弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
押収してあるけん銃様のもの2丁(平成26年押第31号の1
及び2)を没収する。
理由
【罪となるべき事実】
第1被告人は,経済産業大臣の許可を受けないで,かつ,法定の除外事由がない
のに,平成25年9月30日頃から同年10月11日頃までの間,川崎市a区bc
番地d被告人方において,ポリ乳酸樹脂等を材料として,パーソナルコンピュータ,
3Dプリンター及びボール盤等を使用し,けん銃の部品である銃身兼薬室,引き金,
撃鉄等を作成した上,これらを組み立て,さらに,その銃口を貫通させるなどして,
銃砲である手製けん銃1丁(平成26年押第31号の1はその鑑定後のもの)を製
造した。
第2被告人は,経済産業大臣の許可を受けないで,かつ,法定の除外事由がない
のに,平成25年12月14日頃から同月21日頃までの間,上記被告人方におい
て,第1と同様の方法により,けん銃の部品である銃身兼薬室,引き金及び撃鉄等
を作成した上,これらを組み立てるなどし,銃砲である手製けん銃1丁(平成26
年押第31号の2はその鑑定後のもの)を製造した。
第3被告人は,法定の除外事由がないのに,平成26年4月12日,上記被告人
方において,第1及び第2の手製けん銃2丁を所持した。
【証拠の標目】
(省略)
【事実認定の補足説明】
1被告人は本件各公訴事実をいずれも認めているが,他方で,それらに係る手製
けん銃2丁(以下「本件3Dプリンター銃」という。)について,「けん銃」に当
たるということを納得したわけではない旨述べている部分もある。また,それらの
製造及び所持が違法であるとは思っていなかった旨供述し,弁護人もこの供述と同
旨の主張をしている。そこで,本件3Dプリンター銃の「けん銃」該当性,被告人
の故意及び違法性の認識につきここで併せて検討する。

トが挿入され固定されており,そのままの状態では金属性弾丸の発射が不可能であ
除去作業は,神奈川県警察科学捜査研究所の技術職員をして,第1のものについて
は丸棒とハンマーを用いて10分程度の時間で,第2のものについてはドリルを用
いて50分程度の時間でいずれも可能であったことが認められる。そうすると,本
件3Dプリンター銃は,そのままの状態では金属性弾丸の発射は不可能であったが,
ある程度の技術を有する者であれば,ごく短時間の容易な作業によりその発射機能
を回復ないし付与することができるものであり,武器等製造法及び銃砲刀剣類所持
等取締法にいう「けん銃」に該当することが明らかである。
3また,被告人は,上記プレートの除去について,ドリルやハンマーなどを使う
と1時間以内で可能かもしれないなどと述べ,プレートを除去した場合の本件3D
プリンター銃の性能についても,実弾を1発は撃てると思っていた旨述べている。
このような被告人の供述,上記2の認定事実並びに証拠により認められる被告人の
経歴,すなわち,機械加工に関する仕事に長年従事してその技術を修得し,大学で
も機械加工等の技術指導に携わってきたなどの経歴やけん銃の構造及び製造法に関
する被告人の知識及び技能の水準を併せ考えると,被告人は,上記プレートの除去
の容易性及びプレートを除去した場合の本件3Dプリンター銃の性能,すなわち,
本件3Dプリンター銃のけん銃該当性に関する事実につき正しく認識していたと認
められ,本件各罪の故意に欠けるところはない。
4のみならず,上記の経歴,知識及び技能を有している被告人が,容易に改造し
て金属性弾丸の発射機能を回復ないし付与することのできるものを製造し所持する
ことは違法であると認識していた旨自認していることをも併せ考えると,他に被告
人が法規の趣旨を正解していなかったなどの格別の事情のない本件において,被告
人は,本件3Dプリンター銃の製造及び所持の違法性を認識していたというほかな
い。
この点,被告人は,他にも容易に改造できるモデルガン等が公然と販売されて
いるとして,そのことから本件3Dプリンター銃の製造及び所持も許されると誤
信した旨述べており,弁護人も,これを根拠に被告人には本件各罪に係る違法性
の認識がなかった旨主張している。しかしながら,仮に被告人の述べるような他
者の販売状況があったとしても,それは,被告人が本件3Dプリンター銃につい
て警察に検挙されたときの,他にもっと違法なものがあるという言い訳以上のこ
とを意味するものとは認め難く,上記判断を左右するものではない。弁護人の主
張は採用することができない。
【法令の適用】
被告人の第1及び第2の各所為はいずれも武器等製造法31条1項,4条に,第
3の所為は銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第1項後段,3条1項にそれぞれ該
当するところ,以上は刑法45条前段により併合罪であるから,同法47条本文,
10条により刑及び犯情の最も重い第1の罪の刑に法定の加重をし,なお犯情を考
慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で
被告人を主文掲記の懲役刑に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中主文掲記
の日数をその刑に算入し,主文掲記のけん銃様のもの2丁は,いずれも第3のけん
銃所持の犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項
1号,2項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただ
し書を適用して被告人に負担させないこととする。
【量刑の理由】
1本件一連の犯行の経緯を見ると,被告人は,けん銃の製造や所持等が厳しく規
制されている我が国の法制度に反対の考えを有していたものであるが,アメリカで
3Dプリンターを用いてけん銃の部品が製造されたことを知り,自らの知識及び技
能を誇示するとともに,誰でもそのようなけん銃を製造して所持できることを示し
て銃規制を形骸化しようと考え,3Dプリンターを用いてけん銃を設計,制作する
ことを決意し,平成25年9月頃,3Dプリンターを入手した上,順次,第1ない
し第3の本件各犯行に及んだものである。
2本件3Dプリンター銃の性能等について見ると,確かに,検察官が主張するよ
うに人を殺傷する威力のある金属性弾丸を発射する機能を有する危険なものではあ
いたことなどから,鑑定時のそれぞれ1回の試射により,第1のけん銃には銃身に
包は使用できず,弾丸を発射するためには手製の実包を用意する必要があるが,実
際にはそのような実包が作られていないことなどが認められ,そうすると,本件3
Dプリンター銃の有する危険性の程度はさほど高いものとはいえないというべきで
ある。
しかしながら,被告人は,格別の専門的な知識や技能を要することなく設計図
どおりの立体部品を製造することができる3Dプリンターを用いれば,誰でも比較
的簡単にけん銃を製造することができるということを,本件各製造罪を実行するこ
とによって実証したものであり,さらに,被告人が当初から本件3Dプリンター銃
の製造過程等をインターネットを通じて広く公開することを意図していたことをも
併せ考慮すると,本件各製造行為は極めて模倣性の高い悪質なものといわざるを得
ない。被告人が誰でもけん銃を製造して所持できるようにすべきだと考えること自
体は自由であるにしても,その主張を実現するために,本件各犯行を実行したこと
は到底許されるものではない。
3以上のような本件の犯情に照らせば,被告人の刑事責任は重いといわなければ
ならない。したがって,一般情状としての被告人のために酌むべき事情,すなわち,
職を失うなど既に一定の社会的制裁を受けていること,その他諸般の情状を最大限
に考慮しても,実刑は免れないところである。
ただ,刑期については,重い製造罪の法定刑の下限である懲役3年以上に処す
ることは,被告人のために酌むべき上記の事情等に照らし,いかにも重きに失す
るので,酌量減軽の上,主文の刑を科すのが相当であると判断した。
([求刑]懲役3年6月,主文同旨の没収,[弁護人の量刑意見]執行猶予)
平成26年10月31日
横浜地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官伊名波宏仁
裁判官木山暢郎
裁判官金﨑哲平

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