弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中別紙物件目録(四)の土地につき上告人敗訴の部分を破棄する。
     右部分についての被上告人の本件控訴を棄却する。
     上告人のその余の本件上告を棄却する。
     訴訟の総費用は、これを一〇分し、その九を上告人の、その余を被上告
人の各負担とする。
         理    由
 上告代理人泉昭夫の上告理由一及び三について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、いずれも採
用することができない。
 同二について
 原審は、被上告人の本訴請求のうち原判決別紙物件目録(四)の土地(以下「本件
(四)の土地」という。)に係る請求について、次のとおり判断している。(一) 被
上告人は、昭和二三年七月ころ、訴外亡Dからその所有に係る愛知県渥美郡a町大
字b字cd番畑二畝二八歩(以下「cの土地」という。)の贈与を受け(以下「本
件贈与」ともいう。)、その引渡を受けて占有を開始し、昭和四〇年ころまで右占
有を継続していた、(二) 被上告人は、cの土地の占有を開始するにあたつて、そ
の所有権を取得したと信じていたものであり、このように信ずるについて過失と咎
むべき事情も存しないから、昭和二三年七月ころからcの土地を所有の意思をもつ
て平穏公然に占有し、その占有の始め善意にして過失がなかつたというべきであり、
したがつて、昭和三三年七月の経過とともに、cの土地の所有権を時効により取得
したものというべきである、(三) cの土地は、昭和四八年一二月一三日土地改良
法による換地処分により、他の八筆の土地とともに本件(四)の土地が換地として指
定されたから、被上告人は本件(四)の土地につきcの土地相当の八〇〇三分の九〇
の割合による共有持分を取得した、(四) 本件(四)の土地は上告人の所有として登
記されている、(五) したがつて、上告人は被上告人に対し、本件(四)の土地につ
き、被上告人の持分を八〇〇三分の九〇とする持分移転の登記義務があるから、被
上告人の本件(四)の土地に係る請求については、右持分の移転登記を求める限度で
認容すべきであるが、その余は理由がないとし、右請求を全部棄却した第一審判決
に対する被上告人の本件控訴を右の限度で容れ、その余の右控訴を棄却すべきもの
とし、この趣旨で第一審判決を変更している。
 しかしながら、原審の右判断は到底首肯することができない。その理由は次のと
おりである。
 被上告人が本件贈与に基づきcの土地の占有を開始した昭和二三年七月当時にお
いては、農地の所有権を移転するためには、農地調整法(但し昭和二四年法律第二
一五号による改正前のもの)四条一項及び三項、同法施行令(但し同年政令第二二
四号による改正前のもの)二条の各規定に従い、都道府県知事の許可(以下「知事
の許可」という。)を受けることが必要であり、右移転を目的とする法律行為は、
これにつき知事の許可がない限り、その効力を生じないとされていたのである。し
たがつて、農地の譲渡を受けた者は、通常の注意義務を尽すときには、譲渡を目的
とする法律行為をしても、これにつき知事の許可がない限り、当該農地の所有権を
取得することができないことを知りえたものというべきであるから、譲渡について
された知事の許可に瑕疵があつて無効であるが右瑕疵のあることにつき善意であつ
た等の特段の事情のない限り、譲渡を目的とする法律行為をしただけで当該農地の
所有権を取得したと信じたとしても、このように信ずるについては過失がないとは
いえないというべきである。本件において、原審の認定するところによると、被上
告人は、昭和二三年七月ころ農地であるcの土地の贈与を受けたが、右贈与につい
ては知事の許可がなかつたというのであり、また、記録に照らすと、被上告人は、
原審において、前示の特段の事情のあることを主張・立証していなかつたことが明
らかであるから、被上告人が本件贈与を受けたことのみによつてcの土地の所有権
を取得したと信じたとしても、このように信ずるについては過失がなかつたとはい
えないというべきである。したがつて、被上告人に右過失がなかつたとした原審の
判断には、民法一六二条二項の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、
この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原
判決中被上告人の本件(四)の土地に係る請求のうち上告人敗訴の部分は、破棄を免
れない。そして、原審の確定した前記の事実関係及び右に説示したところによれば、
右請求は理由がなく、これを棄却すべきことが明らかであるから、これと結論を同
じくする第一審判決は相当であり、したがつて、右部分についての被上告人の本件
控訴は、これを棄却すべきものである。
 同四について
 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人は、いわゆる背信的悪
意者に該当するから、被上告人の本件(一)ないし(三)の各土地の所有権の取得につ
き登記の欠缺を主張することができないとした原審の判断は、正当として是認する
ことができる。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採
用することができない。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条一項、九六条、九二条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
 裁判官宮崎梧一は、退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶

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