弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1241万9525円及びこれに対する平成11年9月19
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告経営の民宿旅館の浴室において,木製の洗い場の床に生
えていた苔ないし苔状のもので足が滑って転倒して傷害を負ったとして,被告に対
し,債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償及びその遅延損害金(転倒事故の
日である平成11年9月19日から起算)の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等(括弧内に証拠を示した部分以外は争いがない。)
(1) 被告は,肩書住所地で,A民宿(以下「本件民宿」という。)を経営してい
る。
(2) 原告は,平成11年9月19日(日),本件民宿に投宿し,午後4時ころ入浴
しようとしてその浴室(以下「本件浴室」という。)で転倒し(以下「本件事故」
という。),右橈骨遠位端骨折,右肩関節捻挫の傷害を負い,次のとおり通院し,
治療を受けた(甲1,2,3の1から3,4,乙8ないし11)。
ア 平成11年9月19日,B病院
イ 同年9月20日から平成12年2月10日まで(実日数98日),C病院
ウ 平成12年2月17日から同年3月21日まで(実日数19日),D病院
エ 平成12年6月21日から同年8月3日まで(実日数3日),E病院
(3) 原告は,被告から,本件事故に関する費用として,13万1530円の支払を
受けた。
3 争点及び当事者の主張
(1) 事故原因及び責任原因
(原告の主張)
ア 原告は,入浴するため脱衣して本件浴室内の洗い場に入ったところ,木製の洗
い場の床に生えていた苔ないし苔状のもので足が滑り転倒したものである。
イ 被告は,民宿の経営者として,民宿の利用客が安全に民宿を利用できるよう配
慮すべき義務を負っているところ,本件浴室の泉質がラドン泉であり,浴室の床に
苔やぬめりが出て滑りやすくなる状態にあったのであるから,掃除をするなどして
本件浴室を利用する客の転倒を防止する注意義務があるにもかかわらず,これを怠
り,浴室の床が滑りやすい状態のまま放置した結果,本件事故が発生したものであ
り,民法415条または709条により,原告に対して後記損害を賠償する責任が
ある。
(被告の主張)
ア 上記アは否認する。被告は毎日浴室を清掃し,清潔を保つことを怠らなかっ
た。
イ 上記イは争う。
(2) 後遺症の有無と程度
(原告の主張)
原告は,本件事故により,併合11級に相当する次の後遺障害を残した。
ア 右肩関節可動域制限(12級6号)
イ 手関節の変形治癒,尺骨頭の突出及び可動域制限(12級8号)
ウ 握力低下
(被告の主張)
いずれも知らない。
(3) 損害額
(原告の主張)
原告は,本件事故により,次の損害を被った。
① 治療費7万6712円(B病院分3270円,C病院分5万7110円,D病
院分9282円,E病院分7050円)
② 通院交通費5万0580円(C病院分3万9200円,D病院分7600円,
E病院分3780円)
③ 休業損害124万5583円(5か月間)
2,989,400÷12×5
④ 傷害慰謝料118万円
⑤ 後遺障害逸失利益496万6230円
2,989,400×0.2×8.3064
⑥ 後遺障害慰謝料390万円
⑦ 帰宅交通費3万1950円
⑧ 弁護士費用110万円
(被告の主張)
いずれも知らない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(事故原因及び責任原因)について
(1) 前記争いのない事実等に加えて,証拠(甲5,乙2ないし4,13の1から1
6,16,17,原告本人,被告本人)によれば,次の事実が認められる。
ア 本件浴室は,広さが約9平方メートルであり,床はさわらの板張りで,平成8
年に張り替えられたものであり,脱衣所から浴室内との段差は約13センチメート
ルである。
イ 本件事故当時,本件浴室は前方の山からの反射で明るく,原告は,入浴するた
め,最初に左足から浴室床に入り,次に右足で入口から最初のところにある腰掛け
の横のところに着いたところ,急に滑って転び,浴室床の壁に固定され設置されて
いる蛇口に掴まろうとして右手をぶつけ,あおむけに寝るような形で倒れ,前記の
とおり,右橈骨遠位端骨折,右肩関節捻挫の傷害を負った。
ウ 本件浴室の清掃につき,被告は,本件事故当時,毎日するもの,週1回の割合
でするもの,月1回の割合でするものと三とおりの方法で行っていた。毎日する清
掃は,定休日(祝日でない水曜日)を除き,午後11時以降に浴槽の湯を落とし,
浴槽の内側をスポンジで洗い,ゴムへらで汚れを落として水を流し,それから床を
同様に清掃して水を流すという方法で行われ,週1回の割合でする清掃は,祝日を
除く水曜日に浴室の窓を全開して乾燥させるものであり,月1回の割合の清掃は,
大掃除をし,床を乾かした後リスロンというカビ防止薬剤を塗布していた。そし
て,本件事故前の水曜日である平成11年9月15日は祝日であったので,週1回
の割合でする清掃はなされなかった。
また,2年に1回F保健所から本件浴室の検査を受けるが,検査は保健所の職員が
予告なしに抜き打ちで行い,本件事故に最も近い時期の検査は平成12年3月21
日に行われたが,男湯について換気に留意するよう指示されたものの,その他に改
善を求められるような指導はされなかった。
エ 本件民宿の入浴客は,平成5年から平成11年8月までに1万6510人であ
り,同年9月には263人の入浴客があった。また,本件事故当日の平成11年9
月19日においては,本件事故前にハイキング客数名と10名程度の日帰り客が浴
室を利用し,本件事故後には3名の法事客が入浴した。これらの期間を通じて,入
浴客が滑って転ぶというような事故は発生していない。
(2) 原告は,本件事故原因について,木製の洗い場の床に生えていた苔ないし苔状
のもので足が滑り転倒したと主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はな
い。原告は,その本人尋問において,転倒後,床に苔なのか汚れなのか分からない
が,緑色のものがびっしりとついていた,それはぬめりがあって,ぬるぬるとして
いた,もっとも床が濡れていたのか覚えがないとそれぞれ供述し,原告の主張に沿
うかのごときであるが,曖昧な点がある上,乙13の1から16及び被告本人尋問
の結果によれば,板張りの床が一部緑色になっているのは苔ではなく,弱酸性の湯
による変色であると認められるし,上記定期的な清掃や保健所の検査がなされてい
ることやそれまで転倒事故がなかったことからして原告の主張する苔ないし苔状の
ものの存在は否定的に
解される。かえって,原告が,浴室床に入る際,最初に浴槽の方を見,お湯が少な
く,底があまりきれいでなかったのは見たが,床が板張りであることには気づかな
かったと供述していることからすると,原告は,視線を遠方にとり,足下を見ずに
浴室に入ったため転倒したと認めるのが相当である。
そして,本件浴室は,脱衣所との段差が格別危険なものとは認められないし,その
他,転倒を招来する構造的な因子も見当たらない。
以上からすると,被告において,掃除をするなどして本件浴室を利用する客の転倒
を防止する注意義務があるにもかかわらず,これを怠り,その床が滑りやすい状態
のまま放置したとの原告の主張を認めるには足りない。
2 以上のとおりであって,原告の本訴請求は,その余の点を判断するまでもなく
理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条
を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第8部
裁判官 野田弘明

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