弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴会社代表者は、「原判決を取消す。本件を福岡地方裁判所に差戻す。」との
判決を求め、被控訴人有限会社かねまつ商店兼被控訴人Aは適式の呼出を受けなが
ら昭和三十二年十月五日午前十時の本件口頭弁論期日に出頭しないので陳述したも
のとみなされた答弁書の記載によれば、主文と同旨の判決を求めるというにある。
控訴会社代表者の陳述した原審口頭弁論結果によれば、当事者双方の事実上の陳述
は、控訴会社代表者において、「本件訴の取下をするについて、訴外Bに控訴会社
を代表する権限があつたものだとしても、本件訴の取下は第一審の被控訴人等訴訟
代理人たる堤弁護士の詐欺若くは強迫に基くものだから無効である。」と述べ、被
控訴会社代表者兼被控訴人において、控訴会社の主張は理由がないと述べるにある
外は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
         理    由
 <要旨>C及びBことBが共に控訴会社の代表取締役であり、かつ控訴会社におい
て、代表取締役につき共同代表に関する規定のないこと記録中の登記簿謄本
によつて明かである。したがつて、共同代表の定めのない限り、代表取締役各自会
社を代表して会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為を為し得べきもの
であるから、控訴会社の代表取締役たる右Bのした本訴の取下は適法である。控訴
人は、控訴会社において、本件の処理は専ら代表取締役であるCが当ることに定ま
つたので、他の代表取締役たるBに会社の代表権はなく、右事実は、控訴人等の原
審訴訟代理人が知悉しているので、右のように代表権の制限のあることを知つた悪
意の第三者たる被控訴人等には右代表権の制限を以つて対抗し得べく、したがつ
て、本件訴の取下は無効である、と主張するが、株式会社が会社の代表取締役の一
人に或る事件を処理させることとしたのは、代表取締役の本質からみて、単に会社
内部において代表取締役に対する会社事務の分配をしたに過ぎない、他の代表取締
役の代表権を制限したものでないと解するのが相当であるのみならず、私法の規定
が訴訟行為に類推せられる場合があるとしても、訴の取下は、一審原告が裁判所に
対してする一方的の意思表示で、相手方に対するものではない(訴の取下に被告の
同意を要する場合でも)ので、代表権の制限につき一審被告の知、不知、善意、悪
意、等の問題が介入してくる余地なく、又相手方のこれが知、不知、によつ、訴の
取下が有効となり、或は無効となつたりするようでは、訴訟行為を何時迄も不確定
たらしめて、一般取引の安全を害するに至ることからいうても、商法第二百六十一
条第三項(商法第七十八条により民法第五十四条を準用)の株式会社の代表取締役
の代表権の制限はこれを以つて善意の第三者に対抗することはできないとの規定
を、訴の取下の訴訟行為に類推する余地はない。又控訴人は、本件訴の取下の意思
表示は、被控訴人等の原審訴訟代理人の詐欺若くは強迫に基づくものであるから、
無効だというが、訴の取下の意思表示が詐欺若くは強迫による刑事上罰すべき行為
によりなされた場合に、民事訴訟法第四百二十条第五号の規定を類推して、訴の取
下を無効たらしめることができるという見解がないこともないが、本件訴の取下に
ついて、控訴人主張のように、被控訴人等の訴訟代理人が詐欺若くは強迫をしたと
いう証拠はないので、控訴人の主張は結局採用することはできない。
 しからば、原審が、控訴人のした本件口頭弁論期日申請を許容せず、本件は訴の
取下によつて終了した旨を宣言した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。よつ
て、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 二階信一 裁判官 秦亘)

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