弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。原判決添附第一目録記載
の物件が控訴人の所有であることを確認する。被控訴人らは控訴人に対しこれを引
き渡すこと。引渡不能ならば被控訴人らは連帯して控訴人に対し金百八十一万円お
よびこれに対する昭和二十六年七月一日から支払の済むまで年五分の割合による金
員を支払うこと。訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする」との判決
と右物件引渡部分および金員支払部分について担保を条件とする仮執行の宣言を求
め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張と立証は左記のほか原判決事実摘示と同じ(ただし証人Aの記
載は誤記と認める)であるから、これを引用する。
 控訴代理人
 一、 原判決三枚目表八行目の「同年四月二十日」の記載は「同年四月三十日」
の誤記であり、同六枚目表九行目の「甲第十一号証」の記載は「甲第十一号証の
一、二」の誤記である。
 二、 控訴人が原判決添附第一目録記載の物件(以下本件物件と略称する)の所
有権を取得したのは昭和二十五年十月二十一日である。訴外Bと控訴人間の売買契
約では、訴外人のもよりの駅に物件を搬出した時に代金の半額を支払い、控訴人指
定の目的駅に物件が着いた時に残りの半額を支払う約定であつた。
 三、 控訴人は昭和二十六年三月初旬本件物件を持ち帰ろうとして現地に橋梁を
架設し、同年五月、物件の荷造りを完了し、搬出の準備を整えたところ、被控訴会
社代表取締役Cと被控訴人らが共同して実力を行使した上右物件を強引に大阪市内
に運搬してしまつた。
 四、 被控訴会社を除く被控訴人らは昭和二十六年一月十八日部落総会の席上で
訴外Bから本件物件を控訴人に売り渡したことを聞き、それが控訴人の所有に属す
ることを知つていながら敢えてこれを被控訴会社に売却した。仮にそのことを知ら
なかつたとするも、控訴人による橋梁架設の事実から、控訴人の所有に属すること
を容易に知り得る状態にありながら、被控訴会社の運搬に加担した。被控訴会社は
本件物件が部落民から既に訴外Bに売り渡され、訴外人においてしきりに転売先を
物色中であることを知りながら、敢えてこれを部落民の代表者たる被控訴人らから
買い受けた。仮にそのことを知らなかつたとするも、控訴人による橋梁架設の事実
から、控訴人の所有に属することを容易に知り得る状態にありながら、これを持ち
運び去つた。
 この様にして全被控訴人(会社を含め)は共同して故意もしくは少くとも過失に
より本件物件に対する控訴人の所有権を侵害した。
 五、 原判決事実摘示(5)の損害を次のとおり訂正する。
 控訴人は被控訴人らの共同不法行為により本件物件を目的地に据えつけることが
できなくなつたので、事業主から請負人としての契約不履行を理由に請負契約を解
除され、既に施行していた工事代金二百万円の請求権を放棄することを余儀なくさ
れ、それだけの損失を被つたからその内金百万円の賠償を求める。
 六、 訴外Bが本件物件の所有権を取得したのは昭和二十四年一月六日である。
 七、 仮に、訴外Bと部落民との売買で残金支払期限が延期されなかつたとする
も「残金を支払わないときは入金を返還せず、契約は無効とする」という約定は当
然の失効を定めたものでなく、催告を要しないで契約解除をなし得ることを定めた
ものと解すべきであつて、訴外人は控訴人に売り渡した昭和二十五年十月二十一日
までに部落民から契約解除の通知を受けたことはない。従つて控訴人は右契約が有
効中に訴外人から買い受けて所有権を取得した。仮にその後に契約が解除されたと
しても民法五四五条一項ただし書により控訴人の所有権に影響はない。
 八、 仮に右売買が昭和二十四年三月三十日限り失効し控訴人が無権利者から買
い受けたことになるとするも本件物件は訴外Bが占有して居り、控訴人は本件物件
が同訴外人の所有に属すると信じ、この様に信ずるについて過失がなく、買い受け
て引渡を受けたのであるから、民法一九二条により所有権を取得した。
 九、 昭和二十六年一月頃被控訴人Dを通じ訴外岡山金属株式会社から本件物件
を買い受けたい旨の話があつたので、訴外Bは売渡を承諾し、契約書になるべき白
紙の適当な個所に自己の印を押して被控訴人Eらに渡したところ、同人らは同会社
との取引が不成立に終つた後、訴外人に無断でこれを被控訴会社に売り渡し、右書
面をその代金領収証に利用してしまつた。
 十、 被控訴人F死亡の事実、ならびに、その相続関係は争わない。
 十一、 当審証人Bの証言と当審における控訴人本人の供述を援用する。
 被控訴代理人
 一、 原判決七枚目表四行目の「被告Gが」の記載は「被告Dの仲介で被告株式
会社光洋が」の誤記であり、同七枚目裏七行目の「乙第三号証乃至乙第六号証」の
記載は「乙第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六号証」の誤記である。
 二、 控訴人が橋梁を架設したことは争わない。
 三、 部落民が訴外Bに対し売買契約解除の意思表示をしなかつたことは争わな
い。
 四、 控訴人の民法一九二条に関する主張は否認する。
 五、 被控訴人Fは昭和二十九年五月十八日死亡し、被控訴人Hはその妻、同
I、J、K、L、M、Nは各その子、として相続した。
 六、 当審における被控訴人D本人の供述を援用する。
         理    由
 本件物件はもと被控訴人O、E、訴外(原審共同原告)B、および亡Fを代表者
とする岡山県真庭郡a町大字b部落民有志(以下受益者と略称する)の共有であ
り、右代表者が管理保管の任に当つていたものであること、ならびに、この受益者
が右代表者ら(訴外Bを除く)により昭和二十四年一月六日訴外B個人にこの物件
を他の物件と共に代金四十一万円で売り渡し、内金十万円は授受済、残金三十一万
円を同年四月三十日までに支払うべく、「万一期日に至り支払出来ざる時は入金は
返金せず、本契約は無効とす」る旨約したこと、はいずれも当事者間に争がない。
 そして控訴人は訴外Bは右契約締結と同時に本件物件の所有権を取得すると共に
残代金の支払期を延期して貰い、更に昭和二十六年一月十八日の受益者の総会に於
て、右売買代金を三十万円に減額し、既に内入支払済の十万円を差引いた残り二十
万円は同年六月三十日までに支払えばよいこととなつたものである旨主張するので
案ずるに、成立に争のない甲第一号証には「残金三十一万円を四月三十日までに支
払はないときは十万円の入金は返金せず本契約は無効とする」旨の記載があると共
に、「右残代金支払の上売買物件の引渡をなすものとする」旨の記載があり、これ
らの記載や、原審に於ける被控訴人O、Eの各供述により成立を認められる乙第一
号証の一、右各供述ならびに原審に於ける被控訴人P、Qの各供述を綜合して真正
に成立したと認める同号証の二、及原審証人R、S、T、U、V、Wの各証言を綜
合すると、本件物件を含む右売買物件の所有権は、右売買契約締結と同時に買主で
ある訴外Bに移転したものではなくして代金全額の支払があつたとき初めて移転す
る約定であつたこと、右売買契約は残代金三十一万円が昭和二十四年四月三十日ま
でに支払はれないときは、当然何等の意思表示なくして解除せられて効力を失い、
既に支払済の十万円も訴外Bに返還しない約定であつたところ、訴外Bは右約定の
期日までに残代金を支払はなかつたので、受益者等は右約定に基き、右売買契約は
当然失効したものとして内入金十万円を没収してしまつたこと、訴外Bもこのこと
を承認していたこと、その後他の買受人を物色していたところ、昭和二十六年一月
頃に至り本件物件等を二十万円位で買受希望する者があつたので、之が管理代表者
(訴外Bを除く)等は二十万円位の価格で売却するのであれば、同一部落内に居住
し、しかも以前に本件物件等の買主となり内払代金十万円を没収せられたことのあ
る訴外Bに再び売つてやつたらどうかと好意的に配慮して、同訴外人の意向を確か
めたところ、同訴外人も之を希望したので、同月十八日受益者の総会を開き、同総
会の決議に基き代金二十万円として訴外Bに本件物件等を売渡すこととしたが、前
回と同様に再び代金不払の虞もあるとして、一週間以内に現金を以て代金二十万円
を支払うか、又は二十万円相当の山林を代金支払の担保として提供するか、いずれ
かの方法を履行すべく、之を履行しないときは、右売買契約も当然解除せられて効
力を失う旨特約したところ、同訴外人は又もや右約定を履行しなかつたので右売買
契約も当然失効するに至つたことを認めることができる。
 右認定に反する原審におけるBの供述、原審証人X、Y、当審証人Bの各証言部
分は措信し難い。
 それ故控訴人の主張するように訴外Bが本件物件の所有権を売買により取得した
事実はなく、又昭和二十四年一月六日締結せられた本件物件等の売買契約は同年四
月三十日の残代金支払期日の経過と共に当然失効し、その支払期がその主張の様に
延期せられたこともないものといはなければならぬ。
 従つて控訴人が昭和二十五年十月二十一日訴外Bとの間に本件物件を代金二十七
万円で買受ける旨の契約を締結しその引渡を受けたことは、原審共同原告B、原審
における控訴人本人の各供述により真正に成立したと認める甲第二号証、ならびに
右各供述及当審証人Bの証言、当審における控訴人本人の供述により之を認め得ら
れるけれども、当時売主である訴外Bが前示認定の如く本件物件の所有権を有して
居なかつたものである以上、右売買により当然控訴人においてその所有権を譲受取
得したものということはできない。
 よつて更に控訴人の民法一九二条による所有権の即時取得の主張に付て審按する
に、原審に於けるB及控訴人の各供述、当審証人B、原審証人Zの各証言、原審に
おける被控訴人P、Qの各供述を綜合すれば、次のことが認定できる。
 すなわち、控訴人が前示認定の通り訴外Bから本件物件を買受けてその引渡を受
けた当時、右訴外人は受益者から選ばれた代表管理委員の委員長として、本件物件
等の収納しである倉庫の鍵を所持して、本件物件を直接占有していたこと、控訴人
が本件物件を買受けるに当つては、本件物件は右訴外人の所有に属するものと信じ
ており、かつ、そう信ずるについて過失のなかつたこと、控訴人が右訴外人から本
件物件の引渡を受けたのは、所謂占有改定の方法によりその引渡を受けたものであ
つた。右認定に反する当審における控訴人本人の供述部分は措信し難い。
 <要旨>しかるところ、民法一九二条の所謂即時取得に必要な占有の取得とは、一
般外観上従来の占有事実の状態に変更を生じて従前、占有を他人に一任して
置いた権利者のその他人に対する追及権を顧慮しないでも、一般の取引を害する虞
のないような場合をいうものであつて、単に従来の占有者と新たに占有を取得した
者との間に、その旨の意思表示があつたのみで、一般外観上従来の占有事実の状態
に何等の変更を来さない所謂占有の改定による占有の取得は、之に該当しないもの
と解すべきであるから、控訴人が前示の通り昭和二十五年十月二十一日訴外Bから
平穏且公然に、しかも善意無過失で本件物件を買受け、占有改定によつてその引渡
を受けたとしても、其の引渡によつては、未だ本件物件に対する所有権を即時取得
したものとすることはできないといはなければならぬ。 而して控訴人が本件物件
の現実の引渡を受けんとしたのは、原審証人Z、Xの各証言によれは、昭和二十六
年四月十日頃であるが、前掲乙第一号証の一、二、原審における被控訴人株式会社
光洋代表者Cの供述により真正に成立したと認める同第二号証の一、二、及び右供
述、原審における被控訴人P、O、E、当審における被控訴人Dの各供述を綜合す
れば、既にこれより先昭和二十六年二月二十六日頃受益者の代表委員等は、被控訴
人Dの世話で、訴外岡山金属株式会社に対し本件物件其の他を売却しようとした
が、手違のため売りそこねた結果、右Dが更に大阪方面で買手を見付けてくるとい
うので、被控訴会社を除く被控訴人等代表委員は、値段が三十万円以上であれば誰
に売つてもかまわない。其の際被控訴人等代表委員が全部集合できなくても契約の
成立に差支えのないよう被控訴人Qを代表者として予め書面を作つて置こうという
ので、乙第一号証の一、二の書面を、金額欄、年月日、宛名等を除いて作成し、訴
外Bも代表委員の一人として之を承諾して右書面に捺印すると共に、従来自己が所
持していた本件物件等の収納しである倉庫の鍵を、代表者である右Qに手渡して、
本件物件の占有を譲渡した。被控訴人Q等は、同年三月十日、被控訴人Dの仲介に
より被控訴人株式会社光洋に対し、本件物件その他を代金三十一万円で売却し、即
日三十万円、同月十四日一万円を受取つて其の所有権を譲渡し、且之を引渡したも
のであることが認められる。
 従つていずれよりするも、控訴人は本件物件の所有権を取得したことはないもの
といわなければならないから、控訴人が本件物件の所有者であることを前提とし
て、その所有権の確認、物件の引渡、引渡不能の際の損害賠償を求める本訴請求
は、既にこの点において失当であつて棄却を免れない。
 これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴三八四
条、八九条に則り主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 高橋雄一 裁判官 菅納新太郎)

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