された各種タンクのカバーガスは原則として
再使用されるにもかかわらず、これを考慮しないこととして、すべて放出されるも
のと仮定したのである。また、放出回数は、ガス減衰タンクに導かれるガスの量や
ガス減衰タンクの運用方法を考慮して年間二〇回とした。
(イ) 格納容器の換気に伴う排気
格納容器から放出される排気には、保修作業や燃料取替作業に先立つて行われる換
気によるものと格納容器の減圧操作に伴うものとがある。被ばく評価に当たつて
は、格納容器からの放出回数は、右作業及び減圧操作の回数を十分考慮した上、年
間一〇回(うち三回は減圧操作による)とするとともに、放出に当たつては、原則
として海側に放出することとしているが、安全側に立つて、海側、陸側を問わず無
差別に放出するものと仮定した。
(ウ) 補助建家の換気に伴う排気
補助建家内の空気には、補助建家内のポンプ、バルブ等からの漏洩水からの放射性
物質が含まれているため、常時換気を行うこととしているので、被ばく評価に当た
つては、安全側に立つて、補助建家内のポンプ、バルブ等からの漏洩水はすべて放
射性物質の濃度の高い一次冷却水とみなし、時間による放射能の減衰効果について
もこれを無視することとしている。
エ 気体廃棄物の拡散及び希釈
本件原子炉から環境へ放出されることとなる気体廃棄物の拡散及び希釈について
は、その放出高さや現地における気象観測データ等から求めた風速、大気安定度を
基に、パスキルの拡散式を用いて評価した。
なお、右パスキルの拡散式は、多くの実験結果を参考に作られたものであつて、我
が国の茨城県東海地区における実験結果からもその妥当性が実証されている。そし
て、右拡散式は、原則として、周囲が平垣地の場合に適用される式であるが、周囲
が平垣地でない場合であつても、適切な補正を行えばこれを適用することができる
ので、本件原子炉における被ばく評価に当たつては、次に述べるような風洞実験を
行い、その結果に基づき、気体廃棄物の放出高さについての適切な補正を行つてい
る。すなわち、本件原子炉施設を中心とする直径二・八メートルの地形を模擬した
模型を作つて風洞実験を行つた結果、本件原子炉から放出される気体廃棄物の敷地
境界における濃度をパスキルの拡散式によつて求めるためには、右拡散式に用いる
放出高さを実際の放出高さの〇・六倍にすればよく、かつ、敷地境界以遠でもこの
放出高さを用いれば被ばく評価として安全側であるということが判明したため、本
件原子炉の被ばく評価に当たつては、放出高さを、排気筒の高さ約七〇メートルに
約一〇メートルの吹き上げ高さを加えた約八〇メートルを右〇・六倍した四七メー
トルとしている。
(2) 液体廃棄物による被ばく線量
本件原子炉の場合、液体廃棄物による周辺公衆の全身被ばく線量は、前記液体廃棄
物中に含まれる放射性物質の総排出量を、トリチウム以外のもの年間一キユリー及
びトリチウム年間五〇〇キユリーとし、放水口近傍海域の魚を二〇〇グラム、海藻
を一〇グラム及び無せきつい動物を二〇グラムずつ毎日摂取するとの前提を置いた
上、これら海産物が高い濃縮係数をもつて放射性物質を蓄積しているものと計算し
た結果、年間約〇・〇〇〇〇一レムと評価された。
右評価値は、前記許容被ばく線量年間〇・五レムをはるかに下回ることはもちろん
のこと、前記線量目標値年間〇・〇〇五レムをも大幅に下回るものであり、十分安
全である。
しかも、我が国のこれまでの軽水型原子炉における液体廃棄物の放出実績からみる
と、本件原子炉の平常運転に伴つて実際に放出されるであろう放射性物質による被
ばく線量は、右評価値よりも更に低いものとなることが確実である。
ア 放出源及び放出放射能量
本件原子炉において発生する液体廃棄物のうち、外部に放出されるものは、前述し
たように、ごく一部の廃液と洗濯排水にすぎず、しかも、右廃液等は、いずれも一
たんそれぞれのタンクに導いた後、放射能測定装置によつて、放射性物質の濃度が
十分低いことを確認した上、放射線モニタによつて監視しながら排出するため、そ
の年間排出量は、十分安全側に見積もつても、トリチウム以外のもの年間一キユリ
ー、トリチウム年間五〇〇キユリーを超えることはないと評価された。
イ 放出方法
右外部に放出される液体廃棄物は、いずれも復水器冷却用海水に混合希釈した後、
放水口から発電所前面海域に放出される。
ウ 海産物摂取量と放射性物質の濃縮
(ア) 一般住民の毎日の海産物の摂取量は、東海村の漁業従事者の一日当たりの
摂取量を基に、財団法人原子力安全研究協会の海洋放出特別委員会において検討さ
れた摂取量を参考とし、魚二〇〇グラム、海藻一〇グラム及び無せきつい動物(イ
カ、タコ、エビ、ウニ等)二〇グラムと仮定している。
(イ) 一般住民が摂取する右の魚等の海産物については、魚等がいずれも一年中
放射性物質濃度の高い放水口近傍に棲息し続けているものと仮定するとともに、右
海産物には、放射性物質が世界各国のデータを参考として設定した高い濃縮係数を
もつて濃縮されているものと仮定している。
第四章 本件許可処分の内容の適法性(その二)││本件原子炉の構造の安全性
第三 蒸気発生器細管の健全性について
一 本件原子炉において使用される蒸気発生器細管の健全性に対する配慮
(二) 本件原子炉において使用される蒸気発生器の機能とその構造(別紙12参
照)
(1) 蒸気発生器の機能
本件原子炉は加圧水型であつて、原子炉容器において核分裂反応によつて加熱され
た一次冷却水は、蒸気発生器に送られ、蒸気発生器細管を介して二次冷却水に熱を
伝達した後、一次冷却材ポンプで再び原子炉容器に戻る閉回路を循環しており、二
次冷却水とは完全に分離されている。右閉回路(一次冷却材圧力バウンダリ)の一
部を構成している蒸気発生器は、一次冷却系から二次冷却系へ核分裂によつて生じ
た熱を伝達し、二次冷却水を蒸気に変える役割を果すとともに一次冷却系と二次冷
却系とを分離することにより一次冷却水中に混入している放射性物質が二次冷却系
まで拡がるのを防ぐ役割を果している。
(2) 蒸気発生器の構造
本件原子炉において使用される蒸気発生器二器は、いずれもアメリカのウエスチン
グハウス社型のものであつて、たて置U字管式熱交換器型と呼ばれ、上部の直径約
四・四メートル、下部の直径約三・四メートル、高さ約二一メートルの円筒形鋼製
容器の内部にインコネル製の細管(外径約二・二センチメートル)約三四〇〇本を
逆U字形に納めたものである。
U字形の細管の両端は、厚さ約五五センチメートルの管板に取りつけられ、それぞ
れ、管板の下部に設けられている高温側氷室と低温側氷室とに開口している。細管
上部の曲管部には、一辺長約一センチメートルの四角形断面をもつインコネル製の
角棒で作られた振止め金具が組み込まれ、また、垂直に配置された直管部には、水
平な支持板(バツフルプレート)七段があつて、細管を定位置に支持している。
原子炉容器を出た一次冷却水は、蒸気発生器下部の高温側氷室に入り、U字形細管
の中を上昇・下降して低温側氷室に出、一次冷却材ポンプにより原子炉容器に戻さ
れる。
二 次冷却水は、細管の上端付近の高さの位置する給水ノズルから給水され、外部
胴と内部胴との間の円環状水路を下降した後、方向を中心向きに転じ、細管群の間
を上昇しながら、一次冷却水からの熱によつて加熱され、その一部は蒸気となる。
上昇した蒸気と水との混合物は、セパレータに入り、
渦巻型水切り羽根によつて蒸気と水とに分離される。高温水は円環状水路に戻り、
給水とともに下方に流れる。一方、蒸気はドライヤを通過して更に湿分を除かれた
後、主蒸気管を経てタービンへ送り出される。
蒸気発生器胴部の上下及び各氷室にはマンホール又はハンドホールが設けてあり、
内部機構の点検保守、細管の検査等が行えるようになつている。また、管坂上には
ブロダウン管があり、二次冷却水の水質管理上の必要に応じて、二次冷却水の一部
を抜き出すことができるようになつている。
第四 原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性
一 本件原子炉において使用される原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性
(一) 機能とその構造
(1) 機能
原子炉圧力容器は、蒸気発生器、一次冷却材ポンプ及びこれらを連絡する一次冷却
系配管とともに、一次冷却水が循環する閉回路を構成している。そして、この閉回
路を、通常一次冷却材圧力バウンダリと呼んでおり、炉心部において燃料から熱エ
ネルギーを受け取り蒸気発生器において熱エネルギーを二次系へ伝達する一次冷却
水を強制的に循環させることをその本来の機能としているが、同時に、一次冷却系
の圧力条件を維持するとともに、一次冷却水中に現われた放射性物質を右閉回路内
に閉じ込める機能をも有している。
(2) 構造
本件原子炉の原子炉圧力容器は、全高約一一・五メートル、胴内径約三・三メート
ル、肉厚約〇・一七~〇・二四メートルの上、底部が半円球の縦置円筒形の炭素鋼
製容器であつて、上部には上ぶたを有し、内部には炉心等を保持する炉心槽が、ま
た、上ぶたには制御棒クラスタ駆動装置が取り付けられている。そして、容器胴の
上部に一次冷却材出入口ノズルが設けられ、入口ノズルから入つた一次冷却水は、
容器胴と炉心槽間を下降し、容器底部において上向きの流れとなり、炉心槽内炉心
部の燃料棒を冷却した後出口ノズルから蒸発発生器へ送られる。
また、一次冷却系配管は内径約七〇〇~七八七ミリメートル、肉厚約六五~七三ミ
リメートルのステンレス鋼製の配管であつて、原子炉圧力容器の右出入口ノズルと
蒸気発生器、一次冷却材ポンプ及びこれらの機器を連絡し、一次冷却水の通路を構
成している。
なお、一次冷却系配管と各機器との接合部は漏洩のない溶接構造となつている。
第五 本件原子炉における安全防護設備
一 安全性確保に対する配慮と事故対策
4 四つの安全防護設備
(二) ECCS
(2) ECCSの構造
ア 構造
本件原子炉において使用されるECCSは、蓄圧注入系二糸統、高圧注入系二系統
及び低圧注入系二系統から構成されており、一次冷却水の漏洩の程度に応じ冷却水
を一次冷却系に注入するとともに、炉心における長期間にわたる崩壊熱(放射性物
質が崩壊することにより生ずる熱)の発生を考慮して、長期間にわたり冷却水を注
入し続けることが可能な構造となつている。
すなわち、蓄圧注入系は、蓄圧タンク(容量約五七立方メートル)内に加圧したボ
ロン溶液を保持しており、一次冷却水の流出によつて一次冷却材圧力バウンダリの
圧力が右タンクの圧力より低下した場合に、自動的に逆止弁が開き、一次冷却系配
管の低温側へ注水を開始する。高圧注入系及び低圧注入系は、いずれも格納容器内
の圧力の増加又は原子炉内の圧力の低下と加圧器の水位の低下との信号によつて、
自動的に作動を開始し、一次冷却材圧力バウンダリ内の圧力に応じて、燃料取替用
水タンク(容量約一二〇〇立方メートル)の水を原子炉容器及び一次冷却系配管の
低温側へ注入する。更に、燃料取替用水タンクの水が残り少なくなると、今度は格
納容器の底部に溜つた水を冷却器で冷却して再び原子炉圧力容器及び一次冷却系配
管へ注入する再循環冷却に移行し、長期間にわたる炉心冷却を継続する。
第五章 本件許可処分の内容の適法性(その三)――立地の適法性
第二 立地の適合性と耐震設計
三 地震及び耐震設計
四 本件原子炉における耐震設計
本件原子炉については、地震時においてもその安全性を確保するため、前記耐震設
計上考慮すべき地震によつても、その施設が破損されて、公衆に放射線障害を及ぼ
すことが絶対にないよう、以下に詳述するように、原子炉特有の慎重かつ厳しい設
計方針が採られている。
(1) 岩盤設置並びに剛構造
本件原子炉は、地震時における安全性を考慮して、その主要施設を剛構造とした
上、地質や地盤の調査等に基づき確認された堅硬な岩盤に直接設置される。
すなわち、本件原子炉については、地盤の破壊や不等沈下を避けるとともに、地震
動がより明確な形で施設に伝わるように、その施設全体が堅硬な岩盤に直接設置さ
れる。また、その施設や施設中の機器、
配管等の歪等をできる限り押さえるために、その主要施設は剛構造となつている。
(2) 原子炉施設の重要度に応じた耐震設計
本件原子炉については、以下に詳述するように、その設計を安全上の重要度に応
じ、A、B及びCのクラスに分類し、各クラスに応じた耐震設計が採用されてい
る。
ア Aクラス
(ア) 本件原子炉施設のうち、Aクラスに分類されるものは、原子炉格納施設、
原子炉緊急停止装置等、その施設の機能喪失が原子炉事故をひき起こす可能性のあ
る施設や周辺公衆への放射線障害を防止するために緊要な施設がこれに該当する。
(イ) Aクラスに分類された施設については、建築基準法によつて定められてい
る水平震度を三倍した上、鉛直震度をも同時に考慮して静的解析を行い、更に敷地
で起こるものと考えるべき最大の地震動を基に設定した設計地震動を用いた動的解
析を行い、右静的解析及び動的解析からそれぞれ求められたいずれの地震力に対し
ても十分余裕のある耐震設計が講じられている。
イ Bクラス
(ア) 本件原子炉施設のうち、Bクラスに分類されるものは、原子炉補助建家、
化学体積制御系、廃棄物処理系等高放射性物質に係る施設のうち、右Aクラス以外
の施設がこれに該当する。
(イ) Bクラスに分類された施設については、建築基準法によつて定められてい
る水平震度の一・五倍の水平震度に対して、十分余裕のある耐震設計が講じられて
いるとともに、右Bクラスの施設のうち、支持構造物の振動と共振するおそれのあ
る機器・配管類については、動的解析から求められる地震力も考慮している。
ウ Cクラス
(ア) 本件原子炉施設のうち、Cクラスに分類されるものは、耐震設計上一般の
建物や機器と同じように取り扱うことができるタービン建家、タービン、発電機
等、右Aクラス及びBクラス以外の施設がこれに該当する。
(イ) Cクラスに分類された施設については、建築基準法によつて定められてい
る水平震度を用いる静的解析から求められた地震力に対して十分余裕のある耐震設
計が講じられている。
エ 更に、右重要度に応じ分類された施設相互の間では、下位の分類に属する施設
の破損によつて上位の分類に属する施設に波及的事故が起こらないことを確かめて
いる。
(3) 具体的な地震力の決定
本件原子炉の各施設に加わると予想される地震力は、以下述べるような手法によつ
て、これを求めた。
ア 静的解析
静的解析とは、原子炉施設の設計においては、建築基準法に定められた地震力の算
定方法にならつて、地震力を一律に決めるものである。すなわち、建築基準法施行
令八八条及び建設省告示一〇七四号によれば、水平方向の地震力については、基準
震度を〇・二(約二〇〇ガルに相当する。)とし、それに高さ方向の割り増しを加
えて求めることとされているが、地盤の種別と構造種別による低減系数(岩盤の上
に鉄筋コンクリートの建物を設置する場合には、右地震力に〇・八を乗ずる。)を
考慮することとされている。
例えば、本件原子炉のAクラスの施設については、右の方法によつて算出された
〇・一六を三倍した〇・四八を基礎底面の震度とし高さ方向の割り増しを行つて水
平方向の地震力を求めた上、右基礎底面での震度の二分の一を鉛直方向に同時に作
用する地震力として与え、全体としての地震力を定めたものである。
イ 動的解析
動的解析とは、構造物及びそれを構成する物は、すべてその形状、構造、材料、地
盤の状況等により固有の振動特性をもつており、地震動を受けるとその振動特性に
見合つた応答を示すことにかんがみ、構造物の固有の振動特性を求め、設計応答曲
線を用い、構造物等に作用する地震力を求めるものである。
すなわち、まず、いろいろな固有の振動周期をもつ振動モデルが、敷地で考慮すべ
き設計地震波(最大加速度のほか波形及び継続時間で表わされる。)を受けた場合
に、どのように応答するかを同モデルの固有の振動周期を横軸にとり、同モデルが
設計地震波を受けた場合の最大の応答加速度を縦軸にプロツトして表わす。そし
て、これを基に設計上の余裕等を配慮した滑らかな曲線で表わした設計応答曲線を
作成する。次に、実際の構造物等を模擬した振動モデルを作成し、数値解析により
構造物の固有の振動特性を求め、右振動特性に設計応答曲線をあてはめて構造物等
の各部に作用する地震力を求めるものである。
本件原子炉の各施設の動的解析に当たつては、右動的解析に用いる設計地震波の設
定及び設計応答曲線の作成に際し十分な余裕を与えることによつて、敷地周辺で起
こり得るものと考えるべき地震による最大の地震動に対し一層余裕をもたせること
としている。
(ア) 設計地震波の最大加速度における余裕
本件原子炉の敷地周辺において考慮すべき地震は、前述のタイプA及びタイプBの
地震であるが、設計地震波の最大加速度については、タイプAの地震に関しては二
〇〇ガル、タイプBの地震に関しては八〇ガルとそれぞれ十分な余裕をもつて設定
した。
すなわち、タイプAの地震に関しては、過去の地震で本件原子炉の敷地基盤に対し
最も大きな地震動を及ぼしたものの最大加速度は、最も大きく算出しても、一六五
ガルであるが、設計地震動の設定に際して用いる最大加速度の決定に当たつては、
右一六五ガルに対して十分余裕をもたせて、これを二〇〇ガルと決定したものであ
る。
なお、右の最大加速度二〇〇ガルというのは、将来本件原子炉敷地周辺で起こり得
るものと考えるべきタイプAの地震の最大規模をマグニチユード七、また震源の深
さを三〇キロメートルと仮定し、これに発生機構等を考慮して震央距離を極端に〇
キロメートルとした場合における敷地基盤の最大加速度である一八六ガルをも上回
るものである。
同様に、タイプBの地震に関しては、過去の地震で敷地基盤に対し最も大きな地震
動を及ぼしたものの最大加速度は四五ガルであるが、将来本件原子炉敷地周辺で起
こり得るものと考えるべきタイプBの地震による設計地震波の最大加速度として
は、右四五ガルに対して十分余裕をもたせて、これを八〇ガルと定めたものであ
る。
(イ) 設計応答曲線の作成に当たつての余裕
本件原子炉における主要施設の耐震設計に用いる設計応答曲線の作成に当たつて
は、前述のタイプA及びタイプBの地震の特性をもち、かつ前述のように十分余裕
のある最大加速度をもつ数種の設計地震波を受けた場合の応答を求め、それらを包
絡するような設計応答曲線を作成している。
したがつて、本件原子炉の主要施設については、その耐震設計を行うに際し右の設
計応答曲線を使用しているので、敷地周辺において起こり得るものと考えるべきい
かなる地震に対しても十分余裕のあるものとなつている。
(4) 設計余裕の確認
本件原子炉については、その主要施設に常時加わつている力に前記地震力が加えら
れた場合にも、右施設の応力や歪がその弾性の範囲内に止まるように配慮すること
により、外力に多少の変動があつても施設に損傷が生ずることのないよう、また、
地震力を受けた後には元の状態に復することができるよう設計されている。
すなわち、本件原子炉の各施設については、施設に常時作用している自重及び原子
炉の過渡状態も含め、運転時に加わる内圧等のほか、施設の重要度に応じてそれぞ
れ求められた地震力を加えた場合にも、それによつて生ずる応力又は変形がそれぞ
れの施設について定められた許容の範囲内に収まることを確認することにより、施
設の耐震安全性が十分確保されることとなつている。
その上、安全上特に重要な原子炉格納容器及び原子炉非常停止装置については施設
に常時作用している自重及び原子炉の過渡状態も含め、運転中に加わる圧力等のほ
か、前述の動的解析によつて求められた地震力の値の一・五倍に相当する地震力が
加わつたとしても、右施設に課せられている機能が十分保持されるものであること
を確認することによつて、設計余裕が確保されることとなつている。
第四 想定事故について
三万一の事故に備えての立地条件
2 重大事故を想定した災害評価
重大事故を想定した災書評価は、本件原子炉の立地条件が前記1の(一)の第一の
立地条件に適合しているかどうかを審査するものである。
すなわち、本件原子炉の立地条件が、想定に係る重大事故の場合に、そこに人がい
続けるならばその人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される範囲が原則と
して公衆が居住しない「非居住区域」となつているかどうかを確認するものであ
る。
加圧水型原子炉である本件原子炉については、重大事故として、次の二つの事故を
想定した。
(一) 一次冷却材喪失事故
(1) 事故の想定
一 次冷却材喪失事故とは、原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する一次冷却系配
管等の損傷によつて一次冷却水が喪失する事故(その結果、炉心における冷却機能
が低下し、それによつて燃料に損傷が生じた場合には、炉心の放射性物質が一次冷
却水とともに格納容器内に放出されることとなる。)をいうが、重大事故として想
定している一次冷却材喪失事故は、右一次冷却系配管のうち最大の内径約七〇セン
チメートル、肉厚約七センチメートルのステンレス鋼製配管の瞬時のギロチン破断
が、外部電源の喪失によりECCSの作動が遅れ、かつ、ECCSの一部が作動し
ないという悪条件のもとに、発生するとするものである。
右のような事態においても、ECCS全体としては所要の冷却効果が発揮されるた
め、被覆管に損傷は生じても、その健全性が大きく損われることはないのである
が、重大事故としての災害評価に当たつては、右損傷が全部の被覆管に生じるもの
とし、炉心に内蔵されている放射性物質のうち、希ガス二パーセント、ヨー素一パ
ーセント、固体状放射性物質〇・〇二パーセントが格納容器内へ放出されるものと
して解析を行うのである。
(2) 放射性物質の外部への放出過程とその放出量
ア 右事故想定によつて格納容器内に放出されるとする放射性物質は、一たん、極
めて堅牢かつ気密性の高い鋼鉄製の右格納容器内に保持され、ここで半減期の短い
クリプトン八七(半減期約〇・〇五日)やヨー素一三二(同約〇・一日)等は短期
間の間に減衰するが、半減期の長いキセノン一三三(同約五・三日)、クリプトン
八五(同約一一年)、ヨー素一三一(同約八・一日)等は、ほとんど減衰しない。
そして、浮遊している放射性物質のうちヨー素の一部は格納容器スプレイによつて
洗い落とされるが、その他は電源用ケーブルや配管等の貫通部に通つて長時間にわ
たつてわずかずつアニユラス部に漏洩し、右アニユラス部に漏洩した放射性物質
は、非常用フイルターを通つた後、排気筒から外部へ放出されることとなる。
イ 本件原子炉の場合には、放射性物質の外部への放出量の計算に当たつて、格納
容器からアニユラス部への漏洩率やアニユラス部から外部へ放出される過程におけ
る非常用フイルターのヨー素除去率等について、以下に述べるような厳しい条件を
仮定している。
(ア) 格納容器内へ放出されるとする放射性物質のうち、ヨー素については、格
納容器スプレイによつて洗い落とされにくい有機ヨー素の存在割合を全ヨー素の一
〇パーセントと多目に見積もるとともに、右有機ヨー素に対しては、右スプレイ効
果を全く無視することとする。
(イ) 格納容器からの漏洩率については、事故時に予想される格納容器内の圧力
上昇等を考慮して、事故発生後二四時間は格納容器の設計漏洩率の三倍に当たる
〇・三パーセントを、その後三日間は一日当たり〇・一三五パーセントをそれぞれ
仮定した上、右漏洩の九七パーセントは配管等の貫通部があるアニユラス部へ、残
り三パーセントは格納容器ドーム部から直接大気へ漏洩するものと仮定することと
する。
なお、格納容器ドーム部からの漏洩については、そもそも気密構造の格納容器ドー
ム部から放射性物質が漏洩することはないのであるが評価を厳しくするために、ア
ニユラス部を通らず直接大気へ漏洩すると仮定したものであつて、本件原子炉の場
合には、先行同型炉である九州電力玄海原子力発電所一号炉と同じ値を使用してい
る。
(ウ) アニユラス部については、事故の発生が検知されると直ちにアニユラス部
の空気再循環フアンが起動し、アニユラス部の空気を非常用フイルターを通して排
気することによつてその圧力が大気圧より低く保たれることとなつているが、事故
直後はアニユラス部の内圧が大気圧以上となり、右経路以外からも外部へ漏れる可
能性も考えられるため、評価に当たつては、負圧達成時間(事故時において大気圧
よりも高くなつたアニユラス部の内圧を大気圧以下に低下させるために要する時
間)を、一〇分と厳しく仮定する(実際上の負圧達成時間は、二系統あるアニユラ
ス空気再循環設備の一系統しか働かず、かつ、アニユラス部の内圧上昇の原因とな
る格納容器からアニユラス部への熱伝達量を大きく見積もつて評価しても一〇分を
下回る。)とともに、この時間内は、格納容器からその設計漏洩率の三倍でアニユ
ラス部に漏洩してきた放射性物質がすべて非常用フイルターを通らずに外部へ出る
ものと仮定することとする。
(エ) 非常用フイルターについては、ヨー素に対し、その九五パーセント以上を
除去できるように設計されているが、これを厳しく九〇パーセントと仮定すること
とする(なお、西ドイツにおいては、この非常用フイルターのヨー素除去率を九
九・九パーセントとしている。)。
(オ) アニユラス部から外部への排気量については、放射性物質の放出量を大き
く見積もるため、負圧達成後も二〇分間は全量排気を継続するものとするととも
に、その後も負圧維持のために必要な量以上の排気量があるものと仮定することと
する。
ウ 本件原子炉において、前記重大事故に際し外部に放出されるとする放射性物質
の量は、右に述べたような極めて厳しい条件の下で評価した結果、ヨー素約二〇キ
ユリー及び希ガス約三二九〇キユリーとなる。
(3) 被ばく線量の評価
本件原子炉における前記重大事故に際しての被ばく線量は、右放出量を前提とした
上、更に、大気安定度や風速等について厳しい条件を設定して評価した結果、本件
原子炉から約七〇〇メートル離れた敷地境界における被ばく線量は、甲状腺(小
児)に対し約一・九レム、全身に対し約〇・一一レムをそれぞれ超えることはない
と評価されている。
(二) 蒸気発生器細管破損事故
(1) 事故の想定
蒸気発生器細管破損事故とは、蒸気発生器の細管(外径約二・二センチメートル、
インコネル製)の損傷によつて一次冷却水が二次系に流出する事故をいうが、重大
事故として想定している蒸気発生器細管破損事故は、蒸気発生器細管の一本が瞬時
にギロチン破断し、かつ外部電源が喪失し、このため復水器へ蒸気を逃がすことが
できなくなつて二次系の圧力が上昇する結果、二次系の大気放出弁又は安全弁が開
き、そこから蒸気が大気中へ放出されることとなるがその際蒸気発生器細管が破れ
たために一次冷却水に混入して一次系から二次系に移行した放射性物質が蒸気に混
入して大気中へ放出されると仮定するものである。
(2) 放射性物質の外部への放出過程とその放出量
ア 本件原子炉の場合には、放射性物質の外部への放出過程やその放出量などにつ
いて、以下に述べるような厳しい条件を仮定している。
(ア) 蒸気発生器細管破損事故時における一次冷却水中の放射性物質の量につい
ては、右事故が、燃料被覆管の破損率五パーセントの状態で原子炉を運転している
ときに発生したものとし、一次冷却水中には右破損率に対応した放射性物質が存在
しているものと仮定することとする(この五パーセントという値は、現在までの外
国をも含めた加圧水型原子炉の被覆管の破損率の実績をみても、そのような状態で
運転を継続していることはあり得ない程の高い値である。)。
(イ) 一次冷却水中の放射性物質の量については、蒸気発生器細管の破損によつ
て一次冷却水が二次系へ流出するに伴い、一次系の圧力が低下し、このため破損し
た燃料棒中にある放射性物質が新たに一次冷却水中に出てくることをも考慮した
上、一次系の圧力が二次系の圧力にまで低下するには事故後三〇分間かかるものと
するとともに、この間は一次冷却水中の放射性物質濃度は増加の一途をたどるもの
と仮定することとする。
(ウ) 一次系から一次冷却水に混入して二次系に流出する放射性物質の量につい
ては、一次冷却水が二次系に流出する量を、事故期間を通じて、全量の三〇パーセ
ントと仮定することとする。
イ 本件原子炉において前記重大事故に際し外部へ放出されるとする放射性物質の
量は、右に述べるような極めて厳しい条件の下で評価した結果、ヨー素約六一キユ
リー及び希ガス約一万九四〇〇キユリーとなる。
(3) 被ばく線量の評価
本件原子炉における前記重大事故に際しての被ばく線量は、右放出量を前提とした
上、更に、大気安定度や風速等について厳しい条件を設定して評価した結果、本件
原子炉から約七〇〇メートル離れた敷地境界における被ばく線量は甲状腺(小児)
に対し約三三レム、全身に対し約〇・一レムをそれぞれ超えることはないと評価さ
れている。
(三) 立地審査指針への適合性
本件原子炉は、右二つの重大事故のいずれの場合においても、敷地境界における被
ばく線量は、前記立地審査指針に定めるめやす線量、甲状腺(小児)一五〇レム及
び全身二五レムに比べて十分に小さく、立地審査指針に定める「非居住区域」であ
るべき範囲はその敷地内に含まれる。
したがつて、本件原子炉は、前記立地審査指針の条件を十分満足するものである。
3 仮想事故を想定した災害評価
仮想事故を想定した災害評価は、本件原子炉の立地条件が前記1の(一)の第二及
び第三の立地条件に適合しているかどうかを審査するものである。
すなわち、本件原子炉の立地条件が、想定に係る仮想事故の場合に、非居住区域の
外側の地帯が著しい放射線災害を与えないために適切な措置を講じ得る環境にある
「低人口地帯」になつているかどうか及び全身被ばく線量の積算値が国民遺伝線量
の見地から十分受け入られる程度に小さい値になるよう人口密集地帯から離れてい
るかどうかをそれぞれ確認するものである。
本件原子炉については、仮想事故として、次の二つの事故を想定した。
(一) 一次冷却材喪失事故
(1) 事故の想定
仮想事故は、前記重大事故と同じ事故について、ECCSによる炉心の冷却効果を
無視し炉心内の全燃料が溶融したと仮定した場合に放出される放射性物質の量に相
当する量が格納容器内に放出されるとするものである。すなわち、炉心に内蔵され
ている放射性物質のうち、希ガス一〇〇パーセント、ヨー素五〇パーセント、固体
状放射性物質一パーセントが格納容器内に放出されるものと仮定するものである。
(2) 放射性物質の外部への放出過程とその放出量
本件原子炉において前記仮想事故に際し外部に放出されるとする放射性物質の量
は、放出過程やその放出量について前記重大事故と同様の極めて厳しい条件の下で
評価した結果、ヨー素約九九四キユリー、希ガス約一六万四五〇〇キユリーとな
る。
(3) 被ばく線量の評価
本件原子炉における前記仮想事故に際しての被ばく線量は、右放出量を前提とした
上、更に、大気安定度や風速等について厳しい条件を設定して評価した結果、本件
原子炉から約七〇〇メートル離れた敷地境界における被ばく線量は、甲状腺(成
人)に対し約二三レム、全身に対し約五・七レムをそれぞれ超えることはないと評
価され、また全身被ばく線量の積算値は、風速について一・五メートル、しかも風
が放出期間中常に最も人口密度の高い方向に吹いているという更に厳しい条件の下
で約六・七万人レムと評価されている。
(二) 蒸気発生器細管破損事故
(1) 事故の想定
仮想事故は、前記重大事故と同じ事故について、事故後の減圧過程で燃料棒から一
次冷却水中に徐々に現われる放射性物質が、事故直後に一度に全量現われるものと
し、更に、大気放出弁等からの漏洩が無限時間続くもめと仮定し、重大事故を上回
る放射性物質の放出を仮定するものである。
(2) 放射性物質の外部への放出過程とその放出量
本件原子炉において前記仮想事故に際し外部に放出されるとする放射性物質の量
は、その放出過程について前記重大事故と同様の極めて厳しい条件の下で評価した
結果、ヨー素約三六〇キユリー、希ガス約五万八二〇〇キユリーとなる。
(3) 被ばく線量の評価
本件原子炉における前記仮想事故に際しての被ばく線量は、右放出量を前提とした
上、更に、大気安定度や風速等について厳しい条件を設定して評価した結果、本件
原子炉から約七〇〇メートル離れた敷地境界における被ばく線量は、甲状腺(成
人)に対し約三八レム、全身に対し約〇・三レムをそれぞれ超えることはないと評
価され、また、全身被ばく線量の積算値は一次冷却材喪失事故の場合と同じ厳しい
条件の下で約二万四〇〇〇人レムと評価されている。
(三) 立地審査指針への適合性
本件原子炉は、右二つの仮想事故のいずれの場合においても、敷地境界における被
ばく線量は、前記立地審査指針に定めるめやす線量、甲状腺(成人)三〇〇レム及
び全身二五レムに比べて十分小さく、立地審査指針で定める「低人口地帯」である
べき範囲は敷地内に含まれ、また、全身被ばく線量の積算値も立地審査指針に定め
るめやす線量値である二〇〇万人レムに比べて十分小さい。
したがつて、本件原子炉は、前記立地審査指針の条件を十分満足するものである。
(被告の主張に対する原告らの答弁及び反論)
第七 必ず起こる破滅的な大事故
二 本件原子炉がその事故によつて、周辺住民に災害を与えることはない、との被
告の主張の誤りと不当性
(二) 信頼性のない本件「多重防護」
被告が、本件伊方発電所の安全性を保障するものとしてあげた、四項目の多重防護
策の各々について、それらが信頼性を欠いた、見かけ倒しのものであるかを以下に
示す。
(1) 「自然条件に対する配慮」の不当性
被告は、「本件原子炉の主要施設については、当該地域に関する過去の記録等をも
とに予測される最も苛酷な自然力に対しても耐え得るように所要の設計条件を設定
している」とし、本件原子炉の立地条件にとつて最も危険な要因と原告らが指摘し
ている地震の対策については、「本件原子炉建屋を堅硬な岩盤に直接支持させると
ともに、過去の地震等から当該敷地において考えられる最大の地震動を推定し、こ
れを上回る設計地震動を設定することによつて、原子炉施設が、右最大地震動に耐
え、安全を確保し得るよう十分余裕のある耐震設計がなされることとなつている」
と主張している。
まず何よりも指摘しなければならないことは、右のように主張することによつて、
本件原子炉についての、被告の「自然条件に対する配慮」に重大な欠落のあること
を隠ぺいしようとしていることである。すでに「立地選定の誤り」で明らかにした
ように、本件伊方発電所の敷地は、堅硬だが脆弱な岩質から成り、真近くを走る中
央構造線による破砕作用を強く受け、地すベりを起こし易い構造を持つた地盤であ
る。更に、本件敷地は地震の活動帯の中にあり、約五十年周期で発生しているマグ
ニチユード七以上の大地震を引き起こすだけのエネルギーを蓄えているが故に、地
震予知連絡会によつて「特定観測地域」に指定されている地域に属している。更に
また、巨大な活断層である中央構造線を震源とした、より大規模な地震の発生も予
想される危険地帯でもある。したがつて、本件敷地は、「原子炉立地審査指針」
が、その「一、基本的考え方、一-一原則的立地条件」の(1)項で規定した、つ
ぎの条件を欠き、本件原子炉の設置に不適当であることは明らかである。すなわ
ち、「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかつたことはもちろん
であるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するよう
な事象も少ないこと。
」。
原告らは、「原子炉からの大量の放射性毒物の流出を防ぎ、その安全性を支える最
終的保障は、原子炉格納容器・圧力容器及び各種配管類が破損しないということに
ある。そして地震・地すべり・断層等は、これら原子炉施設の大規模かつ同時的な
破壊をもたらす最も重要な原因であり、地震国の我が国では特に立地の最重要条件
である」との立場から、「本件処分の基礎になつた安全審査では、この指針さえも
無視した重大な誤りが存在する」と指摘した。
これに対し被告はつぎのように述べて、原告らの主張を否認した。「地震面からみ
た原子炉の立地条件の適否の判断は、予想される地震とこれに対する技術的工学的
対応度の総合的検討に基づいてなされるのである。すなわち、地震について過去の
地震歴等から予想される地震の規模、特性を推定し、また、地質調査等により設置
場所の地盤が堅固かどうか、地震に対して十分安定かどうかを把握し、これらの条
件を踏まえて、十分な耐震設計が技術的、工学的に可能か、また、現にこれがなさ
れるかを検討するのである。本件伊方発電所についてみると、敷地附近における地
震歴、敷地の地盤の特性等について詳細な調査、検討を行なつた上、予想される最
大地震にも耐え得るような十分な耐震設計が講ぜられることになつている」。すな
わち被告は、本件安全審査に当つては、「原則的立地条件」の要求をゆがめ、「予
想される地震とこれに対する技術的工学的対応度の総合的検討に基づいて」立地条
件の適否の判断をやればいい、との態度をとり、地盤・地震の危険地帯である本件
敷地への原子炉設置を許可したのである。
こうした被告のやり方は、「原子炉立地審査指針」が強調している「原則的立地条
件」の必要性を否定したものである。原則的立地条件には、「原子炉は、どこに設
置されるにしても、事故を起こさないように設計建設運転及び保守を行なわなけれ
ばならないことは当然のことではあるが、なお万一の事故に備え、公衆の安全を確
保するためには、原則的に次のような立地条件が必要である」と規定しているので
ある。この「原則的立地条件」には、技術的、工学的な面とまた別に、立地のこと
は立地のこととして考えねばならないということが定められているのである。
被告のいう「予想される地震」を正確に推定することの困難さ、及び、その地震に
対する「技術的工学的対応度」の評価の不確かさの故に、「総合的判断」ではなし
に、「原則的条件」が求められているのである。本件敷地については、「原則的立
地条件」の有無で判断すれば、その不適格性は明らかである。
しかるに被告は、「立地審査指針のうち、原告らが引用している「一-一原則的立
地条件」は、「一-二基本的目標」とともに、原子炉の設置に際しての基本的な考
え方を示したものであつて、具体的な判断の際に用いられるものではない。原子炉
の立地条件の適否を具体的に判断する際に用いられるのは「二立地審査の指針」な
のであり、右立地審査の指針に適合している場合には右の基本的考え方に沿つてい
るものと考えることができるのである。したがつて、右立地条件に適合しているか
否かを、立地審査指針の「一-一原則的立地条件」のみに着目して考えることは誤
りである」と、「原則的立地条件」を無用の長物化する詭弁をもてあそんで、自ら
の非を隠ぺいしようとしているのである。
本件原子炉敷地が、「原則的立地条件」を欠き、危険な原子力発電所の敷地として
不適当であることは、原子力推進の立場に立つ人たちでさえ、候補地にしかねてい
たというつぎの二つの事実によつても明らかである。その一つは、これまでに得ら
れている地質関係などのデータをもとに、通産省が昭和三八年から四二年にかけて
行なつてきていた原子力発電所用敷地の予備調査の対象にも、本件敷地は含まれて
いなかつたという事実である。四国では、<地名略>に先立つて、四国電力が原子
力発電所の候補地としていた、徳島県海部郡<地名略>と愛媛県北宇和郡<地名略
>とは、右調査の対象となり、すでに調査を終えていたのである。
他の事実は、右にのべた事実の反映であるが、伊方町の誘致によつて、本件敷地が
予定地として四国電力によつて買収された昭和四四年七月に、四国電力の当時のp
15副社長(現在社長)がつぎのような談話を発表していたということである。す
なわち、右談話は、「<地名略>は悪いが、地元の要望が強いため一応予備調査を
することにした。同地区はあくまで建設予定地の一つであり、同地区に建設を決め
たわけではない」という内容のものであり、当時四国電力も、本件敷地が、瀬戸内
海に面しており、地盤・地震等の立地条件も良くないとの認識を持つていて、それ
ほど乗り気でなかつたことを示している。
このような劣悪な条件の地点にもかかわらず、被告は、「原則的立地条件」につい
ての判断を欠落させたままで、「立地審査の指針」に適しているとの誤つた判断の
下に、本件敷地を適地として認めたのである。「原則的」な視点を欠いた判断が、
いかに誤つたものであるかは、すでに地盤・地震の項で詳述した通りである、。被
告が「自然条件に対する配慮」の内容として、得々としてあげている設計諸条件
は、全くご都合主義的な判断に基づいたものにすぎない。被告は、さきに引用した
ように「本件原子炉建家を堅硬な岩盤に直接支持させる」と主張しているが、当該
岩盤は、決して一様に堅硬なものではなく、多くの割れ目や断層を含んだ脆弱な特
性を示し、地すベりの危険性も多い構造を持つていることは、すでに述べた通りで
ある。また被告は、「過去の地震歴等から当該敷地において考えられる最大の地震
動を推定し、これを上回る設計地震動を設定する」と主張しているが、この前提も
きわめて恣意的である。被告が採用したデータでも、本件敷地からわずか一四キロ
メートルしか離れていない地点で、マグニチユード七程食の大地震が過去に発生し
ているという事実は明らかである。にもかかわらず、震源深さを三〇キロメートル
と恣意的に設定し、しかも、地震動を推測するに際しては多くの不確定さを含んだ
推定式を採用するなどの操作によつて、一六五ガルという値の「最大地震動」を推
定し、これを上回るものとして、二〇〇ガルの設計地震動を設定しているのであ
る。同じ地震のデータを用い、より合理的な推定を行なうことによつて、一六五ガ
ルではなく、四〇〇ガル以上の地震動が推定されるにもかかわらずである。更に、
被告は、本件原子炉敷地の真近くを通る大活断層、中央構造線が大地震の震源とな
ることについての評価を全く欠落させているのである。被告のいう「最大の地震
動」が、全くご都合主義的なものであることは明らかである。
更に、被告は、「原子炉施設が、右最大地震動に耐え安全を確保し得るよう十分な
余裕のある耐震設計がなされることとなつている」と主張しているが、右に述べた
ように、「最大地震動」の過小評価に基づいた設計でつくられる原子炉施設は、文
字通り砂上の桜閣と言うべきものである。更に、耐震設計なるものについても、被
告は、たとえば、二〇〇ガルの地震動に耐える耐震設計が施されていると主張する
だけであり、実際にその耐震設計によつてどの程度にまで、対象とする原子炉設備
や機器の性能を保証し得るのかについての、実証的なデータは存しないのである。
右に述べたように、被告のいう「自然条件に対する配慮」は、本件敷地の実態を無
視した全く見当ちがいの設置者本位のものであり、「周辺公衆の安全を確保できる
ような設計がなされることとなつている」との被告の主張を裏付けるものでないこ
とは明らかである。
(2) 「異常状態の発生防止のための配慮」の破たん
被告は、従来、「事故を発生させないための措置」などと述べていたにもかかわら
ず、後にはそれを、「異常状態の発生防止」と言い換えるなど、「事故」という言
葉を意識的に避けようと努力しているように見える。しかし、いくら表現を変えて
みても、現在の原子力発電技術のお粗末さを隠ぺいすることは不可能である。被告
は、「本件原子炉は、原子炉の運転に際し異常が発生することを防止するために、
次のような配慮がなされることとなつている」として、(一)安全余裕及び重複
性、(二)誤動作、誤操作等に対する防護、(三)試験可能性、(四)安全運転継
続のための自動調整、の四項目の対策で万全を期していると主張している。しか
し、そこに述べられていることは、現在すでに営業運転に入つている先行の軽水型
原子力発電所でとられている対策と同じことを繰り返しているに過ぎない。
先行原子力発電所においても、同種の、「異常状態の発生防止」のための対策がと
られていたにもかかわらず、その甲斐もなく、「異常」は多発し、長期にわたつて
運転を停止しなければならないという「事故」をもたらしていることは周知の事実
である。この種の事故は、アメリカ生れの軽水炉における二つの型、すなわち、加
圧水型及び沸騰水型の区別を問わず多発し、そのために、我が国の原子力発電所の
平均利用効率は、昭和四九年度には四八・二パーセント、さらに昭和五〇年度には
四一・九パーセントという、惨たんたる状態を呈している。
これらの事故は、長期にわたる原子力発電所の運転停止を余儀なくさせていること
に端的に示されているように、いずれも、原子炉の安全確保にとつて重要な部分で
発生しており、大事故の引き金としての性格を帯びた事故である。しかも、後続の
同型原子力発電所でも依然として同種の事故が繰り返されている事実に示されてい
るように、これらの事故の原因がいまだに解明されておらず、したがつて、その対
策もなし得ていないままに今後も引き続き事故の発生が予測されるという状況を呈
しているのである。
右に述べた現状は、被告が主張する事故防止のための「配慮」の根拠のなさを証す
るに十分であるが、なお、被告のあげている四項目の「配慮」が、現実を反映しな
い空虚なものであることを以下に各項目ごとに指摘しておこう。
ア 「安全余裕及び重複性」についての空虚な主張
被告は、「本件原子炉の設備・機器は、その信頼性を高度に維持するため、材料の
選択、製作等の段階における管理を重視するほか、設計に際しては、それぞれ所要
の安全余裕をもたせるとともに、安全上特に重要な設備、機器については、更に、
極めて苛酷な使用条件等を前提とし、それに対しても十分耐え得るような安全余裕
をもたせるとか、あるいは部分的な異常に対してもこれが故障につながらないよう
に重複性をもたせることとしている」と主張している。しかし、これらの主張は、
どのように具体化されているのであろうか。
たとえば、本件原子炉と同型の加圧水型原子力発電所にとつて、現在のところ、も
つともその欠陥をさらけ出している蒸気発生器についてはどうか。損傷事故を繰り
返している細管の材料には、応力腐食を起こし易いことが判明したステンレス鋼に
替つて、腐食に強いニツケル合金のインコネルが採用され、しかも厳重な品質管理
が行なわれていたにもかかわらず、予期しない短期間に、減肉腐食やひび割れを発
生させているのである。また、細管の腐食は、蒸気発生器内の細管の支持部分の附
近で発生しているらしいことが判明しても、現在の蒸気発生器の構造を根本的に設
計変更しない限り、その原因の除去は不可能である。通常、どのボイラーについて
もなされているボイラー水(本件の場合は二次冷却水)の水処理に必要な薬剤が存
在しているだけで、原子炉の安全確保にとつて、最も重要な一次冷却材圧力バウン
ダリーの一部である蒸気発生器細管が、短期間に損傷を起こすそいう事故を防止で
きないで、どうして、「安全上特に重要な設備・機器については、更に、極めて苛
酷な使用条件等を前提としそれに対しても十分耐え得るような安全余裕をもたせ
る」などと主張できるであろうか。
原子炉の炉心で、苛酷な条件にさらされながら、多量の放射性毒物の散逸を防止す
る役目を担つている燃料棒についても、被告の「配慮」はその実をあげていない。
被告は、「設計に際しては、それぞれ所要の安全余裕をもたせる」などと主張して
いるが、原告らが、解明されていない燃料棒の欠陥として重視している、燃料棒の
曲がり事故ではどうか。被告は、「本件原子炉において使用される燃料について
は、燃料集合体において燃料棒を横方向に支持する支持格子のバネ圧を減ずるとと
もに、各バネ圧の強さのばらつきを小さくし、更に、軸方向の伸びを吸収するよう
燃料棒の上方だけでなくその下方にも十分な間隙を確保することとしている」など
と主張しているが、そうした「配慮」の下に製作されたはずの燃料集合体において
も、依然として、曲がり事故が発生し続けているではないか。
また、「美浜一号炉燃料棒折損事故」も、三年もの間、隠ぺいされ続けてきていた
が、一つの燃料集合体の中の二本の燃料棒の上部七〇センチメートルが、折損する
というすさまじい事故であつたことが発表されたのである。しかも、これと同種の
事故は、高浜二号炉でも見出されているし、更に、スペインのゾリタ原子力発電所
や米国のポイントビーチ原子力発電所においても、同種の事故が発生していたこと
も明らかになつている。いずれも、本件伊方発電所と同型の加圧水型原子炉であ
る。
被告は、「異常状態発生の防止」のための「配慮」の例として、「燃料被覆管自体
も運転中に予想される熱的、力学的条件及び化学的条件に対して十分余裕のある設
計になつているので、燃料被覆管の健全性が損なわれることはない」と主張してい
るが、燃料棒の曲がりや折損が続いている今日では、何とうつろな期待であること
か。被告が、「予想される」として想定していた諸条件が、いかに現実の炉心の状
況とかけ離れたものであつたかを、曲がつたり、折損した燃料棒は教えているので
ある。
つぎに、被告が例としてあげている圧力容器についてはどうか。被告は、「原子炉
圧力容器については、一次冷却系の異常な圧力上昇に十分耐えるよう設計すること
はもちろんのこと、予想される種々の異常な圧力上昇の発生頻度を過大に見積り、
このような事態が繰り返し発生したとしても十分耐え得るような構造を有すること
としている」と主張している。しかし、その根拠となつた実験は、「疲労割れのモ
デル実験」にすぎず、現実の圧力容器の健全性を保証するものではない。圧力容器
の健全性で問題になるのは「構造」よりも、その材質及び製作工程である。
本件圧力容器においても、それは多くの鋼板の溶接によつてつくりあげられるが、
その鋼板の、炉心からの中性子によつてひき起こされる脆化は不可避であり、溶接
部なども含めた圧力容器全体にわたつて、その使用中に、脆化がどのように進むか
を予測することは、少なくとも現在の技術的段階では不可能である。更に圧力容器
の、そしてまた、圧力容器と配管とのつなぎ目の溶接部分で発生し易い応力腐食に
ついても、現在の技術では、完全に抑止することは不可能である。そうした現状を
知つてか知らずにか、「設計」によつて、「極めて苛酷な使用条件等を前提としそ
れに対しても十分耐え得るような安全余裕をもたせる」ことができるなどと主張す
る被告の無神経さには驚くよりほかない。
更に被告は、「本件原子炉の設備・機器はその信頼性を高度に維持するため、材料
の選択・製作等の段階における管理を重視する」と主張しているが、最近本件原子
炉で起つた事故は、その実態の一端を、はしなくも暴露したのである。それは、昭
和五一年一〇月一四日未明に、本件原子炉への燃料装荷中に発生した、集合体の一
部がへし曲がるという前代未聞の事故である。原子炉にとつて何よりも重要な燃料
体の出し入れに使う設備である燃料移送台上のとめ金具の位置が、集合体の長さに
適合していなかつたという、全く信じられないしろものが製作されていたのであ
る。更に、そのような欠陥設備を、事前に燃料装荷の模擬テストまで行ないなが
ら、発見し得ず、燃料集合体をへし曲げてから始めて気付くという、これまた信じ
られないことが起こつているのである。本件原子炉で早くも発生したこの事故は、
被告が頼りにしている、「信頼性を高度に維持するための管理」なるものが、実際
の現場では、どのように実施されているかを我々に教えてくれた。
最後に、被告の主張する「重複性」について、その内容を明らかにしておこう。被
告は「(本件原子炉の)特に重要な設備・機器については、・・・・・・あるいは
部分的な異常に対してもこれが故障につながらないように重複性をもたせることと
している」と述べ、あたかも、原子炉の重要な機能に直接関連した設備・機器が重
複性を持つているかのごとき印象を与えようとしている。しかし、原子炉の炉心に
ある燃料体や炉心構造物、一次冷却材圧力バウンダリを構成する圧力容器、配管、
及び蒸気発生器、更には一次冷却材を循環させるためのポンプなどの主要設備・機
器は、全く重複性を持たず、それぞれかけがえのないものである。被告は重複性の
例として、「補機冷却系統設備、非常用電源設備等は、これを構成するポンプやデ
イゼル発電機に予備機」のあることをあげているが、これらの設備は重要ではあつ
ても原子炉の補助設備にすぎず、これらが予備を備えていることは当然であつて、
麗麗しく持ち出すほどの事例ではない。
イ 「誤動作、誤操作等に対する防護」についての机上の空論
被告は、制御棒駆動装置や原子炉圧力制御装置等を例にあげて、誤動作による異常
の発生を防止するようにしてあると主張している。これらの防護対策の信頼性も問
題ではあるが、何よりも見のがしてならないことは、被告が例示している誤動作や
誤操作は、あらかじめ予測し得る種類のものにすぎないということである。危険な
大量の放射性毒物を内蔵し、『綱渡り技術』によつて支えられている原子力発電所
にとつて、問題とされている誤動作・誤操作とは、まさに予期し得ない人的ミスな
のである。
現在すでに営業運転中のわが国の各地の原子分発電所においても、数々の人的ミス
による事故が発生しているが、いつの場合にも、責任者から聞かされる言葉は、
「予想もしなかつた」ということである。右に述べた本件原子炉への燃料装荷中に
発生した燃料集合体損傷事故に際しても、本件伊方発電所の所長は、「作業は十分
注意してやつていたのだが、思いがけないトラブルを起こして申し訳ない」と語つ
ている。
また、本件原子炉と同型で、すでに営業運転中の玄海原子力発電所において、その
試運転中に発生した、バルブ操作ミスによる放射能漏洩事故も一つの典型である。
すなわち、昭和五一年三月九日に、九州電力玄海原子力発電所の一号機(電気出力
約五六万キロワツト)で一次冷却水の充てんポンプの弁の誤操作によつて、五分間
にわたつて〇・五キユリーの放射能を含んだ加圧用水素ガスが流れ出るという事故
が発生した。同原子力発電所では、昭和五〇年六月に、蒸気発生器内に巻尺を置き
忘れて放射能洩れ事故を起こしたばかりであつた。
二度にわたる放射能漏れ事故について、九州電力のp16社長は記者会見で、つぎ
のように語つたと報道されている。すなわち、「もう二度と事故を起こしません│
│といつても、前回もそういつてきたんだから・・・。
言葉でなくて事実で示していく以外にない。しかし、送電線の補修工事も、絶対に
事故が起きないような作業の仕組みになつているはずなんだが、やはり感電死はで
る。卒直に言えば泣きたい気持ちだよ」と。このp16社長の苦悩に充ちた発言
は、本来不可避の人的ミスと、絶対無事故を建前とした原子力発電所との矛盾に苦
しむ管理責任者の姿を端的に示している。
人的ミスが、原子力発電所を危険な状態に追いやつた典型は、昭和五〇年三月二二
日にアメリカのブラウンズフエリー発電所で発生した事故である。その事故は、原
子炉建家の空気漏れを点検するために、一人の技術者が手にしていたロ-ソクの火
が電線の被覆に燃え移つたために発生した火災事故である。この火災と、同時に発
生した設備の故障とによつて、ほとんどすべての安全装置が作動しなくなり、炉心
の水位の低下による炉心の露出、溶融という最悪事態を、技術者たちの必死の努力
により辛うじて直前で食い止めることができたのである。誰がこのような事態を予
想できたであろうか。他の人的ミスの場合と同様に、アメリカ原子力規制委員会の
責任者は、「全く予期せぬ事故」と述べ、また同委員会の特別調査グループをし
て、「プラントの設計基本である多重性と独立性という観点から見て、この結果は
驚くべきものである」と嘆かせているのである。
人間の手によつて原子力発電所が運転され管理される限り、誤動作・誤操作は不可
避であり、それは予期しない事態を招くであろう。そしてそのことは本件の場合も
例外ではあり得ない。にもかかわらず、あたかも、それらを防止し得るかのごとく
に強弁する被告の主張は机上の空論にすぎない。
ウ 有効性を欠いた「試験可能性」
被告は、「本件原子炉の安全上主要な設備・機器は、その信頼性を常に保持するた
め、原子炉の運転が開始された後においてもその性能が引き続き確保されているこ
とを試験、検査、監視することができるような構造となつている」と主張してい
る。しかし、被告のいう「試験、検査、監視」の妥当性については、ほとんど明ら
かにされないままとなつている。
本件原子炉の安全確保上重要な部分、例えば炉心の燃料体、原子炉圧力容器、ある
いは蒸気発生器細管などについては原子炉運転中に検査する手段が存在していない
ことが重要な特徴である。それらの状態を点検し得るのは、原子炉の運転を停止し
て行なわれる定期検査時だけである。
したがつて、定期検査の間の運転期間中に、事故が発生して、はじめて損傷を知る
といつた事態もしばしば起こつている。本件原子炉と同型の先行発電所でしばしば
発生した蒸気発生器細管事故はその典型である。また、燃料棒の曲がりや折損事故
も、定期検査の時に、はじめてその発生を知るといつた事態が続いている。
定期検査時の試験、検査、監視が有効であるためには、次の検査時までに、設備や
機器の正常な状態が維持できることが保証されていなければならない。しかし、原
子力発電技術の未熟さの故に、問題となる種々の事故の原因とその進行過程に不明
な点が多く、いまだに、右に述べた意味で有効な定期検査の間隔を定め得ない場合
が多い。したがつて、主として燃料の取替え周期と、経済的な理由とから決められ
ている、現行の約一年ごとの定期検査間隔では、その途中で事故が発生するのは当
然といわねばならず、被告の主張する「試験、検査、監視」の有効性は、著しく減
殺されたものとなつている。
更に、現行の「試験、検査、監視」の方法の信頼性にも問題が多い。その典型は、
実施不可能な原子炉圧力容器の中性子による脆化の進行の測定に替つて、現在実施
され本件原子炉でも採用が予定されている試験片を用いた試験法に見ることができ
る。この試験では、原子炉圧力容器の材料と同一の鋼板から切り出したいくつかの
試験片を、原子炉内につり下げ、定期検査ごとに、次々ととり出してその脆化の程
度を測定し、その結果から、実際の圧力容器の脆化度を推定するという方法が採用
されている。
この試験法にはつぎのような欠陥が含まれていることは明らかである。すなわち、
一つには、試験片の大きさはせいぜい数センチメートルの素材であり、その脆化か
ら、圧力容器を構成する全ての鋼板の脆化を、しかも脆化の程度の異なる溶接部の
存在を無視して推定することは極めて不十分であるということ。他の一つは、原子
炉圧力容器内への試験片の挿入場所は、原子炉圧力容器の内面に設けられた「熱遮
へい板」中であり、低い温度ほど脆化が進行し易いことを考慮すると、原子炉容器
の平均温度よりかなり高いと思われる挿入場所での試験は、脆化程度について過小
評価をもたらすということである。
右に示した事例は、このような欠陥のある試験法によつて、本件原子力発電所の安
全確保上最も重要な原子炉圧力容器の健全性が保障されているという、
現在の原子力発電技術の危なつかしさを示すとともに、被告の主張する「試験、検
査、監視」の信頼性の欠如を示す典型となつている。
最後に、被告が例示している緊急炉心冷却装置の作動試験についても同様のことを
指摘しておかなければならない。被告は、「非常用炉心冷却設備の高圧注入系及び
低圧注入系は、試験用配管が別途設置されており、運転中においてもポンプを中心
とする作動試験を定期的に実施することかできるようになつている」と主張してい
る。しかしこの「作動試験」とは、ポンプによる給水が予定通りに行なわれるかど
うかを調べるものにすぎない。いうまでもないことであるが、緊急炉心冷却装置に
とつて重要なことは、ポンプから水が送られるかどうかよりも、その送られた水
が、一次冷却材喪失事故時に有効に炉心を冷却するかどうかということである。し
かし、後述するように、この点に関しては、依然として不明なままである。
右に述べたことで明らかなように、本件原子炉の設備・機器が、「試験、検査、監
視することができるような構造になつている」ということのみが重要ではなく、更
に重要なのはそれらの方法が妥当で、信頼性があるということなのである。
エ 信頼性の低い「安全運転継続のための自動調整」
被告は、「本件原子炉では、その運転を安全に継続するため、原子炉の状態を左右
する原子炉の圧力等を自動的に一定に保つように調整するための装置が備えられる
こととなつている」と主張している。運転状態にある装置の諸特性を一定に自動的
に保つことが行なわれているのは、何も原子炉に限つたことではない。しかも被告
が例示している原子炉圧力を一定に保つ制御装置も、ありふれた種類のもので、と
くにとり立てて云うほどのものではない。ここでも問題なのは、そうした自動制御
装置の信頼性なのである。
ア メリカでは、一六の原子炉で二九回も、原子炉圧力が安全規制値を、かなり超
して高くなつたということである。そして、このような『過圧力』によつて、実際
にはめつたに起こらないにしても、原子炉の圧力容器が破損し、一次冷却材を吹き
出すという事故も起こり得る、すなわち原子炉圧力容器の破損の可能性を考えねば
ならないのである。アメリカのそれと全く同型の、我が国の加圧水型原子力発電所
でも、当然、この種の『過圧力』は発生しているに違いない。アメリカでも、内部
告発によつて、
はじめて事態が明るみに出たという事実や、我が国では、何の発表も行なわれてい
ないという事実は、この『過圧力』の重大さを物語つているように思われる。
本件伊方原子炉と同型のアメリカの原子力発電所における『過圧力』発生の事実
は、被告が述べている原子炉圧力制御系が、予期せぬ圧力増加を制御し切れず、原
子炉の安全性を損つている実態を示す。原子炉の安全を保つための設備にとつて必
要なのは、その効能書きでは無くて、その信頼性である。
右に指摘してきたように、被告のいう「異常状態の発生防止」のための「配慮」な
るものは、いずれも見かけ倒しであり、被告の主張する「多重防護」の第一段の防
護策としては、その妥当性も信頼性も極めて低い。そしてそのことは、すでに営業
運転に入つている先行原子力発電所での事故の多発によつても実証されているので
ある。したがつて、これらの「配慮」が、原告ら周辺住民に重大な災害を与える事
故の要因を防止するための万全の対策となつている、との被告の主張は虚偽であ
り、不当なものと言わざるを得ない。
(3) 「異常状態の拡大防止のための配慮」の低い有効性
被告は、「本件原子炉は、右に述べたような配慮にもかかわらず、たとえ運転中に
なんらかの異常な状態が発生したとしても、その異常状態が更に拡大することを確
実に防止するため、次のような配慮がなされている」として、「異常状態の検知」
と「異常状態の拡大を防止するための安全保護装置」の二つをあげている。
まずはじめに指摘しておかなければならないことは、被告は「異常状態の拡大防
止」というとき、事故には必ず前兆現象があり、事故の拡大の経過はゆるやかに進
行する、との前提を暗黙のうちに持ち込んでいるということである。後述するよう
に、被告が事故の拡大防止に有効であると主張している「検知」の方法や「安全保
護装置」による対策の妥当性と信頼性の無さも問題ではあるが、事態が「検知」さ
れ、「安全保護装置」が働いた時には、すでに事故が発生したあと、といつたこと
の有無の判断こそ、最も重要なことである。
現在の原子力技術の段階では、環境に放射性物質を流出させる最も重大な事故は、
原子炉圧力容器、一次冷却材配管、あるいは、蒸気発生器細管など、いわゆる一次
冷却材圧力バウンダリに属する系の破損によつてひき起こされる。一次冷却材圧力
バウンダリの破損には、
小破損からゆるやかに進行して大破損に至る経過をたどるものも含まれてはいる
が、突然に一挙に大破損に至る可能性も大きい。
突然の大破損の典型例は、前述した、アメリカのポイントビーチ原子力発電所にお
ける蒸気発生器細管破損事故である。この事故では、一次冷却材の二次系への異常
な漏出が検出された時には、すでに毎分約〇・五トンという大量の一次冷却材の流
出をもたらした、蒸気発生器細管の大破損が起こつていたのである。すなわち、被
告が「異常状態の拡大防止」のために期待している「検知」は全く役立たなかつた
のである。
本件原子炉におけると同型の蒸気発生器に特有の欠陥のために、運転経験の短い間
にも、右に述べたような大破損が実際にすでに発生しているのであるが、原子炉圧
力容器や一次冷却材配管についても、こうした突然の大破損は、十分に予測される
のである。すなわち、これらの一次冷却材圧力バウンダリの破損の、最も可能性の
大きい要因と見られている、脆性破壊や疲労亀裂、あるいは、これらと応力腐食割
れとの協同作用による破壊は、突然に発生する可能性が極めて大きいためである。
右に述べた、一次冷却材圧力バウンダリにおける突然の大破損の事実と可能性に示
されているような、予測不能な経過で発生する事故については全く言及しないで、
「異常状態の拡大防止」策によつて、事故の防止が万全であるかのような被告の主
張は、人を欺くものといわざるを得ない。それだけではなく、被告が述べている
「異常状態の検知」や「異常状態の拡大を防止するための安全保護装置」の妥当性
と信頼性についても疑問が多い。例えば被告が「検知」の具体策としてあげている
諸装置のうち、すでに国内、外の先行炉において、その信頼性の無さを示している
いくつかの例をあげると次のようなものがある。
被告は「原子炉施設内における温度、圧力、流量等を監視する計測装置」が「所要
の箇所に設けられる」と述べているが、これらの装置は、一次冷却材圧力バウンダ
リ系の破損箇所からの一次冷却材の漏洩を、早期に発見できる能力を欠いていると
いわねばならない。伊方発電所は、一ガロン(三・八リツトル)毎分漏洩したら検
出できるようになつている、といわれているが、すでに営業運転に入つている福島
原子力発電所の一号機で、昭和五〇年二月に発見された、原子炉容器と緊急炉心冷
却装置とを結ぶ配管の破損事故では、
毎分一六リツトル程度の一次冷却材の漏洩があつたと推定されるのに、その破損
は、設けられていた漏洩検出装置では検知できなかつたのである。
つぎに被告があげている「原子炉施設内外における放射線量を監視する放射線監視
装置」が、肝心の時に役立たなかつた例をあげておこう。その一つは、本件伊方原
子力発電所と同型の美浜原子力発電所一号機で、昭和四八年四月に発見され、昭和
五一年一二月まで隠されていた、燃料棒の折損事故である。この事故では、炉心の
燃料棒が、少なくとも二本は折損するという、ひどい事態が発生していたが、昭和
五一年一二月一六日に同発電所を訪れた社会党国会議員調査団に対し、同発電所の
担当責任者は、当該損傷部から漏洩していた放射能を運転中には検知できなかつた
と答えている。
更に、「放射線監視装置」の信頼性の無さを示す例は、前にも述べたアメリカのポ
イントビーチ原子力発電所での、蒸気発生器細管の大破損事故である。この時に
は、毎分約〇・五トンもの一次冷却材が、その中に含まれた放射能を含んで二次系
に流出したのであるが、この種の事故の発生をまず第一に知らせることになつてい
る「放射線監視装置」が役立たなかつたのである。一次冷却材が二次系に流出した
ことを知らせる装置には、復水器の「空気抽出器」に取りつけられているものと、
蒸気発生器の二次冷却水を吹き出させる「ブローダウン配管」に取りつけられてい
るものとの二種類がある。ところが、ポイントビーチの事故の際には、前者の「空
気抽出器」の監視装置は、メーターの針がよく振れるというので、その感度が下げ
られていたために役立たず、また、後者の「ブローダウン配管」に設けられていた
監視装置も、検査用の試料をとり出す配管の方法がまずかつたために、警報を出さ
なかつた、と報告されている。ポイントビーチ原子力発電所ではこの事故の以前に
も小規模な漏洩が発生したことがあるのに、なおこうした検知漏れが起こつたとい
うことはすぐれて教訓的である。
最後に、被告のいう「異常状態の拡大を防止するための安全保護装置」も見かけ倒
しであることを指摘しておこう。
被告は「計測監視装置によつて異常状態を検知した場合には、直ちに警報が発せら
れ、直ちに異常を生じた機器の停止・予備機の起動等所要の措置が講ぜられる設備
とされる」と極めて一般的に述べている。しかし、これまでにもよく引き合いに出
してきた、
最も重要な一次冷却材圧力バウンダリの破損事故については、たとえそれが検知で
きたとしても、「異常を生じた」当該圧力バウンダリ系に対する「所要の措置」に
よつて、「直ちに」その 「異常」を抑止したりすることは不可能である。検知さ
れた破損の進行については、文字通り、「運を天に任せて」、ともかく原子炉を停
止するという措置をとることしかないのである。
被告が、「安全保護装置」の具体例として、「自動的に全制御棒を緊急に挿入して
燃料を損傷することなく原子炉を停止し得るような機能」しかあげていないのも、
重大な「異常」に対しては、まず原子炉を停めることが、「直ちに」とり得る唯一
の対策であるからである。しかし、よく知られているように、一次冷却材の喪失を
もたらす事故にあつては、たとえ原子炉の停止が首尾よくいつても、それは炉心溶
融を食い止めるキメ手にはならないのである。更に被告が主張している「燃料を損
傷することなく」という条件も、事実をいつわるものである。急速な原子炉の停止
によつて、燃料棒の被覆管は損傷を受ける。したがつて「燃料を損傷することなく
原子炉を停止し得るような機能」などは無く、燃料の損傷を省みず、緊急に原子炉
を停止し得る機能しか備えていないのである。
右に指摘してきたように、被告のいう「異常状態の拡大防止」の「配慮」なるもの
は、重大事態に至る多くの事故経路の、ごく一部に対してだけ備えられた対策にし
かすぎず、しかも、それらの対策の妥当性と信頼性も極めて低い。したがつて、こ
れらの「配慮」が、原告ら周辺住民に重大な災害を与える事故を防ぐための万全の
対策となつている、との被告の主張は虚偽であり、不当なものであると言わざるを
得ない。
(4) 「安全防護設備」の低い信頼性
被告は前提として、「本件原子炉は、前述したように、異常状態の発生防止及び異
常状態の拡大防止にそれぞれ万全のの対策が講じられることとなつているため、外
部に異常な放射性物質の放出をもたらすおそれのある事態が発生することはない」
と主張しているが、このことが虚偽であり不当であることについては、すでに前項
までに詳述してきた。このような誤つた前提の上に立つて被告は、いわゆる「安全
防護設備」が設けられている理由を次のように述べている。すなわち、「しかしな
がら、本件原子炉については、念には念を入れるという考え方の下に、
かりに外部に異常な放射性物質の放出をもたらすおそれのある事態が発生したと仮
定しても周辺公衆の安全を確保できるようにするため」であると。ここには、原告
ら周辺住民に重大な災害をもたらす事故に対する、被告の一貫して誤つた考え方が
端的にあらわれている。
被告にあつては、本件原子炉が周辺住民に重大な災害を与えるような事故を起こす
はずはなく、「安全防護設備」も、「かりに・・・・・・事態が発生したと仮定」
した時のために設けられていることになつているのである。こうした被告の考え方
は、「他の産業にはみられない念の入つた防護策」を具体化する保障とはならず、
むしろ、「他の産業にはみられない」傲慢な考え方と言わなければならない。他の
産業では、装置の大型化・自動化と並行して設けられる安全装置が、かえつて安全
性を低下させるのではないかと案じられ、また、経験の少ない施設では大きな事故
も不可避であると考えられているのである。被告にとつては、「安全防護設備」
は、不可避の事故に対する不可欠なものではなく、「念には念を入れて」余分につ
け加えられた設備にすぎないのである。すでに原告らが指摘し、更に後述するよう
な、被告の本件「安全防護設備」に対する根拠のない過信と、重大な事故によつて
原告ら周辺住民にもたらされる災害についての驚くべき過小評価も、事故と「安全
防護設備」に対する被告の誤つた考え方がもたらしたものといえる。
本件原子炉に設けられている「安全防護設備」は、緊急炉心冷却装置、原子炉格納
容器、格納容器スプレー系、及びアニユラス空気再循環系の四種である。このう
ち、緊急炉心冷却装置は、一次冷却材喪失事故時に、炉心にある燃料の溶融を防止
するための設備であり、他の三者は、燃料の破損、溶融によつて、原子炉内から格
納容器内に流出した放射性物質が、環境に漏出するのを防止するための設備であ
る。格納容器スプレー系とアニユラス空気再循環系とは、格納容器内に放射性物質
が閉じ込められているということを前提にして、すなわち、格納容器の健全性が保
たれている限りで、はじめてその有効性が発揮される。そして、その格納容器の健
全性は、炉心が溶融しないことを前提にして保障されている。すなわち、炉心が溶
融すれば、格納容器の放射性物質を閉じこめるという機能は破壊される。「炉心が
溶融した後のシーケンス(経過)としては、例えば、その一〇〇パーセント溶融を
すると、格納容器を貫らぬいて地下に入つて行くという考え方もあるし、それか
ら、例えば大きく蒸気が発生して爆発し、格納容器部壊れることも考えられてい
る。また、格納容器が爆発するまでもないけれども、圧力によつて壊れるというこ
とも考えられている」のである。
右に述べたことから明らかなように、もし緊急炉心冷却装置が作動しなかつたり、
あるいは、作動してもその期待された性能を発揮しなかつたりして、炉心溶融に至
つた場合には、他の三つの安全防護設備も、ほとんど役立たなくなる。すなわち、
四種の「安全防護設備」は、それぞれが独立に機能するのではなく、結局は、緊急
炉心冷却装置が有効に働くという前提の下に、はじめて、それぞれが意味を持つと
いう工学系となつているのである。したがつて、本件原子炉の「安全防護設備」の
信頼性の判断は、緊急炉心冷却装置のそれを検討すれば足りるということになる。
本件原子炉に設けられている緊急炉心冷却装置が、一次冷却材喪失事故時に炉心の
溶融を防ぐという機能に関して、極めて信頼性の低いものであるということについ
ては、すでに「緊急炉心冷却装置」で十分に指摘してきた通りである。その根拠
は、次の四点に要約することができる。
(1) 本件原子炉に設けられている緊急炉心冷却装置の性能は、実際の原子炉に
ついては勿論のこと、実験直な設備においても、いまだに実証されていない。
(2) 本件緊急炉心冷却装置が作動したとした時の、炉心における一次冷却材の
態様や挙動については、計算機を用いた計算によつて推測されているが、その計算
のための模型と、その計算に用いられるパラメータとには、多くの重要な不確定さ
が含まれており、被告によつて主張されているその計算結果の保守性は、模擬実験
によつても実証されていない。
(3) 本件緊急炉心冷却装置が作動したとした時の、炉心にある燃料棒の状態に
ついても、実験的に未知の要素が多く、計算機による燃料棒被覆管の温度の推定の
信頼性は低い。またその計算に当たつて、被告が、被覆管の内面酸化の程度や被覆
管に作用する種々の応力などについて採用したパラメータは、全く恣意的なもので
あり、それらの正当な値を適用すれば、本件緊急炉心冷却装置の安全評価の審査に
当たつて安全専門審査会が確認したという諸条件も充たし得ない。
(4) 本件緊急炉心冷却装置は、二〇〇ガルの地震動に対して耐えられるよう耐
震設計が施されている旨被告は主張しているが、本件建設地点についての地震の正
当な評価を行えば、二〇〇ガル以上の地震動も十分に予測でき、本件緊急炉心冷却
装置の作動の保障も十分でない。
右に述べたことから明らかなように、被告が、本件原子炉の多重防護の最後の頼み
とする「安全防護設備」の信頼性も低く、「想定された事故の場合においても放射
線障害を発生させないための万全の措置がとられている」との被告の主張も根拠を
欠いた不当なものである。
(5) 結語
被告が、「原子炉の安全確保に関しては、いわゆる多重防護の考え方が採用され、
これに基づいて他の産業にはみられない念の入つた防護策が講じられている」とし
て、具体的に主張している四つの対策、すなわち(1)「自然条件に対する配
慮」、(2)「異常状態の発生防止」、(3)「異常状態の拡大防止」、及び
(4)「安全防護設備の設置」のそれぞれについて、詳細に右に検討を加えてき
た。その結果、これらの対策は、いずれもその妥当性において欠けるところがあ
り、またそれらの信頼性も極めて低いことが明らかとなつた。したがつて、「現実
問題として周辺住民に放射線障害を与えるおそれはない」との被告の主張はその根
拠を欠き、原告ら周辺住民にとつては、本件原子炉の事故によつて、重大な災害を
受けることは現実的な問題となつているのである。

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