弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人を罰金五〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期
間、被告人を労役場に留置する。
     第一審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人井川伊平の上告趣意並びに検察官玉沢光三郎の答弁の要旨は、末尾添付の
書面記載のとおりである。
 弁護人井川伊平の上告趣意第一点について。
 職権により調査すると、公職選挙法一四二条一項にいう選挙運動のために使用す
る文書とは、文書の外形内容自体からみて選挙運動のために使用すると推知されう
る文書をいうのであつて、文書の外形内容自体からみてこれに使用すると推知しえ
ない文書は、たとえそれが現実に選挙運動のために使用されたとしても、同法一四
六条にいう禁止を免れる行為にあたることのあるのは格別、同法一四二条の文書頒
布罪に該当するものではないと解するを相当とする。本件第一審判決は、被告人は
自己の当選を得る目的をもつて判示日時にわたり判示のごとく戸別に訪問し、自己
に投票方を依頼し、その際自己の氏名を印刷した名刺各一枚を交付して戸別訪問を
するとともに法定外文書を頒布したものであると認定し、公職選挙法一四二条一項、
二四三条三号等を適用し、また原判決は、候補者の職業、氏名を印刷したに過ぎな
い通常の名刺であつても、選挙運動のためにこれを使用し、投票を得る目的をもつ
て戸別訪問をして多数の者に配布するときは、法定外の文書を頒布したものである
として第一審判決を支持したのは、同条の解釈適用を誤つたものといわなければな
らない。けれども第一審判決の認定事実中、選挙運動の期間中(本件においては、
昭和三四年四月一八日に選挙の告示があり、同日被告人の立候補の届出が行われた
こと記録上明らかである。)である昭和三四年四月二〇日頃前記認定のごとき情況
の下になしたAに対する名刺の配布行為は、優に同法一四六条一項にいう同法一四
二条(文書図画の頒布)の禁止を免れる行為に当るものといわなければならない(
同法一四六条にいう文書図画の頒布とは、文書図画を不特定又は多数人に対して配
布すること、を意味するが、右Aに対する名刺の配布行為は、選挙運動の期間前か
らの一連の不特定又は多数人に対する選挙運動のためにする配布行為中の一にほか
ならないのであるから、同条にいう文書の頒布というに妨げない。選挙運動の期間
前の配布行為が罪とならないことは、右認定を左右しない。)
 しかしながら、本件において原判決及び第一審判決が、前記公職選挙法一四二条
一項にいう選挙運動のために使用する文書の解釈適用を誤つたことは、ひいて罪と
ならない選挙運動期間前の配布行為を有罪としたことにより事実の認定、刑の量定
に影響を及ぼさざるをえないから、他の上告趣意に対する判断をまつまでもなく、
刑訴四一一条一号、三号によりこれを破棄し、同四一三条但書、四一四条、四〇四
条により更に判決する。
 第一審判決の確定した事実中、前記罪とならない部分を除くその余の事実に法令
を適用すると、被告人の判示所為中、戸別訪問の点は公職選挙法一三八条一項、二
三九条三号、罰金等臨時措置法二条に、選挙運動の期間中における名刺頒布の点は
公職選挙法一四六条一項、二四三条五号、罰金等臨時措置法二条に各該当するとこ
ろ、戸別訪問と文書頒布とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法
五四条前段一〇条により重い文書頒布罪の刑に従い、所定刑中罰金刑を選択し、そ
の金額の範囲内において被告人を罰金五〇〇〇円に処し、右罰金不完納の場合の労
役場留置につき同法一八条を、第一審における訴訟費用の負担につき刑訴一八一条
一項本文を適用すべきものとする。
 よつて裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 玉沢光三郎公判出席
  昭和三六年三月一七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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