弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人BことC、同Dの各上告趣意、被告人E、同Fの各弁護人江島孝、被告人
Aの弁護人松宮隆、被告人A、同Gの各弁護人鍛治利一の各上告趣意は、末尾に添
えた書面記載のとおりである。
 被告人Hの上告趣意第一について。
 論旨摘録の起訴状と原判決記載の被告人Hが本件帆布を不当に高価な額をもつて
販売したという犯罪事実は、論旨でも認めているとおり、販売の品目数量代金等は
大体一致しており、ただ販売の相手方が異なるだけであるから、原判決認定の事実
は起訴状記載の公訴事実の同一性を害するものではない。されば、原審は審判の請
求をうけない事件につき判決したものではなく、従つて憲法違反を主張する論旨は
その前提を欠くが故に理由がない。
 被告人Aの弁護人松宮隆の上告趣意第一について。
 被告人Aに対する昭和二二年一二月四日附追公判請求書によれば、被告人Aは全
国I製品商工業協同組合連合会理事長として同連合会の一切の業務を担当していた
がE、Jと共謀の上Iに割当入庫し被告人等が業務上保管中の帆布を特配名義にて
自己又は自己の特殊関係に在る者に適宜処分してこれを領得せんことを企図し帆布
計一二二九反を擅に京都市a区b通cK市場内L市場出張所より自己又はM工業株
式会社等に出荷の上代金約一七七六九〇〇円にて販売し以つて業務上横領した事実
につき公訴が提起されたこと明らかである。すなわち、右追公判請求書によれば検
察官はA等において本件帆布を前記代金にて販売したときに横領行為が完成したも
のとして公訴を提起した趣旨と認められる。されば、横領罪を構成するものとして
起訴された被告人A等の右販売行為が他面において物価統制令に違反するのである
から、刑法五四条一項前段にいう一個の行為が他の罪名に触れる場合に当り、公訴
事案の同一性を害しないものと認められる。それゆえ、原審が被告人A等を同令に
違反するものとして処罰したからとて審判の請求を受けない事件につき判決したも
のということはできない。されば、所論憲法違反の主張は前提を欠き理由がない。
 同第二について。
 本件業務上横領と不当高価販売の物価統制令違反とが刑法五四条一項前段に定め
る一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に当ることは、論旨第一に対し説明し
たとおりである。論旨引用の当裁判所判決は、判示の場合が刑法五四条一項後段に
規定するいわゆる牽連犯ではないことを明らかにしたものに過ぎないのであつて本
件の場合に適切でない。それゆえ、原判決は当裁判所の判例と相反する判断をした
ものではないから論旨は理由がない。
 被告人A、同Gの各弁護人鍛治利一の上告趣意第一点及び第三点について。
 被告人Gが所論のようにN等との対質訊問を求めたという事実は記録上認められ
ない。また、原判決挙示の証拠によれば原判示事実は認定し得られるのである。そ
れゆえ、所論憲法違反の主張は前提を欠き理由がない。
 同第二点について。
 原判決は、所論のようにN外三名に対する検事聴取書の供述記載だけを証拠とし
たものではなく、右のほか原審及び第一審公判における共同被告人の各供述及び供
述記載、始末書、上申書その他を証拠に引用している。それゆえ、原判決は被告人
の自白のみによつて有罪としたものではない。(論旨に引用する当裁判所大法廷判
決によつても共同審理をうけた共同被告人の供述のみで被告人の自白を補強し得る
ことを認めている)。されば、論旨は理由がない。
 同第五点及び第六点について。
 論旨中には憲法違反の語があるけれども、その実質は単なる訴訟法規の違反を主
張するに止まるものと認められるので、上告の適法な理由として採用することがで
きない(論旨第五点の主張は旧刑訴三六〇条二項の主張に当らないので判決にこれ
に対する判断を示す必要はなく、論旨第六点の適正価格は原判決の引用する証拠に
より認められるので、原判決には論旨第五、六点で主張するような訴訟法規の違反
もない)。
 右に判断した以外の弁護人及び被告人等の各上告趣意は、いずれも刑訴四〇五条
に定める事由には当らないので上告の理由とならないし、また本件については刑訴
四一一条を適用すべき場合とも認められない。
 よつて、本件各上告を理由ないものと認め、刑訴施行法三条の二刑訴四〇八条に
従い裁判官全員の一致した意見によつて主文のとおり判決する。
  昭和二六年一二月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三

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