弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人三宅修一、同上田誠一の上告理由第一点、上告代理人成富信夫、同川
崎友夫、同成富安信、同風間武雄、同山分栄、同大島重夫の上告理由第一点ないし
第三点について。
 論旨は、要するに、原判決が独自の定款をもたないD連盟杉並支部(以下杉並支
部と略称する。)をもつて法人に非ざる社団であつて権利義務の主体たりうるもの
とし、本件土地の借地権者であると判断したのは、法令の解釈を誤り自由心証を濫
用したものである、というに帰着する。
 法人格を有しない社団すなわち権利能力のない社団については、民訴四六条がこ
れについて規定するほか実定法上何ら明文がないけれども、権利能力のない社団と
いいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、
構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によつて代
表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているも
のでなければならないのである。しかして、このような権利能力のない社団の資産
は構成員に総有的に帰属する。そして権利能力のない社団は「権利能力のない」社
団でありながら、その代表者によつてその社団の名において構成員全体のため権利
を取得し、義務を負担するのであるが、社団の名において行なわれるのは、一々す
べての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるために外ならない(従つて登記の
場合、権利者自体の名を登記することを要し、権利能力なき社団においては、その
実質的権利者たる構成員全部の名を登記できない結果として、その代表者名義をも
つて不動産登記簿に登記するよりほかに方法がないのである。)。
 本件において、原審がいわゆる杉並支部の実体について確定した事実関係は、次
のとおりである。
 (一) 杉並支部は、昭和二元年七月頃社団法人D連盟(その頃外地引揚者の相
互協力により生活の維持安定並びに更生を図ることを目的として設立されたもの)
の支部名義で、特に引揚者の更生に必要な各種の経済的行為をする目的のもとに、
杉並区内に居住する引揚者によつて結成されたものであるが、これを組織する構成
員やその行なう事業もおおむね本部のそれとは別個のものであつて、独自の存在と
活動をしていたものである。すなわち、杉並支部の主たる事業はマーケットの設置
と運営であり、右マーケットに店舗を有する者は、本部と関係なく、杉並支部の構
成員であり、従つて右店舗所有者の異動すなわち構成員の異動があつたときは支部
の承認が行なわれ、構成員の変更にも拘らず支部は同一性を維持しつつ存続したの
である。
 (二) 杉並支部は、右マーケットの維持のほか、バザーの開催、物資の配給、
日用品交換斡旋等の事業を行ない、その会員、役員、内部における意思決定、外部
に対する代表、その他の業務執行等に関する定めとしては、すべて社団法人たる前
記本部の定款と全く同旨の規約を定めていた。すなわち、杉並支部は、その事務所
を東京都杉並区ab丁目)c番地におき、「海外ヨリ終戦後引揚タル一般人ニシテ
会費一口二十円以上五十口千円マデヲ一時ニ払込ミタル者」(正会員)と「正会員
ニ準ズル者ニシテ聯盟ノ趣旨並ニ目的ニ賛成シ正会員ト同率ノ会費ヲ払込ミタル者」
(特別会員)とをもつて組織し、その意思決定は総会の決議によることとし、代表
者としては総会が過半数の議決をもつて選任する支部長一名を置き、その他の役員
として副支部長、理事等の定めがあつた。
 原審が適法に確定した叙上の事実関係によれば、いわゆる杉並支部は、支部とい
う名称を有し、その規約は前記本部の定款と全く同旨のものであつたが、しかし、
それ自体の組織を有し、そこには多数決の原則が行なわれ構成員の変更に拘らず存
続をつづけ、前記の本部とは異なる独立の存在を有する権利能力のない社団として
の実体をそなえていたものと認められるのである。従つて、訴外Eと右権利能力の
ない社団である杉並支部の代表者との間で締結された本件土地賃貸借契約により、
いわゆる杉並支部の構成員全体は杉並支部の名の下に本件土地の賃借権を取得した
ものというべく、右と同趣旨の原判決は正当である。
 所論は、右と異なる見解のもとに原判決を論難し、かつ、原審の裁量に属する事
実認定を非難するものであつて、いずれも採用できない。
 上告代理人三宅修一ほか一名の上告理由第二点、上告代理人成富信夫はか五名の
上告理由第四点、第六点について。
 論旨は、要するに、原判決が、杉並支部から被上告人会社に対し本件借地権を有
効に譲渡した旨認定したのは、証拠によらない認定であり、審理不尽、判断遺脱、
法令違背のかしがある、というのである。
 しかし、昭和二九年一月一二日に被上告人会社が設立され、次いで被上告人会社
において右権利能力のない社団である杉並支部から前記土地に対する賃借権を譲り
受け、訴外Eの相続人の一人であるFが賃貸人の代表として右譲渡につき承諾を与
えたものである旨の原審の認定、判断は、これに対応する挙示の証拠関係等に照ら
して首肯できないわけでなく、その判断の過程において所論の違法はない。
 所論は、独自の見解に基づき原審の裁量に属する証拠の取捨判断および事実認定
を非難するに帰し、採用できない。
 上告代理人三宅修一ほか一名の上告理由第三点、上告代理人成富信夫ほか五名の
上告理由第五点について。
 論旨は、要するに、上告人らは杉並支部を離脱してその会員たる資格を失つたか
ら、本件土地を使用する権原を失つたものであると判断した原判決には、自由心証
の濫用、判断遺脱、法令違背のかしがある、というのである。
 しかし、原判決認定の事実関係のもとに、上告人A1、同A2の両名は杉並支部
を脱退してその構成員たる資格を喪失し、構成員たる資格に基づき有する本件土地
の使用権限もまたこれを失つたものである旨の原審の判断は、これに対応する証拠
関係等に照らして是認できなくはなく、原判決の右判断の過程において所論の違法
はない。
 所論は、ひつきようするに原審が適法に行なつた証拠の取捨判断および事実認定
を非難するに帰し、採用できない。
 上告代理人成富信夫ほか五名の上告理由第七点について。
 賃貸借の目的である土地を第三者が不法に占有する場合に、地主が右第三者に対
し所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないときは、借地人において賃借権に基
づき債務者である地主に代位して、右不法占有者に対し借地の明渡請求をすること
ができるものと解するを相当とする。本件において、被上告人会社が現在本件土地
の所有者であるFほか四名からこれを賃借していること、上告人らにおいて右土地
を不法に占有していること、本件土地所有者らにおいて右土地に対する上告人らの
不法占有を排除するため何らかの手段をとつている形跡が認められないこと、を確
定したうえ、右所有者らに代位して上告人らに対し建物収去および土地明渡ないし
建物よりの退去および土地明渡を求める被上告人会社の請求を認容した原審の判断
は正当である。
 所論は、独自の見解に基づき原判決を論難するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎

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