弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの主位的請求をいずれも棄却する。
2被告株式会社P1は,東京都八王子市に対し,1283万6250円及びこ
れに対する平成14年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
3被告P2株式会社は,東京都八王子市に対し,1475万2500円及びこ
れに対する平成14年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
4被告P3株式会社は,東京都八王子市に対し,1921万5000円及びこ
れに対する平成14年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
5被告P4株式会社は,東京都八王子市に対し,1207万5000円及びこ
れに対する平成14年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
6被告P5株式会社は,東京都八王子市に対し,1246万8750円及びこ
れに対する平成14年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
7被告株式会社P6は,東京都八王子市に対し,2483万2500円及びこ
れに対する平成14年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
8引受参加人株式会社P7は,東京都八王子市に対し,1638万円及びこれ
に対する平成14年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
9被告P8株式会社は,東京都八王子市に対し,1081万5000円及びこ
れに対する平成14年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
10被告P9株式会社は,東京都八王子市に対し,1811万2500円及びこ
れに対する平成14年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
11被告P10株式会社は,東京都八王子市に対し,1512万円及びこれに対
する平成14年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
12被告株式会社P11は,東京都八王子市に対し,4147万5000円及び
これに対する平成14年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
13原告らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。
14訴訟費用は,これを100分し,その5を被告株式会社P1の負担とし,そ
の6を被告P2株式会社の負担とし,その8を被告P3株式会社の負担とし,
その5を被告P4株式会社の負担とし,その5を被告P5株式会社の負担とし,
その11を被告株式会社P6の負担とし,その7を引受参加人株式会社P7の
負担とし,その4を被告P8株式会社の負担とし,その7を被告P9株式会社
の負担とし,その6を被告P10株式会社の負担とし,その18を被告株式会
社P11の負担とし,その余は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
被告らは,東京都八王子市に対し,連帯して8億8524万9750円及び
これに対する平成13年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2予備的請求
(1)被告株式会社P1(以下「被告P1」という。)は,東京都八王子市に対
し,5088万0900円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告P2株式会社(以下「被告P2」という。)は,東京都八王子市に対
し,5713万7850円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告P3株式会社(以下「被告P3」という。)は,東京都八王子市に対
し,7657万6500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告P4株式会社(以下「被告P4」という。)は,東京都八王子市に対
し,4394万2500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告P5株式会社(以下「被告P5」という。)は,東京都八王子市に対
し,4941万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被告株式会社P6(以下「被告P6」という。)は,東京都八王子市に対
し,9888万9000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)引受参加人株式会社P7(以下「引受参加人P7」という。)は,東京都
八王子市に対し,6492万1500円及びこれに対する訴状送達の日の翌
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)被告P8株式会社(以下「被告P8」という。)は,東京都八王子市に対
し,4226万2500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)被告P9株式会社(以下「被告P9」という。)は,東京都八王子市に対
し,6673万8000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(10)被告P10株式会社(以下「被告P10」という。)は,東京都八王子
市に対し,5811万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(11)被告株式会社P11(以下「被告P11」という。)は,東京都八王子
市に対し,1億6420万9500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,東京都八王子市(以下「八王子市」という。)から工事の施工等に
つき委託を受けた財団法人P12公社(以下「公社」という。)が発注した土
木工事の入札に際して,被告らが談合した結果,受注予定者があらかじめ合意
され,入札参加者間で公正な競争が確保された場合に形成されたであろう正常
な落札価格と比較して不当に高い価格で落札がされ,八王子市が損害を受けた
にもかかわらず,八王子市の市長(以下「八王子市長」という。)が被告らに
対し不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを怠っているとして,八
王子市の住民である原告らが,平成14年法律第4号による改正前の地方自治
法(以下「改正前法」という。)242条の2第1項4号に基づき,八王子市
に代位して,被告らに対し,八王子市への損害賠償の支払を求める住民訴訟で
ある。
1前提事実
(1)当事者等
ア原告らは,いずれも八王子市の住民である。
イ被告P13株式会社(以下「被告P13」という。),被告P11,被
告P2,被告P6,被告P4,被告P5,被告P3,脱退被告株式会社P
14(なお,引受参加人P7は,平成16年4月1日にされた会社分割に
より,同脱退被告の営む建設事業に関する一切の営業を承継した。),被
告P9,被告P1,被告P10及び被告P8(以下,総称して「被告ら」
という。)は,いずれも建設業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受
け,国内の広い地域において総合的に建設業を営むもの(以下「広域総合
建設業者」という。)であり,いわゆる多摩地区(東京都のうち区部及び
島しょ部を除く区域)において営業所を置くなどして事業活動を行ってい
たものである(なお,被告P10の平成15年7月1日商号変更前の商号
は「P15株式会社」であるが,同商号変更の前後を問わず,同被告につ
いて「被告P10」と略称する。)。
引受参加人P7(平成16年4月1日商号変更前の商号は「P16株式
会社」)は,同日にされた会社分割により,脱退被告株式会社P14(同
日商号変更前の商号は「株式会社P7」)から,本件訴訟に係る権利義務
関係を免責的かつ包括的に承継したものである(以下,上記脱退被告を
「旧P7」という。)。
ウ公社は,昭和36年7月20日,首都圏整備構想に基づき,新都市の総
合的建設と,地域開発を促進し,首都の秩序ある発展を図ることを目的と
して,当時,東京都が1000万円,八王子市,町田市,青梅市,日野町,
福生町及び羽村町が各50万円(合計1300万円)を出えんして設立さ
れた財団法人であり,多摩地区所在の市町村から委託を受けるなどして,
公共下水道の建設等の都市基盤整備事業を行うものである(甲サ60)。
(2)工事請負契約の締結
ア平成10年3月9日,被告P1は,別紙工事目録1記載のとおり,公社
から,八王子市α1××××番地先外下水道築造43−公12工事(以下
「本件工事1」という。)を,契約金額2億5672万5000円(うち
消費税及び地方消費税額1222万5000円)で請け負った(甲14の
1,甲サ328)。
イ平成10年5月26日,被告P2を代表者とする「P2・P17建設共
同企業体」は,別紙工事目録2記載のとおり,公社から,八王子市α2×
××番地先外下水道築造44(公1工区)工事(以下「本件工事2」とい
う。)を,契約金額2億9505万円(うち消費税及び地方消費税額14
05万円)で請け負った(甲14の2,甲サ328)。
なお,建設共同企業体(ジョイントベンチャー)とは,建設会社数社が
互いに出資して,共同して1つの建設工事を施工するために結合する事業
組織体である。
ウ平成11年3月30日,被告P3を代表者とする「P3・P18建設共
同企業体」は,別紙工事目録3記載のとおり,公社から,八王子市α3×
××番地先外下水道築造44(公14工区)工事(以下「本件工事3」と
いう。)を,契約金額3億8430万円(うち消費税及び地方消費税額1
830万円)で請け負った(甲14の3,甲サ328)。
エ平成11年4月5日,被告P4は,別紙工事目録4記載のとおり,公社
から,八王子市α4××××番地先外下水道築造44(公16工区)工事
(以下「本件工事4」という。)を,契約金額2億4150万円(うち消
費税及び地方消費税額1150万円)で請け負った(甲14の4,甲サ3
28)。
オ平成11年6月21日,被告P5は,別紙工事目録5記載のとおり,公
社から,八王子市α5外私道内下水道築造45−公7工事(以下「本件工
事5」という。)を,契約金額2億4937万5000円(うち消費税及
び地方消費税額1187万5000円)で請け負った(甲14の5,甲サ
328)。
カ平成11年6月28日,被告P6を代表者とする「P6・P19建設共
同企業体」は,別紙工事目録6記載のとおり,公社から,八王子市α6×
××番地先外下水道築造45(公1工区)工事(以下「本件工事6」とい
う。)を,契約金額4億9665万円(うち消費税及び地方消費税額23
65万円)で請け負った(甲14の6,甲サ328)。
キ平成11年8月16日,旧P7を代表者とする「P7・P20建設共同
企業体」は,別紙工事目録7記載のとおり,公社から,八王子市α5××
××番地先外下水道築造45(公4工区)工事(以下「本件工事7」とい
う。)を,契約金額3億2760万円(うち消費税及び地方消費税額15
60万円)で請け負った(甲14の7,甲サ328)。
ク平成11年8月16日,被告P8は,別紙工事目録8記載のとおり,公
社から,八王子市α7××××番地先外下水道築造45(公14工区)工
事(以下「本件工事8」という。)を,契約金額2億1630万円(うち
消費税及び地方消費税額1030万円)で請け負った(甲14の8,甲サ
328)。
ケ平成11年12月20日,株式会社P21(以下「P21」という。)
は,別紙工事目録9記載のとおり,公社から,八王子市α4×××番地先
外下水道築造45−公10工事(以下「本件工事9」という。)を,契約
金額2億2155万円(うち消費税及び地方消費税額1055万円)で請
け負った(甲14の9,甲サ328)。
コ平成12年5月1日,被告P9を代表者とする「P9・P22建設共同
企業体」は,別紙工事目録10記載のとおり,公社から,八王子市α8×
××番地先外下水道築造46(公2工区)工事(以下「本件工事10」と
いう。)を,契約金額3億6225万円(うち消費税及び地方消費税額1
725万円)で請け負った(甲14の10,甲サ328)。
サ平成12年5月29日,P23株式会社(以下「P23」という。)を
代表者とする「P23・P24建設共同企業体」は,別紙工事目録11記
載のとおり,公社から,八王子市α4×××番地先外下水道築造46(公
4工区)工事(以下「本件工事11」という。)を,契約金額3億475
5万円(うち消費税及び地方消費税額1655万円)で請け負った(甲1
4の11,甲サ328)。
シ平成12年7月31日,被告P10を代表者とする「P15・P25建
設共同企業体」は,別紙工事目録12記載のとおり,公社から,八王子市
α9××××番地先外下水道築造46(公3工区)工事(以下「本件工事
12」という。)を,契約金額3億0240万円(うち消費税及び地方消
費税額1440万円)で請け負った(甲14の12,甲サ328)。
ス平成12年8月23日,被告P11を代表者とする「P11・P18建
設共同企業体」は,別紙工事目録13記載のとおり,公社から,八王子市
α10×××番地先外下水道築造46(公1工区)工事(以下「本件工事
13」という。)を,契約金額8億2950万円(うち消費税及び地方消
費税額3950万円)で請け負った(甲14の13,甲サ328)。
(3)公社における工事の発注方法等(以下,甲サ64,436,438,43
9)
ア指名競争入札
公社では,原則として,工事予定価格が500万円以上の土木工事につ
いては,あらかじめ工事の件名,工事の概要,工事の格付等を公示して入
札に参加することを希望する者を公募し,入札参加希望者に工事希望票を
提出させた上,指名業者選定委員会の審議を経て,入札に参加する指名業
者を選定し,同指名業者による入札を実施する「発注予定工事公表制度」
(通称「工事希望型指名競争入札」)によって工事の発注をすることとし
ている。
イ事業者の格付
公社では,公社が入札参加資格を満たす者として登録している有資格者
の中から入札参加者を募り,入札参加希望者の中から指名競争入札の参加
者を指名しているところ,有資格者は,その事業規模等により工種区分ご
とにAからEまでのいずれかのランク(以下「事業者ランク」という。)
に格付されている。
被告らは,土木工事のうち下水道工事及び一般土木工事の工種区分にお
ける事業者ランクがいずれもAとして格付されていた。
ウ土木工事の格付
また,公社が発注する土木工事は,その工事予定価格の額を基準とし,
これに工事の技術的な難易度等を勘案してAからEまでのいずれかのラン
クの工事に格付され(例えば,最も上位の格付等級であるAランクの工事
は,その予定価格が1億7000万円以上2億6000万円未満の工事で
ある。),さらに,工事予定価格が2億6000万円以上の工事について
は,建設共同企業体による共同施工方式で施工する工事として,「A・
C」(工事予定価格2億6000万円以上3億円未満),「A・B」(工
事予定価格3億円以上5億6000万円未満)及び「A・A」(工事予定
価格5億6000万円以上)の3等級に分けて格付されている。
エ入札参加者の指名
公社が指名競争入札の参加者として事業者を指名するに当たっては,発
注する工事のランクに対応する事業者ランクに格付された者の中から指名
することを基本とし,また,指名競争入札の参加者として建設共同企業体
を指名するに当たっては,事業者ランクがAである者を構成員のうちの代
表者とし,これと事業者ランクがAからCまでのいずれかの者との組合せ
による建設共同企業体を結成させ,同企業体を指名競争入札の参加者とし
ている。
オ入札における最低制限価格等
公社では,入札に当たって工事予定価格及び最低制限価格(工事予定価
格の約80%に相当する額)を設定しているが,平成11年9月までは,
工事予定価格を事前に公表しておらず,入札価格の全部が工事予定価格よ
りも高額である場合には,その場で2回まで再度入札を行うこととしてい
た。また,最低制限価格を下回る価格で入札した者は失格とし,最低制限
価格以上の価格で入札した者の中で最も低い価格で入札した者を落札者と
していた。
カ工事請負契約締結に至る手順
入札に参加する事業者の指名又は建設共同企業体の構成員となるべき者
の選定が行われた後の契約に至るまでの手順については,①事業者を指名
する場合には,公社による事業者10社の指名,指名した事業者に対する
現場説明会(公社の事務所で行われる。),入札,落札者との契約の順に
進められ,また,②建設共同企業体を指名する場合には,公社による建設
共同企業体の構成員となるべき者の指名(事業者ランクAの事業者10社
と,事業者ランクがAからCまでのいずれかの事業者10社との合計20
社),建設共同企業体結成についての説明会,入札参加者による建設共同
企業体結成の届出,現場説明会,入札,落札者との契約の順に進められる。
キ公社発注の特定土木工事の落札率等
(ア)平成9年10月1日から同12年9月27日までの期間における公
社発注の特定土木工事72件の工事件名,落札者及び落札率等は,別紙
「P12公社発注の特定土木工事一覧表」のとおりである(甲サ19
0)。
(イ)また,平成12年10月1日から同17年11月1日までの期間に
おける公社発注の特定土木工事139件の工事名,落札者及び落札率等
は,別紙「特定土木工事一覧表」のとおりである(乙イ2)。
(4)八王子市と公社の契約関係等
ア八王子市は,公社との間で,「八王子市公共下水道事業(事業の一部)
に関する業務委託契約書」を平成6年6月1日付け,同9年3月25日付
け及び同11年3月25日付けでそれぞれ交わし,八王子市の基本計画に
基づく公共下水道事業の建設工事,設計及び監督業務並びに調査業務につ
き,公社に対し業務の委託をする旨の契約を締結した(甲11の1ないし
3)。
同各契約によれば,八王子市は,公社に対し,委託費を支払うものとさ
れ,同委託費は,工事費,支障物件処理費及び公社の事務費から成るもの
とされているところ(甲11の1ないし3),このうち工事費は,公社と
工事請負人との間の契約額(契約変更があった場合は変更後の契約額)で
あるとされている(甲12,甲サ60)。
平成9年3月25日付け及び同11年3月25日付け上記各契約(以下,
総称して「本件各委託契約」という。)によれば,公社は,委託業務のう
ち,工事の全部又は一部について工事が完了したときは,八王子市の検査
を受けなければならず,その検査に合格した後,委託費の支払を八王子市
に請求する旨約定されている。
イ八王子市と公社との間では,本件各委託契約等に基づき,各年度の事業
実施協定書を交わしており(甲13の1ないし11),本件工事1ないし
13は,本件各委託契約及び事業実施協定に基づいて公社が発注したもの
である。
公社は,本件工事1ないし13につき,工事請負人と契約を締結した日
と同日付けの通知書をもって,八王子市に対し,契約書の写し1部を添付
した上,①工事件名,②契約金額,③工期,④契約年月日及び⑤契約先を
通知していた(甲14の1ないし13)。
ウ本件工事1ないし13は,それぞれ所定の工期ころに完成し,公社は,
工事請負人に対し,別紙工事目録1ないし13記載の各支払完了日までに
所定の代金を支払った。また,八王子市は,公社に対し,本件工事1ない
し13につき,工事完了ごとに公社からの請求に応じ,それぞれ本件各委
託契約に基づく委託費を支払った。なお,八王子市は,公社から提出され
る清算書により各年度の支払金額を確認し,これを確定している。(甲
1)
(5)公正取引委員会による課徴金の納付命令等
ア平成13年12月14日,公正取引委員会は,公社発注の土木工事の入
札参加業者のうち多摩地区において事業活動を行っている別紙「課徴金納
付命令対象事業者一覧」記載の広域総合建設業者34社(以下「34社」
という。)に対し,平成17年法律第35号による改正前の私的独占の禁
止及び公正取引の確保に関する法律(以下「改正前独占禁止法」とい
う。)48条の2第1項に基づき,課徴金の納付命令をした。課徴金額の
合計は6億9021万円であり,34社それぞれの課徴金額は上記別紙記
載のとおりである。また,課徴金の納付命令に係る対象物件は別紙「課徴
金納付命令対象物件一覧」記載のとおりであり,本件工事1ないし13は,
順次,同記載の番号4,25,29,23,10,6,24,28,37,
27,13,34及び7に該当する。(甲1,2,4の2)。
イ34社は,上記課徴金納付命令についていずれも審判手続の開始の請求
をした。そこで,公正取引委員会は,平成14年1月28日,34社に対
し,改正前独占禁止法49条2項に基づき,審判開始決定をした。(甲1,
15)
(6)住民監査請求,本件訴えの提起等
ア平成14年2月21日,原告らは,本件工事1ないし13につき,34
社による談合行為があり,八王子市はその被害者であるとして,八王子市
監査委員に対し,八王子市長が34社に対して有する損害賠償請求権を適
正に行使するよう勧告することを求めて住民監査請求(以下「本件監査請
求」という。)をした(甲1)。
イ平成14年4月19日,八王子市監査委員は,①本件工事1ないし13
につき,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁
止法」という。)3条に違反する行為(いわゆる談合行為)の存否を確認
することができないこと,②談合行為の存否は,現時点で八王子市が具体
的に立証できるほど明白なものとなっておらず,公正取引委員会の審決が
確定した上で損害賠償請求権の行使について検討することが妥当であり,
八王子市長が民法709条に基づく損害賠償請求権を行使しないことは,
違法又は不当に財産の管理を怠る事実に該当しないことなどの理由で,本
件監査請求を棄却した上,「公正取引委員会の審決の確定により,13件
の監査請求対象工事に関する談合行為が認定され,市の損害が明らかにな
った場合には,関係者と協議の上,本件13社に対し,速やかに損害賠償
請求権を行使されたい。」との「市長に対する意見」を付した(甲1)。
ウ平成14年5月17日,原告らは本件訴えを提起した。
なお,原告らは,平成17年2月8日の本件第11回口頭弁論期日にお
いて,予備的請求に係る請求の趣旨が記載された準備書面を陳述し,同期
日において,被告P13を除く被告らは,原告らの予備的請求を棄却する
旨の判決を求めた。
2争点
(1)談合に関する基本合意の存否
被告らを含む別紙業者一覧表記載の広域総合建設業者80社の間において,
公社発注の土木工事につき,受注価格の低落防止等を図るため,あらかじめ
受注予定者を決定し,受注予定者が予定価格近似の金額で落札できるよう協
力する旨の談合に関する基本合意が存在したかどうか(原告らの主位的請求
に係る争点)。
(2)個別談合の存否
談合に関する基本合意が認められない場合であっても,本件工事1ないし
8,10,12及び13について個別に談合が存在し,落札業者が不法行為
責任を負うかどうか(原告らの予備的請求に係る争点)。
また,そもそも原告らの予備的請求は,住民監査請求を前置したものとい
えるかどうか。
(3)八王子市における損害の発生
公社発注の土木工事につき談合の事実があったとして,八王子市に損害が
生じたことになるかどうか。
(4)損害の額
本件工事1ないし13について談合の事実があったとして,本件工事1な
いし13の請負契約において決められた現実の契約金額と,談合という不法
行為がなかった場合に決められたであろう契約金額との差額(損害)は幾ら
か。
(5)違法な怠る事実の有無
八王子市長は,公正取引委員会の審決が確定した後に独占禁止法25条に
基づく損害賠償請求権を行使することが合理的であり,同審決がされていな
い時点において,民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しなくて
も,債権の管理を違法に怠っているとはいえず,したがって,原告らが,改
正前法242条の2第1項4号に基づき,八王子市に代位して損害賠償請求
をすることは許されないかどうか。
3争点に関する当事者の主張
(原告らの主張)
(1)本件の背景事情,被告らの共通認識,受注調整を行っていた業者の範囲等
ア多摩地区に営業所を置く広域総合建設業者は,以前,P26と称する会
を組織し,各社の多摩地区土木工事の営業担当者等がこの会に参加してい
た。同会は,昭和54年ころに発足し,平成4年ころまで存続していたが,
同年5月15日に公正取引委員会がP26の会員を含む埼玉県発注の土木
工事の入札参加者に対して勧告を行ったのを契機として解散した。
しかしながら,P26の解散後も,旧会員らのほか,同解散後に多摩地
区に進出した会社や,多摩地区に営業所を置かずに事業活動を行っている
会社の営業担当者を含めて,恒例的に懇親会が開催されている。また,P
26の解散以前には,広域総合建設業者各社の多摩地区における営業担当
者を掲載した名簿が作成されていたところ,解散後もほぼ同じ体裁の名簿
が作成されている。
イP26存続当時,会員である広域総合建設業者の間では,工事の入札に
当たって,受注意欲を持つ会社や,発注される工事との関連性を持つ会社
がある場合には,当該受注意欲や関連性を尊重することによって各社同士
で競争を避けることが望ましいとの認識が存しており,受注を希望する者
の間の話合いが難航した場合には,P26の会長等の役員が調整に当たっ
ていた。
P26の解散後においても,多摩地区において事業活動を行う広域総合
建設業者各社は,工事の入札に当たって,受注意欲を持つ会社や,発注さ
れる工事との関連性を持つ会社がある場合には,当該受注意欲や関連性を
尊重することによって各社同士で競争することを避けることが望ましいと
の認識を有している。
ウP27新聞社は,業界で取りまとめた多摩地区で営業活動を行う広域総
合建設業者を掲載した営業関係者名簿を作成しているが,同名簿に掲載さ
れている業者は,前記イで述べた認識を有し,相互に協力し合う仲間であ
るとの認識を有していた。多摩地区で事業活動を行う業者であっても,地
元の土木工事会社,道路工事や橋梁工事の専門業者,あるいは地元の大手
建設業者などは,個別に受注調整の話合いを行うことはあったとしても,
上記共通認識の下で受注調整を行っている仲間とは認識されていない。
(2)原告らの主位的主張(争点(1)及び(4))について
ア被告らの基本合意について
被告らを含む別紙業者一覧表記載の業者80社は,公社発注の特定土木
工事について,受注価格の低落防止を図り,予定価格近似の金額で落札で
きるようにするため,遅くとも平成9年10月1日までには,同日から同
12年9月27日までの間に発注された72件の工事について,①公社か
ら指名競争入札の参加者として指名を受けた場合(自社が構成員である建
設共同事業体が指名を受けた場合を含む。)には,当該工事若しくは当該
工事の施工場所との関連性が強い業者若しくは建設共同事業体又は当該工
事について受注の希望を表明する者若しくは建設共同企業体(以下「受注
希望者」という。)が1名のときは,その者を受注予定者とし,受注希望
者が複数のときは,それぞれの者の当該工事又は当該工事の施工場所との
関連性等の事情(以下「条件」という。)を勘案して,受注希望者間の話
合いにより受注予定者を決定する,②受注すべき価格は,受注予定者が決
め,受注予定者以外の者は,受注予定者が決めた価格で受注できるように
協力する旨合意していた(以下,この合意を「基本合意」という。)。
この受注予定者の決定には,当時,被告P13のα11営業所長であっ
たP28が大きな役割を演じていた。すなわち,公社発注の工事を受注し
ようとする業者は,事前にP28の下へ受注意欲を表明しに行く慣行があ
った。P28の下には,どの業者がどの工事に強い「条件」を持っている
か,どの企業がどの工事に受注希望を表明しているかなどの情報が集まっ
ていることから,業者間での競争を回避する調整が「P28参り」という
慣行等の中で行われてきたのである。
基本合意に参加していた業者は,別紙業者一覧表記載の業者で,いずれ
もP27新聞社が作成した営業関係者名簿に記載されている。この営業関
係者名簿は,被告らの側で取りまとめ,同新聞社が発行したものである。
イ基本合意に基づく受注予定者の決定と個別工事の受注調整
公社は,あらかじめ発注予定工事の工事件名,工事概要,工事の格付等
級及び申込期限等を公示し,工事希望型指名競争入札で土木工事の発注を
行っていた。
被告らのうち,基本合意により受注予定者とされた業者は,他の入札参
加者が基本合意に参加していた業者(以下「仲間業者」という。)であれ
ば受注調整を行うことが容易であることから,仲間業者に対し工事希望票
の提出を依頼し,依頼を受けた業者は,受注予定者の依頼に応じ,公社に
対し工事希望票を提出するなどしていた。
受注予定者は,遅くとも現場説明会までには,当該工事の入札に参加す
る業者を知ることができた。入札参加者の中に仲間業者以外の地元業者や
専門業者が指名されている場合は,受注予定者がそれらの業者に個別に協
力を依頼し,協力が得られたときは受注調整が成立するが,協力が得られ
ないときには受注予定者と地元業者等との間で競り合いとなる場合があっ
た。
受注調整が成立した案件については,受注予定者が受注すべき価格を決
め,少なくとも入札が実施されるまでの間に,相指名業者に入札してもら
う価格を連絡したり,相指名業者の入札価格を確認したりするなどし,自
社が予定価格近似の金額で落札できるよう働きかけ,相指名業者は受注予
定者の落札に協力していた。
その結果,受注予定者は,予定価格近似の金額で工事を落札することが
でき,これによって八王子市は,競争が成立した場合の落札金額との差額
に相当する損害を被った。
ウ被告らの共同不法行為責任
上記のとおり,被告らは,公社発注の土木工事において,事前に受注予
定者を決定し,互いに受注予定者の入札に協力することで,受注予定者が
予定価格近似の金額で落札できるようにするとの基本合意を行っている。
この基本合意をした広域総合建設業者については,談合という不法行為を
行う故意があり,このような基本合意には違法性も認められる。そして,
公社が特定土木工事を発注した後の具体的な行為は,この基本合意に基づ
く因果の流れと評価することができる。
したがって,被告らは,自社が入札に参加した工事だけでなく,公社が
発注し,受注調整が成立した本件工事1ないし13について生じた八王子
市の損害について,連帯して賠償する責任がある。
エ損害の額
本件工事1ないし13に関する談合によって八王子市が被った損害の額
は,別紙工事目録1ないし13記載の各落札価格の合計金額43億150
0万円と各最低制限価格の合計金額34億7190万5000円との差額
に,消費税5%相当額を加算した8億8524万9750円となる。
(3)原告らの予備的主張(争点(2)及び(4))について
仮に,原告ら主張の基本合意の存在が,受注調整の基本ルールとして認め
られないとした場合には,各個別談合の成立について,原告らは次のとおり,
予備的主張を行う。
別紙工事目録1ないし8,10,12及び13の落札業者欄記載の被告ら
は,工事件名欄記載の各工事につき,入札日欄記載の入札実施期日までの間
に,落札業者を除く「入札参加業者及び開札結果」欄記載の各業者(別紙業
者一覧表記載以外の業者を含む。また,建設共同企業体の場合には主として
代表者である先頭に記載の各業者。)に働きかけ,自社を受注予定者すなわ
ち「本命」として取り決めさせ,その入札において,自社の入札価格又は相
手方に入札してもらう価格を連絡し,あるいは相手方の入札価格を確認する
などして,予定どおり自社が落札した。その結果,落札業者欄記載の被告ら
は,競争を回避し,予定価格近似の価格で落札することにより,本件工事1
ないし8,10,12及び13を公社に委託した八王子市に対し,落札価格
から最低制限価格を差し引いた金額に消費税5%分を加えた金額の損害を与
えたものである。原告らは,談合に参加した「入札参加業者及び開札結果」
欄記載の各業者のうち,落札業者欄記載の被告らに対し,上記損害を賠償す
るよう求める。
なお,住民監査請求の対象と住民訴訟の対象は完全に一致する必要はなく,
事件としての同一性があれば足りるから,予備的請求についても住民監査請
求の前置に欠けるところはない。
ア本件工事1について
被告P1は,平成8年に初めてα12営業所を開設したことから,多摩
地区における受注実績がなく,受注実績を作りたかったため,本件工事1
の受注を希望していた。
被告P1は,公社が本件工事1の入札予定を公表したころ,P29株式
会社(以下「P29」という。)に対して,自社が本件工事1の受注を希
望している旨を伝え,また,P30株式会社(以下「P30」という。)
に対し,公社に工事希望票を提出するよう依頼した。
本件工事1は,その予定価格からAランクの工事とされ,公社は,事業
者ランクAの業者10社を指名した。指名された業者はいずれも営業関係
者名簿に掲載されており,被告らにおいて仲間業者とされているものであ
る。
公社が指名を行った平成10年2月24日以降,被告P1は,指名を受
けた各社に対して,自社が本件工事1の受注を希望している旨を伝えた。
指名を受けた業者は,以上の過程で被告P1が本件工事1の受注を希望
していることを認識し,それに異議を唱えず,入札において,自社の入札
価格が被告P1の入札価格よりも高い価格となることを認識した上で入札
に参加し,被告P1が予定価格近似の金額で落札できるように協力した。
被告P1は,上記合意に基づき受注予定者となり,指名を受けた各社の
協力を得て,本件工事1につき,予定価格2億4505万2000円の9
9.77%に当たる2億4450万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格2億4450万円から最低制限価格1
億9604万2000円を差し引いた4845万8000円に消費税5%
相当額242万2900円を加えた5088万0900円の損害を被った。
イ本件工事2について
被告P2は,自社と特別な関係にある建設コンサルタントであるP31
が,本件工事2に係る調査設計作業の入札参加者として指名されたことか
ら,本件工事2の受注を希望していた。
被告P2は,P28に対し,P31から入手した調査設計作業の工事設
計書など発注情報に関する資料を持参して,自社が本件工事2の受注を希
望している旨を伝えた。
本件工事2は,その予定価格から「A・C」ランクの工事とされ,公社
は,建設共同企業体の代表者となるべき業者として事業者ランクAの業者
10社を選定し,その下で構成員となる業者として事業者ランクCの業者
並びに直近上位の事業者ランクBの業者及び直近下位の事業者ランクDの
業者から10社を選定し指名した。指名された事業者ランクAの業者10
社のうち,株式会社P32,P33株式会社及びP34株式会社を除く7
社は,仲間業者とされているものである。
公社が指名を行った平成10年4月28日以降,被告P2は,本件工事
2の施工場所の最も近くに所在する株式会社P17とP2・P17建設共
同企業体を結成した。
被告P2は,入札日である平成10年5月26日までに,指名を受けた
各社に対して,自社が本件工事2の受注を希望している旨を伝え,また,
入札してもらう価格を連絡し,又は相手方の入札価格を確認した。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P2を代表者とするP2・P1
7建設共同企業体が本件工事2の受注を希望していることを認識し,それ
に異議を唱えず,入札において自社の組織する建設共同企業体の入札価格
がP2・P17建設共同企業体の入札価格よりも高い価格となることを認
識した上で入札に参加し,P2・P17建設共同企業体が予定価格近似の
金額で落札できるように協力した。
P2・P17建設共同企業体は,上記合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた各社の協力を得て,本件工事2につき,予定価格2億832
2万8000円の99.21%に当たる2億8100万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格2億8100万円から最低制限価格2
億2658万3000円を差し引いた5441万7000円に消費税5%
相当額272万0850円を加えた5713万7850円の損害を被った。
ウ本件工事3について
被告P3は,本件工事3の受注を希望しており,平成9年6月以前から
受注に向けて運動を続けていた。
本件工事3は,その予定価格から「A・B」ランクの工事とされ,公社
は,建設共同企業体の代表者となるべき業者として事業者ランクAの業者
10社を選定し,その下で構成員となる業者として事業者ランクBの業者
7社及び直近下位の事業者ランクCの業者3社を選定し指名した。指名さ
れた事業者ランクAの業者10社のうち,P35株式会社(以下「P3
5」という。),P36株式会社(以下「P36」という。),被告P1
1,被告P3,旧P7及び株式会社P37(以下「P37」という。)は
営業関係者名簿に掲載されており,仲間業者とされているものである。
公社が指名を行った平成11年3月9日以降,被告P3はP18株式会
社(以下「P18」という。)とP3・P18建設共同企業体を結成した。
被告P3は,入札日である平成11年3月29日までに,指名を受けた
各社に対して,自社が本件工事3の受注を希望している旨を伝え,また,
相手方の入札価格を確認した。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P3を代表者とするP3・P1
8建設共同企業体が本件工事3の受注を希望していることを認識し,それ
に異議を唱えず,入札において自社の組織する建設共同企業体の入札価格
がP3・P18建設共同企業体の入札価格よりも高い価格となることを認
識した上で,又は受注する可能性がないと思われる価格で入札に参加し,
P3・P18建設共同企業体が予定価格近似の金額で落札できるように協
力した。
P3・P18建設共同企業体は,上記の合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた各社の協力を得て,本件工事3につき,予定価格3億663
3万6000円の99.91%に当たる3億6600万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格3億6600万円から最低制限価格2
億9307万円を差し引いた7293万円に消費税5%相当額364万6
500円を加えた7657万6500円の損害を被った。
エ本件工事4について
被告P4は,自社と特別な関係にある建設コンサルタントであるP38
が,本件工事4に係る調査設計作業の入札参加者として指名されたことか
ら,本件工事4の物件の受注を希望していた。
被告P4は,P28に対し,本件工事4に係る設計仕様書及び図面等を
持参して,自社が本件工事4の受注を希望している旨を伝えた。また,被
告P4は,公社が本件工事4の入札予定を公表した後,少なくともP39
株式会社(以下「P39」という。)及びP40株式会社(以下「P4
0」という。)に対し,公社に工事希望票を提出するよう依頼した。依頼
を受けた各社は,被告P4が本件工事4の受注を希望していることを認識
した上で,公社に対し工事希望票を提出した。
本件工事4は,技術困難としてAランクの工事とされ,公社は,事業者
ランクAの業者10社を指名した。指名された業者のうち,P41株式会
社(以下「P41」という。),被告P4,P39,P42株式会社(以
下「P42」という。),P43株式会社(以下「P43」という。)及
びP40は営業関係者名簿に掲載されており,仲間業者とされているもの
である。
公社が指名を行った平成11年3月23日以降,入札日である同年4月
5日までに,被告P4は,指名を受けた各社に対して,自社が本件工事4
の受注を希望している旨を伝え,また,入札してもらう価格を連絡し,又
は相手方の入札価格を確認した。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P4が本件工事4の受注を希望
していることを認識し,それに異議を唱えず,入札において自社の入札価
格が被告P4の入札価格よりも高い価格となることを認識した上で入札に
参加し,被告P4が予定価格近似の金額で落札できるように協力した。
被告P4は,上記の合意に基づき受注予定者となり,指名を受けた各社
の協力を得て,本件工事4につき,予定価格2億3518万6000円の
97.79%に当たる2億3000万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格2億3000万円から最低制限価格1
億8815万円を差し引いた4185万円に消費税5%相当額209万2
500円を加えた4394万2500円の損害を被った。
オ本件工事5について
被告P5は,20年くらい前に本件工事5の施工場所から数百メートル
の場所で八王子市発注の下水道工事を施工した実績があったこと,他の仲
間業者が受注を希望している様子がなかったこと,被告P5は平成2年こ
ろから公社の土木物件を受注していなかったことなどから,本件工事5の
受注を希望していた。
被告P5は,平成11年4月ころ,P28に対し,本件工事5の受注を
希望している旨を伝えた。このようなことから,本件工事5について,被
告P5は,基本合意により,仲間業者から受注予定者とされていた。
被告P5は,公社が本件工事5の入札予定を公表した後,少なくとも被
告P8に対して,自社が本件工事5の受注を希望している旨を伝え,また,
P39,株式会社P44(以下「P44」という。),P45株式会社
(以下「P45」という。),株式会社P46(以下「P46」とい
う。),P43,P47株式会社及びP40等に対して,公社に工事希望
票を提出するよう依頼した。依頼を受けた各社は,被告P5が本件工事5
の受注を希望していることを認識した上で,公社に対し工事希望票を提出
した。
本件工事5は,その予定価格からAランクの工事とされ,公社は,事業
者ランクAの業者10社を指名した。指名された業者のうち,P46,被
告P5,被告P8,P39,P45,P44,P43及び株式会社P48
(以下「P48」という。)は,営業関係者名簿に掲載されており,仲間
業者とされているものである。
公社が指名を行った平成11年6月8日以降,入札日である同月21日
までに,被告P5は,指名を受けた各社に対して,自社が本件工事5の受
注を希望している旨を伝え,また,自社の入札価格若しくは入札してもら
う価格を連絡し,又は相手方の入札価格を確認した。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P5が本件工事5の受注を希望
していることを認識し,それに異議を唱えず,入札において自社の入札価
格が被告P5の入札価格よりも高い価格となることを認識した上で入札に
参加し,被告P5が予定価格近似の金額で落札できるよう協力した。
被告P5は,上記の合意に基づき受注予定者となり,指名を受けた各社
の協力を得て,本件工事5につき,予定価格2億3804万6000円の
99.77%に当たる2億3750万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格2億3750万円から最低制限価格1
億9044万円を差し引いた4706万円に消費税5%相当額235万3
000円を加えた4941万3000円の損害を被った。
カ本件工事6について
被告P6は,自社と特別な関係にある建設コンサルタントであるP49
が,本件工事6に係る調査設計作業の入札参加者として指名されたことか
ら,本件工事6の受注を希望していた。被告P6は,基本合意に基づき,
本件工事6の受注予定者とされていた。
被告P6は,公社が本件工事6の入札予定を公表した後,少なくとも株
式会社P50(以下「P50」という。)に対して,公社に工事希望票を
提出するよう依頼した。依頼を受けたP50は,被告P6が,基本合意に
より本件工事6の受注予定者であることを認識した上で,公社に対し工事
希望票を提出した。
本件工事6は,その予定価格から「A・B」ランクの工事とされ,公社
は,事業者ランクAの業者と事業者ランクBの業者からそれぞれ10社を
指名した。事業者ランクAとして指名された業者のうち,少なくとも株式
会社P51を除く9社は営業関係者名簿に掲載されており,仲間業者とさ
れているものである。
公社が指名を行った平成11年6月8日以降,被告P6は,P19株式
会社(以下「P19」という。)とP6・P19建設共同企業体を結成し
た。
被告P6は,入札日である平成11年6月28日までに,指名を受けた
P50や株式会社P52(以下「P52」という。)などに対して,入札
してもらう価格を連絡し,又は相手方の入札価格を確認した。
指名を受けたすべての業者は,以上の過程で被告P6を代表者とするP
6・P19建設共同企業体が本件工事6の受注を希望していることを認識
し,それに異議を唱えず,入札において自社の組織する建設共同企業体の
入札価格がP6・P19建設共同企業体の入札価格よりも高い価格となる
ことを認識した上で入札に参加し,P6・P19建設共同企業体が予定価
格近似の金額で落札できるよう協力した。
P6・P19建設共同企業体は,上記合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた各社の協力を得て,本件工事6につき,予定価格4億735
2万5000円の99.89%に当たる4億7300万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格4億7300万円から最低制限価格3
億7882万円を差し引いた9418万円に消費税5%相当額470万9
000円を加えた9888万9000円の損害を被った。
キ本件工事7について
旧P7は,本件工事7の施工場所の近隣において下水道築造工事を施工
した実績があるため,本件工事7の受注を希望していた。
旧P7は,P28に対し,自社が本件工事7の受注を希望している旨を
伝えた。旧P7は,基本合意により,本件工事7の受注予定者とされてい
た。
旧P7は,公社が本件工事7の入札予定を公表した後,少なくともP5
3株式会社(以下「P53」という。)に対し,公社に工事希望票を提出
するよう依頼した。依頼を受けたP53は,旧P7が,基本合意により本
件工事7の受注予定者とされていることを認識した上で,公社に対し工事
希望票を提出した。
本件工事7は,その予定価格から「A・B」ランクの工事とされ,公社
は事業者ランクAの業者と事業者ランクBの業者からそれぞれ10社を指
名した。指名された事業者ランクAの業者のうち,少なくともP54株式
会社,P55株式会社及びP56株式会社(以下「P56」という。)を
除く7社は営業関係者名簿に掲載されており,仲間業者とされているもの
である。
公社が指名を行った平成11年7月27日以降,旧P7は,P20株式
会社とP7・P20建設共同企業体を結成した。
旧P7は,入札日である平成11年8月16日までに,指名を受けた業
者に対して,自社が本件工事7の受注を希望している旨を伝え,また,入
札してもらう価格を連絡した。
指名を受けた業者は,以上の過程で旧P7を代表者とするP7・P20
建設共同企業体が本件工事7の受注を希望していることを認識し,それに
異議を唱えず,入札において自社の組織する建設共同企業体の入札価格が
P7・P20建設共同企業体の入札価格よりも高い価格となることを認識
した上で入札に参加し,P7・P20建設共同企業体が予定価格近似の金
額で落札できるよう協力した。
P7・P20建設共同企業体は,上記合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた業者の協力を得て,本件工事7につき,予定価格3億127
0万8000円の99.77%に当たる3億1200万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格3億1200万円から最低制限価格2
億5017万円を差し引いた6183万円に消費税5%相当額309万1
500円を加えた6492万1500円の損害を被った。
ク本件工事8について
被告P8は,自社と特別な関係にある建設コンサルタントであるP57
が本件工事8に係る調査設計作業の入札参加者として指名されたこと,及
び平成9年にα13営業所を開設してから多摩地区における受注実績がな
く受注実績を作りたかったことから,本件工事8の受注を希望していた。
被告P8は,P28に対し,P57から入手した調査設計作業の情報を
持参して,自社が本件工事8の受注を希望している旨を伝え,基本合意に
より,本件工事8の受注予定者とされていた。
被告P8は,公社が本件工事8の入札予定を公表した後,少なくともP
40及びP58株式会社(以下「P58」という。)に対し,公社に工事
希望票を提出するよう依頼した。依頼を受けた各社は,被告P8が本件工
事8の受注を希望していることを認識した上で,公社に対し工事希望票を
提出した。
本件工事8は,その予定価格からAランクの工事とされ,公社は,事業
者ランクAの業者10社を指名した。指名された業者のうち,少なくとも
P58と被告P8は,営業関係者名簿に掲載されており,仲間業者とされ
ているものである。
公社が指名を行った平成11年8月3日以降,入札日である同月16日
までに,被告P8は,指名を受けたP58や他の業者に対して,自社が本
件工事8の受注を希望している旨を伝えた。
指名を受けた業者は,以上の過程で被告P8が本件工事8の受注を希望
していることを認識し,それに異議を唱えず,入札において自社の入札価
格が被告P8の入札価格よりも高い価格となることを認識した上で入札に
参加し,被告P8が予定価格近似の金額で落札できるよう協力した。
被告P8は,上記の合意に基づき受注予定者となり,指名を受けた各社
の協力を得て,本件工事8につき,予定価格2億0681万9000円の
99.60%に当たる2億0600万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格2億0600万円から最低制限価格1
億6575万円を差し引いた4025万円に消費税5%相当額201万2
500円を加えた4226万2500円の損害を被った。
ケ本件工事10について
被告P9は,本件工事10の施工場所の近隣において施工した実績があ
ること,及び自社と特別な関係にある建設コンサルタントが本件工事10
に係る調査設計作業の入札参加者として指名されたことから,本件工事1
0の受注を希望していた。被告P9は,基本合意により,本件工事10の
受注予定者とされていた。
被告P9は,公社が本件工事10の入札予定を公表した後,少なくとも
被告P4に対し,自社が本件工事10の受注を希望している旨を伝えた上
で,公社に工事希望票の提出をするよう依頼した。依頼を受けた被告P4
は,被告P9が本件工事10の受注を希望していることを認識した上で,
公社に対し工事希望票を提出した。
本件工事10は,その予定価格から「A・B」ランクの工事とされ,公
社は事業者ランクAの業者と事業者ランクBの業者からそれぞれ10社を
指名した。指名された事業者ランクAの業者のうち,少なくとも建設共同
企業体の代表者となったP41,株式会社P59(以下「P59」とい
う。),被告P9,P30,被告P4,株式会社P60(以下「P60」
という。)及び株式会社P61(以下「P61」という。)は,営業関係
者名簿に掲載されており,仲間業者とされているものである。
公社が指名を行った平成12年4月11日以降,被告P9はP22株式
会社とP9・P22建設共同企業体を結成した。
被告P9は,入札日である平成12年5月1日までに,指名を受けた被
告P4,P60,P59及びP41等に対して,自社が本件工事10の受
注を希望している旨を伝え,また,入札してもらう価格を連絡し,若しく
は相手方の入札価格を確認し,又はこれらの者から自社の入札価格の確認
を受けた。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P9を代表者とするP9・P2
2建設共同企業体が本件工事10の物件の受注を希望していることを認識
し,最終的には,入札において,自社の組織する建設共同企業体の入札価
格がP9・P22建設共同企業体の入札価格よりも高い価格となることを
認識した上で入札に参加し,P9・P22建設共同企業体が予定価格近似
の金額で落札できるよう協力した。
P9・P22建設共同企業体は,上記合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた各社の協力を得て,本件工事10につき,予定価格3億51
80万5000円の98.07%に当たる3億4500万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格3億4500万円から最低制限価格2
億8144万円を差し引いた6356万円に消費税5%相当額317万8
000円を加えた6673万8000円の損害を被った。
コ本件工事12について
被告P10は,多摩地区において長い間受注実績がなかったため,本件
工事12の受注を希望していた。
本件工事12は,公社において,その予定価格から「A・C」ランクの
工事とされ,公社は,事業者ランクAの業者と事業者ランクCの業者から
それぞれ10社を指名した。指名された事業者ランクAの業者のうち,少
なくとも被告P10,P58,P39及びP44は,営業関係者名簿に掲
載されており,仲間業者とされているものである。
被告P10は,単独であれば本件工事12の受注予定者となる条件は有
していなかったが,建設共同企業体の代表者として指名された仲間業者の
中にはいずれも受注予定者になり得る条件を持っている業者がなかった。
被告P10は,公社が本件工事12の入札予定を公表したころ,P28
に対し,自社が,本件工事12の受注を希望している旨を伝え,建設共同
企業体の構成員の中では最も優れた地域性を有しているP25株式会社と
建設共同企業体を結成する合意ができたことから,基本合意により本件工
事12の受注予定者とされることになった。
被告P10は,入札日である平成12年7月31日までに,指名を受け
た広域総合建設業者各社に対して,相手方の入札価格を確認し,又は同各
社から自社の入札価格の確認を受けるなどした。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P10を代表者とするP15・
P25建設共同企業体が本件工事12の受注を希望していることを認識し,
それに異議を唱えず,入札において自社の組織する建設共同企業体の入札
価格がP15・P25建設共同企業体の入札価格よりも高い価格になるこ
とを認識した上で入札に参加し,P15・P25建設共同企業体が予定価
格近似の金額で落札できるよう協力した。
P15・P25建設共同企業体は,上記合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた広域総合建設業者各社の協力を得て,本件工事12につき,
予定価格2億9080万9000円の99.03%に当たる2億8800
万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格2億8800万円から最低制限価格2
億3265万円を差し引いた5535万円に消費税5%相当額276万7
500円を加えた5811万7500円の損害を被った。
サ本件工事13について
被告P11は,本件工事13の施工場所の近隣において八王子市発注の
下水道工事を施工した実績があるため,本件工事13の受注を希望してい
た。被告P11は,基本合意により,本件工事13の受注予定者とされて
いた。
被告P11は,公社が本件工事13の入札予定を公表した後,P62株
式会社(以下「P62」という。),P63株式会社(以下「P63」と
いう。),P37,被告P3,P21,P39,株式会社P64(以下
「P64」という。),P65株式会社(以下「P65」という。),株
式会社P66,株式会社P67(以下「P67」という。),P41,株
式会社P68(以下「P68」という。),P69株式会社(以下「P6
9」という。),P70株式会社(以下「P70」という。),P71株
式会社(以下「P71」という。)及びP72株式会社に対して,自社が
本件工事13の受注を希望している旨を伝えた上で,公社に工事希望票を
提出するよう依頼した。依頼を受けた各社は,被告P11が基本合意によ
り本件工事13の受注予定者とされていることを認識した上で,公社に対
し工事希望票を提出した。
本件工事13は,その予定価格から「A・A」ランクの工事とされ,公
社は事業者ランクAの業者の中から20社を指名した。指名された業者の
うち,少なくとも建設共同企業体の代表者となった者は,いずれも営業関
係者名簿に掲載されており,仲間業者とされているものである。
公社が指名を行った平成12年8月1日以降,被告P11は,P18と
P11・P18建設共同企業体を結成した。
被告P11は,入札日である平成12年8月23日までに,指名を受け
た建設共同企業体の代表者各社に対して,自社が本件工事13の受注を希
望している旨を伝え,また,自社の入札価格若しくは入札してもらう価格
を連絡し,又は相手方の入札価格を確認した。
指名を受けた各社は,以上の過程で被告P11を代表者とするP11・
P18建設共同企業体が本件工事13の受注を希望していることを認識し,
それに異議を唱えず,入札において,自社の組織する建設共同企業体の入
札価格がP11・P18建設共同企業体の入札価格よりも高い価格となる
ことを認識した上で入札に参加し,P11・P18建設共同企業体が予定
価格近似の金額で落札できるよう協力した。
P11・P18建設共同企業体は,上記合意に基づき受注予定者となり,
指名を受けた各社の協力を得て,本件工事13につき,予定価格7億92
01万2000円の99.75%に当たる7億9000万円で受注した。
その結果,八王子市は,落札価格7億9000万円から最低制限価格6
億3361万円を差し引いた1億5639万円に消費税5%相当額781
万9500円を加えた1億6420万9500円の損害を被った。
(4)被告らの不法行為と八王子市の損害との関係(争点(3))について
八王子市と公社との間で締結された業務委託契約によれば,委託費は,工
事費,支障物件処理費及び公社の事務費から成っており,委託費のうち公社
の事務費は,八王子市と公社の協議によって定めた「事務費率算定基準」に
より算定することとなっている。実際には,公社が作成した基準を八王子市
が承認することで運用されており,いずれの自治体も同じ基準を適用してい
る。
本件に適用される「下水道業務受託事務費算定基準」によれば,工事監督
管理業務に関する事務費は,工事1件ごとの工事費(公社と工事請負人との
間の契約額。ただし,契約変更があった場合は変更後の契約額。)に金額ご
とに定められた事務費率を乗じて算出した金額(工事請負人と契約した後,
契約変更によって金額が変動した場合は,実変動額に4.4%を乗じた額を
加算する。)によって算出されることとなる。
以上述べたことから明らかなとおり,八王子市が公社に支払う委託料は,
公社と各契約を締結した被告らとの間の契約金額に連動する仕組みとなって
いるので,被告らの不法行為によって直接の発注者たる公社が被った損害は,
当然に委託主である八王子市に転嫁されることになる。
(5)違法な怠る事実の有無(争点(5))について
談合行為については,民法709条に基づく損害賠償請求権と独占禁止法
25条に基づく損害賠償請求権の2つの別個の請求権が考えられるが,これ
らの請求権は法律要件の異なる別個の金銭債権であり,別々に行使すること
が可能である以上,独占禁止法に基づく損害賠償請求権の行使を優先すべき
であるとする根拠は存在しない。
また,地方自治法及び地方自治法施行令の規定からすれば,金銭債権は,
それが存在する以上,行使するのが原則であり,行使しないことについての
裁量権は認められないと解すべきである。民法709条に基づく損害賠償請
求権については,独自に短期消滅時効が成立する可能性があるので,八王子
市は,時効中断等についての配慮もしないまま債権を行使しないことは許さ
れない。
(被告らの主張)
以下は,被告を個別に特定しない限り,被告ら共通の主張である。
(1)基本合意の存否(争点(1))について
原告らの主張する基本合意は不明確であり,具体性を欠く。
本件が,独占禁止法25条に基づく訴訟ではなく,不法行為に基づく損害
賠償請求訴訟であるという以上,原告らとしては,独占禁止法の不当な取引
制限の必要最小限の成立要件である基本的な抽象的合意ではなく,不法行為
の成立要件としての権利侵害及び違法性が認められるべき具体的事実を主張
しなければならないはずである。
原告らが基本合意なるものに加わった企業(事業者)を80社と主張する
のは,P27新聞社発行の営業関係者名簿によっているものと思われるが,
同名簿は,基本合意なるものとは何ら関係のないP27新聞社が作成したも
のであり,その作成の目的も基本合意の当事者の範囲を特定するためのもの
ではなかったのであるから,同名簿に記載してある事業者を基本合意の当事
者として特定するのは牽強付会の非難を免れない。
また,原告らは,「P28参り」の慣行の存在を主張する一方で,同慣行
により被告P13の従業員が受注予定者の決定に関与したとの事実は本件工
事12の1件を除いて主張立証しておらず,同慣行の根拠たる事実が全く主
張立証されていないのであるから,「P28参り」の慣行など存在しなかっ
たことは明白である。
これらの点をおくとしても,原告ら主張に係る基本合意は,現実には存在
せず,また,仮に存在し得たとしても,それは何ら不法行為を構成するもの
ではない。すなわち,公社発注の特定土木工事という一定の取引分野では,
その入札に参加した広域総合建設業者80社のみならず,同じく入札に参加
した地元業者162社をも加えた基本合意なるものを想定しなければ,その
取引分野における競争を実質的に制限することはできず,原告ら主張の基本
合意が存在するとしても,受注調整をなし得る合意とならないはずである。
結局,八王子市に一定の損害を与える受注調整を内容とする基本合意なるも
のは認められず,被告らが各個別工事を落札したことは,原告ら主張の基本
合意とは何らの因果関係もない。
(2)個別談合の存否(争点(2))について
原告らは,仮に基本合意が認められなくとも,個別工事を落札した被告ら
が行った個別談合により,個別工事に関する競争が回避され,当該入札の予
定価格に接近した価格で落札されていたため,八王子市に一定の損害を与え
ていたことになり,不法行為が成立すると主張する。
しかしながら,そのように基本合意が認められない場合には,受注調整に
関する基本的な認識基盤を欠いた事業者間で,指名から入札までの短期間に,
受注予定者を決め,他の事業者はこれに協力する旨を何らの下地もないまま
各事業者間で個別に,又は一同に会するなどして合意していかなくてはなら
ず,その個別談合の態様,内容,条件などは,個別物件ごとに千差万別なも
のとなるはずである。
そのため,原告らは,本件で個別談合を基礎付ける行為及びその形成過程
を各個別物件ごとに具体的に特定し,主張すべきであるにもかかわらず,基
本合意の存在を前提としているかのごとく,一定の推測から同様の抽象的表
現で各個別談合の状況を主張するにすぎないのであって,原告らの上記主張
は,それ自体失当である。
特に,前記のとおり,被告らを始めとする80社の広域総合建設業者のほ
かに,受注意欲及び受注能力ともにある162社の事業者が存在し,この1
62社との競争が成立する上,この162社と被告らは基本合意の存在すら
想定できないほど,受注調整に関する共通の認識がないのであるから,原告
らは,上記個別談合の主張を維持するのであれば,被告らによる指名及び入
札段階における上記162社に属する事業者との間の各競争を制限する行為
を個々具体的に明確にして特定すべきである。
なお,原告らの予備的請求は本件監査請求の対象となっていないため,予
備的請求に係る訴えは,住民監査請求を前置していない不適法な訴えといえ
る。
ア本件工事1に関する被告P1の主張
被告P1が本件工事1について個別談合を行ったことはない。
被告P1は平成8年に初めてα12営業所を開設したものであり,多摩
地区における受注実績がなかった。しかも,被告P1は,同年までは公社
発注の土木工事について事業者ランクがBであったものであり,被告P1
の事業者ランクがAとなったのは同9年からである。それゆえ,被告P1
にはいわゆる「条件」がなく,本件工事1を談合により落札できる可能性
は極めて小さいものであった。また,被告P1は,事業者ランクがAにな
って間もない業者であるため,仮に談合の基本合意が存在したとしても,
その理解が十分でなかったはずである。
被告P1が相指名業者に受注意欲を表明したのは,本件工事1の現場説
明会においてのみであり,その場で相指名業者から異議が出なかったとし
ても,被告P1が受注予定者と決まることにはならない。
また,被告P1の現場担当者は,同被告積算部に対し,本件工事1につ
き,より低額の積算をするよう要請し,その結果,2億4550万円との
入札価格が決定されたものの,さらに,同現場担当者は,同入札価格では
落札できないとの不安を感じ,100万円を減額して入札しているのであ
って,上記事実からも,被告P1が談合していないことは明らかである。
イ本件工事2に関する被告P2の主張
被告P2が本件工事2について個別談合を行ったことはない。
被告P2が本件工事2について受注を希望していることを他の広域総合
建設業者6社の関係者に表明したことがあったとの被告P2の元従業員の
供述が記載された供述調書は存在するが,同人は本件工事2の入札につい
ての被告P2の営業責任者でもなく,同入札についての入札参加事業者の
行動や対応についての同人の供述内容がすべて想像や伝聞にすぎないこと
は供述調書の記載自体から明らかであって,その信用性は著しく低い。ま
た,仮にそのような受注希望の表明がされたとしても,そのことが上記入
札の参加事業者全員による受注予定者の決定を意味するものでないことは
明らかであり,また,実際の入札に当たって,他の入札参加事業者がいず
れも受注予定者なる者が落札できるようにその者の入札価格より高い価格
で入札したという証拠はない。
そればかりか,上記広域総合建設業者6社のうち2社は,公正取引委員
会の審判手続における被審人にもなっておらず,入札に参加した建設共同
企業体のうち2団体は,その代表者が広域総合建設業者ですらない。
このように,本件工事2では,その入札参加事業者の相当部分がいわゆ
るアウトサイダーであったのであり,仮に本件について公正取引委員会の
勧告に係る違反行為なるものを前提にしても,およそ被告P2が受注調整
を行うことは不可能である。
ウ本件工事3に関する被告P3の主張
被告P3が本件工事3について個別談合を行ったことはない。
被告P3が被告P11に対して協力依頼をした旨記載されている関係者
の供述調書は,部下からの伝聞に基づく内容が記載されるなどしており,
信用できず,その他の関係者の供述調書も,むしろ談合がなかったことを
証明するものである。
エ本件工事4に関する被告P4の主張
被告P4が本件工事4について個別談合を行ったことはない。
本件では基本合意の存在が認められないところ,本件工事4につき,原
告らが主張する程度の協力依頼によって談合が成立する余地はない。原告
らが個別談合による不法行為を主張するのであれば,その主張責任からし
ても,行為者,時期及び行為の内容等により具体的な事実関係を示すべき
であり,そうでなければ,請求原因たる不法行為を特定したことにはなら
ない。
本件工事4に関する被告P4の従業員その他の関係者の供述調書等は,
抽象的かつあいまいな内容で,具体的かつ特徴的な事実を含まず,不自然
な部分もあって,信用性に乏しいものである。
オ本件工事5に関する被告P5の主張
被告P5が本件工事5について個別談合を行ったことはない。
本件工事5については,原告らが主張する基本合意の参加者以外の事業
者が指名されて入札参加者となっており,原告らの主張を前提としても,
入札の結果を左右する談合は成立し得ない。
そして,不法行為に基づく損害賠償請求を行うためには,個別談合行為
の特定が必要であるところ,原告らの主張によっては,いまだ個別談合行
為及びその個別談合の内容の形成経緯等が具体的に特定されていないので
あるから,原告らの主張は失当である。
カ本件工事6に関する被告P6の主張
被告P6が本件工事6について個別談合を行ったことはない。
被告P6が本件工事6を落札できたのは,受注調整によるものではない。
被告P6は,相当以前からの工事実績で,工事現場の土質を把握できてい
たことから,土質に対する不確定要素が他社より少なく,安全面に過度に
傾かない低い価格設定ができたし,現場に隣接した地元業者であるP19
と建設共同企業体を結成することで,価格低減に直結する種々のノウハウ
の提供が得られるなどの強みがあった。その結果,他社に勝てる入札価格
を見積もることができ,落札したものである。
本件工事6等に関する被告P6α14事務所長P73の供述調書は,そ
の信用性及び趣旨について争う。同供述調書の記載からしても,被告P6
の担当者が本件工事6の受注調整を認めていないことは明らかである。ま
た,本件工事6の関係者の供述調書についても,その内容は具体性を欠き,
その証明力及び信用性を争う。
キ本件工事7に関する引受参加人P7の主張
旧P7が本件工事7について個別談合を行ったことはない。
ク本件工事8に関する被告P8の主張
被告P8が本件工事8について個別談合を行ったことはない。
被告P8がP40らに工事希望票の提出を依頼したことは認めるが,P
58に同様の依頼をした事実は否認する。
また,被告P8が本件工事8の相指名業者に対し受注意欲を伝えた事実
はない。
ケ本件工事10に関する被告P9の主張
被告P9が本件工事10について個別談合を行ったことはない。
被告P9の従業員の供述調書は,何ら本件工事10で談合が行われたこ
とを記載しておらず,その他の関係者の供述調書の内容については不知な
いし否認する。
コ本件工事12に関する被告P10の主張
被告P10が本件工事12について個別談合を行ったことはない。
関係者の供述調書によっても,被告P10の従業員が他社と連絡を取る
などして個別談合をした事実は認められない。
また,本件工事12の指名業者である建設共同企業体の代表者のうち,
広域総合建設業者は被告P10を含めて4社にすぎず,6社は地元業者で
あるところ,原告らが本件工事12において個別談合が成立したと主張す
るのであれば,これら地元業者に対しても被告P10が受注予定者となる
ことの承認を得るとともに,入札に際して入札価格を連絡したことなどに
ついて具体的に主張立証すべきであるが,このような主張立証はない。
サ本件工事13に関する被告P11の主張
被告P11が本件工事13について個別談合を行ったことはない。
(3)八王子市における損害の発生(争点(3))について
原告らが主張する談合は,公社発注の特定土木工事についてされたという
のであるから,公社に損害が生じることはあっても,八王子市には損害が生
じない。
(4)損害の額(争点(4))について
原告らは,八王子市の被った損害は,各物件の落札価格と公社の定めた最
低制限価格の差額に消費税相当額を加えた金額であると主張する。原告らは,
その根拠として,平成9年10月1日から同12年9月27日までに入札が
行われた物件で,落札価格が予定価格の80%であるものが存在することを
挙げている。
しかしながら,原告らが主張しているのは落札価格が予定価格の80%で
ある物件が存在しているという事実のみであって,原告らの主張する基本合
意が存在しない場合においては,必ず落札価格が予定価格の80%となる理
由は述べていない。
この点,公正取引委員会による立入検査が行われた後の平成12年10月
1日から同17年9月30日までに入札のあった公社発注の特定土木工事1
39物件のうち,落札率が80%である物件は50件だけであり,残り89
物件は落札率は80%ではない。原告らの主張を前提とすれば,上記89物
件についても談合がされていたことになるが,上記139物件は公正取引委
員会によって違反行為が行われなくなったとされている同12年10月1日
以降に入札のあった物件であり,これらに関しては,公正取引委員会も談合
が行われたとは全く主張していない。この点のみを見ても,原告らの主張に
理由がないことは明らかである。
また,P74の調査によると,地方公共団体が発注者となる工事の落札率
は,全国平均で94%(平成15年度及び同16年度)とされている。
(5)違法な怠る事実の有無(争点(5))について
本件訴訟は,八王子市が被告らに対し不法行為に基づく損害賠償請求権を
有しているにもかかわらず,その行為を怠っているとして,改正前法242
条の2第1項4号に基づき,被告らを「財産の管理を怠る事実」に係る相手
方として,八王子市に賠償金を支払うようその請求権を代位行使するという
ものである。
ところで,その代位請求のためには,単に当該地方公共団体の執行機関等
の財務会計職員に財務会計上の怠る事実があるというだけでは足りず,その
怠るという不作為が作為義務に違反する違法なものであること,すなわち,
財務会計職員が請求等の権利行使をしなければならないことが法令の規定か
ら明らかである場合,又は,同職員に裁量権がある場合には権利を行使しな
いことがその裁量権の範囲を超え,若しくはその濫用となる場合に,初めて
許容されるものである。改正前法242条の2第1項4号は,地方公共団体
の住民に対し,損害賠償請求権等の地方公共団体の有する債権の行使につい
て行政権限を付与したものではなく,その不行使状態が作為義務に違反して
違法となったときに,地方財務行政の適正性確保の見地から,住民が訴えを
もってその是正等を求めることを認めたものであることに留意すべきである。
本件監査請求は,前記前提事実(6)イのとおり,談合行為の存否につき,現
時点で八王子市が具体的に立証できるほど明白なものとなっておらず,公正
取引委員会の審決が確定した上で損害賠償請求権の行使について検討するこ
とが妥当であり,八王子市長が民法709条に基づく損害賠償請求権を行使
しないことは,違法又は不当に財産の管理を怠る事実に該当しないなどの理
由で,棄却されており,八王子市監査委員は,損害賠償請求権の性質,内容
及び額の確定等のほか,行使の時期についても八王子市に裁量権があること
を前提に,公正取引委員会の審決の確定の時をめどにこれを検討するのが妥
当としている。すなわち,現時点において直ちに損害賠償請求権の行使をし
ないことをもって違法状態にあるとはいえないことを前提としているもので
ある。
民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権は,不法行為の時に期限
の定めのない債権として成立するが,この債権をいつ,どのように請求して
行使するかは権利者の自由であり,成立した時に行使しなければならないと
いうものではない。このことは,権利者が地方公共団体であっても同様であ
り,その請求権をいつ,どのように行使するかは地方公共団体の財務会計職
員の裁量にゆだねられ,当該地方公共団体に不利益を及ぼす特段の事情が認
められない限り,直ちに権利行使しないからといってこれを違法と評価する
ことはできない。そして,本件において,仮に被告らに対する損害賠償請求
権が認められるとしても,例えば,遅延損害金は不法行為の時から起算され
るし,その消滅時効の起算日は被害者が損害の発生を現実に知った時とされ,
また,独占禁止法25条に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算日は公正
取引委員会の審決確定の日とされているため(独占禁止法26条),八王子
市においては不当な取引制限に係る行為(談合)や損害を確認することがで
きないため審決が確定した時点で検討するという本件において,消滅時効が
進行し完成するおそれはなく,そのほかに損害賠償請求権を直ちに行使しな
ければ違法となるような特段の事情は存在しない。
特に,本件で問題となっている不当な取引制限に係る行為(談合)の存否
等は極めて専門的な分野に属するものであるから,それが公正取引委員会の
審査,審判手続等の対象となっているときは(平成14年1月28日の審判
開始決定以降,現在も審判期日が重ねられている。),その認定についての
権限を有する公正取引委員会の判断を待って検討するという対応は,不確実
な事実関係を前提に直ちに権利行使するよりもむしろ妥当な対応ということ
ができるのであって,何ら非難されるいわれはない。
以上のとおり,被告らは,原告らの主張する損害賠償請求権の存在を争う
ものであるが,仮に八王子市が被告らに対して損害賠償請求権を有するとし
ても,これを現時点で行使しないことが法令の規定に違反するといえるもの
でないことはもとより,その裁量権の範囲を超え,又はその濫用となるもの
でもないから,その不行使をとらえて違法と評価できるものではなく,違法
な「財産の管理を怠る事実」は存在しない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(基本合意の存否)について
(1)P28は,昭和40年4月1日付けで被告P13に入社し,同58年9月
に同被告α11営業所に異動となり,平成3年8月に同営業所の所長に就任
し,同12年2月29日付けで同被告を退職した後,同年6月1日付けでP
63に入社した者である(甲サ98)ところ,P28の公正取引委員会事務
総局審査局審査官(以下「審査官」という。)に対する各供述調書の記載の
一部を引用すると,次のとおりである(以下,関係者の審査官に対する各供
述調書の記載の一部を引用する場合に,明らかな誤字,脱字その他不適切な
表記等があるときは,これらを補正した上で引用する。)。
ア平成12年11月7日付け供述調書(甲サ98)
(ア)「私は,昭和58年9月にP13株式会社のα11営業所に赴任した
後,当時上司でありましたP75所長の下で土木工事に関する営業活動
を行う中で,総合建設業者,いわゆるゼネコンの多摩地区に営業所等の
出先を置くなどして,多摩地区において官公庁発注の物件について営業
活動を行っている者の間で,本命業者,すなわち工事の受注を目指す業
者,言い換えますと受注予定者をあらかじめ話合いなどによって決める
という調整行為を行っていることを知りました。
したがいまして,この多摩地区において施工される官公庁発注の土木
工事についての受注調整行為は,昭和58年9月以前より行われてきて
おり,また,P13株式会社としては,この受注調整行為につき昭和5
8年9月以前から参加してきておりました。
この受注調整のスタート時期とか経緯などについては存じません。
この受注調整行為に参加していました当時のゼネコン業者数は60社
くらいで,このうち数社ほどは多摩地区に営業所等の出先を置いていな
かったと記憶しており,ほとんどの業者は多摩地区に出先を置いていた
と思います。
ちなみに,当時は,多摩地区に営業所等の出先事務所を置くゼネコン
の土木工事関係営業の担当責任者等が出席する親睦会,名称はP26で
したが,この会員業者が60社くらいでしたから,今申しました受注調
整行為への参加業者も60社くらいと思うものです。要するに,当時に
おいては,P26の会員業者であるゼネコン60社ほどが多摩地区で施
工される官公庁発注の土木工事について,いわゆる受注調整行為を行っ
ておりました。P26が受注調整の機能を果たしたものではありません。
ただ,P26の会長としての役割ではなかったものの,会長としての立
場上から,会員業者間の受注調整において,すんなりと本命業者が決ま
らず,もめたりしたときに,当事者から相談を受ければ,このようにし
た方がよいのではないかとか,もっとよく話合いをした方がよいといっ
た,助言などを行う習わしがありまして,私は,平成4年ころのP26
の廃止まで2年間程会長を務めましたから,確か平成2年4月ころに会
長になりました後,受注調整行為が円滑に運べるよう,この助言などを
行う役割を務めました。
P26は,平成4年ころに廃止されましたが,同会はいわゆる談合組
織ではありませんでしたから,廃止に伴って受注調整を中止するという
ことはありませんでした。そして,私は,P26の廃止時の,すなわち
最後の会長であったこともありまして,引き続き多摩地区において官公
庁発注の土木工事に関しての受注調整行為に参加していましたゼネコン
各社の営業担当者から,受注調整に際して色々相談をされたりしたとき
には,円滑に運ぶよう助言などをしてまいりました。」
(イ)「P12公社の発注物件についても以前から対象となっておりまし
た。」
イ平成12年11月8日付け供述調書(甲サ110)
(ア)「私が長く行ってまいりましたゼネコン各社の土木工事担当者から受
注希望に関する相談を受けたり,それに応じて助言したり,またピーア
ール紙の差し出しを受けたりした役割についてですが,私が今年2月末
をもってP13を退職した後は,以前からの流れとして,私の部下であ
りましたP76が担っていると思います。」
(イ)「ちなみに,P76は,平成9年4月にP13のα11営業所に課長
として赴任した後,私の部下として土木工事に関する営業活動の業務を
担当してきており,平成10年4月だったと思いますが,現職のα11
営業所次長に就任しております。」
(ウ)「昨日の供述について訂正いただきたい部分がありますので,お願い
いたします。それは,P26の廃止に伴って受注調整を中止せず,引き
続き行ってきた旨の部分です。私の記憶では,同会を廃止する事情でも
ありましたが,公取さんがP77の件を調査したとのことから,主なゼ
ネコンでは疑われるような行動をしない旨通達を出した経緯がありまし
て,そのための自粛として,P26の廃止から1年間くらいの間は,受
注調整行為を行っていなかった時期がありました。このことは,個別的
にどうかは別にして,全体的には行われなかったとの趣旨です。」
ウ平成13年6月29日付け供述調書(甲サ99)
(ア)「ゼネコンの多摩地区の土木業界における工事物件の受注に関する慣
行について申します。
ゼネコンの多摩地区土木業界においての工事物件の受注に関する協力
関係につきましては多くのゼネコンらは受注活動の対象となる工事物件
の発注情報を営業活動の中で得て,それについて自社としてある程度受
注期待を持つ場合には,その工事物件に関して自社が有する関連性,例
えば,以前に自社が施工した工事物件の延長,継続工事であることとか,
当該工事の工事地近辺において以前に工事を施工していることとか,当
該工事物件に係る調査,実施設計業務に自社が関係する設計者が協力し
たこと等を挙げて,ピーアール紙といった資料を作成するなどして,他
に受注意欲を持って営業活動を行っているゼネコン等他のゼネコンに対
してピーアールしたり,話合いをしてきていました。
また,他のゼネコンから特にピーアールを受けなくても,あるいは,
他のゼネコンと話合いをしなくても,勉強している過程で,立地等の面
で他社の方が勝ることを知り,自社の関連性に優位性がないと判断して,
受注を目指すことをあきらめるということもあると思います。
また,ピーアールの過程の話合いにおいていずれが有する関連性が優
位であるかなどについて当事者間では決着が難しいといった難航した場
合などに適切なアドバイスを得られるようにするために,P13株式会
社α11営業所で所長をしていました私の所へ,相談などで訪れた方が
ありました。私は,応じて,持っている関連情報を教えたり,私の考え
を述べて助言しました。そして,受注意欲を持つゼネコン当事者が話合
いなどし,これを通じて,優位な条件を持つとして他のゼネコンから認
識されたゼネコンが最終的に当該物件の受注を目指す者,すなわち本命
業者となり,その者は,競争入札に当たって他の入札参加者に対して入
札価格について連絡する等の協力方を依頼し,競争入札において他の入
札参加者から協力を得られて落札するとのパターンです。
このような土木工事物件についての受注に関する協力関係,慣行は,
多摩地区で営業活動を行ってきているゼネコンが共通的に受注対象とす
るP12公社,すなわち財団法人P12公社の発注物件と多摩地区自治
体の発注物件とで特に違いがあるものでなく,基本的に同じです。」
(イ)「ゼネコンの多摩地区での土木物件に関する受注調整においてのいわ
ゆる助言役について申します。
私は,平成4年ころ廃止された多摩地区で土木物件について営業活動
をするゼネコンの親睦団体でしたP26の会長を最後に務めましたが,
会長としての立場から,会員業者間の受注調整において,すんなりと本
命業者が決まらず,もめたりしたときに,当事者から相談を受ければ,
このようにした方がよいといった助言を行う習わしがありまして,受注
調整行為が円滑に運ぶよう,この役割を担いました。P26は廃止にな
りまして1年程後,自然発生的にゼネコン営業担当者からいろいろ相談
されたときには,助言などを行ってまいりました。
私のほか,P78株式会社α15営業所の前所長であるP79さんも,
このような助言などを行う立場にありましたが,P26の廃止後,その
立場にいつからなったかははっきりいたしません。私がP79さんに頼
んだものではなく,彼独特のパフォーマンスでその立場になったもので
す。
他のゼネコン営業担当者から相談を受けた場合,私は私の立場で応じ,
また,P79さんはP79さんの立場で応じておられたと思います。」
(2)被告P13α11営業所次長であるP76の審査官に対する各供述調書の
記載の一部を引用すると,次のとおりである。
ア平成13年6月22日付け供述調書(甲サ231)
「いわゆるピーアールにつきましては,当社α11営業所の前所長である
P28が,長く各ゼネコン土木営業担当者からの相談等に当たってきてお
り,その後,私も昨年3月初め頃より資料の受け取りに対応した経緯があ
りました。しかし,公取委さんの立入検査は非常に衝撃的なことでしたか
ら,間もなく,皆さんに集まってもらったとのことはないですけれども先
程申したように先方から資料について尋ねられた折のほか,以前どおり資
料を持参した者に対しても私は,今後は資料の受け取り等には応じられな
い旨話しました。
そして,ある時期に一斉的に無くなったとのことでなく,その後も,ぽ
つぽつと資料を持参して私を訪ねて来る方もあり,私は,『もう応じられ
ない』と断っておりまして,昨年4月一杯くらいのころには,私の所に資
料を持参される方は無くなったと思います。」
イ平成13年5月31日付け供述調書(甲サ323)
「財団法人P12公社の希望型指名競争入札に関しての入札参加依頼につ
いて申します。
略して『P12公社』の希望型指名競争入札に参加し,落札したいと考
える業者が,他のゼネコンである業者に対して,その入札に参加してもら
いたいと依頼すること,すなわち工事希望票の提出方を依頼する趣旨につ
きましては,その入札に参加する業者の多くが自社の落札に協力していた
だけるなら落札の期待が高まるからとの考えで,落札に協力してほしいと
の意思で行うものです。落札に協力してもらう具体的な方法は,落札した
いと考える業者が最低制限価格の限度で最低価格で入札しなければ落札と
なりませんが,協力を依頼する業者には,落札したいと考える業者の入札
価格より高めの価格で入札してもらうことです。入札価格をもって協力し
てもらうには価格に関し連絡が必要です。その方法は,落札したいと考え
る業者が相手方に対して入札より1日か2日か前に電話により行うのです
が,P12公社の場合,最多で3回目まで入札が行われますから,多くて
3回分の入札をしてもらいたい価格を伝える方法,1回目は具体的な価格
で,2回目と3回目は前回入札の最低札の価格から引き下げる幅を伝える
方法,あるいは,相手方に積算価格を聞いて,答えられた価格での入札を
頼み,自社はその価格を下回る価格をもって入札するという仕方もありま
す。それから数的に少ないですが,『お宅での積算価格で入札してくださ
い。』とお願いすることもあります。この場合,相手方には通常の積算を
してもらえますから,依頼する側は,ある程度利益幅をおさえた積算をし
て入札価格を定めれば,落札できることになります。」
(3)上記各供述調書のほか,後記の多数の供述調書(後記(4)①ないし<58>)
等を総合すれば,①多摩地区において営業活動を行う広域総合建設業者間で
は,いつころからかは明らかでないにせよ,昭和58年9月ころよりも前か
ら,受注価格の低落防止等を図るため,多摩地区の市町村及び公社の発注す
る土木工事について,その施工場所の地域性(工事物件と自社関連施設との
距離関係等),関連性(発注予定の工事物件に関連した工事を以前に施工し
た実績があるとか,自社と提携しているなど特別な関係にある建築設計会社
又はコンサルタント会社,すなわちいわゆるダミコンが発注予定の工事物件
に係る調査設計作業にかかわったことがある等の事情),受注の頻度,受注
意欲の強弱及び営業活動開始時期の先後等の諸条件を勘案し,これら諸条件
において優れると思われる業者等がまず受注希望者となり(なお,これら諸
条件は広域総合建設業者につき考慮されるが,建設共同企業体が施工する工
事物件の場合には,広域総合建設業者においてこれら諸条件が優れる者が明
白でないとき,いわゆる地元業者等の建設共同企業体の構成員につき考慮さ
れることもあり得る。),②元々そのような受注希望者が1名であるか,あ
るいは地域性及び関連性等において劣ると思われる業者が自主的に受注をあ
きらめるなどした結果,受注希望者が1名であるときは,その者を受注予定
者とし,受注予定者から公社に対し工事希望票の提出を依頼されればこれに
応じ,入札においては,あらかじめ入札予定価格等を相互に連絡するなどし
て,受注予定者による落札を妨げないこと,③受注希望者が複数であるとき
は,広域総合建設業者間での情報交換等により,互いに受注希望者であるこ
とを認識した者らの間で,上記諸条件を比較し合い,話合いによって受注予
定者1名を決定するか,P28に対し事前にピーアール紙やピーアール図等
と称する過去の施工実績に関する資料やいわゆるダミコンから入手した資料
等を持参して自社が上記諸条件において優れることを説明し,P28の助言
や勧告等により受注予定者1名を決定するかし,受注予定者が決定した後は,
上記②のとおり,他の広域総合建設業者は,受注予定者の落札に協力するこ
と,④建設共同企業体による工事物件の場合,上記①ないし③の受注調整は,
建設共同企業体の代表者となる広域総合建設業者間において行うこと,⑤上
記①ないし④の受注調整のルールが通用するのは,平成4年ころにP26が
解散した後は,その数に増減はあるものの(甲サ2),おおむねP27新聞
社が発行する営業関係者名簿に記載された広域総合建設業者であること(甲
サ11ないし13,19ないし23,25,28,30,34ないし41,
45,46,48によれば,平成10年5月現在の同名簿に記載された広域
総合建設業者の数は,別紙業者一覧表のとおり,約80社である。)などの
慣行(以下「本件慣行」という。)があったことを認めることができる。
なお,後掲の表のとおり,別紙「P12公社発注の特定土木工事一覧表」
(甲サ190)によれば,平成9年10月1日から同12年9月27日まで
の期間における公社発注の特定土木工事72件につき,①落札率95%以上
の工事が52件(うち落札率99%以上の工事は41件),②落札率90%
以上95%未満の工事が2件,③落札率85%以上90%未満の工事が2件,
④落札率80%以上85%未満の工事が16件(うち落札率80%以上81
%未満の工事は15件)となっており,その平均落札率(同一覧表記載の落
札率の値を合計し,工事件数72で除した数値)は94.54%となるが,
別紙「特定土木工事一覧表」(乙イ2)によれば,公正取引委員会による立
入検査が行われた後である同年10月1日から同17年11月1日までの期
間における公社発注の特定土木工事139件については,①落札率95%以
上の工事が57件(うち落札率99%以上の工事は6件),②落札率90%
以上95%未満の工事が30件,③落札率85%以上90%未満の工事が1
件,④落札率80%以上85%未満の工事が50件(ただし,落札率80%
以上81%未満の工事が全件)となっており,その平均落札率は89.85
%となるなど,後者において特に落札率99%以上の工事が著しく減少し,
また,落札率80%以上81%未満の工事が増加するなど,有意的な変化が
うかがえることも,本件慣行の存在を推認させる事情になり得る。

甲サ190乙イ2
平均落札率94.54%89.85%
落札率分布(全72件中)(全139件中)
99%以上41件6件
95%以上99%未満11件51件
90%以上95%未満2件30件
85%以上90%未満2件1件
81%以上85%未満1件0件
80%以上81%未満15件50件
(4)しかしながら,一方において,上記のとおり,本件慣行がいつころから存
在したのかは明らかではなく,上記営業関係者名簿に記載された広域総合建
設業者のすべてが本件慣行に従っていたのか,同名簿に記載されていない業
者についてはどうであったのかという,いわば受注調整のルールへの参加者
の内包及び外延のすべてを明らかにするに十分な証拠がないこと,また,本
件慣行につき,関係者の審査官に対する各供述調書によれば,「一度,ゼネ
コン業界内で本命が決まってしまえば,その本命に協力するという不文律み
たいな掟みたいなものがあり,その決まりを破った業者の営業マンは地方に
飛ばされたという話も聞いていましたから,私はその決まりを破ったことは
ありませんでした。」(甲サ67),「談合という枠組みに入ってしまうと
当社が単独で談合から抜けると会社の存続にも係わることになりかねない所
があり,当社だけが抜けることはできませんでした。」(甲サ74),「私
は,心の中では,P13の言いなりになるのは嫌だと思っていましたが,表
立ってP13のP28さんに逆らうことはしなかったです。と言いますのは,
P60が条件を持っている物件で,P28さんに嫌われたために,P28さ
んが『叩け』と相指名ゼネコン各社に指令を出したりしたら,多摩で仕事が
取れなくなってしまうという考えがあったので,多摩地区ゼネコンの慣行に
は従うようにしていました。」(甲サ79),「当社が,このような受注調
整になぜ加わっていたかと申しますと,以前から多摩地区の業界で慣行的に
行われており,これに逆らうと仕事がもらえないという意識がありまし
た。」(甲サ85),「ゼネコンの間で受注調整の対象となっている物件を
もぐろうものならば,他の仕事でも嫌がらせを受けたりするのは必至です」
(甲サ149)などといった記載が散見されるものの,本件慣行にどれほど
の拘束性があったのか,本件慣行に反して工事を受注した場合に,どのよう
な制裁的措置がされるのかなどの事情を具体的に明らかにする証拠はなく,
結局のところ,本件慣行の内容が,多摩地区において営業活動をする広域総
合建設業者内の事実上の慣行であることを超えて,別紙業者一覧表記載の約
80社により明確に合意されていたこと,あるいは原告らが主張する基本合
意が具体的に成立していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,争点(1)に関する原告らの主張は,上記の限度で採用すること
ができず,原告らの主位的請求には理由がない。ただし,争点(2)では,本件
慣行が存在することを前提として検討する。

①被告P11α16営業所長P80の審査官に対する平成13年9月18
日付け供述調書(甲サ137)及び同被告α16営業所副所長P81の審
査官に対する平成13年6月22日付け供述調書(甲サ233)
②被告P2α17支店α18営業所副所長P82の審査官に対する平成1
2年11月17日付け供述調書(甲サ236),同13年6月8日付け供
述調書(甲サ138),同月15日付け供述調書(甲サ350)及び同年
8月30日付け供述調書(甲サ325)
③被告P6α14事務所長P73の審査官に対する平成13年9月4日付
け供述調書(甲サ161)
④被告P4α19営業所長P83の審査官に対する平成13年4月5日付
け供述調書(甲サ237),同年5月29日付け供述調書(甲サ163)
及び同年6月5日付け供述調書(甲サ164)
⑤被告P5α20支店α21営業所長P84の審査官に対する平成13年
3月7日付け供述調書(甲サ140),同月8日付け供述調書(甲サ14
1),同年8月23日付け供述調書(甲サ3)及び同月24日付け供述調
書(甲サ67)
⑥旧P7α22支店α23営業所長P85の審査官に対する平成12年1
1月21日付け供述調書(甲サ4)及び同年12月14日付け供述調書
(甲サ166)
⑦被告P9α24支店α25営業所長P86の審査官に対する平成12年
12月22日付け供述調書(甲サ115)
⑧被告P1α12営業所の元所長であったP87の審査官に対する平成1
3年6月8日付け供述調書2通(甲サ68,167)及び同年8月10日
付け供述調書(甲サ73)
⑨被告P10α26営業所の元所長であったP88の審査官に対する平成
13年3月16日付け供述調書(甲サ143)及び同年5月24日付け供
述調書(甲サ69)並びに同被告α26営業所長P89の審査官に対する
平成13年4月9日付け供述調書(甲サ168)及び同月10日付け供述
調書(甲サ169)
⑩被告P8α27支店土木営業部長(前α13営業所長)P90の審査官
に対する平成13年5月23日付け供述調書(甲サ174)及び同月24
日付け供述調書(甲サ144)
⑪P39α28営業所課長P91の審査官に対する平成13年4月12日
付け供述調書(甲サ171),同年9月4日付け供述調書(甲サ5)及び
同月18日付け供述調書(甲サ172)
⑫P48α29支店次長P92の審査官に対する平成12年12月6日付
け供述調書(甲サ192),同月7日付け供述調書(甲サ354)及び同
13年5月31日付け供述調書(甲サ6)
⑬P36α30支店土木営業部担当部長P93の審査官に対する平成13
年5月25日付け供述調書(甲サ7)及び同年6月12日付け供述調書
(甲サ105)
⑭P94株式会社α31支店α32営業支店の元営業部長であったP95
の審査官に対する平成13年6月15日付け供述調書(甲サ8)及び同月
18日付け供述調書(甲サ91)
⑮P63α33営業所長P96の審査官に対する平成13年3月16日付
け供述調書(甲サ146)及び同年8月17日付け供述調書(甲サ54)
⑯P40α34営業所の元所長であったP97の審査官に対する平成13
年5月17日付け供述調書(甲サ56)及び同年9月30日付け供述調書
(甲サ151)並びに同社α34営業所長P98の審査官に対する平成1
3年5月10日付け供述調書(甲サ104)及び同月11日付け供述調書
(甲サ70)
⑰P99株式会社α35営業所の元所長であったP100の審査官に対す
る平成13年7月26日付け供述調書2通(甲サ58,152),同社α
36支店α35営業所長P101の審査官に対する平成13年6月14日
付け供述調書(甲サ186)及び同月15日付け供述調書(甲サ187)
並びに同社α36支店第一営業部担当部長P102の審査官に対する平成
13年6月20日付け供述調書(甲サ188)
⑱P65α37営業所長代理P103の審査官に対する平成13年6月1
3日付け供述調書(甲サ155)及び同年8月30日付け供述調書(甲サ
59)
⑲P50α38支店α39営業所長P104の審査官に対する平成12年
11月14日付け供述調書(甲サ204)及び同13年10月3日付け供
述調書(甲サ62)
⑳P59α40本店α41営業所長P105の審査官に対する平成13年
7月5日付け供述調書(甲サ63)
<21>P106株式会社α42営業所長P107の審査官に対する平成13
年5月10日付け供述調書(甲サ139)及び同月11日付け供述調書
(甲サ66)
<22>P58α43営業所長P108の審査官に対する平成13年5月15
日付け供述調書(甲サ71)
<23>P44α44営業所の元所長であったP109の審査官に対する平成
13年9月27日付け供述調書(甲サ72)及び同社α45支店第一営業
部主任P110の審査官に対する平成13年6月1日付け供述調書(甲サ
162)
<24>P111株式会社(以下「P111」という。)α46営業所副所長
P112の審査官に対する平成13年8月23日付け供述調書(甲サ7
4)
<25>P70α47支社α48営業所長P113の審査官に対する平成13
年8月28日付け供述調書(甲サ75)
<26>P67α49支店α50営業所長P114の審査官に対する平成13
年8月27日付け供述調書(甲サ76)
<27>P115株式会社α51営業所長P116の審査官に対する平成13
年4月13日付け供述調書(甲サ77)及び同月20日付け供述調書(甲
サ158)
<28>P62α52土木支店α53土木営業所長P117の審査官に対する
平成13年6月14日付け供述調書(甲サ78)
<29>P60α54営業所長P118の審査官に対する平成13年5月9日
付け供述調書(甲サ113)及び同社α54営業所の元所長であったP1
18の審査官に対する平成13年10月10日付け供述調書(甲サ79)
<30>P21α55営業所長P119の審査官に対する平成13年6月7日
付け供述調書(甲サ170)及び同月12日付け供述調書(甲サ84)
<31>株式会社P120(以下「P120」という。)の元α56営業所長
であったP121の審査官に対する平成13年5月22日付け供述調書
(甲サ85)及び同年9月4日付け供述調書(甲サ173)
<32>P122株式会社α57支店営業部長P123の審査官に対する平成
13年6月25日付け供述調書(甲サ154)及び同月26日付け供述調
書(甲サ89)
<33>P64α58営業所長P124の審査官に対する平成13年5月24
日付け供述調書(甲サ92)
<34>P125株式会社α59支店α60営業所長P126の審査官に対す
る平成13年4月3日付け供述調書(甲サ106),同月4日付け供述調
書(甲サ189)及び同月12日付け供述調書(甲サ93)
<35>P35α61支店営業部課長P127の審査官に対する平成13年6
月11日付け供述調書2通(甲サ102,177),同月12日付け供述
調書(甲サ193)及び同年8月6日付け供述調書(甲サ358)
<36>P128株式会社α62営業所長P129の審査官に対する平成13
年3月28日付け供述調書(甲サ103)
<37>P130株式会社α63営業所長P131の審査官に対する平成13
年3月21日付け供述調書(甲サ135)及び同月22日付け供述調書
(甲サ136)
<38>P45営業本部α64営業所長P132の審査官に対する平成12年
12月21日付け供述調書(甲サ176)及び同13年6月8日付け供述
調書(甲サ145)
<39>P133株式会社α65支店長P134の審査官に対する平成13年
8月9日付け供述調書(甲サ178)及び同社α65支店副支店長P13
5の審査官に対する平成13年8月10日付け供述調書(甲サ149)
<40>P136株式会社調査役(営業本部長)P137の審査官に対する平
成12年12月1日付け供述調書(甲サ182)及び同月4日付け供述調
書(甲サ150)
<41>P42α66本店土木営業部土木営業担当部長兼α67営業所長P1
38の審査官に対する平成13年5月23日付け供述調書(甲サ153)
<42>P41α68営業所長P139の審査官に対する平成13年3月30
日付け供述調書(甲サ213)及び同年6月7日付け供述調書(甲サ15
6)
<43>P140株式会社土木営業本部第二営業部次長(元α69営業所長)
P141の審査官に対する平成13年5月15日付け供述調書2通(甲サ
159,349)
<44>P23α70支店α71営業所長P142の審査官に対する平成13
年5月28日付け供述調書(甲サ165)
<45>P37α72支店α73営業所長P143の審査官に対する平成13
年4月6日付け供述調書(甲サ175)
<46>P52α74支店α75営業所の元副所長であったP144の審査官
に対する平成13年2月19日付け供述調書(甲サ205),同月20日
付け供述調書(甲サ206),同年3月26日付け供述調書(甲サ17
9),同月27日付け供述調書(甲サ180)及び同年9月7日付け供述
調書(甲サ181)
<47>P29α76営業所長P145の審査官に対する平成13年8月24
日付け供述調書(甲サ183)
<48>株式会社P146α77営業所長P147の審査官に対する平成13
年4月25日付け供述調書(甲サ184)
<49>P43営業本部α78営業所長P148の審査官に対する平成13年
4月11日付け供述調書(甲サ185)
<50>株式会社P149営業本部主任P150の審査官に対する平成13年
3月21日付け供述調書(甲サ239)及び同月22日付け供述調書(甲
サ191)
<51>P68α79支店α80営業所長P151の審査官に対する平成13
年4月27日付け供述調書(甲サ194)
<52>P78株式会社α81土木支店α15営業所副所長P152の審査官
に対する平成13年6月15日付け供述調書(甲サ195)
<53>株式会社P153(以下「P153」という。)α82支社建築支店
営業第三部次長(前α83営業所長)P154の審査官に対する平成13
年6月18日付け供述調書(甲サ202)
<54>P71α84支店α85営業所長P155の審査官に対する平成13
年3月14日付け供述調書(甲サ203)及び同月15日付け供述調書
(甲サ241)
<55>P156株式会社α86支店第一営業部マネージャーP157の審査
官に対する平成13年3月27日付け供述調書(甲サ207)及び同月2
8日付け供述調書(甲サ244)
<56>P30α87支店α88営業所長P158の審査官に対する平成13
年5月22日付け供述調書(甲サ208)及び同月23日付け供述調書
(甲サ209)
<57>P159株式会社α89支店α90営業所長P160の審査官に対す
る平成13年3月9日付け供述調書(甲サ248)
<58>P161株式会社α91営業所長P162の審査官に対する平成13
年5月10日付け供述調書(甲サ295)
2争点(2)(個別談合の存否)について
(1)本件工事1について
ア本件工事1につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P1α12営業所の元所長であったP87の審査官に対する平
成13年6月8日付け供述調書(甲サ167)
a「私は,昭和43年にゼネコンである株式会社P68に入社しまして,
入社してから20年くらいは関東地区の工事現場での事務を担当して
おりました。平成元年5月にα80営業所に異動になりまして,多摩
地区の民間物件や多摩地区市町村,財団法人P12公社等の発注工事
に対する営業活動を担当しておりました。
そして,その後の平成7年11月に株式会社P68を退職しまし
た。」
b「私が株式会社P68のα80営業所に勤務していたときに親しくし
ていた,P41株式会社α92営業所長のP163さんと株式会社P
1の元重役が高校の同級生でしたので,そうしたご縁で,株式会社P
1がα12営業所を設立する予定があるとの話を聞き,P163さん
の紹介で平成8年4月1日にゼネコンである株式会社P1に入社しま
した。入社してすぐα12営業所長に就任しまして,多摩地区の民間
物件や多摩地区市町村,財団法人P12公社等が発注する工事物件に
対する営業活動の責任者という立場にありました。」
c「私が株式会社P1α12営業所長時代に受注した物件について申し
ます。
平成10年3月9日に入札が行われたP12公社発注,以下P12
公社と略してますが『八王子市α1××××番地先外下水道築造43
−公12工事』の1本を受注いたしました。P1は平成8年に初めて
α12営業所を開設いたしましたので,多摩地区における受注実績は
ございませんでした。ですから,他のゼネコンに対し,自社が『本
命』,つまり受注予定者になる術がありませんでした。しかしながら,
受注実績がないからといって受注できないままでいるわけにもまいり
ませんので,どうにかして1本でも物件が欲しいと思っておりました。
P1は平成9年からP12公社の土木一式工事に係る競争入札参加資
格の格付けがBランクからAランクに格上げされましたので,入札に
参加できる物件数も増えました。受注した『八王子市α1××××番
地先外下水道築造43−公12工事』は,本管から出る下水道の枝線
を築造する工事であり,開削工事であり,川の底を一部,推進工事で
20メートルほど行う物件でした。P1でも請け負える工種,規模で
あることが勉強して分かっておりました。α93支店はα1下水道築
造工事の『条件』として,整備公団が発注した宅地造成の工事を私に
言ってきましたが,『条件』にならない物件でした。発注される物件
の近隣でない実績でしたので他社に条件として提示できるものではあ
りませんでした。
『条件』と申しますのは,この業界でライバルとなるゼネコンに受
注意欲をピーアールするための方法のひとつです。
具体的に申しますと1番強い『条件』は,発注される物件の近くに
自社の施工実績があること,2番目には,自社の施設があること,具
体的に挙げますと,営業所,資材置場,現場事務所があること,また,
近くに自社の従業員が住んでいることが含まれます。さらに共同企業
体,つまりJVを地元業者と結成する場合には,地元業者が発注され
る物件に対して強い条件を持っている場合にJVのスポンサー,つま
り,ゼネコンが『親』となることもできます。
先程もお話ししたとおりP1は多摩地区における施工実績がありま
せんでしたし,当社のα93支店が提示してきた施工実績は,条件に
はならないものでした。当初,受注したα1下水道工事は,2億6千
万円以上の規模で発注される予定でした。2億6千万円以上の工事で
すと,共同企業体,JVでの工事の発注となるのですが,予定が変更
されて,単体での発注となりました。私は,JVでの発注であれば,
八王子の地元の業者であるP164さんと組んで工事を受注したいと
思い勉強しておりました。P164の社長さんとも一緒に仕事をしよ
うではないかと話しておりました。P164さんは,地元八王子の業
者ですし,発注工事近隣で水道工事を施工した実績があるという話も
聞いておりました。
P164さんは,地元業者に対してα1下水道工事について強い条
件を持っていることを地元業者にお話されていたようですので,地元
業者の方もP164さんが『本命』つまり,受注予定者になることを
ご存知であったと考えられます。
ところが,工事規模が2億6千万円以下の工事として発注され,当
初の予定が変更されて単体工事となりました。
指名通知を受けたのは,確か平成10年の2月頃ですが,その頃に
他のゼネコンから『P1さんは行かれてるんですか?』という電話を
受けまして私は『勉強はしてますけど。』と返答した記憶がございま
す。1,2月にはすでにP1が受注に向けて動いているといった情報
が地元業者の間で話にのぼっていたので,ゼネコンが話を聞いて分か
ったのだなと思いました。
P12公社は,希望型指名競争入札の方法を採用しておりますので,
まず,発注される工事を希望する業者が工事希望票をP12公社に提
出することになっております。その際に『本命』となる業者が協力し
てもらえるゼネコンに希望票を提出してもらうよう依頼するといった
方法がゼネコン間で行われておりました。
私は,多摩地区で営業を始めてからの無二の親友であるP30のP
158所長に希望票を提出してもらうよう依頼しました。私が依頼し
たのは,たったの1社でした。しかし,P158所長は,多摩地区に
おける勤務年数が長いこともあり,彼に依頼をすれば,業界のゼネコ
ン間の調整連絡を行ってくれるのではないかという期待がありました。
ところが,開けてみるとP30は指名に外れ私の思惑どおりにはい
きませんでした。私は,積算を厳しくしないとこのままでは受注でき
ないと思いました。
α93支店の土木部はこの工事の見積りを2億7,8千万円で計上
してきましたが,P1が受注するためには,2億5千万円以下でない
と受注できないと見込んでおりましたので,土木部とけんかして提示
してきた積算価格よりも下げてもらいました。
入札の札に関して申しますと,私は,相指名の業者に札の価格の連
絡をしておりません。と申しますのは,既に現場説明会で指名メンバ
ーが顔を合わせた時に私の受注意欲を表明した際に,他の相指名のゼ
ネコンから自社も勉強しているといった話もありませんでしたので,
当社が「本命」になれるのではないかとの感触がありました。
P77の事件以来,ゼネコンは自社で積算をするような体制を採っ
ていますので,私は,相指名のゼネコンはそれぞれ積算はしてきてい
るはずだと思っておりました。ですから,逐一ゼネコンに対し札の連
絡をしなくてもP1の受注に響かない程度で札を入れてくれるといっ
た強い認識がありました。
この受注した物件は,私はどうしても欲しいものでしたので,私の
裁量で,α93支店土木部と話し合った結果出した積算価格よりも,
100万円引いた価格で入札に臨みました。当日は,入札札の札の価
格を書く欄を空白にして持って行っておりましたので入札の直前に書
き込み,入札箱に札を入れました。
入札の結果当社が一番低い価格を札入れしましたので,おかげさま
で,P1の受注を1件作ることができました。」
(イ)被告P1α12営業所の元所長であったP87の審査官に対する平
成13年8月10日付け供述調書(甲サ73)
a「私がα12営業所長時代に財団法人P12公社から発注された物件
で受注した工事は,平成10年3月9日に入札が執行された『八王子
市α1××××番地先外下水道築造43−公12工事』1件だけです。
私は,P30株式会社のP158所長にだけ,工事希望票をP12
公社に提出していただけるよう依頼しましたが残念ながら指名に入り
ませんでしたし,相指名で入られたゼネコンのα94営業所長さんに
も依頼しておりません。ただし,相指名で入られたゼネコンの数社に
対し自分が勉強していることを話した記憶があります。
私が入れた入れ札について申しますと,入札当日,『入札書』を封
筒に入れて持参しましたが,封をせずにしたままの状態で,入札の直
前に入札室で用意しておいた札の価格よりも100万円切った額を記
載し,その価格で札を入れました。
会社の積算部は,2億6千万円の見積りをはじきだしたのですが,
2億6千万円以上ではJVの発注物件の額なので,それ以下に設定し
なければならないと思い,積算部と見積りを詰め直して,2億455
0万円で札入れをするという結論には達しました。しかし,どうして
も受注したかったのと,予定価格が詳細に把握しきれていなかったの
で,予定価格内で札入れできるかどうかの不安もあり,入札日当日に
私の独断で100万円切った価格で入札に臨みました。」
b「お示しの文書は,私が受注した入札の開札結果表であることに間違
いはありません。私は,お話したとおり,記載されている2億445
0万円で落札しました。ここに記載されている相指名の方々に具体的
な価格を指示した覚えはありませんが,多摩地区で営業をしていた折
に道端で会った際に『私がα1下水道を勉強していますから。』とい
った話はしていました。P29のP145所長とは,P1の営業所が
近隣だったこともあり,飲んだり,麻雀をしたりしていましたので,
そういった折に話した記憶はあります。
相指名になったゼネコンから『うちも勉強していますから。』とい
う話は一切聞きませんでしたので,私だけがこの物件を勉強している
ことは明らかでした。この開札結果表の各社の入れ札を見ますと,そ
れぞれ概算で算出した価格を札入れしていることが分かり,結果的に
P1の受注に協力してくれたことになります。つまり,ゼネコンが概
算で入れ札をするということは,本命である受注予定者に協力すると
いうことになります。」
(ウ)P44α45支店第一営業部主任P110の審査官に対する平成1
3年6月1日付け供述調書(甲サ162)
「お示しの文書は,平成10年3月9日入札のP12公社発注の『八王
子市α1××××番地先外下水道築造43−公12工事』であり,この
物件はAランクの物件であり,いわゆるゼネコンが入札に参加していま
した。
当社からは私が入札に参加しています。この物件は株式会社P1が2
億4450万円で落札しています。この物件について,P1さんから勉
強している旨の連絡があったのかもしれませんが,よく覚えてはいませ
ん。この物件は当社が強く取りたいという物件ではありませんので,高
めの概算価格で入札して結果的に協力しております。」
(エ)P120α95支店営業部第一営業課長(元α56営業所長)P1
21の審査官に対する平成13年5月22日付け供述調書(甲サ85。
なお,「20番の物件」とは本件工事1のことである。)
「2枚目の20番の物件はゼネコンが落札していますので当社が協力し
た物件だと思いますが,20番,26番は当社は八王子に事務所がある
ことから申し込んだものであり,積極的に受注しようという意欲はなか
ったと思います。」
イ本件工事1は,被告P1において,予定価格の99.77%に当たる2
億4450万円で落札されているところ,前記1(3)のとおり,公正取引委
員会の立入検査の前後において,公社発注の特定土木工事の落札率等に有
意な差が見られ,殊に落札率99%以上の工事については,ひとまず本件
慣行の存在が作用した旨を推認することが可能な状況であるにもかかわら
ず,本件では,被告P1において落札価格の積算根拠等につき積極的かつ
具体的な主張立証等を行っていないこと(上記P87の各供述調書におい
て積算の経過の一端は述べられているものの,その具体的内容は明らかで
ない。),上記各供述調書によれば,被告P1の従業員が,本件慣行の存
在を前提として,相指名業者(すべて別紙業者一覧表記載の業者であ
る。)に対し,被告P1が受注予定者であることを認めさせるなどし,相
指名業者において,被告P1の落札を妨げないような価格で入札させたこ
とが認められることなどの諸事情を総合すると,本件工事1については,
被告P1の従業員により,相指名業者との間で,受注価格の低落防止等を
図り,被告P1において予定価格近似の金額で落札できるよう協力する旨
の談合が成立し,これにより,被告P1が本件工事1の落札業者となった
と認めるのが相当である。
これに対し,被告P1は,同被告は平成8年にα12営業所を開設した
ばかりで受注実績がなく,しかも同9年から事業者ランクがAになったも
のであるから,談合の慣行等について理解が十分でなかった旨主張するが,
上記P87の各供述調書によれば,被告P1α12営業所の元所長であっ
たP87は,P68において平成元年5月ころから多摩地区における公社
発注工事に関する営業活動を担当した経験を有しており,本件慣行の存在
及び内容について十分な知識があったものと認められるから,被告P1の
上記主張は採用することができない。
また,被告P1は,同被告が相指名業者に受注意欲を表明したのは,本
件工事1の現場説明会のみであり,その場で相指名業者から異議が出なか
ったとしても,談合が成立したことにはならない旨主張するが,本件慣行
の存在が認められることは前記1(3)のとおりであり,現場説明会に至るま
でのP87の営業活動等や,本件工事1は「立地上から現場での小回り作
業が多く,作業効率が悪く,苦労が多いばかりで利益が出そうもないとの
見通し」(乙ル1)であったことなどの諸事情とも相まって,本件慣行に
従い,現場説明会において談合形成行為があったと認めることができるか
ら,被告P1の上記主張は採用することができない。
さらに,被告P1は,P87は,同被告積算部が切り詰めて決定した入
札価格を,さらに100万円切り下げて入札するなどしており,被告P1
において最大限の利益を得る目的で入札をしていない旨主張するが,P8
7の陳述書(乙ル1)によれば,本件工事1につき,「受注実績のないP
1及び私においては受注を最優先に考えました。」という状況において,
相指名業者が被告P1の落札を妨げない程度の価格で入札するであろうこ
とを認識しながら,更に落札を確実にするためにP87において100万
円切り下げて入札することも格別不自然ではなく,実際,本件工事1は予
定価格の99.77%に当たる価格で被告P1に落札されているのである
から,被告P1の上記主張は採用することができない。
したがって,被告P1は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(2)本件工事2について
ア本件工事2につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P2α17支店α18営業所副所長P82の審査官に対する平
成13年8月30日付け供述調書(甲サ325)
a「α2下水道工事について,私は営業活動を担当しましたし,P12
公社のこの物件に関する現場説明会や入札会へ,当時,当社α18営
業所長でしたP165と共に出席しております。
営業活動において当社では,α2下水道工事に関連する調査作業に
係る設計書等の発注情報資料を提携関係にある(判読不能)から入手
したとのことから,P165所長が,それら資料を持参してP13株
式会社α11営業所の前所長であるP28さんを訪ねて,工事物件に
ついて当社として受注意欲があることなど相談をしたことがあったこ
とを承知しておりました。
α2下水道工事についての現場説明会は,平成10年5月上旬のゴ
ールデンウィーク明けころに開催されましたが,指名されたジョイン
トベンチャーそれぞれの方達が出席されましたが,ジョイントベンチ
ャーの親会社となったゼネコンは,当社以外では,提示の一覧表に記
載のとおり,株式会社P6,P166株式会社,株式会社P52,P
35株式会社,P167株式会社及び株式会社P153の6社でし
た。」
b「このα2下水道工事に関する現場説明会においてP165所長と私
は,他のジョイントベンチャーの出席者の方達に対しあいさつをしま
したが,当社はジョイントベンチャーの子会社の中では工事現地から
最も近くに所在する八王子市の地元業者であるP17と組めたとの地
の利を持ちましたし,P165所長がP13のP28さんの所へ伺っ
て相談などして何ら異存ないと返答をいただいていたようでしたから,
P165所長は,それぞれゼネコンの出席者に対して,「P28さん
から了解も得ていますし,よろしくお願いします」といった言葉で,
当社らジョイントベンチャーの受注につき協力方を依頼したと記憶し
ております。この協力方依頼に対して,それぞれゼネコンの出席者か
ら異論ある旨の言葉はなく,それぞれ当社らジョイントベンチャーの
受注につき協力していただけることを了解したものと私は理解しまし
た。
相指名ジョイントベンチャーの親会社である各ゼネコンに対しての
入札価格に関する依頼につきましては,P165所長が行ったと思い
ますから,私はどんな仕方の依頼を行ったか存じませんが,行ったと
思います。」
c「お示しの文書は,当社らジョイントベンチャーが落札しましたα2
下水道工事に関する入札結果を記載したものとみられます。P35さ
んらのジョイントベンチャーは,事情は存じませんが,入札を辞退さ
れました。
当社らジョイントベンチャーは,1回目の入札で2億8100万円
で落札できております。他のゼネコンが親会社になりましたジョイン
トベンチャーの入札価格をみましたが,P165所長が具体的な価格
をもって各社へ依頼したものかどうかにつきましては,ちょっと判断
しかねます。それは,ゼネコンによっては自社積算価格に基づき1回
目の入札を行うよう指示されている所もあるようですから,その者は
具体的な価格をもって連絡されても,それをもって入札できない訳で
すし,具体的な価格をもって依頼したなら,当社らの入札価格にもっ
と接近した価格をもって入札した者が何名かあってもよいなと感じら
れるからです。
ですが,入札結果からみて,相指名ジョイントベンチャーの親会社
である各ゼネコンさんは,当社らジョイントベンチャーの落札につき
協力していただけたと判断できる入札価格で入札したものであるとみ
られます。」
(イ)P52α74支店α75営業所の元副所長であったP144の審査
官に対する平成13年9月7日付け供述調書(甲サ181)
a「私がP52α75営業所に在籍していたころには,多摩地区の各市
町村や財団法人P12公社などが競争入札の方法により発注する土木
工事物件については,多摩地区に営業所を置くなどして営業展開して
いるゼネコン間で,入札前にあらかじめ『本命』が決まり,その本命
が受注できるようにゼネコン間で協力するという紳士協定がありまし
た。
本命になったスーパーゼネコンや準スーパーゼネコンといわれてい
るゼネコン業者などからは,入札日の前日までにP52α75営業所
に対して当該物件の見積価格,つまり,P52の応札価格の探りがあ
りました。そのときの状況を思い出すため公正取引委員会に提出して
いる入札結果が記録されている手帳を見せてください。」
b「この手帳は,私がP52として入札に参加するため,P52の応札
価格や入札結果などを記録するために使用していたものです。この手
帳のうち,財団法人P12公社発注分の物件について説明いたします。
工事件名『八王子市α2×××番地下水道築造44(公1工区)工
事』と書き出しのページを見てください。
この物件は,平成10年5月26日に入札が執行されていますが,
P52は,P168とJVを組んで入札に参加しました。この物件は,
P17とJVを組んだP2が本命業者でした。この物件では,入札日
の前日までにP2α18営業所の営業担当者からP52の応札価格の
探りがありまして,P2の落札に協力した物件です。P52の応札価
格を尋ねられたとき,私は「P52は292,000,000円くら
いで見積もっていますよ。」と答えたのです。
すると,P2の方は,『今回は予定価格が探りきれていないので長
引くかもしれない。』,つまり,財団法人P12公社は,不調の場合,
入札が3回まで繰り返されますので,予定価格の中に入れる自信がな
くて入札が3回まで繰り返されるかもしれないということを言われま
したので,私は『2回目は280,700,000円くらい,3回目
は279,800,000円でいいですか。』と2回目以降のP52
としての応札価格を示してP2の方と打ち合わせたのです。すると,
P2の方は,『わかりました。』といって当社の応札価格を了承され
ましたので,私は提示したP52の応札価格を忘れないように,その
ときこの手帳に書き入れたのです。
そして,この手帳を入札会場に持参して,2回目以降入札が繰り返
されるのであれば,打合せをした価格で応札しようと思っていました
が,1回目で本命のP2が落札しました。」
(ウ)P153α82支社建築支店営業第三部次長(前α83営業所長)
P154の審査官に対する平成13年10月1日付け供述調書(甲サ8
0)
「多摩地区のゼネコン間では『本命』つまり受注予定者から相指名業者
に対して,P12公社の物件は,工事希望票の提出依頼の協力と,入札
において札入れする札の価格での協力依頼をお互いにする習慣がありま
したので,一覧表の冒頭の21番,P2・P17JVが落札した「八王
子市α2×××番地先外下水道築造44(公1工区)工事」についても,
落札したP2からおそらくα83営業所に対して工事希望票の提出のお
願いや札の連絡の打診があったものと判断できますがどなたからあった
のかは思い出せません。
相指名業者として記載されている,JVのスポンサーである,P6,
P166,P52,P35,P167も我々ゼネコンの談合仲間ですの
で,本命からなんらかの受注協力依頼を受けたことは考えられます。」
(エ)P153α82支社建築支店営業第三部次長(前α83営業所長)
P154の審査官に対する平成13年6月19日付け供述調書(甲サ1
96。なお,「一覧表中21番」の物件とは本件工事2のことであ
る。)
a「私がα83営業所長時代にP12公社発注の土木工事につき入札に
参加した物件について申します。
私は建築を主体に営業活動していましたので,土木物件については
長年,部下のP169に任せておりまして,入札にもめったに行って
いませんでした。入札に行っていたのは,現在α83営業所長のP1
70と副所長のP169でした。
入札に出向いておりましたのは私ではございませんが,当社が入札
時に入札する金額については所長である私が責任をもって指示してい
ました。」
b「当社が入札に参加した一覧表中21番,39番,49番,52番,
56番の物件については,落札業者として記載されている業者から工
事希望票を提出してほしいとの依頼を受けた物件もあると記憶してお
ります。また,本命からの札の価格の連絡につきましても,当社に対
し当社が入れる具体的な入札価格を連絡してきた業者もあったように
記憶しています。本命から具体的な札の価格連絡を受けた場合は,そ
の価格を入れる場合もありますし,価格の連絡を受けた上で当社の簡
易な積算価格で札を入れる時もありました。」
イ本件工事2は,被告P2を代表者とする建設共同企業体において,予定
価格の99.21%に当たる2億8100万円で落札されているところ,
前記1(3)のとおり,公正取引委員会の立入検査の前後において,公社発注
の特定土木工事の落札率等に有意な差がみられ,殊に落札率99%以上の
工事については,ひとまず本件慣行の存在が作用した旨を推認することが
可能な状況であるにもかかわらず,本件では,被告P2において落札価格
の積算根拠等につき積極的かつ具体的な主張立証等を行っていないこと,
上記各供述調書によれば,被告P2の従業員が,本件慣行の存在を前提と
して,相指名業者のうち,別紙業者一覧表記載の被告P6,P166株式
会社,P52,P35及びP167株式会社らの全部又は一部の者との間
で,入札価格の打合せをするなどしたことが認められることなどの諸事情
を総合すると,本件工事2については,被告P2の従業員により,相指名
業者との間で,受注価格の低落防止等を図り,被告P2を代表者とする建
設共同企業体において予定価格近似の金額で落札できるよう協力する旨の
談合が成立し,これにより,同建設共同企業体が本件工事2の落札業者と
なったと認めるのが相当である。
これに対し,被告P2は,上記P82の供述調書は信用性がない旨主張
するが,その供述内容は,上記P144の供述調書の内容とも合致し,さ
らに,同供述調書はP144が当時作成したメモに基づくなど具体的かつ
詳細な内容を含むものであって信用性が高いことなどからして,被告P2
の上記主張は採用することができない。
また,被告P2は,本件工事2の入札に参加した建設共同企業体の代表
者のうちには,広域総合建設業者ですらない業者も含まれており,受注調
整を行うことは不可能であったと主張するが,仮にこれらの業者が本件工
事2の談合に加わっていなかったとしても,上記落札率等からすれば,被
告P2の従業員が行った談合行為によって,事実上,本件工事2の入札に
不当な影響を及ぼし,その公正を害したものと推認することが相当である
から,被告P2の上記主張によっても,上記認定は左右されない。
したがって,被告P2は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(3)本件工事3について
ア本件工事3につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P11α16営業所長P80の審査官に対する平成13年9月
18日付け供述調書(甲サ137)
a「当社の場合は,本命ゼネコンに協力する物件の入札においてもすべ
ての物件について,自社で積算を行っておりますので,本命ゼネコン
の落札に協力する場合には,迷惑のかからない積算金額を自社の見積
り上がりの時期にもよりますが,遅くとも入札の前日までには,私か
ら本命ゼネコンの営業担当者へお伝えしておりました。」
b「次に,25番のP3・P18JVが落札した平成11年3月入札の
『八王子市α3×××番地先外下水道築造44(公14工区)工事』
の物件につきましてですが,当社は,八王子市α3に,土地区画整理
組合はまだ発足しておりませんが,土地区画整理工事の予定がありま
して,この土地区画整理工事の勉強を熱心に行っておりましたことか
ら,立地として25番の下水道工事を手掛ければ優位に勉強が続けら
れると考えておりましたことから,私の判断で工事希望票をP12公
社に提出いたしました。ところが指名をいただいた後,P3α96土
木営業所の方から私の部下であるP81に対して協力依頼がございま
した。P81にも確認しましたが,その方がどなたであったかまでは
思い出せないとのことでありましたので,御説明できませんが,P3
のα96土木営業所の方であったことに間違いはありません。
P81からP3からの協力依頼があった旨の報告を受けまして,α
16営業所で協議しましたが,結果,渋々ではありましたがP3の協
力依頼に応じることになりまして,私からP3α96土木営業所の方
か,同営業所の方が不在であったことも考えられますので,その場合
には同じフロアーに営業所をおいている同社α96建築総合営業所の
方に,遅くとも入札の前日までには当社の見積り価格をお伝えして,
結局,P3の落札に結果的に協力いたしました。」
(イ)旧P7α22支店α23営業所の元所長であったP85の審査官に
対する平成13年7月10日付け供述調書(甲サ82)
「次に当社が入札に参加したP12公社の物件は,29番の平成11年
3月29日入札執行の『八王子市α3×××番地先外下水道築造工事』
です。入札の結果は,P3さんらのジョイントベンチャーが落札してお
ります。
P12公社への工事希望票の提出方を当社は他のゼネコンから依頼さ
れたかどうかにつきましては,記憶がはっきりいたしません。私は,現
場が八王子市内の物件ならば,できるだけ入札参加することにしようと
の考えを持ち,P12公社の物件の場合も可能なものは積極的に工事希
望票を提出するようにしてきましたから,依頼を受けたとしても,今と
なってはその記憶がほとんど残っていないのです。
この物件につきましては,P3さんが本命業者になれるどういった立
地等を持っていたか覚えておりませんが,入札会までのゼネコン営業担
当者同士での情報交換によって,P3さんが強い,すなわち本命業者で
あるとのことを知り,当社は勉強してきていたものではなかったですか
ら,落札する考えを持たずに入札会に臨んだと記憶しております。P3
さんらのジョイントベンチャーから入札価格に関する協力依頼があった
との記憶はないですが,当社とP171株式会社のジョイントベンチャ
ーとして落札する考えはありませんでしたから,私は,本命業者の落札
を妨げない程度の価格,つまり,落札できそうにない価格を定めて,そ
れをもって当社らジョイントベンチャーは入札したと思います。ですか
ら,当社は,結果としてP3さんの落札に協力したことになります。」
(ウ)P39α28営業所課長P91の審査官に対する平成13年9月1
8日付け供述調書(甲サ172)
a「営業活動における情報収集などについて話します。
私は,営業活動の中で年度始めなどにこれから発注される物件につ
いて,当社として立地条件があって受注が可能な物件があるかどうか
又はゼネコン他社が狙っている物件についての情報収集をしていまし
た。これから発注される物件については,実施設計の発注が分かれば,
おのずと本体工事の発注時期や規模なども分かってきます。P12公
社の場合は,実施設計の発注が10月ころから始まり,それに続いて
本体工事は翌年度以降から発注されているのが現状です。そこで我々
営業マンは,P12公社から実施設計が発注された情報を業界紙やダ
ミコンなどから得て,翌年度以降発注されるであろう本体工事につい
て整理し,その本体工事について当社の立地条件を検討したり,ゼネ
コン他社の立地条件を探ったりといった作業をするのです。多摩地区
のゼネコン土木業界では,その立地条件などによって入札前に受注予
定者,つまり,本命が決められ,相指名になったゼネコンは,本命が
受注できるように協力するということが行われてきていましたので,
このような情報収集や情報に基づいて条件を探り合ったりすることは,
非常に重要な営業活動といえます。といいますのも,受注を希望する
ゼネコンが複数の場合は,工事が発注される前の段階から受注を希望
するゼネコン同士,条件の強さや濃さを比較し合って,最終的にはゼ
ネコンの中で本命が一本化されるからです。」
b「この文書の内容を説明しますと,私が年度始めに当社のα28営業
所長に平成9年度にP12公社から発注が予想される物件について,
市町村ごと,物件ごとに工事のランクや受注を希望している業者など
についてまとめて文書にしたものです。」
また,ここに記載された物件は,平成9年度又は平成9年度以降に
発注になっている物件です。」
c「次の『α97シールド』の物件は,この文書を作成した時点,つま
り,平成9年5月下旬から同年6月初旬ころではAクラスとAクラス
のJV物件で発注が予想され,本命は『P3』に決まっていました。
10年度か11年度にこの工事が発注され,P3とP18のJVが落
札していると思います。
これら受注予定者に関する情報は,当時はP13α11営業所にP
28さんがいらっしゃいましたので,P28さんにピーアールに行っ
たりして情報を得ていました。」
イ本件工事3は,被告P3を代表者とする建設共同企業体において,予定
価格の99.90%に当たる3億6600万円で落札されているところ,
前記1(3)のとおり,公正取引委員会の立入検査の前後において,公社発注
の特定土木工事の落札率等に有意な差がみられ,殊に落札率99%以上の
工事については,ひとまず本件慣行の存在が作用した旨を推認することが
可能な状況であるにもかかわらず,本件では,被告P3において落札価格
の積算根拠等につき積極的かつ具体的な主張立証等を行っていないこと,
上記P80の供述調書等によれば,被告P3の従業員が,本件慣行の存在
を前提とするなどして,積極的に受注意欲を有していた被告P11に対し,
被告P3を代表者とする建設共同企業体が本件工事3の受注予定者である
ことを認めさせ,入札価格の連絡をさせるなどしたことが認められること
などの諸事情を総合すると,本件工事3については,被告P3の従業員に
より,相指名業者の全部又は一部との間で,受注価格の低落防止等を図り,
被告P3を代表者とする建設共同企業体において予定価格近似の金額で落
札できるよう協力する旨の談合が成立し,これにより,同建設共同企業体
が本件工事3の落札業者となったと認めるのが相当である。
これに対し,被告P3は,上記P80の供述調書は,部下であるP81
からの伝聞に基づく内容が記載されており,信用できない旨主張するが,
P80は,被告P11α16営業所長として,当初,本件工事3について
受注意欲を有していたものの,被告P3からの要請に基づいて,被告P1
1α16営業所において協議の結果,被告P3を受注予定者と認めること
にした経緯を述べているものであって,その信用性を否定することはでき
ないから,被告P3の上記主張は採用することができない。
したがって,被告P3は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(4)本件工事4について
ア本件工事4につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P4α19営業所長P83の審査官に対する平成13年6月5
日付け供述調書(甲サ164)
a「P12公社発注の『八王子市α4××××番地先外下水道築造44
(公16工区)工事』の受注経緯について申しますと,平成10年の
秋ころに,この工事の調査設計が出て,当社のダミコンである(判読
不能)がP12公社から指名を受けております。この調査設計には,
当社のダミコン以外に,P65,P64,それに会社名は忘れました
がゼネコン2,3社のダミコンも指名を受けていたと思います。
当社は,この調査設計に当社のダミコンが指名に入ったということ
で,調査設計後に出る工事を何とか受注したい,受注に結び付けたい
という意欲,期待を持って,同じく平成10年の秋ころに,設計の仕
様書,図面等を持って,P13α11営業所の当時の所長であったP
28さんを訪ねました。このときのP28さんの反応は,聞いておく
といった反応ではなかったかと思います。
この工事の指名通知日は平成11年3月23日で,P12公社の場
合,指名通知日の2週間前の木曜日から翌週の月曜日にかけて工事の
公表があります。そして,翌週の火曜日には指名委員会が開かれ,指
名の連絡があり,翌日の水曜日に図渡しと現説が行われますが,この
工事が公表されてから,私は,ゼネコンの中の2,3社に対して,入
札参加してほしい,つまりP12公社へ工事希望票を出してほしいと
いうお願いをし,工事希望票を出してもらっております。工事希望票
を出してもらったゼネコンで覚えているのは,P40とP39で,他
はちょっと覚えておりません。」
b「そして,現説の翌日,相指名となった全社に対して,電話で,『勉
強している』といった内容で,当社の受注意欲を伝えました。このと
きの反応は,いい感じ,つまり,当社の受注意欲を理解してくれたよ
うに受け取りました。
当社で積算しましたが,過去の同規模程度の工事の入札結果等をみ
ますと,大体の予定価格は分かりますし,そんなに狂うことはありま
せんので,1回目で落ちるという金額を当社の入札価格としました。
この工事の入札は平成11年4月5日の月曜日に行われましたが,
入札の前の週の金曜日くらいには,私は,相指名業者の所長や営業担
当者に対して,電話で,当社の入札金額より高く入れてもらうために,
各社の1回目の入札金額と仮に1回目で落ちなかった場合を考えて2
回目は1回目の最低金額からいくらまで切る,といったものを伝えま
した。そして,この工事は,当社が伝えた価格で入札に臨んでもらい,
他の相指名業者の協力を得て,当社が1回目で落札しました。
なお,当社の受注意欲を伝えたり,入札価格の連絡をした相手は,
P41はα92営業所長のP139さんか営業担当者のP172さん,
P39はα28営業所のP173さんかP91さん,P42とP43
は名前は忘れましたがα67・α78の営業所長さん,P40はα3
4営業所長のP97さん,残りのP32,P174,P51,P17
5は,名前は忘れましたが,それぞれ営業担当者の方です。」
(イ)P39α28営業所課長P91の審査官に対する平成13年9月4
日付け供述調書(甲サ5)
「『八王子市α4××××番地先外下水道築造44(公16工区)工
事』は,落札したP4α19営業所のP83所長から工事希望票の提出
依頼がありまして,当社も見積りはしていたのですが,入札前に入札価
格の連絡もありました。当社は,連絡のあった入札価格よりも高めの価
格で応札して,P4の受注に協力した物件です。」
(ウ)P42α66本店土木営業部土木営業担当部長兼α67営業所長P
138の審査官に対する平成13年5月23日付け供述調書(甲サ15
3)
「入札日の3,4日前に,落札したP4α19営業の方から,『この工
事は,うちが勉強しているのですけれども。』というような内容の電話
がα67本店の私のところにありました。当社のα66本店に電話があ
ったといっても,当社α67営業所の電話は,α67本店の私のデスク
に転送されるようになっていますので,相手方としてはα67営業所に
架けているのかも知れません。
そのときのP4α19営業所の方と私のやり取りですが,私が電話を
受け『うちは,もう積算をしています。』と返事をすると,『どのくら
いであがりましたか。』と質問されたのです。私は,『23より上であ
がってますよ。』と返事したところ,『分かりました。』といって電話
でのやり取りは終わったと記憶しています。P4が本命として認めても
らうための電話を当社に架けてきたのですから,このとき当社の見積り
がP4の考えていた見積りよりも低ければ,『何とかなりませんか。』
といったようにもう少し違ったやり取りがあったものと思いますが,
『分かりました。』と言って,すんなりやり取りが終わった記憶があり
ますので,結局,P4の考えていた見積りは,当社の見積った価格より
も低かったものと理解しました。」
(エ)P40α34営業所の元所長であったP97の平成13年5月17
日付け供述調書(甲サ56。なお,「17番の物件」とは本件工事4の
ことである。)
「17番の物件は,『P12希望表提出件名』の件で説明したとおり,
P4α19営業所のP83所長から公表直後に希望票を提出するように
依頼されました。また,入札価格についても入札日の前日までに具体的
な1回目から3回目までの入札価格の電話連絡を受けて,私はその価格
で札入れして本命のP4が落札できるように協力しています。」
イ本件工事4は,被告P4において,予定価格の97.79%に当たる2
億3000万円で落札されているところ,上記各供述調書によれば,被告
P4の従業員が,本件慣行の存在を前提とするなどして,本件工事4の相
指名業者のすべてに対し,入札価格を連絡して,受注価格の低落防止等を
図り,被告P4において予定価格近似の金額で落札できるよう協力する旨
の談合が成立し,これにより,被告P4が本件工事4の落札業者となった
と認めるのが相当である。
これに対し,被告P4は,上記各供述調書はいずれも信用性がない旨主
張するが,上記各供述調書はいずれもその内容を相互に補完し合うもので,
入札価格の連絡方法やその担当者等についても具体的に述べられており,
信用性が高いものであって,被告P4の上記主張は採用することができな
い。
したがって,被告P4は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(5)本件工事5について
ア本件工事5につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P5α20支店α21営業所長P84の平成13年8月24日
付け供述調書(甲サ67)
a「平成11年6月21日入札が執行された『八王子市α5外私道内下
水道築造45−公7工事』は確かに当社が落札して受注し,その営業
は私が担当しました。
この物件については,受注調整グループのゼネコン内で強い立地条
件と認められる程の立地条件と言えないかも知れませんが,20年く
らい前に当社が施工場所から数百メートル離れた場所で八王子市発注
の下水道工事を施工した実績がありました。
私は,この物件の発注情報をつかみ勉強していたところ,この物件
は私道内の工事で工事がぶつ切れになりゼネコンにとってはあまり採
算の合わない工事,つまり,ゼネコンが狙わない,本命に空きができ
そうな物件であることがわかりました。そして,平成2年ころから当
社としてP12発注の土木物件を受注していなかったこともあって,
どうしてもこの工事を受注しようと考えました。この物件が公表され
る前の平成11年4月ころだったと思いますが,私がP13α11営
業所を訪問してP28所長さんに『当社は,平成2年ころからP12
発注の物件を受注していません。この物件は是非当社で受注させてく
ださい。』とピーアールしたところ,P28さんは,『この物件は,
A単物件だから,よその業者が入ってきて難しいぞ。』と言われまし
た。P28さんが言う『よその業者が入ってきて難しいぞ。』とは,
我々ゼネコンの受注調整グループ以外の業者,つまり,地元業者や専
門業者といった業者が指名メンバーに入る可能性があるということで,
それらの業者が指名メンバーに入ると調整がつかず受注確度が低くな
るという意味のことです。しかし,P28さんの言葉のニュアンスか
ら,他のゼネコンは勉強しているところがないとわかりましたので,
『勉強しますからよろしくお願いします。』といって,ゼネコンの本
命になるべく手を上げたのです。
私は,P28さんから当社が受注してもかまわないという了解が取
れたものと理解して,ゼネコン他社にこの物件は当社が勉強している,
つまり,ゼネコン他社に当社が本命だということを理解してもらうた
めに,私が親しくしているゼネコン仲間数人に対して,この物件は当
社が勉強している,つまり,当社が本命だということを伝えました。
これは,業界仲間を通じて当社がこの物件の本命であることを認識し
てもらうためでして,自然とこの物件の本命は当社であることが広が
ることを期待してのことです。
そして,この工事が公表された日又はその翌日に当社の受注に協力
してくれるゼネコン12社くらいに工事希望票を提出してもらうよう
に依頼しました。」
b「この指名メンバーを見るとP46,P39,P45,P44,P4
3の各α98営業所に私から工事希望を出してもらうように電話で依
頼した記憶があります。ですから,この指名メンバーに入らなかった
業者の中にも私が依頼した業者はありますが,今となってははっきり
とこの業者ということはできません。」
c「相指名になったP176とP56以外のゼネコン7社は,現説のと
きにも条件を主張したりということがありませんでしたので,当然,
当社が本命と認められたものと認識しました。そして,ゼネコン以外
のP176とP56には,現説で営業担当者にあったときに『当社が
勉強中ですから,よろしくお願いします。』と理解を求めましたとこ
ろ,『考えておきます。』という返事でした。P176とP56が
『考えておきます。』と返事し,『うちも勉強しています。』という
ように強気の発言ではなかったことから,私は,この2社とも当社が
本命であることを認めてくれたものと理解しました。そして,入札日
までに相指名業者の中から立地条件などを主張して当社と争うと主張
した業者はなかったので,当社が受注できると強い自信を持ちました。
入札価格の連絡ですが,私は相指名業者の中の親しくしているゼネ
コン仲間に対して,この物件についてはP39だったと思いますが,
『当社は,これで入札します。』と伝えておくのです。すると,本命
として認めてくれた地元業者なども含めて相指名業者全員にそのこと
が伝わり,当社の入札価格より高い価格で入札してくれて,結果的に
当社の受注に協力してくれるという方法をとりました。そして,この
物件は歩切り分が読みきれなくて1回で落札できませんでしたので,
当社は1回目の札から150万円切って2回目の札入れをしました。
業界内では本命に協力するという厳しい暗黙のルールがあり,2回目
以降は本命の価格,つまり,最低札から100万円以内に切った価格
で札入れして,本命の落札を邪魔しない価格で札入れして,本命の受
注に協力することになります。一度,業界内で本命が決まってしまえ
ば,その本命に協力するという不文律の掟みたいなものがありますの
で,この物件の場合も相指名業者は,すべて当社の1回目の価格から
100万円以内に切った価格で札入れしてもらい,当社が受注できま
した。」
(イ)被告P8α27支店土木営業部長(前α13営業所長)P90の審
査官に対する平成13年5月24日付け供述調書(甲サ144)
「平成11年6月21日入札の『八王子市α5外私道内下水道築造45
−公7工事』は,当社は入札に参加し,ゼネコンのP5が落札しており
ます。これも,P5から受注意欲をピーアールされたものと思いますが,
このときは,当社が平成11年8月に受注した八王子市α7の下水道工
事を受注すべく力を入れて営業しているときでありましたので,当社と
しては受注意欲のない工事であり,受注意欲がないということは分かっ
たことと思います。そして,概算で積算し,入札に臨み,結果的にはP
5が受注できるように協力したことになります。」
(ウ)P39α28営業所課長P91の審査官に対する平成13年9月4
日付け供述調書(甲サ5)
「『八王子市α5外私道内下水道築造45−公7工事』は,P5α21
営業所のP84所長から工事希望票の提出依頼を受け申し込んだ物件で
す。P5α21営業所のP84所長から見積りの探りがありまして,当
社は高めに見積もって入札に臨み,P5の落札に協力した物件です。」
(エ)P45営業本部α64営業所長P132の審査官に対する平成12
年12月21日付け供述調書(甲サ176)
「お示しの電話帳の4段目に『14時00分』,『○○○○○P84』,
『所長』,『P12公社の件でお世話になりました。』とありますが,
この○○○○○のP84さんというのは,P5のP84さんということ
ですが,私は,この方とは普段付き合いはなく,私の記憶にない方です。
この電話連絡は,お示しの入札結果報告書に書いてある,P12公社
発注の『八王子市α5外私道内下水道築造45−公7工事』に関する連
絡のことだと思います。
この工事はP5が落札しておりますので,この電話連絡のメモは,入
札の協力の話が当社にもあり,落札できたということでお礼の電話とい
うことになります。」
(オ)P44α44営業所の前所長であったP109の審査官に対する平
成13年9月27日付け供述調書(甲サ72)
「私が平成10年4月から平成12年7月まで,α44営業所長として
赴任していた時代に本命の受注に協力した物件について挙げますと,
(中略)『八王子市α5外私道内下水道築造45−公7工事』(中略)
の以上4件です。すべてP44は『お付き合い』で入札に参加した,つ
まり,受注意欲のない,希望票の提出を依頼されたことにより依頼され
るままに提出したら指名に入ったという無気力の物件であり,積算もし
ていないと思います。ですから,本命から連絡を受けた札で入札に参加
し落札に協力しました。」
(カ)P48α29支店次長P92の審査官に対する平成13年5月31
日付け供述調書(甲サ6)
a「『八王子市α5外私道内下水道築造45−公7工事』は,P5が落
札しておりますが,この工事は,多分,P5のP84所長かどなたか
から入札参加工事希望票を出してほしいと依頼を受け,当社は頼まれ
て申込みしたものです。つまり,この工事は,当社としては受注意欲
を持っている物件ではありませんでした。この工事の現説が平成11
年6月9日に行われており,この席でP5α21営業所長のP84さ
んと次席のP177さんと挨拶をして名刺交換をしました。この現説
が終わったときであったかその後日であったか定かでありませんが,
P5のP84さんから『熱心に営業しており受注したい』とお願いさ
れ,当社はP5のお願いを理解しました。そして,入札の前日までに
P5のP84所長かP177さんかのいずれかから入札価格の連絡を
受けました。」
b「お示しのページの左側の真ん中あたりに,『P12公社現説6/
910:15八王子市α5外私道内下水道築造45−公7工事』
と書いてあり,少しとばして『入札6/21(月)』と書いてありま
すが,これは,ただ今説明しております工事の入札結果等を書いたも
のです。
お示しのページの左下に『253,000,−238,900,−
236,500』と書いてありますが,これは入札の前日までにP5
のP84さんかP177さんのいずれかから連絡を受けた当社の1回
目から3回目までの入札金額です。当社は,P5から連絡のあった1
回目は253,000,000円,2回目は,238,900,00
0円で入札に応じ,P5が落札できるように協力しました。」
(キ)P40α34営業所の元所長であったP97の審査官に対する平成
13年5月17日付け供述調書(甲サ56。なお,「この表」とは「P
12希望表提出件名」と題する書面を指す。)
a「この表は,平成12年2月ころ,当時,営業所に残っている資料を
基に部下のP178に作成させたもので,私も目を通して確認して内
容も把握しております。」
b「表の中に『依頼者』の欄がありますが,希望票を提出するように依
頼した人,つまり,本工事に何らかの立地条件があって本命となって
いた業者からの希望票提出依頼を資料が残って分かる範囲で記載した
者で,その横の『OK』と記載してあるのは指名されたということを
表しています。」
c「『P5』とは,P5α21営業所から依頼があったことを意味して
いますが,このときは,P5のP84α21営業所長から依頼があっ
たことを思い出しました。」
イ本件工事5は,被告P5において,予定価格の99.77%に当たる2
億3750万円で落札されているところ,前記1(3)のとおり,公正取引委
員会の立入検査の前後において,公社発注の特定土木工事の落札率等に有
意な差がみられ,殊に落札率99%以上の工事については,ひとまず本件
慣行の存在が作用した旨を推認することが可能な状況であるにもかかわら
ず,本件では,被告P5において落札価格の積算根拠等につき積極的かつ
具体的な主張立証等を行っていないこと,上記各供述調書によれば,被告
P5の従業員が,本件慣行の存在を前提とするなどして,相指名業者に対
し,被告P5が受注予定者であることを伝達し,あらかじめ入札価格を連
絡するなどしたことが認められることなどの諸事情を総合すると,本件工
事5については,被告P5の従業員により,相指名業者との間で,受注価
格の低落防止等を図り,被告P5において予定価格近似の金額で落札でき
るよう協力する旨の談合が成立し,これにより,被告P5が本件工事5の
落札業者となったと認めるのが相当である。
これに対し,被告P5は,本件工事5の入札に参加した業者のうちには,
原告らが主張する基本合意の構成員たる別紙業者一覧表記載の業者以外の
者が含まれており,個別談合は成立し得ない旨主張するが,上記P84の
供述調書によれば,本件工事5の現場説明会において,広域総合建設業者
以外のP176及びP56との間でも意を通じたと認めることができるし,
また,本件工事5の入札は2回に及んでいるところ,2回目の入札に当た
っては,P176及びP56とも,上記P84の供述調書において2回目
以降の入札に当たっての「暗黙のルール」と説明される内容に従う入札結
果となっていること(別紙工事目録5記載の開札結果参照)等に照らし,
被告P5の上記主張は採用することができない。
したがって,被告P5は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(6)本件工事6について
ア本件工事6につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P6α14事務所長P73の審査官に対する平成13年9月4
日付け供述調書(甲サ161)
a「『八王子市α6×××番地先外下水道築造45(公1工区)工事』
という物件は平成11年6月28日に入札が行われ,Aランク業者及
びBランク業者の組合せで10JVが参加し,1回目の入札で当社と
P19のJVが落札しました。
私は,この物件について,基本設計が出た頃から是非受注したいと
考えていました。また,この物件の入札の1年くらい前に実施設計の
入札があり,この時当社のいわゆるダミコンと呼ばれている(判読不
能)が指名されていると思いますが,はっきり覚えておりませんので,
公取さんに提出している資料のうち,『指名通知書』という題名の大
学ノートを見せていただきたいと思います。」
b「お示しのノートの平成10年9月17日付けの『八王子市α6実施
設計作業』のところの入札参加者を見ると『(判読不能),P179,
P180,P181,P182,P183,P184,P185,P
186,P187』と書いてありますので,(判読不能)は指名を受
けており,入札の結果,P186が落札しました。
私の記憶では,この工事は,当初ミニシールド工法で施工する計画
であったものが,発注時には長距離泥水推進工法に変更になったもの
です。私は,この物件を是非受注したいと考えていましたので,基本
設計が公表された時にP12公社に行って,その旨が掲載された業界
紙の記事を元に詳しい情報を聞いたりして勉強していました。また,
いつころ誰に話したか思い出せないのですが,たまたま他のゼネコン
の営業所長クラスの人2,3人と会った時に,この物件は当社が勉強
しているというようなことを話した記憶があります。」
(イ)P50α38支店α39営業所長P104の審査官に対する平成1
3年10月3日付け供述調書(甲サ62)
「『八王子市α6×××番地先外下水道築造45(公1工区)工事』は,
P6が本命でした。この物件でゼネコン同士で叩き合いになった記憶は
ありません。P6にどのような立地条件があったかまでは覚えていませ
んが,P6α99営業所のP73所長から工事希望票の提出依頼を受け
申し込んだ物件です。当社は,P188とJVを組み,JVのスポンサ
ーとして入札に参加しています。
札の連絡もP6α99営業所からあったはずです。といいますのも,
当社は,このように協力依頼を受けた物件については,積算をすること
はありませんので,本命業者から札の連絡がないと応札価格が決められ
ないのです。適当な札価格,つまり,予定価格から余りにもかけ離れた
札価格で応札すると発注者からいい加減な業者と思われて,発注者から
見た当社の信用が失われてしまうこともあることから,協力依頼を受け
た物件については,本命業者から札の連絡があり,当社はその札価格で
応札して本命の落札に協力しているのです。この物件の場合も特段の事
情はありませんでしたから,本命のP6α99営業所から札の連絡が来
て,当社はその札価格で応札してP6とP19JVの落札に協力してい
る物件と言えます。」
(ウ)P153α82支社建築支店営業第三部次長(前α83営業所長)
P154の審査官に対する平成13年10月1日付け供述調書(甲サ8
0)
「P6・P19JVが落札した『八王子市α6×××番地先外下水道築
造45(公1工区)工事』につきましては,私の記憶にございますのは,
P6は八王子市α6付近で以前物件を手がけていたことがありました。
さらに,同業のゼネコンからP6のP73さんが熱心に営業している話
は聞いておりました。P73さんが熱心に営業している話を聞き,P6
が『本命』になることは入札前に判断ができました。当社は,この物件
につき受注意欲も物件の近隣においては条件もありませんでしたし,雑
ぱくな積算で入札に臨み,P6の受注に協力しました。なお,この物件
の相指名に記載されているJVのスポンサーである,P189,P52,
P65,P111,P41,P50,P37はどちらも我々ゼネコンの
談合仲間ですから,本命から何らかの依頼をされたか,あるいは,私の
ように,ゼネコン仲間からP6の受注意欲を聞いて受注に協力したもの
と思われます。」
(エ)P111α46営業所副所長P112の審査官に対する平成13年
8月23日付け供述調書(甲サ74)
「私は,平成10年度からP12の営業を担当しておりますが,何件か
指名に入っておりますが,残念ながら受注できた物件はありませんでし
た。指名を受けて入札に参加した物件は,本命から協力依頼があり,入
れ札の連絡をもらって,本命が受注できるように協力しました。私は,
当社が積算した金額が本命の受注に迷惑がかからなければ,当社が積算
した金額で応札していました。」
イ本件工事6は,被告P6を代表者とする建設共同企業体において,予定
価格の99.88%に当たる4億7300万円で落札されているところ,
前記1(3)のとおり,公正取引委員会の立入検査の前後において,公社発注
の特定土木工事の落札率等に有意な差がみられ,殊に落札率99%以上の
工事については,ひとまず本件慣行の存在が作用した旨を推認することが
可能な状況であるにもかかわらず,本件では,被告P6において落札価格
の積算根拠等につき積極的かつ具体的な主張立証等を行っていないこと,
上記各供述調書によれば,被告P6の従業員が,本件慣行の存在を前提と
して,相指名業者(建設共同企業体の代表者となる広域総合建設業者)に
対し,被告P6が受注予定者であることを伝達し,あらかじめ入札価格を
連絡するなどしたことが認められることなどの諸事情を総合すると,本件
工事6については,被告P6の従業員により,相指名業者との間で,受注
価格の低落防止等を図り,被告P6を代表者とする建設共同企業体におい
て予定価格近似の金額で落札できるよう協力する旨の談合が成立し,これ
により,同建設共同企業体が本件工事6の落札業者となったと認めるのが
相当である。
これに対し,被告P6は,上記P73の供述調書につき,同供述調書作
成の経過等につき記載したP73作成の陳述書(乙ニ1)を提出するなど
した上で,信用性がないなどと主張し,また,上記P104及びP154
の各供述調書についても,本件工事6につき個別談合があったことの証拠
とならない旨主張する。確かに,上記各供述調書においては,本件工事6
に関する受注調整の方法について,いささか概括的に記載されている部分
はあるものの,前記1(3)のとおり,本件慣行の存在が認められることに照
らすと,上記各供述調書は,いずれもその内容を相互に補完し合い,被告
P6の従業員において,おおむね本件慣行に従った受注調整行為があった
とうかがわれる点において一致しているから,被告P6の上記各主張は採
用することができない。
したがって,被告P6は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(7)本件工事7について
ア本件工事7につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)旧P7α22支店α23営業所長であるP85の審査官に対する平
成12年11月21日付け供述調書(甲サ4)
a「私がα23営業所へ赴任後にP13へピーアール活動をしたケース
は,昨年8月に八王子市の市内業者であるP20とのジョイントベン
チャーで落札,受注できました,P12公社発注の『八王子市α5ほ
かの下水道築造工事』についてでして,同公社が年度内の発注予定物
件を公表した4月の早い時期であったと記憶しております。」
b「その4月のα5等工事についてのピーアールのときに,私がα10
0での実績につき説明しますと,P28さんは,『そうですか』とい
った対応の仕方で,これといったコメント等はしなかったのですが,
予備指名をいただいて間もなくのころでしたから,昨年7月中旬くら
いに,私はP28さんに電話を架けて『α5の件は指名に入りました
から勉強させてもらってよいですか』といった言い方で,確認のため
に聞いております。これに対してP28さんは『まあ,頑張ってみた
らどうです』といった言い方をされましたから,私は,この件につい
ては当社が受注を目指す業者,つまり本命業者になれると受け取った
わけです。そういう次第で,私は,相指名業者,とりわけメインとな
る『スポンサー』のゼネコンさんらには協力方の挨拶をした方がよい
と考えまして,本指名をいただきました後でしたから,8月初めころ
に,P53などゼネコン6社くらいと東京都23区内と多摩地区に本
社を置くP56などゼネコンではないA級業者3社くらいに協力方の
挨拶をしております。挨拶は,電話でもお話ししていますが,一通り
出向いても行いました。
P20とのジョイント組みの経緯につきましては,私はBグループ
として指名に入りましたいずれかの業者の所へ電話を架け,地元とし
てはどの業者が『強い』のかを聞いておりまして,『P20が早くか
ら勉強してきている』と教えていただけましたが,P20の方でも同
様に情報収集をしていた様子でしたから,どちらから持ち掛けるとい
ったこともなく,連絡が成りまして,すんなりとジョイント結成する
ことが決まっております。
そして,入札価格についての協力依頼は,P12公社の場合は,月
曜日か火曜日に入札執行というのが大体のパターンですから,そうで
あるならば,前週の金曜日くらいに,私から各スポンサー業者の担当
者へ電話を架け,入札2回分の当社入札価格より高目の金額をそれぞ
れ伝えて,それをもって入札していただけるようお願いしました。」
(イ)P153α82支社建築支店営業第三部次長(前α83営業所長)
P154の審査官に対する平成13年10月1日付け供述調書(甲サ8
0)
「P7・P20JVが落札した『八王子市α5××××番地先外下水道
築造45(公4工区)工事』の物件は,当社は指名稼ぎのために入札に
参加しましたので,『本命』のP7から受注のための協力依頼を受けて
入札に臨みました。P7の営業所長のP85さんとは面識はありません
でしたが,面識はなくても受注の協力依頼はありますので,おそらくP
85さんから入札の際に札入れする価格について私か部下であったP1
69に対して電話で連絡があり,当社の概算ではじいた積算がP7の受
注に迷惑のかからない金額であることを確認して札入れしました。」
(ウ)P133株式会社(旧P53)α65支店副支店長P135の審査
官に対する平成13年8月10日付け供述調書(甲サ149)
「お示しの文書を見ますと,平成11年8月16日に開札されたP12
公社の八王子市の土木工事の入札物件で,当社もP190というBラン
ク業者とジョイントベンチャーを組んで入札に参加していることがわか
りますし,私の記憶でもこの物件の入札に当社が参加したことは間違い
ありません。
この時の経緯ですが,基本的には先ほど申しました受注調整の方法に
のっとって,当社は本命であるP7のジョイントベンチャーが受注でき
るように協力しております。
まず,P7のP85さんから電話だったと思いますが,この工事物件
について『当社が受注したいと考えているので,希望がなければP53
さんも申し込んで当社に協力してほしい,これはBランクとのジョイン
トベンチャー物件だからP190と組んでくれないか』といったことを
依頼されました。当社としては,特に取りにいこうと考えるような物件
ではなかったものですから,P7さんに協力しようと考えて了解してお
ります。ただ,やはり支店長,当時はP134ですが,P134にも報
告しなければならないと思ったので,P134にこのことを報告したと
ころ,『ウチでもぐってやれ』というような指示をしたのです。実は,
これが初めてではなく,この入札物件の1か月前くらいのP12公社の
物件で,P5さんが落札した物件の際にも同じようにもぐってしまえみ
たいなことをP134は言っておりましたが,その時は『勘弁してくだ
さいよ』となだめた経緯がありました。そこにきて,P134はまた同
じことを言い出したものですから,『冗談じゃないですよ』と,少々ケ
ンカになったわけです。ゼネコンの間で受注調整の対象となっている物
件をもぐろうものならば,他の仕事でも嫌がらせを受けたりするのは必
至ですから,私は業界のルールを破るわけにはいかないと考え,このP
134支店長の指示をはねつけ,P134には渋々ながら了解させたと
いうことがあったのです。
結局,この物件に関しては,後にP7から当社が入れる入札価格の連
絡があり,それが1回目と2回目についてだったか,1回目だけで後は
何万円以内ということだったかははっきりしませんが,連絡を受けた価
格で入札するよう,既に退社しておりますが,当時の営業担当のP19
1に入札に行くよう指示し,そのとおり入札してP7に協力しておりま
す。」
イ本件工事7は,旧P7を代表者とする建設共同企業体において,予定価
格の99.77%に当たる3億1200万円で落札されているところ,上
記各供述調書によれば,旧P7の従業員が,本件慣行の存在を前提とする
などして,本件工事7の相指名業者である建設共同企業体の代表者すべて
に対し,入札価格を連絡して,受注価格の低落防止等を図り,旧P7を代
表者とする建設共同企業体において予定価格近似の金額で落札できるよう
協力する旨の談合が成立し,これにより,同建設共同企業体が本件工事7
の落札業者となったと認めるのが相当である。
これに対し,引受参加人P7は,上記各供述調書の趣旨,証明力及び信
用性を争うが,上記各供述調書はいずれもその内容を相互に補完し合うも
ので,入札に至る経緯等についても具体的に述べられており,信用性が高
いものであって,引受参加人P7の上記主張は採用することができない。
したがって,旧P7からその債務を引き受けた引受参加人P7は,旧P
7の従業員が行った談合行為につき,旧P7が負う民法715条に基づく
不法行為責任を承継したものと解すべきである。
(8)本件工事8について
ア本件工事8につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部を
引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P8α27支店土木営業部長(前α13営業所長)P90の審
査官に対する平成13年5月24日付け供述調書(甲サ144)
「当社が受注した,平成11年8月16日に入札が行われたP12公社
発注の『八王子市α7××××番地先外下水道築造45(公14工区)
工事』も,当社のダミコンであるP57が入札に参加し,そこから設計
図書等を入手し,現地等を見て,受注意欲が沸き,また,このα7の施
工場所近隣での当社の施工実績つまり立地条件はなかったと思いますが,
α13営業所ができてから,多摩地区市町村やP12公社から受注した
実績がなかったことから,是非受注したいという強い受注意欲を持ちま
した。そして,設計段階での情報をP13α11営業所に持参して,受
注意欲をピーアールしております。
そして,公示されてからであったと思いますが,私は,P40さん,
P58さんや他のゼネコンさんにも入札に参加してもらえるようお願い
をしていると思います。入札参加を依頼したゼネコンさんは,当社が受
注意欲をピーアールした際に,特にこの工事に受注意欲がなさそうだと
いう感触が得られましたので,当社がスムーズに受注できるよう希望票
の提出をお願いしました。
そして,申込みの後,P12公社の方から指名通知が電話で来まして,
指名したということ,現説は大体は連絡のあった翌日にありますが,そ
の連絡が入ります。そして,現説に行きますと,最終的に指名された業
者はどこであるかということが分かります。
そして,現説が終わった後ですが,相指名となった業者に対して,当
社が早くからこの工事を受注できるよう営業努力をしていること,一生
懸命積算しているといったお願いをし,受注できるよう協力のお願いと
申しますかピーアールをしました。しかし,このα7の工事には,ゼネ
コン以外に,地元業者も入札に参加してきておりまして,この地元業者
にまで当社の受注意欲をピーアールしたかどうかはちょっと覚えており
ません。
P58さんは,協力のお話しをしましたところ,この工事への受注意
欲がないというふうに受け取りましたので,高めの概算で積算をしてく
れるであろうと考えました。概算で積算すれば,受注意欲を持って細か
く積算するよりも,間違いなくと申しますか,私の経験でも,高い金額
になります。
そして,この工事は,ピーアールの結果,少なくとも,P58さんは
受注意欲をなくし,結果的には協力していただいた形で当社が受注した
もの,つまり,多摩地区のゼネコンの間の慣習の中で受注したもので
す。」
(イ)P58α43営業所長P108の審査官に対する平成13年5月1
5日付け供述調書(甲サ71)
「お示しの文書の1枚目は,平成11年8月16日入札のP12公社発
注の『八王子市α7××××番地先外下水道築造45(公14工区)工
事』の開札結果表であり,この物件はAランクの物件で,地元のBラン
ク業者が格上げとなって入札に参加しています。当社はこの物件の入札
に参加しています。この物件はゼネコンのP8が2億600万円で落札
しています。
この物件は当社に立地条件はなく取りたいという物件ではありません
ので,甘い見積りを出して結果的に協力しています。」
イ本件工事8は,被告P8において,予定価格の99.60%に当たる2
億0600万円で落札されているところ,前記1(3)のとおり,公正取引委
員会の立入検査の前後において,公社発注の特定土木工事の落札率等に有
意な差がみられ,殊に落札率99%以上の工事については,ひとまず本件
慣行の存在が作用した旨を推認することが可能な状況であるにもかかわら
ず,本件では,被告P8において落札価格の積算根拠等につき積極的かつ
具体的な主張立証等を行っていないことや,上記各供述調書によれば,被
告P8の従業員が,本件慣行の存在を前提とするなどして,本件工事8の
相指名業者の全部又は一部に対し,被告P8が受注予定者であることを認
めさせるなどして,受注価格の低落防止等を図り,被告P8において予定
価格近似の金額で落札できるよう協力する旨の談合が成立し,これにより,
被告P8が本件工事8の落札業者となったと認めるのが相当である。
したがって,被告P8は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(9)本件工事10について
ア本件工事10につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部
を引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P9α24支店α25営業所長P86の審査官に対する平成1
2年12月22日付け供述調書(甲サ115。なお,「この資料」とは,
被告P13α11営業所から留置された「1.発注先(財)P12公
社2.件名八王子市α4付近外調査作業」で始まる文書1枚並びに
同文書添付の図面2枚及び工事設計書と題する文書2枚である。)
a「この資料も,先ほど話したものと同様に私が用意してP13α11
営業所に提出したものに間違いありません。」
b「そして,この工事の延長工事が財団法人P12公社から平成12年
3月29日,公募型指名競争入札として公表され,当社としては受注
意欲がありましたので,これに公募して指名されましたので,入札に
参加しました。
平成12年5月1日,八王子市内にあります財団法人P12公社で
午前10時から入札会が行われ,私が入札会に行きまして,当社は八
王子の地元業者であるP22とJVを組み,入札1回目,税抜きで3
億4500万円で落札し,現在施工中です。」
(イ)被告P4α19営業所長P83の審査官に対する平成13年6月5
日付け供述調書(甲サ164)
「平成12年5月1日入札の『八王子市α8×××番地先外下水道築造
46(公2工区)工事』は,当社とP159とのJVで入札に参加し,
P9とP22のJVが落札しております。この工事は,JVのスポンサ
ーとなったP9α25営業所のP86所長からであったと思いますが,
受注意欲があるということと工事希望票を出してほしいということをお
願いされ,当社はそれを理解し,工事希望票を出しました。そして,入
札の前日までにはP9から入札価格の連絡を受け,その価格で入札に臨
み,P9のJVが落札できるように協力しました。」
(ウ)P41α68営業所長P139の審査官に対する平成13年6月7
日付け供述調書(甲サ156)
「当社が強く受注を希望していた物件は51番の八王子市α8の下水道
工事でした。この物件の近隣で当社は東京都下水道局発注の下水道工事
を施工したことがあり,そうした条件があったものですから強く受注を
希望しました。この物件については,当社以外でP9さんも受注を希望
していました。P9のP86所長と2,3回,喫茶店で話し合いました。
そのとき,私は近隣の施工実績を述べて,受注を希望するといいました。
P86さんは,近隣の施工実績に加え,この物件の実施設計は八王子市
から発注となっておりますが,その実施設計の入札にP9のダミコンで
ある(判読不能)が入っていることを理由に当社より条件的に強いと言
っておりました。私としては,当社の近隣施工実績からみて,当社が本
命になれると思っていましたが,近隣施工実績とダミコンの指名という
2つの条件をP86さんが主張されたため,最終的には,P9に本命と
なることを譲りました。この連絡は電話で行いましたが,入札日直前で
した。この入札は月曜日ですので,前の週の金曜日にP86さんに電話
したと思います。このように直前まで,本命が決まらないという物件は
あまりないのではないかと思います。
P86さんに当社が降りるという話をしたときにP86さんから特に
入札金額は聞いておりません。当社も積算しており,大体の落札価格は
予想できますので,P9の落札の邪魔にならない価格で入札に参加して
おります。」
(エ)P60α54営業所長P118の審査官に対する平成13年5月9
日付け供述調書(甲サ113)
「お示しの文書の1枚目は,平成12年5月1日入札のP12公社発注
の『八王子市α8×××番地先外下水道築造46(公2工区)工事』の
物件であり,ABランクのJV物件です。当社はこの物件の入札に参加
しています。この物件はP9とP22のJVが3億4500万円で落札
しています。
JV物件の場合はスポンサーかサブのどちらかが施工実績などの立地
条件を持っていますが,その組み合せは難しいものと思っています。こ
の物件はJVのスポンサーの方から協力のお願いがあり,当社は取れる
物件ではありませんので概算で見積りを出して落札に協力していま
す。」
(オ)P59α40本店α41営業所長P105の審査官に対する平成1
3年7月5日付け供述調書(甲サ63)
「番号31のα8の物件は,ABのJV物件で,P9・P22JVが落
札した物件です。当社は,P192とのJVで入札に参加しています。
この物件については,当社の基準では『その他』の物件でしたが,特に
営業していた物件ではありませんでしたので,これも熱心に営業してい
る会社から依頼があって工事希望票を出した物件だったと思います。当
社に依頼してきた会社として考えられるのは,やはり,受注したP9で
す。この物件は,当社がスポンサーでしたから,当社で積算しておりま
すが,積算は概算で行っております。P9から入札価格の連絡があった
かどうかはっきりした記憶はありませんが,P12公社発注の物件につ
いてほとんど入札価格の連絡があった記憶がありますから,この物件に
ついても入札価格の連絡があったと思います。誰から連絡があったかも
思い出せませんが,P9ではP86所長が1人で営業を担当していると
聞いていますので,連絡があったとすればP86さんということになり
ます。」
(カ)P30α87支店α88営業所長P158の審査官に対する平成1
3年5月22日付け供述調書(甲サ208)
「提示がありました書面は,当社,すなわちP30株式会社のα88営
業所で作成し,P13株式会社のα11営業所に私が持参して,同社の
多分,前営業所長であるP28さんに渡したものです。私は,この提示
がありましたような書面のことを『ピーアール図面』と言っております。
この書面自体は,当社α88営業所で私の下で営業マンをしているP1
93に作成させております。
このケースは,財団法人P12公社,略して『P12公社』が発注予
定の八王子市α8×××番地先他46下水道築造工事(公2工区),略
して『α8下水道工事』についてですけれども,この工事物件について
は,年度初めころ,すなわち平成11年4月ころに出件の情報を得られ
ておりましたが,出件が近づいたとのことから,ピーアール図面を作成
して,このピーアール図面に日付記載されています平成12年2月18
日ころに,P13さんのα11営業所にピーアールに行ったと思います。
しかし,α8下水道工事は,確か委託元の八王子市の予算的都合か何か
の事情のため平成11年度には発注されず,平成12年5月に発注され
ており,P9がスポンサーとなったジョイントベンチャーが受注し,当
社は受注できませんでした。
α8下水道工事につきましては,このピーアール図面の左下部分に
『P194公社発注』と書き出しで書いてありますような,周辺地域で
の各種工事の施工実績を当社は持っていましたから,私は是非受注した
いと思い,P193にピーアール図面を作成させて,これをP13さん
に持参して,前所長のP28さんに対し,『記載してあるような周辺地
域での施工実績を当社では持っているので,このα8下水道工事につい
ては是非受注したいと考えています』と述べて,受注意欲をピーアール
しております。それに対して,P28さんは,特に具体的なコメントな
りサジェスチョンは行いませんで,確か『それでは,図面を預からせて
ください』と言われましたため,私は,このピーアール図面を差し上げ
て帰ってきたと記憶しております。
その後,P13のP28さんやP28さんの後任土木担当者であるP
76さんからコメントなどは頂けなかったですけれど,営業活動の過程
で他にゼネコンであるP9さんも強く受注意欲を持っておられることが
分かったものですから,具体的には覚えていませんが,時期は入札公示
より前くらいの時,すなわち入札執行日より1か月は早い時期に,P9
株式会社α25営業所の所長であるP86さんと,電話で双方の立地条
件などを交換し合うといった受注意欲についてのやり取りを行ったこと
があります。その立地条件等につきましては,当社の場合は,提示のピ
ーアール図面に表しています周辺地域での施工実績くらいであり,P9
さんの場合は,内容は覚えていませんが,周辺での施工実績を持ってお
られたほか,ダミコンである(判読不能)が当該物件に関連する実施設
計委託業務の入札に参加しているとの条件も持っていました。この時,
譲ることの話にはなっていませんが,私は,P9さんはかなり強く受注
意欲を持っているなと感じました。結局,私はP9さんが受注に向かう
なら止むを得ないと考え,当社は一歩引く形にはなっています。しかし,
P9さんと入札に当たって入札価格についてのやり取りは行っておりま
せんでした。と言いますのは,相指名業者としてゼネコン仲間ではない
P51とかP195といった「よそ者業者」が入りましたから,私は,
それら業者と叩き合いするなり何なりはP9さんの問題だとの考えであ
ったのです。当社は,自社積算価格くらいの価格で1回目入札を行った
と記憶しております。」
(キ)P61土木部官庁土木部門営業一部α101営業所長P196の審
査官に対する平成13年5月22日付け供述調書(甲サ246。なお,
「18番の物件」とは本件工事10のことである。)
a「P12公社が発注した『八王子市α8×××番地先外下水道築造4
6(公2工区)工事』の物件について他社の落札に協力していたこと
について申し上げます。」
b「お示しの文書は当社が入札に参加した一覧表であることを理解しま
した。
このうちP12公社が発注した18番の物件については,当社の
『条件』,つまり,関連する施工実績などはございませんでした。で
すから,もともと,入札で他社と競争して落札しようとは考えており
ませんでした。
受注意欲はもともとございませんでしたので,本社で簡易な積算を
お願いしていました。簡易な積算と申しますのは,当社で言いますと
『VEをかけない』つまり,『コストダウン』しなかったということ
になります。」
c「この物件につきましては,『条件』を持っている熱心なゼネコン何
社かが競合しているような話を,現場説明会に行った部下のP197
から聞いていました。
入札の結果,P9・P22のJVが落札しておりますが,実際に札
の連絡があったのは,本命であるJVの頭のP9さんからではなかっ
たと記憶しています。ただ,入札に参加した業者の中のどなたかであ
ったであろうという記憶はあります。落札結果を見て『P9さんから
札の連絡を受けたわけではないので,意外だったな。』と感想を持っ
たことを鮮明に覚えています。
私は,どこのゼネコンから札の連絡があったのかは正直に申しまし
て覚えていないのですが,その札の連絡と当社で簡易な積算をした価
格を考慮して,当社の札を設定し,P197に指示して実際に札を入
れさせました。」
イ本件工事10は,被告P9を代表者とする建設共同企業体において,予
定価格の98.06%に当たる3億4500万円で落札されているところ,
上記各供述調書によれば,被告P9の従業員が,本件慣行の存在を前提と
して,本件工事10につき積極的に受注意欲を有していたP41やP30
に対し,被告P9を代表者とする建設共同企業体が本件工事10の受注予
定者であることを認めさせるなどし,受注価格の低落防止等を図り,相指
名業者の全部又は一部との間で,同建設共同企業体において予定価格近似
の金額で落札できるよう協力する旨の談合が成立し,これにより,同建設
共同企業体が本件工事10の落札業者となったと認めるのが相当である。
これに対し,被告P9は,上記P158の供述調書に「相指名業者とし
てゼネコン仲間ではないP51とかP195といった『よそ者業者』が入
りましたから,私は,それら業者と叩き合いするなり何なりはP9さんの
問題だとの考えであったのです。」との記載があるなど,本件工事10の
入札に参加した業者(殊に建設共同企業体の代表者)のうちには,広域総
合建設業者でない者も含まれており,受注調整を行うことは不可能であっ
た旨主張するが,仮にこれらの業者が本件工事10の談合に加わっていな
かったとしても,上記落札率(なお,被告P9は,本件において,積極的
かつ具体的に落札価格の積算根拠等につき主張立証等を行っていない。)
等からすれば,被告P9の従業員が行った談合行為によって,事実上,本
件工事10の入札に不当な影響を及ぼし,その公正を害したものと推認す
ることが相当であるから,被告P9建設の上記主張によっても,上記認定
は左右されない。
したがって,被告P9は,その従業員が行った談合行為につき,民法7
15条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(10)本件工事12について
ア本件工事12につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部
を引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P10α26営業所長P89の審査官に対する平成13年4月
10日付け供述調書(甲サ169)
「この物件は,当社が単独であれば,この工事を受注できる関連性とか
地域性といった条件はありませんでした。そして,JVの親会社の中で
本命になり得る条件を持っている業者もなく,また,そのような条件を
提示してくる業者もありませんでした。
一方,予備指名のメンバーの中でP25は,八王子市の地元業者であ
り,施工場所に最も近いという地域性を有しておりました。と言います
のも,P25は,この工事の施工場所から300メートルくらいしか社
屋が離れておりませんでしたから,P25の家の前を工事するようなも
のといっても過言ではなく,JVの子供の中では最も優れた地域性を有
しており,指名された地元業者の中では本命となり得る条件を兼ね備え
た業者と言えました。
そこで,私は予備指名があった直後から,P25のP198常務に電
話をして,当社とJVを組んでもらいたいとお願いしたのです。こうし
てP25とJVを組むことになり,私どものJVが一番強い本命として
の条件を兼ね備えることができたのです。
そして,本指名の後,どの業者がどことJVを組んだかが分かります。
指名メンバーには,当然,当社がP25とJVを組んだことが分かり,
その優位性が認識されます。当社がJVを組んだP25の地域性という
のは,家の目の前を工事するというか,庭先を工事するようなもので,
他社が工事の関連性だとか地域性などということをいって本命となり得
る条件を提示した場合には,人の庭先をいじるようなものだといわれ,
業界内では常識外れとみなされてしまうのです。このことから,当社は
P25とJVを組むことにより最も強い優位性を有したわけです。結局,
当社から相指名業者に対する価格連絡はしていませんが,この優位性が
認められたものと思います。」
(イ)P39α28営業所課長P91の審査官に対する平成13年9月4
日付け供述調書(甲サ5)
「『八王子市α9××××番地先外下水道築造工事46(公3工区)工
事』は,当社も立地条件がありまして狙っていた物件でした。しかし,
この工事が公表になった直後だったと思いますが,P28さんの後を引
き継いだP13α11営業所のP76さんから当社P173所長に電話
がありまして『P15は数年間受注がない,P15に譲ってほしい,あ
なたのところは,市町村でとっているから今回は我慢してほしい。』と
いう内容の電話があったのです。当社としては,P15のα102営業
所を訪ね,P199所長と話合いを持ち,今回は当社が我慢することに
しました。P15からは見積金額の探りがありまして,入札では,P1
5が落札できるように高めに見積りをして,P15の落札に協力しまし
た。」
(ウ)P58α43営業所長P108の審査官に対する平成13年5月1
5日付け供述調書(甲サ71)
「この工事物件は,P15が勉強していた話が聞こえてきました。P5
8としては,無理にP25さんの近くまで行って受注したいとは思いま
せんので,甘い見積りをして結果的に協力しています。」
イ本件工事12は,被告P10を代表者とする建設共同企業体において,
予定価格の99.03%に当たる2億8800万円で落札されているとこ
ろ,前記1(3)のとおり,公正取引委員会の立入検査の前後において,公社
発注の特定土木工事の落札率等に有意な差がみられ,殊に落札率99%以
上の工事については,ひとまず本件慣行の存在が作用した旨を推認するこ
とが可能な状況であるにもかかわらず,本件では,被告P10において落
札価格の積算根拠等につき積極的かつ具体的な主張立証等を行っていない
こと,上記各供述調書によれば,被告P10の従業員が,本件慣行の存在
を前提とするなどして,本件工事12につき積極的に受注意欲を有してい
たP39と話合いの上,同社に対し,被告P10を代表者とする建設共同
企業体が本件工事12の受注予定者であることを認めさせるなどしたこと
が認められることなどの諸事情を総合すると,本件工事12については,
被告P10の従業員により,相指名業者の全部又は一部との間で,受注価
格の低落防止等を図り,被告P10を代表者とする建設共同企業体におい
て予定価格近似の金額で落札できるよう協力する旨の談合が成立し,これ
により,同建設共同企業体が本件工事12の落札業者となったと認めるの
が相当である。
これに対し,被告P10は,本件工事12の入札に参加した建設共同企
業体の代表者のうち6社は地元業者であるところ,これら地元業者に対し
ても被告P10が受注予定者となることの承認を得た事実は立証されない
から個別談合は成立しない旨主張するが,仮にこれらの業者が本件工事1
2の談合に加わっていなかったとしても,上記落札率等からすれば,被告
P10の従業員が行った談合行為によって,事実上,本件工事12の入札
に不当な影響を及ぼし,その公正を害したものと推認することが相当であ
るから,被告P10の上記主張によっても,上記認定は左右されない。
したがって,被告P10は,その従業員が行った談合行為につき,民法
715条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(11)本件工事13について
ア本件工事13につき,関係者の審査官に対する各供述調書の記載の一部
を引用すると,次のとおりである。
(ア)被告P11α16営業所長P80の審査官に対する平成13年9月
18日付け供述調書(甲サ137)
a「このα10の物件は,大きな立地等はありませんでしたが,是非受
注したいと早くから勉強を行っておりまして,同業ゼネコン他社の営
業担当者も当社がこの物件を勉強していることは承知していたと思い
ます。このようなことから本命を目指すような同業ゼネコンはおりま
せんで,入札に参加された同業ゼネコン他社の方は,当社の勉強度合
いをお認めいただいて当社が落札できたものでありました。」
b「具体的にその状況をご説明しますと,まず,この物件が公表になっ
てから,二十数社の同業ゼネコンの方々に入札に参加していただける
ようお願いしました。
この一覧表の3番のα10の相指名ゼネコンを見てお分かりのとお
り,相指名業者は,P32さんだけがゼネコンではなく,それ以外は,
すべて私が入札参加していただくようお願いした同業ゼネコンでござ
います。
入札参加をお願いしたのはすべて多摩地区の営業を担当されている
方でございまして,P72さんを除いてはすべて多摩に出先をおいて
いる営業担当者の方々に私とP81とで手分けしてそれぞれお願いし
ました。
順を追って説明致しますと,私の記憶では,P65はP200さん
かP103さん,P63はP96さんかP201さん,P66はP2
02さん,P37はP143さん,P67はP114さんかP203
さん,P72はα103支店の多摩地区営業担当者,P41はP13
9さん,P71はP155さん,P68はP151さん,P21は記
憶がはっきりしませんがα55の営業所の方,P69はP204さん,
P8は記憶がはっきりしませんがα13の営業所の方,P70はP1
13さん,P64は記憶がはっきりしませんがα58の営業所の方,
P62はP117さん,P39はP91さん,の方々にお願いしたと
記憶しております。P3については,所長さんなどの土木の責任者の
方が不在だったため,営業所におられた方に土木営業の責任者にお伝
え下さいとお願いしたと記憶しております。」
c「そして,入札価格の連絡につきましては,当社の見積り上がりから
応札する予定の金額をJVの頭であるそれぞれのゼネコンの方々に私
が各営業所等を回ってお伝えし,当社はこの金額で応札する予定であ
るから当社の受注に御協力をお願いしますと言ってお願いいたしてお
ります。
お願いした方々は,先ほど入札参加依頼をお願いした方々であると
記憶しております。ただ,入札価格の協力依頼をお願いした中で,P
3のα96の土木営業責任者の方がまたも不在であったことから,事
務所の方にお伝え下さいと伝言したと記憶しております。このような
経過がございまして,その結果,当社は落札することができまし
た。」
(イ)被告P11α16営業所副所長P81の審査官に対する平成13年
6月29日付け供述調書(甲サ86)
「この物件の公表後だったと思いますが,この工事に入札参加可能なラ
ンクのゼネコン業者に対し,工事希望票を提出してこの入札に参加して
当社の受注に協力してほしい旨の依頼をしました。協力をお願いしたゼ
ネコン業者数は,12,13社くらいであったと思います。そして,発
注者からこの物件の指名がなされましたが,相指名業者中の各ゼネコン
さんは,そのすべてが協力依頼したゼネコンであったと思います。
ゼネコンさんに協力依頼をしたのは,私か私の上司のP80でありま
したが,協力をお願いした各ゼネコン担当者について説明致しますと,
はっきりとは覚えていませんが,P65は同社α37営業所のP200
さんかP103さん,P3は,同社α96土木営業所のP205さん,
P66は同社α104営業所のP202さんかP206さん,P67は
同社α50営業所のP114さんかP203さん,P41は同社α92
営業所のP139さんかP172さん,P68は同社α80営業所のP
151さん,P69は同社α105営業所のP204さんかP207さ
ん,P70は同社α48営業所のP113さん,P62は同社α53土
木営業所のP117さん,の方々に対して協力をお願いしたと思います。
なお,協力をお願いしたゼネコンさんは,当社と同じランクでJVの
親となるようなゼネコンさんに対してお願いしており,子供の業者には
お願いは致しておりません。それは,通常,JVの親になるゼネコンが
入札手続等の決定権を持つことになるからであります。その後,入札の
前日か前々日に,私かP80のどちらかでありましたが,相指名ゼネコ
ンの担当者に対して,相指名業者に入れてほしい入札価格そのものか見
積り上がりを提示し合ったものか,そのどちらかでしたが,入札価格に
ついても相指名ゼネコンの営業担当者に連絡いたしました。
結果,相指名ゼネコンの方々の協力を得まして,当社とP18のJV
が落札することができました。
この物件の当社の過去の施工実績等の立地条件としましては,この工
事の近隣である平成11年に八王子市から発注されました同市α106
の下水道工事を手掛けておりまして,また,当社はシールド工事等の難
易度の高い下水道工事を得意としておりますことから,多摩地区ゼネコ
ン他社さんに対して,当社の立地条件と当社の技術を説明し,当社の受
注意欲をアピールしてきた物件でした。」
(ウ)P64α58営業所長P124の審査官に対する平成13年5月2
4日付け供述調書(甲サ92)
「この物件は,P11とP18のJVが落札致しておりますが,ゼネコ
ンであるP11のP81さんから,私に対してこの物件の申込みと協力
の依頼がございまして,私はその協力依頼に応じて,入札に参加した物
件でありました。
この物件のJVのサブとして入札に参加したため,その後の折衝は行
っておりません。」
(エ)P39α28営業所課長P91の審査官に対する平成13年9月4
日付け供述調書(甲サ5)
「『八王子市α10×××番地先外下水道築造46(公1工区)工事』
は,P11α16営業所のP80所長から当社のP173所長に工事希
望票の提出依頼がありまして申し込んだ物件です。入札価格の決定はJ
Vのスポンサー会社が行いますので,落札したP11からJVのスポン
サー会社に対しては,何らかの形で入札価格の連絡が来ているはずです
が,当社はこの物件でP62とJVを組みまして,JVの子供でしたか
ら入札価格の連絡までは知る立場にありませんので具体的には話せませ
ん。」
(オ)P62α52土木支店α53土木営業所長P117の審査官に対す
る平成13年6月14日付け供述調書(甲サ78)
「38番の工事は,ミニシールド工事であり,当社もできれば頭になっ
て入札に参加したいと思った物件でした。この物件については,工事希
望票を出してくださいとお願いされたかどうか記憶しておりません。こ
の物件についても自社で積算しておりますが,P11のP80所長だっ
たと思いますが,P80所長からP11の入札金額について連絡を受け
ており,それより自社の積算金額が高かったですから自社の積算金額で
入札に参加し,P11が落札できるよう協力しております。」
(カ)P69α105営業所長P204の審査官に対する平成13年9月
3日付け供述調書(甲サ88)
「α10下水道工事につきましては,私は,当社として是非受注したい
との,積極的に落札を目指す考えで入札に参加したものではなかったと
の記憶があります。この件につきましても,落札したP11さんから入
札までの間に,何らか受注について協力方の話があったとのことはあり
得ます。しかし,具体的な記憶がありませんから,はっきりと申すこと
はできません。」
イ本件工事13は,被告P11を代表者とする建設共同企業体において,
予定価格の99.74%に当たる7億9000万円で落札されているとこ
ろ,上記各供述調書によれば,被告P11の従業員が,本件慣行の存在を
前提とするなどして,本件工事13の相指名業者である建設共同企業体の
代表者すべてに対し,入札価格を連絡して,受注価格の低落防止等を図り,
被告P11を代表者とする建設共同企業体において予定価格近似の金額で
落札できるよう協力する旨の談合が成立し,これにより,同建設共同企業
体が本件工事13の落札業者となったと認めるのが相当である。
したがって,被告P11は,その従業員が行った談合行為につき,民法
715条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
(12)なお,原告らの予備的請求に係る訴えは,談合が行われたとして本件監
査請求の対象となった本件工事1ないし13の一部につき,本件監査請求に
おいて損害賠償義務を負うとされた34社の一部を被告とし,本件工事1な
いし13の一部について個別の談合があったかどうかを問題とするものであ
るから,本件監査請求により住民監査請求は前置されており,上記訴えは適
法である。
また,原告らの予備的請求に係る訴えは,原告ら主張の基本合意の存在が
認められず,被告らのすべてについて共同不法行為による不真正連帯責任が
認められない場合に備えて,主位的請求に係る被告らの一部につき,主位的
請求に係る損害額の一部の賠償をするよう求めるものであるから,これが訴
えの変更に当たるとしても,出訴期間の遵守において欠けるところはない。
3争点(3)(八王子市における損害の発生)について
前記前提事実(4)によれば,①八王子市は公社との間で本件各委託契約を締結
し,公社に対し,工事費,すなわち公社と工事請負人との間の契約金額を含む
委託費を支払うことになっていること,②本件工事1ないし8,10,12及
び13は,本件各委託契約等に基づいて公社が発注したものであり,公社はこ
れらの工事について,八王子市に対し,契約書の写し1部を添付した上,工事
件名,契約金額,工期,契約年月日及び契約先を通知していたこと,③八王子
市は,公社に対し,本件工事1ないし8,10,12及び13につき,工事完
了ごとに公社からの請求に応じ,それぞれ本件各委託契約に基づく委託費を支
払ったことなどが認められるところ,これらの事実関係によれば,被告らの個
別談合行為によって本件工事1ないし8,10,12及び13の請負金額が不
当につり上げられたものであり,談合がなく公正な競争が確保されていたなら
ばその金額が低額になったものと認められる以上(その額等については後記4
で検討する。),八王子市に損害が発生するものと認めるのが相当である。
4争点(4)(損害の額)について
(1)本件工事1ないし8,10,12及び13の各談合によって,これらの工
事を落札した被告らは,公正な競争によって決定されるべき入札価格につい
て,そのような競争をすることなく,予定価格近似の価格で入札をし,当該
価格で工事を落札することができることとなって,自社の利益を最大限に確
保したものである。そして,談合がなければ,入札参加者間での公正な競争
により落札業者が決定され,競争が行われた場合に形成されたであろう落札
価格に基づいて締結された請負契約に係る契約金額と,談合に基づいて現実
に締結された請負契約に係る契約金額との差額分について,上記各工事を落
札した被告らは,八王子市に対して損害を与えたものというべきである。
しかしながら,公正な競争によって決定される落札価格は,談合の結果,
実際には形成されなかったものであり,また,その落札価格は,当該具体的
な工事の種類,規模,場所,内容,入札当時の経済情勢及び各社の財政状況,
当該工事以外の工事の数及び請負金額,当該工事に係る入札への参加者数並
びに地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものである。
そうすると,公正な競争によって決定される落札価格を証拠に基づき具体的
に認定することは極めて困難であるものといわざるを得ない。
したがって,本件においては,八王子市において損害が生じたことは認め
られるものの,損害の性質上,その額を立証することが極めて困難であるか
ら,民訴法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づ
き,相当な損害額を認定すべきものである。
(2)以上のような観点から,八王子市が被った損害額について判断するに,原
告らは,談合がなければ,最低制限価格が落札価格となったはずであると主
張するが,公正取引委員会による立入検査が行われた後の平成12年10月
1日から同17年11月1日までの期間における公社発注の特定土木工事1
39件(別紙「特定土木工事一覧表」参照)を見ても,そのすべてが最低制
限価格で落札されているわけではなく,また,関係者の審査官に対する各供
述調書によれば,「入札でまともに競争していると低価格での受注で赤字に
なってしまう」(甲サ71,85,113,135,138,155,17
1),「受注調整が行われないと赤字になるケースが多くなる」(甲サ18
4)などといった記載が散見されるところであり,もちろん個別の工事の種
類,規模等によるものの,公社発注の特定土木工事が常に最低制限価格で落
札されるべきものとすれば,落札業者において適正な利益が確保できない可
能性もあるのであって,これらの事情を考慮すると,原告らの上記主張を直
ちに採用することはできない。
別紙「特定土木工事一覧表」を見ても明らかなとおり,落札率は個別の工
事ごとに相当程度の差異がある上,損害額の算定が困難であるにもかかわら
ず,被告らに対し損害賠償義務を負わせる以上,当該賠償額の算定に当たっ
てはある程度謙抑的に認定することもやむを得ないと考えられるところ,前
記1(3)のとおり,平成9年10月1日から同12年9月27日までの期間に
おける公社発注の特定土木工事72件における平均落札率が94.54%と
なっている一方で,同年10月1日から同17年11月1日までの期間にお
ける同工事139件における平均落札率が89.85%となっていることな
どに照らすと,八王子市が本件工事1ないし8,10,12及び13の各談
合によって被った損害は,少なくともこれら工事の請負契約における各契約
金額の5%に相当する金額であると認めるのが相当である。
(3)したがって,別紙工事目録1ないし8,10,12及び13記載の各契約
金額に0.05を乗じて,損害額を算定すると,次のとおりとなる。
ア本件工事11283万6250円
イ本件工事21475万2500円
ウ本件工事31921万5000円
エ本件工事41207万5000円
オ本件工事51246万8750円
カ本件工事62483万2500円
キ本件工事71638万円
ク本件工事81081万5000円
ケ本件工事101811万2500円
コ本件工事121512万円
サ本件工事134147万5000円
(4)よって,①被告P1は八王子市に対し,1283万6250円及びこれに
対する不法行為後である訴状送達の日の翌日(平成14年6月7日)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,②被告
P2は八王子市に対し,1475万2500円及びこれに対する不法行為後
である訴状送達の日の翌日(平成14年6月6日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,③被告P3は八王子市に
対し,1921万5000円及びこれに対する不法行為後である訴状送達の
日の翌日(平成14年6月6日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払義務が,④被告P4は八王子市に対し,1207万
5000円及びこれに対する不法行為後である訴状送達の日の翌日(平成1
4年6月6日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払義務が,⑤被告P5は八王子市に対し,1246万8750円及びこ
れに対する不法行為後である訴状送達の日の翌日(平成14年6月6日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,⑥
被告P6は八王子市に対し,2483万2500円及びこれに対する不法行
為後である訴状送達の日の翌日(平成14年6月7日)から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,⑦引受参加人P7は
八王子市に対し,1638万円及びこれに対する不法行為後である旧P7に
対する訴状送達の日の翌日(平成14年6月7日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,⑧被告P8は八王子市に
対し,1081万5000円及びこれに対する不法行為後である訴状送達の
日の翌日(平成14年6月6日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払義務が,⑨被告P9は八王子市に対し,1811万
2500円及びこれに対する不法行為後である訴状送達の日の翌日(平成1
4年6月7日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払義務が,⑩被告P10は八王子市に対し,1512万円及びこれに対
する不法行為後である訴状送達の日の翌日(平成14年6月6日)から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,⑪被告P
11は八王子市に対し,4147万5000円及びこれに対する不法行為後
である訴状送達の日の翌日(平成14年6月7日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務が,それぞれあるというべき
である。
5争点(5)(違法な怠る事実の有無)について
地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,地方
自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在す
る債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,
地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はないところ(最高裁
平成12年(行ヒ)第246号同16年4月23日第二小法廷判決・民集58
巻4号892頁参照),八王子市長は,前記4(4)記載の各損害賠償請求権を行
使していない。
この点,仮に被告らが主張するとおり,八王子市長が独占禁止法25条に基
づく損害賠償請求権が行使できるようになる時期が到来するのを待ち,その間,
不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことも裁量により許されるとす
れば,客観的には不法行為に基づく損害賠償請求権発生要件に該当する具体的
事実が存在することが証明される場合であっても,地方公共団体の長が独占禁
止法25条に基づく損害賠償請求権の行使を選択した以上,公正取引委員会の
審決の確定までは,違法に損害賠償請求権の行使を怠る事実は存在しないこと
になり,更には,地方公共団体の住民が地方自治法242条の2第1項に基づ
く訴えを提起することはできないこととならざるを得ない。
しかしながら,地方自治法その他の法令上,独占禁止法第25条に基づく損
害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権とについて,地方公共団体の
長に,専ら独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求権の行使を選択して審決
の確定まで訴えの提起をしないことができることとする権限を付与する旨の規
定は何ら存在しないのであり,平成14年法律第4号による改正の前後を問わ
ず,地方自治法242条及び242条の2第1項が地方公共団体の長にそのよ
うな権限が付与されていることを前提にしているものとは解し難い。また,被
告らの一部につき,不法行為に基づく損害賠償責任が客観的に存在することは
前記のとおりであって,被告らの主張はその法的根拠を欠くものであるといわ
ざるを得ない。
前記4(4)のとおり,被告らの一部は,談合によって八王子市に対して損害を
与えており,これらの行為は民法上の不法行為を構成するにもかかわらず,八
王子市長は損害賠償請求権を行使しておらず,その不行使は違法というべきで
あり,本件訴訟における原告らの損害賠償代位請求は前記4(4)の限度で理由が
あるというべきである。
6結論
以上の次第で,原告らの本件各請求は,主文の限度で理由があるから一部認
容し,その余の部分は理由がないからいずれも棄却することとして,訴訟費用
の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文,65条1項
を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官市原義孝
裁判官島村典男

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