弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人園田国彦の上告趣意第一点について。
 当裁判所の判例の示すところに従えば、憲法第三六条にいわゆる「残虐な刑罰」
とは、不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を意
味するのであつて、事実審の裁判官が、普通の刑を法律の許す範囲内で量定した場
合において、それが被告人の側から観て過重の刑であるとしても、これを以て残虐
な刑罰を禁止する憲法の規定に違反するということはできない(昭和二二年(れ)
第三二三号、同二三年六月二三日言渡大法廷判決参照)。又憲法第一二条は、個人
の尊厳と人格の尊重とを宣言したものであるが、それには「公共の福祉に反しない
限り」という制限が附けてあり、他方憲法第三一条は社会秩序保持のため必要とさ
れる国家の正当な刑罰権の行使を是認しているのであるから、事実審が、犯罪事実
に対し諸般の事情を参酌して刑罰法令の規定する刑の範囲内に於て実刑を科し得べ
きことは、その自由裁量権に属する当然のことであつて、これを以て憲法違反とい
うことはできない(昭和二二年(れ)第二〇一号、同二三年三月二四日言渡大法廷
判決参照)更に憲法第二五条は、国家の刑罰権に対して、生活困難な家族を有する
犯人には実刑を科することを禁ずるというような不合理な制限を加える趣旨を含ま
ない(昭和二二年(れ)第一〇五号、同二二年四月七日言渡大法廷判決)。これ等
の判例の趣旨に照らしてみれば、原判決が本件被告人を懲役一年の刑に処したこと
も、これに執行猶予の言渡をしなかつたことも、右の何れの法条にも違反しないこ
とが明かであろう。所論のように、憲法のこれ等の法条が応報刑主義を排して教育
刑主義を要請するものであるか否かの考察はしばらく措くとして、被告人に懲役一
年の実刑を科し執行猶予を言渡さないことが、必ずしも教育刑主義に背くという訳
のものでもない。論旨は憲法のもろもろの法条を根拠として立論してはいるが、結
局原判決の量刑不当を主張することに帰するので、適法な上告理由となり得ないも
のである。採用することができない。
 同第二点について。
 しかし論旨に挙げている大審院の判例は、何れも刑訴応急措置法施行以前のもの
である。同法施行以後に於ては、その第一三条第二項によつて旧刑事訴訟法第四一
二条は適用されないことになつたから、量刑不当の主張は適法な上告理由となり得
ない。
 以上の理由により刑事訴訟施行法第二条、旧刑事訴訟法第四四六条最高裁判所事
務処理規則第九条第四項に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二四年三月二九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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