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平成16年11月30日判決宣告
著作権法違反被告事件
           主       文
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
  理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,平成15年9
月24日から同月25日までの間,群馬県【以下省略】所在の被告人方において,A社(代
表者B)が著作権を有する映画の著作物である邦題名「X」及びC社(代表者D)が著作権
を有する映画の著作物である邦題名「Y」の各情報が記録されているハードディスクと接
続したパーソナルコンピュータを用いて,インターネットに接続された状態の下,そのアッ
プフォルダに上記各情報が入った送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフ
ト「Winny2.0β6.6」を起動させ,同パーソナルコンピュータにアクセスしてきた不特
定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,もって上
記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害したものである。
(証拠の標目)
【省略】
(弁護人の主張について)
1 弁護人の本件に関する主張は,極めて多岐にわたっており,形式内容のいずれにお
いても,必ずしも十分整理されたものであるとはいい難いものの,その主張内容を要
約し,とりあえず,これを弁論要旨に現れた順に列挙すると,概ね以下のとおりであ
る。
 ① 被告人の送信行為の相手方は特定の1名であり,直接公衆に対して行った送信で
はないから,被告人の行為について著作権法所定の送信可能化権侵害罪は成立
しない。
 ② 被告人は,Winnyとは間接送信を行うプログラムであると信じていたのであるか
ら,送信可能化権侵害罪の故意を有していない。
 ③ 送信可能化権侵害罪は,警察や裁判所という公権力が,公衆送信という表現行為
について,表現行為に先立ち,その内容を審査して著作権侵害と認めるとき,強制
捜査ないし罰則により,その全部又は一部を事前に禁止することを可能とするもの
であるから,これは,憲法21条2項が禁止する検閲に該当し,無効である。
 ④ 送信可能化という行為は,発信者の表現行為が受信者に受信されて完了する前
の準備段階をいうのであるから,これを処罰の対象とすることは,表現行為の違法
な事前抑制というべきであり,許されない。
 ⑤ 著作権法上,「情報」「映画」「著作物」「直接」等の文言について,その定義が明ら
かであるとはいえず,かかる文言を前提とした著作権侵害罪は,表現の自由に対
する漠然不明確な規制であり,かつ過度に広汎な規制であるというべきである。ま
た,著作権侵害罪は,処罰の対象となる行為が限定されておらず,その意味から
も,憲法21条に違反するとともに,刑罰法規としての明確性を欠き,罪刑法定主義
を定めた憲法31条にも違反するものであるから,文面上無効である。
 ⑥ 被告人が,そのパーソナルコンピュータをインターネットに接続するために使用し
た回線は,光ファイバーであるところ,光は電気ではないから,光ファイバーは,電
気通信回線にも有線電気通信にも該当せず,被告人の行為は,送信可能化権侵
害罪の構成要件に該当しない。
 ⑦ 送信可能化権侵害罪が前提とする公衆送信とは,公衆によって直接受信されるこ
とを目的として行われる送信を意味するところ,インターネット上で行われる通信に
は,複数の電気通信事業者が介在しており,また,Winnyは,他人を介して情報を
伝達するプログラムであるから,それを利用した被告人の行為は,間接送信にほ
かならず,送信可能化権侵害罪の構成要件に該当しない。
 ⑧ 送信可能化権侵害罪は,中央のサーバーを介して情報が発信されることを予定し
た構成要件であるから,本件のように,中央のサーバーを利用しないいわゆるP2
Pの形態で行われる通信については,その適用の対象外というべきである。
 ⑨ Winnyは,アップロードされた情報を暗号化し断片化して,他の多数のWinny起
動者に配布するというプログラムであるところ,このように暗号化され断片化された
個々のファイルそのものからは,元の情報を再生できないのであるから,被告人が
Winnyを利用し,このような形態で送信した情報は,映画の著作物として保護され
るものではない。
 ⑩ DVDは「映画の著作物」にあたらない。
 ⑪ 本件公訴事実において,「公衆送信用記録媒体」「情報」「自動公衆送信装置」「公
衆の用に供されている電気通信回線」について,これら構成要件に該当する具体
的事実の摘示がない,あるいは不十分であり,訴因としての特定がなされていな
い。
 ⑫ 著作権法38条1項は,映画の著作権について,営利を目的としない映画の上映
等を許容しているのであるから,これを公衆送信することや送信可能化の状態に
置くことも当然に許容されるというべきである。
 ⑬ 本件捜査の過程において,京都府警察本部の警察官は,自ら捜査用のパソコン
上にWinnyを起動し,その利用者として,被告人からのデータを受信するなどして
いるところ,警察官のその行為自体が,複製権の侵害である上,情報を受信しなが
ら,キャッシュを公開していたことにもなるのであるから,被告人からのデータを受
信していた警察官は,同時にデータを送信していたことになり,公衆送信権侵害な
いし送信可能化権侵害を犯していることも明白である。また,被告人は,警察官か
らの送信要求を受けてデータを送信しているのであるから,そのような捜査手法
は,違法なおとり捜査にあたるというべきであって,かかる違法な捜査により得られ
た証拠は総て違法収集証拠としてその証拠能力が認められない。
 ⑭ 本件における送信可能化権侵害罪の正犯者は,Winnyの開発者であるEであり,
被告人は,従犯であるに過ぎない。
 ⑮ 本件各DVDは,いずれも被告人が市場で適法に取得した著作物であるところ,公
衆に提示することを目的としない映画の著作物の複製物は,一旦適法に譲渡され
ると,「譲渡」については,その権利が消尽し,これを公衆に再頒布することも許容
されると解されているから,被告人が本件各DVDを送信可能化の状態に置くこと
も,当然に許容されるというべきである。
 ⑯ 本件被害を受けたとされる著作権者は,いずれもアメリカ合衆国の法人であるとこ
ろ,同国内の著作権法上,公衆送信権・送信可能化権について定めた規定はな
く,そのような権利は,同国内では存在しない権利であり,かつ,条約を根拠として
も主張できない権利であるから,その侵害を日本国内で主張することはできないと
いうべきである。また,「X」については,著作権の主体が変更しており,A社には告
訴権がない。保護要件としても,著作権登録が欠かせないところ,我が国で登録す
らされていない外国著作物に,刑罰法規による保護を与える必要はない。
 ⑰ Winnyは,独りでに起動して,その保有者の意思に関係なく,送信可能化や公衆
送信をする機能を有するプログラムであり,本件において,被告人が送信可能化し
たとされる日時においても,Winnyが勝手に送信可能化をしたに過ぎず,そもそも
処罰の対象となる被告人の行為はない。もとより,被告人には犯罪を行う故意もな
い。
 ⑱ 送信可能化権侵害罪は,「公衆によって直接受信されることを目的として」という目
的を構成要件とする目的犯であるところ,被告人は,Winnyの動作について,情報
を間接的に送信するものであるなどというインターネット上での説明から得た程度
の知識しか有しておらず,直接送信するという目的に欠けるから,送信可能化権侵
害罪は成立しない。
2 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
① Winnyとは,○○大学の特任教員であったEという人物が,平成13年ころ,WinM
Xという名称のファイル共有交換ソフトを使用していた者が検挙されたことを知り,
より匿名性の高いファイル共有ソフトを自らの手で開発しようなどと考え,平成14
年5月ころ開発したパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という)用のファイル共
有ソフトの名称である(以下,バージョンを問わず単に「Winny」という)。Eは,自己
が立ち上げたホームページから,Winnyを無料でダウンロードできるようにし,その
後も,複数回にわたってそのバージョンアップをした。
 その間,Winnyを利用する者は増加し続け,Winnyの使用方法を解説するホー
ムページや,Winnyを使用する上で必要な情報等を提供するホームページ等,Wi
nnyに関するホームページが多数作成されることとなり,Winnyの利用者は,平成
15年10月時点で約40万人を超える旨の関係機関の調査結果も報告されるな
ど,相当多数に上っている。
② Winnyの具体的な機能,動作等については,必ずしもその総てが明らかになって
いるとはいえないものの,概略次のように理解することができる。
 Winnyは,特定のサーバーに依存することなく,ファイルの共有ができるファイル
共有ソフトである。Winnyを利用してデータを送受信する際には,中央サーバーを
介することなく,ノード情報と呼ばれるIPアドレスとポート番号を暗号化した情報を
利用して,既にWinnyネットワークに参加している他のパソコンと接続し,これによ
り自らのパソコンをWinnyネットワークに接続させ,データの送受信を行う。その
際,送受信を行うパソコン同士が直接接続される場合もあれば,Winnyを利用して
いる他のパソコンを中継点とし,これを介して,データの送受信が行われる場合も
あり,そのいずれの形態で送受信が行われているかは判別できない仕組みとなっ
ている。
 Winnyネットワーク上のパソコンのアップフォルダ内にアップロードされたファイル
については,同ネットワークに参加している総てのパソコンと共有された状態とな
る。すなわち,当該ファイルについて,暗号化されたその情報のリストが作成され,
そのリストの検索により当該ファイルの存在を知った者が,別のパソコンからダウン
ロードを要求すると,キャッシュ化されたデータが自動的に送信され,暗号化された
状態で同パソコンのキャッシュフォルダ内に保存されていき,ダウンロードが完了し
た時点で,当該ファイルが同パソコンのダウンロードフォルダ内に復元される。ダウ
ンロードする際に,暗号化された状態でキャッシュフォルダ内に保存されたデータ
は,ダウンロードが完了し当該ファイルがダウンロードフォルダ内に復元された後
も,なおキャッシュフォルダ内にそのまま保存され,その結果,同パソコンからも当
該ファイルがアップロードされているのと全く同じ状態となる。また,当該ファイルの
送受信がWinnyネットワーク上の他のパソコンを間に介在させて行われる場合に
は,中継点となったパソコンのキャッシュフォルダ内にも当該ファイルの暗号化され
たデータが保存されることとなるため,同パソコンからも当該ファイルがアップロード
されているのと全く同じ状態となる。当該ファイルをダウンロードするパソコンの側
からは,当該ファイルが最初にアップロードされたパソコンからデータのダウンロー
ドが行われているのか,あるいは,その他のパソコンのキャッシュフォルダ内に上
記のようにして保存されたデータがダウンロードされているのかは,判別のつかな
い仕組みとなっている。
 なお,Winnyには掲示板機能も備わっており,Winnyの利用者は,これを利用し
て様々な情報を記載することができる。
③ 被告人は,平成14年12月ころ,Winnyがアップロードされているホームページか
らWinnyのダウンロードを行った。このとき被告人がダウンロードしたWinnyは,通
称「Winny1」と呼ばれているバージョンのものであり,被告人は,「Winnyハイパ
ー初心者講座」というホームページに記載されていた方法に従って,これを自己の
使用するパソコンにインストールし,ノード情報等の必要な設定を行った。なお,被
告人は,当初から,1個のノード情報のみを設定してWinnyを利用しており,また,
平成15年6月からは,インターネット回線として,光ファイバーの回線を使用してそ
の接続を行っていた。
④ 被告人は,かねて映画を趣味としており,映画のDVDを多数購入するなどしてい
たことから,Winnyネットワーク上にそれらをアップロードしようと考え,平成15年1
月5日,自己がアップロードする映画のタイトル等を記載するための掲示板を立ち
上げ,そのころから,映画等のDVDのデータ形式を変換したり容量を圧縮するなど
の操作を加えながら,そのファイルデータをアップフォルダ内に保存し,Winnyを起
動して,映画約100本及びその他のドラマ約30本程度のデータのアップロードを
繰り返すようになった。
 その間,被告人は,アップロードしたファイルの被参照量がそのファイルの容量の
約100倍程度になった時点で(そのデータを約100名程度の者がダウンロードした
ことを意味する),そのファイルのキャッシュを削除することにしており,常時,Winn
yネットワーク上には,被告人により,約15本ないし20本程度の映画等のデータが
アップロードされた状態となっていた。
 ⑤ 被告人は,平成15年1月14日に「Y」を,同年9月4日に「X」をそれぞれアップロ
ードした。
 ⑥ 京都府警察本部の捜査官は,同警察本部に設置されたパソコンにWinnyをダウ
ンロードし,これを使用して,平成15年9月24日午後11時19分から同月25日午
前零時25分ころまでの間に「X」を,同日午前1時47分ころから同日午前3時18
分ころまでの間に「Y」を,それぞれ被告人のパソコンからダウンロードし,それらの
各データが送信可能化されている状況を明らかにするための実況見分を行った。
その際,被告人のパソコンからダウンロードした各ファイルを再生したところ,上記
各映画を視聴することが可能であることが確認された。なお,Winnyは不特定多数
のパソコンとネットワーク接続を行うものであるため,上記実況見分において各映
画をダウンロードするに際しては,ルータの付加機能であるファイアーウォール機
能を利用して,京都府警察本部に設置されたパソコンが,被告人が使用するパソコ
ン以外のパソコンとは接続されないようにする設定がなされ,上記実況見分の実施
に際しては,随時,接続や通信状況を確認できる専用のソフトを利用して,同警察
本部に設置されたパソコンと被告人の使用するパソコン以外のパソコンとが接続さ
れていないことを確認しながら作業が進められた。
 ⑦ 「X」はA社が,「Y」はB社がそれぞれ著作権を有する映画の著作物であり,「X」に
ついては平成15年11月11日にA社から,「Y」については同年12月4日にB社か
ら,それぞれ氏名不詳者を被告訴人として,本件各送信可能化権侵害にかかる告
訴がなされた。
3 以上の事実に基づき,以下,弁護人の主張について,順次検討を加えていくこととす
る。
 ① 弁護人の主張⑩について
 弁護人は,被告人がアップロードする際に使用した「X」及び「Y」の各DVDには,
インデックス機能等,映画館等で上映される場合には存在しない機能が付与され
ており,映画の著作物には該当しない旨主張しており,映画館で上映される場合の
みが,映画の著作物として保護の対象となるかのごとく主張している。
 しかし,著作権法上,映画の著作物として保護されているのは,映画としての作
品ないし表現行為それ自体にかかる知的所有権であって,それらが記録された媒
体の如何を問うものでない。もとより,映画館で上映される場合のみが,映画の著
作物として保護の対象となるものでないことは明らかである。
 そして,本件各DVDに収録されている情報は,1本の作品としての映画を視聴し
得るものであることが明らかであるから,上記各著作権者が著作権を有する映画
の著作物に該当することに疑いを入れる余地はない。
② 弁護人の主張⑥について
 弁護人は,被告人の使用していた回線は光ファイバーであるから電気通信回線
にも有線電気通信にも当たらない旨主張する。
 弁護人の主張は,本件が,映画の著作物の情報が記録されているハードディス
クと接続したパソコンを用いて,これがインターネットに接続された状態の下,Winn
yを起動させ,インターネット利用者に上記情報を自動公衆送信し得るようにしたと
いうものであることについて,ここにいう公衆送信とは,公衆によって直接受信され
ることを目的として有線電気通信の送信を行うことをいい(著作権法2条1項7号の
2),そのうち公衆からの求めに応じ自動的に行うものを自動公衆送信ということ(著
作権法2条1項9号の4)を踏まえて,本件において「自動公衆送信し得るようにし
た」というのは,要するに,上記のようなパソコンと公衆の用に供されている電気通
信回線とを接続させたことをいう(著作権法2条1項9号の5参照)とした上で,被告
人が本件で用いたパソコンと公衆の用に供されている電気通信回線とは光ファイ
バーで接続されているところ,光は電気ではないから,光ファイバーは電気通信回
線にも有線電気通信にも当たらないというものであると解される。
 しかし,電気通信とは,有線,無線その他の電磁的方式により,符合,音響又は
映像を送り,伝え,又は受けることと定義されており(電気通信事業法2条1号),換
言すれば,電磁波を用いて種々の情報を送信又は受信することが電気通信であ
り,電気が電磁波の一種であることは多言を要しない。ところで,光ファイバーと
は,光を用いて情報を伝達する際に,光の通路として用いるグラス・ファイバーのこ
とをいい,光ファイバー通信とは,光を搬送波に利用する通信である光通信の一種
であるところ,光は,物理的には電磁波の一種であり,波長が約1ナノメートルから
1ミリメートルの電磁波をいうと解されている。そして,光ファイバー通信は,光とい
う電磁波を利用した電磁的方法により,種々の情報を送信又は受信するものにほ
かならないのであるから,これが電気通信の概念に含まれるものであることは明ら
かである。
 ③ 弁護人の主張①について
弁護人は,被告人の本件行為は,特定の1名の者に対する送信を可能化したに
過ぎず,公衆に対する送信を前提とした送信可能化権侵害には当たらない旨主張
する。
 たしかに,被告人は,自己のパソコンを,初期ノードを設定した1個のパソコンに
接続し,それを介してWinnyネットワークに接続していたものである。しかし,Winn
yネットワークに一旦接続されてしまえば,これに参加している不特定多数のパソコ
ンとの間での情報のやり取りが可能となり,ファイルを共有する状態となるものであ
ることは,明らかである。そして,当初設定された初期ノードにかかるパソコンは,
単にWinnyネットワークに通ずる一つの通過点となるに過ぎず,そこには,同パソ
コンの使用者の意思等が何ら介在しないであるから,被告人の本件行為が,不特
定かつ多数の公衆に対する直接の送信を可能化するものと評価されることは明ら
かである。
 ④ 弁護人の主張⑦について
 弁護人は,Winnyが,そのネットワーク内において他人のパソコンを介して情報
の送受信を行うプログラムであることから,そこで行われる送信行為は間接送信に
ほかならず,被告人の本件行為についても,直接送信を前提とした送信可能化権
侵害に当たることはないなどと主張する。
 たしかに,弁護人が主張するように,Winnyネットワーク内における情報の送受
信においては,これをアップロードした者とは異なる第三者が使用する複数のパソ
コンを経由して,その受信者となる者のパソコンに当該情報がダウンロードされると
いうこともあり得る。
 しかし,そのような場合であっても,上記の経由点となる第三者は,当該情報をダ
ウンロードしようとする受信者の送信要求を受けて,これに応じるなど,いかなる意
識的な行為もすることがなく,そもそも,当該情報がダウンロードされる際,自己の
パソコンを経由したことすら認識することはないのである。このように,上記第三者
は,Winnyを自己のパソコンにインストールするか,Winnyを起動するかという場
面においては意識的に行動しているけれども,Winnyを利用して情報をダウンロー
ドしようとした者が,その送信要求をしたのに応じて,これをアップロードしているパ
ソコンからデータが送信されるに際し,その送受信が自己のパソコンを経由する場
面においては,何ら自己の意思に基づいて行動することはないのであるから,有意
識的に当該情報を中継しているなどとは到底評価することはできない。
 したがって,Winnyネットワーク内における情報の送受信において,その送受信
の過程で第三者のパソコンを経由することがあったとしても,それは,単なる通路と
もいうべき存在に過ぎないのであって,この点をもって,被告人のパソコンから他の
パソコンへの情報の送信が,間接送信であるなどと評価することはできない。弁護
人の主張は失当である。
 また,弁護人は,インターネットを利用した通信において,複数の電気通信事業
者が介在する点を指摘し,直接送信を行うことは不可能であるという趣旨の主張も
している。しかし,電気通信事業者は,通信の媒介を行うものとして通信に不可欠
の役割を担うものであり,その存在をもってインターネットを利用した通信の総てが
間接的なものであるなどとの解釈をとり得る余地がないことは,関連の法解釈及び
社会常識等に照らし,余りにも当然というべきである。
 ⑤ 弁護人の主張⑨について
 弁護人は,Winnyネットワーク上においては,暗号化され,断片化された状態で
データの送受信が行われるから,被告人がアップロードしたファイルも,それが送
信される過程で同一性を失ない,著作権法上の保護が及ばなくなる旨主張する。
 しかし,送受信の過程で,データが暗号化され,断片化されることがあったとして
も,送受信が完了した時点で,受信者の側において,当初アップロードされたファイ
ルがそのままの状態で復元されるのであるから,当初アップロードされたファイルと
ダウンロードされたファイルとの間に何ら同一性を損なうものではない。弁護人の
主張は失当である。
 ⑥ 弁護人の主張②及び⑱について
 弁護人は,被告人は,Winnyとは間接送信を行うプログラムであると信じていた
から,直接送信するという目的を欠いており,送信可能化権侵害罪の故意も認めら
れないなどと主張する。
 しかし,Winnyネットワーク上における情報の送受信が,間接送信ではなく,直接
送信として評価されるものであることは既に説示したとおりである。そして,被告人
は,他のWinnyの利用者がダウンロードすることができるようにするため,映画の
情報をアップロードしていたというのであるから,上記のようなファイル共有ソフトと
してのWinnyの機能を十分認識し,これを使用していたといえるのであり,具体的
なWinnyの動作やデータの送信経路等に関する詳細な知識を持ち合わせていな
かったとしても,映画の情報を送信可能化することについての認識に欠けるところ
はなく,直接送信か間接送信かということを意識していた様子もない。したがって,
被告人が,送信可能化権侵害罪の故意を有していたことに疑いを差し挟む余地は
ない。
 ⑦ 弁護人の主張⑰について
 弁護人は,本件において,被告人に帰責すべき意思に基づく行為は何ら存在し
ないなどと主張する。
 しかし,被告人は,Winnyを起動して本件各映画の情報をアップロードすれば,
Winnyネットワーク上の他の利用者からのダウンロード要求に応じて,それが自動
的に送信される状態となることを認識した上で,かかるアップロードの行為に及ん
でいるのであるから,それが,被告人の意思に基づく行為として評価され,帰責の
対象となることは明らかである。
 ⑧ 弁護人の主張⑧について
 弁護人は,送信可能化権侵害罪は,中央のサーバーを介して情報が発信される
ことを予定した構成要件であるから,本件のようなP2Pの事案には適用されない旨
主張している。
 しかし,著作権法にいう「自動公衆送信装置」とは,サーバーやホストコンピュータ
に限られるものではなく,およそ公衆からの求めに応じて自動的にそこに入力され
ている映像,音響,文字等を送信するものをいうのであるから,たとえ個人が所有
するパソコンであっても,そこに存在するソフトの動作等により上記のような機能を
有しているのであれば,「自動公衆送信装置」に該当する。そして,Winnyは,その
ネットワーク内でダウンロードが要求されれば,自動的に目的のファイルを送信す
る機能を有するプログラムソフトであるから,これをダウンロードして使用していた
被告人のパソコンが「自動公衆送信装置」に該当することは明らかである。
 弁護人の主張は,著作権法の構成要件を恣意的に解釈したものに過ぎず,失当
である。
 ⑨ 弁護人の主張⑫について
 弁護人は,著作権法38条1項により,公表された映画の著作物が,営利を目的
とせず,かつ,観衆から料金を受けない場合は,公に上映することが許容されてい
ることに照らし,その勿論解釈として,非営利で映画の著作物を送信可能化するこ
とは,当然に許されるなどという。
 しかし,著作権法38条は,同法が著作権の制限について定める特別規定の一
つであるところ,同条が著作物の送信可能化について何ら触れるものでないこと
は,明文上明らかである。弁護人は,この点立法の過誤であるなどとも主張してい
るが,独自の見解を述べるものというほかなく,採用できない。
 ⑩ 弁護人の主張⑮について
 弁護人主張の消尽理論という考え方は,映画の著作物に関する頒布権を巡って
論じられているものであり,本件に即していえば,被告人が,購入した映画の著作
物であるDVD自体を他へ譲渡する場合に,その適用が議論されるものである。本
件においては,映画の著作物である各DVD自体の譲渡を問題としているのではな
く,そのDVDに収録されている情報を送信可能化した被告人の行為について,そ
の責任が問われているのであるから,そもそも弁護人主張の消尽理論が妥当する
場面ではない。弁護人の主張は失当である。
 ⑪ 弁護人の主張⑯について
 著作権法6条3号は,条約により我が国が保護の義務を負う著作物は,著作権
法による保護を受ける旨規定している。そして,著作権関連条約としては,文学的
及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(1886年に制定された後,数回の
改正がなされているところ,本項においては,それらの改正を含めて,単に「ベルヌ
条約」という),万国著作権条約,TRIPS協定,ベルヌ条約20条の「特別の取極」と
してのWIPO著作権条約等がある。我が国及びアメリカ合衆国は,ともにベルヌ条
約に加盟しているところ,同条約は,著作権を保護するに際して特段の方式を必要
としないとする無方式主義を採用し,同条約の同盟国は,他の同盟国の著作者に
も自国の著作者に与えている保護と同様の保護を与えなければならないとする内
国民待遇の原則を採用している。なお,ベルヌ条約においては,内国民待遇の原
則の例外として,一部,本国における保護の限度で著作権保護を行えば足りると
する相互主義の適用が認められているけれども,これは,著作権の保護期間,応
用美術の著作物の保護,追及権等に関しての例外を定めるものであって,その余
の点にまで一般化されるものではない。
 したがって,上記内国民待遇の原則に照らし,我が国においては,上記の例外を
除き,我が国の著作権者に対して保護が与えられるのと同様の権利が,他国の著
作権者に対しても等しく保障されるのであり,本件アメリカ合衆国の各法人の著作
権についても,我が国の著作権法に基づく送信可能化権にかかる保護が及ぶこと
は明らかである。
 なお,弁護人は,「X」にかかる著作権登録証明書中の第4項に譲渡を意味する
「TRANSFER」という文言がある点をとらえて,同著作物については,F社からG
社(現在はA社に商号が変更されている)にその主体が変動しており,アメリカ合衆
国の著作権法に規定のない送信可能化権の譲渡というのは観念することができな
いから,A社には本件の告訴権がないなどとも主張している。
 しかし,同著作権登録証明書の第4項は,著作権申請者を記載する欄であり,弁
護人が指摘する「TRANSFER」という文言は,その第4項中の小欄の標題であっ
て,「TRANSFER」と題された欄は,著作権者と著作権申請者とが異なる場合に,
その理由を記載すべき欄であるところ,同著作権登録証明書においては,G社及
びF社の各社がいずれも著作権者であり,かつ著作権申請者であるとされており,
上記「TRANSFER」と題された欄には何らの記載もなされていない。すなわち,
「X」の著作権に関しては何の譲渡もされていないのである。弁護人の主張は,同
著作権登録証明書についての誤った理解に基づくもので,明らかに失当である。
 そのほか,ベルヌ条約に関して,弁護人が種々主張するところも同条約及び我が
国の著作権法の規定を恣意的に解釈し,独自の見解を述べるものというほかな
い。
 ⑫ 弁護人の主張⑤について
 弁護人は,著作権法上「情報」「映画」「著作物」「直接」という各文言の定義が明
らかでなく漠然不明確であるから,著作権侵害罪は,憲法21条,31条に違反する
などという。
 たしかに,弁護人が主張するように,著作権法には「映画」「情報」「直接」という文
言についての定義規定が存在しない。
 しかし,およそ法令一般において,そこで使用されるあらゆる文言について逐一
定義規定を要するものでないことはいうまでもない。そして,「映画」「直接」という文
言が意味する内容が,一般常識に照らして明らかであることは,多言を要しない。
直接送信という用例にかかる「直接」という文言についても,その日常用語としての
意味から何ら乖離するものではない。また,「著作物」という文言についても,著作
権法2条において「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,
美術又は音楽の範囲に属するもの」という定義がなされていることに加えて,著作
権法10条においてその詳細な例示がなされており,これらの条文等を併せ考えれ
ば,「映画の著作物」という文言が漠然不明確であるとは到底いえない。更に,「情
報」という文言についても,たしかに,弁護人が主張するように多義的な文言では
あるけれども,当該著作物の形状,性質,状態,種類及び送信する際に使用する
機械の性質,種類等に照らせば,著作権法の条文で使用されている「情報」という
文言が意味するところは,自ずから明らかとなるのであり,漠然不明確であるとは
いえない。
 また,弁護人は,著作権侵害罪は,処罰の対象となる行為が限定されておらず,
漠然不明確かつ過度に広範であるなどとも主張している。
 しかし,著作権法上,いかなる場合に著作権侵害行為として処罰されるかは,そ
の個々の条文において明確に規定されている。たしかに,その個別具体的な侵害
態様については,種々様々な場合があろうけれども,それらの侵害態様について
まで逐一明記しておかなければならないものでないことはいうまでもない。著作権
侵害罪を定める著作権法の規定が,いかなる行為をその処罰の対象とするかにつ
いて,他の刑罰法令と同様に,通常の判断能力を有する一般人であれば理解し得
る程度の明確性を備えていることは,明らかというべきである。
 著作権侵害罪が憲法21条及び31条に違反して無効であるなどとする弁護人の
主張は,明らかに失当である。
 ⑬ 弁護人の主張③及び④について
 憲法21条2項にいう検閲とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を
対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表
現物につき,網羅的一般的に発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるも
のの発表を禁止することを,その特質として備えるものを指すと解されている。著作
権法119条1号,23条1項は,既に発表済みの著作物について,著作権者以外
の者が無断で送信可能化することを禁止するものであって,著作権を有する者が
著作物を表現することを禁止するものでないばかりか,その目的も,著作物の著作
権を保護することにあり,むしろ著作権者の表現行為を正当に保護するための規
定であるから,同法119条1号,23条1項が,憲法21条2項にいう検閲に該当し
ないことはもとより,表現行為の違法な事前抑制にも何ら該当しないことは明らか
である。
 弁護人の主張は明らかに失当である。
 ⑭ 弁護人の主張⑭について
 弁護人は,本件の正犯は,Winnyを開発したEであり,被告人は,これを幇助し
たに過ぎないなどと主張する。
 しかし,被告人は,自らが購入したDVDを使用して,各映画の情報をアップロード
し,送信可能化したものであり,Winnyの他の利用者が各映画の情報をダウンロ
ードできるよう,これを提供しようとする自己の意思を実現するために,被告人自ら
がその実行行為を行っているのであるから,被告人が本件の正犯であることは明
らかである。
⑮ 弁護人の主張⑬について
 弁護人は,本件における捜査手法を論難し,捜査用パソコン上でWinnyを起動
し,被告人からのデータを受信するなどしたことをもって,違法な捜査であり,これ
により得られた証拠は,違法収集証拠である旨主張する。
 しかし,捜査機関は,本件捜査の過程において,被告人により送信可能化権侵
害行為が行われていることを明らかにするために,捜査機関の使用するパソコンと
被告人以外の者が使用する他のパソコンとが接続されないようにする措置を講じ
た上,被告人が使用するパソコンから本件各映画の情報をダウンロードすることを
内容とする実況見分を行ったものであるところ,かかる捜査は,その目的,手段の
いずれの面からも正当である。また,そもそも捜査機関は,Winnyを使用した著作
権侵害行為を取り締まってほしい旨の国際映画著作権協会からの要望を受けて,
捜査に当たっていたのであるから,本件捜査における捜査機関の行為が各著作権
者の有する種々の権利を侵害したものでないことも明らかである。
 更に,被告人は,捜査機関からの働きかけを受けて,本件各映画の情報をアップ
ロードし,送信可能化したというのではなく,上記実況見分が実施された時点では,
既に自らの意思でこれをアップロードし,送信可能化の状態に置いていたのである
から,捜査機関が,被告人の犯意を惹起させたなどという余地はなく,捜査機関の
行為が,違法なおとり捜査に当たるものでないことも明らかである。
 本件の捜査手法についての弁護人の主張は全く理由がない。
 ⑯ 弁護人の主張⑪について
 判示のとおり,本件公訴事実(訴因変更後のもの)については,これを十分認定す
ることができるところ,弁護人は,「公衆送信用記録媒体」「情報」「自動公衆送信用
装置」「公衆の用に供されている電気通信」等の構成要件に該当する事実の摘示
がなく,訴因ないし犯罪事実の特定として不十分であるなどと主張する。
 しかし,本件において,構成要件となる「情報」とは映画の著作物である邦題名
「X」及び「Y」の各情報であり,「公衆送信用記録媒体」とはそれらの情報が記録さ
れた被告人使用のパソコンのハードディスクであり,「自動公衆送信用装置」とは送
受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフト「Winny2.0β6.6」をダウン
ロードして使用していた被告人のパソコンであり,「公衆の用に供されている電気通
信」とはインターネットであることが,それぞれ明らかであるところ,それらの事実の
摘示により,本件における訴因ないし犯罪事実の特定には何ら欠けるところはない
というべきである。
4 以上説示したとおり,弁護人が多岐にわたって縷々主張するところは,いずれも全く
当を得ないものであり,被告人は,判示の事実にかかる罪責を免れない。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は各著作物ごとに著作権法119条1号,23条1項に該当するとこ
ろ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10
条により1罪として犯情の重い邦題名「X」の著作物にかかる著作権侵害の罪の刑で処
断することとし,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年
に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執
行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告
人に負担させることとする。
(本件の弁護活動について)
 弁護人は,本件について,文化庁長官に対し,著作権紛争解決のあっせんを申請する
に当たり,その申請書に,起訴状及び検察官の冒頭陳述書の各写しのほか,検察官か
ら開示を受けて謄写した証拠書類である告訴状2通の写しを添付し,Eに対しても,検察
官から開示を受けて謄写した証拠書類である捜査報告書の内容を送付していることが
窺われる。これらの各書類が,弁護人に交付されたり,弁護人が謄写したりすることが
できるのは,迅速な訴訟進行のため,弁護人の便宜を図ったものであって,第三者が,
これらの書類を弁護人から入手し,閲覧等することは予定されていないばかりか,各書
類には種々の記載がなされており,それらが社会一般に公開されることとなれば,捜査
の秘密保持,関係者のプライバシー保護等,様々な問題が生じることが容易に想定でき
る。また,これらの書類の中には,事件関係者が捜査機関に提出するために作成したも
のもあるところ,それらの書類は,捜査機関又は裁判所以外には出回らないことを前提
として作成提出されているものであり,弁護士であれば,そのようなことは当然承知して
いる筈である。それにもかかわらず,これらの書類を第三者に送付した弁護人の行為
は,慎重さを欠いた,まことに不適切な行為である。
 また,弁護人は,Winnyの開発者であるE及びその弁護人とは連絡が取れないから,
Winnyの動作等についての弁護人の主張を立証するためには,同人の警察官調書の
取調を請求する以外に術がないとして,Eの警察官調書の取調を請求した。しかし,関
係証拠によると,弁護人とEとの間では,平成16年2月から同年4月までの間に,同弁
護人から9回,Eから7回にわたって電子メールが送信されていることが認められ,しか
も,その内容は,Winnyの機能や動作に関するものが多々含まれている。そして,弁護
人からの電子メールには,本件の証拠書類をデータ化したものが添付されていたことも
窺われることなどに照らすと,弁護人とEとの間では,本件に関連して,それなりに密な
連絡が取られていたことは明らかであり,弁護人は,裁判所に対し,証拠の取調を請求
するに当たり,虚偽の事実を告げたものといわざるを得ない。このように裁判所に対して
虚偽の事実を告げて証拠請求をするなどという弁護活動は,裁判所と弁護人との間の
信頼関係を著しく損ない,事件の審理ひいては実体的真実発見にも多大な悪影響を与
えかねないものであって,弁護士倫理の観点からも到底許されるものではない。
 本件審理の過程において,このような不適切な弁護行動が行われたことについては,
裁判所としてこれを看過することはできず,弁護人に対し強く自戒を求めるものである。
(量刑の理由)
 本件は,ファイル共有ソフトであるWinnyを用いて2本の映画をアップロードし,アクセ
スしてきた不特定多数のインターネット利用者に各映画の情報を自動公衆送信できるよ
うにし,各映画の著作権者が有する著作権を侵害したという事案である。
 被告人は,Winnyを使用することで,廃盤になっていたDVDソフトを手に入れることが
できたことから,自己も同じように所持している映画等の情報をアップロードして,他の利
用者に提供しようなどと考え,本件犯行に及んだというのであり,その動機は,まことに
思慮を欠いた安易かつ身勝手なものである。被告人の供述によれば,約1年の間,本
件を含め,常時15本から20本程度の映画の情報を次々とWinnyネットワーク上にアッ
プロードしていたというのであるから,相当多数の者によりそれらの映画の情報がダウ
ンロードされ,無料でその視聴の用に供されていたものと推察される。このような被告人
の行為は,巨額の制作費,時間及び労力等を費やして映画を制作した著作権者の努力
を無にするものであり,かかる著作権侵害行為が蔓延することとなれば,映画を制作し
ようとする者の意欲を削ぐこととなり,ひいては映画産業が衰退してしまいかねないので
あるから,知的財産権の保護が国内外における社会的課題ともなっている中,本件は,
まことに悪質な犯行というべきである。各著作権者らの処罰感情が厳しいのも当然であ
る。
 以上からすれば,被告人の責任は重い。
 しかし,他方で,被告人が,捜査段階から客観的な事実関係については素直に認め,
自己の行為を反省するとともに,二度と本件のような行為をしない旨述べていること,2
0万円を贖罪寄付していること,被告人の前科は業務上過失傷害罪の罰金前科2犯の
みであること,本件は,弁護人が,種々の主張をして争ったため,審理に約1年間を要す
ることになったものの,この弁護活動は,被告人の公判供述等に照らすと,果たして被
告人の意思に適ったものであったのか疑問なしとしないから,これをもって,被告人自身
の反省の程度に疑いの目が向けられるものではないことなどを考慮して,被告人に対し
ては,主文の刑を科した上で,その執行を猶予することとした。
  平成16年11月30日
    京都地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官   楢   崎   康   英
裁判官   神   田   大   助
裁判官   佐 々 木   隆   憲

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